アリス「わたしのせいで、今日シノも一緒に遅刻させちゃって……」
陽子「そういやアリス、今日は遅刻してたな」
陽子「何があったの?」
アリス「実はね……」
陽子「今トイレ行きたいから手短にお願いね」
アリス「うん、わかったよ」
忍『ああっ!』
忍『忘れ物をしてしまいました! 家庭科の準備物!』
忍『久世橋先生に怒られてしまいます! 取りに帰らないと!』ガタガタ
忍『い、急いで走ればギリギリ大丈夫です! アリスは先に行っててください!』
忍『でも、アリス……』
忍『アリス……』ウルウル
忍『大丈夫ですかアリス?』
忍『ア、アリスー!!!』
アリス「ってことがあったんだよ」
陽子「ごめん、手短過ぎてわかんない。特に後半」
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アリス「手短って言われたから、わたしのセリフを全部カットして、シノのセリフだけまとめてみたよ」
陽子「カットのしかたおかしいだろ! 分かるようにカットしようよ!」
陽子「最初の『ああっ!』とかいらないじゃん!」
アリス「シノの言葉にいらないところなんて無いよ!」
陽子「分かったよ……全部話してよ……」
陽子「でも先にトイレ行かせて」
陽子「おまたせ」
アリス「じゃあ最初から話すね」
アリス「今日の登校中のことだったんだけど……」
忍『ああっ!』
アリス『どうしたのシノ?』
忍『忘れ物をしてしまいました! 家庭科の準備物!』
忍『久世橋先生に怒られてしまいます! 取りに帰らないと!』ガタガタ
アリス『でも、今から戻ってたら多分遅刻しちゃうよ?』
忍『い、急いで走ればギリギリ大丈夫です! アリスは先に行っててください!』
アリス『シノ……』
アリス『ううん、わたしも一緒に行くよ!』
忍『でも、アリス……』
アリス『死なばもろともだよ! 間に合ったら一緒に喜ぼう! 遅れたら一緒に怒られよう!』
忍『アリス……』ウルウル
アリス『はぁ……はぁ……』
忍『大丈夫ですかアリス? 休みましょうか?』
アリス『う、ううん……もうすぐ学校……ち、遅刻しちゃう……』
アリス『……ガク』
忍『ア、アリスー!!』
アリス「そういうことで、遅刻しちゃったんだよ」
陽子「ごめん、ノーカット版でも後半がよくわかんなかったんだけど……」
アリス「シノの忘れ物に気付いてから、走って帰って、それからまた走って学校を目指したのはよかったんだけど」
アリス「わたしの体力が無さすぎて完走できずに、結局2人とも遅刻しちゃったって話だよ」
陽子(普通に1文でまとまるじゃん……)
アリス「わたしの足が遅かったばかりに、シノの足を引っ張っちゃって……」
アリス「自分で自分が情けないよー!」ワーン
陽子「な、泣かなくても……」
陽子(元々は忘れ物したしのが悪いけど、でも意味もなく付いて行ったアリスもアリスだし、慰めにくい!)
アリス「そういうわけで、今度同じことが起こったときのために、足を速くしたいの!」
陽子「持ち物のチェックをちゃんとする方に取り組むべきだと思う」
アリス「で、でも!」
アリス「正直言って、この一件でわたし、体力の無い自分に嫌気がさしたんだ」
陽子「んな大げさな……」
アリス「ううん! わたし、これを機に自分を変えたいの!」
アリス「もしシノが寝坊しても、眠ったままのシノをおんぶしてダッシュで登校できるくらいになりたいの!」
陽子「そ、それは私でもきついなぁ……」
アリス「お願い! ヨーコ、わたしを鍛えて!」
陽子「うーん……」
陽子「鍛えるってほどではないけど……体力を付けたいっていうなら、協力するよ」
アリス「本当? ありがとうヨーコ!」
陽子「まあ私の毎朝の日課を、アリスも一緒にやろうかってだけなんだけどね」
アリス「なんでもするよ! 素振りでもタイヤ引きでも熊との闘いでも!」
陽子「私そんなことしてないから!」
アリス「わたしの意志は固いよ! ダイヤモンドのように!」
陽子「いや、普通にジョギングしてるだけだよ」
アリス「ジョギング?」
陽子「うん、近所を軽く走って回ってるんだよ」
陽子「アリスも一緒にやりたいなら、そうだな……6時15分に2丁目の公園集合ね!」
アリス「6時15分!?」
アリス「どうしよう、やっぱりやめようかな……」
陽子「やめんの!? ダイヤモンドの意志じゃないのか!」
アリス「知ってた? ダイヤモンドって意外と砕けやすいらしいよ」
陽子「さっきの熱意はどこいったんだよ! 頑張ろうよ!」
アリス「わ、分かったよ……しょうがないなあ……」
陽子「なんで嫌々になってんの!?」
翌朝
ジリリリリリリ
アリス「~~~っ」
ジリリリリ カチッ
アリス「ふあ……」
アリス(6時か……)
アリス(眠い……すごく眠い)
アリス(今から2度寝できたらどれだけ幸せだろう……)
アリス(でも行かなきゃ……行くって言っちゃったし)
2丁目 公園
陽子「おはようアリス!」
アリス「おはよーヨーコ……」フアー
陽子「ははは、眠そうだな」
アリス「眠いよ……」
陽子「まあ、早起きは三文の得って言うし、辛い思いした分きっといいことあるよ」
アリス「そうかなあ……寝てたほうが幸せだった気が」
陽子「一日目から文句たらたらかよ!」
陽子「うーん、じゃあ……」
陽子「よく頑張って起きたな、えらいぞーアリス!」ナデナデ
アリス「何これ?」
陽子「頭なでなでだよ! これで三文くらいの価値はあったでしょ!」
アリス「3ペンスくらいだと思う」
陽子「3ペンスって日本円でどれくらい?」
アリス「5円くらい」
陽子「やすっ!」
陽子「じゃあ100回なでなでして500円にしてやるー!」ナデナデナデナデ
アリス「い、いいよしなくても!」
陽子「こら逃げるな! なでなでなでー!」
アリス「ひゃああああ!」
ジタバタ ジタバタ
アリス「はぁ……はぁ……もう、いきなり汗かいちゃったよ!」
陽子「よし、準備運動終わり!」
アリス「今の準備運動だったの!?」
陽子「でも身体あったまったでしょ」
アリス「うん、まあ……」
アリス「えっ……じゃあヨーコは毎朝ジョギングする前、一人でエアなでなでしてるの?」
陽子「しないよ! 今回は特別だよ!」
陽子「どうせならさ、楽しくやらなきゃ! 特に最初はね」
アリス「楽しく……」
陽子「うん、そっちの方が続きやすいだろ?」
陽子「やっぱりこういうのは、継続してやらないと意味ないし」
アリス「なるほど……」
アリス「でも今のやりとりは、そんなに楽しいものでもなかったよ」
陽子「ひでぇ!」
陽子「やっぱり初めのうちはケガしやすいし、普通の体操もやっとこうか」
アリス「じゃあさっきまでのくだりは何だったの……」
陽子「ラジオ体操って、アリス知ってる?」
アリス「ラジオ体操? 何それ?」
陽子「日本では、準備体操と言えばラジオ体操が定番なんだよ」
アリス「へぇ、どんな体操なの?」
陽子「じゃあ一緒にやってみようか」
陽子「まず両腕を上に伸ばしてー」
アリス「え、ちょっと待って! ラジオがどこにもないけど……」
陽子「ああ、別にラジオは使わないんだよ」
アリス「ラジオ体操なのに?」
陽子「ようかい体操だって、別に妖怪がいなくてもできるだろ? 同じだよ」
アリス「そ、それは理由になってないような……」
・
・
・
陽子「すってー……はいてー……」
陽子「はい、これで終わりだよ」
アリス「けっこうたくさんあるんだね」
陽子「今のはラジオ体操第一で、さらに第二もあるんだよ。今日はもうやらないけど」
アリス「そうなの? よく覚えられたね、頑張ったんだねヨーコ」
陽子「まあ何回もやってれば覚えられるよ」
陽子(なんか若干バカにされてるような)
アリス「じゃあわたしも、イギリスで定番の体操を教えてあげるよ」
陽子「え、イギリスにもそういうのあるんだ」
アリス「うん、まずは白鳥がはばたくみたいに、腕を大きく上下させるの」
陽子「こう?」パタパタ
アリス「そうそう。で、そのままゆっくり回転して?」
陽子「ふんふん」パタパタクルクル
陽子(何か変わった体操だな)
アリス「それで、このときに『バウ! バウ!』って声を出しながらやるんだよ」
陽子「そ、そうなの?」
アリス「日本でも、イチ、ニ、って数えながらするでしょ? それと同じだよ」
陽子「なるほどね……」
陽子「バウ! バウ!」パタパタクルクル
アリス「ブフッ」プルプル
陽子「な、なんで笑ってんの? イギリスではみんなこれやるんでしょ?」
アリス「ごめんごめん、ちょっとしたジョークだよ……」
アリス「ぜ、全部わたしが今考えたデタラメな動きだよ……うくくっ」プルプル
陽子「今日のアリスなんかひどくね!?」
アリス「ふふっ……毎日こんな感じなら楽しくて続けられそうだよ……ふふふっ」
陽子「楽しみかたが邪悪だよ!」
陽子「じゃあ身体が温まったところで、そろそろ走ろうか」
アリス「うん!」
陽子「ペースはまずこのくらいかな……」タッタッタッ
アリス「は、速いよ……」ゼーゼー
陽子「バテるの早っ!」
陽子「じゃ、じゃあもっとゆっくり行こうか」
アリス「うん……」
陽子「初めは息が上がらないくらいのゆっくりしたペースでいいからね」
アリス「走ってるときは何を思いながら走ればいいの?」
陽子「うーん、私が普段走るときは、ただ頭をカラッポにして走ってるかな」
アリス「わたしはちゃんと脳みそが詰まってるからそれはできないかな……」
陽子「私だって詰まってるよ! 何も考えないってことだよ!」
タッタッタッタッ
陽子「どうだアリス、これくらいのペースでいいか?」
アリス「うん、ちょうどいいよ!」
アリス「なんだろう……初めは全然乗り気じゃなかったけど、走ってみれば気持ちいいものだね!」
陽子「そうだろ?」
アリス「朝は空気も澄んでてさわやかだし……」
チュンチュン
アリス「鳥たちの声もすがすがしい……」
アリス「世界は、こんなにも美しく輝いていたんだね!」
陽子(それはちょっと大げさなような……)
アリス「あ、ねえ見て!」
陽子「うん?」
アリス「あの電線にとまってる右から3番目の鳥、シノに似てるよ!」
陽子「え、どれどれ……」
陽子(全部同じにしか見えねえ)
陽子「どの辺が似てるの?」
アリス「目元の優しい感じがシノにそっくりだよ!」
陽子(……分からん)
アリス「えへへ、毎朝この時間に来たら、あの鳥に会えるかな?」
陽子「はは、会えるかもね」
チュンチュン パタパタパタ
アリス「あ、飛んで行っちゃうよ」
プリッ ペシャ!
アリス「え」
陽子「あ」
アリス「あ、あれ? 頭に何か落とされたよ?」
陽子「さ、触ったらダメだアリス!」
アリス「わ、わたしの頭、今どうなってるの……?」
陽子「……聞かない方がいいと思う」
アリス「うぅ……」ウルウル
陽子「な、泣くなアリス! 近くに公園があるからそこで洗おう!」
アリス「うわーん! かわいさ余って憎さ100倍だよー!」
ジャー
アリス「もう……顔は似てたのに、性格は真逆だったよ……」
アリス「シノはわたしの頭にウンチなんてしないからね」
陽子(そりゃそうだろ……)
陽子「よし、きれいになったよ」
アリス「ありがと、ヨーコ」
陽子「髪はびしょびしょになっちゃったけどね……」
アリス「走って汗かいたし、むしろさっぱりしたよ!」
陽子「おお、その意気だ」
陽子「でもアリスはタオルもってないのか……じゃあ私ので拭いたげるよ」ゴシゴシ
アリス「ごめんね、ありがとう」
アリス(ヨーコに髪洗ってもらって、ヨーコのタオルで拭いてもらって……アヤになら3000円くらいの価値はあるだろうなあ)
アリス「ふぅ……ふぅ……」
陽子「そろそろ疲れてきたか?」
アリス「ちょっとね」
陽子「じゃあペース落とそうか」
陽子「……あっ! 足元段差があるぞ!」
アリス「え」
ガッ
陽子「危ない!」 アリス「うわっ」
ムニ
アリス「あっ……」
アリス(顔に……ヨーコの胸が……)
陽子「大丈夫? 足くじいたりしてないか?」
アリス「だ、大丈夫……」
アリス(ヨーコ相手にときめいたりはしないけど……)
アリス(でも、やわらかかった……! マシュマロのように……!)
陽子「じゃあ今日はこれくらいにしとこうか」
アリス「え、まだもうちょっと走れそうだよ」
陽子「最初のうちは、余裕が残るくらいでいいんだよ……足を痛めないようにね」
陽子「それに、時間的にももうそろそろ帰った方がいいよ」
アリス「そっか」
陽子「とりあえず3日、続けてみような」
アリス「続けられるよ! 走ってみたらすごく気持ちよかったし!
陽子「走った後はそう思えるんだけどなー……次の日の朝になると……」
陽子「ま、頑張ろうな」
アリス「うん!」
アリス「でも、なんだか不思議な感覚だよ」
アリス「いつもならまだ寝てる時間なのに、今日はもう色んなことを経験しちゃった」
アリス「これが『三文の得』ってことなのかな?」
陽子「そう言ってもらえてなによりだよ……じゃあまたな!」
アリス「またあとでね!」
大宮家
シャー
アリス「ふぅ……シャワー気持ちいいなあ」
アリス(起きる時間を1時間半早めただけで、こんなにも朝の時間が変わるものなんだね)
アリス(ヨーコが元気なわけが分かる気がするよ)
アリス(それにしても……)
アリス(改めて自分の胸を見るとやっぱり小さい……)
アリス(ヨーコの胸は服の上からでも分かる弾力があったのに……)
アリス「ふぅ……すっきりした」
忍「スー……スー……」
アリス(シノ、まだ寝てるんだ……そろそろ起こさないとダメだよね)
アリス「シノ、起きて! 朝だよー!」ユサユサ
忍「ウーン……」
アリス「シノー!」
忍「アリス……今日は土曜日ですよ……?」
アリス「金曜だよ……」
アリス「もう、起きないとベッドにダイブしちゃうよー?」
忍「イギリスはまだ夜の11時ですよ……」
アリス「ここは日本でしょ! もう、本当にダイブしちゃうからね?」
忍「……スー……」
アリス「それっ」
ボフッ
忍「む゛ん゛!?」
アリス「ふふ、目が覚めた?」
忍「ア、アリス……今日はなんだかアグレッシブですね……」
アリス「うん、早朝にジョギングしてきたからね! すごく気分がいいよ!」
忍「そうですか……私も、夢の中で全世界を救ってきたので、何だか気分がいいです」
アリス「す、すごい……」
アリス「って、早く朝ごはん食べないと遅刻しちゃうよー!」
忍「はいー」フラフラ
アリス(ごはんがいつもより美味しく感じるよ! 体動かしたからかな?)
忍「すごく美味しそうに食べますね、アリス」
アリス「うん、今日は特に美味しく感じるよ!」
忍「私も食べたくなってきました……少しもらってもいいですか?」ヒョイ
アリス「あ」
忍「うん、和食もいけますねー」モグモグ
アリス(あとにとっておいた玉子焼きが!)
忍「おはようございます」
綾「おはよう」
陽子「おはよう、しの、アリス」
アリス「おはよう!」
アリス「ヨーコとは2回目のおはようだね、何だか変な感じ」
陽子「はは、そうだな!」
アリス「えへへ」
陽子「あはは」
綾(な、なんだか陽子とアリスがいい雰囲気だわ!)
綾(しかも何かしら、『2回目のおはよう』って……?)
綾(ま、まさか……1回目のおはようは●●●の上で……!?)
綾「ふ、2人がそんな関係だったなんてー!」ワーン
陽子「ど、どうした急に!?」
綾「なんだ、2人で早朝ジョギングしてただけなのね」
陽子「綾もやってみる?」
アリス「楽しいよ!」
綾(陽子とジョギング……)
綾「や、やる! やるわ!」
陽子「おー、やる気まんまんだな」
綾「べ、別に、ただ運動がしたいって思っただけなんだからね!」
陽子「他にどんな理由があるんだ?」
アリス「シノもどう?」
忍「私は……朝は世界を救うのに忙しいので遠慮します」
陽子「世界救ってんの!?」
アリス「夢の中の話でしょ!」
カレン「オハヨウゴジャイマース!」
忍「おはようございます、カレン」
陽子「カレンもどうだ? 早朝ジョギング」
カレン「早朝ジョギングデスか……」
カレン「私、朝は夢の中で世界を救うのに忙しいノデ……」
陽子「お前も世界救ってんのかよ!」
カレン「”も”?」
忍「私もよく、世界を救う夢見ますよー!」
カレン「Oh! 今日の夢では、シノと共闘するシーンも多かったデス!」
忍「そうだったのですか!」
綾「ふふ、実は同じ夢を見てたりしてね」
忍「私の夢では、カレンは早々に化け物の胃袋に入りましたけど」
カレン「そ、そんな!!」
次の日 早朝
ジリリリリリリ
アリス「~~~っ」
ジリリリリ カチッ
アリス「ふあ……」
アリス(眠い……)
アリス(眠いよ……眠い……)
アリス(もう三文とかどうでもいいからこのままま寝ていたい……)
アリス(……)
アリス(…………)
アリス「ハッ……! ね、寝てた!」
アリス(だ、ダメだ……行かなきゃ!)
公園
アリス「おはよー」フア
綾「おはよう、アリス」
アリス「あれ、ヨーコは?」
綾「まだ来てないわ……一体何やってるのかしら」ソワソワ
アリス「じゃあ先に準備運動やってようか」
綾「そうね……準備運動っていっても何やればいいのかしら」
アリス「えーっとね……」
アリス「アヤ、イギリスで定番の体操を教えてあげるよ」
陽子(やべー、ちょっと寝坊しちゃったよ!)
陽子「ごめんごめん、待った?」
綾「バウ! バウ!//」パタパタクルクル
陽子「って綾に何やらせてんだ!」
アリス「アヤがやるとかわいいよね!」
陽子「私との扱いの差が!」
陽子「いやー、2人ともちゃんと来てくれて嬉しいよ」
綾「やるって言ったからにはちゃんとやるわよ」
アリス「正直まだ寝ていたかったけどね……」
陽子「この温度差!」
アリス「走り出せばやる気も出てくるような気がする」
陽子「まあ待て、ちゃんと準備運動してからだぞ」
アリス「イギリス式体操やったよ」
陽子「綾しかやってないじゃん! しかもあれ体操じゃないし!」
陽子「昨日も言っただろ? 初めのうちはケガしやすいから、特に念入りに体操しとかないと」
アリス「でもわたしもう2日目だし……ビギナーじゃないよ」
陽子「まだ2日目だろ! ビギナー中のビギナーだよ!」
陽子「やる気のエンジンがかからないなら、またナデナデしてやるぞー!」ナデナデナデ
アリス「ひゃあああ!」
綾(う、うらやましい!)
ジタバタ ジタバタ
アリス「はぁ……はぁ……」
陽子「ほら、温まっただろ?」
綾「あー……」
綾「わ、私も急にやる気がなくなってきたわー……」フラー
陽子「どうした急に!?」
アリス「ヨーコが来る前、『早起きは三文の得っていうけど、あんなの嘘よね』ってアヤが言ってたよ」
綾「え」
陽子「なに! じゃあ私の三ペンスなでなでをやってやろうか」
綾「何よ三ペンスなでなでって!」
陽子「1なでなで5円の価値があるなでなでだよ」
綾「安っ!」
綾「というか私そんなこと言ってな……」
アリス「アヤ」ヒソヒソ
綾「?」
アリス(ヨーコに撫でられるチャンスだよ!)ニッコリ
綾(アリス……)
綾「じゃ、じゃあ三百ポンド分お願い!」
陽子「ポンド?」
アリス「1ポンド100ペンスだよ」
陽子「1万回かよ! 頭皮すりきれるわ!」
陽子「じゃあ三十ペンスくらいで……行くぞ!」
スッ
綾「や、やっぱり無理よー!///」バシー
陽子「ぐあっ」
アリス「えぇー!?」
綾「あっ! ご、ごめんなさい!」
・
・
・
陽子「じゃあ準備体操も終わったし、そろそろ走ろうか」
アリス「うん!」
綾「ゆ、ゆっくりでお願いします……」
陽子「大丈夫だよ、会話できるくらいのペースで走るから」
綾「走るのはあんまり好きじゃないけど、これくらいのペースなら結構気持ちいいわね」
アリス「だよね!」
チュンチュン
綾「それにこの鳥の声……まるで新たな一日が始まることを祝福するかのような声だわ!」
アリス「うんうん、空気も澄みきってて、誰も足跡をつけてない新雪を独り占めにするような気分だよ!」
綾「分かるわー!」
陽子(メルヘンすぎて全然わからん)
陽子「あ、炊飯器で炊きあがったごはんに、最初にしゃもじを入れるときのような感覚?」
アリス「ちょっと何言ってるかわかんないよ」
綾「台無しね」
陽子「ひどいなお前ら!」
陽子「ここの公園でちょっと小休止しようか」
綾「ふぅ……けっこう汗かいちゃったわね」
綾「タオルを忘れちゃったから帰るまで拭けないわ……」
陽子「私のでよかったら貸すけど」
綾「え」
綾(ヨーコのタオル……)
陽子「ほら、使いなよ」
綾「あ、ありがと……」
ビュウウウウウウ
アリス「わ、すごい風!」
綾「たっタオルが!」
陽子「飛ばされちゃって木の上に……」
陽子「あの高さじゃ手も届かないなー」
綾「よ、ヨーコのタオルが……」ウルウル
陽子「泣くほど汗ふきたかったの!? いいじゃん帰ってからでも!」
綾「ま、まだあきらめちゃダメよ! 木を蹴ったら落ちてくるかも!」ゲシゲシ
陽子「や、やめろよ木がかわいそうだろ!」
ボトッ
綾「あいた! 何かが頭にぶつかったわ……!」
綾「何かしらこれ……ボール?」
アリス「え、それって……」
陽子「スズメバチの巣……」
綾「」
「「「うわあああああああ!」」」
陽子「は、走れ!」
綾「言われなくても!」
ガッ
綾「うわっ」ドテッ
アリス「アヤー!」
綾「わ、私のことはいいから逃げて!」
陽子「バカ言ってないで立て!」
グイッ
綾「あ、ありがと……」
陽子「走るぞ! 手離すなよ!」
綾「……」ドキドキ
アリス「2人とも早く!」
ガッ
アリス「うわっ」ドテッ
綾「アリスー!」
陽子「立て続けに転ぶなよ! ドジっ子かお前ら!」
陽子「ほら、手に掴まれ!」グイッ
アリス「ありがと、ヨーコ!」
陽子「ちょ、両手つないでると何か走りにくい……」
ガッ
陽子「うわぁ!?」 綾「きゃあ!?」 アリス「ひゃああ!」
スッテンコロリン
陽子「いてて……」
陽子「や、やばい……ハチがくるぞ……!」
綾「こ、殺されるー!」ガタガタ
アリス「シノかわいい 嗚呼シノかわいい シノかわいい」
陽子「何それ辞世の句!? クオリティ低!」
シーン
陽子「……あれ?」
アリス「……こないね、スズメバチ」
綾「というか巣から一匹も出てきてないわ……」
陽子「なんでだ……?」
綾「あ、そう言えば……」
綾「4月はまだスズメバチが活動してなくて、この時期に見つかる巣はただのカラッポの巣だって聞いたことがある……」
アリス「……じゃあわたしたち、無駄に大騒ぎしてたってこと?」
陽子「そうなるな……」
綾「何よ、ときめいて損したわ……//」
陽子「何にときめいたんだよ……」
陽子「っていうかお前らこけすぎ! 別につまづくようなもの無かっただろ!」
アリス「ヨーコもこけてたくせに!」
陽子「あれはお前、両手がふさがってた上に2人がふらふらだったから、こっちもバランスを崩してだな……」
陽子「しかも何だよアリス、あの謎の辞世の句」
アリス「死ぬときはかっこよく散るのが日本の心だからね!」
陽子「かっこよくないよあの句じゃ!」
綾「……ぷっ、くすくす」
アリス「ふふっ」
陽子「はは……」
「「「あはははははは!」」」
そして次の日からも
アリス「あ、シノに似てる鳥だ! また会ったね!」
陽子(やっぱり分からん)
綾「その隣の鳥は陽子に似てるわ」
陽子「マジかよ……」
プリッ プリッ
陽子「うわっ! フンしてきたぞ! 逃げろ!」
アリス「もー! 何するのヨーコ!」
陽子「私じゃねえ!」
アリスたちは
陽子「みんな持ってきたか? 100円」
アリス「もちろん!」
綾「持ってきたわ!」
陽子「よし、じゃあ自販機行くぞ!」
ピッ ガシャン
プシュッ
陽子「くーっ! 走った後のジュースは格別だな!」
ピッ ガシャン
アリス「あ……! 間違って『あったかい』押しちゃった……」
アリス「ど、どうしようヨーコ!」
陽子「しょうがないなあ……私の半分あげるよ」
綾「!」
綾「ま、間違えて『あったかい』押しちゃったー」ピッ
陽子「お前もかよ!」
雨の日も
綾「なんで今朝2人とも来なかったのよ!?」
アリス「え、雨降ってたし……」
陽子「雨の日はさすがに走らないよ!」
綾「そんな甘い取組み方でどうするの!」
綾「へっくち!」
陽子「あーあーもう……」
休みの日も
陽子「あれ、アリスも来たのか……休日はやらないって言ってたのに」
アリス「いや、もういつもの時間に勝手に目が覚めちゃって……」
アリス「何て言うか、生活リズムが身に着いちゃってるんだよ」
綾「もう早起きもへっちゃらね!」
陽子「綾はまだ完全には身に着いてないみたいだな……」
綾「え、どうしてよ?」
陽子「上だけ着替えて下はパジャマのままになってるぞ?」
綾「え……」
綾「いやああああ! 何でー!?//」
アリス「アヤはまだまだ修行が足りないね!」
陽子「まあアリスも寝癖ひどいけどな……スーパーサイヤ人みたい」
ジョギングを続けたのだった
犬「ワンワンワンワン!」
綾「なんでさっきから追いかけてくるのよあの野良犬!」
陽子「知らないよ! 綾がおいしそうなんじゃない!?」
綾「おいしくないわよー!」
アリス「あっ! あの建物と建物の狭いスキマなら……!」
陽子「よし、あそこに逃げ込め!」
ズリズリ
綾「うぅ……せまいけどなんとか入り込めたわ……!」
陽子「よしよし、野良犬は入ってこられないみたいだ」
アリス「反対側に出られそうだよ!」
アリス「なんとか撒いたみたいだよ……」
綾「服が汚れちゃったわ……」
陽子「ど、どうしよう……」
陽子「引っかかって動けない……」
アリス「え? ギリギリ通り抜けられるでしょ?」
陽子「いや、胸の厚みの分が引っかかって……」
アリス綾「……」
アリス「……じゃ、頑張って」
綾「ずっとそこにいたら痩せて出られるんじゃない?」
陽子「おい! 助けてくれよー!」
そしてしばらく経ち……
学校
陽子「アリス、さっきの体力テストの1000m、早かったじゃん」
アリス「ヨーコには全然かなわないよ」
陽子「そりゃ、私はもう何年も走ってるからな」
陽子「でも、ジョギングを始める前と比べて、アリスはすごく体力着いたよ」
アリス「ふふ、ありがとう」
陽子「よく続いてるよなー、最初の目的はなんだっけ? シノが忘れものしても走って取りに帰れるようにだっけ?」
アリス「うん」
陽子「どう? 訓練の成果が出せる日はあった?」
アリス「ううん、あれからシノもなかなか忘れ物しないし、忘れ物してても学校着いてからじゃないと気づかないし」
アリス「でも、もういいの」
陽子「?」
アリス「最近は、朝に走るのが習慣になってるし、走ること自体も楽しいと思えるようになってきたよ」
アリス「それに……」
陽子「それに?」
アリス「……ううん、やっぱり何でもない」
陽子「??」
アリス(ヨーコやアヤと一緒に過ごす朝の時間が、わたしにとって大切な時間になってるんだよ……)
アリス(なんて、ちょっと照れくさくて言えないかな)
あくる日の朝
忍「ああっ!」
アリス「どうしたの、シノ?」
忍「忘れ物をしてしまいました! 家庭科のプリント!」
忍「最近は気を付けてたのに……久世橋先生にまた怒られてしまいます!」ガタガタ
アリス「!」
アリス(この時間なら、まだ……!)
アリス「シノ、わたしが取ってくるよ!」
忍「で、でも今からだともう遅刻してしまいますよ……?」
アリス「……昔のわたしならそうだったよ」
アリス「でも、今のわたしなら……あのころよりもずっと速くなった今のわたしなら、大丈夫!」
アリス「シノは先に行ってて!」
忍「アリス……それなら私も」
アリス「ううん、今のわたしは、シノよりも速いよ」
アリス「絶対間に合わせるから、わたしを信じて行って!」
忍「アリス……」
忍「分かりました! 申し訳ありませんが、アリスに託します!」
アリス「いいんだよ……元はと言えば、この日のために始めたジョギングだから……!」
アリス「じゃあ行ってくるよ!」
忍「……お願いします!」
学校
カレン「……アリスは間に合うでショウか?」
カレン「もうすぐHR始まる時間デスけど……」
忍「大丈夫……今のアリスなら、間に合うはずです!」
綾「そうよ。アリスは前よりも、ずっとたくましくなってるわ」
綾「一緒にやってきた私が言うんだから、間違いないわよ」
忍(そう、アリスはたくましく……そして強くなりました)
忍(体型は未だに小学生みたいですが、内に秘める力が、そして心が……強くなったのを感じます)
忍(それに、陽子ちゃんや綾ちゃんとの仲も深まっているようです)
忍(少しさびしい気もしますが……でも、アリスにとって、それは良いこと)
忍(それなら、私にとっても素晴らしいことに違いありません)
忍(それにしても、今朝のアリス……惚れ直してしまいましたよ)
忍(アリス、これからもずっと……)
忍「……あれ?」
忍「忘れたと思っていたら、カバンの中に紛れてました……宿題のプリント」
綾「えぇー──!?」
アリス「あれー? どこにもないよ! シノの宿題プリント!」
結局その日、アリスは遅刻してしまいましたとさ。
アリス「ひどいよシノー!」
END
アリス「やっぱり、持ち物をしっかりチェックする習慣をつけるのが一番だね!」
陽子「最初に私言ったじゃん!」
アニメ2話見てきたけどアリスはこんなに鬼畜じゃなかった、ごめんねアリス
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