西絹代「これが私の戦車道」 (78)

絹代「突撃!突撃!今日も元気に突撃ぃぃぃっ!」

沙織「ヘイ彼女!…って絡みづらいのが転校してきたわね」

麻子「テンション高すぎる人は苦手だなあ」

華「西さん、生徒会の人が呼んでますよ」

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杏「あのさあ、必修選択科目なんだけどさあ、戦車道取ってね。よろしく」

絹代「うおおお!この西絹代、そのお言葉を一日千秋の思いで待っておりました!これで!
これでまた突撃ができるぅぅぅ!」

杏「いや、あの、突撃じゃなくて戦車道をね…」

絹代「お任せください!この西絹代、見事散兵線の華と散ってみせましょう!」

杏「いや、だから簡単に散ってもらったら困るんだけど」

絹代「うおおお!やったるでぇぇぇ!」

杏「小学生の頃、『人の話を聞かない』って通信簿に書かれてたクチでしょ。でもまあ
快諾してもらえたようでよかった」

桃「大丈夫かなあ…」

柚子「先行き不安だね…」

優花里「戦車も何台か見つかってようやく形が出来てきたとこですね」

沙織「履修希望者も集まってきたし」

絹代「ええい、もどかしい!突撃はまだできんのか!」

麻子「まだだって」

杏「みんなー、聖グロと練習試合組んでもらったよー」

一同「ええっ!?」

ダージリン「こんな格言ご存知かしら?『私を見たまえ、裸一貫から身を起こし、努力に努力を
重ねた結果、前よりもっと貧乏になった』」

オレンジペコ「グルーチョ・マルクスですね、なんでその格言が出たのかわかりませんが」

ダージリン「今日は練習試合ということですがお互い悔いの残らないよう全力を尽くしましょう」

絹代「はいっ!よろしくお願いしまっす!」

絹代「というわけで、今回の作戦だが、ここはやはり突撃以外ないと思う」

優花里「ええっ!ちょっと待ってください!確かに車輌数は同じですが、装甲も火力も
搭乗員の練度も全て向こうが圧倒的に上です!むやみに吶喊したりすれば簡単に撃破される
に決まってますよ!」

杏「まあまあ秋山ちゃん、戦車道経験者は西ちゃんだけなんだし、ここは隊長の指示に従おう」

沙織「素人の私が見てもダメっぽいってわかるけどなあ」

華「大丈夫でしょうか…」

『試合終了!5対0で聖グロリアーナ女学院の勝利!』

杏「うーん、かすりもしなかったね。秋山ちゃんの言う通りだった」

柚子「案の定ダメでしたね」

杏「でもまあ全国大会に向けての問題点の洗い出しが目的だったし、これからに期待しよう」

桃「問題点の洗い出しというか、問題ない部分が見当たらなかったんですが…」

絹代「貴様らぁぁぁぁ!敵前逃亡とはどういうことだぁぁぁぁ!」

梓「ひええええ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!」

絹代「全員そこになおれぇぇぇ!戦車道精神注入棒の錆にしてくれるぅぅぅ!」

沙織「きぬりん落ち着いて!釘バットなんかで殴ったら死んじゃうから!」

柚子「ただでさえ少ない履修者を減らさないで!」

華「ほーら絹代ちゃん、角砂糖ですよー」

絹代「ぶるるるる、はふふ」ガリガリ

華「落ち着いたようです」

麻子「暴れ馬かよ」

杏「もー、血の気が多いんだからー、あ、1年生は全員あんこう踊りね、
釘バットでしばかれるよりはマシでしょ?」

梓「はい…わかりました…」

杏「誰だよあんなの隊長にしようって言ったヤツは」

柚子「敢えて言いますね?あなたです」

桃「自分で呼んどいてこれだもんなあ」

第1話終、次回第2話『戦車喫茶ルクレールでの再会です!』に続く

第2話『戦車喫茶ルクレールでの再会です!』

戦車喫茶ルクレール店内

優花里「…そもそも一斉突撃というのは知波単やサンダースみたいに保有車輌が多いところでないと
有効に使える戦術じゃないですよ。ウチは5輌しかないんですから。あとウチはⅢ突以外は軽装甲の
歩兵支援車や偵察車ばっかりで正面切っての戦いには向かないんです。Ⅳ号だって火力支援が目的の
初期型で前面装甲でも25mm程度だし」

絹代「いや、私は厚い装甲に隠れて戦うなど卑怯だと思う、いっそ戦車に頼らず生身で
突撃を敢行するのもアリじゃないかな?」

沙織「それだと蛸壺屋の同人誌になっちゃうでしょ」

優花里「戦車道という競技の概念を根底から覆すようなことを…」

絹代「それにしても、私、こんなハイカラなとこでお茶飲むの初めてでして」

麻子「ハイカラって…ウチのおばあでもそんなこと言わんぞ、大正生まれかあんたは」

福田「西隊長!西隊長ではありませんか!」

絹代「おお!福田ではないか!久しぶりだな!」

玉田「隊長!お久しぶりです!」

細見「隊長!」

絹代「みんなも一緒か、本当に久しいな」

福田「転校された先でも戦車道を続けておられたのですね!自分は嬉しいです!」

絹代「ああ、もう戦車に乗る資格などないと思っていたのだがどうしてもと請われてな…」

玉田「何をおっしゃるんです!あれは隊長一人の責任ではありません!」

細見「そうですよ!あれは我々全員の責任です!」

沙織「ゆかりん、一体なにがあったの?」

優花里「はあ、戦車道の試合を観戦してる人には有名な話なんですが、前回の
第62回大会で知波単とプラウダの試合で西隊長のフラッグ車が試合開始と同時に
地図を読み違えて明後日の方向に突撃してしまって…」

優花里「他の車輌も次々とその後を追って行った結果、燃料切れで擱座するまで八甲田山の原野を
彷徨い続けてしまって…」

沙織「うわぁ…」

華「誰か一人でも気付く人いなかったんですか?」

優花里「真冬の八甲田山だったので低体温症で病院に担ぎ込まれる人が
続出する騒ぎになってしまって結局プラウダの不戦勝になったんです」

福田「自分はあの時『もしかして隊長、道間違えてるのでは?』と思ってました!
身体を張ってでも意見具申するべきでした!」

玉田「自分もでした!」

細見「自分もです!」

絹代「すまん、お前たちがえらい勢いで追っかけてくるから私も『ごめん、道間違えた』
の一言がどうしても言えなくなって…」

福田「隊長!そうだったのですか!」

玉田「隊長!」

細見「隊長!」

沙織「きぬりんってさあ、よく隊長が務まったなって思ってたけど、
似たような人たちの中で一番マシだったってことなんだね」

華「類は友を呼ぶってことですね」

麻子「なんだかなあ…」

絹代「いやあ、悪い悪い、昔の仲間に会ったらつい盛り上がっちゃって。
えーっと、どこまで話したっけ?」

優花里「もういいです…、なんか会議する気がなくなっちゃって…」

沙織「そうだね、今日はもうお茶だけ飲んで帰ろうか」

華「すみませーん、アップルパイと焼き肉定食お願いします。あ、ご飯大盛りで!」

絹代「じゃあ自分は焼きそばセット!飲み物はファンタで!」

麻子「お前らいいかげんにしろ」

第2話終、次回最終回『最終決戦です!』に続く。

最終回『最終決戦です!』


杏「いやー、ついに決勝戦だねー」

桃「あの戦力とあの隊長で決勝進出を果たせるなんて…」

柚子「週刊誌やスポーツ新聞に『常軌を逸した番狂わせ!』とか『今年の大会は何かが狂っている!』
とかメチャクチャ書かれましたからね」

杏「一番びっくりしてるのはこっちだっての。西ちゃんはともかく秋山ちゃんたちの
おかげだね、散髪屋さんの方に足向けて寝られないよ」


梓「秋山先輩大変そうだね」

優季「そりゃそうだよ、西隊長は相変わらずあのザマだし桃ちゃん先輩は口先だけだし」

あや「作戦担当の秋山先輩とエルヴィン先輩が実質的な隊長と副隊長みたいなものだし」

あゆみ「我々ががんばってなんとか負担を減らしてあげないと」

梓「そうだね、みんながんばろう!」

桂利奈「あいーっ!」

優花里「決勝戦の相手はあの黒森峰です。いままでの相手とはレベルが違います」

華「そんなに強いところなんですか?」

沙織「そりゃそうだよ、戦車道とか興味なかった私でも名前だけは知ってるくらいだもん」

麻子「なにかいい手はないのか」

絹代「ここはやはり突撃しかないだろう」

優花里「真面目な話してるんでそういうの後にしてください」

絹代「何を言う、私はいつも真面目だ」

優花里「ああ…、そうでしたね…」

優花里「特筆すべきは、縦深突破や機動防御といった荒技を駆使して西住流の体現者と呼ばれる天才戦略家、
西住まほ隊長と、その妹で変幻自在のゲリラ戦術を得意として姉をサポートする副隊長の西住みほ、この
『軍神姉妹』の異名をとる二人のコンビネーションで他校に圧倒的な大差をつけて決勝まで勝ち進んできてます」

華「容易ならぬ相手ですね…」

エルヴィン「我々の戦力でとれる作戦といえば、待ち伏せと攪乱戦法で敵の戦力を分断、フラッグ車を
孤立させて撃破というところかな」

優花里「それしかないでしょうね、でも、敵もそのへんの予想はしてるでしょうし、もしうまくいっても
『軍神姉妹』とまで呼ばれる人を相手にどこまで戦えるか…」

絹代「やはり突撃しかないな」

優花里「だからそれ後にしてって…」がたっ ばたん

沙織「ちょっと!ゆかりん大丈夫!」

優花里「ちょ…ちょっと目まいが…、少し休めば…」

麻子「その顔色はただごとじゃない、病院で診てもらったほうがいい」

沙織「麻子の言う通りだよ!ナカジマさん!車まわして!あと誰かおうちの人に知らせてきて!」

絹代「秋山殿は体調不良か、よし!明日から一緒にラジオ体操と乾布摩擦をやろう!
そのおかげで私なんか一度も風邪をひいたことがないぞ!」

麻子「風邪ひかないのは別に理由だと思うけどな」

沙織「ゆかりんの具合はどう?」

華「いま点滴を打ってもらってるところです。おうちの人ももうすぐ来られるそうです」

麻子「過労とストレスからくる症状だそうだ、薬を飲んで2~3日休んでれば元通りだって医者が言ってた」

沙織「そっか…重い病気じゃなくてよかった…、でもこれ以上ゆかりんに無理はさせられないよ、
なんとかしないと…」

華「専門的なことはつい任せっきりにしてしまってましたし…」

麻子「まずはストレスの根源からなんとかしないと」

絹代「配置転換?こんな土壇場で?」

沙織「うん、ぜひⅣ号戦車から三式中戦車の車長に代わって欲しくて」

華「ほら、アリクイさんチームは全員初心者の上に3人だけで搭乗員の定数を満たしてませんし」

エルヴィン「それに三式は一式とシャーシが同じで操縦系統も一緒だから慣れてるだろうし」

ねこにゃー「ボクも来てくれると助かるです…、三式の主砲は砲手が照準を設定してから車長が
引き金を引くって変わった形式だから、装填してから装填手席から車長席に移動するのが大変で…」

絹代「よしわかった、でもフラッグ車のⅣ号のほうはどうなる?」

沙織「そこは通信手の私が車長を兼務するからまかしといて」

絹代「わかった!後は頼んだぞ!」



麻子「厄介払いできたな」

沙織「うん、ねこにゃーさんたちには悪いけど」

エルヴィン「これでいきなりフラッグ車が突撃して玉砕する最悪の事態は避けられたな」

華「毎回段取りを無視して突撃を始めて作戦担当の優花里さんたちが胃の痛い思いを
させられてましたしね」

エルヴィン「今まではそれでもなんとか勝てたけど、今度はそんなまぐれが通用する相手じゃないからな」

麻子「格下の相手だと思って油断してくれることを祈ろう」

優花里「いやあ、ご心配をおかけしました、もう大丈夫です」

沙織「無理しないでね」

優花里「ここで無理しないでいつ無理するんですか、最後までがんばります。で、
決勝戦での作戦なんですが…」

華「隊長の西さんを蚊帳の外に置いているようでちょっと気が引けますね」


沙織「仕方ないよ、また勝手なことされると困るし」

エルヴィン「正直うまくいくとは思えないが、それに賭けるしかないだろうな」

優花里「各車輌がどれだけ上手に連携をとれるかに全てが係ってます。来週の試合までに
しっかり作戦内容の周知と訓練を徹底しないと」

麻子「突撃バカに邪魔されないといいけど」

試合当日…

『試合開始!』

沙織「ええっ!なんでもうこんなとこまで来てるの!?」

優花里「森の中をショートカットして来たんだ…、それも全ての車輌が陣形を保った
ままフルスピードで…」

麻子「どれだけ練度が高いんだ…」

絹代「ええい、ひるむな!突撃ぃぃぃ!」

ももがー「あ、あれ?ギアが硬くて…」

絹代「貴様ぁぁぁ!なにをやっとるかぁぁぁ!」

ももがー「ちょ、ちょっと待って!」

絹代「誰が後退しろと言ったぁぁぁ!」

BAM!

優花里「ああっ!西隊長が!」

華「西隊長が身を挺して私たちをかばって…」

麻子「ただの突撃バカじゃなかったんだ…」

沙織「みんな!きぬりんの犠牲を無駄にしちゃダメだよ!」

※ この後の展開はみほがティーガーⅡの車長(エリカポジション)で
  最終決戦にまほが勝つ以外だいたい本編と同じだと思ってください。

黒森峰女学園優勝記念祝賀会々場

みほ「お姉ちゃん、あぶないところだったね」

まほ「ああ、格下だと思って油断していたつもりはなかったんだが、まさか
あそこまで苦戦させられるとはな。マニュアル重視の我々の戦術も変革を迫られ
ているということか」

エリカ「でも、あそこで競り勝って優勝できたのは隊長の手腕のたまものだと思います」

まほ「いや、優勝できたのはみほやエリカのサポートのおかげだ。特にエリカの働きは
素晴らしかった、これはご褒美をやらないとな」

エリカ「え?」

まほ「祝賀会が終わったら私たちの部屋に来い」

みほ「二人してたっぷりとご褒美あげるから、牝犬さん♡」

エリカ「はわわ♡…、じゅっ、準備してきますね♡(ものすごいトロ顔)

まほ「気が早いな、まだだいぶ時間あるのに」

みほ「ねえお姉ちゃん、あの大洗の子たち、すごくよかったと思わない?特に
フラッグ車の通信手の子とか装填手の子とか気になってるんだけど」

まほ「なんだ、新しいオモチャが欲しいのか?」

みほ「だって、このところお姉ちゃん忙しくてあまり構ってくれないし、逸見さんも
お姉ちゃん専用みたいになって3人一緒でないと嫌がるようになったし」

まほ「わかったわかった、お母さまに頼んでみよう、それにしても、
こんないやらしい妹にはお仕置きが必要だな。エリカと一緒にたっぷり
可愛がってやるからな」

みほ「お姉ちゃん大好き♡」


沙織や優花里の活躍が高く評価されたおかげで、大洗女子学園は黒森峰の分校として
西住流の傘下に入ることでなんとか廃校を免れた。その後、彼女たちが軍神姉妹改め
淫獣姉妹の餌食になったことは言うまでもない。

西絹代は「敗戦の責任をとる!」と切腹しようと路上で日本刀を振り回していたところを
駆けつけた警察官に逮捕された。

特別編  西住しほ「これが私の戦車道」

沙織「ヘイ彼女!…って、ごめんなさい、人違いでした」

しほ「…」

優花里「う…うわぁ…あの年でセーラー服着て学校に来るなんて…、
羞恥プレイかなにかでしょうか…」

華「70年代の成人向け映画によくああいう人出てきましたよね」

麻子「知らんがな。ていうかなんでそんなこと知ってるんだ」

柚子「会長、どうしますか」

桃「かかわり合いにならない方がいいですよ」

杏「そうだねえ、戦車道での優勝はあきらめて廃校の撤回は別の方法を考えよう」

しほ(おかしい…、この美人家元が可憐なセーラー服に身を包んで転校してきたというのに、
どうして誰も声をかけてこないのか…。常夫さんは大喜びで『3人目は男の子がいいなあ』と
まで言ってくれたというのに…)

その後、彼女は戦車喫茶ルクレールでまほと再会するが、他人のフリをされたので深く傷ついた。

                終

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