【からかい上手の】「遠足」【高木さん】 (74)
マンガワンで何気なく読んだ
らあまりに好みすぎて勢い余って書いてしまった
案の定長くなったしヘタだし漫画じゃないとこの作品の良さは激減するけど、よかったら。
とにかく漫画を読んでほしい。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1461768025
スタスタ
西片(今日は遠足か)
西片(中学生でも遠足ってやるんだな。まあフツーの授業に比べたら楽しいからいいけど)
西片(ただ、懸念すべきは…)
ガラッ
高木「あ、西片おはよー」
西片「……」
高木「どうかした?」
西片「なんでも。おはよう」
高木「ふーん?」
西片(彼女である)
西片(あ、違うぞ。『彼女』と言っても懸念すべきが高木さんって意味であって、決してガールフレンドとかそういうんじゃ…)
西片(ってあああ!! オレは誰に何を言い訳してんだ!?)ガシガシ
高木「くすっ」
西片「っ!」
高木「あはは。西片、なに一人で頭抱えてるの?」
西片「べ、別に!」
西片(しまった… 自爆とはいえ、朝っぱらからまたからかわれてしまった)
西片(少しだけ説明しておくと、高木さんはオレの隣の席にいるクラスメイトの女子だ)
西片(よく……本当によく、オレのことをからかってくる。本人いわく、オレの反応が面白いからなんだと)
西片(けどオレも男だ。女子にやられっぱなしで終わるわけにいかない。毎日のようにからかわれながらも、仕返しのチャンスを虎視眈々と狙っている)ギロ
高木「先生遅いなぁ。 ね? 西片」クル
西片「んっ!?」バッ
高木「ん? なに?」
西片「え? あ?」
高木「なんでこっち見てたの?」
西片「いや? み、見てないけど?」
高木「見てたって。なんかすごい顔して。ねぇ、なんで?」
西片「べ、別に…」
高木「なに考えてたの?」
西片「か、考えてなんかないよ」
高木「言えないこと?」
西片「だから、何も考えてないって」
高木「言えないんだ」
西片「……」
西片(慌てるな、慌てるなオレ。このまま高木さんのペースに巻き込まれてはいつものようにからかわれてしまう)
高木「……」
西片(平常心…そう…平常心だ。落ち着け、このまま視線を合わせなければ何事もなく過ぎ去っていくに違いない)
高木「……」
西片(よし、もう大丈夫。これだけ間があけば、仮に高木さんから何か言われようが取り乱さずに応対できるはず)
高木「あ、わかった。言えないってことは」
西片「ん?」
高木「西片、私のほう見てヤラシイこと考えてたんだ」
西片「はああっ!?」ガタッ ガンッ!
西片「くうっ…!!」
高木「ぷっ、くくっ」
西片「いってえぇ…」
高木「あははは! あはははは!」
西片「笑うな……第一オレはヤラシイことなんか…」
高木「じょーだんだって。あー、ほんと西片面白いね。今の、飛び跳ねようとか……ぷぷぷっ」
西片(くそっ、くそう!)
西片(高木さんめ、いつか絶対…)
ガララッ
先生「みんな揃ってるなー。荷物持って校庭に集合ー」
高木「だってさ。立てる?」
西片「まあなんとか」
高木「じゃあ私先に行くね」スクッ
西片「……」
西片(いつかじゃない。今日中に、やってやる)
西片(今日中に必ず、高木さんをからかって恥ずかしがらせてやる!)
日付変わったから最新話見てきます
今日のは今までと一風変わってたけどやっぱり今日も素晴らしかった
続けます
遠足目的地 到着
西片(……酔った)
西片(危なかった。マジでゲロする5秒前だった。普段バス酔いなんてしないのに)
西片(車輪の上だったせいかな。いや……)
西片(おやつタイムに隣の木村君が終始サラミ食ってたせいだな。めっちゃ漂ってきたもんなサラミ)
先生「西片ー、大丈夫か?」
西片「なんとか大丈夫です。外の涼しい空気吸ってればなんとか収まりそうです」
先生「そうか。最初はクラス毎に工場見学だが、お前は少し休んでからにするか?」
西片「そうします」
精油工場見学
中井「うーん、良い匂いだ」
木村「そうかぁ? ぜってーくせぇだろこれ」
高尾「そりゃお前の口が…なんでもない」
中井「そういや西片は?」
木村「あーあいつなんかバスで死んでたから、休んでんじゃね?」
高尾「そりゃ間違いなくお前の…なんでもない」
高木「……」キョロ
ミナ「なんか、思ってた香りと違うね」
ユカリ「ラベンダーっぽくないよね。がっかりー」
サナエ「私は好きだけどね。高木ちゃんは?」
高木「……」
サナエ「高木ちゃん?」
高木「あ、ごめん。なに?」
ミナ「どうしたの?」
高木「どうもしないよ?」
ミナ「そう? ならいいんだけど」
お昼ごはん
西片(別クラスに紛れての工場見学は思った以上につまらなかったな。無理してでも自分のクラスについて行けばよかった)
西片(さて、中井君たちはどこで食べてるんだろう)
10分後
西片(いない……)
西片(もう食べ終わったのかな。お昼の後はレクだし、早い人は広場で遊び始めてる)
西片(仕方ない。ちょうどあそこのベンチ空いたから1人でさっさと食べよう)
ストン
西片「ふう」
西片「……」ゴソゴソ
西片「……」パカ
西片「……」モグモグ
西片(うまい。母さんはりきったな)
西片「……」
ワーワー
キャーキャー
西片(ドッジ…じゃないな、あれは中鬼か)
西片(いつ見ても中の人可哀想だよなぁ。いじめられてるみたいで)
西片「……」モグモグ
西片(なんていうか、意外と寂しくないな)
西片(遠足で1人でお弁当ってすごい不憫な感じするけど)
西片(喧騒から離れ、他の生徒が無邪気に戯れる姿を眺めつつ物思いにふけるこの感じ)
西片(あれ、なんかオレカッケーかも…?)
西片「ふふ、ふふふふ」プルプル
西片(この二人掛けのベンチ……世の有象無象は男女2人で仲睦まじく腰掛けることを夢見るであろう木製ベンチ)
西片(しかし、オレは違う!)
西片(あえて誰とも交わることなく、周りと合わせることなく、己のタイミングで死肉(=唐揚げ)を喰らい、鮮血(=お茶)を飲むのである!)
西片「……」グビッ グビッ
西片(何人たりとも寄せ付けぬ孤高の存在! それこそがッ、一匹狼西かt)
高木「唐揚げもーらい」ヒョイ
西片「ぶアウゥん!!!」ブーッ
西片「げっほげほっ! ウエッ…」
高木「あははは、なにしてんの西片。きたないなぁ」モグモグ
西片「た、たたた高木さんっ!?」
高木「高木でーす」
西片「いつの間に……いつから……?」
高木「んーと、西片がなんかニヤニヤしてプルプルしてるくらいからかな?」
西片「プルプルしてたの!?」
高木「プルプルしてたよ」
西片(プルプルしてたのか…どのあたりだろう…)
西片「そ、それで高木さん? なんでここにいるんだい?」
高木「なんで?」
西片「なんで」
高木「んー…… なんでだろーね」
西片「はぁ」
高木「なんでだと思う?」
西片「はぁ?」
高木「当ててみなよ」
西片(っと、ここで来たか)
西片「うーん」
西片(たまたま見つけた、ってのが一番ありそうだけど、高木さんがそんな解答で終わらせるわけない)
西片(もう少し具体的に理由として成り立つことがあるんじゃないか? 例えば)
高木「じゅーう、きゅーう」
西片(例えば……えーっと…)
高木「なーな、ろーく」
西片(例えばなんだ……? まずいぞ、何も浮かばない!)
高木「よーん、さーんにーいちぜろ。ハイどーぞ」
西片「ええっ!? ちょっと、ズルくない今の!?」
高木「ハイどーぞ」
西片「ああ、もう……!」
西片「えっと、ズバリ高木さんは…」
高木「ちなみにハズレだったら私の言うことひとつ聞いてもらうからね」
西片「えぇっ!? それ今言うのはナシだろ!」
高木「んー」
高木「じゃ、逆に当たったら西片の言うこと聞いてあげるよ」
西片「む…」
高木「それならいいでしょ?」
西片「うーん、それでも一発で当てるとなるとオレが不利な気がする」
高木「もーわがままだなぁ。じゃあ、三択ならどう?」
西片「…三択か」
高木「うん」
西片(三択ならかなり楽になるな。高木さんはルールを破るようなことしないし、イカサマとかもないだろう)
西片「……オッケ、それでいこう」
高木「決まりね」
高木「問題です。私はどうして、西片のところへやって来たのでしょーか?」
西片(そっからやるんだ)
高木「1番。『たまたま通りかかった』」
西片「……」
西片(これはオレが最初に考えたやつだ)
高木「続いて2番。『お弁当を忘れたので、まだ食べてる人を探していた』」
西片「おっ」
西片(なるほど、これはありそうだな)
西片(そういえばさっき何か具を取られたような……あ…オレの唐揚げ…)
高木「最後に、3番」
西片(あとはなんだろう。さっきは口だけで結局何も思いついてなかったし…今の2つ以外に何かあるのか?)
高木「……」
西片「高木さん?」
西片(何をためらってるんだ?)
高木「西片」チョイチョイ
西片「なに? 耳貸してってこと?」
高木「うん。えっと、3番はね」
高木「『私が西片に会いたかったから』」ボソッ
西片「………ハァッ!!?」
西片「な、な」
高木「ほら、午前の工場見学のとき西片いなかったでしょ?」
西片「えっ? あ、ああ、それは」
高木「知ってる。バス酔いして休んでたんだよね。木村君たちに聞いたよ」
西片「まあ…」
高木「で、その間ずーっと西片と会えなかったわけじゃん」
西片「っ…」
西片(いやそうだけども、それがなんだって……もしや高木さんって)
高木「つまり、ずーっとからかってないからうずうずするじゃん」
西片「……」
高木「クラスで一緒に回れてたらいっぱいからかえそうな所あったのになーって思うと、余計うずうずしてさ。早く会いたくなっちゃった」
西片「ああ………そう……」
高木「早めに見つかってよかった」ニコ
西片「はは……」ガク
西片(そりゃそうだろ……何をがっかりしてるんだオレは。バカかオレは)
高木「あれ? どーしたの? 西片」ニヤニヤ
西片「なんでもない…」
高木「それで西片、答えは決まった?」
西片「え?」
高木「だから、答え」
西片「答えって今の3番なんじゃないの?」
高木「誰もそんなこと言ってないよ。今のはもし3番だとしたらって話だから」
西片(なんだそれええ!?)
西片(どう考えても今のが正解だろ! 一瞬2番あり得るとか思ったのが遠い過去のような勢いで正解オーラ出てたぞ)
高木「で、どうするの?」
西片「いやもう迷いなく3番…」
高木「3番でいいの? ホントに?」
西片「えっ」
高木「3番にしちゃうの?」
西片(確かに、直感的には間違いなく3番だと思う。動機だって筋が通ってる)
西片(けど高木さんのことだ。オレが間違えるようわざとイメージしやすい答えを用意したのかもしれない)
西片(そう考えると反対に、何事もなく通過した1番と2番が怪しくなってくる)
西片(……けど)
高木「いいの西片? ホントに3番で」
西片「……」
西片「うーんそうだなー、案外2番だったりしてなぁー」
高木「うんうん、可能性がある限りすぐ見切りつけないほうがいいと思うよ」
西片「でもやっぱ3番かな」
高木「!」ピク
西片「……」
高木「なんで3番にこだわるの? 別に1番だって全然ありそうじゃない?」
西片「……」
高木「西片?」
西片「……」
西片( か か っ た ! )
西片(以前のオレなら直感の通りに迷わず3番を選んでいただろう)
西片(けど今まで何十回何百回とからかわれてきたんだ。その経験を糧に成長してきたオレは盲目することなく思考を続ける)
西片(そして目の前に蒔かれた罠を見破り、可能性の低かった1番や2番を選択することができる)
高木「……」
西片(……と、高木さんは考えている!!)
高木「西片ー?」
西片(さすがは高木さん。オレ自身の成長まで計算に入れたトラップとは恐れ入るよ。でも…)
西片『でもやっぱ3番かな』
高木『!』ピク
西片(残念だったね。さっきオレが発したフェイントに対して僅かに動いた君の眉毛が、全てを物語っている)
西片(何度問われようがもう揺るがない。終わりだ高木さん、遂に君が敗北する日が来た)
高木「もう、早くしないとそろそろ時間切れにするよ?」
西片「その必要はないよ。オレの答えはもう決まっている」
高木「そうなの?」
西片「……言ってしまっていいんだね?」
高木「いいよ」
西片「ぐっ… 余裕でいられるのも今のうちだよ高木さん」
西片「答えはズバリ、3番だッ!」
急激に眠くなったのでまたお昼頃に
高木「……」
西片(決まった)
高木「……」
西片「どうだい? 高木さん。黙ってるってことは正解なんだろ?」
高木「……」
西片(ふっ、見事に当てられてグゥの音も出ないみたいだ)
高木「3番…」
西片「そう、3番」
高木「って、なんだっけ?」
西片「……はい?」
西片「なんて?」
高木「3番ってなんだっけ?」
西片「ちょっと、この後に及んで何を…」
高木「ド忘れしちゃってさー。何が3番なんだっけ」
西片「はぁ?」
西片(なんだよ、往生際が悪いぞ高木さん。当てられたからってシラを切るつもりか?)
高木「思い出せないなぁー。教えてよ西片」
西片「あのなぁ」
西片(言われなくても教えるさ。このまま逃げられたらたまったもんじゃない)
西片「3番は……ほら……」
高木「うん」
西片「……」
西片「……会いたかったからでしょ」ボソッ
高木「……」
西片「……」
高木「うん?」
西片「うん?」
高木「ごめん、なんか言った?」
西片「はぁっ!?」
高木「声小さくて全然聞こえなかった」
西片「うっ…」
西片(た、確かに今のはボソッと言ってしまったけど…)
高木「ちゃんと聞くからさ、西片も大きな声で話してよ」
西片「う、うん」
高木「……」
西片「だからほら…………会いたかったから」ボソッ
高木「えっ?」
西片「あ、会いたかったからだって!!」
高木「誰が?」
西片「んんっ!?」
西片「だ、誰がって……?」
高木「会いたかった、だけじゃ何もわかんないよ? 誰が、誰に?」
西片「いやわかるだろ! この場合そういうのはもう決まってるっていうかさ」
高木「んーー、思い出せないなぁー。私、こういうの正確に教えてもらえないと思い出せないなぁー」
西片(白々しいっ……頭の良い高木さんに限ってそんなわけないだろうに。一体どういうつもりで…)
高木「ねー西片ー、わかってるなら早く教えてよ」
西片「だからその……た、高木さんが…」
高木「私が?」
西片「………オレに……」
高木「西片に?」
西片「あ、会い…た……あいた……」
高木「えっ?」
西片「……………」
西片(ってそんなん言えるかぁあアアアア!!!)
高木「……」ニヤニヤ
高木「どしたの西片? 顔まっかだよ」ケラケラ
西片「別に…」
西片(わかった、わかったぞ、高木さんの魂胆が。あくまでも3番の回答を言わせないつもりだな!?)
西片(高木さんがオレに会いたかった、とか…)
西片(いや、真意はオレをからかいたいってことだったけど……そんなの恥ずかしくて言えたもんじゃない!)
高木「大丈夫? ひょっとして具合わるい?」
西片「だ、大丈夫だよ。何の問題もない」
高木「そう? じゃあほら、早く言ってよ」
西片「くっ……」
高木「言ーえ、言ーえ」パン パン
西片(ああああなにそのコール!? 小学生が無理やり告白させるアレか!? ますますハードル上がるじゃないか!)
西片(なんだっていうんだ……やっぱりオレは高木さんに勝てないっていうのか?)
高木「言ーえ、言ーえ」パン パン
西片(いつまで経っても恥ずかしがらされる側の人間なのか?)
高木「いーけ、いーけ」パン パン
西片(……違うだろ、西片)
西片(お前はこんな所でつまづいて、そのまま倒れこむような男じゃないはずだ!)
西片(顔を上げろ。見るんだ、この勝利を確信したような顔を)
高木「がんばれ、がんばれ」パン パン
西片「……」
西片(そして想像するんだ……この余裕の表情が、驚愕と絶望に変わる瞬間を)
高木「まーだかな、まーだかなっ」パン パン
西片(そのためにはたった一言、たったのワンフレーズ、言ってやればいい!)
西片(3番が何たるかを、お前の口から彼女に伝えてやるんだ!!)
西片(そうだ、ここでやれなきゃ二度と出来ないと思え!)
西片(周りが気になるならば道を狭めればいい。要は、彼女の耳に入りさえすればいいんだ!)
高木「……」
高木「あのさ西片、そろそろ本気で時間切れに」
西片「高木さんっ!」
高木「わっ」
西片「ちょっと、耳貸して」ズイッ
高木「え?」
西片「……」
高木「……」
西片「オレの、答えは…」
高木「…うん」
西片「その……3番の答えは……」ドッ ドッ
高木「……」
西片「……」ドッ ドッ ドッ
西片「やっぱナシで、1番の『たまたま通りかかった』にします………」ボソッ
高木「…………」
西片「……」
高木「ファイナルアンサー?」
西片「……ファイナルアンサー」
高木「ブブー。不正解」
西片「ですよねぇー」
高木「ふふっ、残念でした」
西片(意気地なし……オレの意気地なし……)
高木「なにしてもらおーかなー」
西片「…無茶なやつはやめてよ」
高木「えー、どうしよう?」
西片「ちょっと!」
高木「あは、じょーだんだよ。できそうなのにする」
西片「はぁ…」
西片(高木さんに仕返し出来る日は果たして来るのだろうか)
高木「……」
高木(ちょっとドキドキしちゃったな、さっきの)
また夜にきます
西片(まぁ落ち込んでても始まらないな。さっさと残りのお弁当食べないとレクの時間が来てしまう)モグモグ
西片(それにしても……)チラ
高木「……」ンー
高木『『私が西片に会いたかったから』』ボソッ
西片「うぶっ! げっほげほっ!」
高木「むせたの? 大丈夫?」
西片「だ、だいじょ…げほっげほっ!」
西片(くそ、飲み込むタイミングでなに思い出してんだオレ!)
高木「はいお茶」
西片「ありがと…」グビッ
高木「それ私の水筒だけどね」
西片「ブバウッッ!!!」ブーッ(二回目)
高木「あっはははは! あははははは!」ケラケラ
西片(もういや……)
西片(……でも、あれが正解ってことは)
高木「私もお茶のもーっと」
西片(本心、なんだよな)
高木「……」ゴクゴク
西片「……」
西片(たとえからかうためだとしても高木さんはオレに『会いたかった』わけで)
西片(っていうか、たった数時間離れただけなのに、わざわざ1人で探し回るほどだったのか?)
西片(どうせ明日になればまた隣の席なんだし。人をからかうために普通そこまでするものだろうか?)
高木「……ぷは」
西片「……」
西片(高木さんは心が読めない)
西片(他の人も読めないけど、高木さんはもっと読めない)
西片(だからこそいつもオレはからかわれて、やり返そうとしても失敗する)
西片(高木さんの言葉の裏に隠された意味も、オレにはわからない)
西片(『会いたい』の裏に隠された『からかいたい』も、高木さんに言われて初めて気がついた)
西片(じゃあその『からかいたい』の裏側には……一体何が隠されているんだい?)
高木「ふあー……」
西片(高木さん)
高木「……」ゴシゴシ
西片(もしかしてだけど、やっぱり高木さんは……オレのこと)
グゥゥゥゥゥゥ
西片「……」
高木「……聞こえた?」
西片「わりとバッチリと」
高木「てへぺろってやつだね」
西片「てへ……なにそれ?」
高木「ううん、なんでも」
西片(今のは…お腹が鳴った音だよな、どう聞いても)
高木「あーあ、西片に聞かれちゃった」
西片「なんかあれだね、意外にその…」
高木「やめてよ、恥ずかしいから」
西片(やっぱり恥ずかしいのか)
西片「!」
西片(そうだ、何してるんだオレは! 今こそ高木さんをからかうチャンスじゃないか!!)
西片(見た目に似合わぬ豪快な腹音! うまくいけばめちゃくちゃ恥ずかしがらせられる上に、弱みだって握れる!)ニヤリ
西片「はっはーん! 高木さん今の」
高木「あ、じゃあ西片、残りのお弁当ちょうだい」
西片「…えっ?」
高木「お弁当。ちょうど半分くらいだしさ、それちょうだい」
西片「おべ……え? なんで?」
高木「お腹鳴ったの聞こえたでしょ?」
西片「いやそうだけども」
高木「だから恵んでほしいなって。ダメって言っても勝負は勝負だから、言うこと聞いてもらうけどね」
西片「ああ、さっきのやつね……別にいいけど」
高木「ほんと? わあい」
西片「っていうかこれは勝負とか関係なく普通にあげるよ。バス酔いのせいか元からそんなに食欲なかったし」
高木「そうなの? ありがと西片。もらっちゃうね」
西片(なんか勿体無いことしたかな? まあいいか)
西片(……あれ、待てよ?)
西片「高木さん? その、お昼は食べたんだよね?」
高木「んーん」モグモグ
西片「えっ」
高木「おーいひー」モグモグ
西片「も、もしやお弁当忘れたっていうのは本当で……」
西片「あれ? じゃあさっきの問題の答えは……!?」
高木「んー?」ゴクン
西片「……」
高木「……」ニコッ
西片(ってことは………)
西片(もしかしてだけど、高木さんは……オレのこと)
西片(もしかしてだけど、高木さんは……オレのこと)
西片(もしかしてだけど、高木さんは……オレのこと)
西片(もしかしてだけど、高木さんは……オレのこと)
西片(もしかしてだけど、高木さんは……オレのこと)
西片「ンァあアァアアアァウワぁああァアアァアァ!!!!!」ガンッ ガンッ ガンッ
高木「卵焼きもおいしいなー」モグモグ
キリいいからまた明日
帰り
先生「それじゃ点呼完了した奴から好きにバス乗ってけー」
西片(なんていうか、体より心が疲れた遠足だった)
中井「西片、終始死にそうな顔してたな」
高尾「行きのバスから幸先悪かったもんな」
木村「なんだよ俺のせいかよ」
中井「つーわけでお前は帰りのバス高尾の隣」
木村「いいけど、じゃあ中井が西片の隣か?」
高尾「いや、真野ちゃんの隣だろ」
木村「はぁ? じゃあ西片はどうすんだよ」
中井「それはまあ……なんとかなるだろ!」
高尾「だな」
木村「薄情なやつらだな」
西片(木村君の隣だとまたサラミ地獄を味わうことになりそうだ)
西片(自由席って言っても行きと帰りで皆わざわざ変えたりしないだろうし…)
西片(あれ、木村君がいないな。もう乗ったのかな?)
バス内
西片「えーっと」
木村「おっ、悪い西片。俺、高尾と座ることになったわ」
西片「あ、そうなの?」
高尾「お前のためだぜ、西片」
西片「は?」
西片(まあ、サラミから逃れられるなら確かにオレのためになるな)
西片(でも困ったな。それならどこに座ろう)
西片(もう皆だいたい座ってる。空いてるのは……)
高木「〜〜♪」
西片「……」
西片(よし、隣の空席なんて見えなかった。他を当たろう)
高木「あ、西片」
西片(見つかった)
高木「もしかして席ないの? ここ空いてるよ」
西片「ん? いや? 大丈夫だよ。それじゃ」
高木「……ふーん?」
西片(危ない危ない。今日はもうダメだ)
西片(高木さんの顔見ると昼のことを思い出して頭を打ち付けずにはいられなくなるからな)
西片(……あれ、最後尾?)
高木「おかえり」ニヤニヤ
西片「………ただいま」ズーン
西片(ちくしょぉおおおお!!!)
ブロロロ
西片「……」
西片(窓側なのがせめてもの救いだな。ずっと外見てれば高木さんのほう見なくて済む)
西片(って、なんかこれじゃ高木さんのこと嫌ってるみたいだな)
高木「〜〜♪」
西片(高木さんのことは…別に嫌いじゃない)
西片(そりゃ、毎日からかわれてたら腹が立ったりうんざりしたりはする。ただ嫌いかって言われたらそうじゃない)
西片(ううむ。オレは高木さんのことをどう思ってるんだろう)
高木「……」ジー
西片「っ!」ビクッ
西片(一瞬、窓に映った高木さんと目が合った気がする)
高木「ねぇ西片」
西片「な、なんだい?」
高木「ねぇってば」
西片「…だからなにさ」
高木「なんでこっち見ないの?」
西片(ぐっ)
西片「えぇー? 別にそんなことは」
高木「ずっと窓のほう向いてるよね」
西片「……」
西片(恥ずかしくて顔合わせられないなんて言ったらまたからかわれるしなぁ)
西片「ほら、オレ酔いやすいから。遠く眺めてないとダメなんだよ」
高木「あ、そっか」
西片(ふう。我ながらナイスな回答じゃないかこれは)
高木「じゃあサラミ食べる?」
西片「なんでだよっ!?」バッ
西片「あ…」
高木「やっとこっち向いてくれたね」ニコ
西片「っ!」
高木「ちなみにサラミは持ってないよ」
西片「いらないよ…」
西片(くそう、またやられてしまった)
西片(あぁ、やっぱり高木さんには勝てる気がしない)
高木「西片、おやつタイムだよ」
西片(オマケに今日はあんな勘違いまでしそうになって……死にたい。死んで生まれ変わりたい)
高木「西片ってば」クイクイ
西片「え? なに?」
高木「おやつタイム。トリックオアトリート」
西片「…なんて?」
高木「知らない? お菓子をくれなきゃからかっちゃうぞって英語」
西片「初めて聞いた。物知りだね高木さん」
高木「そうでもないよ」
高木「それで、お菓子くれないの?」
西片「残念だけど持ってくるの忘れたんだよ」
高木「なーんだ」
西片「高木さんは持ってきてないの?」
高木「うん。私も忘れちゃった」
西片「そうなんだ」
高木「西片」
西片「ん?」
高木「私たち、おそろだね」
西片「……ソウダネ」
高木「だからなんでそっち向くのー?」
西片「さっき言ったでしょ。酔うからだって」
高木「ホントに?」
西片「ほ、本当だよ」
高木「ふーん」
西片(あぁ…)
西片(もう寝よう。寝ていろいろ忘れよう)
西片「……」
西片「……」
西片(本当に眠くなってきた)
西片「ふあー…」
高木「ふあ……」
西片「……」
高木「……」
高木「またおそろだねー」
西片(もうやめてぇぇ!!)
高木「なんて、あくびは移るって言うからね」
西片「…言うね」
高木「西片、眠いの?」
西片「まあ少し」
高木「ふーん」
西片「……」
高木「着いたら起こすから寝てもいいよ」
西片「そうしようかな」
高木「肩貸してあげよっか」
西片「うん……うんっ!?」
高木「いる?」
西片「い、いらないよ!」
高木「そっかー」
西片(何言ってんの高木さん!? そんな、か、カップルみたいなこと…できるわけ…)
高木「じゃ、西片の肩貸してよ」
西片「んんん!?」
西片「高木さん!? 一体何を言い出すんだい!?」
高木「だって私も眠いし。通路側じゃ寄りかかれなくて寝にくいから」
西片「せ、席を倒せばいいだろ」
高木「私、まくらないと眠れないもん」
西片(だからってオレの肩をまくら代わりにするなんて…)
西片「なら、窓側変わるからさ」
高木「走行中の移動厳禁だよ?」
西片「ぐっ」
高木「ほら早く」
西片「そうは言ってもね高木さん」
高木「西片、私の言うこと聞いてくれるんだよね」
西片「………あぁ……はい」
西片「……」
高木「……」スゥ
西片「……」
西片(なんなんだ……この状況!)ドッ ドッ ドッ
西片(まさか自分の肩に女子を寝かせる日が来るとは。しかもそれが高木さんだなんて…)
高木「ん…」
西片「ヒッ」
高木「……」スゥ
西片(くそう、どうやっても意識して目が冴えてしまう)
西片(なんだか甘い匂いするし… それにやっぱり高木さんってこうして見ると……)ゴク
西片(あああぁぁああ煩悩退散煩悩退散! だからって高木さんがオレのことどうとかってんじゃないんだ!)
西片「……」
西片(うん、無い。今日身をもって知ったじゃないか)
西片(別に高木さんはオレに『会いたい』とかそんなことは思ってなかった。高木さん自らが出した三択から得られた結果だ。ウソなんかじゃないだろう)
西片「……」
西片(いいじゃないかそれで。元々どうも思ってない。むしろオレからすれば憎むべき相手なんだから)
西片(この肩で寝てるのだってたまたま隣がオレだったから)
西片(いや……オレをからかおうとやっているのかも知れない。寝ているように見せて、密かに反応を楽しんでいるんだろう?)
西片「……」チラ
高木「……」スゥ
西片(まずい…全然起きてるように見えない)
西片「……」ドッ ドッ ドッ
西片(いやいやバカな。高木さんのことだ)
西片(高木さんがただおとなしく寝ているわけがない。だって高木さんだもの)
西片(今にもオレを恥ずかしがらせるチャンスを狙って仕掛けてくるに違いない)
西片(落ち着けオレ、落ち着くんだ。とりあえず深呼吸しよう)
西片「すーー」
高木「…くしゅんっ」
西片「うわっ!」ビクッ
高木「んん。んー……おはよ」ムク
西片「や、やぁ。お目覚めかい?」
高木「ん」コク
西片(まるで本当に寝てたみたいだ…)
高木「うー、ちょっとあたま痛い」
西片「えっ? 大丈夫?」
高木「西片の肩が硬かったからね」
西片「なんだそっちか。そりゃ悪かったね」
高木「西片肩硬かったから」
西片「…ちょっと高木さん、貸してあげてたのに文句が多いよ」
高木「早口言葉みたいじゃない?」
西片「はっ?」
高木「ニシカタカタカタカッタカラ」
西片「……ああ……うん……」
高木「ニシカタカタカタカッタカラ……ぷぷっ」
西片「……」
高木「ニシカタカタ…ふふっ、あはっ、あははは! おもしろーい! ニシカタカタカタ」
西片「カタカタうるさいよ! ってかどうでもいいよ!」
高木「あはははっあはははははは! あーーおなかいたー」
西片(高木さんのツボが全然わからない…)
西片「ほんとにもう…」
高木「ごめんごめーん」
グゥゥゥゥゥゥ
高木「……」
西片「……」
西片(今度はオレだ…)
高木「西片、おなかすいたんだ」
西片「そう…みたいだね」
高木「ふーん」
西片(そういえばお昼は半分高木さんにあげたからなぁ)
高木「…私のせいかな」
西片「えっ?」
高木「私が西片のお昼もらっちゃったから」
西片「いや……」
西片(そうだけど、なんかそう申し訳なさそうにされるとこっちが申し訳ないような)
西片(いや待て! これはチャンスじゃないか?)
西片(珍しく高木さんが自分のせいだと罪悪感をもっている。ならばそこにつけこんでもっと困らせてやれば…!)
高木「……」シュン
西片「……」
西片「別に高木さんのせいじゃないよ。あの時は本当に食欲無かったし」
高木「そーなの?」
西片「うん。それに、お菓子持ってくるの忘れたってのもあるから」
西片(あぁ、オレの小心者)
高木「ふふっ」
西片「な、なに」
高木「ううん。西片、優しいなぁって思って」ニコ
西片「…………別に」
西片(くそっ、いちいち反則じゃないのかその笑顔は!)
高木「またそっち向いたー」
西片「……うるさいよ」
西片(はぁ。本当にいつかオレが高木さんに勝てる日はやってくるのだろうか)
高木「でもやっぱりおなか空いてる原因って私にもあると思うんだ」
西片「えぇ? いやまぁ、なくはないけど」
高木「だよね」
西片(けっこう気にしてるのかな)
高木「だからさ」ゴソゴソ
西片「…?」
高木「はい」ポン
西片「えっ?」
高木「あげるよ」
西片「なに? これ」
高木「アルミ取ったらわかるよ」
西片「……」ペリ
高木「どう?」
西片「どうって、これは……おにぎりだね」
高木「早起きして作ったの」
西片「え、自分で?」
高木「うん。お母さん、昨日から出かけてるんだ」
西片「そうなんだ」
高木「おなか空いたんでしょ? 西片が食べていいよ」
西片「いや、でも今は…」
高木「こっそり食べれば大丈夫だよ。不安なら、反対から見えないように私こうやって本読んでるから」
西片「……」
西片(高木さんの手づくりか…)
高木「あれれ? もしかして私の手づくりなんて恥ずかしくて食べれない?」
西片「む」カチン
西片「そ、そんなわけないだろ。考えてもないよ」
高木「ふーん? じゃあ食べなよ」
西片「言われなくても遠慮なくいただくよ」ペリ
西片(いくら高木さんの手づくりって言ったって、ただのおにぎりさ)
西片(こんなの炊いたご飯を海苔とラップで包んでにぎっただけ…オレにだってできる…やったことないけど)
高木「うめぼしだけど大丈夫?」
西片「むしろ好きなほうだよ」
西片「……」
西片「い、いただきます」
高木「……」ニコニコ
西片(うん…ふつうにうまい)モグ
高木「どう?」
西片「お、おいしい…と思う」
高木「でしょ? 自信作なんだよ」
西片「自信作って…おにぎりだよ?」
高木「うん。自信作のおにぎりだよ」
西片(おにぎりでもそういうのあるのか? たしかに、お米にもほんのり塩がまぶしてあっていい感じだけど)モグ
西片「意外だね。お米をラップで包むくらい、高木さんにとっては何でもないと思ってたよ」
高木「えー、そんなことないよ。熱いのガマンして頑張ったもん」
西片「ふーん」
西片(布とかでくるんでにぎるのかと思ってた)モグ
西片(高木さんは素手でにぎる派なのかな。作ったことないからよくわからないけど)モグモグ
西片(……ん? 待てよ)
高木「あ、そうそう西片。昔お母さんに教えてもらったんだけど」スッ
西片(熱いのをガマンした、ってまさか……)
高木「お米ってね、直接手でにぎったほうがずーっとおいしくなるんだって」ボソッ
西片「ンブッ!!?」
高木「あー。手、熱かったなぁー」
西片「ゲッフゲッフ!! ゴッフ!!」ドンドンドン
高木「よくむせるね西片。ほら、お茶あげる」
西片「うぅ……」
学校着
先生「家に帰るまでが遠足だからな。皆、寄り道せずまっすぐ帰れよー」
西片(結局、バスでも最後まで高木さんにからかわれっぱなしだった)ズーン
西片(今日こそはと思ってたのに。むしろいつも以上にダメだったんじゃないか)
西片「はぁ…」
西片(今日は何回腕立てすればいいんだ? 朝と……昼のと……レクのときと……)
西片(大体20回くらいか。隣の席じゃないぶんいつもより少なめだな)
西片(逆に隣の席じゃないのにこれだけからかわれるってどうなんだ? さすがにおかしいんじゃ?)
西片(やっぱり、高木さんが意図的に会いに来てるってほうが納得できるような気がする)
西片(高木さんが……オレに……)
西片「んがああああぁああ!!!」バリバリバリ
西片(だから違うんだって!! 高木さんは別にそうじゃなくて…)
高木「西片」
西片「っ! た、高木さん」
高木「頭かきむしってどーしたの? 変だよ?」
西片「べっ別に……高木さんには関係ないよ」
高木「ふーん」
西片「……」
西片(そうだ……高木さんは関係ない。高木さんはオレに何も特別なことは思ってない)
西片(お昼に会いにきたのも、オレがたまたま食べ始めるのが遅かったから)
西片(レクの時のあれも、帰りのバスで寝たふりをしたのも、全てはオレをからかうのがおもしろいから)
高木「んんー」ノビ
西片(いつも通りさ。いつもと場所が違うだけで、いつも通りにからかわれただけ)
西片(ただまぁバスが隣の席で……肩を貸したり、手づくりのおにぎりを食べれたってところは、今日じゃなきゃあり得なかった話だけど……)
西片(…………ちょっと、待て)
西片(んん? なんでだ?)
西片(オレは高木さんのおにぎりを食べた。高木さんはオレにおにぎりをくれた。おにぎりはお弁当袋に入っていた)
西片「……」
西片(けど高木さんはお弁当を忘れていた)
西片(お弁当を忘れたからオレに会いにきて……でも実際はおにぎりを持っていて…)
西片「……」
西片「え? 何がどうなって」
高木「西片!」
西片「うわっ! た、高木さん?」
高木「いっしょに帰ろ」ニコ
西片「っ!」ドキ
西片(その瞬間、なぜか高木さんには一生勝てないような予感がオレを襲うとともに、難しい考えは街の夕焼けの中にとけて消えてしまった)
「遠足」 fin.
終わり。
今日も漫画が楽しみですね。
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