前略
俺は魔王を倒した
正確に言うと相討ちになってしまったのだが
女神からの魔王討伐報酬というやつで俺はこの世にもう一度生をを受けることが出来た
折角拾った命だ、もう冒険なんてしない!そう!俺は魔王を倒したのだ!
つまり英雄!
英雄にはそれなりの待遇ってのが待っているはずなんだ!
街を挙げてのパレードだったり、綺麗な踊り子が踊ってたりとそりゃもう贅沢三昧が待ってるはずだったんだ
……なのにだ
「カズマカズマ!」
「……今度はどうした」
「今日は凄いやつを見つけたのでそれを爆裂しに行きましょう!」
「後でな」
「カズマ聞いてくれ!去年行われた我慢大会が今年は更にレベルアップするらしいんだ!ああ、今から胸が躍る」
「俺は全く踊ってない……」
「カズマー。紅茶いれてー」
「自分でいれろ……」
俺は以前とまーったく、ちーっとも変わらない生活を送っていた
いや、変わったといえば変わっている
例えば頭のおかしい爆裂娘が夜な夜な添い寝に来たり、おかしな趣味のドMクルセイダーが部屋に誘ってきたりと確かにイベントは起きている
起きているのだが、何かが違う!
それは、そう。言うなればこうだ
「……思ってたのと違う」
「カズマ?ちょっと今の発言がどういう意味か教えてもらいましょうか。返答によっては爆裂魔法を放つ場所が変更されるので」
「物騒なこと言ってないで、さっさと撃ちに行くぞー」
「あ!待ってください!」
「ちょっとカズマー!私の紅茶ー!」
後ろから聞こえる駄目神の声を無視してそそくさと屋敷を出る
慌てて後ろからついてきためぐみんが俺の手を掴む
「待ってくださいって何度も言ってますよ」
「あ、ああ」
「全く……少しは私のことを考えてください」
「いや、お前は厄介事で俺を悩ませるだろうが……」
「う……そっち方面以外で考えて欲しいのですよ」
「その手には乗らんぞ」
「……最近のカズマは何だか前より耐性がついて面白くないですね」
「そりゃお前やダクネスがしょっちゅう俺を誘ってくるからだろ……いやでも耐性がつくわ」
「この人嫌とか言いましたよ!こんなに可愛らしい子からのお誘いなのに!あと、ダクネスの名前を出すのは今は禁止です」
「わかったからほれ、今日は何を爆裂するんだ」
「ふっふっふ……それはですね……」
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「お前……あれって」
「どうですか!あの艶!あの色!あのデカさ!まさにうってつけじゃないですか!」
「バカ野郎!お前あれ元領主の城じゃねえか!」
もう随分と懐かしいがデュラハンが住んでいた城であり、そして俺が大量の借金を負わされる羽目になった元凶だ
「大丈夫ですよ!あれから随分と経つのに人の気配を感じませんし!街からこんなに離れてるんですからきっと廃城にされたままなんですよ!」
「駄目だ!また絶対にロクな目に合わないのが目に見えている!」
「ああ!沈まれ我が呪われし右手よ!」
俺の説明も聞かずにめぐみんが杖に魔力を込めだしたので俺は強攻策に出ることにした
「……うぅ……全身を……カズマに吸われました」
5分後、息も絶え絶えに赤面した状態で地面に寝そべっているめぐみんがいた
「変な言いがかりは辞めてもらおうか。俺はお前の魔力を吸っただけだ」
「ダクネスとアクアにカズマに弄ばれたと報告するのです」
「……俺は無実だ」
「きっとダクネスはあらぬ妄想を膨らませてカズマの頭をグシャリとするぐらいのアイアンクローをするのです」
「……」
あのど変態クルセイダーならありえる
というか自分が頭を掴まれ片手で持ち上げられる姿が容易に想像出来てしまう
「……ふふ」
「めぐみん?」
「いえ、やっぱり私はこういった生活が大好きみたいです」
「あ、ああ」
いくら最近耐性が付き始めたといっても女の子から大好きとか言われたらドキリとしてしまうのは仕方ない
だって俺まだ童貞なんだもん
「カズマ、これからも一緒にいてくださいね?」
……もう、いいよな?
このままめぐみんルート突入しちゃってもいいよなぁ!?
今まで散々こいつらには思わせぶりな発言や行動されてきたんだ!
ここまで来たらもう100%だよ!100%俺のこと好きだよ!
だからいいよなぁ!?
そこでめぐみんが手を伸ばしてきているの気がついた
「めぐみん?」
これは、あれかこの手を掴んで持ち上げてお姫様だっこでもするべきなのか
いや、それとも魔力を戻してちゃんと立たせてそこから仕切りなおしてキスの一つでも
……よし!後者だな!
特にやましい思いはないけどやっぱ魔力とか体力を奪うって良くないことだもんな!
俺はガッとめぐみんの手を掴みドレインタッチを行いめぐみんに魔力と体力を渡していく
そしてしっかりと奪った魔力をそのまま返したあたりで俺はめぐみんを起こした
「……カズマ」
「……め、めぐみん」
めぐみんが俺をウルウルとした目で見上げている
俺はゆっくりとめぐみんに近づき、目を閉じ……
「エクスプローション!」
突如として上げられた声とそれに続く爆音と衝撃により、閉じた目を開けることになったのだった
「お前ってやつは!お前ってやつは!」
「痛い!痛いですカズマァ!」
「うるせえ!今のだけは絶対に許さねえ!」
「縛られて喜ぶのはダクネスぐらいなのですよ!私にはそんな趣味はイタタタ!カズマ!本当に洒落にならないぐらい締まってます!許してください!この縛り方だと私の大事なところが潰れてしまいます!」
「屋敷につくまで一定間隔でドンドン締め付けていくからな。後お前のそれは潰れるほどない」
「鬼です!鬼畜王カズマです!後後者の言葉の意味をイチから聞かせてもらおうか。さもないと明日朝イチでカズマの頭上に爆裂魔法が炸裂しますよ」
「何とでも言え!その代わりどんどん締め付けてやるからな」
「ごめんなさい!本当に痛いので勘弁してください」
俺はさっきの腹いせに爆裂魔法を撃ったせいで身動きが取れないめぐみんにバインドをかけて徐々に縛る力を強めている
最初は抵抗しなかっためぐみんは流石に痛くなってきたのか先程から抗議を始めている
「お前……あの城がまだ貴族の誰かの持ち物だったら、確実にダグネスにアイアンクローされるからな」
「……まずいですよカズマ!私は暫くゆんゆんの宿に泊めて貰います!ですから屋敷ではなくて宿のほうに!」
「もう遅い。俺はお前を売るつもりだ」
「酷いです!悪魔ですか!」
「お前が悪い」
「……という事がありました」
「だ、ダクネス!話を!話を聞いてください!」
「全くお前らは何時も何時も!あの城は現在あのクソッタレな元領主の悪徳な取引の証拠現場として保存されていたというのに!」
「俺のせいじゃない、俺は止めたぞ!」
「話せばわかりますダクネス!」
「ほう?では納得のいく理由をしっかりと聞かせてもらおうか」
ダクネスがめぐみんに標的を定めたので俺はそそくさと部屋に逃げ込む
何だかんだで怒った時のダクネスは怖い
近寄らないで済むならそれに越したことはない
「カズマ!カズマああ!本当に頭が割れてしまいます!助けてくださあああああ」
後ろから聞こえるめぐみんの叫びを俺は聞こえないふりを決め込む
……こんな日常を俺は魔王討伐後も送っているのだ
まぁそれはそれで?楽しくはあるんだ
あるんだけどさぁ?
もっとあってもいいじゃん?
例えばエリス様ルートが解禁されたりさ?サキュバスのおねえさん達にチヤホヤされたりさ?
この国のお姫様からありがとうございましたって式典を開いてもらったりさ?
……まぁ、そんなものは訪れなかったんだけどな
エリス様は魔王討伐によって使うことがなくなった神器の回収に忙しいらしい
たまにその手伝いをするがあの人にもたまには休息があってもいいんじゃないかと思う
例えばソファーで一日ぐうたらと過ごしている駄目な方な女神と変わってもらったりとかさ
サキュバスのお姉さんにはチヤホヤされたりもしたがそれはやはり仕事としてだ
やっぱりこう、違うんだよなぁ……
仕事とかそういうのじゃなくて心の底からチヤホヤされたいんだよなぁ……
後は国のお姫様って言っても俺にそんな知り合い……
ピンポーン
そんな時、屋敷にインターホンの音が響いた
「……まさか!もうめぐみんが爆裂したことを嗅ぎつけたのか!?」
慌てて俺は部屋に入り鍵を閉め、財布をポケットに突っ込み窓の鍵を開け何時でも脱出できるように準備を進める
……と、トントンとドアがノックされる
「な、なんだ!?さっきも言ったが俺は無実だぞ!」
ヤバイヤバイ!俺本当に関係なのにこんな事でまた刑務所に入れられるなんてゴメンだぞ!
「いきなり何を言っている。カズマ殿。私だ。クレアだ」
クレア……?
クレア…………誰だっけ?
いや、だが確かに聞いたことのある声だ
「カズマ。何を考えているかはしらないが早く鍵を開けて出てこい。この方はアイリス様の護衛であり、シンフォニア家の長女様であるぞ」
ダグネスの言葉で俺は一人の女性が頭に浮かんだ
あの頭にくる白スーツやろうか!
いや、待てそれよりもアイリスだと!?俺をお兄ちゃんと呼び妹枠として確固たる地位を確立したあのアイリスか!
いたよ!いるじゃん!そうだよ!国のお姫様!
アイリスがいたじゃないか!
「アイリスいるのか!」
「ふぎゃ!」
勢いよくドアを開けると、そのドアで頭をぶつけたクレアがうずくまっていた
「……で?何かよう?」
「おいカズマ!失礼だぞ!すみません、相変わらず無礼者で」
「いえ、ダスティネス卿が気になさることはありません、このモノの事は我々も多少は知っておりますので」
「何でアイリスがいないんだよ……白スーツだけとか全く心がトキメかないぞ」
「そのアイリス様が貴様に会いたいと仰られている」
「え?マジ!?」
「はい。魔王討伐に対する勲章と気持ちばかりのパーティを開催したいと思っております」
勲章!
パーティ!
これだ!これだよ!こういったのを待ってたんだよ!
「しかし、この男をそのような場に……」
「おっとダクネス。そこまでだ。それ以上口を開くとお前が夜な夜な何をしているかばらす事になるぞ」
「なっ!?」
「よ、夜な夜な!?」
「さて、それよりもそのパーティについて詳しく聞こうじゃないか」
「おいカズマ、考え直したらどうだ」
「いやだ」
「そうですよ!あの娘は危険です!私と属性が被りすぎてムシャクシャするんですよ!」
「お前はロリ枠だろうが」
「んな!?」
「カズマカズマ!今度こそお嬢様に私の素晴らしい芸を見せつけてもいいのよね!?」
「ああ!とびっきりのやつで場を盛り上げてくれ」
「やめろ!頼むからやめてくれ!アクア!せめて危険のないもので頼むぞ!本当に頼むぞ!?」
急遽降って沸いた魔王討伐による祝勝会に俺とアクアは浮かれまくっていた
ダクネスと何故かめぐみんは反対のようだが知ったことじゃない
妹!この世界における正統派ヒロインのアイリスが俺を呼んでいるのだ
だったら会いに行くのが男ってものだろう
以前別れた際のゴタゴタの際にスティールしてしまった指輪もしっかりとまだ持っている
これもどうにかこっそりと返してやれたらいいんだけどな
「本当に、本当に頼むからな!?変なことをすると祝勝会が一転して処刑場になってしまうのだぞ!?」
「まぁ前の時も何とかなったし、そんなに気負うなよダクネス」
「お前が一番心配なんだ……前科があるからな……」
しみじみと呟くダクネスを他所にめぐみんは
「やはり決着を付けないといけないみたいですね」
なんて呟いてやがる
俺はただ別れて離れ離れになってしまった妹に会いに行くだけだと言うのにどうしてこいつらはこんなに深刻になっているんだ……
「お久しぶりです!お兄様!」
「よ!久しぶりだなアイリス!」
「この度は魔王討伐本当にご苦労様でした!どうぞ中に入ってください!その時の話を是非!」
「ああ。ちょっと長くなるけどいいか?」
「構いませんよ!お兄様のお話をずっと心待ちにしていたんです!」
まるでウサギのようにぴょこぴょことこっちに近寄りキラキラと目を輝かせるアイリス
ああ、まじで天使だ
心が癒される
死んでまで魔王倒してよかったよ
「相変わらずお兄様お兄様とうるさいお嬢様ですね!」
「な!めぐみん!私がお兄様と呼ぼうと貴女には関係ないことよ!」
「ええ!確かに関係ないですね!いえ、お兄様とぐらい呼ばせてあげるのが大人というものでしょうか!私とカズマはそれ以上に確固たる絆で結ばれていますしね!」
「いやちょっと待て、お前と何か関係を持った覚えはないぞ!?」
「やめろめぐみん!何時ぞやの時みたいに喧嘩をするんじゃない!」
「か、確固たる絆……?ふ、ふふ。コチラこそ大人気なかったわ。私とお兄様はもうすぐ結婚するのよ!仲間ぐらいの絆は許してあげないといけないわね!」
……え?
なんですと?
「ななななな!何を言ってるのですか!」
「け、結婚!?この男とアイリス様が!?」
「ねえカズマ!?結婚したら私をすっごく楽させてくれるわよね!?」
お姫様の一言によりこの場は阿鼻叫喚になったのだった
俺も理解が全く追いついていない
だってアイリスって12歳だろ?いやもう13歳になったのか?
でもこの世界の結婚基準は確か14歳からで……
なんてどうでもいい事を考えていたのだった
「さっきはすみません」
アイリスの部屋に入ったところでペコリとアイリスが頭を下げた
「え?」
「いえ……個人的にめぐみんには負けたくなかったので……でもお兄様には迷惑だったかと……」
「あ、ああ。別に俺は迷惑なんかじゃないぞ」
「そ、そうですか?」
チラリと上目遣いでこちらを不安そうに見るアイリス
そんな姿をみたら思わず結婚しようって言いたくなる
……が、何とか耐えた
危ない。久しぶりに会ったからなのかわからないが、アイリスは男を惑わすのが得意になったんじゃないだろうか
俺が城にいた頃よりもレベルアップしている気がする
「だけど、あんな事言うなんて意外だな。めぐみんに張り合うなんて」
「めぐみんは私の始めての友人ですから」
おっと、思ったより高評価じゃないかめぐみん
「だからってあんな冗談はだな」
「あら、冗談ではないのですよ?」
「え?」
「私は魔王を討伐をしてくれた勇者に身を捧げる事が随分と前から決まっていましたから」
え?
捧げる?
何を?
「めぐみんには負けませんよ」
そう言ってクスクスと笑うアイリスを見て、何故だか安心する
この子はずっと一人だった
だから、こんな風に笑えるのが普通なのに今までできてなかったのだ
当時は俺の実力がないだの実績がないだので城に残ることは出来なかったが、今なら残れるんじゃないだろうか
「……魔王が滅ぼされた今。私も、友達が沢山できたらいいんですけどね」
そう言った彼女の顔は酷く寂しそうで
俺はアイリスに何を言うべきかを悩んでいると
「カズマー!今すぐこの扉を開けないと爆裂魔法をその部屋に叩き込みますよーーー!ここにいるのはわかっているんですからね!」
めぐみんの声で思考が遮られた
「バカよせヤメろめぐみん!中にはアイリス様もおられるのだぞ!」
「カズマァー!めぐみんが本当にまずいから開けて!今すぐ!私捕まりたくない!ああ!向こうからクレアとレインが!?」
「ああ!もう制御が効きません!犯罪者予備軍のカズマはここで木っ端微塵に吹き飛ぶのです!」
「ちょっと待てええええ!俺は何もしてねええええ!」
バンっと扉をあけるとそこにはめぐみんとアクア、ダグネスが何もなかったように平然とした顔で立っている
「確保ーー!」
めぐみんが俺を押し倒すように抱きついてくる
「あ!おい!めぐみん何をどさくさに紛れてやっているんだ!」
「これはカズマが年端もいかないチビッ子に手を出して犯罪者にならないために仕方のないことなんですよ」
「な!チビッ子とは私の事ですか!あなただって同じぐらいじゃないですか!お兄様から離れてください!」
「私はアイリスより2つもお姉さんです!法律的にも結婚できるんですよ!」
「私は王女ですからやろうと思えば法律を変えて結婚することだってできますよ!」
「そんな横暴通るわけないのです!」
さっきまでの寂しそうなアイリスは何処にもなく、ワイワイとめぐみんと言い合いをしている
その姿は年相応の少女である
それを何とか止めようとするダグネスと止まらない二人
やれやれーと煽るアクア
そんなありふれた何処にでもあるような日常も、この子は手に入らなかったのだ
……なんだか無性に腹が立ってきた
騒ぎを聞きつけて廊下を走ってくるクレアとレインを見つつ俺は一つの決意をした
パーティ会場にてそれはもう盛大にもてなしてもらった
以前の時は俺は隅っこでポツンと立っていただけなのだが今では周りに人がウジャウジャと集まる
お前ら前のパーティの時散々俺に冷たい言葉かけたよな?顔覚えてるぞ俺
……まぁ今はそんなちっぽけなモノよりも優先するべきものがあるからいいんだけどな
俺は目的のその二人に近づき内密に話を取り付けることに成功した
後は……うちのお嬢様を引っ張るだけだな
「ダスティネス卿!本日もおかわりなくお美しい」
「どうですか今夜うちの方にでも」
相変わらずモテモテなようで
仕方ない
「ララティーナ!ちょっとこっちに来てもらうぞ」
「んな!?か、カズマ」
周りがざわつくが関係ない
俺はこんな時どうすればいいかわかっているのだ
「申し訳ないが皆様。このララティーナは私が全財産を叩いて所有権を購入しておりますので、勝手なお誘いはご遠慮願います」
「お、お、お、おおお前!なんてことを!」
ざわめきが更に大きくなるが何も知らない
実際俺が購入したのは嘘ではない
だから問題はない
ああ、問題はない
だからめぐみん。お願いだからそんな目で俺を見ないで、あ、杖構えちゃダメ!ごめんなさい!
警備の人!あの頭のおかしい子ちゃんと捕まえて!
「申し訳ないがこの後ララティーナと話がございますので、この辺で」
ダグネスの腕を掴み約束を取り付けた場所に引っ張っていく
「カズマ!とにかく誤解を!誤解を解いてからにしろおおおお!」
「ええい、うるさい。何も誤解なんてないだろうが!バインド!」
「こ、公衆の面前でなんて屈辱的仕打ちを!ぁぁ!男どもの下賎な視線が突き刺さるぅ」
……なんか背筋が凍ったように寒い
チラリと後ろを振り返るととんでもなく目をギラつかせためぐみんが魔力を杖に……
俺はダグネスを抱えるとダッシュでその場から逃げ出した
大丈夫だ!最悪めぐみんが爆裂魔法で吹き飛ばしたとしてもあの場にいるアクアが蘇生してくれる!
一人盛り上がっているダグネスをこの後どうしようか考えながらある部屋に飛び込む
「お前はもう少し静かに行動できないのか」
「全くですよ」
「悪いな。クレア。レイン」
この国でも権力を持ち、尚且つアイリスの近くにいるこの二人と、ダグネスに俺は自分の考えを伝え始めた
勿論反対されることを覚悟していた
だからそれをさせない様に言い訳と材料も持ってきた
それでも、クレアはあまり良い顔をしなかった
「……確かにお前は魔王を討伐してこの国では英雄という事になっているが……しかしだな」
「資金が問題なら出せるぶんは俺が出してもいい。ダグネスからも出費させる」
「おい!また勝手にうちの名前を使おうというのか貴様は!」
「ダグネスは反対か?」
「いや、確かにお前から出たとは思えないぐらい立派な意見ではあるが……しかしだな」
「……そうだな、貴様の言っているモノを完成させるのは出来るが、その実態を経営するのは困難だと言っているのだ」
「経営?」
「まず、その施設を使う条件が広すぎるのだ。そのような場所にお嬢様を……」
「そうやって何時までも特別扱いするからあいつはあんな顔するんだろうが!」
「しかし彼女は特別な存在だ!万が一を考えても」
「貴族は自分の国の人間も信じられないのか」
「そうとは言っていない!だが確実にその隙を付いてくる輩はいる!」
「だったら俺が言ったように貴族の息がかかった奴は使用不可にして一般市民だけが利用できるようにすればいい!」
「それは無茶だ、あいつらは目新しいモノにはすぐに手を付けたがる」
「だから、それをさせないためにお前らに相談しているんだ」
「魔王を倒した勇者にはどんな願いも叶えるって権利があるんだろ?」
「……設立は出来る。それは約束する。だが、それをどう使うかは約束できない」
「……」
「熱くなるなカズマ。どうせ作るのに時間もかかる。その間にまたゆっくりと考えればいいじゃないか」
ああ、確かにおかしいぐらいに熱くなっている
前の時もそうだった
アイリスのあの顔が頭から離れない
やりたいことをやれず。我慢を強いられてきた人生
そんなあいつが欲しいと望んでいるもの
それを与えられる立場に、それに手が届きそうなんだ
これで熱くなるなというのが無理な話だ
「……だったら、さ」
「……は?……いや、それは確かに可能だが……元々そういった事をするためにお前たちを呼んだのだし……その程度の願いならば2,3日もあれば……」
「……それだ!大至急で頼む!」
俺は、ピンと閃いた事を実施するために多くの準備をすることになった
だが、しょうがないよなぁ!
何たって妹のためなんだからよ!
一旦休憩です
また夜にでも来ます
お疲れ様でした
Web版とラノベ版混ぜてんのかな?
なんにせよ期待
そして、きっかり3日後、その日はやってきた
その3日の間何が起きたかは割愛させて貰う
めぐみんとアイリスが喧嘩して殴り合いになってしまい処刑されそうになったり
アクアが芸と生じて城の高価な物を消したり小さくしたりととんでもない事になったり
ダクネスが夜俺の部屋に忍び込み、それがバレてめぐみんとアイリスから集中砲火を食らったり
何故かバニルとウィズが城に来てアクアと揉めて、何時もどおりダクネスとウィズが被害を受けたりと
俺達にとっては日常でありふれた事が起きていた
その全てをアイリスは面白そうに、そして楽しそうに過ごしていた
そんな3日目
「それでは、私は授業の方に行ってまいりますわ」
アイリスが何時ものように勉強を受けるために俺達の部屋から出ていこうとする
その時は決まって悲しそうな顔をするのだ
「おう。頑張れよ」
「ふっふっふ。アイリスが勉強中に沢山遊んでおくのです」
「こら、めぐみん。アイリス様を惑わすのは止めろ」
「帰ってきたら私の素晴らしい劇を見せてあげるわ!」
「はい!何時もより張り切ってまいりますわ!」
各々がアイリスに言葉をかけ、それを聞いたアイリスが俺達に言葉を返す
……だが、やっぱり何処か寂しそうなのが見て取れる
そのまま部屋を出て行くアイリス
「お嬢様、本日は少々特別な授業となっておりまして、そのために一度お手数ですがお着替えを……」
部屋の外でクレアがアイリスにそう話をしているのを聞いてから俺達は顔を合わせる
「……よし。やるぞ!」
「ええ。久しぶりに腕がなりますね」
「しかし、まさかカズマがこんな提案をしてくるとはな」
「ねー。やっぱりロリコンニートよねぇ」
「うっせえ。早く着替えて来い」
「むしろ男はカズマだけですから出て行くのはカズマなのです」
「ここは俺の部屋だ!」
ああもう、最後まで言うことを聞かない奴らだ
だったらもうここで着替えてやる
俺はさっさとズボンと上着を変えることにする
「……お前らマジマジと見るのはやめろよ……」
「いえいえ。折角ですからどうぞ気になさらず」
「ん……レベルが上がったとは言え……あの時より筋肉もついて……より私好みの身体になっていってるな」
「カズマさんさっさとパンツも脱いじゃえば?」
……こいつら
着替え終わったら絶対部屋から出ずにこいつらが着替えるのも見てやる
その後俺が部屋から出ていかないのでワアワアと取っ組み合いになったのは語るまでもない
「全く、お前らのせいでギリギリだったじゃないか」
「いえ、今回はカズマが悪いと思います」
「全くだ。あそこまで着替えを堂々とみようとするなんて」
「うぅ……カズマさん……私の羽衣返してぇ」
「ああもう黙ってろ。そろそろアイリスが来るだろ」
そう言っていたらまさにその時、扉が開いた
そう、アイリスが何時も使っている勉強室
その扉を開けて
「み、皆さん?その格好は……?というか、どうしてこちらに」
「何って、勉強するために決まってるだろ?」
「ふふふ。紅魔族の頭のよさを見せつけてあげますよ」
「アイリス様……どうか我々も一緒になることをお許し下さい」
「このアクア様の華麗な頭脳!見せつけてあげるわ!」
そう、俺達は同じデザインの服を着込んでいる
まぁ、男子である俺はスカートではくズボンだが
アイリス達女子は全員全く同じデザインの服
俺達の世界で制服と呼ばれるものを着込んでいる
「ほら、アイリスだいぶ前に言ってただろう?学校ってのは夢のような場所だって」
「お、お兄様」
「せっかく魔王も討伐されたんだ。だったら夢じゃなくなってもいいじゃないか」
「……見て、めぐみん、ダクネス。カズマさんがイケメンを装ってるわよ。装ってるわよ!」
「いや、しかしこの行動は普段のあいつとは思えないぐらい善良的な行動だ」
「何だか腹が立ってきましたね」
おい、お前ら全部聞こえてるんだからな
「ご、ごほん。今日は勉強した後にも楽しいことが待ってるからさ!一緒に楽しもうぜ!」
「は……はい!」
こうして、即席ではあるが俺達のクラスでの初授業が始まった
教官であるクレアにはやれ言葉使いがなってないだの無礼だのと散々言われたが構うものか
俺達はクラスメイトだ
だったら全部無礼講ってやつだ
アイリスだってあんなに楽しそうに笑ってるんだ
……すぐに学校を作ってやることは流石に出来なかったけど
だけど、こうしてアイリスがこういった事が有益であると明言してくれれば今後幾らでも作ることは可能だろう
俺達の授業はあっという間に終わっていき、そして夕方になった
「さて、アイリス。これからが俺達の本当の戦いだ」
「何ですか!何が始まるんですか!」
ワクワクと目を輝かせるアイリスに俺はニヤリと笑いかける
「大惨事大戦だ」
「……突っ込まないわよ」
アクアからそんな言葉を頂いてしまった
「フハハハハ!フハハハハ!今宵は満月なりぃ!吾輩の見通す力も漲っておるわ!最高の屋台、魔法商店ウィズ出張店へようこそ!おいろくでなし店主!ここで売りさばかなければ何時売りさばく!キリキリと働けぇ!」
「はいはいはいー!キンキンに冷えたのがあるよー!」
「こっちはジャイアントトードの唐揚げが出来立てだよー!」
俺達は城から少しだけ離れた場所に出てきた
その盛況っぷりにアイリスが声を上げる
「これは……一体」
「祭りさ」
「祭り?」
「そ、魔王討伐した時のセレモリーをやる予定だったんだけど、少しだけ変えてもらってな。ほら。商店出してる人全員同じエプロンとか付けてるだろ?」
「そういえば……」
「これが俺の住んでいた国の学園祭ってやつだ」
「これが……!」
「まぁ。本当は生徒だけでやるんだけど、似たようなもんさ」
「ほらー!カズマー!さっさと私達も準備するわよー!」
「カズマ!私はちょっとあっちの我慢大会の屋台にいってくる!」
「いや待てダクネス!今日は我慢しろ!」
「カズマカズマ!あの壊すと商品が貰える出店に……!」
「それも後にしろ!ほら、アイリス。行くぞ!」
「え?……は、はい!」
アイリスの手を掴み俺は走り出す
……一瞬どこからか殺気が飛んできたが気のせいだろう……
気のせいだよね?
大丈夫だよね?クレアさん?俺。これ終わった後に死刑とかないよね?
「あの……これは……?」
「俺達の屋台だよ。特別に出店させてもらった。学祭だからな。学生の俺達がメインってわけだ」
そう。この場所は非常にいい場所にある
メインストリートであり、しかもパレードが行われる予定の場所の近くである
本来なら俺達が店を出すことも出来ないし、こんな場所を取ることもできないのだろうが
そこはほら。大人の権力ってやつをちょちょいと使わせてもらったのさ
絶対アイリスには言わないけど
「ほら。さっさと着替えるぞー」
そういってアイリスにエプロンを渡す
「俺達の店はYAKISOBAだ」
そう、一度アクセルでもやったあれをこの王都で流行らせて一気に稼ぐ
稼いで稼いで稼ぎまくる!
文化祭だから稼ぎなんて度外視?
何言ってんだ
やるからには本気だ!
「売上一位取るぞおおおおお!」
「おおおおお!」
こうして俺達はYAKISOBA作りを始めて行った
「ひゃう」
料理自体が初めてだというアイリスにはゆっくりと教えながら下ごしらえをしていく
今は新鮮なキャベツが暴れるので戸惑っているようだ
「大丈夫だ。こうして……ほっ!」
スパンっとキャベツを二等分にしてザク切りにしていく
「お兄様は随分と手馴れていますね」
「まぁ。焼きそば炒飯カレーは男の三種の神器とも言われてるからな」
「神器!それはすごいですね!」
「……カズマ、ちょっとそのキャベツ爆裂魔法で加熱していいですか?」
「いいわけあるか!」
手馴れているめぐみんはサクサクと準備をしてくれている
正直凄くありがたい
アクアとダクネスは二度目とはいえやはり少し不慣れだ
「めぐみん。調理は俺とめぐみんがメインになると思うが、いけるか?」
「ふふふ。勿論ですよ!二人で王都中を虜にする焼きそばを作りましょう!」
わざわざ二人でというところを強調しなくてもいいんじゃないでしょうか
ほらそんな事言うとどっかの不器用クルセイダーさんが凄い目をしているじゃないですか
「む……!お兄様!キャベツを切り終わりました!」
「あ、アクア!手先が器用になる魔法とかはないのか!」
「だ、ダクネス危ない!危ないから包丁持ってる時に揺らさないでえええ」
「ふふん」
騒ぎになっている場に満足気にめぐみんが胸を張っていた
……まぁ、やる気になってるならいいか
「スタートから出遅れてるんだ!急ピッチで仕上げていくぞ!」
開店から約1時間
俺達は修羅場にあっていた
「カズマー!大3中2内中1はマヨ抜き!マダー!?後キンキンに冷えたジョッキ2つ!」
「後3分待ってくれ!めぐみん!キャベツが切れそうだ!頼めるか!」
「もう切り終わります!カズマ後少しだけ耐えてください!」
「カズマ!めぐみん!こっちのお客様にお持ち帰り2つ追加だ!」
「持ち帰り用のはそこにある!袋に詰めて渡してくれ!」
「わかった!」
「300エリスになります。お返し200エリスです。ありがとうございましたー」
注文をアクアとダクネス。会計をアイリスに任せて調理を俺とめぐみんが担当してフルピッチで作っているが全く人手が足りていない
なんてこった
王都の人の多さを甘く見ていた
ここら一体の人の口コミで広がったのか一気にお客が押し寄せてきている
「アイリス様。いつもこの国をお守り頂きありがとうございます」
「い、いえそんな。私は何もしておりません。皆様がいらっしゃるから私がこうして生きていられるのです。900エリスになります。丁度お預かりします。ありがとうございましたー」
……多分アイリスに一目逢いたくてって人も多いはずだ
だからこそアイリスを会計に回したのだ
……だが流石に人が多すぎる
そのうち順番に休憩を取らせなければすぐにバテテパンクしてしまうだろう
だけど今の状態は手がいっぱいいっぱいでとても休憩なんて取れやしない
特に城暮らしのアイリスはキツいんじゃないだろうか
そう思ってアイリスの様子をチラリと見ると笑顔だ
楽しそうに、恥ずかしそうに、戸惑いながらも王都の人と話をしている
……まだ、大丈夫そうだ
「お前らー!気合いれろー!これを乗り越えれば売上一位だぞ!」
だから俺は仲間たちに、アイリスに喝を入れる
「当然よ!ありがとうございますー!大2中1追加ー!」
「ふふふ。こんな労働の汗も悪くない!こっちも追加だ!中3!」
「カズマ!肉追加です!」
「おう!一気に仕上げるぞ!」
気合を入れ直し俺達はさらに盛り上げていく
そして……さらに1時間が経過した頃
俺達はグッタリとその場にヘタれこんでいた
「つ、疲れた……」
「まさかここまで反響するとは思いませんでしたね」
「新しい食文化が開けたかもしれないな」
「ごめんなさい!YAKISOBA完売ですー!ごめんなさいー!でも私がこれから宴会芸を披露するから是非見て言って頂戴ー!」
「並んでくださった方ごめんなさい。完売しましたー」
アクアとアイリスが完売の旨を並んでくれたお客さんに伝えている
「アクアのやつ……本当元気だな」
「むしろ焼きそばを売っていた頃よりイキイキとして宴会芸をしているのです」
「むむむ!今度こそ種を見破ってみせるぞ!」
遠巻きに見るとアイリスに声をかけている老人や子供もいる
……こうやって市民の人達と触れ合えたのはいい経験になったんじゃないだろうか
前の時は外に出たことすらないと言っていたのだ
それに比べれば大進歩じゃないだろうか
「む……カズマカズマ。変なのがきましたよ」
「ん……」
めぐみんの言葉を聞きその方向を見ると明らかにワルそうなやつら5人がこっちに来ている
「おうおう!散々待たせて売り切れとはどういうことだァ!?おお!?」
……うわぁ……ドチンピラですよ
今時そんな事を言う奴が本当にいるのだろうか
俺やめぐみん、ダクネスやアクアは凄い残念な者を見る目になっているのだろう
……が、こういった荒事になれていないアイリスはちがう
オロオロとしている
……ふむ
俺は立ち上がり、そして前へ出る
「いやぁ……すいませんね。お客さん」
「お前が責任者か」
「ええ。予想以上の反響を得てしまい材料が思った以上に消費されましてね」
一応、お客様だということなので丁寧に対応はしている
だが……
「俺達は腹が減ったんだよ。何分もまたせやがって。このガキが」
ドン……と俺の胸を強めに押してくる
「おい、私の仲間に」
ダクネスがすぐさま立ち上がり前へ出ようとするがスっと手を出し止める
「おお?カッコイイつもりかぁ?威張ってんのかぁ!?」
「おい、それ以上いうなら今すぐここでお前たちを木っ端微塵に吹き飛ばしてやろうか」
めぐみんがとんでもないことを口走る
……やめてね?こんなパレードのあるメインストリートのど真ん中で爆裂魔法とか英雄から一瞬で犯罪者だからね?
「やれやれーカズマさんそんな奴らやっちゃえー」
アクアは何時も通り俺を煽ってくる
「お客さん。これ以上難癖を付けられるようでしたらこちらにも考えがありますよ?」
最後に俺は目の前のチンピラ共に笑顔で言った
「おお上等だァ!ガキが何できるってんだ!」
「よし!その喧嘩買った!アイリス見てろよ!これが祭りの華だ!」
アイリスに声をかけ俺は拳を握り殴りかかる
「え?アイリスってあの?」
チンピラの一人が何かを言うが構うものか
殴りかかる
当然別の仲間が俺を殴りにかかる
それをダクネスが止めに入る
それを火蓋に一気に場は荒れることになった
そう、祭りってのは喧嘩があってナンボのものなのだ
これもお約束ってやつだよなぁああ!
「しゃあああ!かかってこいやあああ!」
俺は勇ましく咆哮を上げて突っ込んでいくのだった
「……サトウカズマ。お前は何をやっているんだ」
「……はい。反省してます」
「全く……一般市民を攻撃だなんて大人しくできんのか貴様は!」
「はい。仰る通りです」
「その上アイリス様まで危険にさらして!国家反逆罪で逮捕するぞ!」
「返す言葉もございません」
俺は見事に喧嘩の後に牢屋にぶち込まれました
俺だけでなくめぐみんやアクア、権力を持っているダクネスまでだ
「私なにもやってないわよおおおおお、ただ見てただけよおお本当よおおお」
別室からでも聞こえてくるアクアの叫びを無視しながら話は進んでいく
「はぁ……もし貴様がアイリス様やダスティネス卿と懇意にされてなければ無期懲役者だぞ」
「反省してます」
「まぁ、今回は特別に釈放だ。私に感謝しろ」
そう言って俺に事情聴取をしていたクレアが席を立つ
「……悪いな」
「いや、いいさ。アイリス様があそこまで楽しそうにしてらっしゃったのだからな」
「……おう」
「それに、お前達のバタバタ振りにも遺憾であるが慣れてしまった自分がいる」
照れくさそうにクレアが部屋を出て行く
……まさかあのクレアがそんな事を言うとは……
これも魔王討伐の効果か!
デレた!クレアが出れたよ!
「カズマさん!カズマさーーーん!私前科が増えた!増えちゃったんですけど!」
警察から出たと思ったらいきなりアクアが俺の肩を掴みグラグラと揺らしてくる
「しょうがないだろー、まさかあれが一般市民とは思わなかったんだよ。どうみても冒険家っぽい奴らだったし」
そう、まさかあんなチンピラが何の力も持たない一般市民だったとは
冒険家同士の小突き合いならかなり線引きが曖昧になるのに一般市民と冒険者の場合だと一気に厳しく取り締まられるのだ
「いやーシャバの空気は美味しいですね。ですがカズマ、今回の責任として甘いものを所望するのです」
「む……たしかにそれはいいな」
めぐみんとダクネスは呑気にそんな事を言ってくる
「とりあえず、城に戻ろうぜ。アイリスも待ってるだろうし」
「しかしアイリスだけ罪を逃れたのはずるいのですよ!」
「馬鹿を言うなめぐみん。アイリス様は王女だぞ」
「うー!納得できないんですけどおおお!私何もしてないのにいいい!」
やっぱりこのPTは何処に行っても騒ぎを起こすらしい
これがらしいっちゃらしいんだけどね?
まぁ今回は喧嘩買っちゃった俺のせいだし?
ちょっと祭りでテンション上がってしまっていたのだ
今では反省はしている
だが後悔はしていない
祭りであれはお約束なのだ
「皆様!おかえりなさいませ!大丈夫ですか!」
「おーただいま。アイリス」
「お兄様!もうあんな無茶はしないでくさい!」
無茶も何も……どう見ても俺達冒険者が一方的に一般市民をリンチしてました
はい……まさか最弱職の俺のパンチですら一発でノックダウンさせてしまうとは
ダグネスのキックやめぐみんの突きを食らった奴らは生きてるのだろうか
「ええい!そうやってカズマにくっつくのはやめるのです!」
めぐみんが俺とアイリスの間に入り込み離れさせる
「私はお兄様や皆様の心配をして!」
「ええ。では見てください、何処にも怪我なんてありませんよ。気にすることはないのです」
そう言って両手を広げて大丈夫だとばかりにアイリスを見つめるめぐみん
……ああ、もしかしてアイリスがこれ以上心配させないようにさせてるのか?
何だかんだ面倒見がいいよなめぐみんって
ゆんゆんの事も口ではひどく言っても最終的にはちゃんと思ってるしな
「……はい。ですが、私だけ罪を逃れて……」
「ええい!まだ言いますか。そんな口はこうしてやるのです」
「や、やめ……痛い!痛いですから!」
グニグニとアイリスのほっぺを引っ張るめぐみんをダクネスが抑える
「やめないかめぐみん。アイリス様。私達はこうして全員無事ですので心配ありません」
「ええ!平気よ!前科が付いたぐらいよ!」
「ああ!大切なお客様になんて事を……!」
前科と聞いてアイリスがショックを受けている
すかさず俺はアクアの頭を叩く
「いひゃい!うわあああああ!ぶった!カズマがぶった!私女神なのに!罰当たりなんだからね!あやまって!ねぇ謝って!」
「お前もう黙ってろ!アイリス。めぐみんやダクネスが言ったとおり俺達無事だからさ、だったらうまい飯の一つでも食べさせてくれよ」
「あ……はい!それでしたら!」
待つこと暫くして、俺達の元に料理が届いた
「お、お待たせしました」
そう。それはまごうなき焼きそばである
「そ、その、私が1から作ったので……味の方は保証できませんが……」
モジモジと不安気にこちらを見ながらそう告げるアイリス
「み、皆様と一緒に食べたくて……その……」
……俺達は顔を見合わせて
その焼きそばを一心不乱で食べだした
「うまい!うまいぞアイリス」
「なかなかやりますね……しかしキャベツや玉ねぎの切り方がまだまだですね……でも、おいしいです。ダクネスは軽く超えてますよ」
「く……既に私より上手だと……!というかめぐみん!その言い方はあんまりじゃないか!」
「私はもう少しソースにインパクトが欲しいわね。けど美味しいわよ!」
俺達が次々とそう言っていく
「ぁ……」
「ほれ、アイリスも食べないと無くなっちまうぞ」
パァっと笑顔になっていくアイリスに俺は声をかける
「は、はい!」
「くぅ~!あの時宴会芸ができなかったのが今更悔しくなってきたわ!私が今からとっておきのを見せてあげる!」
「デストロイヤー!デストロイヤーが見たいのです!」
「いや私は鳩のやつだ!今度こそあの物理的不可能な芸の種を見破ってみせるぞ」
あっという間にワイワイと騒がしくなる
アクアの一芸にドンちゃん騒ぎをする
そうさ、これがお祭りってやつさ
「私も何だか滾ってきましたよ!今からこの空に爆裂魔法で花火を作ってみせます!」
……それだけは止めてください!
こうして俺達の文化祭は幕を閉じたのだ
そんな文化祭が終わってから3日が過ぎた夜
俺は何となくバルコニーに出ていた
……明日にはアクセルに戻るのだ
……この指輪、どうしよ
こっそりアイリスの枕元に置いとくとかしちゃダメかなぁ……
ダクネス曰くバレると死刑だもんなぁ……
でもちゃんと返したいってのもあるんだよなぁ……
「お兄様」
「……アイリス?」
月に指輪をかざしながらどうするか考えていると後ろから声がかけられたので慌ててその手を下げる
「ふふふ。何かを見ていらっしゃったのですか?」
「あ。ああ。ちょっとな」
「あっという間でした」
「?」
「お兄様達が来られてからです」
「ああ、想像以上に長くこっちに滞在することになったよな。悪かったな、うちの連中が騒がしくして」
「いいえ。私にとっては大切な……宝物のような時間でした」
そこまで言ってくれると何というか、こそばゆい
エリス様じゃないが思わず頬を指で引っ掻いてしまうぐらいには
「いや、あいつらもアイリスといるのは楽しんでるみたいだし、お互い様だぞ?」
「そうだったらいいのですが……」
「……」
「……」
お互いが無言になる
アイリスがじっと俺の顔をみてくる
アイリスの顔は月明かりがキラキラと照らしていて暗視スキルがなくてもはっきりとわかる
……ちょっと!気まずいんですけど!?え?何!?なんなのこの甘酸っぱい空気!
「あー、その、学校、どうだった?」
あまりにも耐えられない空気だったので話題を振った
そう、学校だ
ないとは思うがもしかしたらアイリスが気に入ってくれなかったかもしれない
それならそれで仕方ないのだが
「とても、とても楽しかったです。あんな嬉しい贈り物を頂いたのは初めてです!」
……どうやら杞憂だったようだ
ならよかった
これでアイリスがGOサインを出せばきっと学校だって作れる
「そっか、だったら本当にそのうち学校作っちまえよ、実はもうその段取りは出来ててさ、後はどういった人達がそこで学ぶかって所でもめててさ」
「けど、やっぱり学校って市民とか関係なく使える場所なんだよ。アイリスもそう思うだろ?けどクレアとかが危険だって猛反対してさ」
「でもまぁ、今回出店して、ちょっと最後はトラぶったけどそんな悪いことをしようとしてる連中ばかりじゃないってわかったんじゃないか?あいつらも」
「だから、後はアイリスが……」
「そこに……」
俺が照れ隠しで早口に説明しているとアイリスが話に割り込んできた
その顔はとても寂しそうだ
「……アイリス?」
「そこに……お兄様達は含まれないんでしょうか」
まるで縋るように、今にも泣き出しそうな顔で呟いた
「……それは」
「私は……めぐみんがいて、ダクネスがいて、アクア様がいて……そしてお兄様がいる……そんな学校生活が送りたいです」
搾り出すように……そうアイリスは言葉を繋いでいく
「めぐみんと毎日のように喧嘩して、ダクネスがそれを止めて、アクア様が何かトラブルを起こして、でもお兄様が最終的になんとかしてくれる……そんな……そんな日常が……」
「アイリス……」
「……お兄様……いえ、勇者、カズマ様」
何かを決意したかのように先ほどとは打って変わってキリっとした顔つきになったアイリスはそのまま俺に告げた
「私と、一緒にこれからの人生を歩んで頂けませんか」
……何ですと?
休憩です
もうちょっとだけ続くんじゃ
>>13
混ざってます
ツッコミ所多すぎてごめんよ
エクスプロージョンだ、間違えるなタコ助
「元々私は魔王を討伐された方と結ばれる、そんな将来が決められていました……しかし、そんなものとは関係なく、私は、お兄様と……カズマさんと一緒にいたのです」
何だこれ?NANDAKORE!
え?告白?いや、プロポーズ?
アイリスから?
俺に?
えええええ!?
「どう……でしょうか」
アイリスの指輪を握っている左手に力が入る
アイリスと結婚?
……毎日のようにアイリスと笑い、遊び、学校に行く
あいつらだって残ると言えば残ってくれるかもしれない
それで一緒に学校にいって、アイリスが言うとおりの毎日を過ごす
……悪くないじゃないか
その上アイリスと結婚ってことは実質国の王になるってことだ!
王だぞ王!ただの一介のニートだった俺が王!キング!贅沢三昧!
これ程いい条件があるかサトウカズマ童貞ニート!
……なのにだ
なのにちっとも心躍らないのはなんでだ
なんでさっきからあいつらの事ばっかり頭に浮かぶんだよ
……ああそうさ。きっとダクネスはここに留まりはしない
自分の領地、アクセルこそがあいつの拠点だからだ
めぐみんだって一日一爆裂の日課もある
ここでも出来ることはできるがやっぱりいい顔はされてないと愚痴っていた
アクアは……あいつは普通に喜びそうだがゼル帝の世話とかでアクセルに戻るかも知れない
いや、ゼル帝連れて王都にまた来そうだな
もしかしたら一緒にいることは出来るかもしれない……でもきっと、今までどおりって訳じゃなくなってしまう
……いつかきっとバラバラになってしまう気がする
……おいおい、どうした俺
冒険者家業なんて足を洗うって言ってただろ?
贅沢して楽して屋敷でぐうたら過ごすって言ってたじゃないか
場所がアクセルから王都に変わるだけで全て夢が叶うんだぞ?
なのに……なんで
俺はこんなにも……
こんなにも、あの生活が気に入っていたのか
俺が黙っている間にもアイリスはこちらを見ている
その間に考えに考えた末に
……最後に浮かんできたのはとある人物の泣きそうな顔だった
……しょうがねえなぁ
俺は一歩前に出て、アイリスに手を伸ばし、アイリスの手にあるものを握らせる
「……アイリス」
「……」
「さっきの言葉は、将来そいつを渡す奴が現れるまで、取っておいてくれ」
「お兄……様」
そう言って俺は左手に持っていたアイリスの指輪を、アイリスの手に握らせていた
「俺さ、あいつらと居るのが好きなんだ、それに、好きな奴がいるんだ。アイリスの気持ちは凄い嬉しいんだけどさ、けど、こんな事言ったら失礼だけどこんな時でさえアイツ等の事や好きな子の事が頭に浮かんでくるんだ。幾ら俺でも二股とかそういうのは出来ないんだ。鬼畜だの何だの言われてるけどそこまで腐ってないんだ」
「……何となく、わかっていました」
「……」
俺はもう、何も言うことが出来ない
というよりも、言うべき言葉が見つからない
言うべき事は言った
そのつもりだ
「……真剣に答えて下さって、ありがとうございました。お兄様」
そういって泣きながらニコリと笑ったアイリスは振り向き、バルコニーから屋敷に入っていく
……と、入ったところで何かに驚いたような表情を見せたがすぐに中に入っていく
……俺はポツンと一人で残されたのでもう一度月を見ている
「……早まったかなぁ……あああああ」
そして、早々に断ったことを後悔していたのだった
「それでは、転送しますね」
レインがテレポートの準備が出来たようで俺達に告げる
「……どうかしたの?カズマ。ずっと黙り込んで。あれなの?ウンチ?トイレ我慢してるの?もうちょっと待っててあげるから行ってきていいわよ?」
「違うわ!ああもう早くテレポートの陣の中に入れ!」
「……」
「アイリス様も元気がないようだが、昨晩なにかしたのではないだろうな」
こんな時だけやめろダクネス
頼むからそれには触れてくれるな
「……別に。ほら、ダクネス、お前も入れ」
「しかしだな……お、おい押すな」
俺はぶっきらぼうにそれだけ返すとダクネスをグイグイと押す
「めぐみん?帰るぞー」
「……ちょっと待ってください」
そう言うとめぐみんはトコトコとアイリスの元に駆け寄り何かを耳打ちする
そうするとアイリスは顔をバッと上げる
「お待たせしました。それでは先に入らせてもらいますね」
「お前何言ったわけ?」
「別に。ただ私と同じ属性持ちなのにウジウジされていると腹がたっただけですよ」
「いや、お前ロリ枠じゃん」
「あぁ?」
「いや、まじでごめんなさい、怖い、それ怖い」
「全く、失礼なのですよ……カズマ、アイリスから一言あるみたいですよ」
「え?」
振り返るとすぐ近くまでアイリスが来ていた
「ど、どうした?」
「……」
ちょいちょいと手招きするので目線を合わせる位置まで腰を落とす
どうやら耳を貸せとの事なのでそうすると
「私、カズマさんが悔しがる程の女の子になりますから」
そう言って、頬っぺに柔らかい感触が……
「んな!?」
「なっ!誰がそこまでやれと!」
「アイリス様!?」
ダグネスが、めぐみんが、そしてクレアが驚愕の声をあげる
俺はといえば突然の事に頭がフリーズして動けなくなっていた
辛うじて立つ事は出来たようだが
「じゃあね、お兄ちゃん」
トンっと俺を押すアイリス
俺はテレポートの陣の中に入れられる、そして、とびきりの笑顔で手を振るアイリスをずっと眺めていた
「……アイリス様」
「……クレア、レイン」
「はい」
「戻りましょう。私達の城へ!」
「「はい!」」
「またね……お兄ちゃん」
きっと、きっとまた会えるから
その時は、成長した自分の姿を見せて悔しがらせてやろう
まずは、お料理を覚えて……
それと……
「クレア、レイン……私ね。学校を作ってみたいの。協力してくれないかしら?」
「喜んで」
「アイリス様の望みであれば……」
うん。これから忙しくなりそう
だけど、頑張っていける
彼等と過ごした楽しい思い出があるから!
場所は変わって、アクセルの街
俺はぼーっとしながら屋敷の前まで来ていた
「全く!全く!油断しました!油断したのです!カズマ!何時までもボケっとしてないで今日の一爆裂に付き合ってください!」
「まさか……あのアイリス様があそこまで大胆に……もしかしたら明日にはカズマの首が飛ばされるのではないだろうか」
「いやー。ロリコンだロリコンだとは言ってたけど、この様をみるとやっぱりロリコンだったわね」
全くもって酷い言われようである
俺は断腸の思いでこいつらと帰ってきたというのに
俺は屋敷の鍵を開けてから振り返り3人の顔をじっと見る
「「「?」」」
「はぁ……」
「「「あっ!!!」」」
どうして俺はこいつらを選んでしまったのだろうか……だろうか……
後ろでギャアギャアと騒いでくる3人を軽くスルーして自室に篭る
今日はもう、何もしたくないのだ
……あー本当にやっちまったなぁ
勿体無いことしたなぁ
電気も付けずにベットに寝転がりそんな過ぎた事を悶々と考えてしまう
どれくらいの時間そうしていたのだろうか
30分か1時間か
ずっとゴロゴロとしているとコンコンとドアをノックされる
「カズマー入りますよー」
めぐみんだ
……さっき一爆裂がどうとか言ってたが今日は気分じゃない
ゴロリと寝返りをうち背中を扉に向けながら俺は言う
「いませんよー爆裂ならダクネスといってくれー」
「何を言ってるんですか。開けますよ」
鍵は締めているし問題はない
……はずだったのだが普通にガチャリと開けられてしまった
何故だ
「全く、電気も付けず着替えもせずに何をしてるんですかこの男は」
「……いいだろ別に」
「仕方ないですねぇ」
そのままめぐみんはベットまで歩いてきてちょこんと控えめに座った
それ以降めぐみんは何も喋らない
ただそこにいるだけだ
「……お前、最後アイリスに何を言ったわけ?」
何となく気になった事を聞いてみた
「いいえ。ただ本当に好きなら私なら何度でもアタックをかけますよ、と言っただけです」
「……お前もしかして」
「……すいません。そのつもりは無かったんですが聞いてしまいました」
……アイリスの時もそうだったが感知スキル何処いった
いや、アイリスやめぐみんを敵と認識していないからだろうか?
しかし前に屋敷をアクアに占拠されたときはバッチシ認識されていた
……つまりそれだけテンパってたって事か
あの時バルコニーから出たアイリスがビックリした顔をするわけだ
「……私は嬉しかったですよ」
「……」
「カズマが、私達を選んでくれて」
「とても、嬉しかったです」
「……めぐみん」
ゴロリと寝返りをうつとめぐみんがこっちをじっと見つめていた
慈愛に満ちた目で微笑むめぐみんが何となく眩しい
……あれ?これってすっげぇ美味しいイベントじゃね?
あれあれ?
気がつけば滅茶苦茶いい雰囲気じゃないか
「私達を選んでくれてありがとう」
そう言ってめぐみんは身体を前のめりに倒しゆっくりと……
ゆっくりと俺の顔に近づいて
ゴクリ……と生唾を飲み込む
そして、視界がめぐみんだけになる
「カズマーーーーーー!何時までも不貞腐れてるんじゃないわよ!」
……その時、ちーっとも空気を読んでくれない自称女神がバアアアアンと扉をこじ開けてきたのだった
……ちくしょう!ちくしょう!
絶対許さねえ!
「おいこらダメ神!今度ばかりは許さねえ!」
「え!?ちょっと!なんで?私何もしてなああああああああ、キャアアアア痛い!痛いから!バインドやめて!ブレイクスペル!ちょっと何すんのよカズマアアアアア。吸わないで!私の清らかな魔力吸わないでくれる!?」
「クスクス……それでこそカズマですよ」
「やれやれ。心配していたが無用だったようだな」
「ダクネス。どうしたのですか?その風呂敷は」
「ああ、アクアがな。ピクニックにでも行こうと言い出してな」
「なるほど。いいですね」
「しかしめぐみん。電気も付けずに一体カズマと何を……ま、まさか弱ったカズマを!」
「さぁ、どうでしょうか」
「め、めぐみん!」
「ちょっと!助けて!助けてダクネス!めぐみんーーー!カズマ……かずまさん!やめ……やめてぇ!カズマさまぁ!」
「ひっく……ひっく……わ、私悪くないのに!」
「よしよし、元気出すのですよアクア」
「どうやらご機嫌斜めのようだな」
「当たり前だ!」
ダクネスが不貞腐れている俺に当たり前の事を聞いてくるので断言してやった
本当にもう!
ちーっとも甘い空気になりやしない
なんなの?一体なんなの?
魔王倒したのよ!?
文字通り刺し違えたのよ!
なのにどうしてこうなったのさ!?
そろそろ祝福の一つでも起きていいんじゃないの?
エリス様が魔王倒す前にかけてくれた幸運値が底上げされる祝福のスキル、あれもう一回かけてくれないかなぁ……
今度テレポートで天界に行ってかけてもらおう
そうしよう
そしてこの荒んだ心も癒してもらおう
魔王を倒した後にも祝福されてもいいじゃないか!
魔王倒すだけで祝福使い切ったとかそんなオチはやめてくれよぉ……
よく冒険譚の終わりはヒロインと主人公がいい感じなるじゃん?
それなのに今回も結局これだよ
ちーっともそんな事起きやしない
やっぱりいっその事アイリスと一緒になるべきだったのだ
「そうは言っても折角のピクニックだ。ほら、これとかお前の好きな唐揚げだぞ?」
「……モノで釣られるほど俺は安くない」
「やれやれ。カズマにも困ったものですね」
「……」
そっぽを向いているとめぐみんが俺の横に腰掛けてきた
「カズマカズマ」
「……なんだ」
そしてニッコリと笑いながら
「そろそろ決めましたか?」
「……?何を」
意味がわからない俺に
「カズマは私達どっちを選ぶんですか」
爆弾を投下したのだ
「……」
「な、な、な、な」
その爆弾に俺よりダクネスの方が引っかかってしまっている
というか、俺だって内心バクバクだ
なんてタイミングで爆弾発言をするんだ
「そろそろいい頃合でしょう?魔王も倒しましたし、どうやらカズマも心に決めた人がいるみたいですし」
「な、何!?そうなのか!?」
「えー!?何カズマさん!好きな人できてるのー!?ええええー!?」
ダクネスやアクアまでこっちを凝視してくる
「そろそろ観念したらどうですか」
めぐみんはそんな事を言ってくる
ああ……もう……
何なんだよ!何なんだよ!
ちっとも俺の思ったように進みやしねえ!
そうだよ!この世界はいっつもそうだ!
何かいい事が起きたりいい雰囲気になったと思ったらぶっ壊してこれだよ!
そもそもなぁ……!
こんな仲間の真ん前でそんな事が言えるわけないだろ!
「あ!逃げました!ダクネス捕まえますよ!」
「待てカズマ!今日という今日は観念してもらうぞ!」
「男らしくないぞーカズマー!御用だ御用だー!」
後ろから非常に楽しそうに俺を追い掛け回す3人
ああ、もう!
誰か……!
いや、エリス様!
どうか、お願いですから!
魔王を倒した後にも祝福を!
End
お疲れ様です。完結になります
そのうちめぐみんとかダクネスとかアクアの短編書けたらいいなぁ……と
>>34
そんな間違いするわけがとか思って見直したら酷過ぎた
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません