一ノ瀬志希と駄弁るだけ (14)

志希「キミキミ、天才って何だと思う?」

P「は? なんだ急に」

志希「その気持ちはわかるけれど進まないから答えて答えて」

P「……お前とか?」

志希「あたしが天才……うん、まあそうだね。ギフテッドと天才ってほとんど同じ意味だと思うし」

P「え? 何? お前、自慢がしたかったの?」

志希「そうかも。ホントは天才の定義についての話がしたかったってところかなー」

P「……天才は天才なんじゃないか?」

志希「なにその答えー。つまんない。アイドル辞めるよ?」

P「こんなことで辞めるなよ……」


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志希「あたしはこんなことで辞める子だからねー。えっへん」

P「自慢することじゃないだろ……というか『えっへん』ってなんだよ『えっへん』って」

志希「えへへ」

P「何笑ってんだよ」

志希「えっへんとえへへをかけまして」

P「……かけまして?」

志希「志希ちゃんかわいい」

P「かけてねぇ……」

志希「でもプロデューサーは志希ちゃんのこういうところがかわいいんでしょ?」

P「それを自覚してるところはあんまりかわいくないけどな」

志希「またまたー照れちゃってー……なんかこのキャラ飽きてきた」

P「自分から振っといて飽きるなよ」

志希「でも飽きちゃったんだもーん。プロデューサー、何か面白いことやってよー」

P「やらない。というか、さっきの話はどうなったんだよ……」

志希「うん、プロデューサーも無事あたしの話に興味を持ってくれたみたいだね」

P「なっ……! お前、まさかここまでの話はぜんぶここに繋げるために……?」

志希「ふっふっふっ……一ノ瀬志希ちゃんにかかればこの程度造作もないことだよ」

P「いや回りくど過ぎだけどな」

志希「暇つぶしにはなったからオーケーオーケー」

P「というかこの話全部がお前の暇つぶしでしかないだろ」

志希「そうかもね。あ、さっきの話の続きしよっか。天才の話」

P「あー……なんかつまらないとか言ってたな。つまらないなら俺じゃなく他の誰かと話せよ」

志希「いやいや、プロデューサーだからこそ意味があるの。で、つまらないの意味はわかるかな?」

P「わからん」

志希「ヒントはその条件だと誰もが天才であると言えるから」

P「……誰のどんな才能でも天からの才能であることには変わりないって?」

志希「そそ。まあ、『この世界の誰もが天才と言える』というのはそれはそれで面白い論かもしれないけどね。まあ本来の意味で言うなら天才とは『他人と特別優れた才能を持つ者』だろうから違うんだけどね」

P「……ん? それじゃあ俺の答えはそこまで間違ってないんじゃないか?」

志希「だから最初からあたしは『間違っている』なんて言ってないよ? 『つまらない』と言ったの」

P「……じゃあさっきのヒントはなんだったんだよ」

志希「んー……意地悪?」

P「お前ホントにムカつくな」

志希「でもかわいい」

P「否定しない」

志希「にゃは。プロデューサーは志希ちゃんに甘いなぁ」

P「……否定しない」

志希「うむうむ。いい心掛けですよ、プロデューサーくん。これからも精進したまえ」

P「……そろそろ話を進めてくれないか?」

志希「オッケー。あたしも飽きてきたしね。で、キミの答えがつまらない理由だけれど、あたしが求めている答えはそんな言葉遊びではないからだよ」

P「お前も言葉遊びなら結構してると思うが」

志希「それとこれとは別なのです」

P「……チッ」

志希「舌打ちとかこわーい。アイドル辞めるー」

P「早く続けろ」

志希「はーい。で、あたしが求めている答えは『特別優れた才能』ってどういうものを言うのか? とか。キミが思う『天才』ってどういうの? とか。そういうのだよ。特に後者かな」

P「俺が思う天才? そうだな……まず俺がいちばん最初に思い浮かぶのは志希。お前だ。だから、あー、変人だな」

志希「変人……天才とは変人である?」

P「そういうことかもな。というか、実際そうじゃないか? 天才なんて誰しもどこかおかしいもんだろ」

志希「確かにそう思うのもアリかもね。あたしがそうじゃない例を知っているからなんだけど」

P「知っているのかよ……」

志希「うん。変人じゃない天才も居るよ? プロデューサーをさらに100倍希釈したくらい平凡でもあたしより天才なんじゃないかなーってくらいの人も居るからね」

P「俺の100倍希釈……それってもう逆に変人なんじゃないか?」

志希「そんなこと言ったらこの世界の誰しもが変人になっちゃわない?」

P「……なるか?」

志希「なるなる。『平凡過ぎる』ということが変人に繋がるのであれば『どこか変である』ということが一般人ということになるけれど、『どこか変である』ということはすなわち『変人』だよね」

P「んー……そうなるか?」

志希「ならないかも」

P「ならないのかよ」

志希「どうだろねー。とにかく、割と天才でも平凡な人は居るよーってことだね。矛盾してるみたいだけど能力は天才で性格は平凡っていう。確かに天才と言われている人の中には変人が多いことは確かだし、フィクションなんかでも天才キャラと言えば変人だもんね」

P「確かにな。現に俺の目の前にも変人が居る」

志希「え? どこどこ?」

P「白々しいにもほどがある」

志希「ほどはない」

P「……でも、天才って言えばやっぱりどこかおかしいイメージなんだよな。お前みたいに」

志希「うーん……あたし、そこまでおかしい? この事務所の人ってだいたいあたしくらいおかしくない?」

P「お前ほどおかしいのは珍しいがな」

志希「でもあたしは世界レベルじゃないからなぁ……」

P「あの人はおかしいわけじゃないがな」

志希「えっ!? せ、世界レベルが……おかしくない……?」

P「なんだその無駄に上手い芝居」

志希「お、芝居と見破るとは……お主、やるな」

P「誰なんだよお前は」

志希「一ノ瀬志希」

P「知ってる」

志希「知ってるなら聞かないでくれない? 時間の無駄なんだけど」

P「うっぜぇ」

志希「うざノ瀬志希」

P「お前そう呼ばれてもいいの?」

志希「いいよー。ただし、ほかの人の前でもそう呼ぶこと」

P「それやったら俺が怒られるやつじゃねぇか」

志希「プロデューサーが怒られる姿を見るのもまた乙なものだからね」

P「乙じゃねぇ」

志希「この展開飽きたから話を戻すけど、この事務所ならあたし以外にも天才と言えばみたいな子は居るでしょ? 晶葉ちゃんとか」

P「晶葉は……お前の価値観としては天才なのか?」

志希「天才じゃない? あの歳であんなロボットを作れるとか普通じゃないし。でも、あの子は割と常識人っぽいよね。はい、これでさっきの『天才とは変人である』論法は論破ね」

P「もうだいぶ前に論破されてるような気はするが」

志希「細かいことは気にしなーい」

P「……まあ、とにかく、天才がみんなおかしいわけじゃないってことは理解した。晶葉がおかしくないかって言えば結構おかしいとは思うが」

志希「そう?」

P「お前の基準で話すなよ。と言うか、お前が常識人って言ったんだろうが」

志希「にゃはは。あたしはコロコロ言うことを変えるからねー」

P「それを自覚してるってのがお前のいちばん面倒くさいところだよな。厄介だ」

志希「それほどでも」

P「褒めてないからな?」

志希「わかってるよ?」

P「……この話、まだ続けるか?」

志希「やめたい?」

P「やめたい」

志希「そっか。でもあたしはまだ次の予定まで時間があるんだよね。付き合って」

P「ならなんで聞いたんだよ」

志希「聞いてみただけだよ?」

P「……」

志希「で、天才が変人であるとは限らない……という話だけれど」

P「それがもう結論じゃないのか?」

志希「まあそうだけれど、実際、天才は変人が多いわけだからね。どうして天才に変人が多いのかということについて考えてみよー」

P「……お前、やっぱり時間をつぶせたら何でもいいんじゃ」

志希「一理あるね」

P「じゃあ俺としてはアイドルの話とかの方がいいんだが」

志希「そう? で、天才に変人が多い理由だけれど」

P「……わかっていてもムカつくな」

志希「キミはどうしてだと思う?」

P「……あー、そうだな、天才だから、とか?」

志希「天才だから変人になる?」

P「そういうことだな。ってことは天才なのに性格は普通って方が変人なのかもしれない」

志希「それは確かにそうかもね。天才っていうのは往々にして普通の人生は送らないことも多いし、そもそも能力が違うからね。周囲の環境が……って人も居るだろうし。あと、先天的に『おかしい』から『天才』ってこともあるだろうしね」

P「それはつまり、能力ではなくて性格が先ってことか?」

志希「そゆことそゆこと。たぶんね」

P「たぶんかよ」

志希「学者はあまり断定的な言葉を使わないものだよ? 不確定な事象を断定するなんてことはナンセンスだし」

P「……そうか」

志希「まあ今の話と関係あるかと言えばないけど」

P「ないのかよ」

志希「ないのかな?」

P「お前が言ったんだろうが」

志希「だね。で、続きだけど、性格が先って意味はわかるかな?」

P「性格が……つまり、好奇心が強かった、とか?」

志希「お、冴えてるね。そういうことだよ。生まれつき好奇心とかそういうのが強いっていうのは結構大事だと思うんだよね」

P「その結果、天才に?」

志希「まあこれが『天才』かって言うと微妙なんだけど」

P「微妙なのかよ」

志希「だって能力が伴ってないと……ねぇ?」

P「生まれつきの好奇心だったらそれはそれで特別優れた才能、なんじゃないか?」

志希「性格も才能?」

P「ああ」

志希「それは確かにそうだね。人間の性格というものが先天的に決まっているということもあるにはあるだろうし。先天的なものも後天的なものも人格形成には影響されるだろうからねー」

P「まあ、すべてが先天的なものって考え方は嫌いだけどな」

志希「ほうほう。それはまたどうして?」

P「すべてが先天的なら生まれる前にすべてが決まっているみたいでつまらないだろ?」

志希「努力が無視されるのは気に入らない?」

P「まあ、そういうことだな」

志希「ふんふむ、やっぱり日本ではそういう考え方が主流なんだね」

P「日本では、ってことは、日本以外では違うのか?」

志希「んー……違うってわけでもないけど違うと言えば違うかな。努力が無視されているわけじゃないけれど、努力だけでは埋まらないものがあると明言してる。生まれつきの資質も努力も認めている、みたいな」

P「……日本でも認めてないか?」

志希「日本では『努力すれば才能の差も埋められる』みたいな考え方が主流じゃない? 先天的なものよりも後天的なものを重視している考え方。できない人に対して『努力が足りない』としたりできる人に対して『努力をしている』としたり」

P「……そう言われると、そうだな」

志希「そもそもそういう考え方が主流だからあたしは海の向こうに行ったわけだしねー。あっちではギフテッド教育もきちんとあるから」

P「そうか……ん? ギフテッド教育なんてものがあるなら、海外ではギフテッドを判別する方法があるってことじゃないか? 天才もそれで判別できるんじゃないのか?」

志希「お、話が戻ってきたね。でも、その判別方法もちゃんとしたものじゃないからねー」

P「そうなのか?」

志希「うん。まだ完璧な判別方法はないんだよねー。あと、ギフテッドと天才はイコールってわけじゃないからもし完璧な判別方法があったとしてもそれが天才の判別方法とはならないよ」

P「でも、お前、ギフテッドと天才は同じって言ってなかったか?」

志希「ほとんど同じとは言ったね。でも厳密には違う……というか、違うとされているんだよね。ギフテッドは天才だけれど天才はギフテッドじゃないというか」

P「は? 意味がわからないんだが」

志希「天才という大きいくくりの中にギフテッドが含まれている、だったらわかる?」

P「……ギフテッドは天才の一種、ってことか?」

志希「そうそう」

P「そうか……じゃあ、天才っていったいなんなんだよ」

志希「なんだろうねー」

P「……というか、なんで俺はこんなことを真剣に考えてるんだよ」

志希「あ、気付いちゃった」

P「気付いちゃったよ。お前の暇つぶしに付き合ってるだけだってのに……」

志希「暇つぶしに付き合ってるだけなのに真剣になってくれるプロデューサーのことは好きだよ」

P「それ、褒め言葉なのかバカにしてるのかどっちだ?」

志希「どっちもかな」

P「どっちもか……よろこべないな」

志希「えー。よろこんでよー。せっかくあたしが褒めてるんだし」

P「……なあ、志希」

志希「ん? なになに?」

P「時間、まだか?」

志希「時間……あ、そろそろかも。付き合ってくれてありがと、プロデューサー。あたし、ちょっと行ってくるね」

P「ああ。失踪とかはするなよ」

志希「しないしなーい。まだ飽きてはいないからね」

P「飽きたら失踪……しそうだな、お前は」

志希「するよ? だから、プロデューサーはあたしを飽きさせないように頑張ってくれたまえー」

P「言われなくても、ずっと飽きさせないようにしてやるよ。だから、俺の言うこともたまには聞けよな」

志希「気が向いたらね。それじゃ、いってきまーす」

P「ああ。いってらっしゃい」



たぶん延々と書けてしまうので終わりで。ありがとうございました。

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