雷「もっと私に頼っていいのよ?」提督「ロリ母性にダメにされるぅぅ!」 (325)


※エロ


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 強くあれ、逞しくあれ。
けれど粗暴になるな、がさつになるな。
 繊細であれ、慎重であれ。
けれど臆病になるな、薄弱になるな。
そして最後に軍人らしくあれ、男らしくあれ。
繰り返し、父に教え込まれた言葉。

 ――らしくってなに?

 規範である事だと母は言った。

 ――規範?

 理想的な軍人、理想的な男性でありなさいという事だと母は言った。

―――理想。それは誰の?
多分父の、そして母の。そして他の軍人、男性の。
そこには俺の意思はない。俺の理想は含まれない。

 そこに思い至ったのは大人になってからだった。
けれど幼く柔らかい頃の俺が長い事入れられていた型が
今更外れたところで、硬くなった大人の俺はその形を保ち続けている。

 らしくあれ。それをただただ全うし続けている。
誰の為にかもわからなくなっても、心の奥に刺さった棘の様に、しこりのように。


 二回、ノックの音が執務室に転がりこんでくる。

「入れ」

 思考の海から意識を引きずりあげて気を引き締める。
らしくあろうと、理想であろうと。

「失礼します」

 敷地内で最も厚い木製の扉が重い音を立てて開いて、
妙高が恭しく頭を下げて入室して敬礼する。
手を軽く振ると彼女は合わせた踵の距離を取り、
穏やかな顔で仕事の話を始める。

 報告であったり、指示を仰いだり、
個人的意見だったり。
それらに逐一言葉を返して、命令を下す。


 慣れた作業を淡々とこなしながら頭の中ではいつだって不安が募る。
これで大丈夫かと、問題はないかと。責任と義務。重圧。

「……はぁ」

 ではそのように。と軽く会釈をして妙高が退室して一人に戻る。
ため息が自然と口をでた。

 恐らく俺はこの世で最も安全な場所に居る人間の一人だろう。
内地の一般人よりも、お上よりも、当然前線にでる艦娘達よりも。
彼女達を常に傍に置き、守られているから。

 けれど、安全と安心はイコールでないことを俺は知っている。
安心も安寧も遠い昔の記憶の中にしかなかった。
いつだって気を張って、張り詰めて。

 体裁を、見栄えを、建前を、格好を、繕って作ってきた。
キリキリとなるのは胃か、心か、それともなにか別のものなのか。
俺にはわからない、聞く相手もいない。そもそも、聞くことができない。


 子供の頃、色々な物ができなくて。
段々とできる様になっていった。
足し算引き算が出来るようになった、自転車に乗れるようになった、
漢字がいくつ読めるようになった、一人で電車やバスに乗れるようになった。

 ある時を境に、『できないができる』になることより
『できるができない』に変わる事の方が多くなっている事に気づく。
子供の頃当たり前にできた事が出来なくなっている。

 わからない事をわからないという事、聞くこと。
誰かを頼ること、甘えること。泣くこと、怒ること。
立ち向かうこと、逃げること。

 俺はいつからこんなにも怖がりになったのだろうか?

 型。と両親の接し方を俺は表現した。
けれど、それもまたきっと親の愛だったのかも知れない。

 型があれば、気を抜いても、緩んでも、その容器の形のままで居られる。
だけどいまの俺はそれができない、型が外されたからこそ、
気を抜いて、緩んで、地面にへばり付いたガムみたいになった自分を見られるのを恐れている。
一度そうなってしまえば二度と元に戻れない事を知っているから。

 誰と会うのも、その型を模った俺で接してきた。
お偉いさん、部下、友人、同僚、その他多くの人々。


 いつか俺は切れるだろう。
ピンと張り詰めた、張り続けた弦はやがて使い物にならなくなる。

 誰にも弱音を吐けず、愚痴を言えず、泣き言なんてもってのほか。
そんな俺が本音を外にアピールできるとしたら、多分その時だけなんだろう。
壊れて、崩れて『ほら、ダメだった』って見せつけて。
気づいて欲しい、俺みたいな人間が居ることを、俺が壊れることで。

 破滅的な、俺のメッセージ。


―――

「以上です」

 手元の書類から目を上げて赤城は俺の言葉を待つ。

「わかった発注させよう」

 提督の仕事で一番に一般人があげるのは作戦立案、指揮だろうけれど。
実際にそれらが占める全体の割合は一割二割程度に過ぎない。
軍隊とて金が動き人が動く一つの大きな会社で、中間管理職である我々の仕事の大半は
人員、設備、装備品・食料品等の管理、デスクワークに集中する。

 今赤城が報告したのも消耗品の補充等。
その量や金額、納品日などの確認である。
基本的には彼女等が気づいた時にそれぞれ艦種毎のまとめに伝えるのだが、
最終的にはやはり俺の所にやってくる。

「下がっていい」
「はい、失礼します」

 バタンと閉まる扉の音を聞いてため息を一つ。

「司令官?」
「っ!?」

 予想もしていなかった声に目頭を押さえていた手が跳ねる、
顔が前に勢いよくあがり声の出所へ向かう。

「……雷、いつから居た?」

 見知った駆逐艦。雷。
両手を後ろ手に組み、少し前のめりでこちらを興味深そうに見ていた彼女が居た。

「赤城さんと入れ替わりに入ったんだけど気づかなかったかしら?」

 バタンと閉じた扉の音。一度しかしなかったのにどうして、と思っていたが。
最初から扉の前で待機していて同時に出入りしたという事か。

「あぁ、気づかなかった。……どうした? なんの用だ」

 動揺を隠しながら問いかける。
いつも通りの俺でいつも通りに。


「別に用って程の事はないんだけど。演習の時見かけた司令官が疲れてるみたいだったから」

 ちらりとこちらを伺うように、
けれどどこか確信してる風に口にした言葉は俺を再び動揺させた。

「……なぜそう思うんだ?」

 とんとんとん。と、足元から微かに音がする。
無意識のうちに繰り返していた貧乏ゆすりの音。

「雰囲気、かしら。これっていうものがある訳じゃないのよ? ただ、疲れてるのかなって」

 疲れてる。それはそうだ。
確かに疲れてる、心身共に疲れ切ってると言っていいだろう。
けれど、疲れてると思われるのはよくない。

「ねぇ司令官。もっと私に頼っていいのよ?」

 ――もっと、お姉ちゃんに頼っていいわよ――

 どうやって誤魔化して、どう言って帰ってもらうか考えていたタイミング。
雷の台詞は無防備に俺の心の深い部分を引っかいた。

「やめろ」

 子供の頃、大人と自分は全然違うものだと思っていた。
けれど大人になってわかったのは、大人にも子供の部分は誰しも残っているという事。
良くも、悪くも。

 引っかかれて、痛みを覚えて。
身を捩る様に咄嗟に飛び出たのは、そんな俺の悪い子供の部分。
成長できなかった俺の一部分。

「どうしたの? 司令官、大丈夫?」

 ――どうしたの? 大丈夫?

 言葉が、声が。フラッシュバックする。

「やめろ!」

 机を強くたたいて立ち上がる。
大声を出して、みっともなく怒鳴り散らす俺の姿は。
間違いなく理想でも規範でもなくて。


「……嫌な事、あった?」

 なんてことを、と我に返り。
慌てて雷を見れば。雷は怯えることも恐れることもなく。
軽蔑しても、嫌悪しても居ず。ただただ柔和に笑って
正面から俺を見つめていた。

 それがまた、俺の心を嫌に刺激する。
蠢いて、蠢いて、深くに刺さった棘が周りをチリチリと傷つける。
抉る様に、捻じ込むように。

「……今は、帰ってくれ」
「そうするわ。ごめんね司令官」

 謝罪の言葉。
それは俺こそが口にするべきで、
できなくて。ただただ、足元がぐらつく感覚があった。


―――

 夢を見た。夢のような、夢を。
嘗ての思い出とは似ても似つかぬ、夢。

 現実では俺は食事時いつも一番の下座に座っていた。
大きく、長い、何十人もかけられるような机で、
一番の上座には父親、すぐ横に母。姉は、俺のすぐ隣だった。

 遠い位置に居る、父の顔は少しぼやけて。
いつだって俺の目にはしかめ面をしてるように映った。

 けどその夢の中ではまるでどこにでもあるような食卓で、
父も母も、姉も顔つき合わせて座っていて。
丸い、テーブルで。手を伸ばせば届く位置に父も母も姉も居ることが嬉しくて。

 でも、ふと気づく。
父の顔も母の顔ものっぺらぼうである事に。
当たり前だった。笑う父も、笑う母も、俺は一度も見たことがないのだから。


 真っ暗な水底から引き上げられるような、
漠然とした感覚。あぁ、目が覚める、朝が来る。
そんな無意識下の抵抗も虚しくいつもと同じ時間に目が覚めて。

「おはよう、司令官」

 なぜか開いているカーテン。
窓から差し込む大量の朝日に目を細め起き上がると、
強い光で白に染まった視界の向こうから声。

「っ!」

 声が出そうになるのを必死で抑え込む。

「良い朝ね。珈琲飲む? 淹れてあるわよ」

 雷が当たり前の様にそこに居た。
なんでそこに居る。鍵はどうした。聞きたい事が色々ある筈だが、
それより先に俺は危機感を覚えた。

 無論身の危険ではなく、もっと単純に。
寝言を聞かれたのではという危機感だ。
特に、見た夢が夢が。普段どれだけ自分を形作ろうと、
寝ている時に口走る言葉までは抑制できない。
なにを言ったのか、言ってないのかもわかりやしない。


「どうしたの?」

 けれど、聞くわけにはいかない。
変な寝言を言いはしなかったか?
なんて、聞かれたら不味い事があると言っているみたいなものじゃないか。

「……なんで居るんだ?」

 だから、当たり障りのない。当たり前の事を聞く。

「司令官が心配だから」

 当たり前のように返された。
用意してたかのように、単純な計算問題に答えるように。

「心配されるようなことなんて……ない」

 少し言い淀んだ。寝起きだからではないと思う。

「皆が司令官の事をどんな風に言ってるか知ってる?」

 心臓が跳ねた。口からでそうな程に。

「真面目で堅実で、頼もしくて融通が利いて。信頼できて」

 けれど心配したような言葉はでてこなかった。
だからこそ、そんなことを言いだした理由がわからなくなった。

「でもね、そんな人居るかしら? 多分居ないわよね。
 居るとしたらそれは自然にそうなったんじゃなくて、そうあろうとし続けてる人だと思うの」

 再び、心臓が跳ねた。
見透かされているようで、見抜かれているようで、見破られているようで。

「それはきっと凄い大変な事だと、私は思うのよ。
 愚痴を言わず、泣き言を言わず、甘えず、頼らず。
 とっても……とっても大変だと思うの」


 手に持っていたコーヒーを、机に置く。
瀬戸物の触れ合う僅かに甲高い音。
ゆっくりと、けれど一歩ずつ近づいてくる雷。

「や、やめろ……」

 笑みを湛えて、やがてベッドに手をかける。
俺の分プラス、半人分の重みにスプリングが軋む。
距離を取ろうとして、ベッドの淵から落ちそうになる。
俺はなにをそんなにも恐れている?
決まっている、その先の言葉を口にされることを。

「ねぇ、司令官。もっと雷に頼っていいのよ?」

 ――フラッシュバックする。


 ―――俺には、姉が居た。
そう、”居た”んだ。

 現代に置ける軍隊は大戦期のそれと大きく様相を異にしている。
敵は未知の生命体。兵士は艦娘。
規模は当時より大きくなったが、所謂軍人と呼ばれる人間の数は極端に減った。
人間は戦えないからだ、一番数の居る兵士は艦娘にしか務まらない。

 人間が必要とされるのは俺のような管理職。
故に質を何よりも重んじられた。家柄と、成績と男である事。
そんな折に軍人家系に生まれた長女だ、俺が生まれる前の事は定かではないが、
日々やりたくもない様々な修練に時間を費やす俺に比べて
姉はいつも一人でつまらなそうにしていた。

 ただ、姉は聡明だった。
それが差別でなく区別であることも、
母も父も決して姉を嫌っていた訳でも疎んじていたわけでもない事を理解していて。
だからせめて良い娘であろうと頑張っていた。

 厳しくされ泣きながら日々を過ごし、
それでも良い成績を収めた時はむっつりとした顔ででも
一応は褒めてくれた親に対して良い息子であろうとした俺とは
別のベクトルで良い子であろうとした姉。

「私に頼っていいのよ?」

 それは、姉の口癖でもあった。

 両親の為に手伝いをしていて、喜ばれたのだろう姉は
やがて承認欲求の強い子になった。
両親だけでなく、それは他人にも向けられるようになった。

「なにか困ったことがあったら私に言ってね?」

 ありがとう。と感謝されることで己の存在意義を見出していた姉。
彼女の一生は、命懸けの人助けで幕を閉じた。

 恐らく多くの人に称賛されるであろう行い。
けれどその称賛を受けるべき姉は居なくなって。
本末転倒と言うのか、主客逆転というのか。

 そんな姉の事が大好きで。
けれどとても憎かった。

「また、行くのお姉ちゃん」
「うん。私を必要としてくれる人がいるから」

 俺が必要とするだけではダメだったのだろうか?
俺が頼って、甘えて、認めて、愛して。それじゃ足りなかったのだろうか?

 姉が死んでから、俺は。誰にも甘えることも頼ることもできなくなったのに。


「辛いの?」

 じりじりと失われていく距離。
雷は顔を寄せてそう呟いた。

「な、にを……」

 言葉が出ない。

「ほら、おいで」

 宙を彷徨っていた右腕を、ぐいと引かれる。
つんのめる、前のめる。軽い、感触。

 甘い香り、ミルクの優しい匂い。
自分が雷の胸に抱かれていることに気が付くのに時間がかかった。

「よしよし」

 後頭部を触れる、小さな手。
慈しむように、優しく幾度も撫でられる。
止めてくれ、俺が、今の俺を形作るのにどれだけ苦労してきたと思ってる。

「大丈夫よ司令官……これは、きっと夢なのよ。
 誰も知らない、聞いてない。私だって、ここに来てない。
 だから大丈夫よ、ね?」

 頭を撫でられて、もう片方の手で背中をぽんぽんと叩かれる。

「私は貴方の味方だから。怖くないわ」
「……味方」

 この仕事。敵だの味方だのという言葉は日々に氾濫している。
けれど、子供の頃使っていたそれとは意味は大きく違う。
大人になってからの『味方』、同じ立場というだけのソレ。

「そう、味方」

 けど雷が口にするのはソレじゃない。
自分を庇ってくれる存在、守ってくれる存在。
ただ、ただ、本当の意味での味方。姉を失ってから、居なかったもの。
居ないと、思っていた。


「……雷」

 無意識だったのか、意識的だったのかはわからない。
気が付けば、恐る恐る雷の細くか弱いその胴に腕を回していた。
離さないように、逃がさないように。

「なぁに? 司令官」

 雷の声は、どこまでも優しくて、甘くて。
夢。そう、これはきっと夢だ。夢なんだ。
ならこれから言う事は寝言で、俺は何を言ったのか言ってないのか知る由もない。

「辛い……んだ」

 色々あった、思ってた事。
嘘偽りない、本音はたった一つの言葉に集約して、零れ落ちた。

「うん」

 決壊した、と言っても良い。

「姉が、居た。……居たんだ。雷に、少し似ていた」

 傾いた器からは、もう一滴。また一滴と零れ落ちて。

「そう……辛かったのね、悲しかったのね」

 やがてそれは筋になって、流れになって。

「ずっと一人で……苦しくて、でも逃げられなくて……」

 もう、止められない。

「もう一人じゃないわ、だから大丈夫。どんな司令官でも受け止めてあげるから」

 どうにもならない。
ずっと、ずっと抑えてたものが全部、全部。

「全部出しちゃいましょう? それですっきりしましょう」

 子供をあやすような声色に俺は。


―――

『……ぁ―――った……ぅん』

 ぼやけた視界。くぐもった声。
ヤニの色が付いた見慣れた天井。
どうやら、また眠ってしまっていたらしい。

『――そう、お願いね』

 扉越しの声。幼いけれどハキハキとした、雷の――。

「っ!」

 飛び起きた。
掛け布団が音を立ててベッドから落ちるが気にも留めない。

「最悪だ……」

 両手で顔を覆う。
寝起きではある、が不思議と頭がここしばらくなかったくらいに冴えている。
眠る前の醜態もハッキリと思いだせる。
ずっと隠していたものを暴かれた。
……違う、自分から吐き出した。
全部、全部、とりとめもない言葉で、拙い台詞で、
立て板に水、のべつ幕無しにつらつらと話してしまった。


「俺は馬鹿か」

 がしがしと乱暴に頭を掻きながら時計を見て
短針と長針が重なっているのを確認して
背筋に氷を流し込まれた気分になった。

 正午だと? 今朝、今朝のあれは何時だったか……。
普段通りだとして五時頃だ、ごたごた色々あったとはいえ
それも一時間もかかってない筈だ。
つまり二度寝で六時間も寝てしまっていたのか?
イカれてやがる。

 転がる様にベッドから降りて軍服に着替えていると。

「あら、おはよう司令官」

 ぎぃと扉が開いて雷が顔をだす。

「お前……」
「大丈夫よ」

 羞恥もある。今朝の事を思えば当然だが。
それ以上に今は言わないければいけない事があり、
俺が咄嗟になにかを口にしようとすると穏やかに雷はそれを制した。

「とりあえず司令官は体調が悪いから午前は休みって説明したわ。
 業務に関してはこれを見ながらやっておいたから、一応確認してもらえるかしら?
 書類も直接確認してもらう必要があるの以外は処理しておいちゃったからね」

 平然と雷は言う。

「雷、その……今朝のは」

 俺の言葉にこちらを見上げて、大きな瞳を二三度瞬かせる。

「今朝? なにかあったかしら? ……変な夢でも見たの?」

 そういって手に持っていた書類をこちらに渡して。
じゃあねと部屋を出て行く雷の後ろ姿を眺めながら、
俺はなにを思ったのか、覚えていない。


 それから、身支度を改めて整えて仕事に戻った。
一体どこで学んだのか雷の仕事は完璧と言って
差し支えないレベルで。なによりも俺が行おうとしていた事を
俺の考えを完全にトレースしたのではと言うレヴェルで済ませていた。

 困惑もあったものの、午後からの仕事は
雷が済ませてくれたおかげでいつもよりむしろ楽な部類で。
過去一度も体調不良で仕事を休んだことのない俺が休んだという
話を聞いて様子を見に来た艦娘で少々騒がしかった事を除けば
つつがなく業務終了まで流れて行った。

 その間俺が考えていたことは、けれどそれらとは遠くかけ離れていて。

「……すまないが」

 業務終了後は俺は夕食を取って早々に部屋に戻るのを常としていた。
最近では隼鷹や那智ですらとんと晩酌に誘ってこない。
けれど俺は今こうして雷の姿を探し、見つからず。

「ふぇ?」

 暁に素っ頓狂な声と表情でパチクリと見つめられながら。

「あー、えっと……雷に、あとで執務室に来るように伝えておいてくれ」
「え? えぇ、うん。わかった……?」

 たどたどしくこんな言葉を口にしている。


「どうしたの司令官?」

 戸惑う暁を後に部屋に戻って程なく、
雷は俺の部屋に来てそんな事を言った。
きょとんとした顔、クリクリとした瞳でこちらを見つめ
軽く首を傾げたそのポーズはなにも知らなければ
ただただ微笑ましく可愛らしい物ではあるのだけれど。
今はただただわざとらしく、あざとく思える。

「いや、その、まぁ……」

 落ち着け、俺はただ仕事を肩代わりしてくれたことの感謝を
述べようと思って呼んだだけだ。他意はない――

「今朝は、すまなかった」

 筈なのに。口からでたのは違う台詞。

「あら、司令官から今朝の事に触れてくるとは思ってなかったわ」

 目を一際大きく開いてクスクスと笑われると、
身長は頭一つ分以上差があるにも関わらず俺は酷く子供になった気がする。
胸ほどの位置に頭が来る雷より年下の幼子になった様な、不思議な感覚。

「その、迷惑をかけたからな……」

 それも仕方ないのかも知れない。
忘れて欲しいという俺の意図を言わずに察して、
触れずに居た雷と自分の恥やらを気にしてこの期に及んで
未だ地団駄を踏んでいる俺とでは、どちらが大人か考えるまでもない。

「気にしなくていいのよ。私も理由が知れたしね」
「理由?」

 今朝は勢いに任せてなにもかもを喋ってしまった。
余りにも支離滅裂に話した所為で何の事を言ってるのかわからない。

「うん。司令官がどうして私の事を特に避けるのかなって」

 ……そのことか。
確かに姉の事も洗いざらい口にした記憶がある。
重ねて醜態だ。


「心配しないで、私は司令官の前から居なくなったりしないわ」

 相変わらず見透かした様な事を言われて言葉に詰まる。

「それより。お昼にあんなに寝ちゃって今夜眠れるの?
 生活サイクル狂っちゃうし、このまま寝ない訳にもいかないでしょ?
 雷が添い寝してあげるからお部屋に行きましょ」

 ぐいと、今朝と同じく俺の手を引く。
今朝と違うのは、手を引かれるまでに近づいてくる時間があったのと、
その手に込められた力の強さ。

 やめろと言う時間はあった。振り払える程度の強さだった。
たった一言述べるだけでよかった、たった一歩踏みとどまるだけでよかった。
けれど俺はいま雷に手を引かれて部屋に向かって歩いている。

「ねぇ司令官。さっき謝ったわよね?」

 隣の部屋までの数歩。
扉を開けてからベッドまでさらに数歩。
なぜか長く感じるその距離の間に雷は問う。

「一つ言っていい? 好きな人に甘えられることを迷惑だなんて、私思わないわ。
 むしろ嬉しいの。だから、悪いなんて思わないで欲しいの」

 ぱっと手を離されて向かい合う。

「ね?」

 俺の両手が、一回り小さい雷のそれに包まれる。
暖かい、手の平から伝わる微かな鼓動。
幼い少女の、大人より少しだけ早くてか弱い鼓動に、
今朝雷の胸元で聞いたそれがリフレインして。

「あ、あぁ……わかった」

 なんて、頷いてしまった。


 そこからは早かった。

「ほら、服脱いで司令官。寝る時はちょっと布団が冷たくても
 できるだけ薄着の方がいいのよ。厚着してると温かい空気が服に邪魔されて
 心地よく眠れないのよ、知ってた? ほら、ばんざーい! うん次はズボンを脱ぎましょうねー
 はーい動かないでー、よいしょっと……あ、パンツは脱がなくていいわよ?
 そういうのはお・あ・ず・け、今は寝ることに集中しましょ?」

 勢いを増した雷になすがままにされて。
瞬く間にパンツ一丁のみっともない姿でベッドに放り込まれた。

「はい、じゃあ失礼しまーす」

 ひんやりとしたベッドに突っ込まれ、
そして雷も間髪入れずに入ってく――。

「ちょ、ちょっと待て」

 流石にストップをかけざるを得なかった。
なにせ雷は俺にそうさせたように平然と服を脱いで、
下着姿で入ってこようとしたのだから。

「なぁに? さっきも言ったでしょ、寝る時は薄着が一番いいの。
 司令官は良い子だから大丈夫ですよねー?」

 子供をあやす様な口調で、しかも良い子なんて単語を強調して言われ
鼻白んでいるうちにそそくさとベッドにもぐりこまれてしまった。
……大丈夫だ。絵面は良くないかも知れないが、誰が見てるわけでもない
俺が意識しなければいいだけの話だ。

 話、なのだが。
暗くなった部屋の窓から差す月明かりに照らされた
雷の身体はしっかりと既に脳に刻まれてしまった。

 細い手足、くびれの薄い腰。僅かに膨らんだ胸はブラをまだつけてなくて
色素の薄い先端までがくっきり目に映ってしまっていた。
唯一身に着けていたショーツは少し大人びていて、ともすれば背伸びのおませさんと
笑われるだろうのに。今日一日の雷が見せた『お姉さん』な部分がその体躯とショーツのイメージの差を埋めて。
真っ白で触れば吸い付くような肌と、併せて何故かエロティックにすら見えた。

「司令官、もう少し詰めてくれる?」

 ぐっと、雷がこちらに身を寄せて、
俺の背中に雷の身体が触れる。

今夜はおやすみだよ


「司令官こっち向いて」

 脇腹にそっと手の平が添えられる。
なぜか焦燥感に似た何かに駆られる。

「……」

 一秒、二秒。
逡巡しながら、言われるままにぐるりとその場で向きを変える。
思っていた以上に近い距離感に少々面喰う。
と同時にほぼ全裸に近い少女が同じ布団に入ってる状況の
見た目の危うさを再確認する。この状況のどこに軍人らしさ、
男らしさがあるのだろうか。俺が生まれてからこの方ずっと
保っていた形が、じわじわと削られていくのを感じる。
俺が風から、雨から守り続けてきた砂の城が
ゆっくりと崩れていく。ひた隠しにしていたその中にある
自分が露出していく。

「捕まえた」

 ぐっと、頭を抱きしめられる。
遮る物がなく、直接触れる雷の肌は暖かくて。
とくんとくんと、ハッキリとその鼓動が聞こえる。
安心する音、他人の温もり。

「……」

 裸になること、その胸に掻き抱くこと。
無防備な姿を俺にさらすその行いは、全幅の信頼の表れ。
なんで、雷は俺にそこまでしてくれるのだろう。

 らしくあれ。それに従ってこれまで生きてきた。
確かに雷の言う通り、そこには沢山の辛い物があった。
でも、俺にはその道しかなかった。無限の可能性なんてのは嘘だ。
いつだって選択肢は数える程しかなくて、時には一つしかなかった。
そしてその道は熱くて、棘だらけで、息苦しくて。
でも、それしかなくてもそれを進んできたのは自分で。
苦しくて悲しくて寂しくて、頼れなくて甘えられなくて泣けなくて。

「私は、司令官に笑顔になって欲しいの」

 笑顔。そういえば、最後に笑ったのはいつだろう。
口を多く開けば余計な事を口にするかもしれない。
仲良くなれば化けの皮が剥がれるかもしれない。
だからみんなと距離を取ってきた。そうして孤独になった。

「昨日の夜。司令官は私に怒鳴ったわよね」

 机を叩いて、大声をだして。
そして追い返した――最低だ。

「すまなかった」

 そういえば、あの事をまだちゃんと謝っていなかった。

「いいのよ。……あの時ね、びっくりしたけど安心したの。
 あぁ、やっぱり司令官も怒ったりするんだって。
 良い司令官であろうって努力してる、普通の人なんだって」

 言われてみれば、怒鳴ったりしたのも笑顔と同様久しくしていなかった。
大声を出して、相手を威圧して。そういうのは避けていたから。

「そうわかったら、貴方の本当が見たい。
 そして支えになりたいって思ったの、我慢できなくてすぐ朝に行動しちゃった。
 ね、司令官。今朝みたいに私に甘えて、もっと頼って。
 何度でも言うわ、大丈夫私はどこにも行かない、司令官だけを甘やかしてあげる。
 泣きたくなったら胸を貸してあげる、疲れたら癒してあげる、
 もうなにもかもを一人で背負う必要なんてないのよ。
 なにもかも、この雷が受け止めてあげる。だから、私を頼って」

申し訳ないが今夜もお休み


 大人しい静かな、けれど飴のように甘い声色。
耳朶にぬるく湿った吐息が触れるその囁きは
身体に染み込むようにするりと入ってくる。

「愛。って言い換えても良いわ、シンプルにね」

 愛。愛。愛。
色んな愛がある、親愛。友愛。敬愛。情愛。
博愛。偏愛。慈愛に自愛。彼女の指す愛とはどれだろうか。
少なくとも軍に置ける上の人間に対して抱くであろう
それとは一線を画するように思える。

「全部」

 疑問をそのまま口にしたら事も無げに雷は言い切った。

「親しく想い、友達の様に気兼ねなく、けれど尊敬して。
 時には情熱的に、それでいて平等に、でも貴方だけを
 そして母の様に慈しんで、それこそが私への愛でもあるの」

 俺の頬にその両の手を添えて、目と目を合わせて。
潤んだ瞳は宝石の輝きに似て、同時に水面に映る月の様に儚く見えた。

「ねぇ司令官。嫌ならちゃんと言って」

 その言葉尻が僅かに震えていた。

「……嫌じゃない」

 脳の一部がじりじりと灼けるのを感じる。
身体の奥がざわつくのを感じる。これは毒だと、
甘くて甘くて、手放せなくなる麻薬だと。

「明日も、来ていいからしら」

 卑怯だと思う。大人びて、お姉さんぶって、
俺を子ども扱いするくせに。こういう時だけその幼さを武器にする。
とてもしたたかで、だからこそ拒絶できない。

「……あぁ」

 ありがとう。そういって雷は額にキスをした。
ちゃんとしたキスは貴方からしてねと微笑む彼女は、
童女のように純粋で、遊女のように艶やかで。
俺は、戻れない分水嶺を超えてしまったことを、ようやく自覚した。

あ^~霞もいいっすねぇ~

好きな艦娘で連合艦隊組んだら

雷・夕雲・浦風・霞・如月・綾波
曙・潮・夕立・叢雲・照月・龍驤

になった、やっぱり俺はロリコンじゃないね(確信)
と言うわけで今夜はいまから飲みに行ってくるので深夜以降から朝方頃に更新します


―――

 有言実行。基本的には良い事ではあろう。

「朝ですよ~、しれいかーん! ほら起きて起きて~」

 けれどこれを諸手を挙げて歓迎できるのかと言われると正直曖昧だ。

「顔洗いましょうね~。あ、やってあげるから動かないでね、今桶にお湯に汲んでくるから」

 有無を言わさずというかなんというか。

「司令官は白味噌のお味噌汁が好きだったわよね?」

 雷の中では昨日の俺の発言は雷の行い、
その全てを好意的に受け入れたと判断したらしく。

「はいお口開けてー。奥歯からごしごししていくわよー、おえってなったら我慢しないで吐いちゃっていいからね」

 その勢いは前日の比ではなく。
キラキラとした瞳で全力で俺の世話を焼く姿がそこにあった。
流石に俺としてもそこまでしてくれとも、することを許すとも言った覚えはない。
が、ぼんやりした思考の中での発言とはいえ来ることを許可した以上
ある程度こういう展開になることは予想できたであろう事なので制止するにできず。

「ん! 今日も格好いいわよ司令官、ばっちり決まってるわ!」

 俺のネクタイを締めながら満面の笑みを浮かべる雷に
はてさてどう対応したものかと思ってるうちに朝が終わりかけていた。

あれ、昨日の夜に一つ書いてたのか俺……覚えてないな

>>95

 ぴょこぴょこと跳ねる雷の頭。
今は仕事の手伝いをしてくれているが
なにがそんなに楽しいのかずっと上下に揺れている。
リズムを取る様に動く頭と同調して、少し彼女には高い椅子で
地につかない足は前後にふらつく。

「……なにかしら?」

 見られている事に気が付いたのか、
雷は万年筆を顎にあててこちらを見遣る。

「ふっ……なんでもない」

 と言うや否や。雷の動きがピタリと止まった。
目を見開いてこちらを凝視している。
文字を書いていた万年筆は羊皮紙の上でとどまり
インクの染みが広がっていく。かなり力が入っているようだ。

 なにか不味い事でも言ったか?
頭の中でそう自問自答するも、一瞬前まであれだけ楽しそうに
隣に座って仕事をしていた雷がここまで豹変するような
事を口走った覚えはない。

「どうした?」

 普段通りの自分を演じて問いながら。
けれど素の自分は失敗した可能性を考え怯えている。
どうしようもない、変えられない俺の性根。

「え、あ。……ううん、なんでもないわ。ごめんなさい」

 ぶんぶんと首を振ってその視線は手元に戻る。
問い詰めたいという気持ちはある、だけどそれを大きく上回る
嫌な事を聞きたくないと言う気持ちに呑まれて俺も
自分の書類に戻る。

 結局、ことここに及んでなお。
雷の事を信じ切れていない自分に嫌悪感ばかりが募った。

重ね重ね申し訳ありませんが
このところ仕事が忙しくてただでさえ寝不足なのでSS書く時間が取れません

一応毎日更新を心がけてましたが1.2レスしか書き込めない状態が続いてるので
金曜までお休みさせてください、それでも少ない時間を使って少しは書き溜めしようと思うので
少しだけお待ちください

しまった……夕立のエロSS書いてただけで金曜になってしまった……

スレ誘導あくしろよ

>>119
スレ立てた訳じゃなくて、宣言通り書き溜めをしようと一時間とか30分とかの少し空いた時間に
メモ帳開いてたんだけど気づいたら夕立・霞・曙・初雪のエロSSを書いてた

>>126
さっさとスレ立てて投下するんだよあくしろよ


―――

「たったが旗艦をやってる遠征隊が帰ってきたよ。
 こっちに纏めといたから目を通してね」

 午後。ノックと同時に扉を開けるという
確認というノックの意図を完全に無視した入室をかましてきたのは川内だった。
ウチの軽巡では最高練度で最古参である彼女は軽巡の代表監督役を任せており、
執務室に足を運んでもらう頻度も他の艦に比べて多い。

「それとたったの練度が今回の出撃で75に上がったって」
「そうか」

 提出された書類。
川内の表面的な性格からは伺えないが、
実のところ書類を纏めるのは結構上手だ。
意外と几帳面で、簡潔且つ明瞭な纏め方は受け取るこちらとしても助かる。
それに、実は丸文字で本人がそれを結構気にしているのもこういう立場でなければ
知りえなかった川内の隠れた個性だと思う。

「そこでたったから個人的な言伝『改二まだ~?』ってさ」
「善処する、と伝えておいてくれ」
「うぃ」

 『たった』とは龍田の事だ。
割とそのままではあるが、呼ぶのは川内位だ。
この二人は初期着任艦であるからか結構仲が良く、
一緒に居るのをよく見かける。おっとりしているが芯が強くブレーキ役の龍田と
勢いがあり元気だがその実思慮深い一面もある川内は意外と相性がいいのかも知れない。
まぁ、外から見ているだけの感想であるが。

「で」

 と、そこで。
川内は一仕事終えたとばかりに一区切りを入れて、
所謂『休め』の体勢に切り替えてからようやっと
俺の隣で黙々と雑務を片付けていた雷に目をやって。

「なんで雷がそこにいるの?」

 訝しげにそういった。

>>129
ここが終わったらな

内容は
おしゃぶり大好き夕立ちゃん
母乳体質霞ちゃん
甘えん坊曙ちゃん
匂いフェチ島風ちゃん
眠姦初雪ちゃん


 当然の質問だ。むしろ仕事を優先しここまでなにも言わずに居た事が驚きですらある。
自分が話題になったことで雷もなにか反応があるかと思ったが
チラリと俺と川内を交互に見ただけでそのまま作業に戻ってしまった。

「少し仕事を手伝ってもらってるんだ」

 俺が言うと川内の目が少し細くなった。
それはそうだろう、自分で言っててもどうにも嘘くさい。
ここに着任してこの方俺は秘書艦と呼ばれるものを付けたことがない。
理由は色々あるが結局の所一番ウェイトを占めるのは俺自身の問題で、
秘書艦とは一日の大半を同じ部屋で過ごし会話を多く交わす。
いつボロを出すともわからない、いつ見破られるかもわからない薄っぺらな俺にとって
それは危険極まりなかった。

 だから艦種毎に代表監督艦を選出し、
提督の権限。その一部を委譲しある程度は艦娘自身の裁量で
できるように体制を変更した。川内もその一人で、他の艦種だと
霞と夕雲・扶桑と陸奥・龍驤と飛鷹・足柄と妙高・赤城と蒼龍。
ちなみに軽巡のもう一人は五十鈴に任せてあり、
潜水艦含む特殊艦はあきつ丸に任せてある。

「なんで?」

 ぽつりと呟いた言葉は聞こえ辛く、一瞬反応が遅れた。
顔を上げると川内はこちらをじっと見ていた。
疑問に思うのは当然だろう、秘書艦を置いてなかったのもそうだが
これまで俺はどれだけ忙しかろうが体調が悪かろうが一度たりとも
誰かに手伝わせたことも休んだこともなかった。

 あぁそういえば、俺は昨日の午前も休んでいたのだったな。
そしてその代わりに執務をしていたのも、雷で。
傍から見ればなにかあると勘ぐられても仕方あるまい。
けれどそれを巧くいなす言葉はでてこない。

「たまたまよ、たまたまそこに居たから頼まれたの」

 代わりに答えたのは雷だった。
ペンをコトリと置いて。両の手を膝に置いて。
ツンと澄ました表情で川内をまっすぐ見据えて澱みなく口にした答えは、
だからこそ空々しく聞こえる。真っ白な響かない声、それは俺が
後ろ暗い真実を知っているからだろうか。


「たまたま? たまたまその場に居たから
 監督艦でもない雷が選ばれた? 私じゃなくて?」

 そう。繰り返すが駆逐の監督艦には霞と夕雲を選出している。
川内は『納得がいかない』と思い切り顔に出しながら俺と雷を見て。

「ならもういいよね、提督の仕事内容は私の方が知ってるし
 ただの一駆逐艦がやることじゃないから――
「でもこの後川内さん出撃予定あるわよね? それに演習も」

 代われ。恐らくは川内が言いたかったであろう言葉の
機先を制するように雷は書類に視線を落とす。
川内がまた目を細めてこちらを見る。
今度の目の意味はわかる。恐らく俺の仕事内容、
その重要度を知っている川内は『そんな重要な物にまで
触れさせているのか』という意味で俺を見たのだろう。

「悪いな川内。そういう訳だ、機会があればお前にも頼むが今は雷に頼んでるんだ」
「ん……わかった」

 不承不承。と言いたげに部屋からでていく川内の口調には明らかに
険が含まれていて。それは閉められた扉の音からも聞き取れた。

おかしいな……思ってたのと違うルート入ったぞ……?

キャラが勝手に動くってやつですね

>>147
俺しょっちゅうそれなんだよね
物語を書くというよりも、頭の中で流れてる映画を
俺が文章に起こしてるだけみたいな

先が読めない


「……ふむ、川内を怒らせてしまったみたいだな」

 顎を掻く。無精髭が指先に触れる。
今夜のうちにでも剃ってしまおう、
でないと下手したら今度は髭剃りまで雷がやると言いだしかねない。

「なんで川内さんが怒ったかわかってますかー?」

 子供相手の保母の言い方だった。
昨日から、時々雷は俺に対してそんなものの言い方をする。
怒るのも大人げないが、気にしないのも難しい。
中々対応に苦慮させられる物言い。

「……そりゃ、あれじゃないか。川内も言っていたが、
 本来一部権限を委譲してある監督艦という物をわざわざ擁立しておいて
 お前を頼ったから、じゃないか」

 内心は置いて、とりあえずそう口にすると
雷は軽くため息をついてから。

「それだけだと、本当に思ってませんよね~?」

 俺の顔を覗き込む。
両肘を机について、組んだ手に顎を乗せて。
ん? どうなの? と問いかけられる。
そんな風に問われると、どうにも誤魔化しが利かなくなる。

「……川内を頼らず、雷を頼ったから。か?」
「まぁ!」

 目をまぁるくして破顔する。
そうしてパチクリと二度瞬いてから「よくできたわねー」と言った。

「ちゃんとそこまでたどり着けたわね~、偉いわよ司令官」

 組んでいた手を解き、少し伸ばして俺の頭を強引に撫でる。

「おい、流石に見られたら……」
「大丈夫よ。ノックしないで入る悪い子はいないもの」

 俺の抵抗は虚しく、撫でられるがままになる。


「つまり川内さんは私じゃなくて自分を頼って欲しかったの、
 言いたいことわかる? 司令官はどう思ってるかわからないけど
 みんな、司令官に頼られたいのよ?」

 しばらく撫でられた後にそういって胸を張る。

「だって、それって信頼の証だもの。
 頼られるってのは嬉しい事なの、だから司令官ももっと頼っていいのよ?
 みんな喜ぶことはあっても、絶対に司令官を悪く思ったりしないわ」

 そう……なのだろうか。

「そうよ。それとも、司令官はみんなに頼られた時、嫌?
 相手したくない? 鬱陶しいって思う?」
「そんなことは……ない」
「なら、それが答えなのよ」

 自信に満ちた表情で言い切られると。
それが本当に正しくて、真実なんだろうと思えてしまう。
ずっと、ずっと、頑なに拒否し続けてきて、
一生変わる事のない物だと思っていた自分があっさりと足元から崩れていく。
価値観も、思考回路も。

「それにね。司令官は隠せてるつもりかもしれないけど、私達だってわかるのよ?
 冷静沈着で真面目で。そうあろうとしてもね? 時折見えるの、
 その下にある優しさも温かさもぜーんぶわかってるの」

 だから。と繋げて、幾度も聞いた言葉を再び繰り返す。

「もっと私に頼っていいのよ?」

 頼って、いいんだろうか。
俺は、誰かに甘えてもいいのだろうか?

「自分で自分を縛り付けるような生き方、きっと誰も幸せになれないわ。
 司令官自身も、周りの人も」

 幸せ。考えた事も……なかった。
自分の、幸せ。幸福。
なんだろう? どこにあるんだろう?

「一緒に探しましょう。きっと、すぐ近くにあるから。
 司令官が見てこなかっただけでね、身近にたくさん幸せってあるのよ?」

 謡うように囁く。

「美味しいご飯を食べたり、気持ちよく眠れたり、
 好きな人と一緒に居るだけでも、幸せって感じるの。
 だから私は今だって幸せよ、司令官に頼られて、一緒に居て」

 好きな人。そういえば昨日の夜も雷に言われた。
それは……どういう。

「勿論、一人の人として。愛してるって、言ったでしょ?
 その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、
 貴方を愛し、貴方を敬い、貴方を慰め、貴方を助け、この命ある限り、真心を尽くすことを誓うわ」

 目を見つめられて、真剣な声色で言われて。
数秒かけて意味を理解し、カッと顔が熱くなる。

「な、にを……」
「別に今すぐ返事してなんて、言わないわ。
 でも、気づかない振りもさせないから、ちゃんと考えてね」

 にっこりと笑って書類に戻った雷に、
ほとほと敵わない事を俺はようやく強く実感した。 

>>164
わかる
叱られて甘やかされて依存させられたい

>>165

「こんな所でなにやってんのよクズ司令官」

 ぼんやりと窓ガラス越しに海を眺めていると、
聞きなれた声で後ろから叱責された。

「霞……」

 振り返れば予想通り。後ろで束ねた銀色の髪をたなびかせた
少女が腰に手を当てこちらを睨みつけるように仁王立ちしていた。

「あんたがそんな調子だとみんなが困るのよ、もっとシャキッとしなさい!」

 言いながら近づいてきて、背中を勢いよく叩かれる。
容赦のない張り手は強い痛みと共に僅かな優しさをびりびりと伝えてくる。

「すまない」

 咄嗟に出たのは謝罪の言葉だった。
多分霞はそんな物を求めては居ないのだろうけど、
今日の失態は間違いなく俺一人の責任で、謝ることしかできなくて。

「はぁ……」

 呆れた様にため息を吐かれても、なにも言えずに居ると
不意にぐいとネクタイを引っ張られ床に膝を突く。
そうして下がった目線は、霞のそれより若干低くなって。

「本当にアンタって馬鹿ね。頑張りすぎなのよ……」

 そっと、柔らかく頭を抱きしめられる。

「皆の前では立派な司令官で居なさい。
 弱音は、私が受け止めてあげるから」

 とんとんと、背中を叩くように撫でられる。
柔かい感触と、甘い香り。そして微かに感じる鼓動。
俺はただ頷いて、霞のその小さな身体を抱きしめ返す。

「ありがとう、霞」

 少し早くなった小さな鼓動。
それに隠れる様なか細い声で。

「ホント、アンタって私が居ないとなんにもできないんだから」

>>159

―――

「おはよう司令官、今日もいい天気よ」

 何度目かわからない起床シーンである。

「……おはよう雷」

 こうして目が覚めていの一番に視界に入る雷の顔にも慣れてくる程度には
日が経った。相変わらず夜にはほぼ裸で布団に入ってきて、
こうして俺が目が覚めるまで横で寝顔を見ている。
最初は抵抗があったものの色々と吐き出し
そして様々な事を告白された後ではもう一々戸惑うのも阿呆らしい。
それに口に出して雷に言ったりはしていないが、
誰かの重みと、温もりが傍にあって眠るのは雷の言う所の『幸せ』に近くて
どうにも手放すのが惜しく感じてしまってる。
まぁ雷の事だ、言わずとも察しているのだろうけれど。

「朝ごはんはなにが良い?」
「少し重たい物がいい」
「司令官ったら若いわねぇ、わかったわ任せて」

 頷いて布団からスッと出る。
まだ少し寝ぼけてる俺とは違う機敏な動きからして
結構前に起きていたのだろう。普段出撃等もこなした上
俺と同じタイミングで布団に入った筈なのに随分と早起きな事――。

「っ」

 なんとなしに見つめていた雷の後ろ姿を見て息を呑んだ。
普段だったら最低限のボーダーとして穿いていた一枚の下着がない。
窓から入った日光に照らされた身体のラインは生まれたままで。

「どうしたの司令官?」

 雷が振り返る。気づいてないはずがないのに、
隠す様子もなくこちらに正面を向ける。


 どうしたもこうしたもあるか。
むしろお前がどうした。一体全体お前の頭の中で
どんな捻転が起こればそんな恰好で男の前に立てるのだ。

 とかなんとか、色々言いたかったが結局言葉はでず。
腹を空かした鯉の様に口を開閉させるだけにとどまった。
海兵だけに、とかしょうもない事が頭の隅を過ぎったのは
パニックの賜物か。こういった事を口にしたら最後、
俺の中にある崩れかけた『らしく』が別の形で砕ける予感がした。

「な、にを……」

 目を背けるべきだったのかも知れない。
あるいは大人の男として冷静に対応するべきだったのやも。
一体どうするのが正解なのかはわからないが、
それでももっと対応の仕方があった筈だ。

 しかし俺は全力で動揺した挙句、
雷の身体から目が離せなかった。
以前見た時は夜の薄闇の中で、それ以降は背を向けていた。

「どうしたの司令官?」

 さっきと同じ文言。けれど言葉尻はより柔らかく、甘い。
なぜ俺はこんなに動揺しているのか、わからない。
幼い頃、一緒に風呂に入った姉との思い出。
当時の姉とさして変わらぬ背格好で、決して女として成熟していない時分。


「服を……着ろ」

 やっとの事でそういった。
これ以上見てるとおかしな気分になりそうで。
けど、そんなことを考えてる時点で十分おかしい思考な気もする。
カラカラとハムスターの回し車の様に思考が全力で同じところを回って
まるで先に進まない。

「なんで?」

 首を傾げて不思議な事を言われた。みたいにきょとんとこちらを見る。
――違う、芝居だ。なにかを俺に言わせようとしている。
けどそれが何かはわからない。まだ寝起きだからか?
――違う、経験が無さ過ぎる所為だ。
なんの経験? そりゃ、女性との……。

 そこまで考えて、ようやっと気が付く。

「……あ、そうか俺。雷を子供じゃなくて女として見てるのか」

 するっと口からでた。全ての正解がでたみたいな気分だった。
「まぁ」と雷が目を丸くする。言わせたかった言葉、でも言うとは思ってなかった言葉。
それがあっさり出てきたことによる驚きと喜びを合い混ぜにしたような。

「あら、あらあら司令官ったら」

 くすくすと笑われ、とんでもないことを口にしたと理解した。
咄嗟に弁解しようとして、止まる。


「あぅ、その……」

 顔を凝視して気づく。
今まで散々色々な事を顔色一つ変えず行い、
俺を振り回してきた雷のその顔は初めて見る表情をしていた。
頬紅を塗ったかのように朱に染まった頬、
視線はキョロキョロと定まらず「あらあら」とか「まぁまぁ」とかを
繰り返し口にしてはいるものの、それ以上意味のある言葉がでてこない。

 照れている……のか?
裸で布団に入り込むことにすら躊躇いを見せなかった雷が、
熱くなった頬を覆うように手の平をあてわたわたしているのは。
一週間前のあの日まで俺が見てきた駆逐艦雷でも、
小悪魔の様に俺をかどわかし、するりするりと心に入り込んできた雷でも
保母の様に甲斐甲斐しく俺の世話を焼く雷でもなくて。

「……」

 やがてお互い言葉を失い自然と互いを見つめる形になる。
時計の針が刻む規則正しい音と、二つの呼吸音だけが耳に入る
静かな空間でただ、見つめ合う。


―――

 正解だった。


―――

 前言撤回。ならぬ前言訂正。
――間違いはなかった。

「提督、せんちゃんとなにかあった?」

 別に場面を飛ばした訳でもなんでもなく、
事実あの後しばし変な空気の中、危うく飲まれかけたタイミングで
見計らったかのように念のためにセットしている目覚ましが鳴り
お互い正気に戻った後、気まずい雰囲気の中雷が用意した食事をとり
現在は執務室で一人だ。一応言っておくと今朝の事が理由で
一人な訳ではなく、初日以降は仕事の手伝いは辞めてもらっただけである。
いくら完璧に手伝えたとしても、やはり今まで一人でやってきた以上
一度は自分の目で確認しないと気が済まないし、自分が背負うべき責任であると思ったからだが、
そこに川内との件も理由に混ざってる事も否めない。

「どうしてそう思う」

 そうして今朝の雰囲気を引きづって微妙に捗らない執務中。
『たった』こと龍田が執務室にやってきて上記のような台詞を口にした。
ちなみに『せんちゃん』とは川内の事だ。たったと同様呼ぶのは龍田だけのあだ名だ。

「だって前に執務室に報告に言ってから様子がおかしいんだもの」

 机に肘をついて向かい側から俺をじっと見るその目には
確信めいた物が浮かんでいて居心地の悪さが腰のあたりをこそこそと駆ける。


「……まぁ、概ね想像通りと言ったところだ」

 事実は事実として川内の友人である彼女にそれを伝えるべきだろう。
嘘を吐くのも忍びないし、吐いたところで見抜かれるのであれば
それは信頼を損なうだけで何一つ得がない。

「ふぅ、うん?」

 俺の答えに果たして龍田は首を傾げる。
その口端は友人を怒らせた俺に対して、この場に対して不釣り合いな程上がっていて。

「なに笑ってるんだ?」

 思わず聞いていた。

「ふふ、最近提督って雰囲気変わりましたよねぇ~」

 質問の答えなのかなんなのか、
そんな事を言って龍田は含み笑いを見せる。

「やっぱり雷ちゃんのおかげかしらぁ?」

 ぐっと仰け反る。今朝の事がフラッシュバックして、
馬鹿みたいに咳き込んだ。

「……なんの事だ?」

 ごほごほと何度か身体をくの字に曲げながらしらばっくれてみる。

「噂になってますよぉ? 提督が思っているより、みんな提督の事を気にしてるんだから」

 心底楽しそうに笑いながらも、
しかしその瞳には真剣な色を帯びていて。

「せんちゃんとのことも、それが原因なんでしょう?」
「……そこまでお見通しとは、恐れ入った。
 なら一つ相談があるんだが」

 相談。なんて一度もしたことがなかったその単語に
流石の龍田も驚いた様子を見せ、少々芝居かかった様子で
顎に手を当てて思案した後。おもむろに上を見上げる。
天井になにかあるのか? と自分もそちらを見てみるものの、
なにもわからずしばしそのまま龍田の言葉を待っていると。

「私より適任の子が居るから。その子に頼んでもらえる?
 どうせあと数分で来ますから、ね?」

 そう言い残し部屋をでていった。


「……やっほー」

 しばしして龍田の言う通りノックの音がして入ってきたのは川内だった。
ここしばらく報告を五十鈴に任せ顔を出すこともなかったのだが。

「久しぶりだな川内」
「同じ建物で寝起きしてて久しぶりもなにもないと思うけどね」

 目を合わせないで壁を見ながら喋る川内。
確かに、俺が相談したい内容を考えると多分川内以上の適任は居ないのだろう。
けど、今このタイミングで相談しろというのは……話し合えということか龍田。

「……で、相談があるんだっけ?」
「ん、あぁ。やっぱり聞いてたか」

 言うとビクンと川内の肩が跳ねた。

「え、気づいてた……?」
「気づくもなにも、龍田に言われて来たんだろ?」
「あ、あー……提督ってたまにスカタンになるよね」

 言われた事に普通に返したら心の底から呆れたとばかりに
深くため息を吐きながら酷い事を言われた。
スカタンて……今日日聞かないぞ。

「……はぁ。それで相談ってなに?」

 未だにこちらを見ないまま。
どうした物かと思いながらとりあえずと口を開く。

「なぁ川内。お前は、初期艦の次にうちに来たよな」

 初めての建造。
右も左もわからずとりあえず最初に支給された資源を全部突っ込んで。
『川内参上! 夜戦なら任せといて!』って大声で飛び出してきたのを
ハッキリと覚えている。

「……そうだね。懐かしいなぁ、もう何年前になるんだろう」
「四年と八ヵ月になるか、お前には色々と世話になった。
 付き合いの長さでも、戦力としても、監督艦としても」
「……ま、ね」
「そんなお前から見て……その、俺は……あーなんと言ったらいいか」

 上手く言葉が見つからない。
この場に適した、俺の言いたいことをキチンと伝えるには……。

「変わったよ、提督は。でも、変わってない」

 俺がなにか言うより早く川内は喋り出す。
壁に向かってではあるが、だからこそ真面目に。

「どういう、意味だ?」

 問いかけに答えるでもなく川内は独り言の様に。
壁に書いてあるカンペを読むかのように壁に向かって喋り続ける。

「昔っからそう、付き合いが長い娘だったらみんなわかってる。
提督が“そういう人”だって言う事は、気づいてる。
ただ触れられたくないって全面に出してるから、触れなかったけどね。
長門さんなんかは言ってたよ。『提督は針だらけだ』って。
でも、ハリネズミやヤマアラシとは違うと私は思うんだ。
提督はきっとマチ針とかを刺しとく針山だよ、周りを遠ざける針の山。
けどその実一番傷ついてるのは提督自身で。ずっと、そんな風に思ってた。
 本質はね、変わってないと思うよ。優しい所も、甘い所も、弱い所も、脆い所も。
でも変わった。さっきの例えなら針の量が減った……のかな?
少しだけ、周りから見て提督の素の柔らかい部分が見やすくなった」

 そこまで一息で言い切って、やっとこっちを見る。

「四年半以上、いつか提督から手を伸ばしてくれるのを待っていて。
変わらなかった提督がここしばらく急に変わった、
その原因が、理由が、きっかけが、雷だってことが私は気に食わない」

 俺の目を見てバッサリと。
なんと言えばいいのかわからない。

「良いと思うよ。提督が聞きたいのはそこでしょ?
うん、提督の下で働く一人の艦娘としてはその変化は歓迎するよ。
その変化は良いことだって、思うよ。でもさ、なんで雷なの?
それもたまたまなの? 私じゃ、ダメだったの? 最初に自分から動いたのが雷だっただけじゃないの?」

 なんといえばいいのか、わからない。

「ねえ提督。私、提督の事好きだよ」

今日明日辺りで終わらせる
が、既に大幅に予定のルートから外れてるのでちゃんと落とせるかはわからない
次は軽いノリのを書く、ドッキリとかまた悪戯系とか


 昔、軍学校を卒業する際。
仲間に祝の席だからとピンガを瓶一気させられた時、
頭蓋骨がなくなって脳味噌を直接殴られたかのような感覚があった。
けれど、いま川内の口からでた言葉はそれを遥かに凌駕する衝撃を
俺に与えた。あまりにも想像の範囲外だ。

「その……なんて言っていいか」

 それだけをなんとか口にする。

「言う事なんて簡単だよ。YESかNOの二択じゃん」

 さっと逃げ道をつぶされた。
時間稼ぎもその場凌ぎも潰されて、圧倒される。

「……」

 川内は、好きだ。付き合いは長いし、
気軽で気安く気兼ねない。気持ちも嬉しいし、ありがたい。
――じゃあなんで俺は悩んでいるんだ?
考えて、いの一番に脳裏に過ぎったのは、今朝の雷の姿。
そうか、あの時俺は『女として』なんて言っていたけれど
それもきっと正しくない。的を射てはいたが、中心ではない。
『惚れた女』と言うのが、まさしくど真ん中の正答なんだろう。

「……そっか」

 そこに思い至ったと同時、川内は呟いた。
今にも泣きそうな笑顔で小さく。

「ねぇ。もし、もしさ……」

 そして言いかけて。

「ううん、やっぱやめた。戦いにもし、れば、たら。は禁止って昔提督に言われたもんね」


―――

 シンと静まり返った室内。
別段騒がしかった訳ではないのだが、
空気感。とでも言うのだろうか、全体的にこの場が
雨雲の様にどんよりと暗く重く垂れこめて
普段一人で仕事をしている時には気にならない静寂が
今は耳が痛いほどに執拗に俺を責め立てる。

「……」

 ため息は、吐かない。
悪いことが起きたわけではないのだから、意地でも吐かない。
悪いことをしたと思うのも、きっと間違いで。
あの時川内は途中でやめたけれど、きっと悪かったのはタイミングなのだろう。
なんと、儚い。

 ずっと、俺は一人俯瞰で見てるつもりだった。
周りのみんなから距離を取って、死角から一方的に。
けど雷と川内の好意にまるで気づいていなかった、
みんなに知られていた、見られていたことに。

 もしかしたら俺はずっと背中を向けていたのかもしれない。
目の前にある薄い鏡に映る俺の背中を見つめていた皆を見て、
見ているつもりになっていただけなのかも知れない。

 握ったままのペンを机に置いて立ち上がる。
なにをするつもりなのか俺にはわからない、
でも変わったと言われた。自分自身、実感する部分もある。
なら思い切って正面向こう。あいつらの言葉を信じて、
それで距離が離れることがないと信じよう。
いや違う、自分から詰めていかないといけないんだ。

オチは決まってるのにそこまでのあと少しがいまいち筆が進まない

他のスレの合間に気紛れ程度に覗きに来てください


―――

――うわ、提督どうしたの!?

――提督さんが外におるなんて、珍しいこともあったもんやねぇ

――どうしたんですか提督、執務室がなくなったんですか?

―――うえぇ!? なんであんたこんなとこに居んのよ!?

 エトセトラ。エトセトラ。
俺の顔を見て異口同音にでてくる驚き、困惑。
それだけ俺が外にでることがなかったのだと言う事を
痛感する。自責の念にたえない。
ただそれでもキチンと話をすればわかる事もある。
少なくとも、皆びっくりはしても責めたりはしなかった。
むしろ喜んでくれたり、心配されたり。
姿を見つけて駆け寄ってくれたりするのは素直に嬉しかった。
自分の足で出なければわからなかった事だ。

『ってーい!』

 屋内から庭へでて、日の下で歩くことしばらく。
大きな声と共に爆発音がして、次いで上がった水柱が
叩きつけられる激しい水音が轟く。

「……何事だ?」

 時間的に演習もなく、本来こんな音が響く筈はない。
仮に自主練だとしても燃料弾丸は消費する為、
報告してからというのが決まりだ。

「あれー! なんでこんなところに提督さんがいるっぽい!?」

 今日幾度目になるかわからん怪訝な声。
けれどそれも束の間。

「でも丁度よかったっぽい! 川内と雷が勝手にタイマン演習始めちゃったっぽい!」


―――

 夕立に引っ張られるがままに演習場に走った。
川内と雷。その組み合わせと今朝のやり取り。
少なからず俺の脳裏に嫌なモノが浮かんだのは否めない。
しかし実際にその場に行って目にした光景はそんなイメージとは裏腹に。

「よっしゃー! 私の勝ちー!」
「もういっかい! もういっかいよ!」

 楽しそうにけらけらと笑い飛び跳ねる川内と
黒い煙を吐き出しながらごねる雷の姿があって。
「はぁ」と肩の力が抜ける。

「お前ら、なにやってるんだ?」

 演習場。深く広い室内プールのような物をイメージしてくれれば
それが最も近いだろう。天候、時間、波。様々な環境を自由に設定できる
屋内プール。その壁や天井には艤装と同様にたやすく修復できる素材が使われている。
妖精の技術、ここに極まれりと言った理解の範疇外である施設だ。
と言っても修復にも資材が使われるし、最大でも一日に十回の使用が限界なのだが。

「あれ、提督。外、出たんだ」

 とにかくそんな演習場の中。
夜を演出され暗い場所。川内はようやく俺に気づいて意味ありげにそういうと、
雷も次いでこちらを見遣る。少し気まずい空気だ。

「じゃあ私が勝ったから私がもらうね?」
「んー!」

 その空気を払拭するかのように川内が声を上げる。
どうやら台詞から察するになにかを賭けて居たらしい。

「じゃあ勝った商品として提督に一つ命令権を得ました!」

 ばばーんと効果音がなりそうな勢いだ。
……ん?

「まて、お前等の勝手な演習の勝敗に俺を巻き込むな」
「まーまーまーまー」

 とんとんとん、と三歩歩いて俺の横に並び。

「じゃあ提督に命令しまーす!。

 バンと背中を叩かれプールに落ちた。
流石に艦隊を率いる提督として頭から逆さに落とされた所で
溺れたりはしないが流石に焦って川内を睨みつけると。

「 ……私に言ったことを直接雷に言ってこい!」

 格好良く笑って川内はさっと外にでていった。


―――

 演習場にシャワールームがあるのは
そりゃ管理している立場として知っては居たが
しかし自身がそこでシャワーを浴びる羽目になるとは露程も思っては居なかった。
更に言うと就業前にどこであれシャワールームに入る事自体が初めてだ。
本当に、ここ最近の俺は初めての行動ばかりをしている。

「……あー」

 首を傾けるとごきごきと小気味よく音が鳴る。
前髪から垂れる水滴の行く先を眺めてみた、
抜けた数本の髪と一緒に排水溝に流れて消えた。

『直接雷に言ってこい!』

 川内の台詞が延々とリピートされる。
わかっている、言わなくてはいけない。
あの場で川内が大声で言った所為で間違いなく
ここからでたときに雷の方から接触してくるだろう。

 いや、所為という言い方は川内に悪い。
きっと川内は弱い俺の為に背中を押すつもりで
あぁいう言い方をしたのだろうし、実際ありがたいとも思う。

「腹ぁ括らないとな」

申しわけありませんが244をなかったことにしたいんですが構いませんね!?

なんで髪の話になってるのかちょっと理解に時間がかかった

>>236

 バタンと音を立てて扉が閉まり
日光が遮断され夜戦の設定に従いほとんど暗闇の演習場に
雷と二人取り残される。

「司令官大丈夫?」

 水面を移動する雷と肩まで水に浸かる俺では
自然と普段と視線の高さは大きく変わり自然見上げる形になる。

「はい捕まって司令官」

 言って手を伸ばしてくる。
いい加減そこそこの厚着をしたまま立ち泳ぎを続けるのがしんどくなってきた。
体力の低下が著しい、デスクワークに終始しすぎたのかも知れない。

「……司令官?」

 雷の手を掴もうと、伸ばしかけた腕を止める。
伸ばされた手、それは今だけじゃなくて。
ずっと、ずっと雷は俺に手を伸ばし続けてくれた。
多分、雷だけじゃなくて。俺が気が付かなかっただけで、
川内にしろ誰にしろ俺が振り向けば、周りを見渡せばきっと多くの人が
手を差し伸べてくれていたんだろう。俺はそれをずっと拒み続けて、
知らん顔して。

「なぁ、雷。この手を俺は掴んでいいのかな?」

 僅かに波立つプールに口元を度々覆われて
そこまでハッキリと澱みなく言えたかどうかはわからない。
息継ぎに必死になっていた気もする。
けれど意味はキチンと伝わったのか――。

「もちろん」
「……ありがとう」

 小さな雷の手を掴む。

「なぁ雷」

 冷たい、水から。自ら、引き上げられる。
ずっと浸かっていた、まとわりついていたそれらから。

「お前に惚れた。好きだ」

 小気味よく聞こえる水音が、
過去の全部が砕けていく音にも聞こえた。


―――

「あ、持ってくのかそれ」

 片手に持った分厚く束ねられた手紙を持って歩いていると、
先輩は軽く笑いながらそう言った。

「はい。やはりこれを受け取るべきなのは彼だと思いますし、
 それにこれならもしかしたらとも、思うじゃないですか」

 札束にすれば300万円ほどの厚さになるか、と言うそれを掲げて
こちらも笑い返すと先輩は肩を竦めて今度は少し嘲笑交じりの表情をする。
そして親指と人差し指で丸を作ってこういった。
「なら、賭けるか?」と。


―――

「失礼します」

 門をくぐってしばし歩いた所で軽巡――だった筈――の艦娘と遭遇し、
案内を頼む。途中手に持っていた書類と手紙に興味を示されたり、
聞いてもいないのに夜間戦闘のあり方講座を受けたりしながら向かった先の部屋。
『執務室』と明朝体で書かれた部屋。アポイントなしの訪問ではあるが
『提督なら中に居るから勝手に入っちゃっていーよ』とは軽巡の娘は言っていた。
無論一応はノックを四回して、反応があったので入室する。

「……おや、誰かと思えば」

 仕事中だったのだろう、机に向かっていた彼は
突然の訪問者が自分である事に気づくと「なにかあったのか」
と顔を険しくする。それも当然で、憲兵である自分が鎮守府に足を運ぶ事など
面倒事を背負いながらである場合が多いからで。

「いえ、今回は郵便屋の真似事ですよ」

 彼の懸念を否定しながら机に寄り持ってきた手紙の束を渡そうとして――

「司令官こっちー?」

 奥の部屋から駆逐艦――これは流石に外見で断定できる――が、
下着姿ででてきた。恐らく風呂上りなのだろう
濡れた髪をタオルで拭きながら。彼女の頭の向こう、
開いた扉から覗く部屋にはベッドがあってそれが寝室であることが伺える。

「あれ? ……ご、ごめんなさい!」

 少女と目が合うと、人が来ているとは露程も思っていなかったのか
彼女の顔がみるみる青ざめて、なにに謝っているのかわからないが
勢いよく扉は閉められた。


「……驚きました」

 閉められた扉から視線を彼に戻す。
見慣れぬ、少し困ったように眉を顰めた彼に
なんて言ったらいいのか悩んだ結果。
でてきたのはそんなつまらない台詞だった。

「どういう意味だ」

 眉尻を指先で擦りながらこちらを見る目は
わかりやすくムッとした感情が込められていた。

「……変わりましたね。いや、変えられたんですか?」

 自分が。そして目の前の彼、提督が、
今の場所に配属されてどれほど経つだろうか。
立場上、親しくはなれないが。それでも何か月か一度、精々二度程度でも
顔を合わせればわかるものがある。特に、彼の様に
多くの艦娘に慕われてる人は、彼自身が語らなくても
自然と周りが語り出し耳に入る。

「わざわざからかいに来たのか?」
「まさか」

 僕は手に持っていた手紙の束をそっと彼に差し出した。
いや、本来はこの手紙一つ一つ、全てが彼に差し出された手紙だ。
ただ表にでない彼の元に届かず、事後処理に翻弄したこちらに届いてしまっただけで。

「これは……」
「貴方が、貴方の艦娘達が掬い上げ救い出した人々の感謝の声ですよ」

 『賭けをしよう』先刻の先輩の言葉が思い出される。
この手紙を持ってきた理由は実のところそれだけじゃない、
もしかしたら。と思ったからだ。
殻にこもる彼に働きかける外からの声になれば、と。

「……貴方がこれまでどんな気持ちでこの仕事をしていたのかは
 自分にはわかりかねます。けれど、その行いも、救われた命も、また真実なんですよ」

 でも、それもどうやら徒労に終わったようだ。
目の前に座る彼は既に。

「失礼しまーす……」

 奥の部屋から、遠慮がちな声と共に扉を開けて
先程の駆逐艦が顔をだした。すっかりと制服に着替え現れたのは
先程の一瞬ではわからなかったが、何度か顔を合わし
話もしたことのある暁型の3番艦だった。

「ごめんなさい、お客さんが来てるとは思ってなくて」

 ぺこりとこちらに頭を下げる少女に笑いかけ
「いやむしろ感謝を言いたいくらいです」と返すと疑問符を頭に浮かべられた。

「それより提督殿。この後臨時収入が入る予定なんですが、
 ……たまには一杯いかがです?」

 過去にも何度かしたことのある誘い。
大方断られるだろうと思いながらして、そして断られてきたけれど。

「……あぁ、構わない」

 どうやら今日、初めて僕はナンパに成功したようだ。

正直に言うと最後は第三者視点で終わらせようと思ってて
だからこれで本筋は割と俺の中では終わりなんだ

というのも本筋の中にエロを入れるのは無理だなと割と序盤で思って
一旦メインを終わらせてからエピローグ的にこんな感じになったよと
初夜とか日常を書こうと思ってたんだ

が、もたもたしてるうちにエロを書くと僻地に飛ばされるという事態が発生してしまった上
完全に俺のモチベーションがここで終わってしまった

ので、不完全燃焼なのは重々承知の上一旦これにて閉幕にさせていただけませんでしょうか


雷に甘やかされて夕雲に甘えて
浦風に窘められて霞に怒られて
曙を甘やかして叢雲に射精管理されたいだけの人生だった……

次なにを書くか

1.色々な曙 その2
2.雪風の影のお話
3.提督「とりあえず目に付いた艦娘を褒めて撫でて抱きしめて頬にキスしてみる」
4.大井っちにわざと殴られて大井っちを孤独にさせるお話
5.提督「お断り勢しかいない」大井「あ、あの……」


1か5かな
てかずっと気になってたんだがイッチの嫁艦はボノなの?
それとも大抵登場する多摩??

>>282
ケッコン艦は曙・雷・夕雲・浦風・天津風・霞・如月・川内・足柄・大井・北上・龍驤・扶桑


補足
2. 雪風の影のお話
 陸軍の粗末な模造施設と半端な雪風の破片を使って作り出された
 暗く大人しく内向的で不幸なユキカゼが艦娘の雪風と出会ったり
 喧嘩したり仲良くなったり別れたりするお話

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 とりあえず5を立ててきます

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年04月11日 (月) 19:19:44   ID: guRGdro-

ピクシブで書いとけ、なんかくどいし
読みにくいし。

2 :  SS好きの774さん   2016年05月12日 (木) 08:16:52   ID: 1HKmmLsD

あー台本と違って久々にこういうの読むと文章力すげー高く見えるな。台本以外は読みづらいとか感じない人なら普通に良作かな

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