山城「あぁ~んっ」シクシク
扶桑「そうなの……」
扶桑「朝起きたら、あの子のお部屋のタンスが開けられててね……」
扶桑「シャツとか下着とか、いろいろなくなってたのよ……」
雪風「山城さん、かわいそう……」シュン
扶桑「特に、私が昔にあげた手袋を盗まれたことが一番のショックだったみたい……」
扶桑「私はまた違うのをあげるって言ったんだけど、それでもね……」
雪風「むむむ……許せません!」
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雪風「事情はわかりました……」
雪風「それでは雪風、今から犯人さがしにいきますね!」
扶桑「え、えぇっ?」
扶桑「そんな、危ないわ……」オロオロ
扶桑「手がかりはないし、どんな変質者かも分からないし……」
扶桑「ここは憲兵さんにお任せした方が……」
雪風「いえ!それが雪風にはわかるんです!」
雪風「犯人はあの人しかいません!」エッヘン
扶桑「?」
……
…………
………………
雪風「しれえ!おなわにかかってください!」ビシッ
提督「いや、そこでなんで俺になるのっ」
雪風「“男はみんなレディのしたぎが大好きなのよ”って」
雪風「暁ちゃんが言ってましたので!」
提督「そうだけど……いやそうじゃなくて!」ブンブン
提督「残念だけど、俺にはアリバイがあるかんな」フフン
雪風「えっ」
提督「なぁ?」チラッ
後輩「は、はい……」
雪風「しれえ、このお方は?」
提督「海軍兵学校時代の後輩だよ」
提督「来月から、新たにどこかの泊地の司令となるんだが……」
後輩「直前の直前になって、不安になってしまいまして……」
後輩「先輩へ相談に伺っておりました……」
雪風「そうだったんですか!じゃあ、しれえはシロですね!」ニコッ
提督「そうか、山城のためにね……」
雪風「はい!」
雪風「しれえは犯人ではなかったので、今から“じけんげんば”に戻りますねっ!」
提督「おう、頑張ってくれぃ」
雪風「はい、ではっ!」ビシッ
ガチャン
後輩「……仲間想いの、良い子ですね」
提督「そうなんだよなー」
後輩「そうか……」
後輩「これもまた、“艦娘”の一面なんですね」
提督「あぁ、そうだ」
後輩「自分は今まで、女性を兵器として扱うことに……少なからず抵抗がありました」
提督「……俺も昔はそうだったな……」
提督「でも、実際はそうじゃない」クスッ
提督「彼女達とは持ちつ持たれつ、お互いできないことを補い合える“パートナー”なんだ」
提督「……そのつもりで接してやってくれや」
後輩「はい……!」
……
…………
………………
「キャ――――ッ!」
雪風「きゃっ!」ビクッ
雪風「どうしたんですか!?」
山城「ね、猫が私の部屋に……!」
雪風「猫?」チラッ
黒猫「にゃー」
雪風「ひゃっ!ほんとにいました!」
雪風(山城さんの手袋をくわえてる……じゃあ、この子が犯人……?)
黒猫「にーっ」ダッ
山城「あぁ~、逃げたぁ~」グスッ
雪風「雪風、追いかけますっ」
雪風「まて~!」ドタドタドタ
雪風「はぁ、はぁ……」
雪風(外まで来ちゃいました……)ハァハァ
雪風(とても……逃げ足がはやいです……)ゼイゼイ
雪風(でも、そう遠くには逃げてないはず……)
雪風(……名たんていの第一歩は“ききこみ”らしいですね!)
雪風(あの喫茶店で一度きいてみましょう!)
……
…………
………………
店主「はぁ……」
店主(今月に入ってから、店をここに移転して)
店主(お客さんの入りがよくなったのはいいが……)
店主(それと引き換えに、一人娘が新しい中学に入学したくないと言い出した)
店主(小学校の卒業に合わせて引っ越せば問題ないと考えていたが……)
店主(よく一緒に遊んでいた友達と離れ離れになるのは、やっぱり辛かったんだろうな)
店主(……でも、仕事は軌道に乗ってきているし……)
店主(かといって、娘に不安を持たせたまま中学に行かせるのも……)
ガチャ カランカラン…
店主(おっといけない、お客さんだ……)
店主「いらっしゃいませ」ニコッ
店主「お好きな席にどうぞ」
スタスタ…スッ
雪風「ますたー!ホットココアを一つくださいっ」
店主「はい……」スラスラ
雪風「それと……」
雪風「“じょうほう”を……ひとつ」ドヤッ
店主「は……えぇ?」
店主「黒猫か……僕は見て無いなぁ」
雪風「そうなんですか……」シュン
店主「力になれなくて、ごめんね……」ペコリ
店主「今からホットココアを入れるよ、すこし待ってね」
スタスタスタ…
雪風(うぅ……“ききこみ”終わっちゃいました……)
「あぁー!猫ちゃんだー!」
雪風「……えっ!」
黒猫「にぃー」スリスリ
少女「かわいー!手袋咥えてるー!」
ガチャ
雪風「あっ!その猫……捕まえてくださいっ」
少女「えぇー、そんなことしたら可哀想だよぉ」
少女「……てか、あなた誰?」
黒猫「フシーッ!」ビクッ
ダダッ……
雪風「あぁ~!」
少女「猫ちゃんが逃げたぁ!」
少女「もぉ、あんたのせいよ!」
雪風「違います!“犯人いんぴざい”で悪いのはそちらです!」
少女「なにを~っ!」
雪風「むむむ~っ!」
少女「勝負よ!」ビシッ
雪風「のぞむところです!」
「「じゃ~んけ~ん……」」
雪風「はぁ……はぁ……」
少女「100勝100敗……か……」
少女「……やるじゃない……」フフッ
雪風「そちらこそ……!」ニコッ
店主「おまちどう様、ホットココアだよ……」
店主「あれ、いなくなってる?」
店主「どうしたのかな、トイレかな……」キョロキョロ
店主「……!」
「そのとき、雪風は言ったんです……」
「“それは買ってきたチョコですけど”……って」
「きゃはは!その人カワイソー!ウケるー!」
ワイワイ ガヤガヤ
店主「…………」
店主「……ふふっ」クスッ
雪風「ごちそうさまでした!」
雪風「ココア、とてもおいしかったです!」
店主「あぁ、またいつでもいらっしゃい」
少女「雪風~、またね~!」ブンブン
雪風「はい、さようなら!」ブンブン
タタタッ
少女「お代……いらなかったの?」
店主「……あぁ」
店主「なんていったって、愛娘の大事な“お友達”なんだからね」
少女「……パパ」
少女「……あたし、やっぱり中学行きたい」
店主「なに、本当か!」
少女「ウン」
少女「雪風みたいな友達……もっとたくさん作りたい……」
少女「……いいかな?」
店主「……あぁ!」
店主「何人でも何百人でも、ウチに連れてこい」
店主「コーヒーの味が分かるくらいまでは、たっぷり御馳走するからな」ニコッ
……
…………
………………
めしくってきます
黒猫「にゃーっ」ダダダッ
雪風「待ってくださ~い!」ダダダッ
雪風「はぁ……ひぃ……」ガクッ
雪風(また、逃げられてしまいました……)
雪風(かくなるうえは!)スッ
雪風(この双眼鏡で……)キョロキョロ
雪風(…………いました!)
……
…………
………………
ギギギギ
ドドドドドッ
警備員「…………」
主婦「……ねぇ、この橋の工事いつまで続くの?」
警備員「6月までです……」
主婦「6月!」
主婦「あぁ~、もう嫌になっちゃう……毎日毎日こんな騒音の中を歩くなんて……」
警備員「……安全のため、こちらのコーンの中を歩いてくだ……」
主婦「分かってるわよ!」キッ
スタスタスタ…
警備員「…………」
運転手「おい!なんで片側だけ通行止めやねん!」
運転手「現場が対岸にあるんやけど!」
警備員「申し訳ありません……迂回路をお使いください」
運転手「向こっかわの車は通しとるやないかい!」
警備員「北側の欄干補修をしておりますので、片……」
運転手「チッ……クソッ、ボケェッ!」
運転手「こんな工事、さっさと終わらせてまえ!」
ブロロロロrrrr…
警備員「……はぁ」
ギギギギギ
ドドドドドッ
警備員「…………」
黒猫「にゃーっ」
タッタッタッ…
警備員「…………」
タッタッタッ…
雪風「待ってくださ~い!」
警備員「……待って」サッ
雪風「ひゃっ」
ブロロロロロrrrrr……
雪風「び、びっくりしました……」ヘナッ
警備員「……青信号だけど、左右の車はよく見て渡るんだよ」
警備員「……いいね?」
雪風「はいっ!」
雪風「ありがとうございますっ!」ペコッ
警備員「……ん」
警備員「車……無くなったよ」
雪風「はい!それではっ」
タッタッタッ…
警備員「…………頑張ろう」フフッ
……
…………
………………
雪風「はぁっ、はぁっ」
雪風(けっこう遠くまで来ちゃいました……)ガクッ
雪風(……それにしても、いったい手袋をどこに持っていくつもりなのでしょう?)
雪風(もしかして、なにか目的があるんでしょうか……)
雪風(……でも、あれは山城さんの思い出の手袋なんです)
雪風(ぜったい、とりかえししますっ!)
タッタッタッ……
雪風「はぁ……はぁ……!」
雪風「ここは……市民病院?」
黒猫「にゃーっ!」
ピョンッ
雪風「あっ!」
雪風(木から、病院の二階の窓へ跳んで入ってしまいました!)
雪風(ど、どうしましょう……!)
雪風「仕方ありません、雪風も病院内へ……!」
……
…………
………………
医師「」スタスタスタ
看護師「」スタスタスタ
雪風「うぅ……」
雪風(雪風が場ちがいな気がするのも、重々しょうちです!)
雪風(えっと……あの子が入っていった部屋は……)キョロキョロ
雪風(……ありました!)ニコッ
すこし風呂はいりますね
ピッ……
ピッ……
老婆「……病院に来ちゃダメだって……言ったじゃないの」
黒猫「……にぃ」
老婆「……それにあなた、また人様のものをとってきたの?」
黒猫「にゃあ」
老婆「……困った子ねぇ……」
ガララ…
雪風「あの……すみません……」
老婆「……どなた?」
雪風「ひぇ」ビクッ
老婆「そう……その手袋は、あなたのご家族のものだったのね?」
雪風「はいっ、そうです!」
老婆「……ごめんなさいね……」ペコ
雪風「そんなっ、おばあさんはなにも悪くありません!」
雪風「もとはといえば、その子が手袋を……」
老婆「……この子もきっとね……悪気があったわけじゃないの」
黒猫「にぃ……」シュン
雪風「えっ?」
老婆「私の手がこんなだから……」
老婆「きっと、気を使ってくれたのよ」ニコッ
雪風「!」
雪風(手と爪がボロボロ……!)
老婆「……あなた、どちらからいらしたの?」
雪風「え、あぁ、えと……」アタフタ
雪風「南の海岸の方からです!」
老婆「あら……南の方なの」
老婆「奇遇ね……私も昔はそこに住んでいたわ……」ニコッ
老婆「戦争中は長崎に移り住んで、そこの軍需工場ってところで働いていたんだけどね……」
老婆「戦争が終わったらまた戻ってきて、それからはずっと住んでいたのよ?」
雪風「では、ご近所さんですね!」
老婆「えぇ、そうね……」フフッ
老婆「あの辺りの工場は……たしか今の戦争で無くなったのよね」
雪風「工場……ですか?」
老婆「えぇ、私が病気を患うまで……ずっと工員として勤めていたところ……」
老婆「そして、怪我してたこの子を治してあげたところね」
黒猫「なぉ~」ゴロゴロ
雪風「よしよし!」ナデナデ
老婆「戦後は女なのに工員はおかしい、変だってずっと言われてたけどね……」
雪風「雪風は、変とは思いませんよ?」
老婆「ふふふ……ありがとう」
老婆「……おじょうちゃん」
老婆「……よかったら今の海岸の様子……もっと聞かせて?」
雪風「はいっ!」ニコッ
……
…………
………………
雪風「では、これで失礼します!」
老婆「うふふ……お話聞かせてくれて、ありがとうね」ニコッ
雪風「こちらこそ、手袋をかえしていただきありがとうございます!」ペコッ
黒猫「にゃあ……」
老婆「あなたも、ここは病院だから出て行きなさい……」
黒猫「……」スクッ
ピョン
老婆「……おじょうちゃん」
雪風「はい、なんでしょう!」
老婆「精一杯生きるって、いいことね」
雪風「?」
老婆「ふふっ……分からないわよね」
雪風「……すみません」シュン
老婆「いいのよ……それじゃあ」ニコッ
……
…………
………………
ピッ…
ピッ…
「……先生」
「なんでしょう」
「……私、ある女の子とお話してね……」
「……“海”が見えたの」
「……もう怖くないわ、言って……先生」
「……今度はどこに転移したの?」
「っ!」
「……分かったわ」
「私は……子供が産めなくなっても、それがきっかけで男に捨てられても……」
「それでも精一杯働いて、私は私の生きたいように精一杯生きてきた……」
「そんな私のそばには、いつでも海があったのよ」
「最期を迎える前に、もう一度それが見られたの」
「これって……とても幸せなことよね?」
「…………」
「ふふっ、先生……どうして泣いているの……?」
「おかしな先生ね……」
……
…………
………………
山城「ふぅ~!」
山城「やっと片付けが終わった……」ヘナッ
山城「下着とかはベランダに引っかかってて助かったけど……」
山城「……でも手袋だけは、帰ってこなかった……かぁ」シュン
ガチャン
雪風「山城さんっ!」
山城「あぁっ、雪風!」
雪風「手袋、持って帰ってきましたよ!」
山城「えっ……ほんと!?」
雪風「はい!」スッ…
山城「……ゆ~き~か~じぇ~っ」ギュッ
雪風「ひゃっ!」
山城「ありがとーっ!本当にありがとぉ!」グスッ
雪風「えへへ……」ニコッ
ギュウギュウ
雪風「……山城さんっ」
山城「ん、なぁに?」
雪風「精一杯生きるって……」
雪風「どういうことなんですか?」
山城「……えと……何かあったの、雪風?」
雪風「…………」
山城「……そうね」
山城「今が幸せか不幸か……じゃなくて」
山城「最後の瞬間に笑っていられるようにしておくこと、かしら」
雪風「さいごに……笑う……」
山城「少なくとも、私はそう思って生きてるの」エヘヘ
山城「……今がこうも不幸だと、たまに心が折れそうにもなるけどね……」フフフ…
雪風「……」ジーッ
雪風「えいっ!」ギュ
山城「ふあっ!?」
山城「ゆきか……どうしたのいきなりっ」
雪風「山城さんの心が折れないように、支えてるんです!」
山城「……!」
雪風「山城さんっ、雪風たちも精一杯生きましょう!」
雪風「……ねっ!」ニコッ
山城「……ほんと、あなたには敵わないわ……」フフッ
山城「……あたりまえでしょ?」ギュ
雪風「はい!」ニコニコ
――――――――――――fin―――――――――――――
このお話は、これで終わりとなります
今回は少しほっこりできない話になってしまったかもしれません……
それでもここまで読んで下さった方、ありがとうございました。
このSSまとめへのコメント
今日、海を見た。もう怖くない。
懐かしいな。