ネリー「プレゼントは現ナマでいいよ!」 (29)
『それでは、選抜大会二日目の結果をお伝えします。今年も、あの強豪校が力を見せつけてくれました』
ダヴァン「……」ズズズ
(コンコン)
ダヴァン「どウゾ。開いてまスヨ」
(ガチャ)
智葉「おうメグ。……夕食中か、すまなかった」
ダヴァン「気にしないでくだサイ。それより、例のアレは持ってきてまスネ?」
智葉「ああ、待ってろ。このカバンに入れてきてあるから、いま取り出す……」ゴソゴソ
智葉「ほら」
UNO「やあ」
トランプ「チッス」
花札「こんばんは」
ダヴァン「……」
ダヴァン「…………??????」
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ダヴァン「あー……サトハ? これはいっタイ……」
智葉「いや、あいつらに会ったら気晴らしで何かに興じることがあるかもしれんしな。麻雀以外での遊び道具は、これくらいしかなかったが……」
ダヴァン「……」
智葉「それにしても、ネリーたちに会うのも久しぶりだなぁ! 近頃は顔も見せてやれてなかったし、大会中とはいえ少しの間羽目を外すくらいは……!」
智葉「いや、本来の目的も忘れていないぞ? しかし、麻雀抜きで会うというのは現役の頃も中々なかったしなんというか、胸が躍るような心地ではあるな」
智葉「そうだ、ハオやミョンファたちには連絡してないのか? せっかくだしあいつらにも協力してもらって……ああ、あの二人と会うのも楽しみだ。なあメグ、お前もそうだろう?」
ダヴァン「親戚のオバチャンですか、あなたは」
智葉「……浮かれすぎていたな。すまない」
ダヴァン「謝らなくてもいいのでスガ……。とりあえず、コーヒーでも飲んで落ち着きまショウカ?」
智葉「ん? ……ああ、自分で淹れるからいいよ。麺が伸びるだろうし、気にせず食べていてくれ」
ダヴァン「そうでスカ。わかりまシタ」
テレビ『……広島の鹿老渡高校が追撃を見せますが、副将のハオがこれをシャットアウト。4万点差にリードを広げ、大将戦へバトンをつなぎます』
ダヴァン「……」ズズズ
智葉「……ふぅ」
ダヴァン「……プロはどうですか、サトハ」
智葉「まだ駆け出しのペーペーだ。通用しないとも思わんが、今は慣れるので精一杯だな」
ダヴァン「そうでスカ」
智葉「メグは……いや、いい。食べ終わってから話そう」
ダヴァン「そうでスネ」ズズズ
(コンコンコンコンコンッ)
智葉「……誰だ?」
ダヴァン「はテ……。私が部屋に呼んだのは、サトハだけなのでスガ」
智葉「私が出よう。お前は先にラーメンを食べるほうを優先してくれ」
ダヴァン「ありがとうございマス」ズズズズズ
ネリー「メーグーっ!! ネリーが来たよ!」
智葉「……」
ネリー「あれー、どうして智葉がいるの? メグは? 病気?」
智葉「……いや、あいつは元気だぞ」
ネリー「そうなの? ……じゃあ、怖い人たちに追われて智葉の家に逃げてるとか?」
智葉「なんでそんな発想が出てくるんだお前は」
ダヴァン「オーウ、ネリー! どうしたのでスカ!?」
ネリー「バースデーのプレゼントもらいにきたの! ラーメン食べるまでは待っててあげるよ!」
智葉「堂々とタカるんじゃない。……それより、両手に持ってる袋はなんなんだ」
ネリー「これ? 寮のみんなからプレゼントいっぱいもらったんだ、羨ましいでしょ!」
智葉「そうかそうか。……まったく、たくましいやつだな」
ネリー「右手の袋に入れてるほうが換金できそうなもので、左手の方は換金できないものって分けてるの」
智葉「……本当にたくましいやつだな……」
ダヴァン「ネリー、お金ばかりに囚われてはいけませンヨ。あなたの価値観を否定はしませンガ、皆さんからの厚意を金に換えるなンテ……」
智葉「メグの言う通りだな。流石のネリーでも、そのくらいの分別はあるだろう?」
ネリー「ぅぅ……」
智葉「ちなみに、何をもらったんだ?」
ダヴァン「私も気になりまスネ。自分のチョイスが他の人とカブってないかも確かめたいでスシ……」
ネリー「いいよ、見せてあげる。えっとねー……」ゴソゴソ
ネリー「まずはこれ! ウォンバットのぬいぐるみ!」
智葉(いきなり変なやつが来たな……!)
ダヴァン(動物園か海外旅行のお土産でしょウカ……!?)
ネリー「それとねー、指輪もらっちゃったの! プラスチックの安物だけど、キレイなんだー」
智葉(なんだか意味深だな……)
ダヴァン(サイズは合ってるんですカネ?)
ネリー「新品の化粧水。『大人になりたくなったら、いつでもお化粧教えてあげるからね』って……まったく、失礼しちゃうよね!」
智葉「しっかり貰ったお前が言うな」
ダヴァン「ネリーは子供っぽいですかラネ」
ネリー「あとね、これは凄いよ……じゃんっ! 小型の音楽プレーヤー!」
智葉「おぉっ」
ダヴァン「どうやら旧式のようですが……なかなかフトッパラでスネ」
ネリー「『弟にあげる予定だったけど、ネリーの方が可愛いから』って言って先輩がくれたの! 子供っぽくて得しちゃったよ!」
智葉「自分で子供っぽいって認めてるじゃないか……」
ダヴァン(弟さん……ご愁傷さまデス……)
ネリー「でね、でね、お菓子やおつまみも沢山もらったから、後でハオやミョンファと一緒にパーティーするんだー。いいでしょー」
智葉「タカるというより一種の餌付けだな、これは……」
ダヴァン「ハロウィーンを彷彿とさせまスネ」
ネリー「そういうわけで、プレゼントちょうだい! 現ナマでもいいよ!」
智葉「そういうことを言うやつにはびた一文やらん」
ネリー「ぶー。智葉のけちー」
ダヴァン「まあまあ。ちゃんとプレゼントは用意してまスシ、焦らないでくだサイ」
ネリー「やったー! メグ大好き! 智葉とは大違いだよ!」
ネリー「やーいやーい! 智葉の守銭奴ー!」
智葉「……私はこんなやつと会うのを楽しみにしていたのか……」
ダヴァン「ひ、久しぶりにサトハに会えてエキサイトしてるだけでスヨ、きっと……」
智葉「まあ、なんだ。寮の部屋を回ってて体も冷えたろうし、茶でも飲んで少し温まっていけ」
ネリー「コタツが欲しいなー。暖房があるのに、狭くて家具も少ないなんてこの寮おかしいよ」
ダヴァン「ハハハ。それよりネリー、紅茶とコーヒーのどちらにしまスカ? ウーロン茶もありますケド……」
ネリー「なんでもいいよ! でも、ちゃんと温めてね」
ダヴァン「わかりまシタ。では、ラーメンのスープはみそとしょうゆとどちらにしまスカ?」
智葉「ナチュラルにラーメンをすすめるなよ……」
ネリー「とんこつあるー?」
智葉「お前もお前で応じるな!」
ネリー「ふーっ、ふーっ。……ん、おいしい!」ズズズ
ダヴァン「気に入っていただけてよかったデス。では、私も……」ズズズズズ
智葉「ついさっき食べ終わったばかりだというのに、自分の分も用意したのか。呆れたやつだ……」
ダヴァン「日本のラーメンは、まさにワンダーランドデス。いくらでもイケまスヨ!」
智葉「わかったから、食べながらしゃべるのはやめろ」
ダヴァン「すみまセン」
ネリー「ねーねー智葉。ネリーが分けてあげるから、智葉もスナックか何か食べてれば?」
智葉「他人からのプレゼントを得意げに譲るなよ……」
テレビ『それでは、次のニュースです。桜前線の到来を受け、関東地方では早くも花見で盛り上がる人たちの姿も……』
ネリー「へー、お花見かー。智葉たちさ、卒業する前にみんなで桜見に行ってみない?」
智葉「いい思い付きだな。早速、選抜大会が終わった後にでもやってみるか」
ダヴァン「オー! 美しく咲いた桜の下で食べるラーメン、想像するだけで楽しみデス!」
ネリー「もー。メグは麻雀とラーメン以外に話せることはないの?」
ダヴァン「てきびしーでスネ」
智葉「ふっ……」
ネリー「あーっ、智葉が笑ってる!」
智葉「いや、メグの言い方がいつもの監督にそっくりなのに、どこかズレてて……くふふっ!」
ネリー「ツボってるねー。メグのファインプレーってやつ?」
ダヴァン「私はちっとも狙ってませんでしたけドネ……」
ネリー「ごちそーさまでしたー。メグ、ありがとね」
ダヴァン「どういたしまシテ。私のと一緒に洗うので、お皿と箸はこっちにくだサイ」
ネリー「ん!」
智葉「やれやれ……。私たち、何しにメグの部屋へ来たんだかな……」
ネリー「んー? それはほら、あれだよ……あれ……」
智葉「……」
ネリー「……何しに来てたんだっけ?」
智葉「素で忘れたのか!?」
ネリー「なーんて、嘘だよー。智葉、メグ、プレゼントあるなら早くちょうだいってばー」
ダヴァン「ハイハイ。……それより、ハオやミョンファの都合は大丈夫なのでスカ?」
智葉「そういや、私たちがここに来てからけっこう経つな」
ネリー「ん、それなら大丈夫! 適当な時間にハオの部屋に集まるってことしか決めてないし、まだ余裕あるよ!」
智葉「かといって、長々と待たせたらハオに悪いだろう。そろそろ行った方がいいんじゃないか?」
ネリー「えっ、でも……」
智葉「どうした?」
ネリー「……ネリー、智葉と別れるのやだよ。久しぶりに会えたのに、全然話し足りないもん……」
智葉「…………」
ネリー「智葉……神戸だっけ? プロのチームに入ってから、ずっとそっちの方で麻雀してるでしょ? だから全然顔合わせることないし……」
智葉「……ああ」
ネリー「お正月はみんなで会って話もしたけど、ちょっとしたら合宿……キャンプ? とかでまた智葉はこっちを離れちゃってさ」
ネリー「卒業式のときには麻雀部が合宿で会えなかったし、今だって……きっと、ネリーたちの応援とか色んな整理とかで来てるだけですぐ行っちゃうんでしょ?」
ネリー「メグは春まで寮に残ってるからまだいいけど、智葉は……んと、」
智葉「……」
ネリー「だから、あの、なんていうか……。……さっきみたいななんでもない話でいいから、智葉やメグと、もっともっと話がしたいかな……みたいな」
ネリー「……さっきからなに言ってんだろ。ごめんね智葉、ちょっと変なこと言っちゃった」
智葉「……はぁ」
智葉「まったく、自分の誕生日だというのに湿っぽい話をして。私の知ってるネリー・ヴィルサラーゼはそういうやつだったかな?」
ネリー「む……!」
智葉「ただ、まあ、そうだな。今ネリーが言ったことはおおむね真実だし、遅くとも月が替わるころには私が西に戻っているのも事実だろう」
ネリー「…………」
智葉「だが、別れの時が来るのは今じゃない。明日も、明後日も……あと何日残ってるかは分からんが……ここにいることだけは確かだ」
ネリー「……!」
智葉「私は選抜を戦うお前たちを見守っているし、必要ならば激を飛ばしてやろう。時間の許す限り麻雀も打つし、無駄話にだって好きなだけ付き合ってやるさ」
智葉「メグ。お前もそのつもりだろう?」
ダヴァン「ロンオブモチ!」
ネリー「……~っ!」
ダヴァン「ノー! ネリー、今日はあなたの産まれたハッピーな日なのですから、湿っぽいのはナシでスヨ」
ネリー「な、泣いてない!」
智葉「ところでだな。さっき言ってたパーティーとやらに、私たちも混ぜてもらうことはできないのか?」
ネリー「……えっ?」
智葉「私はここに来てから、ネリーとメグ以外のチームメイトに会っていないし……ハオやミョンファの二人の顔も、早く見たいんだがな」
ネリー「いっ、いいに決まってるじゃん。行こうよ。……それで、五人で色んな話をしよう!」
ダヴァン「ですが、ここの部屋は少々狭いですかラネ。ハオやミョンファが嫌な顔をしなければいいのでスガ……」
ネリー「大丈夫だって! 二人がそんな顔したら部屋から追い出してやるもん!」
智葉「それは少々過激すぎないか……」
智葉「とりあえず、プレゼントが入ったその袋は置いていけ。菓子以外は邪魔になるだろうしな」
ネリー「うん。……そういえば、ネリーまだ二人からプレゼントもらってないよ?」
智葉「ああ、そのことだが……予定が変わった。メグと二人で、今日の日に用意してきたプレゼントだったんだが……」
ダヴァン「ネリーと話している内に、まだまだ未完成な部分があると気が付いてしまったのデス! ……でしょう、サトハ?」
智葉「そういうことだ」
ネリー「どういうこと!? わかんないよ! 教えてよ二人とも!」
智葉「受け取ったときにわかるさ」
ダヴァン「プレゼントはきっと渡しますので、少しの間待っててくだサイ」
ネリー「なにそれ~~~」
ネリー「もう、二人のことなんて知らないよ! さっさと帰っちゃえばいいんじゃない?」
ダヴァン「ワッツ!? 気持ちはわかりますが、それは横暴というやつでスヨ!」
智葉「メグの言う通りだな。ハオやミョンファも入れて、記念写真でも撮ろうと思っていたのに」
ネリー「べーだ! ハオの部屋までついてきたいなら勝手に来れば!? ネリーは知らないもんね!」
ダヴァン「……やれやれ。お言葉通り、勝手にネリーについていくとしまショウカ」
智葉「そうだな……」
智葉(花は咲き、季節は流れ時は過ぎていく。そんな当たり前のことが、どうしようもない無常感をこの胸にもたらしてくる)
智葉(今生の別れというわけでもないのに。ただ、今までのように会えなくなるだけのことが何故こんなにもやるせないのだろうな)
智葉(思えば、お前たちとは一年になるかどうかの短い付き合いだった。仲間として公式戦を戦ったのも、あの半年だけだったのに)
智葉(そう考えると、友情や親愛の情というのは時間に比例しないのだということを確かに実感するんだ。そんなことくらい、わかっていたはずだったのに)
智葉(だからこそ……。私はお前たちと…………)
ネリー「智葉ー、なに考えてるの?」
智葉「別に」グシグシ
ネリー「ふわっ。どうして撫でるのさ~」
ダヴァン「……フッ。モチロン、ネリーがキュートだからに決まってマス」ナデナデ
智葉「……まあ、そうだな」グシグシグシ
ネリー「や、やるならもっと優しくやってよー! ……ったく、二人とも、あそこで本当に帰ってればよかったのに……ブツブツ」
智葉「いいじゃないか。この場所で一緒にいられる時間が少ない分、今まで以上に可愛がってやろうと思っただけだよ」
ダヴァン「そうでスネ……。私も、今までネリーたちと過ごした一年間を上回るほどに素晴らシイ数日を共に過ごしたいのデス」
ネリー「なにが可愛がるさ……。これはもはやイジメだよ……」
智葉「……ふふふ」ワシワシ
ダヴァン「……」ナデナデ
ネリー「う~……」
智葉「そういえば、まだあの言葉を言ってなかったか」
ダヴァン「……ああ、そういえば、確かにそうでしタネ」
ネリー「なんの話?」
智葉「まあ、なんだ。こういうのも今更だが……」
智葉「ネリー、誕生日おめでとう」
ダヴァン「Happy Birthday,ネリー」
ネリー「……~~~っ! 遅いよ! もう!」
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