ネリー「サトハはなんでお嬢って呼ばれてるの?」 (29)

ダヴァン「しっ! 何を聴いてるんデスか!」

ダヴァン(明らかにヤバイお家だからに決まってるでショウ! このマヌケがっ!)

郝「理事長の姪っ子だからじゃないの?」

明華「え! そうだったんですか?」

ダヴァン「知らなかった……」

智葉「まぁそういうことになるな」

ネリー「でも、サトハを迎えに来た黒服の人もお嬢って呼んでたよ?」

智葉「あれは親父の部下だからだ、一応ウチの親父もチンケな会社の社長だからな」

明華「なんだか初めて聞くことばかりですね……」

智葉「いちいち言う必要もなかったしな」

ネリー「私知ってるよ、それってシャチョウレイジョウって言うんでしょ?」

郝「それは私も初耳……なんの会社を経営してるの?」

智葉「土建屋だよ、どこにでもあるような会社さ」

ダヴァン「…………」

郝「へぇ……じゃあここの校舎とかもお父さんの会社が?」

智葉「まあな」

明華「智葉さん、ご令嬢だったんですね」

ネリー「じゃあ今度から私たちもサトハのこと『お嬢』って呼ぼうよ」

智葉「やめてくれ、頼むから」

ダヴァン「……ほかにはどんなことをしてるんデスか?」

智葉「他って……そうだな、副業的な感じで、風呂屋なんかもやってるけどな」

ネリー「温泉!?」

智葉「そこまでいいもんじゃないさ、いいとこ銭湯だな」

明華「スーパー銭湯なら私もよく行きます」

智葉「似たようなもんだ」

ネリー「ねーサトハ、今度私も連れて行ってよ! 一緒にお風呂に入ろ?」

智葉「そうだな、今度……ん?」ヴーヴー

智葉「……迎えが来たみたいだ、悪いけど先に帰らせてもらう」

ネリー「えー、もうちょっとダラダラしようよー」

智葉「そうもいかないんだよ、ほら、降りた降りた」

ネリー「ぶー」スタッ

ダヴァン(やっとサトハの膝の上から降りましたカ……サトハはネリーに甘すぎデスね)

郝「またねー」

明華「さようならー」

智葉「じゃあな」

バタン

ダヴァン「…………」

郝「どうしたの? メグ」

ダヴァン「イエ……なんでもありまセン」

ガチャ

監督「おーい、智葉はいるかー」

明華「あ、たった今帰られましたけど」

監督「あちゃー、入れ違いになったか……また明日にするかな」

ダヴァン「監督……サトハの家について、何かご存知デスか?」

監督「ん? いきなりどうしたんだ?」

ネリー「サトハってシャチョーレイジョーだったんだって! ついさっき聞いたんだよ」

監督「あぁ、なるほどな」

郝「私たちは誰も知らなかったので……」

監督「まぁお前らは全員外人だからな、知らないのも無理はないだろ」

明華「え? ということは、日本では有名なんですか?」

監督「辻垣内建設、日本の建設業会じゃ5本の指に入る超大手だよ」

郝「なんだかどんどん話が大きくなってる……」

監督「智葉の父親はその道では有名だぞ、なんせ初代社長だからな……一代で会社を急成長させたんだ」

ダヴァン「そうだったんデスか……」

監督「最も、一族の力があってこその発展だったんだろうが」

郝「一族?」

監督「辻垣内家はもともと良いお家柄なんだよ、智葉のじいさんは元日銀総裁だ」

ダヴァン「What!?」

ネリー「ニチギン?」

監督「経済の親玉みたいなもんだ、あと大叔父が二人いるが、両方衆議院議員だったな。片方は民自党の国対委員長だよ」

明華「……いまいちパっとしないのですが」

監督「要するに、すこぶる付きのお嬢様ってことだ」

郝「なんだか急に現実感がなくなってきました」

ネリー「そうだ! 監督も今度一緒にサトハの会社の銭湯に行こうよ!」

監督「……銭湯? なんだそれ?」

ネリー「知らないの? おっきいお風呂があって……」

監督「いや、銭湯は知ってるけど、智葉の家が?」

明華「スーパー銭湯のようなものをやってると聞きましたけど」

監督「…………あぁ」

郝「心当たりがあるんですか?」

監督「いや、まぁ……銭湯っちゃ銭湯……じゃ、ないとは思うが……」

ダヴァン「煮え切りまセンね、どうしたんデス?」

監督「智葉の家はな、その、建設業の他にナイトレジャー関係も手がけてるんだよ……」

ダヴァン「……………………Oh」

郝「ナイトレジャー?」

ネリー「夜遊びするところ? カジノとか?」

明華「日本のカジノ……パチンコですか?」

監督「いや……そういうのじゃないんだが……とにかく智葉の父親は『不夜城の帝王』って呼ばれてるくらい、ソッチの世界でも有名でな」

ダヴァン「そんな……サトハが……」

監督「まぁ、法律に反することをしてるわけじゃないし……多分……それにけっこうしっかりしてるところだからな?」

ダヴァン「……待ってくだサイ、『しっかりしてる』とか、なんで監督は詳しいんデスか?」

監督「……」

ダヴァン「まさかとは思いマスが……お世話になったコトが……」

監督「よーし、そろそろ帰るぞー、鍵占めるから忘れ物がないようになー」

ダヴァン「不潔デス……」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ダヴァン(まさかサトハの家がそんな……マフィアではないにしても、限りなくそっちに近いじゃないデスか……)ズルズル

ダヴァン(というかもうほぼマフィアデスよ……雰囲気からして尋常ではないと思っていマシタが)モグモグ

ダヴァン(やっぱりドスを振り回したりするんでしょうか……)ズズッ

ダヴァン(それにしても、ネリーは今まであんなに不躾な態度をとってきて、よく無事で……)モグモグ

ダヴァン「はっ!?」



ネリー『ねーサトハ、今度私も連れて行ってよ! 一緒にお風呂に入ろ?』

智葉『そうだな、今度…』



ダヴァン(今度一緒にお風呂!?)

ダヴァン(待って……サトハの家が経営してる『銭湯』っていうのは、泡のお風呂のアレ……)

ダヴァン(そこにネリーと一緒に!? そ、それはマズいのでは……)

ダヴァン(!? そういえばこの間のインターハイで……)


##########


ダヴァン『サトハ、随分と機嫌が良いみたいデスね?』

智葉『ん、そう見えるか?』

ダヴァン『ええ、その雑誌は?』

智葉『次に当たる高校の情報を見ておこうと思ってな……この先鋒……なかなか……』ニヤリ

ダヴァン(東風神デスか……神とはまた大仰な記事を……)

智葉『ふふっ……』

ダヴァン(ナルホド、腕が疼くのですね……私も楽しみデス、サトハの活躍が見られるのが)


##########


ダヴァン(思えばあの時のサトハは、あの先鋒の打つ麻雀ではなく、カタオカという人間そのものに興味があったのかもしれまセン……)

ダヴァン(まさか、サトハは……)

ダヴァン(そ、そういえば去年のインハイも……)

##########


智葉『……』ムスッ

ダヴァン『ど、どうしたんデス? そんなに青筋をたてて……』

智葉『…………なぜ他校をトばして試合を終わらせた』

ダヴァン『……そ、それは』

智葉『あそこの大将……天江は個人戦にエントリーしてないんだぞ!? それを大将戦前にっ! もう天江はっ……』

ダヴァン『お、落ち着いてくだサイ!』

智葉『…………すまん』

ダヴァン『いえ……』


##########


ダヴァン(あの時はなぜサトハが怒っていたのかわかりませんでした……ですが今ならわかる気がしマス)

ダヴァン(つまり……彼女は……彼女は、ロr)

ダヴァン(……これ以上はいけまセン、もうこのことは忘れまショウ)

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ネリー「なんだかサトハっていい匂いがするよ?」

智葉「そうか?」

ネリー「うん……なんだか安心する」

ダヴァン(対面座位……もうこれは相当重症デスね)

ダヴァン(というか、あとの二人はこの状況の異常性について何も思うところがないのでショウか)

明華「あのおふたりは仲がよろしいですね」

郝「ほんとに、サトハもよく怒らないよね」

ダヴァン(この二人もお花畑なのデスね)

ネリー「なんだか眠くなってきたかも……」

智葉「別に一眠りしてもいいんだぞ?」ナデナデ

ダヴァン(犯罪スレスレのボディタッチ……ダメだ、一度意識するとそういうふうにしか見えなくなってしまいマス……)

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ネリー「じゃあ、またねー!」

智葉「ああ、またな」

ダヴァン(早くアメリカへ帰りたい……帰ってママの手料理を食べたい……)ボケー

智葉「メグ、ちょっと時間あるか?」

ダヴァン「えっ!? あ、はい、ありマスが……」

智葉「ちょっと付き合え」ガシッ

ダヴァン「!?」ビク


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ダヴァン(黒塗りの高級車に乗せられてから終始無言……私は一体どうなるんでショウ……)

智葉「なぁメグ、今日はやたらと私の方を見ていたな?」

ダヴァン「気のせいデスよ……ハハ」

智葉「昨日、監督から聞いたんだってな? 私の家のこと」

ダヴァン「っ!」

智葉「なんだ? 私がネリーに何かシようとしてるように見えたか?」

ダヴァン「そ、そういうことでは……」

智葉「なぁメグ……」ズイッ

ダヴァン「ひっ!」ズザッ

ダヴァン(く、車の中では逃げられまセン!)カタカタ

智葉「お前の考えは間違ってないぞ?」

ダヴァン「なっ! で、ではサトハはネリーを……?」

智葉「邪魔するなよ?」ニヤリ

ダヴァン「な……そんな……」

智葉「もちろんタダとは言わない……黙って傍観者に徹するならば、お前にも褒美をやろう」

ダヴァン「ほう、び?」

キッ

智葉「ついたぞ……中へ行こう」

ガチャ

ダヴァン「こ、ここは……」

ダヴァン(泡風呂屋さんじゃないデスか!)

智葉「来い、ダヴァン……悪いようにはしないさ」

ダヴァン(逃げようにも……車を運転してた黒服さんが後ろにいる以上、不可能な話デスね……大人しく従いまショウ)


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ダヴァン「こ、れは……」

智葉「気づかないと思ったか? “こういうの”が好きなんだろ?」

泡姫「あら、智葉ちゃんが私のところへ来るなんて……そっちのカッコイイこはお友達?」

ダヴァン(りゅ、龍門渕透華にソックリデス……!)

智葉「ああ、こいつを女にしてやってくれ」

ダヴァン「サトハ!」

智葉「麻雀の話題のなかでちょいちょい絡めてくるから怪しいとは思ってたんだが、まさかここまで効果があるとはな」

智葉「私はほかの店で待たせてるのがいるから、ここでゆっくりしててくれ。あとで迎えに来る」

ダヴァン「待ってくだサイ! 私は……」

智葉「なに、無理強いしてるわけじゃない……好きにしてればいいさ」

バタン

泡姫「ねぇ……お名前はなんていうの?」

ダヴァン(サトハ……私は……私は……)


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


智葉「で、どうだった?」

ダヴァン「……」

智葉「……まさか本当に何もヤらずに出てきたんじゃないだろうな?」

ダヴァン「……サトハ」

智葉「ん?」

ダヴァン「一生ついていきマス、お嬢!」

智葉「……ふ、その呼び方はやめてくれと言っただろ?」



数年後、不夜城の帝王は娘にあとを継がせ、新たに不夜城の女帝が誕生した。

女帝はその類まれなる才覚で事業を拡大し、いつしか夜の支配者と呼ばれるまでになっていた。

女帝は常にまるで幼子のような娘(実際はガチロリだと噂されている)をはべらせ、都内各所で毎夜淫靡な宴を開いているという。

なお、女帝にはボディーガード兼秘書のアフリカ系アメリカ人が付き添いをしているという。



眠くなったから終わり

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