志希「二宮飛鳥は笑えない?」飛鳥「一ノ瀬志希の血と涙」 (49)

Dimension-3SSです 

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 天才志希ちゃんの一生は興味の一生であるー。

 ん、それっぽい事言ってみたかっただけ。よく考えたら当たり前のことだねー。興味で人生ができてるなんて。
 まーねでもねー、名言格言って結構当たり前のことしか言ってなかったりするし、そんな感じでよろしくー。

 でねでね、あたしが一番初めに興味持ったものは何かってねー、あ、これ覚えてない。
 ママが言うにはねー、あたしは数字にご執心だったらしくて、そういえば物心つたときには数学の教科書持ってたね。じゃあ数学。
 んでんで年が二桁に行かないうちから数学は一通りできちゃってたからそれはもうびっくりしたらしー。
 これぐらいならお受験してるコなんかだと当たり前の範囲だったりするんじゃないかなー?って思うけど、興味ないから知らなーい。流石に数学は無理かもねー。

 ここからなら割と覚えてる。
 テストの点数はいつだって満点。皆はテスト嫌いらしかったけど、あたしはさっさと終わらせて昼寝出来るから好きだったにゃー。
 授業なんてもう知ってることしか言わないから、あたしはもっと分厚い本を読みふける。
 勉強の成果を発表する相手は先生じゃなくてダッド。ママとは違ってあんまり驚いてくれないかった。
 今思えば、ママと違ってあんまり驚いてくれないダッドにムキになって勉強してたのかも。なにこの子かーわーいーいー。

 で、すっ飛ばして義務教育が終わるくらいになると、ダッドがあたしに海外に行く話を持ってきた。
 なんでその時期かって、もっと早い時期でもよかったけど、義務は終わらせないとダメだかららしい。
 これ、ダッドが真面目なんじゃなくて、その辺の認識を適当に済ませてただけだってあたしは知ってる。あたしダッド似らしいよ。にゃはは。

 はてさてお似合い親子で適当に返事したあたし。
 さぁ次は夢踊るユニバーシティの話だぜー!…

 …って、ならないんだよね。
 そのころになったらあたしはもう自分が天才だって知ってた、知ってたけど、自覚は無かった。
 だって、あたしは当たり前のことを当たり前って言うだけなのに、みんなはびっくらこいて目を回す。
 日本に居る内はそんなもんかって思ったけど、流石に海の外まで渡ってきてそれじゃあ、あれだよね、失望?

 そうだね、入った学校なんかよりも、まるで違う街並みの方がよほど刺激的だった。
 でもご飯はやたら味付け濃いし、このままじゃ太る―って、はい。帰国。
 別に帰ってこなくても良かったんだけど、そこはほら、帰巣本能?家には帰らなかったから違うかにゃー。あ、見たことない食べ物がある。くんかくんか。これテイスティングね。

 とまぁ、これからはきっと、節操なしにいろんなことに興味を持って、飽きるまで使い潰してを繰り返して生きていくんだろうな。これも興味を持つ、というよりは退屈を慰める手段を求めて。
 いつからか泣かなくなった志希にゃんはセンチメンタルにはならないけど、なんだろね、この感覚。
 もう数字を弄るのは飽きて、今薬品で遊ぶのもいつまで続くんだろ。
 人間なんてのはもっと酷いもんで、同窓会なんて行ったら思わず自己紹介から始めちゃいそーだ。

 そんなことを考えたり、刺激的な薬の快感で忘れちゃったりしながら、アイドルもそうやって過ぎ去っていく概念のひとつかな、なんて。






 でもね、人生って、やっぱりちょっとやそっとじゃ行かないようにできてるんだなって。

 すっかりちょっと変だな、くらいの認識になりかけてたあのコ。
 特別才能ある人間でもないくせに、あのコはギフテッド・一ノ瀬志希に言ったんだ。

 





「キミは本当に馬鹿な奴だな」。








 ※



 ホワイトボードに張り出された予定表に遠目を遣る。
 今日の予定は把握してるけど、確認する日課ぐらいはあってもいいだろう。

 ボクはホワイトボードの前から二組ほど離れていくのを見送ってから、それでもタイミングを合わせて寄ってきた蘭子と一緒に時間割を視線でなぞる。蘭子の方は午前前から夕方まで帰らない体だったが、ボクは特段そういうことは無い。

 久々に寂しくなる、というようなことを嘆いてくる蘭子に同意しながら―――その実、ボクの意識は別のところに飛んでいたことを謝らなければならない。

 というのは、今日のレッスンを共同で行う相手。一ノ瀬志希。
 顔を合わせたことは無かったが、まぁ、よくあることだ
 名目上は多様な相手とレッスンさせることで刺激を与えるだとかになっているけど、実際のところフェスなのなんだので使う

 強烈な人間というのはそれとなく知っている。
 なんでも”天才”なんだそうな。それも、ボクの周りでも時々聞くようなニュアンスではなく、時代に革命を起こしてしまうような度を越した類の。
 全くどこから連れてきたのか、というのは思考の隙間を埋める台詞でしかなく、ボクの興味はその肩書の一点に注がれる。

 ”天才”。

 憧れる響きだ。
 きっとボクよりもずっと凄いヤツなんだろう。

 それが彼女に対する第一の感情だった。

―――――――………

…さて。

「ぐえーっ!死ぬ!頸動脈圧迫されてあたしの天才脳細胞が死ぬぅ!」
「ほーら!ちゃっちゃと行く!」

 その”天才”が、いつになく逞しく見える城ヶ崎美嘉にヘッドロックを極められて、しまいには尻を蹴り出されてくるという強烈なエントリーを果たしたのを見たとき、ボクはその憧れを揺るぎなく維持することができていたであろうか?

「おう、いえー、しきにゃんは遅刻してません…」

 ぐったりと床に横たわった彼女の、いまいち気の通っていないその声を聴けば、そのラフな格好がレッスン着のつもりなのか寝間着のままなのかを問い詰める気にはならなかった。

 ボクはトレーナーさんと一緒にしばらく様子をうかがっていたが、美嘉さんが帰ったっきり動く気配が全く無い。
 何かと訝しんでいると、背後からトレーナーさんのうんざりしたため息が聞こえてくる。
 ぎょっとして、条件反射的に「これではいけない」という気分になったボクは、死んだふりをしている一ノ瀬志希を揺り起こすことにした。

「…一ノ瀬志希。気持ちはわかるけど、かえって面倒なことになるよ」

 どう呼んでいいか分からなかったので、とりあえずフルネームにしておいた。
 なるだけ平静を心がけ、薄地のシャツ一枚の肩を揺さぶってみれば、どうだ。

「んにゃ…」

 と、眠たそうな声を漏らして起き上がる彼女…と、印象を覚えたのは一瞬の事に過ぎなかった。
 重たげに持ち上がった頭の、しかし不釣り合いに輝く瞳を覗きこめば――――

「…にゅふ♪」
「しまった」

 ――――そこに、いつか見た棟方愛海のそれの印象が重なる。

 …なるほど、愛海との出会いが無かったならば、ボクはここで彼女を殴り倒していたかもしれない。
 いやあの時の愛海には申し訳ない事をしたと思う。反射でも手を出すまでは行くべきでは無かっただろう。

 して、そんなわけで首筋まで顔を寄せてきた一ノ瀬志希は、どうやらボクの臭いを嗅ぎ始めたようだったから、そこそこには魂消る。
 愛海とどちらが酷いのだろう、と思いつくのは思考の端、何より驚いたのは、そうして当所の無い視線を向けた先のトレーナーさんの顔だった。

「…一ノ瀬、そこそこにしておけよ」

 なんて困った顔をしながら。

 怒鳴りつけたりしないのか?と思い、やはり愛海の方は思いっきり怒られていたはずだった。
 急に周りから置いて行かれた気分になって、当惑するボクだったけれど、その理由は思いのほか単純だったのだと知ることになる。

 何、彼女は事実天才だったのさ。
 トレーナーさんが多少の粗相は許容してしまえるくらいに。

―――――――――――………

今日ここまで

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