ねこ吉「吾輩はねこ吉である」 (214)

オウ助「ヒーロー」
オウ助「ヒーロー」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1457980770/)

一応これの続編です

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1458440390

ねこ吉「にゃーご!」

美希「はいなの!」ビシッ

響やよい伊織「「「…」」」

やよい「あのぉ…」

響「一応聞くけどなんだ?やよい」

やよい「美希さんは何をしているんでしょうか…」

響「それが自分にもわからないんだ…今朝いきなり電話で…」

美希『響!ねこ吉を…いや、ねこ吉先生を今日連れてきてほしいの!』

響「って言ってすぐに切ったから…」

伊織「相変わらず意味不明ね…」

ねこ吉「にゃーご!」

美希「こうですか?師匠?」ビシッ

伊織「いつの間にか師匠になってるわよ…?」

響「意味がわからないぞ…」

ねこ吉「にゃにゃ!」

美希「はいなの!」ビシッ

やよい「そういえば美希さんはねこ吉の言葉がわかるんですかー?」

響「いや、わからないはず…なんだけど…」

伊織「あいつカモとは出来てるっぽいしね…わかんないわよ…」

ねこ吉「にゃーご!」ビシッ

美希「へぶっ!?す、すみませんなの!」

響「伝わってなかったみたいだぞ」

伊織「何なのよあいつは!?」

ねこ吉「にゃん」

美希「ありがとうございましたなの!」ペコリッ

やよい「終わったみたいですー」

響「何がだ?」

伊織「さぁ?」

美希「ふぅ…あっ、響、ありがとうなの」

響「なぁなぁ、美希。美希はねこ吉と何をしてたんだ?」

美希「特訓だよ」

響やよい伊織「「「特訓?」」」

美希「うん、そうなの。今度ミキね、ファッションショーに出るから歩き方の特訓」

やよい「それでなんでねこ吉に教わるんですかー?」

美希「ねこ吉師匠はね、カモ先生の紹介で知り合ったの」

伊織「カモ先生の紹介?ねこ吉ってカモ先生と知り合いだったの?」

ねこ吉「にゃにゃん」

響「違うって言ってるぞ」

伊織「はぁ?知り合いじゃないのにどうやって紹介すんのよ?」

美希「ミキがどうやって歩いたらいいか悩んでてね、カモ先生に『誰か教えてくれる人いないかな?』って言ったら…」

やよい「言ったら?」

美希「『そんなの簡単に見つかるわけ…いや、あそこにいる猫…あいつはただもんじゃねぇ…あいつだ!あいつならできる!』って…」

響「言ったのか?」

美希「雰囲気を醸し出してたから…」

伊織「じゃあ一言も発してないんじゃない!?」

美希「カモだけになの!」

伊織「やかましいわ!」

響「というかプロデューサーとかトレーナーに聞いたらいいだろ?ねこ吉は猫だぞ?」

美希「だって2人ともミキに教えることはもう何もないって言うんだもん」

伊織「それがまた事実なのが腹立つわね…」

やよい「でもだからってねこ吉に教わらなくても…」

伊織「いや、それ自体は理にかなっているわ」

やよい「そうなの?」

伊織「えぇ、猫っていうのはバランス感覚が優れた生き物なの。実際結構高い塀の上とか歩いてたりするでしょ?」

響「そういえばそうだぞ…」

伊織「あんたは知っときなさいよ…」

やよい「ということは春香さんもねこ吉に習えば転ばなくなるんですか!」

伊織「やよい、それはスイカからタネを抜くようなものよ」

やよい「え?どういうこと?」

美希「味気がなくなっちゃうの」

やよい「そ、そうなんですか…」

響「でもそれはそうとねこ吉で良かったのか?」

美希「うん!むしろ師匠じゃないとダメなの!」

伊織「そんなに凄いの?」

美希「凄いなんてもんじゃないの!師匠のバランス感覚は猫の中でも段違いなの!」

ねこ吉「にゃっ!」

響「自分にはよくわからないけど…」

伊織「これも天才同士にしかわからない感覚なのかしら…」

ねこ吉(ふぉふぉふぉ、この娘、我輩の本性を見破るとは中々やりおる…)

ねこ吉(こんなに簡単に見破られたのは…人間で言えばあやつ以来よのぉ…)

20年前

ねこ吉 ヒョイッ

魚屋「うわっ!?おい!待て!泥棒猫!」

ねこ吉(当時、我輩は名の知れた泥棒猫であった…)

ねこ吉 ヒョイッ

魚屋「くそっ!またやられた!」

ねこ吉(周りの猫には捕まるようなトロくさいやつもおったが、我輩にはどうやら天賦の才があったらしく捕まることはなかった…)

魚屋「ぐー…ぐー…」

ねこ吉 スッ

ねこ吉(しかし、我輩は天賦の才に胡座をかかなかった。そこで止まってしまうのは愚か者であると知っていたからだ)

魚屋「ぐー…ぐー…」

ねこ吉(我輩は観察をした…相手がどんな気持ちになればどんな行動を示すのか…それさえわかれば…)

ねこ吉 ヒョイパクッ

魚屋「zzz…」

ねこ吉(捕まることなどありえない)

魚屋「ぐー…ぐー…」

ねこ吉(我輩は観察をした…相手がどんな気持ちになればどんな行動を示すのか…それさえわかれば…)

ねこ吉 ヒョイパクッ

魚屋「zzz…」

ねこ吉(捕まることなどありえない)

魚屋「zzz…はっ!?また盗まれてやがる!」

ねこ吉(我輩は人間以外からは盗まない)

ねこ吉(なぜならば彼奴ら人間は、自然のことを考えていないからだ)

魚屋「ちくしょう!どうせ持っていくならこっちの廃棄から取っていきゃいいものを…」

ねこ吉(ほらみろ、我々動物は廃棄など出さん。自らが食える量のみを狩る)

魚屋「おかげでこちとら大赤字だよ!」

ねこ吉(自然への感謝がないから廃棄などが出せるのだ。そんな店など潰れてしまえ)

ねこ吉(そうやって我輩は人間共と戦いながら生きてきた…その日もそうだった…)

ねこ吉(その日はこの島に初めて漁港が出来るという日だった)

漁師A「よし!はりきっていくぜ!」

漁師B「大漁だ大漁!」

ねこ吉(ふん!そうやってまた無駄に命を弄ぶのだろう!ふざけたやつらだ…まぁいい、我輩が懲らしめてやる。そう思って待っていたのだが…)

数時間後

漁師C「うーん…」

漁師D「魚が全くいない…」

ねこ吉(…こやつらは絶望的に漁が下手だった)

翌日

漁師A「今日こそは大漁だ!」

漁師全員「「「「おー!」」」」

数時間後

漁師B「あれー?」

漁師D「何でだ…」

ねこ吉(聞きたいのはこっちだバカ者!普通修行とかしてくるのではないのか!?)

漁師C「明日はどうする?」

漁師A「よし、サイコロで決めよう」

ねこ吉(決めるな!レーダーとかがあるのではないのか!?)

漁師B「やっぱりレーダーとか使った方がいいんじゃないのか?」

ねこ吉(そうだ!貴様、人間のくせにいいところに気づくではないか!)

漁師D「だからそのレーダーを買うためにまずは漁で稼がないとダメだろ」

ねこ吉(買っていないのか!?なんだその見切り発車は!?)

漁師A「うーん、やっぱりサイコロじゃダメかなぁ…」

ねこ吉(ダメに決まっているだろうが!)

漁師D「まぁ明日の漁は明日にならんとわからんからな、今日はもう帰って寝よう」

漁師B「そうだな」

ねこ吉(なぜそうなる!?)

ねこ吉(こんなことが一週間ほど続いた、そして我輩は気づいた…『あ、これ我輩が何かしなくても勝手に潰れていくな』と言うことに…)

ねこ吉(そうだ、アホにツッコミを入れることに夢中になりすぎて本来の目的を忘れていた…我輩は人間共が無益な殺生を防ぐことができればそれでいいのだ。あのアホ共は放っておけば自滅するだろう)

ねこ吉(だとすればこんな場所に用はない。別の場所に行こう、そう思った時…)

響父「なぁ、君はどう思う?」

ねこ吉(あやつは間抜けな顔をしてそう聞いてきた)

ねこ吉「…」

響父「おい、無視するなよ」

ねこ吉(こやつ…頭がおかしいのか?人間のくせに動物である我輩に話しかけるなど…)

響父「おいったら!」

ねこ吉「にしてもやかましいやつだ…」

響父「誰がやかましいやつだ」

ねこ吉「何!?」

ねこ吉(こやつ…我輩の言葉がわかっているのか!?)

響父「おいったら」

ねこ吉「貴様…我輩の言葉がわかるのか?」

響父「わかるからこうやって話しかけてるんだろ?」

ねこ吉(にわかには信じ難い…しかし、こうして実際に会話が成り立っている以上、信じるしかない…)

ねこ吉「ではなぜ我輩にそれを聞く?」

ねこ吉(もしかするとこいつはあやつらの中では聡明な方なのかも…いや、我輩の素質を見抜き、なおかつ動物の言葉がわかるということはもしかすると天才なのかも…)

響父「だってお前猫だし、魚とか好きなんじゃないのか?」

ねこ吉(…バカだった)

響父「何で魚が獲れないのかなあ?」

ねこ吉「何でって…レーダーもなしに勘だけで沖に出ては当たり前だろう」

響父「なるほど!」

ねこ吉(本気で気づいていなかったのか…)

響父「ならどうすればいいと思う?」

ねこ吉「レーダーを買えばよかろうが…」

響父「そんなことをすれば家族が生活できないんだ…」

ねこ吉「家族…」

響父「家族のためにも俺は稼いでこなくちゃいけないんだ!」

ねこ吉「…ならばもっと考えろ。普通この時期の魚の習性を考えれば北ではなく南に船を出すべきだ。更に言えばエサはメジャーなものは警戒されている。マイナーなものを使った方が…」

ねこ吉(この時、何故答えてしまったのか分からなかった…答えなければ魚たちはつかまらない。それこそが我輩の目的だったはずなのに…)

響父「なるほどな〜、やっぱり猫は凄いな!」

ねこ吉(何故答えてしまったのか…)

響父「ありがとう!これで家族を養える!」

ねこ吉(もしかすると、こやつの真剣な表情に負けてしまったのかもしれない…)

響父「おーい、みんなー!」

ねこ吉(まあいい。もしもこやつが他のやつらと同じなら、いつものように潰すだけよ…)

翌日

漁師A「やったぞー!」

漁師B「大漁だぁ!」

漁師CD「「がははははは!」」

ねこ吉(どうやら今日はうまくいったようだな…)

響父「おい、君!昨日はありがとうな!君のおかげで今日はうまくいったよ!」

ねこ吉「…あぁ」

響父「いやぁ、良かった良かった」

ねこ吉「そうだな…」

響父「そんで君の分がこれな」ドサッ

ねこ吉「は?」

響父「ん?少なかったか?それとも好きな魚じゃなかったかな?」

ねこ吉「いや…これは貴様らが獲ってきた魚であろう?我輩にもらう義理など…」

響父「何言ってるんだよ、君がいなかったら今日もボウズだったんだ。獲れたのは君のおかげさ!だからこれは正当な報酬だよ」

ねこ吉「しかし…我輩は場所を教えただけで…」

ねこ吉(その時、あやつが言った言葉は今でもよく覚えている)

響父「船があるだけでも、場所がわかるだけでも魚は獲れない。協力するから魚が獲れたんだ」

ねこ吉(あれほど人間を嫌っていた我輩でも…)

響父「そして協力したらそいつはもう仲間だ。仲間と分け合うのは当たり前の話だろう?」

ねこ吉(こんなやつが人間にもいたのか…とつい思ってしまうような男だった)

響父「それでも気がひけるならまた魚の場所教えてくれよ!」

ねこ吉「…わかった、いただいておく」

ねこ吉(しかし、問題はここからだ…)

漁師A「この調子で明日からもガッポガッポ取っていこう!」

漁師B「食い切れないほどの魚を獲ってやろう!」

ねこ吉(ほれみろ…)

漁師C「そうだな!それでもっともっとこの漁港を発展させて…」

漁師D「俺たちは大金持ちだ!」

漁師ABCD「「「「がはははははは!」」」」

ねこ吉(結局これだ…やっぱり自然のことなんか何にも考えていない…あるのは自分の私利私欲だけだ…)

ねこ吉(まあそれならそれでいい…むしろいつも通りだ…こうなれば我輩の手で…)

響父「いや、それはやめよう」

ねこ吉「!?」

漁師A「おい、我那覇。どうしたんだよ?」

漁師B「そうだよ、この調子で行けば俺たち大金持ちだぜ?」

響父「魚だって勝手に湧いて出るわけじゃない。そんなにむやみやたらに獲ってたらいつかいなくなっちまうよ」

漁師C「流石にそんなことあるわけないだろ?あんなにいるんだぜ?」

響父「じゃあ仮にそうだったとしよう。むやみやたらに獲ってもいなくならないとして、そんなに獲ってもお前食い切れるのか?」

漁師C「あっ…」

響父「別に全部食わなくても売ってもいい。でも今日以上に獲ったら絶対に魚は余るぞ?その余った魚はどうするんだ?」

漁師ABCD「「「「…」」」」

響父「俺たちは命を貰ってるんだ、それを忘れちゃいけないよ。自分たちが生活できる分だけでいいじゃないか。あとは魚たちと、自分の子供たちに残してあげないと…」

ねこ吉(こやつ…)

漁師A「…そうだな」

漁師B「魚だって生きてるんだしな…」

漁師C「うん、俺たちが間違ってたよ…」

漁師D「ごめんな、我那覇」

響父「うん!わかってくれたら良かったよ!」

ねこ吉「貴様…やるではないか…」

響父「ん?何がだ?」

ねこ吉「…伝わらないならそれで良い」

ねこ吉(それが我輩とあやつとの出会いだった…)

響父「何だよー!教えてくれよー!」

ねこ吉「貴様には自分で考えることも必要だ、何でも教えてもらえると思うなよ」

響父「そんなぁ…」

ねこ吉(そこから何故か我輩はその漁港に住むことになった…)

響父「だってお前仲間だろ?」

ねこ吉(あやつはそう言って、我輩の寝床を漁港の中に準備してくれた…)

ねこ吉(しかし、我輩は所詮猫だ。漁港に猫がいるなど人間からすれば気持ちのいい話であるはずもなく、当然我輩は追い出され…)

漁師B「ほい、これ今日の分な!」ドサッ

漁師D「いつもありがとうな!」

ねこ吉(なかった…)

漁師A「明日も頼むぜ?」

漁師C「明日は何の魚が食いたい?」

ねこ吉(それどころか仲良くしようとしている…『大丈夫かこいつら?』と思う反面…)

響父「さぁ、今日も頑張ろうぜ!」

ねこ吉(少し嬉しくも思ってしまった…)

ねこ吉(そこからは色々なことがあった…)

響父「そう言えばお前の名前はなんて言うんだ?」

ねこ吉「我輩は猫である名前はまだない」

響父「え?不便じゃないかそれ?」

ねこ吉「不便か…名前を呼ばれる機会などなかったからそんなことは…」

響父「…なんかかわいそうなやつだな」

ねこ吉「貴様に言われたくはないのだが…」

響父「ならお前の名前は今日からねこ吉だ!」

ねこ吉「ねこ…吉?」

響父「ああ!どうだ?いい名前だろう?」

ねこ吉「ああそうだな、ところで貴様、子供はいるのか?」

響父「ふっふーん、実はもうすぐ長男が生まれるんだ!」

ねこ吉「そうか、なら名付けに口を出すなよ?」

響父「どういう意味だよそれ!?」

ねこ吉(なんてことや…)

響父「ねねねねねこ吉!?聞いてくれ!」

ねこ吉「いったいどうしたと言うのだ?」

響父「みんながよ!ここの漁港のリーダーを俺にしようとするんだ!」

ねこ吉「良かったではないか」

響父「良いわけないだろ!何で俺なんだよ!」

ねこ吉「嫌なのか?」

響父「嫌ってわけじゃないけど…」

ねこ吉「けど?」

響父「…リーダーってのはみんなを守っていかないといけないんだ…俺なんかでいいのかな…」

ねこ吉「だからだろう」

響父「へ?」

ねこ吉「それがわかっている貴様だからこそ、皆は貴様がリーダーにふさわしいと言うのではないのか?」

響父「…俺にできるかなぁ?」

ねこ吉「さぁな…お前次第であろう」

響父「おまっ!?そこは『出来る』って言ってくれよ!」

ねこ吉「貴様…面倒くさいな…」

今回は猫吉か…あれ?20年前で響兄が生まれる前で、父親は響が生まれる前に亡くなったし響は今は高校生……おれはかんがえるのをやめた。

翌日

漁師B「というわけでリーダーは我那覇に決定!」

響父「た、頼りないかもしれないけどよろしくな!」

漁師C「じゃあリーダー!早速指示を出してくれよ!」

響父「ああ!今日は南に船を出す!」

漁師B「って言ってるけど、どうですか?ねこ吉さん?」

漁師ACD「「「ねこ吉さん!」」」

ねこ吉「いや、北だな」

響父「おい!?」

ねこ吉(あの子が生まれた時も大変だったな…)

響父「ねねねねこ吉!?どうしよう!?もう産まれるって!」

ねこ吉「おおお落ち着け!馬鹿者!」

響父「そんなこと言いながらお前だって焦ってるじゃないか!」

ねこ吉「しょうがないであろう!だいたい何故我輩を連れてくるのだ!?」

響父「不安だからだよ!ほら!いつもみたいにばっちりアドバイスしてくれよ!」

ねこ吉「無茶を言うな!というか貴様は立ち会うのは2人目であろうが!」

響父「ううううるしゃい!息子と娘はまた違うだろうが!?」

ねこ吉「どう違うのだ…」

響父「あっ、練習しとこう…『お前にお義父さんと呼ばれる筋合いはない!』」

ねこ吉「いつの練習だ!?」

響兄「…たーりー達うるさい」

ねこ吉(自分の船を持てた時も、我輩に見せてくれたな…)

ねこ吉「またえらくこじんまりとした船にしたのだな…」

響父「がはははは!そうだろ?小回りが利くから気に入ったんだ!」

ねこ吉「まあ貴様がいいならいいんだが…」

響父「船もそうだけどさ、男ってのは見かけじゃない。中身が伴ってこそ…だろ?」

ねこ吉「…言うようになったではないか」

響父「あんだけ口酸っぱく言われたらいくら俺でも覚えるよ」

>>71
ごめん、ゲーム本編はやったことないから響の兄ちゃんの年齢とかわかってないし響の父親も「小さい時に亡くなった」っていう認識だった…

ねこ吉「言っておくがな…」

響父「『大事なのはこれから』だろ?」

ねこ吉「…わかっているなら良い」

響父「へへへ、だいたいわかるよ。何年一緒にいると思ってんだ」

ねこ吉「ふふっ、何年振り回したら気がすむんだの間違いであろう」

響父「そりゃそーだ…」

ねこ吉響父「「あはははははは!」」

ねこ吉(あの子が貴様の仕事を見に来たこともあったな…)

響父 ソワソワ

ねこ吉「…」

響父 ソワソワソワソワ

ねこ吉「…」

響父 ソワソワソワソワソワソワ

ねこ吉「…」

響父「『何かあったのか?』って聞けよ!」

ねこ吉「知っておる、小学校の宿題とやらで娘が来るのであろう?」

響父「ああ、そうなんだよ…社会だかなんだかの宿題でよぉ…『身近な仕事』って宿題が出たらしくて…ああああ!?緊張するぅぅう!?」

ねこ吉「3日前から貴様が言っていたから知っておる」

響父「あぁぁ…今日に限ってボウズとかないよな?な?な?」

ねこ吉「…さあ?」

響父「だからそこは嘘でも『大丈夫』って言えってば!」

ねこ吉「だいたい何故ボウズではダメなのだ?漁というのはそういうもので、だからこそ…」

響父「俺はわかってるけど響ちゃんにはまだ難しいの!」

ねこ吉「小学校三年生ならわかるだろう…」

響父「どうしよう…『ボウズなんてかっこ悪い!たーりーなんか嫌い!』とか言われたら…」

ねこ吉「今の姿の方が百倍かっこ悪いから安心するがいい」

響「こんにちはー!」

響父「来たぁぁぁぁぁ!?」

漁師D「おっ!響ちゃん、よく来たね」

響「こんにちは!いつもたーりーがお世話になってます!」

漁師B「ははは、響ちゃんは礼儀正しくていい子だなぁ」ナデナデ

響「えへへ〜」テレテレ

響父「あの野郎…うちの可愛い響ちゃんを…手首切り落としてや…」

ねこ吉「やめい、阿呆」ポカッ

響父「あで!?」

ねこ吉「全く…親バカが過ぎるわ…」

響「あっ!たーり…」

響父「響ぃぃぃぃぃぃ!」ダキッ

響「ぬひゃあ!?」

響父「たーりーだぞぉ!たーりーだぞぉ!」スリスリ

響「ぐぬぬ…た、たーりー…お髭がチクチクして痛いぞ…」

響父「ぐへへへへ…可愛いなぁ、可愛いなぁ…」スリスリ

響「いーたーいーぞー!!」ブンッ

響父「あぁぁ…響ぃ…」

響「もう!たーりーそういうことするから嫌いだぞ!」

響父「そ、そんなぁ…」ガ-ン

ねこ吉「何をしているのだ貴様は…」

漁師B「ほら、我那覇!漁に行くぞ!」

漁師D「響ちゃん、自由に見学していいからね?」

響「はーいだぞ!」

漁師A「ほら、さっさと行くぞ!」

響父「あ、ちょっ…ひ、響!」ズサァァァァア

ねこ吉「全くあやつは…」

響「君がねこ吉くん?」

ねこ吉「ん?あ、ああ、いかにも…」

響「『いかにも』?君はイカなの?」

ねこ吉「いや、我輩は猫だ。いかにもというのは『確かにそうだ』という意味がある」

響「ふーん、ねこ吉は賢いんだな!」

ねこ吉「きさ…響ちゃんは何故我輩の名前を?」

響「たーりーからよく聞いてるぞ!」

ねこ吉「あやつから?」

響「うん!とっても頼りになる親友だって!」

ねこ吉「我輩が…親友…」

響「ねこ吉は嫌なの?」

ねこ吉「いや、嫌ではない…」

響「たーりーはね、お家ではだらしないし、すぐにオナラするし、枕はなんか変な臭いするし、あんまーに怒られてばっかりだけどね…」

ねこ吉(ボロクソではないか…)

響「でもね、すっごく優しくって強い人なんだ!自分もとっても尊敬してるんだぞ!」

ねこ吉(ほう…)

響「…恥ずかしいから、あんまり本人には言わないけど」

ねこ吉(言ったら嬉しすぎて死ぬんじゃないか?)

響「だからね、ねこ吉もたーりーのこと好きでいてほしいんだ…」

ねこ吉 ポンッ

響「ん?」

ねこ吉「あやつがいい奴だということくらい知っておる。なんせ響ちゃんが産まれる前からの付き合いだからな」ナデナデ

響「ねこ吉…」

ねこ吉「だから任せておけ、あやつは我輩が守ってやる」

響「本当に?」

ねこ吉「あぁ、本当だ」

響「えへへ〜、良かったぁ…」

ねこ吉(笑顔があやつにそっくりだな…)

ねこ吉(そんな風に平和な日々が続いた…続くと思っていた…あの日までは…)

ゴオオオオオオオオ

ねこ吉(その日は大シケで、とてもではないが船を出せる状況ではなかった…しかし…)

漁師B「我那覇、無茶だ!こんな時に船を出すなんて…」

響父「俺は助けに行かないといけないんだ!」

漁師D「落ち着けよ、忠告したのに勝手に出て行ったのはあいつらだろ?」

漁師A「そうだよ、自己責任だ!」

響父「し、しかし…」

ねこ吉(誰もが出せないと判断した中、最近入ってきた新入りが船を出してしまったらしい…)

響父「やっぱり助けに…」

漁師C「だから無理だって!」

漁師B「ねこ吉!ねこ吉からも言ってやってくれ!」

ねこ吉「はぁ…全く…」

響父「ねこ吉…」

ねこ吉「貴様はあやつらに出るなと言ったのであろう?リーダーに従えぬ者の責任まで取る必要はなかろう?」

響父「でも…」

ねこ吉「リーダーたる者、時には切り捨てる覚悟も必要だ。その重さもまた…」

響父「そうじゃないんだ!」

ねこ吉「?」

響父「俺には…部下はもちろん、家族や子供たち…それにお前がいる…」

ねこ吉「それがどうか…」

響父「ここであいつらを助けに行けない俺を、俺は家族や…お前に誇れない!」

ねこ吉「!?」

響父「お前が友達になった俺という男は、部下を見捨てるような男だったのか!?」

ねこ吉「貴様…」

響父「違うだろ!俺は…俺は…」

ねこ吉「…わかった」

響父「い、いいのか?」

ねこ吉「ダメだと言っても行くのだろう?知っているよ、貴様はそういう男だ…」

響父「へへへ…」

ねこ吉「ふん、今から死ぬかもしれぬというのによく笑えるな…」

響父「…なぁねこ吉」

ねこ吉「なんだ?」

響父「…俺が死んだら家族を頼むわ」

ねこ吉「馬鹿者、生きて帰ってこい」

響父「…帰ってこれるかな?」

ねこ吉(いつもなら言わないあのセリフを…)

響父「…俺、もう一度ここに…」

ねこ吉(絶対に言わなかったあのセリフを…)

響父「帰ってこれるかな?」

ねこ吉(何故だかわからないが、言ってしまった…)

ねこ吉「あぁ、お前なら大丈夫だよ」

響父「…ありがとう!」ダッ

ねこ吉(あの時の選択が正しかったのかは未だにわからない…)

響父「おい!船を出せ!」

漁師C「マジかよ!?ねこ吉でもダメだったのか!?」

漁師A「もう知らねーからな!」

ねこ吉(初めてあやつに言った我輩の『大丈夫』は…)

翌日

響「たーりぃぃぃぃぃぃ!?だぁぁぁぁりぃぃぃぃぃぃ!?」

ねこ吉(見事に打ち砕かれた…)

漁師A「ちくしょう!」

漁師B「なんだってあいつが…」

ねこ吉(あやつの死体が見つかったのはその日の夜だった)

漁師C「だから止めろって…」

漁師D「馬鹿!止めろ!家族の方もいるんだぞ!」

ねこ吉(海で死んだやつの死体が発見されることは珍しく、奇跡に近い。実際あの新入りは見つからなかった…こうして葬式を開けることは奇跡だった…)

響兄「…」

響「うわぁぁぁぁぁあん!?」

漁師A「響ちゃん、可哀想に…」

漁師D「お兄ちゃんは立派なもんだな…もう親父の代わりに一家を背負う覚悟を決めたようだ…」

ねこ吉(しかし、そんな奇跡を喜べない。同じ奇跡なら、生きていて欲しかった…)

響「うわぁぁぁぁぁあん!?」

ねこ吉(我輩は同時に二つの約束を破ってしまった…)

響「嫌だよぉ!起きて…起きてよたーりぃぃぃ!」

ねこ吉(だから…)

響「やめて…やめてよ…たーりーを連れてかないで…」

ねこ吉(あの約束だけは…)

響父『…俺が死んだら家族を頼むわ』

響「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

ねこ吉(死んでも守ると、その時誓ったんだ)

一ヶ月後

ねこ吉(その後、色々なことがあった)

漁師A「…これで良しっと」

ねこ吉(あの後、漁師たちは会社を設立した。詳しい話はわからないが、あやつの家族が生活できるようにあやつの妻に給料が振り込まれるらしい)

響兄「そんなわけにはいきません!俺が働きに出ます!」

ねこ吉(あやつの長男はこう言ったが…)

漁師C「いや、今回の件は俺たちの責任だ」

漁師D「我那覇には世話になったのにな…」

漁師B「だからさ、やらせてくれやこれくらい…」

ねこ吉(と言って譲らなかった)

漁師A「しかし…」

漁師B「あぁ…」

漁師C「ねこ吉のやつ…最近見ないな…」

ねこ吉(我輩はあの漁港を出た…あやつが死んだのは我輩の責任でもある。これはケジメだ…)

漁師D「それと、響ちゃんは…」

漁師C「大丈夫かなぁ…」

響の部屋

響「えっぐ…ひっぐ…」

ハム蔵「おい、もう一ヶ月たつぞ?」ヒソヒソ

いぬ美「ええ、そうねぇ…」ヒソヒソ

ハム蔵「そうねぇ…じゃねぇよ!どうすんだよ!このままじゃダメだろ!?」ヒソヒソ

オウ助「しょうがないじゃないか!父親が死んだんだぞ?」ヒソヒソ

ハム蔵「『だからしばらく静かにしていよう』って言った結果がこれだろうが!」ヒソヒソ

いぬ美「しょうがないじゃない!他にどうするのよ!」ヒソヒソ

ハム蔵「大体こんなもんずーっと部屋の中にいるから暗くなるんだ!無理矢理にでも引きずりだして…」ヒソヒソ

オウ助「止めろよ!トラウマになるだろうが!」

ハム蔵「うるせーな!もうすでにトラウマなんだよ!親父が死…」

いぬ美「止めなさい!」

オウ助ハム蔵「「あっ…」」

響「えっぐ…」

オウ助「ひ、響ちゃん…」

響「うっぐ…」

ハム蔵「あ、あのな?俺たちはお前の味方なんだ…だから…」

響「うわぁぁぁぁぁあん!?だぁぁぁりぃぃぃい!?」

いぬ美「バカ!」

ハム蔵オウ助 シュンッ

いぬ美「本当に男ってバカね!」

ハム蔵「ちくしょう…」

オウ助「なんで俺まで…」

ハム蔵「でもよお、このままじゃダメだろ?何か方法はないのかよ?」

オウ助「そうだな、何か父親の代わりになるようなものがあれば…思い出の品とかはないのか?」

いぬ美「あの人は仕事柄中々家に帰らないというか時間が合わなかったからねぇ…本人ゆかりの品はともかく響ちゃんにも関係あるようなものは…」

ハム蔵「あっ!一個あるじゃねーか!響ちゃん、誕生日にリボン貰って大切にするって言って…」

いぬ美「ええ、大切にするって言って押入れの奥に入れたらなくなったわね」

ハム蔵「何してくれてんだよあいつは!?」

いぬ美「仕方ないわよ、こんなことになるとは思わないもの…」

オウ助「匂いを辿ったり出来ないのか?」

いぬ美「無理よ、響ちゃんの匂いを辿ろうとしてもそもそもこの部屋は響ちゃんの部屋だもの…匂いなんてそこら中からするわ」

ハム蔵「ちくしょう…打つ手なしかよ…」

いぬ美「…もういい加減今夜は私たちも寝ましょう」

オウ助「そうだな…」

ハム蔵「…あぁ」

響「たぁりぃ…たぁりぃ…」

ねこ吉(なるほど、リボンか…)

ねこ吉(この家の玄関の鍵は古いタイプだからな…我輩の爪で開けられる…)

カチャカチャカチャ

ガチャッ

ねこ吉(響ちゃんの好きな色は確か浅葱色…これはあやつから聞いたからあいつも当然知っている…)ガサゴソガサ

ねこ吉(そして、大切なものを隠すとなればある程度奥に詰める…そしてそれは段々と埋まっていくため…)ゴソゴソゴソ

ズルッ

浅葱色のリボン

ねこ吉(一番奥にたどり着くものだ…)

響「ぐすん…たぁ…りぃ…」

ねこ吉(ここに置いていくぞ、響ちゃん)

翌朝

響「ハム蔵!いぬ美!オウ助!」

ハム蔵「おう、おはよ…ってうぇぇえ!?」

いぬ美「響ちゃん!?あなた…」

オウ助「元気になったのか!?」

響「うん!」

ハム蔵「バッキャロー!心配させやがって!」バシバシ

響「あたたたた!?痛いぞ、ハム蔵!」

ハム蔵「これでも足りねぇよ!へへへ…」

いぬ美「でも本当に良かったわ…」

響「うん、心配かけてゴメンね」

ハム蔵「全くだぜ」

オウ助「まぁ、元気になれたんならそれでいいよ」

いぬ美「でもどうして急に?」

響「それがね、今日枕元にこれがあったの!」スッ

ハム蔵オウ助「「あっ!?」」

いぬ美「それは…」

響「このリボンはたーりーがくれたリボンなんだ!」

ハム蔵「どうしてこれが…」

響「自分も無くしたと思ってたんだけど、今朝枕元にあったんだぞ!」

オウ助「そんなことが…」

いぬ美「にわかには信じられないわねぇ…」

響「うん、自分も不思議だった。でもね、これってもしかしたらたーりーが見つけてくれたのかもしれないって思ったんだ」

オウ助「たーりーが?」

響「うん、たーりーが『泣いてちゃダメだぞ!』って言ってるような気がしたんだ!だから…だから自分…」

いぬ美「そうね、たーりーはいつでも貴女を見ているわ」

ハム蔵「あぁ、だからたーりーに見られても恥ずかしくないようにしないとな」

響「うん!自分頑張るぞ!」

ワイワイガヤガヤ

ねこ吉(どうやら上手くいったようだな…)

ねこ吉(ん?どうして直接渡さなかったのかって?)

ねこ吉「渡せるわけないだろう?我輩はあの子との約束を違ったのだぞ…」

ねこ吉(今更どの面を下げて会えというのだ…)

ねこ吉(それからも我輩はあの子を見守り続けた…)

響「うわぁぁぁぁぁあん!ハンカチ落としたぁ!」

いぬ美「あら?玄関に置いてあるわよ?」

響「あれ?学校で無くしたのに…」

ねこ吉(なんてことや…)

響 コテンッ

オウ助「あっ…」

響「うぎゃぁぁぁあ!?痛いぞぉぉぉお!?」

オウ助「お、おい、泣かないでくれよぉ…」

響「らって…りゃって痛いもんんん!」

オウ助「クソッ!こんな時どうすれば…」

ねこ吉 スッ

オウ助「ん?おお!こんなところに絆創膏が!響ちゃん、これを貼るから…」

ねこ吉(こんなことの他にも…)

響「ふんふふんふふーん♪いい天気だな、ハム蔵!」

シ-ン

響「あ、あれ?ハム蔵?」

シ-ン

響「うぎゃぁぁぁあ!?ハム蔵が迷子になったぞ!」

ハム蔵「迷子はお前だバカ!」

響「あ、ハム蔵!」

ハム蔵「この野郎!通りすがりの猫が教えてくれなかったら危ないところだったんだぞ!」

響「ご、ごめんなさい…」

ねこ吉(なんてことがあった…)

ねこ吉(そうして一年が過ぎようとした時…ちょうど、あの日のように台風で海が大荒れに荒れた日…)

響「今日は台風で危ないから早く帰らないと危ないっていぬ美に怒られちゃうぞ!」ダッ

ねこ吉(それは響ちゃんの下校中に起こった…)

響「急げ!急げ!」

ビュウッ

スルッ

響「へ?」

リボン ヒラヒラヒラヒラ

響「うわぁぁぁぁあ!?」

浜辺

オウ助「響ちゃん、もう帰ろう」

響「まだだ!まだ諦めないぞ!」ザクッザクッ

ハム蔵「だからって砂浜の中にはねーよ!沖の方に飛ばされたんならいずれ打ち上げられるよ」

いぬ美「漁師さんたちに頼めば漁の最中に見つかるかもしれないし、ほら、もう今日は帰りましょ?」

響「嫌だ!見つかるまで探す!あれは…あれはたーりーがくれたやつだから…」ザクザク

ハム蔵「だからどこまで掘るんだよ!もはや落とし穴じゃねーか!」

響「でも…あれはたーりーの…」

オウ助「大丈夫だ…今度もまたたーりーが見つけてくれるからさ。だから今日は帰ろう」

響「本当に?」

オウ助「う、うん…本当だよ…」

響「うーん…」

オウ助「響ちゃん?」

響「わかった…今日は帰るぞ…」

オウ助「お、おお、わかってくれて嬉しいよ…」

ハム蔵「…嘘は嫌いなんじゃなかったのか?」ヒソヒソ

オウ助「しょうがないだろうが…」ヒソヒソ

いぬ美「とりあえず今日は帰りましょ」
いぬ美(こりゃ明日から寝れないわね…)

響「うん…」

いぬ美「ほら、この穴も埋め…るのは難しいからあそこの板で蓋をしましょう」

ねこ吉「…」

その日の夜

ザザ-ンザザ-ン

ねこ吉「あやつらはいくつか計算違いをしていた…」

ねこ吉「一つは時間、あれだけ激しい波だと割と早くに打ち上げられるか全く打ち上げられないかのどちらかだ、時間が経ってから打ち上げられることはほぼない。その点において響ちゃんの読みは実は近かった…」

ねこ吉「もう一つは…」

ダイオウイカ ウネウネ

ねこ吉「…最近異常発生しているダイオウイカが響ちゃんのリボンを持っていたということだ…」

ダイオウイカ「ふひひひ、この布切れ気にいったぞ。持って帰ろう」

ねこ吉(…仕方あるまい)

ねこ吉「おい貴様」

ダイオウイカ「ん?なんだ小さいの」

ねこ吉「我輩の名はねこ吉だ。そして貴様が持っているその布切れなのだがな、それは我が友の大切なものなのだ。だから返してくれ」

ダイオウイカ「はぁ?返せ?やだね、俺様が見つけたんだ、俺様のものだ」

ねこ吉 スッ

ダイオウイカ「なっ!?お前…いつの間に!?」

ねこ吉「はなから貴様に了解など求めてはいない。我輩にかかればこの通りだ。では…」

ダイオウイカ「おっと、逃がすかよ!」ダッ

ねこ吉「…面倒なやつだな」

ダイオウイカ「さっきは油断したが、この体格差で逃げ切れると思うなよ?」

ねこ吉「やれやれ…仕方ない…」

ダイオウイカ「死ねやゴラァァ!」

数十分後

ダイオウイカ「オラ!オラ!」ブンッブンッ

ねこ吉 スッスッ

ダイオウイカ「ちくしょう!ちょこまか逃げ回りやがって!」

ねこ吉「諦めろ、貴様では我輩のスピードにはついてこれまい」

ねこ吉(しかし、何やら違和感が…これは何だろう…)

ダイオウイカ「くっくっくっ…」

ねこ吉「どうした?気でも狂っ…」

ダイオウイカ ブンッ

ねこ吉「!?」ズサッ

ねこ吉(な、なんだ…今の攻撃は…)

ダイオウイカ「くっくっくっ、『速すぎて見えなかった』って面だなぁ?」

ねこ吉「ふんっ、馬鹿を言うでない。そんなこと…」

ダイオウイカ「今までのが俺様の全力だとでも思っているのか?」

ねこ吉「なん…だと…」

ダイオウイカ「考えなかったのか?本当に俺様があの程度のスピードしか出せないんなら何でお前はこの数十分の間逃げることができなかったのかを…」

ねこ吉「…どうやら我輩はとんでもない見落としをしていたようだな」

ダイオウイカ「くっくっくっ、今ならあの布切れを返せば許してやるが…どうする?」

ねこ吉「許してほしいのは山々ではあるが…持っていないものは返せないな…」

ダイオウイカ「な、何!?貴様、布切れをどこにやった!?」

ねこ吉「保険は二重三重にかけるものだ、もちろん『我輩が殺される』場合まで考えてな」

ダイオウイカ「…なら殺されても文句言わねーんだなぁ!」ビシッ

ねこ吉「ぐはっ!?」

ねこ吉(大丈夫だ…あのいぬ美という彼女なら、我輩が隠したリボンも匂いで探し出せるだろう…)

ダイオウイカ「オラ!オラ!」ビシッビシッ

ねこ吉「ぐふっ!がぁ!?」

ねこ吉(我輩は失敗した。しかし、意外と後悔はなかった…)

ダイオウイカ「オラオラオラオラ!」ビシシシシシッ

ねこ吉「ぐぁぁぁぁあ!?」

ねこ吉(これは我輩への罰なのだ、友人とその娘との約束を違えてしまった我輩に対する罰なのだ。そう考えると、このまま死んでしまうのも悪くないと思えた)

ダイオウイカ「ひゃははは!やっぱり獲物は嬲り殺すに限るぜ!」

ねこ吉「ひゅー…ひゅー…」

ねこ吉(あのセリフを聞くまでは)

ダイオウイカ「ちょうど一年前を思い出すぜ!あの日もこんな大シケだったなぁ!」

ねこ吉(あの日?大シケ?)

ダイオウイカ「仲間を助けに来たとか言うバカな人間が船を出しててよお!海に引きずりこんでやったぜ!ひゃっはっはっは!」

ねこ吉「!?」

ダイオウイカ「あのおっさんは最後まで抵抗してくれて面白かったぜ?お礼に海岸まで届けてやったけどなぁ!」ビュン

ねこ吉 ガシッ

ダイオウイカ「なっ!?受け止めただと!?お前…どこにそんな力が…」

ねこ吉「一つ聞きたい…」

ダイオウイカ「あ?」

ねこ吉「その船の名前はなんだ?」

ダイオウイカ「んなもん覚えてねーよ。つーか読めなかったわ。なんか小難しい漢字三文字でよぉ、なんつったかなぁ…わるだかわれだか…」

ねこ吉「知らないのなら教えてやろう…」ザシュッ

ダイオウイカ「ぐあっ!?」

ダイオウイカ(こ、こいつ…俺様の触手を!?)

ねこ吉『しかし、なんでこちらの名前なのだ?せっかく自分の船なんだ、自分の名前にすれば良いものを…』

響父『そりゃ俺はいつも1人じゃねーからよ』

ねこ吉『は?それはそうだろうが…』

響父『いや、そういう意味じゃなくてさ。俺には家族を支えていかなきゃいけない責任がある。これはあいつが…響が産まれてからより一層思ったことだ…』

ねこ吉『なるほどな…』

響父『でもそれだけじゃねえ。逆にあいつらがいるから…いてくれるから頑張れる。だから俺は1人じゃない。だから俺はこの名前を背負って戦うんだ!』

ねこ吉「その船の名は『我那覇』!貴様に殺された我が友の名だ!!」ザシュッ

ダイオウイカ「ぐわぁぁぁあ!?」

ねこ吉「我輩の名はねこ吉!我が友が与えてくれたこの名に誓って貴様を許さん!」

ダイオウイカ「調子に乗るなよ、猫風情がぁぁぁあ!」ブンッ

ねこ吉 ザシュッ

ダイオウイカ「ぐわぁぁぁあ!?」

ねこ吉「貴様に…貴様のような命を何とも思わぬやつに!あやつは殺されたのか!」

ダイオウイカ「だからなんだ!?」

ねこ吉「あやつは…あやつは…」

響父『俺たちは命を貰ってるんだ、それを忘れちゃいけないよ。自分たちが生活できる分だけでいいじゃないか。あとは魚たちと、自分の子供たちに残してあげないと…』

ねこ吉「貴様のようなやつのことまで考えていたんだぞ!!」

ダイオウイカ「はっ!?だとしたら何だよ?」

響『やめて…やめてよ…たーりーを連れてかないで…』

ねこ吉「貴様のせいで…貴様のせいであの娘は…響ちゃんは深い悲しみを負ったんだぞ!!貴様にあの娘の気持ちが少しでもわかるのか!?」

ダイオウイカ「けっ、知るかよ…そんなこと…」

ねこ吉「我輩はもう二度とあの娘を傷つけやしない!死んでも守るとあやつに誓ったのだ!あの娘を傷つけるようなやつは…」

ダイオウイカ「演説は結構だけどよぉ…」

ダイオウイカの触手 ザッ

ねこ吉「!?」

ダイオウイカ「怒りで視野が狭まったな」ニヤッ

ねこ吉「しまっ…」

ダイオウイカ「今度こそ終わりだ!」

ねこ吉(終わ…)

「危ない!」ガッ

ねこ吉「えっ?」

ドコォン

モクモクモクモク

ダイオウイカ「チッ、邪魔が入ったのか…」

ねこ吉「ど、どうして君が…」

響「ねこ吉…君だったんだね、いつも助けてくれていたのは…」

ねこ吉「そ、そんなことはどうでもいい!どうして戻ってきた!?」

響「どうしても諦めきれなくて…」

ねこ吉「ここは危険だ!それにあいつは…」

響「うん、だいたい聞いてた…あいつがたーりーを殺したってことも…」

ねこ吉「なっ!?」

ダイオウイカ「ほう、貴様あいつの娘か?ならば俺が憎いだろう?」

響「ううん、たーりーは前から言ってたさぁ…『俺は海で魚の命を獲っている。だから俺が海で命を落とすことがあったとしてもそれは自己責任だ』って」

ねこ吉「あやつめ…」

響「自分も最初は受け入れられなかった。でも、たーりーは『自分の命をかける覚悟のないやつが命を奪っちゃいけない』って言ってたさぁ。だから多分たーりーはお前を恨んでいない。だから自分もお前を恨まない」

ダイオウイカ「ほー、そりゃご立派な心がけだな」

響「だけど…」

ダイオウイカ「あん?」

響「ねこ吉を…たーりーの親友をいじめたことは許さない!たーりーはねこ吉を家族だと思ってた!なら自分にとってもねこ吉は家族だ!」

ねこ吉(全く…この親子は…)

響父『もちろん、その家族にはお前も入ってるんだぜ?お前のことだって俺は背負うし、お前にだって助けられてるからな!』

ねこ吉『…馬鹿なことを言わずに仕事に行け』

ねこ吉(どこまでも似た者親子だな…)

ダイオウイカ「かっ!ガキが一匹増えたくらいでなんだってんだよ!」

響「ガキじゃないぞ!絶対に許さないんだからな!」

ダイオウイカ「お前は本当にムカつくやつだな…頭にきたからお前はいたぶりはしない…お前は…」ブンッ

響「と、飛んだ!?」

ダイオウイカ「下敷きにしてやらぁぁぁあ!」

ねこ吉「響ちゃん!どうする?何か作戦があるんだろう?」

響「…」

ねこ吉「響ちゃん?」

響「…何にも考えてなかったぞ」

ねこ吉「この似た者親子め!」

ダイオウイカ「くらえぇぇぇぇ!」

響ねこ吉「「うわぁぁぁぁぁあ!?」」

いぬ美「危ない!?」ドンッ

響ねこ吉「「うわぁ!?」」

ドスンッ

ダイオウイカ「チッ、また邪魔が入ったのか…次から次にわらわらと…」

いぬ美「危なかったわね、響ちゃん」

響「いぬ美!」

オウ助「だから勝手に動くなって言っただろう!」

響「お、オウ助…ごめんなさいだぞ…」

ハム蔵「やい、デカブツ。こっからは俺が相手だ」

ダイオウイカ「はぁ?貴様が?はっはっはっ!貴様のような、矮小な存在が!?」

ハム蔵「何がおかしいんだ?」

ダイオウイカ「これがおかしくなくて何がおかしい!貴様、殺される覚悟はあるのか?」

ハム蔵「今からお前をやってやろうって言ってんだ。ない方がおかしいだろ?」

ダイオウイカ「ほう、それは良かった」

ダイオウイカ「ほう、それは良かった」

ハム蔵「お前こそあるのか?殺される覚悟は?」

ダイオウイカ「はぁ?あるわけねーだろ?俺がお前にどう負けるんだよ?」

ハム蔵「確かにいくら俺でもお前と直接やるのはキツいわなぁ」

ダイオウイカ「はっはっはっ!今更怖気付いたか!?」

ハム蔵「ただな…」

ピシッ

ダイオウイカ「!?」

ハム蔵「今日の昼間、うちのお姫様が探し物をしてな」

ピシピシピシ

ハム蔵「大きな穴を掘ったんだ…」

ピシピシピシピシ

ダイオウイカ「ま、まさか…」

ハム蔵「もしその上にお前がボディプレスなんてしたらどうなるかな?」

バキッ

グシャッ

ダイオウイカ「ぐぁぁぁぁぁぁあ!?」

ハム蔵「…しといた方が良かったみたいだな、殺される覚悟。その深さじゃまず助からないぜ?」

ねこ吉「ま、まさか、響ちゃんはこれを見越して!?」

響「も、もちろ…」

ハム蔵「んなわけねーだろーが」

響「ちょ、ハム蔵!」

ハム蔵「何だよ、事実じゃねーか」

響「ぐぬぬぬぬ…」

オウ助「そんなことより早く戻ろう」

いぬ美「そうね、ねこ吉君が隠してくれてたリボンも匂いで私が見つけたし…」

オウ助「ねこ吉は治療が必要だろうしな」

ねこ吉「いや、我輩は結構…」

響「な、何で!?」

ねこ吉「…我輩は君と…君の父上との2人の約束を破っている…どんな顔をして君たちに会えるだろうか」

響「ん?そんなの普通の顔でいいぞ。変顔されても困るしな!」

ねこ吉「いや…そういう意味ではなく…」

ハム蔵「あー、響ちゃんにそういうの伝んねーぞ」

オウ助「そうだな、もっとハッキリ、クッキリ言わないと伝わらない」

響「でもどんな言葉で言われても、家族に会っちゃいけない理由はよくわかんないと思うぞ?」

ねこ吉「家族…」

響「うん、たーりーの家族は自分の家族だぞ!ねこ吉は今まで自分のことたくさん守ってくれたでしょ?だから今度は自分に守らせてよ!」

ねこ吉「いいのか?…我輩はあやつを守れなかったのだぞ?」

響「でも自分のことは守ってくれてただろ?」

ねこ吉「そ、それは…我輩がやりたかったからで…」

響「うん、だから今度は自分にも守らせてよ!ねこ吉のこと、自分も守りたいぞ!」

ねこ吉(この時初めて…我輩はあの時、あやつが言ったあの言葉の本当の意味がわかった気がした…)

響父『…俺が死んだら家族を頼むわ』

ねこ吉(あの『家族』にはひょっとしたら…)

響「ねこ吉?どうかしたの?」

ねこ吉「いや、なんでもない…それでは…よろしく頼む、でいいのかな?」

響「うん!よろしくな!」

ハム蔵「しかし、響ちゃんが守るねぇ…」

響「な、何だよぉ…」

ハム蔵「響ちゃんに俺たちが世話になることってあるかぁ?」

響「なっ!?たくさんあるだろ!」

ハム蔵「算数の宿題教えてるのは誰だっけ?」

響「うぐっ!?」

いぬ美「朝起こしてるのは?」

響「うがっ!?」

オウ助「毎晩毎晩夜のトイレに付き合ってるのは誰だっけ?」

響「うぎゃぁぁぁあ!もういいでしょー!」

ねこ吉(あやつは我輩のことも、含めていたのかもしれない…)

ねこ吉(そして…)

響「zzz…」

美希「zzz…」

やよい「zzz…」

伊織「もう、こんなところで寝て!」

ねこ吉「にゃーご」スッ

伊織「あら?毛布を持ってきてくれたの?ありがとうね、ねこ吉」

ねこ吉「にゃーご」

ねこ吉(我輩は今もこうして響ちゃんに守られながら響ちゃんを守っている…)

伊織「全く…やよいと美希はともかく高校生が疲れて眠るまで遊ぶなっての…」

ねこ吉(耳が痛い…)

伊織「まぁそれは冗談だとしても…ねぇ、ねこ吉。響が無理してたら止めてあげてね。この子はこんな風に…ちょっと無理しちゃう子だから…」

ねこ吉「にゃーご」

ねこ吉(えぇ、わかっているとも…痛いほどにね…)

伊織「ふわぁ、ちょっと私も眠くなってきちゃった…ねこ吉?時間になったら起こしてね…zzz」

ねこ吉「…にゃーご」

ねこ吉(なぁ、どうだ?そちらからは見えているのか?立派に育った貴様の娘の姿は…)

響「んふふふ…たー…りー…」

ビュウッ

ねこ吉(響ちゃんがそう言った時に吹いた風は…少しだけ、海の香りがした…)

終わり

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