転校生「この学校を守護ります」 男「あぶねえからやめろ!」 (12)

逢魔が時、虫どもはさざめき、木々は笑う。
一寸先は闇という状態で、頼りになるのは手元の懐中電灯のみ。
男は闇に呑まれないように、呟いた。
「エロ本ぐらい、いいじゃねえか」
妹に発見されたエロ本は例外なく風呂の燃料となる。そして、昨日にはオレの部屋全てのエロ本が捕らえられ、灰と化した。
魔女狩りよりも徹底している。

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なので今夜は、その補充に向かうところだ。
妹が眠ったことを確認してから、500円玉と懐中電灯を握りしめて外へ飛び出した。
1キロ弱離れた、販売機を目指して。

夜の田舎は意外と騒がしい。特に夏はそうだ。
それに紛れるように獣は目を光らせて、息を[ピーーー]。獲物に気取られないために。
オレは絶えず周囲を警戒していた。
脅威となる野犬、猪、熊。そして、人間に怯えていたのだ。

販売機まで、あと半分という距離に達したとき
イヤァァー。
目の前の闇がそう、叫んだ気がした。
男「うそ、だよな」
言葉とは裏腹に、手にはじっとりと冷や汗が浮かんだ。心臓はドラムのように鳴り響く。
闇は目の前に広がったままだ。
なにも、答えない。
つぎの獲物がやってくるのを待っている。
男「くそが…」
オレは右手の包帯をするするとほどいた。
オレの武器はこれしかない。
手をかたどっていたはずの紅色の細胞が一斉に分裂し、巨大化する。
それは長さ一メートル程度の槌となって、肩からぶら下がっている。
何度か素振りをしてから、オレは闇へと踏み込んだ。

なんだ、この臭い。
それは鼻がひん曲がるほど酸っぱく、そして腐った臭いだった。
手で鼻を覆いながら、懐中電灯を前へ走らせる。
むかって左方は田んぼが広がっており、見通しが良い。だが右方は山に繋がるため、急傾斜になっている。その上、頭上を覆わんとばかりに木々がしなだれているせいで、視界はすごぶる悪い。
もし、獲物を襲うとしたらまず右方へ身を隠すだろう。
そうして、通り過ぎるのを待ってから
無防備な後ろから襲う。
安全で確実だ。
いつの間にかオレは狩られる側になっている。
誘き出されているんだ。

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