妹「なんでそのまま食べるの?」 (92)

男「ホットケーキに蜂蜜だのバターだの、邪道なんだよ」モグモグ

妹「そんなの美味しくないじゃん」

男「妹が作ってくれたってだけで美味しいんですよ」

妹「またそれ。都合が悪くなったらいつもそうやって……」

男「別にどんな食い方をしたっていいだろ。好きに食わせてくれ」

妹「いっつもはぐらかすから、余計に気になっちゃうんじゃんっ」

男「特別な理由なんかないっつの。強いて言うなら……」

妹「……言うなら?」

男「いや、強いて言う言葉もないな。単純に、これで満足してる。それだけなんだ」

妹「わかんないなあ……」

男「もう一枚っ」

妹「はいはい……」

友「……で?」

男「で? って言われても。お前まで俺の趣向にケチつける気か」

友「いや、そうではないが。僕だって、目玉焼きには何も掛けず食べたい派だ。そこにケチをつける気は毛頭ない」

男「じゃあなんだよ」

友「いつどこで出されたホットケーキであろうと何もかけずに食べるのであれば、僕は何も言わない」

友「だが、そうじゃないだろう」

男「?」

友「妹さんの作ったホットケーキだけ、何もかけずに、そのまま食べるのはどういう理由があるのだ、と」

男「ああ」ポン

友「分かっている癖に今気づいたような素振りを……で、どういう理由なんだ」

男「ふわふわで甘い砂糖菓子みたいな妹の作ったもんだから、何もかけなくたって甘々なんだよ」

友「……本気で言ってるのか、それ」

女「ほーん。で? 私に同意を求めないで欲しいんだけども」

男「いや、同意を求めてるつもりはない。ただ、理解はして欲しいと思ってる」

女「理解できないよ。砂糖菓子みたいな女の子て……妹さんの住んでる家って101号室だっけ?」

男「違うし。そもそも家はマンションでもアパートでもないし、妹は寮生でもない」

女「そう。ま、なんにせよ、私から言えることと言えば……」
男「……」

女「きもちわるい」

男「……」グサッ

女「と、場を和ますための冗談は置いておいて」

男「ただの感想だったじゃないですか……」

女「冗談よ。……私も友くんと同じ疑問を投げるよ。どうしてなの?」

男「ふわふ」

女「冗談でもやめてきもちわるいから」

男「本気できもがってるじゃんっ! 冗談じゃないじゃん!」

女「……で、どうしてなの」

男「単純にそういう気分の日だったんだ。たまたま、妹が作ってくれた日が」

後輩「いやいや。そんなことないでしょ」

男「お前まで疑うのか? 先輩は悲しい、悲しいぞぉ」ウルウル

後輩「たまたま、偶然、妹ちゃんが作ってくれた日に限ってそのまま食べたくなるって、そりゃおかしいっすよ。奇天烈っす、不可思議っすよ」

男「世の中は奇天烈で不可思議なもので溢れてるよ。交際費とかね」

後輩「交際? 先輩、誰かと交際してるんすか!? ……あっ、交際『費』っていうくらいだから、あれっすか。円光ってやつっすか! 変態っ! 短小!」

男「短小じゃないよ!」

後輩「へ。じゃあ長大っすか」

男「う、うーん……中、くらい? って、そんな話じゃねーよバカ! 貧乳!」

後輩「先輩、それ本気で言ってるんすか」ピクッ

男「……あ、いや」

後輩「揉んで確かめてください」ズイッ

男「分かった」プニッ

後輩「ひ、ひああぁあああああああああああ!!」

先生「……で? 一応、言い分を聞いてやるぞ」

男「揉んで確かめてくださいって言われたら、揉むしかないでしょう!?」バンッ

先生「…………」

男「揉むしかないでしょう!?」

先生「二度も言うな。声がでかい。おれまで変態かと思われるから黙れ」

男「言い分を聞いてくれるんでしょ!」

先生「言い分とイーブンを聞き間違えるとは、耳までおかしくなったか?」

男「イーブンを聞いてやるってどんな意味ですか。早く説明してください」

先生「……公平に話を聞いてやるという意味だ」

男「で、聞いた結果、どうなるんですか」

先生「停学」

男「え゛」

先生「……悪かった、冗談だ。お前と話しているとつい楽しくなってしまってな、歯止めがきかなくなる。ホントは謹慎処分だ」

男「どっちにしろ学校へは来るなってことすか……」

妹「あんちゃん!」バタンッ

男「なんだ騒々しい」

妹「後輩ちゃんの胸を揉んで先生と楽しんで近親処分ってホント!?」

男「前半は合ってるけど、後半はなんかおかしいよ。情報捻じ曲がってるよ」

妹「なんで胸揉んだのさ。青春の性が抑えられなかったの」

男「だから……揉んで確かめてくださいって言われたから、仕方なく揉んでやっただけだ」

妹「後輩ちゃんがそんな淫乱なワケないじゃんっ」

男「淫乱はさておき、あいつは変態だ。変態の貧乳だ」

妹「後輩ちゃんはそんな子じゃないよ! 人のせいにするなんて最低! ……私より胸大きいし」ボソッ

男(あいつ、妹に対してネコ被ってやがるな……おかげで変態の汚名を被るハメになったぞあの貧乳め)

男「あーうん。俺が悪かった。俺が変態だよ。変態へんたい」

妹「開き直らないっ」

男「……分かった。あとで後輩には謝るから」

prrrrr……

後輩『……はい』

男「悪かったな……胸揉んで」

後輩『いえ……悪いのはあたしなんす。申し訳ないっす』

男「俺が揉まなきゃ、何も起きなかったんだ。ごめん」

後輩『謝らないで欲しいっす。ホントに、悪いのはあたしなんす』

男(やけに強情だな……それに潮らしい)

男「お前の冗談を真に受けた俺が悪かったんだ」

後輩『いや……』

男(なんでこんなに噛み付くんだ)

後輩『男の人に胸を揉まれたら大きくなるなんて迷信を鵜呑みにしたあたしが悪いんす』

男「おまえのせいだー!?」

後輩『いやーホンっト申し訳ないっす……でもですね、先輩』

男「ん」

後輩『人に揉まれるって、大分抵抗がありますね』

男「……そんな内情を打ち明けられても」

後輩『このお詫びは絶対しますんで……本当に、ごめんなさい』シュン

男(そんな落ち込んだ声出すなよ……ありもしない罪悪感に苛まれる)

後輩『先生に事情を説明してみます』

男「そんなことしなくてもいい。どうせすぐ終わるしな」

後輩『でも……』

男「ま、早めのゴールデンウィークだとでも思って満喫するよ。どうだ、羨ましいだろう」

後輩『……そっすね。羨ましいっす」

男「あっ、そうそう」

後輩『なんすか?』

男「妹に猫被るのはやめろよな」

後輩『妹ちゃんとは清いお付き合いをしようって決めてるっす』

男「俺とは」

後輩『揉みつ揉まれつの関係を築けたらな、と』

男「そうだな」

後輩『えっ!?』

男「俺ばっかり揉んでちゃ悪いし。うん」

後輩『そんな日常的に揉まれてないっす! まだ一回っす! 一回切りの初回限定っす!』

男「俺、そんなに胸大きくないけどさ……いいぜ、揉めよ」

ブツン ツーツーツー……

男「あいつ、ツッコミ側になると弱くなるよな……」ピッ

妹「……で? 何か言うことがあると思うんだけど」

男「人の電話を盗み聞き、よくない」

妹「揉みつ揉まれつの関係なの」

男「そんなワケないだろ」

妹「……後輩ちゃんって、あんなキャラなの」

男「だとして、嫌いになるか? そんで絶交でもするのか」

妹「そんなのしないよ。しないけど……」

男「ま、困惑するわな。どんなキャラでお前と接してたのかは知らないけどさ」

妹「……」

男「話してみたらどうだ。後輩と」

妹「何を話せばいいのか分からないよ」

妹「じゃあ…行くよ?」

兄「おう」

妹「んっ…」

ミチミチミチ

兄「うぅっ…」


妹「あと……ちょっと…」


ミチミチミチミチ

兄「あああああああああ」


妹「入った!入ったよ!お兄ちゃんのお尻の穴に!」

兄「ふぅー………ふぅー……」

妹「苦しそうだけど…大丈夫?」

prrrr……

後輩『先輩? なにか言い忘れっすか?』

男「ほれ」ポイッ

女「わ、わわわ」

後輩『……?』

女(どうしろっていうのさ!)

男(いいから話せって。話せば分かる)

後輩『せんぱーい。ちょっと、先輩ってば』

後輩『放置っすか? あたしの反応をみて楽しもうってことっすか? 謹慎中でも変わらないっすねぇ先輩……』

後輩『あ、そういえば。先輩に胸揉まれて、ちょっとだけ大きくなったっす』

男(ええええええええええ)

妹(ええええええええええええええ)

prrrr……

後輩『先輩? なにか言い忘れっすか?』

男「ほれ」ポイッ

妹「わ、わわわ」

後輩『……?』

妹(どうしろっていうのさ!)

男(いいから話せって。話せば分かる)

後輩『せんぱーい。ちょっと、先輩ってば』

後輩『放置っすか? あたしの反応をみて楽しもうってことっすか? 謹慎中でも変わらないっすねぇ先輩……』

後輩『あ、そういえば。先輩に胸揉まれて、ちょっとだけ大きくなったっす』

男(ええええええええええ)

妹(ええええええええええええええ)

後輩『さっきは結構抵抗があるって言ったっすけど……ちょっときもちよかったっす』

男(おい早く出ろ妹! このままだと色々とマズイ!)

妹(う、うん!)

妹「もしもし!」

後輩『……あれ。先輩の携帯から、あたしと違う女の声が』

男(その発言だけ聞くとこえぇ……)

妹「わ、私。妹です」

後輩『あーー……なるほど。早速剥ぎにきたんすか。先輩ったら……」

妹「あの……知っちゃった」

後輩『そっか……』

後輩『……ごめん。あたし、変態だ』

妹「……」


男(差し向けておいてなんだが、変な話してるな……)

後輩『軽蔑する? するよね……だって、お嬢様キャラ演じてたし。変態とは無縁にみえたよね」

男(そんなキャラ演じてたのか。おーほっほっほとか高らかに言うんだろうか、金髪でもないのに)

後輩『金髪でもないのに、おかしいよね。「おーほっほっほ」とか、声高々に言っちゃって』

男「本当に言ってたの!?」

妹「あんちゃんちょっと黙って」

後輩『でも、知られちゃったらもうそんなキャラは続けられないか』

後輩『……いや、そもそも友達であり続けられないよね』

妹「そんなことないっ」

妹「私、平気だよ? 後輩ちゃんが例えあんちゃんに胸揉まれてイっちゃうド淫乱でも平気なんだから!」

後輩『そこまでは言ってないけど……』

妹「知ってるでしょ。私、あんまり友達とかいないし……。だから、後輩ちゃんは数少ない、貴重で大事な友達なんだから」

妹「だから――私も変態になる!」

男(なんだこの会話……)

後輩『変態になることはないよ。ただ……あたしが変態だっていうこと、そのことを理解して欲しい』

後輩『その上で、友達として……これからも付き合っていって欲しい』

妹「……うん!」

男「なんか変な会話だったけど、まぁよかったな」

妹「……私と話してると、時々、無理してるなって思う時があったんだ」

男(お嬢様言葉で喋ってたんだろうな。そりゃ無理あるよ)

妹「でも、なかなか言い出せなくて……嫌われたらどうしようって思って」

妹「今日この日、後輩ちゃんと本当の意味で友達になれた気がするよ……ありがと、あんちゃん」

男「礼は態度で示されよ」

妹「……ホットケーキ、焼いてくるよ」

男「おう」

友「後輩の胸でイったって本当か!」バタンッ

男「もう全部おかしいよ……」

友「すまん、動揺していて」

男「動揺で済まそうとするな」

友「なんだ、思ったより元気そうじゃないか。……しかし、思えば遠くに来たものだと思わないか?」

男「……ホットケーキをそのまま食う理由を問い詰められてた。それだけのはずなんだけどな」

友「あの時、僕に理由を正直に言っていれば、謹慎処分にはなっていなかったかもしれんぞ」

男「かも、じゃなくてそうだっただろうな」

妹「友さんもホットケーキ食べます?」

友「いいのか?」

妹「あんちゃんが毎回よく食べるから沢山焼くんです。食べていってください」

男「ま、一枚くらいは恵んでやるぞ」

友「お前が作ったものではないだろう……そういうことなら、いただくとしよう」

男「……で、後輩。なぜお前が俺の家にいる」

後輩「妹ちゃんに呼ばれて家を飛び出たっす」

友「まぁ、ホットケーキの枚数は心配いらんだろうな……にしても、男。いつもこの枚数を一人で平らげるのか?」

妹「大飯喰らいなんですよ。ご飯だって丼で食べるんですから」

男「そういうことだ」モグモグ

後輩「……そのままでも確かに美味しいけど、やっぱあたしは蜂蜜ありの方がいいっす」モグモグ

妹「あんちゃんがおかしいだけだから。はい蜂蜜」

後輩「ありがと」

友「後輩。僕にもくれ」

後輩「はいっす」

男「そろいも揃って邪道だ……」モグモグ

妹「好きに食わせろ、なんでしょ。他の人だってそうなんだよ」

男「た、たしかに……」

友「妹さんのホットケーキだけ、なにもかけないんだよ。どう思う」

妹「えっ、そうなんですか!?」

後輩「そうなんだよ。妹ちゃんのだけなんだよ」

男「ここでその話します? 空気読んでよ」

友「空気を読んだ結果だろう」

男「敢えて空気読まない……AKYってやつですか……ちょっと前に流行りましたね」

後輩「あの巨乳やらしいの略じゃないんすねー」

男「お前……さっき妹と会話してた時はあんな潮らしかったのに、すっかり本調子だな」

妹「大丈夫、私はどんな後輩ちゃんでもいけるから」

友「その発言は些か危ないな」

後輩「あ、あの……百合は専門外っす……」

妹「百合じゃないよっ!」

妹「……で、実際のところ、どうなの。あんちゃん」

男「まーだその話するの」

友「そこまで隠されると、逆に気になってしまう」

後輩「白状するっす」

男「うるせぇ揉むぞ」

後輩「……っ」バッ

男「えっ? ちょ、何マジな反応してんだよ……揉むワケないだろ」

友「揉んだやつが何を言う。説得力皆無だぞ」

妹「後輩ちゃん、ちょっと顔赤いよ」

後輩「……うぅ。面と向かって言われると、やっぱり、まだ恥ずかしいっす…………」

男(…………えっ、何この生物。可愛い)キュン

後輩「暫く、その話題は禁止の方向でお願いしたいっす、先輩……」

男「あ、あぁ……悪い」

友「可愛い後輩を辱めたワケだからな。ここは詫びの為、白状してもいいんじゃないか」

男「そこに繋げんなや」

後輩「そっすね!」

男「お前まで!」

妹「……どうしても言わないなら、考えがある」

男「な、なんだよ」

妹「今後一切、ホットケーキは作らないっ」ド ン ッ

男「……」

友「……」

後輩「…………」

妹「…………」

男「……………………はぁ」ガシガシ

男「俺、小さい頃は泣き虫だったんだよ」

友「語り始めたぞ」

後輩「ボイスレコーダ、おっけい」カチッ

妹「MDコンポ持ってきたほうがいいかな……」

男「おい! つかMDコンポ古いよ、いつの生まれだよ!」

友「落ち着け。やっと兄の秘め事が聞けるのが嬉しくて脳内タイムスリップしてしまったのだろう」

後輩「続きを」

妹「続き都築」ニャー

男「……はぁ」

男「……俺は泣き虫だった。転べば泣いた。かけっこでビリになれば泣いた。小太鼓担当のオーディションに落ちたら泣いた。逆境に立たされれば泣かずにはいられなかった」

友「今のお前からでは考えられないな

後輩「意地でも泣かなさそうな人に見えるっす」

妹「そんなに泣き虫だったっけ……」

男「泣き虫だったよ。お前は覚えてないかもしれない。なんせ俺が小さい頃は、お前はもっと小さかったんだから」

妹「ふむぅ……」

男「ある日。俺はいつものように部屋の隅っこで泣いてた。この居間の隅だ」スッ

友「舞台ここかよ」

後輩「臨場感湧いてきたっす」

男「……そんな時、妹がな。ホットケーキを作ってくれたんだ」

妹「えっ、私?」

友「あ、もう分かった。展開読めたからもう話さなくていいぞ」

男「……」プルプル

後輩「まぁまぁ。続きを」

男「親がよく作っていたから、作っているところをよく見ていたから、作れると思ったんだろう」

友「どうだった。味は」

男「まずいに決まってんだろ。その上、蜂蜜もバターも、何もかかってねぇ。甘さの欠片もなかった」

男「妹はニコニコしながら見てるんだぜ。そして、俺に聞くんだ。『美味しい?』ってさ」

妹「……返答は?」

男「うまい。それだけ言って、それきりなんも会話しなかった」

男「静かだと、響くんだよ。フォークが皿にあたる音が」

後輩「なんか、寂しい雰囲気っすね」

男「妹は横でずっとニコニコしてやがる。そんで、また俺は泣いた。泣きながら食った」

男「年下の妹に慰められて惨めとか、そういうんじゃない。情け……なかったけど、それも違う」

友「……悔しかったのか?」

男「ああ。悔し泣きだ」

後輩「?」

妹「??」

男「まだ1+1は無限大とか言ってるようなバカが、一つのもんを形にしたんだぜ。不味かったけどさ、それでも俺は悔しかったよ」

友「無限大とは、将来有望な妹だな」

後輩「さすが妹ちゃん。自慢の友達っす」

妹「……バカにされてない?」

男「不味かったけど、勇気をもらった。こいつだけにゃ負けねぇって思った。……ひどいもんだろう。ひどくて、恥ずかしい」

友「恥ずかしいな」

後輩「あたしだったら投げ身してるっす」

男「うわーん二人が虐めるよ妹ー!」

妹「私の胸に身を投げないで!」パーン

男「いつつ……まぁ、そんな理由だよ。あれ以来、お前の作るホットケーキは何もかけないことにしてるんだ。あの時の同じようにして食えば、なんかをやる勇気をもらえる気がするから」

友「ふぅん……確かに、それは口が裂けても言いたくない理由だな」

男「だから言いたくなかったんだっつの」

後輩「恥ずかしいけど……いいんじゃないっすか。少なくとも、あたしはそう思うっす」

友「確かに恥ずかしいが、いいと思う。一種の願掛けというか、そんな類のものだろう」

男「そんな感じかな。どうだ、満足したか」

妹「そっか。だから私、今は料理が好きなんだ」

男「……なんだよ。前は料理が好きじゃなかったみたいな言い草だな」

後輩「妹ちゃん、いつも美味しそうなお弁当作ってきてるのに」

妹「今は好きでやってるからね。でも、前は好きじゃなかったよ。嫌いでもなかったけど」

友「なるほど。お兄ちゃんが美味しいと言ってくれたから、好きになったというワケだ」

男「まさか。そんな単純な理由じゃないだろう」

後輩「そっすよ」

妹「違うよ! ……と、否定したいところだけど、多分その通りなんだよね……あはは」

男「そうなのかよ」

妹「きっかけにはなったと思う」

男「ふぅん……そっか」

後輩「お互い良い影響を受けたってことっすかね?」

妹「そうかな。そうかも」

友「なんだ。それらを加味すれば、いい話じゃないか」

男「結果的にな……」

後輩「白状しなかったら、妹ちゃんのこと聞けなかったんすよ。吐いてよかったじゃないっすか」

男「お前はまた調子の良いことを……」

妹「ふふっ」

男「……ま、そうだな。その通りだよ」

妹「謹慎明けの朝はどんな気持ち?」

男「……ホットケーキ食べたい」

妹「なぜ!?」

男「なんとなく、そんな気分になった」

妹「……まさか、家でごろごろしてたから、学校行く気が起きないとか言わないよね」

男「…………あと一日、謹慎していようと思う。まだ俺は反省し切れていないらしい」

妹「起きろーーーーー!!」

男「俺はまだ謹慎していないとダメなんだっ、止めるな妹!」

妹「あーもうっ、分かった。ホットケーキ作るから。それで学校へ行く勇気でも蓄えてよっ」

男「えー……」

妹「言ってくれないと私が先生に聞かれるんだからっ、起きてよ! 起きてってばー!」

女「……私、除け者にされた気がするんだけども」

男「気のせいじゃないか」

女「気のせいじゃないわよ!」

男「お前こそお嬢様キャラに相応しいよな。ちょっと『おーほっほっほっ』て言ってみて」

女「言わないわよ!!」

男「なによ!!!!」

女「逆ギレしないでよ!!!!!!!」

男「まったく……ちょっとのってくれたっていいのに。だから省かれるんだよ」

女「……どうせ私はいらない子ですよ」ブツブツ

男「ウソうそ冗談だって。省くつもりも省く予定もないから」

女「ぐすっ、ほんと……?」

男「あぁ」

男「ところで、俺が後輩でイった件だけどさ」

女「省きすぎでしょ! 全然わからないわよ!」

男「悪いわるい。後輩の胸を揉んで謹慎くらった件だけどさ」

女「そんな件ないわっ! と、否定したいところだけど……それって本当だったのね」

男「やっぱウワサが流れてるのね」

女「ええ。誰が発信源なのかは知らないけど」

男「どうにか消せないもんかな。これ以上後輩に迷惑をかけるのは、流石にちょっと忍びない」

女「ウワサを根絶するのは難しいでしょ。人の口に戸は立てられないもの」

男「だよなぁ」

女「……でも、上書きすることはできるかもね」

男「上書きって。それって今流れてるウワサ以上に強烈なウワサが必要にならない?」

女「あんたが正直になれば、それくらいは余裕だと思うけど」

男(正直って……なんのこっちゃ)

後輩「あ、先乳……」

男「読み方は同じだけどさ……お前が禁止の方向って言ったのに、お前がその話題を持ち出すのか」

後輩「だって……ウワサが」

男「ま、イヤでも耳に入るよな」

後輩「……ごめんなさい」

男「お前のせいじゃないって何度言わせるんだよ」

後輩「……」シュン

男「……なぁ後輩。改めて聞くけど、お前は男に揉まれたのは初めてだったんだな?」

後輩「そ、そうですけど……それがなんすか」モジモジ

男「そうか。初めてを奪って悪かったな」

後輩「大げさな言い方しないでほしいっす。処女を奪われたワケでもないのに……」

男「いや。大げさだろう。好きな男とする初めての一つを奪っちまったんだから、十分大事だと思う」

後輩「先輩、今日はちょっとおかしいっすよ。いつもの10割増しで真面目顔してるっす」

男(普段の俺、どんな顔してんだ……アヘ顔か?)

男「だからな……うん…………」

後輩「……うん?」

男「付き合って……ちょっと」

後輩「? いいっすけど。どこに行くんすか。もう昼休み終わっちゃいますけど」

男「い、いや……ちがくて」

後輩「……先輩。熱でもあるんじゃないっすか? 顔赤いっす。紅潮っす。不調なんじゃないっすか?」

男「言うなっ……」

後輩「いや、でも」

男「付き合って、ってのは! 交際とか、彼氏彼女の関係とか、そういうのだっ……」

後輩「…………………ほぇ」

キーンコーン カーンコー……

男(……ぶっちゃけてしもたあああああ)

後輩「……せ、先輩。冗談きついっす。まさか胸揉んだ責任とって付き合おうとか、そういうことっすか?」

後輩「そういうの、やめたほうがいいっす。……やめてほしいっす」

男「ち、ちがう。確かにきっかけにはそういうことが絡んでるけど、責任を取るために付き合おうとか、そういうことじゃない。流石に、そんなおめでたい頭はしてない」

後輩「……じゃあ、先輩は。あたしが好きで、それで付き合おうとか、彼氏彼女の関係になろうとか言ってるんすか」

男「……そうなるな」

後輩「……」

男「……」

後輩「…………あの。授業、あるんで」

タッ タッ タッ……

男「…………」

友「残念会でも開くか」

男「お前、盗み聞きかよ」

友「盗み聞きされたくなかったら、校内で告白するのはやめるんだな」

男「……だな。今後のために、参考にしとく」

友「その落ち込みよう。本当に好きだったんだな」

男「最近気づいたのよ。こいつ、案外可愛いなって思ったら、ころっといっちゃったよ」

友「一目ぼれか」

男「ちがうよ。前から惚れてたんだ、きっと。んで、さっき終わった」

友「泣くか? 泣き虫よ」

男「泣かねぇよ。……そこまで悲しくはない。むしろ、清々しい気分だぞ」

友「そうか」

男「……世の中、上手くはいかないな」

女「男くんの評価が一気にだだ下がりよ」

男「えっ」

女「学校内の、ね。後輩ちゃんが好きすぎるあまり胸を揉みしだいた男なんてウワサが流れてる」

男「……ま、結果おーらいなんじゃねぇの」

女「そのために告白したの?」

男「そんなワケないじゃん……正直になっただけだよ」

女「そう」

女「あれから、後輩ちゃんとは話した?」

男「……一度も話してない」

女「ふぅん」

男「告白して、振られたら、俺だけ一方的にダメージを負うだけかと思ってたけど、そうでもないんだな」

女「まぁ、影響はあるでしょうね」

男「後輩には悪いことをしたな……はぁ」

女「気持ちを伝えただけだっていうのに、ままならないものなのね」

男「難しいな。人って……」

後輩「……あっ」

男「……」

スタ スタ……

後輩「ちょ、ちょっと待ってくださいっす!」

男「……え?」

後輩「今、ヒマっすか……?」

男「このまま家に直帰するとこだし、特に予定はないけども……」

後輩「時間、ください」

カラン カラン……

男「喫茶店ね……お前、こういうとこ来るんだな」

後輩「はい。寂れてるけど、あたしは気に入ってるっす」

後輩「カウンター席でいいっすか」

男「あぁ、うん。むしろカウンター席がいい」

後輩「先輩、カウンター席が好きなんすか」

男「座りなれてるからな……」

後輩「え、えっと……元気出してくださいっす」

男「ぼっちを暗に示してるワケじゃねぇよ! ただ単に一人で食べに行くのが好きなだけだ!」

後輩「ふふっ」

男「……で、なんだよ。話って」

後輩「…………この間の話、なんすけど」

男「この間……」

男(俺が告白したことか……?)

後輩「あたし、よく考えたんす」

男(あれ。ちょっとまて。俺って振られたんじゃないの?)

後輩「考えて、考えて、考えたっす……」

男(今思えば、はっきりと言われたワケではなかった。あれあれ。希望を持ってもいいんですかこれ)

後輩「先輩……」ジッ

男「お、おう」

男(これは、これは……もしかするのか!)

後輩「ごめんなさいっす……」

男(分かっていた。そう。振られるのは分かっていたんだ……だからいいんだ)

後輩「あたし、いきなりそういう関係になるのは難しいと思うんす」

男「あぁ、うん。はい。はい。うん」ホケー

後輩「? だから、ちょっとずつ段階を踏んでいけたらな、って……」

男「はいはい。そっか。うん。……うん?」

後輩「え?」

男「悪い。もう一回言ってくれ」

後輩「もう一回っすか!? それはちょっと……」モジモジ

男「頼む。もう一回だけ」

後輩「……彼氏とか、彼女とか。いきなりそういう関係になるのは難しいと思うんす」

男「うん」

後輩「だから、……ちょっとずつ段階を踏んで、いずれは……彼氏彼女の関係になれたら、って……」

男「…………お前は、」

後輩「は、はいっ」ビクッ

男「お前はどこの生娘じゃあああああああああああああ!」

後輩「ひぃいいごめんなさいいいいいいいい」

男「はぁ、ははははははは……げほっげほっ」

後輩「大丈夫っすか。これ水っす!」スッ

男「んぐ、んぐ……ぷはあっ…………はぁ」

後輩「落ち着いたっすか」

男「ああ。ありがとう」

男「……改めて言おう」

後輩「?」

男「俺と付き合ってほしい」

後輩「……えと、お友達から、で、よければ…………」

男「……」

後輩「……」

妹「あれ? あれあれー?」

男「どうした妹よ」

妹「そういう結末に落ち着くの?」

男「当然の帰結だろう」

妹「……詐欺だよこんなの! ヒドイよ!」

男「何を言ってるのかわからない」

後輩「妹ちゃん、落ち着いて」

妹「落ち着いていられないよ! ホットケーキをそのまま食べる理由からどうやったらこういう結果になるのさ!」

妹「爆発しろ!」

男「それが本音かよ……」

後輩「あんちゃんはいただいたぜ」

妹「それはいいんだけどさ」

男「いいの!?」

妹「いいでしょ。あんちゃんに彼女ができたって、私が妹だってことは、残念ながら変わらないし」

男「残念……」

妹「後輩ちゃん。こんな兄でいいの? ホントに?」

後輩「こんな兄がいい!」

男「……///」

妹「男のデレとかいらないよ。誰得なのよ」

後輩「あたし得」

妹「……ま、二人はお似合いだと思うよ」

男「そうか?」

後輩「そうかな」

男「妹」

妹「なに」

男「ありがとな」

妹「なんのお礼さ」

男「あの日、ホットケーキ食ってなかったら告白できてなかったかもしれないと思って」

妹「それはないって。あんちゃんはもう昔のあんちゃんじゃないんだから。あんちゃんの勇気だよ」

男「そうだとしてもだ」

妹「あーそう。どういたしましてー」

男「妹」

妹「なに」

男「ホットケーキたべたい!」

妹「後輩ちゃんに作ってもらえーー!!」

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