引退した勇者、再び冒険へ (58)
友人「久しぶりだな」
何年かぶりに、友人が訪ねてきた。
私のかつての相棒だ。
今は引退して久しい。が当時はこいつと連れ立って、
様々な冒険に挑んだものだった。
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相棒の顔を見るに、その懐かしい日々が蘇る。
強大な魔物と戦い、連れ去られた姫様を悪党の手から救い出し、
国家転覆を企む大臣の陰謀を食い止め・・・。
ほうっておけば、世界が滅亡しかねない事件に係わったこともあった。
友人「紅き風の勇者」
いつしか、私につけられたあだ名だ。
赤色が好きだった事と、風のようにあざやかに事件を解決する様から
そう呼ばれていた。
私「やめてくれ、昔の名前で呼ぶのは・・・照れるだろう。
それより、何の用だ?」
友人「ちょっと、厄介なことがあってな・・・」
私「厄介なこと?」
友人「そうだ。『不死者』だ。『不死者』が現れたんだ」
その言葉を聞き、私は体に戦慄が走った。
不死者。かつて何度か相対した事があったが、非常にやっかいな相手だ。
ヤツと相対する事に比べると、世界滅亡の件なんて楽な事件だ。
私「『不死者』・・・か。けれど、それがどうした?」
私「放っておけばいいじゃないか。第一、今の私には・・・」
私「妻と、子供がいるんだ」
昔の私だったなら、不死者が出た、と聞いただけで
ガマンできずに戦いを挑んだ事だろう。
この世の理を捻じ曲げる・・・。そんな邪悪な存在は、
決して放置してはおけない性格だった。
しかし、年月は人を変える。
妻と子供ができ、私も大分落ち着いた。
私「係わらなければ、害はないだろう?」
私「放っておいたらいいじゃないか」
友人「・・・」
友人の顔が曇る。
まさか・・・
友人「・・・俺の、息子なんだ」
私「な、何だって!?」
友人「俺の息子が、『不死者』なんだよ・・・」
友人は目に一杯涙を貯め、悔しそうに声をしぼり出す。
友人「くそっ、何だってこんな!」
私「友人・・・」
友人「・・・すまない、取り乱した」
友人はひと息つくと、私をまっすぐ見つめて言った。
友人「お前にしか頼めない。俺の息子を・・・」
友人「いや、『不死者』を倒してくれ」
私「・・・」
すぐには返答ができずに、私は俯いた。
妻「あなた・・・?」
私「ああ、お前。・・・何でもない。昔の友達だ」
友人「・・・紅き風。頼めるのはお前しかいないんだ」
私「その名前で呼ぶのはやめろっ!」
私「・・・すまないが、今日の所は帰ってくれ」
友人「・・・ああ。わかった」
友人は、肩を落すと帰っていった。
不死者。またの名を倒し得ぬもの。またの名を秩序の破壊者・・・。
様々な呼び方をされて来た、恐るべき存在。
我々冒険者達が、最も忌むべきもの。
私「・・・」
その夜、私は寝付けぬままベッドの上で寝返りを打った。
よりにもよって、友人の息子が不死者・・・?
確か、14歳くらいだったか。
友人ともあろう者が、ちゃんと見ててやらなかったのだろうか・・・?
それにしても、この私に頼みに来るとはよほど困り果てたのだろう。
できることなら力になりたいが、果たして今の私にできるだろうか・・・?
それに、妻と息子が・・・。
妻「・・・あなた」
私「何だ・・・?」
妻「昼間のお友達の、力になってあげたいんでしょ・・・?」
私「・・・」
妻「私達の事は、気にしないで」
私「しかし・・・」
妻「だって、あなたすごくソワソワしてるもの。見ててわかるわ」
私「・・・」
やれやれ、妻にはかなわない。
正直に言うと、こんなに血が騒いでいるのは久々だった。
ついつい昔を思い出してしまう。
協力し、時には敵対しながらも駆け抜けたあの日々・・・
友人が、困っているのだ。
その息子共々、救ってやらなくては。
私「なぁ、今度約束してた家族で出かける予定・・・」
妻「はいはい。キャンセルね」
私「・・・すまない」
数日後、決戦の日がやって来た。
友人宅へと到着すると、友人が出迎えてくれる。
友人「よう、待ってたぞ」
友人「一人で、大丈夫か・・・?」
私「ああ、心配ない。任せておけ」
私はそう言って、友人宅へと上がりこんだ。
私「お邪魔するよ」
客間の一室に、友人の息子が待っていた。
私「初めまして。紅き風の勇者です」
そう名乗ると、友人の息子は明るく顔を輝かせた。
友人息子「あなたが、あの有名な・・・?」
私「そうだ」
友人息子「全部見ましたよ、勇者の冒険シリーズ!」
友人息子「ニヤニヤ動画で、30万再生行ってましたよね?」
そうなのだ。私は昔、趣味でTRPGをやっていた。
そしてそれを動画投稿サイト、ニヤニヤ動画に上げていたのだ。
たまたま投稿した動画だったが、このジャンルとしては異例の
30万再生以上を記録した。
ちなみに、私のあだ名は視聴者がつけてくれたものだ。
友人息子「そんな有名人と会えるなんて、感激だなぁ・・・」
とても素直そうな、この子が『不死者』・・・?
と思ったのも束の間。
友人息子「・・・それを、これからコテンパンにできるなんてね」ニヤァ
やはり、『不死者』だったか・・・。
TRPGとは、いわゆるキャラクターになりきって遊ぶボードゲーム。
テレビゲームとは違い、人と人とのやり取りがとても大切だ。
しかし、まれにその本質をカン違いし、無理難題を吹っかけ
プレイヤーを苦しめ、やっつける事こそこのゲームのあり方だと
思っている者がいる。
そうなると、ひどい事態になる。
最初から最強モンスターが出現するわ、即死のワナは至る所にあるわ、
さらにシナリオのラスボスがいくら攻撃しても死なないなどなど。
この手のプレイヤーまたはゲームマスターは、
我々の仲間うちで『不死者』『倒し得ぬもの』『大魔王』などと呼んでいた。
『マンチキン』または『マンチ』という言い方の方が一般的だ。
このような者の行く末は悲惨だ。
ゲーム仲間から爪弾きにされ、やがて誰からも声がかからなくなり、
そして社会的に孤立してついには引きこもりに・・・。
そうなる前に、ぜひ止めなくてはならない。
『不死者』を退治し、友人の息子を救わなくては!
私はゲームを開始する事にした。
友人息子「ゲームはC&C(キャッスル&サイクロプス)でいい?」
私「ああ」
友人息子「よぉーし、じゃあ取っておきのシナリオを・・・」
一旦ここまでにします。
夜あたりぽつぽつ書くかも
「あなたは、薄暗いダンジョンの入口に立っています」
「あなたはこのダンジョンの奥深くの財宝を求めて訪れたのでした」
「果たしてあなたは無事に生きて帰れるのでしょうか?」
導入部分はありきたりだ。
逆に言えばありきたりすぎるくらいだ。
何のロマンも掻き立てられないが、まぁこれは仕方ないか。
「そして、ダンジョンに一歩足を踏み入れたととんに・・・」
「出た!20体のスケルトンの大群だ!」
出た。いきなり大量の敵との戦闘だ。何の対策もさせずに、これは酷い。
この手の戦闘は何かしかの判断ミスの罰として設定しておくのが通常だが、
これではどうしようもない。
私「・・・では、一旦ダンジョンから引き返して何か策を考えたい」
友人息子「おっと、入口は突然のガケ崩れによって塞がれてしまった!」
何てことだ。引き返せないではないか。
そもそも、これでは財宝をゲットした所で永遠に出られないのではないか?
友人息子「さぁ、どうする?紅き風の勇者さん?」
友人の息子がニヤニヤとこちらの反応を伺っている。
ナメてもらっては困る。
私の2つ名、紅き風の勇者の由来はこのような事態を
風のように軽やかに切り抜けるからつけられたのだ。
私「・・・では、質問いいかな?」
友人息子「どうぞ?」
私「このスケルトン20体は、冒険者の死体のなれの果てかな?」
友人息子「え?まぁ・・・そうじゃない多分」
私「ならば、財宝なんかに強い執着を持ってるよね?それを求めて来たんだから」
友人息子「えーと・・・そうだね」
私「では・・・。私の持っているお金をバラ蒔いて、敵が拾ってる間に逃げる」
友人息子「ちょっ・・・」
友人息子「ダメだよ、インチキじゃんか!」
私「どうしてだい?君は、このスケルトンは冒険者のなれの果てで、
財宝に強い執着を持っているって、認めただろう?」
友人息子「ぐ・・・。け、けど元冒険者じゃないスケルトンも混じってました!」
友人息子「さぁ、戦闘開始・・・」
私「元冒険者じゃないってことは・・・」
私「武器も持ってないはずだし、相当弱いよね」
私「脅すだけで、逃げちゃうかもな」
友人息子「う・・・」
友人息子「あーもう!」
「あなたは持っている金貨をバラ蒔くと、スケルトンは一斉にそれに集まります」
「そして、そうじゃなかったスケルトンも、あなたが武器を向けると逃げました」
「その隙に、あなたはダンジョンの奥へと進んだのです」
友人の息子は、不承不承といった感じでシナリオを進めた。
友人息子「・・・やるね。さすがは紅き風の勇者」
友人息子「だけれど、次はこうは行かないよ・・・?」
ふぅ、何とかスケルトンの大群を退けることができた。
だが、油断は禁物だ。
この先のダンジョンに、一体何が待ち構えているのだろうか・・・?
今日はここまでにします
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