私「死ぬなら凍死がいい」 (109)

私(死ぬなら凍死がいい)

私(車にひかれるのは私を引いた人に迷惑がかかるし)

私(首吊りもだめ)

私(私の死体を処理するお母さんに迷惑がかかる)

私(いろいろ垂れ流しとか聞いたことあるし)

私(雪に埋れて溶けて死ぬなら、まあいいかな)





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路地裏、学校帰り

私(そこそこ積もってるなー)

トサッ

私(冷たっ)

私(ほっぺたいたい)

アハハー、ガヤガヤ

私(うちの小学校の子たちかな)

私(見られたら嫌だな)

私(気付かれませんように)

私(まあ門限までに死ねたらいいか)

トサトサ

私(足音?)

?「なにしてるの?」

目を開くと、雪に埋れた地面を踏みしめている仮面ライダーの靴が二つ見えた

男の子なのかな

男の子「なにしてるの?」

私(うるさいなあ)

私「別に」

男の子「寒くないの?」

私「うるさい、どっかいってよ」

そう吐き捨て、土の混じった雪を声の主に投げつけた。

男の子「」トサトサトサ

私「……行ったか」

トサトサトサト

私「またきた」

男の子「ねえねえ!これみて!!」

私「なによ、しつこい」

男の子「いいからこれみてよ!」

しぶしぶ顔を上げる。

雪は頬に張り付いていて、皮膚がはがれおちるんじゃないかと思った。

そこにあったのは、私の膝にやっと届くくらいの、小さな雪だるまだった。

男の子「どう?」

歪な二つの白い塊に

ところどころ欠けている枯れ葉の目

今にも折れそうなこげ茶色の枝の腕

パーツの一つ一つがなんだか間抜けで

じっと見ていると頬がゆるんだ。

男の子「あ! わらった!」

私(あ)

私(そっか、私笑えたんだ)

私(笑うのはいつぶりだろう)

私(お母さんに笑うなって言われてぶたれてからだな)

私「うるさい!」

認めるのは癪だからまた雪を投げつけた

それからしばらく彼は

学校であった面白い出来事などを一方的にしゃべると帰って行った。

いつの間にかあたりは暗く

電灯に照らされた雪だるまは冷たく光を反射していた。

このままでは門限を過ぎてしまう。

またお母さんに怒られる。

冷えた体に力を入れ、バランスを崩しながらも立ちあがった

私「あ」

私「死ぬの忘れてた」

 家に帰ると、なぜ死ななかったと言われた。

私はごめんなさいとしか言えなかった。

泣くことは許されなかった。

私は人ではないから。

屑で、お母さんの排泄物だから。

最近お隣さんが引っ越してきたから、大声を出さなくなったのはいいけれど

罵倒の数は変わらなかった。

六年生になっても関係ない。

母の言葉を受けながら、例の崩れ落ちそうな雪だるまを思い浮かべてみた。

不思議と気持ちは落ち着いた。

続く
ノシ

次の日

トサトサ

私「なに、また来たの」

男の子「またきたよ!」

私「なんで」

男の子「ゆきだるま、みてほしくて」

私(友達にでもみせればいいのに)

私「別にいいのに」

男の子「今日はね、昨日のより腕が長いんだ!」

私「あ、ほんとだ、枝太い」

男の子「ゆきって、なんでこんなにつめたいのかな」

私「知らないわよ、雪だからじゃない」

男の子「へんなの」

私「変じゃない」

男の子「かきごおりのシロップかけたくなるよね」

私「まあ、それはわかる」

私(食べたことないけど)

私(お菓子とか、おもちゃとか)

私(私何も知らないんだよね)

私(そういうのが当たり前の子が周りにはいっぱいいて)

私(こんなんだから自分は人間じゃないんだなあとか思いながら)

私(今日も死のうとしてる)

男の子「赤いランドセル、かっこいいね」

私「話変わってるし」

男の子「せおっても、いい?」

私「……」

私「勝手にすれば?」

男の子「かってに?」

私「別にいいよってこと」

男の子「わーい!」

ごそごそ

私「勝手に中身いじくらないでよ恥ずかしい」

男の子「もうすぐふゆやすみだね」

私「そうだね」

私(家に長くいなきゃいけない)

私(最悪のイベント)

男の子「どこかいくの?」

私「どこもいかない」

男の子「なにしてるの?」

私「ずっとここで寝てる」

男の子「さむいよ?」

私「関係ないでしょ」

男の子「へんなの」

私「あんたに言われたくないよ」

男の子「……」

男の子「ぼく、へん?」

私「うん、変」

男の子「ぼくねー、ふゆやすみねー」

私(きいてねえし)

男の子「スキーするんだ!」

私「へー、いいね」

男の子「まえのふゆやすみもやったんだよ!」

私「そんな簡単なもんなの?」

男の子「いっぱいころんだけどね」

私「だめじゃん」

男の子「でもたのしかった!」

私「そんなもんなんだ」

男の子「うん!」

男の子「いっぱいころんだらね」

男の子「いっぱいすべれるようになるって」

男の子「おとうさんがいってたんだ」

私(お父さんか)

私(うらやましい)

私「転び続けて骨折しなくてよかったね」

男の子「こっせつなー」

私「したことあるの」

男の子「ない!」

私「ないんだ」

男の子「おねえちゃんは?」

私「え」

私(……お母さんに投げ飛ばされた、時かな)

私(結局病院連れてってくれなかったし)

私(骨折するのは私が貧弱だからだって)

私(排泄物を病院に連れてく必要ないだろって)

私「まあ、ちょっとだけ」

男の子「へー」

私「興味なさそうねあんた」

男の子「いたかった?」

私「……」

私「まあ、ちょっと」

私(かなり)

男の子「じゃあぼく気をつけなきゃね」

私「そうだね、なるもんじゃないよ」

男の子「もうかえるね」

私「あ、もうかえるの」

男の子「おねえちゃんもはやくかえりなよ」

私「はいはい」

男の子「ばいばい!」

とさとさ

私(そういや、名前とかきいてないな)

私(顔すら見てない)

私(そして今日も死ねなかった)

今日はお母さんにリモコンを投げつけられた

額に血がにじむほど痛かった

続く

ノシ

お姉ちゃん言われてたし言動から多分小学校高学年か相手は低学年の子だな
この女の子には幸せになってほしい

>>36
女の子小6で男の子は1年生くらいのイメージです

読んでくれてる人ありがとう

次の日

私「今日はなに、雪だるまじゃないの」

男の子「えへへ、ないしょ」

私「あっそ、べつに興味ないし」

男の子「もうちょっとまっててね!」

私「待ってないから」

私(饅頭みたいな形)

私(あ、あれか)

私「ゆきうさぎ」ぼそ

男の子「あ! ばれちゃった」

私「え、聞こえたの?」

男の子「うん!」

私「あんなに小声だったのに」

男の子「ぼくね、耳いいんだ」

私「へー」

私(いいな、なにか誇れるものがあるって)

私(人より優れている点ってのが、ないんだなあ)

男の子「つぎはねー、もっとおおきなやつつくるんだ!」

私「はいはいがんばってね」

男の子「ありがとうおねえちゃん!」

私(ありがとう、か)

私(言われるとうれしいもんだね)

男の子「うさぎできた!」

私「へー、立派なもんね」

私「かわいい」

男の子「ありがとう!」

私(いかん、無意識に)

私(この子といると調子が狂う)

男の子「おとうさんもね、みみいいんだ!」

私「そうなの?」

男の子「うん! ジャーなんとかにみみはひっすなんだって」

私「ジャーなんとか?」

男の子「ジャー……ジャー……」

私「覚えてないんじゃない」

男の子「おぼえてるもん」

私「うそつけ」

男の子「すいはんじゃー!」

私「お父さん家電製品なの」

男の子「うさぎさんね、このゆきだるまのとなりにおくんだ」

私「どんどん増えてくね」

男の子「いいでしょ!」

私「春には溶けるよ?」

男の子「」

私「なに、気付かなかったの?」

男の子「……どうしよう」

私「そんな泣きそうな声出さないでよ」

私(泣きそうな声を聞くのは好きじゃない)

私(どうしてかわかんないけど、昔お母さんが泣きじゃくってたとき)

私(とりあえず家のものがやたらと壊されたの覚えてる)

私(誰かが泣くとロクなことが起きない)

私「男の子でしょ、泣いちゃだめ」

男の子「……うん」

私「いいこだね」

私「うさぎって食べられるの知ってる?」

男の子「え!? そうなの!?」

私「よくわかんないけど、本で読んだ」

私「しゃべるバイクで旅する女の子がウサギを殺して」

男の子「ふーん、なんかこわい」

私「それ言ったら魚とかも同じだし」

私「牛だってそうだよ」

私「まあ結局それも雪だけどね」

男の子「これならたべられないね」

私「雪って食べたくならない?」

男の子「さいしょはたべたかったんだけどー」

男の子「つめたいだけだし、つちがいっしょなんだもん」

私「まずいよね」

男の子「おかあさんにおこられてからたべてない」

私「おこられたの?」

男の子「うん、からだにわるいでしょって」

私「あ」

私「そうだよね」

私(うちのお母さんならどうだろう)

私(そんなに好きならずっとそれを食べて生きていきな? かな)

私(いや、私に恥をかかせるな、かな)

私(私の体のこととかどうでもいいもんね)

男の子「もうかえるね」

私「うん、ばいばい」

男の子「ばいばい」

とさとさ

私「」

私(明日も来る? ってきこうと思ったけど)

私(言えなかったな)

その日の夜、お母さんにカレーを皿ごと投げつけられた。

顔が笑っていると言われたからだ。

多分男の子のことを思い出していたときだろう

熱々のルーが服を伝い、膝に達する。

焼けるように熱かったけれど、涙は流さなかった。

作らなくても作っても文句を言うから、仕方がないと思った。

明日も彼は来るのだろうか。

でも、いつか来なくなったり、するのかな

その時、私はどうなるんだろう

こわい

夜、布団に寝つくとき、そんなことをずっと考えていた

あの男の子が来てくれたり、話しかけてくれるのは

やさしさだってわかってるし

それでも、あの足音がなくなる日が、不意にやってきてしまうんじゃないかって

そんな思いが頭の中でぐるぐる回って

それを打ち消すために、なにをすればいいのか

考えた末、結論は出た。

トサトサ

男の子「おねえちゃん!」

私「ねえ」

男の子「?」

私「もう来ないでよ」

私「あんたといるのいや、嫌い」

次の日、足音は近付いてこなかった。

続く

ノシ

今日の雪は穏やかなはずなのに、いつもより冷たく感じた。

形の歪んだ雪うさぎと雪だるまは、表情を変えずに私を見つめる。

積った雪を右手で頼りなく握りしめ、雪だるまに投げつけようとした。

けれども力が入らず、そのまま固まりは手からこぼれおちる。

地面の白に溶けるように砕けた。

 次の日も、その次の日も、あの足音は聞こえない。

今日の雪は今までとは比べ物にならないくらい激しく私に突き刺さる。

体がすべて埋まってしまいそうになり、

雪だるまの腕と片目は風に連れ去られていた。

私(あの子、今日は何してるんだろう)

私(友達とゲームでもしてるのかな)

私(かまくら作りの計画をしてたとか言ってたな)

私(進んでるのかな)

私(それでいいはずなのにな)

私(なんでこんなに胸が痛いんだろう)

私(よくあるよね)

私(ずっと接していたと思ってたら)

私(それは幻とか、妄想とかって言う話)

私(あの子が夢とか幻とか)

私(そういう存在なら)

私(いくらかこの痛みはましになる気がした)

目を開けても閉じても、世界は白い。

空から降る白い悪魔は、残酷に体温を奪っていく。

ああ、これでやっと死ねるんだ。

私は目を閉じ、雪と寒さに意識をゆだねた。

?「……ねえちゃ」

私(?)

?「おねえちゃん! うまってるよ!」

私(あ、あの子か)

男の子「おきてよ! ねえ!」

重たい瞼を開く。

吹雪に霞んでよく見えないが、その小さな体格は彼で間違いなさそうだ。

男の子「こんなところで寝たら死んじゃうよ!」

私(もともとそういうつもりなんだけど」

男の子「こっちにきて!」
 
男の子に手を引かれながら、崩れ落ちそうな足に力を入れる。

「どこに?」と聞く前に、吹雪で口がふさがれた。


ついた先は空き地で、吹雪に紛れて小さなかまくらが見えた。

腰をかがめて中に入る。

ダンボールが座布団のように二枚敷かれていた。

男の子「クラスでね、みんなでかまくらつくろうけいかくってのがあってね」

男の子「ぼくがひっこしてくるまえからやってたんだって」

男の子「ちょうどきのうね、かんせいしてたんだ」

男の子「おねえちゃんにびっくりさせようとおもってたんだよ」

雪と寒さがしのげるここは天国のようだったし

彼は天使のようだった。

男の子「ゆきなのにあったかいんだよね」

男の子「ほんと、ふしぎだな」

私「ほんとにね」

私「私さ、あんたのこと夢か幻だったのかなって」

私「そんなこと考えてたんだ」

男の子「へんなこといわないでよ」

男の子「ぼくはぼくだよ」

 ほっと一息ついた後で腰が抜け、段ボールの上にへたりこむ。

沈黙の中響いていたのは吹雪の音だけたった。

私「あのさ」

男の子「?」

私「」

私(なんであんなこと言ったのかとか)

私(言い訳しようかなって思ったのに)

私(声が出てこない)

私(音が出ない)

ぽろぽろ

私(なんかでた)

ぽろぽろ

私(あ、涙か)

私(鼻の奥がつんとする)

私(心臓が燃えてるみたい)

私(どこにこんなに熱が残ってたんだろ)

私(まるで人間みたいだな)

あわてて雪に顔をうずめる。

なんとかしてこの液体を止めなければ。

泣いたら、ダメなのに。

この間まで悪魔のように襲い掛かっていたはずの雪は心の雫を受け止め、

染みを作っては溶けていった。

霜焼けのひどい右手で、

しがみつくように男の子のジャンパーを握りしめる。

男の子「おねえちゃん、あのね」

なにかを伝えようとした男の子の言葉は聞きとれなかった。

代わりに私は、タガが外れたように押し殺していた声をあげた。

吠えるような叫びは耳をつんざき、胸を焦がした。
 



しばらくして呼吸も落ち着いてきたころ、トサっと音がした。

右を向く。どうやら彼も寝ころんだらしい。

初めて、彼の瞳を見た。

人の目を見るのは、嫌いだった。

だから、一度も見ようとしなかった。

そんな風に拒絶していた彼の瞳の色は。

空のように透き通った青色だった。

男の子「へん?」

私「なにが?」

私(やばい、涙声だ、はずかしい)

男の子「ぼくの目、へん?」

私「……」

私「ううん」

私「へんじゃないよ」

男の子「ほんと?」

私「うん、ほんと」

私「空みたいで、すっごくきれい」

男の子「そら?」

私「うん。空」

私「吹雪が晴れた後の空みたいな感じ」

男の子「そんなこといわれたの、はじめてだよ」

私「そうなの?」

男の子「いっつもみんなばかにするんだ」

男の子「がいじんの目だって」

私「そうなんだ」

私「ひどいやつらだね」

私「気にしなくていいと思うよ」

私「私は素敵だと思う」

彼の小さな右手を

雪の冷たさで、すっかり感覚が鈍くなった右手で

そっと握る。

雪の妖精かと思うくらい冷たかった。

男の子「おねえちゃん」

私「なに?」

男の子「おねえちゃんの目も」

男の子「きれいだよ」

私「」

男の子「まっくろで、ほうせきみたい」

胸が痒い。

顔も熱い。

それをごまかすために雪をつかみ、彼の頬に投げつけた。

彼も笑いながら私の頬に雪をつけた。

確かにそれは冷たかったけれど、

同時になにか

とても大切なことを思い出せた気がした。

外の景色は吹雪でなにも見えず、車の音一つ聞こえない。

現実の出来事が、実は全部嘘で、

もしこのかまくらが世界のすべてで、

存在するのは私と彼しかいないのならば。
 

今はとりあえず、吹雪の音を聞きながら彼の瞳の中の青空を見つめていたかった。

次回、最終回

ノシ

次の日

私(……朝か)

私(そっか、あの後普通に帰ったんだっけ)

私(あのかまくら、まだあるのかな)

ピンポーン

私「?」

私(おかあさんが出るかな)

私(とりあえず行こう)

トテトテ

私(こんな朝早くに、誰だろう)

ガチャ

私「はい」

?「私ちゃん、だね?」

そこにいたのは、見覚えのない男だった。

けれど、その男が来ている青い服に、青い帽子は、見覚えがあった。

男「お母さんは、いるかな?」

警察が家に来た。

 私が返事する前に、パジャマ姿の母がリビングから出てきた。

警察官の顔を見た瞬間、顔は血の気が引いたように青ざめ、口はぽかんとあいていた。

男「お母さん、こちらにきき覚えはありますか?」
 
四角い小さなラジオのような機械を取り出し、ボタンを押した。

聞き覚えのある声が再生された。

母の声だった。

私への日課の罵詈雑言が録音されていた。

私のぶたれる音

床にたたきつけられる音

虐待の証拠と言わんばかりの内容が

徹頭徹尾おさめられていた。

私(……なんで? いつ録音されたの?)

私(あ、あの男の子)

私(私のランドセル、よくいじってたな)

私(最近隣に引っ越してきた人)

私(男の子と帰り道がほぼ同じだったな)

私(家に入るとこ、そういや見てなかった)

私(そっか、あの子がお隣さんか)

私(耳がいい)

私(お父さんの仕事はジャーなんとか)

私(ジャーナリストなら、レコーダーくらい持ってるか)

私(なかなかやるな、あの子)

一通り再生が終わった後、母は何も言わずに俯いていた。

私も何も言えなかった。

警官は無言で、母が来るのを待っているようだった。

母は観念したように、恐る恐る足を踏み出す。

その一歩は頼りない。

いつもの傲慢な母の様子からは想像もつかないようなありさまだった。
 
私はそんな母の道をふさぐように、一歩前へと出た。

私「すいません」

男「?」

私「それ、違います」

 空気が凍った。

母も戸惑うように私を見てくる。

男は表情を動かさず、ただ私を見ていた。

男「違うって、どういうことかな?」

私「それ、お芝居のせりふなんです」

私「学芸会の、練習をしてもらっただけなんです」

私「多分、そこだけ間違って録られちゃったんです」

私「すいません、ご迷惑をおかけして」

男「あー、なるほどね」

私「だから、なんでもないんです。帰ってください」

男「うん。それなら仕方がないね、僕は帰ろうか」

私「はい」

男「って、本当の警察ならきっと言わないよ」

私「え?」

男「劇のお芝居にしては、少しばかり無理があるし」

男「これは立派な証拠になる」

男「警察なら、君を無理やりお母さんから引き離すことだろう」

私「あの、どういう」

男「すいません、僕は警察じゃありません」

男「隣の家に住んでいるものです」

私「」

男「よくがんばったね」

男「奥さん、これはあくまで僕が個人で所有しているものです」

男「いつでも通報できる立場にあるのを忘れないでください」

男「職業柄、面白おかしく凶悪事件を伝えることが」

男「僕はとても好きですので」

私「……あの」

男「それじゃあ、僕はこれで失礼します」

男「お譲ちゃん、だめだと思ったら、いつでも家に来なさい」

男「うちの息子は耳がいいからね」

男「隠しても無駄だよ」

私「……」

私「はい」

男は、男の子の父親は帰って行った。

私(お母さん、ずっと黙ってる)

私(気まずい)

私(どうしてあんなことを言ったのかとか)

私(何も聞いてこない)

私はパジャマ姿のまま、靴を履いて玄関の外に出る。

氷のように冷たい空気は、混乱している頭を冷やすのにはちょうど良かった。

私自身、なんであんなことを言ったのか、よく理解していない。

だけど、母に言いたいことはあった。

そして、昨日理解したなにかを、きちんと形にしておきたかった。
 
素手で地面に積った雪をつかみ取る。

それを握りしめ玉の形を整える。

それをそのまま母に向かってぶつけた。


私「もうばんごはん、作らないから!」

私「あと私! 人間だから!」

ダッ

私(言えた)

私(やっと、やっと言えた)

そのまま母の顔を見ないまま走った。

向かう場所はあの空き地だ。

男の子は今日もいるだろう。

会って何をまず言おうか。

素直に自分がありがとうなんて言えるわけがない。

ぱらぱらと舞い散る粉雪は、頬に張り付いた。

心臓は燃えるように熱い。

雪の冷たさは気にならなかった。

私(あ)

私(いた)

私(雪玉転がしてる)

ザッ

私(音をたてないように)

ザクザク

コネコネ

ひゅっ!

ベシッ!

男の子「うわっ! つめたい!」

私「あははっ!」

大げさに驚く彼に指をさし、笑った。

男の子も仕返しと言わんばかりに笑いながら雪玉を投げ返す。

雪玉はお互いの体に当たっては砕け散った。

降りしきる雪の勢いは増し、

周りの建物も、

道路も、

世界のすべてが

白に変わる。

それでも、勝ち負けのない雪合戦は続く。

目に染みるほどの白い世界いるのは、

彼と私だけだった。

おしまい

以上、またまたまたまた今回も落選した自作小説のアレンジでした。


一部知り合いの体験談など盛り込んでいます。

またどこかで

ノシ

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