宇佐見蓮子「境界暴きで勝負よ」【東方】 (24)

2054年 7月5日 19時02分
今日は蓮子の天才ぶりが垣間見れる出来事があった。
私たちが部室から帰ろうとした時。もう学校にほとんど人が残っていないこの時間になって、動き出すサークルがある。オカルト研究会だ。主に夜にしか活動を行っていないらしい。そのため部員は少なく、年中勧誘を行っている。
オカルト研の部屋の前を通った時、その勧誘に私が部屋に連れ込まれてしまったのだ。勧誘の一環で部長が妖術を見せてくれるのだという。新興宗教か。
「れんこぉ・・・。」
「知らないわよ。」
連れ込まれたオカルト研の部室の中は以外なまでに明るく、今は廃れた白熱電球を中心にたくさんの照明がおいてある。部屋にいた部員は、私を連れてきた人を含め3人。少ないわ。私達も2人しかいないのだけど。内装はレトロで、怪しいグッズが沢山置いてある。
蓮子は部室の雰囲気をなかなか気に入っているようだ。自分のセンスとにているからだろう。蓮子はハットをかぶってYシャツに、黒い無地のスカートに革の
ブーツという古風な胡散臭い格好をしている。夏が終われば黒のこれまた胡散臭いショールを羽織る。蓮子もこちら側の人間なのだと思って諦めるしかなかった。
正面の窓にむかって天体望遠鏡と机がおいてある。そこに部長と思わしき人物が座ってまっすぐに窓の外を眺めていた。
「あれいいわね。私達も望遠鏡買いましょうよ。」
「いらないでしょう?蓮子の能力使うには望遠鏡なんてなくても。」
部長は振り向いてにこにこ会釈をした。
「オカルト研究部へようこそ。これから妖術をお見せします。私は生まれつき人の心を読むことができる不思議な目を持っているです。」
部長は小柄だが、ピンク色という奇抜な髪色で、水色の変わった服装に黄色のスカート、そして雰囲気を出すためか、サングラスをかけており、いかにも変わった人といった格好だ。ここでは名前をSとするわ。蓮子はふーんといった感じだ。

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窓の前に座らされると部長は更に机の周りの照明の電源をいれて明るくし、トランプを取り出してシャッフルしはじめた。
「まずこの中から一枚のカードを選んで。」
「それを当てるというならそれはただのトランプマジックだわ。」
「普通は選んだカードをまた束にもどして、そのなかから当てるでしょう?そこにタネがあるのです。」
「そうね。私の知っている手品の方法ではすべてそうだわ。」
「でも今回は選んでもらったカードに私は一切触れません。選んでもらったらすぐにどのカードか言い当てます。」
けど蓮子は不満そうな顔をした。
「古くからあるタネでしょう。カードの裏の模様が微妙に違って、裏をよく見ればどのカードなのか分かるのよ。」
「確認してみますか?」
蓮子はカードの束を受け取って、カードの裏も表も仕掛けがないかパラパラと確認した。
「うん。これは確かに普通のトランプだ。他にも目印らしいものは何もない。」
蓮子はそういうとまた自分の納得の行くまでカードを混ぜてからSに束を返した。
もし本当にこれで当てることができたのなら本当に私達と同じような不思議な目を持っているということになる。
「ではまずは外国人のお嬢さん。カードを一枚選んでみて。」
なんで私が先なのか。私の引いたカードはハートの2だった。
「そのままカードを見て強くイメージしてください。覚えましたか?」
「えぇ。」
「ではカードを机に伏せて、さっきのカードを強く思い出して下さい。そのイメージを受け取ります。」
胡散臭い。しかし部長はたしかに結果を当てた。
「あなたの心が見えます。2、ハートの2ね。」
「・・・正解よ!!すごいわ!!なにも仕掛けがない!」

「・・・すごいわ。本当にカードに触れてない。これは本物?」
蓮子は嬉しそうだ。自分たちと同じ特殊な目を持った仲間が見つかったからだろうか。
けど、そんなことはなかったわ。
「じゃぁ次、私いいわよね?」
「どうぞ、カードを選んで下さい。」
蓮子は勢いよくカードを抜いた。スペードのキングだ。
「カードを覚えたら机に伏せて下さい。」
蓮子はニヤニヤしながら机にカードを伏せた。
「カードはスペードのキングですね?」
「はーい、残念ハズレ!!」
蓮子は嬉しそうにカードをめくった。
「ジョーカー!?どうして!?」
「蓮子、これジョーカーよ!?なにしたのよ!?」
「そうだよ。ハズレなのよ。」
「じゃあ、そのスペードのキングはどこにいったのでしょう!?」
「!?」
「この外国人の心に聞いてみれば??」
それを聞いて、Sの表情が徐々になくなった。
どういう事なのか。蓮子のニヤニヤは止まらない。
「さっきのカードはここにあったのよ。メリー背中を見せて。ほら。」
蓮子は私の背中のりボンにスペードのキングがひっかかっていたのを取ってみせた。そんなところに付けないでほしいわね。
「残念。私には全てお見通しなんだよSさん。」
Sは黙ったままだ。

「トリックは簡単よ。この極端に明るい照明、そしてわざわざ夜にこんなことをやっている。そして、この不自然な机の配置。おかしいと思わない?」
「どういうことなの??」
「窓の反射だよ。部屋の中が明るくて、外が暗い。この条件なら窓の反射をつかってカードを見ることができるわ。窓に向かって置いた机も、天体望遠鏡を置けば天体観測用に見えるわ。いい発想ね。けど甘いわ。」
「なるほど・・・。そうやって私達がめくったカードを見てたってわけね。」
「そして、そのサングラス。それは雰囲気作りのためなんかじゃない。視線がズレてる事を悟らせないためよ。そうなのでしょう??」
「・・・・・。そうよ。」
「じゃあ蓮子、このジョーカーはどうやってすり替えたのよ!?」
「カードに仕掛けがないか確認するために束を借りたでしょ?その時にジョーカーを拝借したのよ。それをカードを伏せるときにすり替えただけの話。」
「そこまで考えてカードの束借りたのね・・・。」
「Sさん、残念だけど、私達を勧誘しても無駄よ。」
「・・・私の負けですね。」
「オカルト研究会がこの秘封倶楽部に勝とうなんて考えが甘かったわね。」
「あなた達が秘封倶楽部でしたか・・・・。恐れ入りました。」
「ふふふ。このジョーカーは記念にとっておきなさい。あなたにピッタリよ。」
「失礼なこと言うのね。いらないわ。道場破ったのだから、看板の代わりに持って行きなさい。」
「そう、じゃあ、貰って行くわ。」
そういうと蓮子私の手を握って、部屋の出入口へ向かう。部長の妖術が暴かれて他の部員2人も黙りこんでしまっている。
蓮子は扉を閉めると扉に貼ってあったオカルト研究会のポスターを剥がした。
「あ、看板ももらって行くのね・・。」
「もちろん。」
「ねぇ蓮子、さっきのSさんに『ジョーカーがお似合いよ』って言ったのはどういう意味なの??」
「ジョーカーのイラストは、取るに足らないって意味とか、タロットカードの『愚か者』の絵から来ているという説があるのよ。つまり、バーカバーカってことね。」
「ほんと、調子に乗るんだから蓮子は。」
蓮子はポスターを適当に折ってジョーカーと一緒にかばんに詰めながら歩き出した。
「でも、きっと私達以外にも不思議な目を持った人は居るわよ。」
「蓮子は会ったことあるの?」
「私はメリーだけよ。」
「私も蓮子だけよ。」

蓮子はとっても楽しそうにしていた。それならそれでいいわ。



2054年7月7日。私達、秘封倶楽部の下に迷子の捜索依頼が入ったのは迷子を見つけるつい2時間前のことである。
依頼の内容は、数時間前に神社で一緒にいた友達が消えてしまったというものだ。簡単にいえば神隠しにあった、つまり「境界」に迷いこんでしまったということだろう。そこで私達の出番というわけだ。

ことの始まりはこの探し人の依頼であった。夕刻、突然私達の部室にクライエントが駆け込んできた。同じ私達と大学の学生の女の子で、名前はここではRとします。すらっとしたスタイルのいい身体つきで、しなやかなロングヘアが美しい。そんな印象でした。私達2人は探し人の依頼を受けたのだが、神社に行ってみると「境界」はわかりやす場所に出現しており、私の眼さえあれば簡単に見つける事ができ、ものの2時間で迷子を確保することに成功したのだ。それにしても夜の神社の暗い境内で「境界」が不気味な光を放ちながら心臓のように波打っている様は不気味だった。きっと私にしか分からない光景だろう。
ただ、「境界」が見えない者にとっては、一度迷い込んでしまったら、波のように出ては消え、出ては消えをを繰り返す「境界」をまた通り、もとの世界に戻ること非常に難しい。しかし、境界が見える私は気軽にとは行かないけど、境界を出入りすることができる。今回も「境界」の中で無事目的の女の子と思われる人を見つけることができた。
蓮子「目的かくほーっと。」
私「意外とあっさりだったわね。」
蓮子「現在時刻はえーっと、19時42分20秒、21秒・・・。依頼を受けてからだいたい2時間くらい、流石私達ね。」蓮子は星を見て現在の時間を、月を見て場所がわかる目を持っている。
蓮子はいつも私の眼の事を気持ち悪いって言うけど、蓮子の眼の方が気持ち悪いと思うわ。
目的の子は私達と同年代くらいだと思う。髪は短め切りそろえられ、小柄で可愛らしい子だった。こちらを不思議そうの見つめている。自分が神隠しにあったことに気づいてないのかもしれない。
「もう大丈夫だからねー。いまから家につれてってあげるからね。おいで」
蓮子は手を差し伸べたのだけど、迷子は不思議そうな表情のままに淡々と喋った。
「宇佐見蓮子 星月をみて時間と場所が分かる程度の能力、マエリベリー・ハーン 結界の境目が見える程度の能力 本物ね。」
「いっ!?」
勘のいい蓮子はすぐに数歩下がり構えた。敵だ。そう確信したのだと思う。
「へー、あなたも何か見えているのね、おおかた『人を見て名前と能力が分かる程度の能力』といったところかしら?」
「あら、勘がいいんだね。」
微笑みはおしとやかな中に不気味な雰囲気だった。名前はMとしておきます。
さらに、そのタイミングで待ち伏せていたように境界の外で待っていたハズの依頼主のRまでがここにやってきた。
R「わざわざこんな遠回りな方法で結界の奥まで呼び出してしまって申し訳ございません。」
どうやって結界の中に入ったのかは分からない。私は状況がわからなくておどおどするばかりだったけど蓮子は、対抗するように不敵な笑みを浮かべていたわ。本当に余裕があったのかは分からないけれど。
蓮子「あなた、どうやってここまで来たの?」
R「私も、マエリベリーさんと同じく、境界を見ることができるのです。」
Rはこちらをみて優しく微笑んだ。敵意は感じられないけど私は得も言われぬ悪寒を感じて蓮子の後ろに隠れた。蓮子は強気な態度を見せているが全身から汗が噴き出しているのが分かった。
蓮子「私達になんの用かな?」
相手2人はお互いに顔を見合わせた。
M「率直に言うと、貴方達お二方の行為は違法なんだ。許可を得ず、境界に故意に侵入する行為は法律で、境界を探したり、調べたりする行為は京都条例で禁止されているのは知っているよね。」
事実だ。私達は禁止されている境界暴きをしているいわば不良サークルだ。国は下手に境界を刺激すると均衡が崩れるからと言っているけれど、私たちはそれがただの自然現象で、ただ別の場所とのワームホールができるだけでべつに危険なものではないという事を知っている。おそらく国は軍事利用をするために境界に関する技術を独占しようとしているだけなのだ。



蓮子「それを言われちゃうと痛いねぇ、けど、あなたも同じようにこうやって境界にはいって来ておいてどういう事かな?」
M「私達は正式に結界観測省から許可を得ている特定境界調査者なんだ。」
Mの見せた免許のようなものは確かに国の発行している正式なものに見えたわ。
蓮子「わお・・・。」
M「悪いけどここ数日間、あなたたちの事を調べさせてもらったんだ。特に人に危害が加わるような活動をしていたわけではないようだけど、これは違法だ。本来なら通報するところだけど、君たちと取引がしたい。こんな結界の中にまで呼んだのはそのためだ。」
蓮子「もったいぶらずに取引の内容を言ってよね。通報しない替りに何が欲しいの?」
Mは冷静な顔つきでゆっくりと口を開いた。
M「過去に君たちが調べた境界のデータ。その全てだ。」
蓮子は黙り込んだ、睨みつけるような表情のまま固まっている。
Mはさらにこう続けた。
M「こちらとしてもデータがほしいものでね、もらったデータは私達の調査したものとして発表させてもらうから、君たちの前科を帳消しにするアリバイにもなる。悪いようにはしないよ。」
蓮子は様々な可能性について考えていた。内容はこのようなものだろう。
データは私達の活動の記録全てだ。まずそれを渡すことが気に入らない。2人でボロボロになってまでした人助けの記録や、2人で日本各地を回った大事な思い出でもある。さらに、それが他人の手にわたる、ましてや世間にさらされることは危険だ、もし私達が関与していることがバレたら、警察に調べられる。そうすれば間違いなく事実はバレてしまうだろう。
だからといって、通報されればすぐに逮捕されるようなものだ。
蓮子は数十秒真剣な表情をした。そして口を開いた。
蓮子「私の卒論研究が・・・。」
アホか。しかし蓮子がボケをかましているということは蓮子なりに考えがまとまったということなのだろう。
蓮子「データは簡単に渡せないわ。」
M「しかし、通報されれば全て終わりだぞ?」
蓮子「データは隠してあるのよ。家宅捜索をされても、なにを調べられても絶対に出てこないところにね。
わずかな証拠からでた罪状では、最悪、執行猶予ですむと思うわ。
それに通報をしてもあなたたちにはなんの利益もない。あなたたちは本当はそんなこと望んでない。そうでしょう?」
R「・・・。そうね。」
蓮子「私達とゲームをしましょう。どちらが境界暴きに秀でているか。」
M「プロの私達に勝負を挑むつもりなのか?君達では無理だよ。」
蓮子「でも、もし私達が勝ったらデータは諦めてもらうわよ。」
M「そんな勝負に私達がわざわざ乗る道理もないよ。」
蓮子「もし、私達が負けたら、その時はデータだけでなくて、」
M「・・・。」
蓮子「私の『片眼』もあげるわよ。」
私「蓮子!だめよ!!それはダメよ!!」
私は蓮子の前にたって蓮子を必死で止めた。けど蓮子はそんな私を優しく抱き寄せてこう続けた。
蓮子「私の眼を移植すれば、正確な場所と時間が分かるようになる。もちろん写真に星月が写っていれば撮影された場所と時間がわかる。境界探しにはとても強い武器になるわよ。」
蓮子の言っていることはすごく大きな賭けだった。蓮子の眼は気持ち悪い。けどそれはダメだ。
R「どうするの?」
M「もちろん乗るよ。私達がこんな野良に負けるわけがないでしょう?」
蓮子「言ってくれるわね。」
M「ルールを決めなよ。」
蓮子「そうね。さしあたって、首都圏内で新たに発生した境界を先に3つ発見したほうが勝ちといったところでどうかしら?」
ここでの首都圏というのは京都、大阪、奈良、兵庫、和歌山、滋賀のことだ。2030年、首都が京都に移されて以来、うどん県(旧香川県)を首都圏に数ないことが一般的だわ。
M「妥当だね。かまわないよ。ゲーム スタートだね。」
蓮子「じゃあ、私達は先に行ってるわ。3つ見つけるくらい1週間もかからないわよ。」
私「ねぇ、蓮子・・・・。」
蓮子「大丈夫よ。メリー。私がついているもの。負けるわけがないわ。」
蓮子は私の手を握って境界の出口へと引っ張っていく。
私は蓮子について帰路に付いた。蓮子は最初とは打って変わって自信に満ち溢れた顔をしていた。私は蓮子を信じていいのかわからなかったわ。


蓮子「じゃあ、私達は先に行ってるわ。3つ見つけるくらい1週間もかからないわよ。」
私「ねぇ、蓮子・・・・。」
蓮子「大丈夫よ。メリー。私がついているもの。負けるわけがないわ。」
蓮子は私の手を握って境界の出口へと引っ張っていく。
私は蓮子について帰路に付いた。蓮子は最初とは打って変わって自信に満ち溢れた顔をしていた。私は蓮子を信じていいのかわからなかったわ。

私達が部室にもどった時、時刻は夜の9時12分40秒。らしい。蓮子曰くね。
こんな夜に部室にくることはめったにないので部室のレトロな内装からすこし不気味な雰囲気がする。蓮子はあえて白熱電球の明かりだけをつけると、早速大机に周辺の地図を広げた。とっても楽しそうな顔をしている。
「ねぇ、蓮子、なんであなたはそんなに楽しそうなのよ。」
「だって境界探し対決なんて楽しいに決まってるじゃない。しかも相手はプロよ?私達の実力を試すチャンスだわ!」
「あなた、自分の眼をかけたのよ?」
「ううん、私達は負けないのよ。いや、負けるかも。でも大丈夫。私がなんとかするわ。」
蓮子の言っている意味がよくわからない。けど、蓮子なりになにか考えがあるのだろう。
私「蓮子、どういうことなのよ、何か気づいているんでしょう?」

蓮子「まだ言えないわよ。ただの勘だもの。」
「まぁ、蓮子がそういうならいいわ。」
蓮子は携帯の画面をこっちに見せながら説明を始めた
「いま、境界の目撃情報が出てるのはこの2箇所よ。この2つしか無いのだから、どうせあの2人もこのどちらかに来るわよ。次回の出現予測が正確な方が勝ちってことよ。」
確かにそういう勝負なら、蓮子の能力がある分私達に分があるわ。蓮子らしいわ。
蓮子「一箇所は都内ね。宮津のこの神社。ここも聖地だからね。境界ができやすいのよ。もう一つは奈良の山ね。」
境界の歴史は古い。古くは神隠しという現象で伝えられている。
日本のいたるところに目には見えない結界がはられている。その結界と、霊力や信仰の集まりやすい場所が重なると、そこに結界の穴が開いてしまう事がある。これが「境界」だ。結界はカーテンのように、波のようにゆらゆらと大きく動いている。さらに川のようにエネルギーは流れている。シャボン玉のような感じね。だから境界の場所は移動するし、その穴も結界の密度によって開いたり閉じたりする。だけど、法則さえ見つければある程度推測ができるの。

蓮子「この神社では不可解な限定的な霧が度々確認されてるわ。写真もネットにいっぱいあるわよ。これなんて、運良く夜の写真ね。霧がかかって見難いけど、これは5月25日の夜7時3分に撮影されたものよ。次の写真は昼だけど時間のデータが添付されてるわ。それから3週間後みたいね。」
「これ!!ここに境界が映ってるわ!」
「さすがメリーね。」
「けど、蓮子、境界の位置が、すごく高いわよ。周りの木より高いもの。」
「入れそうにないね。なんでこんなに高い位置に出現したのかしら?あんな地点に魔翌力溜まりになりそうな御神体でも過去にあったのかね。」
「逆よ。きっとこの周りは神社による結界がドーム状に綺麗にはられているのよ。だからこの境内の鳥居の中のこの範囲にだけは結界が弾きあっていて、境界ができない。この中には境界の原因になる大きな結界脈が存在しないのよ。
それで、結界と結界が触れ合ってる高いあの場所は結界が薄くなってああやって裂け目が生まれてるというわけよ。」
蓮子「さすがメリーね、普段から境界みえてるだけあるわね。」
あんまり嬉しくない褒められ方だわ。
蓮子「前から思ってたけど、メリーの境界を見る能力っていつか、境界を操る能力に進化するんじゃないかしら。最近メリーの話では、メリーの能力はだんだん強くなってるわ。」

「境界を操る??」
「そうよ。たとえば自在に境界を開いたり閉じたりできたりとか。好きな場所に移動できたりとか。」

「それは確かに便利ね。」

蓮子「あのね、メリー、私はいつかあなたがいなくなってしまうんじゃないかって心配なのよ。春に衛生トリフネに行ったときのことだけど。あの時の様子を思い出してみて」
トリフネは宇宙に適応できるかの実験でいろんな動植物をのせていたが数年前に機械トラブルで宇宙の藻屑と消えた不遇の宇宙ステーションで、トリフネは最適化された生態系を乗せていた。
限られたエリアで完結する生態系の実験だ。
そこに私の夢を通じて蓮子と2人で乗り込んだのだ。中はものすごい蒸し暑さだったことを覚えている。そこで合成獣のような怪物に襲われたのだ。
蓮子「あの時、ふたりとも怪物に襲われたのに、メリーだけが怪我をしたじゃない。私にとってはあれはただの夢だったけど、メリーは実際に境界を超えて向こうに行ってるのよ。これは境界をつなげて場所を移動しているようなものよ・・・。メリーがいつか戻って来なくなるんじゃないかって。」
蓮子はいつになく不安そうな顔をして、声が細い。
「大丈夫よ。私はいつだってあなたが居るところに戻ってくるわ。」
「メリー、あなた、前も、夢で見た世界と現実がわからなくなりかけてたじゃない…。
あなたにとっては夢も現実なのよ?
もし、本当にわからなくなったら…戻って来れないかも知れない…」
「そうなのかなぁ…」
蓮子はぼーっとこっちを眺めながら暗い顔をした。
「もし、ほかの世界にいくなら私もずっと一緒よ。」
そう囁くと蓮子は疲れているのかそのまま眠りについてしまった。
私は蓮子にそっと毛布をかけてからソファーでゆっくりと勝負について考えていた。

翌朝、目が覚めると蓮子にかけたはずの毛布が自分にかかっていた。
蓮子は私より先に起きて地図に線をひいて次回の位置予測をしているみたいだった。けどそんなのは意味が無い。
メリー「おはよう、蓮子。この境界は結果同士の干渉で不安定になってできているものだから、その結界のある神社以外で境界はできるはずがないと思うわよ。」
「ちがうのよメリー。次回の予測地点じゃなくて時間を考えているのよ。
境界の過去出現した感覚はは7.5日、21.2日、7.1日、20.8日の順番なのよ。少しずづ間隔が短くなってるわ。これは結界が強くなっていっているという事ね。結界に質量はないから、密度が上がる事は、バネ振り子の重りの質量は変わらずに、バネの強さが徐々に強くなっているように考えればいいわ。」
メリー「全然わからないわ・・・。」
蓮子「わからないなら聞き流してもらっても構わないよ。
結界脈が数kmの範囲で揺れてるとして、その揺れの中心からだいぶ外れた位置にあるから、こんな周期になってるのね。結界の揺れの速度が振り子のように変動してるとして、往復の時間間隔を1対3だと仮定すると、おおよそ中心から振れ幅の4分の1ズレていることになるのよ。」
私「・・・・・・???」
「私の予測だと、結界脈と神社の結界がぶつかった地点に境界が発生するから、神社の上を境界が横断するように出現していると思うわ。」
「なるほど。よくわからないわ。」
「さらにこの付近の地蔵が15日間消えて、また出現したっていう話があるのよ。 位置関係と時間からみて、結界脈の揺れてる角度と範囲、周期がだいたい計算できるわ。」
私「大事なところだけ話してくれる??」
蓮子「ここだけは覚えておいて。運の良いことに次の出現時間は今日の昼よ。今日の昼に神社の西側から現れて、およそ3時間かけて神社をの上を横断するわ。神社の結界はドーム状だとするなら、境界の出現するタイミングと、消えるタイミングでは、低い位置にあるはずよ。そのときに中に入ってしまえば、私達の先制点よ。」
「すごいわ。流石蓮子ね。」
「理系の人間はみんなこんなもんよ。」
そういうと、私たちは各々一度家に帰り身支度をした後、現地に向かった。

7月8日 11時5分
宮津 籠神社 
私達は神社の西端に到着した。蓮子の予想によると11時半から15時までの間に出現するということらしい。
蓮子「あの2人は来てないわね、ということはこの先制点はもらったようなものね。」
蓮子はその場に座り込みゲームを始めた。
「ちょっと、蓮子!あなたもちゃんと見てなさいよ!」
蓮子「私には境界は見えないんだから監視してたって意味無いでしょう?」
「そうだけど・・・。」
「わかったわよ、一緒にみてるから、ね。」
蓮子はそれからしばらくすると私に寄りかかってそのまま眠ってしまった。きっとあまり寝てなかったのだろう。私は蓮子の寝顔を眺めながらひたすら時間待った。
12時30分ごろ。私は蓮子をゆすり起こした。
「…ん、あ、ごめん、寝ちゃってた…。」
「蓮子、あの2人が来たわ。」
蓮子は飛び起きて周りを見渡した。
2人は境内の真ん中あたりでキョロキョロと見渡し、こちらに気づいてこちらに歩いてきた。
M「そんな隅っこ何をしているのかい?」
蓮子「端っこにいたほうが境内の全部を見渡せるでしょう?」
M「そうか。でも先に境界にはいった方が勝ちなのだろう?」
そういうと2人は境内の真ん中へとゆっくりとまた歩いて行った。
蓮子「あの2人は境界の仕組みについてなにもわかってないわね。」
私「まって、蓮子、あれ!あそこに境界がでたわ!」
その時、境内の真ん中に突如結界が現れた。しかも、とても低い場所によ。
蓮子「え!?そんな!?まって!?まって!?どういうこと!?あそこに?!?
メリーのいってたドーム状の神社結界の仮説は実は間違いだったってこと!?」
メリー「そんなはずないわよ!ここには絶対に神社による結界がはられているわよ!」
私は急いで2人を追い掛けようとしたが、蓮子は私の腕を掴んだ。はしたないマネはするなとでもいいたそうな顔だったわ。
M「残念、一つ目は、私達がいただいていくよ。」
そういいながら境界の中にはいって見せた。私たちの負けだ。
蓮子には境界自体は見えない。
けどそこに入った物はその場から消えて見える。
蓮子は二人が消えるのを確認すると立ち上がって帰路についた。
私はどうしたらいいのかわからなかったわ。けど蓮子はなにか考えごとをしているみたいだったわ。

7月10日。 13時45分。 部室
蓮子は大机にかけてただぼーっと外の景色を眺めていた。こないだの出来事がショックだったのかもしれない。
蓮子には何が起きたかわかっているのだろうか。
「メリー。」
「どうしたの?」
「盗聴されてない?」
「昨日も調べたじゃない。ないわよ。」
「あの2人は私達ほど正確ではないにしろ、境界の出現の周期から7月8日に境界が現れること自体は推測した。これだけは間違いないわね。」
「これだけは?」
「うん。」
蓮子は外を眺めたままこんな調子だ。蓮子はもう一つの境界の噂だった奈良の三輪山での境界の出現を今夜のうちと言っている。私達は夕方には出かけなければならない。推測の方法は前回とほぼ同じらしいけど、私には結局さっぱりわからないわ。
「蓮子、こないだデータを隠したってあの2人に言ってたわよね。あれ言っちゃってよかったの?」
「いいんじゃない?」
「部室にあるデータも隠しにいったほうがいいのかしら?」
「うーん…そうね。この部屋の場所はバレてるわけだから、安全とは言えないわね。まだ出発まで時間があるし、奈良にいくついでに隠しておきましょうか。」
そういうと蓮子はファイルを金庫からだしはじめた。勝つつもりではいるみたいだけど、いや、眼を掛けてるんだから当たり前なのかもしれないけど。蓮子も不安なのかもね。蓮子はファイルを見始めた。ほとんど私の書いた日誌だ。私はソファーから立ち上がってファイルを一緒に確認することにした。
「ねぇ、蓮子、この写真てどこだっけ?」
「それはメリーが去年夢の中で撮影してきた写真よ。」
「そっか。これどこだったの?蓮子、これ月写ってるわ。」
「だめだめ。私の能力は日本でしか使えないのよ。そんな得体のしれない場所では能力は使えないわ。夢とか、結界の中とか。」
「時間も場所もだめなの?結構限定的ね。」
「日本で境界探すには十分よ。」
蓮子はファイルの中身を眺めながら順番を整理した。
「絶対に渡せないわね。守り切ってやるわ。」
「それより、蓮子の眼のほうが大事よ。」
「あー、それもね。さて、今回の作戦を説明するわ。」
「作戦?」
「私の勘によると、あの2人はまた私達に接触してくると思うわ。」
「どうして?」
「見せるためよ。先に境界に入るところをね。」
「そんなことしなくてもふつうに写真でもとれば証拠になるんじゃない?」
「普通はね。けど、前回のあれはパフォーマンスよ。私達に見せつけるためよ。むかつくわ。だから、今回はあの2人に見つからないようにしようと思うわ。
今回は結界が山のどこに現れるかあのふたりは見当もつかないはずよ。どうせ山頂にくるわ。今回の境界の原因は山に対する信仰よ。」
「信仰?そんな山なの???」
「禁足地なのよ。本来なら入るのに名前や住所を書いて、参拝はルールを厳守しなければならないのよ。それに夕方の4時までに山から出なければならないことになってるわ。」
「それじゃあ私達は・・・。」
「もちろん侵入するのよ。」
「まぁ、まぁ、いつものことだけどね。」
「じゃ、まだ早いけど行きましょう。コレを隠さないといけないし。」
そういうと蓮子はお気に入りの帽子をかぶって立ち上がった。これから、ファイルを隠しに行って、それから目的の山までは電車を乗り継いでそこそこの時間がかかる。もちろん電車のダイヤなんてふたりとも確認しないのが私達流よ。

奈良県 三輪山。 18時ごろだったはず。ここは古くから神が宿る山と言われている禁足地らしいわ。まだ周りは明るかったけど、すごく気味が悪い。そんな印象だったわ。聖地が気味が悪いっていうのはちょっとおかしいかもしれないわね。けど蓮子はなんの迷いもなく山に入っていった。正面受付から堂々と入るわけには行かないから当然のことなんだけど、そこは道じゃないわよ蓮子。ただでさえ夜の山は危険なのに、道なき道を進むし、こんな禁足地だし、どんな危険があるかわからないような気がするのだけど。
私は恐る恐る蓮子につづいて山に入った。こんな服でくるんじゃなかったわ・・・。
蓮子「大丈夫よメリー。私がいれば絶対に山は降りられるもの。この夜の山を安全に移動できるのは世界でも私くらいなもんよ。
あの2人とは違うわよ。月が見えていればね。」
「あぁ、なるほど。さっきは能力が限定的とか言ってごめんなさいね」
「ふふふ。この能力の本当にすごいところはこんなことじゃないんだけどね。」
「どういう事?」
「そのうち分かるわよ、この蓮子の能力の真骨頂が。」
蓮子は強力なライトを持って少し息を切らせながら大股で山を登っていく。私はついていくのに必死よ。この時ばかりは体力の差を感じたわね。
だいたい2時間ちょっとで山頂付近の磐座までのぼったわ。磐座というのは蓮子曰く、神の憑り代のことらしくて、途中から規定の登山コースに合流できたから、ところどころに苔むした岩が置いてあって、それが磐座らしいわ
20時28分30秒くらい。長い夜が始まった。夜の山って本当に怖いのよ。
私達は道から外れて山頂の磐座がみえる位置で身を隠すことにした。
風で揺れる葉音、鳥や小動物の音や蟲の声。全てが怖いのよ。
蓮子はそんな私をみてニヤニヤしている。
蓮子「メリー 怖いの?」
メリー「怖いわよ・・・。本当にあの2人はこんなところにくるの??」
蓮子「来るよ。ここに結界が現れることはきっと推測してるわ。だから、今日来させたのよ。私がね。」
「何をいってるのかわからないわ。蓮子。」
蓮子「私なりに考えがあるのよ。さっき、秘封倶楽部のブログにこの山の付近の写真をわざとGPS情報を消さずに公開しておいたわ。彼女たちは私達をリサーチしていたから、確実に気づく。それで、あとを追ってくるはずよ。」
「ちょっとどういうつもりよ!?」
蓮子「ちょっと気になることがあるのよ。」

それから私達は0時を回るまで待ったわ。私はもう来ないかと思ったわよ。
けど本当にあの2人は本当に現れた。
蓮子は私に抱きついたままうとうとしていたけどぱっちり眼を覚ました。
2人はライトをもって周りをキョロキョロと見渡している。
「境界を探してるのかしら。」
「違うよ。境界を探せるのはRだけだよ。Mはいくら見渡したって見えないんだから。あの2人は私達を探しているのよ。」
「どうして?」
「それを調べに来てるのよ。メリー、あの2人に会いに行ってきてあげて。」
「ちょっと! 蓮子は?」
「私はここで隠れて見てるわ。それで分かることがあるのよ。」
「行って何をすればいいのよ?」
「負けるのよ。」
「え?」
「負けてきて頂戴。行って、あの2人が境界に入るところを確認して。戻ってきて。」
「そんなことしたらあの2人のリーチじゃない!?」
「ここはそうするしか無いわよ。もうすぐあの2人のそばに境界が現れる。」
「どうやって推測したのよ。」
「秘密。」
蓮子はこちらに目を合わせずにあの2人を凝視したまま真顔で受け答えをしている。私はしぶしぶあの2人に会いに行ったわ。
R「あらマエリベリーさん。相方はどちらに?」
「蓮子なら別の場所で境界の手がかりを探してるわよ。」
M「境界を見えないのに境界を探すか。流石です。しかし私達の予測ですと、この磐座の前にそろそろ境界が開く予定なのです。」
R「一緒に境界が開く瞬間を見ましょう?」
そのあと、本当に磐座の前に境界が開いた。なぜこんなにも正確に予想できるのか、さっぱりわからないわ…
「これで、また私達の勝ちだね。」
私「そう・・・ね。」
蓮子「あぁ、負けちゃったか…」
「蓮子!?」
M「宇佐見さん。遅かったですね。」
「そうみたいね。」
M「これで、貴方は後がなくなったわけです。気分はどうですか?」
「最悪よ。」
「そうですか。 データを渡す準備をしておいてください。」
蓮子は強気な顔を崩さなかったわ。
「………。もう一件、昨日境界の目撃情報があったのは見たわよね?」

「あぁ、また神社だったっけ。」

「そうよ。また、そこで会いましょう。行くわよメリー。」
蓮子は私の手をぎゅっと握って山を急ぎ足で下った。急いで山を降り立って終電なんかとっくに過ぎるのに…。

7月11日。8時。私たちは始発で蓮子のうちに帰ってきた。
「服も靴もドロドロよ。蓮子はブーツだからよかったけど私は服装が間違ってたわ。」
「ドロドロのメリーもかわいいわよ」
「あまり嬉しくないわ」
「とりあえずシャワーを浴びて寝ましょう。脚も痛いわ。」
蓮子は服を脱ぎ捨てると強引に私の服も脱がせシャワールームに連れ込んだ。
シャワーを浴びながら蓮子はずっと無言で考え込んでいた。私も何も喋れなかったわ。
シャワーから出たら蓮子の部屋着を借りてほぼ無言のままカーテンを閉めて、一つしかないベッドに二人で入った。

「蓮子は怖くないの?」

「怖いわよ。」
「そうよね。私も怖いわよ…。」
「データは私たちの思い出なのよ。絶対に護るわ」
「違うわよ。蓮子の目よ、データなんか蓮子に比べたらどうだっていいのよ!」

「メリーは優しいのね」

「蓮子にだけよ」

「それは嬉しいわね。」


「これから、どうするの?」

「寝るのよ。それとも、寝かせないつもり?」

「それは今度にするわ…」
「え?今度!?本当に!?私たち女同士よ!?」
「冗談よ」

「メリーなら本気で言い出しそうで怖いわ。」

「で、これからどうするのよ?」

「ん。寝てから説明するわ」

そう言うと蓮子は、疲れているのか、やっぱりすぐに寝てしまった。

私は、やっぱり寝るしかなかった。

それから、目が覚めたのは昼の3時くらいだったわ。


蓮子は今日も私より先に起きていた。
料理をしてる音が聞こえたわ。蓮子が料理するのは意外だったわね。どうせ洗い物片付けない癖がついてるのでしょうが。
ゆっくりと身体を起こしてキッチンを見ると蓮子がこっちに気づいたみたいで。
「メリーおはよう。起こしちゃった?」
「料理なんてらしくないわね。」
「そうだね。あんまりしないね。今日はメリーがいるから特別よ。」
「あら。」
「それにこれから最後の対決だからね。しっかり食べておきなさい」
「これから?しかも最後?まだ1点も稼いでないのよ?」
「そうよ。早い方がいいでしょう?今日、決着をつけるのよ。」
「早い方がいいって、べつに蓮子が境界の出現のタイミングを決めてるわけじゃないのよ?」
「決めてるんだよ。」
「はぁ!?」
「ふふふふ。できたわよ。簡単なもので悪いけど。」
蓮子の料理はごく普通の朝食といった感じだった。ご飯に味噌汁、それに魚に目玉焼き、お漬物。
「これ全部合成食品?」
「米とつけものだけは科学栽培の買ってるわよ。」
「ふーん。この赤い魚は?」
「それは鮭ね。国産の天然は絶滅しかかってるし、養殖ももうやってないから合成食品しかたべられないよ。」
食べてみるとなかなかおいしい。いままで魚なんて種類を気にしたことなんてなかったわ。
「あれ?蓮子の家って食品プリンターあるんだっけ?」
「ないわよ。これはスーパーで買ってきたやつよ。一人暮らしなのにそんな高価なもの置いてないわ。」
「私の家あるわよ。安いやつだけど。」
「!?ブルジョアめ・・・。料理できなくなって結婚したとき困るわよ。」
「蓮子が結婚したら考えるわ・・・。」
「こないだネットで印刷してみたいレシピあったんだけどプリンターかしてよ。」
「ほら、やっぱり蓮子もプリンター欲しいくせに!」
「買えるなら欲しいわよ。いくらしたの?」
「実家で昔使ってたやつを持ってきたのよ。古いから作るの遅いんだけどね。」
「今度からメリーの家で暮らすことにするわ。」
「それはプロポーズ?」
「やっぱりやめとくわ。」
蓮子は私より食べる速度は早いみたいですぐに食べてしまった。
「さぁ、メリー、作戦を説明するわ。テレビを見て。」
蓮子は携帯からテレビの電源を入れると、携帯の画面をテレビに映した。
「まだ脳波コントロールじゃないのね。」
「古くて悪かったわね。いい?地図を出すわ。」
「ん。」
「次に境界が現れるのは、ここよ。」
そこはよく知ってる場所だった。私達のよく知ってる神社。
「そこって、私達のデータの隠し場所じゃない!?」
「そう!」
「それは危ないわ!」
「大丈夫。、見つからないわよ。」
「だといいのだけど・・・。」
「ここに今日の19時に境界が出現する。
今から3時間ちょっと後ね。1時間前にここを出れば余裕でまに合うわ。しっかり身支度しておいて頂戴。最後の戦いよ。」
「私の服どうすんのよ。」
「私の服じゃ最後の戦いが締まらないと思ってちゃんと洗濯しておいたわ。
瞬乾機あるからもう乾いてるわ。」
言われてみれば脱ぎ捨ててあった服がなくなっている。
「さすが蓮子ね。今度から蓮子の家で暮らすわ。」
「プリンターは持ち込みでね。」
「重くて無理よ。」
「さ、準備もすることなんかないし、もう一回寝よかな。」
蓮子はまた布団に潜ってしまった。私はなんとなく眠れなかったので蓮子の寝顔をつついたりしながら時間を潰したわ。
1時間ほどで蓮子がまた目を覚まして、5時くらいだっていうのに出発しようとか言い出したのよ。蓮子らしいわ。
「はい、これメリーの服。」
「下着まで一緒なのね。」
「そりゃあね。汗かいてただろうし、洗濯したよ。」
「匂いかいだりしてないでしょうね?」
「メリーじゃあるまいし、そんなことしないわ」
「それはどういうことかしら?」
「私が気づいてないとでも?」
「はったりかけても無駄よ。」
「ただの冗談よ」
「あら、蓮子、夏なのにネクタイ締めるのね。」
「そういう気分なの。気が引き締まるでしょう?」
いつもYシャツでも蓮子がネクタイを絞めるのは久しぶりね。
蓮子も身支度が終わったみたいで身だしなみのチェックをしている。普段まともにメイクなんてしないのに、そういうところは妙に女の子らしいわね。

蓮子は靴を履いてドアの前でこちらを振り向いて深呼吸をして笑った。

「メリー、準備はいい?」

「いいわよ。」

「よっしゃ!」

「「秘封倶楽部、出動!」」

18時57分20秒、時間があったため電車に乗らず、昔のようにゆっくりと二人で歩いて神社に来た。
まさに日が沈んでいくところだ。世界は赤く染まる。
私たちはゆっくりと石段を上がった。
手をつないでゆっくりと一歩ずつ上がった。
隣の蓮子は自信に満ち溢れた顔をしていた。私は緊張に潰されそうになりながら。ゆっくりと上った。
最後まで登り切り、鳥居をくぐって立ち止まった。
夕日に照らされた鳥居の影が正面に長く伸びていた。
まっすぐに伸びる石畳の参道。その先に見える拝殿の前に、

あの2人が居た。

「時間通りね。」
蓮子は叫んだ。

「遅かったね。データを渡す準備はできたかい??」

「その必要はないのよ。」

「勝つつもりか?」

「いいえ、ここが、私達のデータの隠し場所でもあるからよ。」

「大きな掛けだね。」

「そうね。」

「そろそろ、境界が現れる。」


「知ってるわ。」


「メリー、走る準備はいい?」

「もちろんよ」

蓮子が私の手を強く握った。

「5」

「4」

「3」

「2」

「1」

「メリー、右よ!!」
蓮子は、手を握ったままなんと右に走り出した。


正面に、二人の前に結果が開く

「蓮子!!あそこ!境界はあそこよ!!」
「メリー、信じて!こっちよ!!」


M「あいつら逃げたぞ!追いかけるよ!」
R「はいっ!!」

「ハァ…ハァ、蓮子!!どこに向かってるのよ!?」
「いいから!!」
その瞬間目の前を覆い尽くすように無数の境界が現れた
「え!?なにこれ!?蓮子!たくさん境界が出てきたわ!!もしかして、これってあの二人が!?」

「やっぱりね。惑わされないで。私だけを信じて」

「もしかして、境界を操れるの!?そんな…」

「いいから。今は考えちゃダメ!とにかく走って!」

「蓮子!すぐ後ろ!あの二人が追いかけて来てるわ!!」

「大丈夫!真っ正面!!このまま走って!」

M「逃げるつもりか!?できると思っているのか!?」

「メリー!!正面だけを見て。あと3 !!」

「2!!」

「1!!」

「開けー!!!!!」

その瞬間、目の前の大気にひび割れができて、眩い光が漏れて境界が開いた。

私たちはそこに突っ込んだ。


もちろんあの二人も。

「ハァ、メリー…入れた の?」
蓮子はその場に転がった。

「え、えぇ。」

MとRが後を追ってこっちに追いついてきた。

その瞬間。無数の数え切れないほどの境界が私たちを囲んだ。空まで多い尽くす大きな境界の檻。

蓮子は仰向けに寝転んだまま空を見上げている。
「秒単位で完璧な予測。さすがは蓮子ちゃん!!うふふふふ」
蓮子は、そのままニヤニヤとしていた。

M「…諦めたか、」

蓮子「…まさか?」


「蓮子…私たち…境界に囲まれてるわよ…」


「そうだろうと思ってたわ。」

R「手荒な真似はしたくないのですが。仕方ありません」

「…あなた、境界を操ってるの…?」

R「はい。私の能力は、結界の境目を操る程度の能力です。」

私「そんな…じゃあ、籠神社の時も、三輪山の時も、あなたたちが先に見つけて、入った境界は…あなたが出した境界だったってこと!?」


R「はい。仰る通りです。」


私「そんな…そんなの勝てるわけないじゃない…卑怯じゃない…」


M「残念だが私たちもルールに則っている。『新たに出現した境界を先に暴いたら勝ち』そのルールに反してはいないよ。
作り出した境界も、新たに出現した境界だからね。」


「…そんな…。」

M「さて。そういうことなのさ。
データの隠し場所、教えてもらおうか。」

そして、私たちを囲んだ境界の、その全てから無数の銃が現れてこちらを構えた。

蓮子「私には銃口が浮いてるようにしか見えないのだけど、それはライフルね。古めかしいわ。いい趣味ね。」


M「チェックメイトです。」



「…ふふふふ」

「れんこ…?」

蓮子「ふふふふ、ふははははははは!!」

M「何を笑っているんだい?」

蓮子はゆっくりと立ち上がった。

「残念だっわね!!私には全て!全てお見通し!!あなたたちの嘘!作戦!そして本性!!

この秘封倶楽部に勝てるとでも思ったの!?
考えが甘いわ!!

随分と大掛かりなことやってくれたわね。苦労したわ。

お待ちかねの謎解きを始めましょう。これで終わりよ。いい?お二人さん。」

蓮子がニヤニヤしている。

「まず、そのライフル、撃ってみなさいよ。」
「ちょっと蓮子!?」
R「本当に撃ちますよ?」
「どうぞ。」
「ちょっと蓮子!蓮子!」
R「……。」

蓮子「撃てないんでしょう?」

R「………。」

蓮子「知ってるわよ。撃てないんでしょう?」


R「きっ!!!」
私たちを囲む銃が全てが音もなく火花を散らし、土煙が上がった。
「あれ??無音??」

「あなたの眼の能力は、境界を見る能力でも、操る能力でもないのよ。
たぶん『目を合わせた相手に幻覚を見せる能力』といったところね。
その赤い目。まるでウサギね。私と一緒にうさ耳コンビでもやらない?」


R「遠慮しておきます。さすが宇佐見さんです…。
いつから気づいていたんですか?」

「最初から。」


M「最初から!?」

蓮子「厳密に言えば、最初から、何かトリックがあることだけには気づいていたわ。
Mさん、あなたの能力は厳密に言えば『相手の名前と能力の"名前"が分かる能力』なのでしょう。

あなたは能力の詳細や、使い方はわからない。」


M「鋭いね….、、私が能力の詳細をわからなかった、、だから、なんなんだ?」


蓮子「私は、私の目は、日本でしか使えないのよ。境界の中では時間も場所もわからないわ。
なのにあの時、私はあなたを発見した時刻をピタリと言い当てて見せた。それはどうして?
幻覚を使って境界を見せ、私たちに境界をくぐったと思わせただけだった。
あの場所は実は結界の中ではなかったのよ!!」

M「それだけで幻覚だとわかったのか!?」

「いいえ、だから2回戦の三輪山の時に仕掛けたのよ。
あの時、メリーだけをあなたたちに合わせた。
それを遠くから見ていたのよ。
その結果、本物の結界なら自然のものであれ、作ったものであれ、私には境界に入ったあなたたちが消えて見えるハズ。

けど私にはずーっとあなたたちが見えていたわ。

メリーにしか能力を使っていなかったのだもの。当然よね。」

「さすが…蓮子ね…」

蓮子「さらに言えば、私たちに見せたあの結界観測者の免許、アレも幻覚なのね?
境界の予測があんなボロボロで、プロなわけないわ。
どうせ結界のデータを売りたかっただけでしょう?
高く売れるものね。よほど私の目も欲しかっただろうね。」

M「全て…わかってたのか…。」

蓮子「じゃあ、負けを認めてデータは諦めてくれるかしら??」

M「だが、それはできない。データを渡さないのならばきっちり通報はさせてもらう。」
私「そんな!?約束が違うじゃない?」

しかし蓮子はニヤニヤとしたままだ。
「そう、そうくると思ってたわ。
いいわ。データの隠し場所を教えてあげる。」

M「素直で助かるよ。」

蓮子「この先に鳥居があるわ。その根元に埋めてあるのよ。ふふふ。」


M「まさか…」

蓮子「そのまさかよ。残念だったわね。」


M「おまえええ!!!!!!!よくもやりやがったな!」

蓮子「あらお互い様よ?」

R「どういうことです…?
鳥居がどうかしたんですか?埋める場所としてはわかりやすい目印だと思うのですが…」

M「じゃあ、なぜこいつらにその『目印』が必要なんだ!?」

私「蓮子…あなたって人は…」

「そう。ここは結界を超えた先。境界の見えないあなたたちは帰ることはほぼ不可能よ。チェックメイトね。」

M「まて、ここはどこなんだ!?」

蓮子「私たちがいた神社の名前を覚えてる?」

M「鳥船神社だが。」


「じゃあ、あなたたちは、捨てられた衛星、『トリフネ』はご存知かしら?」

M「!? まさかここがそのトリフネだというのか!?」

蓮子「その通り。ここには鳥船神社の分社が乗せられていてその信仰の影響で境界が繋がってるのよ。
上を見てみなさい。葉っぱが生い茂って見にくいけど、人口の空でしょう??
ここは年中真夏よ。今がちょうど夏だから、ここに入った時に気温の変化に気づかなかった。
まぁ、だいたい同じ気温、同じ明るさになる日時に調整したんだけどね。境界の目撃証言を。」


M「今回の目撃情報はお前が出したとでも!?」

蓮子「そうよ。この時間にあなたたちが来るように誘導したのよ?気づかなかった?」

M「まて!?置いていくな!?」

「メリー…時計あるよね?」

「JST 19時15分30秒よ。」

蓮子「そう。タイムリミットね。じゃあ、さよなら。楽しかったわ。」
その、瞬間、目の前に境界が現れた。

今度は私が蓮子の手を握って境界へと入る。

R「待って!?助けて!?」

蓮子「あなたたちは反省してなさい。」

境界をくぐると元の森だった。辺りはすっかり暗くなっている。
境界は私たちが通り終わるとすっと閉じてしまった。
あの二人が帰ってくることはない。



「ねぇ、蓮子、かわいそうじゃない?」

「夏休みが終わる頃にまた、Rだけでも迎えに行ってあげましょう。 食べれそうな植物もあるだろうし、幻覚の能力があればキメラにも襲われないだろうし。楽しいバカンスを過ごせるといいわね。」


蓮子は服の土を払いながら来た道を歩き出した。

「埋めてあった私たちのデータはどうするのよ!?」

「あぁ、それは、昨日、三輪山にいく途中にここに寄ったでしょう?
あの時に、全て取ってきたのよ。部室のデータも埋めるつもりだったんだけど、、やっぱり、全部出してきてやったわ。今は私の部屋よ。」


「じゃあ、何もないのね?」

「いや、ジョーカーのカードが埋めてあるのよ。」


「あの子たち怒るわよ?」

「ふふふ。あの、2人付き合ってたのかね?
あの青髪のMって男、メガネが似合っててなかなか顔整っててイケメンだったじゃない?

好きな人と2人切りで夏休みを過ごせて私は羨ましいわよ。」


「蓮子は夏休みを一緒に過ごすなら誰がいい?」

「私はメリーだけよ。」
「私も蓮子だけよ。」

蓮子はとっても楽しそうにしていた。それならそれでいいわ

これで書いた文全部投げ込んじまった。すまん。ひとまずこんかいはこれで完結だ。また例大祭で無料頒布する新刊ができるころに、ここにも同じ内容を投稿するよ。

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