【ラブライブ】コミカルのぞみんラジオ (105)
コミカルのぞみんラジオとは、コミカルなのぞみんのラジオである。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1424125870
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のぞみ「深夜のオトノキ電波ジャック! のぞみんラジオのお時間です!
のぞみんラジオの主役は私……ではなくて、みなさんです。
聞いてくださっているみなさん、お便りをくれるみなさん。私は世界という群像劇の読み手でしかありません。
毎度この文句こっぱずかしー! ということで、さっそくお便り読んでいくよー! 一通目。ラジオネーム……。」
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・・・・・
例えば、自分は完璧なんだって、こだわるとか。
探偵みたいに自分は特別で、異常な日常をおくっているんだとか。
逆に自分はごく普通なんだと。傍観、達観気取りだとか。
「そういう人」たち、いるね。山ほどいる。
考えすぎ。そういうの、いいから。もーっと気楽にいきましょ?
人生は神さんが観客のコメディなんやから!
でも、みんななかなか「そういうの」難しいみたい。でもって、「そういうの」が好きみたい。
例えば、人生の演者じゃなくて、脚本家になりたがったり。
全ての決断を一枚のコインに委ねてみたり。
周りに期待されている姿を演じてみたり。
世界や自分に意味を見出そうとしてみたり。
正義のヒーローになろうとしたり。
「そういうの」は思春期で終わりにしましょう。
思春期真っ盛りなウチはあえて、「そういうの」を全否定するのだ!
――私はまるでなんでも知ってるようだけど、本当は全然そうじゃない。――
そう。私は東条希だけど、ラジオをやっているのはのぞみん。そういうことになっている。
私の正体は誰にも知られていないのだ。
そして私もまた、お便りの送り主が誰であるかは知らない。
まだ、私たちは互いを知らない。
これは、バラバラのものを繋げる物語。なんちゃって。
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[1] 私の500円を拾いやがったやつ以外なら誰でもいいのよ。つまり誰でもいいのよ。
【私はラブアロシューター】
私「長引いてしまいましたね。早く戻ってお弁当を食べないと次の授業に間に合わなくなって……」
ことり「まだ大丈夫だよ。……あれ、あれって穂乃果ちゃん?」
私「本当だ、こら穂乃果、次の授業までに課題を終わらせなければいけないと言っていたではないですか。あなたがそう言うからことりと二人で行ってきたというのに」
ことり「まあまあ海未ちゃん、ちゃんと理由があるのかもしれないよ」
理由? 正当な理由があるようには思えない。
だってなんか手にストロー持ってるし。
廊下でストローを持ってポケーっと突っ立っている穂乃果がいたら、それはふざけている穂乃果に違いない。
私「なぜストローなんてものを持ってるんですか?」
ほのか「……ヘンテコリンな人だったなぁ」
ことり「どうかしたの?」
ほのか「あ、ことりちゃん、海未ちゃん、おかえり。どうだった?」
私「そんなことより、廊下で遊んでいるということは、課題は済んだのでしょうね?」
ほのか「それはー……そのー……まだー」
手をこねくり回しながら、ちらちらと目をそらす。
もう次に穂乃果がなにを言い出すかは一目瞭然。
ほのか「よかったら課題を……」
私「見せませんよ」
ほのか「え、どうして私の言いたいことわかったの?」
私「誰でもわかります。ことり、あなたも見せてはいけませんよ」
ことり「は、はーい」
ほのか「そんな!」
私「当然です。自分が悪いのですから。どうせ今朝話していた雪穂とケンカしたというのも、穂乃果が悪いんでしょう」
ほのか「なんで決め付けるのさ、そうだけど」
私「わかっているならなぜ謝らないのですか」
ほのか「もうっ、海未ちゃんには関係ないでしょ」
ことり「でも、仲直りはしないとだよ」
ほのか「うん。実は臨時収入が入ってね、どうにかなりそうなんだ。あとはいいお店を探してるんだけど」
ことり「よかったら相談のるよ?」
ほのか「ありがとう! あのね……」
穂乃果はよく妹の雪穂とケンカをする。
そういうとき穂乃果は決まって私とことりに相談してくる。でも、私たちは特に何も助言はしない。
今回も例に漏れず、二人は近いうちに仲直りした。きっと私たちが相談に乗る意味はそんなにないんだと思う。
というのも、雪穂はとても大人なので、大抵は穂乃果のほうが悪い。多くの場合穂乃果が謝ることになる。
穂乃果曰く、「私のほうが大人だから先に謝らないとね!」。
・・・・・
*****
ラジオネーム:ラブアロシューター
のぞみんさんって何者なんですか?
のぞみ「秘密や。これね、みんなのぞみんのこと知らないでしょ?
でも大丈夫やから。ウチもみんなのこと知らんし。ね、大丈夫でしょ?」
*****
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私「手巻き寿司……ですか?」
突然、絵里に手巻き寿司パーティに誘われた日があった。
穂乃果とことりも困惑していたのを覚えている。
だってあまりにもわけがわからなかったから。
えり「どうしてもやらなくてはならないの。私は手巻き寿司パーティをしなくてはならないの」
私「ああ、なるほど。そういうことなら」
全然わからないけど、とりあえず承諾した。
絵里の家で手巻きパーティをするの、別に嫌ではないですし。
ことり「たのしみ!」
ほのか「どうして私たちなの?」
えり「どうしてって、なにかおかしかった?」
ほのか「いや、でも」
えり「……? ダメってこと?」
ほのか「まさか! うんうん、行くよ。いくいく」
なるほど。おそらく絵里は私たちを説得するための場を設けたいわけだ。
生徒会長として私たち三人を諭して、アイドル活動をやめさせようという魂胆だ。
しかしそれがわかっていても、断るような間柄ではない。
立場上わかりあうことができなくても、やはり私たちは友達なのだから。
私「いつですか?」
えり「具体的な日時は追って連絡するわね」
それにしたって唐突だ。なんで手巻き寿司? いろいろ謎だ。
……それから、随分後になって絵里の家で手巻き寿司をごちそうになった。
あのとき誘われたのは私たち三人だったけど、当日招待されたのは六人だった。いろいろ謎だ。
絵里の説得は……まあ、今の私たちの状況を見ればわかりますよね。
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ラジオネーム:和菓子飽きた
この間、友達の家に招かれて夕食をご馳走になりました。
たくさんの友達がいて、パーティのようなものだったのですが、そのうちの一人が食べ物に手をつけるたびに手を洗うために席を立っていました。
最初は綺麗好きなんだなーと思っていたけど、頻度がおかしい。何かに取り憑かれたように異様に手を洗っていました。スピリチュアルです。
のぞみ「それ、潔癖症やん。絶対。
でもね、『そういうの』、あんまり偏見持っちゃダメだよ。周りの人が見守ってあげないと。改善するにしてもね。
気がついたなら、その子の他のお友達に教えてあげたほうがいいかもね。」
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あのふたり、どういう関係なんだろう? この前、たまたま部室で聞いてしまったんです。
もしかしたらあのふたりは……これは口が裂けても言えません。絶対秘密です。
それにしても……うふふ。あ、なんか鼻血が……。
は、話を変えましょう。そういえば、ことりからお守りをもらいました。突然で驚いたけど、嬉しい。
なぜかこの世の終わりみたいな顔をしていたけど……。
なんにしても、ご利益バッチリの逸品らしいので何かいいことがありそうです。
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ラジオネーム:ショッキング・ピンク
この前学校でジュースを買おうとしたら500円玉を落としました。助けてください。
のぞみ「それはショッキングやね。きっと取れないところに落としたんだ、自販機の下とか。
そういえばちょうど、ウチの知り合いもこの前お金落としたーって嘆いてたわ。流行ってるんかな。
助けてってことやけど、そうねぇ、失くした500円以上のお得なことがあればいいわけやん。
これを機にわらしべ長者を目指してみてはいかがですか?」
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【私はショッキング・ピンク】
私「はー、喉渇いた。こんなときはいちごオレニコね!」
矢澤にこ。現在絶賛ひとりぼっち。
ちょっと違うかな。この頃はまだ、ひとりぼっち。
もっと言うと、ひとりぼっちではないのかも。私にはちゃんと友達がいるし、別段孤立しているわけでもない。
それでも、私は常に孤独を感じるし、なんていうか……うん、やっぱり私はひとりぼっちなんだと思う。
ずっとアイドルに憧れて、ずっと一人でやってきた。
自動販売機の前で、財布の中の小銭を数える。自動販売機はそれを急かさないし、ずっと待っていてくれる。
こういうのを、ひとりぼっちっていうんだと思う。
まあいいや。いま出してあげるからね! いちごオレちゃん。
ところが私はいちごオレちゃんの救出を断念せざるをえなくなった。
500円玉を落としたのだ。しかも、自動販売機の下の方に転がっていったから、今度は500円玉を救出しなくてはならない。
要救助者二名! なんちゃって。
私「ああっ、にこの500円! はうぅ……ついてない……いちごオレは我慢しよ」
這いつくばって手を伸ばせば届く場所だったかもしれないけど、私は500円といちごオレを諦めた。
私「今日はついてないニコー! でもでも、にこはこんなことでくじけないんだからー」
おらぁ! あんの自動販売機いつかぶっ飛ばしてやる!
くっそ、ほんと最悪だわ。にこはどんなときもアイドルだから絶対こんなことは口にしないけどね。
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のぞみ「深夜のオトノキ電波ジャック! のぞみんラジオのお時間です」
ラジオネーム:トマト大好きっ子
今年、高校一年生になりました。
でも私は人付き合いがあまり得意ではありません。
新しいクラス、知らない人達ばかり。とっても不安です。
もう周りでは仲良くなり始めた人もたくさんいます。でも私はどうしてもうまくお話できません。
のぞみんさんは楽しい人なので、なにか友達をつくるコツを教えて欲しいです。
のぞみ「新学期になってそこそこ経つよね……お友達かぁ。
ソトヅラこんなんやけど、ウチも結構内気というか、コミュニケーション下手なところがあるからなぁ。
でもみんなそれを隠すようにおもしろおかしくやってるんやろうね。ウチも。
……みんなと仲良くなる必要なんてないんよ。本当に大切な人は、知らないうちにいつの間にか一緒にいるものだから。
あっ、アカンなんかありきたりなことしか言えない。ごめんねトマト大好きっ子さん。
とりあえず、クラスのみんなの名前と顔、覚えてみようか。特徴なんかも掴めるとベターやね。」
ラジオネーム:和菓子飽きた
この間、妹のケーキを食べてしまいました。それ以来妹が口を聞いてくれません。
なんとか仲直りしたいのですがどうしたら許してくれるでしょうか?
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【私は和菓子飽きた】
お便り読まれた! 私のやつ読まれた!
そう。雪穂とケンカしてしまった私は仲直りする方法をのぞみんラジオに相談したのだ。
ことの発端は、私が間違えて雪穂のロールケーキを食べてしまったこと……。
・・・・・
私「ただいまー。あれ? 雪穂ー?」
その日、私が学校から帰ると珍しく家には誰もいなかった。
私「あれぇ? 誰も店番しないでまったくもう。……おお! 冷蔵庫にロールケーキっ!」
誰か帰ってくるまで私が店番してなきゃな。なんて考えながらまず冷蔵庫を開ける(いつもは先にちゃんと手を洗うよ。ほんとだよ)。
そして見つけてしまった。ロールケーキ。
今日のおやつだと思って、私はそれを食べてしまった。それがよくなかった。
実は妹、店番中にちょっとだけ空けただけだったのだ。
ちょうどタイミングとしては私がロールケーキを頬張っているところに帰ってくることになる。
私「もぐもぐ」
ゆきほ「ふぉああ! ぅああ!」
私「ボッホェ! あっ、雪穂おかえり」
ゆきほ「うわあぅぐぁああ!」
私「な、なに!?」
ゆきほ「ぎにゃあああああああ」
私「なに!? わかんないごめんっ!」
泣きながらポカポカと私を叩く妹。
楽しみにしていた大好きなロールケーキを食べやがった姉への鉄拳制裁だったそうだ。
ゆきほ「私がかってに楽しみだったのお姉ちゃんがロールケーキぃ……」
私「ごめんなさい……これユッキーのだったんの知らなかった本当にごめんっ!」
ゆきほ「弁償しろぉ……」
もちろんその気持ちはある。しかし、私はそのとき既に金欠。とてもケーキを弁償できそうにない。臨時収入でもない限り。
私「本当にごめんっ! 今お小遣いピンチなのっ!」
ゆきほ「ぎにゃあああああああ」
・・・・・
……ということがあり、それ以来妹が口を聞いてくれません。
きっとのぞみんなら何かスピリチュアルな助言をしてくれるに違いない。
そしてラジオ越しにのぞみんが私に語りかけてくる。
さあ、のぞみん! 私のお悩みを解決して!
のぞみん「弁償。お小遣いピンチとか言ってる場合やないよ。闇金使ってでも弁償しなきゃ。今すぐ。
さもないと一生あなたは妹さんに無視されます。結婚式にも呼ばれません。えんがちょです。と占いで出ました。」
私「ぎにゃあああああああああ」
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【私はショッキング・ピンク】
朝、学校に行く前にキッチンでガサゴソガサゴソ。気になったのか二人の妹たち、背中にペターってしながら聞いてきた。
ここあ「なにしてるのー?」
私「この辺にストローなかったっけ?」
こころ「ストローならこちらの引き出しですよ」
私「あー! そっちか。ありがと」
こころ「学校に持っていくんですか?」
ここあ「なにに使うの? 図工?」
私「現代のわらしべ、ストローよ」
ここあ「わらしべ?」
私「わらしべ長者。昔、嘘か本当かそういう人がいたの」
もうヤツを落としたのはだいぶ前のことだけど、私はまだ根に持っていた。
だから数日前、ちょっと自動販売機の下を覗いてみた。……もう私の500円はなかった。その場で拾っておけばよかった。
後悔先に立たず。
私「誰かがにこの500円で幸せになってくれたならいいかな」
ぶざけんじゃないわよ! 誰よ私の500円拾ったやつ! ぐぬぬ許すまじ。
とにかく500円を失った私は500円以上の得をしなければ割にあわない。
私「このストローから、アイドルにこのサクセスストーリーが始まるニコ。そしたらこの前のことなんかどうでもよくなるもんねーっ!」
学校にストローを持ってきたのはいいけど。
常識的に考えて、突然「このストローと何か交換してくれませんか?」とか言い出すのはおかしい。
まあでも、にこは不思議ちゃんな感じで通ってるからいけちゃうんだな。これが。
実際ヘンテコリンだと思われるのは間違いないけど、そんなことを気にするにこじゃないのよ。
昼休み、そんなことを考えながら校舎を歩いていたら、いた。
ちょうど最近スクールアイドルを始めたとかいう生意気な後輩を発見した。調べはついてるニコ。
私「あのぉ、ちょーっといいですかぁ?」
ほのか「へ? どうしたの? ここ二年生の階だよ」
私「にこ、三年生なんですけどぉ」
眉をヒクヒクさせながらにこはとびっきりのスマイルで睨みつける。
ちょっと「にこ」と「私」が混同しちゃったかな。
プライベートと仕事はぷっつり分けなきゃね。てへ。
ほのか「ご、ごめんなさい先輩」
私「こほん。あなた、とってもかわいいかも!」
ほのか「えへ。ええー!?」
私「きっと、素敵なアイドルになれるよっ」
ほのか「先輩だってアイドルみたいにかわいいですよ! よかったら」
私「私は入らない」
よかったら……よくないわよ。ぜんっぜんよくない。
私「今ね、このストローをもらってくれる人を探してるの」
ほのか「ストロー?」
私「そうなんだ。それで、代わりに何かをもらうの」
ほのか「おもしろそうなことしてるんだ!」
私「そうなのー! もしよかったら、何かと交換してくれないかなーって」
ほのか「どうして私?」
私「私の500円を拾いやがったやつ以外なら誰でもいいのよ。つまり誰でもいいのよ」
ほのか「……? そうだなぁ……あ、私シール持ってますよ」
私「シール?」
ほのか「この動物シリーズがオススメかなぁ」
私「くれるの?」
ほのか「ストローと交換です」
私「ふふ。優しいんだね。ありがとう」
ほのか「いえいえ」
私「じゃあ、またね! 高坂穂乃果さん」
なにを隠そう、これが高坂穂乃果と矢澤にこのファーストコンタクトだったわけだけど。
その頃アイツはそんなことは知りもせず生徒会室でお弁当を食べていた。
「ウチも案外、知らないことがいっぱいあって、できないこともいっぱいあるんよ?
みんなが思っている以上にね。」
いつかこの話をしたとき、アイツにはそんなようなことを言われた。
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【私はかわいい生徒会長】
のぞみ「今日はいい天気やねー。絶好のおべんと日和や!」
私「ふふっ! なによそれ」
のぞみ「おっ笑ったね。さっきμ’sの子二人が来てからずっと眉間にシワ寄ってたよ」
私「アレね……私の幼馴染なの」
のぞみ「え?」
私「私はさ、『そういうの』じゃなくて、残された時間を大事にして欲しいのよ。あの子たちにもね」
のぞみ「私はさ、なんて言い方、絵里ちらしくない。くひひ!」
私「もう、茶化さないでよ」
のぞみ「『そういうの』って、なに?」
私「『そういうの』っていうのはほら……アレよ。アレ」
そんなどうでもいいやり取りをしたのが、先週くらいだったか。
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のぞみ「深夜のオトノキ電波ジャック! のぞみんラジオのお時間です。」
ラジオネーム;かわいい生徒会長
妹が、「友達の家で食べたお米を巻いたやつがすっごいおいしかったの! 今度お姉ちゃんと一緒に食べたいな!」と言ってきました。
私はルンルンでノリ巻きを買って帰ったのですが、妹は申し訳なさそうに「これじゃない……」。
なにを食べたのか本人もよくわかっていないようなので検討がつきません。一体妹は何を食べたのでしょう。
のぞみ「お米を巻いたやつ……? ノリ巻きじゃなくて? えーなんやろ。
友達のおうちか……。わかった、手巻き寿司! 友達のおうちで手巻き寿司パーティしたんやない?
今度家族で手巻き寿司パーティしてあげたらいいやん。」
ラジオネーム:ミナリンスキー
なんだかいろいろ情報通なのぞみんさん。
おいしいケーキ屋さんを教えてください♪
のぞみ「ケーキ屋さん? なら駅前のあそこオススメよ。
最近近くに新しいお店できて穴場になってるし。ええと、店名なんていったかな……」
ラジオネーム:猫ラーメン
粘土でキリンをつくりはじめました。(画像付き)
のぞみ「なんやこれ、だからどうしたん。」
ラジオネーム:ラブアロシューター
私は高校生なのですが、最近仲のよかった一つ上の先輩と少々対立してしまっています。
具体的には、私と友達の三人で、ある活動を学校のために始めたました。ところが生徒会長でもあるその先輩が活動を認めてくれません。
私はそのことにショックを受けたのですが、それでも友達のひとり微塵も諦める気はないようです。
なんとか穏便に済ます方法はないでしょうか?
のぞみ「うーん……ラブアロさんがイマイチどっちの立場なのかわからないんだけど……。
活動をしたいんなら、その先輩と対立するのは仕方ないんやない?
友達を諦めさせたいなら……まず自分が降りることやね。それでも止まらないなら、それも仕方のないこと。
『穏便に済ませたい』なんてのは、どこか客観的なんやない? ラブアロさんの本当にやりたいことってなに?」
*****
・・・・・
私「世の中には自分と似たような境遇に立たされて、似たような悩みを持って、同じ葛藤をしている人がいるのね。
とても勇気が湧いてくる。本当にやりたいこと……か」
いまラジオで読まれた内容があまりにも、あの日のあの子たちとのやり取りに酷似していたので、つい考え込んでしまった。
・・・・・
うみ「失礼します」
私「あら、海未、ことり。どうしたの?」
ことり「絵里ちゃん、お昼休みなのにお疲れ様です」
私「いいのよ。会長だし、希もいるし」
のぞみ「どうもー」
私「穂乃果は一緒じゃないのね? 珍しい」
うみ「穂乃果は次の授業の課題がまだ終わってないのでおいてきました」
私「あらら。で、なんのご用?」
ことり「えっとね、絵里ちゃん、あのね……えっと」
うみ「スクールアイドル……の活動の許可をもらいにきました」
私「……はぁ、本気で言っているのね。二人は穂乃果に付き合わせれてるんじゃないの?」
うみ「いいえ。私たちは学校のために」
私「それは、本当にあなたたちのやりたいことなの? 学校のため、じゃなくてよ」
うみ「それは……」
私「なら、認められないわ。残りの学校生活を有意義に過ごすのも大切なこと」
ことり「無理にそんな活動はしなくていいよってこと?」
私「そうよ。そう」
うみ「……認めてもらえなくても、たぶん穂乃果は」
私「でしょうね」
うみ「ふぅ……。わかりました。失礼しました」
ことり「穂乃果ちゃん、ちゃんと課題やってるかなぁ……?」
生徒会室から出て行く二人を見送る。
認めてもらえなくても、たぶん穂乃果は諦めないでしょうね。微塵も。
えり「希は、どう思ってるの?」
のぞみ「ウチは、なにも口出しできないよ」
えり「……どこかで、あなたの思っていることが聞けるといいんだけどね」
のぞみ「ふふふ。ま、ウチは絵里ちについてくだけよ」
えり「……」
のぞみ「今日はいい天気やねー。絶好のおべんと日和や!」
えり「ふふっ! なによそれ」
のぞみ「おっ笑ったね。さっきμ’sの子二人が来てからずっと眉間にシワ寄ってたよ。」
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……私は、なにがしたいんだろう。
『そういうの』を考えると、考えすぎると、気分が悪くなる。眠れなくなる。
私たちは、難しいことを考えすぎる。
きっと希にそういう話をしたら笑われるだろう。
希は、このバカバカしい世界を愛おしく思っているから。
私「っと、今はそんなことはどうでもよくて。手巻き寿司!」
そう。亜里沙が友達の家で食べたという「お米を巻いたやつ」の正体が判明した。
手巻き寿司だ。手巻き寿司パーティをしよう。
あの子たちを誘って、手巻き寿司パーティをしよう。
そうと決まれば、早速計画を立てましょう。
私はあれこれ計画を考えながら、気がついたらすやすやと眠れていた。
・・・・・
【私は和菓子飽きた】
実は、ラジオで私のお手紙が読まれる少し前、私が雪穂とケンカした少し後。
私には臨時収入が入っていた。神様のお恵み!
もうこればっかりは仕方がない。雪穂とえんがちょなんて嫌だもんね。
私は学校の帰り道、駅前まで行った。駅前のケーキ屋さんまで行った。
ものすごーい長蛇の列のお店。さぞかしおいしいんだろう。
そのお店を通り過ぎて……だって、一刻を争う事態だからね。60分とか待ってられない。
そこから少し行ったところに、そこそこお客さんのいるケーキ屋さんがある。
私の狙いはコッチだ。コッチならあまり並ばずにおいしいケーキが手に入る。
という情報をことりちゃんから教えてもらった。さすがことりちゃん、全くその通りだったよ。
私「これください!」
大きいロールケーキ。ふたり分はある。500円を出して、お釣りをもらって、それから綺麗に包装してもらった。
あわよくばふたりで食べて、それで仲直りしよう。
なんてことは、思わない。全て雪穂様に捧げるのだ!
私「ただいま」
ゆきほ「……」
本当に口を聞いてくれない。おかえりも言ってくれない、お姉ちゃん悲しい。
私「あの、ユッキー……?」
ゆきほ「……」
私「雪穂、さん?」
ゆきほ「……なに」
帰って早々、なんか話しかけてくる姉にブッスーっとしながら顔を合わせずに返事する雪穂さん。
わかる……わかるよ。ごめんね、返事してくれてありがとう。
私「その……ロールケーキ、買ってきたの」
ゆきほ「へえ」
私「雪穂にね? 買ってきたの。ごめん」
ゆきほ「べつに」
私「駅前でね、米粉ロールってやつが売っててね……」
ゆきほ「……!」
私「結構並んでたから、たぶんおいしいやつなんだけど」
ゆきほ「どこの!?」
私「んっ?」
ゆきほ「あー……なんだコッチのか」
私「えっと」
ゆきほ「もー知らないの? 今米粉のロールケーキすっごい流行ってんの!」
私「ほ、ほぉ」
ゆきほ「あーだから! コッチのじゃなくてアッチのがすごい流行ってんの! 駅前の限定三食のほうのやつ! アッチのだったら許してあげたのにっ」
私「ごめーん!」
ゆきほ「もう知らなーい! お姉ちゃんなんて知らなーい!」
私「ごめんー! ごめんー!」
ゆきほ「お姉ちゃんなんかには一口もあげないんだからね。ありがとうも言わないよ」
私「許して雪穂様ーっ!」
ゆきほ「ちょうど今日は友達が来るんだ。二人で食べるね。……お姉ちゃんの分はないよ! ふーんだ」
私「さすがにもうそれは食べないよ! 絶対!」
こうして私たち姉妹は無事和解した。
ありがとうのぞみん! それから学校の自動販売機の下に500円玉落としてくれた人!
・・・・・
[2]白紙のほうが価値があるのに。
【私は熟れて潰れたトマト】
*****
ラジオネーム:三度の飯より米が好き
以前のぞみんさんがオススメしていたケーキ屋さんに、この間行ってきました。
そこで食べた米粉ロールケーキ! 絶品でした。
すっかり米粉ロールにハマってしまった私は、今話題のお店の限定三食米粉ロールをなんとしても食べてみたくなりました。
情報通で、おもしろくて、かわいくて、いつも頑張っているのぞみんさんは、限定三食米粉ロール食べたことありますか?
のぞみ「ウチも食べたことありません。あそこ、限定三食いうのは通常販売だけらしいよ。引換券があるんやって。
スタンプ貯めて何個で引換、みたいなやつ。だからあんな行列なんやって。うまい商売だよね。
米が好きさんも毎日通ったらそのうち引換券手に入るんやない? 頑張れ。」
ラジオネーム:熟れて潰れたトマト
私はいわゆる、ぼっちというやつです。
友達ができません。本当は仲良くなりたいのについ素直になれません。
こんな自分がもう嫌です。音楽室にひきこもりたい。
のぞみ「素直になれないかぁ……じゃあね、トマトさんのセリフをのぞみんが考えてあげるから。
次誰かに話しかけられたら、なんにも考えずにこの言葉。のぞみんを信じて。
『ぼちぼちでんな』これね。これ、次言ってみて。のぞみんお姉さんとの約束ね。」
*****
・・・・・
私「ぼちぼちでんな……ぼちぼちでんな……」
のぞみんラジオ終了後、ベッドの上で胡散臭い関西弁を唱える。
私「ぼちぼちでんな……ヒック、ぼちぼちでんな……上手に言えるかなぁ……うぅ、グスッ」
わらにも縋る思いで私はその魔法の言葉を復唱した。それから、私泣いてないわよ。
私「ぼちぼちでんな……ぼちぼちでんな……」
一時間目の数学が終わり、教室へ帰る途中も、そのときの為に準備をしていた。
こうなりゃ意地よ。意地でも言ってやるんだから。
にこ「こんにちは! あなたかわいいシールとか好きニコ?」
私「ぼちぼちでんな!」
私は、突然シールが好きがどうかを聞いてくるヘンテコリンな人に思いっきり「ぼちぼちでんな」と言ってやった。
シチュエーション的には決して間違ってなかったと思う。
にこ「あ、好きなの? ちょうどよかった」
私「……じゃなくて、いきなりなによ!」
にこ「ほら見て。ワンちゃんとか、ネコちゃんとかのシール。かわいいニコー! ね、怒らないで真姫ちゃん」
私「なんで私の名前知ってるの?」
にこ「西木野真姫ちゃんでしょ? 病院の跡取り娘。有名人!」
私「ふ、ふん。別にたいして有名なんかじゃないけど」
にこ「ねえ、シールいらない?」
私「シール? なにそれ子供みたい」
にこ「そんなことないよー。かわいいよ。ほら」
私「……」
にこ「これを貼ったらモテモテ間違いなし!」
私「そ、そう……? まあ、くれるって言うなら」
にこ「タダじゃないよ」
私「はあ?」
にこ「代わりにー、なんか欲しいな!」
私「なんかってなに?」
にこ「なんでも。あなたが等価だと思うもの」
私「……じゃあこのルーズリーフあげる」
にこ「意外と庶民的なんだね」
私「なによいらないの?」
にこ「ううん、ありがたく受け取るニコ」
私「それはどうも。交換成立ね」
にこ「……ってこれなんか書いてあるし」
私「そうね」
にこ「白紙のほうが価値があるのに。例題と、公式と、解説と……」
私「さっき数学の授業で使ったの」
にこ「名前までご丁寧に。きっと失くしたら親切な誰かが届けてくれるね」
私「失くすっていうか、あげるって言ってるの」
にこ「真姫ちゃんはいいの?」
私「別に一回書いたら覚えるし。わかりやすくまとめてあるから好きに使っていいわよ」
にこ「数1くらいわかりますーっ!」
私「え……?」
にこ「あーもう、また。私三年生なんですけど」
私「うぇ!? ご、ごめんなさいてっきり同級生かと……」
にこ「なんでやねん!」
*****
のぞみ「深夜のオトノキ電波ジャック! のぞみんラジオのお時間です。」
ラジオネーム:三度の飯より米が好き
私は小さい頃からアイドルが大好きで、いわゆるドルオタというやつです。
たくさんグッズも持っているし、プロだけでなくスクールアイドルや、名のあるメイドさんなんかも好きです。
今欲しいのはミナリンスキーの……じゃなくて。
そんな私の学校で、スクールアイドルが結成されました。
好きなものを好きでいたいのか、好きなものになりたいのか。夢と理想が、ごちゃごちゃになっています。
手を伸ばす勇気があったら、それは正しい選択でしょうか?
のぞみんさんだったら、どうしますか?
のぞみ「偶像っていうのはね、まず先に空想があるんよ。その次に、その空想に近い現実を探す。
キリンっているでしょ? 麒麟っていうのは空想上の生き物だったの。
で、あの首のながーい草食動物が、その空想の生き物に似ていたから『そういうの』をキリンって呼ぶことにした。
一番理想に近かったんやね。アレが。理想が先にあって、それに似た形を探していく。みんなそれを首をながーくして待ってるんよ。
やりたいことが先にあって、理由が後からついてくる。手を伸ばすのが怖いんなら首を伸ばしてみたらいいやん。景色がわかるよ。」
ラジオネーム:小さなシグナル
私はクラスではお調子者の元気な子で通っています。
おかげでお友達はたくさんできたのですが、本当の私は人見知りで、とても臆病です。
そのせいでクラスにひとり、気なる子がいるのですがずっと話しかけられずにいます。
その子はいつもひとりで、でも全然それが平気そうです。頭もよくて、歌も上手です。
すごいなぁと思ってみているのですが、なんと言っても決め手は、その子のスマホにさりげなく可愛いネコちゃんのシールが貼ってあったことです。
私もネコちゃんが大好きなので絶対に話したら仲良くなれると思います。どうかその勇気を私にください……。
のぞみ「いいねぇ。青春やね。じゃあ小さなシグナルさん、次はこのセリフでその子に話しかけてみましょう。
『もうかりまっか?』これでふたりの距離はうーんと縮まります! それから、そのネコちゃんのシール褒めてあげてね。」
*****
・・・・・
【私は三度の飯より米が好き】
りん「ふぁあ」
私「凛ちゃんっ!」
りん「あ、かよちんおはよう」
私「おはよう。このやり取り何回目かな」
りん「ごめんごめん……ちょっと寝不足で」
私「夜ふかししたの?」
りん「うん。ラジオを聞きながら粘土をしてたの」
私「ね、ねんど?」
りん「うん。小学生の図工とは訳が違うよ。本格的なんだ」
私「へぇー! 何をつくってるの?」
りん「キリンさん」
私「キリンさんかぁ」
りん「ケータイに写真があるよ。まだ途中だけど」
私「どれどれ」
そこには想像をはるかに超えた出来のキリンさんがいた。まだ首がないけど。
私「コレ粘土なの!?」
りん「えへ。すごいでしょ」
私「この細い足とか、折れちゃわないの?」
りん「そこにはね、爪楊枝が入っているんだよ。骨だね」
私「まだ首はないの?」
りん「首の骨が見つからないんだ」
私「割り箸とかは?」
りん「うーん……あのね、首を支えつつ、頭の軸も兼ねるようなのを探してるの。こう、ちょっと先端がクイッとしてるような」
私「なるほど……ところでどうしてキリンさん?」
りん「これはね、凛の理想なんだ。凛は理想をつくってるんだよ」
理想……。凛ちゃんは無自覚に、無理やり私の背中を押してくる。
でも、凛ちゃん一人分だけならなんとか踏ん張ることができる。
りん「なんてね。なんとなくだよ。きっと名前が似てたからだね。理由なんて後からついてくるんだよ」
そこまで言って凛ちゃんは何かを見つけたように目を見開いた。私の後方、教室のドアのほう。
りん「あ……きた」
私「どうしたの?」
りん「西木野さん」
西木野さん。同じクラスの女の子。いつもひとり、ちょっと目つきが悪い人。
怖いから私はあまり近づいたことはない。
りん「かよちん、凛はほんの少しだけ、勇気を出してみるよ」
そういうと、凛ちゃんは机に荷物をおいて腰掛けたばかりの西木野さんのところへ歩いて行った。
私は後ろからそろりと凛ちゃんについていく。別についていかなくてもよかったんだろうけど。
凛ちゃんは西木野さんをじっと見据えて立っている。……もしかして緊張してる?
西木野さんも、それに気がついて不思議そうに凛ちゃんを見上げる。……もしかして怒ってる?
りん「……」
まき「……」
しばらく無言の時間が続いた。
な、なにか言ってよ……。どうしよう気まずいよう……・
りん「も……もうかりまっか?」
まき「ぼちぼちでんな!」
途端、二人の表情が、ぱあっと明るくなる。
私はというと、驚異のシンクロ率にあいた口がふさがらない。
りん「にゃ! あはははは! 西木野さんおもしろい人にゃ!」
まき「え……?」
りん「だって、即座にその返しができるなんて、あっはっはっは」
まき「ななな、なによっ!」
大笑いする凛ちゃん。顔を真っ赤にする西木野さん。
あ、この人、怖くない。
まき「な、なに? どうして私に……話しかけてくれたの?」
りん「あのね! そのネコちゃんのシール!」
まき「ええと、ああ」
りん「かーわいい! どこで買ったの? 教えて欲しいにゃ」
まき「これは……わからないの。もらいもので。ごめんなさい」
りん「そうなんだ。真姫ちゃんもネコ好き?」
まき「べ、別に」
りん「そっか! あのね、この子はかよちん」
私「え、わっ、えっと、よろしくね、西木野さん」
まき「歌声が素敵な小泉花陽さんね」
私「え? えっと」
西木野さんはしまった、と言うような顔をしたあと恥ずかしそうにゴニョゴニョと口を開く。
まき「クラスの子、みんな覚えてるの。名前とか、特徴とか……。あなたの歌は音楽の時……」
りん「すごーい! 凛なんか、この人だれだっけ? って思いながら反射神経で会話してるのに。やっぱり真姫ちゃんは頭いいにゃー」
まき「やっぱりって?」
りん「ふふふ。これ。いつだったかな?」
私「放課後、私が凛ちゃんに数学を教えていたときだったね。よくわからないヘンテコリンな先輩が突然それをくれたの」
まき「なに?」
私「うん。綺麗にわかりやすく解法がまとめてあってね」
りん「すっごく助かったんだ。ただじゃあげないって言われたから、ラーメン屋さんの餃子無料券をあげたら喜んでたよ」
まき「それはヘンテコリンね」
りん「うん、ヘンテコリンなんだ」
凛ちゃんはこう見えて結構人見知りする。
そんな凛ちゃんが、初めて話した人をもう名前で呼んでいる。
まきちゃんだって! どういう字書くんだろう?
私は眼鏡越しによく目を凝らす。
「西木野真姫」と書いてあるそのルーズリーフは、例題と、公式と、解説と、それからネコの落書きでびっしりなのだった。
・・・・・
*****
のぞみ「深夜のオトノキ電波ジャック! のぞみんラジオのお時間です」
ラジオネーム:油性マッキー
今度、仲良くなったばかりの二人のお友達と遊びに行くことになりました。
みんなで分割して予定を立てているのですが、私は食事処担当です。
そこで、一人は特に好き嫌いがなく、もう一人はラーメンが大好きなのでラーメン屋さんに行ってみようかと……。
ところが、私はラーメン屋さんに行ったことがありません。
もしよろしければ、音ノ木坂周辺でおいしいラーメン屋があったら教えて欲しいです。
のぞみ「おお、タイムリー・ウチこの前ラーメン屋行ったんよ……一人で。いいなーマッキーさんいいなー。
ふふっ! こういう幸せそうなお手紙くるとウチも嬉しくなっちゃう。
そうそうラーメン屋さんね。そこ、すっごくおいしかったわ。えっとね、場所はね……。」
*****
[3]こういうのを、ひとりぼっちっていうんだと思う。
*****
のぞみ「深夜のオトノキ電波ジャック! のぞみんラジオのお時間です」
ラジオネーム:ショッキング・ピンク
高校三年生です。
後輩たちが楽しそうにスクールアイドルをしています。
メンバー募集もしてるみたいで、この前新たに三人加わりました。周りからもチヤホヤされています。
私だってアイドルに憧れていて、これまで一人で必死にやってきました。
なのにこの違いはなんでしょう。羨ましくて仕方がないです。
のぞみ「違いか。難しいね。かけた時間や情熱が、全て実を結ぶとは限らない。そういう格言ってよく聞くけど、じゃあ成功の原因ってなんなんだろうね。
成功者からしたら運だとか、タイミングだとか、そんなもので済まされたくないよね。
でも成功しなかった人からしたらさ、その言葉って結構救われると思うんよ。自分が失敗したのはただ運が悪かっただけ。タイミングが悪かっただけだ。ってね。
でもねショッキング・ピンクさん、よーく考えてみて? あなたとっても運がいいよ。このお便りを見た限りではね。
逆転のチャンスは、目の前にぶら下がってるんと違う?」
ラジオネーム:油性マッキー
手巻き寿司パーティってなんですか? ググってもよくわかりません。
のぞみ「おー。手巻き寿司をご存知ない? ふっふっふ。いいでしょう。教えてあげましょう。
初心者はまずね、海苔やら具やらに触る回数がどうしても多くなるから念入りに手を洗いましょう。ここ重要や。
初心者なんだから、一回巻くごとに一回洗うくらいでちょうどいいね。ひひひ。」
*****
・・・・・
【私は和菓子飽きた】
まき「手巻き寿司パーティ?」
私「うん。絵里ちゃん……生徒会長から誘われてるんだ」
まき「お寿司を巻くの? 手で?」
はなよ「いいんですか私たちまで」
私「もともと私と海未ちゃんとことりちゃんだけだったんだけど、『μ’s』を誘うって言ってたから」
りん「わーい!」
うみ「……」
ことり「どうしたの? 海未ちゃん」
うみ「いえ。あのときは絵里は廃校阻止運動には消極的でしたよね? 確か」
ことり「そうだったね。確か」
うみ「なにがあったんでしょうか……」
そう。絵里ちゃんは最初は残された時間を有意義に派だったのに、いつのまにか廃校阻止派に鞍替えした。
学校のいいところや歴史をまとめて、アピールしようとしている。
それでいて私たちには協力的でない。まあ邪魔もされてないからいいけど。
なにかあったのかと聞いてみても「私がハラショーな生徒会長だからよ」の一点張りで、よくわからない。
ただ、人って案外短時間で変わるものだな、と思う。簡単なことではないけどね。
まき「お寿司を、巻く……。え、巻くの……?」
・・・・・
手巻き寿司パーティ当日。一旦家に帰って、支度をしてから絵里ちゃんちに行った。
えり「いらっしゃい。さ、あがって」
私「お邪魔します。はいこれ、お母さんが持ってけって」
えり「あら、そんないいのに。ありがとうね」
たくさんの和菓子の入った袋を絵里ちゃんに渡して、居間に通される。
そこで私が一番最後だったことを知った。時間ぴったりに来たのに、なんでさ。
りん「穂乃果ちゃんおっそいにゃ」
はなよ「大丈夫。まだ炊けてない……少しむらして……」
私「ごめんごめん」
ありさ「みなさんようこそ! 亜里沙びっくりしちゃった! 突然μ’sのみなさんが来てくれるなんて」
えり「ふふ……。成功みたいね」
ありさ「でも、どうして手巻き寿司なの?」
えり「え、あれ、『お米を巻いたやつ』って」
ありさ「まあいいや。みなさん遠慮しないで食べていってくださいね!」
えり「そんな……これでもないの……?」
はなよ「ど、どうかしたんですか?」
えり「手巻き寿司じゃなかったの……」
はなよ「よくわからないけど、ご飯炊けましたよ」
えり「え、ええ。そうね。もうしょうがないわ」
まき「私、手を洗ってくるわね」
りん「さっきも行かなかった?」
まき「私は初心者だから」
りん「……?」
はなよ「真姫ちゃんは綺麗好きなんだね」
こうして私たちはみんなで手巻き寿司を食べました。
絵里ちゃんがなんだか釈然としないような表情だったけど、それでもみんな楽しそうでした。私も楽しかったです。
ただ、一人気になったのが……。
まき「さて。手を洗ってくるわ」
りん「また?」
まき「ええ。この日のために薬用石鹸を買ってきたんだから。使い切ってやる」
りん「ふぅん」
まき「ちょっと失礼」
はなよ「手、ふやけちゃうよ?」
まき「大丈夫よ」
まき「……何度も失礼。お手洗いに行ってくるわ」
ことり「具合悪いの?」
まき「いいえ、本当に手を洗うだけよ」
まき「よし。手を洗ってくる」
うみ「そんなに綺麗な手なのに」
まき「なんのまだまだ」
まき「手巻き寿司っておいしいのね。それにこうやってみんなで食べるの、とっても楽しい。それはそうと手を洗ってくる」
えり「いちいち洗面所行くの大変でしょう。キッチンでいいわよ」
まき「お言葉に甘えさせてもらいます」
真姫ちゃんは異様に手を洗う。スピリチュアルだね。
まき「ところで、この家は犬を外で放し飼いなのね。逃げちゃわないの?」
えり「私、犬は飼っていないけれど」
まき「え、だって、さっきから……」
えり「なになになに!? 怖いからやめてよ」
うみ「私が……見てきます」
えり「ちょ、海未、大丈夫なの?」
うみ「つ、ついてきてくれるとありがたいです」
りん「凛も行くー!」
はなよ「え、ど、どうしよう」
ありさ「怖い! なにかいるの……?」
ことり「大丈夫だよ。心配ないからね」
そのときピンポーン、とベルが鳴った。誰かきたみたい。
はなよ「だ、誰か来たよ!?」
私「私が出るよ。絵里ちゃんは外行っちゃったし、亜里沙ちゃんは怯えてるし」
廊下に出て玄関に向かう。
私も家族みたいなもんだ。問題ない。
私「はーい、どなた?」
……。返事がない。
私「はーい? ……あれ?」
玄関を開けると、そこには誰もいなかった。
スピリチュアルだね。
・・・・・
*****
のぞみ「深夜のオトノキ電波ジャック! のぞみんラジオのお時間です」
ラジオネーム:ラブアロシューター
私、見ちゃったんです。
部室で後輩が意味ありげな会話をしながらイチャイチャしているのを。
女の子同士ってアリなんですか?
のぞみ「うんうん。……うん? へぇ、えぇ、い、いいんやない? うん、すばらしいと思うよ……。
ウチもよく、わしわしとかするし。そういうんじゃないかな? わかんないけど応援したげて。」
ラジオネーム:ショッキング・ピンク
以前のぞみんにわらしべ長者になれと言われた者です。
この間ルーズリーフと交換した餃子無料権と、お守りを交換しました。
なにかご利益があるまで、手元に置いておこうと思います。
のぞみ「……やっぱり、そうだったんやね。
ショッキング・ピンクさん、そのお守りは大事にとっとき! 今にものすごいいいことが起こるよ。」
*****
・・・・・
【私はショッキング・ピンク】
わらしべにこにーを始めてから、交換が進むたびにラジオに経過を投稿していた。
残念ながら、読まれたことはないけどね。
今持っているのは餃子無料券。にゃーにゃー言ってた一年生にもらった。
よくよく考えてみるともう随分得をしているけど、でもまだだ。まだ500円分にはなってない。もう少しだけ、続けてみる。
バッグを背負い、餃子無料券はいつでも取り出せるようにポケットにしまって、戸締りして、希と出くわして……。
のぞみ「お、にこっち」
私「こんな時間まで、生徒会?」
のぞみ「まあね」
私「大変ね。お腹すいてない?」
のぞみ「すいてる!」
私「ちょうどよかった」
のぞみ「なになに、なんかおごってくれるん?」
私「はいこれ」
のぞみ「なんや、餃子無料券? もらっていいの?」
私「ええ。交換よ」
のぞみ「こうかん?」
私「代わりになにかちょうだい」
のぞみ「えー、ウチいまなんも持ってないんやけど。」
私「そうなの? 期待はずれね。じゃあこれあげない」
のぞみ「待った! これを授けよう。ウチ特性のお守り。」
私「お守りねぇ」
のぞみ「これ、ご利益凄まじいから。凄まじすぎて誰にも内緒なやつ。」
私「ホント好きね」
のぞみ「いらない?」
私「餃子無料より、いいことあるかな?」
のぞみ「あるね。間違いない。道端で500円拾ったりするよ。」
私「それはいいわね。効果なかったら責任とってよ」
のぞみ「いいよ。バッチリとったる。」
私「よーし。……ちょっと、どこ行くのよ」
のぞみ「ラーメン屋。」
餃子無料券を指で挟んでぴらぴらさせる希を見送った。
次の日そのラーメン屋さんがすごくおいしかった。教えてくれてありがとうってお礼を言われた。
私はそこ行ったことないんだけどね。
……あれからだいぶ経ったけど、これといってお守りのご利益はない。
そろそろクーリングオフしてやろうかしら。そんなことを考え始めた頃。
のぞみ「はーい、にこっち。」
私「なによぶしつけに」
希が突然やってきた。私の部室に入ってきた。
そんなことは初めてだった。なにがあったのか知らないけどあのアイツが、私の部室にやってきた。
のぞみ「遊ぼ。」
私「いやよ」
のぞみ「トランプ持ってきたん。」
私「あのね希、このアンタからもらったお守りなんだけど」
のぞみ「んー、それね、ごめんね。もうちょっと待っててね。」
「もうちょっと待っててね。」なんて言い回しに違和感を感じつつ、そう言われると返すことができなくなった。
のぞみ「にこっちさ、高坂穂乃果ちゃんって知ってる?」
私「知ってる」
のぞみ「この前初めてお話したんやけど、優しくていい子でね。」
私「知ってる」
のぞみ「え?」
私「この前ですって? 私はずっと前から知ってる。話したこともある」
のぞみ「なんだ、そうだったんや。」
私「珍しいわね。アンタが出遅れるなんて」
のぞみ「ウチも案外、知らないことがいっぱいあって、できないこともいっぱいあるんよ?
みんなが思っている以上にね。」
私「かもね。で、その子がどうしたって?」
のぞみ「羨ましいやろ。」
私「……なにが」
のぞみ「穂乃果ちゃんのこと、μ’sのこと、羨ましいやろ。
『私だってずっとアイドルに憧れてて、ずっと一人で必死にやってきたのに』って。」
どうしてわかるの?
そんな態度は欠片もみせたことはないのに。
人前じゃ絶対自分の弱いところはみせてないのに。
ここまでズバリ言い当てるなら、希のスピリチュアルもちょっとは信じていいかも。
でもね、考えても見てよ。私はずっと一人でやってきたのよ。一人でね。
私「全然。あんなのね、違う。認めない」
のぞみ「無駄やってにこっち。ウチ、にこっちの本心は知ってるから。」
私「なにを知ってるって?」
のぞみ「カードがね、告げるんよ。」
私「カードが告げようがね、にこはにこよ」
のぞみ「『そういうの』、大変でしょ。」
私「大変なもんですか。これがにこなのよ」
のぞみ「ふぅん。まあにこっちがそれで楽しいならいいけど」
私「楽しいニコ。ところで、『そういうの』ってなに?」
のぞみ「『そういうの』っていうんは、アレや。アレ」
私「どれよ。で、なんの用だったの? まさかそんなこと言いに来たの?」
のぞみ「実は頼まれて欲しいことがあるの。」
私「私に、希が? 珍しいこと」
のぞみ「絵里ちにね、お届けものをして欲しくてね。」
私「自分で届けなさいよ」
のぞみ「それがね、今日はウチはちょっと用事があって。でも今日中にどうしても絵里ちの家に届けたいんよ。」
私「家? 家に届けるの?」
のぞみ「お願い! 頼まれて。」
私「なにを届ければいいの?」
のぞみ「プレゼントやから、中身は聞かないで欲しいな。」
なるほど。なんとなくわかった。でも……。
私「今日って、なんか特別な日だったっけ?」
のぞみ「そうなるはず。」
・・・・・
放課後、私はお買い物をして、家に荷物をおいて、夕飯をつくって、それから希に渡されたものをもって絵里の家に向かった。
どうせすぐ行っても本人はいないだろうからね。ま、そのせいですっかり日が暮れちゃったけど。
さっさと済ませてとっとと帰りましょう。
ちなみにこっそりプレゼントの中身を確認したら、なんか古そうなビデオテープが出てきた。
絵里ってレトロな趣味があったのね。知らなかったわ。
元通り(むしろ元より綺麗にかわいく)包装し直したそれを脇に挟んで、玄関先のインターホンに指を伸ばした、瞬間。
「や、やめてよね真姫」
「いや、でも……ずっと庭のほうで音というか気配というか」
「ずっと!? なんでもっと早く言ってくれないの!」
「だから、犬を飼ってるんだと思ってたから」
「何もいませんよ?」
「ほら、もう。脅かさないでよ……」
裏手のほうから声が聞こえてきた。インターホンは鳴ったけど、たぶんわからないだろう。
しょうがない。ちょっとお邪魔して庭先のほうに……。
うみ「誰ですか!?」
え、誰? 絵里じゃない。なんだ?
あ、園田海未……スクールアイドルの子じゃない。なんで絵里の家に? しかもこんな時間。
私「えっと、ごめんなさい。こっちで声がしたから。絵里ちゃんいるニコ?」
笑顔をつくって声の方に行ってみると、なんかいろいろいた。
最近スクールアイドルを始めたっていう一年生とか、あと絵里もいた。
私「こんばんは」
えり「あ、あらにこ。どうしたの?」
私「……? あ、これ、お届け物ニコ!」
えり「え、ありがとう。誰から?」
私「希ちゃんからニコ」
えり「希? 希なら……いったいどうなっているのかしら……」
私から目をそらす絵里。どこ見てんのよ、なんなのよまったくめんどくさい。私を巻き込まないでよ。
私「なに?」
えり「いや」
うみ「ちょうどよかった」
私「なにが?」
ほのか「絵里ちゃーん、さっきお客さんきたんだけど、開けたら誰もいなかった……。あれ、なんか増えた?」
私「あ、ごめーん。それにこだ」
ほのか「あのときの先輩だ! いいところに。よかったらあがってよ」
私「は?」
ほのか「みんなでパーティしてたの! ささ、どうぞ」
私「え、あ、私は、ちょ……」
そのまま私は、何人かに引きずられて家の中に連れて行かれた。
なんでこうなったの……。
りん「かよちん! みて!」
はなよ「あ……。あのときのヘンテコリンな先輩」
私「離してー!」
ほのか「ことりちゃん、海未ちゃん、この人が前に話したヘンテコリンな先輩だよ」
ことり「ああ、その人が」
まき「あなた……各地でヘンテコリンなことしてるのね」
にこ「ヘンテコヘンテコうるさーい!」
うみ「ということは、あなたが……」
ほのか「うん! きっといいと思うんだ」
私「いい加減にしてよ、私は……」
ほのか「私たちと、アイドルやりませんか?」
あーあ、言われちゃった。
言われちゃったら、答えるしかないじゃない。
私「……嫌よ」
うみ「いきなり非常識ですよ、穂乃果」
ほのか「そうだよねごめんなさい。えっと、ヘン……」
私「ヘンテコリン禁止! にこよ。矢澤にこ」
ほのか「そっか。じゃあ改めて、にこ先輩! 一緒にアイドルしませんか?」
私「しないって言ってるでしょー!」
私はただ希に頼まれて絵里に届け物に来ただけなのに……不幸だわ。
きっと全部、このお守りが悪いんだ。
そう。そうよ。運が悪くて、タイミングが悪くて……。
それから、このお守りが悪いのよ。
・・・・・
*****
のぞみ「深夜のオトノキ電波ジャック! のぞみんラジオのお時間です。」
ラジオネーム:宇宙№1アイドル
私の部は、私一人でした。
ところがある日突然、急に、突拍子もなく、部員は七人になりました。
しかも、私は気がついたら部長になっていました。
正直ぞっとします。いままでずっと報われなかったのに、急に舞い込んできた幸運。
思えば友達からお守りをもらってから、この幸運が始まった気がします。
なにか曰くつきのものなんでしょうか? そのお守りの画像も添付したのでよければ鑑定お願いします。
のぞみ「どれどれ……。おお! このお守りはすごいよ。宇宙的スピリチュアルを感じる。
……でもね、これはもうあなたには必要ない。あなたはもう、スピリチュアルに頼らなくても大丈夫だから。」
*****
私は宇宙№1アイドル】
昔、とても昔、アイツが言っていた。
「人生っていうのはね、喜劇なんよ。ウチは神さんを思いっきり笑かしたるために頑張る。それだけ。」
今、にこが……私が演じているのが本当に喜劇だとしたら、「そういうの」も悪くない。
私たちは、難しいことを考えすぎる。
たまには投げやりもいいかもしれない。
なにがどうしてどうなったのかなんて、どうしようもなく、どうしようもないことだ。
私「はー、喉渇いた。こんなときはいちごオレニコね!」
自動販売機の前で、財布の中の小銭を数える。自動販売機はそれを急かさないし、ずっと待っていてくれる。
こういうのを、ひとりぼっちっていうんだと思う。
穂乃果「にこちゃん早く!」
私「ちょっと待ってよ」
穂乃果「はやくー!」
私「だあ、もう! わかったわよ、先買っていいから」
でも、後ろで急かしてくる人がいる。
こういうのを、ひとりぼっちじゃないっていうんだと思う。
穂乃果「ああっ! お金落とした」
にこ「なんでそうなるのよもうっ!」
穂乃果「あわわ、いいよにこちゃん、そんな這いつくばってまで」
にこ「いいのよこれで」
もう後悔したくないからね。
・・・・・
[4]エリーチカ、500円。
【私は油性マッキー】
最近、凛があんまりベタベタしてこない。
前はもっとスキンシップがすごくて、なにかあるごとに抱きついてきたりしたのに。
なにかあったのかしら? 私なにかしちゃったかな。
りん「あ、やっほー真姫ちゃん」
私「おはよう。凛」
りん「肩に糸くず付いてるよ?」
私「え、どこ」
首を左に曲げて肩の方に目をやると、凛は私の右肩に手を伸ばしてきて……そこでハッとしたように手を引っ込める。
りん「ご、ごめん」
私「ありがとう。こっちね」
私は平然と右肩を払う。
……どうして!? 普通にとってくれればいいのに! まるで私に触れるのを避けてるみたい!
・・・・・
*****
のぞみ「深夜のオトノキ電波ジャック! のぞみんラジオのお時間です。」
ラジオネーム:油性マッキー
最近友達に避けられているような気がします。
ちゃんと身だしなみも整えて、匂いとかも気を使っているのに、物理的に一定の距離を保たれているような気がします。
これが一人だけならまだいいのに……みんななんです。先輩とかも、あんまり近寄ってくれません。
態度は変わらないだけに、とても不安です。もうひとりぼっちは嫌です。
のぞみ「そうかぁ……これが世に言う倦怠期。なにか新しい刺激が必要なんやない?
例えば、自分からぐいぐいいってみるとか。逃げたら追いかけろ!」
*****
・・・・・
【私はラブアロシューター】
ほのか「真姫ちゃんね、潔癖症らしいよ」
りん「えっ」
ほのか「確かな筋からの情報だよ」
りん「そ、そうだったの……?」
ほのか「でも、ヘンケンを持っちゃダメだからね。改善するにしても。私たちは見守ってあげないと」
りん「そういえば、凛が抱きついたりすると真姫ちゃん嫌がってた……」
ほのか「知らなかったことはしょうがない。これからは理解を持って接していこう!」
りん「わかった……。これからは気をつけるにゃ」
ほのか「これで全員に言ったっけ? 本人にも言ったほうがいいのかな?」
私「凛、穂乃果、練習を始めますよ」
りん「はーい! 行こうか」
ほのか「うん」
本日も晴天。絶好の練習日和。まずは二人組になってストレッチです。
奇数なので私は後に回りましょう。みんなが怠っていないかチェック!
りん「真姫ちゃん、やろ」
まき「ええ。じゃあ背中押してくれる?」
りん「その前に、はい」
真姫と組んだ凛は、レジャーシートを広げた。
ピクニックとかで使うアレ。……どこから出したんですか。
りん「汚れちゃうといけないからね。この上で柔軟しよう」
まき「別にそこまでしなくていいんだけど」
りん「遠慮しなくていいんだよ!」
まき「はあ……?」
りん「じゃあ真姫ちゃん足広げて」
まき「うん……」
りん「はっ、どうしよ、凛手洗ってないにゃ……汚い」
まき「なに?」
りん「や、やっぱり今日は各自で伸ばそうか?」
まき「へ? どうして」
なにやってるんですかあの二人は……。
しっかり伸ばさないと怪我をしてしまうというのに。
私「凛、いいですか」
りん「あっ、海未ちゃん、えっと」
私「しっかりしないといけませんよ。なんなら私が押しましょうか」
りん「あー、えー」
ほのか「海未ちゃん、いいからいいから」
私「しかし」
ほのか「じゃあ海未ちゃんは凛ちゃんと組んで、真姫ちゃんは今日はゆっくり自分のペースでやるといいよ」
まき「は、はあ。まあいいけど」
・・・・・
昨日……みんな様子がおかしかった。真姫になにかがあった? 私には心当たりがない。
晴れない気分のまま部室に入ろうと扉に手をかける。今日もあんな調子だったらどうしよう。
まき「ねぇ……もっと、触ってよ……」
なんだ!?
まき「ねぇもう耐えられないの……お願いっ……!」
なんだ!?
今、扉を開けるのはマズい! よくわからないけど私の直感がそう告げている。
ごくり。私は気配を殺して聞き耳をたてた。
りん「で、でも、真姫ちゃんイヤなんでしょ? 無理しなくていいよ」
まき「私なにか悪いことしちゃった……? だったら謝るから」
りん「そういんじゃなくて」
まき「ごめんなさい、だからもうイジワルしないで……ぐすっ」
りん「わっ!? え、真姫ちゃん、え、あ、えっとどうしよう」
まき「嫌、じゃ、ないのぉ……んっ、素直になるからぁ……うぅ」
りん「な、泣かないで、凛どうすればいい?」
まき「前みたいに、ぎゅーって抱きついたりしてよぉ……」
前みたいに!?
このふたりどういう関係なんですか!? ええー? ええー!?
やっぱりそうなんですか!?
りん「いいの……真姫ちゃん?」
まき「してくれないなら……私からいくから……ぐいぐい」
ふぉああああああ! なんか鼻の奥で熱いものが流れてる!
これ以上はここにいてはいけない。私は教室に引き返した。
りん「だって、真姫ちゃん、潔癖症だって」
まき「ぐすっ、ひぐっ……え?」
りん「そうなんでしょ? 本当は誰かに触られたり、汚いのが嫌で」
まき「なにそれ」
りん「ん?」
まき「そんな勘違いどうしたらできるの」
りん「もしかして……違う?」
まき「違う」
りん「……」
まき「……」
りん「真姫ちゃーん! 真姫ちゃん! ずっと我慢してた分いっぱいやってやるんだぞー!」
まき「きゃ、ちょっとやめて! 離れて!」
りん「にゃはーん。真姫ちゃんの本心はさっき聞いちゃったもんね!」
まき「もう!」
りん「穂乃果ちゃんは何を言っていたんだ……?」
教室に戻ると、穂乃果とことりが部室に向かおうとしているところだった。
今頃部室では……いけません。二人のためにここは死守せねば。
ほのか「どうしたの? いつもはいの一番に練習に向かうのにさ」
私「たまにはいいじゃないですか。ゆっくり行きましょう」
ことり「でも、時間が」
私「いいんですいいんです。三年生のところにも行って、ちょっとおしゃべりでもしましょう」
ほのか「うーん、たまにはいっかぁ」
ことり「海未ちゃんがこう言うもの珍しいしね」
よし、二年生と三年生を抑えた。これでなんとか……。
あっ、花陽が!
はなよ「おまたせ。飼育係で遅くなっちゃった……あれ?」
りん「やっとかよちんがきた」
はなよ「みんなは?」
まき「どういうわけか、一人も来ないのよ」
・・・・・
*****
のぞみ「深夜のオトノキ電波ジャック! のぞみんラジオのお時間です」
ラジオネーム:ミナリンスキー
大切な友達がダンスの練習中に突然、鼻血を吹き出しました。
どうかしたのと聞くと、口が裂けても言えない。と言われてしまいました。
きっとなにか重い病気なんです……。
なんとかして確かめたいのですが、本人を傷つけずに確認する方法はないでしょうか?
心配で夜も眠れません……。
のぞみ「うわぁ……それは心配やね……。
でも、たぶん本人は隠したいんよ。それなら、嘘でもミナリンスキーさんは騙されてあげるべきかも。
それが、一番傷つけない方法じゃないかな。
あとはいつもどおり接してあげて。そのお友達から打ち明けてくれるのを信じて待とう?」
*****
・・・・・
【私はミナリンスキー】
はなよ「なんだ、穂乃果ちゃんの勘違いだったんだ」
まき「そうなのよ。私が潔癖症なんて……まったく質の悪いジョークよ」
はなよ「ごめんね、傷つけちゃったよね」
まき「まさか! 全然平気よ。むしろ楽だったくらいよ」
りん「えー? とりゃとりゃ」
まき「なによ! ほっぺつつかないで!」
うみ「ラジオでも言っていましたし……あの二人やはり。ふふふ」
私「え、なにか言った? 海未ちゃん」
うみ「いえ」
振り向いてにっこり微笑む海未ちゃん。
鼻から赤いものが垂れている。
ことり「海未ちゃん鼻血!」
うみ「しまった凛と真姫につい興奮して……なんでもないです!」
ことり「はい、ティッシュ」
うみ「すびばせん……」
ことり「どうしたの、突然」
うみ「ごめんなさい、これは口が裂けても言えません」
そんなに重大なの!?
やだ! 海未ちゃんが! 海未ちゃんが!
手が震える……。呼吸が乱れる……。
いつも一緒だった。いつもぼけーっとしている私をしゃんとさせてくれた。
オロオロしている私を一括してくれた。
穂乃果ちゃんとイチャイチャしているのを私に見せてくれた。
何度鼻血を出しそうになったことか。
いつもかっこよくて、かわいくて、ステキな海未ちゃん。
これからもずっと一緒だと漠然と思っていた。
いつまでもみんな一緒だと、疑いもしなかった。
うみ「時間がありません。さっそく始めましょう」
じ、時間がない……?
うみ「ラブライブ予選登録まであとわずか。気を引き締めて……」
時間がない……? そんなに深刻なの……?
そういえばこの間、急に練習よりもみんなでおしゃべりをしようって。
そういうことだったの?
どうしよう、どうしよう私……。
涙がとまらない。
うみ「ことり!?」
飛び出してしまった。部室で膝を抱えて泣いた。
どうしよう……? どうしようどうしようどうしよう!
にこ「なにか……あったんなら」
顔を上げると、にこちゃんがいた。いつから? みっともないの見られちゃったかな。
にこ「話、聞くけど」
私「ごめん……言えない」
にこ「そっか」
ごめんね、ありがとうにこちゃん。
でも私は、それ以上はなにも言えなかった。
にこ「なにか、とってもつらいことがあったのね」
私「わかるの……?」
にこ「ええ。だってこの世の終わりみたいな顔してる」
私「ごめん……」
にこ「んっ」
にこちゃんがハンカチを貸してくれた。
何も聞かずに、ハンカチを貸してくれた。
ありがたい。私はそれで目元をぬぐう。
にこ「ごめん……今のはにこが悪かった、それハンカチじゃない」
私「えっ」
道理でちょっとごわごわしてる。私はお守りで涙を拭いていた。
私「ふっ……、あは」
にこ「よかった。笑えるのね」
私「うん」
にこ「それ、あげる。お守りって人からもらうと効果高いのよ」
私「いいの?」
にこ「ええ。ご利益は私が保証する。好きに使って」
私「ありがとう」
なにかお礼をしないと。バッグの中におかしとか入ってなかったかな?
チャックを開けて除いてみる……けど、めぼしいものは見当たらない。
しかたない。
私「ちょっと、待っててね」
にこ「え、うん」
バッグの中で、さらっとサインを書いて、それをにこちゃんに渡した。
私「ミナリンスキーの直筆サイン。あげる」
にこ「え、……え!?」
私「ありがとう、にこちゃん」
にこ「ちょっと待ってよいいの!? てかなんでそんなものがバッグからでてくるの!?」
私「いいの、私にはなんの価値もないものだから」
私のサインだから。
にこ「こんなときにアレなんだけど、ものすごい嬉しいわ。ありがとうことり」
ことり「ううん。私もちょっと元気出たから」
・・・・・
もう少しだけつづきます。
【私は三度の飯より米が好き】
私「じゃじゃーん!」
りん「うわあー!」
ほのか「そっ、それはーっ!」
私「ふっふっふ。そうです」
ついに、ついに手に入れた。念願の……!
長かった。入学して間もない頃から足繁(しげ)く通ってコツコツためたスタンプが、ついに……たまった。
そうして得たくじ引きのチャンス。私の全てを賭けて、引き当てた。
私「駅前のお店の限定三食米粉ロールケーキ引換券」
ほのか「ぎゃあああああ! まぶしいーっ!」
りん「羨ましいーっ!」
私「はぁ夢にまで見た……いいんでしょうか、こんな幸せ」
うみ「いけません」
私「えっ」
うみ「花陽は穂乃果と共に現在絶賛ダイエット中です」
私「そうだけどぉ! これだけは!」
りん「そうだよ海未ちゃん! 海未ちゃんはかよちんがどれだけ苦労してこれを手に入れたか知らないんだ」
うみ「食べるなとは言いません。ダイエットが終わってから心置きなく召し上がってください」
ほのか「ことりちゃんだったらそんな厳しいこと言わないのに!」
うみ「なぜことりを掛け合いに出すんですか」
ほのか「だってことりちゃん優しいもん」
うみ「でもことり、最近なぜが私の言うこと全てに賛同してくれるんですよね。なぜか」
ほのか「そんな、この二人を敵に回したらもうだめだ……頑張ろう花陽ちゃん」
私「そんなぁ……」
苦労して、ようやく手に入れたのに……痩せるまでおあずけなんて。
み「ん……? 待ってください」
私「どうしたの?」
うみ「どうして、スタンプがたまっているんですか?」
私「はっ……」
うみ「買って、食べなければ、スタンプは押してもらえませんよね……?」
私「あ、ああ……」
うみ「どういうことですか?」
私「ごめんなさーい!」
そのあと、私と穂乃果ちゃんはみっちり絞られました。
どうして穂乃果ちゃんまでって? 名誉のため伏せておきます。
・・・・・
私「はぁ……こんなもの手元にあるから」
いっそ破って……。
できません! できるわけありません!
あの幻の米粉ロールを破り捨てるなんて!
ああ、でもここにあると私は欲望に負けてしまいそうになる。
誰か助けて……。
にこ「どうしたの? げっそりして」
私「にこちゃん……。 え、げっそり? 私痩せたかな」
にこ「それは……違うごめん」
私「ですよね」
にこ「そうそう、今週発売したアルバム買った?」
私「もっちろん!」
ああ、話がアイドルにシフトした。どうにか気が紛れそう。
そうだ。私にはまだアイドルがあるじゃないか。
私「予約して、初回限定盤を買ったよ」
にこ「だよねー! 特典は誰のだった?」
私「あんじゅちゃん! にこちゃんは?」
にこ「にこは三個買ったんだけど……」
私「三個! さすがにこちゃん」
にこ「あんじゅだけでなかったわ」
私「……なんかごめんね」
にこ「いいのよ。三個でやめたにこが浅はかだった。でもね……じゃん!」
にこちゃんは出し抜けに、バッグからサイン色紙を取り出した。
そこには見間違えるはずもない、ミナリンスキーのサイン!?
私「直筆!? すごいどうやって!?」
にこ「ふっふーん。ちょっとね」
私「うわぁー、いいなぁ、いいなぁ、うわぁー」
悪魔の囁きが聞こえてくる……。
私「あ、あの、にこちゃん」
にこ「んー?」
ニコニコと色紙を眺めているにこちゃんに、言えるかな……?
そうだ、言おう。凛ちゃん、私も少しだけ勇気を出してみるよ。
私「にこちゃん! よかったら、その、その色紙とこれ、交換してくれませんか!」
私は限定三食米粉ロールケーキ引換券を差し出した。
にこ「これ、駅前の超並んでるお店のじゃない」
私「うん……」
にこ「でもねー、どうしよう」
私「お願い! 私、今ダイエットしてて、食べられないの」
にこ「そりゃお気の毒」
私「お願いします!」
にこ「悪くないけど……うーん」
私「そうだ、あんじゅちゃんも交換でどうかな? 被ったのでいいから」
にこ「ほう……ドルオタのプライドを捨てるというの? 花陽」
私「私は本気です」
拳を握って、歯を食いしばって、じっとにこちゃんの目を見つめる。
もうそらさない。私は、アイドルに対する思いなら誰にも負けない!
にこ「ふふ。わかった。その熱意に免じて交渉に応じましょう」
私「ありがとう!」
にこ「それから、あんじゅちゃんはいらないわ。大事にしてあげなさい」
私「にこちゃん……!」
なんて、大きいんだろう。
私は偉大な先輩に、いつまでも頭を下げ続けた。
うっひょー、ミナリンスキーのサイン! うれしいな。
・・・・・
【私はかわいい生徒会長】
のぞみ「絵里ちー。」
私「うん?」
のぞみ「もうすぐ、ラブライブ予選のエントリー締め切りなんやって。」
私「そう」
のぞみ「いいの?」
私「もういいのよ。私は説得できなかった。それだけあの子たちの情熱は強かった。私には『そういうの』、とめられない」
のぞみ「そうやなくて。」
――いいの? まだ応募用紙には絢瀬絵里の名前はないよ?
どきっとした。
私は……。そうなのだ。いつの間にかすっかり鞍替えしてしまっていた。
でもね、今更言えないじゃない。
私「何バカなこと言ってるのよ」
のぞみ「強情意地っ張り頑固へそ曲がり絵里ち。」
私「私はあの子たちを応援する。でもそれだけよ」
希を軽くあしらいながら、学校紹介のスピーチをまとめる。
のぞみ「妹ちゃんでしょ。」
私「はっ!?」
のぞみ「絵里ちが、急に学校を守ることにした動機。」
私「な、なんで知ってるのよ」
のぞみ「さあ。」
私「まったく、なんでもお見通しね」
のぞみ「全然。ウチは知らないこと山ほどあるよ。できないこともね。井の中の蛙、大海を知らず。」
私「その蛙の手のひらで転がされてる気分よ。私は」
のぞみ「そか。絵里ちもそこにいるんやね。」
私「え?」
のぞみ「そろそろ、一緒にくらい井戸から出たいね。」
いつもの冗談なのか、それとも……。判断に困った。
・・・・・
私「亜里沙、あなたね? 家から私のバレエのテープ持ち出したの」
ありさ「ごめんなさい……」
私「希になんてそそのかされたの?」
ありさ「お姉ちゃんのためだって」
私「それだけ?」
ありさ「それだけだけど、とっても必死に見えたの」
私「あの希が?」
ありさ「だから話しちゃった。亜里沙がお姉ちゃん話したこと全部」
全部というのは、まるっきり全部だった。
友達のお姉ちゃんから聞いた音ノ木坂の廃校という話。
それを生徒会長の姉に確認したら、本当だと言われたこと。
自分はずっと前から、音ノ木坂に入りたかったこと。
なんとかして! お姉ちゃんはハラショーな生徒会長なんでしょ? って姉に泣きついたこと。
全部、あの日の話だ。
亜里沙が友達の家で「お米を巻いたやつ」をいただいたという話と一緒にした話だ。
私「そういえば……『お米を巻いたやつ』、わかった?」
ありさ「ううん。モチモチで、甘くて、とってもおいしかったんだけどな」
……初耳だ。その情報があればノリ巻きや手巻き寿司と間違えることもなかった。
というか、もうそのお友達に聞けばいいのに。
私「そのお友達とはあまり仲良くないの?」
ありさ「とっても仲良しだよ。でもいつも聞くの忘れちゃうんだ。アレがなんだったのか」
私「あらら。その子、なんてお名前なの?」
ありさ「雪穂! 高坂雪穂」
・・・・・
絵里ちの本当にやりたいことってなに!
絵里ちは本当はμ’s入りたいんでしょ!
スクールアイドルやりたいんでしょ!
この学校が大好きで、守りたいんでしょ!
それから……それから……えっと。
絵里ちのアホーっ!
――ヒドイ夢だった。
ひたすら希に罵倒され続けた。
現実の希もあれくらいはっきり言ってくれればいいのに。
ゾクゾ……嬉しかった。友達として、本音を聞けることが。
私「私の、やりたいことか」
じゃああなたのやりたいことってのはなんなのよ。ねえ、希。
のぞみ「希と!」
りん「凛で!」
のぞみ「希凛(キリン)!」
りん「どや!」
ほのか「あひゃひゃひゃひゃひゃ!」
仁王立ちしてる希の下で四つん這いになる凛。
そのシルエットはまるでそう。伝説上の生物、麒麟……。
私「ふざけてないで帰るわよ。希」
のぞみ「はーい。またね凛ちゃん。」
りん「もう行っちゃうの?」
ほのか「練習見ていけばいいのに」
私「また今度ね」
アイドル部室を後にして、生徒会に戻る途中。希に今朝の疑問をさりげなくぶつけてみる。
えり「希のやりたいことって、なに?」
のぞみ「神さんを笑かすこと。」
即答だった。
え、とか。急に何、とか言われると思ってた。
でも希は、その質問に対する答えを用意していたかのように、即答だった。
私「神様を?」
のぞみ「うん。」
私「それは、難しいわね」
のぞみ「さっきのじゃ、笑ってくれないかな?」
さっきのってアレか、凛とのコンビ芸か。
私「どうかしら。案外笑い転げてるのかも」
のぞみ「そうだといいな。」
私は立ち止まっていた。
気づいていないのか、わざとなのか、希はそのまま歩いていったけど。
とにかく、私はその希の答えに圧倒されていた。
前々からちょっと電波入ってるな。とは思っていたけど。
ラジオみたいになんか受信してて、なんか発信してるな。とは思っていたけど。
なんだろう、この気持ち。
人としてたぶん希は私なんかよりずっと上等なんだ。
神様みたい。
にこ「たぶんわざとよ。あれ」
私「わっ、びっくりした」
にこ「私とあなたを二人きりにしたかったのね」
私「どうしたの? 急に」
にこ「『そういうの』あるわよね、あるある。バカみたいにたくさん。難しいわ」
私「ええ。難しすぎる」
にこ「私たち、『そういうの』ばっかりじゃない」
私「そうね」
にこ「でもね、『そういうの』が許されるのも、私たちなのよ。大人になったらそうはいかない」
私「そうね」
にこ「できなくなるし、許されなくなる」
私「難しいわね、思春期って」
にこ「お先に、ちょっぴり大人になった私から、ひとつ」
私「あら、いつの間に?」
にこ「大人ってのはね、惨めに這いつくばって、死に物狂いで手を伸ばして、お金を拾うのよ」
私「……カッコ悪いわね」
にこ「まったくよ」
大人と子供の狭間にいる私たち。
いつも「そういうの」で頭を抱えている私たち。
そんなバカバカしい姿を見て、神様はきっと笑い転げているんでしょうね。結構いい根性してるわ。
ならやっぱり、この世は喜劇。……そういうこと?
私「ねえにこ」
にこ「なに?」
私「『そういうの』って、なに?」
にこ「『そういうの』っていうのはアレよ。アレ」
私「そっか、アレか。アレでいいんだ……なんだか安心した」
・・・・・
*****
のぞみ「深夜のオトノキ電波ジャック! お久しぶりです。のぞみんラジオです。」
ラジオネーム:かわいい生徒会長
もうすぐラブライブ予選、始まりますね!
いまからとても楽しみにしています。
という私も、実はスクールアイドルを始めたのですが、やってみると難しい難しい。
ほかのアイドルの見方も変わって、好きなスクールアイドルもできました。
のぞみんさんは、好きなスクールアイドルとかありますか?
のぞみ「あるよ。地元のユニットなんだけどね、応援してる。
……みんな、すごいんだ。かわいくて、キラキラしてて。八人のグループなんやけどね。……すごいんだ。」
*****
・・・・・
ありさ「はらっしょー! 感激! こんなにおいしいもの食べたことない!」
私「よかった……じゃあ『お米を巻いたやつ』って」
ありさ「うん! これだよ。『米粉ロールケーキ』!」
私「友達から譲ってもらった、限定三食なんちゃらだから、大事に食べてね」
ありさ「お姉ちゃん、はい。あーん」
私「あ……ん。なにこれすっごくおいしい!」
ありさ「幸せぇ。どうしてこんなものが手に入ったの?」
私「代わりにね、μ’sに入れって条件を出されたの」
ありさ「え……じゃあお姉ちゃん、いやいや入ったの……?」
私「ううん。その子はね、私に口実をくれたのよ」
ありさ「うーん? 難しいな。亜里沙にはわからない」
私「そうね。私も難しいこと考えすぎて疲れちゃった」
ありさ「そういうときには甘いものだよ」
私「これから大変なことがいっぱいあるんだから、蓄えなきゃね」
にこが言っていた。「まいどあり。エリーチカ、500円」
なんのことかさっぱりだけれど、昔、とても昔、希が言っていたことを思い出した。
「お金を落とした衝撃が、地球の裏側で大地震を起こしてるかもしれない。ワンコイン・エフェクト」
やっぱり、なんのことかさっぱりだ。
・・・・・
[5]喜劇は、そういうのでできているのかもしれない。
・・・・・
よく聴くラジオがある。
いくつかあるんだけどね、それがまた全部似たり寄ったりな周波数なんだ。
スピリチュアルやね。
・・・・・
・・・・・
えり「穂乃果、もう時間が」
ほのか「うん……」
えり「受付は今日までよ。もう提出しないと……残念だけど」
にこ「出場できなくなったら元も子もないでしょ。諦めなさい」
ほのか「わかったよ……八人で、やるしかないんだよね。……出しに行こうか」
・・・・・
・・・・・
ウチはこの時この場所でだけ、神さんみたいになれる。
どこの誰とも知れない人の人生を覗き見して、楽しんで、いい加減な助言をする。
これは神のそれにとても近い。
それで、それをどこの誰とも知れない不特定多数の人が聴いている。
聴いてくれてる人はまた、どこの誰とも知れないウチにいい加減なお便りを送る。
今日も知らず知らず、知らない人が知らないところで繋がっている。
自分がどこで何に影響しているかなんて、誰にもわからないものだ。
のぞみ「さて、今週ののぞみんラジオも終わりの時間が近づいてまいりました。」
収録が終わり、帰宅する。
誰もいない家ね。……なーんて、わざわざ寂しいアピールするウチって結構かまってちゃん!
でも実際、寂しいのかも。
みんなμ’sに入って、やることなくなっちゃった。
考えること、なくなっちゃった。
ウチは考えすぎることはないけど、それでもなにも考えなくていいというは呑気すぎる。
考えることがないと、ああ、こんなにすぐ寝付けるんだ……。
夢の中のウチは、絵里ちに言いたい放題だった。
そっかぁ、ウチ普段絵里ちのことこんなふうに思ってるんか。
現実でもこのくらい、絵里ちをいじめ……じゃなくて素直になれたらなぁ。
ま、いいや。
どうせ、もうすぐ締切なんやから。……ん? 今ウチなんて言った?
そうだったんだ。ウチはずっと……。
にこ「授業中に居眠りはあっても、休み時間に居眠りはないわ」
のぞみ「あるよ」
にこ「ないない。ありえない」
えり「どっちもないわよ」
のぞみ「ウチはスピリチュアルパワーが切れたら、いつでもどこでも寝るの。」
にこ「……まあ、最近はちょっとくらい、そのナントカパワー信じてみてもいいかなって思うけどね」
のぞみ「でしょ。」
えり「その力かどうかは知らないけど、そうね、希ってなんかすごいから」
私はバカバカしい世界が愛おしい。
単純に、生きることが好きなんだ。
だから多くを望まない。
うみ「希って、なんかすごいですよね」
のぞみ「そんなことないよ。」
うみ「そうですね」
のぞみ「はは、どっちなん?」
うみ「あなた今、とってもつらそうです」
のぞみ「そう見える?」
うみ「これをあげましょう。ご利益はバッチリですよ」
のぞみ「どうして……海未ちゃんがこれを?」
うみ「え? 有名なものなんですかこのお守り。ことりからいただいたんです」
のぞみ「どうなってるんやろ。はは、戻ってくるとは。」
うみ「お守りは人からもらったほうが効果が高いらしいのでどうぞ。私にはもう必要ありませんから」
ひとり、布団に倒れこんでお守りを掲げる。
よく見るとなんか色落ちてたり、ほつれてたり、年季入ってるみたい。いろんな人の汗や涙が染み込んでるんかな。
なにがあったか知らないけど、お前さんもなにやら旅をしてきたらしいね。
ギュッと握り締めて、腕を横に下ろした。大の字になって……いてっ。
二の腕のあたりに尖ったものが当たった。
枕元に置いてある、ラジオ。ウチのタカラモノ。
・・・・・
「ショッキング・ピンク」さんがにこっちだと気がついたのは、にこっちに餃子無料券をもらったとき。
確信したのは、ラジオにあの日のやり取りが投稿されてきたとき。
……計らず、にこっちの本心を知ってしまったウチは動かざるを得なかった。こんなんガラじゃないのにね。
まず亜里沙ちゃんに、絵里ちのバレエのテープを借りる。
それをにこっちに渡して、本人へ届けさせる。しかもみんながいる手巻き寿司パーティのときにね。
あとは穂乃果ちゃんとかがなんとかしてくれるだろう。
よく練られた作戦だった。
うまくいけばにこっちも、絵里ちも……きっとμ’sに入ってくれる。そんな気がする。
特別な日になるはずだと思ったウチは、その歴史的瞬間を見たくて、偵察に行った。
みんなが手巻き寿司パーティを始めてすぐ、にこっちがくるという算段。
なのになかなかこなかった。おかげでひもじい思いをした。
……なかなかっていうか、全然こなかった。
なんでや! しびれを切らしたウチは、次第に大胆に動き始めた。
体制がつらくなってきたので横になったり、体が固まってきたので伸ばしてみたり。
……そして、絵里ちたちが庭に出てきたんだった。
そうだ思いだしてきたぞ。手巻き寿司パーティの日のこと。
のぞみ「あかん……バレる。」
えり「や、やめてよね真姫」
まき「いや、でも……ずっと庭のほうで音というか気配というか」
りん「ずっと!? なんでもっと早く言ってくれないの!」
まき「だから、犬を飼ってるんだと思ってたから」
うみ「何もいませんよ?」
えり「ほら、もう。脅かさないでよ……」
あろうことか、いや、当たり前か。ウチはもの音を立ててしまった。
茂みとかで草木は擦れ合う感じの音ね。
うみ「誰ですか!?」
のぞみ「うっ……。」
えり「希!?」
のぞみ「あはは。見つかっちゃった。」
まき「奇想天外すぎるんだけど」
りん「絵里ちゃん、希ちゃんを飼ってたんだ」
のぞみ「ちゃうわ。」
「えっと、ごめんなさい。こっちで声がしたから。絵里ちゃんいるニコ?」
そのタイミングで、にこっちがきた。
最悪だ。最悪のタイミング。ウチも今日は運が悪い。
これをにこっちに見られるのだけはダメだ。
のぞみ「お願い! 何も聞かずに今すぐウチを匿って、にこっちに見つかるのだけは! お願いっ!」
えり「え、ちょ、なんなのもう……」
にこ「こんばんは」
えり「あ、あらにこ。どうしたの?」
にこ「……? あ、これ、お届け物ニコ!」
えり「え、ありがとう。誰から?」
にこ「希ちゃんからニコ」
えり「希? 希なら……いったいどうなっているのかしら……」
にこ「なに?」
えり「いや」
そのあとごたごたしながら、みんながにこっちを家の中につっこんでくれた。
えり「……行ったわよ」
のぞみ「ふぅ。」
えり「整理させて」
のぞみ「だいたい絵里ちの想像通りだと思うよ。」
えり「どうしてここにいるの?」
のぞみ「気になって。」
えり「だったら最初からパーティに参加すればいいのに」
のぞみ「そっちじゃなくて。」
えり「……にこにこれを届けさせて、それを見張っていたのね。中身はなにかしら」
のぞみ「それはあとでゆっくり、みんなの前で開けて。」
えり「ちょっとこれ、小さい頃の私のバレエのビデオ……」
のぞみ「あちゃー、開けちゃったん?」
えり「なんで希が持っているのよ」
のぞみ「いろいろあってね。」
えり「なにが狙い?」
のぞみ「にこっちをμ’sに入れる。」
えり「それでどうしてこうなるのよ」
のぞみ「ウチの計算ではこれでバッチリの予定やった。」
えり「あなたはずっと、口も、手も出してこなかったのに」
のぞみ「今回はちょっと事情が違くてね。」
えり「はあ……。あがっていく? まだお寿司残ってるわよ」
のぞみ「ううん。帰る。にこっちにバレるとダメだから。」
えり「そ。ところで希」
のぞみ「ん?」
えり「みんながパーティをしているのを見ているのは、楽しかった?」
のぞみ「ぜんぜん。」
えり「でしょうね」
のぞみ「じゃあ行くね。このことはくれぐれも……」
えり「なんのこと? 私に家の庭に、野良犬が入ってきたこと?」
・・・・・
そうだった。
いつの間にか、ウチが観客になっちゃってた。コメディの演者だったはずなのに。
ウチのやりたいことはこんなことじゃなかったはずやん。
そうだよ。ウチがなりたかったんは、お客さんじゃない。コメンテーターでもない。
喜劇のヒロインでもない!
時計を確認する。間に合うか?
たぶん、みんなはまだ……。
ラブライブ、エントリーの締切日は……今日。
あの日が、本当に特別な日だったなら。
ウチ……野良犬が絵里ちの庭に入ったことが、世界の大きな変化のきっかけだったのなら。
ワンコin・エフェクト。
倒れたラジオのアンテナが、無言で玄関のほうを指している。
走れ!
ウチは家を飛び出した。
そうだ。ウチは――私は――。
・・・・・
【私は九人目】
――いやだ! いやだ! 私も混ぜてよ、ちょっと待って、みんなまだ行かないで!
学校はまだまだなのに、もう息が切れてきた。こんなに本気で走ったの、久しぶりだ。
肺が痛い。吐血とかするかも。足腰もキツい。腕振るのもしんどい。でもやめない。私は全力で走る。
走る。走る。疾走感の欠片もない。みっともない。今の私、さいっこうにバカみたい。
泣きながらぐちゃぐちゃの顔で走るコメディアン。涙が頬をかすめる。今ならにらめっこ最強。
そうだ、「そういうの」だ。いいぞ。神さん見てる? 笑え笑え。大いに笑え。
*****
ほのか「ラジオ『穂むら』の時間です。」
ゆきほ「フツオタ紹介していきます。」
ラジオネーム:九人目
私には夢があります。それは、最高の仲間をつくることです。
*****
まき「西木野総合ラジオ、始まるヨウ! チェケラ。」
ラジオネーム:九人目
そして、その仲間たちと、最高のコメディを演じることです。
*****
りん「RinRinらじお! 聞こえたらお返事ください。」
ラジオネーム:九人目
最高のコメディでみんなを、ひいては神様を笑わせてやりたいのです。
*****
はなよ「私が一人喋りなんて胃が痛い。始まります。」
ラジオネーム:九人目
それになにより、きっと最高のコメディなら、演者も楽しいはず。
*****
*****
にこ「にこにーラジオ! にっこにっこにー。」
ラジオネーム:九人目
すでにキャストは決まっています。台本も、監督もない、喜劇の役者は九人。
*****
うみ「園田家公式ラジオ、拝聴アタックです!」
ラジオネーム:九人目
でも、そこまで決まっているのに、私にはあと一歩が踏み出せません。
*****
ことり「ミナリンスキーラジオ好きー! あなたに飛んでけすきすきぷわぷわ。」
ラジオネーム:九人目
どうか、私の夢が叶うように、力を貸してください。
*****
・・・・・
夜はいつも誰もいない部屋で、布団の中にうずくまっていた。
そういうのを、ひとりぼっちって言うんだと思う。
そしていつもラジオを聴いていた。くだらないことで、笑い転げた。
そのときだけ、なぜか私はひとりぼっちじゃない気がした。
だから私も、どこの誰とも知れない人たちにお便りを送ってみた。
さあ! 私のお悩みを解決してよ!
・・・・・
*****
ほのか「今すぐ行って! あなたの思いを伝えるんだよ! 今すぐ。
さもないと一生その人たちとは、えんがちょです。と占いで出ました。」
*****
まき「マッキーがあなたのセリフ考えてあげる。『ウチを入れて!』
これでおっけー。入れてもらえるわ。いい? いいなさいよ? マッキーとの約束ね。
大丈夫。本当に大切な人は、知らないうちにいつの間にか一緒にいるものだから。」
*****
りん「しょうがないにゃー。次あったら、『九人や!』って言うといいよ。
八人じゃないよ! ってね。」
*****
はなよ「理想が先にあって、それに似た形を探していく。やりたいことが先にあって、理由が後からついてくる。
手を伸ばすのは怖いよね。そういうときは首を伸ばしてごらん。景色が変わるよ。」
*****
にこ「恐れることなんてないニコ。コツは、運とタイミング。
逆転のチャンスは、目の前にぶら下がってるんじゃない?」
*****
うみ「つい、客観的になってしまいがちですよね。なにごとも。でも、自分を自分の視点で見られるようになったなら。
あなたの本当にやりたいことってなに? その問いの答えはもうわかっているはずです。」
*****
ことり「きっとみんなも、あなたが本音を打ち明けてくれるのを、待ってるよ。
みんな信じて待ってるんだよ。」
*****
・・・・・
えり「穂乃果、もう時間が」
ほのか「うん……」
えり「受付は今日までよ。もう提出しないと……残念だけど」
にこ「出場できなくなったら元も子もないでしょ。諦めなさい」
ほのか「わかったよ……八人で、やるしかないんだよね。……出しに行こうか」
――待ったああああああああああ!
げほっ、ごほっ、息苦しい……。
まるで水の中みたい。暗い暗い、水の底。井戸の底。
私は死に物狂いで、光射す水面へ浮上した。
溺れる者はわらをも掴む。掴んだわらで、億万長者になる。
扉の取っ手を掴んで、思い切り息を吸って……。
私「待ったああああああああああ!」
・・・・・
*****
えり「昼の放送、生徒会ラジオです。今日は生徒のみなさんにお知らせがあります。
なんと、我が校のスクールアイドルμ’sが……見事ラブライブ予選を突破しました!
うん。たくさんの拍手が聞こえてきますねぇ。ありがとうございます。
これからも、私たち九人を、応援よろしくお願いします!」
*****
私には、なにひとつわかっていることなんてない。
なにが、なにでできているかなんて、知りようがない。
もしかしたら、妹との絆は拾った500円でできているかもしれない。
友達はシールとルーズリーフでできているかもしれない。
チャンスは餃子でできているかもしれない。
口実は米粉ロールケーキでできているかもしれない。
喜劇は、そういうのでできているのかもしれない。
りん「できた! できたよ! キリン」
はなよ「やったー! 長かったね……」
まき「ようやくいい首の骨が見つかったのね」
うみ「なるほど、言われてみればしっくりきます」
にこ「首をまっすぐ支えて、頭の辺りでクイッと曲がってる。ピッタリ」
ことり「どうしてキリンさん?」
りん「それはね!」
えり「ていうか、なんで穂乃果はそんなもの持っていたのよ」
ほのか「細かいことはいいじゃない。私のストローがお役に立てて嬉しいよ」
私「ここに飾っておこか。やっと完成したんやもん」
私たちの理想は、ストローでできている。
コミカルのぞみんラジオ
終劇
ご清聴ありがとうございました。
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