真姫「別れ」 (37)
・地の文あり
・亀更新
・2作目(保険)
以上を踏まえて読んで下さればありがたいです
長くはしません
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いよいよ卒業式が明日に迫ってきた。
「もう…卒業しちゃうんだね」
瞳を伏せながら、花陽はぽつりと呟いた。私と凛は何を言うでもなく、ただ、その言葉の意味を噛み締めていた。
「まだ実感はわかないんだけどね」
困惑するように、また受け入れられないといった様子で笑った凛。
…私は何も言わない。言葉が出てこない。脳が認めない―
――ふと顔を上げると、窓から差し込む夕日の色と凛の綺麗な髪の毛が、不思議とマッチングしていた。
窓の桜と花陽が重なって見え、言葉を失った。
私は人生で一番密な3年間を過ごしてきた…と思っている。
今までが楽しくなかった、という訳ではないが、仲間と――μ’sとして過ごした日々は、私を、煌びやかで壮麗でそれでいて個性豊かな色に染めあげてくれた。
感謝…というと変なのかもしれないけど、私は間違いなく感謝している。
「寂しくなる…ね」
この仲間――もとい大切な友達に。
「それでも二度と会えなくなるわけじゃないんだし、そこまで悲しむことはないんじゃないの?」
強がって嘘を吐いた。
この感情を知られたくない。なぜなら……恥ずかしいから。
「真姫ちゃんはいつでも真姫ちゃんにゃあ~」
なんとか隠せたようだ。
……花陽の顔が上がらないのが気になる。
「………」
「…私ね、凛ちゃんと真姫ちゃんと同じ学年で本当に良かった」
花陽の目が光る。
直接顔は見ない。
「だからね…もう、当たり前のようにおはよう、って言ったり…話せたりできないんだって考えてしまうと…」
何かが頬を伝う。
「耐え…られなくて…」
花陽の頬を涙が伝った。凛の目も光っていた。
――なぜだか、私の口の中はしょっぱかった。
―――――――
歩くのは最後の帰り道。花陽が真ん中だ。
「今日ラーメンいこ~」
「いや急すぎでしょ…」
いつものことだが、一応ツっこんでおく。…このやり取りも
………
いや、やめておこう。
そうして私達は影を重ねながら、3人で鼻歌を歌いながら、いつものラーメン屋へ向かった。
見上げた空は、どこか憂いを帯びているように見えた。
―――――
「「「ごちそうさまでしたーっ」」」
「やっぱり美味しいにゃあ~」
「そうだね」
幾らか気分も紛れ、私達には明るい笑顔が戻っていた。
「凛、あんまり食べると太るから食べ過ぎちゃだめよ」
「了解!」
これからは止める者がいなくなるので釘を差しておく。…まぁ、ビシッと敬礼してたし大丈夫だろう。
「花陽もね?」
「わ、わかってるよぉ」
花陽が心配だ。私は心の中で、フフっと笑った。
―――――
店の外に出ると、もうすっかり暗くなっていた。頬を撫でる夜風が気持ちいい。
「じゃあそろそろ帰ろうか」
なぜか心がズキッとした。
「そうだね。明日のためにしっかり休むにゃ!」
「ええ、そうね…また明日」
花陽達とは帰り道が反対なのでここで別れる。軽く手を振って歩き出した。
独りの夜道を。
「それでねぇ…」
「あはは」
だんだんと楽しそうな声が私から離れていく。
――なぜだか知らないが、後ろ髪を引っ張られるように振り返ってしまった。
「あ」
見るべきではなかった。彼女たちの楽しそうな姿は、忘れようとしていた――明日のことを思い出させたのだ。
「まっ…」
――待って
私を置いてかないで――
――やがて二人の背中は闇に消えていった。
私は…私は何も考えずに帰った。いや…何も考えたくなかった、というほうが正しいだろう。
私には――何人にも埋められない、心の穴がポッカリと空いていた――
――――――
「あら、お帰りなさい」
私はママの声を無視して、部屋に引きこもった。…ママも何かを感じ取ったのか、何も言ってこなかった。
バタンと。無造作に体をベッドへ投げ出した。
「…………」
私は猛烈な寂しさを感じていた。―さっきまで楽しくしていた友が、今、いない。
それは何とも形容し難いが…普段会えない従兄弟と遊んだあとの感覚に似ている。……我ながらよくわからない。
とにかく――この体を友達で満たしていたい。私を全て、友達で満たしていたい――
この、ポッカリ空いた穴も。
――卒業式、当日
私は安定していた。少なくとも、昨夜のように気持ちは乱れていない。
ただ――そわそわする。体が、脳が、ジッとしていることを拒んでいる。
まぁ、今日は答辞を言わなくてはいけないからそのせいもあるだろう。
――なんてことを車中で考えながら、学校へ向かった。
空は晴れていた――
「おはようっ」
花陽の太陽のような笑顔が覗いた。私も、自然とあたたかい気持ちになった。
「おはようにゃっ!」
凛には元気を貰った。凛の笑顔が、私の背中を押してくれるような気がする。
「花陽、凛。おはよう」
そう言った私の顔には笑顔が広がっていた。
私達は変に気分が高翌揚しながらも、三人でしばらく笑いあった――
訂正
×高翌翌翌揚
〇高翌揚
翌なんてどこから湧いた…
「ご卒業おめでとうございます」
理事長の言葉によって卒業式が始まった。…廃校を阻止しなかったら、最後だったはずの卒業式だ。
それが…こんなに後輩達が、私達の門出を祝って、悲しんでくれている。
いわば、私達が繋いできた“希望の子”たちだ。
私達がやってきたことが、これに繋がったのだ。
……………
来訪挨拶を聞きながら、3年間を振り返ってみると……鮮烈で色褪せない思い出が走馬灯のように頭の中を踏みしめる。
初めてできた友達。大好きだった音楽。μ’sとしての輝かしい毎日。
それらが全て組み合わさって、今の私があるのだ。
大切な友に囲まれた――この私が。
チラリと花陽達の様子を伺ってみる。
フフっ、花陽ったら、あんなに背筋張って緊張し過ぎね。
…凛は欠伸してるけど。
「それでは、在校生からのお別れの言葉です」
現生徒会長の雪穂が前に出てきた。
雪穂は本当に“生徒会長”という重い役目を、弱音を吐かずに頑張っていると思う。
…もしかしたら姉の穂乃果より頑張っているかもしれない。
うん、前生徒会長の私が言うんだから間違いないわ。
そう思いながら雪穂の凛々しい顔を見つめると、ニコっと微笑んでくれた。
彼女の微笑みは、私に安心感とやり切った、という充実感をもたらす。
「これからも、未来へ向かって、羽ばたいて行ってください。…平成××年×月××日」
「卒業からのお別れの言葉です。卒業生代表、西木野真姫さん」
はいっ、と返事する。…高まる気持ちを抑えながら。
雪穂達の想いをしっかりと繋がなくてはならない。
ゆっくりと私は壇上へ上がった。
いざ壇上へ上がると、空気が全然違うことに気付いた。
椅子に座っていたときは感じなかったが、肌がピリピリする。
それに――ここだと全員の顔が見渡せる。
緊張した花陽。珍しくシャキッとした凛。羨望の眼差しを向ける雪穂達。
それらを全て受け止め、ゆっくりと語りかけるように喋りだした。
――――――
「私が一年生のとき…この学校は廃校の危機にありました」
「知っている人も多いと思いますが、私達は“スクールアイドル”として廃校阻止するために活動してきました」
「以前の私は…“仲間”というものとは縁が無い生活を送っていました」
「しかし、今は違います」
「私は今、最高の仲間達に囲まれています」
「私を変えてくれたのは…μ’sと…そして、この学校です」
「私は音ノ木に入学して、そしてここで過ごすことができて、本当に良かったと思います」
「今、ここで言いたいことがあります」
「私は…音ノ木が、大切な仲間達が、…そして私をここまで見守り、育ててくれたパパとママが…」
息を吸い込む
『大好きですっ!』
不意に涙が伝った。
―――――
在校生の見送りも終わり、私達は校門前まで来ていた。
「いや~真姫ちゃん…あそこであんなこと言うなんて…泣かせるにゃ…」
「ほんとだね。普段あんなこと言わないからびっくりしたよ~」
「もう、その話はいいじゃない!」
改めて言われると恥ずかしい。
「もう…本当に最後…だね」
私達はそれぞれ別の大学へ行く。未来へ向かって。
「もう…こんなときまで泣くのはなしよ?」
「こんなときにこそ、泣くんだにゃあ」
「…まったく」
三人の目に涙が浮かんだ。
凛と花陽は泣いているが、私は涙を流さない。
不意に花陽が近づいてくる。
「っ~~~!」
いきなり花陽が抱きついてきた。首の斜め後ろですすり泣く音が聞こえる。
「凛も~」
…凛まで抱きついてきた。そして――結果的に三人で抱き合う形になってしまった。
…嫌では、ない。
「っす…ぐすっ…」
「真姫ちゃん…本当に今までありがとうね」
まるで今生の別れのように、花陽は言った。
「凛も…三人で過ごせて、とても楽しかった」
そう言われたら、抱きしめられる力が強まった。
私も、それに応じる。
「もう二人ったら…ほら、泣き止んで?」
あくまで冷静に返すが、頭の中は大洪水だった。目は氾濫しそうだった。
「真姫ちゃあああん」
私が…こんなことで…泣かない…んだから…
堰が崩れた私の目からは、大粒の涙が流れていた。
――十分ほどたっただろうか。三人の目はすっかり赤くなっていた。
別れが近づいて、くる。
私は言おうと決めた。今まで表に出さなかった、この想いを。
伝えられなくなってしまう、前に。
会えなくなってしまう前に。
「…花陽」
そっと、話しかける。花陽はキョトンとしている。
「私はあなたと会えて…その…とても、充実した日々を過ごせた。」
「全てあなたのお陰よ?」
花陽は黙って聞いている。
「だから…」
「ありがとう」
「…うんっ!」
「凛」
「………」
「私は…あなたのお陰で明るくなれたわ。あなたのその、はじける笑顔でね」
凛は頬を赤くして、上目遣いでこっちを見る。……照れてる?
「凛と会えなかったら、いつまでたっても私は暗いままったわ。」
「…ありがとう」
「こちらこそだよっ!」
それからしばらく、三人で笑いあった。
心が温かくなり、何か、三人の中で“つながり”みたいなものが出来たと感じた。
心が繋がりあってると、感じることができた。
ポッカリ空いた心の穴も、すっかり、温かいもので満たされていた。
そして私達は新たな一歩を踏み出す。眩しい未来へ向かって。
――誰もが輝ける、未来へ向かって。
~~Fin~~
これで終わりです。
2作目ということで、これからの参考にしたいので意見があれば、是非お願いします。m(_ _)m
ありがとうございました。
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