モバP弟「兄の代わりに」 (98)

俺と兄は双子だった。
双子である俺と兄は、同じ小学校、同じ中学校、同じ高校、大学、まるでお互いがお互いの鏡であるかのように育った。

しかし、大人になってからは、別々の道に行くことになった。
俺は普通の企業に、兄はアイドル事務所のプロデューサーとなり、このまま時が過ぎるのだろうと思った。

しかし、母から連絡があった。

兄が、おかしいというのだ。



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久しぶりに兄に会いに行き、その姿を見た。

兄は完全にやつれており、震え、何かをボソボソと呟いている、もう、行きたくない、でも、行かなければ、と。

俺は母と一緒に兄を病院へ連れていった。

医者は、精神的な病だと言った。

俺は、どうしてこんな状態になるまで働いたのか、アイドルの事務所というところは、そんなに酷いところなのか。俺はだんだんと憎悪がわいてきた。そしてある決断をした。

俺が代わりにその事務所に行くことにした。

兄がどんなところで働いていたか知りたいという気持ちと、兄を潰した事務所を同じようにしてやりたいという気持ちが芽生え、実行することにした。

まず、兄が事務所でどんな人間だったかを調べる必要があった。

兄の部屋を探すと、兄の日記を見つけた。双子だからなのか、内容は違えど、俺も日記をつけており、書いたページ数も一緒であった。まあそれはどうでもいい。

俺は一日かけて、兄の日記を読み、プロデューサーとしての兄の情報を吸収した。

そして俺は勤めていた会社を辞め、自らの兄として生きることにした。

今、兄の事務所にいる。兄と瓜二つだから、すぐにバレることはないと思うが、やっぱりバレるのではないかという気持ちはある。でもやるしかない。俺は事務所のドアを開けた。

「おはようございます。」

ドアを開けた目の前には、緑の制服を着た女性が少し驚きながら声をかけた。

ちひろ「おはよう…ってプロデューサーさんじゃないですか!」

彼女は千川ちひろ、この事務所の事務員だ。

ちひろ「心配しましたよ。4、5日休むんですから…」

どうやら彼女は俺を兄だと思っているようだ。まあ兄は潰れてしまったが。

その後もアイドル達が来たが全くバレている様子は見られなかった。

そして俺は、社長に呼び出された。

言われた通り、社長室に向かい社長に会った。

こいつが、兄を潰した元凶、そう思うと、自分の中から怒りが込み上げてくる。でも今の俺は兄だ。

俺は怒りを抑えながら、社長の話を聞いた。

話によれば、兄が休む前から他のプロデューサーを雇ったのだが、中々来ず、兄が休んでいる間にようやく来たそうだ。

その中で俺は思う。どうしてもう少しはやくそうしなかったということである。

その結果、兄は潰れてしまったというのに。

だが、そんなことを考えても感情を表には出さない。なぜなら俺がその兄なんだから。

社長との話が終わると、俺は兄のデスクへと向かおうとする。その時、一人の女の子が近寄ってくる。

まゆ「お久しぶりですね、Pさん」

佐久間まゆ。

こいつは兄に付きまとっていた女の子だ。兄が乗る車の中で待ち伏せていたり、勝手に合鍵を作って家の中に入ったりと、完全にストーカーと言っても仕方ないような行為をしていたようだ。最近は社長とちひろさんに怒られてやっていない。

もしかしたら彼女が兄を壊した原因なのかと一瞬思ったが、この事務所には彼女だけじゃない。彼女だけとは限らない。

まゆと少し話した後、彼女は満足したのだろうか、彼女は去っていった。

そして、ようやくデスクに座り、仕事を始める。
兄のメモには仕事のやり方も書いてあったので、その通りにやり、わからないところはさりげなくちひろさんに聞く。その時、怪しまれるんじゃないかと思ったが、ちひろさんは特にそんなそぶりも見せずに教えてくれた。

俺は、一人になった時に、バレて無くて良かったという気持ちをため息として吐き出した。

ため息をついた後、考える。

どうやってこの事務所の内部を調べるか、いかにダメージを与えるか、ともかく今は、事務所の状態を見て考えるしかない。 俺は、すぐに動かず、じっくり機会を待つことをえらんだ。

俺が今後どうするかを決めた後、一人のアイドルが近づいてきて、抱きついてくる。

志希「ん〜」

この子は一ノ瀬志希、こいつは匂いを嗅ぐのが好きらしい、匂いフェチというやつか。しかし、これはまずい。

もし、兄と違う匂いだと思われたら終わりだ。

志希「ん〜久しぶりの匂いだね〜」

助かった。

双子というのは匂いまで一緒なのか、それとも単なる偶然か。そのまま志希は兄の匂いだと感違いしたまま、満足して去っていった。

この事務所のアイドルは本当にいろいろな人間がいた。

俺の私物の匂いを嗅いでくる子
しっかりキャラを作っている子
婚姻届や結婚情報誌をさりげなく押し付けてくる子
イタズラ好きで迷惑な子
妙な自信を持っている子

相手にしたら飽きないだろう。でも相手にしすぎたら病んでしまうだろう。

そう思った。

だから、兄のようにならないよう、上手く相手をする必要があった。

そして数日が経つ、アイドルや他のプロデューサー、事務員、社長。

今のところ、バレてはいない。

順調だ。これなら、悪いネタを探そうとしても大丈夫だろう、そう思った。だが、ちょっとした出来事が起こった。

ある日のことだった。

その日は朝からひどく忙しく、ほとんど休憩する暇もなかった。

ようやく仕事がひと段落し、デスクに戻ったときだった。

デスクの上に結婚情報誌が置いてあった。こういうものを置く人間は限られている。そう考えていると一人のアイドルが駆け寄ってくる。

美優「あっ、ごめんなさい。プロデューサーさん。」

三船美優。和久井留美や川島瑞樹のように、アイドルのくせに結婚願望があり、更に愛が重い。この雑誌だって、うっかり置いたか狙って置いたかと言われれば、確実に後者のほうだろう。

いつもなら、適当に相手をするだけで終わるがその時は違った。忙しさのせいでイライラしており、彼女の行為が怒りに拍車をかけた。

モバP弟(以下、弟)「…なんで俺の机にこんなもん置いたんだよ?」

いつもと違う反応に彼女は少し驚き、オドオドし始める。

美優「えっ…いや、プロデューサーさんもそろそろ…」

バシッ!!

弟「ふざけんじゃねぇよ!テメェ!」

美優「っ!!」

俺は結婚情報誌を床に叩き付け、怒鳴りつけた。

弟「お前はアイドルだろ!こんなこと考えてる暇なんかねぇだろうが!ああ!?」

美優「そ…それは…」

弟「低すぎんだよ!自分はアイドルって自覚が!いい加減にしろよマジで!」

美優「ごめんなさ…」

弟「お前だけじゃねぇよ!どいつもこいつも!俺のことなめてんだろ!」

美優「そ…そんなつもりは…」

弟「正直なぁ!お前みたいな…」

他P「落ち着いてください!言い過ぎですよ!」

他のプロデューサーに制止される。その時に取り戻したほんの少しの冷静さが彼女を見せ、ハッとさせる。

彼女は、涙を流していた。

しまった、やってしまった。これであの人じゃないと思われるんじゃないかと頭の中で考える。

俺は謝ろうとするが彼女の今の姿を見た時の動揺と焦りでそれが上手くできず、言い訳しか出てこない。

弟「あ…いや、違うんだ。仕事のことでちょっと…イライラしていたんだ…その…」

落ち着きを取り戻すが、なかなか謝罪の言葉が出ない。

周りを見る。みんな、俺が怒鳴ったことで、驚き、怯えていた。

怒鳴られた彼女は泣き、他のアイドルがそれを慰めている。

「…すまなかった。」

ようやく出た。

その後、社長にそのまま帰るように言われた。その時の俺の状態では、仕事に支障が出るという判断だった。

自宅に着き、床に座る。その時に考えていたのは、アイドルを悲しませたという罪悪感ではなかった。

バレてしまうのではないか。

こっちからすれば、アイドルなんかどうでもいい。たとえそれが事故にあって重い怪我をしようが、精神的にやられてひきこもろうが、構わない。むしろざまぁ見ろとほくそ笑むだろう。

俺はそんなことより、自分の正体がバレてしまうのか怖いのだ。

そう考えていると、ガチャリとドアが開く音がする。

弟「…兄さん!」

兄だった。今、俺が面倒をみている。
普段は部屋にいて、食事と薬を飲む以外殆ど出ない兄だが、珍しく部屋から出てきた。

モバP「…お…おかえり…」

兄は、震えながら話す。病気になる前は、こんなものではなかったのに。

弟「兄さん、どうしたの?」

モバP「き…今日は、早く帰ってきたなって…」

弟「ああ、今日は早く終わったんだ。心配しなくていいよ。」

兄を気遣いながら、それを悟られないようにして話す。そして安心したのか、兄は部屋に戻っていった。

俺のようになってはダメだ。という一言を残して。

兄と話をした後、また思い出す。

そうだった、俺はあの事務所に仕返しをするんだった。

バレた時はバレた時のこと、俺は兄と同じ見た目、同じ匂いだから簡単にはバレない。

そう思い直し、また明日から兄として事務所に行くことにした。

次の日、事務所で昨日のことをみんなに謝罪した。

以外にも、大半は許してくれた。でも、三船美優と一部のアイドルは、まだ怯えていた。

それに、自分に疑いの目を向けるものもいなかった。”たまたま仕事がものすごく忙しくて、イライラしててついカッとなってしまった”というのが皆の見解だった。

バレなくて、本当に良かった。

でも、ここまで来ると、逆に気持ち悪くなってくる。

事務所の人間全てが単純なのか、それとも全部バレてて、何かしらの理由で言っていないのか、わからない。

そして1ヶ月が過ぎた。

これまで、俺が兄じゃないとわかっているかのような言動はなく、それを隠しているようなこともなかった。俺の思い違いだった。

そしてある日の休日、兄の状態はあのときほどではなかったが、まだ状態は悪いままだった。

部屋のイスに座り、ボーッとしていると、インターホンが鳴った。

誰だ、と思い、玄関に向かいドアを開ける。そこにいたのは、五十嵐響子だった。

弟「お前っ…俺の家に来るなって言ったはずだろ!」

俺は自分の家には来ないようにとアイドル達に言っていた。スキャンダルを防ぐ為だ。

響子「たまたまPさんの家を通りかかったんで来ちゃいました。」

そんなこと言われても困る。

響子「いいじゃないですか、前もよく来てたんだし」

兄さんは何をやってるんだ。

だが、これはまずい。

今は兄さんがいるし、前に来ていたという事実があれば、無理に断ろうとしたら逆に怪しまれる。
どうすればいい。

とりあえず、この子をほんの少し待たせ、兄を何とかすることにした。

兄の部屋のドアをノックしようとする。だが、中から呻き声が聞こえる。

俺は、まずいと思いドアを開けを開ける。

弟「兄さん!大丈夫!?」

モバP「アイドル…俺の…知ってるアイドルの声だ…俺を…連れ戻そうとしてるんだ…!」

兄は震えながらそう言った。この状態であの子に
会ったらどうなることか。

弟「兄さん…大丈夫、大丈夫だから、俺が何とかしてやるから、大丈夫だから!」

俺はそう言って兄の部屋から出る。ドアを閉めて玄関のほうを見ると、既に靴を脱いで廊下に上がっている彼女がいた。

弟「あの人は…俺の弟なんだ…」

こうするしかなかった。自分の弟であることを明かして、事情を話すということしか。もっとも、その弟が俺で、この子の本当のプロデューサーはこのドアの向こうで、苦しんでいるのだが。

響子「弟さん…なんですか?」

弟「ああ…でも精神的な病気で…今から病院に連れて行かなきゃいけないんだ…」

響子「そうだったんですか…」

響子は納得はしているようだった。だがこれで帰らせるわけにはいかない。

弟「それでだな、響子」

俺は響子に頼み事をする。

響子「な、なんですか?」

響子は微かに、震えた声を出す。

弟「この事をみんなには言わないでほしいんだ。」

響子「そ、それはどうし…」

俺は響子の両方の肩を掴む。

弟「いいか響子、このことがバレるとみんながその事で俺に気を使ってくると思うんだ。中には弟の事を考えてくる子も出てくると思う。」

響子「それは別に…悪いことじゃ…」

弟「精神的な病気を抱えてる人間にとって、頑張れとかの励ましの言葉というのは、逆にその人を苦しめたり、追い詰めたりする言葉なんだよ。俺は弟を苦しめたくないんだ。」

目の前の響子はまるで、俺の背中に悪魔か恐ろしい怪物を見つけたかのように、怯えていた。それでも俺は続ける。

弟「頼むよ響子、俺は弟をこれ以上苦しめたくないんだ。言わないだけでいいんだ。難しくない事だろ?」

肩を掴む手が、無意識に強くなる。

響子「わ、わかりました、絶対、絶対言いませんから!」

掴んでいた響子の肩を離す。響子は恐怖を感じていた。

彼女の目は、もし喋ってしまったら、ただでは済まないという事を感じ、怯えていた。

もちろん、もし喋ってしまったら、ただでは済まさない。

響子「今日はもう、帰りますね。ごめんなさい。」

彼女は逃げるかのように足早に、俺の自宅から去って行った。

弟「…見たな…」

李衣菜は怯えながらこっちを見ている。

弟「見たのかって言ってんだよ!」

李衣菜「私、プロデューサーさんをたまたま見つけて…それでき、気になって…」

李衣菜は絞るように声を出す。

李衣菜「ごめんなさい…誰にも言いませんから…許して…」

そう言って彼女は涙を流す。だがこのまま帰したくはなかった。

もう響子にも言ったんだ。こいつにも教えてやる。

弟「あいつは…俺の弟だ。この前まで普通に働いていた。でもな、潰れてしまって仕事はおろか、家族以外とまともに話せない…お前らみたいな奴らのせいでな…!」

怒りを込め、睨みながら言う。李衣菜は、涙を流し、呼吸を荒くしながらこちらを見ていた。

こいつが、こいつらが、そう思うと怒りが増す。

弟「誰かに言ってみろ、俺の弟みたいに潰してやる…心も体もな!」

そして俺は横の方へ突き飛ばした。李衣菜はそのまま倒れ、怯えながらこちらを見ていた。

弟「行けよ!」

そう叫ぶと、李衣菜は走って逃げた。

今日のまゆは何か様子がおかしかった。

仕事に支障が出るレベルではないものの、いつものまゆではなかった。

仕事が終わり、事務所に戻るときに、それを聞くことにした。

弟「なあまゆ」

まゆ「なんですかPさん。」

弟「なんか今日はまゆの様子がおかしいと思ったんだ。」

まゆ「…」

弟「一体…何があったんだ…?」

まゆ「実は…Pさんを見てると、なんとなく、なんとなくなんですけど…違和感を感じるんです…」

こいつもか。

俺の反応は違った。

前の俺だったら焦るだろうが、今は違い、冷静だった。

弟「何を言ってるんだ?俺はお前のプロデューサーだぞ?」

気のせいにさせて、彼女の中の違和感を取り払おうとする。

まゆ「…そうですよね、気のせいですよね、ごめんなさい。プロデューサーさん」

そうだ。それでいい。

事務所に着き、まゆと別れ、自分のデスクに戻る。

その後、千川ちひろが俺のほうへ向かってきて話しかけた。

ちひろ「あの…プロデューサーさん」

弟「どうしたんですか?」



何か、気になることがあるようだ。

ちひろ「まゆちゃんのことなんですが…」

弟「まゆがどうかしたんですか?」

ちひろ「プロデューサーさんが少し変わったと思うって言ってたんです。」

それはもうわかっている。さっき、違和感を感じると言われた。

弟「…まゆは疲れてるんだと思います。俺も特に何かした覚えはありません。」

ちひろ「そうですか…」

弟「一体どうしたんでしょうかね?」

ちひろ「さぁ…」

そこで、会話は終わった。

それから3日後、他のアイドルとの仕事もあり。まゆと一緒にすることはなかった。だが、まゆのことが気になって仕方ない。

弟「ちひろさん、あれからまゆはどうなんですか?」

ちひろ「そうですね…時おり不安そうにじっと考えこんでたり、落ち着きがない感じです。」

弟「そうですか…」

やはり、気づき始めているのだろう。俺が偽物だということに。

自宅でこれまでのことを振り返る。

俺に兄弟がいることを知っているのは、五十嵐響子。

俺が双子であることを知っているのは、多田李衣菜。

そして、俺の存在に気づきつつあるのは、佐久間まゆ。

もし彼女らが周りに話したら、と考える。そうなればおしまいだ。

今のうちに手をうっておこうか。それとももう少しでできる資料を完成させるか。

テレビのニュースを見ながら、俺は考えていた。

ーアイドルを殺害したとして、警視庁は今日、アイドルを担当していたプロデューサーを殺人の容疑で逮捕しました。逮捕されたのはアイドル事務所〇〇のプロデューサー、〇〇容疑者でー

最悪、ニュースと同じようなことをするのもありか、とほんの一瞬考えてしまったが、すぐにその考えを消した。

次の日、今日はまゆと仕事だ。

事務所に入ると、ソファーにまゆが座っていた。

まゆ「!」

やはり、いつものまゆじゃない。それどころかさらにひどく、怯えているように見える。

弟「どうしたんだ?まゆ。顔色が悪いぞ?」

心配しながら声をかける。まゆは顔が強張っていた。

弟「大丈夫か?」

そう声をかけ、まゆに手をのばす。

手が、まゆに届く寸前、まゆが叫んだ。

まゆ「触らないで!!」




俺はその叫びに驚いて、手を引っ込めた。

まゆ「やっぱりあなたは…プロデューサーさんじゃない…!!」

わかってしまったか。

まゆ「あなたは誰なんですか!」

ちひろ「ど、どうしたんですか!?」

ちひろさんが駆け寄ってくる。

弟「いや…まゆが…いきなり…」

まゆ「ちひろさん…」

ちひろ「一体、どうしちゃったの?まゆちゃん」

ちひろさんは、まゆの異変を知っている。

まゆ「どうって…その人はプロデューサーさんじゃないんです。」

ちひろさんは、そのまゆの言葉を信じなかった。

ちひろ「何を言ってるの?そんなこと…」

まゆ「私はおかしくないです!おかしいのはちひろさんですよ!」

まゆは必死に訴えている。だがちひろさんには届かない。よかった。ちひろさんは俺の味方だ。残念だな、まゆ。

弟「まゆ、俺の顔を見るんだ。お前を今まで見てきたプロデューサーだろ。」

佐久間まゆ、お前の負けだ。

まゆ「違う…違う…あなたはプロデューサーじゃない…」








ちひろさん、もう言うしかないというような表情でまゆに話す。

ちひろ「まゆちゃん…あなたは多分…病気かもしれないの…」

まゆ「!?」

ちひろ「清良さんにまゆちゃんのことを相談したの。清良さんは昔勤めてた病院の先生に聞いたら、精神的なものだろうと言われて、その先生の知り合いのいる精神病院を紹介されたらしいの。」

ちひろさんの話を聞いて、まゆは固まっている。

ちひろ「そこの病院の先生が言うには、身近な人物が、瓜二つの別人にすり替わっている妄想を抱く、カプグラ症候群かもしれないって…」

いや、違う。まゆは正しい。おれは確かに兄と瓜二つの偽物だ。だが、ちひろさんにとっての俺はは自分が知っているプロデューサーにしか見えない。

まゆ「そ…そんな…お願いちひろさん!信じてください!まゆは…まゆは病気なんかじゃ…おかしくなんか…」

ちひろ「いい加減にして!」

まゆ「!…そんな…」

まゆは、その場に崩れた。終わったな、まゆ。

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