唯「さいきょう!」 (160)

キャラの口調や設定など内容的にいじりまくりますすいません

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1456045130

いつも通りの時間
いつも通りのやりとり
いつも通りのティータイム

いつもと同じ楽しい時間が毎日続くと思ってた

律ちゃんの一言でその時間は打ち破られたのだ った

律「なぁ唯~軽音部の中で誰が一番強いと思う ~」

私は特に何も考えずいつもの冗談のやり取りの つもりで気軽に答えただけだった

唯「ははーっ!勿論それは律ちゃん隊員であり ます」

律「うむ!流石唯隊員!わかっておる!くるし ゅうない~」

唯「ははぁ~!ありがたき幸せ~!」

こんな何でも無い冗談
いつもの事だと思ってた
なんでもない他愛も無い冗談だと

私だけは...

シンッと部室が静まり返った

ビィン!

澪ちゃんが張り替えてたベースの弦が切れた

パリィン!

紬ちゃんの握ってたティーカップが割れた

ブチッ!

梓にゃんのツインテールをとめてたゴムが切れた

部室の空気が一変したことに私は気付いた

みんな無言で動きを止めてる
それぞれ向いてる方向はバラバラ
それなのに

なにかお腹をギュッと中から握られる様な
そんな嫌な感じが3人から漂ってくる

そんな空気に耐えきれず
私はこの空気を何とかしようと口を開いた

唯「で、でもでも澪ちゃんは背が高いし紬ちゃ んは力持ちだし梓にゃんはすばしっこいから皆 同じ位かもねぇ!」

ガンッ!

律ちゃんが持ってたティーカップを机に叩きつ けた

何でこんな事になってるんだろう
何がいけなかったんだろう
私は頭を精一杯働かせて考えたけどわからなかった

私はどうしようかと皆の様子を伺っていた

そんな重い空気を澪ちゃんが打ち破った

澪「ハハハッ!やだなぁ唯誰が強いかなんてわからないじゃないか、まあそれでも律には負けないけどな」

律ちゃんがひきつった様な笑顔になった

律「あらあら澪ちゅわぁ~ん、そんなに重たそうな体で私に勝てるなんた思ってるんでしゅか~そんな体じゃ梓にも負けちゃうんじゃないの かなぁ~」

あずにゃんが抗議の声をあげるより先に紬ちゃんが割れたティーカップを片付けながら言う

紬「あらあらw確かに体が大きかったり重かったりすると動きにくいかもしれないけど、りっちゃんみたいにうすーい体してると叩かれても痛くないかも~」

追撃するようにあずにゃんが大声をあげた

梓「そうですよ!それに失礼ですよ!梓にもってなんなんですか!失礼にもほどがありますよ !」

紬ちゃんとあずにゃんの話をおちょくるように聞き流す律ちゃん
いつもと同じようなやり取りを繕ってるけどみ んな目が笑って無かった
ひとしきり皆言いたいことを言うと再び沈黙が 部室を包んだ

もう我慢できなかった
この空気にも我慢できなかったけど

何より.....

誰が一番強いか.....

私も知りたかった.....


私は皆に向かって言った


唯「ねぇねぇ、じゃあさ誰が一番強いか皆で闘ってみようよ!」


私の口許はきっと不自然な程につり上がってい るだろう

皆私の発言にビクッとした

様子を伺うように皆が皆お互いの顔を見比べている

律「へぇ、唯にしては良い事言うじゃんか」

りっちゃんがニヤリとしながら私に言う
あぁ、りっちゃんもきっと知りたかったんだ
誰が強いのか

自分がどれだけやれるのか
今まで自分を抑えてたんだね

澪「で、でも闘うってどーするんだよ!5人一緒に闘うって言うのか?そんなのただの乱闘になって本当に誰が強いかなんてわからないじゃないか!」

澪ちゃんも否定的な意見を言ってる様で
つまりそれは環境が整えばやりたいと言っている様な物だった

梓「そ、そうですよ!一人一人闘うにしたって5人じゃきりが良くないですし!それにルールだってどうするんですか!こんなの滅茶苦茶です !」

あずにゃん
本当に心配すべきは怪我だと思うよ
そこを心配しないって事は

あずにゃんもやりたいんだね

律「まあ確かになー、それに闘うなんて言ったって周りから見れば喧嘩だしなぁ。学校でやれば停学、外でやれば通報。まあどのみち無理ですねぇ~」

肩をすくめて残念そうにするりっちゃん
部室の空気がゆるみかけた

紬「面倒事の対処は...私がなんとか出来ると思うわ。 でも、5人じゃきりが悪いって言うのは確かね...」

ムギちゃんがケーキを食べながら一人で考える様に呟いた

また部室の空気がピンと張りつめるのを私は感じていた

ムギちゃんの呟きに皆がゴクリと唾を飲んだ
さっきまでの探り合いじゃなく
闘いたいという自分の欲望が皆から滲み出てい た

その時、部室のドアがふいに開いた

憂「こんにちわー」

純「梓ぁ~、カフェ行くって約束の時間とっくに過ぎてるぞー遅いぞぉ !」

和「律!あなたまた講堂使用許可書出して無いじゃない!いい加減にしないとホントにライブ 出来なくなるわよ!」

入ってきた三人を見てムギちゃんがいつもみたいな優しい笑顔で呟いた

紬「ウフフ、これで8人ね~」

いつもなら和ちゃんに援護するかの如く澪ちゃんが律ちゃんに文句を言うだろう、でも今日はそうしなかった

律ちゃんが「まぁまぁちゃんと出しますんで~」みたいな事を言いながら和ちゃんをなだめつつ椅子に座らせる

ムギちゃんがニコニコしながら憂と純ちゃんにお茶をすすめる。純ちゃんは「え、いいんですか?」なんて言いながらあずにゃんにラッキーお茶代浮いた!ニシシなんて言ってる

憂だけがいつもと違う部室の雰囲気を感じ取って不思議な顔をしながらお茶を飲んでいた

律「さてと、ちょっと3人に話があるんだ」

突然の律ちゃんの切り出しに3人は驚いた表情になった。そりゃそうだろう、3人ってのは今入ってきた3人を指すわけでまさかこの組み合わせにお願いがあるなんて想像もしてなかっただろう

和ちゃんは怪訝そうな顔を律ちゃんに向けた。
純ちゃんは戸惑うように律ちゃんとあずにゃんの顔を交互に見てる
憂は律ちゃんが何を言ってくるのかしっかりと体を向けて聞く体勢だ

律「実はさっき話の流れで軽音部で誰が一番強いかって話になってさぁ、それなら皆で闘ってみようって事になったんだけどちょっと5人じゃ少ないかなぁなんて思ってさ!」

よく言うよ律ちゃん
まだハッキリと闘うなんて決まって無いじゃん

でも誰もそこを否定しなかった
軽音部の総意として伝える事でこの3人がなるべく参加してくれる方向で話を進めたいんだろう

律「それでもし良かったら、怖くなかったら3人も参加してみないか?まだ細かい話はしてないからまあ3人が断ったらこの話は保留って事にしようかなぁみたいな」

律ちゃんが悪魔のスパイスをさりげなく混ぜこんだ

怖くないなら

こんな事を言われたら断る=怖いと認める様な物だ
和ちゃんや憂ならともかく、純ちゃんがそんな風に言われたら黙って無いだろう

純「ぜ、全然怖くないですよーだ!寧ろ先輩方を返り討ちにしてみせますもんね!」

予想通り純ちゃんが食いついた

律「じゃあ純ちゃんは参加ね」

純ちゃんの参加表明で他のみんなの目がキラキラしてきた...いや、こういうのはギラギラって言うのかな?

とにかく現実味を帯びてきた事で皆の期待が一気に膨らんだのは間違い無いだろう

和「ちょっと聞きたいんだけど」

皆の顔に緊張の色が走る
多分皆は和ちゃんが一番参加させるのが難しいと考えてるんだろう
実際、学校での和ちゃんは生徒会長であり真面目を絵に書いたような生徒だ、こんな面倒事に首を突っ込むどころかそれを辞めさせる側の人間
そう認識しているからだ


和「貴女達がやろうとしてるのは一般的に言えばただの喧嘩よ、そんなことを人目のつく所でやれば学校内外関係なく何かしらの問題になるわよ」

紬「それは私がなんとかするわ。いざ闘いが始まったら教師に止められたり通報されたりなんて、そんなの全然面白く無いんだもの。琴吹家の人間を使って人払いをするなり騒ぎにならない様手を打つつもりよ」

ふぅん、と和ちゃんが頷く

和「安全面に関してはどうするつもりなの?」

紬「それもこっちで出来るだけ対策はするつもり。素手で殴り合ったりしたらお互い大怪我しちゃうし目や脊椎なんて場所への攻撃をしちゃったらもうそれは果たし合いだもの。あくまで腕試しの範疇で、かつ実力を納得いくまで出しきってお互い闘える様に段取りは惜しまないわ」

冷静に話してる様に見えてムギちゃんから殴り合うなんて言葉が飛び出した。
きっとムギちゃんも必死なんだと思った
和ちゃんさえ取り込めば後は憂、憂なら私が言えば参加させることは容易。
ここが正念場だとみたんだねムギちゃん

フフッ、それにしてもムギちゃんから殴り合いなんて言葉が出るなんて....
ムギちゃんも皆と闘いたくてウズウズしてるんだね

和「そ、なら私も参加するわ。細かいルール決めも私が参加した方が安全性が高まると思うし生徒会長として見守る義務があるわ 」

みんなあっけにとられていた。あの和ちゃんがこんなにも簡単にこんな事に参加すると言ったからだ

律「それじゃあ後は.....」

皆の視線が憂に集まる
憂はうつむき加減で何かを考えている

暫く沈黙が続いた後、憂が顔を上げて言った

憂「お、おねぇちゃんが参加するなら.....」

こうして8人で誰が一番強いのか
皆で戦うことが決まったのだ

果たしてこの闘いの先に何があるのか?
また、ふわふわした軽音部に戻れるのか?
皆と今まで通りの友達で居られるのか?

わからない
わからないけど....
みんな試したくて試したくて
不安よりも喜びと期待がが勝っているのだろう

だって....
皆いい表情してるよ

それから細かいルールや対策の話し合いになった
あずにゃんなんて普段練習以外の話をするとすぐ怒るくせにまるで修学旅行の打ち合わせをするみたいにワクワクしてるのがわかった

皆の意見が飛び交うなか、やっぱりと言うか当然と言うか。和ちゃんとムギちゃんの提案がおおむね軸となった

試合開始の合図はムギちゃんが支給するオープンフィンガーグローブを着用すること
これで内蔵されたチップで静脈から脈が検知され二人分の脈が至近距離で検知されたらムギちゃんの家の人が試合のレフェリー役みたいなのをしてくれるみたい
それとなんだかよくわからない許可証みたいなのを発行するみたいで、騒ぎになったら警察関係者や教師にそれを見せれば万事収まるとの事

流石ムギちゃんだね

試合方式は現存する総合格闘技のルールとほぼ 一緒、ただ大きな違いは武器の類いで無ければそこら辺にあるものを自分の有利に働くように 使っても良いとの事

ここはやたら和ちゃんがこだわっていた
「いちいちあれはダメ、これはダメなんて言ってたらそんなのお遊戯よ。あるものを活用して闘う頭だって立派な力なんだから」
なんて言わ れたら皆納得するしかない

後はムギちゃんの家の人がこれ以上は危険と判 断したら止めてくれるらしい
あくまで格闘技の枠の中での闘いだからこれは仕方ないよね

ムギちゃんが皆にオープンフィンガーグローブを支給したらその時からいつでも闘いを挑める
場所もどこかの屋上とか交差点のど真ん中とか明らかに危なく無い場所ならどこでもいいみたい

部活の時間にはいつも通り集まる事になった
そこでムギちゃんから前日にあった闘いの結果が知らされるのだ
とんだ放課後ティータイムになっちまったななんて律ちゃんが笑ってたっけ

ルールが決まって後は準備が整うのを待つのみ

最初は誰と闘おう
皆同じ事を考えてるみたい
あずにゃんと純ちゃんは下克上同盟なんて結んでるみたい
あずにゃんなんて「やってやるです!」なんて息巻いてる

ルールが決まって解散してから数日はいつもと変わらない日が続いた

いつも通り部室に集まって
いつも通りお茶をして少し練習して
いつもと変わらない様に見えた

まるで皆で闘うなんて話が無かったかの様に時間は過ぎて行った


紬「皆~、例の物持ってきたわよ~」


ニコニコしながら部室に入ってきたムギちゃんの一言で私達の闘いが始まったのだ

田井中 律

さっきムギからオープンフィンガーグローブを渡された
皆嬉しそうに受け取り使い方の説明を聞いていた、と言っても要するに闘いたい相手の前でコレをはめるだけだ
後は相手が拒否せず応じてくれれば試合開始

隣で歩く澪もオープンフィンガーグローブを眺めながら何やら考え事をしている
言ってしまえば....私が一番闘いたいのは間違い無く澪だろう、澪だって多分だけど私と闘いたいに違いない
つまり今これをはめてしまえばそれは叶う訳だ

でも....なぜだか踏ん切りがつかない 澪も一緒の考えなのだろうか、グローブを見ては嬉しそうにしたり考え込むような顔をしたりと表情が目まぐるしく変化している
.....それなら私が......
そう思った時澪が口を開いた

澪「なあ、律」

律「なんだ、澪」

澪「私たちの試合なんだけどさ.....」

私は鼓動が高まるのを感じていた
澪もやっぱりそれを考えていたのだ つまるところ、今ここでなら誰の邪魔も入らな いしお互い万全の状態で闘える
やるなら今がベスト、そう言う事だろう
だけど澪の口から発せられた言葉は意外なものだった

澪「私たちは....最後にやらないか?」

最後....つまり全員に勝ち抜いて残り二人になったらやるって事だ
そんなまどろっこしい事なんてしなくても今すぐ闘える、でもそれは違うと澪は考えたのだろう
私も理屈じゃわからない、今すぐ澪と闘いたいでも....
何となく澪が考えてる事が私にも理解できた
私達の闘いは特別なものにしたい
そういう事だろう

律「そうだなぁ~、軽音部の絶対的信頼の象徴 である私こと律ちゃんとわれらがアイド ルの澪ちゃんの試合ならそれなりの状況でやるのが一番かもな~」

なんて軽口を叩くと澪から調子に乗るなと重い突っ込みの一撃をもらった
いってーなぁーなんて澪に抗議してると澪は真面目な顔で私に言った

澪「負けるなよ、律」

澪の言葉にいつもならふざけて返すところだが、今はがらにもなく黙って頷く
澪と別れる時、澪を見送りながら私は誰にも負けてたまるかと強く誓った

純「でもまあ、律先輩は私たちの下克上の最初の餌食ですよ」

電柱の影からオープンフィンガーグローブを装着した純ちゃんがゆっくりと私に近づいてくる

ヒリつくような感覚が私を包む
澪との約束を果たすために
私は負けるわけにはいかない

やってやろうじゃんか


そう呟いて私もオープンフィンガーグローブをつけて純ちゃんの前へゆっくりと歩みを進めた

鈴木 純

一緒に途中まで帰ってた梓が先輩達に私の強さを認めさせてやるです!なーんて息巻いてたっけ

梓と別れてCDショップで物色してたらショーウィンドウ越しに澪先輩と律先輩が見えた

二人共幼馴染みって感じで仲良さそうに歩いてるけどやっぱりなんだかぎこちない

もしかしたら二人の試合がみれるかもなんて軽い気持ちで後をつけたら意外な会話が聞けた

みんなを倒して二人で闘う

なんていうか愛の告白みたいで格好良かった
でも、そういう綺麗なお約束には障害がつきものなんですよ

梓の言ってた下克上なんて言葉が頭をよぎる
いいじゃん
なんか格好いいかも

澪先輩が律先輩と別れてどっちを追い掛けようか悩んだけどなんとなく律先輩の方がサッパリしててやりやすそうだった

さてさて一回戦の幕開けと行きますか
身を潜めてた電信柱から、律先輩に声を掛けながら出る

純「でもまあ、律先輩は私たちの下克上の最初の餌食ですよ」

うわぁ、なんて言うか悪者みたいな台詞
よく言えたね

でもこれで後戻りできないや

覚悟を決めて律先輩の元へと歩みを進めた

田井中 律

純ちゃんとの距離を計りつつステップを踏む
腕を顎の高さまで上げて余計な力を抜く

私のベースはボクシングだ
中学の頃にドラムには体力が不可欠だと思い走り込みや筋トレを始めた

が、おもしろく無くてすぐに飽きた
そんな折りに近所のボクシングジムの貼り紙を見たのがボクシングを始めたきっかけ

やってる事はロードワークだったり筋トレだったりとあんまり自分のトレーニングと変わらなかったけどここだとヘンテコなボールやサンド バッグを叩けたり、何より大人の人が遊び半分でスパーリングをしてくれて楽しかった

皆が女の子のわりにスジがいいねなんて誉めてくれて益々やる気になったりもしたものだ

相手との間合いを計りつつ出方を見る
すると純ちゃんが見たことも無いステップを踏み出した

律「遊んでる訳じゃ....ねぇよな?」

純「大真面目ですよ」

まるでダンスにも見えるステップを見せながら純ちゃんもこちらの様子を伺ってる

なんつーか やりにくいなこれは

悩んでもしょうがないし悩むのはがらじゃないんで挨拶がわりにジャブから見せてやることした

鈴木 純

さて、間合いに入ったのでステップを踏む
「ジンガ」だ
それを見た律先輩が戸惑いながら遊んでんのかみたいに聞いてきた

いえいえこれが私のやり方なんです

私は小さい頃からダンスを習ってた
ダンスって華やかな見た目とは裏腹に日々の鍛練が半端ないわけ
体力だっているしさ、自分が格好良く踊ろうなんて思ったら本当地味な基礎体力の向上から始めなきゃいけなかった

そこそこ踊れるようになった頃にそれを見た
最初は二人でダンスセッションでもしてるのかな?なんて思った

独特な音楽が流れる中男の人が二人でステップを踏みながら闘ってた
正直、体の芯からしびれる様な衝撃を受けた

リズムに乗って楽しそうに足技で闘う姿はまるで鳥が空中で闘ってるみたいだった

その日からダンスの練習の後にはそれを見に行ってた
道路の高架下のぼろっちい空き地でラフな格好をした男に紛れて「カポエラ」を見学する女の子なんてひどく滑稽に見えただろう

カポエラ

起源は様々言われてるけど奴隷達が看守の目を誤魔化すためにダンスにみせた格闘技
主に足技で闘うが近年では手技も取り入れられている

高架下で見学するだけじゃなく、自分が参加し始めるのにそう時間はかからなかった

律先輩はやりにくそうな顔をしながら、ええぃ めんどくさいとでも言わんばかりに距離を詰めてパンチを出してきた

なるほど、スタンダードなボクシングスタイルだね

側転でそれをかわしてリズムを整える

さあ、わたしもやりますか
リズムを上げて律先輩へと間合いを詰めて行った

律VS 純

律が素早いジャブで牽制すると純は側転で身を翻してそれをかわした
あまりの素早さに律は追撃を躊躇った
側転なんて大きな回避行動のくせに隙が殆ど感じられない
純がペースを上げると律はより守備的な構えで純を迎え撃つ
独特なリズムから純の蹴りが律の脇腹目掛けて飛んでくる
これくらいならとガードをするとそこを起点にして体を回転させる様に反対側の側頭部へ蹴りを繰り出す

スウェーでは深すぎて避けられない
そう感じた律は片手を上げて側頭部をガードする
ズシンと体重の乗った蹴りにやや押されるが、ダメージは無い
だが純が屈んだかと思うと休む間もなく水面蹴りが律を襲う
片足を上げてその蹴りを流す
パチン!と律の足に純の蹴りが当たる
ダメージなんてお構いなしとばかりに蹴りを流した律が前へ出る
素早いステップインからボディへ目掛けて斜め下からパンチを繰り出す

いきなり頭なんて狙っても純には当たらないと思ったのだろう
的の大きな体幹目掛けて渾身のボディブロー
ステップしながらガードでボディブローから身を守る純
律の体格ではそう重たいパンチは来ないだろうと予想してた純が思ったよりも威力のあるボデ ィブローに少し驚きの表情を表す

逃すかとばかりに律は追撃の態勢を見せる
間合いを詰め、フックで純の顔を狙う
純は軽やかに上体を反らしてそれをかわす

だが、これは律の布石

律「パンチだけと思ったら大間違いだぜ」

上体を反らしての大きな回避の隙を律のミドルキックが的確に純の脇腹を捉える

かに、見えた

ミドルキックの勢いを[ピーーー]と同時に被弾した勢いを生かして純はまたしても 側転でそれをかわす

律はまるでフワフワ舞っている紙か綿かと闘ってるみたいな気持ちになった

だけど今の一撃は威力を殺し切れてなかったはずだ

律は息と間合いを整えて純を真正面に見据える

律VS純

流れる様なコンビネーションに純は思わず口元を綻ばせた

律「何笑ってるんだ、余裕ってか?」

純「先輩も笑ってますけどね」

お互いが歓喜の笑みを浮かべていた

普通の女子高生がこんな風に殴り合って、蹴り合ってなんて考えられない
身近な人と自分の力と技とを競い合える
それが嬉しくてしょうがないのだ

今のところ二人は互角だろう
カポエラという見たことも無い格闘技に律は徐 々に対応していた

要するに蹴りが来るならそれに対応すりゃいいや

律のざっくりとした考えが結果として良 い方向に動いている

かたや純も律の動きに対応していた
ジンガからのステップで一見派手に動いている様だが細かくリズムを変調させてボクシングのコンビネーションに対応している

律の蹴りは意外だったがパンチほど洗練されて ないなと純は思った

トーントーンと弾むようなステップの律

踊るようにリズムを取りながら間合いを計る純

律が一気に間合いを詰める
リズムの虚をつかれたのか、純の動きが少し乱れる

逃すまいとジャブで真っ直ぐ純の顔を狙う
純は首から上だけの動きでジャブをかわす
律が足を踏み込み腰に力を入れる

純はミドルキックを警戒してボディをカードする
そのまま純の腹目掛けてくるかと思った律の足が軌道を変えて地面に落ちる

フェイントだ

ステップインをして距離を詰めた律が最速のアッパーカットで純を仕留めにかかった

律は、はいる!と思った

だが自分のボディに衝撃が走る

アッパーが届く直前に純の強烈な前蹴りが律を捉えた
律は大きく体を後退させる

前蹴りのダメージで少し足が重い
純が追撃してくる
前転したかと思うとその勢いで頭頂部に踵を落としてくる
ガードしたら腕にダメージを負うばかりかガー ド越しでも衝撃が凄いだろう

律は後ろへとなりふり構わず転がった
ボクシングの動きを捨ててまでの全力での逃げ

そのおかげで純の足は空を切った

純は子供の様にちぇっと舌を鳴らす

蹴りが来るなら蹴りに対応すればいいと思って いた律は少しばかりその考えが甘かったことを思い知った

純から繰り出される蹴りが自分の予想を越えてたら対応しきれないからだ

律「こりゃのんびりやってたらこっちが不利だな」

純「いえいえ、律先輩もいいとこいってますよ ホント」

律は後輩の憎らしい言葉に苦笑いを浮かべる

律VS純

律はどうしたものかと悩んでいる様だった

純の足技のコンビネーションは素早くて変則的だ、 もう少し純の動きを見て技を把握するのも 手だろう
だけど技を見ていてそれに対応でき るかそれが問題だった

純の闘い方は足技が主だ、だがそれ以前にリズムが軸なんだろうなと律は考えた
さっき考え無しに突っ込んだら若干純の動きがぎこちなくなったのを見逃していなかったのだ

純も律の対応力の高さに驚いていた
自分としてはあれこれ変則的な角度やタイミン グで攻撃を仕掛けてるのにまともに律に攻撃が入らないのだ

さっきの前転からの踵落としなんて絶対入ったと思ったのに律は反射神経だけであの蹴りをかわした

心底、律の運動神経には驚かされる

律がコンビネーションで畳み掛けてきたら全部 対応できるのか、それにそろそろ律も何かしら考えて動いてくるだろう

様子見とか細かい作戦とかはいいや

わからないならやれるだけやっちゃおう

二人はほぼ同時にこの考えに行き着いた

純のリズムを意識しながら前へ出る律

律のコ ンビネーションを出させまいと前へ出る純

二人の距離が交錯する

律がダッキングでフェイントを混ぜながら距離を詰めると純がローキックを出した

構わない 、力を入れて純のローキックをそのまま受けてさらに前へ出る

面食らった純は少し距離を離そうとする
律が逃がすかとばかりにステップを踏む純の足目掛けて蹴りを放つ

律のローキックを無防備に受けた純のバランスが崩れる

ローキックを受けた足側にグラリと 傾く純に真横から律がフックを撃ち込む

純は避けきれないと判断してフックをもらいながらその衝撃を逃がすため体ごと回転させる
それでも手応えを感じた律はがら空きのボディ へとパンチを繰り出す

純が苦悶の表情を浮かべた

当たれぇ!と律が右ストレート放った

まともにボディへパンチを受けた純は体がくの字に曲がっていたためこれを避けきれない
辛うじてガードが間に合うがその衝撃で更に態勢が崩れる

律はここで押しきる
そう考えた

明らかに動きの鈍くなった純に畳み掛ける様にフックを撃つ
純はなんとか反応してガードする
だが素早く反対方向へとフックが襲いかかる

律のフックはまともに純の頬を捉えた
純はフックの衝撃で体を捻らせる

律は追撃のストレートを放つ

律のストレートが純に当たると同時に純の裏拳が律の顎にヒットした

フックを貰った衝撃そのままに、捻れる体の流れを生かして裏拳を出していたのだ

お互いが被弾し動きが止まる、先に動いたのは律だった

バランスを崩した純に向けてパンチ を放つ
ジャブが純の顔を掠めるがまたしても側転でジャブをかわす純
だがダメージのせいで側転にスピードが無い

律は側転する純にお構い無しにボディ、フックとコンビ ネーションを叩き込む
ボディをまともに貰うが純は耐える
だが足が 止まりフックをかわせない

堪らずガードをしてフックから純は身を守る
腕越しにフックの衝撃を感じたと思ったら目の前に律の拳が真っ直ぐ迫っていた

律の右ストレート

鼻の辺りに右ストレートを貰って純の体が大きく仰け反り後ろに倒れこむ

よし、と律は純にとどめを刺しにかかった

律VS純

律が距離を詰めて純に追撃をしようとしたその時

律の顎に真下から衝撃が走った

純はストレートを受けて後ろへ倒れこむと同時にバク転の要領で律の顎を蹴り上げたのだ

予想外の攻撃に律は吹っ飛び倒れこむ

純も先程のストレートのダメージから後ろへと倒れこむ


予想外の方向からの攻撃を受けた律と自分で後ろに倒れ込みながら攻撃を出した純

勝敗はそこで別れた

バク転の要領で体を後ろへと回したおかげで純は律ほどダメージを受けなかったのだ

グラつく足で立ち上がり律を見る

律も立とうとするが目の焦点が定まってない

貰ったよ、と純が距離を詰めて律の頭目掛けて蹴りを放つ

その蹴りはどこからか表れた黒いスーツを着た男に受け止められていた

純の蹴りがスーツの男に止められると同時に律が崩れた

あのまま蹴りが止められていなかったらまともに津にはいっていただろう

スーツ「鈴木純さん、貴女の勝ちです」

なるほど、これがムギ先輩の言ってた琴吹家の人って訳ね
純は納得した

フッと気が抜けると体のあちこちがいたむのに気付いた

純「全く、いたいけな乙女をこんなにして。律先輩も酷い人ですよ」

息をついて座り込みながら純は言った

律「お前もな」

まだダメージが抜けていないのだろう
上体を起こして立ち上がろうとはせずに律は返す

なんだかさっきまでの事が嘘の様に笑えてきた

すっかり暗くなって灯った街灯が

無邪気に笑う二人の少女を照らしていた

平沢 憂


音楽室であの話を聞いた時
いつもの私なら皆を止めようとしただろう
お姉ちゃんに危ない思いをさせたくない

.....それでも....

私の心に何時も重くのし掛かるお姉ちゃんへのもう一つの気持ちが

私をこの闘いに参加させた

平沢 憂


お姉ちゃんの才能を私達が目の当たりにしたのはお姉ちゃんが小学生の頃だ


お姉ちゃんがお父さんに円周率を聞いた事から端を発する

3.14

お姉ちゃんはこの数字に疑問を持った

なんでこんな中途半端なのか
なんでこんなに面倒臭い数字なのか

お父さんにいつまでも質問していた

根負けしたお父さんがネットで円周率がズラリと並ぶサイトを調べ、それをお姉ちゃんに見せた

お姉ちゃんは食い入る様にそのサイトを見ていた

そして数日後
お姉ちゃんが算数のテストで5点を取ってきたのだ

その答案用紙には
第一門目の問い、円周率を求めよの答えにお姉ちゃんは答案用紙の表裏にびっしりと円周率を書いていた

だけどこれはお姉ちゃんの才能の一端でしかなかったのだ

平沢 憂


私達の両親はお姉ちゃんの才能に気付くと勉強しなさいと言わなくなった

お姉ちゃんに必要なのは勉強じゃなくてお姉ちゃんの興味があることをやらせてのびのびと、自由に育てるのが一番だと思ったのだろう

事実

お姉ちゃんは中学の頃大して成績が良かったわけでも無いのに幼馴染みの和ちゃんが受けるという理由だけで地元の名門である桜ヶ丘高校を受験した

三ヶ月ほど勉強しただけでお姉ちゃんは3年間真面目に勉強してきた和ちゃんと同じ高校に入学したのだ

お姉ちゃんはいつでもそうだった

なんでも無い時はボケーっとしてて
周りからは私は出来た妹だと誉められて
律先輩だったかな
お姉ちゃんに、お前良いとこ全部妹に持ってかれたんじゃないのって言ってたっけ

それは違う

私こそお姉ちゃんに良いところを全部持ってかれた残りカスなんだ

平沢 憂


両親が留守がちな家で私はお姉ちゃんの身の回りの事を率先してやった

ご飯も家の掃除も買い物も
とにかく私に出来ることはやった
これが私のせめてもの抵抗

お姉ちゃんの妹と胸を張って
お姉ちゃんの横に居れる存在であるために

だけどやればやるほど私のお姉ちゃんへのコンプレックスが積もって行った

所詮私のやっている事は誰にでも出来る事

そんな事をやったとしてもお姉ちゃんと並ぶことなんて出来ないんだ

お姉ちゃんは私が努力して長い時間を掛けてやれることをすぐにやるだろう

所詮私のやっている事は私の願望
お姉ちゃんの妹として
胸を張って言えるようになりたい
お姉ちゃんに無くてはならない妹として存在したいと

私のこの気持ちは日増しに大きくなっていく


お姉ちゃんと対等になりたい


いつしかこんな風に思う様になったのだ

そして音楽室での話

私は思った


ここでお姉ちゃんに勝てば私はお姉ちゃんと対等になれる、と


私はお姉ちゃんに勝ちたい

お姉ちゃんと闘うためだけにこの話を受けた

オワコンSS久しぶり

平沢 唯


学校から帰ってきて、私はリビングでムギちゃんから貰ったグローブを眺めていた

テレビで見たり知識として知ってはいるけど実物を見るのは初めて

触ってみるとごわごわとしてて思ったよりも硬い
相手に怪我をさせない道具じゃないねこれは
これは自分の拳を守るためにつけるんだな
唯はそう思った


唯「うい~お腹空いたよぉ~」


いつもの様にご飯の催促をする
いつもならすぐに憂から返事が返ってくるのに今日は返事が返ってこない

台所を覗くと蓋をした鍋からポコポコと泡が今にもふきこぼれそうになっていた

憂はその隣でどこを見るでもなく立ち尽くしていた

唯「うい~洪水になっちゃうよ~」


ハッ!と我に帰った憂があわてて鍋の火を消す

憂はごめんね~と言いながらいつもの様にごはんの支度をしてくれた

マロニーが柔らかくなっちゃってたけど憂のごはんはいつも通り美味しかった

いつもと同じなのに
いつもと同じじゃない

憂の様子がおかしいのは私にもわかった

平沢 唯


憂と私は小さい時からいつだって一緒だった

私が物心ついた頃には憂はいつも私の後ろをテクテクついて歩いていた

遊ぶのも、ご飯を食べるのも、寝るのも、お風呂も一緒

私は憂が大好きで、憂は私が大好き
私達は誰よりも仲の良い姉妹だろう


ある時、憂が玄関で泣きそうになっていた
カマキリが家に迷い込んで来たのだ

私はあまり虫が好きじゃなかったけど、憂が怖がるなら私がなんとかしようとカマキリを捕まえて外に放り投げた

憂はおねえちゃん凄い!と目を輝かせて私に引っ付いてきた


ある時、憂が道で動けなくなった
よく見ると通り道にある家の玄関に犬が居た

犬は家の前を通る人にワンワン!と吠えていた
憂は犬に怯えていた

私は犬があまり好きじゃなかったけど憂が怖がるならなんとかしようと犬に近付いた
恐る恐る犬の頭を撫でると犬は尻尾を振って喜び私の顔をペロペロとなめ回した

憂は、おねえちゃん凄い!と目を輝かせて私に引っ付いてきた


ある時、砂場で遊んでた憂が泣きながら私の元へ歩いてきた
いじめっ子の男の子が憂の作った砂の山を崩したのだ

私は怖かったけど憂が泣いてるのを見て私がなんとかしなきゃと男の子に文句を言いに行った

男の子は話も聞かずに私を突き飛ばした
私は産まれて初めて受けた暴力に怖くなり、尻餅をつきながら泣いた

泣いている私を見て憂は更に大きな声で泣いてしまった


私がなんとかしなきゃ

私はその日から憂を暴力から守る事を学び始めた

なんだこれw

かつてならもっと沢山レス貰えたのになぁ

憂の格闘技習得話に苦戦中
暫し更新お待ちを


去年けいおんにはまった俺にオワコンなんて言葉は無縁だぜ!

去年はまって今年書くSSがこれなのか……(困惑)

平沢 唯


唯「憂~アイス食べていい~?」

お風呂からあがった私はいつもと同じ様に憂にアイスをおねだりした

私はアイスが大好きだ
だけど四六時中食べたい訳では無い
ご飯の前に食べちゃいけないのもわかっている

アイスが好きなだけで憂にアイスをおねだりしているんじゃない
憂とスキンシップがとれるから....
そんな気持ちと半分半分なのだ

憂が笑顔で食べていいよと言うのも
憂が困った顔でダメだよと言うのも

どっちの憂も好きだ

でも今日は返事が無い

唯「憂~?」

変だなと思い憂を呼びながらリビングへと向かう

リビングに憂は座っていた


憂「お姉ちゃん....アイスは....試合が終わったらね....」


憂が虚ろな表情でそう言いながらグローブをつけた

平沢 憂


お姉ちゃんがお風呂に入った

私はその間に夕食の片付けをする

いつもと一緒

いつもと変わらぬ風景、日常


いつもと違うのは....
私の気持ち.....

お姉ちゃんと闘ってしまったら
お姉ちゃんとまた仲良くなれるのか
お姉ちゃんに怪我をさせてしまわないか
お姉ちゃんはなんと思うのか

不安で不安で押し潰されそうになる

ごしごしとお皿をスポンジで泡立てながら
気持ちを落ち着ける

私がお姉ちゃんに手を挙げるのはこれが初めてだろう



お姉ちゃんに認めてもらいたい

たった一つの自分のワガママ


それを叶えるために
心を決める


唯「憂~アイス食べていい~?」

お姉ちゃんがお風呂からあがるといつもと同じ様に聞いてくる


.....ごめんねお姉ちゃん.....
.......アイスは、試合が終わったらね...


私はグローブをはめて

お姉ちゃんへと挑むのだった



平沢 憂


お姉ちゃんが少し悲しそうな顔をした

それでも仕方ないという風に
お姉ちゃんもグローブをつける

お姉ちゃんと向き合い、距離を調整する


私は「ここでの」闘いなら自信がある
リングの上や道場じゃない
いろんな物があり、広さも限られる家たからだ

私が使うのはクラヴ・マガ

イスラエル発祥の、今や世界中の軍や警察組織が習う格闘術だ

平沢 憂


私はもともと喧嘩なんかしたことが無かった
腕っぷしも強くないし人と争うのが嫌いだからだ

そうやって平和にやってこれたのも
お姉ちゃんのおかげだったんだと
あの日知った


あれは中学の頃
私がサッカー部の男子に告白された事から始まった

私は忙しかったし、なによりまだ男女の付き合いと言うものがなんなのかピンと来ていなかった

こんな気持ちで付き合っちゃ悪いと私は断ったのだ

次の日
私の上履きが無くなっていた

教室へ行くと皆ワイワイと喋っていたのに私が入ると一気に静まり返った

皆が私を晒し者でも見る様な目で見る

机に向かうとようやく原因がわかった
机に大きく書かれていたのだ


平沢憂はヤリマン!
校内の男を食いまくり、足らずに外で援助交際三昧のアバズレ!

ハァ、と私は溜め息をついた

分かりやすかった

告白を断った嫌がらせだろう

相手にすれば面白がるだろうから私は無視することにした
机を黙って拭く
朝から無駄な時間をかけさせられたものだ

私が気にしない風にしていると、仲の良かった子がコッソリ教えてくれた

突然上級生の男子が来て書いて行ったそうだ

やっぱりね

あーあ、これだから
男子となんて付き合える訳無いんだよね


暫く嫌がらせは続いた

だけど私は徹底的に無視した
周りの友人との関係も良好だったおかげで友人も嫌がらせに対して過剰な反応をしなかった

これで終われば良かったのだ

ところがそうは行かなかった


放課後私がクラスの掃除当番の子と掃除をしていた時にそれは起こった

平沢 憂


お喋りをしながら掃除をしていると
突然教室のドアが荒々しく開いた

そこには、私が告白を断ったサッカー部の先輩と見たことの無い男の人が二人居た

先輩達は私に近付き、掃除当番の子を追い出した

「センコーに言うと君達も面倒な事になるよ」

そう言われてクラスの子達は怯えながら逃げていった

私は男三人に囲まれた

持っていたモップで一人の横腹を叩く

でも、ぜんぜん効いちゃいなかった

男の一人がこの世の悪意を表したかの様な顔で私に言った

「大人しくしてりゃ、手荒な真似はしねぇよ」


虫酸が走った

私は必死で抵抗した
暴れて、噛みついて、なんとか男から逃げようとした

すると頬に衝撃が走った
衝撃があまりに強くて私は思い切り吹き飛んで倒れこんだ

何が起きたのか最初はわからなかった
ズキズキと痛む頬が私に何が起きたのか理解させた


私は殴られたのだ


圧倒的な力の差
暴力の前に私はあまりに無力だった


「調子に乗ってんじゃねぇよ」

イライラとしたような声で私に凄む

私はもうそれだけで
怖くて、ただ声を上げることしか出来なかった.....

平沢 憂


私は犯されるんだ

そう思うとガチガチと歯がなり
体が震えた

私はお腹の底から頭に浮かぶ人を呼んだ


憂「お姉ちゃん助けて!!!!」


男達はヘラヘラ笑いながら来るわけねぇだろ、と言いながら私の腕を掴んだ

嫌だ、嫌だ、お姉ちゃん、助けて!

男は私に顔を近付ける

嫌だ

気持ち悪い

嫌だ、助けて



バァァァンッ


教室のドアが物凄い勢いで倒れた


お姉ちゃんはそこに立っていた

平沢 憂


お姉ちゃんは見たことも無いような顔をしていた


怒り


お姉ちゃんがただ一つ
私や家族に見せたことの無い感情だった


男がお姉ちゃんに近づく

「悪いけど今とりこ.....」


取り込み中だと言いたかったのだろう

そういい終える前にお姉ちゃんは男の股間を蹴り上げていた

「何してんだテメェ!」

そう言いながらもう一人の男がお姉ちゃんに飛びかかった

お姉ちゃんを捕まえたと思ったら

その男は崩れ落ちた


膝がみぞおちに入っていた


男は泡を吹きながら苦しそうにモゾモゾしている

主犯格でもあるサッカー部の先輩は私から離れてお姉ちゃんに向き合う

油断しなければ所詮女
負ける筈がない

そう思ったのだろう

ジリジリと近付きお姉ちゃんより長いリーチを生かしてパンチを出す

お姉ちゃんは男のパンチをかわすとそのまま腕を取って男の脇を固めた

ギリギリと間接の稼働方向とは逆に腕を曲げられ男は苦悶の表情を浮かべる

「違うんだ!違う!」

お姉ちゃんはまるで聞こえて居ないかの如く男の腕を更に締め上げた


バキッ


鈍くて嫌な音が辺りに響いた


ギャア、とのたうち回る男を見下しながらお姉ちゃんが言う

唯「何してんだ?だって?」


のたうち回る男の顔を思い切り蹴り上げお姉ちゃんは言った


唯「ゴミ掃除だよ」


お姉ちゃんに蹴り上げられた男はピクリとも動かなくなった

平沢 憂


私はお姉ちゃんに助けられた安堵感で気を失った

気が付くとそこは自分の部屋の自分のベッドの上だった
時計を見るともう夜中だった

私の横にはお姉ちゃんが上半身だけベッドに乗せて寝ていた

私の手を繋いだまま....

寝言で私の名前を呼ぶお姉ちゃんを私は抱き締めた

私はやっと気付いたのだ

小学校の頃も私にちょっかいをかけて来た男の子がいた

好きな子をいじめると言うアレだ

ただ、日増しにその行為が酷くなり私は学校に行くのが憂鬱になっていたのだ

そんなある日
お姉ちゃんが砂だらけの傷だらけになって帰ってきた

お姉ちゃんは転んだと行っていた

次の日から私にちょっかいをかけていた男の子は嘘の様に私に手を出さなくなった


そうやって私の知らないところで

お姉ちゃんはいつも私を守ってくれたんだ

お姉ちゃん....

私は泣きながらお姉ちゃんにしがみついた


唯「憂~苦しいよ~」

お姉ちゃんが声を上げるのも構わずに私は抱きついた

平沢 憂


私はその日から自分の身を守る術を身に付ける努力を始めた

本やネットであれこれ調べている時に見つけたのがクラヴ・マガだ

クラヴ・マガは人間の反射神経を生かした技が多い
これによりクラヴ・マガを鍛練した者は男女問わず一定の成果をあげるのだ

また、日常的な環境における危機への対応や自分が不利である事を念頭に置いた技術が多い
相手が多数であったり、凶器を所持している場合の対応にも秀でているのだ
身を守るという私の目的にまさにうってつけの格闘術だった

私は我流でクラヴ・マガを勉強した

基礎体力の向上と共に技の流れを何度も頭の中で組み立てた

時に

町のゴロツキ相手に技を試したりもした

半年もすると私は自分の身を守る事に絶大な自信を持つようになった


こうして

お姉ちゃんに守ってもらわなくてもいいようにと身に付けた技で


お姉ちゃんと闘う


時として運命とは皮肉な物だ


私はクスッと笑った

入浴中とかに試合始まってもいいようしっかり見張ってるんだろなこれ

ムギちゃんの息のかかった者が試合を見守る.....つまり.....


後はわかるな?

すまぬわからん;
俺の想像力じゃ紬が有利になるよう脅迫くらいしか思い付かない

平沢 唯


憂が構えると同時にクスッと笑った
だけどその笑顔はいつもの憂の笑顔とは異質な物だった

何よりも大切で、大好きで、かけがえの無い存在の憂

その憂と戦わなくてはならない


私は憂を守るために色んな格闘技を勉強した
憂を守る事に使えると思った技やテクニックは全て頭に入れた

なんて皮肉なんだろう


憂を守るために学んだことを使って

憂と今から闘う


迷ってる場合じゃないね

憂がじりじりと近付いて来てる


私は覚悟を決めた

唯VS憂


二人の姉妹の闘いが始まった

リビングには当然の如く日用品がそこら辺に置いてある

普通の人間ならこれらの物は闘いにおいて障害物となるだろう

普通の人間なら....


憂がじりじりと唯との距離を詰める
唯もそれに呼応する形で距離を計る

最初に動いたのは憂だった

唯はその動きからハイキックが来ると予測しガードを固める

予想通りハイキックが唯を襲う
しっかりとガードしていたためダメージは無い

ところがガードをしたと思った瞬間に何か柔らかい物で視界を奪われた

予想外の状況に唯の動きが乱れる

そこにすかさず憂のパンチが唯の脇腹に突き刺さる

ガードもせず、構えてもいなかった場所への攻撃だったので唯はまともにダメージを負ってしまう

このままじゃマズイと唯は距離をとろうとバックステップを踏む

だが、バックステップを踏もうとした瞬間に足元が急に不安定になる

バランスを崩した唯の側頭部に憂のハイキックが襲いかかる

唯は反射神経だけでなんとか片手をガードへ回す

ガード越しに強い衝撃を受け唯は再びバランスを崩す

膝立ちの格好で憂を見上げる


憂「お姉ちゃん、遊んでると終わっちゃうよ」


唯は鼻から流れる血をペロリと舐めて立ち上がる

その顔は笑っていた

唯VS憂


唯は憂の闘い方に驚いていた

憂は最初のハイキックの際に座布団を足の指で掴みながら攻撃してきたのだ

それによりしっかりとガードは出来たのだが指先に捕まれた座布団が唯の視界を奪った

そこに脇腹へ打撃を撃ち込むと追撃には目もくれず足元のホットカーペットを思い切り引っ張った

バックステップで距離をとろうとした私は完全にバランスを崩されたのだ

唯は憂のスタイルを分析する

まともな格闘技ではなさそうだ
環境を利用することに秀でた格闘技ないし護身術だろうか

とにかく油断は禁物

そう思っていた矢先に憂が目を瞑っている事に気付いた

誘いか?

唯は戸惑う

だがその答えはすぐにわかった

憂は壁のスイッチに手をかける
辺りは暗闇に覆われた

唯は突然の事で視界を奪われる

憂は.....
目を瞑っていた事により唯より先に視界を確保する

棒立ちの唯に容赦無く攻撃をしかける憂

唯の顎へと憂のパンチが吸い込まれる
まともに当たり唯が崩れる

いけると踏んだ憂は追撃をかける
更にパンチを浴びせようとした所で唯が突然突っ込んできた

タックルだ

予想外の攻撃に憂はタックルをきる事が出来ずにまともに喰らってしまい倒れこむ

このままではまずいと瞬間的にガードポジションをとる

構わず、唯が上からパウンドを叩きつける

攻撃の早さに憂はガードが間に合わずパウンドをもらう

だがパウンドをもらいながらも憂は唯の首に足を絡める

三角絞めを狙うも素早く唯が離れた


すっかり暗闇に目が馴れた唯が構える


パウンドのダメージで片足立ちの憂は鼻から流れる血をペロリと舐めた


姉を見上げながら

憂は笑っていた

パウンドのダメージで片足立ち×

パウンドのダメージで膝立ち○

失礼しました

どうやら思ってたよりはるかに過激なルールだな
死人がでるぞ

唯VS憂


憂が立ち上がると二人の攻防は激しさを増した

憂が距離を詰めるのに合わせる様に唯が牽制のローキックを放つ

憂は足を上げてこれを流す

パァン、と小気味良い音が響く

憂は面食らって距離を離す


先程のパウンドもそうだが唯の攻撃はかなり洗練されていた
憂があの手この手で翻弄していなかったら明らかに唯に分があるだろう

事実、今のローキックは流したにも関わらず足が痺れる程のダメージ

正攻法では不利

憂はそう感じた

唯は憂が距離を置いたのを見て打撃を嫌がったなと的確に判断する

ならば、と距離を詰める


憂も反応して構える

唯が素早いステップインから鳩尾目掛けての正拳突き

あまりの早さに避けきれず肩の辺りに正拳突きをもらう

ズシリと重い

さらに唯は攻撃を仕掛けてくる

肩の打撃に意識を取られた憂へ再びローキック

憂は足を上げて流すもそのダメージは流しきれない
苦悶の表情を浮かべる憂の顔面に唯のストレートが飛んでくる

ところが唯は目の前を光によって照らされ視界を奪われる

目が眩む唯に憂はミドルキックを叩き込む
脇腹のダメージで唯の体勢が崩れる
そこへ憂の追撃が襲う

体勢が崩れて低くなった頭へハイキック

いまだに目が眩んでいるのと、ダメージで体勢が崩れている唯にそれを避ける術は無い

まともにハイキックを喰らった唯は後ろへと倒れこむ

ようやく眩しかった視界が戻ると、目の前に憂は居なかった

後ろに気配を感じて対応しようとするも既に遅く、唯は憂に後ろからガッチリと動きをロックされる

バックをとられた

この状況の不味さは格闘技をやったことのある者なら恐ろしいほどにわかるだろう

唯の後ろから憂が襲いかかる

唯VS憂


バックを取った憂は唯の顔面へと細かく打撃を加える

唯は体や頭を動かしながら片手でこれをなんとか防ごうとする

ーーーーー両手で防げばいいじゃないかーーーーー

そう思うかもしれないがバックを取られた者にとっての一番の驚異

それは後ろからのネックチョーク

つまり首を絞められる事だ


憂は執拗に唯の顔面へと細かく打撃を加えながら、唯が打撃に集中しようものならば首に腕を回そうと試みる

徐々に唯は追い詰められていく


ーーー刹那ーーー

唯の状態が前に傾き、片手が床に着く

憂はここだと確信して首へと腕を回す

不完全ながらも唯の首へと憂の腕が絡み付く


時間の問題

憂はそう思った


すると唯が不可解な行動に出る

後ろに居る憂へ攻撃をしてきたのだ


そんなことをすればますます首の腕は締め上げられる
更に後ろへ打撃を放ってそれが有効打になるとも考えにくい

憂はその攻撃に構わず唯を仕留めにかかる

唯の首に回る腕に力を込めると同時に唯の打撃が憂の顔にヒットする

だがダメージは無い


ところが


突然憂の目に痛みが走る


一瞬憂が怯んだ隙を唯は逃さず体を回転させ憂と向き合う形になる

さらに憂がまだ怯んでいるのを見て思い切り憂のボディに膝を入れる


たまらず憂は悶絶して横に転がる

追撃しようと唯は動くが、唯もまだダメージが抜けていないためその場で少し息を整える


憂は息を整えると目を擦り、唯に向き合う

目を擦ると微かに柑橘の香りがした

唯VS憂


唯「うぃ~、みかんだよ~」

息を整えながら唯が言う

憂は驚いた

あの時だ

前方へと体が傾き、片手を床に着いたあの時に唯はみかんを手にしたのだ

お株を奪われる形の攻撃に憂は唇を噛む
後少しだった

あそこで不自然な動きに私が注意してれば....

あの打撃をもっと警戒していれば...


だが試合の最中に悔やんでも仕方がない

憂は気持ちを切り替えボディのダメージの具合を確かめる


まだいける


憂はゆっくりと立ち上がる


同時に


唯もゆっくりと立ち上がり、潰れたみかんを投げ捨てる


憂「お姉ちゃん、後で掃除だからね」


いつもの様な言い方にお互い可笑しくなって笑う


暗闇の中で闘う二人と言うおよそ常識離れした空間の中で


二人の姉妹は仲良く笑っていた

読み直して描写不足に気付いた

バックを取られてた唯が後ろへの打撃にみせかけて憂の目の前でみかんを握りつぶした形になります

唯VS憂


お互い距離をとって様子を伺う

ダメージはほぼ互角か唯の方が重いだろう

だが正攻法での闘いでは分の悪い憂にとってその程度の差は大したアドバンテージにはなりえないだろう

しかしここにきて憂はようやく唯の攻撃の欠点に気付いた


唯は憂を守るため、あらゆる格闘技を勉強した

その上で

パンチならボクシングの技術を

キックなら空手の技術を

タックルならレスリングの技術を

攻撃に応じて使用する格闘スタイルを変化させているのだ

だが憂は見逃さなかった

例えばボクシングのパンチを放った後に空手のキックを出す

その間

スタイルが変化するほんのわずかな間に隙が産まれるのだ

当然と言えば当然だ

それぞれ違う技術の格闘技であり、構えからして違うのだから

そんな事をわずかな隙程度でやる唯を誉めるべきであろう

だが、憂相手にそのわずかな隙は致命的になるだろう


そこを狙う

憂は唯の隙を生み出すべく

前へと距離を詰める

唯VS憂


二人は息を整えると再び距離を詰めはじめた

動いたのは唯

鋭いミドルキックが憂を捉える
辛うじてガードするもやはり重い
憂は苦痛に顔を歪ませながらも次の攻撃に備える

続けざまにローキックが飛んでくる

ミドルキックのダメージで満足に動けずにローキックを流しきれない
憂の体が傾く

と、同時に唯がストレートを狙う


ーーーここだーーー


憂はとっさに唯のストレートにカウンターを合わせる

反射神経を攻撃に繋げるクラヴ・マガを習得している憂だからこそ出来る技

だが、どんなに素早く反応したとしても唯が先にパンチを出したのだから唯のパンチが当たるのが道理

しかし

直前にローキックを、つまり空手の動きからストレート、ボクシングのパンチを出す唯に僅かな隙が生まれる

ーーーー結果として先に憂のパンチが唯に届くーーーー


唯「知ってたよ」


届いたはずだった
いや、実際に届いたのだ

だが唯は顎を肩にひっつけて憂のカウンターに備えていたのだ

結果として

唯のストレートはまともに憂の顎を捉える


憂の視界が揺れたかと思うと
ジャンプする様に憂の腕に唯が足を絡み付けてきた
そのまま二人は倒れ
憂は腕ひしぎ逆十字を極められる


唯は自分の弱点とでも言うべき隙を知っていた
知っていて、それを闘いの中で利用したのだ

「そこまでです」


暗闇から声が聞こえる
唯はこれが琴吹家の者なんだなと理解する


暗闇から声が聞こえると同時に
憂から力が抜けた

極限の闘いで神経と体力を使い果たしたのか気を失ったのだ


スーツ「平沢唯さん、あなたの勝ちです」


唯はフウッと息を吐く
なんとか勝てた


でも.....
もう一つ姉としてやらなくてはいけないことがある

唯は憂を抱え上げるとお風呂場へと向かって行った

先程までの闘いが嘘の様にリビングは静まり返っていた


平沢 憂


夢を見たーー

中学生の頃ーーー

男に襲われーーーー

お姉ちゃんがーーー

助けてくれたーーーー

お姉ちゃんにーーー

守られてばかりーーー





気がつくと私はベッドで寝ていた
体のあちこちが痛む

服はパジャマに着替えている
血の跡も汗臭さもない

お姉ちゃんが
体を拭いて着替えさせてくれたんだとすぐに理解した

私は結局お姉ちゃんに勝てなかった

そればかりかこうしてまた
お姉ちゃんに助けてもらっている


結局

私はお姉ちゃんに並べないのだろう

平沢 憂


「うい~」

横にはお姉ちゃんが居た
心配そうに私を見ている


ありがとう


そう言いたいのに

私のコンプレックスがそれを打ち消す

私は顔を逸らしてお姉ちゃんに言う

憂「そっか、負けちゃった」

悔しい
負けたくなかった
並びたかった
認めて欲しかった

私はお姉ちゃんと並んで歩める存在だと認めて欲しかった

私の悔しさの結晶が
頬を伝って落ちていく


すると突然後ろから抱き締められた
お姉ちゃんの温もり
いつもなら嬉しいのに
今日は何故か居心地が悪かった

平沢 憂


私が何も言えないでいると
お姉ちゃんが私を抱き締めながら言った

唯「うい~、ごめんね....いつも頼りないお姉ちゃんで....」


違う


唯「いつもご飯も作って貰って、朝起こして貰って、忘れ物の心配までかけて....ダメなお姉ちゃんだね....」


違う、違う


唯「わ、たし...こん、なだ...ダメな、お姉ちゃんだけど私....」


違う、違うよ、違うの


唯「少しは....た、頼って....いいんだよ....」


私はやっと気付いた

私が壁を作っていたのだ
コンプレックスを強く持ちすぎたために

大切なお姉ちゃんに
壁を作って
拒絶して


一緒に並んで歩こうとしてなかったのは


私だ....


平沢 憂


私は泣きながらお姉ちゃんにしがみついた

お姉ちゃんも泣いていた


憂「お、お姉ちゃん、ごめんなさい私、私、ごめんなさい....」

私は泣きながらひたすら謝った
あれほど好きだった、大切なお姉ちゃんを
私が自分から突き放していた事実に私はどうしていいのかわからず

ただ泣きながら謝った

お姉ちゃんも泣きながら
私を抱き締めてくれた


そしてお姉ちゃんは言ってくれたのだ

唯「う、ういは....あたしの、自慢の妹だよ、だ、大好きな大好きな、たい、せつな妹だよ.....」

泣きながら
笑顔を作って

お姉ちゃんは言ってくれた


私はまるで赤ちゃんに戻った様に
お姉ちゃんにしがみついて
泣き続けた

まどろむ意識の中で私もお姉ちゃんに大好きと言った


私の大切な自慢の



お姉ちゃん




夢を見た

カマキリが目の前に居て

私は動けなかった

すると

お姉ちゃんがカマキリを掴んで

外に投げてくれた

ういーだいじょうぶだよ


お姉ちゃんすごい!


わたしは


目を輝かせて


お姉ちゃんを見ていた

やっと初日終了

後5試合だと......


みんなオラに力を.....

おつ
面白いよ

>>59
>>60
見てくれている人が居る限り頑張って簡完結させるぜ

乙ありがとう



しかしホントけいおんssはもう殆ど読まれないんだな少し寂しいぜ

いや、読んでますよ。

ええ、読んでますよ

>>62
>>63

わざわざありがとう
読んでる人がいるとホント書く力になるよ

更新ゆっくりで申し訳ない
なるべく頑張るんで気長に待ってやってください

放課後


授業が終わり皆が音楽室へ集まる
いつもの様に紬がお茶の用意をして集まった順にそれを飲む
いつもと違うのは何人かが既に試合を終えて生傷やら痣やらで少し痛々しく見える

皆が集まったのを見計らって紬がホワイトボードに昨日の試合の結果を書き始める

一試合目

田井中 律×
鈴木 純 ○

平沢 憂 ×
平沢 唯 ○

試合の結果を見て各々が声を上げる

律「ひぇ~、なんだよ唯が憂ちゃんといきなりやったのかよ」

唯「ムフフフ、愛の試合だよぉ~」

律「憂ちゃん....お姉ちゃんの顔を立ててあげたんだね、優しいなぁ」

唯「ぶぅ~、ちゃんと真面目に試合したもんねーうぃ~」

憂は返事もせずにニコニコと唯に引っ付いていた

律「な、なんかいつもより激しく仲がよろしいことで....」

梓「純!凄いじゃん下克上だよ!」

純「フッフッフ、私だってやる時はやるんですよ」

梓「あー、なんか純のくせに生意気......」

純「ふん!悔しかったらあんたも続きなさいよね!」

紬「あらあら~ニコニコ」

話の内容こそ違えど
いつものティータイムの雰囲気だった
そんな中
澪だけは厳しい顔をして黙り込んでいた

和「澪?大丈夫?具合でも悪いの?」

澪「....大丈夫だ....なんでもない....」

大丈夫と言う澪の顔は険しく、皆心配そうに澪を見る
律がふざけていつもの様に澪に声をかける

律「あらぁ~澪ちゅわぁ~ん、今日は女の子の日ですかぁ~?」

皆がいつものやり取りに安堵する
....だが、澪は突然立ち上がり

澪「悪い....先帰る」

そう言うと澪はさっさと身支度を整えて音楽室から出ていってしまった

唯「み、澪ちゃんなんか怒ってたよね....」

和「そうね...少し心配だわ」

梓「律先輩がデリカシー無い事言うからですよ!」

律「なぁにぃ~!梓のくせに生意気なぁ~!」

澪を心配しつつも
皆はいつもの様に振る舞っていた
事情を知るのは純と律だけ

純(ごめんなさい澪先輩....)
律(ごめんな....澪)

律と澪の約束は一試合目にして破られてしまったのだ
だが、真剣勝負の結果なのだから誰に文句を言える訳でも無い

そんなやり場の無い怒りが
澪にあんな態度を取らせたのだろう
......こうして皆に少しのわだかまりを残したまま

二日目が始まる

真鍋 和


私は軽音部のティータイムに何度も付き合った事がある訳では無い
生徒会が忙しいのもあるが何より私は軽音部では無く部外者だからだ

それでも学園祭や新入生が入って来る頃になると決まって律が書類の提出を忘れてそれを指摘しに音楽室へと出向く

そんな時に唯に半ば強引に誘われてティータイムに参加する
その程度だろう

それでも今日の皆の様子がいつもと違うことは部外者の私にも明らかだった

唯と憂

憂は唯と二人の時位しかあんなに唯にベタベタ引っ付いたりはしなかった
それなのに今日は人目もはばからずに唯に甘えて引っ付いていた

昨日二人が試合をした
その事でお互いの距離が縮まったのか
案外、あの仲の良さそうな姉妹でも私の知らない所で何かわだかまりがあったのかもしれない

そう考えると今回のこの騒動も悪くない

闘いを通して二人の本当の気持ちが通じあって仲良くなる
そんな事もあるのかもしれないわね


ただ....
澪の様子は明らかにおかしかった
あんなに周りを気にせずに怒りを露にした澪を見るのは初めて

後で電話でもしてみようかしらね


そんな風に
今日の音楽室での出来事を考えながら和は夕飯の買い物へと向かう

家では弟と妹がご飯を楽しみにして待っているだろう

今日はハンバーグなんていいかもね

そんな風に考えながら
和は商店街へと向かって行った

真鍋 和


商店街を回り、一通り買い物を終える
いつも顔を見せてるお陰でハンバーグの材料も安く買えた

後は帰ってご飯を作って....あぁ明日の予習もしなきゃね、その前に弟と妹の宿題も見てあげなきゃ

そんな事を考えながら和は路地裏へと入って行く

和「何か用かしら?と言っても、今ある用事なんてわかりきってるわね」

梓「ば、バレてたんですか...」

和「なんとなく、ね」

真っ直ぐ家に向かうならこの路地裏の空き地に用事なんて無かった
誰かが後をつけている

そう感じた和はなるべく人目につかないこの場所へと足を進めたのだ

梓「それなら....話は早いです、和先輩には悪いけど下克上の犠牲になって貰います」

和はやれやれと荷物を降ろす

和「悪いけど、忙しいからさっさと済ませてもらうわね」

そう言うと梓は少し思案して怒ったように返す

梓「ばっ、バカにしないでください!簡単に済むと思ってるなら後悔させてやるです!」

そう言うと梓はグローブをつけて構える

和もそれに応じてグローブをつける


およそ闘いとは縁の無さそうな風貌の二人が

お互いの力を示すために

衝突しようとしていた


中野 梓


梓は辟易としていた
昨日の試合の結果が知らされてから純に自慢めいた武勇伝をずっと聞かされているのだ

音楽室を出て二人で下校する最中も純の饒舌な口は止まらなかった

純「でさぁー律先輩が岩をも砕く威力のパンチを私にうってきたわけ、でもあたしは一歩も引かずにそれを顔で受け止めたの、そして一言」

純「それがお前の本気か?」

純「そう言ってやったのよー!」

話半分に聞いてはいるが脚色が凄そうだ

それよりも気になった事があったのを思い出し梓は口を開く

梓「そう言えばさ純、あの態度どう思う?」

私は澪先輩の事を率直に聞いてみた

純「あーあ、アレねアレはやばいね人目もはばからずあの憂がおねえちゃ~んなんてベタベタ引っ付いてるんだもん、女同士とはいえアレは見てらんなかったよ。あれ、まさか梓、愛しの唯先輩が取られちゃったから妬いてるの?あーーわかるよ!梓!ドンマイだよ!こうなったらもう直接ストレートに愛の告白をするしか....」

梓「そっちじゃない!」

純は唯先輩と憂の事と思ったのだろう、訳のわからない事をベラベラと捲し立てられて私は純の口を遮った

.....そりゃ、ちょっとアレは気になりましたけど....
でも今はそうじゃない!
あの温厚な澪先輩があんなにあからさまに不機嫌な感じで音楽室を去るなんて今までに無かったから....

私は心配だった....

純「あ、あー....澪先輩かぁ...あれは、うん....えっとまあ、アレだよ」

この言い方は何か知ってるなと思った

梓「純は何か心当たりあるの?」

そう聞くと純はバツが悪そうに言いあぐねている

暫く黙っていると純がようやく口を開いた

純「ま、まあさ....私が律先輩を倒しちゃったから...かなぁ」

たしかに

律先輩と澪先輩は幼馴染みで親友だ

でも
それなら負けた律先輩を気遣うのが普通じゃないのかな....

純「ま、まあさ色々あるのよ。アタシに言えるのはここまで!」

そう言うと純はおっと今日はお兄ちゃんにベースを教えて貰うんだったとわざとらしく言って足早に去って行った

なにか込み入った事情があるんだろうか....

このまま険悪な雰囲気だったら嫌だなぁ....
そんな事を思いながらふと、今日が毎週買っている音楽雑誌の発売日だったのを思い出して商店街へと向かった

中野 梓


商店街の本屋さんでお目当ての本を買い、そのまま帰るのも野暮なのでフラフラと歩いていた

夕飯の買い物時なんだろう、商店街は人で賑わっている

フラフラと歩きながらこれからの事を考える
唯先輩、律先輩、純、憂が試合を終えた

残る相手は澪先輩、ムギ先輩、真鍋先輩の三人
この中から自分の相手を選ぶのだ
と言っても既に誰か二人が試合をしていたら後は残った一人との対戦になる訳だが

そんな事を考えながら歩いていると見覚えのある後ろ姿を見つけた

梓(あれは....真鍋先輩?)

真鍋先輩は回りの人達と同じく、夕飯の買い物なのか肉屋さんや八百屋さんを回っていた

よく来るのだろう
お店のおじさんやおばさんと親しげに会話をしながら買い物をこなしている


先程までの考えが頭をよぎる


澪先輩、ムギ先輩、真鍋先輩
この三人だと澪先輩とムギ先輩を相手にするとどうしても体重差が気になる

いろんな競技で階級差がある
それはやはり体の大きさが競技の優劣に大きく関わるからだろう

ーーーもしやるならーーー

体重差がそこまで開かない真鍋先輩とやるのが賢明な選択なのかもしれない


梓の足は自然と真鍋先輩を追いかけていた

あずにゃんが和ちゃんをなんて呼んでるのかわからなかった....

更に言えば和ちゃんがあずにゃんをなんて呼んでるのかもわからなかった....

ここから先呼び方に違和感感じたらごめんなさい脳内補完してください

中野 梓


買い物を終えたのだろう
和先輩は商店街を出て住宅地へと向かって行く

私は一定の距離を保ちながら後をつける

声をかけるべきか

住宅地へと向かう道は買い物を終えた人や仕事帰りの人がちらほら居てここで声をかけて試合をするのかと言うと少し躊躇われる

ムギ先輩が騒ぎになっても大丈夫な様に手を打っているとは言っていたけどなるべくなら騒ぎにはなりたくない

すると和先輩が横道へと姿を消した

私も見失わない様に急いで横道へと向かう

道を曲がると、和先輩はゆっくりと歩いていた
その先には小さな空き地

和「何か用かしら?と言っても、今ある用事な んてわかりきってるわね」

気付かれていた!?

見つからない様にと気をつけていたのだがどうやら和先輩にはお見通しだった様だ

梓「ば、バレてたんですか...」

そう言うと和先輩はなんとなくね、と言った

辺りを見渡す

人気は少ない
おあつらえ向きに空き地

条件は整っている.....


やろう


私は決心した

梓「それなら....話は早いです、和先輩には悪い けど下克上の犠牲になって貰います」

よくよく考えると下克上って弱い者が強いものを退けるって意味だから自分で自分を弱いって言ってる様なものなんだなと今更ながら微妙な気持ちになる

和「悪いけど、忙しいからさっさと済ませても らうわね」

さっさと済ませて.....
和先輩には悪気は無い様だが流石にこれにはカチンときました

梓「ばっ、バカにしないでください!簡単に済 むと思ってるなら後悔させてやるです!」

私はそう言ってグローブをつける

先輩も荷物を降ろしてグローブをつけ、こちらに向き合う

軽音部の先輩とは違って和先輩の事はよく知らない

だが、相手もそれは同じだろう

梓(ここは慎重になるべきかも....)


そう思いながら呼吸を整えて闘う相手へと構えた

ごめんなさい>>67でおもっきし和先輩って言わせてましたこっちに統一しました本当にごめんなさい

中野 梓


私が構えて様子を伺っていると少し膠着状態になった
和先輩も様子を伺っているのだろう

ジリジリとお互いの距離を計っていると和先輩が飛び込んできた

ノーモーションからのパンチに少し焦りつつも落ち着いてそれを捌く
と同時にその勢いを利用して私は和先輩を投げた

予想外の出来事だったのだろう
和先輩はそのまま逆らうことも出来ずに地面へと叩きつけられた

私の格闘技

それは合気道だ

中野 梓


私は幼い頃から体が周りの皆より小さくて、よくそれで男子にバカにされた

ちびあず

そう呼びながら髪の毛を引っ張られたりスカートをめくられたり

今考えると大したことは無かったなと思えるが当時は毎日の様に泣いて帰っていた

そんな時にお父さんに連れていかれたのが合気道の道場だった

なんでもお父さんの知り合いが運営してるらしく、護身術代わりにやらせてみようと思ったのだ

お母さんは凄く反対していたっけ

でも
そこでの光景は私の心を奪った

小さな体のおじいちゃんが
自分より若くて、体の大きい相手を次々と投げ飛ばしやっつけていた

一目で私は合気道をやろうと決めた

元々の負けん気の強さと、自分が強くなりたいと言う思いからメキメキと上達していった

私をからかってた男子も
一度投げたら二度とからかわなくなっていた

お父さんも私がたくましく育つ様子に安堵し、当初反対してたお母さんも次第に応援してくれる様になった


合気道の最初の壁に当たったのは始めてから暫くしてからだった

合気道の性質上、稽古の内容は実戦的では無く指定された攻撃を捌く事に重点が置かれている

このままだと何も格闘技をやって無い相手になら通用するが、ちょっとした経験者に合気道の技を使うのは難しいと判断した

私は稽古の相手に頼んで相手が何をしてくるのかわからない状況で技を使う練習を繰り返した


こうして、相手の動きに合わせて色々な技を出せる様になり
私の合気道は実戦的になったのだ

真鍋 和


よくよく考えると私はこの子を良く知らない

唯がよくニコニコしながら「あずにゃんが~」と言っていたのはこの子の事だろう

中野梓

体が小さくてツインテールが可愛らしい
会話の反応から真面目でかつ負けん気の強さもうかがえる

構えを見る

腰を低くしながらすり足気味に動き両手の平をこちらに向けて警戒している

打撃重視では無い

このまま様子を見ていても埒があかないと思い様子見でパンチを出してみた

拳を捌かれたと思ったら急に体のバランスが崩れて地面に叩きつけられた

へぇ

これは合気道ね

驚いた
決められた状況では無く、相手の動きに合わせて対応する合気道が出来る人なんてそう居ないだろう

ただ.....

私を投げて倒れている様をなお警戒しながら見ている梓に和は思った

甘すぎる

私は立ち上がり、制服に付いた砂を払いながらそう思った

真鍋 和


正義や規律、風紀

聞こえは良い
これを皆が守ることで自然と周りの環境に規律がもたらされる

警察が良い例だ

刑法があり、それを守らせる警察がいるから大抵の人はモラルを守り生きていく

でもそれは「力」

言い換えれば「暴力」の上に成り立っているのだ

真鍋 和


私はいつだって自分に厳しくと心掛けていた
自分の決めた目標や与えられた課題に対して計画を立ててそれに取り組む
それを親も学校求めている

課題や目標を達成することで親や教師の信頼を得て、新たな課題や目標に対してまた計画を立ててそれに取り組む

そうしている間に私は学校の模範として周りからも信頼される様になった

生徒会など、学校社会での重要なポジションにつけたのもそのおかげだろう

与えられた役割を全うし規律を守り、風紀を乱さない

そんな幻想もあっと言う間に砕かれた


あれはいつもの様に校則を守らない生徒に注意をした時の事だった

私の中の常識が通用しない人々

その人達は汚い言葉で私を罵ると暴力で規律を守る事を拒否したのだ

私の手にはおえないと教師に報告した
すぐに教師は対応してくれて、その人達は規律を無理矢理守らされたのだ

一週間もするとその人達はもとに戻っていた
再び私が注意するとその人達は激しく怒りをあらわにした

チクりやがって
うるせぇ
目障りだ

そう言われ私はまた暴力にさらされた

再びこの事を教師に報告すると思いもしない答えが返ってきた

喧嘩しないでくれ
面倒事を起こすな
あいつらは仕方がない

私は私の正しいと思っていたいた事を
正しい事を教えてくれるべき相手に否定されたのだ


私は考えた
何が正しくなかったのか

規律を守る、風紀を守る
これは正しい

それなら何がいけなかったのか?



暴力に屈したから



結論はそこに達した
暴力に負ける正義など意味がない
ならば......

私のやるべき「正しい事」は決まった

いいね!

バットマンだな

真鍋 和


言葉で理解してもらえず暴力を盾に風紀を乱す者達を納得させる

そのためには相手以上の暴力が必要だった

私は相手の暴力を見習った
髪を引っ張り、そこら辺にあるものを使い攻撃する
不意打ちや待ち伏せ

理に叶っていた
相手を従わせるためにやれる事を躊躇わない

きっとこの行為は正義などと呼べないのだろう
だけど負ける訳にはいかない
悪意に負ける正義に価値など無いのだから


こうして幾度と無く暴力にさらされそれを学ぶ事で

私は「暴力による正義」を実行できる様になっていた

学校では頻繁に教師に注意を受けた

だが処分はされない

なぜなら暴力を使う相手に暴力で対処しただけ
そして学校にとって正しい事をしているのは私だったからだ



警察に力が無かったら?

きっと犯罪者は野放しになりこの世の中は荒れ果て弱者は踏みにじられる

警察に逆らうものは時に警察による実力行使によって拘束される

時には死をもって.....


なんてことは無い
正しい事を守らせるためには国だって暴力を認めてるんだから


こうして私は私の正しいと思う事を成し遂げていった

梓VS和


投げられた和が立ち上がり梓に聞く

和「何をしてるの?」

梓は言葉の意味がわからなかった
投げられた事が気に入らなかったのか?それとも投げられた事が理解できなかったのか?
混乱する梓に和は続ける

和「何故とどめを刺しに来なかったの?」

梓はようやく和の問いを理解する
確かにあの状況なら追撃をするのがセオリーだ
だが梓にはまだ覚悟が足りなかった

果たしてどこまで試合としてやるべきなのか
怪我をさせてしまっていいのか

そんな気持ちが梓にはまだあったのだ
そんな梓の気持ちと
まだ様子見と言う考えが梓に追撃という選択肢を選ばせなかったのだ

梓の気持ちを見抜く様に和が言う

和「そ、なら覚悟させてあげるわ」

和が言うと辺りの空気が変わった
和は相変わらず構えずに梓と向き合っている
ノーモーションで繰り出された打撃を見て梓は和がどんな闘い方をしてくるのか、どんな技を使ってくるのかまだ把握しきれていない

そもそも和には技も何も無いのだ

喧嘩、荒っぽく言うならステゴロ

それが和の闘い方なのだ

梓が警戒しながら構えるのをお構いなしにと言わんばかりに無防備に距離を詰めてくる和

またしてもノーモーションからの攻撃が梓を襲う

ーーー前蹴り?ーーー

空手の前蹴りに似ているが構えもモーションもへったくれも無く力任せに放つそれは前蹴りでは無いのだろう

ただ蹴り飛ばす
そんな攻撃だ

あまりの速さに捌くのを諦めガードを固める梓
両手でガードしたにも関わらずその衝撃でバランスが崩れる

考える暇も無く和が掴みかかりに来る

とっさに和の腕を取り梓は再び和を投げる
少し崩れた体勢からだったので完全には投げきれない
だが梓が立て直す時間を作るには十分だ

梓の投げをしのいで和が再び襲いかかる
落ち着いて和の攻撃を見極める梓

ノーモーションのパンチだ

これを受け止め、梓は先程と同じように投げる
今度はしっかりと見極めていたから綺麗に投げが決まり和が体を打ち付けられる

追撃を警戒する和が素早く立ち上がると梓に向き合い言葉をかける


梓VS和


和「最初は何か不思議な力でも使ってるのかと思ったわ」

梓は警戒を解く事無く和の言葉に耳を傾ける

和「合気道、何度か受けてみてわかってきたわ」

ハッタリだ
梓はそう思った

私だってこのレベルまで技を使えるようになるまでには決して楽では無い鍛練を続けてきた、その賜物なんだ

そんな数回投げられただけでわかる筈がない

惑わされない
これも和の戦術なんだろうと思った



和は何度か投げられて合気道の技を分析していた
最初こそ戸惑ったものの今はその仕組みがおおまかに理解ができた

やってる事は単純
相手が攻撃をすることで力の流れが生まれる
その流れを止めずにそのまま受け流すのだ

ただそれだけだと体が流れるだけで終わる
そこにちょっと力を加えるのが合気道の技なんだろう

攻撃を繰り出す相手の筋肉は伸びて不安定な状態の部位がある
攻撃の流れと、その不安定な部分に力を作用させればまるで魔法の様に投げられていたのも納得がいく

タネがわかれば後はどう対処するのか考えれば良い



梓の思いとは裏腹に和は梓の攻撃を見切りつつある

和(貴女の甘さをわからせてあげるわ)


和は梓に向き合い、距離をつめるべく歩いていく




梓VS和


和の言葉をハッタリとしつつも梓は最大限の警戒で和と対峙する

受け身をとれないタイミングで投げたにも関わらず今もなお平然と歩いてくる和は梓にとって脅威だった

更にあの打撃
ノーモーションながら威力は十分に乗っていてまともに受ければただでは済まないだろうと考える

それでも梓は自分の合気道を信じてスタンスを変えない
生半可な事をしても通じないと感じたのだ

和の攻撃に備えて集中を高める

またしてもノーモーションからの打撃
軌道は腹部

和の拳を捉えようと構える
が、フェイント

和の拳は梓の腹部へ届く手前で止まり、和は出鱈目なフォームの蹴りで梓の頭部を狙う

腹部へ備えていた梓は頭部への蹴りを捌けないと瞬時に判断して上体を反らす

和の蹴りが空を切る

空振りのモーションを見逃すまいと梓が組み付く

そのまま勢いを利用して和を投げる

和は片手で受け身をとり素早く体勢を整える

休む間もなく打撃が梓目掛けて飛んでくる
今度はフック気味に軌道を描き梓の側頭部へと和の拳が迫る

和の拳を捌こうとした瞬間


和の拳が開いたと思ったのと同時に梓は視界を奪われた

梓VS和


梓には何が起きたのか理解できなかった

和は先程の投げを片手で受け身を取ると同時に砂を掴んでいたのだ

そして打撃に見せ掛けまんまと梓の視界を奪う事に成功する

梓が辛うじてボヤける視界を取り戻すと同時に和の拳が梓の顎を捉える

和のパンチをまともに喰らった梓は大きくバランスを崩し後ろへと足をもつれさせながら後退する

効いていると判断した和は追撃するべく距離を詰め、間髪入れずに蹴りを出す

打撃のダメージで視界が定まらない梓はぼんやりと揺れる視界に和の蹴りを見る


このまま受けたらダメだ


ここで梓は予想外の行動に出る

捌けない、避けられない
それなら前に出よう

梓の判断は和の意表をつく
前に出たおかげで蹴りのダメージは半減される
すかさず和の足にしがみつき渾身の力で投げる

面食らった和は受け身をとれずに地面へと叩きつけられる

だが梓も浅かったとはいえ和の蹴りのダメージで膝をつく

和もまともに叩きつけられたダメージですぐには立ち上がれない


一進一退の攻防が繰り広げられていた

梓VS和


和「凄いわね、甘かったのは私の方だったわ」

和が立ち上がりながら言う

梓「砂をかけるなんて卑怯です...」

梓もなんとか立ち上がりながら和に言葉を返す

和「制服、破れて無いといいのだけど....」

梓の抗議など気にもしない様子で和は制服の上着を脱いで砂をはたく

梓「聞いてるんですか!」

梓が怒気を含めて叫ぶとフッと笑って和が梓を見る

和「聞いてるわよ、でもね」

何かを言いかけたかと思った刹那
和が一気に距離を詰める

和「やっばり甘いのは貴女」

言うと同時に和は自分の制服の上着を梓に被せる

梓「な!どこまで卑怯なんですか!」

梓は上着を払い除けようとする
だが、先に和の蹴りが梓のわき腹を捉える
ぐぅ、と声を漏らしながら膝から崩れる梓
和はとどめとばかりに自分の制服の上着が被せられたままの梓をお構いなしに蹴り上げる


梓は集中していた
制服で完全に視界を奪われ、蹴りを喰らいダメージを受け絶体絶命
ならば、梓は五感を研ぎ澄ませて和の攻撃を感じる
制服越しに梓の顎を真下から何かが触れた


ーーー今ーーー

限界まで神経を研ぎ澄ませた梓は視界を奪われながらも和の蹴りが顎に触れると同時に和の足を抱える
そのまま和を押すようにして、和の蹴りの勢いをも利用して和を叩きつけるかに思われた

和「こうよね」

和の声が聞こえたと思った瞬間に梓の体が崩される

ーーーこの人ホントにーーー

そう思った瞬間に梓の鳩尾へと和の膝が突き刺さる

和は梓の合気道を試合の中で完全ではないにしろ見切っていた
そして投げるまではいかなくとも相手のバランスを崩す程度に合気道の理屈を体現したのだ

膝を抱える梓が和の体を押し倒す
その瞬間に和は体の力を一気に抜いた
これにより梓は和の全体重を抱えた事になる
万全の状態ならともかくダメージを受けていた梓は急に体重を乗せられた事によりバランスを崩したのだ
そしてすかさずとどめの膝蹴りを放つ
バランスを崩した梓にそれを避ける術はなかった....

「そこまで」

いつの間にか黒いスーツを着た男が近くに立っていた

スーツ「真鍋和さん、貴女の勝ちです」

気を失っているであろう梓に被さった自分の上着を取り、砂をはたく
まあこの子はスーツの人がなんとかしてくれるのよね
そんな事を思いながら和はつぶやく

和「合気道って意外と難しいのね」

そう言うと和は身なりを整え買い物で買った荷物を持って帰路へとつく

先程の試合は買い物のついでだったと思わせるほどに

和はいつもと変わり無く家へと歩いていた


ちなみに梓へのとどめの鳩尾への膝は劇場版で梓が唯に放った肘への私怨です本当にありがとうございました

>>78
>>79

レス感謝です
そんな一言でも励みになります
今日はここまで

時間が取れればまた明日更新したいと思います


掴まれたら終わりの工藤枠は怪力のムギかと思ってたらまさかの和ww
ちょっと属性変わってるけど

>>88
おっと、参考文献がバレてしまいましたか....
属性がおかしな事になってるのはすいません自分のキャラへの理解不足です

和ってこんなイメージでしたわ俺の中では....

秋山 澪


律の馬鹿
嘘つき

音楽室で律が負けたと聞いてから
私の頭の中はこの二言で埋め尽くされていた

わかってる
手を抜いた訳じゃない
本気で、真面目に闘って負けたのだろう
そんなのはわかってるんだ

でも.....

あの約束を守って欲しかった

律は私にとって特別な存在だから

二人で最後に闘いたかった....


いつもと変わらぬ家への道が
やけに寂しく見える

私は....これから....闘う意味はあるのだろうか....

自分の心が鬱蒼と
何か黒いモヤモヤで覆われていくのを澪は感じていた

秋山 澪


私と律は小学校以来の親友だ

私は小学生の頃、今よりも酷い人見知りだった
性格も臆病で引っ込み思案

そんな私を掬い上げてくれたのが律だった

思った事を私に全てぶつける
疑問に思ったこと、不思議に思ったこと、凄いと思ったこと

律はその感情を偽ること無く私にぶつけてくれた

はじめは戸惑ったりもした
だけど気付けば律のペースだった

作文の発表だって律が居なかったらきっと私は辞退していただろう


律と仲良くなってから私は以前ほど人見知りもしなくなったし社交的になった

それでもなお私は普通の子に比べるとオドオドしている事が多かった

見かねたパパが私を半ば無理矢理、子供空手教室に連れていった

私と空手の出会いだ

秋山 澪


パパは空手を通じて私に強い心に育ってほしいと願ったのだろう
沢山の子供が参加していたので引っ込み思案な私の性格を治すにはぴったりだと考えた

大半が男の子だったので初めはその中に紛れて練習をするのが恥ずかしかった

それでもなんとか頑張った
大きな声を出しながら正拳突きや回し蹴りの練習を繰り返した

恵まれた体型と必死の努力で私はよく誉められる様になっていた

嬉しかった

人に認められる事が
いつもビクビクしていて何事も気後れしてしまう性格だったから

一生懸命取り組んで認められることは私と言う存在を肯定されている様に感じて嬉しかった

だが.....

やがて私は大きな壁に阻まれる

いや、今も壁を越えられていない


ーーー組手ーーー


私はそれまで順調に上達していた

だけど組手になると私は入門したての子とさほど変わらない程に動けなくなるのだ

秋山 澪


空手の進級には組手がある
誰もがわたしの進級を疑っていなかった

だけど試験の組手が始まると私は皆を驚かせた
私は組手で全くと言って良いほど何も出来ずに終わったのだ

結果、進級は見送られた

相手に打撃を思いきり打ち込めない
組手で相手に打撃を打ち込もうとすると体が硬直した
懸命に当てようと頑張れば頑張るほど、もがけばもがく程に
私は人に技を出せなくなっていった

律相手ならいつだって、時には荒々しく頭をはたいたりしてふざけあっているのに

道場の相手には体が硬直してしまうのだ

何度も何度も
この忌々しい呪縛を断ち切ろうと私は努力をした
何度負けても、何度でも
わたしは挑み続けた

.....だけど.....

ある日、組手の相手の一言で私の心は折れた

「お前手加減してんじゃねーよ」

相手にしてみれば型の練習や打ち込みでは優秀な私が
組手では全く動けないのだ
そう思われても仕方ないのかもしれない

だけど、その一言で私は組手を諦めた

誰かに嫌われたくない
疎まれたくない
嫌な思いをさせたくない

それからの日々、私は道場の隅で一人延々と型稽古と打ち込みだけを練習していた

これでいい
これで誰も嫌な思いをしない


結局空手を通じて
何も変わっていなかった

私は私のままだったのだ

人見知りで、引っ込み思案で


私は変われないんだ
そう思った.....

秋山 澪


突然の着信音に澪は驚いた
携帯のディスプレイをあわてて見る

ーーー律ーーー

少しの躊躇いの後に澪は通話ボタンを押した

律「....もしもし、澪?」

澪「ああ、どうした?」

澪が素っ気なく答えると律の声が止まった
どうしたんだと耳を澄ませると律が泣いていた

律「み、みお....ごめん、あたし、あた....し、約束、まも...れなく、て」

澪は驚いた
律とは長い付き合いだがこんな風にふざけたりせずに泣いて謝る律を見たのははじめてだったのだ
澪が何も言えないでいると律は謝り続ける

澪はやっとわかったのだ
音楽室ではあんなにふざけて普段と変わらない様にしていたが
実は律の方が私との約束を重く考えていたのだ
私は感情に任せて音楽室を飛び出した
律にも何も声をかけなかった

だが律は
普段と変わらない様子で皆に振る舞い、変な空気にしないよう勤めたのだ
その上で律は私に泣いて謝る
皆を思いやり、澪を気にかけて
軽音部の部長としても
私の親友としても
律は両方に誠実なのだ...


それに比べて私は
自分の事しか考えていなかった

なんて私はバカなんだろう....

秋山 澪


澪「律、もういい謝るな」

私がそう言うと律は泣きながら、うんと返事をした

こんなにも私を大切にしてくれて
思いやってくれる律
ごめんな、謝るのは私の方だよ

澪「律、後は私がみんな倒す。だから心配するな」

澪の中で何かが吹っ切れた
自分のためじゃない
他の誰のためでもない

律のために私は負けたくない

私の言葉を聞くと律は泣きながら負けるなよと言ってくれた

電話を切ると私に雑念は無くなっていた
ただ律のために
律との約束を果たすために全力で闘う

澪の心はそれだけの想いで埋め尽くされた

約束を果たすために

澪は携帯のアドレス帳から名前を呼び出す


ムギ


私は迷うこと無く発信を押した

琴吹 紬


電話を切ると私は鼓動が早くなっているのに気付いた
鏡を見ると顔も紅潮している

「今からやれるか?」

澪ちゃんは要点だけを簡単に告げた
それなのに私の胸は高鳴り顔が綻んでしまう

きっと好きな人に告白されたらこんな気持ちになるんだろうと私は思った

私は琴吹家の一人娘として大切に育てられてきた
勉強や教養を含めた習い事を家の中で各種専門のエキスパート達に小さな頃から教わってきた

その中で一番嫌いな習い事

護身術だ

こんなことはしたくないとずっと思ってきた
だけど、今は感謝している

いつもは仲良くお茶やお喋り、演奏の練習をしている大切な仲間達

その仲間達と闘う

不安と期待の狭間で高揚する気持ちを抑えて
紬は斉藤に出掛けるから支度なさいと告げた

琴吹 紬


私が小さな頃から嫌いで嫌いで仕方なかった習い事の護身術

その教えは様々だった
日常の過ごし方から教わり、護身用のスプレーやスタンガンの使い方
そして近接格闘術だ

私を守る執事達が倒れ
護身用の武器を失った時
最後に残された自衛手段が私自身が闘う事だった

柔術

相手に掴みかかられたり、自ら掴みかかり相手の間接を固めて無力化する格闘技

南米の出身の方で高名な指導者が私に小さな頃から定期的に指導をしてくれた

やりたくない気持ちを抑えて
私は自分の立場を考えて真面目に鍛練に励んだ

一財閥の一人娘

親だけでは無く大勢の人間から期待され、心配され育てられてきた

少しでも皆の心配や負担を無くすために私は強くなる努力をした

持ち前のパワーと、真面目な取り組みのおかげで中学を卒業する頃には指導者の満足するレベルまで私は上達していた

一度もその技術を使うこと無く私は今まで生きてきた

そして

りっちゃんのあの一言で私の秘められた欲望が目覚めたのだ


琴吹 紬


律「なぁ唯~軽音部の中で誰が一番強いと思う ~」

いつもの冗談だと思った
なんでも無い冗談

それでも、何故か体が反応して私は持っていたティーカップを自分の力で割ってしまっていた


誰が強いのか.....

私は強いのか......

皆と闘う......

こんなこと望んでる筈は無い
筈は無いのに.....

私は嬉々としてこの話を進めていた


もう、戻れない

斉藤の運転する車から外を見ながら私は思う

今から、私は大切な友達と闘う
どちらが強いのか
それを決めるために真剣に闘う

澪ちゃんはどんな風に私を倒そうとするのか

私はどんな風に澪ちゃんを倒そうとするのか

その答えを私は求めに行く


「御嬢様、着きました」

斉藤が車を停めて私は外へ出る

「どうかお気をつけて....」

斉藤の言葉を背に受けて、私は河原に佇む澪ちゃんの元へと歩いて行く

澪VS 紬


対峙する二人

澪は呼吸を整え、構える
空手のスタンダードな構え

紬も応じて構える
腰を落とし、手を前に出して澪の攻撃に備える

じりじりとお互いを牽制しながら距離を計る

先に動いたのは澪だった
鋭い回し蹴り
その軌道は紬の脇腹へ吸い込まれる


昨日までの澪なら
この蹴りは振り抜けなかっただろう

だが、律と約束をして澪は自分の呪縛を吹っ切ったのだ

空手独特の膝から入る蹴りの軌道に紬はガードを固める


紬に何か違和感が走る
これはダメ
このままじゃダメ

何故かはわからないが本能がそう叫んでいた

とっさに紬はガードを上げて頭部を固める
と、同時に腕が痺れる程の衝撃が紬を襲う

驚いた
膝の角度からは間違いなくミドル、若しくはローキックが予想された

だが膝から先の動きだけでその蹴りはハイキックとなったのだ


空手において最も優れた武器
それは間違いなく回し蹴りだろう

その柔軟なフォームから繰り出される蹴りは始点となる膝から先の動きでハイ、ミドル、ローと自在に攻撃する箇所を変化させられる

危なかった

紬は手のひらを握り直してダメージが無いかを確認する

問題ない

再び紬は構える
これは迂闊に近付けない、そう紬は思う

澪も紬の反応に驚いていた
明らかに無警戒だった
あわよくばこの一撃で終わるのでは無いか
そんな思いがよぎった
だが、紬はとっさにガードを上げた

そしてその衝撃に澪は驚いたのだ

まるで岩

これは簡単に終わりそうも無いなと澪は思った


ヒリつく様な空気の中で

二人は笑みを浮かべ再び向き合った

澪VS紬


再びお互い距離を計りながらジリジリと相手の動きを伺う

紬はなんとか澪の懐に飛び込みたい
逆に澪は自分の蹴りの距離を保ちたい

お互いの距離を奪い合う攻防が始まる

次に動いたのは紬だ

コンパクトにパンチを出す
だが距離が離れ過ぎているために澪は容易にそれをかわす
紬のパンチに合わせて澪はローキックを撃つ

鋭いローキックは紬の足を的確に捉える
だが、紬は平然としていた

澪は嘘だろと、またしても驚く
まともに当たった筈のローキックに紬は全く怯まないのだ

そのまま紬が前へ出る
姿勢を低くしてタックル

澪はタックルに膝を合わせる
だが紬のタックルが速すぎて膝は不完全な形で紬の胸辺りを捉える

お構い無しに組み付き、澪のバランスを崩す紬

そのまま澪は体勢を崩す
とっさに紬を足で挟む形で紬との距離を取る
本能的に澪はガードポジションをとっていた

紬が拳を降り下ろしてくる
距離があるおかげで澪はそれを紙一重でかわす

ズンッ、と真横で紬の拳が土に沈むのを見た

澪はゾッとした
あんなのが当たったらひとたまりも無い

そう思っていると膝に激痛が走る

紬が体を回転させて膝間接を極めたのだ

咄嗟に澪は極められて無い方の膝を紬に放つ
不意を突かれた攻撃に紬の体から一瞬力が抜ける

澪は全力で足を紬から引っこ抜き急いで距離を取る

危なかった

澪の額に冷や汗が流れる

想像通り紬のパワーは凄まじい
加えてあの動き
捕まったらヤバイなと澪は思う


ゆっくりと紬が立ち上がる

紬は感謝していた
護身術を教えてくれてありがとう
あんなにも嫌だった時間を両親が与えてくれたおかげで
こんなにも楽しい事が出来る

こんなに楽しい時間があるなんて
知らなかった

紬は笑顔で澪に言った


「わたし、皆と闘うのが夢だったの」


その笑顔は、いつもの紬の笑顔とは異質な物だった


澪VS紬


澪は一つの答えに行き当たる
生半可な攻撃じゃ紬は怯まないと確信したのだ

ならば

全ての蹴りを全力で打ち込む

この考えは自身への防御を捨てる危険な考えだ
だが組まれて澪は悟ったのだ

組まれたらどの道勝機は無いと

それなら組まれる前に攻撃で紬を寄せ付けない

攻めは最大の防御

澪の腹は決まった


紬は少し攻め急いだと反省をしていた
澪が咄嗟にガードポジションをとったものの寝技に対する防御はさほど洗練されていなかった
苦し紛れの膝で思わぬダメージを負ったが寝技なら圧倒的に有利だと感じた

もう少しじっくり行けばよかった

そう考えながら再び澪を捕まえる算段を思案する
紬は自分の耐久力に自身を持っていた

ならば

例え強力な一撃を貰おうとも、なんとか耐えて寝技に持ち込めば良いだけの話

紬の腹も決まった


寝技と打撃

噛み合いそうもないお互いの持ち味が真っ向から衝突する

澪VS紬


二人はお互いの空気の変化に気付いていた
ここから先は一瞬の予断も許されない
二人同時にそう思う

再び向き合い、距離を計る
その場に居るだけで息が詰まりそうな緊張感の中で二人は静かに集中していた

ゆっくりと紬が距離を詰める

まだだ

澪は紬を引き付ける
半端な距離で攻撃を防がれたら一気に劣性に立たされる

紬もいつ澪の強烈な打撃に晒されてもおかしく無いというプレッシャーを圧し殺して前へ出る

自分の身体を削るような空気の中、一歩また一歩と紬は前へ出る

澪は自分の距離に入った紬へ渾身の回し蹴りを繰り出す
空手独特の軌道が読み辛い攻撃に紬の対応は一瞬遅れる

ーーー頭ーーー

膝から先の動きに注視して紬はガードを固めると一気に前へ出る

が、紬の想像を上回る衝撃が腕と頭部を襲う
ガードしたにも関わらず視界が揺れる紬
足も少し定まらない
なんて威力なの、と紬は舌を巻く

続けざまに紬の身体に澪の正拳突きが連打される
一撃一撃がまるで岩の様な重さ

たまらず紬は押される

さらに澪の攻撃は続く
少し距離の離れた紬に前蹴り
爪先が紬の鳩尾へと突き刺さる

苦悶の表情を浮かべて紬がグラつく

一気に距離を詰めて追撃の正拳突きを鳩尾へと繰り出す

2発、3発とクリーンヒットする
だが

3発目の正拳突きは紬に捉えられる
すぐさま体重をかけてアームロックへと移行する紬

突然の間接技に対応仕切れず澪は倒される
なんとかもう片方の腕で手をロックして耐える

だが、紬の力がジワジワと勝り始める

不味い

そう思った澪は一気にロックを外して腕の力を抜く

力強くロックされていた手の力が抜けて紬の技が一瞬不安定になる

素早く身体を回転させて紬の技から抜け出す澪

慌てて澪は距離を取る


澪は一か八かの賭けで腕の力を抜いた
それは寝技の対応として正しい判断だった
澪は習うでも無く
ギリギリの所で本能に助けられたのだ

澪VS紬


澪は腕のダメージを確認する
一瞬とは言え紬の人並み外れた力で伸ばされた腕は明らかにダメージを負っていた

澪の頭に律の声がよぎる
泣きながら、謝ってきた律

私は、私まで負ける訳にはいかない
痛む腕を上げて拳を握る

この痛みは、律の痛みだ

澪は腕のダメージに臆する事無く戦意を露にする

紬も自身へのダメージを確認する
重い回し蹴りをガードした腕にダメージが蓄積されている
加えて鳩尾へと連続して攻撃を喰らったせいか身体が重い

まだ、続けたい
少しでも長く続けたい

自分のこの欲求を満たすために

受けたダメージをものともせずに紬もまた構える

お互いの気持ちは少しも折れる事無く

なおも闘いは続く

澪VS紬


紬がまた一歩、一歩と距離を詰める
普通ならあれほど攻撃を受けたならば闘い方を変えるものだ
だが紬は頑なにこのスタイルを変えない

一度でもまともに捕まえれば私の勝ち

紬はそう確信していた

対する澪も先程と考えは変わらない
紬に捕まる前に兎に角全力で攻撃を叩き込む

自分のスタイルを信じて
二人は闘い方を変えない

再び澪の間合いに紬が入る

ーーー回し蹴りーーー

更にスピードと威力を増した蹴りに紬は反応が遅れる

辛うじて片手を澪の足と自分の脇腹へねじ込む紬

凄まじい蹴りの衝撃が紬を襲う
だが怯まない

更に前へ出る紬
低い姿勢からタックルを放つ

回し蹴りの体勢から十分に戻しきれていない澪はタックルをまともに浴びる

身体を後方に打ち付けられる澪

紬が拳を降り下ろす

澪は全力を込めて両足で紬を蹴りつける

たまらず後ろへと体勢を崩す紬

先程の回し蹴りのダメージで動きが鈍くなった紬は追い討ちをかけれない

澪もタックルで後方に倒された際に身体を打ち付け、ダメージを負っている

お互い満身創痍になりながらも立ち上がり、再び向き合う

紬が距離を詰める
迎え撃つ澪

息を切らし、ダメージに体が重くなろうとも

二人の顔はその状況を楽しむが如く緩んでいた

澪VS紬


紬の表情が一気に変わる
決死の覚悟で全力のタックル

このまま攻防が続けばダメージで徐々に削られる可能性を考えた紬がまだ余力のある今、全力のタックルで勝負をかけたのだ

ガッチリとうでで頭を守りながら
物凄い勢いとスピードで紬が迫ってくる

不味い

あのタックルを受けたらまず逃れられないだろう

そう判断した澪は取って置きの技を出す

まだ紬に見せていない、最後に取っておいた技

ーーー後ろ回し蹴りーーー

身体を捻り、背を向け
その回転する力をそのまま利用して全ての力と体重を後ろ足に込める


長い年月を
型練習と打ち込みに費やした澪の後ろ回し蹴りはその精度と威力を並々ならぬ物へと昇華させていた

紬のガードを突き破り顎を捉える


だが、紬の勢いは衰える事無く澪へと突っ込んでくる

バカな!

そう思うと同時に澪は激しく身体を後方へと打ち付けられ視界が揺れる

なんとか紬を引き剥がそうとするも紬の全体重を身体に受けなす術がない



「そこまで」


不意に声が上がる


「秋山澪さん、貴女の勝ちです」


驚いた澪は紬を確認する

タックルの途中で意識を失ったのか、紬は目を瞑り動かなかった

澪「ムギ、ムギ!」

紬の頬をはたきながら澪が呼ぶ

紬が目を開いて自分の置かれた状況を確認する


紬「あれ、もしかして私負けちゃった」

澪「あぁ、でも倒された時は負けたと思ったよ」

紬「そっか、残念....」

紬は駄々っ子が玩具を買って貰えなかった様な、そんな顔をする

子供の様な表情を見せる紬を見て澪が笑う

そんな澪を見て紬が頬を膨らませ悔しがる


こうして紙一重の闘いは澪に軍配が上がる

二人は立ち上がるといつもの表情に戻り、寄り添いながら笑い合う
二人が車に乗り、車が走り去る


河原には静寂が広がっていた




一試合目終了

お疲れ様です
一試合目終了と言うことで一度区切ります

読み返して見た自分の感想ですが
無駄に長い、誤字脱字半端ない、説明不足な場面大杉と反省しきり...

話がマンネリ化&グダグダになっていると思っている読者様


安心してください私もそう思ってます....

二試合目からなんとか盛り返したいと思っていますのでどうかご勘弁願います

ここまでで質問あれば少しだけ答えます

無ければ話がある程度固まり次第投下して行きます

乙です。
澪と空手はすごく合う。タッパあるから蹴りが映えるな。


グレイシー柔術かな?

>>108
ですよね、澪は最初から空手で行こうと考えてました、ホントは寝技の対応は全く出来ない設定だったんですがそれだと試合の描写が苦しくて寝技の対応をさせてしまいました

>>109
一応モデルはグレイシーです(笑)
ムギはプロレスやらせたかったんですけど流石に雰囲気にそぐわないと思って自重しました

寝る前に>>42の補足ストーリーを投下

本編とは全く関係の無い蛇足です

琴吹家の男


目を疑った

御嬢様の友人の試合とやらを見守るよう斉藤執事から言われた時は子供の遊びに付き合わされるのかと辟易としたものだ

だがどうだ
目の前で行われた試合は素人の私にもわかる壮絶な物だった

平沢姉妹の試合を見届けた私は紬御嬢様へ連絡を入れる

スーツ「試合は終わりました、平沢唯の勝ちです」

紬「そう、ご苦労様。二人は大丈夫?」

スーツ「グローブから送られてくるデータを見る限り問題はありません、どうやらお風呂場へ向かう様です」

そう告げると紬御嬢様の言葉が止まった

紬「....そう....一人で向かったの?」

スーツ「?いえ、二人です」

突然御嬢様の声が上ずった

紬「様子を記録しなさい」

私は耳を疑った
女子高生のお風呂を覗く?
これはもはや犯罪ではないか
御嬢様は正気なのか?
私が黙っていると紬御嬢様が空気を察したのか口を開く

紬「いい?私たちはこの闘いを安全に管理する役割があるのよ、もしお風呂場で二人が倒れでもしたらどうするの?激しい試合の後よ?深刻な怪我をしていないか私が確認する必要もあるわ!」

なるほど流石御嬢様お優し....
いやいやいや、それならわざわざお風呂を記録しなくていいだろ
待機して出てきた所の様子を見れば良い筈だ
というかやけに口数が多かったぞ
なんか興奮してたし
ホントに記録するのか女子高生のお風呂を?

すると御嬢様は恐ろしい言葉を口にした

紬「研修島」

私は戦慄した.....

琴吹家の男


研修島

そこは仕事のレベルが一定に達しない者が送られる島
寝る以外は全て研修と言う過酷なスケジュールをこなさなければならないのだ

だが

真の怖さはそこでは無い

研修島の講師は.....

同性愛者なのだ!


同姓アイ(愛)ランド

我々琴吹家に支えるものが陰で呼ぶ名前

我々が最も恐れる場所

なんとしても、あの場所へは行きたくない

スーツ「....わかりました....」

私はそう答える...半ば脅迫に屈した形だ

紬「しっかり全部鮮明に記録する事」

そう御嬢様が力強く言うと携帯は切れた

私は足音を立てずに平沢家のお風呂場の窓へと向かった

琴吹家の男


私は全てを記録した
鮮明に、全てを....
途中で故郷の母を思い出し謝った

二人がお風呂場から出ると、私は足を忍ばせて屋敷に戻ろうとする

「何をしている!」

突然光を向けられて眩しさに手を掲げる

うっすらと光を照らす人物を見る


警察だ


私は動揺する
トラブルがあった場合は琴吹家が発行した例の書類を見せれば良い

だが、これはアウトなんじゃないか
咄嗟に私はビデオカメラを隠す

警官「おい!今何を隠したんだ!」

見られていた....
このままでは研修島どころの話では無い
逮捕されてしまう
私は意を決した

素早く警官に近付く
警官はビックリして警棒を抜こうとする

スーツ「遅いっ!」

私は手刀を警官の首筋に打ち付ける

警官は倒れ、気を失う


助かった.....
後はこれを届ければ今日の仕事は終わりだ

私は屋敷へと向かった




ビデオを受け取った紬↓

紬「二人とも最高だわハァハァ」


人払いをして警察にも手を回してたはずなのに・・・スーツ男に恨みでもあるのかムギちゃん

おぉう…ガチにございましたか

インフルエンザでダウンしております
申し訳ありません、更新暫くお待ちください

ラジャ

インフルはしゃーない

お大事に

放課後


一試合目の全てのカードが終わった
ムギちゃんがホワイトボードに全ての結果を書き記す

一試合目

田井中 律 × 鈴木 純 ○

平沢 憂 × 平沢 唯 ○

中野 梓 × 真鍋 和 ○

琴吹 紬 × 秋山 澪 ○


結果が書き記されるとまた、皆がワイワイと騒ぎはじめる
あずにゃんはなんだかとても悔しそうで納得いってなさそうだった

ムギちゃんも悔しそうでマンボウみたいにほっぺたを膨らませてた

色んな想いや、意見もあるだろうけどこれが結果だ
ムギちゃんの家の人の報告からもルールに反する行為などは無かったとされ一試合目の結果はこれで確定した


律「ところでさ、次の試合はもう今日からでもはじめるのか?」

りっちゃんが唐突に声を上げた

紬「皆のダメージの状況から3日だけお休みにした方がいいってお医者様が言ってたわ。大きい怪我とかして欲しくないから私もこの意見に賛成よ」

ムギちゃんが言うと皆が頷いた

皆顔や腕、足に生傷やアザがあるけど大きな怪我をしている様子は無かった
これなら三日もあれば回復するだろうと皆も思ったのだ


早く闘いたい


そんな気持ちを抑えながら


あっと言う間に三日間は過ぎて行くのだった

秋山 澪


澪はベッドに寝転がりながら紬との闘いを思い返していた

今まで、あれだけ人に打撃を撃ち込むのが怖かったのに
紬との試合では全くそんな恐怖感はなかった

澪は自分でもわかっていた

律の負けを聞いた時
律が泣きながら謝った時
何かが自分の中で変わったことを

小学生の頃の作文の練習をふと思い出す

人前で作文の発表なんて出来ないと泣き崩れる私に、律は笑顔で手を差し伸べてくれた

おかげで絶対に出来ないと思っていたのに、皆の前で作文の発表が出来たのだ
あの時は親も大喜びだったな

澪から自然と笑みが溢れる

ーーー結局ーーー

私はまた律に助けて貰ったのだろう

律が勝っていたら、律のあの声を聞かなかったら

私はあれほどまでに闘えただろうか

わからない、わからないけど

多分無理だった気がする

いつだって私の側でふざけて、私をおちょくって、勝手に私の事まで決めて、おせっかいな律

それでも大切な律

私は届く筈も無い言葉を律に向けて言った

ありがとう律

私が律の分まで頑張るからな



澪は幼馴染みへの想いを胸に秘め

次の闘いへと挑むのだった

鈴木 純


私は音楽が好き
小さい頃からダンスをやってきたのも音楽が好きだから

どちらかと言うと音色を奏でるよりも、直感的にリズムを刻みたい

そんな思いから私はベースを選んだ


ジャズ


なんだかかっこいい響きで、軽音部の誘いを断ってこっちの部活に入っちゃった訳だけど

なんていうか
おとなしいんだよね、ジャズって

それに比べて....

律先輩との試合は本当に楽しかった
律先輩の拳と、私の技とで
二人で音楽を作るみたいな
そんな高揚感に包まれた体験だった

あーあ
こんなに楽しい事があるなら、軽音部に入ってれば良かったなぁ

なんて事を思いながら適当に部活をこなした


部活を終えると私の足は自然と律先輩と試合をした場所へと向かっていた

人通りが少なくシンと静まり返る路地

目を瞑るとそこには楽しそうに闘う二人の姿が浮かび上がった

今までやってきたどんなダンスより、どんな演奏より楽しくて満たされた時間がそこにはあった

二人で本気でぶつかり合って
どちらが欠けてもいけない
二人で奏でる最上のリズム

そんな満たされた時間

あーあ、早くまたやりたいなぁ


はやる気持ちを抑えて

ふと、今日のご飯はなんだろう

そんな事が頭をよぎったのだった



自由気ままに、楽しさを求めて

純は次の試合へと挑む

真鍋 和


今日のご飯はおでん
大根とかキャベツとか卵とか蒟蒻とか
安く買えるもので大量に作れるので和はおでんがお気に入りだ

鍋に昆布と干瓢を数切れ入れてお湯を沸かす
こうすると沸騰する前に柔らかくなった昆布を干瓢で縛れるので昆布巻きに再利用出来るのだ

昆布を取り除いて沸騰させたら鰹節を二掴みほど入れて10秒だけ待つ

10秒経ったらザルで鰹節を取り除いて出汁に味付けをする
みりん、塩、醤油で薄めに味付けをして先程取り除いた鰹節を100円均一で買ってきた洗濯ネットの小さい奴に入れて具材と一緒に沸騰させないように煮込む

沸騰させると出汁が濁るし鰹節からえぐみが出るからだ
沸騰させなければ透き通った、鰹節の1番、2番出汁の効いた美味しい煮汁が出来る

和のおでんのこだわりは牛筋だ
これを入れるか入れないかで旨味が劇的に変わるのだ
後は先程の昆布、だし巻き、ロールキャベツ(具無し)、蒟蒻、大根、卵、はんぺん、ちくわを入れて弱火にかけておく

さっきからリビングでお腹が空いたと騒ぐ声が聞こえてくる

煮汁の味見をしながら、ふと試合の事を思い出す

合気道か.....
難しそうだけど、もう少し復習しとけばいざって時に使えるかも

おでんをよそいながら合気道の感覚を思い出す

要はタイミングと力加減なのよね
後何回か試せたら良かったのに....

合気道の使い手と闘えたのだからもう少し自分でも使えるようになっておきたかった

そんな事を考えながら弟達におでんを運んでもらう

食卓に着いて皆で食事をしていると、考え込んでる私に弟が「ねーちゃん彼氏でも出来たの」なんてバカな事を聞いてきた

私は、下らないことを言ってないで早く食べて勉強しなさいと言っておいた

そんなお母さんみたいな事言ってるから彼氏が出来ないんだよと、弟が呟く


ほんとに生意気に育ったわね

ハァ、とため息をついておでんを口に運ぶ
温かい蒟蒻から出汁が染み出て来る
だけど、やっぱりおでんは二日目が一番だなと和は思う

おでんの煮汁はうどんにするから明日と明後日はご飯を考えなくて済むから楽ね
だからおでんって好きなのよ
弟達と、いつもと変わらぬ会話をしながら和は食事を済ませる


和にとって闘う事はごく日常の事だ
あえて闘いを思い返して特別な感傷に浸ることも、次の闘いに何かを備えるなんて事もしない

今までと同じ
日常を過ごしながら闘う相手が現れたら闘う、ただそれだけの事


いつもと変わらぬ空気の中で
和は次の闘いまでの時間を過ごすのだ




和ちゃん戦うたびに進化するモンスターやん
つかジャックみたいだな

昆布巻き云々とか煮汁をうどんにするとか、作者さん すごいと思う

つまり牛すじは最強

平沢 唯


唯はお風呂からあがると窓から星を眺めていた
真ん丸な月がぽっかりと浮かび、澄んだ空気の中星達がキラキラと瞬いていた

和ちゃんが言っていた事を唯はふと思い出す
星は皆同じように光ってるけど、地球からの距離は皆別々なの

それもとんでもなく遠い場所にあの星達はあるのよと言っていた

なんでも光の速度で一年かかる距離を1光年と言うらしい
夜空に見える星達はその光の速さをもってしても何百年とかかる距離にあるのが一般的らしい

つまりあの星の光は何百年も前の光なのよって教えてくれた

光の速さは時速にしておよそ10億8000万キロ

そんなとんでも無い速さで何百年もかけて届くなんて、なんだか不思議じゃない?

和がそう聞くと私は車だとどれくらいかかるのかなぁなんて和ちゃんに聞いてた

和ちゃんはそう聞く私の顔を見てお腹を抱えて笑ってたっけ

真面目に聞いたのに和ちゃんは余程可笑しかったらしくずっと笑ってた

私はこの話を聞いて織姫と彦星が心配になった
だってそんなに遠いのに一年に一回しか会えないんだもん
もしかしたら会えないなんて事にもなりかねないんじゃないかって

憂にその事を告げると

愛はきっと光より速いんだよお姉ちゃん

って言われて凄く安心した

じゃあ私と憂は光より凄いね!って言ったら憂はなんだか照れ臭そうに笑ってた


そんな事を思い出して、星を見ながらクスクス笑っていると
憂がアイスを持ってきて来てくれた

ほらね

憂が光より速くアイスを持ってきてくれたよ

私は憂にぎゅーーっと抱きつくと

きっと織姫と彦星も二人でアイスを食べるんだねって

そう憂に言った

憂はいつかの和ちゃんみたいに
お腹を抱えてずっと笑っていた



唯は何も考えていなかった

自然体

それが平沢唯の本質なのだ

また誰かと闘う

そんな事を全く忘れてしまったかのように

二人はアイスを食べながら微笑みあっていた



様々な思惑を飲み込むように

3日間は過ぎて



第2試合目が始まろうとしていた

放課後


三日が過ぎて皆で再び音楽室に集まる
体の具合と、再度ルールの確認だ

皆の怪我は大体回復していた
まだ少し青アザだったり瘡蓋だったりが残っているけれどこの程度なら日常にも影響しないレベル
問題無いと言うことで話が進む

ルールの確認においてもこの前と一緒だった
基本は現行の総合格闘技のルール
後頭部や脊椎など危険な箇所への攻撃は禁止する
一つ明確に総合格闘技のルールと違うのは、あからさまなな武器として使用するのでなければそこら辺の物も仕様可能

こんなとこだ

すると和が一つ聞いた

和「試合の途中で逃げたらどうなるの?」

皆が顔を見合わせた
それって戦闘放棄にあたるわけだから負けなんじゃ.....皆がそう思った時

紬「問題無いわよ、あんまり逃げてばかりじゃ試合にならないから警告は出るでしょうけど戦略的撤退は別に卑怯でもなんでも無いし、逃がす方にも責任はあると思うの」

紬の言葉に皆が驚いた
つまり、逃げていいのだ
ギブアップさえしなければ逃げても

和「その場合、試合は続行扱いなの?仕切り直し?」

紬「そうねぇ....仕切り直しでいいんじゃないかな」


二人の話をまとめると

試合の途中でどちらかが逃げた場合は勝敗はつかず、その試合は終わり

再び同じ相手と仕切り直してもいいし別の相手と闘ってもいい
という事らしい

律「まあさ普通は逃げないだろ、だって格好悪いしな!」

律があっけらかんと言った
確かにそうだ
なりふり構わず、とは言え敵前逃亡してまで勝とうとする
この闘いにそこまでする理由や動機がある者が果たしてどれだけ居るのか


和「普通は.....ね」


そんな和の呟きは皆の雑談に紛れて

誰の耳にも届くことは無かったのだ

真鍋 和


音楽室を出ようとすると唯に声をかけられた
たまには一緒に帰ろうと誘われたのだ

一度生徒会に戻って、何か取り急いで用事が無ければいいわよと言っておいた
唯は嬉しそうに下駄箱へ走って行った

生徒会室に入ると書記の子が後日、部長会議に使う書類を纏めていた
私はそれにざっと目を通す

要点がまとまっていて読みやすく、会議の進行が円滑に行われるよう気配りの届いた書類に仕上がっていた

ふと自分の机を見ると軽音部の講堂使用許可書が置いてあった

とても乱雑な字で書かれたそれをみて和はやれやれと肩をすくめる

和は書記の子に書類を渡して言う

和「いつも悪いけど、これも処理しておいて貰えるかしら?」

書記の子が書類を確認すると苦笑いを浮かべる
和が悪いわね、と言うと

いつもの事ですから
と返ってきた

少し軽音部を甘やかし過ぎたかしら
そんな事を思いながら和は生徒会室を後にした


下駄箱にもたれて
一人鼻唄を歌いながら私を待つ唯を見つけた

お待たせ、と声をかけると
いつものあの、無邪気な笑顔で迎えてくれる

本当、唯は幼稚園の頃と何も変わっていないわね

笑顔で腕に絡み付いてくる唯を引き剥がしながら

和は思ったのだった

遅ればせながらインフルエンザようやく完治しました
コメントくださった方
更新を待って下さった方
本当にありがとうございます

またゆっくりですが更新していきます

頑張ってね

あくしろよ

真鍋 和


学校を出ると唯が嬉しそうに私の手を引いて走る

素敵なカフェ見つけたんだよ~とニコニコしながら唯は言う

唯の言う素敵なカフェに少々不安を覚えながらも、私は引っ張られるままに唯に付いて行った

商店街の外れの住宅地にそれはあった

一見すると民家の様だが入り口の周りが綺麗にガーデニングされていて小さく目立たない看板が立ててある

店に入ると間接照明で少し暗く、落ち着いた雰囲気に私は驚いた

和「唯も案外、一般的なセンスを持ち合わせてるのね」

私がそう言うと口をとがらせてブーブーと抗議の声をあげる

いらっしゃいませ、と女性の店員がおしぼりと水をテーブルに置いた

私はメニューを見てすらいなかった事に気付いてあわててメニューを取る

唯「美味しいコーヒー二つください!」

私がメニューを広げる前に唯が訳のわからない注文をする
店員は優しく微笑むと、かしこまりましたと言ってキッチンへと下がって行ったのだ

私はあっけにとられつつも唯に聞く

和「美味しいコーヒーってメニューにあるの?」

唯「知らないよ~」

私は目の前の人間が何を言っているのかわからなくなってしまった

お店と言うものはメニューが存在して、そこから注文をして成り立つものでは無かったか
私の常識はいつ、覆されたのだろう

唯「なんかねー、はじめてここに入った時におじいさんがここのコーヒーは美味しいんだよって教えてくれたんだ~」

唯「だからその、美味しいコーヒーをここに来たら頼むんだよ~」

なるほど
いかにも唯らしい
でもそれで注文を受けるなんて店員さんも心が広いわね.....

そんなやりとりをしているとキッチンからカリカリと音がしてきた
空調に運ばれて挽きたてのコーヒーの香りが店に充満する

席に着いているサラリーマンや、初老の女性は目を瞑ってこの香りを楽しんでいるようだ

唯にしては随分と通な店を気に入ったものね
目の前の唯もいい香りだねぇと足をバタバタさせながら楽しそうだ

暫くするとお待たせしました、と店員さんがコーヒーを運んできた
可愛らしいカップに入ったコーヒーからホカホカと湯気か立ち上る

先程の豆を挽く香りとはまた違うコーヒーの香り

唯がフーフーとコーヒーに息を吹き掛け、コーヒーを飲む
パアッと表情が明るくなり更に目を瞑って二口目を飲む

私も、冷めない内にとコーヒーを口に運ぶ
口に含むと、コーヒー独特の苦味が広がると同時にほのかな甘味を感じる
苦味は一瞬で消えて、口に残るのはコーヒーの甘味と芳醇な香り
ゴクリと飲む込むと喉を通って鼻からコーヒーの香りが抜けていく

唯が、どう?と聞きたそうに私を見つめている

和「凄く、美味しいわね」

私の言葉を聞くと唯は嬉しそうに得意気になってコーヒーを口に運んだ


店を見渡すと外はまだ明るいのにこの店は間接照明で外より薄暗くなっている
味のある本棚に程よく飾りつけられた花や小物

これは本当に落ち着くわね

コーヒーを口に運びながら私は思った

真鍋 和


落ち着いた空間で私達の会話は弾んだ
最近の軽音部の話からはじまり学校生活の事、勉強はきちんとできているのか
勉強の話になると唯がお母さんみたいな事言うなぁ和ちゃんはと、またしても口をとがらせて抗議の声をあげる

最近お母さんみたいってよく言われるわねと少し複雑な気持ちになる

それから昔の話になると私はふと唯に聞きたくなった

和「ねぇ唯、あなたはなんで闘ってるの?」

唐突な私の質問に唯はうーんと唸りながら悩む
暫くすると唯が口を開いた

唯「大切な事を守るためだよ」

唯の真面目な顔に私は少し驚いた

大切な事を守る

闘うに値する理由ねと私は一人納得をする

唯「和ちゃんはなんで闘ってるの?」

唯にそう聞かれる

私の闘いの動機
自分の正しいと思うことを貫くために
他人を力でねじ伏せる
私の動機は果たして唯にどう捉えられるのだろうか

和「私は、自分が正しいと思うことを曲げたくないから」

和「言ってしまえば、ただの我儘なのかもね」

私は氷水の入ったグラスをピンと指で弾きながら、唯に言った

唯「和ちゃんはいつだって正しいよ~」

唯の言葉を噛み締める
果たしてそうなのか
私は正しいのか

私は規律や秩序と自分のエゴを
ごっちゃにしていないのだろうか
胸をはって正しいと言えるのか

和「私が正しいのかどうか、自分でもわからなくなる時があるわ....」

唯が真っ直ぐ私を見つめている

和「でも、私は正しいと信じてやってきたしこれからも信じて行くつもり。それが私だもの....」

私に今言える
自分を正当化できる言い訳

正しいのか
正しくないのか
ずっと考えてきた

でもそんなことに結論なんて出なかった
規則を守らない事は正しく無いのか
守らない人間に無理矢理守らせるのは正しいのか
いつだって堂々巡り
それでも私は自分を曲げないために力をつけて、正しいと思うことをやってきた
答えなんて無くたって
私はやれる事をやるしかないんだ

自分を信じて

唯「もしね」

唯が私を見て言う

唯「もし、和ちゃんが正しくなかったらね」

唯「私が守ってあげるからね」

幼稚園の頃と変わらない
屈託の無い笑顔が目の前にあった

真鍋 和


お店を出て唯と別れる頃にはすっかり辺りの景色は夕暮れ時のオレンジ色に染まっていた

唯「またあのお店行こうね~」

腕をブンブンと振りながら唯は自分の家へと向かって行く

こっち見ながら歩いてると危ないわよと思っていたら案の定帰宅途中であろうサラリーマンにぶつかって唯は慌てて謝っていた

ほんと、相変わらずなんだから
そんな事を思いながら鞄から家の鍵を出そうとするとオープンフィンガーグローブが目についた

あ、そう言えば

私と唯は対戦相手でもあったのよね

すっかり唯のペースにあてられて
闘うなんて事を忘れていた
ほんと不思議な子よね唯は、と和は思う

家に入って鞄を部屋に置くと台所へ向かった

今日はカレーにしましょう

冷蔵庫にある材料を見てカレーとサラダの準備にとりかかる

今日はご飯を作ったら少し走ろうかしら

そんな事を考えながらトントンと小気味良く野菜を切る和に学校から帰ってきた弟達が今日はなに?と聞いてくる

カレーよと告げると満足そうな顔をしてリビングに向かって行く

ちゃんと宿題済ましておくのよ

そう言うと口をとがらせてブーブー言う姿が唯と重なって笑えた

珍しく好きな歌を口ずさみながら

和は今日のカレーは美味しくなりそうねと思った


唯と久しぶりに二人の時間を過ごした和は

なんとなく自分の気持ちが軽くなっていることに気付いていた

>>134
ありがとうございます頑張ります

>>135
べっ、別にアンタに急かされたからって更新したんじゃないんだからっ!
たまたま更新しただけなんだからねっ!

秋山 澪


珍しく律がドラムのメンテナンスをしてから帰ると言うので私は一人で下校することにした

こうして一人で歩くのもなんだか久しぶりな気がして不思議な気持ちになる

不意に、携帯電話が震えたのでディスプレイを確認すると
帰りに買い物をお願いできないかとママからのメールだった

どうせ一人でやることも無いので、わかったよとメールを返信する

くるりと踵を返すと私は馴染みのスーパーへと向かった

この時間ならタイムサービスも狙えそうだ
浮いた分でお気に入りのプリンを買っちゃおう

今、女子高生の間でも人気の
「北海道、牛もとろけるなめらかプリン(モォ~たまらん)」

お小遣いで買うには少し高いがこうして買い物のついでにならママもお金を出してくれるだろう

スーパーに近付くと駅前の方角から同じ目的地へ向かうであろう人たちが目立ち始める

みんなこの時間帯のタイムサービスがお目当てに違いない

急がないとタイムサービスの品が無くなっちゃうかもな


私は弾むように

スーパーへと駆けて行った

お、続きあくしろよ

秋山 澪


スーパーに入ると、既に買い物客で賑わっていた
あちこちから夕方タイムサービスの放送が聞こえてくる

メールを確認してタイムサービスの品と同じものを優先的に買い揃える

夕方のスーパーは戦争だ
値引きシールが貼られたり、タイムサービスの放送が流れると主婦達が我先にと商品に飛び掛かる

私も負けないように必死で食らい付いた

なんとか安く買える物は買い揃えた
後は小麦粉1袋、バター3箱

澪の家ではホワイトソースを自作していた
バターと同重量の小麦粉をふるいにかける
フライパンでバターを溶かしたら、そこに先程ふるいにかけた小麦粉をだまにならないようによく混ぜながら入れる
後は焦げない様に良く混ぜながら炒めていく

紙粘土みたいにバサバサしてきたら火を止めて冷ます
冷めたらヘラでタッパに移して冷蔵庫で保管しておくのだ

こうしておけば後は料理に合わせて牛乳で割って味を整えれば色んな料理がすぐにできる

コロッケ、グラタン、シチュー等々

澪のお気に入りは牛乳とアサリの缶詰を汁ごと入れて作るクラムチャウダーだ

ママの手作りクラムチャウダーはお店で食べるよりも具が豊富で出汁もしっかりしている

今日、早速作ってくれないかな
そんな事を思いながら忘れずプリンをかごに入れる

レジで会計を済ませてスーパーを出た
外はすっかり夕暮れ時だった

夕日を眺めながら川原の土手を歩く

心地よい風に乗って電車の音や子供たちのはしゃぐ声が聞こえてきた


ふと、足を止めて堤防の階段に座り込んだ
なんだか良い詩が浮かびそうだと手帳を取り出して目を瞑る

風が草や川の匂いを運ぶ
夕暮れ時の川原の匂い

犬がワンワンと吠える
自転車のベルを鳴らす音

様々な音や匂いを頭の中で風景としてイメージして詩に組み立てる


「澪....先輩?」

突然自分を呼ぶ声に驚いて振り返る


そこには純ちゃんが立っていた


なんだこれ

秋山 澪


律を倒した相手
鈴木純

つまり、今回私の相手になりえる存在だ
私は鞄に手を入れてグローブを探る

純「何してたんですか?」

そう言うと純ちゃんは私の隣にヒョイッと座った
手帳を覗き込む様にして、ラブレターでも書いてたんですかと不敵な笑みを浮かべる

私は慌てて否定した

澪「なんか、歩いてたら気持ち良くて良い詩が浮かびそうだったんだ」

そう告げると純ちゃんが目を丸くして驚いていた

純「澪先輩って作詞も担当してるんですね!」

純「凄いなぁ、放課後ティータイム人気No.1だし、勉強も出来るしファンクラブもあるしベースは上手いし作詞までしちゃうなんて」

純「髪もサラサラで綺麗だし羨ましいです~」

純ちゃんの言葉に私は少し俯いて返す

澪「そんな、いいもんじゃないよ...」

そう言うと純ちゃんが私の方を不思議そうに見る

澪「わたしなんて、人見知りで人前では緊張して失敗ばかりだし、痛いのも怖いのも苦手でいつもからかわれてばかりだし」

澪「純ちゃんが言うほど立派な人間じゃないよ....」

そう
今回の試合で少しは私の中の殻は破れただろう
それでも、まだまだ私の本質は変わらない

きっとライブの度に緊張するし
律には怖い話なんかで茶化され続けるのだろう
いつか、どこかで変わらなきゃ

そう思うけど人はなかなか変われない

純「いいじゃないですか、素敵ですよ」

純ちゃんの意外な反応に驚く

純「誰だって苦手な事や嫌いな事は一つや二つありますよ」

純「梓なんていつも澪先輩みたいなお姉ちゃんが欲しかったなぁなんて言ってますよ」

純「きっと、みんな澪先輩のそういうところも含めて認めてて、澪先輩の事が好きなんですよ」

純ちゃんの思わぬ意見に私は驚く
普段、なんだかおふざけキャラでどちらかと言うと律みたいな感じだと思っていた

でも、真面目に私と向き合って私への感想を述べる純ちゃんにいつものふざけた感じは全く無かった

純「澪先輩は澪先輩ですよ」

純「それ以上でも、それ以下でもなく澪先輩は澪先輩なんです」

秋山 澪


私は私
こんな当たり前の事を私は忘れていたのだろうか?
いや、忘れていた訳では無い
認めたく無かったのだ

もっと理想の私になれるはず
こんな私は私じゃない
そうやって自分でも気付かない内に
自分へと重い枷をはめていた

純「軽音部って素敵です」

遠くを見る様に純ちゃんが言う

純「大雑把でガサツな律先輩。天然で空気読めない唯先輩。ほんわかしててたまに何考えてるかわからない紬先輩。短気で負けず嫌いで生真面目すぎる梓」

純ちゃんは立ち上がるとお尻をパンパンと払う

純「そして、人見知りで臆病だけどみんなの人気者の澪先輩」

鞄を持ち上げて純ちゃんは私を見据える

純「みんな揃って素敵な軽音部、良いところも悪いところもひっくるめて素敵な軽音部」

純「そう思いませんか?」

地平線に沈む夕日を背に、純ちゃんが笑顔で言う

そうだな、そうだよな
みんなにだって色んな事がある
良いところだけじゃなくて嫌な所も悪い所も

それでも

私達はそれをひっくるめて大切な軽音部の仲間なんだよな

純「さてと、そろそろ私は帰りますね。お腹すいちゃった!」

照れ臭そうに笑う
年下の女の子に自分を諭されるなんて、私もまだまだだな

澪「ありがとう、なんかウジウジ自分の事を卑下してたのが情けないよ」

私も立ち上がって純ちゃんに言う

純「なんか、こっちこそ偉そうにすいません」

二人してお互いの顔を見て
なんだか可笑しくなって笑ってしまった


純「またお話してくださいね~!」

そう言って歩いて行く純ちゃんに私は手を振り続けた

私は私.....か....

私は一人じゃないんだな
こんなにも、色んな仲間や後輩に支えられて
今すぐには無理でも
少しでも自分に自信が持てるように頑張らなくちゃな

それも、私なんだから


鞄の中で携帯が震える
きっとママからだ
急がないと夕食が遅くなっちゃうな
私はママに、クラムチャウダー食べたいなと返信をして帰路へつく

買い物袋に入ったプリンを見て最近体重が増えた事を思い出す
それも私....って訳にはいかないな...

今日は帰ったらトレーニングとダイエットを兼ねて少し走ろう

買い物袋を嬉しそうに揺らしながら
澪は自分の家へと向かっていった



イイハナシダナー

く、臭い話ですいませんね....

秋山 澪


日頃から走り慣れたジョギングコースを走る
空手のための基礎体力向上のためとダイエットのために

澪のスタイルは決して悪くは無い
ただ、この時期特有の皮下脂肪の増加による体重の推移に澪は常に悩まされていた

要するに、出るところが出る

生理現象であり仕方の無い事なのだが律に度々からかわれたりして気になってしまうのだ


息を切らしながら走る澪は背後から一定の距離を保ちながら付いてくる人影に気付いていた

変質者ならばペースを上げれば引き離せるだろう
そう考えた澪はペースを上げる

暫く走っても気配は一向に離れない
このまま家に帰っても良いのだが相手の得体が知れない以上家は知られたくないと思った

澪は近所の神社へと向かう

鳥居をくぐり石段を駆け抜ける

長い石段を登ると比較的広い境内へと出る

澪は物陰に身を潜めた
どんな人物が付きまとってきたのか確かめるのだ


石段を登る音がする
澪はじっと目を凝らす


石段を登り、膝に手をついて息を整える人物


それは和だった

真鍋 和


カレーを作り終えた和は弟に少し走りに行くと告げて家を出た

黒の運動着に着替えて軽く体をほぐす
少し体が暖まったのを確認して和は走り始めた
特にコースを決めるでも無く、気の向くままに和は走った

唯と過ごした時間を思い出す

唯は本当に無垢なんだろうと和は思う

きっと唯には打算や駆け引きなんて物が無いのだ
自分の好きな人には距離を一気に縮めてその人の好意を手繰り寄せる

唯は自然にそれが出来るのだ


私とは正反対なのね


和は思った

打算や駆け引きで今まで生きてきた
自分の人生において無駄だと思われることはやらない
必要だと思われることは積極的に取り組む

人はその行為を指して優等生と呼んだ

私は基本的に善意や好意で動かない

そうして私のする事は人に誉められ、方や唯はだらしないと言われる

それでも


私は唯が羨ましかった


ふと走っている場所を見ると見慣れない景色になっていた

考え込みながら走っていたので知らない道に出てしまったのだろう

走ってきた道をおぼろ気に思い出しながら見慣れた建物や看板が無いか探しながら走る


10分程走ったが和は相変わらず見慣れぬ場所を走っていた

困ったわね

そんな事を考えていると
ふと、視界の先に見慣れた人物が見えた

澪?

丁度良かった
澪に道を教えてもらおう

和は澪と思わしき人物に向かって走り出す

見失ったら洒落にならないわね

そう考えて和は走るペースを上げた

真鍋 和


私がペースを上げて追い付こうとすると澪もペースを上げて一向に距離が縮まらない

声をかける事も考えたが、まだ明確に声が届く距離でもない

むしろ息を切らして声をかけて、私だとわかって貰えなかったら澪の性格を考えると一目散に逃げてしまうだろう

なんとか離されないように和は澪の後を追う

暫くすると澪は神社へと入って行った
鳥居をくぐり抜けると和はぎょっとした

和の目の前には長い石段が広がっていたのだ
普段よりペースを上げて走ったため和のスタミナはかなり削られていた

そこに来てこの石段である

和は折れそうになる心をなんとか繋ぎ止めて石段を駆け上がった


石段を登りきると和は膝に手をついて息を整える

心臓は早鐘のようになっていた


「和、なのか?」


物陰から出てきた澪が和に声をかける

和「あなた、速すぎよ....」

ようやく追い付いた

これで帰れると和は安堵した

息を整えながら澪に近付く和は


ふと自分の運動着のポケットに入っている物を思い出していた

ここで止まっちまった

あげ

はよかけ

携帯が壊れて色々大変ですっかりここの事を失念していました
トリップも変わってますが忘れてしまったのでご勘弁を
一度読み直して再開したいと思います

期待!

秋山 澪


神社の階段を息を弾ませながらかけ上がって来たのは和だった

和とは2年の時に同じクラスになり仲良くなった
それまでは唯の幼馴染みで生徒会の人間
それだけの認識だった

軽音部の仲間達とクラスが別になり唯一の知り合いとして接する内に どんどん仲良くなったのだ

律や唯と違って真面目で、ごくごく普通の会話ができる
それだけで澪は和に心を許していった

勉強もできて学校での模範的な存在でありながら、極度の方向音痴という意外な一面を持つ和

そんな和に澪は軽音部の仲間とはまた違った仲間意識を持っていた

和は澪の顔を見ると安堵した表情を浮かべて近付いてきた

だが

和の穏やかな表情はポケットに手を入れると共に消えた

その意味を澪は瞬時に判断した


ーーーつまるところーーー

ポケットに同じ物を忍ばせていた自分も和と同じ気持ちなんだろう

和がグローブを装着するのに呼応するかのように

澪もポケットからグローブを出して装着する


和との距離をはかりながら

澪は息を整えて構えた

澪vs和

静まり返った神社の境内で
澪と和が対峙する

二人は呼吸を整えながらお互いの距離を測る
澪がスタンダードな空手の構えを見せると、和は瞬時に澪のスタイルを察知する

片や、和は構えらしい構えを取らずに澪の動きを待つ

スッと澪が一歩前へ出ると同時に足を上げる

あまりにも距離が離れていたため和は牽制と判断した
澪の蹴りが空を切ったら一気に距離をつめる
澪の何気ない牽制を逆手に取る考えだ

だが

当たる筈が無いと思われた澪の蹴りが和の頭部をかすめる

和はギョッとして距離を離す

澪の蹴りのとんでもない射程に苦笑いを浮かべる和
対する澪は表情を変えることなく再び構える

澪は空手独特の呼吸をして己の集中力を高めていた

澪vs和


和は自分の予想していた澪の攻撃範囲を修正する
自分の思っていた距離よりも半歩ほど澪の蹴りは伸びてくるらしい

最初に蹴りを見れて良かったと和は思った

今度は十分警戒をしながら距離をつめる和

和の攻撃が届かない距離で再び澪の足が上がる

膝の角度は中段
だが、和は空手の蹴りが膝から先で起動が変わることを知っていた
中段の膝の高さから足先だけが円を描く様にして弧を描く
和は両腕で頭部をしっかりとガードする

鈍い音と共に和はガードしたにも関わらず体勢を崩される

何気なく放たれた様に見えた澪の蹴り
しかし、その威力は重く鋭かった

なんて蹴り、反則ね

和はそんな事を思う

距離を離しているとこちらが不利
かと言って不用意に飛び込めば蹴りの餌食

多少の犠牲は必要みたいね


和は腹をくくって一気に澪との距離を詰めた

エタったのかと思ってた

おもしろい

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