男「とある休日、昼下がり」 (9)

男(……しまったな、せっかくの休日なのに、いつものように起きてしまったぞ)

男(ふむ、どうしようか)

男(そうだ、たまには散歩でもしようかな)

男(服は……まぁ、適当で良いか)ゴソゴソ

男(……おっと、出かける前に、何か口に入れたいぞ)グー

男(トーストにレタスとハムでも乗せるか。コーヒーも淹れて)

男「ん、うまいうまい」ザクッ

男「よし、準備完了、戸締り良し……」

男(さて、行くか)

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男「今日は良い天気だなぁ」テクテク

男(とは言っても、まだ少し寒いな。マフラーを持ってきて正解だった)

男(へえ、こんな所に椿の花が……盲点だったな)

男(おお、こんな道があったのか)

男(こっちには畑が……)チラ

男(こうして道の行くままに歩いていると、普段では気付かないものがよく見える)

男「――うん、悪くない」

男(寒いが、日差しは暖かい。もう春が近づいているんだなぁ)

男(こうして空を見ていると、子供の頃を思い出す)

男(あの青空に揺蕩う雲になりたいと、よく思っていたなぁ)テクテク

男(あんな風に自由に生きたかった……憧れていたんだ)

男(ぼんやり、のんびり……風に行く先を任せ、ふわふわと)

男(いつからだろうな、こんなに窮屈な世界になったのは)

グー……

男「……あはは」ポリポリ

男(やはり僕には、感傷に浸るのは向いてないようだ)

男(……)クンクン

男(良い匂いがするな、お、商店街に着いたのか)

男(いいね、何か今の気分に合うものは……)

男(おっ、これだ)

男「出汁巻きとおにぎり、一つ下さい」

「はいよ、熱いお茶サービスしとくね」

男「どうも」ニコ

男(これはありがたい、さて、どこで食べよう……)

男(……まあ、歩いてれば適当な場所に着くだろ)テクテク

男(あれ、狭い道に入っちゃったぞ……お、良い公園発見。とりあえずここで休むか)

男(ふむ、あるのは小さなブランコ、滑り台、木のベンチのみ……良いじゃないか)

男(さて、とりあえず貰ったお茶を……)ゴクッ

男「……はう……温まるなぁ」

男(ん、この出汁巻きうまいな。口の中で出汁の香りがふわっと広がる。葱を散らしてくれてるのも良いね)モグ

男(うむ、おにぎりも美味い。昆布がほっとする味だ)ムシャ

男(そして再びお茶を一口)ゴクッ

男「あ~……うまいなぁ」

チュンチュン!

男(お、あの鳥は……なんていうんだろうな)

男(ま、なんでもいいか)

男(ああ、落ち着くなぁ。時間も気にせず、人も気にせず……)

男(……ふぅ、うまかった。さて、次はあっちの方へ行くか)テクテク

男(……お、こんな所に和菓子屋が)ガラッ

男「えーと、いちご大福と、最中下さい」

「はいはい、お兄さんはどちらまで?」

男「行くあても無く散歩してる所です」ハハ

男「何か良さそうな所、ありますかね?」

「うーん……少し遠いけど、一キロくらい歩いた所に、温泉があるよ」

男「温泉」

「ちょうどあの道を左にずーっとね……はい、いちご大福と最中ね」

男「ありがとうございます、行ってみます」

男(へえ、地図で調べてみるか……あった、これだな)ピッ

男(ん、久しぶりに和菓子なんて食べたけど、うまいなぁ)モグ

男(いちご大福の白あん、初めて食べた。すごく合うじゃないか!)

男(最中は甘さが抑え目でさっぱりしてる。うまい)パリッ

男(おっと、もう食べ終わった……もっと買えばよかったな)テクテク

男(一キロね……ああ、確かに緑が多くなってきたな)

男「位置情報はっと……おお、なかなかの距離を歩いたな」

男(通りで身体が熱い訳だ。温泉に入ってのんびりしよう)

男(さて、少しペースを上げるか)

男「……ここだな、やっと着いた」

男(なるほど、こんな所に小さな温泉が……良い所を見つけた)

男「えーと、大人一枚で、それとタオル」

「はい、ごゆっくり」

男(……)キョロキョロ

男(見事に誰も居ないな……平日だし、そりゃそうか)

男(では)ガララッ

男「おお……」

男(こじんまりした所だな。でも、落ち着く)バシャッ

男(さて、と)ザブッ

男「おおおおー……ふうぅ……」

男(あー、こりゃたまらん。風で冷えた身体が癒される……)

男「あ、説明が……なになに……ほうほう、美人の湯ね。僕には関係ないな」

男(うーん、極楽だなぁ……)

男(さて、露天風呂に行きますか!)ガラッ

ヒュウゥウゥッ

男「あああああ寒い! さっむ!!」

男(い、急いで湯に浸からねば)ザブッ

男「……おや?」

男(へえ、さっきよりも温度が低い。ぬるま湯なのか!)

男(ああ……これは良い。何時間でもいられそうだ……)ボー

男「今日も空が綺麗だなぁ……」

男(忙しない日々が続くが、こうして空を綺麗だと思える)

男(それだけでも、僕の心は十分なのではないか)

男「……」

男(まあ、何を良いと思うかは、人それぞれだ)

男(僕の人生には、少しの季節の彩……それさえ確かであれば良い)

男「……なんつってね」

男(湯に移った自分の顔を見て、そんな事を考えている自分が少し恥ずかしくなり)

男(僕は一人、目を逸らした)

男「ふーっ、良い湯だった!」ゴクゴク

男(ああ、水が冷たいっ! 喉が一気に潤うなぁ)

男(風呂上りに畳で寝転ぶのは、どうしてこんなに気持ちいいんだろう)

男(髪の毛も乾かしてさっぱりした。最高だ……)

男「おお、もう二時半なのか……歩きだし、戻ろうかな」

男(さて、行くか!)

ヒュウゥウゥ!

男(おお、冷たい風が火照った体に心地いい)

男(この道、生えているのは全部桜か。春になると、桜色の道になるんだろうなぁ)

男(桜は好きだ)

男(あんなに綺麗なのに、ほんの一週間ぽっちで花は散ってしまう)

男(そんな儚さも魅力的だ。まさしく諸行無常のシンボルのようで)

男(ああ、早く桜を見たいなぁ)

男(だが、桜が全て散ってしまい、葉桜になった桜も大好きだ)

男(青々とした葉桜を見ると、生命の力強さを感じ――)グウウゥウゥ

男「……」


男「……とりあえず、戻ったらなんか食べるか」

男「ふう……やっと戻った。たい焼きうめぇ」テクテク

男(今日一日で、どれだけ歩いたんだろうなぁ)

男「……あ、河川敷。帰る前に、たまには寄ってみるか」ザッ

男(犬の散歩をしている人が多いなぁ)テクテク

男(ここも桜の木が多いな。春になると、みんな花見に来るんだよなぁ)

男(……あ、水切りしてる子供たちがいる。寒いのによくやるなぁ)

男(懐かしいなぁ。僕は七回が最高だったっけ)

男(子供の頃は、よくここで遊んだなぁ……)

男(あの頃は、何も不安なんて無かったなぁ。ただひたすら遊んで、遊んで……)テクテク

男(日が暮れてきたら帰って、お腹いっぱいご飯を食べて、テレビを見て、家族と話して、寝て……)

男(ただそれが、ひたすらに楽しかった……)

男(……羨ましいよ、君たちが)

男「……ああ、もう夕暮れか。そろそろ帰ろうかな」ザッ

男(……どうも季節の変わり目は、センチメンタルになっていけないな)

男(まあ、僕がどう思って生きていようと、季節は移り、地球は廻る)

男(そんな世界の中、唯一分かる事は――)


男「あ……蕾が膨らんでる」


男(春は、案外近くにやって来ているらしい)

短いですが、これで終わりです。

そろそろ和菓子の季節ですね。桜餅が楽しみ……

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