松尾千鶴「はぁとを込めたバレンタイン」 (17)
・地の文
・百合要素
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バレバレバレ バレンタイン
バレバレバレ バレンタイン
チョコレートよりも 甘い恋の味
「今度遊びに行きませんか?」「今あなたに会いたいです」
なんて言葉口が裂けても言えない。……いえ、たまに漏らしてるみたいだけど。
ただそれは一人のときだけ。あなたの前では絶対に、絶対に言えません。
「素直じゃないな」よく人にそう言われる。自分でも自覚はしている。
それはわかってはいるよ。でも仕方ないじゃない。怖いんです。拒絶されるのが怖い。
だって、私が好きなのは女の人なんだから。
ねえ、心さん、なんで私はあなたを好きになってしまったのでしょうか?
そんなもん知るか、なんて言われちゃいそう。そうだよね、私でもわからないのに。
少しでも気持ちを伝えたくて、一年に一度だけやってくる日、バレンタイン。
それにちょっとだけ賭けてみたくなった。友チョコや義理チョコだと言えば怪しまれずに受け取ってもらえるはずだよね。
どうにかして私の気持ちを届けたいのです。頑張る。
本気だから受け取って欲しいです。私のバレンタイン。
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手作りというのは引かれてしまうかな?私はお菓子作りの経験もあまりないし。
いやいやいや、成功をイメージしよう。
私だって少しは知識ありますよ?チョコは湯煎というのをする。直火にかけるなんてお約束?はやらないし。
でも、初心者にチョコでなにか作るのは難しいような……溶かして型で固めただけというのも少し寂しいし。
そういえば前に愛梨さんがクッキーは作るのが簡単だって言っていたような。
早速クッキーのレシピを調べてみようかな。……うん、これなら私にも作れそう。
少し一工夫してチョコサンドクッキーなんて面白そうだな。美味しそうだし。
早速材料を揃えてっと、自分の部屋に向かう最中、ライラさんと遊びに来ていた晶葉ちゃんに話しかけられた。
うーん、恥ずかしい。お菓子作りなんて私のキャラじゃない気がする。
「千鶴、なにを買ってきたんだ?」
「ちょっとね……」
「クッキーミックス?なにをまぜるのでございますかー」
ハッ、いつの間にかライラさんに中身を見られていたみたいだ。
そしてその言葉を聞いて晶葉ちゃんがニヤリと笑っていた。これは菜々ちゃんをからかうときの目だ。
「なるほど、お菓子作りでもするのか」
「ライラさんも一緒に作りたいですよ」
「いやいやライラ、これは千鶴が作らないと意味がないんだ」
うう、見透かされている。いえ、こんな時期にお菓子作りなんてわかりやすいにもほどがあるけど。
仕方ないので反撃に出ます。
「晶葉ちゃんは誰かに渡すの?」
「ん?ああ、普段お世話になっている人に渡そうかなと。そのために今日はライラ一緒に作ろうかと」
「チョコを作りますよー」
「それより千鶴は誰に渡したいのだ?」
「それは心さん……ハッ」
しまった。ここでそれをやってしまうか?私。
やばいやばいやばい……今すぐに言い訳を考えないと。
「いや、心さんにはお世話になってるから……」
「そうかそうか」
「チヅルさんの顔真っ赤ですよー」
「それより二人はプロデューサーには作らないの?」
「プロデューサー殿には個人的に作ろうとアキハさんが言ってたですよ」
「な……ライラそれは……」
「へー」
形勢逆転。突破口を見つけたよ。
すでに晶葉ちゃんは顔真っ赤。私もこんな感じだったのかな?
「特別なのを作るとアキハさんが言ってたです」
「お、おいライラ」
「晶葉ちゃんはプロデューサーに作るんだね」
「ま、まあPにも普段からお世話になっているからな」
「じゃあなんで一緒に作らないの?」
「ま、まあいいじゃないか。この話はやめよう。お互いに踏み込まないほうがいいだろう」
「うん……」
「二人とも顔真っ赤ですねー」
こうして勝者のないまま戦いは幕を閉じた。疲れた。
無益な争いだった。復讐は何も生まない、それを学べた一幕だった。
……こんな馬鹿なことやってないで作らないと。
簡単だと思ったはずのクッキー作りは思いのほか難しいものだった。
あ、焦がしちゃった。うう、次は生焼け。
なんとなく、本当になんとなく心さんのことを考えました。
あの人はこんな失敗するのかな?いや、あの人ならそつなくこなしそう。
そんな姿を思い描いて少し笑みがこぼれてしまう。
「フフッ、可愛いかも……ハッ」
よかった。晶葉ちゃんもライラさんも見てないよね。またからかわれちゃう。
「よし、完成」
思い切ってハート型を使ったクッキーが完成しました。……少しクリームが飛び出てるような。
作り直そうにももう材料がありません。……味は美味しいから大丈夫だよ。
買っておいた袋につめて、これまた買っておいた箱に入れて。……完成。
出来た。やっと出来た。あれ?時間気にしてなかったからだいぶ遅くなっちゃったな。
後片付けしてもう寝ようかな。箱は……どうしようかな。
なにかの雑誌で見たおまじない、枕元に置いておくと思いが届くとか。
その夜私は夢を見た、心さんが出てくる夢。
心さんに初めて仕事をしたときの夢。笑顔がかたいって言って私の顔を掴んできて。
その続きは実際の出来事とちがくて、そのまま顔を近づけて。
「きゃー!」
私はキャラじゃない叫び声を上げながら飛び起きた瞬間、ぐしゃ、そんな音がした。
あ、箱がつぶれてる……中身は……少し割れてるクッキーもある。
嘘でしょう……あんなに頑張ったのに……。
仕方がないから私はつぶれた箱をもって事務所に向かった。
ああ、寒いな。北風が吹いた。同時に私の心にも北風が吹きぬけた。
どうしよう、誰か助けてよ。
「おっと、千鶴ちゃ~ん、そんな悲しそうな顔してどうしたの☆」
祈りが通じたのかそうじゃないのか。私の目の前には心さんが立っていた。
いつもの明るい笑顔とともに。ああ、どうしよう。色んな感情が押し寄せる。
目の前が曇る。ポロリ落ちた……涙が一粒。
「ちょ、千鶴ちゃん本当にどうしたの?」
「心さんに食べて欲しくて作ったんですけど……箱がつぶれたり……割れちゃったり……」
「大丈夫だよ。ありがとう千鶴ちゃん。プレゼントは気持ちだって言うでしょ?それに食べたら問題ないよ」
「でもこのさいだから言いますけどおいしくて……可愛いって思ってもらいたかったんです」
「あはは、千鶴ちゃん☆可愛いね♪はい、これははぁとからのチョコだぞ☆」
心さんのチョコはハート型のチョコ。やっぱりそつなく作ったんだろうな。
私にも少し余裕が戻ってきた。あれ?私ものすごく恥ずかしいこと言った?
ああ、もうどうにでもなれ。突然私の本当の気持ちがこぼれた。あなたが好きです。
「あなたが好きです」
心さんはまた笑って、いつもの明るい笑顔じゃなくて、今まで見たことのないような優しい笑顔。
そしてそっと私を抱きしめてくれた。
バレバレバレ バレンタイン
バレバレバレ バレンタイン
今日はバレンタイン!
以上で短いけれど終わりです。
ちづしんのSSもっと増えろ。
元ネタは「バレンタイン」です。
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