松尾千鶴「かなわない」 (21)
・地の文
・百合要素
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初対面の印象は痛い奴を通り越してヤバイ奴。今でもそれは変わってないけど。
なんで、なんで私はこの人を好きになったのだろう。
別に女の人が好きなわけではない。特定の異性に好意を抱いたこともないけれど。
多分、いや絶対。この人だから好きになったんだろう。
叶わない恋だとわかっていても私は求めてしまう。
「ちーづるちゃん、なに暗い顔してるんだ☆」
「なんでもありません!」
ある日のこと、事務所で一人悩んでいたら一番見つかりたくない人に見つかった。
あなたが好きだから悩んでいるんです。
ついついきつい口調でつっぱねてしまった。
「嫌いにならないで……。ハッ」
「なんだなんだ☆誰に向かっての発言だぁ?はぁとは千鶴ちゃんが大好きだぞぉ♪」
この人はこういうことをすぐに言ってくる。だから私は勘違いしてしまう。この人の好きはライク私の好きはラブ。
それにしても私のこの思ってることが口に出る癖は直らないものなのかな。
「初詣でお祈りまでしたのに……。ハッ」
自分のことながらいくらなんでもひどい。そのうち取り返しのつかないことになりそうで怖い。
「恋の悩みごとを神様に相談したのかな☆はぁとにも相談してよぉ♪」
出来るわけないです。
言い出したいのをぐっと堪える。漏れないように堪える。
「あんまり悩み過ぎるなよ☆」
こういうところだ。面白半分に首突っ込んでるように見えてその奥では私の心配もしてくれてる。
こういうところが……好き。
「はい。自分の中で一区切りついたら心さんに相談します」
「だから……はぁとだって言ってんだろぉ!」
いつもの調子に戻った。もう大丈夫。
「いつもの笑顔に戻ったな☆笑ってる方が可愛いぞ☆」
この人は……。どこまで私を惑わすの?
「げっ、真っ赤になってる。にっげろ~☆」
怒ってるんじゃありませんよ。照れてるだけです。
「多分ばれてるよね……。ハッ」
__________________________
ここ数日心さんとプロデューサーを見ない。ちひろさんに尋ねても心さんに口止めをされてるらしい。
会えない日々が愛を育てるとはよく言ったものだ。少し前の私なら鼻で笑っていたはずなのに。
「心さん、好き……。ハッ」
誰もそばにいなくて良かった。正直今の私は弱い。心さんに少しでもはやく会いたい。
でも会ったら会ったでまたきつく当たっちゃうんだろうな。素直じゃない自分が恨めしい。
数日後、多分そんなに多い日数ではなかったはず。でも私にはとても長い時間のように感じられた。
「たっだいま~☆おっ、千鶴ちゃんじゃーん、会いたかったよ~♪」
「お久しぶりです」
「ねぇねぇ見てみて~☆」
心さんが携帯を見せてくる。なんだろうか。
差し出された写真を見て私は凍りついた。
「もしかして、いつもと違う雰囲気に驚いた? もぉ~、オトナはぁとの魅力に今頃気付くなんて、まだまだ甘いぞ☆白無垢くらい、華麗に着こなせちゃうんだからぁ♪」
心さんの声が近くて遠い。全く頭に入ってこない。
「誰ですか?」
私は肩を震わせながら言う。私の眼鏡に適わない人なら許さない。
そこで私は気づいた。私は心さんにとってはただの同僚だ。知ったところで出来ることなんてなにもない。それでも。
今だけは思ったことが口に出るこの悪癖が頼もしかった。
「相手は誰なんですか?」
「そ、そんな怖い顔しちゃダメだぞ☆」
「私のことはどうでもいいんです、今はお相手です」
「だ、大丈夫だぞ、それはお仕事だぞ☆」
仕事?撮影のこと?
「よかったぁ」
「おお、表情が目まぐるしく変わって面白い♪プロデューサーはとらないから安心して☆」
「え?プロデューサー」
この人はなんのことを言っているのだろう?
「最近千鶴ちゃん悩んでたじゃん?てっきりプロデューサーにでも恋してるのかと思ったけどぉ……☆」
「ち、違います!」
「そうなの?じゃあ何悩んでんだ☆」
「そ……それは……」
この人に言うべきか否か。
私は自分の悪癖を思い出した。どうせ私に隠し事なんで出来やしないんだ。
下手に知られるくらいなら自分から言いたい。
「わ、私は……私は心さんが好きなんです!」
「え?ら、ライク?」
「ラブです。大好きです。心さん」
「へ……へ~」
心さんが思いっきり焦ってます。いつものお返しです。
私は真剣な目で心さんを見つめます。繰り返します。
同性とか年齢とかアイドルとか、そんなものに縛られず、私の気持ちでぶつかります。
「私は心さんが大好きです。付き合ってください」
「お気持ちは嬉しいです。でも、ごめんなさい。千鶴ちゃんは優しいしこれからきっと素敵な人と出会えるよ」
予想通りの答えだった。叶わない恋だって知っていた。
あなた以上に素敵な人なんて今の私には考えられないですよ。
でも、いつもみたいに茶化した感じじゃなく、本気で応えてくれた。それだけで十分。
だから、だから私よ泣くな。
「そうですよね。すみません、ありがとうございました」
泣くな、泣くな。迷惑をかけたいわけじゃない。困らせたいわけじゃない。
「それじゃ、さようなら」
泣くな、泣くな、泣くな。自分に言い聞かせて振り返って逃げるように事務所を後にした。
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寮まで走って帰って自分の部屋のベッドに倒れこんでから鞄を事務所に忘れたことに気がついた。
どうしようかな、明日朝早くにとりに行こうかな。そうすれば心さんとも会わないよな。
ポケットに入ってた携帯を取り出して、曲をかけた。
失恋の曲、何曲探しても自分の今の心情にぴったしとあうものはなかった。
そんなうちに私は眠りに落ちてしまったようだ。
変な時間に目が覚めた。お腹すいたな。夕飯食べずに寝てしまったのか。
洗面所にいくと案の定私の両目は腫れていた。シャワーを浴びたあと、せめてもの処置として両目に氷を当てた。
冷たいな。ああ、冷たい。
事務所に行きたくないな。
「何で行きたくないの?」
心さんに会いたくないな。
「何で会いたくないの?」
だってふられたから。
「そうだよね。私ふられたんだよね」
涙はもう出なかった。涸れてしまったのかな。それとも水分不足かな。
目のほうは大分ましになった。完治じゃないけれど、じっくり見られなければばれないだろう。
最低限の食事をしてから事務所に向かった。
「おはようございます」
「おう千鶴、早いな。それに昨日鞄忘れただろ」
「はい……非常に疲れていて、鞄とリに来るのも億劫でそのまま寝てしまいました」
「そうなのか?無理はするなよ」
「はい」
幸い事務所にはプロデューサーしかいなかった。そうだよねこんな朝早くいるはずないよね。
そう思っていたけど、
「おっはよ~☆あ、やっぱり千鶴ちゃんいるじゃん♪」
どうして?来たの?
「どうしてこんな朝早く来たのですか?」
「来ちゃ悪いか☆」
「そんなことはないですけど……」
だって昨日あんなことがあったのに、私は今心さんだけには顔をあわせたくなかったのに。
「ちょっとプロデューサー会議室借りるよ~☆」
「あいよ」
「千鶴ちゃん、ちょっときて」
「は、はい」
半ば強引に会議室に連れ込まれた。
「昨日のことは気にしてないよ、嬉しかったしね♪だってはぁとは千鶴ちゃんが好きだからね、ライクだぞ☆」
ずるいや、この人はずるいや。真っ直ぐ言ってくれた言葉がなにより嬉しかった。
こういうところが好きだったんです。好き、だったんです。
「え、え?千鶴ちゃん泣かないで!」
ダムが決壊したように私は涙を流していた。ああ、せっかく治りかけたのにまた腫れちゃうな。
「ありがとう……ございます。心さん」
「だから、はぁとだって言ってんだろぉ☆」
またいつもの調子に戻れた
やっぱりこの人には敵わないな。
以上で短いけど終わりです。
千鶴と心さんまた絡んでくれないかな。
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こんなの書いたりしています。
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