夏目漱石「ぼころ」 (220)

 私はその人を紅茶と呼んでいた。だからここでもただ紅茶と書くだけで本名は打ち明けない。
 これは世間を憚る遠慮というよりも、そのほうが私にとって自然だからである。
 私はその人の記憶を呼び起こすごとに、直ぐ熱々のミルクティーが飲みたくなる。
 戦車の中に居ようと同じ事である。メリケンかぶれの珈琲などはとても飲む気にはならない。

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 私が紅茶と知り合いになったのは大洗である。その時私はまだ未熟な戦車乗りであった。
 私の学校の生徒会長が試合をしろというので、紅茶の率いる聖グロリアーナ部隊と戦った。
 私は奮戦したが、大洗部隊の面々がまだ始めたてで使い物にならなかったのだから、大敗を喫した事は云うまでも無い。
 大洗女子部隊にとって聖グロリアーナは、サンダース、アンツィオ、プラウダそして黒森峰と続く栄光の戦績の中で、唯一の黒星なのだった。

 我等は今、そんな紅茶の部隊をゴルフ場の砂場に封じ込めたのだから、小躍りして喜びたい気分である。
 大洗、知波単連合軍は、獅子豹チームを中心とした鉄壁を築いて、敵の部隊を二分することに成功した。
 閉じ込めたのはグロリアーナ部隊の中核をなすマチルダとチャーチルで、紅茶が乗っているチャーチルはフラッグ車なので、私はさっさと落として風呂に入りたいと考えていた。

 私は敵は焦った様子がないなと呟けば、優花里がきっと紅茶を飲んで居られますなと云う。
 華が我等は煎茶を嗜むかねと笑うと、麻子が茶はいらぬ。ミルクセーキを寄越せと声を張るのだから困った奴だ。
 優花里はミルクセーキの材料なら戦車に持ち込んで居りますよと云うが、我等とてそこまで余裕はない。
 何より体を張ってプラウダの連中を止めている獅子豹、鴨チームに悪いから、ここで決めるぞと沙織に云ってパンツァーフォーの号令を全車へ伝えさせたのだが、知波単の連中が微動だにしない。

>>5 訂正

 私は敵に焦った様子がないなと呟けば、優花里がきっと紅茶を飲んで居られますなと云う。
 華が我等は煎茶を嗜むかねと笑うと、麻子が茶はいらぬ。ミルクセーキを寄越せと声を張るのだから困った奴だ。
 優花里はミルクセーキの材料なら戦車に持ち込んで居りますよと云うが、我等とてそこまで余裕はない。
 何より体を張ってプラウダの連中を止めている獅子豹、鴨チームに悪いから、ここで決めるぞと沙織に云ってパンツァーフォーの号令を全車へ伝えさせたのだが、知波単の連中が微動だにしない。

 知波単の隊長に何か不都合があるかと聞けば、パンツァーフォーとは如何な意味でありますかと聞き返すので呆れたが、知らないものは仕方ない。
 戦車前進であると伝え、我等はチャーチルへの包囲を完成させた。
 包囲網を前にしては然しものグロリアーナといえど長持ちはせず、マチルダを二輌落としてやった。
 ところが折角包囲を完成させたのに、知波単の連中が突撃と叫んでマチルダへ突っ込んでいくので魂消た。
 彼奴等の日本戦車は装甲が薄いのだからマチルダに肉薄したら蜂の巣だが、何を考えていると呟くと、何も考えていないだろうと沙織が云う。
 案の定九七式が次々撃破されたところで、知波単の隊長がどうすればよろしいかと泣きつくので撤退しろと云い、他のチームにも撤退を指示した。

 獅子豹の抑えが無くなったからプラウダの連中がやって来る。
 我等は押し出されるように陣を捨て市街地へと移行した。
 私は知波単の連中の自決めいた突撃が気に食わなかったので、隊長車にあれはどういうつもりだと訪ねた所、突撃は知波単の伝統であります等と抜かしやがるから、そんなものは犬に食わせてしまえと怒鳴りつけてやった。
 しかし武士道とは死ぬことと見つけたりと申しますと食い下がるので、貴様らのは只の死にたがりだ。戦果も出さずに死ぬ奴は馬鹿だとそう云ってやれば、少しは伝わった様子である。

 市街戦では陽動をかけて、各々の特徴を活かした遭遇戦に持ち込む肚であったが、紅茶とお子様隊長は落ち着いたもので鮟鱇だけを追ってくるのだから生きた心地がしない。
 沙織が拙いのではないかと云うので今頃気がついたか。我等の戦いは常に拙い状況であるぞと笑い飛ばす。
 俊足を誇る巡航戦車クルセイダーが我等の正面から回り込もうとしてくるので、重量のある鴨チームに体当たりを敢行させこれを突破する。
 鮟鱇が敵を引き付ける間に他の車両は陣を築いてプラウダの重戦車を足止めするように指示した。
 麻子の緩急をつけた運転が功を奏し、此方の布陣の前に敵を引きずり出せば、T34を立て続けに撃破するのだから我等も成長したものである。

 Ⅳ号は敵背部へ回りこみチャーチルを叩こうとしたのだが、紅茶配下のクルセイダーが追ってくるので、相手をするより他にない。
 クルセイダー四輌は凄まじい速度で飛ばすから、Ⅳ号では振りきれぬ。
 しかしその分装甲はお粗末なのだから、側道で急旋回して正面を打ち抜いてやれば、一発で白旗が上がるので簡単なものだ。
 なおも三輌追い縋ってくるので、曲がり角を利用して一輌を破る。
 更に二輌が我等を左右から挟もうとした所を、急制動でやり過ごし一輌撃破した。
 残った一輌に砲塔を向けてやると、尻尾を巻いて逃げ出すから愉快である。

 追撃をかけようとしたが、獅子豹チームより陣が突破され敗走との報が在る。
 ポルシェティーガーと、猪武者の乗る九七式が破られたのだから、クルセイダー三輌の戦果は帳消しにされたと云って良い。
 果たしてお子様とその副官の雪女が、猛追を掛けてきたので堪ったものではない。
 麻子が振り切れんぞと云うので、山の上の神社へ行けと指示を出せば、階段を下らせる気かと怯えるので、お前なら問題ないであろうと答えたのだが、技術はあっても高所恐怖症であると文句を垂れている。
 ロシアンかぶれ共は口径が長いから、砲を此方に向けて下りられぬこの階段を行くしか方法がないのだ。やれ。と肩を押すと、やっと行くから一安心である。

 八九式の家鴨チームからは最後のマチルダを撃破との報が在り、鴨チームもT34を撃破したと云う。
 我等が階段を下っている間に亀チームがフラッグ車のチャーチルを発見したが、三突が破られたらしいから、引き付けておけとだけ云って我等も合流を狙う。
 チャーチルが海岸へと逃げこんだので我等も後を追えば、ここに残存勢力が集結する事となった。
 海中から出てきたKV2は脅威であったが、砲塔の重みで横倒しになり、自滅したから愚かしい。
 海岸沿いの道路からはお子様と雪女が痛烈な砲撃を放ち、蟻食チームが破られた。
 更に逃げ出すチャーチルを追って海岸から道路へと出ようとした所、腹を見せて稜線を越えていた鴨チームが撃破される。

 我等Ⅳ号はロシアン共の装填を待たずに稜線を越え、チャーチルとの白兵戦を敢行した。
 沙織が大丈夫なのかと心配するので、チャーチルをスターリンに対しての盾にするのだと云えば、冗談にしても笑えんぜと気取った事を云う。
 ともあれ次の曲がり角で決着であるぞと華に云えば、必ず当てると頼もしい。
 果たして華の砲弾は当たり白旗が上ったのだが、それはチャーチルではなくお子様のT34である。
 我等が先行したのを見てからT34を盾にした紅茶の巧さに舌を巻く。
 早打ちを狙ったのが仇になったかと後悔するも後の祭り。チャーチルの冷徹な砲弾がⅣ号を襲った。
 こうして特別試合で、私はまたも紅茶に敗れたのである。

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と続けてきましたガルパンSSの劇場版仕様です
またお付き合い願います

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