夏目漱石「吾隊は勢いがある」 (37)
吾隊は勢いがある。実力はまだない。
優勝候補の一角を崩したとはいえ鮟鱇チイム以外の練度はまだまだなのだから教練を積む日々である。
二回戦のアンツィオはサンダースと比べるのが失礼なほどの貧弱な戦車しか持たぬ。
新しい戦車を購入したと風のうわさで聞いたが、CV33とセモヴェンテだけでのこのこ出てきた奴等が何を持ち出してきても怖くない。
うちも八九式が居るぞと沙織が云うのでCV33には八九式の主砲が通るのだと返せばそれは家鴨の皆が喜ぶであろうなと笑みを浮かべる。
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華がCV33は愛らしく好きである。CV33を器にして花を生けたいとのたまうので覇王花でも生けるのかと云えば向日葵くらいでも様にはなると呑気なものである。
とまれ敵の編成を知っておくのは良い手であるからまた優花里に頼むかと思案しているとチビ会長が既に行かせたと云うのだから手際が良い。
優花里はまた量販店の制服を着て帰って来たので今度量販店にお礼を云うのだぞと命じれば承知いたしましたと調子のいい奴である。
映像はサンダースと同じく手の込んだ編集がなされていたが、己の着替えを仕込むのは露出の気があるのかと聞けば違いますと真赤になるので黒に違いない。
アンツィオ高校は貧しさを生徒たちの明るさと飯にかける熱意で補っているようで愉快な所である。
片眼鏡が巷では勢いだけと云われていると云うので我等と同じではないかと笑えば笑い事ではないと怒鳴るからさっさと新しい戦車を映せと優花里に命じる。
敵の隊長らしき白髪女が披露していたのはP40重戦車で、画面の中の優花里も希少戦車でありますと興奮していた。
釣り上がった目と白髪は逸見のようであるが隊員皆から好かれている様子が奴とは違う。
沙織が強そうではないかと慌てるので、CV33に比べればマシだがⅣ号と大して変わらんと云ってやれば少し安心した様子である。
ただし優花里の云う通り希少な戦車であるためⅣ号と変わりないと云ったは良いが詳細な性能が判らないのには参った。
河馬チイムの面々がP40について資料を集めると云うから彼奴等の家を訪ねれば縁側付きの戸建てを共同で使っているので広々していて良いなと云えばそうだろうと温茶を出してくれたので有難く頂いた。
資料はイタリアンの専門書であったが古い方の世界史狂いが問題なく訳してくれたのでP40については判った。矢張りⅣ号と大して変わらぬ。
古い方の世界史狂いはアンツィオに戦車道をやっている親友が居ると云うから其奴を撃てるかと聞けば私は装填手だと笑うのでそういう問題ではないと小突いてやった。
庭の珍妙な器具は何かと思ったら装填の練習だと云うので自作かと聞くとそうだと答えるから大したものだ。
グロリアーナ戦では最も愚かしい改装を施したチイムなので大洗の不安要素の一つだと思っていたがこの分では兎だけ警戒しておけば良さそうである。
装填の練習を見せてくれと云うと麦酒の箱から砲弾を素早く抜き取って装填していくので私も負けじとやってみたら良い汗をかいた。
大変でしょうと笑うので西住流の教練は無言で延々とやらされるぞと云ってやったら一層頑張ると張り切っているから可笑しな奴だ。
肩を壊さん程度にな。と労って河馬チイムの共同住宅を後にした。
平常戦闘距離においてP40の前面装甲を抜けるのは三突だけであるから、P40に近いⅣ号とCV33並に脆い八九式が連隊を組んでそれ以外が攻め落とすという訓練を行った。
三突の火力は大洗一であるが砲塔が回らない。
云ってしまうと砲塔が存在しない突撃砲なので操縦手と砲手の息を合わせることが肝要である。
待ち伏せを中心に据えて運用し千五百米の長射程から打ち込んでやれと云うと実感が湧かないと云うからⅣ号を千五百米動かして打ち込んでこいと云えば行進間射撃をして来る。
確り停止して狙えと命じたのだが気の抜けた砲撃を続けるので華に破れと云うと一発で三突に当てるから此奴も麻子に劣らぬ天才である。
その後も鮟鱇は河馬の訓練を見ていたが兎がふらふらしているのでどうしたと聞くと家鴨と亀の鬼ごっこから置いて行かれたと寂しそうなので貴様らも打ち込んでこいと命じて扱いてやった。
兎は二門も砲があるのに明後日の方向に打ち込むし砲撃間隔も微温いから、装填手は世界史狂いに練習器具の作り方を教わっておけと言い渡すとぼけらとしている。
なにか質問があるかと聞くと砲二つ。私一人。とぽつぽつ喋るから車長も装填練習だと云っておいた。
車長の澤は張り切って乗員に指示を出しているので余り張り詰めるなよと云ってやると頑張って張り詰めないようにしますと云うからそういう所がいかんのだと凸ピンを喰らわせてやった。
家鴨と亀は延々鬼ごっこをしていたようだが何方も操縦手が優秀なチイムなので良い練習になっただろう。
こうして各人が力量を高める中、二回戦の日がやって来た。
試合前にアンツィオの白髪が挨拶に来たが、正々堂々とやろうと云うので互いになとだけ返した。
CV33が主戦力の部隊だから正攻法という意味での正々堂々ではないだろう。我等も同じだから全力を出すのみである。
古い方の世界史狂いが敵副官と話し込んでいるので疾くしろと云えば親友なのだと云う。
西住流の高名はかねがねなどと抜かすので私は破門されたのだから只の西住流とは違うと云っておいた。
今回の戦場は森林と山地であるから遭遇戦を有利に進めつつ高所を取って敵フラッグ車を落とすという作戦を立てた。
CV33は機銃しか持たないのでフラッグ車の亀チイム38tを囮に使うことも行う。
先ずは見通しの効かない森林を把握すべく兎と家鴨が偵察に出たが既にアンツィオ部隊が展開しているというから魂消た。
展開が早過ぎる。勢いだけの部隊と聞いていたのに待ち伏せというのも妙である。
兎と家鴨からの報告を詳しく聞けばその理由が判ったので私はほくそ笑んだ。
CV33の数が規定の十輌より多い。これは偽物である。
兎と家鴨に機銃掃射を命じれば全てが木板で作られた看板で砕け散った。
沙織がどういうことだと聞くので偽戦車を置いて我等を釘付けにした後包囲するつもりだったのだろうと答えておいた。
中断
前スレ170を掘り下げた内容になります
夏目漱石「西住ちゃん」
夏目漱石「西住ちゃん」 - SSまとめ速報
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麻子が規定数より多く置いたら一瞬で見破られると云うからイタリアかぶれらしくて愉快ではないかと云えば楽に勝てるならそれで良いと淡白なものである。
家鴨と兎には其のまま前進を続けさせ、鮟鱇。河馬。亀は足並みを揃えて展開していく。
八九式はCV33を五輌捕捉したと云うので追撃を許可。
兎のM3は勝手にセモヴェンテ二輌と交戦を開始してしまったと澤が謝るから破られぬよう無理をせず引き付けろと命じればやってみますと良い返事をするから期待しているぞと答えた。
沙織がフラッグ車はどこに居るかねと云うので此処か其処辺りではないか等と話していたら優花里が敵フラッグ車とすれ違いましたと興奮するので顔を出してみると確かに白髪がP40から顔を出しているのが見えた。
フラッグ直衛はセモヴェンテとCV33が一輌ずつなので此方が有利である。
此処で仕掛けるぞと云えば河馬チイムからセモヴェンテは任せてくれないかと報があるので勝算はあるかと聞くと必ず勝つと云うのだから仕方がない。
負けたら旗印で尻を引っ叩くと云ってやるとあれは痛いから絶対に嫌だと答えるので信じることにした。
麻子が良いのかと云うが河馬チイムの努力を私は知っている。駄目でも我等が先にフラッグを仕留めれば其れで良いと云えばそうだなと納得した様子である。
38tと共にP40を追い詰めるが家鴨チイムからCV33が不死身だと泣き言が飛んできたので弱点を潰さんから白旗が出ないのだと一喝してやると根性で狙うぞと云うから此奴等はもう大丈夫であろう。
華が不死身とはどういうことだいと聞くのでCV33は軽過ぎて衝撃が中に留まらず吹き飛ぶから死に辛いのだと教えてやったらでは一撃必殺でとCV33を落とすのだから末恐ろしい奴だ。
亀チイムと別れて鮟鱇は高台の上を目指す。
P40の砲撃にフラッグ車を晒すことになるが釣り餌は最も美味い物を付けるから引っかかるのだ。
白髪が焦って食いつけば其れで良いし、例え誘いに気がついてもフラッグ車を目の前にして落とさない選択はありえない。
牛女には気張れよと檄を飛ばしておいたから平気な筈だ。
兎チイムからもセモヴェンテを一輌落としましたと報があったので大勢は決したと見える。
果たして亀チイムがP40を引き連れて高台の下へやって来たから決めてやろうと思ったが、高台の上から兎チイムに追われたセモヴェンテが滑り落ちた所を冷静にM3の砲弾が撃破。
すさまじい速度で迫ってきたCV33も家鴨チイムが確りと仕留めた。
この時点で勝ちは決まったようなものだがP40は大破したアンツィオ車を庇いつつⅣ号に撃ってくる。
白髪は良い隊長では無いかも知れぬが間違いなく良い先輩なのだろう。
西住本家や黒森峰では考えられぬ甘さが私には心地よく感じられた。
だがそれはそれ。華に破れと指示を出せばP40のど真ん中を撃ち抜いて白旗が上がる。
大洗女子学園の準決勝進出である。
試合後、腹が減ったと愚図る麻子を沙織が宥めすかしているのを見ていたら白髪隊長がやってきて良い試合だったと云うのでCV33が彼処まで演るとは思わなかったと返し抱擁を交わした。
さて帰るかと云えば待て待てと白髪隊長が云うからどうしたと聞くと戦車道は礼に始まり礼に終わるんだがアンツィオの礼はまだ終わっていないぜと不敵に笑う。
白髪隊長が号令をかけるとアンツィオ隊員達がどこからともなく大量の飯を用意し我等選手だけでなく運営の方々にまで振る舞うのだから魂消た。
これがアンツィオ流だ。試合が終われば飯を食って友になる。悪く無いだろうと聞かれたから悪く無いどころかすこぶる良いものだなと返し飯をかっ食らう。
もたもたしていると全て華が食い尽くすぞと此方の隊員たちに云えば皆焦って飯をよそうのだから面白い。
華からはみほ君、失礼だな。と云われたが洋麺を山盛りにした皿を抱えながら云うセリフじゃないぜと笑い飛ばしてやった。
完
これにてアンツィオ戦終了です
カバさんチームとウサギさんチームの成長が描かれていて激アツなのでぜひOVA見てください!(ステマ)
それではまた
ピロシキ~
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