もしもアタシがカリスマじゃなかったら (62)

デレアニ基準
雰囲気重視、ボチボチやります

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カランカラン。

「えっと……待ち合わせで来たんですけど」
「あ、伺っています。あちらの席ですね」

「凛ー。こっちこっち」
「……美嘉?」
「久しぶりー。2ヶ月くらいかな?」
「未央は?」
「……来ないよ。未央から聞いたよ、凛から相談されたって。だから未央に代わりにアンタを呼び出してもらったの」
「それで美嘉が……」
「そゆこと★」
「……確かに、美嘉に直接言うのが一番いい、のかな」
「……うん、アタシも言いたい事あるからさ」

「こちら、アイスコーヒーとアイスココアになります」
「あ、コーヒーは私です」
「ココアはこっちでーす★」
「はい……では、ごゆっくり」

「で、相談って?いやまあ、内容は大体聞いてるんだけどさ。改めてアタシに直接、ね?」
「うん……じゃあすっぱり言うよ」

「美嘉、本当にごめん」

「……」

「もうアイツとの付き合いも5年、お互いのクセだとか、好みだとか、分かり合ってる。気がついたらいつもアイツのこと考えてた」
「だから……プロポーズしたんだ。私から。最初は凄く驚かれて冗談はいけませんって言われた。でも、私は諦めなかった」
「最終的にはアイツも折れて、受け入れてくれたんだ」
「それ自体は凄く嬉しいことでさ。今も凄く幸せで夢見たいに思えてくるんだ。でもさ……」

「私、美嘉の気持ち、知ってたんだ」
「シンデレラプロジェクトを担当する前、アイツは美嘉の担当だった。美嘉はアイツがずっと好きで、担当を外れてもそれは変わってないって。……きっと、今も」

「……」

「最初は莉嘉を気にかけてシンデレラプロジェクトに顔を出してたんだろうって思ってたけど、あれだけ親しそうにしてれば同じ女なら気がつくから」
「美嘉と私は同じ人を好きになって、私は後からのクセに美嘉を出し抜いてアイツと結婚する形になった。……卑怯だって分かってる。恨まれても仕方ないよ。でも、私も、自分に嘘はつけないから」

「……」

「私、心の奥では迷ってた。本当にいいのかって。美嘉の気持ちを知っておいてこんなことしていいのかって。アイドルなのにアイツと一緒になっていいのかって」
「自分の気持ちに嘘は吐けない。だけど今でも……もやもやが晴れないんだ」

「……ちょっと長話になっちゃうかな。いい?凛」
「うん。夕方までなら」

最初の出会いはさ、アタシが街を歩いてる時に名刺を差し出されたことがキッカケ。
突然つかつか歩いてきて、機械みたいな動作で礼をしてね。
「私、こういうものですが……」
いやあ、流石にちょっと怖かったよ。あんなコワモテででっかい男がすっごい丁寧に挨拶してくんの。
高校生になってまだ日の浅い女だったアタシは当然名刺の受け取り方もよくわかんないしさ。
困惑しながらその名刺を受け取って見てみると、あの346プロって書いてあってさ。二重にビックリだよ。
346プロが新しくアイドル事業を始めたので、スカウトをしています。アイドルになってみませんか。だってさ。三重にビックリ。

あの時の346プロはアイドル事業強化のために、モデル部門とか演劇部門とかから色んなアイドルを引っ張ってきてたんだ。スカウトはその一環で、アタシはアイツからお誘いされたワケ。
勿論アタシは突然の勧誘に動揺しまくりだったけど、メッチャ丁寧に仕事の中身とか教えてくれるの。
元々アタシもルックスには自信あったし、カラオケ好きだしさ。話聞いているうちに乗り気になってきてね。いやー、今思うとアタシちょろいなぁってなるよね。
その日の内にアイドルになることが決まって、そのままアイツはアタシの担当プロデューサーになった。
アイツのあの時の仕事はアタシみたいにスカウトされた元一般人の育成。アタシみたいな立場のアイドルは他にも何人もいた。

アイツの仕事っぷりは凄かったよ。……いや、これは言うまでもなく知ってるだろうけどね。
仕事がガンガン入ってくるの。スケ帳みっちりになるくらい。凄いのはそれはアタシだけじゃなくて他の子も同じくらいの仕事を入れてくるとこ。
アイツは顔が怖くて、身体も大きくて、何考えてるかわかんなかったけど、それでも仕事面だけは凄かった。

でも流石に最初はちょっとキツかったなー。仕事と言っても裏方ばっかりだしさ。今思えば当たり前なんだけど、あの時のアタシはワガママでさ。
「なんでこんな地味な仕事ばっかなの!レッスンも大変なのに!面白くないよ!」
なーんて思ってたんだ。アイツに直接言ったりはしなかったけど、不満はお腹の奥でドンドン溜まっていってた。
アイツは無表情でいつも影にいるし、あの時のアタシは結構イライラしてたと思う。やらなきゃいけないレッスンがあるのにやりたくない仕事をドンドン入れてくるアイツにさ。
態度にも出さなかったよ?表面上は明るく接してたと思う。でも、このままアイドルやっていけるのかなって不安はあったな……。

でもある時、アタシのCDデビューが決まったんだ。そう、アンタもよく知ってるあの曲ね。
すっごく驚いたよ。雑務レッスン雑務レッスンからのCDデビュー。いきなりだったからね。歌うのは好きだけど、売り物になるっていうのはやっぱ緊張するし。
そこから裏方の仕事はあまり入ってこなくなって、代わりにレッスンの時間が増えた。今思うと、アイツはいつもレッスンに顔を出してくれてたなぁ。
あの時はまた来たよアイツ。なんて思ってたっけ。ふふ。
それで、最初のデビューライブはまあまあな広さの屋外に決まったんだ。時期は確か……秋だったな。
事前にレッスンはしっかりやってきたけど、それでも膝ガックガクでさ。夜は寝付けなかったし。
高さはたった30センチのステージだったし、お客さんも多くはなかったよ。
でも、アタシが歌うのに合わせて手を叩いてくれてさ。嬉しかったなぁ……。あの時初めて、アイドルって楽しい、このままやって行きたいって思えたんだ。

美嘉のセリフか凛のセリフか分かりにくすぎる
明確に口調が違う二人でもなければ地の文がある訳でもないし
連続する鍵かっこで交互に喋ったり片方が二連続で喋ったり統一されてないし

で、歌い終わって舞台袖に引っ込んだアタシのところにアイツが来た。
何をするのかと思えばさ、自分のコートを脱いでアタシの肩にかけてくれたんだ。
ほら、アタシの衣装露出多いじゃん?ライブ前は緊張で気がつかなかったけど結構肌寒かったし。
アイツの体温がまだ残っててさ、あのコートを着ていると、なんだか安心したんだ。
あんまり信用してなかったアイツのコートがこんなに暖かいなんて、ってね。意外だった。
きっと身体が鉄で出来てるから体温なんてないんだろうなんて馬鹿げた考えあったからさ。
目の前のコイツは人間だって思い知らされたね。
そしてアイツはデジカメをアタシに見せて、客席とアタシの写真を表示したんだ。それで一言、アイツはなんて言ったと思う?

「いい笑顔です」

だってさ。その時ね、初めてアイツが少しだけ笑ったの見たんだ。本当に微かにだけど。

アタシは驚いたよ。コイツにもそんな顔が出来たなんて。コートも、自分だって寒いだろうに何も言わずに着せてくれた。
あの時にやっと分かったんだ。アタシの担当はただ不器用で、真っ直ぐで、誰よりも笑顔に拘っているんだって。
嫌がらせみたいに思えた仕事量も、芸能界がどんなところなのか良く知るキッカケになったし、レッスンだってしっかりできたからライブを成功させられた。
ただ機械みたいに働いているだけだと思ってたアイツが、アタシが寒いって言う前にコートを着せてくれる位にはアタシのことをしっかり見てくれてたんだって。

全部、アタシのためを思ってやってくれてたんだって。

あの時アタシはやっと、アイツのことちょっと理解できたんだ。ねぇ?凛。

そこからはトントン拍子でちゃんとしたアイドルの仕事が増えた。
ライブだったり、撮影だったり、トークだったり。特に雑誌のモデルの仕事は多くてさ、同年代くらいの女の子のファンがたくさん出来たんだ。

「城ヶ崎さんは十代から二十代の女性からの支持が多いので、これからは若い女性達のカリスマとして売り出そうと思っています」
アイツとこれからの方向性について話し合った時ね、アイツはそんなこと言ってた。
アタシもカリスマって響きが気に入って、アタシはカリスマギャルアイドルとしてこの業界でやっていくことになった。
下積みがあったお陰で業界の雰囲気を知れてたし、アタシも人見知りはしないほうだから、馴染むのはすぐだった。
アタシの知名度はすぐに上がって、気づいたら思惑通りカリスマJKギャルアイドル城ヶ崎美嘉として皆に覚えてもらったんだ。
アイツは決して自分が何をしているのか言わなかったけど、アタシを売り出すために必死で頑張ってくれてたって思ってる。

……でも、アタシと同じように考えられるアイドルが全てってワケじゃなかった。
アタシの同期の内、何人かがアイツの元から去っていった。
アイツはアイドルのことを思って仕事をくれていた、それは間違いないよ。でも、どうしても無口な性格は変えられない。
どうしても表面上は他人行儀になっちゃうし、見た目だって怖い。そんな人を信用しろっていうのは、十代の女の子には中々できることじゃない。
きっとアタシみたいな方がレアなんだと思う。

……アイツは悪くないんだ。去っていったアイドルも悪くないんだ。誰も……悪くなかったんだ。

どこにも悪者なんていないのに、アイツも、あの子達も、心に深い傷ができちゃった。
真面目な性分のアイツだからあの出来事は相当効いたみたいで、アタシと話している時も目に見えて暗くなってた。
誰よりもアイドルを大切に思ってるアイツだったからこそ、アイツは自分の不器用さのせいでって思って自分を責めていた。
それを見てるのは……辛かったよ。
アタシには何にもできない。アタシはいなくなった子達と同期ってだけで繋がりが薄かったから詳しい人柄とか知らなかったんだ。
アイドル辞めた後どうなったか、とか、あの子達がどう思っているのか、とか知ることもできなかった。……ううん、知るのが怖くて、知ろうとしなかった。
私がアイドル辞めたのはプロデューサーのせいだ、ってあの子達に言われるのが怖かったんだ。
流石に実際はそんなこと言わないだろうとは思うけど、アタシはアイツをそんな風に否定されるのが怖かったんだ。
アタシがアイツに抱いた印象を否定されるのが怖くて、あの子達から目を背けた。
何でだろうって、あの時のアタシは分からなかったけど、今なら分かる。
もう、あの時にはアイツはアタシの心の中の一部になってたんだって。

その出来事の後、アイツは益々表情が無くなって、顔も怖くなって。
アタシと話す時ですらどこか臆病になっちゃって、距離を置くようになった。
このまま幽霊みたいに消えてしまうんじゃないかって思えたくらい。
アタシはそうなるのが嫌だった。だから、アイツが持ってくる仕事はきっちりこなした。

いなくなった子もいるけど、アンタのお陰でアタシはこんなに輝けているよ、って言いたかったんだと思う。
それがアイツにどれくらい伝わったかは分からないけど……でも、アタシは出来る精一杯のことをやった。
アタシに仕事をもっと入れろ!なんて言ってみたりとかもした。

レッスンも、撮影も、ライブも、歌もダンスもトークも礼儀作法だって全部頑張った。
世間からはカリスマだって言われて、アタシもその声に答えようとした。
アイツがそう売り出そうとしてくれるなら、アタシもそれに全力で答えようとした。

でもさ、カリスマのアタシだって無敵じゃない。

ある時、ハードワークが過ぎたのか撮影中に熱出て倒れちゃったことあったんだ。
そりゃーもうバターン!ってカンジ。そのまま大慌てで医務室に運ばれたんだ。
ベッドから白い天井を見上げて、やっちゃったなぁ、皆に迷惑かけちゃったって考えてたんだ。
仕事要求した手前、大体アタシの所為だからさ、余計にね。

そんなことを考えてしばらく経って、医務室に血相を変えてアイツが駆け込んできたんだ。
「城ヶ崎さん!大丈夫ですか!」
額に汗を浮かべて、息を切らしてね。
「……大丈夫★ちょっと頑張りすぎちゃっただけ」
アタシがそう言って身体を起こすと、アイツは優しく肩を掴んでベッドに戻したんだ。
「申し訳ありません……私の調整ミスです。城ヶ崎さんには無理をさせてしまいました」
本当に申し訳なさそうに、アイツは謝った。
「いいの。アタシが仕事くれって言ったんだしさ。アンタは悪くないよ」
「しかし……」
そこでアタシは気がついたんだ。

身体は大きくても、コイツは意外と中身は普通なんだって。
どんなに顔が怖くて、どんなに仕事ができて、どんなに堅っ苦しくても、何かあると自分の責任だって思ってしまう。
そんなコイツの一面はすっごく人間だった。
コートはあんなに暖かくて大きかったのに、こんな風に小さくて弱い一面もあるんだって。
それが分かるとさ、なんか笑えてきちゃって。アイツは困惑してたよ。……そうそう!その癖、やってたやってた!
こんな風に心配してくれて、安心してきてさ、アタシはアイツに言ったんだ。

アタシを見つけてくれて、アタシをプロデュースしてくれて、アイドルにしてくれて、ありがとう、って。
今回は倒れちゃったけど、これはアンタのせいじゃないよって付け加えてね。

アイツは照れたのか、首に手をやってい、いえ……なんて言っててさ。可笑しくて。
身体はきつかったけど、心は凄く気持ちよかった。
アタシにはこんなに心配してくれる人がいて、その人は見た目は怖いけど本当は人間臭くて。
やっと、その時になって気がついたんだ。

アタシ自身の「想い」に。

続きはまた適当に

>>10
すまんね。雰囲気重視で名前はあえて入れてないんだ
基本会話自体は二人しかいないからなんとなく察してくれ。それこそ雰囲気で

うむ、おっしゃる通りだ
だから適当に読んでくれ。全体としては別に大事な部分じゃないしね

「……」
「……」
「……そう」
「今思うと遅かったな。気がつくの」
「そう……だね。美嘉も大分鈍かったんだね。自分の気持ちに」
「うん。鈍かった。数ヶ月も掛かっちゃった」
「……」
「あの時のアタシは幸せで、浮かれてたと思うよ。勿論仕事はちゃんとやってたし、誰にもこのことは言わなかった」
「でも、そんな時間は永遠じゃなかった。察しのいいアンタなら、分かってると思うけどね」
「……シンデレラプロジェクト」
「そっ」

気がついたらアタシは346プロの中でもトップレベルで名の知れたアイドルになってた。
楓さんに勝ててたかは……ちょい微妙だけどね。ああいや、楓さんはアタシも尊敬してるし別に競うつもりはないよ?ファン層違うしね。
まあそれは置いておいて。

346のトップアイドルの一人になったアタシは日に日に忙しくなっていった。
アイドルの日々は確実にアタシに自信をつけてくれたし、成長させてくれた。
年齢的にはまだ16だったけど、もう作法とか常識とかは身に着けて社会人になり始めてたんだ。
アタシ、これでも結構マジメだからさ。あーでも勉強は……まあ、それはそれ。

アイドルの仕事、モデルの仕事。たくさん入ってきた。どんどんステップアップしていってるのを感じてた。
アイツがくれる仕事のお陰で輝けるんだ、しかもソイツはアタシの好きな人。
すっごく幸せで、すっごく嬉しくて、すっごくふわふわしてて。

そうか 私、恋してるんだ

とか何とか、だーれも聞いてないのに美穂ちゃんとの曲のフレーズを呟いて見ちゃったりね。ふふふ。……あっ、ごめん、今のハズいから忘れて。

お、おほん!……けどね、それも長くは続かなかった。

アイドル活動も軌道に乗り始めた頃……アイツに言われたんだ。

「城ヶ崎さん……私は貴女の担当から外れることになりました」

……目の前が真っ暗になったような気がしたよ。所詮アタシは一人で勝手に浮かれてただけ。
順風満帆だと錯覚してたんだ。アイドル活動が充実して、アタシは秘密の恋をしてる、そんな単純な状況しか見えてなかった。
そんなスリリングで甘いシチュエーションの最中にいるアタシ……なーんて。バカだよね。だって。

アイツが抱えているトラウマのこと、何にも考えてなかったから。

今だからぶっちゃけるけどさ……男の子と遊んだこと全くなかったし、誰かを好きなんて思ったことなかったから。
始めてきた青春に浮かれてたんだ。自分のことしか考える余裕無かった。

アイツがまだ去っていった子達のことを引きずっていたのは知ってた。
けど、アタシからはそれに対して何のフォローもできてなかったからさ。目を背けてたんだもん、当然だよね。
アイツはずっと悩んでいたのに、アタシはそれを見て「コイツも悩んだりするんだ!意外と優しいしそういうのステキ!」だよ?バカだよバカ。あの時のアタシ。

担当を外れるって言われて、やっと気がついたんだ。
あの時のアタシは恋に恋してた。感じたときめきは独りよがりで寂しいものだって。
相手のことを考えているようで考えてない。見てるのは相手がどう感じているかで、どう思っているか、じゃないんだって。

やっと思い知った。
アタシはアイツがくれる仕事をこなしている様で、実はそうじゃない。アタシっていうアイドルに、仕事の方がアイツを通して来てたんだってね。
今話題のカリスマギャルアイドルなんて、黙ってても仕事が入ってくるんだ。わざわざ仕事を取りに行かなくてもね。
もうアタシは新人じゃない。アイドルとしては成長したのは間違いない。だから、担当が新人だろうが関係なく仕事を取れるアイツは担当を外れる。
単純なことだった。

カリスマJKギャルアイドル城ヶ崎美嘉には、もうアイツの力が無くても進んでいけるガラスの靴があったんだ。

16歳の高校生城ヶ崎美嘉にはアイツが必要だったかもしれない。


でもアタシはアイドルだから。
アタシはもう子供じゃないから。
もう新人じゃないから。
カリスマだから。


「……そっか。分かったよ」
ワガママなんて、言えなかったよ。

アイツは346プロが始める新企画の担当をすることになった。

業界でも注目される一大プロジェクト。大仕事だった。
今までの346のアイドル達はほとんどが別の部署からの出身ばかりで、ほぼ完全な素人を育成して売り出すっていうのはあまりやってなかった。
アタシ含めアイツの担当アイドル達は全体からしたら珍しい例だったんだ。
アイツにはアタシとか、その他ド新人を育成した実績があった。そりゃあ何人かはいなくなっちゃったけど、実際のところ別にアイツに限った話じゃないしね。
アイツが気負いすぎただけなんだ。本当にそれだけ。346はそれ以上にアイツの能力を買って、そのプロジェクトの責任者として任命したんだ。

シンデレラプロジェクト。

オーディションやスカウトなどで個性あるアイドルの卵を発掘し、幅広いジャンルで活躍できるアイドルに育てる事を目標とする企画。
アタシはアイツの出世が嬉しかった反面、不安だった。あの状態のアイツが、続けていけるのかなって。

1年以上の時間をじっくりかけてアイツはその企画に力を入れた。
アタシには別のプロデューサーがついて、その人から仕事を貰うようになった。
その人は良い人だったけど、アタシはいつもどこかでアイツのことを考えてたんだ。
あの期間、アイツとはたまに顔を合わせるくらいであまり会えなかったな。

そして高校3年になった春。

アンタと、未央と卯月がシンデレラプロジェクト最後のメンバーになって企画が動き出したあの日。
たまたまアタシの撮影とプロジェクトのアー写のタイミングが重なったじゃん?
莉嘉達はさ、早めに選ばれてちょっとはあの空気に慣れてたから撮影もスムーズだったけど、アンタと卯月はハタっから見ててもガッチガチだったのが分かったよ。ふふ。未央はアタシの真似なんかしちゃったりしてさ。

その後アイツの提案で自然な笑顔を出せるようになって、アー写は無事おしまい。その時のアンタ達の表情見てさ、ティンと来たんだ。

アタシはハピプリライブが控えてて、バックダンサーを探してたんだ。アンタと未央と卯月、ちょうど良かったんだ。
アイツとのこともあったしさ、そのことをアイツに提案したらちょっと微妙そうな顔だったけど承諾してくれた。

今思えばアイツに迷惑かけちゃったけど……でも、構って欲しかったって気持ちがあったのかな。うん。
1年放置だもん。罪悪感はあったけど、バックダンサーが欲しかったし、アイツと話したかったし。
現金でヤな女だよね、アタシ。いろんな意味で。

「でも、あの時の経験が今の私に繋がってるよ」
「そう言ってもらえるのは嬉しいな。アンタはあの時から歌上手かったね」
「……そ、そうかな?」
「うんうん!未央もダンス超上手かったし、卯月は笑顔が可愛かった。アタシの目に狂いは無かったって思ったね★」
「ありがとう、美嘉。あの経験がなかったらニュージェネはなかったかも知れない」
「ふふ★どうだろうね。……でも、あのアタシの行動でちょっと色々あったじゃん?」
「……うん」

アタシがアンタ達に見せた景色はキレイだったでしょ?しかも単純にキレイじゃなくて、豪華で、たくさんの光。

新人のアンタ達には、良くも悪くも影響が強かったよね。特に……未央に。
未央の中のアイドルはアレで固まっちゃった。

あの時はそんなことになるなって、想像すらしてなかった。
あの流れでニュージェネが結成されて、ラブライカと一緒にデビューライブ。
アタシのデビューの時よりずっといいステージ。シンデレラプロジェクト、すごいなぁとしか思って無かったよ。

ラブライカは順当にライブできた。ニュージェネも良かった。でも、アイツは何か違和感に気がついた。
アタシはあの時ダンスと歌を見てたけど、アイツは表情を見てたんだよね。

未央は言ってたよね。あの時と全然違う、なんでって。
アタシのライブと、あの時のニュージェネとのライブの違い。
未央はその違いに愕然としてあんなこと言ったんだ。

……ショックだったよ。アタシの軽はずみな行動が未央を混乱させちゃった。
そして、アイドルを辞めるなんて叫ばせてさ……。
全部アタシのせい、なんて自惚れた事は考えてないけど、それでもかなり責任感じちゃったんだ、あの時。

あの夜ベッドの中で泣いちゃったんだ。
なんてバカなことしたんだ。アタシの思いつきと、アイツと会話したいなんて自己中な考えの所為で未央がアイドルを辞めることになるなんて、って。
アタシにそんなつもりはなかったよ。だって、「アイドルを辞める」なんて、アイツが一番怖がってる言葉だよ?

アイツや未央にも問題はあったのかもしれない。でも、あの時のアタシは自分を責め続けるしかできなかった。
泣きながらごめんなさいって、誰が聞いてるワケでもないのに謝り続けてた。
声を莉嘉に聞かれたくなかったから、ベッドのシーツを噛んで堪えて。涙もたくさん出たから、次の日メイクが大変だったよ。
初耳?ふふ、じゃあこれはアンタとアタシの秘密ね。今となっては笑い話だから誰かに言っても良いけどさ。

凛はあの後アイツのこと信用できなくなって家に帰ったでしょ?
あの時のシンデレラプロジェクト、凄かったよ。暗くて、じめっとしてた。

莉嘉は「あの人何考えてるかわかんない」って言ってた。その時気がついたよ。
この子達はまだアイツのこと理解してない。アイツも、まだあのトラウマから脱却できてない、って。
時間とアンタ達がトラウマを癒してくれてるかなって思ってたけど、そんな甘いファンタジーはなかった。

……卯月はさ、凄いよね。そんな状況でも笑顔だったらしいから。
話に聞いただけだけどさ、卯月の笑顔でアイツは奮い立って、未央とアンタを連れ戻すことができたみたいじゃん。
この辺りの話は、アタシよりアンタのほうが詳しいだろうけどね?ふふ、照れないの。

で、アンタと未央が戻ってきたプロジェクトルームでさ、未央がアイツに敬語禁止令出したじゃん?
あの時アタシ外に居たんだ。
扉越しに聞こえてきた皆の声は楽しそうでさ。ああ、もうアタシがいなくてもアイツは大丈夫だって思えたんだ。
ちひろさんに中に入ったらって誘われたけど、遠慮したよ。あの瞬間からもう部外者になっちゃったんだ。

そりゃあさ、寂しかったけど、でも晴れやかだった。アタシにはできなかったアイツとの結束。もう、アイツはトラウマを乗り越えられたんだって。
そのトラウマこそがアタシとアイツを繋いでいた思い出でもあったんだ。だから、もう終わり。

アタシの初恋はここで終わり。

アタシが解決すべきアイツのトラウマは、アンタ達との触れあいで解消されたんだ。
ズルいアタシはどこかに消えて、残ったのはアイドル城ヶ崎美嘉だけ。なんかもう、気分良かった。

だからさ、今でもシンデレラプロジェクトには感謝してる。ありがとうね。

続きはまた後で
読みづらいって意見はもっともだから行間入れた

「でもまあ、完全な部外者にはならなったけどね。莉嘉いたし、それ以前に一緒に仕事することあったし」
「そうだね。美嘉、凸レーションのトークショー見に来てたよね」
「莉嘉のことがあったしね。あの時変装したまま関係者テントに入ったんだけど、アイツにはすぐには気がつかれなかったな」
「ちょっとガーンってきたけど、まあアタシの変装が完璧だったってことで思い直してる」
「凸レーションのトークショー……あ、思い出したくないこと思い出した」
「ああ、凛のあの衣装?可愛いかったよー、もうアレは着ないのー?」
「うっ……き、着ないよ!ていうか、未央に写メ送ったの美嘉でしょ!?」
「いいじゃーん★可愛かったし」
「くっ……」
「怒らない怒らない★ほーら、にこっ!」
「……それ、アイツにもやってたよね」
「うん。アイツ顔怖いけど、アイツが思っている以上にアイツは優しい顔ができるからさ。まあ結果は……知っての通りだったけどね」
「蘭子は気に入ってたみたいだけどね……」

ふふふ。あの後、本当に色々あったね。
サマフェスで未央に一歩進んで見せるからって言われたときは不覚にもちょっとうるって来ちゃったよ。
あの未央がちゃんと成長してるって分かったからね。未央はさ、なんかアタシに似てたから、嬉しかったよ。
美嘉ねぇって呼ばれるの、好きだな。

美波ちゃんが倒れるってハプニングがあったけど、シンデレラプロジェクトの皆はしっかり輝いていたよ。
アイツの頑張りがちゃんと見えたのは嬉しかった。本当に。
美波ちゃんも復帰できて、最後に新曲をやってたね。

あれの前にアタシが時間稼ぎしてあげたの覚えてるー?ふふ、カリスマだったでしょ。
アタシも後輩達には負けてられないからさ。いいとこ見せたかったんだ。

サマフェスが終わった後くらいだっけ。今の専務が来たの。

あの時は大騒ぎだったねー。路線変更されるわ、プロジェクト解体されるわのてんてこ舞い。
でも専務は凄かったよ。そりゃもう、アイツばりにね。権力のケタが違うからやることは派手だったけど。
あの騒動の中で結局誰もクビにならなかったし、専務はよりいい企画を提供してた。

その強引さはちょっとアレだったけど……ね。アタシもそれで反発しちゃったし。

でも、莉嘉はアタシでも気がつかなかった「自分らしさ」に辿り着いて、アタシの知らないところで大人になってた。
アタシもまだまだ子供で、妹から学ぶこともたくさんあるんだって思い知らされたよね。

最終的にはアタシの意志を通したけど、今では専務の路線も悪くなかったなって思ってる。要は突然の変化に驚いちゃったんだよね。
けれど、アタシももう年齢的にも大人が近くなってたし、いつか来る必然だったんだよアレ。

クローネだってそう。
アンタは相当悩んだよね。ニュージェネを裏切ることになるんじゃないかって。
トライアドに入ることがどれだけ残された二人に影響を与えるのかって。

でも未央と卯月はアンタの背中を押した。
未央はさ、アタシとアイツの前ですっごい泣きながら言ってたよ。

凛と一緒に居たい、ずっとやっていきたいけど、凛のことを思うとそれも良くない。
凛は新たな光を見つけてそこに行くべきだって。

……未央はさ、大人になったんだって思ったよ。あの子のソロ活動もそれを後押しするため。凄いよ、未央は。
もうアタシの所為でアイドルを辞めそうになった未央じゃなくて、間違いなく、アイドル本田未央だった。

……卯月は、変化に対応するのちょっと遅れちゃったね。でも、あの子もちゃんと前を見ることが出来た。
アタシは直接は見に行けなかったけど美穂ちゃんが嬉しそうに言ってたよ。

「卯月ちゃん、キラキラしてたよ!それ見て、私泣いちゃって」

そう言いながら本当に涙浮かべてるの。泣かせる卯月も、泣ける美穂ちゃんも凄いよね。
アタシも見に行きたかったよ。
卯月のその時の笑顔。

ニュージェネレーションズはさ、元を正せばアタシが見つけたユニットじゃん。
アンタ達が活躍して成長していくのを見るのはさ、なんというか、子を見る親の気分だったよ。

アタシ、ニュージェネが大好き。アンタ達の一番最初のファンはアタシだよ。なんたってアイツより早いんだから間違いない。

卯月の話を聞いて、アンタ達ならどこまでずっと行けるって確信したよ。本当に、いいユニットだって。

シンデレラの舞踏会でアンタ達の曲を聴いて、思わず泣いちゃったよ、アタシ、カッコイイカリスマだからさ。人前では泣かないように決めてたから。
嬉しかったけど、悔しかったぞ。このこの。

……だから、アタシは納得してる。
アタシが大好きなアイツと、同じくらい大好きなニュージェネ。
ニュージェネでもトライアドでも、凛は凛。
アンタがアイツのことを想ってるなら、アタシはそれで嬉しい。

アイツならアンタを幸せにできるよ。そしてアンタはアイツを幸せにできる。
現役カリスマ女優のアタシが保障するよ。

おめでとう、凛。

「……ありがとう、美嘉」
「スッキリした?」
「うん。美嘉の想いが聞けてよかった」
「ふふ、スピーチは誰がやるか決めてるの?」
「加蓮に頼んだよ。卯月と奈緒は……ほら、読めそうにないし」
「すっごい泣きそうだね……」
「未央もああ見えて泣き虫だから……加蓮ならちゃんと読んでくれるだろうしね」
「それがいいね」

「……あっ、もうこんな時間」
「ずいぶん長く話し込んじゃったね」
「ありがとう、美嘉。良い話が聞けたよ」
「どういたしまして」
「ここは私が奢っとくよ。いい話が聞けたお礼」
「えっ……あっちゃぁ、しまったな。こういうのって先に伝票取ったもん勝ちだからさ。やられちゃった」
「ふふ。……美嘉はこの後どうする?」
「アタシはもうちょっとここにいるよ」
「そう。じゃあ、またね美嘉。……ありがとう」

カランカラン。

「……先に取ったもん勝ち、か」
凛とアイツの結婚を祝福する気持ちは本当。
そもそも逃げていたアタシにそんな資格はない。
だからアイツらにはずっと幸せになって欲しい。
ステキな家庭を作って、毎日楽しく過ごして欲しい。

でも……今もでも「もしも」を考えるんだ。

もしも、アイツと出会ったのが仕事じゃなかったら。
スカウトとアイドルの卵じゃなくて、男と女として出会ってたら。

もしも、アタシに少しでも勇気があったのなら。
いなくなった子達の気持ちを強引に聞きに行くことができたなら。


『でもアタシはアイドルだから。』
もしも、アタシがアイドルじゃなかったら。
アタシはもっとガツガツアイツにアピールできたかも知れない。

『アタシはもう子供じゃないから。』
もしも、アタシが子供だったら。
ワガママいってアイツを引き止められたかも知れない。

『もう新人じゃないから。』
もしも、アタシが成長しないでずっと新人だったなら。
アイツはずっとアタシのプロデュースをしてくれたのかも知れない。

『カリスマだから。』
もしも、アタシがカリスマじゃなかったら……。

今頃、アイツの隣にいたのは――。

終わり。

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