【ガルパン】あんこう IN THE SHLL【機動隊】 (200)

荒巻「今から23分前の映像だ。新浜3区の路上に駐車されていたトレーラーの荷台から戦車が
出現し、県道を南に進行中だ」

バトー「見間違いじゃなけりゃ第二次大戦中のドイツのⅣ号戦車に見えるんですがね」

荒巻「戦車道の競技用戦車を違法改造したものだろう。目的は南区にある外務省のセーフハウスで
行われているガベルとの秘密会談の妨害と思われる。イシカワとトグサは戦車道競技関係者から戦車
の入手経路と乗員の正体をあたれ。アズマに手伝わさせろ。残りの者は少佐の指揮の下で戦車を止めろ!
急げ!」

素子「戦車道用戦車か、乗員保護用の特殊コーティングはちょっと厄介ね」

バトー「なんだあのマーク、魚…あんこうかな?」
   

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1454594412

素子「ボーマはヘリで先行、上空から監視。サイトーとパズは迂回して先回りしろ。対物ライフルで狙撃できるポイントを探せ。
バトーは私と来い!」

バトー「100年近く前の骨董品だ、タチコマの装備でもお釣りがくるだろ」

素子「そうでもないわ。エンジン音や駆動音からして相当いじってあるみたいだし、シュルツェンの代わりに砲塔や車体にKAZT
アレナを山ほど搭載してるでしょ。やつの装甲は2万発のライフルダーツの集合体だわ。上手くやつを押さえてもそいつをばらまかれた
上に自爆されたんじゃどうにもならない。幹線道路で網を張るわ」

サイトー「少佐、ダメだ、どうしても射角が取れん。地形と建造物を最大限に活用してやがる」

ボーマ「こっちもダメだ、上方占位できないように建物の影ばかり進んでいる。匍匐飛行での追跡も無理だ」

素子「いい教官について操縦と戦術を習ったようね、ボーマ、サイトーとパズを回収して我々と合流、タチコマ、出番よ!」

タチコマ「はーい」

素子「幹線道路に出たらタチコマと対物ライフルの狙撃で牽制、完全に動きを止めたら自爆の恐れがあるから
動きを鈍らせる程度でいいわ。光学迷彩で姿を消してやつに取り付いて内部にアクセス、操縦系統と爆発性装甲
を無力化する」

バトー「おい無茶するな!取り付いた途端に自爆されたらどうすんだ!」

素子「無茶は承知の上よ。このままじゃ幹線道路の直線部分を過ぎたところで標的と思われる建物を目視で
狙える地点に出る。サーモバリック弾頭でも撃ちこんでその後自爆すればやつの勝ちだわ」

トグサ「少佐、戦車の素性が割れました。茨城県の大洗の学校で使われてたものです。学校が廃校になったときに
紛失届が出されてます。いま暴れてやつも含めて8両の戦車が行方不明になっています。その学校、廃校になるとき
文科省と相当モメたようで、そこのところをテロ屋につけこまれたのかのしれません」

イシカワ「プロトとシガとでガベルの工作員を押さえた。ガベル政府内の反主流派の仕業のようだな、それと主犯格らしい
やつの身元が割れた。角谷杏28歳、トグサが言ってた学校の元生徒会長だ」

バトー「そいつ、なんで子ども型義体なんて使ってるんだ?」

イシカワ「義体じゃない、もとからこんなやつだ。学校が廃校になるのを防ぐために、頼りにならん教師や
理事をさしおいて文科省を向こうにまわして孤軍奮闘してたが、なにせ相手は悪名高き文科省だ。死ぬような
思いをして取り付けた約束を全部反故にされて放り出された。正式な書面にしてたものまで目の前で破り捨て
られたそうだから相当恨んでたようだ。秘密条約締結を妨害する見返りに自分たちの活動への支援を要求していた
らしい。半年前まで群馬県の干し芋工場で働いていたが今の消息は不明だ」

素子「いくら酷い目にあったからって仕返しの資金稼ぎにテロ屋に加担していいって法はないわ。タチコマ2機で
正面から接近、メインの囮にする。もう1機は後方から接近、味方の射線に入らないように気をつけろ。私は中央
分離帯の植え込みに隠れて飛びつくチャンスをうかがう。幹線道路が片側4車線、障害物のない800mの直線に
なるこの地点で勝負に出る。行くぞ!」

タチコマ1「いっきまーす」タチコマ2「いっくよー」

バトー「KAZTアレナ(散弾発射型レーダー連動式爆発性装甲)か…周囲への被害を考えるとロケット弾や
グレネードランチャーは使えねえな。機銃のみではちょっと荷が重くねえか?」

素子「それでもやりようはあるわ。それに今イシカワがいつぞやみたいに対戦車粘着弾投射器を借りに剣菱に
向かってる。間に合うといいけど」

バトー「ゼロ地点に戦車が到達するまで、いまのスピードだとあと15分だ。当てにはできねえな」

タチコマ1「きゃーっ」タチコマ2「わーっ」

ボーマ「ウソだろおい、戦車がドリフトしたぞ」

パズ「信じられん、あんな骨董品が零距離とはいえスラロームから行進間射撃を決めるなんて」

バトー「畜生!着発榴弾で2機まとめて路面ごと吹っ飛ばしやがった!」

素子「タチコマ!まだ生きてるならそのまま死んだフリしてて!行くわ!」

バトー「ああもう、無茶しやがる。サイトー、撃ちまくれ!少しでもやつの注意をそらすんだ!少佐、
こっちの火線に入るなよ!」

素子(この動き、思考制御じゃないわね。本当に複数の戦車兵が乗っているのか…もしくはAI補助?)

サイトー「少佐がやつの下に潜り込んだ。シャーシ下面のエスケープハッチをこじ開けるつもりだ」

バトー「あのバカ!轢き殺されるぞ!」

サイトー「少佐の生体反応が消えた!」

バトー「素子ォ!」

ボーマ「止まった…車長用ハッチが開いたぞ!」

素子「終わったわよ。乗員保護用の特殊コーティングがノイズ予防の電波遮断壁を兼ねてるみたいね。
戦車戦に特化し過ぎて電脳戦は想定もしてなかったみたいだわ。簡単に制圧できた」

バトー「バカ野郎!おどかすな!」

素子「中を覗いてごらんなさいよ、もっと驚くから」

バトー「女?まだ子どもじゃないか!それになんだこの包帯を巻いたクマは?ロボットか?」

素子「彼女が車長でこのロボットグマたちがその指示で動いていたわ。ゴーストハックされてロボットを自分の仲間だと
思い込まされていたようね」

バトー「殺したのか?」

素子「まさか。ゴースト錠を掛けて夢見心地にしただけよ」

みほ「お姉ちゃん…見つけたよ…わたしの戦車道…」

バトー「西住みほ17歳、本籍地は熊本県。西住流戦車道の家元の次女として生まれる。戦車道の名門校、
黒森峰女学院の副隊長として活躍するも、試合中の失敗の責任を取らされる形で流派を破門、実家も勘当
される。その後、新浜県立新浜第一高校に転入するも2ヵ月で中退。現在はアルバイト店員としてCVS
サンクス鶴見台中央店に勤務、勤務態度は極めて良好。…か、なるほどね、家元の娘ってわけだ。通りで
いい動きだったはずだ」

素子「その経歴と腕前を悪い連中に目をつけられたようね、仕事帰りに拉致されてゴーストハックされて
疑似記憶をかまされた。本人はずっと仲間と一緒に全国大会に出場してると思い込んでたわ」

バトー「で、その哀れな戦車娘は今どうしてる?」

素子「トグサとイシカワが取調べ中よ」

みほ「疑似体験?どういうことです?」

トグサ「だから大洗の戦車道も全国大会も全て夢で、存在しない幻のようなものなんです。あなたは政府関係機関
に自爆テロを仕掛けようとしてたんです」

イシカワ「あんたの部屋に行ってみた。何もない。フリーターの部屋だ」

みほ「大洗にはまだ転校したばかりで…」

イシカワ「あの学園艦は10年も前に廃校になってるんだ!それにここは新浜だ」

トグサ「あなたが見せようとした写真です。そこに写っているのは誰と誰です?


Ⅳ号戦車に乗るみほと4体のボコられグマの写真


「そんな…確かにあんこうチームのみんなが…写って…」

みほ「そのウソ夢、消す方法はありますか?わたしは…」

トグサ「残念ながら現在の技術では成功が2例報告されているだけで…とても、お薦めは出来ません…お気の毒です…」

バトー「疑似体験も夢も、存在する情報は全て現実であり、また幻でもあるんだ…。どっちにしろ人間が一生のうちに触れる情報なんてごくわずかだ…」

数か月後…

サンクス鶴見台中央店

みほ「いらっしゃいませー、あ…あのときの刑事さん…あの…まだ、なにか…」

素子「店長には話を通してあるわ。場所を変えてちょっと話ができない?」

みほ「はい…」

素子「紹介するわ、こちらは荒巻大輔公安9課課長。私のボスよ」

荒巻「荒巻だ。単刀直入に言おう、君のその戦車操縦の技術を公共の安全のために役立てる気はないか?」

みほ「あの…それってどういうことですか?」

荒巻「君はあの事件の後、戦車の操縦資格を剥奪され、戦車道の選手登録も抹消されたそうだな。このままでは
まともな手段では生涯戦車に関わることはできんだろう。君はそれでいいのか?」

みほ「…」

荒巻「無論、戦車道の戦車と我々の思考戦車とはその用途も、操縦特性も戦術もまるで違う。だが君の技術なら
できるかもしれん。犯罪者との戦いに我々は新たな人材を求めている。どうかね、一緒にやってみないか?」

素子「まあ、考えておいて。悪い話じゃないでしょ?」

みほ「あっ…あの!わたし、やります!思考戦車に乗ります!」

荒巻「いいだろう、だが自分から誘っておいてこう言うのもなんだが、ウチは厳しいぞ」

みほ「わたし、がんばります!やらせてください!」

素子「公安9課にようこそ。歓迎するわ」


終。

需要があれば公安9課編もやります。

あんこう IN THE SHELL 公安9課編

素子「バトー、訓練教官としてのあなたから見て彼女の具合はどう?」

バトー「西住か、まあ悪くないな。ウチに来るやつらは大抵俺やサイトーやボーマみたいな軍人上がりか、少佐やパズやイシカワみたいな
諜報員上がりで、あいつみたいなアスリート出身のやつは初めてだったから最初は不安だったんだが…」

バトー「あの手の軍事教練系競技の選手だっただけあって、戦車だけじゃなく野戦を中心に一通りの知識は叩きこまれ
てるし、アスリート特有の勘の良さや勝負強さがある。なにより機転が利くやつだ。身体能力も訓練生の義体化して
ない連中の中ではトップクラスだ。CQBなんてトグサより強いぐらいだぜ」

素子「それ聞いたらトグサ落ち込むでしょうね」

バトー「問題はマインドセットだな」

素子「そうね、優れた射撃選手が必ずしも優れたスナイパーになれるとは限らない。競技と実戦は違う。彼女が
流派を追い出されたのも、試合中に敵を倒すことより味方を救うことを優先させたことが原因らしいし、彼女の
そういうところが今後どう影響してくるか…」

バトー「でもまあ、そういう資質は警察官や消防士に向いてるんだぜ。ウチも建前では『国際救助隊』ってことに
なってるからな」

素子「呑気ねえ」

バトー「戦車兵上がりだけあって火薬や爆薬にも詳しい、爆発物担当のボーマが教えることがあまりないってぼやいてた。
今は犯罪捜査の実地研修でトグサと組んで出てるはずだ」


警官「ちょっとあんた、その女の子とどういう関係?」

トグサ「公安の者だ。彼女もうちの課員だ」

警官「はっ、失礼しました!(なんだろう、援助交際の囮捜査かなんかか?)」

トグサ「これで3回目だよ。まったく、刑事が職務質問されてどうするんだよ」

みほ「すみませんトグサさん、わたしがこんな格好してるから度々誤解されて…わたし、私服ってこういうワンピースにカーディガン
とかガーリーな感じのばっかりで…これなら高校の制服のほうがよかったかな」

トグサ「いや、それだと余計まずいだろ」

赤服「おーい、新しいタイプのタチコマが仕上がったぞ」

バトー「こいつ、腹に大砲つけてるのか?」

赤服「60mm低圧砲だ。口吻部のグレネードランチャーをオミットして代わりに専用の射撃管制装置を搭載した。
いままでのタチコマが普通の戦車だとしたら、こいつは突撃砲か対戦車自走砲にあたる機体だ。弾頭はまだHE弾
と対多脚戦車・暴動鎮圧用の粘着弾だけだが、HVロケット推進の徹甲弾を開発中だ。完成したら主力戦車とも渡り
あえるぞ。もっとも、特殊弾頭の装備と使用は課長の許可が必要だろうけど」

バトー「警察用戦車にしては過剰火力じゃないか?」

赤服「西住は突入要員よりもバックアップのほうが向いてるって少佐の考えもあったからな。で、以前から考案されてた
中距離火力支援モデルにしてみた。サイトーあたりが使うこともあるかもしれんが、基本的には西住の専用機だ」

バトー「それであんこうのパーソナルマークが貼ってあるのか」

赤服「それだけじゃないぞ、こいつだけ音声を玉川砂記子じゃなくて中上育実にしてある」

バトー「なにそれ意味わからん」

今夜はここまで。仕事や家事の都合もあって毎晩10時半~11時ごろの更新になると思います。

みほ「あああんあん♪あああんあん♪」

バトー「おい西住、なに光学迷彩服着て踊ってるんだ」

みほ「すみません、こういう体にぴったりしたの着るとつい思い出しちゃって…」

バトー「今日から戦車の訓練が始まる、気合入れていくぞ」

みほ「はい!」

バトー「タチコマに搭乗後、指定のコースを巡行、指示に従い標的を射撃しろ」

みほ「了解!タチコマちゃん、いくよ!」

タチコマ改「了解であります!」

素子「さて、お手並み拝見といきますか」

バトー「やっぱりいい腕してるな、陸自や米帝の戦車兵でもあそこまで出来るのは数えるほどだろうな」

素子「でも、次の標的はどうかしら?」

バトー「よし、武装した暴徒の集団が市民を襲ってるという想定だ。移動しながら武器を持った人形だけ
射撃しろ」

みほ「了解!…あっ!」

素子「スナイパーの養成課程で使う、中に赤い染料を仕込んだ標的よ。人形だとわかってても赤い血が流れたら
精神的にちょっとくるでしょうね」

バトー「やれやれ、まいったな。停止しちまったぞ」

素子「どうした?初めはあんなに調子よかったのに」

みほ「申し訳ありません…撃った人形から血が出たとき、わたし、これからは人を撃つんだ、撃たなきゃいけない
んだ、そう思ったときどうしても体が動かなくなって…」

素子「人を殺しても許される条件は2つだけ。自分が殺されそうなときと、殺されそうな人を助けるとき。そして
我々は公衆の安全と権利を守るために働いてる。言いたいことわかるでしょ?ほら、早く行きなさい。バトーが
呼んでるわよ」

バトー「おい西住、訓練を中断させた罰だ。このピンク色のやつ着て表で踊れ。命令だ」

みほ「え…ええっ!?」

トグサ「なあ、これってセクハラじゃないか?」

今夜はここまで。

みほ「はあ…やっちゃったというか、やらなきゃいけないのにやらなかったというか、こんなことで大丈夫かな…」

タチコマ改「大丈夫であります!もし西住殿が撃てなくても、自分が代わりに発砲します!」

みほ「ありがとうタチコマちゃん、でもそれじゃダメなんだよ。撃つからには自分の意志で発砲して、その結果に
自分自身で責任を取らなきゃいけないんだよ」

素子「やっぱりここだったのね、なに?戦車のAI相手に愚痴こぼしてたの?」

みほ「あっ…少佐!さっきは申し訳ありませんでした!」

素子「済んだことはいいわ、問題はこれからどうするかよ。あなたはどうするつもり?」

みほ「それが…わからないんです…わたし、本当に人が撃てるのか、たとえそうしなければ大勢の人の
安全が脅かされるようなことになるとしても撃てるのか…」

素子「こればっかりは訓練を重ねてもどうにもならないことが多いわね、実戦を重ねるうちに慣れるわ。
でも、慣れて欲しくないってところもあるわね」

みほ「あの、それって…」

素子「バトーが言ってたわ、あなたには軍人上がりの自分たちや私みたいなスパイ上がりにはない
資質があるって。どんな組織でも似たような人材ばかり集めてるといつか機能不全を起こして緩やか
な死を迎えることになる。常に考え続けなさい、自分に何ができるか、自分にしかできないことはなにか、
それがわかるようになりなさい」

みほ「はっ…はい!わたし、がんばります!」

素子(バトー、こんな感じでいい?)

バトー(ああ、すまねえ、こんなことはやっぱり女同士がいいと思ってな)

素子(一つ貸しにしとくわ)

今日はここまで。

みほ(わたしにしかできないこと…そういえばお母さんが言ってたっけ、『どんな強い戦車にも弱点はある、どんな弱い戦車にも長所はある。
それを利用して勝利するのが戦車道だ』って…わたしにもできるかな…)

素子「そういえば、みほをハメたやつの調べってどうなってる?」

イシカワ「それなんだがな、一向に進まなくてな」

素子「らしくないわね」

イシカワ「半年前に勤めていた干し芋工場をやめてからの足取りが全くつかめん。ガベルの工作員に接触したときも
代理のAIを通してだったし、消えた戦車も、紛失届が出てから一時サンダース大付属高校に預けられていたらしい
んだが、山奥の仮校舎に運ばれてからは消息不明だ。前回の事件は資金稼ぎとロボット戦車の試運転を兼ねたものの
ようだし、必ずもう一山くるぞ」

素子「できればなんとか先手を打ちたいところね、攻性の組織を名乗る我々としては」

今夜はここまで。本業多忙につき更新が滞ることがあるかもしれません。ごめんなさい。

荒巻(少佐、残念だが向こうのほうが一足早かったようだ。所属不明の戦車が6両現れた。全員に招集をかけろ)

素子「今から15分前、トレーラーの荷台や工事車両の中から6両の戦車が出現した。目的は不明だが
かねてより予測されていた文科省への攻撃を行う可能性が高い。イシカワは引き続きダイブルームから
情報収集と監視、トグサはアズマを連れて所轄の県警と現場を仕切れ。あとの者は私と来い!」

みほ「あの、少佐…わたしは…」

素子「西住はタチコマと一緒にヘリで上空から監視、というか、まだなにも任せられないわ。私たちの
仕事を見てなさい。文字通りの『見習い』ね」

みほ「はい…」

今日はここまで。

素子「先を越されたわね」

イシカワ『少佐、実行犯の正体が割れたぞ。河嶋桃27歳、例の元会長の側近だった女だ。で、その元会長だが
4年前に既に死亡している。事故だったらしい」

イシカワ「その後そいつは死んだ会長そっくりの義体を作って自分の脳幹を移植した。造顔作家と闇の
義体屋から裏を取ってある。姿形を同じにしてまでその意志を継ごうというんだ、よっぽど心酔してた
ようだな。だが、そこまでするということは…」

素子「目的を果たしたら死ぬつもりね」

バトー「『どうせ生きては還らぬつもり』か…そんな歌があったな」

今夜はここまで。

素子「6両の戦車はそれぞれが別の場所から現れて違うルートで目標と思われる文科省の庁舎に向かっている」

バトー「動きが不自然だな、それに1両足りない」

素子「恐らく6両ともロボットが操縦していて、残りの1両が指揮車両としてどこかに潜伏してるんだわ。ポルシェティーガー以外はタチコマと
対物ライフルで仕留められるはず、砲撃を始める前に止めないと」

バトー「指揮を執ってるのはヘッツァーか、一番車高が低いやつだ。どこにでも隠れられるぞ」

イシカワ「少佐、敵の狙いがわかったぞ。本当の標的はこの男だ」

バトー「誰だこいつ?」

イシカワ「学園艦が廃校になったときの文科省の役人だ、あいつはこの男を殺そうとしてる。アジトらしい
のをプロトが見つけて、そこでこの男の資料を発見した。こいつ、今は厚労省に出向していて、勤務先の
出先機関の場所がここだ。本命はこっちで今暴れてる戦車は囮だろう」

バトー「畜生!街の反対側じゃねえか!こっちの戦車を倒してからじゃ間に合わねえぞ!」

今夜はここまで。

サイトー「少佐、狙撃で八九式とM3を仕留めたが中は空だ。ドライバー役のロボットグマが一体乗ってるだけで、
自爆装置どころか砲弾すら積んでいない」

パズ「こっちも同じだ。ボーマと2人で三式とB1bisを押さえたが中は空だ。どうなってるんだ?」

イシカワ「悪い知らせだ、そいつは前回の事件で失敗してから工作機関からの支援を打ち切られた。
で、計画を変更して手持ちの装備だけでどうにかしようとしたようだ。全ての戦車の砲弾をバラして
2トン近い量の高性能火薬を作って自分の戦車に積み込んだ。そのヘッツァーは走るIEDだ。建物
どころか一区画が吹っ飛ぶぞ」

今夜はここまで

素子「世の中に不満があるなら自分を変えろ」
桃「変えました」

素子「砲弾を積んでないなら、こっちの戦車は県警のSWATチームに任せといていいわ。
全員で本命と思われる方へ向かう!」

バトー「一番近いのはヘリの西住か、自重しろとは言っといたんだがな」

素子「こういうとき言って聞くような子じゃないでしょ、特に目の前で事が起きてるようなときには」

みほ(なにあれ…工事現場のシートの中からヘッツァーが…いけない!)
「あのっ!すみません!高度落としてください!タチコマちゃんと降ります!」

オペ子「ちょっと西住さん!ダメですって!」

今夜はここまで

サイトー「西住がタチコマと一緒にヘリから飛び降りたぞ」

バトー「あのバカ!あれほど言っといたのに!無茶する女は課に1人でたくさんだ!」

素子「それ、私のこと?」

バトー「他にいねえだろ!自覚してなかったのかよ!」

みほ(どうしよう…飛び降りたのはいいけれど、監視任務だったから主砲の砲弾を支給されてないし…
7・62mm機銃じゃ履帯の切断も難しいし…そうだ!)

みほ「タチコマちゃん!光学迷彩で姿を消しながら敵の側面につけて!『蜘蛛の糸』用意!」

タチコマ改「了解であります!」

みほ「起動輪を狙ってワイヤーを射出!(お願い!止まって!)

今夜はここまで

みほ「止まった!タチコマちゃん!後ろから上に乗ってハッチをこじ開けて!」

タチコマ改「内側から溶接されてて開きませーん!」

みほ「だったら機銃で蝶番を撃ち飛ばして!カーボンコーティングがあるから完全に貫通はしないはずだから!」

タチコマ改「開きましたー!」

みほ「警察です!そこから出てください!」

桃「貴様かぁ!邪魔をするなあ!」

みほ(拳銃を持ってる!)
「じゅっ、銃を捨ててください!でないと撃ちますよ!本当ですよ!」

桃「撃ちたければ撃てぇ!」

みほ「本当ですよ!本当に本当に撃ちますよ!」
(どうしよう…撃たなきゃいけないのに…動けない…)

今夜はここまで

桃「が…」

素子「もう十分でしょ?脳ミソに鍵掛けたから取調べが始まるまで寝てなさい」

みほ「光学迷彩?…少佐!」

素子「間に合ってよかったわ。見習いにしてはやるじゃない、でも詰めが甘いわね、この先も殺さずに済ませたい
ならもっと腕を磨かないと」

素子「それに上空からの監視を命じておいたはずよ、これはちょっと独断専行が過ぎるわね。
まああなたのおかげで自爆を防げて、犯人も生きたまま確保できたのは認めるけど。後の処置
は教官のバトーに任せるわ」

バトー「こらぁ西住!勝手な真似をするな!うまくいったから良かったものの、失敗してたら
どうするつもりだったんだ!罰としてまたピンク色のやつ着て踊れ。少佐、お前の分も用意して
あるぞ。一緒にどうだ?」

素子「…」

バトー「すまん、俺が悪かった…(殺される…あの目は本気だ…)

今夜はここまで。

バトー「なるほどね、液状ワイヤーにこんな使い道があったとはね。本当に機転の利くやつだ」

素子「トグサやプロトに見習わせたいわね、あの2人融通が利かないから」

ボーマ「爆弾の処理が終わったぜ。少佐も西住もあいつを殺さなくて正解だったな、あいつは電脳の脳波モニターと
義体の生命維持装置を起爆装置と繋いでたんだ。自決と同時に自爆するつもりだったんだろうな。殺してたら一緒に
心中するところだったぜ」

バトー「おいおい、危ないとこだったな」

素子「で、その張本人はどうしてるの?」

バトー「トグサが取調べを始めてるんだが、あんな大事を起こしたくせに取調室では
泣きっぱなしだとさ。電脳からの記憶の解析は裁判所の令状待ちだな」

素子「みほの姿が見えないけど?」

バトー「倉庫の隅で震えてる。お前も経験あるだろ?初めての実戦だ、終わった後の新兵といえば
震えが止まらなくなるか、嘔吐するか、その両方か。戦闘処女を捨てたときのこと憶えるか?」

素子「…言い方が下品なのよ」

今夜はここまで。

バトー「それと、狙われてた例の役人だが、学園艦が廃校になったときに不動産会社や産廃業者からかなりの
額の金が流れてる。4課の経済事犯担当の連中が、県警の組織犯罪課や地検と組んで裏から内偵してたんだが
今回の騒ぎで公開捜査に切り替わった。任意で事情聴取してるが逮捕状が出るのは時間の問題だな」

素子「だったらあの女がやったこともまるっきりむだじゃなかったわね。決して許されるやり方じゃないけど」

バトー「さてと、問題児の様子でも見にいくかな」


バトー「どうだ、少しは落ち着いたか?」

みほ「はい、申し訳ありませんでした。勝手なことをしてしまって…わたし、どうしても撃つことができませんでした。
そうしないと自分だけじゃなく大勢の人が危険だったかもしれないのに…わたし、間違ってたんでしょうか…」

バトー「間違っちゃいねえよ、間違ってるのは平気で人が撃てる俺たちの方だ。お前の間違いといえば
殺さず無力化できる自信がつくくらいの射撃訓練をしてなかったことだ。トグサに付き合って暇なとき
に射撃場に通え。生身なんだから俺や少佐みたいに照準補正ソフトをインストールするってわけには
いかないからな」

みほ「あ…あのっ!ありがとうございます!」

バトー「礼を言われるようなことはしちゃいねえよ、俺はお前の教官だからな」

素子(なに格好つけてんのよ、気持ち悪い)

バトー(うるせえな!覗いてじゃねえよ!)

今夜はここまで。

ボーマ「今日は西住は休みか」

バトー「ああ、ここへ来てから非番も自宅待機ばっかりで普通に外出できる休みは初めてだからな、
女の子らしくどっか出掛けてんだろ」

イシカワ「おい、ちょっとこれ見てくれ」

バトー「おい、この女…」

イシカワ「小山柚子だ、この間捕まったあいつの供述にあった共犯者だ。5分前に西区の
ショッピングモールの防犯カメラの顔認証システムに引っかかった」

バトー「隣にいるのは、まさか西住か?」


柚子「西住みほさんですよね?ちょっと話せませんか?」

みほ「あ…あなたは…」

柚子「ポケットの中でピンを抜いた手榴弾を握ってます。日曜日だから人が多いですね」

柚子「2秒信管にしてあるから、安全レバーが外れたら遠くに投げることも信管を外すこともできません。
非番でも拳銃の携帯が義務付けられているのは知ってます。鞄ごとこっちに渡してください」

みほ「…」

柚子「マテバのオートマチックリボルバーですか、変わった銃を使ってますね。これ、借りときますね。
私、あんまりお金がなくて、手榴弾買ったら後はナイフしか用意できなくて…」

今夜はここまで。

みほ「…目的はなんですか」

柚子「目的ですか…私にもよくわからないんです。初めはあなたや周りの人たちを人質にして
桃ちゃんを助けようと思ってたんですが、警察がテロリストと交渉するはずないし、そもそも
途中で制圧されるに決まってますよね」

みほ「だったら何故!」

柚子「たぶん、何もかも終わらせたいんです。思えば、会長が亡くなって、桃ちゃんが義体化するって
言い出したころから全ておかしくなってきて、あのとき止めるべきだったんですね。でも2人ともそうし
なければ前に進めないような気がして。あなたを巻き込んだことは悪いと思ってますし、後悔もしてます。
桃ちゃんが目的を達していたら後を追うつもりでした。でも捕まってしまったら、どうしたらいいのか
わからなくなって…」

みほ(あのゴミ箱、金属製だよね。スチール製かな、そうでありますように…ゴミも適当な量が入ってる
といいんだけど…)

みほ「みなさん警察です!爆弾があります!下がってください!」

柚子「なにを…!」





バトー「で、手榴弾を奪ってゴミ箱に放り込んでから、犯人を抱えて2人がかりで押さえ込んで爆風と破片を
抑えたってのか」

ボーマ「相変わらず無茶するなあ、俺だったら犯人を殺してその死体を楯にするけどな」

バトー「そんな真似ができるやつじゃないのは知ってるだろ」

ボーマ「対人用の普通の手榴弾でよかった、対サイボーグ用の破片効果の高いやつだったら2人とも
死んでただろうな」

バトー「対サイボーグ用のは闇市場でもあまり出回ってないからな、犯人が金持ちじゃなくて命拾いしたな」

柚子「意外と残酷なんですね…殺してくれないんですか…」

みほ「ごめんなさい…今のわたしは警察官だから…あなたを逮捕します」

今夜はここまで。

バトー「なんだよ、この銃…おいトグサ!お前の仕業だろ!新入りに自分の趣味を押し付けるんじゃねえよ!」

トグサ「別に押し付けたわけじゃねえよ。一緒に射撃訓練してたらそっちの方が使いやすそうだって言うから…」

バトー「ったく所帯持ちのくせに…2人でいるとこ写真に撮って嫁さんに送り付けたら面白いことになりそうだな」

トグサ「頼むから冗談でもやめてくれ」

バトー「西住、とんだ休みになっちまったな、悪いが本部に出頭して報告しといてくれ。ハンガーにも
顔出しとけ、タチコマが心配してたぞ」

みほ「はい!失礼します!」

素子「この調子だと、彼女、いい警官になれそうね」

バトー「前にも言ったろ?あいつは警察向きだって」

素子「戦車道か…中学生の頃、サイボーグは選手になれないって入部を断られてガッカリした
ことがあったっけ…」

バトー「こいつは驚きだ!お前に中学生の頃なんてあったのか!」

素子「なにそれひどい」

みほ(そうだよね…自分にしか出来ないことが何なのか、まだわからないけど、今は
できることをやるしかないよね。お姉ちゃん、お母さん、見ててよね、みんなとは違う
けど、きっとこれがわたしの戦車道なんだよ)

               終

乙です
これで終わりかぁ、毎晩の楽しみが1つなくなってしまった

もし続きがあるならのほほんとしたみぽりんと9課の日常をみたいな

公安9課メンバーで戦車道やったらどうなるんだろう

課長「西住の歓迎会も兼ねた9課の親睦会をやろうと思うが、何か良い案はないか?」

素子「あら、それなら1つ良い案があるわ。バトー、タチコマで戦車道やるわよ!!」

バトー「マジ?」

中学生の頃にサイボーグを理由に戦車道を諦めた少佐が、当時の情熱を思い出してノリノリでやり始めるところまで想像できた。

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