剣士「斬撃を飛ばす技は邪道の極みだ」(38)

青年剣士「ソニックウェーブソード!」ビュオアッ

魔剣士「魔空斬……」ビュオオッ

サムライ「飛空居合でござる!」シュバァッ





剣士「ったく、近頃の剣士ときたら……どいつもこいつも斬撃を飛ばしやがる」

剣豪「まったくだな」

剣士「鍛えた肉体で間合いを詰め、自分が握った刃で敵を斬る!」

剣士「これこそが剣士の強みであり醍醐味だろうが!」

剣士「あんな魔法じみた技で、間合いをごまかしたって強くなんかなれるか!」

剣豪「そのとおりだ」

剣豪「結局、戦いでモノをいうのは純粋な剣技に決まっている」

剣豪「我々だけでも、今までの剣士の流儀を貫き通していこうではないか」

剣士「ああ、もちろんだ!」

雑誌『月刊ソードマスター』のインタビューに対し、剣士はこう答えている。



剣士「飛ぶ斬撃? ふん、あんな技は邪道の極みだ」

剣士「なぜなら、剣士にとって最良にして最強の戦術とは――」

剣士「自分の足で踏み込み、間合いを詰め、自分の剣で敵を斬る、これに尽きるからだ」

剣士「あのような技では強くなれた気になれても、真に強くはなれん」

剣士「剣士が強くなるには、ひたすら剣を振り、間合いを体で覚え、場数を踏む」

剣士「これしかないのだから!」

剣士「斬撃を飛ばすなどという技で楽をしたところで、いずれ必ず限界がくる!」

剣士「はっきり申し上げておこう。私はここに断言する」



剣士「私は斬撃を飛ばす技は絶対に使わないと!」

ところが――

<病院>

剣士「剣豪!」

剣豪「……やぁ」

剣士「闘技場での若い剣士との立ち合いで敗れたと聞いたが、本当なのか!?」

剣豪「ああ……やられたよ」

剣豪「飛んでくる斬撃を避け切れず……こんなザマになってしまった……」

剣士「お前ほどの剣士がどうして……油断したか?」

剣豪「いや、油断じゃない……」

剣豪「むしろ、斬撃を飛ばす技の性能が……私の想像以上に進歩していた……」

剣士「…………!」

剣豪「スピードも、威力も……そして連射性能も……」

剣豪「もはや、従来の剣術で太刀打ちできるようなシロモノではない……」

剣豪「今のうちにいっておく……」

剣豪「退院したら、私も斬撃を飛ばす技を会得しようと思う」

剣士「な……!」

剣豪「そして……お前も私のようなことにならぬ前に、会得すべきだ」

剣豪「大怪我してからでは遅いのだから……」

剣士「…………」

病院を出た剣士。

剣士(剣豪の奴め、見損なったぞ!)

剣士(俺たちだけでも従来のスタイルを守っていくんじゃなかったのか……!)

剣士(俺も……今度、闘技場で試合をすることになっている)

剣士(おそらく相手は斬撃を飛ばす技を使ってくるだろう)

剣士(そこで、俺が従来の剣術の強さを皆に知らしめてやる!)

剣士(そうすれば、剣豪だって気持ちを変えてくれるかもしれないしな!)

数日後――

<闘技場>



ワァァァ…… ワァァァ……



金髪剣士「ほれっ、ほれっ、ほれっ!」ビュオッ ビュオッ ビュオッ

剣士「ぐううっ……!」

金髪剣士「そらっ!」ビュオッ

剣士「わわっ!」サッ



剣士(くそっ……なんて速さとスキの無さだ……全然近づけない!)

剣士(切れ味も、俺が知ってる飛ぶ斬撃とはケタ違いだ!)

剣士(こんなのまともに剣で受けてたら、剣がダメになってしまうかもしれない!)

剣士(くそう……斬撃を飛ばす技がここまで進歩していたなんて!)

<森>

剣士「…………」

剣士(どうにか勝てたが……薄氷の勝利だった)

剣士(相手のスタミナが尽きたところで間合いを詰め、かろうじて勝利……)

剣士(こんなんじゃ、斬撃を飛ばす技に正面から打ち勝ったとはとてもいえない……)

剣士(しかも、今日の相手は剣士としての格は俺よりずっと下だった)

剣士(もし、俺と同じぐらいの格の相手だったら……俺は負けてただろう)

剣士「――くそっ!」

剣士「俺が必死で鍛錬してきた剣術とは、こんなもんなのか!?」

剣士「やっぱり俺も飛ぶ斬撃を会得しなきゃ勝てないのか!?」

剣士「ちくしょう……」

剣士(試しに一度、俺も飛ぶ斬撃とやらが出せるかやってみようか)

剣士(あくまで試しだ! 試しなんだからな!)

剣士「たしか……こうやって……こう!」ビュオッ



シュバァッ!

スパパパパパッ! ズズゥゥン……



剣士「で、できた……。できちゃった……」

剣士(あんな軽くやったのに、木が数本切れてしまった……)

剣士(自分でやってみて、やっと分かった気がする)

剣士(こんな技、便利すぎるだろうが!)

剣士(一度覚えたら、こればかり使いたくなるに決まってるだろうが!)

剣士(自分の足で間合いを詰めて斬るなんざ、バカバカしくなるに決まってるだろうが!)

剣士(それこそ、自分の足で走るのと馬に乗って走るぐらいの違いだ!)

剣士(いや……それ以上かもしれないな)

剣士(だけど――)





剣士『私は斬撃を飛ばす技は絶対に使わないと!』





剣士(俺はこう宣言してしまってる)

剣士(もし斬撃を飛ばす技を使ったら、バッシングは免れないだろうなぁ……)

剣士(結局お前も斬撃を飛ばすのかよ、ってヤジが飛んでくるに決まってる)

剣士(どうすりゃいいんだ……)

剣士(とりあえず、今の要領でゆっくり剣を振ってみるか)

剣士(そうすりゃ飛ぶ斬撃の弱点が見えてくるかもしれないしな)

剣士(……多分見えないだろうけど)

剣士「そーっと……」ユル…

斬撃「…………」

剣士「うわっ! なんだこれ!?」

剣士(斬撃を飛ばす振り方でゆっくり剣を振ったら――)

剣士(斬撃が出来上がって、しかも止まったままになってる! どうなってんだこれ!?)

斬撃「よう!」

剣士「わっ!?」

剣士(斬撃が……しゃべった!?)

剣士「お前、いったいなんなんだ!?」

斬撃「オレか? オレは斬撃さ」

剣士「えぇと……魔物なのか? それとも召喚獣みたいなもんなのか?」

斬撃「どっちでもない。斬撃“そのもの”さ」

剣士(もうなにがなんだか……)

斬撃「しっかし驚いたよ」

斬撃「まさか、オレを出す境地にまで達する人間が現れるとはねえ」

剣士「お前を出す境地……?」

斬撃「オレを出すには、いわゆる斬撃を飛ばさない剣技を限界まで鍛え」

斬撃「なおかつ、斬撃を生み出す剣の振りをゆっくりと行う必要がある」

斬撃「こんな条件満たせるような酔狂な奴、いるとは思わなかったよ」

剣士「はぁ……」

剣士(ようするに、早いうちから斬撃を飛ばす技を覚えて)

剣士(それに頼りきりになってる奴には絶対出せないってことか)

斬撃「さて! オレを出したからにはもうアンタに敵う剣士はいないだろうよ!」

斬撃「オレはどんなものだって斬れるし、射程も無限、頭だって冴えてるからな」

斬撃「アンタもだいぶ苦労しただろ? だが、やっと報われる時がきたんだ!」

剣士「せっかくだけど……そうもいかないんだ」

斬撃「どうして?」

剣士「実は俺、斬撃を飛ばす戦術を否定しちまってるんだよ。あんなのは邪道だってな」

剣士「だから、お前を使ってやるわけにはいかないんだ」

斬撃「なるほど……」

剣士「……すまないな」

剣士「だけどお前を出せたことで、逆に決心がついた」

剣士「俺はこれからも斬撃を飛ばさずにやっていくよ」

剣士「そう遠くないうちに、飛ぶ斬撃にやられちまうだろうけどさ」

斬撃「…………」

斬撃「アンタいいねえ……その頑固さ、気に入っちまったよ」

斬撃「オレは意地でもアンタの力になってやりたくなった!」

剣士「え、だけど……」

斬撃「ようはオレを飛ばさなきゃいいんだろ? だったら――」

……

……

……



<闘技場>

ワァァァ…… ワァァァ……

実況『ベテランと若手の有望株の一戦! 勝つのはどっちだ!?』

解説『新旧世代の代表同士の一戦です。勝敗が読めませんな』



剣士「…………」

若手剣士(このおっさん、たしか斬撃を飛ばす技は使わないって宣言してたはずだ)

若手剣士(だったら……この距離から一方的に切り刻んでやるぜ!)ニヤ…

審判「始めっ!」バッ



若手剣士「今日で引退させてやるぜ、おっさん!」サッ



剣士「斬撃っ! ――俺を投げろっ!」

斬撃「オーケー!」ヒョイッ



斬撃が剣士を持ち上げる。

斬撃「だりゃっ!」ブンッ



剣士「うおおおおおっ!」ギュンッ

若手剣士「うわぁぁぁっ!?」



ザシュッ!



若手剣士「うげっ……!」

若手剣士「ま、まさか……斬撃が、剣士を飛ばすなんて……」ドサッ

剣士「俺の勝利だ!」ジャキーン

斬撃「やったな!」



ワァァァ…… ワァァァ……



実況『みごとです! 剣士がベテランの風格を見せつけ、圧勝いたしました!』

解説『昨今の飛ぶ斬撃偏重の剣技を堂々と否定する、王道な剣術を見せてくれましたな』







                                   ― 完 ―

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年01月30日 (土) 21:10:32   ID: MRyp-nku

斬撃を飛ばすのがダメなら、空間ごと切ればいいだけじゃね

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