理樹「初めての悪行」 (37)
佳奈多ルート後
カチャカチャ…
理樹(朝、箸と陶器のぶつかる音だけが僕の味方でいてくれる気がした)
葉留佳「ねーお姉ちゃん、もうおかず無くなっちゃったからさー…」
佳奈多「『その卵焼きちょうだいー』なんて言うつもりでしょう?ダメよ」
葉留佳「ムキー!このケチンボ!」
理樹(コップを持つ手が震えている。それが2人に悟られないよう不安と一緒に茶を喉へ流し込んだ)
佳奈多「ケチンボで結構。そこに漬物のタッパがあるじゃない」
葉留佳「えーーっ漬物って美味しくないー!」
理樹「……じ、じゃあふりかけは?」
葉留佳「へっ?」
理樹(このままだんまりなのも変なので自然と___出来たかどうか分からないけど___とにかく自然と会話に混ざった)
理樹「戸棚にのりたまがあったはずだよ」
葉留佳「のりたま!?食べる食べる!」
佳奈多「あんまり甘やかしちゃだめよ直枝」
理樹「う、うん…はは……」
理樹(僕のした事はこの2人にバレていなかった。この2人にバレていないなら世界中のどんな人だって知らないはずだ)
理樹(でも、だからと言って僕の行いが無かったことにならはずがない)
理樹(何故なら、当人である僕がそれを知っているからだ)
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明日建てるわ!とか言ったな
あれは嘘だ
葉留佳「げふぅ…ごちそうさまでしたっ」
佳奈多「今日の当番は…私か…」
葉留佳「ひゃっほーう!そんじゃよろしくお姉ちゃん!」
理樹(葉留佳さんは素早くバッグを手にとり、ポッケにアメを突っ込むともう出て行ってしまった)
理樹「あんなに急いでどうしたの葉留佳さん?」
佳奈多「昨日の夜…」
理樹「うっ!!」
佳奈多「?」
理樹「あ、ごめん…続けてよ」
佳奈多「昨日の夜、葉留佳が『せっかく今はニートなんだしそれを活かして特に用もなく電車に乗って通勤ラッシュの人達を見て優越感に浸って過ごしたい!』」
佳奈多「なんて言うから…」
理樹「凄く無駄な時間を過ごしに行ったね」
佳奈多「それより、さっきなんであなた『昨日の夜』って言った後ビクついたの?」
理樹「えっ、そんなことしたかな!」
佳奈多「したわよ。何かあったの?」
理樹「な、な、なんでもないよ!うん、本当になんでもないから……」
佳奈多「そう?」
理樹「それより今の葉留佳さんの真似上手だったね!」
佳奈多「一応姉妹ですから」
理樹(何か後ろめたいことがある時、慌てて話を逸らしてしまうのが僕の悪い癖だ)
佳奈多「もう皿洗いに戻っていいかしら。この後買い物に行かなきゃならないでしょ?」
理樹「あ……うんっ、ごめん!」
佳奈多「別にそこまで謝ることではないわよ…」
理樹(このまま喋っているとどんどん墓穴を掘りそうだったので僕は逃げるように自室へ戻った)
理樹部屋
理樹(ベッドに腰掛けて、改めて自分の手を見た。まだ震えている)
理樹「ぼ、僕が……この手で…やってしまったんだ………」
理樹(僕は自分の意思の弱さに悲観した。あの時の僕を殴ってやりたい!)
理樹(あの時、もう少し自制心があれば……あの時、誰かが「冷静になれ!」と後ろから声をかけてくれていれば……)
理樹「うう…!」
理樹(頭を抱えた。これでもう、僕は恭介達と友達でいられる資格を失った)
理樹(僕は卑怯で、陰湿で、臆病な恥さらしだ…こんな薄汚れた人間がみんなと一緒に笑っていいはずがない)
理樹(自分を自分で弁護しては罵るサイクルは止まることがない。それがどんどん積み重なっていくうちに僕の肩が重くなっていくように感じた)
コンコンッ
理樹(その時、ドアからノックの音がした)
佳奈多「直枝そこにいるの?」
理樹「い、いるよっ」
佳奈多「支度しなさい。もうそろそろ出るわよ」
理樹(時計を見るともう3時間が経っていた。時を忘れてあそこまで悩んでいたのか…)
佳奈多「財布と鍵は持ってる?」
理樹「持ってるよ」
理樹(今日は昼は外食で済ませてから買い出しに行く予定だ。理由をつけて断ろうかと思ったけど荷物を1人で持たせるのは忍びない)
佳奈多「じゃ、行くわよ」
理樹「うん…」
佳奈多「なに?気分でも悪いの?」
理樹「そうじゃないよ。大丈夫さ」
佳奈多「そう、ならいいけど」
理樹(僕たちの住んでいるアパートはお世辞にも都会と言えず、辺りに大きなショッピングモールはなかった)
理樹(しかしいざ住んでみると意外にも田舎ののんびりとした雰囲気は心地よく、追われるプレッシャーを抱えた僕らの不安を緩やかに取り除いてくれた)
ガタンガタン…
アナウンス「次は○○~次は○○~」
佳奈多「そ、そういえば今日はどこで食べるか決めてなかったわね」
理樹「ああ、そうだね」
佳奈多「……………」
理樹「……………」
佳奈多「それで終わり?」
理樹「えっ」
佳奈多「だからそこは『そうだね。なに食べる?』って聞くところじゃないかしら」
理樹(二木さんは若干イラついていた)
理樹「あ、ごめん…頭がぼうっとしていたよ」
佳奈多「ふん…まあいいわ。で、どこに行きましょうか」
理樹「そうだねえ…」
理樹(どこへ行くか。というもののショッピングモール周辺で食べるところと言えば数カ所しかない。その中で二木さんが喜びそうなものと言えば…)
・駅の近くにある喫茶店。静かな雰囲気が楽しめる
・モール内のハンバーガーショップ。がっつりいくならここ
・モールの近くにあるラーメン屋。チャーシューが美味
今日はここで終わり
この三つの選択肢の中から次のレスの人が選んでくれ
理樹(喫茶店にしよう)
…………………………………
喫茶店
カランカラン
理樹(店の中に入るとどこかで聞き覚えのある曲が流れていた)
理樹「この曲って……なんだっけ」
佳奈多「カノンよ。……それにしてもここは静かね。ちょっと気に入ったかもしれないわ」
理樹(お気に召してくれたようだ)
店員「空いてるお席へどうぞ」
理樹(店内のお客さんは、読書をしたり宿題に励んでいたりみんな二木さんの言う通り静かで良い雰囲気だった)
佳奈多「さて、何頼む?私はそうね…このナポリタンにしようかしら」
理樹「君と同じのでいいよ」
佳奈多「やれやれね…あなたに意思というかこだわりという物はないの?」
理樹「まあ二木さんの選ぶメニューはハズレないし」
佳奈多「でもまったく同じっていうのも味気ないわよ。別のにすれば二つのメニューが楽しめるじゃない」
理樹「それもそうだね。じゃあ僕はこっちのスパゲティにするよ」
カチャカチャ…
佳奈多「モグモグ…」
理樹「ふぅ…」
理樹「…………あっ!」
佳奈多「?」
理樹(スパゲティは美味しかった。しかし一つ問題があった。それはスパゲティが美味しすぎたということだ)
佳奈多「んっ………どうしたの直枝?」
理樹「こ、交換するはずだったのにほとんど食べてちゃったんだよスパゲティ!」
佳奈多「あっ…!」
理樹(二木さんもその事を忘れて食べていたのか、あちらもフォークに巻いているひと口分しか残っていなかった)
理樹「も…もう一度頼む?」
佳奈多「そんなに食べきれないわよっ」
理樹「でもお互い交換しようって言ったのは二木さんじゃないか」
佳奈多「そりゃそうだけど…」
理樹「うーん…じゃあしょうがない、それちょうだい」
佳奈多「えっ?」
理樹「それだよ。その今フォークに巻いてるひと口」
佳奈多「なっ…!!」
理樹(二木さんは途端に顔を赤らめた)
理樹「あ、もちろん僕のもあげるからさっ」
佳奈多「そういう問題じゃないわ!」
理樹「………?」
佳奈多「だ、だからその……かっ、間接キスじゃない…それって…」
理樹「えっ、でも僕と真人は気にせずやってるよ?二木さんだって葉留佳さんとたまにおかずの交換でやってるじゃない」
佳奈多「そ、それとこれとは訳が違います!」
理樹「ええーっ…二木さんが言い始めたことなのに」
佳奈多「それは…そうだけど…」
理樹「冷たくなると嫌だしもう貰うよ」
佳奈多「えっ、ちょっと!」
理樹(ちょっと強引だったかもしれない。しかし同じ店の別の味を楽しみたいと思うのは誰だって共感してくれると思う。僕は二木さんが持っているフォークの更に根元の方を持ってナポリタンを口に運んでしまった)
佳奈多「あーー!あーーっ!!」
理樹「はい、二木さんっ」
佳奈多「えっ…!」
理樹(僕も最後のひとくちをフォークに巻くと二木さんに差し出した。量的には等価値のはずだ)
理樹「ほら、どうぞ」
佳奈多「あ…ぅ……」
店員「あ、ありがとうございましたー」
カランカラン
理樹(店員さんの声が震えていた。そりゃそうだろう。来る前の僕の右頬は普通だったのに帰りには赤く腫れているんだから)
佳奈多「………ごめんなさい」
理樹「いいよ気にしてないからさ。それより買い物に行こうよ」
理樹「……………」
理樹(………それに、本当に謝らなくちゃいけないのは僕の方なんだから)
タイミング良く建てられていたな
まあ誰が建ててもどれも等しくリトバスSSだ!
再開
ショッピングモール
食料品売り場
佳奈多「あとは人参3本ね…」
理樹(もしこのことを知ったらビンタ一発じゃすまないと思う)
理樹「…………」
理樹(でも、このまま言わないでおくのはダメだと思う。隠したまま二木さん達とこれまで通り暮らせるほど顔の皮は厚くない)
佳奈多「ねえ直枝。こっちとこっち、どっちが大きいと思う?」
理樹「えっ!えっと……何が?」
佳奈多「話聞いてなかったの?」
理樹「ご、ごめん」
理樹(か、買い物の途中に言うのもなんだし家に帰ってから話せばいいや!)
夕方
アパート
佳奈多「ただいまー…」
葉留佳「んーおかえりー」
TV『ガッテンいただけましたでしょうか~』
理樹(両手にビニール袋な状態で家に帰ると葉留佳さんは既に帰っていた)
佳奈多「テレビばっかり見てないであなたも手伝いなさい葉留佳」
葉留佳「はぁ~い」
理樹(こういう光景を見るたびに昔の2人を比べては口角が緩んでしまう)
………………………………
…………………
…
葉留佳「うーん…」
理樹(葉留佳さんがキッチンで小皿を片手に眉をひそめていた)
理樹「どうしたの?」
葉留佳「あっ、ちょうどいいところに来ましたな理樹さんよ」
理樹(葉留佳さんはお玉で小皿にカレーを注ぐと僕に渡した)
葉留佳「んっ」
理樹「味見しろって?」
理樹(それを受け取り、少し冷ましてからいただいた)
理樹「うーん…甘口買ったっけ僕…」
葉留佳「やっぱり甘い…?」
理樹「う、うん…」
理樹(決して美味しくない訳ではないんだけども)
葉留佳「やはは…まいったなー!隠し味入れたのが失敗かも」
理樹「隠し味って?」
葉留佳「えーっとですな…そ、その…秘密!」
理樹(後ろに何かを隠した。あまり想像したくなかったので追求するのはやめておいた)
葉留佳「イヤーそれにしてもはるちんは最近気苦労なのですぞ理樹くん?」
理樹「!?」
理樹(と、カレーをお玉でグルグル混ぜる葉留佳さん)
理樹「き、気苦労って?」
理樹(まさか…バレていたのか!?)
葉留佳「いやはや、そりゃ一つに決まってるじゃないですカ」
理樹「え、えっと…」
理樹(ど、ど、ど、どうしよう!もしかして確信を掴んでいるのか!?それならこの際、ハッキリ謝ってしまうか……い、いや…まだ分からないぞっ!ここは一度トボけてしまって…)
葉留佳「佳奈多と理樹くんのことですヨ!全然関係が縮まってないじゃん!」
理樹「なっ…なんだそんなことか……」
理樹(思わずため息が出た。どうやら葉留佳さんは目撃していなかったらしい)
葉留佳「なんだとはなんだ!もうちょっとここはガツンと告白の一つでもしたらどうなの!?」
理樹「い、いやぁ…そんなこと言われても断られたらショックだし……」
理樹(と、ここまで言ってから何気に葉留佳さんに想いをバラしてしまったことに気付く。いや、もうバレてはいたと思うけど)
葉留佳「まだそんなこと言ってる~お姉ちゃんだって普通好きでもなんでもない男の子と同じ屋根の下で暮そうとなんかしないよ!」
理樹「でも状況が状況だしねえ」
理樹(成功したのはあくまであっちの世界でだった訳で…)
佳奈多「私がなんだって?」
理樹・葉留佳「「どわぁっ!!」」
葉留佳「い、いつからそこに…!?」
佳奈多「いつって、さっき来たばかりだけど……ん、もう出来た?」
理樹(なんて言おうか頭の中で言い訳を探していると運良くカレーの方に気を取られてくれた)
葉留佳「うん完成!完成!さー食べやしょー!」
理樹「そうだね!うわぁ、お腹減ってきたなあ僕っ!」
佳奈多「な、なんか急に元気よくなったわねあなたたち…」
理樹「ごちそうさま」
佳奈多「早く持ってきてらっしゃい」
理樹(僕が食べ終わる頃には二木さんはもう食器を洗っていた。相変わらず食べるのが早い)
理樹「ごめん、よろしく…」
理樹(シンクに流すと隣の二木さんが呼び止めた)
佳奈多「ねえ、直枝」
理樹「な、なに?」
佳奈多「あなた…今日ずっと挙動がおかしかったわ」
理樹「えっ、そ、そうかな…」
佳奈多「そうよ。あなたの事ならだいたい何考えてるのか分かるんだから」
理樹「ギクッ…」
佳奈多「なにか万引きでもしたとか?」
理樹「ち、違うよ!そんなんじゃないって!」
佳奈多「『そんなんじゃない』ってことは何かはあるってことよね?」
理樹(誘導尋問だったか!)
理樹「う……」
佳奈多「ま、いいわ。あなたの事だからどうせいつか罪悪感に潰されて結局吐くだろうし」
佳奈多「言いたくなったら葉留佳か私に言いなさい」
理樹部屋
理樹「なんなんだあの余裕は…!」
理樹(でも、二木さんの言っていることは確かに間違っていない。このまま不審に思われて毎日を過ごすなんてプレッシャーはとてもじゃないけど耐えられる気がしない)
理樹「殺人とか犯したら自首するタイプだな…僕」
理樹(でも、あんなこと面と向かって言ったらそれこそ僕が殺されるだろうし…多分これからずっとギスギスするに決まってる)
理樹「はぁ……」
理樹(まさにどう足掻いても地獄しか待っていない)
理樹(どちらかを選ばなくちゃいけないのは分かってるんだけど…)
理樹「……………………」
理樹(今は深夜の2時。なんだかんだ悩んでいるうちに眠れなくなってしまった)
理樹「…………喉…乾いたな」
リビング
理樹「確か缶ジュースが…」
ヒュゥゥ…
理樹「?」
理樹(冷蔵庫を漁っているとベランダの方から風を斬る音が聞こえた)
ベランダ
佳奈多「………………」
理樹「二木さんも眠れなかったの?」
佳奈多「!」
佳奈多「なんだ。あなただったの」
理樹「寒くない?」
佳奈多「今日は暖かいほうだから」
理樹「そっか」
理樹(何を言うわけでもなく隣に立った。ここからだと街の建物がよく見える)
佳奈多「ね、直枝」
理樹「なに?」
佳奈多「今の生活に不満はないの?私達と一緒に付いてきて後悔はしてない?」
理樹「そうだな…確かにお風呂が必ず最後っていうのは不満かな」
佳奈多「うふふっ…」
理樹「でも、今も寮でいた頃と同じくらい楽しいよ。恭介達もたまに来てくれるしね」
理樹「それに二木さんは一つ勘違いしてるよ」
佳奈多「えっ?」
理樹「僕は二木さんに付いてきたんじゃない。僕と葉留佳さんが君を強引に連れてきてしまったんだから」
佳奈多「…言うじゃない直枝の癖に」
理樹「それと僕は……えと…」
佳奈多「?」
理樹(くそう、勢いで言ってしまおうかと思ったのに言葉がつっかえた!)
理樹「だからつまり…僕は……もう一つ理由があった訳で…」
佳奈多「えっ…」
理樹「なんて言うか……僕と君はその……男と女な訳で…」
佳奈多「男と女?」
理樹「ほら…いや……わ、分かるよね?」
佳奈多「分からないわ」
理樹(心底分からないって感じの顔だった)
理樹「ごめん…やっぱり今のなし…」
佳奈多「なによもう…」
理樹(この時ばかりは自分の説明力の無さを実感した。流石にハッキリとストレートに言うにはまだハードルが高い。今度から本気を出そう)
理樹「そ、それとさ…」
佳奈多「今度はなにかしら」
理樹(覚悟を決めろ…言え!言ってしまえ!)
理樹「君は今日…いや、正確に言うと昨日なんだけどさ…とにかく君は僕に怪しいって言ってたよね」
佳奈多「言ったわ」
理樹「その通りなんだ」
佳奈多「その通り?」
理樹「だから…君の言う通りやってしまったんだよ…その……悪行を」
佳奈多「へえ、悪行してしまったのね」
理樹(告白の割には二木さんの反応は薄かった。『ふーん携帯変えたんだ』って感じのニュアンスだった)
理樹「でも僕はその…これまでの人生で色々あったけどこれが初めての悪行なんだよ」
佳奈多「そう」
理樹「…初めての悪行なんだ…」
佳奈多「どんな悪行?」
理樹「!!」
理樹「そ、それなんだよね…そりゃあ言わなくちゃ始まらないよね…ハハ…」
理樹(心臓がバクバクしている。もしいきなり隣で紙袋を破裂させたらそのまま心臓が止まってしまうんじゃないかってくらいに)
理樹「その……今まで言おうかどうか本当に迷ったんだ」
佳奈多「ええ。分かったわ」
理樹(あくまで二木さんの顔からは感情が読み取れなかった。ある意味それが怖い)
理樹「でも言わなくちゃ申し訳ないなって…」
佳奈多「分かったわ」
理樹「それが……昨日の夜のことなんだ」
佳奈多「………」
理樹(さあ、もう後戻りは出来ないぞ)
理樹「昨日の夜。もうみんな寝てしまった時のことだった」
………………………………………
………………
….
理樹(その日もなんとなく寝つけなくてトイレに行ったんだ)
ジャーッ
理樹『ふう…』
理樹(そして自分の部屋に戻ろうとしたんだけどふとその隣の部屋が空いてることに気付いたんだ。今思えばそのまま真っ直ぐ帰ればよかったんだけど)
理樹『…………』
理樹(そこは二木さんの寝室だった。ほんの親切心でドアを閉めようとしたんだ。でも、そしたらその視線の先に君がいたんだ)
佳奈多『………スゥ……』
理樹(もちろん君は寝ていた。失礼だと思ったからさっさと閉めて戻りたかったんだけどそうもいかなかった)
理樹(何故なら君がベッドの下に転がっていたからなんだ)
理樹(多分何かの拍子に落ちてしまったんだと思う。毛布も少ししか包まっていなかったしこのまま放っておけば風邪を引くと思った)
理樹(そこで初めて君の部屋に入った)
理樹『……………』
佳奈多『……………』
理樹(気付く気配はなかった。僕は君が起きないようゆっくり近づいて………持ち上げた。君のベッドに運ぶために)
理樹『よいしょ…』
理樹(想定してたよりも人の身体というのは重かったけどとにかくベッドに乗せることは出来そうだった。しかし、その時、僕は愚かにもバランスを崩して手が滑ってしまったんだ)
理樹『!』
理樹(刹那の中で頭をフル回転させた。君を落としてはいけないし、起こしてもならない)
理樹(そこでとっさに持つところを変えてしまったんだ。つまり、最初は背中と足を持っていたんだけど、変えてしまったっていうのは足からもう少し上の方…つまり、直接的に言うと、臀部なんだ。君の)
理樹『~~~っ!!!!』
理樹(パニックだった。やってしまった!触ってしまった!)
理樹(僕は君にそのまま毛布をかけると飛ぶように部屋を出て洗面台に向かった)
理樹(僕は手を洗った。君が汚いとかそういうことではない。一切違う。ただ、僕のあの手の感触がまだ残っていたからなんだ)
理樹(あの感覚は衝撃的だった。麻薬を使うとあんな感じになるんだろうか)
理樹(とにかくアレを味わうのは君に申し訳ないと思ったからなんだ。綺麗さっぱり忘れておかなくちゃこの先僕が今度は何を考えるか分からない。『もう一度…』なんて馬鹿げた考えを起こすかも)
理樹(だから感覚を冷水でシャウトしようとした。勢いでシャワーも浴びた)
理樹(そしてやっと自分の部屋に戻って、必死に心を無にして寝てしまった)
…
……………
……………………………
理樹「……これが僕がやったことの一部始終なんだ」
理樹(手の汗が凄い)
佳奈多「………それが…あなたの言う悪行?」
理樹「そ、そう…です」
佳奈多「……ふっ……」
理樹「………?」
佳奈多「あはっ…あははっ!」
理樹(わ、笑った?)
佳奈多「んふふ…!もう、笑わせないでよっ!あはははっ」
理樹「えっ…………」
理樹「……えっ?」
佳奈多「うふふ…っ!もうダメ…迷惑になるからとりあえず中に入るわよ…ふふっ」
リビング
佳奈多「それだけ?本当にそれだけなの?」
理樹「そうだよ」
理樹(二木さんは声こと出さないけどまだ笑っている。ここまで笑っている二木さんを見るのは初めてだ)
佳奈多「分かったわ…そうね。そこまで反省してるなら許してあげる…ふふっ…」
理樹(なんで悪いことをしたのに笑われるんだろう。想定していたリアクションと違ったのでとても不気味だった)
理樹「あ、ありがとう…」
佳奈多「ねえ直枝」
理樹「な、なに?」
理樹(二木さんは自分の部屋に戻りながら言った)
佳奈多「こういうことはあまり私らしくないから普段は言わないけど…あなたと私、案外相性悪くないかもしれないわね」
理樹「えっ、それってどういう意味?」
佳奈多「教えない。自分で気付きなさい」
理樹(そしてスタスタと自分の部屋に戻ってしまった。中から鍵をかけた音がした)
理樹「……………………」
理樹「一件落着……で、いいのかな…」
理樹(静かになった家では誰も答えてくれなかった)
終わり
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