士郎「俺が最後の希望だ」 (35)


チラ裏注意
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その年の冬木。一度この俺は死んだ。
家族で―――記憶にはないが―――どこか、出掛けていたのだろう。
子供の身にはとても寒かったような気がするその冬の日は、一変して地獄の釜の中になった。
突然どこからか火の手が上がり、それは瞬く間に冬木を覆った。
だからだろう。
この心に写る原初の記憶、それは日常から地獄に移り変わったこの冬木の町並みだ。

その原因は分からない。テロかもしれないし、ガス缶の老朽化や、何かしらの不幸の連続だったかもしれない。
幾ら考えても原因は分からないが、とりあえず俺はそこで死に、そして―――。

「―――――」

衛宮士郎として、生き返った。


 その男は涙を流していた。地獄の大火が覆うこの街で、その男は感謝した。
希望を見つけた。絶望が蔓延るこの地獄の釜で、たった一つの希望を見つけた。
希望を望んだ。希望のためにあらゆる絶望を飲み込んだ。その末に行き着いたのは、なんてことはない。
分相応の地獄だけだった。
 人間は闘争を終えられない。永遠に血を流し続ける。その事実をこの戦争で終えるはずだった。
だが待っていたのは、流す必要のない血が、死が、絶望が。ただ溢れるだけだった。
男の心に亀裂が走る。深い絶望からくるその亀裂は、やがてより大きな絶望を生み出す事を男は知っていた。
だから必死になって希望を探した。瓦礫を崩し、叫びをあげ、自身のことは顧みず。
そして、ようやく、消え入りそうな希望を男は見つけた。

「ありがとう……!」

男は、その小さな希望に、絶望の釜の中で涙を流し感謝した。


男は衛宮切嗣といった。
あの地獄から自分を救い出し、そして養子にならないかと訪ねた。
少し悩んだが、その前にきた神父はどこか怖かったので、俺はこの男の養子になる事にした。
男は嬉しそうに、

「そうか、それじゃあ今日からよろしく、士郎」

そういって頭を撫でた。


切嗣はこうも言った。

「皆には内緒だけどね、士郎。僕はね」


「魔法使いなんだよ―――」


士郎「―――ん。あれ、寝ちゃってたか……」

むくり、と体を上げる。どうやら眠っていたらしい。

士郎「あちゃあ、まだヒーターの修理途中だったのに。それにまた桜や藤ねぇにどやされちゃうな……っくし」

立ち上がり、ツナギについたホコリを払い落として背伸びをする。
二月のこの時期は、いくら暖冬の冬木でも冷える。


桜「あ、先輩!また土蔵で眠っていたんだですか?」

鼻をこすると、後輩の桜がやってきた。

間桐桜―――。友人間桐慎二の妹であり、弓道部の可愛い後輩であり、
故あって今は家に手伝いに来てくれる、なんとも出来た後輩だ。

士郎「あぁ、悪い桜。どうやらヒーターを直そうとしてそのまま眠ってたみたいだ」

桜「もう、風邪をひいたらどうするんですか。それに土蔵で眠るのは危ないって、藤村先生も言ってましたよね?」

士郎「悪かったって。今度からは気をつけるよ」

桜「それ、もう何回目ですか?先輩全然守ってないですよ、その約束」

士郎「えーと……あはは。悪い」


桜「もう……朝ごはんの準備はもう済ませてありますから、先輩はお風呂に入っちゃってください。ホコリまみれです」

士郎「え?……あー、ホントに悪いな桜。ごめん」

桜はクスリと笑った。
その表情に、一瞬ドキリとする。

桜「気にしてませんし、これぐらいはやらせて下さい。それより、早くしないと、学校に遅れちゃいますよ?」

士郎「あ―――あぁ、そ、そうだな。急いで入ってくる」

流石に、友達の妹に手を出すのは、マズイよな……。


手早く風呂を済ませ、居間に向かう。
そこには制服にエプロンをつけた桜と、もう一人―――藤村大河の姿があった。

士郎「おはよう、藤ねぇ」

大河「…………」

返事はなく、新聞を凝視している。そんなに気になるニュースでもあるのだろうか。

桜「はい、味噌汁です、先輩。藤村先生もどうぞ」

大河「ありがと、桜ちゃんそこ置いといて」

あの大食らいの藤ねぇが食物に興味を示さない?
今日は槍でもふってくれるのか?

士郎「飯時なんだから新聞は置いとけって、藤ねぇ。―――すまん桜、そこの」

桜「醤油ですね、どうぞ」

皆まで言わなくてもこちらの欲しいものを取ってくれる。本当できた後輩だ。これなら嫁ぎ先は選り取りみどりだろう。


士郎「サンキュ」

まぁ、そんな未来のことより目先の目玉焼きだ。やや右に寄っている黄身にチロリと醤油をかけ、箸で真ん中から切り分け、口に運ぶ。

うん、黄身の甘さと醤油のドロリとした甘辛い味わいが舌の上で喧嘩している味はいつもの我が家の目玉焼き―――。

士郎「じゃないぞコレなんだコレっていうかソースだコレ!!」

予想していた味に反した濃厚な味の襲来は、最初に食べる味としては刺激が強すぎる。
急いでお茶で胃まで流し込まなければ、どんな大惨事になっていた事か。

大河「プッ……ククク……やーいひっかっかったひっかっかったー!」

士郎「藤ねぇ、なんのつもりだ!」

大河「ソースと醤油の器を入れ替えておいたのさっ。そんな事にも気づかないのかねワトソン君?」

どうやら昨日見た推理映画に影響されたらしい。なんとも子供っぽい事である。

プロローグも終わってませんが、今日はここまで。

再開します


士郎「ごちそうさまでした」

桜「お粗末さまでした」

朝食をすませて、桜と二人で台所に立つ。
二人が入るには少々手狭だが、この狭さも慣れたものだ。
早々と食器を洗い、支度をする。

士郎「じゃあ、行こうか桜」

桜「はい、先輩」

ブレザーを羽織りながら、ふとテレビを見る。
キャスターは淡々と下口調で原稿を読んでいた。

キャスター「―――続いては最近頻発している連続不審死事件についてです。
―――によると被害者同士に接点はなく―――突然衰弱し死んでいるようで―――。
専門家は新種のドラッグによる事故死あるいは自殺との見解を―――」


桜「……せんぱーい?遅れますよー?」

士郎「あ、ああ悪い桜。今いくよ」

桜に言われて、テレビの電源を消し桜と学校に向かった。
―――これは、警察の仕事だ。俺が口出しできることじゃない―――。


桜と今日の寒さや部活のことで話しているうちに学校に着いた。
玄関で桜と別れ、俺は教室にはいかず、一旦生徒会室に向かう。

士郎「おっす。一成、いるか?」

一成「おはよう。こんな時間にここに来るのは俺かお前ぐらいのものだ、衛宮」

士郎「おはよう一成。それなら他の奴らが来る前に、さっさと終わらせるか」

一成「うむ、頼む。患者はこいつだ」

一成ははロッカーから数世代前のヒーターを取り出した。
見るからにガタがきている。何年も酷使されてきたのだろう。

士郎「ボロボロだなぁ。どこのどいつだ、こんな扱い方したの」

一成「水泳部だな。上がってからつけたのでは遅いと、いつも部活中はつけっぱなしだったらしい。
―――直せそうか?」

士郎「幸いまだ仏様にはなってないな。けど、ちょっと神経使うから、少し一人にしていてくれるか?」

一成「すまん、任せた。その間にうまい茶を入れておこう」

士郎「そりゃ楽しみだ」


士郎「―――さて」

神経を集中させる。誰もいなくなった生徒会室で、ヒーターに向かい手を差し出す。

士郎「トレース、オン―――」

体中に張り巡らせたもう一つの神経にスイッチを切り替える。その内の俺がマトモに魔翌力を流せる一本にゆっくりと魔翌力を流す。
そして掌から魔翌力をヒーターにむけて放ち、内部を探る。

士郎「―――やっぱり内部に大分ダメージが入ってるな。これぐらいなら俺の投影で」

更にもう三本、回路を開く。合計四本開いた魔術回路から流れた魔翌力をダメージ部分に合わせてその形に作り直す。

士郎「―――同調開始」

「基本骨子、解明」
「構成材質、解明」
「基本骨子、構成材質、補強」

士郎「―――同調、終了」

開いていた回路を閉じ、神経を閉ざす。一歩間違えればこれだけで素人の俺はお陀仏だ。

士郎「魔法使い―――の未熟者だな」


かつての遠い夜。養父と交わした約束を守るには、未だ実力が足りないらしい。


切嗣と暮らし始めて、いつ頃だっただろうか。
切嗣はこんな事を言っていた。

切嗣「士郎。士郎には、何か夢はあるかい?」

幼き自分は、その答えとしてこう答えた。

士郎「―――正義の味方。じいさんみたいな、正義の味方」

切嗣「そうかい。実は僕もね、昔正義の味方に憧れていたんだ」

士郎「? じいさんは今でも正義の味方だろ?だって―――」

切嗣「いいや。正義の味方は期間限定でね。大人になると、名乗るのが難しくなってくるんだ」

士郎「どういいう事だよ?だって、じいさんは魔法使いで、大人だろ?」

切嗣「うん。僕は大人で、魔法使いだ。だから、正義の味方になれると色々頑張ってきたけど―――ダメだったよ」

士郎「じいさんでも、無理だったのか?」

切嗣「あぁ。頑張って頑張って、けどそれでも駄目だった。多分、いやきっと僕のやり方は、間違いだったんだろうね」

士郎「そっか。それじゃあ―――」

失礼しました。


士郎「―――ふぅ。よし、これでまだまだ現役だ」

一息ついて、汗を拭う。この程度で疲れるとは、本当に未熟者だ。

一成「衛宮、入っていいか?茶を入れてきたぞ」

士郎「あぁ、いいぞ。今ちょうど終わったとこだ」

ストーブの電源をつけて状態を確かめる。うん、やはり問題ない。

一成「いつみても見事なものだ。正直俺はもう天寿を全うしたものかと思っていたが」

士郎「それなら俺でも直せるなんて言わないよ」

緑茶で一息いれ、体を温めなおす。うん、やはり日本人の舌には緑茶が一番合う。

一成「どうだ、衛宮。宗一郎兄が頂いたものを分けてもらったが、この羊羹なかなか美味いぞ」

士郎「お、どれどれ―――」

「あら、生徒会長。なかなか美味しそうなもの食べてるじゃない」


一成「―――貴様いつのまに」

「美味しそうな匂いね。生徒会長ともあろう方が、独り占めかしら?」

一成「馬鹿を言え。守銭奴のお前のような真似を俺はせん。事実こうして衛宮にも勧めているだろう」

「あら失礼。じゃあ生徒会長はそんな衛宮くんと逢引の途中だったのかしら?」

一成「なっ、きっ、貴様―――!!」

士郎「落ち着けって一成。お前もあんまり意地悪するなよ、遠坂」

凛「ごめんなさいね、柳洞くんが面白い反応するからつい、ね」

今日はここまで。全然話進まなくてすみません。

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