男「幽霊の世界も課金制なんだ?」(135)
少女「うらめしやぁ~」ヌッ
男「おわっ!!」ビクゥッ
少女「あ、えへへ、驚いてくれましたね? ね?」
男「あ、あわ、あわわわわ」ガタガタ
少女「えへへ、いいリアクションですねえ」
少女「これで……100ポイント超えましたかね? ね?」ポチポチ
少女「あれ……ちょっと足りない?」
少女「がっかりですぅ」
男「……」ガタガタ
少女「こんなに怖がってくれてるのに……」
男「なに!? 君はなに!? 僕を呪い殺しに来た幽霊!?」
少女「あれれ、おにーさん呪い殺される心当たりがおありで?」
男「いや、ないけど……」
少女「幽霊にそんなパワーはないですよ」
少女「ちょっと人間様を驚かすくらいで」
男「……」
少女「あれ、落ち着くの、早いですね」
少女「さっきまで『お助けぇ~!! ガタガタ!!』とか言ってたのに」
男「言ってない!」
少女「おにーさん割と怖がりですね?」
少女「ホラー映画とか一人で観れないタイプですね?」
男「う……」
少女「いくら格安でもいわくつきの物件には住めないタイプですね?」
男「う……」
少女「当たりですね♪」
少女「あれ? でもだったらどうしてこのアパートを選んだんですか?」
男「え?」
少女「おにーさんみたいな怖がりは、真っ先に避ける物件じゃないですか?」
男「え? え?」
少女「ほら、今でもそこに血まみれの」
男「ああああああああああああああああああああああ」ガタガタ
少女「いいですねえ、いいですねえ、素敵なリアクションですぅ」ゾクゾク
男「やめて! 怖いのダメ!」
少女「嘘ですよ、大げさな」
男「え?」
少女「このアパートには特に害のあるタイプの霊はいませんから」
男「あ、そ、そう、へえ……」
少女「『害のあるタイプ』は、ね」
男「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」ガタガタ
少女「えへへへへ、面白い」
男「き、君は僕をどうするの?」
少女「どうもしませんよー脅かすだけです」
男「それが嫌なんだけど」
少女「心臓が弱いんですか?」
男「ん? いや別に」
少女「ある程度の刺激は、心臓にとって悪くないんですよ?」
男「いや、それでも嫌なんだけど」
少女「おにーさん、いいリアクションしてくれるから、しばらくここで定期的に驚かそうと思うんですけど」
男「めっちゃ嫌なんだけど」
少女「……」ポチポチ
少女「あれ、これでも100越えてない」ガッカリ
男「なにしてんの? それ」
少女「あ、こっちの話です」
男「てい」
スカッ
少女「……」
男「触れないのか」
少女「え、幽霊に触れると思ったんですか? おにーさん馬鹿ですか?」
男「ケータイ? 幽霊もケータイみたいなもん持つの?」
少女「おにーさん怖がりのくせにグイグイ来ますね」
男「てい、てい」スカッスカッ
少女「これはですね……幽霊の頑張った証をポイント制にして見ることができる機械です!」
男「ふうん?」
少女「頑張ったポイントすげー見れる機械、略してGPSです!!」
男「『すげー』がすげー邪魔じゃないその名前?」
少女「人間を脅して貯めたポイントを、これで確認できるんです」
男「で?」
少女「え?」
男「貯めたポイントはどう使うの?」
少女「あ、アクセサリーとか買うんです」
男「アクセサリー?」
男「え、ピアスとか? ネックレスとか?」
少女「そんなん付けてても怖くないじゃないですかー」
少女「血のりとか、飛び出した目玉とか、おどろおどろしいものですよぅ」
男「え?」
男「幽霊の世界も課金制なんだ?」
少女「あーそうそう、そういう感じなんですー」
少女「私はまだまだ駆け出しなので、こんなテンプレートな格好しかできないんですけど」
少女「白いワンピース、黒髪ロング」
男「駆け出しって、どれくらい?」
少女「えーっと、えー、1年くらいですかね?」
男「へえ……」
男「でも、幽霊なのに足あるんだね」
少女「足消すのもポイントいるんですよ」
男「消すのか」
少女「大体みんな、足消すところから始めますね」
男「はあ……逆に?」
少女「ええ、逆に」
男「触れないけど、こんなにはっきり見えるもんなんだね」
少女「おにーさんの霊感もいい感じだからですかね?」
男「霊感なんてないと思ってたけどなあ」
少女「大人になってから霊感が伸びることもあるらしいですよ」
男「いらないなー」
少女「この場所自体が私と相性がいいのかもしれませんね?」
男「逆に?」
少女「ええ、逆に」
少女「じゃあ、また明日来ますぅ」
男「いやいや、困るけど」
少女「もう出会っちゃったんだから、怖くないでしょう? ね? ね?」
男「……うーん」
少女「明日も同じ時間くらいに来ますから、待っててくださいね? ね?」
少女「それではー」スゥ
男「あ……」
男「……」
男「あ……明日……同じ時間って……」
男「……ま、いっか」
という感じです
ではまた明日 ノシ
―――次の日―――
バサァッ!!
少女「ブワァー!!」
少女「悪い子はどこじゃああー!!」
少女「呪い殺してやりますよぉー!! ヴァアハハハハ!!」
少女「……」
少女「……あれ?」
少女「……いない……」
少女「……」カァァ
―――次の日―――
少女「ちょっと!!」ヌッ
男「うお!!」ビクゥッ
少女「なんで昨日いなかったんですか! 同じ時間に来るってゆったのに! ゆったのに!」
男「あ、えっと」
少女「この臆病者! 卑怯者! チキン! チキン南蛮!! 南蛮野郎!!」
男「あの、バイト入ってて」
少女「へ?」
男「それ言う前に、消えちゃったからさ」
少女「……」
男「きょ、今日はちゃんといただろ?」
男「だからごめんて」
少女「……」
少女「そ、そういうことなら仕方ないですねっ」
男「ごめんて」
男「だいたい11時くらいまでバイト入ってること多いからさ」
少女「じゃあそのあとなら、おにーさんを驚かせることができますね?」
男「あ、余計なこと言っちゃったかなあ……」
少女「えへへへへー」
男「ていうか南蛮野郎ってなんだよ」
少女「今さらそこに突っ込みます?」
少女「で、ほら、見てください! 足! 消えましたよ!」
男「あ、ほんとだ、幽霊っぽい」
少女「でしょでしょ! これで私も初心者は脱却ですね? ね?」
男「それどうやって立ってんの?」
少女「立ってないですよ、浮いてるんですよ?」
男「あ、そうか、そういうもんか」
少女「おにーさん、幽霊のことなんにもわかってないですね、ぷー」
男「……」イラッ
男「ポイント使ったんだ?」
少女「ええ、これ消さないことには幽霊と言っても信じてもらえないですからねっ」
男「わざわざ消してるとは思ってなかったけどなあ」
少女「で、今日は私のポイント稼ぎのために、いっぱい驚いてもらわないと、ですね」
男「……え?」
少女「さあさあ、たくさん驚いてくれていいんですよう! さあ! さあ!」
男「そんなこと言われても……」
男「同じやり方じゃ驚きも半減するというか」
少女「え?」
男「なんか出てくる方法とか、変えてみるとか」
少女「ほうほう」
男「あ、あんまり怖い感じじゃなく、ちょっとびっくり、わお、くらいで」
少女「ふむふむ、なるほど」
少女「じゃあ一回消えてみるので、驚いてくださいね」
男「え」
少女「……」スゥ
男「?」
にゅるーん
男「!」ビクッ
少女「どうですか? どうですか? 天井から出てみましたよ!」
男「……」ドキドキ
少女「お、ちょっといい感じにびっくりしてくれましたね」
男「そ、そうそう、そんな感じ」
少女「もっといろいろ試してみますよー!」
じゃばっ!
男「ギャー!!」バシャバシャ
少女「どうですどうです? お風呂からって怖くないですか?」
びちゃびちゃ
男「怖い! 濡れた髪が余計に怖い!」
男「ていうか早く出て! エッチ!」
少女「あれ、おにーさんにエッチ呼ばわりされるとちょっと癪ですね」
かぱっ
男「ギャーアアアアー!!」ビクビクッ
少女「どうです? 便器の中の私」
きゅっ
男「あ”あ”あ”あ”あ”ー!!!! チャックが!! 挟んだ!!」ジタバタ
少女「あれ、さらなるコンボが繋がりましたよ」
少女「これはポイントUPの予感!!」
男「……」ゼエゼエ
少女「うふふ、出方ひとつで結構変わるものですねえ」
男「……」ゼエゼエ
少女「個人的にはどれが一番キましたか?」
男「……『便器の中の私』かな……」
少女「じゃあ、明日から毎日それで登場しますね♪」
男「いや、ちょっとそれは」
少女「ではでは、また明日ですぅ」スゥ
男「あっ……」
明日は来れるか微妙ですが ノシ
―――次の日―――
少女「こんばんはー」ヌッ
男「!?」
男「アアアアアアアア!!」
少女「えへへ、そんなに驚かなくても」
男「アアアアアアアアアアアアアア!!!!」
少女「ちょ、うるさいうるさい、近所迷惑ですよ、おにーさん」
男「目!! 目がぁ!! メガァ!!」
少女「あ、そうですそうです、目を消してみました」
少女「眼窩っていうんですか? それの剥き出しバージョンですぅ」
男「……」ブルブル
少女「あれ?」
男「……マジで怖い」ブルブル
少女「あれ、不評ですね? ね?」
少女「これ結構いいポイントするんすよねぇ」
少女「私結構これに貴重なポイントつぎ込んで、おにーさんに喜んでもらおうとしたんですよねぇ」
男「……」チラッ
少女「なに見てんだオラァ!!」クワッ
男「ひぃいいいいいいいいいいいいいいい」ブルブル
少女「うふふふ、うふふふ、うひひひひひひ」
男「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」ブルブル
少女「ちょっと悪ふざけが過ぎましたかね? ね?」
男「目をちゃんと着けてください……」ブルブル
少女「はいはい、戻しましたよ」
男「……」チラッ
少女「……」
男「……ふぅ」
少女「よし、これから登場時はこれでいきましょうね」
男「やめて!!」
男「今度はなに、眼球を外すオプション?」
少女「そういう感じです」
男「ヤバイ系のホラー映画っぽくてほんと怖かった」
少女「えへへ、それ最高の褒め言葉ですねえ」
男「もうそれだけでやってけそうだから、余所行ってくれないかなあ」ボソッ
少女「あ、おにーさん勘違いしてますね?」
男「ん?」
少女「私、ここだけで人を脅かしてるわけじゃないんですよ?」
男「あれ、そうなの?」
少女「出現できるポイントは限られてるんですけど、あちこちはしごしてるんですよぅ」
男「……そっか」
少女「あれ? おにーさんちょっと妬きましたね? やきもちですね? ね?」
男「いや別に居なくなってもらって全然構わないっていうか願ったり叶ったりっていうか」
少女「ちょっと言い過ぎじゃないかなーって思ったり」
男「わざわざ怖い思いしたくないから目のオプションはもう二度と使わないでほしいなーっていうか」
少女「せっかくのポイント使用を無駄にさせるとか、ちょっとおにーさん鬼畜系ーって思ったり」
男「じゃあ他にたくさんポイント稼げるとこが見つかったら……」
少女「あーそういうところがあったら、すごく効率が良いのは良いんですけどね……」
少女「ただまあ、私が有名になっちゃったら誰も来なくなったり……」
男「あ、そうか」
少女「逆に面白がる人ばっかり来ちゃったり」
男「なるほど」
少女「だからこう、人の住んでいるところに出現できるのは結構貴重なんですよぅ」
男「そういうもんなのか」
少女「というわけで、明日もいっぱい驚いてくださいねー」
男「……いい返事はしたくないなあ」
少女「えへへへへ」スゥ
男「……」
男「なんでここに、出現できるんだろう」
男「……はた迷惑な……」
男「女の幽霊とか……正直見たくないよ……」
では、また明日です ノシ
―――次の日―――
デデンデンデデン
男「ん?」
デデンデンデデン
男「なんだこの音?」
デデーン!!
少女「こんばんはー」ヌッ
男「怖くないっ!!」
少女「ええー」
ガビーン!!
男「その音もダメ!!」
男「なにこの音?」
少女「これもポイントでゲットした効果音ですよぅ」
男「もうちょっと怖い音なかったの?」
少女「あの、サメの映画のテーマとか」
男「なんか方向性が違う」
少女「怪獣のうなり声とか?」
男「それも方向性が違う……」
シュリッ シュリッ
男「ん?」
シュリッ シュリッ
男「これも効果音?」
少女「えへへへへへ」
シュリッ シュリッ
男「何の音?」
少女「山姥が包丁を研ぐ音だとか」
男「イメージが古い!!」
―――次の日―――
男「お?」
少女「見ててくださいね」
グギッ
男「え?」
グギッグギギギギギッ
少女「えへへへへへ」
男「いやあああああああああああ!! 首が!! 首がぁ!!」
グギギギギギギギギギギッ
少女「360度自由自在に回りますよー」
少女「人間でもこの技を使える人がいるみたいですね」
男「あれはトリックだから! マジックみたいなものだから!」
少女「あれいいなーって、真似したいなーって思って」
男「いや実際怖かったよ? でもあれはギャグだよ?」
少女「逆にも回りますよー」
グギギギギギギギギギギッ
男「やめて! 気持ち悪い!」
男「せめて箱かぶって!!」
少女「ほらほら、服を後ろ前に着ちゃっても、これで安心!」グギッ
男「首を180度回しても解決してないから!」
男「手とかつま先の方向がおかしいから!」
少女「うふふ」ニッコリ
男「胸も後ろについて……」
男「……あれ……どっちも背中みたいだな……」
少女「あれ、おにーさん私の胸を馬鹿にしましたね?」
―――次の日―――
バインバイン
男「……」
ボインボイン
少女「うふふふふ♪」
男「それ、オプションで?」
少女「はい♪」
男「昨日の胸のくだり、気にしてたんだ」
少女「うふふふ、『両方とも背中』の私とはおさらばですよぅ」バインバイン
男「悪かったって……」
という感じで
また明日です ノシ
―――次の日―――
少女「まいど!!(甲高い声)」ヌッ
男「っ、なんでそんな声……」
男「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」ビクビクン
少女「前の『目玉なし』が不評でしたので、『目玉のみ』です」ズイズイ
男「近い近い近い!! 寄るな化け物!!」
少女「オイ!! オニ太郎!!(甲高い声)」ズイズイ
男「読み方が間違ってる!!」
少女「風呂だ!! 風呂を沸かせオニ太郎!!(甲高い声)」
男「でかい!! 怖い!! カラスよけの風船みたい!!」
少女「じゃあ今日はこの辺で……」
男「完全に出オチだよね」
少女「一発ギャグみたいな感じですよね」
男「それどうやって喋ってんの?」
少女「あ、見ます?」ベロン
男「ぎゃー!! 目玉めくるな!!」
―――次の日―――
少女「こんばんわー」ヌッ
男「……?」
少女「あれ? なんですかその釈然としない顔は」
男「いや、今日は割と普通だなーと思って」
少女「いやあ、ポイントを最近使いすぎちゃってて」
男「あ、節約してるのか」
少女「おにーさんがいい感じに驚いてくれて嬉しいんですけど、毎日新しいオプションをつけるのは厳しくて」
男「いや、期待してるわけじゃないけどね?」
少女「可愛いオプションばっかりつける幽霊もいるんですよ」
男「どういうこと?」
少女「最初おにーさんが言ってたような、ピアスとかネックレスとか」
男「ふうん?」
少女「で、普通の生きている人間のようにして近づいて、実は足ありませんでしたー、とか」
男「あ、そういう脅かし方か」
少女「人間っぽく近づいて『私綺麗?』って裂けた口を見せるとか」
男「ひいいい、それ実在するんだ」
少女「マスクをつけた女幽霊には注意ですよぅ」
―――次の日―――
少女「こんばんはー」ヌッ
男「!?」
少女「我が名はデュラハン!! デュラハハハハ!!」
男「く!! 首が取れてるぅ!!」ガタガタ
少女「あっ」
ゴトン
ゴロゴロ
男「ぎゃあああああああああ!! こっち来たぁぁぁああ!!」
男「デュ、デュラハンってなんすか」ドキドキ
少女「首を抱える騎士の亡霊ですよー」
男「首んとこそれどうなってるの?」
少女「見たいですか? 見たら呪い殺しますよ?」ニヤニヤ
男「あっ、いいです」
少女「おっと」
ゴトン
ゴロゴロ
男「いやあああああああああ!! またこっち来たぁぁあああ!!」
明日はちょっと動きがあります ノシ
―――次の日―――
少女「こんばんはー」ヌッ
男「っ! また来たな……」
少女「えへへ」ブラーン
男「オアアアアアアアアアアアアア!! 内臓!! 内臓!!」
少女「えへへへへへへ」ブラブラ
男「ウアアアアアアア!! オエッ!! オアアアアアアアアアアアアア!!」
少女「どうですこのリアルさ! はみ出る腸! 滴る血!」ビチャビチャ
男「オエッ!! ヴヴォエッ!! オロロロロロロロロ」ビチャビチャ
少女「すみませんやりすぎました」
男「……」ズーン
少女「ぐろいの、ちょっとダメでしたね、気持ち悪いですよね」
男「……」ズーン
少女「あの、これ、別の出現場所ですっごいみんな驚いてくれたんでいけるかなーって」
男「……」ズーン
少女「調子乗りましたね、私ね、すみません」
男「……」ズーン
少女「あ、えっと、じゃあ今日はこの辺で……」
男「……うん」
少女「あ、明日はもうちょっと軽いので……来ますので……その……」
男「……うん」
少女「あ、来ても大丈夫な感じですか?」
男「……うん」
少女「あ、じゃあ、また明日、えっと、よ、よろしくでーす」スゥ
男「……」
―――次の日―――
少女「こ、こんばんはー」ヌッ
少女「昨日はお騒がせしましたー」
男「あ、うん」
少女「きょ、今日はもうシンプルになんもなしでーす」
男「あ、うん」
少女「いやあ、おにーさんを驚かせてポイントを稼ぐのが目的だったとはいえ、ちょっと昨日のは反省です」
男「ポイントは順調に溜まってるの?」
少女「あ、ええ、おかげさまで」
男「いや、ぐろいのは苦手だけどね、別に君は悪くないよ?」
少女「……」
男「脅かしてポイント稼ぐんだからね、ビビりなおれが悪いのであって」
少女「……」
男「ショック死なんかしちゃったらすげーポイント溜まるんじゃないの?」
少女「それは……」
男「時々いる心臓麻痺で死んだ人とかさ、幽霊が脅かしたって死因があるのかも」
少女「……」
少女「それは私の望むものではないんですよ」
少女「人を驚かすのは確かに悪いですけど、それは『悪さ』の範疇であるべきであって」
男「……」
少女「害を与えたり死に至らしめるのは、悪霊です」
男「……」
少女「私はそうなりたくないんです」
少女「でも、昨日の私は……」
男「……」
少女「幽霊の先輩の中にはね、人をびっくり死させることを目的にしている人もいるんですよ」
少女「とんでもないポイントを稼いで、様々なオプションつけて、心臓の弱そうな人を狙って」
男「……ひでえな」
少女「だから……ごめんなさい」
男「もういいよ」
少女「……」
男「ぐろいのが苦手ってのはあるかもしれないけど、昨日吐いたのは他にも理由があってね」
少女「はあ」
男「妹が1年前に死んだんだ」
少女「……」
男「交通事故で」
少女「……」
男「昨日の君みたいに、内臓が……」
少女「……っ!」
男「だから、それを思い出して、ダメだったんだと思う」
少女「それは……すみません……」
男「あのさ」
少女「は、はい」
男「この写真に写っている女の人を、見たことはない?」
少女「……はあ」
男「妹なんだ」
少女「あ、この人が……」
男「見覚えは?」
少女「ありません」
男「死んだら、みんな幽霊になるのかな?」
少女「いえ、そういうわけじゃないみたいですよ」
少女「天国や地獄に行くのがほとんどで、幽霊はそれに比べればごくわずかです」
男「あ、そうなの?」
少女「だから妹さんも、幽霊になっていないかもしれません」
少女「素行不良とかじゃなければ、普通に天国に行っているかと」
男「そ、素行不良じゃないし!!」
少女「あと、よっぽどの淫乱とかじゃなければ」
男「人様の妹になんてこと言うんだこの野郎!!」
では、また明日です ノシ
男「君が妹なのかな、とも思ったんだけど」
少女「へ? 私ですか?」
男「この場所が現れやすいとか、幽霊になって一年だとか、さ」
少女「あ、ああー」
男「?」
少女「あれね、えっとね、私ちょっとサバ読んじゃいました」
男「はあ?」
少女「あんまり初心者だと格好悪いかなーって」
少女「ほんとは初めて現れたあの日で、幽霊始めて一週間でした」
男「はあ?」
男「幽霊がサバを読むとか、初めて聞いたよ」
少女「えへへ、すみません」
男「なんだ、じゃあ違うのか」
少女「まあ、たとえそうだったとしても記憶がありませんから、なんとも」
男「まあ、そっか」
少女「会いたかったですか? 妹さんに」
男「会いたくないなって思ってた」
少女「そういうもんですか?」
男「でも君と話しているうちに、ちょっと楽しくなったりして」
少女「えへへ」
男「妹と馬鹿やって笑ってたこと思い出したりして」
少女「……」
男「やっぱり会いたいなって思ったよ、たとえ幽霊でも」
少女「……ですよね」
男「……たとえ内臓出てても」
少女「……ですよ……ね?」
男「で? 明日はどんなふうに驚かせてくれるの?」
少女「え?」
男「言っとくけど、二回目のネタじゃあもう驚かないぞ?」
男「常に新しい驚かせ方を開発してくれないと」
少女「あ、えっと……」
男「?」
少女「私、また来てもいいんですね?」
男「いいよ、だって楽しくなってきたって、言ったでしょ」
少女「ずっと思ってたんですけどこの部屋……」
男「ん?」
少女「『女の匂い』が全然しないんですよね」
男「……」
少女「若い男の人の一人暮らしで、一切」
男「……」
少女「それって普通なんですか?」
男「うるさいな」
少女「枯れてるんですか?」
男「うるさいな」
少女「『男の匂い』はすっごいするんですけどねー」
男「う、うるさいな」ドキッ
少女「おにーさんが喜びそうな特別なオプションがあるんですよねえ、えへへ」
男「なにそれ」
少女「秘密ですっ!」
少女「そのオプションがつけられるようになるまでは、しばらくここで、まだまだ脅かしたいと思いますので」
男「なんだよ、妹に化けるとか、そういう冗談はなしだぞ」
少女「わ、わかってますって!」ドキッ
男「試そうと思ってない?」
少女「お、思ってないです思ってないです!」ドキドキ
少女「さ、さすがにそれは、倫理観に問題が」ドキドキ
男「ふうん?」
少女「いつか、実際に触って驚かせてやりますよー、ふふふ」ボソッ
少女「でもあれ高いんですよねー、実体を得るオプション」ボソボソ
少女「まずはコツコツ、ポイントを溜めないとですねっ」
男「なんだって?」
少女「じゃ、じゃあまた明日ですー」スゥ
じゃ、じゃあまた明日ですー ノシ
明日でラストです
―――次の日―――
バサバサッ
少女「フゥーハハハハハハ!! 悪い子はいねえかぁあー!!」
少女「ナマハゲ様のお通りじゃぁああー!!」
バサバサッ
少女「あ、あれ? リアクションがありませんねえ」
少女「ま、まさかバイト!? あの時の恥ずかしさが再び!?」
男「……」
少女「な、なーんだ、居るじゃないですかー」
男「……」
少女「お、おにーさ……」
男「……」
少女「し、死んでるっ!? お、おにーさん!! おにいさあああああんんんんん!!」
バタバタッ
少女「ちょ、ちょっと!! 大丈夫ですかそんな血まみれでっ!!」
スカッ スカッ
少女「あ、触れないんだった……」
男「……」
少女「なんですか!? 強盗ですか!? すぐに私が仇をっ!!」
少女「びっくり死させてやりますよ!! おにーさんの恨みはすべて私が……」
男「だーーっはっはっはっは!! 騙されたなっ!!」ガバァ
少女「ぎゃあああああああああああああああああ!!」
男「ははは、たまにはこっちが驚かそう、と思って」
少女「ふーっ、ふーっ、ふーっ」ドキドキ
男「幽霊でもビビるんだな、はっはっは」
少女「ふーっ、ふーっ、しゃーっ」ドキドキ
男「猫か」
少女「……」
男「よしよし、明日はどうやって驚かしてやろうかな?」
少女「あ、明日も驚かすつもりなんですか?」ビクッ
男「もちろん、明日も来るよね?」
少女「……くっ」
男「この大量の血のりを用意するのは大変だったんだからさ」
男「君の血みたいに簡単に消えるわけでもないし」ゴシゴシ
男「あーこれ、大家さんに怒られそう……」ゴシゴシ
少女「な、なんでこんな」
男「え、だって驚かす側だと怖くないもん」
少女「え」
男「人間の世界だって、課金制なんだぜ? ちょっと値は張るけど」
少女「う」
男「バイトして貯めた金で、君を驚かせるのは楽しいだろうなあ」
少女「うううう」
男「被り物もメイキャップも、効果音だってギミックだってトリックだって、やろうと思えばできそうだ」
少女「おにーさん意地悪ですね……ポイントだって入らないだろうに……」
男「さあ、明日はどんなことして驚かせてくれるんだ?」ニヤニヤ
★おしまい★
最後はあっさり
妹にしようかと思いましたけど、ちょっと安直だったんでやめました
∧__∧
( ・ω・) ありがとうございました
ハ∨/^ヽ またどこかで
ノ::[三ノ :.、 http://hamham278.blog76.fc2.com/
i)、_;|*く; ノ
|!: ::.".T~
ハ、___|
"""~""""""~"""~"""~"
正直落としどころに迷ったので、間のわちゃわちゃや実体化は書きたいですね
後日談です
ちょっとだけ続きます
―――ある日―――
ガキョ
ウィーン―――
ィィィン―――
男「やっと楽しみにしてたライブDVDが届いたぞ♪」
男「めっちゃテンション上がるんだよなー」
男「アングラバンドだったのが、今や武道館でライブをするほどになるとは……」
男「初期から応援していた身としては、嬉しいような、少し寂しいような」
男「まあ、喜ぶべきだね」
TV「ザーッ……ザザッ……」
男「ん?」
TV「……ザッ……ザザーッ……」ウッウー キットクルー
男「!?」
TV「……ザッ……ザザーッ……」タブンクルー キットクルー
TV「……ザッ……ザザーッ……」ソノウチクルー キットクルー
でろん
少女「うらめしやぁぁあああああ」ガサガサ
男「ぎゃああああああああああああああああああ」ビクビクン
少女「原点に戻って、黒髪振り乱し系ですよー」
男「はぁ……はぁ……」ドキドキ
男「シンプルにびびった……」ドキドキ
少女「うぇへへへへへへへへへへ」ガクガク
男「オゾい!! その動き気持ち悪い!!」
少女「ブラウン管じゃなくて薄型液晶でもいけるんですね? ね?」
男「し、知らないよ……」
男「ていうか効果音微妙に違ってたけど」
少女「あれ? 原曲は割とポップなダンスミュージックなんですよ?」
男「知らないよ!!」
少女「大丈夫です、エッチなDVDを観ているときは出てきませんから!!」
男「っ」ドキン
少女「おにーさんのプライバシーの問題がありますからねえ」
男「すでにボロボロだよ……」
少女「ちなみにお気に入りはどんなのですか? 妹系ですか?」
男「うるさいよ!!」
―――ある日―――
パカラッパカラッ
男「あん?」
パカラッパカラッ
男「……は?」
少女「ヒヒィーン!!」パカラッ
男「馬!?」
少女「どうです!? 驚きましたか!? 怖いですか!?」
男「なにそれ」
少女「ケンタウロスですよ!! 有名な妖怪ですよ!?」
男「妖怪じゃないと思うよ……」
男「ちょっとそこ座ろうか」
少女「は、はあ、これどうやって座るんでしょうね」
男「いいから」
少女「は、はい」ヒョイ
少女「あ、こうやって座るんですね、お馬さん」
男「ちょっとポイントの無駄遣いが過ぎるんじゃないですか」
少女「え?」
男「それね、『わーすげー!』とか『気持ち悪い!』とは思っても、怖いとは思わないよ?」
少女「ええっ」ガビーン
男「方向性が違うんだなあ」
男「なに、誰か悪い先輩にそそのかされてポイント使っちゃったの?」
少女「いえ、自分で気に入って」
男「マジか」
少女「ほらこの、人体と馬のつなぎ目とか怖くないですか? 足四本のところとかも」
男「マジか、君」
男「ポイント溜めるんでしょ?」
男「無駄遣いしないで堅実にいかないと」
少女「は、はあ」
少女「おにーさんに幽霊論を説かれるとは屈辱の極みですぅ」ボソッ
男「ん?」
少女「いえ、なんでも」
男「やっぱさ、怖かったのは『目玉』とか『目なし』とか、ああいうシンプルな」
少女「え!? あんな単純なもので!?」
男「うるさいな、そういうものなの!」
―――ある日―――
少女「こんばんわぁ」ゴトン
男「!?」
少女「この間、おにーさんに怒られたので、今日は節約バージョンですよぅ」ゴロゴロ
男「おあああああああああああああああああああああ!!」ビクビクン
少女「えへへ、新しいポイントは使ってないですからね? ね?」
男「……」ブルブル
少女「いやあ、こういう使い方もあるんですねえ」
男「……」ブルブル
男「……まさか本当に『目だけ』とは……」ブルブル
少女「デュラハンと目玉のコラボレーションですね」
男「か、体はどこに?」
少女「外に待機しています」
男「あ、そう」
少女「ケンタウロスと合成させると、さらにいい感じになりそうですね」
男「これ以上のキメラを生み出すのか……」
少女「!」
少女「もしかしたら目玉を内臓とつなげるという荒業も可能かも」
男「やめてやめてマジやめて」ゾゾゾッ
少女「今までのオプションをうまく組み合わせることで、さらなる驚きが……」ブツブツ
少女「これはまだまだ研究が必要ですねえ」ブツブツ
男「……」
少女「では、今日はこれで」ゴロゴロ
男「シュール」
少女「あ、どうやって喋っているか見ます?」ベロン
男「いらん!!」
―――ある日―――
少女「今日はいつもの私とは違いますよ?」
少女「幽霊の『本気』をご覧に入れましょう」キリッ
男「へえ?」
少女「さあ、私に触ってください」ズイズイ
男「は?」
少女「触って♪」ズイズイ
男「え……えと……」
少女「ほら、手を伸ばして、私の胸の方に」
男「胸? え、どこ?」
少女「こらぁ! 私は真剣ですよっ!」
男「じゃ、じゃあ」スイ
むにっ
男「こ、これは……」ムニムニ
少女「うふふ」
男「なに、これ?」ムニムニ
少女「私の心臓です」
男「気持ち悪い!! え、なに、心臓だけ!!」ムニムニ
少女「私の大事なトコロ揉みながら『気持ち悪い』だなんて、おにーさんひどいです」
男「体は透けるのに中身が揉めるってなに!?」ムニムニ
少女「やん♪ そんなに強く揉まれるとドキドキしちゃう♪」
男「変な声出さないで!!」
少女「これもオプションなんですよ」
少女「ちょっとずつ貯めてたぶんで、ようやくこれだけ」
男「え、そうなんだ」
少女「ちゃんと貯めてたんですよ、これでも」
男「意外と堅実派」
少女「高いんですけど、ね」
少女「でもちょっとびっくりしてくれたでしょう?」
男「あ、ああ」
少女「こうやって少しずつ実体化していったら……」
男「……」
少女「私、とても人間に近いですよね? ね?」
男「それって、どうなるの?」
少女「そういうの、誰も教えてくれないんですよ」
少女「やってみないと分からない、というか」
男「はあ」
少女「もしかしたら幽霊だった記憶を失って、人間に転生するのかもしれませんね?」
男「やっぱ、人間になりたいんだ?」
少女「そりゃあ、そうですよ」
男「好きに姿を消したり、移動したりできないんだよ?」
少女「ええ」
男「びっくり死することもあるし、容姿を自由に変えられないし」
少女「ええ」
男「それでもいいの?」
少女「そういう不自由さが、いいんです」
男「……」
少女「ゲームにのめりこんでも、現実世界に帰らないでいいやって思える人はいないでしょう?」
男「いや、ちょっとはいそうだけど」
少女「まあ、そういうわけで、ちょっとずつ実体化ができればいいですねえ♪」
男「次はどこ?」
少女「え」
男「次はどこを実体化するの?」
少女「え、なんですかそれは。セクハラ的な質問ですか?」
男「違う!!」
少女「ボインボインの実体化が待ち遠しいですか?」
男「う、うるさいよ!!」
少女「この黒髪なんか、いいですねえ」
少女「長い髪がファサッとかかると、結構ぞくぞくするんですよ?」
男「……そ、そう」
少女「あとは手なんかもいいですねえ」
少女「おにーさんに後ろからそっと近づいて、首筋をひやっと掴んだり」ニヤリ
男「っ」ゾゾッ
少女「布団の中で足首をいきなりガッと掴んだり」ニヤリ
男「っ!!」ゾゾゾッ
少女「えへへへへ、今度はどこを実体化しましょうかねえ」
★おしまい★
幽霊少女が可愛く感じてもらえたらオールOKです
ではまたどこかで ノシ
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません