吹雪「私が、守るんだ……!」 (3)
――とある泊地
海に面したこの執務室の窓を開ければ、波の音がよく聞こえる。空は雲一つない晴天。海も穏やかである。
?「……さて、突然この泊地を任されたわけだが」
ぐるりと執務室の中を見渡す。そこにあるのは執務用の簡素なデスクと、申し訳程度の壁飾り、そして少し古ぼけた桐箪笥のみだ。
軍服姿の青年――提督は、溜息と共に誰に投げかけるでもない言葉を吐き出した。
提督「もともと一般人だった俺に何をしろってんだ……はぁ」
がっくりと肩を落とす。白色の軍服は完全なおろしたてであり、襟元の勲章から階級が大佐であることがわかる。
提督「大体、なんでいきなり一般人から軍人にされた挙句、大佐なんて地位を与えられて、あまつさえ泊地の提督に任命。ほんと、俺明日にでも死ぬんじゃねえかな」
椅子にどっかりと座りこみ、帽子を目深にかぶってぶっきらぼうに吐き捨てる。
デスクの上に無造作に置かれた一枚の書類を手に取り、改めて文面に目を通す。
提督「"貴官ヲ此ノ泊地ノ提督ニ任命スル。一軍人トシテ日ノ本ニ貢献セヨ"……はぁ、まったく、嫌になるね」
そのまま書類をくしゃりと丸め、部屋の隅に置かれたゴミ箱へと投げ込む。美しい放物線を描いて、吸い込まれるようにゴミ箱へと紙のボールは姿を消した。
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――翌日
昨日と同じように、椅子に座って何をするわけでもなくぼーっとしていたら、執務室の扉をノックする音が聞こえてきた。
提督「? はーい、どうぞー……」
?「し、失礼します!」
そういってぎこちない動作で執務室に入ってきたのは、小柄な少女だった。
セーラー服を身に纏い、おそらく肩くらいまであろうショートヘアを短いお下げにしている。
海軍式の敬礼をして、少女は名乗った。
?「特Ⅰ型駆逐艦一番艦、吹雪! 着任いたしました!」
提督「……駆逐艦、吹雪?」
この少女は一体何を言っているのだろう。提督はまずそう考えた。
見た目は中学生くらいの女の子なのに、まさか自らのことを駆逐艦だと名乗ることはまずないだろう。
しかし、ここが泊地というならばなぜ今まで一隻の艦船もみなかったのか疑問に思う。
そんな疑問の全てを、目の前の吹雪と名乗った少女に投げかけた。
提督「君は、いったい誰だい? それに、君が駆逐艦なんて……」
吹雪「……もしかして、司令官は艦娘をご存知ではないのですか?」
提督「艦娘……?」
――しばらくして
提督「軍艦の記憶を持った少女……ねえ」
吹雪「まあ、簡単にいうとそんなところです」
やはり思う。大本営は何を考えているんだ、と。
こんな幼い少女を戦場に立たせるというのだから。
提督(これじゃあ、まるで……)
吹雪「司令官? 顔色が悪いですが、どうかしましたか?」
提督「ああ、いや……なんでもない。気にしないでくれ」
吹雪「?……分かりました」
乾いた笑いを見せる提督と、小さく首をかしげる吹雪。
そんな二人の耳に、コンコンという小気味のいい音が聞こえた。
?「提督、入ってもよろしいでしょうか」
提督「ん、ああ。構わない」
?「では、失礼します」
その言葉の後に、執務室の扉を開けて入ってきたのは、おそらく20歳前後であろう美女だった。
彼女の容姿に、提督は見惚れる。男としては当然の反応だろう。
加賀「航空母艦、加賀です。あなたが新しい提督なの? 期待……させてくださいね」
提督「あ、ああ。こちらこそよろしく。……君も、艦娘なのか?」
加賀「ええ。それに、この泊地には艦娘くらいしかいないわよ」
提督「……なあ、一ついいか?」
加賀「何かしら?」
提督「さっき君が言っていた"新しい提督"ってのは、どういう意味なんだ?」
加賀「言葉通りの意味なのだけど」
提督「ああ、すまなかった。言い方を変えよう」
ふぅ、と小さく息を吐き出してから、しっかりと加賀の両目を見据えて、彼女に言葉を投げかける。
提督「俺は、いったい何人目だ?」
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