□このスレは「とある魔術の禁書目録」及びその派生作品のSS総合スレッドです
「2chは規制されている」「スレを立てにくい」という方は当スレに投下をどうぞ
SSの投下以外にも、感想や雑談・質問に相談・情報交換などにご利用ください
前スレ
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-40冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1379543420
■このスレのルール――――――――――――――――――――――――――――――――――――■
・共用スレなので書きながらの投下は禁止です。必ず投下分を書き溜めてから投下すること
また安価作品なんかはご遠慮下さい
・人を選ぶ内容(極端な欝展開やエログロ等)は事前に注意書きを
差し支えなければカップリング等の大まかな説明などを書いて下さい
・別の人が先に投下している際は、終わってから最低でも30分は空けて投下すること
連続して投下すると感想を書き難くなります。また当然ながら割り込んでの投下は厳禁です
・新刊のネタバレは地域によって発売日がずれる場合があるので、解禁は公式発売日の翌日からです
・荒らしは全力でスルー、またルールを守れない人等に対しても極力柔らかい口調で注意すること
■ここまで必読、以降のテンプレも読むこと――――――――――――――――――――――――――■
>>2 その他注意事項
>>3 関連スレ等
>>4 過去のテンプレゲストキャラ
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/ss/▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-41冊目-【超電磁砲】
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1450865667
□注意事項
・>>950を踏んだ人は次スレを立ててください。無理なら必ず再安価かヘルプ要請を
可能な限り次スレを立てる前に「立てに行く」宣言をしてください。立てた後の次スレ誘導もお願いします
宣言、スレ立てがしばらくなければ>>970を踏んだ人がお願いします
・認知度アップの為にage推奨です
・この板では、一部の単語にフィルターがかかっています
例)「その幻想をぶち[ピーーー]!」(“殺.す”にフィルター)
メール欄に半角で『saga』(←「下げ」じゃなくて「佐賀」)と入れると解除できます。他のメ欄コマンドとも併用可
下記のスレで該当する単語などの詳細が確認できます
パー速機能覚書・テスト PART2
https://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=part4vip&dat=1431931779
・板の連投規制は25秒、1レス内での行数制限は80行です
・投下する時は名前欄にタイトルや総レス数などを書いておくと分かりやすいです
・書き込み失敗の表示が出ていても書きこめている場合があるからスレを更新して確認しよう
★これからスレを立てる人へ
個別スレ立ての目安は100レス前後の風潮
安価SSやエログロなどの要素が特に多いSSは個別に立てた方がいいでしょう
この板ではスレ落ちは運営の手による手動です。自動では落ちません
スレ処理はデータ削除ではなくHTML形式でログ化されデータ庫に格納されます。
立て逃げや長期の放置スレ、板趣旨と異なるスレは処理対象になります。処理されても泣かない
処理されてもデータ自体は残っているので再開するときは過去スレのURLなどをリンクしておくといいかも
使い終わったスレは以下のスレで処理依頼をしましょう。1000に到達したスレに関しては報告の必要はありません
■ HTML化依頼スレッド Part36
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1447604545
[ 関連スレ ]
お勧めの禁書・超電磁砲SSを教えろください 25
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1443075924
(スレタイ通り)
ふと思いついた小ネタ(スレタイ含む)を書くスレ39
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1448188998
(書くまでもないor書くのめんどいネタなど)
【禁書SS用】設定質問受付&禁書SSまとめwiki用資料作成所-5杯目-
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1450844088
(質問はこちらで)
SS製作者総合スレ74
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1450363233
(ジャンル不問)
雑談しようぜ Part2
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1376842623
(その他雑談総合)
[ 関連リンク ]
とある魔術の禁書目録Ⅱ〈インデックスⅡ〉公式サイト
http://www.project-index.net/tv/
とある魔術の禁書目録 Index@wiki
http://www12.atwiki.jp/index-index/sp/
自分用まとめ ◆「とある総合スレ記事一覧」
http://asagikk.blog113.fc2.com
禁書SS@製作速報 まとめWiki
http://www35.atwiki.jp/seisoku-index/sp/
[ 過去スレ一覧 ]
▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-30冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1307804796
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-31冊目-【超電磁砲】
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-32冊目-【超電磁砲】
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-33冊目-【超電磁砲】
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-34冊目-【超電磁砲】
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-35冊目-【超電磁砲】
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-36冊目-【超電磁砲】
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-37冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1334385245
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-38冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1350107497
▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-39冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1363523022
◇これ以前のログはこちらから
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1307804796 (専ブラ用)
禁書「>>950!いままでのおやくそく一覧なんだよ!」
02 インデックスさん
03 小萌センセー
04 建宮さん
05 オルソラさん
06 キャーリサさま
07 フレンダさん
08 御坂妹
09 最大主教さん
10 舞夏さん
11 上条さん
12 白井さん
13 一方通行さん
14 土御門さん
15 絹旗さん
16 黄泉川せんせー
17 愛の伝道師・青髪ピアスくん
18 サーシャさん
19 姫神秋沙さん
20 御坂美琴さん
21 アックアさん
22 打ち止めちゃん
23 オリアナさん
24 麦のん
25 テッラさん
26 フレメアちゃん
27 闇咲さん
28 冥土帰しさん
29 テンプレ改訂のためキャラ無し
30 浜面くん&滝壺さん
31~ テンプレ改定のためキャラ無し
ミスがございましたら申し訳ありません。
数レスほどお借りします。
西多摩鳥獣保護区ーー
東京都の3分の1を占める広さを持ち、東京・神奈川・埼玉・山梨の一都三県にまたがるこの鳥獣保護区は、都心に最も近い自然保護区として知られております。
ここは1947(昭和22)年、戦災と戦後の混乱によって激しく傷ついた多摩丘陵の森林環境及び固有の生態系を守るために創立されました。ナショナル・トラストをはじめとする地域住民や市民による不断の努力の結果、今では230種類もの動植物種が繁栄するようになり、都心のすぐ近くで自然に触れ合うことの出来る数少ない場所として人々に親しまれています。
西多摩鳥獣保護区は23地区に分かれており、さらに多摩川など同保護区内に水源を持つ幾つかの河川も保護区に含められています。
そしてここは、東京湾に面した多摩川河口。近くには羽田空港も見えますね。
おや? 水際を歩いている動物の親子がいます。近づいてみましょう。猫にそっくりですね。
そうです、こちらが今回の主人公である、ミサキャットです。
ミサキャットはこの鳥獣保護区でしか見られない固有種であり、ヤマネコの一種だと考えられていますが、その生態は他のネコ科と比べてあまりにも変わっているのです。
母猫が水面を覗いています。何をする気なのでしょうか。
ミサキャット母「ムシスンナヤゴラァァァァァァ!!」
バチバチ!
ご覧ください。体からものすごい量の電流がほとばしっています。なんとミサキャットは、デンキウナギやシビレエイと同様、筋肉から分化した発電器官を有しているんです。主に捕食や外敵から身を守るために用いていると考えられており、最大出力はなんと2億Vに及ぶとされています。人間などひとたまりもありません。
ソゲブウニ「フコ……ウダ……」
水面から魚やウニが浮いてきましたね。どうやら水中に電流を流して餌を採っていたようです。
ミサキャットは基本的に肉食・魚食が中心であり、中でも同じく鳥獣保護区固有種であるこのソゲブウニを好んで食べると言われています。
ミサキャット仔「ナンカゴハンヲゴハンヲクレタリスルトミサカハミサカハシアワセシスウガサンジュウホドアップシテミタリ」
母猫が餌を陸に引き上げると、小さな仔猫達が3匹集まってきました。可愛いですね。
ところでこの仔猫達をよく見てください。
ミサキャット仔「オイシイオイシイッテミサカハミサカハヒョウカシテミタリ」
みんなお母さんそっくりですね。実はこの子達はいずれも雌であり、母猫から直接分裂する形で産まれたのです。
ミサキャットは単為生殖を行うことのできる唯一のネコ科であり、今までに確認された個体のほとんどが雌で、雄はごく少数です。
高い繁殖能力と強力な武器によって、怖いものなしに見えるミサキャット。しかし、そんな「彼女」達にも恐ろしい天敵はいるのです。次は、彼女達の天敵について見て行きましょう。
ここはより内陸の林。こちらの親子は、どうやら狩りを終えて巣に帰る途中のようです。
ミサキャット仔「チョットノドガカワイタカモッテミサカハミサカハ」
突然2匹いた子供のうち1匹が近くの池に向かって駆け出しました。どうやら喉が渇いたようです。しかし、水中には恐ろしい敵がいます。
仔猫が水を飲もうとした、その時!
黒子ダイル「ホネェサバァァァァァァ!」
突然小柄なワニが飛び出してきました。保護区固有種の黒子ダイルです。このワニは極めて高い瞬発力を誇り、あたかも瞬間移動しているかのような素早さで獲物を捕らえます。最大速度はなんと時速288kmにも及ぶと言うから恐ろしいですね。
当然仔猫は逃げる間もなく、そのまま丸呑みにされてしまいました。
一方、残された親子は、まさか自分の家族がそんな目に遭っているなどとは夢にも思わず、そのまま歩いて行きます。所詮は畜生、自分の子供が自分の目の届かない場所で危険な目に遭う可能性があるということにまで考えが及ばないのでしょう。しかし、彼女達にもすぐに危機が訪れることとなるのです。
突然目の前の藪がガサゴソと大きく揺れ始めました。身構える母猫。その陰に隠れる仔猫。次の瞬間!
シズリグリズリー「ブチコロシカクテイネー!」
突然巨大な熊が藪から姿を現し、母猫目掛けて爪を振り下ろしました! 素早く後ずさって攻撃を躱す母猫。背中には仔猫も一緒です。
保護区固有種であるシズリグリズリー(メルトグマ)は、更新世後期に絶滅した史上最大の熊、アルクトドスの末裔だとされており、極めて巨大に成長することで知られています。力もかなり強く、片手でアフリカゾウを投げ飛ばすことができるとされています。
この個体はどうやら過去の戦いで右眼と左前足を失ったようですね。百戦錬磨という奴でしょうか。かなりの手練れと見ました。
巨大な熊と対峙する小柄な猫。某熊犬漫画を彷彿とさせる光景です。
シズリグリズリー「パリィパリィパリィッテカァァ!!?? ワラワセンジャネェゾクソガキィ!!!!!」
但し、あちらとは異なり、こちらは防戦一方のようですが……。おっと! どうやら隙を見つけたようです。
ミサキャット母「タッタヒトツデイイワタシノネガイヲキイテ! ワタシニハキットミンナヲマモレナイ」
ミサキャット仔「ウンワカッタヨッテミサカハミサカハ」
戦闘に巻き込まれないよう、少し離れた茂みの中に素早く仔猫を下ろし、一気に反攻に出ます!
ミサキャット母「コレガワタシノゼンリョクダアアアアアア!!」
ビリビリビリビリビリ!
シズリグリズリーの胸に飛び付き、ありったけの電流を流し込みました! よほどの量だったのか、全身の毛が逆立って発火すらしています。雷に打たれたようなものでしょう。
ミサキャット母「オコサマノケンカモバカニデキナイデショ?オバサン」
シズリグリズリー「オバ↑サン↓ダトフザケンジャネエヨテメェ! オネエサンダルルォ!?」
断末魔の咆哮と共に地面に倒れ伏すシズリグリズリー。どうやら仕留めたようです。
勝ち誇った表情の母猫。
しかし、彼女が誇らしげに仔猫の方を振り向いたその時!
ミサキャット仔「キャアアア!」
我が子から目を離した一瞬の隙が仇となったようです。ただ1匹生き残った仔猫は、今まさに白い大蛇によって絞め殺されようとしていました。
ロリコンダ「アッシュクアッシュク! エモノヲアッシュクゥ!」
ミサキャット仔「ウウ……チョットクルシイカモッテミサカハミサカハウッタエテミル」
ミサキャット母「イヤ……ソンナ……」
最も恐るべき敵、ロリコンダです! この蛇は、普段は数十センチにも満たないほど小柄なのですが、細胞やホルモンなどを自由自在に操って最大10メートル超にまで巨大化することが可能であり、空気の流れなどを機敏に感じとって普通の蛇以上に正確に獲物を捕らえることができます。また、如何なる攻撃も寄せ付けず全て反射してしまう頑丈な鱗を持っています。電流もまるで効かないので、彼女達にとっては甚だ相性の悪い相手と言えましょう。
ロリコンダ「クカキケコカカキクケキキコカカキクココクケケケコキクカクケケコカクケキカコケケキキクククキキカキクコククケクカキクコケクケクキクキコキカカカーッ!!」
ミサキャット仔「グ、グルジ……アアアアアア」
バキボキメキバキ!
ミサキャット母「イヤァァァァァァァァ!」
ロリコンダ「ギャハッ! ナンダナンダヨナンデスカァソノザマハ!」
哀れにも仔猫は、母猫の目の前で無惨にすり潰されてしまいました。心なしか、母猫の表情も絶望に満ちているように見えます。
そして、あまりにも悲しみが大きすぎたためか、後ろの注意が疎かになっていました。
シズリグリズリー「チョーーットアタマノネジガサユルンデルミタイダネ。シメナオシテホシイ?」
なんと、一度は心臓の鼓動を止めたシズリグリズリーが再び息を吹き返したではありませんか! なんという執念! なんというタフさ!
シズリグリズリー「サンニーイチドバーン!」
シズリグリズリーは、前足を大きく振り上げると母猫の脳天目掛けて勢い良く振り下ろし、そのまま母猫の頭を粉々に打ち砕いてしまいました。
彼女はその場にとどまり、辺り一面に散らばった脳漿や血液をしばらくペロペロと舐めていましたが、ロリコンダが物凄い目つきで睨みつけていることに気づくと獲物を置いてそそくさと立ち去って行きました。
ライバルが去ったのを見届けたロリコンダは、悠然と戦利品に近づいて行き、満足げな表情で丸呑みにしてしまいました。
230種類もの生き物が集う西多摩鳥獣保護区。その生態系の頂点に君臨するのが、彼らロリコンダなのです。
このように大自然の掟というものは、時として我々人間にとってかなり残酷なものに感じられることがあります。しかし、この厳しい掟があるからこそ、自然のバランスは保たれているのです。
終り
すみません。一部訂正がございます。
>>17
×シズリグリズリー「チョーーットアタマノネジガサユルンデルミタイダネ。シメナオシテホシイ?」
↓
○シズリグリズリー「チョーーットアタマノネジガユルンデルミタイダネ。シメナオシテホシイ?」 (サが余分に入っていた)
また、事前に少し残酷な描写があるとお断りしておくべきでした。失礼いたしました。
18レスほどいただきます、結構長くなります
サイコパスとのいわゆるクロスで軽いグロ描写注意です
シーン切り替えで場面が飛びます
その銃口(システム)は、正義を支配する――。
「はっ、はっ、はっ……!!」
カンカンカン、という小気味のいい音が規則的に夜の闇に響く。
それに混ざって獣のような荒い息遣いも聞こえてくる。
彼は必死だった。走って、走って、走って。
ただひたすらに逃げ続けた。そんなことに意味はないと頭の中では分かっているのに。
異常なまでの生存本能に駆られた男の様子は尋常ではなく、目は血走っている。
無理に動かし続けた足はついに限界を迎え、男は躓いて派手に転倒してしまった。
「ぅぅぅぅぅぅ……!!」
低く唸り必死に立ち上がろうとするも、悲鳴を上げる体は言うことを聞かないようだった。
そんな彼の耳を、ひとつの音が支配した。
夜の漆黒の中で反響するこつ、こつ、こつという音。
来る。絶望的で、破滅的で、終焉を齎す死神が現れる。
男は恐怖のあまり発狂しかけたが、まるでそれを止めるように凛とした声が投げかけられる。
「あら、そんなところに蹲ってどうしたの? 100円玉でも落ちてた?」
どことなく侮蔑の込められた口調で、それは闇を切り裂いて現れた。
真紅のドレスは闇にあって派手すぎるが、何故だかそれが本来あるべき姿であるとでも言うかのように調和している。
若い少女。一見すればそのドレスも相まってホステスにも見えるが、この女がそんな可愛い存在ではないことは男が一番感じていた。
「ひ、ひぃぃっ……!?」
なりふり構っている場合ではなかったのだろう。
男は手を動かし足をよじり、地を這いずるようにして眼前の紅い死神から距離を取る。
次第に言うことを聞くようになってきた足に力を入れて立ち上がり、駆け出す。
「ねえ、君。ちょっと私のお願いを聞いてくれないかな」
……そんな言葉だった。たったそれだけの言葉なのに、何故かそれは男の身体の自由を奪った。
女の言葉に逆らえない。恐ろしいのは強制的なものではないところだった。
強引に動きを止めさせるのではなく、何故だか止まりたくなる。この死神の言葉を聴いてあげたくなる。
まるで数年来の友人の頼みごとか、あるいは愛する恋人のおねだりのような。
「ありがとう。でも、そんな遠くじゃお話ができないよ。
ほら、もっとこっちに来てちょうだい。そう……」
動きを止めた男を見て、女は嬉しそうに礼を述べる。
その言葉に誘われるままに男は引き返し女の元へと戻っていくが、その内心は恐怖に塗りつぶされていた。
逃げたい。逃げなければならない。にも関わらず、どうしてか女の言葉に逆らうことができない。
「ごめんね。今、うちの弓箭猟虎(スナイパー)は別の仕事をしてるから、いつもみたいにクリーンにとはいかないけど」
紅い死神がその可愛らしい唇を開いて謝罪した。
それだけで全てを許せる気がした。そんなはずはないのに。
その時だった。男は自分の背後にもう一人、誰かがいるのに気がついた。
いつからいた――?
「――ねぇ、あなたの色は何色なんだろうね?」
男はゆっくりと振り返る。一人の少女がいた。
年の頃はこのドレスの女とそう変わりはないだろうが、こちらは大きな暗視ゴーグルのようなものをつけているのが目を引く。
しかしそれ以上に、男はその少女が手に持っているものに視線が釘付けになっていた。
一丁の銃。水色の光を放つそれは、対象を認識するとそれに相応しい形へと変形を始める。
『犯罪係数、オーバー310。執行対象です』
ただ朗々と歌うような女性らしい機械音声が、ただ唯一の音として場を支配する。
目の前の男を社会に必要のない因子であると断定する。
『執行モード、リーサル・エリミネーター。慎重に標準を定め、対象を排除してください』
凶悪な姿形へと変形したそれは、無慈悲な音声と共にその水色の輝きを増す。
『ドミネーター』と呼ばれる銃を握り締めた少女は、その銃口を男へと突きつけたままどこまでも平坦に引き金に指をかける。
「――――執行します、とミサカはトリガーを引き絞ります」
直後。軽い音がした。断罪がなされた。訪れたのは、破滅だった。
血と肉と様々な欠片が散乱している様を見て、ドレスの少女は口を開く。
「……お願い、聞いてくれてありがとう」
――――――――――
「はーい、それじゃあ今日は皆さんの適性検査の結果を配布するのですよー」
見た目年齢10歳ほどの担任教師の言葉にクラスのあちこちからため息や愚痴が漏れる。
あまり楽しい結果が待っているとは思えない連中は今から将来を憂い始めていた。
「……かくいう上条さんもその一人ですけどね。どんな進路になることやら」
続々と返却されていく適性検査の結果。
次々とあがる悲鳴や歓喜の声。
それらに混じって漏れた上条当麻の愚痴に悪友たちが反応を返す。
「カミやんはまだええ。ボクなんかどんな結果になるか想像もつかんわ」
「お前はエロゲ製作でもすればいいんじゃないのかにゃー」
その手があったか……ッ!! と震える青髪ピアス。
……本当にこいつの将来はそれでいいのかと不安になる。
「コラお前たち、また下らない話をしてるんじゃないの」
吹寄制理をお持ちの豊満な胸……ではなく、豊満な胸をお持ちの吹寄制理が三人に割って入る。
上条はわざとらしく目を逸らしながら
「吹寄サンはいい結果だったんでしょうねー」
「……ん。まぁ、思ってたよりね。いくつかがA判定だったわ。
ちょっと安心したわ、大学制度なんて廃止されて久しいわけだし」
「くっ、上条さんの色相が濁っちゃいますよ」
「私はむしろこの馬鹿のサイコパスがクリアなのが不思議でならないけど」
吹寄はそう言って青髪ピアスに目を向ける。
確かにあっという間にアウトになりそうなものだが、これまで一度も街頭スキャナにもかかったことがないのだ。
もっとも、上条としても流石に友人が施設送りになるのは見たくないところではあるのだが。
とはいえ一つ付け加えておくと、スキャナには引っかかっていなくても風紀委員の職質は何十と受けているのだった。
「ハッハァー!! ボクの愛は『シビュラ』にも認められてるってことや!!」
「そうは思いたくないんだけどな。せいぜい犯罪係数ぶっちぎらないよう気をつけてくれよ?」
「ちなみに私の犯罪係数は53万よ」
「ファッ!?」
「冗談よ」
珍しくジョークを飛ばす吹寄に青髪ピアスが瞠目していると、「にゃー!?」という叫びがどこからか聞こえてきた。
見ると金髪アロハ野郎が一枚の紙を手に小さく震えている。
一体どんな愉快な結果だったのだろうか、などと他人事のように考えていると「上条ちゃーん」と担任教師のお呼びがかかる。
そして、
「……不幸だ」
C判定。事務やエンジニアなどのデスクワーク系はほぼ全滅であった。
適性が出ているのはドローンが普及している今では少なくなった肉体労働、そして意外にもカウンセリング系統であった。
「はーい、それじゃあ皆さん席についてほしいのですー」
全ての結果を配布し終えた月詠小萌は教壇に立ち、その小さな身体を精一杯アピールする。
「今回の適性検査で良い結果が出た人も残念な結果になってしまった人もいると思います。
でもですねー、あまり気に病む必要はないと思うのですよ。皆さんはまだ一年生なので、これからきっと結果も変わっていくのです。
逆を言えば今回良い結果だった人たちもうっかり油断していると……なーんてこともあり得るかもしれないので気をつけてほしいのですー」
その言葉にざわつき始めたクラスを見て小萌は、
「はいー。まあ、確かに絶対に変わるという断定はできません。
それはつまり、シビュラが判断を変えるということですから。けれど、たとえ変わらなかったとしてもですよ?
それでも今皆さんの手元に示されている適性はシビュラのお墨付きなのです。その先の幸せは約束されているのですよー」
「それは……まあ」
思わず上条は呟く。シビュラシステムはその人の才能や能力を読み取って、その人間が最も幸福になれる生き方を示してくれる。
幸せになれれば何でもいい男上条当麻にとってこれほどありがたいこともない。
「シビュラシステムがこの街に導入されてもう随分と年月が経ちます。
シビュラ導入以前は幸せになれるかどうかなんて運任せだったのですよー?
先生が先生になったのだって、シビュラからの適性をもらったからなのです。
元々研究者だったのですけど、今は皆さんの先生をやれて本当に幸せなのです」
ボクも幸せです小萌センセー!! などという叫びが近くから聞こえてきた。
……それはともかく、確かに随分と前は誰も彼もが将来を手探りで進んでいたらしい。
今では信じられないし考えられないことだが、そんなスーパーハードモードな時代があったのだった。
(シビュラシステムなしなんて考えられないよなぁ……)
その恩恵を受けられなかった過去の時代の人たちに憐れみに似た感情さえ覚えてしまう。
「……では姫神ちゃん、シビュラシステムについて簡単に説明できますか?」
ぼーっとしている間に話が進んでいたようで、指名された姫神は迷うことなくさらさらと言う。
「シビュラシステムとは。包括的生涯福祉支援システム。
サイマティックスキャンによって人間の生体力場を読み取り。サイコパスとして数値化する。
対象の職業適性を示すことで。その人が最も幸福で充実した生き方ができるよう導いてくれる」
「その通りなのです、流石姫神ちゃん!!」
「以前は雇用すら不安定で問題になったりしていたのですよね?
仕事が見つからないなんて、今では信じられないの一言だけど。
そもそもそんなことになったら色相が濁っちゃうわよね」
仕事などシビュラが適切なものを選んでくれる。見つからないことなど絶対に起こらない。
しかし、やはり昔はそんな時代があったらしい。
シビュラ導入以前など経験しているはずのない上条には分からないし、絶対にそんな時代など経験もしたくなかった。
「それに対する不満が色々なデモとかの形で表れていたらしいぜい。
デモとかそういうのは今じゃ可能性として排除されてるっていうのににゃー。
きっと今そんなことになったら全員潜在犯で片っ端から施設送りですたい」
「ですねー。やはりシビュラ導入以前は仕事が見つからず就職ができなくなって路頭に迷ったり、ホームレスなんて問題があったりもしたのですー。
しかしこれによって誰もが幸せになることができるようになりましたし、雇用も約束されたのです。治安も劇的に改善されました。
誰もが最も自分に合った道に進み、その先で幸せを掴むことができる。
シビュラシステムによって、ついに今私たちが生きているような理想の社会が実現したわけなのです」
小萌は人差し指をぴんと立て、にこりと笑った。
「『成しうる者が為すべきを為す。これこそシビュラが人類にもたらした恩寵である』、なのですよー」
――――――――――
初春飾利は目の前のモニターを眺めてため息をついていた。
「やっぱり見つかりませんね……」
「チッ。どうやってかは分かりませんがスキャナを潜り抜けて行動しているようですわね。
エリアストレスの上昇もなし、か。……ですがどこにいようと必ず炙り出してやりますわ。
今のこの時代に殺人など、ふざけた真似をしでかす輩がいるとは」
そう呟く白井黒子の目は決意の炎に燃えていた。
先日発生した一件の事件。一人の男性が何者かに殺害されたのだ。
「聞いた話では、昔は出かける時にはみんなわざわざ玄関に鍵をかけたりしていたらしいですよ?
今となっては道行く人は街頭スキャナの色相検査をパスしている、クリアなサイコパスの持ち主であることが証明されているのに。
それと比べると随分と世紀末な時代だったんだなぁというか、なんというかって感じですよね」
「そもそもサイコパスの色相検査と犯罪係数の測定がありますし。
危険人物を潜在犯として、実際に犯行に及ぶ前に発見し社会から隔離・治療・排除することで未然に犯行を防げるんですもの。
……シビュラシステム統治で犯罪率が劇的に低下した今、こんな派手な殺人をやらかすお馬鹿さんなど絶滅危惧種もいいところということですわね」
サイマティックスキャンというシビュラシステムによって実現された技術。
魂の秘密を解き明かすに至った科学の叡智で心の在り様を明らかにし、対象の反社会性や攻撃性などを『犯罪係数』として数値化するもの。
人間の心理的傾向は全て数値化され管理され、人々は個人の魂の判定基準となったその測定値を『サイコパス』の俗称で呼び習わした。
サイコパスの色相は簡単にチェックできる。街中に設置されている街頭スキャナも、この色相を測るものだ。
ストレスの度合いなど単純なものを計る際のパロメーターとなる。
これに対して犯罪係数はより深く人間の心理状態を計測・数値化したものであり、高度な処理能力が必要とされるため、街頭スキャナ程度では計測できない。
この数値が基準値をオーバーしていると『潜在犯』と判断され、犯罪に走る可能性が高い者として更正施設へと送られるのだ。
そしてこの犯罪係数を計測することができるものは一つだけ。
「……犯人がどんな手を使っていようとも、ドミネーターは誤魔化せませんわ。
絶対に見つけ出してドミネーターの銃口を突きつけ、シビュラの下の裁きを受けさせてやりますの」
「とは言っても、私たち学生の風紀委員なんて下っ端も下っ端、最下層ですよ?
ドミネーターなんて触れもしませんよ。あれを持てるのは警備員からシビュラの選抜を受けた一握りの人だけじゃないですか。
そもそも私たちには権限がないのでドミネーターを持ったとしてもユーザー認証が通りませんし」
初春が軽い調子で言うと白井はそんなこと分かってますの、とその頭を軽く叩く。
あうー、とぼやく初春だったがやがてその表情を真剣な顔つきへと変えていく。
「それにしても、ですよ。……あの情報は一体どういうことなんでしょうか。
ましてやドミネーターを使用したなんて……」
その言葉に白井はぴくりと反応し、不快そうにため息をついた。
「それを知りたいから、こうして独断専行で事件を調べてるのでしょうに」
「でもまさか、何かの間違いですよね」
「当たり前ですの。そんなことはわたくしたちが一番分かっているはずですわ」
初春飾利はすっと目を細め、何の手がかりも映していないモニターを見つめて呟く。
「御坂さん……」
「……お姉様」
御坂美琴。その少女はメンタル美人と評判で。
具体的には、生まれてからほとんどサイコパスを曇らせることなくクリアに保ち続けている少女だった。
――――――――――
『エリアストレス上昇警報。エリアストレス上昇警報――――』
「急げカミやん!! もう時間がないぞ!!」
「あいつ……っ!!」
上条と土御門は走っていた。
学園都市に侵入した正体不明の魔術師。
おそらくその魔術師が何かしたのだろう、エリアストレスが発生していた。
「一体、どうやって、侵入したっていうんだよっ!?」
「だから、そこら辺を色々と、知る必要がある!! あいつが、この街の追っ手に、始末される前にな!!」
あり得ないことだった。シビュラに守られたこの街の警備は尋常ではない。
ステイル=マグヌスや神裂火織など、一部の人間は上層部との協定に基づいて出入りすることもあるようだった。
しかし、侵入。それはこの街の意思に反して強引に立ち入ることを意味する。
仮に侵入できたとしても、その先で侵入者を待っているのはドミネーターの銃口だ。
学園都市に侵入している時点で間違いなく犯罪係数は100を超える。そうなればパラライザーが起動し、捕縛される。
300を超えればエリミネーター。更正不能とされ社会から排除される。
そしてドミネーターは、レベル5だろうと何だろうと、『聖人』のような魔術的特殊性を持つ存在をも一撃で粉砕するのだ。
だから、土御門が心配しているのは謎の魔術師が学園都市を害すことだけではなかった。
そいつがシビュラを揺るがす可能性だけでなく、何の情報も得られないままそいつが学園都市に始末されてしまうことを。
少なくとも表向きには誰にも気付かれずに学園都市に潜入した手腕。
ここにきて分かりやすく騒ぎを起こしたのも何か策があってのことに違いないだろう。
只者ではないことはもはや疑いなかった。
この街の上層部と、イギリス清教の二重スパイをしている土御門としては看過できない。
可能な限りの情報を得る必要があった。まして学園都市側にも何やら不穏な動きがある。
しかし何より問題なのは、
「まだ禁書目録には連絡がつかないのか!?」
「さっきから連絡してるけど、全然出ねぇ!!
クソッ、まさか本当にインデックスが目的だったってのか!?」
インデックス。その消息が不明なことだった。
今ではどうやって出会ったのかも分からない少女だが、上条には大切な存在だった。
(――――待て、よ)
上条は一つの疑問を感じた。
その奇妙さに気付いてしまった。
(……インデックスは、前の俺と初めて会った時。どうやって学園都市に入り込んだんだ――――?)
――――――――――
「……」
白い修道服を纏った少女は、自身に向けられた水色の光を静かに見つめていた。
『犯罪係数、137。執行対象です。執行モード、ノンリーサル・パラライザー。
慎重に標準を定め、対象を制圧してください』
ドミネーターが静かに変形を始める。
社会に害悪を与え得ると判断した障害を排除せんがために。
「……絶対なんて、この世にないんだよ。全能者のパラドクスも解決できてないくせに」
水色の光が輝く。その無機質な銃口を正面から受け止めて、インデックスは冷たく一言だけ告げた。
『対象の脅威判定が更新されました。犯罪係数、オーバー300。執行対象です。
執行モード、リーサル・エリミネーター。慎重に標準を定め、対象を排除してください』
ドミネーターが再び変形する。今度は先ほどとは違う、より凶悪で凶暴な姿へと。
先ほどまでとは違う明確な殺意を秘めた兵器。インデックスは臆しない。
「シビュラ、あなたの答えを聞きましょう」
その者が一つ問いかける。
果たして今の問いが関係しているのかしていないのか、ドミネーターから再び平坦な音声が流れ始めた。
『対象の脅威判定が更新されました。犯罪係数、アンダー40。執行対象ではありません。トリガーをロックします』
ドミネーターは三度変形し、そしてそれきり沈黙してしまった。
僅かな静寂が訪れる。両者に動きはなかった。
少しして、その者は納得したように天を仰ぎ呟いた。
「……これが、あなたの色、か。ではシビュラ。あなたは果たして何色か――――?」
――――――――――
「……滝壺は、どうした」
浜面仕上が歯を食いしばりながら問うと、目の前の少女は僅かに口元を歪めた。
「彼女のサイコパスは随分とダメージを受けていたみたいだけど。
今すぐセラピーを受けて療養するっていうのならともかく、まだ少しでも無理をするようなら潜在犯になっちゃうわよ?」
「滝壺に何をしたのかって聞いてんだよこのクソ野郎がっ!!」
「何もしてないってば。私たちは別にあなたのことを敵だとは思ってないんだよ?」
「なんだと……?」
ドレスの女の予想外の言葉に浜面の動きが止まる。
その言葉に隠された真意を探ろうとしていると、空間を切り裂いて一人の少女が現れた。
「浜面さん、滝壺さんは無事ですわ。ご安心くださいな」
「……そうか、すまねぇ」
白井黒子は簡潔に報告するとキッと目の前の女を睨み付ける。
ようやく掴んだ尻尾。この女には聞きたいことが山ほどあった。
通信越しには初春も待機している。会話の全てを記録するためだった。
「あなたたちはこの社会をどう思う?」
「は?」
しかし意外にも口火を切ったのはドレスの女だった。
想定外の質問を受けた二人は戸惑うように顔を固める。
女は机に隅に腰掛け、足をぶらぶらと揺らしながら世間話でもするかのように言う。
「社会を管理しているのはシビュラシステム。犯罪率は劇的に低下、能力に応じた進路、雇用の約束、幸福の確約。
これこそが実現された理想社会である、ね。なんて素晴らしいシステム。なんて素晴らしい社会」
ドレスの少女は楽しげに話し、唐突に苦虫を噛み潰したかのような表情へと変わる。
「――反吐が出るわ」
「な、ん……?」
「あなた、一体何を……?」
「私たちはね」
ドレスの女はぶらぶらさせていた足を止め、真剣な面持ちで浜面と白井を見つめる。
ただの口八丁でも誤魔化しでもない。彼女の本心なのが嫌でも伝わってきた。
「ただ当たり前に生きたい、それだけなのよ」
「……だったらどうしてこんなことやってんだ。
普通に生きてりゃ最低限の暮らしは確実に約束されてるだろ。
シビュラがなかったら俺たちはどれだけ苦しい生活を強いられてたか分からねぇんだぞ?」
「そうね。でもシビュラが提供するのはただ心臓が動いているだけの空っぽの生。
画一的な幸福の押し付けなんていらない。競争があったっていいじゃない。
自分の頭で考えて、自分で決めて、その責任を自分で背負って。それでこそ人間っていう生き物は『生きている』んだって、そう思わないかな?」
「……そこまでにしなさいな。これ以上続けるとあなたのサイコパスがどこまで曇るか分かりませんわよ。
今ならまだパラライザーで済むものを、悪化させてエリミネーターを起動させるつもりですの?」
白井が女の話を遮った。ここまで堂々とシビュラを否定するものなど見たことがなかった。
改めて白井は思う。この女は異常だ。社会から隔離されるべき特異であると。
「ああ、濁るぜ。そういう風になっているんだからな」
背後から、声がした。
「「っ!?」」
浜面と白井が同時に振り返る。長身の男がいた。
くすんだ茶に近い金髪に高級ブランドで固められた服装、非常に整った顔立ち。
それでいて全身から重苦しいプレッシャーを放っている一人の男。
一体いつからそこにいたのか。それを二人は全く把握できなかった。
「知っているか。昔は『歴史』っつうのは必修に近い学問だったらしいぜ」
『歴史、が……?』
今まで黙っていた初春の声が通信越しに漏れる。
歴史など改めて学ぶ必要性が分からない。それは浜面と白井も同様だった。
誰も興味を持たない事柄。それが歴史、過去だった。
「より良い社会を築くため、過去の過ちに学ぶためだ。
ところが今では既に完成されたシステムとしてシビュラシステムが君臨している。これがどういうことか分かるか?」
「……?」
分からない。この二人が何を話し、何を見ているのか。
聞いてはいけない、深入りしてはならない気がした。
でなければ底なしの沼に沈み込んでいくような感覚を覚えた。
「……過去の人たちが何を思い、何を目指して、どんな努力をして社会を構築し、運営してきたか。
そこの彼が言ったように、その理念や過ちの繰り返しを流れとして捉えることができれば。
将来的にどのような世界が訪れるべきなのか、その理想を思い浮かべることができるよね」
『……言っていることは、何となく分かります。そしてそれがシビュラだったんじゃないですか……!!』
初春の声は何故か震えていた。きっと浜面や白井と同じ。
何か聞いてはいけないことを聞いてしまったような、そんな感覚に陥っているのだろう。
「完成された社会、制度の最終形態っつうご立派な触れ込みで、な」
「だから、なんだって言うんだ。実際、シビュラの導入でどれだけの人間が救われたと思ってる。
単に幸せだって話だけじゃねぇ、犯罪係数の測定によって罪を犯さずに済んだ奴、その犠牲にならずに済んだ奴が大勢いるんだぞ……!!」
思わず浜面が声を荒げた。それはシビュラシステムの恩恵の一つ。
対象の魂の在り様を計測し心理的傾向を数値化することで、将来的に凶行に走る可能性のある潜在犯を特定する。
そうすれば迅速に社会から隔離することができる。これによってどれほどの犯行が未然に防がれたことか。
『あなたたちの言う社会は、シビュラ導入以前のような社会ですよね?
それが駄目だったからシビュラが生まれたんじゃないですか……!! それが嫌だったからシビュラがみんなに必要とされたんじゃないですか!!
雇用すら不安定で、明日人生がどう転がるか分からなくて、サイマティックスキャンもないから外を歩けばいつ誰に刺されるかもしれない。
幸せになれるかどうかなんて色んな要素に左右される運任せで……。そんな社会の方が良いなんて、本気で言うつもりですか!?』
「別に俺たちだってシビュラの運営する社会に良いところが一つもねぇとまでは言わねぇよ。
だが、今のこの社会ではシビュラが文字通り正義であり法だ。刑罰も裁判もとっくになくなってるわけだしな。
更に正しい社会の姿を描くことなんて妄言以外の何者にもなり得ない」
これ以上は危険だと直感する。防衛本能のようなものが働き始める。
「そしてそんなことを考える奴は色相検査にひっかかって潜在犯として施設送り。
さっきの歴史の話にしたってそうだ。調べて出てくる資料は全て、現状の社会の成立の必然性を保証するものだけなんだよ。
他の制度や思想が成り立っていたかもしれない可能性なんてのは残らず抹殺されちまってる。
可能性の封殺ってヤツだ。ただポンと渡されて、それ以上良いものなんてないから他を見るな、それで満足しろって言われてるのさ」
「……黙りなさいな」
白井の身体は震えていた。
もう聞きたくなかった。考えたくなかった。
「そもそも公開されているシビュラの基本仕様が全て真実だっていう確証はあるの?」
『何を、言って……』
「おかしいんじゃねぇか? なら聞くけどよ。
レベル5だろうと何だろうとお構いなしに粉砕するドミネーター。
あれはどういう仕組みなんだ? 何をどう撃ち出せばそんな芸当ができる? ドミネーターってのは、何なんだ?」
「そ、れは……」
浜面は答えられなかった。考えたこともない。考える必要がなかった。
そして男は決定的な言葉を放つ。
「――――シビュラシステムとは何なんだ? その正体は、何なんだ?
俺は知りたいんだよ。それは果たしてどれほど価値のあるものなのか。
そしてその上で……ぶっ壊す。気に入らねぇんだよ」
「もう、やめてくださいなッ!! これ以上は……っ、これ以上は……。
わたくしたちのサイコパスまで、曇ってしまいますわ……っ!!」
耳を塞ぐ白井。絶句している初春。立ち尽くしている浜面。
突然別世界に放り込まれたような感覚。そしてその表現はあながち間違ったものでもないのだろう。
「……そうね、それが当然の反応。私たちが生まれる遥か以前からシビュラは君臨していたもの。
生まれた時から当然のようにあって、そんな社会で育ってきたんだから。
それは1+1の答えを疑うくらいあり得ないことなのかもしれないけど、でも、疑いを持ってしまった人もいた。それが私たち」
ドレスの女は腰掛けていた机から降り、ゆっくりと二人に歩み寄っていく。
「与えられたものだけが全てだと信じて、ただ言われるがまま指示されたことだけに従い続けて、何の疑問も抱かない。
冗談じゃない。私たちの人生は私たちが決める。シビュラなんかに決めさせない。
あなたたちはそれでいいの? そんな空っぽの生で『生きている』って言えるの? そんな人生に価値があるのかな?」
白井と浜面は逃げるように後退するしかなかった。
「別にいきなり私たちに同意しろなんて言わないし不可能だけど。
でも、今あなたたちは私たちの話を聞いて、見たこともない可能性と相対した。
それでも何も、少しも思うことがないって言うなら。まだ盲目的にシビュラを絶対と言うなら」
女は不快さを僅かに滲ませて告げる。
「おかしいのはあなたたちの方よ。そこの風紀委員の彼女は以前に私たちを異常だと言ったけれど。
――――シビュラ(あんなもの)にまだ従っていられる方が、どうかしているわ」
彼らが。
そう長くはない人生の中でこつこつと積み上げてきたもの全てが。
音をたてて崩れていくのを、感じていた。
「シビュラはこの社会を管理している。だったらアレイスターの野郎と絶対に繋がっているはずだ。
あの野郎のプランとシビュラは密接に関係してやがる。
であればシビュラをぶっ壊すことは、同時にアレイスターに迫る一手にもなる――」
アレイスターという言葉が誰を指しているのかは分からなかった。
もう今は何も知りたくなかった。そして。
『携帯型心理診断・鎮圧執行システム「ドミネーター」、起動しました。
ユーザー認証。使用許諾確認、適正ユーザーです』
そして、その祈りが通じたのか、それは現れた。
「――――そこまでにしてもらおうかしら、垣根帝督」
いつの間にか。
男の背後に水色に光る銃を突きつけている少女がいた。
「だとしても、それでアンタたちのしていることが正当化されるわけじゃない」
機械音声が静かに空間に満ちていく。
『犯罪係数、アンダー300。執行対象です。執行モード、ノンリーサル・パラライザー。
慎重に標準を定め、対象を制圧してください』
「おっと。意外なところで出てきてくれたもんだ」
その少女の姿には見覚えがあった。
あれはどこからどう見ても。
「お姉、様……?」
何故御坂美琴がここにいるのか。
何故御坂美琴がドミネーターを所有し、使用できているのか。
あの事件の時の情報は正しかったのか。あの事件は御坂美琴が犯人だったのか。
彼女の表情からは何一つとして窺い知れなかった。
――――――――――
その時。上条当麻もまた異常な現実に直面していた。
ようやく追い詰めたのだ。その魔術師は片手に意識のないインデックスを抱えていた。
やはり目的はインデックスだったのだろうか。
「……な、ん……で……?」
しかし問題はそれだけではなかった。
こつ、こつ、こつ、と小さな音をたててそれは歩いてきた。
その魔術師へとドミネーターの銃口を向けて。
「……その子を返しなさい。その子はシビュラの……」
見知った少女だった。御坂美琴。
何故御坂美琴がここにいるのか。
何故御坂美琴がドミネーターを所有し、使用できているのか。
上条の中で激しく渦巻く疑問を無視し、魔術師は冷たく笑う。
しかしその目だけは全く笑っていなかった。
「愉快だな」
そう言って、ただ笑う。
「お前も、この魔道書図書館も。そこの幻想殺しも」
ゾッとするものが背筋を這い上がった。
それでも上条は怯むわけにはいかなかった。
「お前は、誰だ。……インデックスから、手を離せ!!」
魔術師の返答はなかった。
少女がドミネーターを改めて突きつけると、銃身が水色の輝きを増していく。
そして音声が流れた。
『犯罪係数、0。執行対象ではありません。トリガーをロックします』
そんな無慈悲な音声が。
「「なっ――――!?」」
二人は同時に息を呑み絶句する。
ドミネーターが脅威と認定しなかった。
この社会に対する明らかな害をシビュラが見過ごした。
「『成しうる者が為すべきを為す。これこそシビュラが人類にもたらした恩寵である』、か」
そんな中、ただ一人。その魔術師だけが当たり前のように笑っていた。
ゆっくりとその右手を掲げて挑みかかるように問う。
「さあ、シビュラ。お前に俺様が裁けるか―――?」
――――――――――
そして。学園都市にもう一人、静かに笑う者がいた。
「非人間的システムの否定、人間的システムの肯定。まあ、大いに良しとしよう」
そして『人間』はゆったりと笑みを形作る。
「しかし。君たちはシビュラの本当の形をまるで理解していないよ」
終わりです
今はあまり使われてないみたいですがこういう時このスレあると助かりますね
以前自分のSSスレで書いた物を焼き直した物、一発ネタ。
2、3レスお借りします。
コトッ……
(テーブルの上にはユーロ札束とテッラの切断された右腕が置かれる)
アックア「女王さま。うちの若ぇもんがとんでもないことしちまって、失礼しました。今日んところは、これで許しちゃ貰えませんか?」
ローラ「マタイはどうしたんだよ」
アックア「?」
ローラ「こんなはした金と雑魚の死体持って来やがって何が詫びだコノヤロー!」
アックア「教皇(オヤジ)が国際会議でこれねぇんだよ」
ローラ「おめぇが教皇の代わりかよ」
アックア「俺だって神の右席やらせてもらってんだ。今日のところは俺の顔立てて、これ納めてくれや」
騎士団長「なに言ってんだコノヤロー! 教皇代理なら若いもんの責任取っててめぇが右腕詰めろ!」
アックア「こんなつまらねぇことで俺の腕詰めれるか!」
ローラ「こんなつまらねぇことだとコノヤロー? てめぇら英国に喧嘩吹っ掛けといてつまらねぇとはなんだ……? 舐めてんのかコラァッ!」
アックア「そうは言ってねぇよ」
ローラ「言ってんじゃねぇか!」
アックア「悪かったよ」
五和「わりぃと思ってんなら腕詰めろや!」
シルヴィア「舐めてんのかコノヤロー!」
神裂「やれや!」
オルソラ「ぐずぐず言ってんじゃねぇぞ!」
ステイル「早くやれよ!」
シェリー「ビビってんじゃねーぞ!」
(中央に座っていた女王も腕の切断を促す動作)
アックア「(ブチッ)やってやっから道具持ってこいコノヤロー!」
ドン!(テーブルの上にカーテナ・セカンド)
レッサー「てめぇなんかこれで良いからやってみろや!」
アックア「なんだてめぇまで調子乗りやがってコノヤロー、こんなもんで腕詰められるわけねぇだろ!」
香焼「なんだできねぇのかコノヤロー! 早くやれよ!」
アックア「こんなもんじゃできねぇっつってんだよコノヤロー! まともな道具出せコラァ!」
ローラ「何が道具だ偉そうに言いやがってコノヤロー、これでやってみろよ!」
バン!(テーブルを叩く)
アックア「やってやるよコノヤロー!」
(アックア、右肩に剣を押し当てるも刃が付いてないので全く切れない。それでも力が強いので次第に血が滲む)
アックア「ぐぁーっ! か〜痛えっ!」
ローラ「なんだできないのかコノヤロー!」
バン!(結局あきらめる)
アックア「(一応)兄弟なんか言ってっけどなぁ、うちの教皇(オヤジ)がその気になったら、てめぇらみてぇなちっぽけな国、踏み潰してやるからなコノヤロー!」
騎士団長「おい! バチカンがブリテンより強ぇのかよ、頭おかしいんじゃねぇかおめぇ!」
アックア「頭おかしいのはてめぇらの方だろうが!」
スパッ、スパッ!
(女王、突然アックアの顔を持っていたカーテナ・オリジナルの欠片で切りつける)
エリザード「カッコつけてんじゃねぇコノヤロー!」
(顔を抑えて悶絶するアックア。後ろで震えていたシスター・アニェーゼ、堪らず逃げ出そうとするが女王に呼び止められる)
エリザード「おい」
アニェーゼ「ヒィッ!?」
エリザード「この馬鹿連れてけ」
アニェーゼ「ハ、ハィ・・・」
(シスター・アニェーゼ、周りの騎士に押し戻された後、アックアを支えながら改めて退出)
以上です。ありがとうございました
数レス借ります
上条「ドーモ。陣内忍サン。上条当麻です」
忍「アイエエエエエエ!?上条!?上条ナンデ!?」
上条「忍殺すべし、慈悲はない」
忍「アイエエエエエエ!?」
「待て!!」
上条「ム!?その声は!」
忍「オ、オマエは!?」
クウェンサー「ドーモ。陣内忍サン。クウェンサー=バーボタージュです」
忍「もしかして助けに?」
クウェンサー「ブルジュア死すべし、慈悲はない」
忍「アイエエエエエエ!?」
「待て!!」
クウェンサー「ム!?」
忍「お、お前はヘヴィーオブジェクトのもう一人の主人公、ヘイヴィア=ウィンチェル!!」
ヘイヴィア「YES I AM!」
忍「まさかお前も俺を殺しに!?」
ヘイヴィア「バカ違えよ!お前を妬んでいるアイツらからお前を助けにきてやったんだ!」
忍「本当か!?助けてくれるのか!?」
ヘイヴィア「任せときな!この超絶イケメンパーフェクト軍人のヘイヴィア様が来たからには、素人どもなんてすぐに蹴散らして」
ドカ―――――ン!!!!!!
忍「へ、ヘイヴィアアアアア!!?」
クウェンサー「ヘイヴィアどいて、ソイツ殺せない」
忍「お、お前!仲間を問答無用で爆殺するなんてそれでも主人公か!?」
クウェンサー「大丈夫、ヘイヴィアはあれぐらいじゃ死なないから」
上条「見てくださいよクウェンサーさん、このインテリビレッジの座敷童9巻の裏表紙」
クウェンサー「ぺっ!唾液が蜂蜜になりますね」
上条「さらにこの一章でのイチャつきっぷり」
クウェンサー「自分砂糖吐いてもいいすか?」
上条「やはり許せん!」
上条クウェ「「リア充死すべし、慈悲はない」」
忍「アイエエエエエエ!?」
上条「その忍をぶち殺す!その忍をぶち殺す!!その忍をぶち殺す!!!」
忍「絶体絶命のピンチ!?最終巻を迎えたのに死んでたまるか!こうなったら……」
忍「助けてー!縁ー!!」
クウェンサー「あっ!それは卑怯!!」
ドカッ!バキッ!ガスッ!
チョッ!ブツリムコウノアイテニドウヤッテタタカエト!?
ガン!ゴン!グシャァ!!
ギャアアアアアアアアアア!!
・
・
・
城山「……」
城山「インテリビレッジの座敷童完結おめでとうございます」
おわり
以上です。ありがとうございました
9レスほどいただきます。
タイトル「全員覚醒」で。
「なんだこれぇぇぇぇぇぇ!!!??」
上条は、今時分が見ているものが信じられなかった。
いつも寝ている風呂場で目が覚めた。そこまではいい。
右手が、龍の頭になっていた。
……カフカもびっくりだ。
具体的には、右手首から先が爆発的に広がっていて、鱗がついて頭の根元に繋がっている。
境目が半漁人の肌っぽくてグロい。
とりあえず眠ったように目を閉じているが、なんか呼吸音がするような……。
(いやいやいやこれはねーだろこれでも今までいろいろ経験してきた上条さんはたいがいのことには驚かないですけどちょっとこれはホントないっていうかこれどうすればいいのかってもう右手でジャンケンできねえよいやそれ以前に生活できねえよ俺がなにしたっていうんだよ)
混乱のあまり声を出すのも忘れる上条。
戦うときはともかく、日常生活において利き腕の右手を欠くのはあまりにも痛すぎる。
ちなみに、今の右手(?)でもグーとチョキは出せるだろう。
どうでもいいことだが。
あまりにも非現実的な右手の状況を前にして、混乱した頭を振りながら半狂乱一歩手前で風呂場を飛び出す上条を、見知った顔が出迎えた。
『おはようございます、上条当麻』
……これ以上ないほど顔は見知っていたが、纏う雰囲気も、口調も何から何まで違う。
何より、浮いてる。
「なああああああああああああああああああああああああああああ!!!!????」
『近所迷惑です。速やかに口を閉じることを提案します』
上条はこんなインデックス、いままで見たことがない。
……何かが心のどこかに引っかかっている気もしたが、今はそんなもの二の次、三の次だ。
『警告。栄養失調、飢餓、衰弱等の危険が迫っています。
この危機的状況が解決されなければ、危険回避のため10万三千冊の魔道書から該当する魔術を使用し――』
「まってまってまって!突っ込みどころが多すぎる!
お前そのゲーム最終盤のボスキャラで出てきてもおかしくなさそうなモードなんなの!?
というか魔術使えんのかよ!?そして空腹を抑える魔術なんてあっちゃったりするんですか!?
なによりかによりとりあえず、いつものインデックスはどうした!?」
『何を言っているか不明ですが、現在、主人格のインデックスは、自らの意思で自動書記を起動し、また制御しています。
それよりも上条当麻、家主としての義務を果たして差し迫った危険に対する解決策を提示することが必要です。
――――お腹が空きました。朝食はまだでしょうか』
「…………相変わらずそれかよ」
「まったく、騒がしいなお前らは」
驚天動地の中、声につられて上条がそちらを見ると、ベッドにオティヌスが座っていた。
いつもの彼女は注意を払わないとこの狭い学生寮でも見つけるのが難しい。
なにしろ大きさが大きさだ。
しかし今日に限っては、オティヌスを見つけるのはあまりにも簡単だった。
……とんがり帽子を被った人間大のサイズの彼女が、片手にバカでかいグングニルまで持っているからだ。
「オティちゃんんんんん!!!???」
もはや空いた口がふさがらない上条。
目の前の彼女はどこか得意気な顔をしているが、この状況でインデックスといいなんで二人とも余裕があるというのか。
この状況を仕組んだ誰かがいるなら、そいつに今すぐでてきてほしいという上条の切実な願いに答え、オティヌスが解説を始めた。
「お前が混乱するのは分かっている。
妖精化で力を失ったはずの私が力を取戻し、あまつさえコイツ<グングニル>まで所持しているんだからな。
こんなことは現実にありえない。
ただ、ここにいる私にとってはこれは当然のことだ。疑問を挟む余地すらない」
「お前にはこの状況がわかっているっていうのか!?」
「お前が眠りから目覚めてからありえない状況の連続だ。
だがそもそも、お前は本当に目覚めているのか?
人間は魔術なんぞ使わなくても、そいつの脳内の電気信号の働き次第でなんでも見たり感じたりすることができる。
――よく考えてみろ、今のお前は本当に『覚醒』しているのか?」
「……つまり?」
「これはお前の夢だ」
あっはっはー夢なのか。そいつは安心だ。
(いや、安心……なのか?)
上条のうろ覚えの知識によれば、夢はその人の深層心理を表すのではなかったろうか。
であれば、この状況が上条が望んでいることだと?
(そんなわけねえ。
確かに、右手のことを詳しく知りたいと思ったことはあったよ?
だけど、右手に龍の頭ぶら下げて歩きたいなんて思ったことはありませんのことよ!
というか、なんでオティヌスやインデックスまで変に進化しちゃってるんですか!?)
夢の中というならと、ありあわせの朝食を置いてとりあえず外に出てみた上条は、ぐるぐる回る考えを落ち着かせようとしながらさ迷っていた。
結論。これは夢だ。
道中、上条はそう思わざるをえない……というかそう思いたくなるようなものを度々見かけた。
それは真っ白な翼を生やして頭の上に輪っかが浮かんでいる学園都市第1位や、それに付き添う「ミサカはミサカは~」という語尾が特徴のどこかで見た顔のアダルトボディの美人さんだったり。
あるいは背中から天まで届かんとするほどの長さの翼を何枚も生やした学園都市第2位が妹達もびっくりな数で行進していたり。
途中、お前はどこの特撮ヒーローものだと言いたくなる格好をしたライダー浜面が、時速1000kmで逃げようとしてどうみてもレベル5以上のテレポート能力を持った怖そうなお姉さんに捕まっていた。
その近くでは千手観音の如く背中から手を生やした目つきの悪いちびっ子が際どい格好をしたちびっ子を追い回し、ジャージ姿の浜面の彼女が美琴の友達とかいう黒髪ロングの女の子に何かして、その女の子が「やった!遂に私も能力者、しかもレベル5!」などと快哉を上げていた。
いったいどういう繋がりだ?繋げる力を持った上条にもわけが分からない。
あるいは、うんざりした顔をした上里が女の子に数十人単位でまとわりつかれながら歩いていたり。
止めに、魔神連合が当たり前のような顔をして歩いていたのはどうしようもなさすぎて言葉もない。
見つかってしまったから逃げる間もなく覚悟を決めたら、皆やたらと友好的でネフテュスには抱きしめられた。役得と言わざるをえない。
風斬にも会った。光り輝き、一方通行のように翼を生やして頭の上に輪っかがあったが、事情を聞いても本人は何も変わった事がないと言う。
インデックスのことを話すと、遊びに行くと言って一度頭を下げてから、嬉しそうなをしながら男子寮まで飛んでいった。癒される。マジ天使。
もはやトラウマになっている堕天使エロメイド姿で会いに来た神裂と、「あの子を傷つけたら僕のミリオンイノケンティウスが黙っていないよ」とかのたまったステイルとは大違いだ。
「……?」
上条はいつの間にか、いつもの公園にたどり着いていたらしい。
夢にしたって行き過ぎな情報量を抱えて、考え事をしている内にフラフラ入ってきてしまったのだろう。
そこで、見慣れた常盤台の制服姿を見かけた。
「……お前もかよ」
薄い羽衣のような翼をまとい、パリパリと電流を迸らせている御坂美琴がそこにいた。
まるで雷神のような姿。あの形態は見覚えがある。
おっかなびっくり近づくと、こっちを向いて片手をひらひらと振った。
「おっす、格好いい右手ね」
「……あのときと違って口がきけて良かったよ」
「? 何言ってんのよ」
近くで見ると髪が逆立ち、角のようなものも生えているが、当人はまったく気にしていないらしい。
他の奴らと一緒で、自分が今こうなっているのは何もおかしくないといった感じだ。
オティヌスだけが例外だったが、あれはまあ上条に対する解説役で特別なのだろう。
上条もいつの間にかオティヌスを解説キャラとして位置づけてしまっていたらしい。
「まあいいけどさ、その右手を振るうときはちゃんと声かけなさいよー。
一人で突っ走ったりしないで、たまには周りの奴に力を借りなさい。
その、例えば、私とか」
「……『今の』お前なら、大抵の奴には勝てるだろうしな」
「だから単純な武力なら、アンタより私の方がって言ってんでしょ」
両腰を手に当てて心なしか胸を張る美琴。……の額から、にょっきりと大きな角が出てきた。
ぎょっとする上条に美琴は気付いていない。額の角は真ん中の辺りが大きく膨らんで中に目のような黒点が出現し、代わりに美琴の目がやや閉じられた。
「え、えーと、御坂さん?」
「何よ。言っとくけど、アンタに私が負け越してるってのは重々承知だからね。
それでも、適材適所ってもんがある。
……ううん、たとえそうでなくたって、私はアンタの力になりたいの」
この変化は美琴のテンションに連動しているのだろうか。
わからないが、ひょっとしてこのまま行くと――
「嬉しい!凄く嬉しいんだけど御坂――」
「もう私、あの時みたいにアンタに置いてかれたり、見送ることしかできないのはイヤなのよ」
口調こそ抑え目で、表情も分かりづらくなってきたが、間違いなく美琴の心がヒートしているのが上条にも分かる。なぜなら。
美琴の手足が伸びて長い翼と鳥の脚のようになり、身体全体が光り始めた。
果たして本人は、身体の変化に気付いているのかいないのか。
「御坂さん、御坂さん、ちょっと落ち着こう!?
お前には散々世話になってるし、色んな奴を助けてきたんだろ!?」
「でも私、アンタに助けられてばっかりで、妹達のことだって――」
「美琴!!」
今やその手足は尖り始め、少しずつその顔が宇宙にも似た漆黒に染まり始めていた。
が、その変化も危ういところで止まった……ように上条には見える。
「いつかも言ったけどな、お前は俺の命の恩人だって。
その時だけじゃない、グレムリン騒動の時だってそうだ。
妹達だってお前には感謝してるんだぞ?
……いいか、お前が自分はなんの役にも立ってないお荷物だなんて大間違いなことを思っているってんなら、まずはそのふざけた幻想をぶち[ピーーー]」
なるべく刺激しないようにあくまで控えめに、しかし決め台詞まで動員して説得する上条。
美琴の表情は今や読み取れないが、その佇まいは落ち着いているように見える。
――そう思った上条は、美琴の全身が細かく震えているのに気付けなかった。
自分の台詞がどれだけ相手の心を揺さぶったのかに気付けなかった。
そしてダメ押す。
「だからあんまり悪く言うなよ、俺の(仲間として)好きなヤツのことをさ」
「す、す、好k――」
ことここに至って、上条は全身が激しく震え始めた美琴に気付いたがもう遅い。
いきなり巨大な漆黒の球体が美琴の頭の上に現れた。
「み、御坂さん?まさかと思うけどこれはもしや――!?」
「ふ、ふ、ふ、ふ……」
「くっ!!」
上条は今やロケットパンチよりも使い方がわからない眠ったままの右手を無理やり振りかざす。
これは間違いなく御坂の「アレ」だ。
だが、上条の想像通りなら。
そんなラブコメチックなノリで世界を滅ぼされてはたまらないっっ……!!
球体が爆発する寸前ように激しく渦巻く。
かくして上条は日常シーンでシリアスな笑いを取るキャラのごとく、一人バトルシーン並のテンションで叫んだ。
「ふにゃーー」
「ドラゴンストライクゥゥゥゥゥ!!!」
「ん……?」
ぼやけた視界と霞が掛かった頭をはっきりさせると、そこは上条家の風呂場。
上条がむくりと身体を起こす。そして、
バッッッ!!と右手をみると、…………そこにあったのは普通の右手だった。
「よかっっったぁぁぁぁあああ……………」
上条は深く深くため息を吐いた。
そりゃそうだ。誰が好き好んであんな右手を振りまわして生活していかなきゃならんのか。
(まったく、酷い夢だったなあもう)
頭を振って風呂場を出ると、そこには見慣れたシスター姿があった。
雰囲気も何もかも、いつものインデックスだ。
「おはよう、『とうま』」
「ああ、おはよ」
ほっとしながら通り過ぎようとした上条だったが、
(……ん?)
その挨拶に違和感を感じてインデックスを見つめた。
「なあ、今、なんて言った?インデックス」
「? おはよう、『とうま』、だよ。それより朝食を――」
「……なんかイントネーション違くないか?」
「え?」
「え?」
二人して首をひねっていると、ベッドの上から声が聞こえた。
「二人して何を要領の得ないことを言っているんだ」
15cmの妖精オティヌスが立っていた。これもいつもの光景だ。
「なあ、オティヌス、今インデックスが俺のこと変な風に呼ばなかったか?」
「なんだ、自分の名前すら忘れてしまったのかお前は」
オティヌスがやれやれとため息を吐く。
「顔を洗ってきた方がいいんじゃないか?
まだちゃんと『覚醒』してないようだからな
―――――――――――――――神浄討魔」
果たしてこれは、夢だろうか。
以上で終わりです。
これにて失礼します。
昨日のヴァンガードを見て思いついた予告。
――――これは1人の“天才”と言われるべき最凶のヴァンガードファイターが学園都市にやって来た話である――――
レン「うーん…ここが学園都市ですかぁ」
――――その自由さはまるで猫の様に――――
美琴「この声はまたアンタ――――って誰!?」
レン「僕は“アンタ”という名前ではありませんよー」
――――彼は学園都市で色んな人物で出会ってい――――
レン「こんにちは、ふっきー」
吹寄「ふ、ふっきー!?そのマスコットみたいな呼び名はなんなの!?」
レン「何って…あなたの愛称ですよ。いいでしょう?」
吹寄「良くないわよ!」
レン「えー。姫は良いって言ってくれましたよ?ねぇ?姫」
姫神「吹寄さんに合う良い愛称だと思うけど……それより。なんで姫?」
レン「『姫神』ですからそこから1文字とって『姫』です」
姫神「勝手すぎる……」
レン「うーん……では、こうしましょう」
レン『姫と呼んでよろしいでしょうか?』
姫神ズキュンンンンンンンン←上条と同じ声なのでハートを撃たれた
――――新たなるファイターの出会いもあり――――
佐天「あ、あの……私と付き合ってください!」
レン「はい。いいですよー」
――――魔術サイドとの出会い――――
インデックス「お腹すいたんだよ…」
レン「おやおや。それは大変ですね」
――――またレンを探すものもあらわれる――――
アサカ「レン様は一体どこにいらっしゃるの!?」
黒子(寮監と同じ声の女性……近寄らない方が賢明ですわね)
――――運命の再会をしているもの――――
キョウ「お、お前ら…どうしてここにいるんだよ!?」
枇杷島ジョー「それはこっちの台詞だぜ…キョウ」
栄生アキラ「俺達、スキルアウトとしてこの街で生きている所だ」
オルソラ「可愛い弟さんでございますね~」
キョウ「……ハァ!?なんだ、この女!?」
ジョー「…そして今は迷子のこの女の事を案内する途中だ……」
――――裏で動く者――――
垣根「PSY(サイ)クオリア?なんじゃそりゃあ?」
心理定理「話によるとカードの声を聞いてデッキの流れを読むそうよ」
垣根「ハッ!そんな能力者を捕まえて上層部は何をやらかすつもりだ?」
――――そして対峙する2人の男――――
レン「やっと会えましたね………上条当麻」
上条「あ、アンタが雀ヶ森レン……」
――――2人が出会うことで一体何が起こるのか!?――――
レン・上条「お前(あなた)の『その幻想をぶち殺す!』」
とある闘士(ファイター)の先導者(ヴァンガード)
スレ汚し失礼。
2年前から思いついていた雀ヶ森レンが学園都市にくる話。
レン=上条、アサカ=寮監、テツ=駒場、キョウ=シェリー…とAL4の全員は禁書と声優が被っている。
レンが来る流れは支部長のレンが学園都市にヴァンガードを普及しに感じでいけると思う。
予告で姫神押しなのは自分の趣味。たぶん、二人の相性は悪くないと思う。
俺が忙しくなかったら書いていたのに……残念
上の話の番外編
テツ「見つけだせ、お前だけの未来を」浜面「俺だけの未来……」
レンを心配して学園都市に来たテツが浜面に駒場だと勘違いして出会う話。
最終的にヴァンガードを通して自分の道を見つける浜面。
黒子「お姉さま~!」ラティ「ん?」
美琴を探している黒子は小さいな声を聞いてそれが美琴だと思って近づくが………それは留学生として学園都市に来ていたラティだった。
がっかりする黒子。ラティはそんな黒子に🍩を渡して「元気出して」と慰められる。
2人は御坂美琴を探すために学園都市を歩き回る!
結構絡ませそうなのに今までなかったのが残念。
ラティなんて植物を操る能力を使いそう。
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