絵里「穂乃果との約束の時間まであと5分ね」
絵里「それにしても一体何の用かしら」
花陽「あ、絵里ちゃん」
絵里「あら花陽。あなたも穂乃果に呼ばれたの?」
花陽「うん」
絵里「じゃ、ベンチに座って一緒に待ちましょうか」
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―――――――
絵里「約束の時間になったけど、穂乃果来ないわね」
花陽「うん」
絵里「人を呼びつけておいて遅れるなんていい度胸よね」
花陽「……うん」
絵里「あれから5分経ったけど、まだ来ない」
花陽「なにかあったのかな」
絵里「電話してみましょう」
プルルル プルルル ―――
絵里「出ないわ」
花陽「どうしたんだろう」
絵里「時間には遅れるし、電話にも出ない」
絵里「まったく、いい加減にして!」
花陽「ひっ!」
絵里「あ、ごめん、つい大声出しちゃった」
花陽「いえ、そんな……」
絵里「……」
絵里「ねえ花陽、前から思ってたんだけど」
花陽「なに?」
絵里「あなたって、私のこと苦手?」
花陽「え……エエエェェエ!?そそそそんなこことないよォーー!」
絵里(かなり動揺してるわ)
絵里「いいのよ別に」
絵里「私って、ほら、こんな気の強い性格だから」
絵里「あなたみたいに気立ての優しい子にはつい疎まれたりして」
花陽「そ、そんなことないよ。絵里ちゃんはわたしの憧れだもん」
絵里「ふふ、ありがと。嘘でも嬉しいわ」
花陽「嘘なんかじゃないよ」
花陽「だって絵里ちゃんは、いつも明るくて、すごく綺麗で、しっかりしてて、皆に慕われてて」
花陽「わたしにないものをいっぱい持ってるから」
花陽「だから、絵里ちゃんはわたしの憧れなの」
絵里「そう、お世辞でもうれ――」
花陽「お世辞なんかじゃないよ!」
絵里「花陽……」
花陽「それは、最初は怖い人だなって思ってた」
花陽「けど本当はとっても優しくて、いつも皆のこと考えてくれて」
花陽「わたし、そんな絵里ちゃんのことが大好きだもん!」
花陽「だから、だから……」ポロポロ
絵里「も、もう、泣くことないでしょ」
絵里「私が悪かったわ。――ほら、こっち向いて」フキフキ
花陽「ありがとう、やっぱり優しいね」
絵里「こ、このくらいは普通よ///」
花陽「えへへ」
絵里「でも、あなたの気持ち、すごく嬉しかったわ」
絵里「私も花陽のこと、大好きよ」
―――――――
花陽「穂乃果ちゃん、遅いね」
絵里「あの子が時間にルーズな子だとは思わなかったわ」
絵里「……」
花陽「……」
絵里「ねえ、花陽」
花陽「なに?」
絵里「花陽は、どうしてμ'sに入ろうって思ったの?」
花陽「え?」
絵里「私は、あなたも知っての通りだけど」
絵里「私は花陽が入った理由を知らないなーって思って」
花陽「えっと、それは」
絵里「あ、でも、言いたくないなら別にいいのよ」
花陽「小さい頃から、ずっとアイドルになりたかったの」
絵里「それで」
花陽「けど、ずっと自分に自信がなくて」
花陽「そんな時、穂乃果ちゃんたちがアイドルを始めて」
花陽「ファーストライブを見て、わたしもあの人たちの一員になりたいって思ったけど」
花陽「やっぱり自信なくて、ずっと迷ってて」
花陽「でもね、そしたら、真姫ちゃんや凛ちゃんが応援してくれて、背中を押してくれて」
花陽「やっと、メンバーにしてくださいって言えたんだ」
絵里「そう」
花陽「みんながいてくれなかったら、今のあの時間がきっとなかった」
花陽「だから、感謝してもしきれない、かな」
絵里「みんなのおかげももちろんあるけど」
絵里「1番頑張ったのは、花陽自身じゃないかな」
花陽「え?」
絵里「いくら周りに言われたからって、自分の意志じゃなければ、きっと穂乃果たちは入れなかったはずよ」
絵里「だからその時の花陽は、これまでの自分に打ち勝った」
絵里「それってきっと、なかなかできることじゃないと思うの」
花陽「絵里ちゃん……ありがとう」
花陽「でもそれを言うなら絵里ちゃんだって」
絵里「もう、私のことはいいの!」
―――――――
絵里「花陽はなんで飼育委員になったの?」
花陽「単純に動物が好きだからかな」
絵里「けどうちの学校は珍しいわよね。なにせアルパカだもん」
花陽「でも慣れちゃえばウサギとかと変わらないよ」
絵里「そうかしら。私、アルパカってどうも苦手」
花陽「まあ、唾かけられちゃ仕方ないよ」
絵里「花陽はなかったの?」
花陽「うん、全然。ふたりとも最初からとても良い子だったよ」
絵里「きっと花陽、飼育員の才能があるのよ」
花陽「そ、そうかな」
絵里「そうよ。そうでなくちゃ」
絵里「私の扱いに納得できないもの」
花陽「絵里ちゃん……」
―――――――
絵里「そういえば、こうやってベンチに座って話してると、海未とのことを思い出すなあ」
花陽「海未ちゃんと?」
絵里「ええ。まだ私がμ'sを認めてなかったころ」
絵里「海未にずいぶんと思い切ったこと言っちゃったの」
絵里「あなたたちの活動は遊びにしか見えない、ってね」
絵里「あと、A-RISEのことも素人呼ばわりしちゃったなー」
花陽「す、すごいね……」
絵里「アイドルファンの花陽の前では、最大級の禁句よね」
花陽「でも、絵里ちゃんのダンスは実際すごいし」
絵里「そんなことないわ……所詮、上の世界には通用しなかったものよ」
花陽「ご、ごめんね」
絵里「気にしないで。その代わりに、とても大事なものが手に入ったし」
花陽「え、それって――」
絵里「ふふ、秘密よ」
―――――――
花陽「――こんなかな」
絵里「ハラショー!ずいぶん上手なのね」
花陽「そんなことないと思うけど、絵を掻くの、わりと好きなんだ」
絵里「木の枝を使って地面に描くだけでこれほどの出来だもの」
絵里「きっと花陽は絵の才能もあるのよ」
花陽「もう、さっきから褒めすぎだよ」
絵里「これが穂乃果ね。ふふ、特徴がよく出てるわ」
花陽「サイドテールは欠かせないからね」
絵里「そっちもだけど、私はこの元気いっぱいな表情がよく描けてると思うの」
絵里「で、こっちは凛ね」
花陽「当たり」
絵里「ねえ花陽、私のことは描いてくれないのかしら」
花陽「ええ!?さ、さすがに本人の前で似顔絵を描くのは……」
絵里「いいじゃん、いいじゃん♪」
花陽「じゃあ、怒らないでね」
カキカキ カキカキ
花陽「――できた」
絵里「おお、さすがの出来ね」
花陽「ありがとう」
絵里「けど、私にしては妙に柔らかくて楽しそうな表情ね」
花陽「これが、みんなと一緒にいるときの絵里ちゃんで」
花陽「花陽が一番好きな絵里ちゃんだよ」
絵里「花陽……」
花陽「なんてね、えへへ」
絵里「ありがと」ギュッ
―――――――
花陽「よーしよし、よーしよし」
絵里「さすが花陽ね。犬もよく懐いてるわ」
花陽「この子、迷子かな」
絵里「首輪とリールがついてるし、多分そうよ」
花陽「飼い主さん、探しに行く?」
絵里「そうは言っても何の手掛かりもないしね」
絵里「ここは下手に動くより、もう少し様子を見てはどうかしら」
花陽「そうだね」
花陽「あ、あばれないでぇー。よーしよし」
絵里「そういえば、花陽って家で何か飼ってるの?」
花陽「ううん。本当は欲しいんだけどなかなか」
花陽「そういう意味でも絵里ちゃんが羨ましいな。ペットじゃないけど、あんな素敵な妹さんがいて」
花陽「わたし、一人っ子だから」
絵里「そうなんだ」
花陽「本当はお兄ちゃんがいると思ったけどそんなことなかったし」
絵里「それなら私も、弟がいると思ったけどそんなことなかったわ」
花陽「なんか不思議だね」
絵里「そうね」
ワンワン ダダダ
花陽「――あっ!どこ行くの!」
絵里「あの人、犬に向かって手を振ってるわ」
絵里「もしかして、飼い主?」
花陽「きっとそうだよ。あの子、嬉しそうに抱っこされてるもん」
絵里「ここで待っててよかったわね」
花陽「絵里ちゃんのおかげだよ。やっぱり絵里ちゃんはかしこいね」
絵里「や、やめてよ///」
―――――――
絵里「で、結局1時間も経ったけど」
花陽「穂乃果ちゃん、来ないね」
絵里「これは、ジュースでもおごってもらわないとね」
花陽「でも、何かあったのかもしれないし」
絵里「花陽、優しさと甘さは違うのよ」
花陽「うっ……すみません」
絵里「とはいえ、さすがにちょっと心配になってきてわ」
花陽「――あれ?あれって……」
希「おーい、えりちー、はなよちゃーん」
絵里「希、どうしたの?」
希「二人とも、穂乃果ちゃん待ってるんやろ」
絵里「ええ」
希「穂乃果ちゃんなら来ないよ」
花陽「ええ!?どうして……」
希「本人からの伝言」
希「『待ち合わせの日、明日だと勘違いしてた。ごめんなさい』。だって」
絵里「……」
花陽「……」
絵里「どうして本人が来ないのかしら」
花陽(うう……怖い絵里ちゃんだ……)
希「二人に申し訳なくて、合わす顔がないらしいよ」
希「それでウチに泣きながら頼んできたんや」
希「えりち、あんまり怒らんといて」
絵里「まったく」
希「それじゃ、ウチはこれで」
―――――――
絵里「結局、待ちぼうけをくらわされたってわけね」
絵里「明日、絶対に穂乃果にジュースおごってもらうんだから」
花陽「あはは」
絵里「花陽も、怒れる時には怒ったほうがいいわよ」
花陽「でもわたしは、穂乃果ちゃんには感謝、かな」
絵里「花陽、さっきも言ったけど、優しさと甘さは――」
花陽「だって、絵里ちゃんともっと仲良くなれた気がするから」
絵里「あ……」
花陽「今日はありがとう」
絵里「それはこっちのセリフよ」
絵里「!そうだわ!ねえ花陽、これから予定とかある?」
花陽「とくにないけど……」
絵里「じゃあ二人でどこか行かない?」
花陽「絵里ちゃん……うん!」
絵里「じゃ、行きましょう!」
花陽「うん!」
おしまい
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