少女「こんなにも世界は不思議だから……」(55)


少女「だから貴方が、ここにいる」

少女「わたしの、貴方がここに」

男「キミは……」

少女「キミは僕。貴方はわたし」

男「僕……は………」

少女「今日は満月だから」

少女「貴方も」

少女「わたしも」

男「影……」

少女「そう、影の中に居る」

少女「不思議な世界」

少女「でも」

少女「夢ではない」

男「キミも僕も……」

少女「夢ではない」


男「……っは!」ガバ

男「ゆ、夢か……」

男「なんかすごく………」

男「……あれ? すごく……なんだ……?」

男「思い出せない……」

男「……いや、夢は大概こんなモンかな」

男「さてと、学校行こう」スクッ

キーンコーンカーンコーン

友「おう、おはよう」

男「あ、うん。 おはよう」

友「おいおい、朝ぐらい元気だそうぜー」バンバン

男「痛い痛い。 それと『朝ぐらい元気無くたっていい』が正しいと思うよ」

男「でも、友君は元気だね」

友「おう! 俺だからな!」

男「それ、理由になってないからね」


放課後

男「友君、部活はいいの?」

友「いいんだよ。幽霊部員だからって宣言してあるから」

男「そんなのでいいのかなぁ……」

友「いいんだよ」

男「ふぅん」

友「そもそもお前、野良部じゃんか。俺の事とやかく言えないぞ」

男「それはそうかもしれないけど」

友「お前な、いつまでもそんなんだから『男』なんだよ」

友「『漢(おとこ)』になれ!」

友「……って言っても、今のそれでこそお前なんだけどな」

男「ふふ、結局どっちなの」

 … … …

男「じゃ、また明日」

友「おう。じゃあな」


帰宅途中

男「あれ……?」

男「今、女の子が居たような……」

男「見間違いかな? 確かあの家って、空き家だよね」

男「でも、窓から見られてた……気がする」

男「あの女の子……どこかで……」

男「……ま、いっか」スタスタ



少女「………」


少女「見つけた」


少女「わたしの貴方」


少女「こんなにも」


少女「貴方は……澄んでいる」


母「あの家?」

母「もう何年になるのかしらねぇ……」

母「住んでた人が亡くなってね」

母「自殺だったんだって。だから、誰も後に住もうと思わないんだって」

母「で、あの家がどうしたの?」

男「うぅん、なにってないよ。ちょっと、気になっただけ」

母「そう」

母「あ、もちろんだけど、中に入っちゃ駄目よ」

男「分かってるよ、怪我はしたくないから」

母「それもあるけどね」

母「あの家、女の子を見かけたって人が居てね」

男「え……」

母「怖いじゃない、幽霊かもって思ったら」

男「はは、お母さんはホントに怖がりだね」

男「………」


空き家前

男「で、結局気になって来てしまった」

男「夜か。ホラーの定石だよね」

男「……人が居るような雰囲気は無いけど」

男「もしかしたら……ね」

男「とりあえず、中に入ろうか」ガチャ

男「……鍵、開いてる」

男「楽で良いや」ギィィー



少女「………」


少女「……貴方」


少女「おやすみ」


少女「良い夢を」


男「……あれ?」

男「今、誰か……」

ガサッ

男「うわぁ!」

黒ネコ「にゃーご」

男「ね、猫か」

男「ここは……お前の家なのかい?」

黒ネコ「にゃーごー」

男「あはは、全く分かんない」

黒ネコ「にゃごー」テクテク

男「あ、行っちゃった」

男「……追いかけて見ようか」


男「……見失った」

男「ていうか、急に走り出すとは」

男「夜に黒は目で追える訳ないよね」

………

男「で、ここどこ?」

男「いつの間に外に出たの?」

男「……森みたい」

男「どっちから来たんだろう。分かんない」

男「ちょっとやばいかも」

………

男「月が出てる」

男「満月……」


少女「そう、満月」


男「っ!!」


男「き、キミは……」

少女「初めまして、貴方」

男「え、あ……初め……まして」

少女「貴方を待っていた」

少女「貴方の全てを待っていた」

男「な、なに……」

少女「貴方と、わたしの全て」

少女「やっと……」

男「キミは……」

男「あれ……どこかで……」

少女「嬉しい……覚えててくれたんだ」

男「え……」

少女「でも、まだ足りない」

少女「また逢いましょう」

少女「おやすみ」


男「……っは!」ガバ

男「ま、また夢……」

男「痛た……背中が……」

男「……あれ?」


男「空き家の……前だ」


男「地面で寝てたのか」

男「いや、そんな馬鹿な」

男「うっ、朝日……まぶしい」

………

男「……あれ?」ガチャガチャ

男「空き家、鍵が開いてない」

男「昨日は開いてたのに……」

男「……開いてたんだっけ? 記憶が……曖昧だ」

男「夢だったのかな……」


男「うーん、今一腑に落ちないなあ」

男「って、今何時だろう」

男「やば、学校忘れてた」

男「……仕方ない、帰るか」

タッタッタッタッ



少女「………」


少女「どうして」


少女「影が濃い」


少女「邪魔をしないで」


少女「貴女もわたしなのに」


少女「どうして」


学校

男「うぇー、やっぱ遅刻だよ」

友「なんでまた遅刻なんか」

男「寝坊だよ。珍しい事にね」

友「ほぉ、確かに珍しいもんだな。滅多に遅刻しないお前が」

男(まぁ、寝てて遅れたって事には違いないから)

友「エロいサイトでも見つけたのか?今度教えてくれよ」

男「んな訳ないでしょうが!」

友「おうおう、そんな怒るなって」

友「悪かったって」

男「いや、怒ってるつもりじゃないけどさ……」

友「じゃあ、喜んでる?」

男「違うっ!」

友「あっはははは」

男「笑うなよ」


友「さて、次の授業は……」

男「あ、担任に遅刻の報告しなくっちゃ」

友「おう、いって来い」

男「うん。先に科学室行ってて」

友「あれ?次って科学だっけ?」

男「うん。何で覚えてないの」

友「俺様だから」

男「あ、うん。なんか納得したよ」

男「前より『俺』から『俺様』にグレードアップしてるし」

友「ふはははは」

男「でも、理由になってないのは変わらないからね」

キーンコーンカーンコーン

友「あ、やべ!チャイムなっちった!」

友「じゃ、さっさと来いよ!科学の先生のオニガワラって渾名は伊達じゃないからな」

男「あ、うん。それじゃ」


放課後

友「よし、帰るぞ」

男「うん」

友「ほら、テンション上げろぉぉぉ!」

男「ハイテンションを強要するのは止めましょう」

友「だったら俺一人で騒ぐ!」

男「もっと止めて。周りの目が突き刺さるから」

友「………」

男「……? どうしたの?」

友「……お前さ、何かあった?」

男「!?」


男「な、何で……?」

友「何でってそりゃあお前……」

友「……今日は妙にノリが悪いからよ」

男「え……」

男「あ、あぁうん。そうだよね。ごめん」

友「いや、誤る事じゃないけどさ」

友「……まさかお前、今日遅刻した事、まだ悔やんでんのか?」

男「……え?いや、それは無いけど」

友「違うのか」

男「違うのだ」

友「なーんだ、つまんね」

男「たぶん、僕が遅刻をずっと悔やんでたとしても、別に面白くはないと思うよ」

友「そりゃそうだな」

友「ほんじゃ、帰るか」

男「うん、そうだね」


家 自室

男「……ちょっとだけ」

男「ちょっとだけ、覚えてる」

男「真っ白な少女が居たんだ」

男「顔は思い出せない」

男「夢だったのかな」

男「それとも、現実?」

男「分からない」


男「今日も、夢で会うのかな」

男「でも、今日は空き家にもどこにも出かけない」

男「じゃあ、会わないのかな」

男「………」


ちょっとだけ

ほんのちょっとだけ、『逢いたい』と、思ってしまった。


………

男「おやすみなさい、お母さん」

母「おやすみ」

ガチャ、バタン

男「寝る。夢を見る」

男「夢。見ないのかも」

男「見たいのかな。見たくないのかな」

男「分かんない」

男「でも、会えば何か分かるかもしれない」

男「少女は、誰なのか。僕は、彼女の何なのか」


 『キミは僕。貴方はわたし』


男「……寝よう」

男「寝れば……また……」

男「zzz」


男「……ここは」

男「ここは……空き家だ」

男「昨日と同じ場所」


少女「あなた、また来てくれた」


男「……キミは」


少女「キミは僕。あなたは私」


男「………」


少女「まだ、足りない」


少女「影が多いから」


男「影?」


少女「あなたに触れられない」


男「触れられない……?」


少女「……あなたは持っているの?」


男「ご、ごめん……何のこと?」


少女「持っているはず、持っているに違いない」


少女「……あなたは、私の何?」


男「……え?」


少女「わたしは貴女。貴方はわたし。でも、私は貴方じゃない」


男「何を……言ってるの……」


少女「……陽が昇る」


少女「明日は、あなた逢える。やっと……」


少女「待ってる……ずっと……」


男「……」


少女「だから、逢いに来て……」


男「ぁ……」


男「キミは……誰なんだ……」


男「どうして僕に……」


少女「おやすみ」


男「返事してよ!キミは……!」


少女「……男」


男「っ!?」


男「なんで……名前を……」


少女「あなたは私。知ってる。全部」


男「それ、どういう意味な……」


少女「また、明日」


少女「また、明日」


少女「また………」


男「ぐっ……意識が……」


男「じゃあ、これだけは答えて!」


男「御魂は……どこに、あるの……?」


少女「……! なんで……!?」


男「……っは!」ガバ

男「はぁ……はぁ……」

男「……朝か。陽が昇るって言ってたな」

男「少女……彼女はいったい……」

男「それに……明日って……今日の、夜だよね」

男「触れられる……どういうことなんだろう」

男「確かに、いままで僕は彼女に触れた事は無かったけど」

男「良く分からない……」

男「考えるだけ無駄なのかな……」


男「……学校か。休みたいけど……行かなくちゃ」

男「昨日の遅刻で、皆勤は無いけど」

男「ちょっと悲しいかな」

男「……ま、いっか」


友「うぃっす」

男「あ、おはよ」

友「おう、今日は顔色良いな。よかったよかった」

男「え、昨日は悪かったの?」

友「そりゃあもう、目の下のクマも酷かったぞ」

男「あー、寝床が悪かったからね」

友「?」

男「なんでもない。でも、今日はしっかり(って程でもないけど)寝れたから」

友「ん、そか。安心した」

………

友「そういえば、明日は男の誕生日だよな」

男「……あ、そうだっけ」

友「おいおい、自分で覚えてないんかよ」

男「……いろいろと、忙しかったからね」

男(主に夢の中で、だけど)


友「お疲れさん。で、プレゼント、何か欲しいものある?」

男「いや、無いけど」

友「俺の体とか」

男「ない」

友「ちぇー。結構モテるんだぜ?」

男「はいはい」

友「お前さ、漢じゃないのか?美人が目の前に居るんだぞ?」

男「漢じゃないからね。男だから」

友「ったく、連れないなぁ」

男「エロサイト、なんて堂々と言える子を女の子扱いできるほど器用じゃないんだよ」

友「はっはっは、俺様様だからな!」

男「そうそれ、一人称『俺』だし」

友「えー、いいじゃんか」

男「いや、僕は気にしないよ」

友「じゃあ俺も気にしない! 元々気にしてないけど!」


友「本題を忘れていたぞ。男、欲しいものないのか?」

男「だから無いって」

友「お前ガキん頃から物欲まったく無いよなー」

男「物欲じゃなくて興味が無いんだよ」

友「それももう何回聞いた事やら」

友「でもよ、折角の誕生日なんだから、何か無いのか?」

男「んー……じゃあ、キーホルダー欲しいかな」

友「キーホルダー?なんかのキャラクターの奴か?」

男「うーん、何でもいいんだけどね。ケータイにつけるだけだから。……じゃあ、『月』の形のが良いかな」

友「え……」

男「……?」

友「あ……い、いや、なんでもない。月で良いんだな。分かった。探してみる」

男「ありがとう」

友「いいんだよ礼なんて!」

友「……月、か」


………

男「じゃあ、またね」

友「おう」

スタスタ

友「……男」

友「やはり、君が狙われるのか」

友「………」

友「俺が、守らないとな」

友「ふふっ」

友「これじゃ、俺が彼氏でアイツが彼女だな」

友「………」

友「男……」

友「……ん、湿っぽいのは俺に合わないな」

友「さて、と。ゲーセンでも行こうかな」


少女「友……」


少女「あれが貴方の……」


少女「あなたの……」


少女「………」


少女「……ふぅん」


少女「邪魔、だよね」


少女「退かそうか」


少女「出来るかな」


少女「大丈夫だよね」


少女「……あなたの、ためだもん」


翌朝

男「夢……見なかった」

男「どうしてかな」

男「あ、でも覚えてないだけかな」

男「……いや、それは無いか」

男「不思議だな。「見てない」って、確信する」

男「……ちょっと、寂しい?」

男「惹かれたのかな」

男「……それも違う気がする」

男「分かんない」

男「考えても無駄だよね。起きよう」


男「金曜日って、不思議とワクワクするね」

男「たぶん、部活に入ってれば違う気持ちになるんだと思う」

男「でも、野良部だからといって、土日に遊びに行くわけじゃないから」

男「何に対してワクワクしてるのかな」

男「学校は嫌いじゃない」

男「だって楽しいから」

男「………」

男「……たぶん」

男「成績ちょっとやばいかも」

男「学生的な悩みかな」

男「………」


男「……友が来てない」

男「……寂しい?」

男「彼女が居ないだけで、こんなにも」

男「………」

男「……騒がしいのも、嫌いじゃないのかもね」

男「………」

男「心臓の辺りが、ざわざわする」

男「なんだろう……」


三時間目

ガラッ

友「先生ぇ、遅れましたー」

男「あ、友……」

男「って、授業中だった」

男「危うく声かけるとこだった」

キーンコーンカーンコーン

友「うぃーす」

男「どうしたの?友君も、皆勤だったのに」

友「はは、すまんね、寝坊しちゃって」

男「え……」


男(この前の僕を、思い出した)

男(嘘を吐いてる)

男(何かを、隠してる?)

男(何を、隠してる?)

友「……って言うのは冗談で、ホラこれ」ヌギッ

男「う、うわっ」

男「待って!ここ教室だから!」

友「えー」

男「なんで唐突に脱ぎだすの……」

友「いやさ、そうじゃなくてな」

友「ホラここ、怪我したんだよ」

男「あ……そういうこと」

友「そうそう。んで、病院にいってたんだ」

男「ごめん、理解遅くって」

友「うぅん、気にせんよ」


友「あ、そうだ!」

男「ん?どしたの?」

友「これ!受け取れ!」

男「あ、キーホルダー……」

男「月の形の……」

男「ありがとう」

友「いいって!それな、昨日ゲーセンでとったんだぜ!」

男「あ、ごめん」

友「だから謝るなって。俺がやりたくてしてる事なんだから」

男「うん……じゃあ、何かお返しするから。欲しいものある?」

友「男」

男「え……」

友「えぁ!? あ、嘘だって! 冗談! なんでもない!」

男「あ、うん……」

友「うぁ……ホント何言ってんだ俺……」


男「え、えと、改めて聞くけど……欲しい物は」

友「あー、じゃあ……一緒にどっか食べに行きたい」

男「え……僕と?」

友「あぁ。ラーメンでいいからさ、行こうぜ」

男「そんなので良いの?」

友「それがいいの!」

男「ご、ごめん」

友「じゃ、そういうのは早い方が良いし、明日でいいか?」

男「そうだね。明日は休みだから、大丈夫だと思う」

友「もちろんラーメン屋な!旨いトコ知ってんだ!」

男「うん、期待しておくよ」


………

友「明日が待ち遠しいな!」

男「そ、そうだね」

友「ぜってぇ気に入るぞ。なにせ、三ツ星ラーメン屋だからな!(俺様調べ)」

男「わざわざ注釈つけなくても……」

友「今日は寝られないな!」

男「? なんで?」

友「おま、それぐらい想像できるだろうが。明日のデートで緊張して寝れないって事だ」

男「あー、いや、まさか友君がそんなに少女少女してるとは思わなくて……。それに、デートなんて言うようなタチでもないし」

友「ひでー。コレでも女なんだっての」

男「なら、女の子らしい行動をしてください」

友「えー、恥ずかしいじゃん」

男「……その理由はちょっと可愛いかもね」

友「えっ、や、そんなの……」カァ

男「……その反応はリアクションに困る」


男「また明日。時間の変更とかあったら、連絡してね」

友「おう、じゃあな」

男「うん」

スタスタ

男「……友君」

男「ふふっ」

男「なんか、ふわふわする」

男「待ち遠しい、と思う」

男「初めてかな」

男「デート、なんて言っても、一緒にご飯食べるだけなのに」

男「それでも、嬉しい」

男「友君は好き。でも、女の子として好き、とは違う、好き」

男「友君は、どうなのかな……」


友「不思議。とっても不思議」

友「胸、あったかい」

友「でも、苦しい」

友「……ずっと、考えないようにしてた」

友「………」

友「男……」

友「俺、男のことが……」

友「………」

友「……駄目、だよね」

友「それに、俺は男を守らなきゃいけないから」

友「………」

友「……でも、すこしだけ」

友「すこしだけ、甘えても……いいよね」


母「そういえば今朝、友ちゃんに会ったわよ」

男「え……?」

母「病院行ってきたところで、ばったり会ったのよ」

男「あぁ、そうだったっけ」

母「そういえば」

母「友ちゃん、可愛くなったわねぇ」

母「早くしないと、他の男に取られちゃうわよ?」

男「うるさいよ」

母「冗談よ」

母「さて、と」

母「お風呂、入っちゃいなさい」

男「あ、うん」

………

母「友ちゃん……男を頼むわね……」


自室

男「……はぁ」

男「緊張してるのか……」

男「一緒に食べに行くだけなのに」

男「………」

男「今日は、夢、見るのかな」

男「昨日は見なかった……」

男「なんでだろう」

男「……考えても、答えなんて出る訳ないか」

男「はぁ」

男「溜め息ばっかり……」

男「そういえば、友君……お母さんに会ったなんて一言も言わなかったよね」

男「………」

男「寝よう。疲れた」


男「……夢、だ」


少女「あなた」


少女「今日は、逢いに来た」


男「今日はって、昨日は、君の意思で来なかったの?」


少女「………」


少女「邪魔。そう、邪魔が入った」


少女「忌々しき眷属め」


男「え、えっと……邪魔って誰が?」


少女「それはあなたの、隣に立つ人間」


少女「あなたは、あの女を欲するの?」


男「ほ、欲する? 何の話なの……?」


少女「あなたは……心配要らない」


少女「邪魔は」


少女「入らせない」


少女「そして」


少女「私が」


少女「あなたと」




少女「結ばれるの」




男「……!?」ゾクッ


男(この子……何を言っているんだ)


少女「大丈夫……」


少女「心配は要らない……」


少女「ふ、ふふふ……」


少女「私があなたと……」


少女「うふふふふふふふふふふ」


少女「……あなた」


男「……! な、なに?」


少女「その、月の……なに?」


男「……!!」


少女「それ……あの女……!」


男(また、あの女って……)


少女「……あなた」


男「な、なに?」


少女「その月は捨てて」


少女「あの女を捨てて」


男「そんなこと……」


少女「………あぁ」


少女「もう、朝なの」


少女「また………逢いましょう」


男「……っは!」ガバ

男「はぁ……はぁ……」

男「………」

男「月の……キーホルダー」

男「……あの女って」



男「『友』君の事……だよね……」


デート集合場所

友「すまん! 遅れた!」

男「大丈夫だよ、僕も今来たところだから」

友「ぬぁー、これじゃ男女が逆だぁ」

男「ふふっ、そうだね」

友「ぬあー」


男(昨日、友君は遅刻してきた)

男(そして、傷……)

男(友君……)


友「んじゃ、行くぞー!」

男「おー」

友「もっと声出せぇぇい!」

男「お、おー!」


ラーメン屋

友「うんめー!」

男「うん、美味しいね」ニコ

友「………」

男「?」

友「今、不覚にもトキメいてしまった」

男「何に?」

友「ぬ、ぬははは、気にするでないぞ」

男「……?」


………

カランカラーン

友「ふぃー、食ったくった」

男「オッサンじゃないんだから……」

友「ふっふっふ、いつから女だと錯覚していた」

男「な、なんだってー」

友「棒読みやめぃ」

男「あいあい」

友「猿じゃないんだから」

男「アイアイって、悪魔の僕(しもべ)って呼ばれてるんだってね」

友「知るかっ」


友「さて、帰るか」

男「デートって言ってたのに、本当にご飯だけ食べて帰っちゃうんだね」

友「あははは、そう言えばそうだな」

友「つっても、金は飯代しか持ってきてないからな」

友「残念ながら、どこも行けないんだ」

男「……えぇと」

男「じゃあ、カラオケでも行こうか?」

友「お前、話し聞いてたか……?」

男「うん」

男「それぐらいなら、僕が出すよ」

友「お、男……!」

友「ありがとう! 俺の心の友よ!」ダキッ

男「ひゃっ」

友「よし、行こう! 我らの桃源郷に!」

男「えっ!? は、放し……ああぁぁぁ……」


夕方

友「あー、楽しかった!」

男「そうだね。ちょっと疲れたけど」

友「シャウトしてこそのカラオケだからな!」

男「だからって僕まで巻き込まなくても……」

男「でも、楽しかったからいいか」

友「うむ!」

 … … …

スタスタ

男「………」

友「ん、ここら辺で解散だな」

男「……そうだね」

友「男? どした?」

男「……うん」

男「……その、傷」


友「……!」

友「……聞いたのか」

男「うん……」

男「女の子から……」

友「………」

男「あのさ……」

友「……なんだ」

男「あ……ありが、とう」

友「……は?」

男「友君……ありがとう」

友「………」

男「『邪魔が入った』って……女の子が言ってたんだ」

男「たぶん、彼女の目的は僕だと思う」

男「なら、友君は僕を助けてくれた……んだと思う。思いたい」

友「おと……こ……」


男「だから、ありがとうって言いたくて」

友「男ぉーーーっ!!」ガバッ

男「うわぁ! ま、また!?」

友「うわああぁぁぁん! 男ぉぉぉぉぉ!」

男「……え?」

友「うえぇぇぇん」ボロボロ

男「友君……」

友「えぐっ、ぐす……」

男「怖かったんだよね……」

男「女の子だもんね……」

男「……ごめん、弱くってごめん」

男「守ってもらうようじゃ、ダメダメだよね」

友「うぅん……ぐすっ……男は、それで良いの……」

男「友君は、優しいね……」

男「でも……僕は……」


………

男「……落ち着いた?」

友「うん……」

男「そう、良かった」


男「それで、さ」

友「……ごめん。今は……まだ言えないから」

男「……そっか」

男「分かった、聞かない」

友「……ありがとう」

男「うぅん、気にしないで」

友「ん、分かった」

男「それじゃ、もう暗くなってきたから」

友「また、ね……」

男「うん、バイバイ」


男「………」スタスタ

男「……あれ?」

男「ぼーっとしてたのか」

男「………」

男「……いつの間に、夜になったんだ」

男「いや、そもそもまだ家に着いてない」

男「これは夢……なのか……」


少女「あなた……待っていた……」


男「……!」


少女「……っ」


少女「ぐっ……かはっ」ビチャ


男「な……っ!?」

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