盗賊「お前が俺の仲間達の首をかっ切ったのか」
傭兵「ああ」
盗賊「・・・すげえ技術だな」
傭兵「貴様を殺したら盗賊団は無事壊滅。死んでもらうぞ」
盗賊「はあ、呼び笛が聞こえたからってアジトに戻ってきたのが運の尽きだったか」
傭兵「構えろよ。行くぞ」ダッ
盗賊「仕方ない」チャキッ
傭兵「だあ!」
盗賊「馬鹿が」
傭兵「(俺のナイフが捌かれた!?)」
盗賊「首に斬りかかろうとしていたのは最初から分かってるんだよ」ズバッ
傭兵「ぐああ!」
傭兵「・・・痛えだろう、畜生が」
盗賊「やかましい」ヒュパパッ
傭兵「いっ!」
盗賊「それは毒棘だ。お前はあと数刻で死ぬ」
傭兵「な、なんだと」
グラッ
傭兵「頭が……」ズキズキ…
盗賊「今のお前では、俺を倒して解毒剤を奪うこともできない。詰みだよ」
傭兵「……いやだぁぁ! 死にたくないぃ!」
盗賊「お前……これだけの所業をしておいて、よくそんなこと言えるな」
傭兵「た、頼む、助けてくれぇ……なんでもするからぁ……」
盗賊「……さっさと楽になるんだな」
傭兵「お願いだよぉ……死にたくないぃ……」ブルブル…
盗賊「情けないヤツだな。潔く死ね」
傭兵「お願いだよぉ……ほら、ナイフ捨てるし、お前の靴の裏も舐めるから。犬の鳴き真似もするからぁ」カランッ ペロペロッ ワンワンッ
盗賊「お前……そういえば、この前面白いモン手に入れたんだっけな」
傭兵「くぅん……くぅん……」ガクガク…
盗賊「助けてやってもいい」
傭兵「本当かぁ!?」パァ
盗賊「ただし条件がある」
傭兵「生き残れるならなんでもいいですぅ!」ゼェゼェ…
盗賊「言ったな」ニヤッ
・・・
傭兵「……ん」パチッ
盗賊「……ぐぅぐぅ」
傭兵「(……こいつ愚かだな。隠しておいたもう一つのナイフで首をかっ切ってやる!)」コソッ
傭兵「死ねっ」ヒュオッ
ピタッ
傭兵「っ!?」グググ…
盗賊「ん、起きたか」パチッ
傭兵「き、貴様、俺の体に何をした!?」ググ…
盗賊「ああ、今日からお前、俺の下僕になったからな」ファ…
傭兵「は、はあぁ!?」
盗賊「説明は後でしてやるから、今は『寝ろ』」
傭兵「……ぐがぁ」バタンッ
・・・
(盗賊「『悪魔の契約』が描かれた羊皮紙をこの前たまたま手に入れたんでね。使わせてもらった」)
(盗賊「胸のところに呪印が刻まれてるだろ? それが契約の証だ。お前の心臓は俺が握っている)
(盗賊「お前は俺を殺すことはできないし、俺が死ねばお前も死ぬ」)
(盗賊「死にたくなければ、せいぜい俺のために働け」)
傭兵「なんてこった」ズゥン…
盗賊「……それで、お前、誰の依頼で盗賊団の討伐に来たんだ」
傭兵「依頼人は知らん。うちのギルドのお得意様のお得意様らしいとは聞いたが」
盗賊「……ふん、傭兵ギルドのね」
【ここからは四コマ風にお送りします】
傭兵「悪業の限りを尽くしてると聞いたぞ」
盗賊「そんな風に見えるか?」
傭兵「見えるだろ。心臓を奪うなんてある意味で殺すよりも酷いわ」
盗賊「ならば、今すぐ殺してやってもいいが?」
傭兵「いやあ、生きてるってこれ以上ない幸せだなあ!」
盗賊「……ふん」
傭兵「まあでも、お前の仲間たちは小物臭かったけどな」
盗賊「普段はたまに道行く商人隊を脅して盗るくらいしかしてなかったらしい」
傭兵「ふうん……そんな小物相手にするような依頼人ではなかったみたいなんだが……」
【主従関係】
盗賊「腹が減った。下僕、さっさと飯を作れ」
傭兵「ぐぬぬ……」
傭兵「(……こいつのスープに小便でも混ぜてやるか)」
盗賊「小便入れたりするなよ」
傭兵「ぬぁっ!?」ギクッ
盗賊「お前、考えてること顔に出てるんだよ。俺はいつでとお前の心臓を握り潰して殺せるんだからな?」
傭兵「やや、やだなあ! そんなこと考えてないっすよー」ダラダラ
盗賊「だったらもっとテキパキと作れ」
傭兵「くっ……」
盗賊「あんまりごねるとお前の分の飯が無くなるからな」
傭兵「ちゃんとやりますっ」
盗賊「……」
【後片付け】
盗賊「お前が殺した死体を片付けろ」
傭兵「お前の仲間だってのに、随分な言い草じゃないか」
盗賊「仲間と言ってもこの盗賊団に入って日が浅かったからな。ここに来てからまだ一回しか盗賊稼業をしてない」
傭兵「はあ、なるほどねえ……それじゃあ、また移動して別の盗賊団にでも入るのか」
盗賊「いや、しばらくはここに住む。一時を凌げればいいと思って来たが中々興味深いところだ」
傭兵「こんな辺鄙なところが?」
盗賊「たしかに王都から離れ、主要なダンジョンからも離れたところにある。そのくせ凶暴な魔物も少なくない」
傭兵「俺も出来ればこんなところまで仕事に来たくなかったよ……こんなヤツの奴隷になるなんて酷い目にも遭うんだからなあ」
盗賊「それなら心臓を握り潰してやってもいいんだがな?」
傭兵「いやあ、生きてるって素晴らしい! お掃除お掃除!」
盗賊「ちゃんと地中深くに埋めろよ。魔物が死臭を嗅ぎ分けて襲ってくるぞ」
傭兵「うへえ……」
【噂をすれば影】
傭兵「……はあ、どうしてこんなことしなきゃいけないんだ」
傭兵「本当ならば、盗賊団が奪っただろう金目のものをネコババして、依頼人からたんまり報酬も受け取って、看板娘ちゃんに素敵な指輪でプロポーズ、そしてあの南の『天国島』でハネムーン。昼間ははしゃいで楽しみ、その後はビーチに沈む夕陽を二人きりで眺めながら見つめ合う。そして交わす熱いヴェーゼ……」ウットリ
傭兵「しかし、現実は目つきの悪い盗賊に命を握られ、鮮やかな手腕で殺した相手を埋めるために穴を掘る」
傭兵「ちきしょお、あのクソ盗賊、絶対にぎゃふんと言わせてやるう!」
盗賊「ぎゃふん。これで満足か?」
傭兵「……あ、いたの?」
盗賊「お前一人じゃあ、日が暮れてしまうからな」
傭兵「ま、まあ結構な人数だし?」
盗賊「それなら、手を動かせ」ガッガッ
傭兵「へいへい、あー、人使いの荒いヤツ」ザックザック
盗賊「あまり生意気な口を聞くと心臓を痛めつけるからな」
傭兵「ごめんなさい」
【ここ掘れワンワン】
カツンッ
傭兵「んあ? なんか掘り当てた」
盗賊「前に埋めた死体でもあったか?」
傭兵「笑えねえよ……はあ、ただのデカい石だよ。はあ、取り除くやメンドくさ」ザックザック
盗賊「石の大きさによっては別の部分を掘った方が早いぞ」ザックザック
傭兵「そこそこ掘ったのに今更別のところに移るのはメンドくせえよ」ガッガッ
・・・
傭兵「……岩デカ過ぎじゃね?」
盗賊「本当にバカだな」
傭兵「なぬ?」
【ダンジョンは突然に……】
盗賊「これはただの岩じゃない。人口物だ」
傭兵「……なあ、なんか入り口っぽいのあるぞ。めっちゃ土つまってるけど」
盗賊「……まさか未発見のダンジョンなのか」
傭兵「もしや、これはお宝が眠ってるんじゃないの!?」ワクワク
盗賊「……この辺りの地域の継承や伝説は聞いたことないが」
傭兵「未知の財宝かぁ! ワクがムネムネするぜ!」
盗賊「……このダンジョンの外壁に魔封じの印が大量に施されているな」
傭兵「へえ、魔封じの印なんてめちゃくちゃ貴重じゃん。あの超有名な『聖霊王の墳墓』とかに施されてるヤツだろ」
盗賊「確かに周辺には魔物がそこそこいるくせに、この丘で魔物を見かけていない。この印のお陰か」
傭兵「おお! おお! 凄まじい発見だぞこりゃ! 魔物がいないなら、きっと楽に攻略できるぞー」
盗賊「罠があるに決まってるだろ……魔封じの印が刻まれた遺跡、どうして何の話も聞いたことがないんだ」
【『悪魔の契約』の力】
ズポッ
傭兵「うおっしゃ! 入り口が開通したぜ!」
盗賊「よし、『中を見てこい』」
傭兵「げっ!? 体が勝手に動くんだけど!?」ギギ…
盗賊「……偵察だ。死んだときは危ないから骨は拾わないぞ」
傭兵「ひ、酷え! 鬼! 悪魔!」ギギ…
盗賊「人間だ」
傭兵「せめてタイマツくらい寄越せよ!」ギギ…
盗賊「これを貸してやる」ペカッ
傭兵「うお、明るい! 輝光石を用いたランタンなんて貴重なもん持ってるな」ギギ…
盗賊「まあな」
傭兵「というか、やっぱり命令をやめて! 死にたくないぃ!」ギギ…
盗賊「死なないように頑張れ」
【一部屋だけのダンジョン】
傭兵「……ただいま。めっちゃ狭かった。ただちょっと変わったものがあったぞ」
盗賊「……案内しろ」スタスタ
傭兵「こいつぅ……」
盗賊「なんだこの大穴は?」
傭兵「ヤバいよな。深さが全く分からない。地獄まで繋がってるんじゃないの」
盗賊「……ふむ」
【Can Anyone Hear Me ?】
ポイッ
傭兵「おま、死体をこんな得体の知れない穴に投げ込むとか罰当たりも甚だしいぞ……ああ、くわばらくわばら」ポイッ
盗賊「音が全く響かないな」ポイッ
傭兵「恐ろしやぁ」ポイッ
盗賊「お前が殺した奴らだぞ」ポイッ
傭兵「あんたの仲間だった奴らだろ」ポイッ
盗賊「この中に棄てれば魔物が食い散らかしたりしないだろ」
傭兵「あ、たしかに」
盗賊「(この魔封じの印の近くに置くだけでも充分だろうがな)」
傭兵「……死体、ぜんぶ投げ入れたけど、全く音がしなかったな」
盗賊「本当に奈落の入り口かもな。入り口を埋め直した方が身のためかもしれない」
傭兵「うおお、こんなとこに長居したくねえ!」
盗賊「……ん?」
盗賊「(……この紋様は)」
【奴が来る】
…….ズ
盗賊「ん?」
傭兵「なんだよ、クソでも出そうかよ」
盗賊「穴から何か音が聞こえる」
傭兵「いまさら死体が落ちた音か? 深すぎじゃね?」
ズズズ……
盗賊「……いや、違う」
ズゾゾゾ……!
盗賊「何かが出てくるぞ……!」
傭兵「げっ、地獄の使者でも蘇らせちゃったか!?」
【What is your freedom ?】
ゴオォッ!
盗賊「きたぞッ!」
傭兵「くっ……!」
ブワッ…
吸血鬼「自由だあああぁぁぁぁ!」ウォォ!
傭兵「……なんかガッツポーズした変なのが出てきたぞ」
盗賊「……魔物か?」
吸血鬼「む、主らが、我輩の封印を解いたのか?」
傭兵「えっ? え、えーと、多分ね」
吸血鬼「感謝するぞ! 我輩は、我輩は……」
吸血鬼「……我輩は誰だ?」
【吸血鬼】
傭兵「きゅ、吸血鬼といえば、超上級をも超える伝説級の魔物じゃないの」
盗賊「闇の王者とも称されるな……実在していたのか」
吸血鬼「え、なに? 我輩そんなにすごいの?」
傭兵「なんで本人が自覚してないんだよ……本当に吸血鬼か?」
吸血鬼「いや、それはマジ。でもそれしか記憶にないな」
盗賊「……どれくらい封印されていた?」
吸血鬼「……さあ? マジで何も覚えてないなあ」ウ-ン
盗賊「(あれだけの大仰な封印に、あの大穴。何の伝説も聞いたことがないのが不思議だ……)」
盗賊「(この吸血鬼も悪業の数々を果たしたのだろう)」
吸血鬼「なあなあ! そんなことより今の時代にも可愛い女の子はいるのか!?」
傭兵「おお、いるいる。この前、めっちゃ可愛い女の子が街を歩いててさあ」
吸血鬼「うおお……!」キラキラ…
盗賊「(……今のところバカが二人に増えただけだが)」
【吸血鬼とはいったい・・・うごごご!】
吸血鬼「ニンニクが香ばしくてうまい」ガツガツ
吸血鬼「川で体洗えるのって気持ちいいなぁ」ジャブ
吸血鬼「ああ、久々の日光浴さいこぉ」ポカポカ
吸血鬼「銀の装飾品かっこいいなぁ」ジャラッ
吸血鬼「うーん、鏡越しに見る我輩もイケてるねぇ」キラン
吸血鬼「棺桶? ベッドの方が寝やすいに決まってるだろ?」
吸血鬼「杭で心臓を? それくらいで死ぬほどヤワじゃないぞ」
吸血鬼「早寝早起きで生活にリズムを作ろう」
傭兵「俺の知ってる吸血鬼とちがう……」
盗賊「お前、本当に吸血鬼か?」
吸血鬼「どこからどう見てもそうだろ」
傭兵「どこからどう見たらそう見えるんだよ……」
【吸血鬼のアイデンティティ】
傭兵「血は吸うんだろ? そこはさすがに吸血鬼として譲れないだろ」
吸血鬼「血を飲むとめっちゃ元気になるぞ。でもキノコスープの方が好き」グッ
盗賊「そこまで好きじゃないのか」
吸血鬼「んー、ぼちぼち?」
傭兵「じゃあ俺たちの血は……?」
吸血鬼「いやいや、友だちの血なんて飲まないぞ」
傭兵「え、いつから友だちに?」
吸血鬼「一緒にご飯を食べたら友だちだ!」グッ
傭兵「うわあ、めっちゃフレンドリー」
盗賊「……たまにいる友だちのハードル低いやつか」
【吸血鬼にも縋る思い】
傭兵「……はっ、なあなあ、俺たち友だちだろ! 友だちが困ってたら助けるよな!」
吸血鬼「もちろんだ!」
傭兵「こいつに、生命を握られてるんだ! 頼む、なんとかしてくれ!」
盗賊「悪魔の契約を交わしたんだ」
吸血鬼「おお、人間が使えるなんて珍しいな?」
盗賊「偶然、術式が手に入ってな。契約は合意の上だろう」
傭兵「ちがーう! 無理やりだ! こいつ、これで俺を奴隷にしてるんだよ!」
盗賊「悪魔の契約は、相手の同意がなければ結べないんだぞ」
吸血鬼「そうだな」
傭兵「俺はそんなのに同意してない! 詐欺だ! 卑怯だ! 悪魔だ!」
盗賊「……悪魔の契約と言ってるだろうが」
吸血鬼「悪魔が人間と対等な契約をするわけがないよな」ハハハ
傭兵「爽やかに笑っていうことじゃねえ!」
【友情の形】
盗賊「まったく、まだ力関係を飲み込んでないのか」
傭兵「……折檻とかしないで。と、友だちだろ?」
吸血鬼「そんな友情の形もあるよな!」
盗賊「いいこと言うな」
傭兵「そんなもんあるかぁ! 嫌だあぁ! 痛いのは嫌いだぁ!」
盗賊「やかましい」キィィ
傭兵「あだだだっ……! し、死ぬぅぅぅ!」ジタバタッ
吸血鬼「これを絶えぬけばきっと友情は深まるぞ!」
傭兵「深まるかアホぉぉぉ! イデェェぇぇ!」ジタバタ…
【大掃除】
吸血鬼「この古い建物を掃除するのか」
傭兵「どうして俺がこんなことしなきゃならないんだよぉ」ブ-
盗賊「汚いところに住みたくないだろ」フキフキッ
吸血鬼「そりゃあどうせなら綺麗な方がいいよな」
傭兵「えー、魔物のくせに」
吸血鬼「まあでも多少、汚い方が落ち着くな。息苦しくならなくて」
傭兵「お前、すごく人間くさいな!?」
盗賊「さっさと掃除しろ」
【ワケアリ物件】
傭兵「しかしザコ盗賊団のアジトには立派過ぎるくらいの建物だな」
盗賊「打ち棄てられた建物を使っていたらしい。おそらく元は櫓だったと思うが、今はだいぶ崩れてるな」
傭兵「ふうん……しかし、なんでこんなところに櫓が? 見張るような場所でもないし不自然じゃね?」
盗賊「特殊な事情だろうな」
傭兵「近くに眠ってた吸血鬼の動向を監視するとか?」
盗賊「……この建物には、一切の家紋や所有者を示す痕跡がない。お前が処分した盗賊団が抹消したわけでもなかったそうだ」
傭兵「んー?」
盗賊「(……この建物の存在意義が吸血鬼の監視ならば、もう少しあの大穴の近くの『あの紋章』が残っていてもおかしくないが、それがない)」
盗賊「(この建物は吸血鬼とはおそらく関係がない。それに古いといっても、吸血鬼の時代よりは遥かに新しいはず)」
傭兵「なんだよー、急に黙り込んで」
盗賊「口じゃなく手を動かせ」
傭兵「ぶー、ぶー」
盗賊「心臓を鷲掴みされるのがよほど好きなんだな、この豚は」
傭兵「むしろ美少女のハートを鷲掴みしたい」
【自由な吸血鬼】
ドゴォッ!
傭兵「なんだ?」ゼェゼェ…
盗賊「あっちの寝室からだな。吸血鬼か」
吸血鬼「おーい、これを見てくれよ」ヒョコッ
傭兵「うわ、また穴が」
盗賊「何があった?」
吸血鬼「いやあ、この下に変な空気が滞ってるからさ。ちょと穴を開けた」
盗賊「あまり勝手はするな」
吸血鬼「ごめんなしゃい」
【地雷地帯を安全に進む方法】
傭兵「うおお、地下階段だ」ワクワク
盗賊「よし、『探ってこい』」
傭兵「だから命令するのやめろお!」ギギ…
盗賊「俺のために死ね」
傭兵「クソ野郎めぇぇ!」ギギ…
盗賊「こういうところは罠があると相場が決まってる」
傭兵「そんなところに送り込むなぁ!」ギギ…
盗賊「うるさいぞ下僕」
【赤信号と同じ】
吸血鬼「みんなで一緒に行けばいいじゃないか」
傭兵「吸血鬼の言う通りだ! せめて一緒に行こうぜ!」ギギ…
盗賊「却下」
傭兵「危険度不明のダンジョン、みんなで行けば怖くない!」ギギ…
盗賊「怖くなくても死ぬときは死ぬんだよ」
傭兵「死ぬのはいやぁ! 行きたくないぃ!」ギギ…
吸血鬼「しょうがない、我輩が下見してこよう」ブワッ
ヒュオォォ…!
傭兵「ほら、アホが行ったし俺いらないじゃん!」ギギ…
盗賊「……」パチンッ
傭兵「ふうっ……好き勝手しやがってこんにゃろ」
盗賊「下僕の有効活用だ」
傭兵「なんてやつだ……」
【モザイク処理されるレベルだったそうな】
吸血鬼「ただいま」ボロッ
傭兵「うわっ、肉の塊!?」
盗賊「……吸血鬼で間違いないな?」
吸血鬼「見ての通り」グチャ…
盗賊「いや原型が……それでも死なないんだな……」
吸血鬼「中々凄惨な罠が目白押しだったぞ。人間なら何度死ぬことやら」シュゥ…
盗賊「……中に入らない方が安全か」
傭兵「こんな姿になったら普通死ぬもんな」
吸血鬼「ようやく眼球が修復されて視力が戻ったぞ」シュゥゥ…
傭兵「……こんな危険なところに無理やり送りこもうとしてたよな?」
盗賊「……」フイッ
傭兵「こっち見ろよ」
【ほとんど不死身な吸血鬼】
吸血鬼「自由になってそうそうこんな目に合うとはなぁ」
盗賊「吸血鬼の力は伊達じゃないな」
吸血鬼「どんな大魔法食らっても死なないぞ!」
盗賊「(だから消滅でなく封印か)」
吸血鬼「罠はもう全部解除したから、だいじょーぶ」ブイッ
盗賊「……信じていいのやら」
吸血鬼「何かあったら盾になってやるぞ!」
傭兵「お前、いいヤツだなあ……それに引き換えこの目つきの悪い盗賊ときたら」チッ
盗賊「心臓」
傭兵「じょ、冗談ですぅ! あなたほど優しい人はこの世に二人といないですぅ!」
吸血鬼「そうなのか!?」
盗賊「……中に入るぞ」
【探検スタート】
傭兵「うおお、めっちゃ広いな」キョロキョロ
吸血鬼「そのランタンめちゃ明るいな。輝光石なんて珍しい」
盗賊「……この設備、魔導実験の施設か」
盗賊「……魔道実験って全ての国で禁止されたんじゃないのか?」
盗賊「表向きはな」
グルルッ…
傭兵「おい、何かデカいのがいるぞ」
盗賊「あれはどう見ても罠のうちだろうが」
吸血鬼「あれ? さっきぶっ殺したのに」
盗賊「……魔導獣か」
>>34
×盗賊「……魔道実験って全ての国で禁止されたんじゃないのか?」
○傭兵「まど――――」
間違えやすい
【強い】
キメラ「グオォォォォ!!」
吸血鬼「そぉいっ」バキッ
メキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョ……ッッ!
ドゴォォッッッ!!
キメラ「グァァ……!」ピクピク…
傭兵「え、つよ……吸血鬼ってあんなに強いんか?」
盗賊「これが伝説級の魔物か……規格外もいいところだ」
吸血鬼「んー、さっきもこれくらいやったんだけどなあ」
キメラ「グルル……」シュゥゥ…
傭兵「げ、グチャグチャになったのに元に戻りかけてる!?」
盗賊「魔導獣は体内のコアをやらない限り、復活するぞ」
吸血鬼「おお、そうなのか」バキキ…
【多彩な攻撃方法】
盗賊「(……血の翼?)」
吸血鬼「とりあえず串刺しにして、 動きを止めるか」ビュオッ
バキキキッ
キメラ「グガァァァッッ・・・!!」
傭兵「超常的な戦闘だなオイ」
ギラギラ…
盗賊「……あの光ってるのがコアだ。『斬れ』」
傭兵「俺かよ!? ぎゃああっ!」ダッ
【万能ではない】
吸血鬼「我輩が壊せば良くない?」
盗賊「何言ってる。お前、限界が近いだろう」
吸血鬼「お、よく分かったな」
盗賊「その翼のような攻撃・・・形状が維持できなくなってきてるぞ」
吸血鬼「ううむ、まだまだ調子が戻らん」ジュゥ…
盗賊「……おいっ! 拘束が……っ!」
【傭兵の実力】
キメラ「ガアァァ!」ブオンッ
傭兵「いいっ!?」
吸血鬼「しまった」
盗賊「余計な死者を出してしまったか…………避けただと?」
傭兵「あのクソ盗賊めぇええぇぇ!!」ズバッ
キメラ「ガ……ア……」ザァァァ……
吸血鬼「おお、コアを斬って破壊したぞ。中々やるなあ」
盗賊「……」
キメラ「――――」シュゥゥ
傭兵「……全部砂になって消えるなんて何か可哀想なやつ」
【ちょっとだけ評価を修正】
傭兵「おいこらてめえら! 死にかけたぞ!」ヒィ…ヒィ…
吸血鬼「死んだと思ったぞ」
盗賊「生きてるから別にいいだろ」
傭兵「……この鬼! 悪魔!」
吸血鬼「我輩は吸血鬼だ!」
傭兵「知ってるわ!」
盗賊「(……思いも寄らぬ拾いものは吸血鬼だけじゃなかったか)」
【物質的な報酬を所望する】
傭兵「さっきの以外、魔物はいないな。罠らしきものは吸血鬼がぶっ壊してるし」
盗賊「さっきの魔導獣は番犬のようだな」
傭兵「あんな凶暴な番犬がいてたまるか」
吸血鬼「甘いもの食べたい」
傭兵「お前はマイペースだな……」
盗賊「さて、最深部か。そして何かがあるな」
傭兵「マジで? 宝物か?」
吸血鬼「この冒険が我輩たちの宝物だ!」
傭兵「ちょっと黙らっしゃい」
吸血鬼「…………」
盗賊「お前の取り分だ。これをやる」ヒョイッ
傭兵「うおおっ! お前、いいヤツだなあ!」
盗賊「(……いいヤツは『悪魔の契約』で心臓を奪ったりしないと思うが)」
【確信犯(誤用)】
吸血鬼「…………」
傭兵「それでこれは何だ? また随分と小ぶりなナイフだな」
吸血鬼「…………」
盗賊「魔力のこもったナイフだ」
吸血鬼「…………」
傭兵「おお! 売ればいい値段になりそう」
吸血鬼「…………」
傭兵「黙っててもうざったいな! もう喋っていいから!」
吸血鬼「お、もう喋っていいのか。そのナイフ、呪われてるな」
傭兵「へあ?」
吸血鬼「そんなのに人の血を吸わせたら、人間なら心を乗っ取られて気が狂うだろうな」
傭兵「いやあぁぁ!」ブンッ
盗賊「(呪われているのは分かっていたが、そこまでとはな)」
【傭兵は呪われてしまった!】
傭兵「はっ、思わず投げ捨てちまったが、売るなら問題ないよなっ」
傭兵「あれ? 今、このナイフ投げたよな?」
吸血鬼「投げたな」
傭兵「なんで俺の手に握られてるんだ?」
吸血鬼「気に入られたんだな」
盗賊「この調子だと売っても戻ってくるだろ」
傭兵「ひいっ……」
デロデロデロ-ン…!
傭兵「な、なんか嫌な音楽が聞こえたぞ!」
吸血鬼「ははは」
盗賊「それに、少しでも鑑識がある商人ならそんなもの買い取るどころか引き取り料を取るかもな」
吸血鬼「見るからに禍々しいもんなあ」ハハハ
傭兵「ちくしょぉおお! テメェらあぁぁぁああ!!」
【チョロい吸血鬼】
傭兵「テメェ、こんなもん渡しやがって! 許さねえ!」
盗賊「使いこなせれば悪いものでもないだろ。上に戻るぞ」
吸血鬼「なあなあ、我輩には何かないのか?」
盗賊「……この冒険の思い出が一番の宝物だろ?」
吸血鬼「それもそうだな!」
傭兵「それでいいのかよ……」
盗賊「(さて、もう一つ危険なものがあったが、どうしたものか。俺の手には余りそうだ)」
吸血鬼「腹減ったなあ」
傭兵「うう……くそ……」
盗賊「(……まあいい。しばらくは俺が持つか)」
【嘘をつけない傭兵】
傭兵「疲れた……濃い日が続くぜ」
盗賊「良かったな」
傭兵「良くない! そもそもお前のせいだコンニャロー!」
盗賊「……」
傭兵「……俺には、帰りを待つ超美人な嫁さんと、俺を尊敬してやまない息子と、俺のことが大好きな娘がいるんだよ。頼む、返してくれよぉ……」
盗賊「お前、嘘をつくとき、眉を寄せるのやめた方がいいぞ」
傭兵「えっ!?」
盗賊「嘘だけどな。とにかく、しばらく付き合え」
傭兵「……しばらくってどれくらい?」
盗賊「俺が死ぬまで」
傭兵「おいてめえごるぁ!」
吸血鬼「なんだ!? 楽しい話か!?」
傭兵「切実な話しだごるぁ!」
【下僕】
盗賊「おい下僕、掃除しろ」
盗賊「おい下僕、料理しろ」
盗賊「おい下僕、洗濯しろ」
盗賊「おい下僕、扉を直せ」
盗賊「おい下僕、井戸水くんでこい」
盗賊「おい下僕、食料狩ってこい」
傭兵「こんなん下僕じゃねえ! 奴隷だ!」
傭兵「あんにゃろう……いつか絶対に泣かす!」
傭兵「絶対に同じ目に遭わせてやるからなあ……」
盗賊「奴隷というよりは下僕の扱いだろ」
傭兵「……聞いてましたか」
【ハート鷲掴み】
傭兵「いてえ……心臓がいてえよ……」
吸血鬼「なんだなんだ恋かっ! 恋なのかあ!?」ズイッ
傭兵「物理的に痛いんだよ! 握ってるのは野郎だよ!」
吸血鬼「もしかして……我輩、そういうのは……」ササッ
傭兵「はあ!?」
吸血鬼「ずっといい友だちでいような」
傭兵「なに勘違いしてやがる、おいこら」
【目の前のタスクにフルコミット】
傭兵「なんで俺が家の掃除を……」
~~~
傭兵「もう少しここは綺麗にしたい……もうひと頑張りだ」ゴシゴシ
傭兵「なんで俺が扉の修理を……」
~~~
傭兵「継ぎ接ぎの木目が合わないのは気に食わん。もっと自然になるやつを選別せねば」ウ-ム
傭兵「くっそ、なんで俺が食料調達に……」
~~~
傭兵「よっしゃあ! 大物捕まえたぞー!」
傭兵「なんで俺が料理を……」
~~~
傭兵「うーん、この魔物の骨、いいダシが出るなあ。明日からも狙っていこ」
吸血鬼「傭兵は仕事熱心だなっ」
盗賊「単純バカなだけだろ。扱いやすくていいが」
【でも呼び方は下僕です】
吸血鬼「傭兵をしてるならいっぱい戦争に参加したのか?」
傭兵「今の時代、兵士といったら基本的に傭兵だからな」
盗賊「ナイフをメインに戦うお前が戦争でやってけるのか」
傭兵「一芸を磨いて特殊な状況で活躍するんだよ」
吸血鬼「かっこいいなっ」
盗賊「要するに、首を素早くかっ切って殺すんだろ」
吸血鬼「暗殺者というやつかぁ」
傭兵「ふっ、勇者と呼んでくれてもいいぞ」キリッ
盗賊「バカが一番似合うぞ」
傭兵「ひでえ」
吸血鬼「我輩の呼び方はっ?」ズイッ
盗賊「アホ」
吸血鬼「アダ名だなっ」パア
傭兵「喜んじゃうかあ」
【油断大敵】
盗賊「お前、暗殺者は向いてないな」
傭兵「はあ!? 俺ほど華麗に首を飛ばせる男はいねえぞ!?」
盗賊「俺に防がれたじゃないか」
傭兵「うぐっ! あれは他の奴らが弱すぎだし、相手が一人だから油断したんだよ!」
盗賊「しかも毒であっけなく瀕死に」
傭兵「うぐぐっ! 思ってもみない相手にナイフが簡単に捌かれて動揺したんだよ!」
盗賊「あげくには無様な命乞い」
傭兵「やめてー! 死にたくなかったのー!」
盗賊「傭兵よりは下僕がお似合いだな」
傭兵「お前は盗賊より悪魔がお似合いだよ!」
盗賊「そうか、じゃあ悪魔らしく心臓を握り潰してくれる」キィィ
傭兵「ぎゃああぁぁっ! うぞでずぅぅ! いだぃぃぃいい!」ジタバタッ
【呪われたナイフに死ぬほど愛されて眠れない傭兵】
傭兵「地中に埋めても手元に戻ってくる」
傭兵「吸血鬼に渡しても戻ってくる」
傭兵「どうすればいいんだあ!」
傭兵「そうだ、発想を変えよう!」
傭兵「このナイフは俺のことが大好きで大好きでしょうがないヤンデレな美少女なんだ」
傭兵「俺のことが好き過ぎて、ずっと一緒にいようとしたがるんだ」
傭兵「しかも愛が深過ぎて、俺の血を吸おうとしたり、精神を乗っ取ろうとするんだ」
傭兵「……」
傭兵「いや怖えよ!」
ヒュンッ
傭兵「ひいっ! こ、怖くないよっ! 嘘ですっ!」
【感染症の恐れはないです】
傭兵「吸血鬼って血が好きなんだよな」
吸血鬼「嫌いではないぞ」
傭兵「やっぱり牙でがぶっと噛んで飲むのか」
吸血鬼「そんなの失礼だろ!」
傭兵「え?」
吸血鬼「こんな感じに能力で作った管を使って血を採るんだ」シュルッ
傭兵「へえ、痛そうだな」
吸血鬼「痛くないんだなこれが。さらに痛み止めになる成分も出すぞ」
傭兵「や、優しい」
吸血鬼「ただ、この成分には大きな問題があってだな……」
傭兵「な、なんだ? 目を覚まさなくなるとか?」
吸血鬼「しばらく血を吸った箇所が痒くなるらしい」
傭兵「蚊ですか?」
【血液童貞】
傭兵「血にも美味いとか不味いとかあるのか」
吸血鬼「そうだなあ……若い血の方が美味いな。あとメスの血の方が鉄臭くないからマイルドで美味い」
傭兵「若い女の血はご馳走なのか。美少女を狙って襲ったりしてたんか」
吸血鬼「昔の記憶はないがそれはないだろうな」
傭兵「なんで言い切れるんだ?」
吸血鬼「我輩は知識として美少女の味を知らん。ほとんど味わったことないのだろう」
傭兵「なんか別の意味に聞こえるな」
吸血鬼「そもそも人間の女の味を知らん。吸わせてもらうのが恥ずかしいからな」
傭兵「童貞かな?」
吸血鬼「そういえば人間の血をこうして復活する時に初めて飲んだ」
傭兵「お前、ホントなんで封印されたの?」
【魔物の階級】
傭兵「いいか、この世界の魔物には危険度別に級がついているんだ」
傭兵「まずは最下級。スライムや、角兎とかの、日常的な食料や、衣類に使われる魔物が含まれる。人間の生活を支える大事な存在だ」
傭兵「続いて下級。ここまでが一般人が、素手、もしくは軽装でも退治できる級で、数も種類も多い。もちろん数が多い時は、専門家を雇った方がいい」
傭兵「中級以降は、武装しないとまず戦えない。まあ、中級なら集団でボコれば、一般人でも勝てないこともないが、国の兵士やギルド経由で傭兵や冒険者を雇うのが現代的よ」
傭兵「上級と中級の差が激しいし、俺たち専門職が一番相手にするのはこの級だから俺たちの間では更に、中A、中B、中Cとも分類することもある」
傭兵「上級は一体に対して専門家が集団で、罠を張ったり、策略を巡らせて何とか倒す強さだ。俺も巨人と小型の竜の二回しかやり合ったことがない」
傭兵「この前の地下の魔物もかなり強い上級に分類されるだろうな」
傭兵「上級より危険なのが超上級。この級が出現したら、戦争と同じ程度の兵が出る。大型の竜や、黒獅子などの天災に匹敵する魔物が分類されるな。近年で報告されたのは十年近く前だ」
傭兵「そして最後は伝説級だ。吸血鬼など伝説に残っているだけで本当に存在するか分からないような眉唾が含まれる」
吸血鬼「我輩か」
傭兵「まあ、この前のを見た限り、へたな上級よりよほど強いのは間違いないな」
吸血鬼「さすが我輩」フンスッ
【吸血鬼は伝説級の魔物】
盗賊「昔のことは何も思い出せないのか?」
吸血鬼「そうだなあ」
盗賊「あれだけの封印だ。吸血鬼という以外にも何かをしたんだろう?」
盗賊「(そうは言っても割りに容易く破れたが)」
吸血鬼「うーん……」
盗賊「何でもいいぞ」
吸血鬼「うーん……あっ!」
盗賊「なんだ?」
吸血鬼「……おっぱい!」
盗賊「はあ?」
吸血鬼「おっぱい揉みたかった……あれ? これは封印後の願望か?」
盗賊「……」ハァ
【我輩は吸血鬼である】
吸血鬼「我輩は吸血鬼である」
吸血鬼「記憶はまだ戻らない」
吸血鬼「何をしていたかとんと見当がつかぬ」
吸血鬼「薄暗いじめじめした所でおっぱいおっぱい泣いていた事だけは記憶している」
吸血鬼「吾輩はここで始めて人間というものの血を吸った」
吸血鬼「しかもあとで聞くとそれは盗賊という人間中で一番獰悪な種族であったそうだ」
吸血鬼「……どうせなら初めては美少女がよかった!」ブワワッ
傭兵「マジ泣き!?」
吸血鬼「まあ、復活できたから万々歳! 生きるのは最高だ!」ブイッ
傭兵「ポジティブだな!?」
【魔法にも準備がいる】
傭兵「吸血鬼は魔法を使えるんだよな」
吸血鬼「お茶の子さいさいだ」グッ
傭兵「女の子を惚れさせる魔法とか」
吸血鬼「知ってるぞ」
傭兵「おお! 教えてくれ!」
吸血鬼「そうだなあ……ちょっとこっち来てくれ」
傭兵「……?」
【いいえ、魔法です】
吸血鬼「まずは相手の正面に立つ」
傭兵「実演か? 本当にかけないでくれよ」
吸血鬼「瞳をじっと見る」
傭兵「瞳術ってやつだな。聞いたことあるぞ」
吸血鬼「次に手をこうして上げた状態で肘を曲げる」
傭兵「そういう印の組み方か?」
吸血鬼「そして相手を挟んで壁におしかかる」ドンッ
傭兵「は?」
吸血鬼「そして呪文を詠唱――『お前、俺のモノになれよ』」
傭兵「……壁ドンは魔法じゃねえ!」
吸血鬼「似た魔法として顎をクイッとするものもある。これなら壁がなくてもできるぞ!」クイッ
傭兵「顎クイッも魔法じゃねえよ!」
【アホの子】
盗賊「そもそも魔法には適性があるからな」ヌッ
傭兵「う、見てたのかよ……」
盗賊「最初からな。お前みたいな知性の欠片もなさそうなやつでは無理だな」
傭兵「ぐぬぬ……! それを言うなら吸血鬼だって」
吸血鬼「ん?」バササッ
盗賊「こいつは人外だ。人間と吸血鬼の違いも考慮しないなんて本当にお前はバカなんだな」
傭兵「ぐぬぬ……!」
吸血鬼「我輩、遠回しにバカにされた?」
盗賊「お前はバカでなくアホだ」
吸血鬼「それなら何も問題ないなっ」グッ
傭兵「問題あるのはお前の頭だアホっ!」
【嘘を嘘と見抜けない(ry】
吸血鬼「だが、人間の男は誰でも魔法使いになる素質があると伝承で聞いたぞ!」
傭兵「な、なんだって?」
盗賊「女と一切の縁を断ち、鬱々とした感情を溜めたまま三十路を超えると魔法が使えるようになるという伝説だな」
傭兵「やっぱりまほうつかえなくていいです」
盗賊「そのくせそういうやつらは年取ると大体はっちゃけたエロジジイになるから救えない」
傭兵「魔法使いのジジイがスケベジジイばかりなのはそういうことだったのか!?」
吸血鬼「しかもそういうタイプの奴の魔法は尻から出るらしいぞ」
傭兵「マジで!?」
盗賊「つまり、いい歳したオッサンで、魔法を尻から出してるやつには優しくしろということだ」
傭兵「ほ、ほんとかよー?」
盗賊「嘘だ」
傭兵「嘘かよっ!?」
【最強に憧れる年頃】
盗賊「現在の魔法について知りたい?」
吸血鬼「うむ」
盗賊「……別に専門家ってわけじゃない」
吸血鬼「でも傭兵よりは詳しいだろう。『悪魔の契約』を使えるくらいだ」
盗賊「そうだな……魔法の原理なんかは省くが……お前が思ってる以上に魔法が使える人間が多くなった」
吸血鬼「そうなのか」
盗賊「魔法についての研究が進んでる成果だな。アプローチは色々とあるが、つい近年まで盛んだったのは、魔導の研究だ」
吸血鬼「そうそう、魔導とはなんだ? ここの地下とも関係してるんだろう?」
盗賊「……とある賢者によって始められた研究だ。簡単に言えば最強の存在を生み出す研究だ」
吸血鬼「おお、最強か! かっこいいな!」
盗賊「……しかし魔導における実験はあまりに非人道的との理由で禁止された」
吸血鬼「おお?」
盗賊「それに合わせて魔導研究も衰退、今もっとも盛んなのは魔法道具についてだな」
吸血鬼「そうか……最強、かっこいいのにな」ショボン
【108つあるぞ!】
傭兵「淑やかで本と絵が好きな深窓の令嬢」
傭兵「ある日、家の取り決めで結婚させられそうになる。結婚をすればさらに自由がなくなることは明白。彼女は鳥籠に閉じ込められているような窮屈な自分を自覚し始める」
傭兵「恣意に屋敷の外に出ることも許されない彼女であるが、結婚を前に少しでも外の世界を知りたかった。そして母と喧嘩したある日、召使いの目を盗んで外の世界に飛び出た」
傭兵「しかし、すぐに悪漢に絡まれてしまう」
傭兵「そこに颯爽と現れた俺」キリッ
傭兵「悪漢を優雅に倒す俺の姿に、彼女は一目惚れ。それから人目を忍び、睦をかわす二人。時に耽美な詩について談義を交わし、時に異国の地の話をする」
傭兵「しかし、望まない結婚の日は無情にも近づいてくる」
傭兵「二人の胸は張り裂けそうになり、であるからこそ、愛おしさは募っていく」
傭兵「そして結婚式前夜に、俺は令嬢を訪ねる。もちろん彼女を連れ去るために」
傭兵「そして彼女も言う。『あなたと共にいきたい』」
傭兵「そして二人は、人知れぬ小さな教会で永遠の愛を誓う」
吸血鬼「おー!」パチパチ
盗賊「普段からそんなことばかり妄想してるのか……?」
次回はストーリーが進むはずだ
傭兵「しっかし、こんな辺鄙なところに二つもダンジョンがあるとはなぁ」
吸血鬼「気になってたんだがダンジョンとはなんだ?」
盗賊「今は亡き文明の遺跡や自然的に生まれた洞窟などを指す言葉だ」
傭兵「宝物があるとか言われるんだが、基本的に魔物とうじゃうじゃいるとか罠があって大変なのよ」
盗賊「しかも、ダンジョンの中にはかなり不思議な言い伝えがあるものも多くある。魔物の存在と関係のあると言われているものだとか」
傭兵「超有名な『生命の塔』か」
吸血鬼「なんだかかっこいいな!」ワクワク
傭兵「わくわくするよな……俺も一応冒険者もやってるしな。全然稼げないから傭兵稼業ばっかだけど」
盗賊「それで食い扶持として盗賊団を狩ったりしてたと」
傭兵「そういうこと」
吸血鬼「なあなあ、我輩たちもダンジョンを後略しよう!」
盗賊「今はそれよりも面白い事案があるぞ」
吸血鬼「おお?」
盗賊「これだ」ピラッ
傭兵「うおお!」バッ
盗賊「『止まれ』」
傭兵「…………っ!」ピタッ
盗賊「思わず止めたが、これを取ってもお前じゃ契約は破棄できないからな」
吸血鬼「悪魔の契約か」
盗賊「これはこの前に、商人隊を襲った時に手に入れた」スッ パチンッ
傭兵「あー、くそ忌々しい」ギリッ
吸血鬼「そんなにありふれたものになっちゃったのか」
盗賊「そんなわけないだろう。貴重で危険なものだ」
傭兵「けっ、なんでそんなのをこんな道を通る商人が持ってるんだよ」
盗賊「そう、それだ」
吸血鬼「おお?」
盗賊「この道は入り組んでいる上に、山深くて薄暗い道だ。他にも道がわざわざあるのにここを通った」
傭兵「……お天道さんに顔向けできないようなものを運んでたのか。実際、『悪魔の契約』なんて明るみに出たら大事だよな」
盗賊「まず所持が禁止されてる魔装だしな」
吸血鬼「そんなものを取引するとなると、相手は、豪商か貴族か。悪魔の契約は色々と使い道があるからなあ」
傭兵「ギルドのお得意様のお得意様ねぇ……」
盗賊「商人隊の行先は西部領だった」
傭兵「……西部領か。西部領の貴族……まさか領主さまじゃないよな?」
盗賊「さて、どうだろうか。この魔道実験所の事といいキナ臭いにもほどがある」
吸血鬼「キナ臭さのメガ盛りだなっ」
傭兵「盗賊団を壊滅させて『悪魔の契約』を回収しようとしたのか? だけど、俺はそんな悪魔の契約なんて聞かされてないぞ」
盗賊「場所はお前がこうしてここに来れたように割れてるんだ。取り敢えず盗賊団を潰しておきたかったのだろう」
吸血鬼「色々と見られたくないものを運ぶのに都合が良さそうだからなっ」
盗賊「入り口が隠され、罠が多数あるにせよ、近頃まで使われた形跡のある魔導実験所の跡地もあった」
傭兵「……アンタのお仲間もよくこんな良いところ見つけたよ。実際は手に負えないようなものがたくさん隠された場所だったけどさ」チラッ
吸血鬼「我輩の顔に何かついてるか?」
傭兵「……しかし、別に卑下してるわけじゃないが俺単独で壊滅できるような相手だ。よく今まで倒されなかったな」
盗賊「…… 前にも王都からも討伐隊が来たようだが、地の利を生かしてなんとか撃退したようだ」」
傭兵「なるほど、独りだったから察知されなくて有利に運べたわけか」
盗賊「こんな戦乱の時代だしな、後回しにされたのかもしれない」
吸血鬼「戦争! 争いや戦いはよくないなあ、うん!」
傭兵「俺の飯の種なんだけどな」
盗賊「……」
吸血鬼「戦いといえば、少し離れたところで複数の馬の足音がするぞ」
「「!?」」
襲撃者A「あそこの元櫓だ。俺たちが先に行く」
襲撃者B「櫓ね。修理はされてるみたいだが、昔はもっと高かったのか?」
傭兵「そうなんじゃね?」
襲撃者A「なっ……」
ザシュッ ザシュッ
傭兵「二人……っと!」バッ
ザクザクッ
傭兵「うおっ、あっぶね!」
ドサッ
傭兵「(……ボウガン野郎はあっちが上手くやったか。吸血鬼曰く、あと六人……多いな)」
ヒュオッ
傭兵「っ!」キィン!
襲撃者D「……死ね」ブオンッ
傭兵「ぐっ……」
ブンッ ヒュオッ カンッ
傭兵「(こいつ強い……!)」
ザッ
傭兵「(後ろからもか……! 仕方ねえな……っ!)」ブンッ
襲撃者D「投げナイフなぞ無駄だ!」キンッ
傭兵「(それは囮だ! 俺の技を食らえ!)」ヒュヒュンッ
襲撃者D「(またか! これくらい簡単に捌ける!)」キンッ
ズドッ
襲撃者D「(同直線上にもう一本のナイフ……っ!?)」ガハッ…
傭兵「(躱す余裕のない奴には騙しうちってな……といってもどうしても丸腰になってしまう)」
襲撃者D「へっ……」ニヤッ
襲撃者E「(新たなエモノを構える時間も与えねえ! 丸腰のまま死ね!)」ブンッ
ヒュオッ…
グサッ!
襲撃者E「っな……!?」ゴフッ
傭兵「残念だったな」
襲撃者E「(な、なぜナイフが手に……)」フラッ
傭兵「殺されそうになるほど愛されすぎて、投げても戻ってくるんだよ」
傭兵「(呪われたナイフを使っちまったが……これで四人)」
アッ…!?
グフッ……!!
傭兵「いや、あと二人か」
ドサッ
傭兵「……あと一人。あいつ、やっぱり強え」
ザザザ……ッ!
傭兵「逃げたか。だが残念、そっちには最強がいるぞ」
バキキ……!
ヒィィ!?
襲撃者I「ば、ばけもの……!」
吸血鬼「がおー」
襲撃者I「ひいっ……」
盗賊「そこまでだ。大人しくしろ」
傭兵「逃げ道はないぜ」
襲撃者I「……っ」
盗賊「誰の命令でここまで来た?」
襲撃者I「それは……」
傭兵「言えば、この場で死ぬことはないぜ? (多分)」
吸血鬼「がおー」
盗賊「黙ってろ」
吸血鬼「…………」ショボン
襲撃者I「……っ、俺はただギルドの依頼で来ただけだ。何も知らねえ!」
傭兵「……俺と同じか」
盗賊「……傭兵、先に戻って夕飯でも作ってろ。吸血鬼もな」
傭兵「……へーい」
吸血鬼「野菜スープがいいぞ! 塩の分量が大切なんだ! 水に対してな――」
傭兵「はいはい……」
襲撃者I「くっ!」ガッ
盗賊「……馬鹿が」キンッ
襲撃者I「っ!」ドンッ
盗賊「まだお前には用があるんだよ、無力化させてもらう」ギチッ
襲撃者I「ぐぅ……」
盗賊「お前の立ち位置、アホ吸血鬼がいなければ確実に逃げられていた。それにお前の装備は他のヤツとはかなり質が違う。ただの傭兵じゃない……西部領の貴族か?」ギチチッ
襲撃者I「……ぐっ、悪魔の契約を渡せ! あれは……っ!」
盗賊「ほう……あれほどの危険なものをどう使うつもりだ? 『第一級危険魔装』ということは知ってるだろう?」
襲撃者I「それは……」
盗賊「……別に、もう口を割らせるつもりもない」ギチチッ
襲撃者I「……なんだと?」
ニュルル……
襲撃者I「ひっ……! な、何を耳穴に……ぐぅ……!?」モガモガッ!
盗賊「あまりギャアギャア騒がれるのも嫌いなんだ。死なれても困るし布でも噛んでろ」
ウゾウゾ……
襲撃者I「ぐぅぅぅううっ……!?」バタバタッ
盗賊「『本の蟲』って知ってるか? まあ、普通知らないんだが」
ニュロロ…ズルル…
盗賊「ソイツは人間の頭にある記憶を喰べる。とはいっても全部ではなく、直近の記憶を断片的に。頭の中を蟲が蠢くのは響いて気持ち悪いだろう? 本来は意識が混濁した相手に使うんだ」
グチチ…ズグォ…ゴゴォ…
襲撃者I「ぅううぅぅうう……!」ジタバタ
盗賊「まあ、本当の蟲ではないから安心しろ。情報を得るために造られた魔装だ」
襲撃者I「…………っ」ピクピクッ
盗賊「……気を失ったか」
ニュロロ…グチグチ…
盗賊「……そろそろいいか。聞こえていないだろうが、本の蟲の出し方だ。まあ、これが手っ取り早い」ヒュッ
バツンッ
襲撃者Iの首「」ゴロッ
盗賊「これならそんなに痛くないだろ。お互い良いことづくめだな」
盗賊「……後片付けをしないとな」
傭兵「おう、随分と遅かったな。出来上がってるぞ」
吸血鬼「今日の夕飯は昨日手に入れた大怪鳥の卵と、仲良くなった獰猛牛の乳から作ったチーズ、それから厚切りベーコンをのせたトーストだぞ」
盗賊「美味そうだな」
傭兵「早く飯にしようぜ」
吸血鬼「野菜スープもいい塩梅だ! 最高だぞ!」
盗賊「……ああ」
吸血鬼「ところであの魔装すごかったなー」ズゥ…
盗賊「……聞いていたのか。そういえば索敵はお前の耳でおこなったな」
傭兵「ん?」モグモグ
盗賊「飯の時間にするような話じゃない」
傭兵「そんでこれからどうするんだ? まだここにヤサにするのか?」
盗賊「いや、移動する」
吸血鬼「おおー、冒険か!」
傭兵「どうしてまた?」
盗賊「口を割らせたが、どうも事態は芳しくないようだ」
吸血鬼「どこだっ? どこのダンジョンに行くんだっ?」
盗賊「ダンジョンには行かない」
傭兵「コイツがそんな危険なことするわけないだろぉ」
盗賊「おそらくもっと危険だ」
傭兵「なにぃ!?」
盗賊「結論から言おう」
吸血鬼「おお、一度は言ってみたいセリフだなっ。『結論から言おう』」
傭兵「分かるわ。あと『くっ、右腕が……! 鎮まれ……!』も言ってみたいよな」
盗賊「……心臓」
傭兵「続けてください」キリッ
盗賊「目指すのは西領主の城だ」
吸血鬼「おおっ!?」
盗賊「この地下の魔導実験の黒幕はおそらく西領主だ」
盗賊「そして悪魔の契約の取引相手も」
盗賊「そして、その二つにはある繋がりがある」
傭兵「繋がりって、どんな?」
盗賊「……そこまでは分からなかった」
吸血鬼「どう見積もってもいいものではないな」
盗賊「だが、このままにもしておけない」
傭兵「はあ? 正義の味方でもやるつもりかよ? 盗賊のくせに?」
吸血鬼「正義の味方か! かっこいいなっ」
盗賊「……そんなつもりはない」
傭兵「じゃあなんで?」
盗賊「……特に意味はない」
吸血鬼「やってみたいなあ。意味深な感じではぐらかすの」
傭兵「分かるわあ。隠す気ないのに勿体振るやつな」
吸血鬼「やられる方からしたら、ちゃんと言えようって感じな」
傭兵「構ってちゃんかよ」
盗賊「……」キィィ…
傭兵「あいだだだだだだっっ!! じぬっ…! 調子のってずみばぜんでじだぁぁぁあああ!! じんじゃゔぅぅぅぅうう!!」ジタバタ…
吸血鬼「おっとと、せっかくのご飯が落ちたらもったいない」パシッパシッ
翌日
ヒュゥゥ……
大怪鳥「ゲェェエエエエ!」バサッバサッ
傭兵「いやあ、空を飛ぶってのは気持ちいいねえ」
盗賊「大怪鳥を使役するとはな……」
吸血鬼「ははは、ちょっとケンカしたら友だちになっただけだ!」
大怪鳥「ゲェェ……」
盗賊「まあ、魔物は力関係を非常に重視するからな」
傭兵「(昨夜食べた大怪鳥の卵って、もしかして……)」
吸血鬼「我輩も一緒に飛びたくなってきたぞ!」ズザザ…
盗賊「目立つからやめろ。血の翼をしまえ」
吸血鬼「わかった」ショボン
傭兵「(しかし、ほんといつになったら俺は解放されるんだか)」ハァ…
盗賊「……西領主の城がある街までもう少しだな」
傭兵「早いねえ。歩いたら何日かかったことやら」
吸血鬼「このまま西領主の城に突撃か!?」
盗賊「そんなわけないだろ。もう降りるぞ」
大怪鳥「ゲェェェエエ!」
吸血鬼「元気でなー!」ブンブン
傭兵「ここから目的地までどれくらいあるんだ?」
盗賊「……日が暮れる前には着くはずだ」
吸血鬼「チャキチャキいくぞーっ」
傭兵「最初の問題はどうやって街の関門をくぐるかだな」
吸血鬼「 門番か」
傭兵「俺は冒険者ライセンスを持ってて、まだギリギリ期限切れしてないから多分入れるけど」
盗賊「お前はスタンダードだったか? スタンダードなら同行できる非冒険者はいないな」
傭兵「やっぱり持ち物は把握済みか……」
盗賊「お前の実力ならシルバー、最低でもブロンズだと思うがな」
傭兵「シルバーに出来たんだけど、契約料も更新料も高いからスタンダードにしてんの」
吸血鬼「なあなあ、ライセンスってなんだ?」
傭兵「冒険者ギルドが発行してる、冒険者であることを証明するもんだ。特殊な材質と魔法でできているから偽造できないんだ。これがあればかなり手堅く関所を通過できるぞ」
吸血鬼「おお……我輩も欲しいぞっ」
盗賊「試験がある。それとギルドと契約するのにかかる諸々の費用を用意しなければいけない」
吸血鬼「おお……めんどくさくなったぞっ」
傭兵「関所通れる以外にも色々と特権が付くからその点では便利だけどな。ギルド傘下の宿とかレストランとかは割引される事も多いな」
盗賊「世界一規模の大きいギルドだから、色んなところに権力もってるのも特徴だな。手続きだのの面倒事は減る」
吸血鬼「そうなのか……あと、さっき言ってたシルバーとかブロンズとはなんだ?」
傭兵「冒険者のランクだ。まあ要するに冒険者としての実力を表すもんだ。スタンダード、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナの順でランクが上がってく」
盗賊「高いランクほど、特権が増える。入場が制限されているダンジョンに入れたり、転移法陣の使用可能数が増えたりとかな」
吸血鬼「おお? また知らない言葉が出てきたぞ」
傭兵「転移法陣は特定の場所から特定の場所に移動する手段だ。とはいうものの、使えるのはシルバー以降、自由に使えるのはゴールド以降さ」
吸血鬼「主はシルバーになれたのではなかったのか?」
傭兵「シルバーが一番金がかかるんだよ。シルバーだと騎士階級とかもいるんだぜ? 驚くだろ?」
盗賊「シルバーの蔑称は『金食い虫』だからな。ブロンズは『器用貧乏』」
傭兵「そのくせ、ゴールドになるとむしろブロンズより安くなるっていうね。期限も長いらしいし……まあ、ゴールド以上なんてほっとんどいないらしいけどな。見た事もない」
吸血鬼「我輩は、プラチナライセンスをとるぞ!」
盗賊「プラチナは名誉会員だからな……取得を目指すならまずは手続きにかかる金を集めないとな」
傭兵「お、街が見えてきたぜ。どうするんだ」
吸血鬼「姿を透明にすればいいんじゃないか? うん、名案だ」
傭兵「いやいや、こういう街には魔除けの結界があるし、特に関所には魔法に反応する結界があるんだよ」
吸血鬼「そうなのか? 時代は変わったのだなあ」
盗賊「さすがにこのアホを弾いたりする結界はないだろう。アホ、お前は魔法で透明になれるのか?」
吸血鬼「できるぞ。吸血鬼に不可能はなぁい」
傭兵「ほんと万能だなオイ」
盗賊「……まずは下僕がライセンスを使って通過しろ。それから吸血鬼、透明になって上空から街に入れ」
傭兵「……お前は?」
盗賊「なんとでもなる」
傭兵「そうっすか」
傭兵「はーい、どうもー。街に入れてくださいな」
門番「……身分を証明するものは?」
傭兵「はいはい、冒険者ライセンス。目的は冒険の補給です」
門番「……滞在期間は?」
傭兵「えーと、三日かな」
門番「……こちらの用紙の記入事項に記入し、署名を」
傭兵「ああー、はい。字はあまり書けないんで読み辛くても勘弁してくださいな」カリカリ
門番「(学があまりない冒険者……見た目通りの典型的なスタンダードクラスだな)」
傭兵「はいはい、書きました」
門番「では通過料を」
傭兵「……へーい」
門番「武器はこちらの預かりとなる。原則禁止だ」
傭兵「……はいはい」コトコトコト
門番「身体検査と荷物検査を行う」
傭兵「はあ……」
傭兵「(武器を持ち込みたきゃお布施が必要だぜ。後で盗賊やろうに通過料、滞在料もろともせびってやる)」
傭兵「はい、これ」チャリンッ
門番「(……この端金で入ろうなんて、こいつ相場の知らない素人か?)」
傭兵「あ、二本でいいから。これははあげる」スッ
門番「(……綺麗なナイフだな、いい値になりそうだ)」
門番「……中にどうぞ」
傭兵「どうも」カチャ、カチャ
傭兵「……そんで気付くと呪われたナイフは俺の手元にあると。節約節約」
吸血鬼「やあっ」ピョコッ
傭兵「……おう、大丈夫だったのか?」
吸血鬼「何もなかったぞ。魔除けもないし魔物にも住みよい街だな」
傭兵「……これくらいデカい街だと普通あるんだけどなあ」
吸血鬼「それよりも宿を取れと彼奴は言ってたぞ」
傭兵「冒険者ギルドの運営する宿に行くか……はあ、大分お金がなくなっちまったな」
吸血鬼「あと彼奴からお金を預かってきたぞ」
傭兵「うおっ!? なんだこの額、多いな!?」
吸血鬼「そうなのか?」
傭兵「……アイツ、やっぱりただの盗賊じゃねえな。強さも知識もその辺の奴らとは格がちがう」
吸血鬼「スーパー盗賊だなっ」
傭兵「なんじゃそりゃ」
傭兵「さて、宿も取ったし酒場かな」
吸血鬼「おお! 酒盛りか!」
傭兵「ふへへ、この額があれば、いくらでも飲めるぞ……後で返せと言われても困るし、使い切ってやるぜ」
吸血鬼「お、あの人きれいだぞ」
傭兵「んー、まあまあだな。もっと都会に行けばあれくらいゴロゴロいるぜ」
吸血鬼「そうかあ……充分きれいだと思うけどなあ」
傭兵「お、あの娘、清楚でいい感じ。お、隣の初心そうな娘もいいねえ」
吸血鬼「ああいうのが好みなのか」
傭兵「花盛りな娘はやっぱ可愛いだろ。ほとんど汚れを知らない清純そうな顔もいいよな」
吸血鬼「ロリコンってやつか!」
傭兵「ろりこんではないです」
吸血鬼「我輩はおっぱいの大きなお姉さんが好きだぞ」
傭兵「もちろん俺も大好きだ」
情報屋「おう、いらっしゃい。どこでここを?」
盗賊「昔も来たことある」
情報屋「……ああ、お前さんか」
盗賊「西部城の情報が欲しい」チャリンッ
情報屋「へへ……毎度」
盗賊「見取り図、兵士の戦力、配置、魔装の有無だ」
情報屋「さすがに全てを掴んでるわけではねえさ。あまり期待するなよ」
盗賊「いつまでに分かる?」
情報屋「今すぐにでも」
盗賊「……」
情報屋「……最近、少しずつ街中が荒れてきたからな。需要があるわけだ」
盗賊「……すぐに供給してくれるなら文句はない」
情報屋「何か飲むか?」
盗賊「いや、結構」
情報屋「……まあ、こんなもんだ」
盗賊「……どうして警備の数がこんなにも少ない? 曲がりなりにも領主の城だぞ」
情報屋「それがどんどんと神隠しにあってるらしい。そして新たに人員を増やす気配もないようだ」
盗賊「神隠し……西領主はどうして新しく人員を補充しない?」
情報屋「さあねえ……しばらく公に姿を見せてない。病に臥してるんじゃないかと噂になってるが」
盗賊「……」
情報屋「……まあ、それと一つ面白い噂があってな」
盗賊「噂?」
情報屋「今の西部城を語る上で欠かせない、とある別嬪さんの話だ」
盗賊「……聞かせてもらおうか」
情報屋「一年前に領主様が新しい召使いを雇い入れた」
情報屋「それはもう絶世の美女と評判でな」
情報屋「実際に俺も見たことがあるが、あんなに美しい女性は見たことがない」
情報屋「更に仕事熱心な上に、優秀ときたもんで、すぐに取り立てられたらしい。老若男女問わず周りの評判もとても良かった」
情報屋「奥方様に至っては猫可愛がりしていたとも聞くな」
情報屋「その評判は街の外にも届き、彼女を目当てに街を訪れる貴族様や騎士様もいるくらいだった」
情報屋「しかし、彼女が来てから不穏な出来事が起き始めた」
情報屋「さっきも話したように、城の兵士や女中が神隠しにあったかのように姿を消し始めた」
情報屋「続いて、街でも神隠しが起き始める」
情報屋「多いのは男。とくに冒険者が多い」
情報屋「そして、その日の夜に外を出歩く例の娘が度々夜中に歩いてるのを目撃された」
情報屋「さらに消えた男と話している姿も幾度か見かけられている」
情報屋「神隠しに加えて魔除けの結界が貼られているにも関わらず、魔物が襲撃してくることが増えた」
情報屋「その娘の類い稀な美しさもあって、彼女が魔物ではないかという噂が流れ始めた」
情報屋「そういえば鏡に向かって話しかける姿を見たという話もあったな」
情報屋「しかし、それを庇うのが領主様だ」
情報屋「彼女がとても気に入っているのか、何度か人前でも彼女が無辜であることを仰っていたよ」
情報屋「だが、これもさっき言及したが、最近は領主様も姿を見せなくなった」
情報屋「病床に臥してるとの噂だが、あの娘の仕業ではないかとの噂もある」
情報屋「なにせ、奥方や太子殿も、奥方の屋敷に追い出してるような状態だ」
情報屋「その娘の手玉に取られて正気を喪ったのではないかと噂にもなる」
情報屋「絶世の佳人、消える人々、追い出された公族、魔物の襲撃の増加、娘に魅入られ、姿を見せない領主」
情報屋「そして夜な夜な見かけられる娘の目撃談」
情報屋「これだけの要素があって噂にならないわけがない」
情報屋「娘は悪魔なのではないかと噂する者も出てきて、今に至るわけだ」
盗賊「……悪魔か」
情報屋「これだけなら、街中で噂されてるものと変わらない」
盗賊「……何かあるのか?」
情報屋「……街の地図だ。赤く丸がついてるところが、神隠しが起きたか、娘が度々目撃された箇所だ」
盗賊「……っ!」
情報屋「気付いたか?」
盗賊「『竜殺しの魔法陣』か」
情報屋「そう。その節点となる魔石の辺りで神隠しにあっている」
盗賊「(結界が機能していないのはそのせいなのか……)」
情報屋「近々魔物の軍勢が攻めてくるかもしれねえと俺は読んでる」
盗賊「(魔法陣の付近で神隠し……か)」
盗賊「(結界の無力化……本当にそれだけなのか?)」
盗賊「この線で、もう少し詳しい情報を集めてくれ。出来るだけ迅速に」ザラッ
情報屋「おう」
吸血鬼「おお、あの揚げ菓子うまそうだな」タタタッ
傭兵「ふらふらすんな! ガキみたいなヤツだな……」
吸血鬼「お、あそこにも店が出てるぞ、向こうの店もうまそうだな」
傭兵「……! ほら、そんなに食いたいもんがあるなら別行動しようぜ。これだけあれば多分色々と食えるから」ピラッ
吸血鬼「おお、そうかっ! それでは行ってくるぞっ」
傭兵「おーう」
吸血鬼「また宿屋でなーっ」タタタッ
傭兵「……へへっ」
【デコピン】
吸血鬼「……何から食べるかな」ジュルリッ
「きゃあ! ひったくりよー!」
吸血鬼「むっ」
ひったくり犯「へへへ」タッタッタッ
吸血鬼「人のもの、取ったらドロボーだぞ」ピンッ
「はっ? あぐぁぁああ!?」ブオッ ゴロゴロゴロ…
吸血鬼「むむ、やり過ぎたか?」
「きゅぅ……」
吸血鬼「お、生きてた。とりあえず、持ち主に渡すか」
「ありがとうございます! お礼は……」
吸血鬼「おお、じゃあ美味しいもの教えてくれ!」
「は、はあ……」
【◯ッシュ的なね】
吸血鬼「うまい、うまい」
「か、壁が崩れるぞっ!?」
「こ、子どもたちが……!」
吸血鬼「おっとと」ガシッ
「と、止めた!?」
吸血鬼「……もう大丈夫か?」ソッ
ズシン……
「す、すげえ!」
「お兄さんありがとう!」
吸血鬼「ははは! どういたしまして」
「ああ! 息子を助けていただいてありがとうございます! 何とお礼を申し上げればよいか……!」
吸血鬼「おお、じゃあ美味しいものくれ!」
【だいたいなんでもできる】
吸血鬼「うまうま」
強盗A「さっさと宝石を全部出せや! その用心棒みたいに黒焦げになりたくなけりゃあな!」
守衛「ぅ…………」
宝石商「くっ……『ファミリー』のもんか」
強盗B「はっ、うるせー! 素直に出さねえならバラすぞ!」
吸血鬼「人のもの盗ったらドロボーだぞ、お前たち」
強盗C「あん? なんだてテメェ! 引っ込んでろ!」ボボッ
強盗D「飛ばし過ぎだっつぅの。ヤク入れすぎなんじゃねえか?」
吸血鬼「あちち……火の魔法かぁ。その道具は誰でも魔法が使えるみたいだな」シュゥ…
強盗E「なっ……」
吸血鬼「それにしても危ないぞっ」ペチンッ
ベキボキバキッ……
強盗C「ギャァアアアァァッッ!!」ビクビク
【だいたいなんでもできる2】
強盗F「お、おいっ!」
吸血鬼「反省しろ! どれ、これくらいなら治せるかな」ポゥ…
守衛「うっ……すう……」
強盗G「ぶち殺す!」
吸血鬼「……」ギロッ
宝石商「おお、おお……! これだけの強盗相手にありがとうございます! なんとお礼を申し上げればよいか」
吸血鬼「それなら食べ物をくれ! お金がなくなってしまったんだっ」
【きっと10日で3割】
吸血鬼「ご飯と一緒に宝石まで貰ったぞ。魔力を込めたら、とてもきれいになったなぁ」モグモグ…
借金取りA「おら、さっさと金出せやっ! 雪だるま式でアホみたいな額になってんねんぞ!」
父「お願いします、もう少しだけ待ってください……」
借金取りA「これ以上は待てねえって言ってんだ! 舐めとんのかワレェ!」
借金取りB「ああ。妻と娘たちは風俗に沈める」
母「や、やめてください! お金は絶対に払いますっ」
借金取りA「信用できるかごるぁ!」
長女「お父さん……」
次女「うう……」
吸血鬼「なんだなんだ、可哀想じゃないか」
借金取りA「ああん? 死にたいんかテメェ!」
借金取りB「カタギに手ェ出すな。だけど、兄ちゃん、こちとらマジメな仕事の話をしてるんだ。部外者は引っ込んでな」
吸血鬼「金かあ……この石で何とかならないか?」
借金取りA「はあっ? 舐めとんのか?」
借金取りB「いや待て、これは魔紅玉か」
借金取りA「……アンタ、アホなのか? こんな貴重なもん、こんな家族の借金のために手放すってのか?」
借金取りB「おいバカ、なに喋ってやがる」ギロッ
吸血鬼「その言い方だと足りるみたいだなっ」
借金取りA「あ、ああ。ぎ、ギリギリな!」
吸血鬼「……嘘つきはこうだからな」ヒュッ ズドッ
借金取りA「ひっ、壁に穴……!?」
借金取りB「……はあ、まあ釣りは若干出るよ。おら」ポイッ
吸血鬼「おお」
借金取りB「借金はこのアホな兄ちゃんの魔紅玉でチャラにしてやるよ。感謝するんだな」
吸血鬼「おお、やったな」
父「あ、あの……ありがとうございます!」ドゲザ
吸血鬼「子どもの前で情けないぞ! ……ほら、これで美味しいものでも食べよう!」ピラッ
【報酬が全てではない】
吸血鬼「うまかった」
「火事だー!」
「子どもが取り残されてるぞ!」
メラメラッ
吸血鬼「おおっ、大変だな」
吸血鬼「魔法で消化するか」
ジュゥゥ……
「火が消えたぞ! 救出しろ!」
「これだけの強力な魔法……誰が?」
吸血鬼「よーし」
乞食「どうかお恵みを……」
吸血鬼「おお、それなら一緒に何か食べよう。街を案内してくれ!」
乞食「ははあ、素晴らしい方だ」
【魔石は魔力を溜める性質があります】
パン屋「どうも釜に使ってる火魔石の調子が悪くてねえ……味の決め手なんだけど」
吸血鬼「おお、任せろ」
パン屋「すごい、買った時以上の火力だよ! しかも調節も簡単だ!」
吸血鬼「これくらいお手の物だ!」
パン屋「お礼は……」
吸血鬼「焼き立てのパンをくれ!」
パン屋「……それだけでいいのかい?」
八百屋「うちは『氷魔石』が……」
肉屋「うちは二つとも……」
薬屋「うちは両方と『癒魔石』も……」
吸血鬼「任せろー! お代は食べ物とかでいいぞ!」
シスター「親なき子どもたちのために浄財をお願いします」
吸血鬼「おお、殊勝なことだなっ」
シスター「ご、ご協力お願いします」
吸血鬼「ううむ、しかしお金はもってないぞ……食べ物はどうだ?」ドサドサッ
シスター「こ、これを全てお恵みくださると……?」
吸血鬼「うむっ」
シスター「……なんと心優しい方なんでしょう。よろしければ私たちと共に後食事しませんか? 神父さまはご不在ですが……」
吸血鬼「おお、ご馳走になるぞっ」
シスター「お口に合えばよろしいのですが……」
吸血鬼「うまいっ。このキノコスープは絶品だなっ」
童女「おじちゃん、あたしのかわりにこれたべてー」
吸血鬼「好き嫌いは良くないぞ。それにお姉さんがこんなに美味しく作ってくれたんだからちゃんと食べるんだぞ!」
童女「うー……」
吸血鬼「ほれほれー」
童女「あむ……おいし」
吸血鬼「そうだろう」
稚児「兄ちゃん、あそんでよ」
吸血鬼「ほれ、高いぞっ」ヒョイッ
稚児「わ、わ……」
幼女「あたちもー!」
ワ-,ワ-
吸血鬼「ふはは、全員かかってこい!」
シスター「……」クスッ…
吸血鬼「そういえば薬もたくさん貰ってたんだ。これもやろう」
シスター「これは、また高価なものを……よろしいのですか……?」
吸血鬼「うむ。我輩が持っていても仕方ないしな」
シスター「……ありがとうございます。神様のご加護があなたにございますように」
吸血鬼「うむ、礼を言う……しかし、この街は魔石が多いな」
シスター「近くに魔石の鉱脈がありますから。旅人の方ですか?」
吸血鬼「う、うむ、そんな感じだ。お、あれについてる癒魔石は大きいな」
シスター「あの象徴及び癒魔石はこの教会を代表するものです」
吸血鬼「おー、しかし大きさ割りには魔力が不足してるなあ」
シスター「ええ……それもあって、ミサに来る方も減っているのです。敬虔な信徒ばかりでは、孤児院のための浄財も足りない状態でして……」
吸血鬼「ううむ……とりあえず魔石に関しては任せてくれ」
シスター「ま、まあ、癒魔石がかつてないほどに輝いています……!」
吸血鬼「うむ、これで、寄進に一役買えるとよいが」
シスター「……こんなに美しく輝く大きな魔石を見たのは幼い時以来です」
吸血鬼「そうなのか」
シスター「貴方様はどうしてこのようなことが……高名な賢者様でございますか?」
吸血鬼「そういうわけではないな。うーむ、あまり詮索しないでくれると助かるぞ」
シスター「……そうですか」
シスター「(もしかして、神様がお遣わせになった聖人なのかしら)」
吸血鬼「それではそろそろお暇するぞ」
シスター「近頃はこの街で旅人の方が突如として消える出来事が増えているそうです。どうか、お気をつけて……」
吸血鬼「そうなのか……ありがとう、気をつけるぞっ」
童女「おじちゃんばいばーい」
稚児「またあそんでねー」
幼女「ねむねむ……」
吸血鬼「元気でな! ちゃんと寝るんだぞ!」
シスター「また、お会いできますか……?」
吸血鬼「うむ、主のような美人なお嬢さんには是非また会いたいぞっ」
シスター「……っ」カァッ…
吸血鬼「それではな!」
シスター「……罪作りな方ですね」
童女「お姉ちゃん、顔赤いよ?」
シスター「こ、こら……」
一方の傭兵。
傭兵「ヒッヒッヒ、お金の価値が分からないお人好しってのは馬鹿だねえ。まあ、俺たちの金じゃないし、カモられても知ったこっちゃないけどな」
傭兵「これだけの金があれば、遊び放題だぜ、ぐへへ」
傭兵「(……とは言うものの、後で心臓を握り潰されちゃ堪らんし、結局、まずは研屋や防具屋で、装備を整えてもらうっていうね)」
傭兵「(ヘタレではない……君子である)」
客引き「お兄さん! どう!」
傭兵「おお?」
客引き「可愛い娘いるよー、今ならたったこれだけ」スッ
傭兵「おお、いや、でもなあ……」ゴクッ
客引き「すごテクで、天国見れちゃうよー」
傭兵「ううむ、いやしかし……」
傭兵「(初めてはやはり好き合った相手と……)」
傭兵「(だがだがしかしだがしかし……お互い初めて同士というのは都合が悪いのでは!?)」
傭兵「(練習をするのも大切か!?)」
傭兵「(それにこちとらいつ生命を失うか分からない傭兵稼業! 女を知っていた方がいいのでは!?)」
客引き「さ、兄ちゃんこっちだぜ」
傭兵「あ、やっぱいいです」ピュゥ
客引き「えっ?」
傭兵「ああ、また童貞を捨てる機会を逸してしまった」トボトボ
傭兵「取り敢えず酒を飲むか。ついでに情報収集だ……ん?」
メイド「…………」スタスタ
傭兵「……!」
傭兵「(……か、かわいい! い、いや美しいっ! いや両方だ……っ!あ、あんな娘がこの世に存在するのか!?)」
傭兵「(翠玉の輝きを放つ三つ編みにされた艶のある長髪、陶磁器のように透き通った汚れひとつ無い白肌、凛とした気高く大きな瞳、黄金比を成し得ているのではないかと思える空前絶後の鼻筋と小鼻、その清楚な顔立ちにあってぽてっとした艶めかしく淫靡さすら感じさせる唇、しかしそのどれもが決して不均衡でなくそれどころか完全なる調和を果たしている……っ!)」
傭兵「(さらに華美ながらも質素なメイド服の上からでも分かるすらっとした肢体……主張を忘れない胸、くびれもあるのが窺え、そして控えめながらも確かに存在感を残す臀部……そしてそれら全てをまとめあげるのはその洗練された佇まい。……完璧だ、ここまで完璧な存在があっていいのだろうか……言葉では足りない……ッ!現実が言語の限界を超えたのだ……ッッ!)」
傭兵「(単純に俺に学がないだけです、はい)」
傭兵「(……もしかして、いやもしかしなくても西領主の召使いか。西領主は悪魔の契約やら魔導実験の首謀者だろ? 悪者に違いない! ということは……)」ホワンホワン
~~~
西領主「くっくっく、さあ今宵も私に奉仕するのだ」
メイド「はい、御主人様」
メイドは控えめな所作で椅子に座る領主の両膝の間に座り込む。
幾度とない『奉仕』を経て、彼女は全く淀みなく、彼の服と下着を脱がし、怒張した下腹部を露出される。
そして彼女はそれにそっとその嫋やかな指で――「おのれ、許さん!」
傭兵「あのような絶対美少女にそんな不幸なことが許されるわけがない。美少女は幸せになるべきなんだ。なにせおれは、はっぴーえんどだいすきマンだぞ」ブツブツ…
メイド「…………」
あらくれ「へっへっへ、その服、メイドさんかヨ。俺にもご奉仕してくれヨ」
メイド「…………」
あらくれ「ほら、こっちでよ。これでも冒険者なんだゼ。ベッドの上で俺の武勇伝聞かせてやるからヨ」スッ
メイド「…………」スルッ
あらくれ「あっ? なんだテメェ、舐めてんのカ?」
メイド「…………」スタスタ
あらくれ「自分から路地裏に……うへへ、ベッピンのくせに尻軽淫乱女かヨ。たまんねえナ」
傭兵「はっ、妄想しているうちに、メイドさんがムキムキの汚とこに絡まれて路地裏に!」
傭兵「しかしこれはチャンスだ! 颯爽と助けることで、フラグを立てるぜ」
傭兵「まずは身嗜み……ああ、香水も付けとけばよかった。顔に汚れはついてないよな……? 寝癖は、鼻毛も抜いて、あ、耳の穴! 歯は大丈夫なはずだ! いつも気を付けてる! 歯はイノチ!」バッバッ
傭兵「よし、完璧だ! いざ参らん!」
路地裏。
メイド「……ここですわね」ピタッ
あらくれ「うへへ、こんなところでいいのかよ」
メイド「……貴方はわたくしの御主人様になりたいのですよね?」
あらくれ「おう? うへへ、そうだなあ、ゴシュジンサマになって、色々と下の世話をしてもらいてえな」
メイド「よろしいですわ」
あらくれ「お、おう?」
メイド「ただし――」スッ
あらくれ「(……モップ? さっきまでそんなのなかっただろ)」
メイド「御主人様たりえるならば……ですけれど」クスッ
傭兵「大丈夫ですか!」キリッ
傭兵「(ピンチに颯爽と駆け付ける俺! ポーズよし! 顔の角度もよし! 完全に決まったあああ! このままメイドルート直行! そしてラブアンドディィィィスコッッ!)」
あらくれだったもの「」グチャ
メイド「……あら」ゴシゴシッ
傭兵「…………」
メイド「…………」
傭兵「人違いですスミマセン」クルッ スタスタ
傭兵「(え、何あれ。肉の塊だったよ。この前の吸血鬼より酷いことになってたよ。それをあの可憐なメイドさんがモップでゴシゴシして掃除してたよ。どーゆーことなの?)」
傭兵「(しかも体格にしたは随分と死体の大きさも血の量も少なかったよ。どこかに消えちゃったのかな?)」
傭兵「あはは、冥土送りにするメイドってか」
メイド「うふふ、つまらない冗談ですわ」
傭兵「Wow...」
メイド「……」ブンッ
傭兵「……っ」サッ
ドゴォ
傭兵「やだモップの立てる音じゃない」
メイド「あら、一撃で潰して差し上げようと思いましたのに」
傭兵「なにそれこわい」
傭兵は逃げ出した!
しかし回り込まれてしまった!
メイド「うふふ、逃がしませんわよ」
傭兵「勘弁してください」
メイド「ダメです」ニコ グォッ
傭兵「ひぃっ!?」ササッ
メイド「……身のこなしは中々ですわね」
傭兵は逃げ出した!
しかし回り込まれてしまった!
傭兵「これはアカンやつだ」
メイド「見られてしまったからには、冥土送りにさせていただきますわ」
傭兵「お断りします。というかわりと気に入ってますよね、その冥土とかけるの」
メイド「そんなことありませんわよ」
ポトッ ブシュゥゥ……!!
メイド「……煙幕!? げほっ……! くっ……『退魔の霊薬』を混入してますのね……!」
傭兵「えっ」
ヒュルル…ッ パシッ
傭兵「ろ、ロープ?」
『俺に合わせて全力で跳べ』
傭兵「うおぉっ!?」ググッ ピョンッ
グイッ
傭兵「うおっ!?」ポ-ンッ ブワッ
傭兵「っと!?」タッ
盗賊「何やってるんだバカ」
傭兵「お、お前か! なるほど……悪魔の契約の命令、こんな風にも使えるんだな」
盗賊「そんなことよりさっさと逃げるぞ」
傭兵「お、おう」
盗賊「……ここまでくれば大丈夫だろう」
傭兵「さ、さんきゅー。お前、どうやって関所を?」
盗賊「別に入る方法は幾らでもあるだろ」
傭兵「……そ、そうか。ふぃー、死ぬかと思った」
盗賊「……お前も面白いやつだな」
傭兵「おう?」
盗賊「アレはおそらく魔物だ。低く見積もっても上級のな」
傭兵「アレって……あの超絶に可愛いメイドさんが?」
盗賊「その超絶に可愛いメイドに殺されかけたのは誰だ」
傭兵「ぼくです」
盗賊「……素直だな」
傭兵「はあ、魔物かあ……魔物とのラブロマンス……うーん、捕食される話はよく聞くが」
盗賊「……あんなのと恋仲になれると思ってるのか? 殺されている奴もいただろ」
傭兵「諦めの悪さには定評があるぜ」キリッ
盗賊「……ほっといておけばよかったか」
傭兵「ごめんなさい、助けてくださりありがとうございました」
宿屋
吸血鬼「おお、遅かったな」ムシャムシャ
傭兵「うわ、なんだこの食糧の山……そんなに金渡してないだろ」
吸血鬼「宿に帰る途中で困っている人を助けたらお礼にまたもらった!」モグモグ…
盗賊「お前……正体バレてないだろうな?」
吸血鬼「大丈夫! もーまんたい! 多分!」ビッ
傭兵「お、このミートパイ、うまそう」
吸血鬼「我輩の分も残すんだぞっ」
盗賊「……はあ」
盗賊「情報は集めてきた。とは言うものの、全容は掴めてないがな」
吸血鬼「さすがだなっ」
傭兵「きゃー、かっこいいー! すてきー! 抱いてー!」
盗賊「……」スッ
傭兵「続けてください」キリッ
盗賊「……最初から話す。西部領と言えば、魔法で有名な街だ。魔石の産地でもあるしな。魔導実験についても中々先進的だった」
盗賊「……そして魔導実験が国際的に禁止されてからも、続けていた。まあ他地域でもそうだろうから例に漏れずと言ったところだが」
傭兵「現在の領主は、かの有名な大賢者に師事していたこともあり、魔法について造詣が深い。この街の魔除けの結界も領主が管理者だ」
吸血鬼「大賢者……かっこいい響きだなっ」
傭兵「やっぱりかつては大遊び人だったんかな……あ、続けてください」
盗賊「……西領主は民からの評判も良いし、政策も一定の評価を得ている。とくに治安維持に関しては王国一と名高い」
吸血鬼「その割には事件が多かったぞ?」
傭兵「メイドさんな魔物がいるようなところだしな」
盗賊「……俺はさっき言ったぞ。西領主は魔法に明るい」
傭兵「……しかし、魔除けの結界もないと?」
吸血鬼「魔物にも住み良い街だな!」
盗賊「そうだな。そのせいか神隠しが増えているようだ」
傭兵「神隠し……人が消えてるのか」
吸血鬼「シスターさんもそんなこと言ってたな」
盗賊「結構な数に上るらしい。冒険者が多いみたいだが」
傭兵「……もしかして、さっきのメイドさん?」
盗賊「……おそらく、アレは大きく関与している。魔除けの結界は失われ、城の中と街の中で起きる神隠し。それにも関わらず、何もしない領主。そんなことがもう例の娘がこの街に来た時から続いている」
傭兵「……彼女は何者なんだ? 何が目的なんだ」
盗賊「それはまだ分からん」
吸血鬼「それなら城に乗り込んでしまえば手取り早いぞ!」
盗賊「ああ。もう少し情報を集めたらな」
傭兵「はあ……生きて帰りたい……死にたくねえよぉ」
盗賊「死なないように万全の準備をしておくんだな」
西領主「くっ……今日も報告はないか。やはり返り討ちに……くっ」
メイド「あらあらご落胆なさってどうしましたの?」
西領主「……っ」
メイド「……そろそろ準備も完了ですわね」
西領主「貴様……貴様ら、こんなことをして許されると思っているのか?」
メイド「……ふふ、ワインを注ぎなさい」
西領主「……」
メイド「『ワインを注ぎなさい』。まったくなってませんわね」
西領主「……っ」ギギ…
メイド「生かしてあげているだけ感謝しても仕切れないでしょうに、そのお顔は何かしら?」
西領主「……とんだメイドもいたものだな」
メイド「私はどこまでも従順なメイドですわよ。ただ貴方が御主人様たる器でないだけ」
西領主「私はお前の……」
メイド「うるさい舌ですわね。引き抜いて差し上げましょうか」
西領主「ぐ……」
メイド「魔導などニンゲンに過ぎたものを求めるから破滅するのですわ」
西領主「私は、国の発展のために……!」
メイド「発展を目指して、滅亡させるなんてお笑い種ですわね」
西領主「くっ……!」ギリ
メイド「分かっているでしょうけど、『悪魔の契約』があるうちは決して自害はできませんわよ」
西領主「くそっ……」
メイド「ふふっ、あなたは指を咥えて見ていなさい」
『キヒヒ、もうすぐ魔法陣も完成だなァ』
メイド「ええ」
『ところでさァ、今日街であったヤツら、きっとじゃましに来ると思んだよねェ』
メイド「あの程度なら何の支障もありませんわ」
『それもそうかねェ。それと、この街にイヤに大きい気配が紛れ込んでるんだよねェ』
メイド「あなたが気にするほどですの?」
『そうだねェ……でも気にするほどでもないのかねェ……でも懐かしい胸糞悪さを感じるんだよねェ』
メイド「珍しく曖昧ですのね。魔人族のくせに」
『魔人族にも分からないことはあるさァ』
翌日。
傭兵「今日はどうするんだ?」
盗賊「お前は俺と来い。確認したいことがある」
傭兵「へーい。ところで吸血鬼のやろうは」
盗賊「……あのアホなら遊びに行くといって早々と出ていった」
傭兵「あらら」
盗賊「アレは制御できるようなやつじゃないからな」ハァ…
傭兵「確かに」
吸血鬼「ふんふーん」
「おう、昨日の兄ちゃんじゃねえか」
吸血鬼「おお、昨日はご馳走になったな」
「あ、おじちゃん! たすけてくれてありがとー!」
吸血鬼「ふはは、礼には及ばんぞっ」
「おうテメェ、昨日は生意気なことやってくれたじゃねえか」
吸血鬼「ん? なんだお前らゾロゾロと」
「俺らのショバで勝手やってる宝石商を守ったんだってな」
「ウチらのシマ荒らされると困るんだわ」
吸血鬼「……!」ピコッ
吸血鬼「犯罪組織というやつか」
ブン ゴッ ガンッ オラッ……
吸血鬼「……急に囲んで殴りおって。満足したか?」
「な、なんであれだけ殴って……」
「どうして鈍器が効かねえんだよ!?」
吸血鬼「貴様ら……こんなことばかりしているのか?」
「……おらっ!」バチチィッ
吸血鬼「……こんなものを常人に撃てば死ぬのだぞっ」ゴゴゴ…
「な、なんだこいつ……!」
吸血鬼「いっちょお前らを掃除してやるっ……根こそぎな!」
ボス「……随分と稼ぎが悪いな」
側近A「ボス……!」
ボス「慌ててどうした?」
側近A「ヤクの売人が次々と摘発されてます!」
ボス「……急なお上のガサ入れか? それともまさか他勢力か?」
側近A「そ、それが、どうやら一人の冒険者の手によってのようです」
ボス「……冒険者? 確かにウチには賞金首も少なからずいるが、ギルドとのパイプがあるだろ」
側近B「ぼ、ボス!」
ボス「テメェまでどうした」
側近B「ヤクの元締が潰されました! 今詰所に送られたようです!」
ボス「は、はあ!?」
側近CD「「ボス!」」
ボス「今度はなんだ!?」
側近CD「「攫いとオンナの組員と元締め、更に魔装の製造所がやられましたっ!」」
ボス「……壊滅じゃねえか」
側近E「ボス!」
ボス「……なんだ」
側近E「に、逃げてください」
吸血鬼「がおー」
吸血鬼「おー、謝礼金がたくさん手に入ったぞっ!」
借金取りA「聞きましたか?」
借金取りB「ああ、いきがってた『ファミリー』の壊滅だろ」
借金取りA「どっか他の組織に目を付けられたんですかね。あいつら、節操がねえからいずれ潰されるとは思ってましたが」
借金取りB「それがどうも昨日の変な野郎がやったんじゃねえかと噂が立ってる」
借金取りA「へっ、あの奇特な野郎ですかい? い、いやいくら『ファミリー』が新参者組織だとしてもかなりの数と影響力ですぜ。他組織が団結してだとかじゃ……」
借金取りB「俺も俄かには信じられねえがな……詰所の前に瀕死になったやつらが置かれていたらしい。そんなで身分は冒険者ギルドの傭兵だと」
借金取りA「……もしかして魔物だったんですかね?」
借金取りB「さあな。何にせよ、この傭兵のタマを狙うやつは増えるな」
傭兵「クシュン……ッ!」
盗賊「……汚いな。手で口を抑えたらどうだ」
傭兵「すまん……美少女たちに噂でもされてるのかなぁ」
吸血鬼「やあ!」
シスター「まあ! ……こほっ、また来てくださったのですね。お茶を出しますから中にどうぞ」
吸血鬼「おお、ありがとうっ」
シスター「信心深いのですね」
吸血鬼「いや、主に会いに来たのだ」
シスター「そ、そうですか……」カァ…
吸血鬼「今日はだな、金ができたから寄付しようと思ってきたのだ。受け取ってくれ!」
シスター「こ、こんな額のお金、どうしたのですか……」
吸血鬼「悪いやつをやっつけたら貰ったのだ」
吸血鬼「(関所通ってないから傭兵の名を騙ったが、おそらくノープロブレムだ!)」
シスター「う、受け取れません……」
吸血鬼「何故だ? 主たちは善いことのために使うお金が欲しい。我輩はそんな主たちにお金をあげたい。お互いにハッピーじゃないか」
シスター「し、しかし……」
吸血鬼「上納金として根こそぎ持ってかれぬよう、上手く扱ってくれ」ポンッ
シスター「……貴方様はいつもこのようなことを?」
吸血鬼「え? あ、あー、うーん、多分昔から?」
シスター「……そうですか」
吸血鬼「あ、そういえば、昨日思ったが、子どもたちの服が足りなそうだな」
シスター「……そうですね。修繕して使うにも限界がきてます」
吸血鬼「ということで、服をたくさん買ってきたぞっ、じゃーん」
シスター「こ、こんなにたくさん……」
吸血鬼「服屋の主人が病気で困ってるのを助けたら、安く売ってくれてな」
シスター「……病気を?」
吸血鬼「あとカラクリ屋の主人に昔のギミックを教えたら、今は失われた技術とかでとても喜ばれたから、たくさんカラクリ人形やら何やらを貰ったぞ」
シスター「ま、まあ……」
吸血鬼「……それから主にこれを」
シスター「……髪飾りですか?」
吸血鬼「うむ。あまり派手なのは戒律とやらでダメかもしれんから、少し地味だが」
シスター「ありがとう、ございます……」
童女「あー、おじちゃん!」
稚児「にいちゃん、遊んで!」
幼女「わー!」
吸血鬼「おお! かかってこい!」
ワ-ワ- キャッキャッ
シスター「……」クスッ…
吸血鬼「ほうそれでは主もこの孤児院で育ったと?」
シスター「ええ、物心ついた時にはそうです」
吸血鬼「大変だったのだなぁ」
シスター「そうですね……しかし挫けたことはありませんでした」
吸血鬼「おお」
シスター「……昨日、お話した輝く大きな魔石のことは覚えておりますか?」
吸血鬼「主が小さい頃に見たという?」
シスター「そうです。その輝く大きな魔石は地中に埋められたのですよ。私はこんなに綺麗なものを埋められる魔石がとても可哀想に思いました」
吸血鬼「……」
シスター「しかし神父さまは幼い私に仰いました。『この魔石はこの街、そして君を守り続けるのだよ』」
吸血鬼「……」
シスター「それから私はいつもあの大きな魔石が私を見守ってくれていると感じるように思いました。悲しい時があった時に抱き締めてくれる両親はいませんでしたが、あの輝きに包まれているように思えたのです」
吸血鬼「そうなのか……」
シスター「それに、多くの人にも助けられましたからね。こんな話をして申し訳ありません」
吸血鬼「いや、聞けて嬉しかったぞっ、うむ!」
シスター「……ふふっ、本当に優しい方ですね」ニコ
吸血鬼「……しかしシスターになる以外の生き方は考えなかったのか?」
シスター「こうして生きていられるだけでも幸せなことですよ。優しい人ばかりですしね」
吸血鬼「しかし……うーむ、うーむ……何か力になりたいが、如何せん我輩はアホで何も思いつかん」
シスター「これほどの善良な施しをいただいて、これ以上は過ぎたものになります」
吸血鬼「……はあ、我輩は無力だな」
シスター「そんな、滅相もない」
吸血鬼「どれほどの力があっても、結局……ううむ、昔も同じようなことで悩んだような……?」
シスター「……どうしました?」
吸血鬼「ああ、いや……なんでもないぞっ」
シスター「貴方様のお話もお聞かせください」
吸血鬼「わ、我輩か? そうだなあ……取り敢えず今は二人ほど仲間がいるぞっ」
シスター「そうなのですか」
吸血鬼「うむ。冷静沈着なやつと、賑やかなやつだな。主みたいな善人ではないが、根からの悪人でもない。そして強さを持ってるな。人間としての弱さを抱えながらそれでも人間らしく足掻く姿は人間の強さだ。ううむ、昔から人間というのは奥深くて、興味が尽きんな」
シスター「あ、あの……?」
吸血鬼「あ、ああいや! なんでもないっ、なんでもないぞっ!」
シスター「……はあ」
吸血鬼「我輩はそろそろ帰る。いい加減二人が怒っているかもしれんからなっ」
シスター「そうですか……この街にはいつまで滞在する予定なのですか?」
吸血鬼「ううむ、正直分からん。もしかしたら明日出て行くかもしれん」
シスター「……そうですか」
吸血鬼「それではお邪魔したな。……礼を言う」
シスター「え?」
シスター「お主の言葉は、我輩を……我輩のよく知らない昔の我輩を救ってくれた気がする。こう、胸がすっとしたのだ。何を言っているか分からないと思うが、本当にありがとう!」
シスター「……いえ、少しでも貴方様のお力になれたのなら嬉しく思います」
一週間ほど海外に一人旅行してきます
深夜は海外からだと書き込めないので、次は早くて一週間後です
今日の午後出国なのに何の準備もしてない
ss書いてる場合じゃなかった
このSSまとめへのコメント
ミリアサかと思った…