雪風「うちのしれぇが頭おかしい」(短編)(14)

――司令官室前――

雪風 (今日建造が終わったばかりなのに、突然私だけ呼び出しってなんでしょうか?ちょっと怖いですけど、大丈夫ですよね……?)コンコンコンコン(ドアをノックする音)

提督 「入れ」

雪風 「失礼します」ガチャ(ドアを開ける)

提督 「……」ギロリ

雪風 ビクッ(すっごく睨まれてしまいました!! こ、怖い!!)

提督 「お前は……?」

雪風 「ほ、本日付で本鎮守府に配属になりました。陽炎型駆逐艦八番艦、雪風です。私に
何か御用と伺ったのですが……」

提督 「お前が、雪風……なのか……」

雪風 「ハ、はい」

提督 「これもまた現実に近い世界なのか? 踏み込むべきではないか……しかし、訊かねば進むまい。俺がいずれかだったにせよ、俺が俺として今ここに居ることは明らかだ(ボソボソ)」

雪風 「あ、あのどうさr」

提督 「雪風、いくつか質問だ」

雪風 (なんだかマイペースな人だなあ)「は、はあ」

提督 「お前の目的は何だ」

雪風 「……? いえ、ですから私はしれえの招集に応じてここに来たのですが」

提督 「違う、そうじゃない。お前の存在意義を問うている。雪風、お前は何のために在る」

雪風 「……駆逐艦として鎮守府に貢献し、平和をもたらすためです」

提督 「平和……か。それは、敵を殲滅したいと言うことか?」

雪風 「必要ならば……私は、いえ……私たちは深海棲艦たちに対抗すべく作られたものですので」

提督 「フムン、『必要ならば』か、やはりお前は、雪風ではないのだな。安心したよ」

雪風 「……?」

提督 「いや、お前の名を否定したわけではない。お前が雪風なのだというのなら、お前自身はきっと雪風なのだろうし、そうであるか、そうでないかの証明は今は不可能だ」

雪風 「過去に私以外の雪風にあったことがあると?」(あっ、つい質問してしまいました)

提督 「過去かもしれないし、未来かもしれない。あるいは今こうしている間にも俺は雪風の上にいるのかもしれない。むしろ今こうして提督としてお前と話している方が、俺としては変で仕方がない。だがしかし、これが確定していないリアルなのかもしれないな」

雪風 (この人もしかしてデンパとかいうやつなんでしょうか?)「えっと……」

提督 「もう一つ質問だ。お前には俺がどう見える。狂っているように見えるか、薄気味悪いか」

雪風 (なんですか。このどう転んでも地雷でしかない質問は⁉)

提督 「単純に見え方の問題だ。視覚的いや、それを理解している脳の問題というべきだが……俺は、ジャムか。それとも人間か。先までの俺はたしかにフェアリイの空にいたはずだが、どうしては俺はこんなところにいる。時間の順序、いや時空の順序すらもあべこべなのは、ここがジャムの見せている世界であることは間違いないんだが」

雪風 「ジャ、ジャム!? すみません。質問の意味が解りません」

提督 「俺は、お前の敵か」

雪風 「ちがいます。しれぇはわたしのしれぇです」

提督 「では、お前は、ジャムか」

雪風 「えぇ……?」

提督 「答えられないなら、構わない」

雪風 (とんでもない鎮守府に来ちゃいました)「しょ、承知しました。では、失礼します」

提督 「ああ、それと」

雪風 (……まだなにかあるのでしょうか)

提督 「お前には今後俺の秘書官の任に就いてもらう」

雪風 「ファッ!? 私駆逐艦ですよ?」

提督 「安心しろ。どの道俺たちの主任務は戦闘じゃない。あくまで偵察。深海棲艦とやらの観測、情報収集だけだ。その双眼鏡は伊達ではないだろう?」

雪風 「他の艦隊の補佐ということですね。水雷戦隊ならともかく、その運用でしたらやはり私よりも」

提督 「補佐が主任務ではない。俺たちの目的は二つ『何があっても必ず情報を持ち帰る』こと、そしてもう一つは『不審な航空機の捜索』だ」

雪風 「何があっても?」

提督 「そうだ。あくまで自分の身を護ることだけ徹底しろ。身を挺してまで仲間を助けたりなんて、まかり間違ってもするな。たとい味方が全滅しようとも、お前には関係ない。むしろ他艦を犠牲にしてでも帰ってこい」

雪風 「そんな……」

提督 「そのためのブーメラン艦隊。そのための『雪風』だ」

雪風 「……承知しました。では、不審な航空機とは?」

提督 「俺個人の目的だ。とにかく見慣れない航空機を発見した場合は、俺に報告をくれ。そして可能なら音声や映像データを送付してくれ」

雪風 「もう少し詳しい情報はないのでしょうか」

提督 「なくもないが、おそらく意味を為さない。俺が探しているそれが、俺の知るカタチで現れるとは言いきれない。だが、アタリなら必ず何らかの形で分かるはずだ」

雪風 「申し訳ありません、全然わからないです」

提督 「理解する必要は無い。ただ、行動が必要なだけだ」

雪風 (もう帰りたいです)

提督 「これで最後の質問だ」

雪風(まだあるんですね……)

提督「お前は今日ここに来たそうだが、もうここのカレーはくったか?」

雪風 「!? は、はい」

提督 「味はどうだったか」

雪風 「お、お肉も柔らかくて、あんまり辛くも無くてすごく美味しかったです。でもチキンカレーって珍しいですね」

提督 「……そうか」

雪風 (あれ、今少し笑った……?)

提督 「訊きたかったことは以上だ。退室を許可する」
雪風 「それでは、しれぇ」

提督 「……俺は深井零。だ。まあ、好きに呼べ」

雪風 「……それでは、零しれぇ。失礼いたします」

ガチャッ(扉のしまる音)


おわり

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年03月02日 (水) 11:20:57   ID: _jD7Hk0R

フムン。続きが気になるな。

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