渋谷凛「花屋の前に……カエル?」 (16)
初投稿となります。
アイドルマスターシンデレラガールズとアイドルマスターSideMのクロスSSです。
自己解釈が入る、理解が浅い部分があるのでキャラ崩壊注意。 時系列は細かく考えていません。
シンデレラガールズは、基本アニメ準拠。
Pもアニメをイメージしています。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1449587952
冬の季節の曇天の日。
346プロ所属のアイドルユニット、ニュージェネレーションズの三人は収録の仕事場に向かっていた。
歩きながらの話題は、最近オリコンで取り上げられることが多い315プロの男性アイドルユニットについてだ。
卯月「それでですねっ、聴いてるとすっごく聞き入っちゃって!養成所で頑張ってた頃の気持ち沢山思い出しちゃいました」
凛「卯月は朝からずっと、その曲、えっと……スマイル・エンゲージの話ばかりだね」
未央「ふぁ……朝からじゃなくて昨日の晩の電話からずっとだよ。しまむー、Beit好きだね~。
未央ちゃん的には、リーナに勧められたHigh×Jokerとかアゲアゲ出来て……おやぁ?」
三人が、歌の話に花を咲かせて、プロデューサーとの待ち合わせ場所まで歩いていると。
普段なら、そのまま通り過ぎるだけの珍しくもない花屋の前で、足が止まってしまう。
店先で、ぴょこぴょこと、奇妙な物体が落ち着きなく動いていたからだ。
店に並ぶ花々に興味深々と見えて非常に愛嬌がある、彼?は……人型のカエルだった。
凛「花屋の前に……カエル?」
未央「ホントだ。 カエルじゃん、何で!?」
卯月「わっ、びっくりしました」
未央「あはは、ごめんごめん。 何でかこういうツッコミが癖になってきちゃってるんだよね~」
ピクン、と。未央の声に反応した様子で、カエルが目を向けてきた。
凜「(ちょっと未央どうするの? すっごくこっちっていうか未央のこと見てるよ)」
未来「(え? 待ってよこれ、私が話しかけなきゃいけないのこの流れ!?)」
卯月「(未央ちゃん、頑張ってください! 緑色の着ぐるみ好きな人に悪い人いませんから!)」
未央「(ぐさぁーっ!? 代表して話しかけるの確定かい!?)」
ひそひそ話してる間も、カエル?の視線は固定されている。
凜が嫌な予感を覚える。カラーサングラスや帽子をささっとチェックする。
ニュージェネレーションズも今やデビューしたての頃と違い、最低限でも変装が必要になったアイドルなのだ。
卯月がうっかり名前を呼んでしまって、寒い中マラソンする羽目になったこともある。
凜「しょうがない、もしバレて騒がれて遠回りして遅刻なんてしたら迷惑かかるし、ここは」
卯月「凜ちゃん、どうして私の目をじっと見て言うんですか?」
主に卯月のボロが出ないうちに会話の暇を与えず早歩きで横をすり抜ける
その提案をして、カエル?がシャベッタ
カエル?「けろけろ? お姉さん達、お花買いにきたの?」
卯月「(わぁっ、綺麗な声……でも、あれ? どこかで聴いたような?)」
店員「お客さんがきたのかい? ピ……おっと、バイト君」
出てきた店員は、髪を後ろで結んでおり、若々しく見えるが貫禄も滲ませる
年齢がどうにも推測できないタイプの男性だった。
三人を見て、最初一瞬だけ目を瞬かせて、やがてにこっと笑った。
店員「やぁ、いらっしゃいませ。 どんな花をお探しですか? 今ね、ブルーローズが……」
凜「い、いえっ、間に合ってますし! 私達急がないとならないので!」
店員「そうですか、それは……残念。 また来て下さい、お仕事頑張ってね」
残念そうに肩をすくめた店員と、バイトのカエル?にはそれ以上構わず、三人は花屋を離れた。
カエル?「お客さんじゃなかったの?」
店員「うん、違うよ。 同業者、かな? サイン頼みたかったけど、お仕事の邪魔しちゃいけないしね。
それにしても恭二は……時間かかるね」
しばらく歩いて、Pとの待ち合わせ場所についた三人は、既にいたPが誰かと話しているのに気付いた。
凜「プロデューサー、お待たせ。 その人はどうしたの? まさか私服警官?」
卯月「えっ? プロデューサーさん、また職質されてるんですかっ?」
長身の男「(……また?)」
名刺を渡されてた男の目が疑惑のそれになるのを見て、Pは慌てて否定……できないので話を逸らした。
P「違います! 彼は……偶然ここで会った、同業です」
未央「え? それって……他事務所のプロデューサーてこと?」
P「は? いえ、本田さん、そうではなく……私ではなく」
そこで、Pには及ばないが高身長の男が、卯月達を一瞥し、驚きを含めて言った。
長身の男「島村、卯月」
卯月「へっ?」
一瞬、卯月は理解が追いつかなかったが、名前を呼ばれたのだと気付き、そして、慌てた。
卯月「え、ええっ!? へ、変装してるのに、ど、どどどしようプロデューサーさん凜ちゃん未央ちゃん!」
凜「ちょっ!?」未央「しまむー!?」
ザワッ!
通行人A「え、今、凜とか未央って聞こえなかった?」
通行人B「しかもどっかで聞いたような声でだったぞ」
‡通行人A‡「まるで禁忌の魅力に取り憑かれて漆黒の闇に誘われる乙女のような声だったな」
通行人C「あっちのほうからだな、え、あれって……マジ?」
P「これは、まずいですね、皆さんこちらへ」
大きい背中で、ニュージェネの三人を通行人達の目から隠すようにしてから
Pは人目につきにくい小道を視線だけで示した。
変装してあるので、詳細をPの体躯で隠せば疑惑で済んでる間に逃げられる。
しかし何においても予測不可能のアクシデントはつきもので……。
通行人D「ねぇ、あれって、アイドルの鷹城恭二じゃない!?」
退避行動は、Pの体格でも隠し切れない存在のおかげで破綻した。
凜「えっ」未央「鷹城」卯月「恭二?」
三人が一斉に一人の男を見つめる。
その様子が、むしろ一般人達からは、彼と彼女達を一つのカテゴリーに入れてしまう事に繋がった。
通行人A「三人揃ってる! やっぱあれアイドルのニュージェネレーションズだよ!」
通行人B「何だろアイドルが揃って、ドラマの撮影か何かか!?」
通行人C「まだわかんないだろもっと近づいて確かめてみようぜ」
言い逃れもごまかしもきかないと悟り、鷹城恭二は冷や汗を流し謝罪した。
恭二「すまん、俺のせいだ」
凜「そんなこと言ってないで、ほらあんたも走って!」
未央「ミツボシダーッシュ!!」
卯月「わわ、待ってくださ~」P「島村さん、手を!」卯月「は、はい!」
咄嗟に逃げることができない出遅れかけた卯月の手を掴むと、Pも凜達を追いかけ走る。
どうにか、大騒ぎになる前に離脱できて、寂れた公園付近まで逃れてきた一同は息を荒く吐いた。
凜「はぁっ、はぁ……う~づ~き~」
卯月「ご、ごめんね凜ちゃん!」
P「皆さん、ちゃんといますね? それにしてもさっきの場所から随分離れてしまいましたね」
住宅近辺の、あまり使われなくなった公園には人気がなく、Pはどこかに連絡を取るため携帯を取り出す。
鷹城恭二がそこで頭を下げながら発言した。
恭二「すまん。これは……他のプロダクションの妨害をしてしまった……事になるのか?」
P「いえ、偶然の出来事に責任を求めることはないですから……」
未央「そうそう、しかもビックリだよ、私達と一緒のアイドルとこんなところでバッタリなんてさ。
うんうん、しまむーのこと知ってたのも納得納得」
腕組みして、おかんむりな凜に、ぺこぺこ謝ってた卯月が、未央の発言にピクリと反応する。
卯月「あのっ、鷹城恭二さんって、もしかして、Beitの……」
恭二「っ、……そうだが」
卯月「やっぱりそうなんですね!? 私、CD聴きました! そうしたらすっかりファンになっちゃって!」
恭二「ファン? あんた、いや、島村さんが、俺、達の?」
どうやら卯月の発言は、うろたえるほど意外だったらしく、鷹城恭二は固まって片言になってしまう。
卯月「はいっ、えへへ、恥ずかしいですけど……
私、お姫様みたいにお城の舞踏会でキラキラしたいなってずっとずっと思ってて……
Beitのスマイル・エンゲージって、その描いてた夢を最初の形で思い出させてくれて
とっても素敵で良い歌で……!」
気恥ずかしいことでもまっすぐ語りながら、はにかんで笑いかける卯月。
その向けられる笑顔を、若干眩しそうにして、鷹城恭二は目をそらした。
恭二「スマイル、笑顔……あの歌が好きになってくれたのか」
卯月「はいっ」
恭二「それは……すまなかったな……」
卯月「えっ?」
はぁ、と、自嘲を含んだ嘆息と共に、鷹城恭二は言う。
恭二「ガッカリしただろう? エスコートする王子様っぽい歌を、コンビニで店員をしていた前歴の無愛想男が歌ってて」
卯月「……」
恭二「第一な、スマイルなんて入れてるが、俺は笑顔なんて全然得意じゃない。
Beitメンバーの、ピエールや……みたいに、魅力的な笑顔なんて出来ないし
みのりさんみたいに、アイドルが好きでいるともハッキリ言い切れない。ましてこのガタイと無愛想面だ。
315の他のアイドル程、顔のことで悩んでるわけじゃないが、俺は……」
その誰かを元気にしたり、鮮烈に記憶に残せる笑顔ができる自信がない。
最近、体調を崩して仕事に穴を開けて周囲に迷惑をかけたばかりな事もあり
恭二本人も沈んだ考え方をしていると思っても止めようがなかった。
しかしそこで、言った恭二も、凜も、未央も、Pも驚くしかない出来事が起こった。
卯月「ガッカリなんてしてませんっ!!! 私、鷹城さんの歌を聴いてとってもドキドキしました!!!」
恭二「お、っ?」
珍しい卯月の強い語調と炸裂に、とくに初対面の鷹城恭二は面食らって硬直する。
こういう時の出番に慣れてるとばかりに、未央が助け舟を出してきた。
未央「……どうどう、しまむー。 鷹城さん、その、さ」
鷹城から見て、元気印のクセっ毛が似合う子は何か言いかけて、らしくなく一度言葉を呑む。
がそのすぐ後また続けた。
未央「私ね、えらそうなことは言えないんだけどさ、本当だよ?
でもさ、自分の歌のファンて言ってもらえて、笑顔になってくれた人いるのに
自分でそれ否定しちゃって貶めたら……駄目駄目じゃん、なんだよ、きっと」
凜「未央……」
未央「ほら、しぶりんも!」
凜「えぇ!? あ、そのさ、私は聴いてないんだけど……
卯月はさ、ずっと朝からBeitの歌のことばかり話してるんだよ?」
恭二「……」
卯月「……」
恭二「あのな……」
卯月「は、はい。 ……さんは付けなくていいです、年下だし」
恭二「あ、すまん、じゃない、そうか……じゃあ島村。
すまなかった。別にあんたの中のアイドル……Beitを崩したいとかそういうんじゃないんだ。
俺はただ……」
卯月「……! 沈んだ顔より、笑顔でいましょう!」
唐突に言うと、卯月は指先で、自分の口元を笑顔の形にした。
卯月「自分に笑顔の魔法をかけてあげれば、いつかきっと、キラキラした星を掴める時だってくるって! だから……だから、その」
恭二「……」
口が上手とは言えない卯月はそれ以上自分の気持ちを形にはできず、無言の時間が流れる。
沈黙を破ったのは、公園にいた人物ではなく、緑色の闖入者だった。
カエル?「けろけろ~」
卯月「(え? さっきの……カエルさん?)」
恭二「ピエール? みのりさんの店に行ってたんじゃなかったか?」
卯月「? ……えぇっ!!?」
未央「おぉう、しまむー、今日は発声量高いね~、て、ピエールってさっき言ってたBeitの?」
コクと頷く恭二に合わせる形で、カエルの着ぐるみは頭部をかぽっと外した。
サラリと流れる絹糸のような金髪、着ぐるみの中にいてうっすらと汗を滲ませてるがキメの細かい肌。
上質のアメジストのような瞳を輝かせて、現れた少年はにこっと笑顔を浮かべた。
未央「お、おぉぅ……(やっば~、未央ちゃん迂闊にも見蕩れちゃったよ、何このロイヤル美少年!?)」
凜「(凄いな……ここまでのビジュアルの子は、海外の俳優にも、なかなかいないんじゃないかな……)」
P「(いい笑顔です)」
ピエール「大丈夫そうでよかった~、あのねボク、恭二が逃げるように走ってたって聞いて、いじめられてるんじゃないかと思って助けにきたんだ!」
恭二「待て、俺がいじめられる側なのか? 第一ピエールはお助け役なのか?」
ピエール「ボク強いんだよ?知ってるでしょ?」
恭二「まあ、何にしても心配できてくれたんだな? だが別にこの人達と喧嘩してたわけじゃないんだ」
ピエール「そうなんだ。どんな話してたの?」
恭二「……これからも、失敗したって、これからもちゃんとアイドル活動してこうって、元気付けてもらったんだよ」
語る恭二の顔つきと声に、ピエールは何かを感じたのか、恭二のちょうど真後ろに立っている卯月の横にとててと移動し、顔を覗き込んだ。
卯月「(わ……! こんな近くで。ってさっきまで私、鷹城恭二さんとお話してたんだっけ?
うぅファンとか、他にも、言っちゃったし、恥ずかしくなってきました……)」
ピエール「……」
卯月が、自分のした発言を今更になって思い返して頬を赤くしても、ピエールはただじっと覗き込んでいた。
卯月「え、えへへ?」
ピエール「……!」
どんな顔をしていいかもわからず、やっぱり笑顔を浮かべた卯月を見て、ピエールは軽く驚いた眼差しを最初して、歓喜の笑顔を返した。
未央「うわ……天使空間かっ! そ、そうだ、ちょっと撮影して残」
凜「遅いよ未央、天使を画像にして手元に残そうと思ったらその時は既に行動を終えてなくちゃね」
P「渋谷さん……同じ事務所の方とはいえ、無断の撮影はNGです……他プロダクションの方もいます……没収します」
未央凜「花園は生きる輝き! 花園は魔法の場所! 花園は、私たちの心!」
P「駄目と言ったら駄目です!!」
ピエール「お姉さんの笑顔、すっごいチャーミングだね! ボク、とってもハッピーな気持ちになった!お姉さんはきっと、自分も笑ってみんなも笑顔にして、いっぱいいっぱい幸せを届けるアイドルなんだね!」
卯月「え、え?」
ピエール「それじゃね恭二!SPが探してるはずだからもう行く! あ、そうだこれ!」
ピエールが、着ぐるみの内ポケットからごそごそ何かを取り出した。
丁寧に包装されていたそれは、ライブのチケットだった。
ピエール「なんだか恭二、最近沈んだ顔してた! だけど今やさしい顔してるし、きっとお姉さんのおかげ! 魔法みたいな笑顔のお礼! 絶対また会おうねまたね~やふ~!」
卯月にしっかとチケットをもたせて、ピエールは有無を言わせず去っていった。
未央「あ、行っちゃった……何か凄かったね、そこに居るだけで華やかになるっていうかさ」
恭二「ああ、ピエールはいつも天真爛漫で、笑顔で……辛いことあっても捻くれなくて頑張り屋で。
だからアイドルに向いてるんだろう。俺とは……違う」
卯月「そんな……!」
P「そうでしょうか」
これまでは積極的に会話に加わらないPだったが、そこだけは口を挟んだ。
P「人が見て魅力的な笑顔ができる、それのみで惹きつけるということは……
いつもの笑顔の裏には、辛いことも悲しいことも、焦りも嘆きも重ねてきて……
それらを誰よりも判っているからこそ、苦悩に直面してる人にとって眩しく映るのではないでしょうか?」
恭二「……」
未央「そうだね……誰だって。 へこんだりせずいつも温かく笑ってられる、そんなわけないよね」
そこでPは、それ以上言葉を重ねるべきか悩むように一度自分の首に触れ、やがて続けた。
P「なら貴方も。 永い時をかけても輝く星のように、樹齢を刻んでも美しい花を咲かせる大樹のように。
今がたとえ笑顔ができなくとも、それについて焦ること悩むこと思いを馳せることは無駄ではありません。
誰かが尊いと思えるのは、何も知らないままの上辺の笑顔では決してないと、私は考えます」
凜「……そう、だね」
ニュージェネの三人は、奇しくも公園で経てきた過去のことを思い浮かべて沈黙をし……
恭二も言葉に詰まった風だが、プロデューサーに軽く影響を受けたか、同じように首を触ると。
恭二「あんた……プロデューサーってより、優しい詩人みたいだな」
P「えっ」
恭二「そうだ、あんた樹木や花について言ってたし、今度花言葉も例えに使ってみたらどうだ?
知ってる人がよく使うんだがさ、きっともっとわかりやすく、人の心に届くと思うぞ」
卯月「わぁっ、それとってもいい考えです!」
未央「アイディア頂き! さっそくゆーみんに電話だ~! もしもし、あのね、今度さ」
P「え゛っ、ちょ、ちょっと待ってくださ! 島村さん!? 本田さん!?」
未央「うんうん、じゃ~そういうことで! よかったねプロデューサー、今度花言葉レッスンしてくれるってさ!」
凜「丁度いいや、私も一緒に教えてあげるよプロデューサー」
卯月「マスターしたら、プロジェクトのみんなに聞かせてあげてくださいね!」
P「」
自分の発言が引き起こした唐突な展開と、一方的に取り付けられた幾つかの約束の結びにPが呆然としていると、卯月はふとピエールが残していったチケットを確かめた。
卯月「……これ、凄く入手難しいチケットです。しっかり三人分も……ど、どうしましょう、これ」
恭二「もらっといていいんじゃないか? 少なくとも俺は、構わないと思う」
卯月「そ、そうですかっ必ず行きます! ねっ未央ちゃん凜ちゃん!」
未央「ん、オッケー!」
凜「うん、行こうかな、ちょうど興味出てきたし」
それじゃどんな格好して行こうか!? ときゃいきゃい計画を立て始める三人娘。
なんとなく弾き出された気分になった男二人は
P「(あの……私のぶんは……)」
恭二「あ~、ちょうど俺も、誰かにあげられるチケット余らせてたんだ、よかったらこれどうぞ」
P「お心遣い、痛み入ります」
そこでPは時計を見た。 そろそろ移動しないとスケジュールの大幅変更を余儀なくされてしまう。
P「みなさん、そろそろ」
未央「あっ、もうそんな時間!? しぶりん、しまむー、急がないと」
凜「そうだね。 ……チケットありがと」
卯月「ありがとうございました! あのっ」
卯月が何か言おうとするのを、解ってると言うばかりに、手で遮って
恭二「最高のライブ、見せてやるさ、俺はアイドル、だから」
卯月「! はいっ! 応援してます!」
軽快に去っていくPとニュージェネレーションズ。
公園に佇み、去る背中を、特に島村卯月の背を見ながら、恭二は追憶していた。
そもそものきっかけは、自分が体調を崩したせいで、渡辺みのりが仕事を代わってくれることになったからだった。
みのりは上手くこなしてくれたものの、スケジュールに微妙に狂いが生じ、315プロデューサーが調整するも数日では戻せず、結果。
みのり「ああもったいないもったいない、苦労してやっとチケット手に入ったのになぁ。
恭二、元気になったんなら代わりに行ってくれないかい?」
自分のことで精一杯で、他のアイドルには、まして女性アイドルのライブに興味はもてなかった恭二。
だが、迷惑をかけた上に、せっかくだから自分の代わりに行って来たらどうだい?と計らいを無碍にする気もしなかった。一晩でライブに必要な知識をしっかり詰め込まれて、眠気を堪えて気乗りしないまま到着する。
そこで、彼は、見た。
最初、ステージになぜか学校の制服で登場したアイドルを見て、怪訝に思う。
特に気になったのは、そのアイドルの俯き沈んだ顔と、拠り所を懸命に探してるかのような雰囲気。
制服のポケットに、指先を触れさせると、様子が一変した。
自分の名前を告げ、この時はっきりと覚えた、頑張りますを合図に始まるステージ。
彼は、見た。
最初こそぎこちなく始められた歌とダンス。
だが進むほどに、輝きが増す。アイドルとして加速していく。
圧巻は、彼女が笑顔を浮かべ魅せはじめた時から。否、あれは取り戻したという表現が不思議としっくりきた。
目が離せなくなる。 演出の桜が吹雪く中、感極まってあふれた涙と、活力を与えてくれる笑顔から。
瞼の裏に焼きついた笑顔を浮かべながら帰路につき、らしくないと思いながらも、気持ち冷めない内にみのりに礼を言おうと電話をかけた。
みのり「いいステージだったんだね?
ああこちらのことは気にしなくていい。それはきっと恭二に必要だったんだよ」
その代わりいつか埋め合わせはしてよと言ったみのりに苦笑いしながら、恭二は思った。
例えアクシデントがあっても、あのみのりが、楽しみにしていたライブへ行くためのスケジュール調整に失敗するだろうか?
疑問を追及する代わりにもう一度礼を言って、電話を切る。
冬の夜の風に、白い息を吐くが、不思議と寒さは感じなかった。
そうか、と気付く。 熱の理由。 自分は『感動』したのだ。
恭二「そうだったんだな、やっと気付いた。 俺がナーバスになっていた本当の理由は……」
ステージの彼女が、笑顔の力が、あまりにもキラキラと眩かったから。 射抜かれたから。
逆立ちしても、アイドルとして彼女のような者に及ばないと、勝手に考えてしまったから。
恭二「あっちは本物の、何かを掴み取れたシンデレラガール……
対してこっちは、まだ家の事情にも縛られて、自分の可能性すら見つけられないんじゃないかと疑っている」
だが、自分で自分を信じきれなくとも、他ならぬシンデレラが言ってくれたのだ。
自分にも笑顔の魔法はあると、かけられると。
恭二「……」
消沈した気持ちに火が灯る。 気合のスイッチが次々と入っていく。 そっと指先で、口を笑顔の形にもっていく。
恭二「っし」
更に自己管理を徹底することを決め、更に追加のレッスンの予定を入れながら、彼も、力強い足取りで公園を後にした。
冬の季節の快晴の日。
346プロ所属のアイドルユニット、ニュージェネレーションズの三人はたまのオフを満喫していた。
歩きながらの話題は、最近に生でライブを体験した315プロの男性アイドルユニットについてだ。
凜「それでね、生で聴いたら歌い方にも歌詞にもすごく入り込んじゃって。
私も、もっと輝いて、笑顔を咲かせられるよう、なれるかな……(誰かみたいに、さ)」
卯月「未央ちゃん。 凜ちゃん、朝からずっとこうです、Beitの新曲がとっても気に入ったんですね」
未央「しぶりんも、揺さぶられるものあったんだろうね、ライブの彼ら何か蒼かったしね」
ニュージェネレーションズは、それぞれライブの日のことを思い出していた。
どうもそのライブは346プロ全体においても注目されていたらしく、結果シンデレラプロジェクト、クローネの全員に加えて部長に専務まで足を運ぶ有様となった。
チケットを苦労して自力入手していたプロジェクトのメンバーには、大層やっかまれたりもしたが、終わる頃には皆満足気にしていた。
未央「それにしてもだ、同じユニットで別方向の曲をいくつも持ってるってのはいいね。
今度ニュージェネでも、しぶりんの蒼さに対応した曲もほしいね~」
凜「やめてよ、その言い方だと私だけ浮いてるみたいだよ。それより卯月は……行って良かった?」
卯月「はい、私また感動しちゃいました!」
まだ知名度は浅いBeitのライブが高い評判でチケット入手が難しい理由とは、Beitとは別の315プロ看板ユニットがゲスト出演するためだった。
名前はJupiter。 315プロ移籍前は961プロで活動しており、日本中で騒がれた大人気ユニットだ。
961プロを離れてからは活動を耳にすることも珍しくなったが、最近になってかつての勢いを取り戻しつつある。
凜「当日は、いきなり紗枝がついてきてプロデューサー困惑してたね」
未央「紗枝はんライブ作法完璧だったよね……未央ちゃんもびっくりさ」
卯月「Jupiterそれぞれに対応したサイリウム完備してました! ……あの」
未央「やめようしまむー。人には安直に踏み込んじゃいけない領域があるのさ。
誰かに星のことでボケるとか、誰かの特選ホラービデオ鑑賞会に付き合うとか」
そこではたと、三人一緒に足が止まる。
以前見かけたのと同じカエルの着ぐるみを見つけたからだ。
だが同じなのに明らかに違う、見過ごせない点がある。 サイズが二回りは違うのだ。
まるで180cmはある男性が無理くり中に入っているかのような……カエルは誘導プラカードを持っている。
奇遇にも、Beitのフラワーアクセサリーグッズ販売会がこの近くでやっているようだ。
以前の埋め合わせに、ライブに行った友人の裏方仕事を代行しているそのカエルは三人に気がつくと、まるで王子様のような気品ある仕草で一礼して、真逆の苦りきった声音を絞るように言った。
カエル?「っしゃーせー………恥ずかしいからこっち見んな」
おしまい、HTML化依頼してきます。
読んでいただいてありがとうございました。
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