加蓮「私、たぶん死ぬの」 (185)

-ライブ会場 控え室-

コンコン ガチャ

凛 「加蓮、いる?」

奈緒「応援に来たぞー」

P 「おっ、来たか」

加蓮「凛、奈緒!来てくれたんだ」

凛 「当然でしょ。加蓮にとって大事な日なんだから」

奈緒「IU...アイドルアルティメイト決勝」

奈緒「すごいよな...真のトップアイドルを決めるその決勝に」

奈緒「加蓮がいるなんて」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1449322450

P 「ああ。とうとうここまで来た」

P 「きっと加蓮が今まで真面目にやってきたから」

P 「だからこそ、今この舞台があるんだろうな」

加蓮「あはは、誉め過ぎだよプロデューサーさん」

加蓮「私はただ、プロデューサーさんと一緒に進んできただけだもん」

P 「いや、そんなことは無いぞ、加蓮はいつだって...」

加蓮「プロデューサーさんこそ...」

P 「いやいや加蓮こそ...」

加蓮「プロデューサーさん...」

P 「加蓮......」

奈緒「ちょっ、ストップストーップ!」

加蓮「ん?どうしたの奈緒」

凛 「......」

奈緒「その...いちゃいちゃするのは良いけどさ、そろそろ時間じゃないか?」

P 「ん...あぁ、本当だ。そろそろ舞台袖に行かないと」

P 「加蓮、準備はいいか?」

加蓮「うん、もちろん!」

P 「よし、じゃあ行くとするか」

奈緒「いよいよか...」

P 「奈緒、凛。応援に来てくれてありがとな」

P 「今日はしっかりその目に焼き付けていけよ」

凛 「うん、そのつもりだよ」

奈緒「悔いの残らないように、思いっきりやってこいよな!」

加蓮「2人ともありがとう!応援嬉しかったよ!」


加蓮「それじゃ、行ってくるね!」

-舞台袖-

P 「そろそろ加蓮の出番か...いかん、なんだか俺まで緊張してきたぞ」ブルッ

加蓮「.....ねぇ、プロデューサーさん」

P 「ん、どうした?」

加蓮「あのね......私」

加蓮「えっと.....」

加蓮「.......その」

P 「なんだ、何か気になることでもあるのか?」

P 「お手洗い...はさっき行ったよな」

加蓮「っ!?違うって!」

加蓮「....もうっ。いいよ、戻ってきたら言う」

P 「戻ってきたら...ってことはつまり」

P 「真のトップアイドルになったら、ってことだな」ニヤ

加蓮「勝てる保障なんて無いけどね」

P 「大丈夫、今の加蓮は誰にも負けないさ」

P 「誰よりも近くで加蓮を見てきた俺が保障する!」

加蓮「......っ」

P 「......あれ、加蓮?」

加蓮「...も、もう時間だから!行ってくるから!じゃあね!」ダッ

P 「あっ加蓮!?おい!」

加蓮「.........」タタタ

加蓮「.........」

ピタッ

クルッ

加蓮「.....プロデューサーさん!」


加蓮「私、勝ってみせるから!」

加蓮「あなたが育てたアイドルが優勝するところ」

加蓮「見逃さないようにね!」ニコ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー

タタタタタ

加蓮「プロデューサーさん!見ててくれた!?」ハァハァ

P 「あぁ!優勝おめでとう!加蓮!!!」ウルウル

加蓮「ちょっと、なんでもう泣いてるのよ」

P 「なんでってそりゃ、加蓮が優勝...」

P 「......」

P 「あの加蓮が....っ」ブワッ

加蓮「も、もーっ、しっかりしてよプロデューサーさんっ」ウルッ


加蓮「けほっ」

P 「ん?喉を痛めたのか?」

P 「水飲むか?」

P 「それとも飴の方がいいか?のど飴か?レモンもあるぞ」

加蓮「ちょっ、プロデューサーさん心配し過ぎ、ちょっと疲れただけ!」

P 「疲れてるのか?じゃあアンコールは中止にさせてもらった方が...」

加蓮「わわ待って待って!」

加蓮「大丈夫!大丈夫だよ!」

P 「いや、だが大事をとった方が...!」

加蓮「大丈夫だってば!」

加蓮「ほらっ!ほらっ!」ピョンピョン

P 「あぁっ!そんなにジャンプしたらっ!」

P 「わかった!わかったから!!」

加蓮「ふぅ、わかればよろしい」フゥ

P 「.....正直に言えば心配だが、加蓮の晴れ舞台だ」

P 「ファンも待っていることだし、行ってこい」

P 「だが、嬉しいからって無理はするなよ」

加蓮「はーい....もう、心配性なんだから」

加蓮「でも、ありがと。それじゃあ行って来るね、プロデューサーさん」クルッ

P 「あと少しだ、頑張れよ」

加蓮「うんっ」トトト



ワアァァァー

つづく

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー

加蓮「プロデューサーさん、ただいま」

P 「お帰り、加蓮。良いアンコールだったぞ!」

加蓮「えへへ、ありがと。でも、ちょっと疲れたかな」フラ

P 「おっと、大丈夫か?」

加蓮「言いつけ破って、ちょっと頑張り過ぎちゃったかも」

加蓮「心臓、まだバクバクいってる」ゼェ

P 「まったく、あれほど無茶するなって言ったのに...」

P 「とりあえず水を...あれ、さっきまでここにあったと思うんだが」

加蓮「...もしかして、その空っぽのやつのこと?」

P 「え?あっ、誰か飲んじゃったのか!?」

加蓮「...........」

P 「いや、俺じゃない!俺じゃないぞ!」

加蓮「...........」

P 「...加蓮?」

加蓮「....ごめん、ちょっと本当に疲れちゃったみたい」クラッ

P 「!!」

P 「いかん、すぐ身体を休めないと...そうだ、ここのソファに座ってろ!」

P 「すぐ水とか持ってくるからな!」

加蓮「うん...」ポスッ

P 「あれだけのライブだ、疲れるのも無理は無い」

P 「いいか、絶対俺が戻ってくるまで動いたりするなよ」

P 「約束だぞ!」タタタ

加蓮「あっ....プロデューサーさん....」

加蓮「........」


加蓮(.......言いそびれちゃった)

加蓮「ふぅ......」

加蓮(私が優勝、か...)

加蓮「プロデューサーさん、泣いてた...ふふっ」

加蓮(アイドルにならなきゃ、きっとこんな気持ちは知らなかった)

加蓮(全部、プロデューサーさんのおかげ)

加蓮(プロデューサーさんが隣にいてくれたから...)

加蓮「これで少しは、プロデューサーさんに恩返し......出来たかな」


加蓮(なんだか不思議)

加蓮(心臓のドキドキが収まらない)

加蓮(頭がぼーっとして、足元がふわふわする)

加蓮(そんな....まるで夢の中にいるような)


トクン


加蓮「......っ」グラ


加蓮(......え?)


トサッ

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ーーーーーーーーーーーーーーー

-販売コーナー-

P (水と、緑茶と、オレンジジュース)

P (炭酸...は、身体に障るかもしれないか)

P (やめておこう)

P 「そうだ、ウーロン茶と紅茶も念のため買っておくか」ズシ

P 「さてと、急いで戻らないと」


奈緒「あれ、こんなところで何やってるんだ?」

P 「おお、奈緒。ちょうどいいところに」

P 「ちょっとこれ運ぶの手伝ってくれ」

奈緒「うわっ、なんだこのドリンクの山」

奈緒「もしかして全部加蓮の?」

P 「ああ、加蓮のやつライブでちょっと疲れたみたいでな」

P 「水分を多めに取らせないと思って」

奈緒「いや、それにしたって多すぎだろ...」

奈緒「うわ、重......」ズシ

P 「わるいな」 

奈緒「まぁ、ちょうどそっちに行こうと思ってたし、いいけどさ」

奈緒「あ!そんなことより、おめでとう!」

奈緒「加蓮、本当にすごかったな!!」

P 「あぁ、ありがとう」

P 「本人にも言ってやってくれ」

奈緒「もちろん!」

テクテク

P 「ところで凛はどうしたんだ?」

奈緒「ニュージェネの2人が迷子になったらしくて、迎えにいった」

P 「あいつらも来てたのか」

奈緒「あとからみんなで行くってさ」

P 「そうか」

テクテク

奈緒「それにしても今日の加蓮、ホントに凄かったよな」

P 「やっぱりそう思うか?」

奈緒「うん」

奈緒「なんていうか、自分を燃やし尽くすっていうのかな」

奈緒「目が釘付けになっちゃった」

奈緒「凛なんて隣で泣いてたし」

P 「マジか」

P 「やっぱり決勝だから、気合が入ってたってことなのかもな」

奈緒「んー、それだけなのかなー」

P 「他に理由があるってことか?」

奈緒「いや、わかんないけどさ...」

P 「とにかく、今日のライブを見て俺は確信した」

P 「加蓮はまだまだ上へいける」

P 「それこそ、誰も到達したことが無いような高みへさ」

奈緒「ふーん」ニヤニヤ

P 「.....なんだよ」

奈緒「別にー」

P 「気になるだろ、教えろよ」

奈緒「何でもないよ。気にしない気にしない」

P 「ほんとかー?」

奈緒「ほんとだって。あっ、それよりほら」

奈緒「あそこにいるの加蓮じゃないか?」

P 「あぁ、ちゃんと動かずに待ってたみたいだな」

P 「ソファに横になって...寝てるのか?」

奈緒「衣装のまま?」

奈緒「おーい、加蓮!そんなところで寝たら風邪引くぞー!」タタタ


加蓮「...........」

つづく

奈緒「なー、見てくれよこの飲み物!買い過ぎだと思わないか?」

P 「なんだよ、少ないより良いだろ」

奈緒「そりゃそうだけどさー...」

奈緒「まぁせっかく買ってくれたんだ、加蓮、好きなの選びなよ」

奈緒「あたしも貰って良いだろ?」

P 「運ぶの手伝ってくれたしな」

P 「でも、加蓮が選ぶのが先だぞ?」

奈緒「わかってるよ!」

奈緒「ほら加蓮、いつまでも寝てないでさ」


奈緒「あれ?」


奈緒「加蓮?」

奈緒「なぁ、風邪ひいちゃうからいい加減起きなって」

奈緒「衣装もシワがついちゃうだろ」

奈緒「お祝いもしたいし」

奈緒「なぁ、加蓮」

奈緒「なぁってば」

P 「様子がおかしい」ドサッ

タタッ

P 「おい、加蓮」ユサ

P 「加蓮、目を開けろ!加蓮!」ユサユサ

P 「加蓮!」


奈緒「ぇ...おい」

奈緒「ウソ、だろ?」ズル

ドサッ ゴロゴロ

奈緒「ぁ...ペットボトル...」

P 「.....くそ」

P 「奈緒!」

奈緒「..........」

P 「...奈緒!!」

奈緒「ぁ、な、なんだよ?」

P 「俺は救急に連絡する」

P 「奈緒は誰かに医務室から医者を呼ぶよう頼んで」

P 「その後は加蓮に声をかけ続けてくれ」

P 「反応があったらすぐに教えるんだ」

奈緒「わ、わかった!」タタッ

P 「頼んだぞ!」

ポパピプペ

P 「...すみません、救急ですか!」

P (加蓮.....!)

つづく

ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー

-1週間後-

奈緒「ふぅー.....さむ...」テクテク

奈緒(加蓮が倒れてから、一週間が経った)

奈緒(加蓮は今も病院だ)

奈緒(あたしは毎日お見舞いに行っているけれど、まだ一度も会えていない)

奈緒(”面会謝絶”のプレートを沈鬱な表情で見つめ、帰る)

奈緒(その繰り返し)

奈緒「...........」テクテク

奈緒(あの後、事務所は大変だった)

奈緒(加蓮の仕事はレギュラーも含め、全部キャンセル)

奈緒(関係各所への連絡や根回しや)

奈緒(代役の手配)

奈緒(事務所の皆への説明...)

奈緒(........)

奈緒(IU優勝の喜びはもう、どこにも残っていない)

奈緒「......はぁ」

奈緒(でも、一番大変だったのはやっぱりあのこと...)

奈緒「おもいなぁ、これ」テクテク

奈緒(だけど今日は、久々に嬉しい出来事があった)

奈緒(加蓮の面会謝絶が解除されるらしい)

奈緒(ちひろさんが教えてくれた)


奈緒(だからあたしは、みんなからのお見舞いを両手に抱え)

奈緒(こうして病院に向かっている)

-病院-

ガチャ

奈緒「お待たせ」

P 「おぉ、奈緒。待ってたぞ」

奈緒「ごめん、遅れた」

奈緒「みんなあれもこれもってお見舞い渡してくるもんだからさ」

奈緒「よいしょっと」

P 「確かにすごい量だな...手伝おうか?」

奈緒「いいよ、大丈夫」

奈緒「それより、そっちこそ大丈夫なのか?」

奈緒「なんつーかその、色々と」

P 「まぁ、ぼちぼちってとこだ」

奈緒「ぷっ。なんだよそれ」

P 「はは...」

奈緒「加蓮、今日から面会できるんだろ?」

奈緒「もう会いに行ったのか?」

P 「いや、奈緒が来るって聞いてたからな」

奈緒「そっか」

P 「さてと...じゃあ」スッ

P 「行くか」

奈緒「うん」

テクテク

奈緒「なぁ、面会しても良くなったってことは」

奈緒「容態が落ち着いたってことだよな」

P 「ああ、多分な」

奈緒「じゃあ、すぐに退院できるのかなっ」

P 「......」

P 「......すまん、その辺りは俺も詳しく教えてもらっていないんだ」

奈緒「あっ...」

奈緒「だよな、ごめん......」シュン

P 「....奈緒」

奈緒「なに?」

P 「今みたいな顔、加蓮には見せるなよ」

奈緒「あっ、うん。わかった」

テクテク ピタッ

奈緒「着いたな」

P 「ああ」

奈緒「プレート、かかってないな」

P 「そうだな」

奈緒「...入って良いんだよな?」

P 「その筈だ」

奈緒「........」

P 「........」

奈緒「ねぇ、先に入ってよ」

P 「奈緒?」

奈緒「だって、なんか緊張してさ」

奈緒「ほら、手がこんなにふるえてる」フルフル

P 「緊張なんてする必要ないだろ」

P 「中にいるのは加蓮だぞ」

奈緒「わ、わかってるけどさ」

奈緒「もし加蓮が....」

奈緒「..........」

奈緒「...あぁ、やっぱダメだ!あたし出直してっ」クル


ガタン!


奈緒「あっ」

P (ドアノブに腕が)

奈緒「..........」

P 「..........」

奈緒「やっちまった...」

P 「ほら、往生際が悪いぞ」

奈緒「ここでそれはシャレになんねーよっ」



加蓮「誰?」


奈緒・P「!!!」

加蓮「誰?誰かいるの?」

P (加蓮の声だ...)

奈緒「.....っ」

P 「...俺だ。入るぞ」


ガチャ


加蓮「え......?」

P 「よ、なんか久しぶりだな」

奈緒「よ、よぉ、お見舞いに来たぞ」

加蓮「プロデューサーさん、奈緒......?」

P 「きれいに片付いてるな。って当然か、ははっ」

加蓮「え?え...なんで?」


加蓮「なんでプロデューサーさんも病衣、着てるの...?」

つづく

P 「実は俺も今ここに入院しててさ」

加蓮「入院って...そんな...どうして?」

加蓮「プロデューサーさんはどこも悪くなかったはずでしょ!?」

奈緒「お、おいっ、あまり興奮するなよ」

加蓮「でもっ」

P 「落ち着け、大丈夫だって」

P 「ただの肝炎だから。たいした病気じゃないんだ」

加蓮「肝、炎....?」

P 「ああ、A型のな」

奈緒「ほんと大変だったんだよ」

奈緒「加蓮が倒れたほんの少し後に調子崩してさ」

P 「まず熱が出て、身体もやたらとだるかったんだよ」

P 「最初は風邪かと思ったんだけど、どうも違う感じでさ」

P 「だから、エナドリの飲み過ぎかなーって思ったんだよ」

P 「そういう奴多いし」

加蓮「多いんだ...」

P 「で、それだと病院に行く訳にもいかないから、事務所でとにかく寝てた」

加蓮「寝てた?」

P 「ああ、仕事もあったし、家にも帰らないでずっと寝てたな」

奈緒「一日20時間くらい寝てたよな。でも全然元気にならないんだよ」

P 「そんな状態が3日くらい続いて、流石におかしいって凛が言い出して」

奈緒「あたしと凛が病院に無理やり連れてきたら」

奈緒「お医者さんが”君、入院ね”って」

P 「”急性肝炎だから、退院まで最低2ヶ月はかかるから”ってさ」

加蓮「2ヶ月....」

P 「まぁ、そんなに大きな病気じゃないみたいだけどな」

P 「2ヶ月から3ヶ月で完治するし、後遺症も全くないそうだ」

P 「ただ、その間は運動一切禁止、もちろん仕事も出来ない」

P 「なーんにも考えないで、気楽に眠り続けるのが一番の特効薬らしい」

P 「まぁ、今は体調もだいぶ回復したし、こうして自由に出歩いてるってわけだ」

加蓮「そうなんだ.........全然知らなかった」

P 「医者も加蓮に気を使って話さなかったのかもな」

加蓮「うん...そうだと思う」

P 「いやー、参った参った」

奈緒「とか言って本当は、仕事さぼれて嬉しい!とか思ってるんだろ?」

奈緒「なにより加蓮と一緒だしさ」

P 「おいおい、そんなこと言って良いのか?」

奈緒「え?」

P 「加蓮が心配でしょっちゅう泣いてたことバラしてもいいのか?」

奈緒「ちょっ、やめろよ!...って、もうバラしてるじゃねーか!!」

加蓮「奈緒......!」

奈緒「あっ、ち、ちげーし!」

奈緒「泣いてねー!全然泣いてねーし!」

加蓮「えっ...そうなの?」

奈緒「はっ?」

加蓮「ふーん...奈緒、私のこと心配じゃなかったんだ...」シュン

奈緒「!!」

加蓮「そっか...」グス

P 「あー、奈緒が加蓮いじめたー」

奈緒「う...!」

加蓮「少しは心配、して欲しかったな...」メソメソ

P 「あーあ......」チラッ

加蓮「うぅっ......ぐすっ......」チラッ

奈緒「あぅ.....」


奈緒「......あーあーもう!わかったよ!」

奈緒「そーだよ!心配だったよ!すげー泣いたよ!」

奈緒「今日こーして加蓮と会えて嬉しいよ!悪いか!!」

加蓮「奈緒ー!」ギュ

奈緒「むぎゅ」

奈緒「おま...やっぱうそ泣き...!」

加蓮「ありがとね。ふふっ、奈緒は優しいね」

奈緒「あー...もう、すげー恥ずかしい...」

加蓮「よしよし」ナデ

奈緒「もー!なーでーるーなー!」バタバタ

つづく

加蓮「うんうん、やっぱり奈緒は可愛いなぁ」ナデナデ

奈緒「むぅ...」

加蓮「可愛いかわいい」ナデナデ

奈緒「くやしい....あたしばっかりなでられて。納得いかない!」ガバッ

加蓮「きゃっ」

奈緒「こうなったら倍返しだ。あたしの本気を見せてやる!」

奈緒「いいかっ、退院したらおぼえとけよっ!」

加蓮「........っ」

加蓮「.......うん、わかった」

加蓮「楽しみにしとくね」ニコ

奈緒「ん...?」

P 「.........」

加蓮「ねぇ、ところでさっきから気になってたんだけど」

加蓮「奈緒のその大荷物って、もしかしてお土産?」

奈緒「あっそうだっ。これ渡さないとな」

奈緒「ってか、お土産じゃなくてお見舞いな」

奈緒「よい....しょっ」ドサ

加蓮「うわ、すごい量だね」

P 「いったい何人から預かってきたんだ」

奈緒「まずはこれ、凛から」ガサ

加蓮「わぁ...!」

P 「綺麗だな。プリザーブドフラワーってやつか」

奈緒「それそれ!そう言ってた」

加蓮「前に凛の店で話したやつだよ。覚えててくれたんだ」

加蓮「嬉しいな...」キュ

奈緒「さすが凛って感じだよな。ここに置いとくぞ」コト

加蓮「うん、ありがとう」

奈緒「それで次が...よっと」ドサ

奈緒「これが一番重くってさー」バサバサ

加蓮「本?こんなにいっぱいあるんだ」

P 「小説ってことは、文香か?」

奈緒「ああ。加蓮が好きなジャンルがわからないからって、何冊か渡してくれたんだ」

加蓮「へー、ほんとだ。ほら、目録までついてるよ」

P 「どれどれ...えっと、『ピーターラビット』『銀河鉄道の夜』『人間失格』」

P 「『舞踏会・蜜柑』......色々あるな」

加蓮「あっ私、蜜柑は読んだ事あるよ」

加蓮「プロデューサーさんも読んだことある?」

P 「ま、まあな」

加蓮「短いし、素朴だけど、すごく良い話よね」

P 「あ、ああ、そうだな」

加蓮「...プロデューサーさん、本当に読んだの?」

P 「あはは...」

加蓮「まぁいいけど...うわっ、これなんて函入りだよ!」

加蓮「 『チボー家の人々』...わっ、これ二段組だ」

奈緒「入院してる間に、ゆっくり読めば良いんじゃないか?」

加蓮「うん、そうするよ」

加蓮「携帯も没収されちゃって暇だったんだ」

P 「面白かったら俺にも貸してくれるか?」

加蓮「うん。奈緒、いいよね?」

奈緒「ああ、いいんじゃないか?」

奈緒「その本、気に入ったのがあれば差し上げますって言ってたし」

P 「へぇ、よかったな。加蓮」

加蓮「プロデューサーさんもね」

P 「文香チョイスなら間違いは無いだろうし、楽しみだ」

奈緒「そうだ、本系が良いならこれも嬉しいかもな。川島さんから雑誌の差し入れ」バサッ

加蓮「わぁ、ありがとう!」

奈緒「川島さんからは加蓮宛てだけじゃないんだ。ほい」ガサ

P 「え、俺の分もあるのか?」

奈緒「紙袋に入ってるから、何の雑誌かはわからないけどな」

奈緒「移動中は絶対あけるなーって言われたし」

P (何の本だよ)

加蓮「何の本だろ。ね、袋から出してみてよ」

P 「...........」

P 「いや、今はやめておくよ」

加蓮「けちー」

P 「はは......」

P (嫌な予感がする)


奈緒「あとあたしから蜜柑とゼリー。アーニャからはネコミミ」

奈緒「小梅からはこの前の旅行の写真を預かってきたぞ」

奈緒「他にも色々あるんだけど...」ゴソゴソ

P 「はは、部屋が一気に華やかになりそうだ」

加蓮「なんか、恥ずかしいな...」エヘヘ

つづく

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー

奈緒「...で、凛もそのまま飛び出しちゃって、”待てーっ”て!」

加蓮「あははっ、なにそれー」ケラケラ

P 「何やってるんだあいつは...」

奈緒「ん...」チラ

奈緒「さてと、そろそろあたしは行くかな」スクッ

P 「もうそんな時間か」

加蓮「え、もう帰っちゃうの?」シュン

奈緒「お、おい、そんな顔すんなって」

奈緒「また明日も来るからさ」

加蓮「ほんと?」

奈緒「ほんとほんと。なんか欲しいもんあるか?」

加蓮「ポテト!」

奈緒「ダメに決まってるだろ!」

加蓮「むー」

奈緒「元気になったら一緒に食べに行こうな」

加蓮「......うん」

P 「奈緒。気をつけて帰れよ」

奈緒「ああ、へーきへーき」

加蓮「出口わかる?」

P 「送って行こうか?」

奈緒「いや、わかるよ!バカにすんな!」

加蓮「ふふっ。奈緒、今日はありがとね」

加蓮「それに...ごめんね、心配かけて」

奈緒「......早く、元気になれよ」

奈緒「それじゃ、また明日」

ガチャ

シーン

加蓮「奈緒、行っちゃったね」

P 「なんか急に静かになったな」

加蓮「そうかも。もう、奈緒ってばあんなに騒ぐんだもん」

加蓮「無理しちゃって」クス

P (奈緒、ばれてるぞ)

加蓮「...なんて。私のせいだよね」

P 「......加蓮」

加蓮「.........」

P 「...お茶でも淹れよう。のど、渇いたろ」

P 「ポット借りるぞ」スクッ

加蓮「あ...ありがと」

P 「お茶っ葉は...この棚か?おっ、あったあった」ゴソゴソ

P 「湯飲みはこれか。ちょっと待ってな」カチャ

加蓮「うん」

P 「...........」コポポ

P 「...よし。加蓮、お茶が...」クル

P 「...っと」


加蓮「...........」ボ-


P 「...ここ、置いとくぞ」コト

加蓮「......うん。」

加蓮「...........」

P (加蓮の奴、どうしたんだ?)

P (窓の外をぼんやり見て......)

P (久しぶりに長く喋って、疲れたんだろうか)

P 「...........」ズズ

P 「あちっ」

加蓮「.........」ボー

P 「.........」ズズ

P (そろそろ、俺も戻ったほうが良さそうだな)

P 「さて、と...」

加蓮「...ねえ、プロデューサーさん」

P 「ん。なんだ?」

加蓮「あの建物、知ってる?」

P 「あの建物?」

加蓮「あの山のふもとに見える、赤い屋根の」

P 「......あぁ、コンサートホールのことか」

P 「懐かしい。俺達も昔あそこでオーディションやったよな」

加蓮「え?」クル

P 「どうした?」

加蓮「今、なんて言ったの?」

P 「懐かしいって」

加蓮「そのあとだよ」

加蓮「私達もあそこで歌ったこと、あるの?」

P 「覚えてないか?ほら、デビューして最初のオーディション」

P 「"THE DEBUT"って名前の」

加蓮「あ...!」

P 「あの時の加蓮、緊張してダンスは転ぶし、歌詞は忘れるしで大変だったよな」

加蓮「そ、そうだっけ...?もう、なんでそんなこと覚えてるのよっ」

P 「そりゃ、俺も初めてのオーディションだったし」

P 「加蓮との大事な思い出だしな」

加蓮「うー....」

加蓮「でも、そっか。あそこだったんだ」

加蓮「緊張してたからかな。場所まで覚えてなかったよ」エヘヘ

加蓮「そっか......」フィ

P 「加蓮...?」

P (また、外を見つめて...)

加蓮「.........」

P (.........)

P 「あ、あのさ。加蓮」


P 「すまなかった」

加蓮「え?」

加蓮「なんのこと?」キョトン

P 「加蓮が倒れたのは...俺のせいだ」

加蓮「!?」

P 「俺が、加蓮に無理をさせたから」

P 「加蓮は...」

加蓮「ちょっ、ちょっと待って!何を言ってるのプロデューサーさん!」

加蓮「プロデューサーさんが謝ることなんて無いじゃない!」

P 「最後のアンコール、無理矢理にでも止めるべきだったんだ」

P 「そうすれば、加蓮の異変にもっと早く気づくことが出来た」

加蓮「それは私が...!」

P 「それだけじゃない。普段からもっと、できることがあった筈だ」

P 「俺は、どんどんよくなる加蓮をずっと見ていたかった」

P 「加蓮と一緒にどこまでも行けると思っていた。だから、いや...」


P 「すまない」

加蓮「.........っ!」

加蓮「私は......っ」

加蓮「.........」

P 「.........」

加蓮「..............」

加蓮(......そっか...)


加蓮「......わかった。プロデューサーさんがそういうなら」

加蓮「いいよ」

加蓮「許してあげる」

P 「....え?」


加蓮「ただし、条件があるの」フワリ

P 「条件?」

加蓮「プロデューサーさんが入院している間、私のお願いを聞いて欲しいの」

加蓮「なんでもよ」

加蓮「私が笑いたいって言ったら、何か面白いことをして笑わせて」

加蓮「私が甘えたいって言ったら、甘えさせて」

加蓮「そうしたら、許してあげる」


P (...こんなことを言う加蓮は、珍しい)

P (だが、俺の答えは決まってる)

P 「ああ、わかった」

P 「なんでも言ってくれ。俺が出来ることなら、何だってやるさ」

P (だけど)


加蓮「........」ニコ


P (加蓮、どうしてそんな)

P (儚げな笑い方をするんだ)

つづく

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
-数週間後-

ガチャ

P 「ただいまー」

加蓮「おかえりなさい」

P 「市立図書館なんて、久々に行ったよ」

P 「本なら、また文香に借りればよかったんじゃないか?」

加蓮「だって、何冊も借りたら悪いじゃない」

加蓮「前の本だってまだ全部読みきってないのに」

P 「文香なら喜んで貸してくれそうな気もするけどな」

加蓮「まぁいいじゃない。それより」

加蓮「本、あった?」

P 「あったよ。ほら」ゴソ

加蓮「ん、ありがと」

加蓮「...あれ?」

P 「?」

加蓮「あっ、ううん。なんでもないの」

P 「どうした?頼まれてた本、それで良かったんだよな」

P 「ピーターラビットの」

加蓮「えっとね...」

加蓮「これ、確かにピーターラビットのシリーズだけど」

加蓮「私が借りてきて欲しかったのは別のなの」

P 「え、そうだったか?」

加蓮「これは”こわいわるいうさぎのおはなし”」

加蓮「私がお願いしたのは”フロプシーのこどもたち”だったんだ」

P 「で、でも、それでも良いんだろ?」

加蓮「うーんとね....」

P 「ちょっと待て、確かここにメモが...」クシャ

加蓮「あっ...」

P (どれどれ...)カサ

P 「げっ」

P (”こわいわるいうさぎのおはなし・・・×”)

加蓮「あちゃー...」

P 「良くなかったみたいだな...すまん」

P 「もう一回行って、借りなおしてくるよ」

加蓮「わっ。いいのいいの」

加蓮「今度また借りてきてくれればいいから」

P 「いや、いいんだ。間違えたのは俺だし」

加蓮「で、でも、今日はすごく寒いし」

加蓮「それに、今から出かけたら、帰る頃には日が暮れて...」

P 「大丈夫だよ」

P 「すぐ帰ってくるから」

加蓮「ほんとに行く気なの?」

P 「ああ、もちろん」

加蓮「...もう、病気が悪化しても知らないよ?私は止めたからね」

P 「わかってるよ。じゃ、行ってくる」

加蓮「......がんこなんだから」

ガチャ

-外-

P 「うぅ...さむっ」ブル

P (やべ、もう東の空が暗くなりかかってる)

P 「まいったな...。急がないと図書館が閉まるぞ」

P (加蓮にああ言った手前、もう失敗は出来ないし)

P 「...頑張るしかないか」

P 「はぁ...、こんなことならマイカー買っとくんだった」タタタタ



P (なんとなく身体が重い。具合が良くないんだろう)

P (これは来週の定期診断、もしかしたらひどい結果が出るかもしれないな)

P (ま、いいけど)

P (それよりも、この間から加蓮が時々見せるあの瞳)

P (瞳の中で黒い水がゆっくりと渦巻いているよな)

P (吸い込まれそうで、それでいてひどく切ないような、あの目...)

P (どうして、加蓮はあんな目をするんだろう)

つづく

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
-病院-

P 「結局、夕食の時間までに戻れなかった...」グゥー

P (ま、目的の本は借りられたから良しとするか...)

P (さっそく加蓮に渡さないと)

コンコン

P 「入るぞ」ガチャ

P (...あれ)

P (部屋がまっくらだ。電気、つけてないのか)

P 「加蓮?」

加蓮「.........」

P (窓からかすかに射しこむ外灯の光に)

P (加蓮の輪郭をうっすらと浮かびあがっている)

P 「明かり、つけないのか?どうしたんだよ?」

加蓮「............」

P 「............」

P (加蓮、またあの建物をじっと見つめて...)

P 「.........」

テクテク

P (本は...ベッドの上に置いとけばいいだろ)ポフ

P (さてと。俺はパイプ椅子に座って)

P (待つとするか)ギシッ

加蓮「.........」

P (みじろぎひとつしない)

P (なにも言わないし、こっちを振り向きもしない)

P (ただじっと、加蓮は外を眺めている)

P (...まるでこの部屋だけ、時間がゆっくり流れているみたいだ)

P (こんな状況にも、もう慣れちゃったな)



P (一日に一度くらい、こんな時間がある)

P (なんの前触れもなく、急に加蓮は黙り込んでしまう)

P (こうなったら、こっちが何を言ってもダメだ)

P (話しかけても加蓮は無視するし、よくても生返事がせいぜい)

P (こんな時、俺は、加蓮が遠くへと離れてしまったように思ってしまう)

P (俺の手は、もう加蓮には届かないんじゃないかと)

加蓮「.........」

P 「.........」

P (加蓮。今、なにを考えているんだ?)

P (なぜあのコンサートホールを見つめているんだ?)

P (また、ステージの上に立ちたいのか?)

P (それとも..)

加蓮「.........」

P 「.........」

P (加蓮の背中...)

P (.........痩せたな)

P (ただでさえ、ほっそりとした体系だったんだ)

P (今の加蓮は、細すぎる。哀しさを感じさせるほどだ)

P (加蓮の病気のことを、俺は知らない)

P (本人に聞くわけにもいかないし)

P (それに、正直言って)

P (聞くのが、怖い)


グウゥゥゥー

P 「あ」

P (腹の音が...。夕食、食べてないからなぁ)

加蓮「......。」クルリ

P 「あ、加蓮...。その、ごめん」

P 「って、なに謝ってるんだろうな。はは...」

加蓮「.........」

P (逆光になって、加蓮の表情が見えない)

P (もしかして怒らせたか?)


加蓮「それ、食べていいよ」

P 「え?」

加蓮「食べて」スッ

P 「あ、夕食...!」

P 「どうしたんだ、これ」

加蓮「プロデューサーさんの分。とっておいたの」

P 「俺のって......。わざわざ持ってきてくれたのか?」

加蓮「......」コクン

P (なんてことだ)

P (加蓮のやつ、看護婦さんに俺の夕食が回収されないように)

P (食事を持ってきておいてくれたんだ)

P 「..........」

加蓮「?」

加蓮「食べないの?」

P 「あ、いや、食べるよ!食べる」

P (ちょっと感動して呆けてしまった)

加蓮「ここ。ベッドのはじ、使って良いよ」スッ

加蓮「明かりもつけていいから」

P 「あ、ありがと」

P 「じゃあ、いただきます」

加蓮「ふふ、どうぞ」

P 「......」 ガツガツ

P (腹が減ってたせいかな)

P (すっげーうまい)

P (いや、もしかしたら、別の理由かもしれないけど)ガツガツ

加蓮「プロデューサーさんってばそんなにがっついて、犬みたい」クス

P 「犬って」チラ

P (なんでだろう。悪い気はしないな)

加蓮「ふふ...」ニコニコ

P (加蓮が嬉しそうに笑ってる)

P (笑っているときの加蓮は、天使のように綺麗だ)

P (ずっとこんな風に笑ってくれればいいのにな...)ジッ

加蓮「...?」

加蓮「どうしたの?」

P 「...すっげーうまい」

加蓮「病院のごはんがおいしいなんて」

加蓮「かわってるね、プロデューサーさん」

P 「い、いや、ほんとうまいって」

加蓮「よしよし、いっぱいたべなさい」ナデ

P (犬みたいに撫でられた)

P (でも、やっぱり悪い気はしない)

P (それどころか、髪を滑ってゆく加蓮の手の感触やその笑顔が、やたらと嬉しい)

P 「あー、うまい。ほんとうまい」ガツガツ

加蓮「たんとおたべ」ニコニコ


P (恥ずかしいから、言わないけど)ガツガツ

つづく

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コンコン

加蓮「プロデューサーさん、いる?」ガチャ

P 「お。珍しいな、加蓮の方から俺の部屋に来るなんて」

加蓮「ちょっとね。...あ」

加蓮「その本、読んでるんだ」

P 「ああ。さすが文香の選んだ本だけあって面白いよ」

P 「なんていうか、ちょっと変わった人だよな」

P 「芥川さん」

加蓮「ふーん...」テクテク

P 「それで、なにか用でもあるのか?」

加蓮「.......」

加蓮「えいっ」パタン

P 「あーっ!なにするんだよ加蓮!」

P 「本をいきなり閉じたら、どこまで読んだかわからなくなっちゃうだろ!」

加蓮「んふふ」

P 「んふふじゃなくて!」

加蓮「ごめんね、真剣に読んでるみたいだったから、つい」

P 「ついって...まったく。完全に油断してたよ」

P (今度からはしおりを用意しておこう)

加蓮「それよりさ」

加蓮「ね、プロデューサーさん。ちょっと付き合ってくれない?」

P 「え?」

加蓮「あのね、行きたいところがあるの」

P 「ずいぶん唐突だな」

P (病院なんて特にやることもないし、構わないけど...)

P 「.........」

P (どうしたんだ?今日の加蓮...)

P (はしゃいでいる...いや、違うな)

P (無理に、はしゃいでいるフリをしている)

P (そんな感じだ)

加蓮「何してるの、プロデューサーさん。早くいこう?」

P 「それはいいけど...どこに行くんだ?」

加蓮「ふふ。ついてきたらわかるよ」

P 「...院内だよな?」

P 「というか、さっき奈緒が来てなかったか?」

P 「いいのか?放っておいたらかわいそうだろ」

加蓮「もうっ、細かいことはいいじゃない!」

加蓮「ほら、いいからいこうよ。プロデューサーさん」グイグイ

P 「どうしたんだ加蓮?なにかあったのか?」

加蓮「........」グイグイ

P 「ちょっ、わかった!行く、すぐ行くから!」

P (しょうがない。どのみち俺には)

P (加蓮を放り出すなんて、できるわけ無いんだ)

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テクテク ピタッ

加蓮「...ふぅ、到着ー」

P 「なぁ、加蓮」

加蓮「ん?」

P 「目的地って...ここか?」

加蓮「うん。そうだよ」

P 「..........」

P (自販機コーナーでジュースでも飲むのかと思ってたんだが)

P (...なんで、ここに?)

P (だって、1階の廊下の突き当たり.....ここは)

P (手術室じゃないか)

P (ランプが消えているところを見ると、今は使ってないみたいだけど)

加蓮「.........」ギィ

P 「!?」

P 「お、おい、加蓮!」

加蓮「........」スタスタ

P 「やばいって!怒られるぞ!」

加蓮「大丈夫だよ」

P 「え?」

P (もしかして、見学の申請でもしてあるのか?)

加蓮「怒られたら、プロデューサーさんに無理やり連れこまれたって言うから」

P 「なっ...!」

加蓮「表現力レッスンでずいぶん鍛えられたからさ」

加蓮「演技にはちょっと自信あるよ」フフ

P 「おいおい...勘弁してくれ」

P (冗談だよな?笑ってるけど...)

加蓮「.........」ニコニコ

P (.........)

P 「......はぁ」

P (しょうがない。もう、なるようになれだ)

P 「ちょっとだけだからな」

加蓮「わかってるって。ふふっ」

加蓮「ね、プロデューサーさんは手術室に入ったことある?」

P 「いや、ないよ」

加蓮「私も。こんなふうになってるんだね」

加蓮「いろんな医療機器がいっぱい」

P 「ああ、使い方のわからない機械ばっかりだ」

P 「俺がわかるのは、心電図と点滴台くらいだな」

加蓮「あはは、私もそうかも」

加蓮「あとわかるものって言ったら...やっぱりあれだね」チラ

P 「......だな」

P (部屋の中央)

P (緑のカバーがかけられてはいるが、間違えようがない)

加蓮「......手術台」

P 「.........」

加蓮「プロデューサーさん、寝てみてよ」ポンポン

P 「お、俺が?」

加蓮「うん。ね、ちょっとだけでいいから」

P 「........」

P (いいのかなぁ。いや、どう考えてもダメだけど)

加蓮「........」

P 「.....はぁ、ほんとにちょっとだけだぞ」

加蓮「やったっ」

P 「よいしょっ」ボス

P 「これでいいか?」

加蓮「うむ、よろしい」

加蓮「ごほん」

P 「?」

加蓮「では、手術を始めます」

P 「は?」

加蓮「まず胸の真ん中を喉仏の下から鳩尾まで切開し」

加蓮「胸骨も切開します。心臓が見えるようになったら」

加蓮「人工心肺装置で血液の流れを確保しつつ...」

P 「ちょ、ちょっと待て!加蓮、なに言ってるんだ!?」

加蓮「何って、手術の手順の確認だよ」スッ

P 「何でそんなの知って...っておい!」

P 「待てって!その光るものはなんだ!?」

P 「......まさか!!」

加蓮「信頼して。大丈夫だから」

P 「なにを信頼するんだ!なにを!」

加蓮「じゃあ、始めます」

P 「ちょっ、おい、加蓮、やめ...!!」



奈緒『加蓮?そこにいるのか?』



加蓮・P「!!」

P (この声は......奈緒!!)

P (助かった.....じゃない!)

P (この状況、どう説明するんだ!)

P 「隠れないと...!」

P (だがどこに....)

P (そうだ!手術台の下なら、カバーの内側に隠れられる!)

P 「そうと決まれば....ほっ!」ゴロン

ドサッ

P 「いたた......よしっ」バサッ


加蓮「きゃっ」

P 「か、加蓮!?おまえもここに隠れたのか」

加蓮「だって、ここしかなかったから...」

P 「それもそうか...」

加蓮「っていうか、プロデューサーさん近い...!」

P 「す、すまん...!出て、別の場所に...」

加蓮「そんな場所ないって...!それに私は別に...」


奈緒「し、失礼しまーす」ギィ


加蓮「っ!」

P 「......っ」

P (奈緒が入ってきた...!)

P (おおかた、加蓮がいなくなって心配で探しに来たんだろうが...)

P (まさか、手術室にまで)

加蓮「...........」

P (加蓮も息を殺している...)

奈緒「か、加蓮ー?ここにいるの...ですかー?」

P (場所が場所だからか、奈緒の言葉遣いがめちゃくちゃだ)

奈緒「誰も...いない、のか...?」


P (...今気づいたが)

P (このカバーは一番下まで垂れているわけじゃない)

P (もしかしたら、奈緒の位置からだと身体が少し見えてしまうかもしれない)

奈緒「..........かれんー...」キョロキョロ


P (頼む、気づかないでくれ...!)

P (......ん?)チラ

加蓮「..........」プルプル

P 「...お、おい!」ボソ

P (加蓮のやつ、頬をひくひくさせて、今にも笑い出してしまいそうだ)

P (わかる、わかるぞ加蓮)

P (笑っちゃいけない時に限って、意味もなく笑いがこみあげてくるよな)

P (でも、今はヤバいって!)

加蓮「.......」プルプル

P (....こうなったら、直接加蓮の口を押さえるしかない!)パッ

加蓮「っ!」モガ

加蓮「んーっ、んーっ...!」パタパタ

P (静かに...!)

加蓮「んーっ....」モガモガ



奈緒「......いないみたいだな」

奈緒「もう。加蓮のやつ、どこにいるんだよ...」テクテク

ギィィ
バタン

P 「.........」

P 「行ったか...」

P (なんとか助かった.....)フゥ

加蓮「んー!!んー!!!」バタバタ

P 「あっ、すまん」パッ

加蓮「ぷはっ」


加蓮「あはははっ、プロデューサーさんったら、おかしー!」ケラケラ

加蓮「顔がひきつってたよ!」

P 「そんなことで笑ってたのか!?」

加蓮「だって、ほんと引きつってたんだもん」ケラケラ

P 「いや、誰のせいだよ...」

P (怒っていたはずなんだが、不思議だな)

P (加蓮の笑顔を見ていたら、怒りが一瞬で溶けてしまった)

加蓮「あはは、おかしー!」ケラケラ


P (なんでだろう。加蓮の笑顔が、なぜかまぶしい)

P (思わず目を細めてしまうくらいに)

つづく

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
-屋上-

加蓮「あはは、おもしろかったね」クスクス

P 「そうか?俺はひやひやしっぱなしだったぞ」

加蓮「えー?ほんとかなぁ」


P (...本当はけっこう面白かった)

P (加蓮のあんな笑顔が見られたんだ)

P (それだけで、最高の一日だ)

加蓮「でも、見つからなくてよかったね」

P 「そうだな」

P 「見つかったらきっと、奈緒に殺されてた」

加蓮「プロデューサーさんがね」クスクス

P 「言い訳の言葉も浮かんでこないよ」

加蓮「”お医者さんごっこしてました”とか」

P 「いかがわし過ぎるだろ」

加蓮「ね、この屋上からの景色」

加蓮「きれいだね」

P 「ああ。景色が病室で見るより、くっきりしてる気がする」

加蓮「風もきもちいー」ソヨ

加蓮「ほら、干してあるシーツが風ではためいてるよ」

P 「すごい枚数だ。きっと洗うのは大変だろうな」

P (.........)

P (一瞬、風をはらんで揺れるシーツが)

P (病院で死んでいった人々の魂が、幽霊となって現れたように見えた)

P (....やめよう。縁起でもない)

P 「...日中とはいえ、寒いな」

P 「身体を冷やしたら良くない。加蓮、そろそろ中に入ろう」

加蓮「.........」

P 「加蓮」

加蓮「ねえ、プロデューサーさん」

P 「なんだ?」

加蓮「どうして聞かないの?」

P 「聞くって......何をだよ?」

加蓮「私のこと」

P 「加蓮の?」


加蓮「私の、身体のこと」


P 「....っ」

加蓮「気づいてるんでしょ」

加蓮「私の身体、良くないってことぐらい」

P 「あ、ああ...」

加蓮「わかるんだ、気にしてるの」

加蓮「プロデューサーさん、態度でバレバレだもん」

加蓮「奈緒とおんなじくらい」クス

P 「.........」

加蓮「でも、なんにも聞いてこないでしょ?」

加蓮「プロデューサーさん、優しいから。」

加蓮「私もプロデューサーさんの優しさに、つい甘えちゃった」

加蓮「だけど...やっぱり、中途半端って言うのかな」

加蓮「その...よくないかなって」

p 「.........」

P (様子がおかしかった理由は、これか...)

加蓮「.........」

P (加蓮はきっと、俺の言葉を待っている)

P (もしかしたら、加蓮自身も迷っているのかもしれない)

P 「.........」

P (聞きたくない。だけど、それは加蓮を裏切ることだ)

P (だから...)

P (覚悟を、決めるしかない)

P 「やっぱり...悪いのか?」

加蓮「......うん」ニコリ


加蓮「私、たぶん死ぬの」


P 「...っ!!」


加蓮「もう、ほとんど決まってるの」

P (...きっと、心のどこかでわかっていた)

P (わかっていて、気づかないフリをしていたんだ)


P (加蓮の小さな手)

P (運命や幸運を掴み取る能力に欠けているかのような小さな手)

P (その爪は、小さく切られている)

P (加蓮の趣味であるネイル、マニキュア)

P (それらは、病人には許されない)

P (なにかあった時、たとえば苦しくなって暴れたりした時)

P (医者や看護婦を傷つける恐れがあるからだ)

P (同様の無惨さは、加蓮の全身に偏在している)

P (加蓮の淡い栗色の髪は、以前と比べだいぶ伸びた)

P (入院しているせいで、美容院になんて行けないからだ)

P (健康的な色味が抜けた、白磁のような肌は)

P (もはや自由に、満足に外へ出ることすら出来ないからだ)


P (加蓮の病気が芳しくないことくらい)

P (だから、とっくに気づいていた)


P (加蓮は、いろんなものを奪われていた)

P (そして今も奪われ続けている)

つづく

P 「...どこが悪いんだ?」

加蓮「心臓だよ」

加蓮「私の心臓、もうちゃんと動かないんだ」

P 「心臓...」

加蓮「小さい頃もね、同じ病気でずっと入院してた」

P 「.........」

加蓮「家族もお医者さんも、全力で私の治療をしてくれたよ」

加蓮「強心剤、血管拡張剤」

加蓮「アンジオテンシン変換酵素阻害薬および受容体阻害薬」

加蓮「ベータ遮断薬...それはもう色々な治療をして」

加蓮「なんとか日常生活を送れる程度には回復したの」

加蓮「でも今回、こうなっちゃって」

加蓮「もう、手術をしなきゃどうにもならないみたい」

加蓮「だけどね」

加蓮「私は組織が脆くて、うまくいかない可能性が高いんだって」

P 「そんな...」

P (病に冒された心臓の手術)

P (その手術が失敗したらどうなるか)

P (そんなの、考えるまでも無いじゃないか...)

加蓮「だからね。もし手術するなら、覚悟を決めなきゃダメなの」

P 「覚悟...」

加蓮「......えへへ」

P 「加蓮...」

加蓮「プロデューサーさん。私達が初めて出会った日のこと」

加蓮「覚えてる?」

P 「忘れるわけ...ないだろ」

加蓮「じゃあ初めてのオーディションのことは?」

P 「しっかり覚えてるよ」

加蓮「うん、私も」

加蓮「ま、建物のことは忘れちゃってたけどね」クス

加蓮「オーディションの前に、私が弱音を吐いちゃって」

P 「ああ、”私には何もない”って」

P 「そう言ったんだよな」

加蓮「......プロデューサーさんは”違う”って怒ってくれた」

P 「加蓮を怒ったのは、あの時が初めてだったな」

加蓮「あのとき私ね、すごく嬉しかったんだ」

加蓮「それまで私の周りは、私をただ哀れんで」

加蓮「気の毒そうな視線を向けてくる大人ばっかりだったから」

加蓮「でも、プロデューサーさんは私を怒ってくれた」

加蓮「対等に見てくれた......それが嬉しかった」

加蓮「この人と一緒に進んでいこうって、そう思えた」

P 「............」

加蓮「だからね、プロデューサーさん」

加蓮「あの時プロデューサーさんが、私を本当の意味でアイドルにしてくれたって」

加蓮「アイドルとしての私が生まれたんだって」

加蓮「ずっと、そう思ってるんだよ」ニコ

P 「......買いかぶり過ぎだ」

P 「俺はただ、加蓮の手伝いをしただけだよ」

加蓮「いいの。私がそう思ってるんだから」クス

加蓮「それから、奈緒や凛と出会って、事務所の皆とも仲良くなって」

加蓮「今の私...っていってもこんなだけど、あるってわけ」

P 「...........」

加蓮「...もう一度、あそこに行ってみたいな」ポツリ

加蓮「そうしたら」

加蓮「私も覚悟、できるのかな」

P 「加蓮......」

加蓮「...あは、長くなっちゃった。ごめん」

加蓮「やっぱり外は寒いね。もう戻ろっか」

P 「...ああ、そうだな」

P (...そうか)

P (病室で黙り込み、窓の外を見つめていた時)

P (加蓮はあの建物を、そしてそこに宿る思い出を見つめていたんだ)

P (アイドルとしての加蓮が生まれた日のことを考えていたんだ)

P 「...........」

P (俺は......)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
-Pの病室-

ガチャ

P (屋上で加蓮と別れ、自室に戻ってきたはいいが)

P (...急に暖かい空気に触れたからかな)

P (なんだか頭がぼんやりする。身体もひどくだるい)

P 「ふー...」


奈緒「...おかえり」

奈緒「遅かったじゃねーか」


P 「奈緒?」

P 「どうしてここに」

奈緒「...ちょっと、話がしたくてさ」

P (目が赤いな...もしかして)

P 「泣いてたのか?」

つづく

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