京子「ゆるくいこうぜ~」 (28)
京子「あ~疲れた~」グデー
結衣「疲れたってお前、ずっと座ってただけだろうが」
京子「なんだと! 立ったりもしたぞ!」
結衣「はいはい……それにしてももう卒業シーズンなんだよな」
京子「おやおや結衣さんや。卒業式の直後に何を言っているんだい?」
結衣「いや、式が終わってから泣いている人とか見てるとやっぱり実感しちゃってさ」
京子「なるほどね~。校門の前とか確かに結構居たもんね。もう帰っちゃったけど」
結衣「あかりやちなつちゃんも先にパーティーの準備が……って帰っちゃったしな。てかなんで私達だけ学校に残ってるんだって話だよ」
京子「さあ? 居心地が良いからとか?」
結衣「お前が残るって言ったからだろうが……てかなんで疑問系なんだよ」
京子「そりゃあ私がその場のノリに身を任せて生きてるからだよ」
結衣「自覚があるなら止めてくれ……にしても何するんだよ」
京子「そうだなぁ……ここに居ても何も無いし、どうせ今日で最後だし校内でもブラブラしますか!」
結衣「仕方ない……付き合ってやるよ」
京子「よしきた! じゃあ校内探検ツアーにレッツゴー!」
結衣「はいはい」
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京子「じゃじゃ~ん! ここが私達の教室で~す!」デデーン
結衣「いや、知ってるし。誰に対しての説明だよ」ビシッ
結衣「というか、もう私達の教室ではないがな」
京子「そっか……じゃあ私達の元教室で~す!」デデデーン
結衣「何故わざわざ訂正してまで口に出すのか……」
京子「まぁまぁ固いことは言いっこなしだってば結衣ぴょん」
結衣「ぴょんはやめろぴょんは」
京子「それにしてもさ~、この教室でも色々あったな~」シミジミ
結衣「京子は授業中に関しては寝てるだけだったけど」
京子「なにおぉう! ミラクるんの原稿描いてたりもしてたやい!」
結衣「勉強しろよ」
京子「授業だからって勉学に励まなきゃいけないという刷り込みに屈し、ただ享受するのみの人間になりたくないのだ!」キリッ
結衣「それっぽいこと言ってるけど、授業は勉強の為なのは当然だから刷り込みでもなんでもねーから」
京子「ちぇ~……って、やっべ、教科書机の中に全部入れっぱだ」
結衣「おいおい」
京子「あれだよ。教科書と共に、私の学校に対する想いを机の中に込めてある……みたいな?」
結衣「教科書を残していくくらい勉強が嫌いだったんだなって想いは伝わると思うぞ」
京子「そんなの後輩ちゃん達に残していきたくな~い」ダルーン
結衣「じゃあちゃんと持ち帰ろうな」
京子「は~い」
~生徒会室~
京子「杉浦綾乃~!!」バタンッ
結衣「いや、居ないだろ」
千歳「あれ? 歳納さんに船見さん、どうしたん?」
京子「おお! 池田千歳~!!」
千歳「なんかフルネームで呼ばれるのも新鮮やな~」
結衣「何故千歳もフルネームで呼んだのか……まあ私達は気まぐれでここに来ただけだよ」
結衣「ところで千歳は何でまだ学校に残ってるんだ? てっきり綾乃たちと一緒に帰ったのかと思ったよ」
千歳「ちょっと生徒会室の整理をしようと思ってな~。一人ですぐ終わる量だろうと思って綾乃ちゃんには先に行ってもらったんよ~」
結衣「なるほどね。こんな日だってのに大変だね」
千歳「そんなことないって。それにこの後は皆でパーティーやろ? そう考えたら整理だって何だか楽しく感じてしまうねん」ウキウキ
結衣「分かる分かる。文化祭の前とかにテンション上がるのと同じだよね」
京子「実は京子ちゃんもさっきからパーティーが待ち遠しくてテンション上がりまくりなのですよぉ」ブンブン
結衣「お前は祭とか関係無しに終始浮かれてるだろ? あと一人choo choo trainはやめろ」
京子「テヘッ☆」ペローン
結衣「褒めてねぇよ」
千歳「でもウチも今そんな感じでテンション上がっとるんよ。それに……」
千歳「歳納さんと綾乃ちゃんのくんずほぐれつキャッキャウフフが見れると考えると……」メガネカチャッ
少女妄想中……
千歳「……たまらんっ!」ブバッ
結衣「うわぁ! 千歳大丈夫か!」
京子「いつもながら千歳は楽しいなぁ」
結衣「そんな呑気にするなよ! はい、ティッシュ」
千歳「ありがとな。船見さん」フキフキ
結衣「いいっていいって。あと、私達もその仕事手伝うよ。早く終わらせるに越した事は無いだろうし」
千歳「ほんまに~。実はなぁ、整理し始めたらちょっと量があって、どうしようかと思ってたんよ」
結衣「それならちょうど良かった」
京子「よ~し! この京子ちゃんが俊敏で敏腕且つ豪腕な腕を思う存分に揮っちゃうぞ~」
結衣「いや、先二つはいいとして豪腕はいらねぇ。あと京子が豪腕はない」
京子「なんだとぉ~! 何を根拠にそんな事をいっておるのだ~」プンスカ
千歳「(前にやった腕相撲のことやろなぁ……)」
結衣「ふぅ……終わった終わった」
千歳「お疲れさん、助かったわ~」
結衣「これは手伝っておいて正解だったね。作業の種類が何個かあったから一人だと手間かかりそうだったし」
千歳「せやね。二人のおかげですぐに片付いたわ。ありがとうな」
京子「はっはっは~。崇めるがよい~」
結衣「威張るな。お前は1番楽なやつで、資料をファイルに入れるだけの仕事だったじゃないか」
京子「むぅ~」プクー
千歳「まぁまぁ。ウチは助かったんやし、歳納さんの頑張りのおかげでもあるんよ」
京子「ありがと~、千歳は優しいなぁ。それに比べて我が家の結衣は反抗期真っ只中だから……」
結衣「いつから私はお前の家の子になった」
京子「え~……一万年と二千年前から?」
結衣「一人で合体しててくれよ」
千歳「…………」
京子「ん? 千歳どうした?」
千歳「いやぁ、こうして二人のやり取りをぼんやり見てるだけでもおもろいなぁって、思ってなぁ」
京子「やったな結衣! 私達やっぱりお笑いコンビ組めるよ!」
結衣「いや、組めねぇよ」
千歳「さてと、整理するんも終わったし、ウチも赤座さん家に向かうかな」
京子「おっけ~。それじゃあ私達はまだ学校に居るからまた後で」
千歳「あれ? まだパーティーの方には行かへんの?」
結衣「ああ。せっかくだしもうちょっと学校を回ってからにしようって話になって」
千歳「そうなんか~……色々あったもんなぁ。記念に見て回りたく気持ちを分かるわ」
京子「そゆことそゆこと。そういやあかりん家は分かる?」
千歳「大丈夫やで。ちゃんと赤座さんに地図まで貰うてるし」
京子「なるほど。それならモーマンタイだ」
結衣「(わざわざ地図を描かなくても良くないかと思うのは私だけか?)」
千歳「じゃあお先に~」
結衣「うん、後で」
京子「お~う! また後でな~!」ブンブン
京子「ん~……あかり達の教室も行ったし、体育館も行った。んで理科室は修繕中、と」ユビオリ
結衣「生徒で残ってたのは私達を除けば千歳だけだったな」
京子「式が終わってすぐはちらほら居たけどねぇ。もう時間も経ってるし、皆流石に帰るよ」
結衣「……ん? てか今何時だ? ……ってもう12時半じゃん!」
京子「たしかパーティー開始って1時だよね……?」
結衣「ああ。危ない危ない。そろそろ学校出とかないと遅れちゃうな。京子、行くぞ」テクテク
京子「あいよ~」テクテク
京子「昇降口まで着いたぞ!」
結衣「何故それをわざわざ口に出す」
京子「だって分かりやすいっしょ?」
結衣「誰に対しての考慮だよ」
京子「そりゃあ、スーパーアイドル京子ちゃんのファンの方々への」
結衣「何だよそれ……しっかし、特に用もないのに学校ぶらぶらするだけでも結構時間使うもんだな」
京子「だよねぇ。しかも違う教室に行く度にその場所に関する話をしてたし」
結衣「にしてもよく会話の引き出しあったよなぁ」
京子「そりゃあまあ……ね。色々あったもんこの1年」
結衣「何と言うか……濃かったよな」
京子「だねぇ……」ボンヤリ
結衣「……って何私達は立ち止まって話してんだよ」
京子「おっとそうだった。じゃあ歩きながら話そ」
結衣「そうするか」
京子「とは言ってもあと話してないことって卒業式のことくらいだよね」
結衣「あぁ、その言葉で思い出した。会長凄かったよね」
京子「確かに。私もびっくりしちゃったよ」
結衣「だってさ……」
結衣「松本会長が普通に答辞読んでるんだもん」
京子「だよな。最初は目と耳を疑ったよ」
結衣「あの場面だから聞こえないといけないんだろうけどね。でもあれってどうやったんだろう?」
京子「さあ? 西垣先生辺りがそういう装置を作ったとかが妥当じゃない?」
結衣「あぁなるほど……」
京子「でもそれにしては爆発しなかったしなぁ……どうなんだろ」
結衣「先生なんだし流石にああいう式の時は空気読むだろ」
京子「そっか~? 今年の文化祭の劇の最後を思い出せよ……」
結衣「あっ……あぁ、そういえばそうだった」
京子「全く、西垣ちゃんのとりあえず爆発理論はもうちょっとなんとかなってほしいもんだ」
結衣「それに関しては完全に同意する」
京子「とは言え、あの場所で自重してしまうとは西垣ちゃんもまだまだ! このプリティキュート京子ちゃんなら、あんな雰囲気の中でも自分を最大限にアピールしていくのに!」
結衣「よく臆面もなく自分を褒め称えられるな……例えばどんな風にアピールするんだ?」
京子「そうだな……卒業生代表として舞台に上がってから……『皆~! 今日はアイドルキョッピーの為に集まってくれてありがと~!』とマイクパフォーマンスをする」
結衣「まだそのネタ引っ張るか。じゃあもし万が一卒業式を迎える時が来たら、お前を簀巻きにして部室に放置しとくよ」
京子「ストップ監禁!! ……まっ! その万が一は絶対に有り得ないんだけどね」
結衣「そうだな……あっ、それでまた言いたかった事を思い出した」
京子「ん?」
結衣「京子はこの世界がループしてる事に気付いたのはいつ頃だった?」
京子「まぁサ○エさん時空ってのは知ってたけど、ループに関しては今朝かな。目が覚めたら知ってたというか、頭の中にその事が入り込んでたみたいな」
結衣「やっぱりか。私もそうだったんだよね。皆も同じ感じなのかな」
京子「だと思うよ。式の前に千歳とその事を話してたんだけど、千歳や千鶴も同じだったんだって」
結衣「へぇ……にしてもさ、この事について誰も話さなかったよね」
京子「いくらそれが真実だって植えつけられたとしてもやっぱ“この世界はループしてる”なんてのは、すぐには受け入れられないんじゃないかな」
結衣「うん確かに。私も起きた直後は変な夢でも見てたんじゃないかって思った。でもそこから布団から起きて、顔を洗って、朝御飯を作って……そうしている内に、デジャヴの連続が発生するんだよね」
京子「そうそう。空の天気とか、登校中に道路を走って行く車の色と種類とか、信号の変わるタイミングとか。全部が全部記憶の中と完全に一致するの。正直びびった」
結衣「そうして、その中でどんどん確信してきたんだ……あ、あの感覚は本当なんだ、ってね」
京子「でもそれでもその話題が表に出てこなかったのは、もしかしたら私だけが……って考えて、皆に話すと変に見られるかもって萎縮してたからかな?」
結衣「そういう事だと思う。だから私は良かったよ。こうやってしっかりと話せる相手が居て」
京子「へっへっへ~。なんか普通に照れますな~」テレテレ
京子「でもさ、何でこの時期になるといつも気付いちゃうんだろうね? 私の記憶では、毎度このタイミングで同じような事を言ってた気がするんだけど」
結衣「きっと私達が……いや、この時空がそういう風に出来ているからじゃないかな」
京子「おやおや? 時空なんて言い始めちゃってプププ! 遂に結衣にゃんも中二病に目覚めてしまわれたのですかな? イタイイタイ」
結衣「……」グググ
京子「ちょっ……イタタタッ! それ物理的に痛いやつだからっ! アイアンクローは勘弁してください……!」
結衣「中二病とかじゃなくて事実なんだし仕方ないだろ」パッ
京子「ふぅっ……まっ、そうだけどさ……ってこの会話にまたまた強い既視感を感じるんですが」
結衣「私もだ。過去の私達も同じ事を話してたんだろうな」
京子「あぁ確かに。今全力で脳内の土壌を掘り返してるけど、そんな記憶がちらほらある気が」
結衣「お前は記憶を埋めてるのかよ」
京子「きっと春先には素敵な双葉が咲く事でしょう~」
結衣「育てるなって……京子」
京子「何だね? 急に改まっちゃった言い方をして」
結衣「京子は嫌にならない……いや、怖くならないか? ずっと一年を繰り返す事に関して」
京子「そうかなぁ。結局昨日まではその事を知らなかったんだし、」
結衣「そうだけど……でも年をとることもなくただ延々と同じ時を繰り返す。それって意味があるのかなって思っちゃて」
京子「……なぁ~に難しく考えてるんですか結衣さんは」パシパシ
結衣「ちょっ、叩くなって」
京子「そんなに難しく考えなくてもさ、今この瞬間に人生を楽しめればそれでいいと思うんだよね」
結衣「いいのかよ。なんか破滅にいきそうな考え方だけど」
京子「もちろんこの後に高校、大学、社会人って道があるなら少しは違ってくるけど、本質はそこまで変わらないんじゃない? だって人間楽しい時が無いと生きてけないじゃん」
結衣「…………」
京子「それに私達は天下のごらく部! 日々を楽しまずに何をするっていうんですか!」
結衣「そんな宣言をされてもな……つまり京子が言いたいのは?」
京子「なるようになる! だから今は遊んどけ! ってこと」
結衣「ぷふっ……なんか京子らしい考え方だな」クスッ
京子「なんとぉ~! 今バカにしたなぁ~!」プンプン
結衣「そんなつもりはないって……なんか変に考えるのがアホらしくなってきたよ」
京子「でしょ~? ……それにいつかは終わりが来るよ。だからそれまでは精一杯中学2年を楽しまないと」
結衣「それもそうだよな」
京子「……さて! 無事あかりの家に到着~!」
ピンポーン
あかり『は~い』
京子「京子りんと結衣たそが到着で~す」
結衣「その呼び方はやめろ」
あかり『分かったよぉ。今行くね~』
京子「あいよ~」
結衣「話してたらいつの間にだったな。今更聞くけど、何で今回のパーティーはあかりの家で開催なんだ?」
京子「最後くらいは主人公的ポジをあかりに譲ってやらねばっていう親切心から来てるのですよ」
結衣「どうせ自分の家だと片すの面倒だからだろ」
京子「テヘッ☆」ペローン
結衣「もういいからそれ」
ガチャ
あかり「結衣ちゃん京子ちゃんいらっしゃ~い!」
京子「あぁ、あかりも今日参加なんだ」
あかり「そりゃあ参加するよ!? あかりの家なのに参加しないっておかしいでしょぉ~!」プンスコ
結衣「おいさっき主人公ポジ譲るって件はどうした」
京子「ごめんごめん、うっかりしてた」
あかり「そのうっかりはあかりにダメージくるからやめてよぉ……」
京子「大丈夫だ。今日は最後だし控えめに行くから」
あかり「無しって方向性は!?」
京子「そんなものはない!」ドンッ
あかり「何で堂々として言うのかな! と、とにかくもう準備は終わってるよ」
結衣「ごめんねあかり。片付けはちゃんと手伝うから」
あかり「うん、ありがとう結衣ちゃん!」
京子「おーっし! 今日は食べまくるぞ~!」
結衣「ったく、自重しろよ?」
ここから地の文が増えます
少しお待ちを
日付が変わったその時からループの1番最初へと戻るのだろう。ならば折角だし現象を見届けたいと考えて、私は現在部屋の電気を点けて来たるべき瞬間を待っている。
ちなみに、パーティーの方は当然ながら大盛況であった。京子はいつも通り平常運転であったし、他の面々も終始明るい顔をしながらゲームをしたり用意されていた料理を美味しそうに食べていた。
もちろんループについても話し合った。皆少なからず不安はあったようだけど、京子と同じような心持ちで前向きに捉えていたようだ。
カチッ、カチッと時計の秒針が働く音と、私がコーヒーを啜る音、小説のページをめくる音が響く部屋。もちろん夜だからうるさくすることはないが、今日は一段と部屋が静かである。
京子は家に帰った。てっきり私の家に泊まると言うのかと思っていたが、
京子『ループするまで瞑想して過ごしてみる!』
なんて言い出した。ぶっちゃけ意味が分からない。
結衣「(もうすぐだな……)」
読みかけの本を閉じて、現在の時刻を確認する。もう1分もないみたいだ。以前の私も確かこんな風に緊張しながら壁掛け時計に目線を送っていたはずだ。
結衣「結局、全然読めなかったな」
机の上に今しがた置いたのは、最近流行りの推理モノの小説。
どうせなら読破しておきたいと思って読み始めたのだが、集中することがあまり出来ず、まだ4分の1を残しての断念であった。これは次のループの時に読めたら読んでおこう。その時は今の記憶なんて無いに決まっているけれど。
頭の中で色々と考えている内に、不安の根源が刻一刻と迫ってきて……
――遂には、2つの針が12を指した。
結衣「っ! 頭がぁっ!」
瞬間、辺りが闇に包まれたかのように一気に暗くなり、ズガン、と頭を殴られたような衝撃が響く。しかも何度もだ。
ツー、と鼻を液体が伝う。おそらくは鼻血であろうが、そんな事を冷静に分析していられない程、衝撃は続く。
その場にうずくまるように膝を曲げるも、感覚が無い。全身が今どうなっているのか、私は今どの方向を向いているのか。方向感覚、平衡感覚、全ての位置情報が暗闇と頭痛にかっさられて、何が何だか分からない。
更に、私の中に無数の映像が送られてくる。
それは私だったり、京子だったり、あかりだったり、ちなつちゃんだったり。
綾乃だったり、千歳だったり、古谷さんだったり、大室さんだったり、松本会長だったり。
それだけではない。たくさんの人の顔、光景が雪崩のように押し寄せる。
笑顔、友愛、純愛、憎悪、悲哀、激情、発情、嫉妬、憤怒、愉悦、侮蔑、号泣。
色んな人の色んな表情。それが学校、街中、誰かの家の中と代わる代わる様々な場所で急速に変わっていくそれらの景色。
目で追う事は出来なくとも、見える。見えてしまっているのだ。
結衣「何なんだこれは!」
声に出して叫ぶ。しかしその声も映像と共にやってくる喧騒で掻き消されてしまう。いや、もしかしたら叫んでいるつもりで声は全く出ていないのかもしれない。
その流れも、頭痛が治まるころには消え始めて、再び暗闇の時間が訪れる。
私は一つの考えに至った。というよりは理解した、思い出したの方が合っているかもしれない。
結衣「(私は、勘違いをしていた)」
今朝知る事となったループしているという事実。この時の私はまだ、ループしているという感覚を認識しただけに過ぎなかったのだ。
あれはきっと、私が今までの記憶を取り戻してしまう前に行われた準備体操のようなもの。そして、今流れてきたものが本当にループの中でみた景色。
本来の私の記憶の全て。
その中には私がごらく部、生徒会の人の誰かと付き合っているものや、誰かと誰かが付き合うことになるのを応援している私が居た。
他には、京子が他の人と付き合い始めて気が触れたとしか思えない行為をしているものもあったし、小さい女の子ばかりを追っかけまわしている私の姿もあった。
……正直なところ、後半の二つはぶっちゃけ自分がやったとは思えない。だがそれらの記憶に対する私なりの解釈は既に用意してあるのだ。
パラレルワールド。私の居る世界と同じようでちょっとだけ違う世界。
そこでの出来事がもしかしたら記憶の波に紛れて入ってきたのかもしれない。
だがそれとは別に、明らかに私の関わりのない事柄もいくつかあった。大室さんのお姉さんの彼女がループ毎で異なっていたとか正直知りようもない。
空間が送り込んでくる記憶というのは、もしかしたら本人以外のものもあるのかもしれない。つまりは、誰かの頭の中に私のいつかの記憶も送られているということだ。なんだか少しばかり恥ずかしい。
そんな気分に浸っていると、
結衣「っ……!」
締め付けられるような激しい痛みが、今度は頭だけでなく全身を覆いつくす。
しかし、この痛みの正体は既に私の中で結論を出している。記憶が戻ると同時にその事も問題なく思い出せた。
これは、私の始まりに反映させるための演算による反動。ループの最初へ向かう為の最終調整。
簡単に例えるなら、動画を見終わった後に、もう一度始めから再生する処理。あれを頭の中で展開するのだ。
私なりに考えた末に出した理論だが、多分間違ってはいないだろう。少なくとも、一度もこの痛みを経験した事のない学者風情よりは真相に近い答えを出しているはず。
百聞は一見にしかずなんてよく言うが、まぁそんな感じだ。
結衣「(……ほら、やっぱり痛みはすぐ消えた)」
痛みを紛らわすために色々と考えていると、サッと痛みが去っていった。やはりこちらは7秒ほどで終わるな。大分最初のループの方で思考の集中による痛覚の緩和が出来るようになって良かった。
いつも思うのだが、他の子達はこの痛み大丈夫なのかなと心配をしてしまう。まぁ大丈夫じゃなかった場合どうなるかは分からないけど、普通に皆ループ出来てるし大丈夫なのだろう。
これについても朝の段階では気付けないので、他の人に聞くことは出来ないし、聞かれた側も答えようがない。
そして、準備は完了したと言わんばかりに、ぐるぐると渦を巻く歪みが目の前に広がりだす。
これをくぐれば全て完了だ。そう考えると自然と体が強張るような錯覚に陥ってしまう。
結衣「(京子の言う通り。今その時を楽しめばいいんだ。大丈夫だ、私なら大丈夫)」
結衣「(でもなぁ、京子。一つ残念な知らせがあるんだよ)」
言われるまでも無く、京子だって既に察しているかもしれない。けれども心の中で呟く事は止めずにはいられない。
――このループは、きっと終わらないんだ。
私の心の中までも察していたかのように、そこまで呟いたところで歪みが力を発して、周りの空間ごと吸い込み始める。
私は引っ張られる感覚に身を任せて目を瞑った。
意識が徐々に呑まれていく。
ゆるやかに、ゆるゆると。
………。
……。
…。
皆「「「アッカリーン!」」」
あかり「は~い! ゆるゆりっ! はっじまっるよ~!」
そうして
私達は
1年を
無自覚に
繰り返す。
おしまい
初投稿で色々と至っていないところがあって申し訳ないですが、見てくださりありがとうございます。
またゆるゆりSSでも投稿しようと思うのでその時は是非是非。
では。
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