志希「惚れ薬」 (23)

対象のすべてがほしい。

対象のすべてが知りたい。

それを恋だというのなら。

きっと私はいろいろなものに恋をしている。

キョーミを持ったものすべてに恋をしている。

物だったり、現象だったり、その対象はさまざまに移り変わっていた。

そんな浮気性な私が次にキョーミを持ったのは。

すべてを欲したのは。

何もかもを手に入れたいと思ったのは。

何もかもを調べつくしたいと思ったのは。

……恋したのは。

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志希「ね、ね、キミ、キミ」

モバP「ん、どうした?」

志希「これなんだと思う?」

モバP「その手に持ってるビンか?」

志希「そそ」

志希「あたし特性のもの」

モバP「普通の液体じゃないんだよな」

志希「もっちろん」

志希「志希ちゃんの技術を結集した特性のお薬だよ」

モバP「……」

志希「使ってみる?」

モバP「いやな予感しかしないから遠慮しとく」

志希「ま、ま、そー言わずにさ」

志希「たぶんおいしいと思うよ、飲んだことないけど」

モバP「そもそも何の薬かさえも聞かされてないんだが」

志希「だって、キミが当てようとしてくれないし」

モバP「……」

モバP「……惚れ薬か?」

志希「ぴんぽーん、だーいせーかーい!」

志希「よくわかったね?」

モバP「前の収録のときも作ってたからな」

モバP「あの時は失敗してたから、今度こそ成功させようとしたんだろ?」

志希「んー、まーそんな感じかなー」

志希「飲んでみる?」

モバP「飲まない」

志希「えー」

モバP「なおさら飲めるか、そんなもん」

志希「いーじゃん、いーじゃん」

志希「そんな変なものは入れてないよ?」

モバP「惚れ薬って時点でもうすでにおかしいわ」

志希「そんなことないと思うけどなー」

志希「ただちょーっと誰かに惚れちゃうだけで、それ以外は何にもないよ?」

モバP「だからそれがだめなんだよ」

モバP「俺が今何人プロデュースしてると思ってるんだ」

志希「たくさん」

志希「いやー、あたしとしてはあれだけの人数をプロデュースしてるキミの無尽蔵の体力がどこから来るのかも気になるよ」

モバP「その中から一人に惚れたとするだろ?」

モバP「そうしたら全員のプロデュースが台無しになる」

モバP「だから飲めない」

志希「ふーん」

モバP「変に特別扱いをするわけにもいかないからな、勘弁してくれ」

志希「ざんねーん」

志希「んじゃ、その辺の誰かで試してくるね」

モバP「やめろ」

志希「えー、せっかくつくったのにー」

モバP「……俺は今からちょっと出るけど」

モバP「ほんとにやめろよ?」

志希「はーい」

モバP「……じゃあ」

志希「……」

志希「にゃふふ」

志希「ちゃんと飲んでくれるよね」

志希「あたし特性の惚れ薬」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

モバP「……」

モバP「……」

モバP(……なんだ?)

モバP(さっきから息が苦しい……気がする)

モバP(気がする程度……別に何も支障はないんだけど)

モバP(ただ、なんだか、ほんのちょっとした違和感が)

モバP「……?」

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モバP「ああ、志希」

志希「ん?」

志希「どしたのん?」

モバP「いや、見かけたから」

志希「ふーん」

志希「んじゃ、あたしは実験で忙しいから、またねん」

モバP「……また、変なのの作ってないだろうな?」

志希「んにゃ、ただの風邪薬だよ?」

志希「どんな病気にも有効な、風邪薬」

モバP「危ない予感しかしないんだが」

志希「危険から避けるための薬が危ないわけないじゃん」

志希「キミも飲む?」

志希「ちょっと調子悪そうだし」

モバP「いや、そんなことないぞ」

モバP「なんかちょっと息苦しく感じるだけで」

志希「やっぱ調子悪いんだ」

志希「それなら、ちょうど試作品があるんだけど」

モバP「飲まん」

志希「まあまあ、そーいわずに」

志希「即効性だから、飲んだらすぐ治るはずだよ?」

モバP「飲まん」

志希「ほいっ、預けとくからね」

モバP「いや、だからいらないって」

モバP「あ、こら、ポケットに詰め込むな!」

志希「にゃははっ!」

志希「じゃあねーんっ!」

モバP「はぁ……まったく……」

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モバP(……)

モバP(……息苦しい)

モバP(昼よりも、ずっと)

モバP(……肺の中に酸素があまり入っていない気がする)

モバP(なんだこれ、風邪か……?)

モバP(いや、頭がくらくらするわけでもない)

モバP(熱があるわけでもない)

モバP(ただ、息が苦しい)

モバP(……)

モバP(……志希からもらった薬)

モバP(即効性だとは言ってたけど)

モバP(こんな、こんな怪しさ満点の薬を)

モバP(……)

モバP(……)ゴクッ

モバP(……!)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

モバP「志希!」

志希「わっ!?」

志希「びっくりしたぁ……どしたの?」

モバP「この前くれた薬あっただろ?」

志希「あー、あの風邪薬?」

モバP「ああ」

モバP「実はあの日ちょっと息苦しかったんだ」

モバP「で、あの薬を飲んでみたんだけど」

モバP「その後すぐ体調がよくなってさ」

モバP「だからお礼を言おうと思って」

志希「いえいえー」

志希「よかったら、まだ試作品あるんだけど、いる?」

モバP「ああ、もらっておくよ」

志希「はいっ、どーぞ」

モバP「ああ、ありがとう」

モバP「ありがとな、志希」

志希「どういたしましてー」

志希「……にゃふふ」

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モバP(……また、息苦しくなってきた)

モバP(……なんなんだ、これ?)

モバP(まあ、志希の薬、飲ませてもらうか)

モバP(……)ゴクッ

モバP「ふぅ……」

モバP(……すっと気持ちよくなったな)

モバP(やっぱりこの薬すごいな)

モバP(いったい、どうやって作ったんだか)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

モバP(……まただ)

モバP(この薬、あくまで症状を抑えるだけで治しているわけではないのか……?)

モバP(だけど……現状この薬が一番の頼りだしなぁ)

モバP(ほかの薬も試してみたけど)

モバP(どれを飲んでもこの息苦しさは治らなかった)

モバP(……)ゴクッ

モバP(志希に聞いてみるか)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

モバP(……)

モバP(だんだんと、間隔が短くなってきてる)

モバP(試作品だからか?)

モバP(まあ、なんでもいい)

モバP(とにかく飲まないと)

モバP(……)ゴクッ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

モバP(苦しい)

モバP(はやく、はやくのまないと)

モバP(……)ゴクッ

モバP(……あ)

モバP(……もう空だ)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

モバP(……息苦しい)

モバP(息苦しい)

モバP(今日は志希がオフだった)

モバP(だから、あの薬をもらえなかった)

モバP(苦しい)

モバP(苦しい)

モバP(……帰りに病院に寄っていったほうがいいかもな)

モバP(……)

モバP(……)

モバP(……苦しい)

モバP(…………苦しい)

モバP(………………苦しい)

モバP(帰り道ってこんなに遠かったか……?)

モバP(一歩一歩が重い)

モバP(肺に空気が入ってこない)

志希「ツンツン」

モバP(苦しい)

志希「ツンツン」

モバP(……苦しい)

志希「おーい、キミー?」

モバP「……志希?」

志希「にゃは、キミのアイドル志希ちゃんだよー」

モバP「志希!」ガッ

志希「きゃっ!」

志希「もー、急に肩を掴んでくるなんて、キミってばだいたーん」

モバP「志希、薬……薬をくれ……!」

志希「薬?」

モバP「ほら、作ってただろ、何でも直せる、あの、あの風邪薬だよ!」

志希「ああ!」

志希「ごめーん、あれあの後飽きちゃってさ」

モバP「……は?」

志希「だから、キミに渡したので最後」

志希「それ以上はもう作ってないよ」

モバP「……」

モバP「嘘だろ?」

志希「嘘じゃないよ」

モバP「じゃ、じゃあ今から、今から作ってくれ!」

モバP「さっきから、苦しくて仕方ないんだ……!」

志希「でも、あれ1から作るとすっごい時間かかるよ?」

志希「待ってくれるっていうなら作るけど」

モバP「待てるわけないだろ……!」

モバP「今だって苦しくて死にそうなのに……!」

志希「んー、そっかー」

志希「んじゃ、志希ちゃんが手っ取り早く助けてあげるね」

モバP「は――」

志希「んっ……」チュッ

モバP「――!?」

志希「ちゅ……んむ……っ……はぁっ……んぅ……」

志希「……ぷはぁ」

志希「はい、今渡したあたしの唾液」

志希「じっくりと咀嚼して、飲み込んでね」

モバP「……」ゴクッ

モバP「……!」

モバP「楽になった……!」

志希「でしょ? にゃふふ」

モバP「……志希」

モバP「どういうことだ……?」

志希「簡単な話だよ」

志希「キミのその息苦しさを直してあげられるのは私の体液だけ」

モバP「はぁ……!?」

志希「答えあわせしてあげるのはいいんだけど、こんな道端はやだからさ」

志希「とりあえずうちに来て」

志希「ようこそ、志希ちゃんハウスへ!」

志希「にゃふふ……どう、どう?

志希「いいニオイするでしょ……いっぱい嗅いじゃってもいいんだよ?」

モバP「そんなことはどうでもいいから」

志希「どうでもよくなんてないよ」

志希「だって、今日からキミはここに住むことになるんだから」

モバP「は?」

志希「んじゃ、志希ちゃんの答えあわせー」

志希「キミは志希ちゃんが作った惚れ薬を覚えてる?」

モバP「収録のときのか?」

志希「んにゃ、その後の」

モバP「……ああ、俺に見せてきたやつな」

志希「あれ、飲まずにすんだって思ってるでしょ?」

志希「実はね、キミがよく飲むドリンクに入れておいたの」

モバP「……!」

志希「で、あの惚れ薬はね」

志希「すっごく簡単に言っちゃうと、あたしの相手の体液を飲まないと苦しむっていう薬」

志希「あたしに惚れる薬なの」

志希「だから、キミはもうあたしの体液を飲まないとだめなの」

志希「唾液でも、血液でも、なんだったらココからでる液体でも」

志希「キミはあたしがいないと苦しみ続けるの」

志希「はい、答え合わせしゅーりょー!」

モバP「な……」

モバP「なんでこんなことを……!?」

志希「キミにキョーミがわいて、キミに恋しちゃったから」

志希「ただそれだけだよ?」

志希「にゃはは」

志希「惚れ薬作る前に志希ちゃんがキミに恋しちゃってたみたい」

モバP「それだけのために……!」

志希「それだけなんてひどーい!」

志希「科学者にとって、あたしにとってキョーミは絶対なんだから」


志希「ぶっちゃけちゃうとね、別にあたしがいなくてもキミは死なないよ」

志希「あの苦しみは全部幻覚だから」

モバP「……あんなに苦しかったのに?」

志希「だってそういう幻覚だもん」

志希「全部幻、身体的機能に影響はなーんにもないよ」

モバP「……」

志希「ほんとーにいやだって言うならここから逃げちゃえばいいんじゃない?」

志希「ずっと、ずぅーっと苦しむことになるけど、それ以上に志希ちゃんが嫌いっていうなら逃げちゃえばいいんじゃない?」

志希「あたしの今のキョーミの対象はキミだけど」

志希「あたしが飽きちゃうまで逃げちゃえばいいんじゃない?」

モバP「……」

志希「それが嫌なら志希ちゃんと一緒に暮らそ?」

志希「にゃは」

モバP「……」

志希「外に体液なんて持ち運ばせてあげないし」

志希「あたしも、好き勝手に行動するから」

志希「きっとキミはとっても困っちゃうけど」

志希「キミはあたしがいないとダメなんだから」

志希「一緒に暮らそ?」

志希「ね?」

モバP「……」

モバP「――」

志希「……にゃは」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

志希「あ、お帰り」チュッ

志希「にゃふふ……そう、キミのその表情」

志希「苦しみから解かれた瞬間の表情」

志希「とろけてて志希ちゃんは大好きだよ」

志希「でも、最近キミからいいニオイしないんだよね、なんでだろ?」

志希「キョーミ深いなぁ、もっともっと調べないと」

志希「ま、それは後でいーや」

志希「んじゃ、一緒にごはん食べる?」

志希「それとも、一緒にお風呂に入る?」

志希「それとも……にゃはっ」

志希「にゃははっ、おもしろーい、まるで新婚さんみたいだね!」

志希「……」

志希「ふーん、それにするんだ」

志希「キミもすっかり私に惚れちゃったね」

志希「もうあたしがいないとダメだもんね、にゃはは」

志希「そうそう、知ってると思うけどあたしって飽き性なんだよねー」

志希「全部解明しちゃったらもうつまんなくなっちゃってー、キョーミがなくなっちゃってー」

志希「でも、キミへのキョーミはまだ無くなりそうにないや」

志希「だって、キミのすべてを解明するの時間かかりそうだもん」

志希「だから、これからも一緒にいよーね」

志希「にゃはっ!」





おしまい

すごい歪んだラブソングである秘密のトワレを聞いて。
7段の中では一番好みです。


誤字脱字、コレジャナイ感などはすいません。呼んでいただきありがとうございました。



同じく個人曲をもとに書いたSSがありますので、こちらもよければよろしくお願いします

まゆ「エヴリデイドリーム」

あ、違う8段だ

>>14
良ければurlください

>>17
まゆ「エヴリデイドリーム」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1436696528/)
です

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