<学校>
不良「俺……不良やめてマジメに生きるわ」
不良仲間「へ!? なんでだよ!?」
不良「なんつうかさ、ケンカだの、意地の張り合いだのがバカらしくなっちまったんだよ」
不良「これからは俺、マジメに生きることにする」
不良仲間「マジメぇ!? ハッ、くだらねえ! ヘタレやがって!」
不良仲間「せいぜいぬるま湯につかって、よい子ちゃんで生きてけよ!」
不良「ああ、そうさせてもらうぜ」
<予備校>
受験生「やぁ、よく来てくれたね!」
不良「悪いな、急に勉強教えて欲しいだなんて」
受験生「かまわないよ! 君のような人が仲間になってくれるなら、ボクも大歓迎さ!」
不良「そういってもらえるとありがてえや」
不良「で、ちったぁマシな大学に入るには、俺はどうすりゃいいんだ?」
不良「やっぱ猛勉強か? 今から間に合うか分かんねーけど」
受験生「いや、そんなことする必要ないよ」
不良「え、ないの?」
受験生「なによりもまずやらなきゃならないのは、ライバルの排除だよ」
受験生「ほら、あんな風に」
予備校生A「テメェら、今すぐ勉強できねぇ体にしたらァ!」
予備校生B「くたばれやァ!」
予備校生C「この低偏差値どもがァ! ナメんじゃねーぞ!」
ガッ! ドガッ! ドゴォッ! ゴッ! ドズッ!
不良「な、なんだ!? ケンカか!?」
不良(しかも、俺らがやるケンカより、ずっとえげつない攻撃してやがる!)
受験生「いや……ケンカじゃない。あれも立派な受験戦争なのさ」
不良「受験戦争!? あれのどこが受験なんだよ!」
受験生「簡単なことさ」
受験生「たとえば、10人が入れる大学があるとする」
受験生「そこに100人が受験するケースと、90人が受験するケース」
受験生「どちらが合格可能性は高い?」
不良「……そりゃ、90人に決まってんだろ」
受験生「そう、もっといえば90人が10人になれば、100%合格できる」
受験生「つまり、あの格闘はそういうことなのさ」
受験生「だって、ライバルが怪我すれば、それだけ自分の合格確率は高まるからね」
受験生「もし、彼らの志望校がボクと被ってたら、ボクも参加するところだったよ」
不良「そ、そんなのアリなのかよ!?」
受験生「もちろんアリさ」
受験生「かのクラウゼヴィッツは戦争は外交手段に過ぎないといっていた」
受験生「いうなれば、ボクらにとっては暴力は受験手段に過ぎないのさ」
不良「いやぁ……どうなんだろ」
不良「クラウゼなんとかも、多分そういう意味でいったんじゃない気がすっけど……」
受験生「とにかく、君のような人が仲間だと心強いよ!」
受験生「これからはボクと組んで、どんどんライバルを病院送りにしていこうね!」
受験生「そうすれば、どんな大学にだって合格できるよ!」ニコッ
不良「あ、ああ……」ゾクッ
不良(こいつには悪いけど、やっぱり俺、受験はやめとこう……うん)
<グラウンド>
不良「――というわけで、部活入ってスポーツの道を歩むことにしたぜ!」
不良「よろしく頼むわ!」
スポーツマン「ハッハッハ、任せてくれ!」
スポーツマン「オレと一緒にスポーツで青春しよう!」
先輩「おい、用具出しとけっていっただろ! なにくっちゃべってんだ!」
不良「あ、すんませ――」
スポーツマン「あ? るっせえよ! クソ先輩がよ!」
先輩「ンだとテメェ! なんつう口のきき方しやがる!」
スポーツマン「年上だからってえばってんじゃねーぞ! やっちまうぞ!」
先輩「あぁん!? やってみろ、酸いも甘いも知らねェクソガキがぁ!」
スポーツマン「ちょうどいいや、テメェ消してレギュラーの座を手に入れてやるぜ!」
スポーツマン「オラァ!」
バキィッ!
先輩「ぐっ! なにしやがんだ、コラァ!」
ドガッ!
バキッ! ドガッ! ガスッ! メキッ! ボゴッ!
不良(どっちも普段から鍛えまくってるだけあって、すげえ迫力だ……)
不良(今のうちに退散しよう……)コソコソ…
<飲食店>
不良「今日からよろしくお願いします!」
バイト「よろしく!」
不良「下っ端として、バリバリこき使ってください!」
バイト「ウチはアットホームな職場さ。安心していいよ」
店長「うむ、この店で働く仲間はみんな家族さ」
バイト「ところで店長、来週休みをもらいたいんですが」
店長「は、休み? ダメに決まってんだろ!」
バイト「いや、休ませてくれないと困るんですが」
店長「休みなら一ヶ月前にいっとけ! ついでに代わりを探しとけ!」
店長「でなきゃ、休みなんざ認めるわけねーだろ!」
バイト「なんなんだ、そのクソ条件は! 好きな時に休ませろや、ボケ!」
店長「雇われの分際でナマいってんじゃねーぞ! このガキ!」
バイト「るっせえよ! いい年こいてこんなちっぽけな店の店長とか人生詰んでんだろ!」
不良「あ、あの……お客さんが文句いいにきてるんですけど……」
客「おいおいおい、客待たせてんじゃねーぞ! 二人まとめてブチのめされてぇのか!?」
客「客は神なんだ! テメェらは命をかけてオレに奉仕しろや!」
店長「ああん? 神ィ? 笑わせんな、寝言なら寝てからほざけや!」
バイト「なんでたかが客ごときに待たせんなとかいわれなきゃならねーんだ!」
客「ンだとコラァァァ!」
店長「テメェら全員病院送りにして、ベッドの上で休ませてやるよォ!」
バイト「あぁん? 返り討ちに決まってんだろうが、タコが!」
客「ここまでナメられちゃ、神としてのプライドがすたる! ぜってぇブッ倒す!」
ドガッ! ドゴッ! ベキッ! ドズッ! バキィッ!
不良(三つ巴で、凄まじい乱闘が始まった……! こんなのとても止められない……)
不良「すんません、辞めさせていただきます!」スタタッ
<ボランティア団体事務所>
ボランティア「もちろんいいとも! ちょうど人手不足だったんだ!」
不良「ありがとうございます!」
不良「精一杯働かせていただきます!」
ボランティア「それじゃ、今日は一人暮らしのお年寄りのお世話に向かおう」
不良「はいっ!」
ボランティア「ほら、おじいさん、食べな。あーんして」
老人「うう、イヤじゃ! 食いたくない!」
ボランティア「そんなこといわないで……ほら、あーん」
老人「イヤだったらイヤじゃ!」
不良(クセのある爺さんの相手を、根気強くやってかなきゃいけないんだな……)
不良(俺、けっこう短気だけど務まるかなぁ……?)
ボランティア「ジジイ、とっとと食えよ! 食わなきゃメシが終わらねーだろが!」
老人「絶対イヤじゃ!」
ボランティア「食えっつってんだよ!」
老人「イヤだっつってんだろが!」
不良「え……!?」
ボランティア「いい加減にしやがれ! 孤独死まっしぐらのジジイがよ!」
老人「るっせえ! この偽善ヤロウが!」
ボランティア「なんだと、くたばりぞこないが! 誰が偽善だ、あぁん!?」
老人「ケッ、尻の青いクソガキに、人生の厳しさ教えたるァァァ!」
ドガッ! ドズッ! メキッ! バキッ! グシャアッ!
不良「あ、あわわ……」
不良(ボランティアの人はもちろん、爺さんもメチャクチャ強え……!)
不良(巻き込まれないうちに、帰ろうっと……)
<学校>
不良「俺……不良に戻るわ」
不良仲間「え、どうしてだ?」
不良「マジメに生きるなんてのは、俺にはとても無理だったよ」
不良仲間「やっぱりそうか!」
不良仲間「オメーみたいな根っからのワルにゃ、ぬるま湯生活はできなかったな!」
不良「マジメがぬるま湯? とんでもねえや……」ボソッ
不良仲間「へ、なんかいった?」
不良「いや……なんでもねえ」
<おわり>
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