不良「俺……不良やめてマジメに生きるわ」(22)

<学校>

不良「俺……不良やめてマジメに生きるわ」

不良仲間「へ!? なんでだよ!?」

不良「なんつうかさ、ケンカだの、意地の張り合いだのがバカらしくなっちまったんだよ」

不良「これからは俺、マジメに生きることにする」

不良仲間「マジメぇ!? ハッ、くだらねえ! ヘタレやがって!」

不良仲間「せいぜいぬるま湯につかって、よい子ちゃんで生きてけよ!」

不良「ああ、そうさせてもらうぜ」

<予備校>

受験生「やぁ、よく来てくれたね!」

不良「悪いな、急に勉強教えて欲しいだなんて」

受験生「かまわないよ! 君のような人が仲間になってくれるなら、ボクも大歓迎さ!」

不良「そういってもらえるとありがてえや」

不良「で、ちったぁマシな大学に入るには、俺はどうすりゃいいんだ?」

不良「やっぱ猛勉強か? 今から間に合うか分かんねーけど」

受験生「いや、そんなことする必要ないよ」

不良「え、ないの?」

受験生「なによりもまずやらなきゃならないのは、ライバルの排除だよ」

受験生「ほら、あんな風に」

予備校生A「テメェら、今すぐ勉強できねぇ体にしたらァ!」

予備校生B「くたばれやァ!」

予備校生C「この低偏差値どもがァ! ナメんじゃねーぞ!」

ガッ! ドガッ! ドゴォッ! ゴッ! ドズッ!



不良「な、なんだ!? ケンカか!?」

不良(しかも、俺らがやるケンカより、ずっとえげつない攻撃してやがる!)

受験生「いや……ケンカじゃない。あれも立派な受験戦争なのさ」

不良「受験戦争!? あれのどこが受験なんだよ!」

受験生「簡単なことさ」

受験生「たとえば、10人が入れる大学があるとする」

受験生「そこに100人が受験するケースと、90人が受験するケース」

受験生「どちらが合格可能性は高い?」

不良「……そりゃ、90人に決まってんだろ」

受験生「そう、もっといえば90人が10人になれば、100%合格できる」

受験生「つまり、あの格闘はそういうことなのさ」

受験生「だって、ライバルが怪我すれば、それだけ自分の合格確率は高まるからね」

受験生「もし、彼らの志望校がボクと被ってたら、ボクも参加するところだったよ」

不良「そ、そんなのアリなのかよ!?」

受験生「もちろんアリさ」

受験生「かのクラウゼヴィッツは戦争は外交手段に過ぎないといっていた」

受験生「いうなれば、ボクらにとっては暴力は受験手段に過ぎないのさ」

不良「いやぁ……どうなんだろ」

不良「クラウゼなんとかも、多分そういう意味でいったんじゃない気がすっけど……」

受験生「とにかく、君のような人が仲間だと心強いよ!」

受験生「これからはボクと組んで、どんどんライバルを病院送りにしていこうね!」

受験生「そうすれば、どんな大学にだって合格できるよ!」ニコッ

不良「あ、ああ……」ゾクッ

不良(こいつには悪いけど、やっぱり俺、受験はやめとこう……うん)

<グラウンド>

不良「――というわけで、部活入ってスポーツの道を歩むことにしたぜ!」

不良「よろしく頼むわ!」

スポーツマン「ハッハッハ、任せてくれ!」

スポーツマン「オレと一緒にスポーツで青春しよう!」

先輩「おい、用具出しとけっていっただろ! なにくっちゃべってんだ!」

不良「あ、すんませ――」

スポーツマン「あ? るっせえよ! クソ先輩がよ!」

先輩「ンだとテメェ! なんつう口のきき方しやがる!」

スポーツマン「年上だからってえばってんじゃねーぞ! やっちまうぞ!」

先輩「あぁん!? やってみろ、酸いも甘いも知らねェクソガキがぁ!」

スポーツマン「ちょうどいいや、テメェ消してレギュラーの座を手に入れてやるぜ!」

スポーツマン「オラァ!」

バキィッ!

先輩「ぐっ! なにしやがんだ、コラァ!」

ドガッ!

バキッ! ドガッ! ガスッ! メキッ! ボゴッ!



不良(どっちも普段から鍛えまくってるだけあって、すげえ迫力だ……)

不良(今のうちに退散しよう……)コソコソ…

<飲食店>

不良「今日からよろしくお願いします!」

バイト「よろしく!」

不良「下っ端として、バリバリこき使ってください!」

バイト「ウチはアットホームな職場さ。安心していいよ」

店長「うむ、この店で働く仲間はみんな家族さ」

バイト「ところで店長、来週休みをもらいたいんですが」

店長「は、休み? ダメに決まってんだろ!」

バイト「いや、休ませてくれないと困るんですが」

店長「休みなら一ヶ月前にいっとけ! ついでに代わりを探しとけ!」

店長「でなきゃ、休みなんざ認めるわけねーだろ!」

バイト「なんなんだ、そのクソ条件は! 好きな時に休ませろや、ボケ!」

店長「雇われの分際でナマいってんじゃねーぞ! このガキ!」

バイト「るっせえよ! いい年こいてこんなちっぽけな店の店長とか人生詰んでんだろ!」

不良「あ、あの……お客さんが文句いいにきてるんですけど……」

客「おいおいおい、客待たせてんじゃねーぞ! 二人まとめてブチのめされてぇのか!?」

客「客は神なんだ! テメェらは命をかけてオレに奉仕しろや!」

店長「ああん? 神ィ? 笑わせんな、寝言なら寝てからほざけや!」

バイト「なんでたかが客ごときに待たせんなとかいわれなきゃならねーんだ!」

客「ンだとコラァァァ!」

店長「テメェら全員病院送りにして、ベッドの上で休ませてやるよォ!」

バイト「あぁん? 返り討ちに決まってんだろうが、タコが!」

客「ここまでナメられちゃ、神としてのプライドがすたる! ぜってぇブッ倒す!」

ドガッ! ドゴッ! ベキッ! ドズッ! バキィッ!



不良(三つ巴で、凄まじい乱闘が始まった……! こんなのとても止められない……)

不良「すんません、辞めさせていただきます!」スタタッ

<ボランティア団体事務所>

ボランティア「もちろんいいとも! ちょうど人手不足だったんだ!」

不良「ありがとうございます!」

不良「精一杯働かせていただきます!」

ボランティア「それじゃ、今日は一人暮らしのお年寄りのお世話に向かおう」

不良「はいっ!」

ボランティア「ほら、おじいさん、食べな。あーんして」

老人「うう、イヤじゃ! 食いたくない!」

ボランティア「そんなこといわないで……ほら、あーん」

老人「イヤだったらイヤじゃ!」



不良(クセのある爺さんの相手を、根気強くやってかなきゃいけないんだな……)

不良(俺、けっこう短気だけど務まるかなぁ……?)

ボランティア「ジジイ、とっとと食えよ! 食わなきゃメシが終わらねーだろが!」

老人「絶対イヤじゃ!」

ボランティア「食えっつってんだよ!」

老人「イヤだっつってんだろが!」



不良「え……!?」

ボランティア「いい加減にしやがれ! 孤独死まっしぐらのジジイがよ!」

老人「るっせえ! この偽善ヤロウが!」

ボランティア「なんだと、くたばりぞこないが! 誰が偽善だ、あぁん!?」

老人「ケッ、尻の青いクソガキに、人生の厳しさ教えたるァァァ!」

ドガッ! ドズッ! メキッ! バキッ! グシャアッ!



不良「あ、あわわ……」

不良(ボランティアの人はもちろん、爺さんもメチャクチャ強え……!)

不良(巻き込まれないうちに、帰ろうっと……)

<学校>

不良「俺……不良に戻るわ」

不良仲間「え、どうしてだ?」

不良「マジメに生きるなんてのは、俺にはとても無理だったよ」

不良仲間「やっぱりそうか!」

不良仲間「オメーみたいな根っからのワルにゃ、ぬるま湯生活はできなかったな!」

不良「マジメがぬるま湯? とんでもねえや……」ボソッ

不良仲間「へ、なんかいった?」

不良「いや……なんでもねえ」





                                   <おわり>

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