図書委員「…」 不良娘「…あんだよ」(52)


図書委員「…フッ」

不良娘「あん?」

図書委員「これはこれは。クラスの異端児こと不良娘さんじゃないですか」

不良娘「…」


図書委員「何故に斯様な善良なる生徒のみが許されし静謐なる聖地、図書室へ?」フフッ

不良娘「…勉強だよ。それくらいいいだろ」ッツ-カオマエケッコウキョウレツナキャラシテンノナ…

図書委員「愚かなダブリストである不良娘さんがこの期に及んでですか? ちゃんちゃら可笑しいですね」フッ

不良娘「…っ」


不良娘「…アタシはちゃんと規約に則って静かに図書室を利用してんだろ。ほっといてくれ」

図書委員「いえいえ、貴方の存在そのものが図書室の空気を壊しかねない。故に捨て置けないのですよ」キリッ

不良娘「…んな理不尽な」

図書委員「貴方は4月の始業式の日から放課後は毎日欠かさずここに訪れている。実に怪しい」

不良娘「…」ムッ

図書委員「というわけで、要注意人物である貴方を図書委員である僕が直々にこう監視しているのです」メガネクイッ


不良娘「…なんなんだよ。アタシが何かしたってのかよ」

不良娘「それともアレか? 好きな子に気を引くためにイジワルしちゃうとかそーいうヤツか? アタシのことが好きなのか?」ハッ

図書委員「……」

不良娘「…真に受けるなよ、冗談だって。気を悪くしないでくれ」


図書委員「な、何馬鹿なこと言っちゃってんの? バッカじゃねーの? 今時そんなのあるわけないじゃねーじゃん」アタフタ

不良娘「キャラがブレブレじゃねーか」


不良娘「なんであからさまに同様すんだよ。こえーよ。なにその無駄に真に迫った演技」

図書委員「はっ……ハハハハハ。僕は演技派でね。期待させてしまったか?」ハハハ

不良娘「悪乗り好きとはこれまたいい性格してんのな。そんなにアタシをからかって愉しいかい?」

図書委員「あ、ああ。楽しいね」


図書委員「クラスの厄介者をいじって遊ぶのは、それはもう胸が空く思いさ」ハハハ

不良「……」

図書委員「…ぁ」


不良娘「…」フッ

不良娘「…分かったよ。確かにアタシは厄介者…クラスの異物だ。扱いに苦慮する腫れ物だよ」

不良娘「ただいるだけでもクラスの…学校の雰囲気を壊しちまう。こんなんでも申し訳ないと思ってんだ」ガタッ

図書委員「あ…いや…」

不良娘「…悪かった。もう二度と此処へは来ねぇよ」

不良娘「クラスだけではなく…ここでも邪魔者にはなりたくねぇから、な」ニコッ

図書委員「あ…」

不良娘「…」スタスタ…

図書委員「…」


・・・


図書委員「あ゙あ゙あ゙あくそっ! どうして僕はこう素直にモノを言えないんだ…ッ!」

図書委員「『前から気になってました、僕と友達になってください』…ただそれだけじゃないか!」

図書委員「なのに単なる幼稚な照れ隠しであの人を傷付けてしまった…何をやってるんだ僕はッ!」

図書委員「あークソクソッ! 最低だチクショウ!」ガンガンッ


司書「ちょ…図書委員くん…?」オロオロ

図書委員「…あ、司書さん。すいません、お見苦しいところを…」

司書「あ、いや…私はいいんだけどね、その…図書室では静かに…」チラッ


生徒A「…」ジロッ

生徒B「…」ジロッ


図書委員「…すいません」



・・・


司書「…で、どうしたの? いつもはクールガイな図書委員君があんなに取り乱すなんて珍しいね」

図書委員「…司書さんだから言います。笑わないで聞いてくださいよ」

図書委員「実は僕…恋をしてしまったんですっ!」///

司書「こ、恋っ!?」///

図書委員「は、はい…。それが…」

カクカクシカジカデ…コタビカクカクシカジカシヨウト…カクカクシカジカニナッテシマイ…

アーナルホド…

図書委員「…といった次第なんです…」

司書「…なるほどねぇ」ウムッ


司書「だったら今すぐ謝りに行かないと駄目だよ図書委員君ッ!」ズビシッ

図書委員「えっ…は?」ビクッ

司書「そういうものはね、後になるほど謝り辛くて生じた亀裂は修復しにくくなるものなんだよッ!」

図書委員「な、なんと…」ワナワナ

司書「しかも今回は彼女の触れられたくないダークな部分を無遠慮にも抉ってしまっている…。有り体に言ってしまうならそれは最低な行為よ!」キッパリ

図書委員「う、うおぉぉおお…」ガクガク


司書「…謝ってきなさい。誠心誠意、ね」

図書委員「え…で、でも…」

司書「恋は盲目で盲進的であるべきなのよ。理解するのは後でいい。理性的であって踏ん切りがつかないのなら、そんなものかなぐり捨てて、恥も外聞も気にせず行動するのよ!」

司書「遅きに失しては後の祭り! 一生後悔することになるのよ! それでもいいのッ!?」

図書委員「!?」


司書「…やらないで後悔するのと、やって後悔するのなら、やって後悔した方が絶対いい。大人になってから気付くことよ」フフッ

図書委員「し、司書さん…」ジーン

司書「さあ! 行きなさい! 手遅れになる前に、なりふり構わずッ!!」ビシッ

図書委員「わっかりましたッ!!」ガラッ…ドンッッドンガラガッシャ-ン



司書「…ふぅーやれやれ、青春だねぇ」キラキラ

司書(…ちょっと大袈裟に言い過ぎた感もあるけど…)

司書(これもまた青春よねぇ…)フフッ


生徒A(…うるさい)イライラ



・・・


ダッダッダッ…


図書委員「……ッ」

図書委員(不良娘さんと別れた時間からおよそ十五分…)

図書委員(あの時の不良娘さんの歩調から推察するに、僕が走って行けば不良娘さんに追い付くことはそう難しくない…はず)

図書委員(あとは彼女がどこに向かったかが問題なんだが…先ずは乗降口で情報収集を…)



図書委員「……すまないそこのキミッ!」

女生徒「あ…図書委員くん」ドシタノ?

図書委員「不良娘さんを見掛けなかっただろうか?」

女生徒「不良娘さん? 不良娘さんならさっき階段を上がって行くのを見たけど…」キョウシツトカジャナイ?

図書委員「まだ下校はしてないんだな! 分かったありがとうッ!」ダッ

女生徒「?」



・・・


図書委員「すまないそこのキミ!」

生徒C「ん? どうした図書委員」

図書委員「不良娘さんを見掛けなかっただろうか?」

生徒C「あん? 不良娘さんねぇ…今さっき教室を出てったけど…」

図書委員(ん…? 四階には階段が一ヵ所しかないし、そうなれば何処かしらで行き合うはずだけど…)

図書委員「…」

生徒C「?」

図書委員「…分かった、ありがとう。それじゃまた明日」

生徒C「おー、また明日」フリフリ

図書委員(…まだ帰ってないとしたら、あとは…)



・・・



ギィ…



図書委員「…どうして屋上の扉が空いてんだか…」


「!」


図書委員「…やっぱり」

不良娘「な、何でオメーがここにいんだよ!」グシグシ

図書委員「…泣いてた?」

不良娘「な、泣いてねーよ!」


不良娘「…つーかなんでお前がここにいんだよ。屋上は立ち入り禁止だぞ」

図書委員「どの口が言うんだか」フッ

不良娘「…ちっ」

不良娘「あんだよ、こそこそつけ回すようなマネして…。とことんアタシを追い詰めてーみたいだな…」

図書委員「…い、いや…ちが」

不良娘「じゃあ何なんだよ! あんだけアタシを蔑んどいて! そんなにアタシが嫌いかよ!」

不良娘「アタシに消えて欲しいのか! ああそうなんだろ!? そんなら最初からそう言えよッ!!」


図書委員「っっ…。ぼ、僕は…」

不良娘「…ハッ。今ならアイツの気持ちも分かるような気がすんな…」ボソッ

図書委員「…?」

不良娘「…いいぜ。ならもういっそ死んでやるよ」ヒョイ…ガシャガシャ

図書委員「なっ…何をしてるんだ!」

不良娘「…飛び降り自殺」ハハッ


図書委員「止め…ッ!」

不良娘「近づくなッ!!」

図書委員「ッッ!」ビクッ

不良娘「…やっかましーヤツだな。死ぬ時くらいは静かに死なせてくれよ」



ビュー…



図書委員「……」

不良娘「…風が気持ちいいな。そういえばもう夏だっけ」

図書委員「……」

不良娘「やっぱ屋上っていいな。景色も最高だし死に場所には申し分ねぇよ」

不良娘「特にこのフェンス上から見渡す景色がこれまた爽快で壮観なんだわ」ハハハッ

図書委員「…ッ」



不良娘「…ずっと考えてたんだ。ダブっちまった時から…いや、それよりもっと前からだな」

不良娘「アタシはこんなぬけぬけと生きてていいのかなって」

不良娘「なんもかんも素知らぬ顔して、漫然と生き続けてもいいのかなって」

図書委員「は、早まるんじゃない…!」

不良娘「…」フッ


不良娘「…なぁ、最後に教えてくれよ。アタシバカだからわかんねえからさ」

図書委員「…ッ」

不良娘「もしこのフェンスの向こうへ落っこちたら…アタシは死ねるのか?」ニコッ

図書委員「……」

不良娘「…」

図書委員「…す」


不良娘「…あ?」


図書委員「好きだッ! 不良娘さんッ!」


不良娘「」


図書委員「僕はッ…君のことが好きだッ!」

不良娘「…」

図書委員「…ッ」

不良娘「…………」

不良娘「……………………は?」ポカーン


図書委員「さっきはすまないっ! 正に君の言った通り、君の気を引こうと幼稚な手法で君に辛辣な言葉を投げ掛けてしまった!!」

不良娘「…? …??」


図書委員「毎日図書室に訪れる君にいつしか目を引かれ気を引かれ、そして僕は君と親しくなりたいと思った!」

図書委員「だけど普通に歓談する為の取っ掛かりが見つからなくて…つい当たり障りのないようにと侮蔑的な言葉を選んでしまった!」

不良娘「…当たりまくって障りまくってるぞ。クリーンヒットの連発なんだが」


図書委員「申し訳ない! 本当に申し訳ないッ! 寧ろ死すべきは僕だ! 下種で下劣な僕が君に代わって死のうッ!」ガシャガシャ

不良娘「お、おいバカッ…血迷うなッ!!」グワシッ

図書委員「ふぬっ!? なぜ止める!? 僕は…僕は最低な人間だぞっ!!?」ボロボロ

不良娘「ふっざけんな! 残された方の身にもなってみやがれ! 見送ったアタシの立場はどうなんだよッ!!」ウガーッ

図書委員「そ…それは…」

不良娘「……」ハァー…


不良娘「…何なんだよホントに、さっきから…。一旦落ち着け」ソコスワレヨ

図書委員「…ん」グシグシ

不良娘「…」

図書委員「…」グスン

不良娘「…」


図書委員「…」

不良娘「…だぁああーー!! 気まずいッ!!」ドゴォ

図書委員「ぐぅえ!!? あっぶっっ…ッ。お、落ちるとこだったじゃないかーー!?」

不良娘「うるせぇ! もう落ちちまえ!!」プイッ

図書委員「なっ…さっきは僕を諭して制止を促したくせに…言うことが滅茶苦茶じゃないかっ!」

不良娘「そんなのお互い様だ!」

図書委員「むむぅ…」グヌヌ


不良娘「…ッ」

図書委員「…」

不良娘「…」

図書委員「…さっき僕が言ったことは嘘偽りない事実だ。決して君の投身を止める為の方便なんかじゃない」

不良娘「……そうかよ」

図書委員「…だからその…誠に厚かましい頼みだと思うが…図書室での僕の暴言を、どうか許してほしい…」

不良娘「……」ジッ

図書委員「…」ゴクッ


不良娘「…はぁ。いいよ、許してやるよ」

図書委員「ほ、本当か!?」パァァ

不良娘「ただし、一つ条件」

図書委員「むっ…」


不良娘「…この屋上のことは黙っててくれ」

図書委員「…」

不良娘「事が露見して、屋上が完全閉鎖されちまったら…もうこの学校に私の居場所が一つとしてなくなっちまう」

不良「だから、私がこの屋上に立ち入っていることを他言しない。それが条件だ」

図書委員「…いいだろう」


図書委員「だけど、今の君の言に一つ、異議を唱えさせてもらう」

不良娘「? あんだよ」

図書委員「…もし、君が自分の居場所が無いと…いたたまれなさを感じるなら、また図書室に来てくれ」

図書委員「図書室はマナーを守って利用してくれる生徒なら誰でも歓迎だ。どうか今まで通り、図書室を訪れて欲しい」

図書委員「…そうしてくれると、僕は嬉しい…」ゴニョゴニョ

不良娘「…そっか。あんがとな」ニッ

図書委員「!」ドキッ

図書委員(…か、かわゆい…)ドキドキ


不良娘「どうしたよ、目に見えて顔が赤いぞ」

図書委員「ゆ、夕陽のせいだろう…」カァァ

不良娘「…ふふっ。そっか」

図書委員「……」ドキドキ


図書委員「…」

不良娘「…」

図書委員「……い、今更『付き合って下さい』なんて寡廉鮮恥なことはいわない…」

不良娘「ッ!」ビクッ

図書委員「言わない、けど…せめて…その、せめて…」ゴニョゴニョ

不良娘「……あんだよ」ハッキリイエ

図書委員「…僕と、友達になってくれないだろうか…」


不良娘「…」

図書委員「…」

不良娘「…いいよ。こんな厄介者でいいなら。宜しく頼む」

図書委員「ホントかっっ!!?」クワッ

不良娘「うわっ!? ちけぇよ!」ビクッ


図書委員「ホントのホントにっ、僕と友達になってくれるのか!?」ガシッ

不良娘「な、何興奮してんだよ! お前もしかして友達の意味を履き違えてねぇか?」サァー…

図書委員「そ、そんなことはないッ! ぃいったあぁーーッ! 不良娘さんと友達だァーー!!」ガシャガシャガシャ

不良娘「ちょお…っ!? いきなり揺らすなバっ…」フラッ

図書委員「!? 不良娘さんッ!」ガシッ

不良娘「う…うおおおおおお!!?」ズルッ

図書委員「うわわわああああ!!」


ひゅー…



ドシッ…ドシーン


不良娘「いっっ…」

図書委員「うおぉぉぉ…」プルプル

不良娘「てめっ…危うくマジで彼岸へ逝っちまうとこだったじゃねぇか…」

図書委員「も…申し訳ない…」

不良娘「…ったく」

図書委員「……!」


不良娘「…はぁ。今日は何だか疲れちまった…誰かさんのせいで」ゴロン

図書委員「…」

不良娘「…どうしたよ、だんまりこいて」

図書委員「…いや、見惚れてしまっていた」

不良娘「?」


図書委員「君の言った通り…ここから眺める景色…沈みゆく夕陽に照らされた街並みがなんと美しいことか…」

不良娘「…だろ」

図書委員「確かにここは…校則を犯してまで立ち入るだけの価値がある」

不良娘「いいとこだろ」ニヒヒ

不良娘「…んじゃ、今日からここは二人だけの秘密の場所だな」


図書委員「! それは…なんとも甘美な響きだな」ムフフフフ

不良娘「はっ…。か、勘違いすんじゃねぇぞ。アタシが言いたいのはそんなお茶目なもんじゃなくて…」オロオロ

不良娘「えーっと、そうだなー…。うん、つまり…」


不良娘「…オメーも、今日から共犯者ってこと」ニッ


図書委員「…うん。それでいい」ニコッ





おわり。

死にたくなるくらい青春な話を書いてみたかったです。
妄想垂れ流しの拙文にお付き合い頂きありがとうございました。

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