エレン「俺が鈍感だという風潮」
エレン「俺が鈍感だという風潮」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1369471523/)
クリスタ「私が女神って風潮?」
クリスタ「私が女神って風潮?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1370130931/)
の続きです
大まかなあらすじ
エレンがコニー、サシャと仲良くなった
クリスタとユミルの仲が少し深まった
では投下
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1370444501
エレン「今日の夕飯は芋尽くしだな」
コニー「芋のスープに、蒸かし芋に、芋を入れて焼いたパンか」
サシャ「すごいですよ! スープのお芋が大きいです!」
アルミン「蓄えてた芋が痛み始めてたらしいよ。だから、一気に消費するためにこのメニューなんだって」
サシャ「理由なんてどうでもいいですよ! こんなに芋が沢山……いただきまーす!」
ミカサ「いただきます」
クリスタ「みんな、私たちも一緒に食べていい?」
ユミル「こいつらと食うのかよ……」
エレン「いいぞ。俺もユミルに聞きたい事があるから丁度良いしな」
ユミル「私に? くだらない事じゃないよな?」
エレン「真剣だ」
ユミル「ふーん。聞くだけ聞いてやるよ」
エレン「……お前、アルミンの事、どう思ってるんだ?」
アルミン「ぶほぉ!」
コニー「汚ねっ!」
サシャ「こっちにスープ吐き出さないで下さいよ!」
アルミン「ご、ごめん」
アルミン(いや、謝ってる場合じゃないだろ、僕。エレンはなにを言い出してるんだよ!)
ユミル「はぁ? なんだ、その質問」
クリスタ「ユミル、アルミンとも喧嘩してたの?」
ユミル「そんな覚えはないけど」
ミカサ「いいから答えて」
ユミル「ミカサもかよ。……しいて言うなら、余計なお世話が好きなチビ」
アルミン(そうだよね。僕なんてそんな印象だよね、どうせ……)
アルミン(……別にユミルの事を好きだから落ち込んでるわけじゃないよ? 本当だよ?)
エレン「そうか……。でも、アルミンはすごいやつなんだ」
エレン「色んな事を知ってるから、俺はいつもアルミンに助けられてる」
ミカサ「私もそう。アルミンは本当に頼りになる」
アルミン(エレン、ミカサ、二人の言葉は嬉しいよ。けど、二人の目的を考えたら複雑な心境だ……)
ユミル「だからなんだ? 私もアルミンを褒めればいいのか?」
エレン「鈍いやつだな! 少しは察しろよ!」
ユミル「お前にだけは言われたくねぇよ!」
アルミン(全くだよ)
クリスタ「?」
アルミン(状況がわからないから首を傾げてるクリスタ、本当にかわいい)
サシャ「お芋が美味!」
コニー「アルミンの口に入った物と混ざった俺のスープ。飲むべきか、諦めるべきか……」
アルミン(元凶の君らは平常運転だね。僕の弱い拳が固くなるほど羨ましいよ)
アルミン(……コニーにはほんの少し悪いと思うけど)
ジャン「うるせぇぞ、死に急ぎ野郎! 飯の時くらい静かにしやがれ!」
マルコ「やめなよ、ジャン」
アルミン(マルコ、止めたらダメだ。今のジャンは、僕にとって救世主に近いんだから)
エレン「黙ってろ! こっちは大事な話をしてんだ!」
エレン「大体、てめぇの方がいつもうるせぇだろうが」
ジャン「んだと!」
エレン「なに考えてんのか知らねぇけど、毎回近くの席に座りやがって。ぺちゃくちゃ喋ってんのが丸聞こえ——」
ジャン「なにいきなり黙ってんだ。言いたい事があるなら言ってみろ!」
エレン「……少し前、お前がマルコ辺りに立体起動のコツを教えてたよな。慣性がどうのとか」
ジャン「盗み聞きかよ。いい趣味してんな、おい」
エレン「助かった」
ジャン「……は?」
エレン「まだ、自分のものに出来たとは言えない。けど、ガスの消費量は減ったし、前より動きが良くなった。だから……感謝してる」
ジャン「……ちっ。マルコ、俺は先に行くからな」
マルコ「あっ、ちょっと! 僕も行くよ」
サシャ「お二人のご飯、頂いてもいいですか!」
ジャン「勝手に食ってろ」
サシャ「わーい!」
エレン「なんだよ、あいつ。人が素直に礼を言ってやったのに」
アルミン「ジャンは少し照れちゃっただけだよ。エレンからそんな事言われるとは思ってなかっただろうし」
ミカサ「アルミンの言う通り。エレンは気にしなくていい」
エレン「アルミンとミカサがそう言うなら……あれ? 俺はなんの話をしてたっけ?」
ユミル「私にアルミ——」
アルミン「なんでもないよ! きっとすごくどうでもいい事だよ!」
ミカサ「アルミンの——」
アルミン「ミカサ! 今日はすごい情報を一つ手に入れたんだ!」
ミカサ「……楽しみにしてる」
クリスタ(よくわからないけど、黙ってた方がいいよね? うん、温かいお芋、美味しいな)
コニー「……なぁ、サシャ」
サシャ「なんですか?」
コニー「俺のスープとジャンが手を付けてないスープ、交換しねぇか?」
サシャ「嫌です」
コニー「……」
コニー(やっぱり、俺がアルミン汁配合スープを飲むしかねぇのか……)
食堂の外
ジャン「なんだよ、あいつは。いきなり変な事言いやがって。調子が狂っちまった」
マルコ「今日は完敗だったね」
ジャン「ニヤニヤしてんじゃねぇよ」
マルコ「今日のエレンみたいに、少しは素直になってみたらどうかな?」
ジャン「あぁ? 俺のどこが素直じゃないんだよ」
マルコ「今みたいなところかな」
ジャン「そうかよ。にしても、くそっ。完全にアイツの引き立て役じゃねぇか、俺」
ジャン「明日の立体機動で、死に急ぎ野郎との格の差を見せつけてやらねぇと」
マルコ「エレンはそれなりの人数が応援するだろうから、僕はジャンの味方になるよ」
ジャン「んだぁ、その言い方は。俺に友達がいないみたいじゃねぇか」
マルコ「えっ、僕以外にいたの?」
ジャン「……」
マルコ「……」
ジャン「……」
ジャン(……いなかった)
マルコ「その、ごめん」
ジャン「謝るんじゃねぇよ……」
翌日(明け方前)
エレン「悪い。ちょっと便所に行って来るから、先にトレーニングを始めててくれ」
コニー「ウンコか?」
エレン「小便」
サシャ「私もちょっとお腹の調子が……」
エレン「夕飯の食い過ぎだ。ライナーとベルトルトとトーマスとミーナと馬鹿夫婦二人が泣いてたぞ」
ミカサ「ついて行こう」
エレン「来るな」
アルミン「体を温めて待ってるね」
エレン「おう」
エレン(便所便所っと……ん? なんで立体機動装置を保管してる倉庫に明かりが?)
エレン(一応様子を見てみるか。訓練施設内に泥棒が入ってるとは思えないけど)
エレン「誰かいるのか?」
ジャン「あん? なんでてめぇがこんな時間に来るんだよ」
マルコ「おはよう、エレン」
エレン「ジャンとマルコ? こんなとこでなにしてるんだ?」
ジャン「教える義理はねぇよ」
エレン「マルコ、どうなんだ?」
ジャン「人の事無視してんじゃねぇぞ!」
マルコ「まぁまぁ。僕らは見ての通り、装置のメンテをしてるんだ。今日は立体機動の訓練があるからね」
エレン「訓練前に整備の時間が設けられてるだろ? それじゃ足らないのか?」
マルコ「限られた時間内に絞るより、こうしてゆとりを持ってする方が見落としは減るからね」
マルコ「って、前にジャンが言ってね。装置を使う日は、こうして少し早めに起きていたんだ」
ジャン「余計な事を余計なやつに言いやがって……」
マルコ「いいじゃないか。別になにかが減るわけでもないんだから」
ジャン「代わりに腹の虫が大繁殖中だけどな。わかったんならさっさと消えやがれ、死に急ぎ野郎」
エレン「……」
ジャン「突っ立ってねぇで、失せろっつってんだよ」
エレン「少し待っててくれ。すぐ戻る」
ジャン「人の話を聞けよ!」
ジャン「ったく、あの野郎はなに考えてんだ」
マルコ「待ってろって、なにをするつもりなんだろうね、エレンは」
ジャン「知るかよ。そこの油取ってくれ」
マルコ「はい」
少しして
エレン「戻ったぞ」
コニー「本当にジャンとマルコがいるな」
サシャ「二人共、朝早くから偉いですね」
ミカサ「マルコはともかく、ジャンは意外」
アルミン「ジャンも立体機動は真面目だからね」
クリスタ「私も見習わなきゃ」
ユミル「ふぁ〜……ねみっ」
ジャン「……俺の気のせいか? 馬鹿が馬鹿を連れて来たぞ」
マルコ「気のせいじゃないよ」
エレン「なんか、戻ったらクリスタとユミルもいてな。こんな人数になった」
クリスタ「エレンたちのトレーニングに私たちも混ぜて貰おうと思って早起きしたの」
アルミン(朝一で女神の顔を拝めたから、僕は大満足)
ユミル「私は寝てたい」
ジャン「人数なんかどうでもいい。なんで本当に戻って来てんだ」
エレン「俺らも整備するために決まってるだろ。そっちの邪魔はしねぇよ」
ジャン「てめぇが視界に入るだけで邪魔なんだよ」
ミカサ「ごめんなさい、ジャン。私たちが来る前にエレンがなにかしたのなら謝る。だから、少しだけ我慢して欲しい」
ジャン「えっ、あっ……ミ、ミカサの頼みじゃ仕方ないな! 俺の気が変わらねぇうちに始めてろ」
ミカサ(アルミンの指示通りの言葉を言ったら、ジャンが許可した)
エレン(やっぱりアルミンすげぇ)
コニー(俺には普通に頼んだようにしか見えなかったぞ)
サシャ(アルミンとジャンだけにわかる暗号が隠されていたのですかね?)
エレン(そうだったのか……)
クリスタ(私もわからなかったなぁ)
アルミン(僕がミカサに頼んだから言い難いけど、ジャンが可哀想なだけだよ……)
ユミル(アホらし)
アルミン「それはそれとして、僕らも始めよう。余裕があるとはいえ、時間は有限なんだ」
クリスタ「うん!」
ユミル「面倒だなぁ……」
ミカサ「エレン、私の隣でやらない?」
エレン「いいぞ」
コニー「……ん? メンテってどうやるんだっけ?」
サシャ「朝ご飯を譲ってくれたら教えてあげますよ」
エレン「サシャ、腹の調子が悪いんじゃなかったか?」
サシャ「治りました!」
マルコ「急に賑やかになったね」
ジャン「うるせぇって言うんだ」
マルコ「ジャンは本当に、変なところで素直じゃないよね」
ジャン「ほっとけ」
訓練(立体機動)
ジャン「よりによって、てめぇと同じ班かよ」
エレン「ミカサ、一緒になるのは久しぶりだな」
ミカサ「今日はエレンのフォローに回ろう」
エレン「絶対にそんな事するなよ」
ミカサ「わかった。なら本気でする」
エレン「そうしてくれ」
ジャン「何度無視すんなって言わせる気だてめぇ!」
エレン「服引っ張るんじゃねぇよ! 破けちゃうだろ!」
ジャン「前も言ったけどよ、服なんてどうでもいいんだよ! しかも俺の目の前でミカサと変な空気漂わせやがって!」
エレン「なにわけわかんねぇ事言ってんだ!」
ジャン「うるせぇ! 羨ましいんだよ!」
エレン「離せって。全く、そんなに俺と一緒が嫌なら教官に頼んでこいよ」
エレン「俺が言ってやってもいいんだぞ。ジャンが『サボりたいから班を離れたい』と言ってました、ってよ」
ジャン「んな事言ってみやがれ! 立体機動の途中、てめぇのワイヤー叩き斬って墜落させてやるからな!」
エレン「やってみやがれ!」
キース「騒がしいぞ。この訓練が嫌なら一日走らせるが?」
ジャン「い、いえ、そんな事はありません!」
エレン「申し訳ありません!」
ミカサ「ありません」
キース「なら、出発しろ。時間だ」
三人「はっ」
立体機動中
ミカサ「……」
ジャン(ミカサはやっぱり速い。俺でも追いかけるので精いっぱいだ)
ミカサ「しっ!」
ジャン(しかもあの斬撃の深さ。なんであの速度で、あんなに深く削げるんだよ)
ジャン(いいところを盗もうとしても、あの動きをどうやって真似ろって言うんだ)
エレン「ジャン!」
ジャン「あん?」
エレン「話がある! 止まってくれ!」
ジャン「こっちはてめぇに構ってる時間が惜しいんだよ」
エレン「頼む!」
ジャン「……仕方ねぇ。ほら、止まってやったぞ」
エレン「確認したい。ジャンはミカサより早く動けるか?」
ジャン「見てただろうが。わざわざ言わせんな」
エレン「今までは斬撃も考慮してペースを抑えてたからだろ?」
ジャン「なにが言いたいんだ」
エレン「頼みがある。斬撃を捨てて、移動速度をあげる事だけに集中してくれないか?」
ジャン「はぁ? なんで俺がそんな事しなきゃならないんだよ」
エレン「今日は模擬採点だ。結果が成績に反映される事はほとんどない」
エレン「だから、今日の結果が悪くても、評価は下がらないはずだ」
エレン「……もちろん、ジャンには悪いと思ってる」
ジャン「俺に速度を重視させる理由を聞いてんだ。遠回しな言い方はやめろ」
エレン「ジャンの立体機動の技術を学びたい」
エレン「ミカサと立体機動で並べられるのは、お前か、アニ、ライナー、ベルトルトくらいだからな」
ジャン「ならミカサ本人に頼めよ。どうして俺なんだ」
エレン「ミカサのは何度も試してる。けど……ダメだった。今の俺じゃ、まだ届かない」
ジャン「お前が名前をあげた中で、一番体格の近いミカサの方法ですら無理なら、俺のだともっと無理じゃねぇか」
エレン「さっきまで後ろで観察してたけど、ジャンとミカサは動きやルート選択がかなり違ってた」
エレン「真似してみたら、ジャンの方がやり易かった」
エレン「だから、お前の技術を見せて欲しいんだ。もしかしたら、上手く行くかも知れない」
ジャン「やなこった。なんで俺がてめぇみたいな死に急ぎ野郎に協力しなきゃならないんだ」
エレン「頼む、ジャン! 俺に出来る事なら何でもやる。今日だけでいいんだ」
ジャン「……なんでそんな簡単に頭を下げられるんだよ。しかも俺だぞ。素直に頷くと思ってんのか?」
エレン「巨人を——巨人どもを駆逐できるなら、俺はなんでもする。なんだってやってやる」
エレン「俺には力が、技術が必要なんだ。頼む!」
ジャン「……」
ミカサ「エレン、ジャン、なにかあったの?」
エレン「ミカサ」
ミカサ「二人の姿が見えなくなったから戻って来た。どういう状況?」
エレン「これは……」
ジャン「……おい、行くぞ」
エレン「えっ?」
ジャン「今日だけだ。けど、俺はてめぇを振り切るつもりでやるからな。追いつけなくても後悔するなよ」
エレン「後悔なんてしねぇ! 俺の事なんか気にせずやってくれ」
ミカサ「?」
ジャン(なんでコイツなんかのために……俺らしくもない)
ジャン「ついて来れるもんならついて来てみやがれ!」
エレン「おう!」
ミカサ「??」
ジャン「ふっ!」
ジャン(やっぱりこの移動速度じゃ、斬撃が相当浅くなるな)
ジャン(あの野郎はどうだ?)
エレン「オラァ!」
ジャン(あいつ、ミカサと同じくらい……なるほど、そうか。俺が浅く切った部分を狙って、深く削いでやがるのか)
ジャン(綺麗な的よりも、狙う部分がはっきりとしていれば、精度も上がるだろうしな)
ジャン(ただ、それも体の使い方がわかってないと出来ねぇ)
ジャン(気に入らねぇが、そっちの技術はあいつの方が上って事か)
ジャン(……にしても、喰らいついて来やがる。斬撃の威力の分、少しずつ差は出ているが、振りきれるほど距離は空かねぇ)
ジャン(俺の動きは、あの野郎と相性が良かったらしいな)
ミカサ(速い。なぜかジャンは移動速度をあげる事だけに専念している)
ミカサ(それにエレンも引っ張られてる。いや、エレンはジャンとまったく同じ動きだ)
ミカサ(さっきエレンが頭を下げたのはこれが目的?)
ミカサ(だとするなら、上手くいったと言ってもいいのかもしれない)
ミカサ(現に、エレンはほんの少し前では考えられないほどの速さで動いている)
ミカサ(けど……っ!)
ミカサ「エレン! 危ないっ!」
エレン「がっ」
ジャン(あの馬鹿! なんで目の前の枝なんかにぶつかってやがる!)
ジャン(もしかして——いや、考えてる時間が惜しい!)
ミカサ「エレンっ!」
ジャン「手間かけさせんな!」
エレン(あれ、なんで俺は落ちてるんだ……?)
エレン(早くアンカーを撃ち出さないと。でも、なんで俺の指は動かないんだ?)
エレン(頭がぼんやりする。なんだろう。なにがどうなってるんだ?)
エレン(ミカサとジャンが何か言ってるけど、よく聞こえないな)
エレン(それになんか、すごく、瞼が、重、い……)
エレン(……)
医務室
エレン「つっ……あれ? ここは……?」
アルミン「エレン、気がついたんだね。大丈夫?」
エレン「なんか、頭と首が痛ぇ。けど、なんで俺は室内に? 訓練中じゃなかったか?」
アルミン「訓練中の事故でエレンは気を失ったんだ。ここは医務室だよ」
コニー「エレン、自分の名前は言えるか? 俺の名前は?」
エレン「エレン・イェーガー。お前はコニー・スプリンガー」
サシャ「昨日のお夕飯は覚えていますか?」
エレン「芋のフルコースだ」
サシャ「よかった……」
コニー「心配かけさせんなよ!」
エレン「まだ頭がはっきりとしねぇけど、悪かったな……いつっ」
クリスタ「ま、まだ横になって安静にしてないと」
ユミル「にしても情けない姿だな。今のお気持ちは?」
クリスタ「ユミル!」
エレン「恥ずかしさと悔しさで胸がはち切れそうだ」
ユミル「そりゃなにより」
エレン「……ミカサは?」
アルミン「いるよ。ほら、ミカサ。僕らの後ろに隠れてないで」
ミカサ「……」
エレン「どうしたんだ、ミカサ。表情が暗いぞ」
ミカサ「……ごめんなさい」
エレン「なんで謝るんだよ」
ミカサ「エレンが、エレンの反応できない速度で移動していた事に気付いた。でも、止められなかった……」
エレン「俺の自業自得だ」
ミカサ「でも……っ」
エレン「気にすんな」
ミカサ「……うん」
エレン「ところで、ミカサが俺を助けてくれたのか?」
ミカサ「私じゃない。私は間に合わなかった」
エレン「なら、ジャンが? ジャンはどこにいるんだ?」
アルミン「部屋の入口の方だよ」
ジャン「……」
マルコ「無事でよかったよ、エレン」
エレン「ジャンのおかげ、らしいけどな」
ジャン「……お前ら、無事だとわかったんなら、この部屋から出ていけ。そいつとサシで話をする」
マルコ「わかってると思うけど、今のエレンに無理は……」
ジャン「手を出すつもりはない。今のところはな」
アルミン「……みんな、行こう」
コニー「無理すんなよ、エレン」
サシャ「ジャンになにかされたらすぐ呼んで下さいね」
クリスタ「ゆっくり休んでね」
ユミル「精々余計な事言って、ジャンに殴られてな」
エレン「はいはい」
ミカサ「エレン……」
エレン「大丈夫だから、お前も出てくれ」
ミカサ「……わかった」
ジャン「マルコ、てめぇもだ」
マルコ「わかってる。じゃあ、また後で。エレンも」
エレン「あぁ」
ジャン「……」
エレン「……」
ジャン「……てめぇを拾った後、俺らの班は訓練を中断。結果、模擬採点で途中リタイア扱いになった」
エレン「そうだったのか……」
ジャン「これが実践だったら、俺とミカサはお前を庇ったせいで戦死だ。なぁ、どんな気分だ? 死に急ぎ野郎」
エレン「最低だな」
ジャン「てめぇが巨人に食われて死ぬのは勝手だ。けどよ、そのせいで周りが巻き込まれてんだ」
ジャン「強くなりてぇだとか、巨人を駆逐してぇって言う前に、そのポンコツの頭をなんとかしやがれ」
エレン「……ごめん」
ジャン「てめぇ……言い訳の一つくらいしてみろ! なに一度死にかけたくらいで腑抜けになってんだ、アァ!」
ジャン「その様で、よく俺に兵士のあり方ってやつを上から目線で語れたな!」
エレン「……」
ジャン「なんとか言ってみやがれ! 黙ってればミカサが助けに来てくれるとか、甘ったれた事考えてんじゃねぇぞ!」
エレン「そんな事、考えてるわけねぇだろ」
ジャン「ならなに黙ってやがる」
エレン「俺は巨人を駆逐する。目の前で俺の母さんを殺した巨人を。アルミンの家族を殺した巨人を、一匹残らず」
エレン「今でもその考えは変わってない。怪我をした事だって、後悔はしてない」
エレン「けど……もう、お前たちに迷惑はかけない。ミカサのあんな顔、見たくない……」
ジャン「あぁ、そうかよ。よーくわかった」
エレン「なにがだ」
ジャン「事故ったせいで、てめぇの小さかった脳みそが、馬糞かなんかに変わったって事がだ」
ジャン「迷惑をかけないだぁ? 死に急ぎ野郎がなに寝言ほざいてやがる」
エレン「寝言じゃねぇ。教官に説明して、これから立体機動や危険な訓練はなるべく一人で——」
ジャン「逃げてるだけじゃねぇか」
エレン「なんだと!」
ジャン「いいか、よく聞いてやがれ、クソ野郎。てめぇがどこでなにをしてても、ミカサはてめぇを心配する」
ジャン「ミカサだけじゃねぇ。アルミンや、馬鹿二人、クリスタもそうだろうよ」
ジャン「ライナーやベルトルト、それにアニや、多分ユミルだってそうだ。その全てから逃げたいんだろうが、腰抜けが!」
エレン「違う!」
ジャン「今のお前の言葉には重みがねぇよ。喚いてるだけのガキと一緒だ」
エレン「違う! 違う。俺は、俺は……」
ジャン「うるせぇ、黙れ。黙って聞け」
エレン「……」
ジャン「これから言う事は、二度と言わねぇし、てめぇもすぐに忘れろ」
ジャン「……俺はてめぇが嫌いだ。出来ない事を耳障りな声で叫んで、いつもミカサに構って貰いやがって、ちくしょう」
ジャン「でもな、俺はお前がどれほど巨人を駆逐したいか少しは理解した。だから、今日だけお前の希望通りにやってやったんだ」
ジャン「そのてめぇが腑抜けてんじゃねぇ!」
ジャン「調査兵団に行くんだろうが! 巨人を駆逐して生き残るつもりだろうが!」
ジャン「どうせハッタリかますんならな、自分も他のやつも全部守り抜いてやるくらいはほざきやがれ!」
エレン「ジャン、お前……」
ジャン「ついでだ、教えてやる。てめぇは視野が狭すぎるんだよ」
エレン「視野?」
ジャン「事故った時、お前の目には俺の背中しか映ってなかっただろ。だからあんな間抜けな様を晒したんだ」
エレン「……そう、かもしれない」
ジャン「ムカつくが、てめぇの身体能力の高さは対人格闘で証明されてる」
ジャン「立体機動が上手くなりたきゃ、視界に入る情報全てを一瞬で処理しろ」
ジャン「あとは、状況に最良なガスのふかす量を完璧に覚えろ。その二つが出来りゃ、だいぶ変わるだろうよ」
エレン「……今日は本当に悪かった」
ジャン「なんの事だ? 大声出したせいで目眩と吐き気がひでぇんだよ。もう、なにも覚えてねぇ」
ジャン「こんな辛気臭ぇとこにいつまでも居たくないし、俺は行くからな」
エレン「あぁ」
ジャン「……」
エレン「……」
ジャン「……」
エレン「……おい、なんでドアの前で足を振りあげてるんだ?」
ドゴッ!
コニー『うおっ』
クリスタ『きゃ!』
ユミル『馬鹿、押すな! 倒れる!』
サシャ「あぶぁ!」
エレン「……なんでなだれ込んで来てんだよ、お前ら。一番下で潰れてるサシャは、変な声出したし」
サシャ「お、重いです……」
ジャン「なに盗み聞きしてんだ、てめぇら」
マルコ「部屋を出ろとは言われたけど、話しを聞くなとは言われてなかったからね」
ジャン「一から十まで説明が必要なガキかよ」
コニー「13歳!」
サシャ「14歳です!」
クリスタ「13歳!」
ユミル「15歳だ」
アルミン「僕は13歳」
ミカサ「私も13」
マルコ「そして僕は14歳だよ」
ジャン「あぁ、ガキだったな。俺も、お前らも……」
コニー「ジャン」
ジャン「んだよ」
コニー「『てめぇが腑抜けてんじゃねぇ!』」
ジャン「……」
サシャ「『調査兵団に行くんだろうが! 巨人を駆逐して生き残るつもりだろうが!』」
ジャン「…………」
マルコ「『どうせハッタリかますんならな、自分も他のやつも全部守り抜いてやるくらいはほざきやがれ!』」
ジャン「………………」
ユミル「『今のお前の言葉には重みがねぇよ。喚いてるだけのガキと一緒だ』ドヤァ」
ジャン「……………………」
コニー「ジャンさんの説教マジカッケー。マジリスペクトっす」
サシャ「ジャンさん、今度は直に聞かせて下さい! あっ、私へのお説教は遠慮しますね」
マルコ「ジャンさんのカッコいいセリフは、訓練所全体に布教しないとね。抱腹絶倒間違いなしの名シーン(笑)」
ユミル「お、思い出すだけで、腹が……ぶふっ」
ジャン「ぶっ殺すぞてめぇらああ!」
コニー「いやー! 説教されるー!」
サシャ「暑苦し過ぎて火傷しちゃいますね。耳が」
マルコ「むしろ、鳥肌が立つくらい寒くなるかも。僕たちとジャンの温度差のせいで」
ユミル「むふっ、だ、ダメだ。お、おかし過ぎて、上手く、走れない……あははははっ!」
ジャン「逃げんじゃねぇ!」
エレン「俺の感動も台無しだな。つーか、流石に趣味が悪いぞ、お前ら」
アルミン「ジャンが今のエレンになにかするとは思ってなかったけど、一応ね」
クリスタ「もう、ユミル達は酷いなぁ。ジャンが珍しくカッコよかったのに」
ミカサ「エレン」
エレン「ん?」
ミカサ「私は、どんな事があっても悲しまないようにする。だから、一人になろうとはしないで」
エレン「んな事する必要はねぇよ。ジャンのおかげで目は覚めた」
ミカサ「本当に?」
エレン「本当だ。また無茶するかもしれないけど、そん時はそん時だな」
ミカサ「大丈夫。今度は絶対に止めてみせる」
アルミン「僕も無茶はさせないようにするからね」
クリスタ「私に出来る事は少ないけど、なるべく協力するから、本当に危険な事はしないでね」
エレン「みんな、ありがとな。……そうそう、聞き忘れてたけど、今は何時くらいだ?」
ミカサ「夕方」
エレン「夕飯はもう食べたのか?」
アルミン「まだだよ。そろそろ、みんなに料理を配り始める頃じゃないかな」
エレン「じゃあ、教官の部屋に寄ってから、食堂に行くか」
クリスタ「寝てなくて大丈夫?」
エレン「これから教官直々に説教を喰らうだろうし、明日の訓練も休むわけにはいかないからな」
エレン「ジャンの言葉だけど、自分も周りも守れるくらい強くならねぇと」
ミカサ「エレンならきっと大丈夫。私はそう信じてる」
エレン「おう」
クリスタ「でもやっぱり、体は労わらなくちゃ駄目だよ」
エレン「ジャンのやつに発破かけられたからな。約束はできない」
クリスタ「エレンは頑固だよね」
エレン「そういう性格だからな」
アルミン(……この紙、もう不要になってしまいましたよ、教官)
回想(訓練直後)
アルミン「教官、自分に話とは?」
キース「イェーガーの元に急ぎたいところだろうが、悪いな」
アルミン「いえ、構いません。自分の親友が、こんなところで終わるはずありませんので」
キース「そうか……話とは、これの事だ」
アルミン「紙? 目を通してもよろしいでしょうか?」
キース「許可する」
アルミン「……これは、脱落と判断されたイェーガー訓練兵たちの成績ですね」
キース「途中までのものだがな。それを見て、なにか思う事はあるか?」
アルミン「……」
アルミン(ミカサは相変わらずの好成績だね)
アルミン(エレンは相当無理をしてたんだ。一時とはいえ、今までより格段にあがってる)
アルミン(ジャンは斬撃こそ低いけど、立体機動そのものはすごく高い……そういう事か)
キース「気付いたようだな」
アルミン「自分の意見を述べてもよろしいでしょうか」
キース「構わん。言ってみろ」
アルミン「はっ。イェーガー訓練兵の斬撃、キルシュタイン訓練兵の立体機動」
アルミン「この二つを合わせると、アッカーマン訓練兵とギリギリ並んでおります」
キース「その通りだ」
アルミン「どうして自分にこの結果を?」
アルミン「本人たちに直接お渡しすればよろしかったのでは?」
キース「あの二人が不仲な事は知っている。しかし私が仲介すれば、奴らの成長の妨げになるだろう」
アルミン「訓練兵同士で問題を解決させる。それが教官のお考えですか?」
キース「そうだ」
アルミン「何故、同じ訓練兵である自分にその事を伝えたのでしょう?」
キース「貴様は正しい判断が出来る人間だ」
キース「訓練兵の中で、戦闘力の頂点がアッカーマンだとすれば、頭脳は間違いなく貴様だ」
キース「元々の知力の高さに加え、発想、応用、機転がずば抜けている。故に、貴様なら任せられると判断した」
アルミン「自分はイェーガー訓練兵の親友です。彼の肩を持つかもしれません」
キース「繰り返す。貴様は正しい判断が出来る人間だと私は評価している。ほかに理由が必要か?」
アルミン「いえ」
キース「ならば、あとの判断は任せる」
キース「今回の結果についても、必要となればイェーガー、キルシュタイン両名に開示する権利を与えよう」
キース「以上だ。下がれ」
アルミン「はっ!」
回想終了
アルミン(エレンとジャンは、二人だけでも成長しています)
アルミン(手を取り合う関係になる事は、まだ難しいでしょう。ですが、僕がなにかする必要はありません)
アルミン(教官にはそう報告しよう)
アルミン(ただ、まぁ、正直かなり意外だったなぁ。僕ってあんなに評価が高かったんだ)
アルミン(嬉しいような、怖いような……)
ジャンから逃げ切った者たち
コニー「はっ。俺は今、大変な事に気付いてしまった」
マルコ「どうしたんだい?」
コニー「エレンと生活リズムを合わせてるんだから、俺も気絶しねぇといけないじゃん!」
サシャ「わ、私もです! しかし、そう簡単に気絶なんて出来ませんし……」
ユミル「よし、私が一肌脱いでやる」
コニー「出来るのか?」
ユミル「任せとけ。ほれ、後ろ向いて横一列に並べ」
サシャ「わかりました」
コニー「あんがとよ」
ユミル「礼を言われる事じゃない。その代わり、もしお前らのご先祖様に会っても、私の名前は口にすんなよ」
コニー「? よくわからねぇけど、お前の事を話さなければいいんだな」
サシャ「了解です!」
マルコ(ユミルが入念に拳を確かめてるってのは、そういう事なんだろうなぁ)
ユミル「行っくぞー」
サシャ「準備は万端です!」
コニー「いつでも来い!」
マルコ(……まぁ、本人たちが望んでるんだから、止めなくていっか)
いつもの三人
アニ「……」
ライナー「……」
ベルトルト「……」
アニ「誰かさんが、ジャンじゃなくて私と組んでいれば、あんな事故は起こらなかった。ミカサも余裕で越えていたはず」
ライナー「クリスタと組んでも、俺はミカサまで届かないな。残念だ」
ベルトルト(お願いだから、二人は戦士として潔く玉砕して来てよ……)
終わり
カッコいいジャンを書きたかったんだけど、無駄に真面目な話になった
ただ、個人的には書けて満足
お疲れさまでした
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません