のろのろ亀の歩み更新。
王の能力を持つ集。
王の力を持つルルーシュ。
全ての痛みを一身に集めようとした集。
全ての憎悪を一身に集めたルルーシュ。
体制側に抗うテロ集団、葬儀社。
体制側に抗うテロ組織、黒の騎士団。
第二のギアスになりそこねた感があるギルティクラウンとコードギアスのクロス。
【魔神が生まれた日 1】
ロスト・クリスマス。
西暦2029年、突如蔓延した未知のウィルス〈アポカリプスウィルス〉により、日本は名前を失った。
このウィルスの蔓延が原因となり日本は政治中枢が麻痺。そのため、一時、国家としての体をなさくなったとき、治安維持を大義名分として介入してきた世界唯一の超大国が神聖ブリタニア帝国であった。しかし、その実情は治安維持などとは程遠く、明らかな武力介入であり、日本をイレブンとして軍事的に占拠してしまう。予てより、神聖ブリタニア帝国は豊富なサクラダイトを有する資源国家である日本の利権を狙っていて、このパンデミックを機に侵略へ乗り出しても不思議ではなかった。そもそもロスト・クリスマスを引き起こしたのは神聖ブリタニア帝国ではないかという陰謀論がまことしやかに流されるほど介入は迅速で、あれから十年経った今でも日本は神聖ブリタニア帝国の統治下にある。
しかし、当然、それを不服に思う日本人もいて、一時期は日本人の独立を標榜する葬儀社と呼ばれるレジスタンス軍があった。
が、結局、彼らは第二次ロスト・クリスマスを境に消息を経つことになる。
俺の知り合いに神聖ブリタニア帝国の軍事に関与する伯爵とコネクションがある女性がいて、そのひとから聞いた話では、第二次ロスト・クリスマス事件のときに葬儀社のリーダーであった恙神涯なる人物が死亡したことで組織は求心力を失い瓦解したそうだ。
葬儀社。
国を取り戻したかった気持ちもわかるし、実際に行動に移した点も評価する。けれど、やはり甘かったのだ。第二次ロスト・クリスマスに巻き込まれるなどタイミングが悪かったのもあるだろうが、それでも彼らは神聖ブリタニア帝国を甘く見積り過ぎていた。
だが、俺ならば。俺ならば上手くやれたはずだ。やはり人に任せていてはいけない。誰かが何かを成し遂げるのを待っているだけでは何も変わらない。神聖ブリタニア帝国の打倒は、他ならぬ俺自身の手で果たさねば意味がないことだった。
リヴァル「ルルーシュ?」
リヴァルの声がする。
チェスの代打ちで貴族に勝利したあと、建物を出た正面に大きな街頭モニターがあって、そこにクロヴィスが映し出されていたものだから、つい眉間に力を入れすぎていたようだ。
リヴァルになんでもないと肩を竦めてみせ、「行こう、授業に遅れる」と誤魔化すように先を急かす。
リヴァル「だな。シャーリーに怒られちまう」
笑いながら言って、ポケットからサイドカーの鍵を取り出すとリヴァルは駐車場に足を向ける。演説するクロヴィスを尻目に、俺もそのあとに続いた。
クロヴィス「分かりますか? 私の心は、今、二つに引き裂かれています! 悲しみと怒りの心にです」
ほとんど芝居がかったような白々しさで、これでもかと悲愴感をまぶした声がモニターから届く。
少し前、大阪のビルで起きた爆破テロがあって、ブリタニア人八名が死傷したそうだ。それを受けて、日本統治の任を預かっている神聖ブリタニア帝国第三皇子にしてイレブン総督であるクロヴィスが会見を開いたものだろう。おそらく爆破テロは反ブリタニアを唱える日本人のもので、その悪辣さを訴えると同時に大義は神聖ブリタニア帝国にあると主張する旨の放送だった。
リヴァル「日本人のブリタニア人憎しって気持ちはわからなくもないけど、一般人を巻き込むのはよくないよなぁ」
同じく演説を耳にしていたリヴァルがサイドカーのエンジンをかけながらぼやくようにして言う。
ルルーシュ「そうだな。そもそも爆破テロなどに意味はないのに。攻勢を仕掛けるのであれば、もっとべつの……」
リヴァル「おいおい、ルルーシュ、滅多なことは言うもんじゃない。テロリストにアドバイスするようなことを言っちゃ駄目でしょ」
ルルーシュ「そう聞こえたか?」
リヴァル「聞こえた、聞こえた。素行不良で、ルルーシュはただでさえ誤解されがちなんだから、あんまり際どいことは言わない方がいいと思うけどなぁ。これ、親友からのアドバイスな」
ルルーシュ「素行不良のことをリヴァルに揶揄されるのは納得いかないな。まあ、テロなんて馬鹿げたことはしないから、そこは安心してくれて構わない」
リヴァル「ナナリーも悲しむしな?」
ルルーシュ「ああ。そういうことだ」
俺はテロなど馬鹿げた行為に加担しない。そのようなものは無意味だ。局所的な戦果をあげたところで神聖ブリタニア帝国は揺るがない。だから、俺が仕掛けるのは戦争でなければならないのだ。
間もなくリヴァルが運転するサイドカーが発進してアッシュフォード学園へと向かう。
腕時計に視線を落とす。チェスの代打ちが早く終わったから、今からなら問題なく午後の授業に間に合うだろう。
リヴァル「最初の手なんだけどさ、なんでキングから動かしたわけ?」
先程のチェスことを言っているのだろう。
ルルーシュ「王様から動かないと部下がついてこないから」
リヴァル「あのさぁ」
ルルーシュ「なに?」
リヴァル「ルルーシュって社長にでもなりたいわけ?」
ルルーシュ「まさか。変な夢は身の破滅につなが……」
と、リヴァルと他愛のない話をしていると、不意に会話をかき消すようにして後方からクラクションを鳴らされる。
なんだ、と振り返れば、背後から猛スピードで走る大型トラックが迫っていた。
リヴァル「なんなんだよ!」
リヴァルが慌ててアクセルを踏み込み、大型トラックから逃げるようにして加速する。
しかし、リヴァルが加速するも、それすらもどかしいような急ぎようで、道路が二又に分かれたところで、大型トラックは立ち入り禁止の標識がなされた道へと入って行く。
日本の諺に急がばまわれとあるが、その道は立ち入り禁止でまわり道じゃないだろう。
バックミラー越しにトラックを見ていると、案の定、無理に道を折れ曲がって立ち入り禁止区域に入ったため、タイヤが滑ったようで派手にドリフトしながら道の先にある建物へと突っ込んでいった。
ごしゃり、と日常生活ではまず耳にしない破砕音を轟かせ、もうもうと砂煙を巻き上げている。
驚いたリヴァルが路側にサイドカーを停車させて、「これ、俺たちのせい?」と困惑した声を出す。
ルルーシュ「まさか」
リヴァルは悪くない。
しかし、立ち入り禁止区域の先にある建物はなんだろうか。建設途中で放棄されたビルのように見える。だが、ただのビルというわけでもなさそうだ。あれほどの速さをもって大質量の大型トラックが突っ込んだというのに、建物が揺らぐ気配がない。これほどの強度を持った建物だと商業目的とは考え難い。気になって細部まで見てみると機密性も高そうで、もしかするとブリタニアの……それも軍事施設か、それに準ずる何かではと推測できる。
ルルーシュ「あれは……」
注意深く建物を観察していると、事故車輌の辺りで土煙の中に光るものを見つけた。光の粒子のようなものが人の形をとって、留まり、一瞬のうちにふっと消えていく。
リヴァル「おーい、ルルーシュ。エナジーの線が切れたみたいなんだけど」
背後でリヴァルの声がするが、今、目にしたものが気になって上の空で返事をする。
今のは見間違えだろうか。
サイドカーに乗る際、風避けとして装着していたグラスをとって目を凝らす。
そうこうしている間に事故現場を取り巻くように野次馬が集まって来て、口々に事故について好き勝手を言いながら傍観している。が、誰一人動こうとはせず、完全に他人事の様子でいる人間ばかりだ。挙げ句の果てには、携帯端末で事故現場の写真を撮る者までいる始末だった。
ルルーシュ「……どいつもこいつも」
ヘルメットをサイドカーに放り込むと事故車輌へと向かう。そんな俺を見ても周りの野次馬は「お、学生救助隊登場」などと茶々を入れるだけで動こうとはしない。
堪らず顔を歪める。
人間の在り方を説けるほど高尚な人格は持ち合わせていないが、それでも野次馬連中の在り方は間違っていると断言できる。なぜ誰も彼もが傍観する。困っている人間が目の前にいるのに手を差し伸べない。動こうとしない。今、確かに俺は憤っている。だが、それは義侠心ゆえにではない。日本がエリア11になった理由を垣間見た気がしたからだ。ロスト・クリスマスや神聖ブリタニア帝国だけのせいではなく、日本人が事態を受け入れて傍観するのみしかしなかったからこそ、未だに日本はエリア11として支配を受けているのではないのか。
しかし、何かを変えるために動けと世間一般に言ったところで難しいことは今までの経験で理解した。悲しいが民衆とはそういうもので、生活が辛くてもいずれは順応して幸せを見出だすのが人間だ。それこそが人の強さだと知った風な口ぶりで語る人もいる。が、俺にしてみれば、それは妥協でしかなくて、人の弱さに他ならない。ならば。民衆が自ら動かぬというのであれば、きっとそれを扇動する役割を担う者が必要なのだ。
動かない野次馬連中を見て確信する。
そして、その役目を担うのは俺なのだ。まずは王が動かねば誰も後に続くまい。
ルルーシュ「おい、大丈夫か!」
建物に頭から突っ込み完全に停車しているトラックの運転席に向かって呼び掛けるが反応はない。もしかするとドライバーは中で意識を失っているのかもしれない。少し下がってトラックを見回すと、トレーラーの上部が開いているのを見つける。そこからならば車内に声も通りやすいのではないかとトレーラーの横に備え付けてあった梯子を昇り、再び「大丈夫か」と呼び掛ける。
しかし、返事は思わぬ形で返って来た。
突然、勢いよく車がバックする。
ルルーシュ「うわっ!」
あまりの速度で急発進したものだから、体を大きく揺さぶられて、僅かに開いていたトレーラーの隙間から中に落ち込んでしまう。
バック。そして、横Gがかかる感覚があって、今度は体を後ろに引かれる感覚。
察するに、車は再度公道に出たようだ。体感から得られる推定速度からすれば暴走車輌と呼んでも差し支えないだろう。
なんなんだ、これは!
只事ではない何かを感じて、改めてトレーラーの中を見回す。すると、探すまでもなく不振な代物が目に止まった。等間隔で円柱状の突起物が生えているドーム状の機械。初めて見るような造りの代物で、これが何に用いられるものか分からない。だが、直感的に物々しい雰囲気を感じて、不用意に触れることを躊躇わせた。
ルルーシュ「内側にも梯子を付けておけよ」
外へと脱出を図ろうとしたが、コンテナの内部に梯子は見当たらない。
しかし、このまま暴走車に乗車しているのは身の危険を感じる。また事故に遭われでもしたらたまったものではない。次は俺も巻き添えを食うことになるのだ。
なんとか外に出られないものかと策を練ろうとした矢先、「警告する!」と拡声器のようなもので増幅された鋭い声が耳に届いた。
「警告する、今ならまだ弁護人をつけることが可能である! 直ちに停車せよ!」
声があって、すぐに重たい銃撃音。コンテナの中で何が起こっているのか確認できないが、おそらくは銃撃をかわそうとして車が蛇行運転をする。ぐらり、と車体が左右に揺れて、無様にも車内を転がってしまった。いくら日本がブリタニアの属領になったとはいっても、治安維持が本来的な役割である警察が気安く銃撃できまい。そんな横暴は許されない。だから、もしも許されるとしたら、ブリタニア軍の……それも皇族直轄のような、ある程度の越権行為を認められた集団くらいのものだ。
ルルーシュ「出るのはやばいな。なんかヤバそうだし。携帯で……」
それこそ警察に繋ぐなりして身の安全を確保せねばと考えていると、不意にトラックの運転席とコンテナを隔てる扉が開く音がした。咄嗟に先程危険を感じたばかりのドーム状の物体の影に見を隠す。背に腹は代えられない。
カレン「麻布ルートから地下鉄に入れる」
姿を現した赤毛の女が目尻を鋭くしながら仲間に声を飛ばす。
「カレン! ここでアレを使ってしまおう!」
無線機越しに聞こえる声。
……アレ?
カレン「それじゃ虐殺よ!」
女の怒ったような声。それに対して無線機の主は「それもそうだな」と気弱な返事を返す。
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