【ラブライブ!】凛「K」 (51)

凛「小さなシグナルりんりんりんがべー♪」スタスタ

ヒソヒソ ヤダクロネコダヨアレ ブキミネー キミワルイワー

凛「……」

凛「…聞こえなーいー、フリしてーもー…」

ウワコッチミタ ナンダアイツ アッチイケアッチイケ

凛「…鳴り続けましたー……」

ヒュンッ!

凛「いたっ!…」

男児A「やった!当たった当たった!」

男児B「気味悪い黒猫め、あっち行け!」

凛「…ふんだ、凛はこのくらい慣れっこだもん」

凛「…このくらい…うっ、ひっく、ぐすん…」トボトボ

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―――

にこ「…はあ…それであんたそんな怪我してきたわけ?呆れたわ…」

凛「だって、だってえ…!」

にこ「あのね凛、人間たちはみんな私たち黒猫のことを忌み嫌ってるわけ」

にこ「不幸の象徴とか何とか言ってね」

凛「…体が黒いのってそんなにいけないことなのかなあ…?」

にこ「そういうんじゃないわ、ただ人間にはこのにこにーの魅力も、あんたのかわいいところも全然わかんないってことよ」

にこ「あんたが気に病む必要も、人間にゴマすってやる必要もないの」

にこ「…だから…いい?これに懲りたら、大通りのほうになんて近寄らないこと」

にこ「次また怪我でもしたらあんたが大変だもの」

凛「…わかったよねこちゃん…」

にこ「にこよ!てかあんたも猫でしょ!」

―――

凛(…にこちゃんはああ言ってたけど…)

凛(なんていうか…やっぱり憧れは捨てきれないんだよね)

絵里「今日は亜里沙に何かお土産でも買っていこうかしら…」スタスタ

凛(わあっ、きれいな人…!スカートもよく似合ってるし…)

凛(…だけど野良猫で、メスなのに女の子っぽくなんか全然ない凛にとっては…)

凛「結局、憧れは憧れのまま、なんだよねえ…」

男児A「あっ、黒猫だ!」

凛「!」

男児B「やっつけろー!」

凛「…っ!」ダッ

凛(大通りや商店街に繰り出して、翻るスカートやかわいい猫用の衣装を見にきては、誰かに石を投げられる…)

凛(ただ黒いからというだけで―――そんな日常の繰り返し)

凛(…凛だって本当は…もっとかわいくしてみたいのに)

凛(泣き虫で強がりなだけの凛には…そんなこと許されないのかな)

凛「…ぐすん」


花陽「…あれは…猫さん?」

―――

男児A「見つけたぞ、こんなところまで逃げやがって」

男児B「かわいくないやつめ…観念しろ!」

凛(かわいくない…)

凛「ぐすん…」プルプル

花陽「…ねえ君たち、黒い猫さんは悪魔の使者なんだよね?」

男児A「そうだよ!だからやっつけてるんだ」

男児B「ていうか、おねえちゃん誰?」

花陽「あ、たまたま通りすがっただけなんだけど…」

花陽「…でもそれならさ、悪魔の使者さんをやっつけちゃったら、もっと怖い悪魔さんたちが二人のもとにやってきて…」

花陽「―――君たちのこと、ぱくりって食べちゃうかもね?」

男児A「えっ」

花陽「ほら、その証拠に―――」

凛「フシャーッ…!」

花陽「―――猫さん、こんなに怒ってるよ?」

男児B「ひっ…き、気味悪い!帰ろうぜ!」

男児A「そっ…そうだな!」

花陽「…ふう、なんとか切り抜けられたね」

凛(…この子、一体…?凛のこと、助けてくれたのかにゃ…?)

花陽「こんばんは黒猫さん♪私たち…よく似てると思わない?」ヒョイッ

凛(ひえっ!?だだだだ抱きかかえられてる!?)

―――

『ヒソヒソ ヤダクロネコダヨアレ ブキミネー キミワルイワー』

『ウワコッチミタ ナンダアイツ アッチイケアッチイケ』


男児A『やった!当たった当たった!』

男児B『気味悪い黒猫め、あっち行け!』


にこ『あのね凛、人間たちはみんな私たち黒猫のことを忌み嫌ってるわけ』

にこ『不幸の象徴とか何とか言ってね』

―――

凛「―――っ!」ガブッ

花陽「痛ぁっ!!」

凛(ごめんなさい、ごめんなさい、助けてもらったのに…っ!)ダダッ

凛(だけど、凛…やっぱりまだ、信じられなくて…っ!!)



凛「はぁっ…はぁっ…はぁっ…はぁっ…」

凛「…もう、追ってこない、よね…?」


凛(…悪いことしちゃったかな…)

凛(とりあえず、にこちゃんのところに戻って―――)ヒョイッ

凛「―――!?」


花陽「はあ、はあ、はあ…っ、やっと追いついたあ…」

凛(この子…凛のこと、わざわざ追いかけて…!)

花陽「もおー…いきなり噛みついたら痛いよお…えへへ」

凛「…!」

―――

花陽「着いたよー、ここが花陽のおうちですっ!」

凛「にゃー…」

凛(おっきいにゃあ…)

花陽「今日からここで一緒に暮らそっか!」

凛「……」

凛(この子、悪い子じゃなさそうだし…それに、どうせ逃げてもついてくるし)

凛(ここで暮らすこと自体は、別にいやってわけじゃないんだけど…)

凛(―――にこちゃん、大丈夫かなあ…?)

―――

花陽「あなたのお部屋はここね、えーっと…」

凛「?」

花陽「うーんと…名前、どうしよっか?」

凛「にゃにゃあ…」

凛(りん、って呼んでほしいんだけど…どうしたら伝えられるかなあ…?)

花陽「うーん…黒いから黒米?いやでも、猫だから猫まんま…?うーんでも、顔に愛嬌があるからアルパカとか…?」

凛(…どっちにしろこの子に名前つけるのを任せるわけにはいかないにゃあ…)

凛(何かいいものは…あっ)

チリンチリーン

花陽「それって…首につけようと思ってた鈴付きの…」

花陽「スズ…いや、音読みにしてリン、とか…」

花陽「…うん、凛!凛って名前にしよう!」

花陽「凛ちゃん、これからよろしくね♪」

凛「にゃー♪」

―――

にこ「……」

凛「…にこちゃん」

にこ「凛、こんな遅くまで何してたわけ?」

凛「それはその…えっと…」

にこ「……!」

にこ「…ふうん、あんなに怖がってびくびくしてたくせに…」

にこ「結局人間のほうが好きなのね、あんた」

凛「な、なんでそんなこと…!」

にこ「その首輪見たらわかるわよ…飼い猫になったんでしょ、あんた」

凛「にこちゃん、でもこれは…!」

にこ「うっさいわね、そんなに人間が大好きならそっちで幸せに暮らしたらいいじゃない!」

にこ「…私は私で、これからは一匹でやっていくから…じゃあね、凛」

凛「にこちゃんっ!」

にこ「……」ダダッ

凛「あっ―――」

凛「…にこちゃん…」

―――

花陽「もうすっかり春だねえ…凛ちゃん」

凛「にゃあー…」

凛(ぽかぽか陽気があったかいにゃー…)

花陽「えへへー…」カキカキ

凛「…!」プイッ

花陽「ああっ!今せっかくいい表情してたのになあ…」

凛(猫に表情も何もないにゃ…まったくっ)

凛(…凛、真っ黒いし、毛並みだって綺麗じゃないし…女の子っぽくもかわいくもないのに)

凛(この子、いつも勝手に凛のことスケッチブックに描こうとしてくる)

凛(…凛のことなんか描いたってしょうがないのに)

―――

穂乃果「かーよちゃーん!」

花陽「あ、穂乃果ちゃん!久しぶり~」

穂乃果「えへへ、たまたま通りかかったから挨拶していこうかなあって思って!」

花陽「そうなんだ、嬉しいなぁっ」

穂乃果「えと、それで…最近、絵の調子はどう?」

花陽「……」フルフル

穂乃果「うーん、そっかあ…」

花陽「…最近ね、思うんだ…やっぱりアイドル目指す道、諦めるべきじゃなかったのかなあ…って」

穂乃果「かよちゃん…」

花陽「ちっちゃいころから、ずっとアイドルに憧れてきたけど…私、声も小さいし、自信もないし…」

花陽「…穂乃果ちゃんたちはそれでも引っ張っていこうとしてくれてたけど…もう一歩、踏み出すことがどうしてもできなくて」

花陽「あの時、背中を押してくれる誰かがいてくれたら、違う未来があったのかも、なんて…」

穂乃果「…今からでも間に合うよ、もう一度アイドルやろう?かよちゃん!」

花陽「…あ、ま、待って穂乃果ちゃん!…確かに後悔はしてないわけじゃないけど…でもっ」スッ

穂乃果「…この絵…黒猫?」

花陽「そう…私、売れなくても、夢がかなわなくても…今、やりたいこと、見つけたから…!」

穂乃果「へえ…すっごい上手!…あっ、あそこにいるかわいい猫さんがそれ?」

凛「っ!」ビクッ

穂乃果「ありゃ、逃げられちゃった…?」

花陽「あはは…ちょっと人見知りなんだ、あの子」

穂乃果「そうなんだあ、似た者同士だね、かよちゃんと!」

花陽「…穂乃果ちゃん、それ褒めてるの…?」

穂乃果「えーっ!?褒めてるよー!」


凛「……」

凛(…あの子、アイドルになりたかったのを挫折して絵描きに…)

凛(…凛と違ってあんなにかわいいんだもん、アイドル…なれたと思うのにな)

凛(もったいない…)


穂乃果「それじゃあこの猫さんの絵、一枚もらっていこうかなー♪」

花陽「いいの!?ありがとー、穂乃果ちゃんっ!」

―――

希「この絵と、この絵と…この絵ください!」

花陽「はーい♪」

希「代金は…ほいっと!」

花陽「いつもありがとう、希ちゃん♪…くしゅっ」

希「かよちん、風邪?無理はあかんよ?」

花陽「あ、ううん…大丈夫大丈夫」

花陽「ただ…やっぱり売れ行き、あんまりよくなくって…」

希「うーん…黒猫の絵はスピリチュアルなパワーを感じるからウチは大好きなんやけど…」

希「やっぱり、世間的には不幸の象徴やし、その子の絵にこだわりすぎるのもよくないんやないかなあ」

花陽「…だけど私…こんなにも描きたい!って思わせてくれた子はあの子しかいなくて」

希「かよちん…」

花陽「…たぶん、模写するときにあんなに力が入っちゃうなんてこと、他にはお米を描こうとしてるときぐらいしかないかなあ、なんて…」

希「あはは…それだけのこだわりなら、ウチからもあんまりしつこく言えないね…」

希「…でも、アイドルと同じ…常に受け手のことを考えてやっていかないと、商売運は逃げて行ってしまうで?それだけは忠告させてもらうよ、かよちん」

花陽「そう…だよね、うん…ありがとう、希ちゃん」


凛(周りからはかよちゃん、とか、かよちん、って呼ばれてるのか、あの子…)

凛(凛を、描きたい、って…)

凛(…どうして、そこまで…?)

―――

絵里「…花陽ー、調子はどうー?」

花陽「あ、絵里ちゃん…けほけほ、来てくれたんだ…けほっ」


凛(あ、あの人…いつかに街で見た…)

凛(かよちん、知り合いだったんだ…)


絵里「もうっ…希にも言われたんじゃないの?無理はいけないって」

花陽「無理なんかしてないよお…けほけほ」


凛(…お金、全然ないから…かよちんは栄養が不足してるんだにゃ…)

凛(凛を描くことにばかりこだわって…全然収入もなくて…)

凛(かよちん…かよちんって子は本当に…!)


絵里「…あの子も心配そうな顔してるわよ、ペットにまで心配かけさせてどうするのよ」

花陽「えへへ…ごめんね凛ちゃん、大丈夫だから…安心してね」

絵里「…花陽、あなたが何を飼って何を描いて何を売ろうと、それはあなたの自由だし…私が口出しするつもりはないけれど」

絵里「…でも、それで体調を崩してしまうのであれば話は別よ」

絵里「あなたの感性を否定する気はないし、私だってあの子はかわいらしいと思うけれど…」

絵里「…はっきり言うわ…売れない絵を描き続けていたって、あなたが破滅してしまうだけよ…そんなの見てられない」

花陽「絵里ちゃん…」

絵里「世の中には探せば…もっと万人受けする美しいものや輝かしいものがあるはずよ」

絵里「それか…絵にこだわらなくたって、やれることはたくさんあるわ」

絵里「…花陽、もう一度…考え直してみて」

花陽「……」


凛(凛が黒猫でさえなかったら…)

凛(もっと毛並みがきれいで、まっ白くて、女の子っぽくて、かわいかったら…)

凛(かよちんだってもっと楽できたはずなのに…)

―――

海未「わあ…!」キラキラ

凛「……」

海未「はあ…!」キラキラ

凛「……」

海未「ああ…!」キラキラ

凛「…にゃー…」

海未「ああ!花陽!鳴きましたよ!今!にゃあと!」

花陽「そ、そうだね…海未ちゃん、凛ちゃんのこと気に入ったの?」

海未「はい、それはもう大変に!とってもかわいいです…!」

花陽「そ、そっかあ…よかったね凛ちゃん♪」

凛(…よくないにゃあ…可愛がってくれるのはいいけど、ちょっと極端すぎるよー…!)

海未「……」キラキラ

凛(…じっと見つめてきてべたべたして離れなくて…ちょっとうっとおしいかも…)

海未「花陽」

花陽「? なあに、海未ちゃん?」

海未「この子にぴったりの名前を思いついたのですが…名前をつけてもいいでしょうか?」

花陽「名前?でもその子には凛ちゃんって名前が…」

海未「あ、いえ、その!…なんというか、あだ名というか、二つ名というか、称号というか…そんなものです」

海未「飼い主のつけた名前を改称してくれなんていうほど、私も図々しくはありません」

花陽「そっか、それならいいかも…あっ、凛ちゃんはどう思う?」

凛(二つ名なんていらないんだけど…でも…)

海未「……」キラキラ

凛(こんな目で見られると弱ってしまうにゃあ…)

花陽「…いいよって言ってるみたいだよ?海未ちゃん」

海未「本当ですか!では遠慮なく…」

凛(…少しくらいは遠慮してほしいかも…)

海未「…もう聖夜も近いことですし、Holy nightというのはどうでしょうか?」

海未「聖なる夜に鳴り響く、鈴の音色…」

海未「…ぴったりだと思ったのですが…」

凛(横文字はちょっとなあ…)

花陽「おお…ぴったりかも!」

凛(ええっ!?)

花陽「かっこいいと思うよ、私は!なんていうか、凛ちゃんにぴったり!」

凛(……)

花陽「凛ちゃんもそう思うよねっ?」

凛(…むう…)

凛(…かよちんが言うなら…それもあり、かな…?)

花陽「じゃあ決定、凛ちゃんの二つ名はホーリーナイトだね!」

―――

花陽「…今日は星空が綺麗だねえ…」

凛(本当だー…)

花陽「…ねえ凛ちゃん」

凛「…?」

花陽「私ね…遠くに置いてきちゃった、大事な大事なお友達がいるの」

凛「……」

花陽「その人は…歌と、天体観測が好きで…私の歌も、すごく上手だって言ってくれて」

花陽「今も…きっと同じ空を見ながら歌を歌ってるんだと思うんだ」

凛(…かよちんには…もうとっくに、凛よりももっと大事な人がいたんだ)

凛(…なんだろう、この感じ…?)

凛(さみしい、とも、悲しい、とも…似てるけど、違う、この…胸がじんってする感じ…)

花陽「歌、一緒に歌い続けて…二人で有名になるまで頑張らないか、なんて誘われたんだけど…」

花陽「…私、自分に自信がなくって…断って…」

花陽「…それで、趣味を仕事にできたら、私も少しは自信が持てるかなあ…なんて思ってね、だから私…」

花陽「あの子とよく遊んでた地元を飛び出して…こんな遠くまでやってきたんだ」

花陽「…無謀だって言う彼女の制止も…聞かないで」

凛(……)

花陽「いつか…謝らないといけないよね…勝手なことしちゃってごめんね、って…」

凛(かよちん…)

花陽「…でも、だけど…そうしてなかったら私は、今こうして凛ちゃんと会うこともなかったんだよね」

凛「…!」

花陽「こういうの、星の巡り合わせ…って言うのかな?…なんてね…♪」

―――

花陽「はいどうぞ凛ちゃん♪今日のごはんは奮発してラーメンにしちゃったよーっ♪」

凛(ラーメン…?)

花陽「…あ、やっぱり初めて見る?そうだよねえ、ずっと野良猫だったもんね」

花陽「おいしいよ?食べてごらん?」

凛(確かにおいしそうだけど…細い糸みたいなのがいっぱい…)

凛(本当に食べられるのかなあ…?)パクッ

凛「……!」

花陽「どお?おいしい?」

凛(美味しい美味しい!すっごく美味しいにゃ!)ニャー

花陽「わあ、すっごい嬉しそう…!よかったあ、お口にあったみたいで」

花陽「ラーメンもおいしいけど、おにぎりもおいしいんだよ!今度作ってあげるから、そっちも食べてみてね♪」

凛(おにぎり…?)

凛(…ああ、いつもかよちんが描いてる絵のあの白い三角のやつか…)

凛(いくら好物だからってあんな絵ばかり描いてても仕方ない気もするにゃ…)

―――

花陽「~♪」

凛(…またお米描いてる…)スタスタ

花陽「あ、凛ちゃん!花陽の絵を見に来たの?」

凛(まったくかよちんは…凛の絵かお米の絵しか描いてるの見たことないにゃ…)

花陽「いつでもーそばーにいるんだけどー♪ともだちーそれーだけねー♪」

凛(…本人は楽しそうだけど)


凛「…?」

凛(…なんだろう、この絵…初めて見るにゃ…)

花陽「…ああ、それ?…この間話した、遠くに置いてきちゃった、大事な大事なお友達の絵…」

凛(こっちがかよちんで…こっちの、赤い髪の子がその子かあ…)

花陽「でもそれ、実はまだ途中なんだあ…本当は真ん中にね、凛ちゃんを描き入れようと思って」

凛(…?凛を、二人の間に…?)

花陽「…真姫ちゃんにも、新しい親友の―――凛ちゃんのこと、紹介してあげたかったんだけど…」

花陽「もうそれは…できそうにない予感がしてるから」

凛(え…?それって、どういう―――…)

花陽「えへへ…なんだか辛気臭い話になっちゃったかな」

花陽「お腹すいてきちゃったし…そろそろごはんにしようか」

凛(かよちん…)

―――

花陽「うっ…げほっ、げほっ、げほっ!!」

海未「花陽!」

絵里「花陽!?」

希「かよちん!」

穂乃果「かよちゃんっ!」

花陽「はぁっ、はぁっ、はぁっ…げほげほっ!」

花陽「ご、ごめんね…みんな…最近は結構、容態安定してると思ってたんだけど…げほっ」

花陽「はぁ、はぁ…またぶり返してきちゃったかなあ…げほげほっ」

絵里「花陽、喋らないでいいから!おとなしく寝てなさい」

海未「絵里の言う通りです、これ以上悪化したら大変なことになりますよ」

穂乃果「かよちゃん…やっぱり無理してたんでしょ?前会った時よりほっそりしてるし…」

希「ウチらかて金持ちやないけど、食べ物分けてあげるくらいできたのに…なんで頼ってくれへんかったんよ!」

花陽「ご、ごめんね…みんなに迷惑かけたくなかったし、それに…げほっ」

花陽「…真姫ちゃんに、もう私は一人でも生きていけるから、心配しないで、って…いつかそう伝えたかったから…」

海未「花陽…」

絵里「…だとしても理由になってないわよ…花陽はなんでもかんでも一人でしょい込みすぎだわ」

花陽「えへへ、ごめんね…みんな」

凛(…やっぱり凛のせいだ)

凛(最近あんまり咳もしてなかったし、具合悪そうにしてることもなかったけど)

凛(それでも…貧しい生活に変わりはなかった)

凛(そんな中で毎日餌をもらって…たくさん愛されて…時には奮発したご馳走までもらっておいて)

凛(…なのに凛は…かよちんの役に立てたためしが一度だってない)

凛(凛がもっとかわいかったら…不幸の象徴なんかじゃなかったら)

凛(…そしたら…せめて売れる絵のモデルとして…かよちんを助けてあげられたのに)

海未「―――」

穂乃果「―――」

絵里「―――」

希「―――」

凛(…かよちんには…話も合う、気もいい…そんなお友達が四人、ううん…五人もいるんだから)

凛(かよちんに迷惑をかけるだけの凛は…もう、必要ないよね)

凛(…いや、たとえかよちんに必要とされているんだとしても―――)

凛(―――…きっと凛は野良でいるほうが、かよちんを傷つけずに済むんだ)

凛(にこちゃん…どうしてるかな…?)

―――

にこ(にっこにっこにー♪みんなのアイドルにこにーでーっす♪)

ことり「きゃああああ~~~かわいいーっ!♪にこちゃん、今のしぐさもう一回ー♪」

にこ(えーっ?仕方ないなあー、よーく見ててよー?せーのっ)

にこ(にっこにっこにー♪あなたのハートににこにこにー♪笑顔届ける―――)

ことり「やっぱりそれすっごくかわいいよおおおー♪♪ことりの作ったアイドル風猫用衣装もよく似合ってるー!」ギューッ

にこ(ぐえええ、そんなに抱き着かれたら苦しいってえええ…!!)ジタバタ


凛「……」ジーッ

にこ「…!」ハッ

ことり「はあ…にこちゃんかわいいなあ…あっそうだ!あそこのお洋服屋さんでもっと似合いそうな服が売ってるかも!探してくるねっ!」


凛「…にこちゃん、何やってるにゃ?」

にこ「う、うるさいわね!たまたま拾われちゃっただけよ…そう、たまたま!」アセッ

凛「…にこちゃん、一人で生きていくって言ってなかったっけ…?」

にこ「ううううるさいわねっ!宇宙ナンバーワンアイドルにこにーに、いわゆるジャーマネの一人もいないなんてありえないでしょっ!」

凛「…じゃあつまりさっきの子はにこちゃんのマネージャーさん…?ちょっと苦しくないかにゃ…」

にこ「なっ、なによ!先に私を裏切ったあんたに人のことが言えるわけ!?」

凛「なっ…!凛は別に裏切ってなんか…!」

凛「それに凛、もう飼い猫はやめたんだよ!これからはもう一度野良に戻って――!」

にこ「口では何とでも言えるわよ!でもその首輪…まだあんたが人間好きの飼い猫なんだっていう動かぬ証拠でしょ!」

凛「そっ、それは…!」

―――

チリンチリーン

花陽『それって…首につけようと思ってた鈴付きの…』

花陽『スズ…いや、音読みにしてリン、とか…』

花陽『…うん、凛!凛って名前にしよう!』

花陽『凛ちゃん、これからよろしくね♪』

凛『にゃー♪』

―――

海未『…もう聖夜も近いことですし、Holy nightというのはどうでしょうか?』

海未『聖なる夜に鳴り響く、鈴の音色…』

海未『…ぴったりだと思ったのですが…』

―――

凛「…っ」

にこ「…とにかく、一度人に養われて…温もりってものを知った猫はもう野生には還れない」

にこ「あんたも、私も…もう別々の道を歩んでるのよ、とっくにね」

凛「にこちゃん…」

にこ「…わかったらさっさとあんたの家に帰りなさい…今は心配してくれるご主人様がいるでしょ、お互いにね」

凛「……」

ブチッ!

カランカラン…

にこ「ちょっ…凛!?その首輪…」

凛「凛はもう…おうちには帰れないよ…」

にこ「凛…?」

凛(確かにかよちんなら凛のこと…心配してくれると思う)

凛(でも…だからこそ…これ以上迷惑かけないうちに―――)ダッ

にこ「ちょっと凛!?どこ行くのよ!どうして首輪置いていっちゃうわけー!?」

ことり「にこちゃんおまたせー!…あれ?その首輪は?」

―――

凛「はあ…はあ…はあ…」

凛(だいぶ走ったなあ…もうすっかり夜だ…)

凛(…あれ?ここって…かよちんと初めて会った場所…?)

―――

花陽『こんばんは黒猫さん♪私たち…よく似てると思わない?』ヒョイッ

―――

凛「……」

凛(凛はかよちんみたいに友達もいないし…かわいくもないし…全然似てなんかいないよ…)

凛(…にしても…)

凛(今日の夜も…星が綺麗だにゃあ…)

凛(かよちんと一緒に見た…あの夜と同じで…)

凛(……)

凛(かよちん…)

―――

花陽「はあ…はあ、はあ…ごほ、げほっ…」

花陽「凛ちゃーん…どこ行っちゃったのー…?凛ちゃーん…」

花陽「…ふふ、それにしてもみんなも大げさなんだから…まるで私が死んじゃうみたいに言って寝かしつけようとして…」

花陽「…確かに私、まだ具合悪いけど…凛ちゃんを探すことくらいできるもん…」

花陽「それに…私が…私が見つけてあげないと…凛ちゃん、人見知りだから…げほっ!げほげほ…っ、っげほっ…っ!」

花陽「はあ…わざわざみんなに内緒で抜け出してきたからには…絶対、凛ちゃんのこと連れて帰らなくちゃ…」

花陽「どうしていなくなっちゃったかわからないけど…凛ちゃんには、私がついていなくちゃ…!」フラフラ

花陽「…っ!」ガクッ

花陽「はあ…はあ…凛…ちゃん…!」


ことり「…あっ、あの…だ、大丈夫ですか…?」

花陽「ふぇ…?あ、ああ…えと…だ、大丈夫…」フラッ

ことり「わわっ!」ガシッ

花陽「あ、あれれ…あの、ありがとうございます…」

ことり「…あの…ほんとに大丈夫ですか…?すごくふらふらしてるみたい…よかったらうちでお休みしていってください」

花陽「ううん…だめです、気持ちは嬉しいけど…私、飼い猫を探さないといけないから…」

ことり「飼い猫…?」

花陽「はい、げほっ、真っ黒くて、鈴のついた首輪をしてて…すっごくかわいい子なの」

ことり「鈴のついた首輪…それってもしかして、これのことですか?」

にこ「にゃあー!」チリンチリン

花陽「あっ!…げほげほっ、そうです、それっ…!」

花陽「…でも、壊れちゃってる…どうして…」

ことり「そうだったんですか、あなたの…」

ことり「…ちょっと待っててください、すぐに終わりますから!」

花陽「えっ!?」


ことり「…はいっ、お待たせしました!」

花陽「…え、ええっ!?ま、まだ5分もしてないのに…首輪が完璧に直っちゃった…」

ことり「えへへ、ことり、こう見えてお裁縫とか得意なんですよー♪」

花陽「はわわあ…ほんとにすごい…」

花陽「げほっ、あ…そうだ!よかったらこれ…お礼にどうぞ!」スッ

ことり「これは…猫さんの絵…ですか?」

花陽「はいっ!げほげほっ、拙いものだけど…私が描いた絵です!…その、よかったら」

花陽「…あ、け、けど、お気に召しませんか…?貧乏なもので、これくらいしか差し上げられるものがなくて…」

ことり「ううん、そんなことありません!すごくかわいいですっ!…ありがとうございます♪」

花陽「えへへ…よかった――」

花陽「…っ!げほっ、げほげほっ…ごほっ、ごほっ!」

ことり「わっ…だ、大丈夫ですかっ!?お、お医者さんに診てもらったほうが…!」

花陽「い、いえ…大丈夫です、この街にはいないけど…名医を知ってますから」

ことり「ほ、本当に…?」

花陽「はい、だから大丈夫…げほっ」

花陽「あの…首輪、ありがとうございました!」

ことり「ああっ、行っちゃったあ…本当に大丈夫なのかなあ…?」

―――


花陽「凛ちゃーん…?おーい凛ちゃーん!どこー!?…げほっ、ごほごほっ、げほっ!」


凛「あれは…!?」

凛(かよちん…!?どうしてこんなところに…!)ダッ


花陽「…はあ、はあ…凛ちゃん…どこに…いっ…ちゃっ…たの…」ドサッ

チリンチリーン…

凛「…!」

凛(これ…凛の首輪…!?どうして…)

花陽「はあ…はあ…あれ…?凛ちゃん…」

花陽「えへへ…よかったあ…見つかって…」

凛(よかったあ…じゃない…!どうしてこんなふうにぼろぼろになるまで…!)

花陽「この首輪ね…?げほっ、途中で会った親切な人が…すごいスピードで直してくれちゃったんだあ…」

花陽「はい、凛ちゃん…もう一度つけて―――」

凛「…っ!」フルフル

花陽「凛ちゃん…い、嫌だった…?」

凛(だって…だって、凛がかよちんのそばにいると、かよちんは…!)

花陽「…もしかして、凛ちゃん…自分のせいでこんなことになったんだー、なんて…思ってない?」

凛「…!」

花陽「もしそうだとしたら…それは違うよ?…こんなこと言いたくないけど、凛ちゃんの絵は…売れないことくらい、本当はよくわかってた」

花陽「この街のほとんどのみんなからは…凛ちゃんは、ううん…黒猫は不幸の象徴だから…」

凛(ならどうして…!)

花陽「…どうしてなのかは…自分でもはっきりとはわからないけど、とにかく『かわいい!』『描きたい!』って…そう思ったんだよね…」

凛(え…たった、それだけで…ここまで…?)

花陽「…希ちゃんが言ってたんだ」

花陽「特に理由なんて必要ない、やりたいからやってみる…本当に好きなことって、そうやって始まるんじゃない?…ってね」

凛(やりたいからやってみる…それだけで、凛のことばっかり…)

花陽「そもそも、いくらお金のためだとしても…描きたくないものを描いてても、全然楽しくなんかなかったんだ」

花陽「そんなものが売れるとも思えなかったし…だから、どうしても凛ちゃんの絵を描いて、それをいろんな人に認めさせてやるんだー、って」

花陽「…もしかしたら、意地になってたのかも…えへへ」

凛(かよちん…)

花陽「黒猫を描きたいと思ったことが悪いんじゃなくて…ただ、私がみんなに絵を認めさせてあげられなかっただけ」

花陽「だからとにかく…凛ちゃんは絶対!悪くなんかないよ」

花陽「それどころか…ここに来てから一人だった私を支えてくれた」

凛(…かよちんが?一人…?)

花陽「もちろん海未ちゃんたちは大切なお友達だけど…みんな忙しくて」

花陽「たまには頼ることもあったけど…でも、私は積極的になれなくて」

花陽「勝手に…どこか壁を感じてたのかも、なんて」

凛(それで、凛とかよちんが似てる、って…)

花陽「…っ!っあ…っ!げほっ、げほっ、げほげほっ、げほっ!ごほっ…がはっ!」ビシャッ

凛(…かよちん、血が…!)

花陽「…うっ、はあ、はあ…少し収まってきたかなあと思ってたんだけどね…げほげほっ」

凛(かよちん、もう喋っちゃだめ…!)

花陽「…凛ちゃん、できればあなたを連れ戻して…また一緒に過ごしたかったけど…」

花陽「やっぱり…叶わないお願いだったね…」

凛「…っ」

グイグイ

花陽「…凛…ちゃん…?」

凛(かよちんは…かよちんは、こんなところで死んじゃったらダメなの…!)

凛(凛…もっといっぱい、かよちんと一緒にいたいのに…!)

凛(もっと、優しくしてもらって…!もっと、いっぱい、凛のこと描いてほしくて…!)

凛(…だから…凛がかよちんをひきずってでも…!)

花陽「…凛ちゃん、ありがとう…げほっ、げほっ!」

花陽「…ねえ、私の最期のお願い…聞いて、くれないかな…?」

凛(最期になんか、しないってば…!)

凛(…はあ、全然動かないよお…!)

花陽「…真姫ちゃんに」

花陽「私の…大事なお友達に、この…手紙を」

凛(…前々から書いてたってこと…?かよちん、自分がもう、長くないのを悟ってて…)

花陽「…結局私、真姫ちゃんだけじゃなくて…穂乃果ちゃん、海未ちゃん、絵里ちゃん、希ちゃんにまで迷惑かけちゃって…」

花陽「さっきの人にも…それに、凛ちゃんにも…いろんな人に迷惑かけっぱなしで…ダメな子だよね…げほっ」

凛(そんなことない…ダメなのは凛のほう…)

凛(凛のことなんてほっといてくれたら…かよちんは…)

花陽「…凛ちゃん、私のこと…支えてくれてありがとう」

花陽「こんなにかわいい猫さんと出会ったの…生まれてはじめて…」

凛(かよちん…!?かよちんっ!)

花陽「もっと贅沢…させてあげたかった」

花陽「かわいいお洋服も…着させてあげたかったし…」

花陽「もっともっとおいしいもの…あなたに…あげたかった」

花陽「でも私…どうしても凛ちゃんの絵を…みんなに認めてほしかったから、それで意地張って…」

凛(……)

花陽「私…ほんとに、ダメな子だよね…ごめんね…」

凛(そんなことない)

凛(かよちん以外の飼い主なんて…凛には考えられなかったから)

凛(だから―――!)

花陽「こんな私のお願いでも…聞いてくれるなら…げほっげほっ」

花陽「凛ちゃん…ううん、ホーリーナイト」

花陽「どうか―――よろしくお願いします―――…」

凛(かよちん…?)

凛(かよちん…!かよちん!しっかりして、かよちん!!)

凛(……)

凛(…ほんとにバカなんだから…かよちんは)

凛(凛はみんなに認めてもらいたいなんて思ってなかったのに)

凛(ただ…ただ、かわいいって言ってくれる人がたったひとりでも欲しかっただけなのに)

―――

穂乃果『へえ…すっごい上手!…あっ、あそこにいるかわいい猫さんがそれ?』

希『うーん…黒猫の絵はスピリチュアルなパワーを感じるからウチは大好きなんやけど…』

絵里『あなたの感性を否定する気はないし、私だってあの子はかわいらしいと思うけれど…』

海未『はい、それはもう大変に!とってもかわいいです…!』

―――

凛(あ、いや…ひとりだけじゃないか)

―――

海未『…もう聖夜も近いことですし、Holy nightというのはどうでしょうか?』

海未『聖なる夜に鳴り響く、鈴の音色…』

海未『…ぴったりだと思ったのですが…』

―――

花陽『こんな私のお願いでも…聞いてくれるなら…げほっげほっ』

花陽『凛ちゃん…ううん、ホーリーナイト』

花陽『どうか―――よろしくお願いします―――…』

―――

凛(…わかったよかよちん)

凛(これがかよちんの…最期のお願いだっていうんなら)

凛(凛は全力で…今までの恩返しをしないといけないよね…!)パクッ

凛(行かなくちゃ―――っ!)ダッ

―――



凛(はぁっ、はぁっ、はぁ…っ)

凛(さすがにあれだけ走った後で雪山を越えていくのはさすがに厳しいにゃあ…)ザッザッ

凛(手足…赤くなってきてる)

凛(段々感覚もなくなってきて――)

凛(…凛、もしかしてこのまま、ここで―――)フラッ

男児C「喰らえ悪魔の使者めー!」ヒュンッ

凛(いったあ…っ!)ビクッ

男児D「不気味なんだよ黒猫め!お前みたいなのは雪山には似合わないんだ、さっさと帰れ!」ヒューン

凛(いたっ、いたいよぉ…たたでさえかじかんだ身体なのにぃ…っ!)ポロッ

凛(―――あっ)

男児C「…なんだあ?何か口から落としたぞこいつ!」

男児D「変なの!どうせどっかから盗んできた手紙だろ、いやしいやつ!」

凛(―――違う)

男児C「せっかくだから持ち主探して返してやろうぜ」

男児D「そうだな、猫が手紙持ってるなんてなんかおかしいし」スッ

凛(―――触らないで)

凛(触らないで、触らないで…!)

凛(それは…かよちんとの、最期の…―――!)

凛(―――っ!)

ガブッ!

男児D「いってええ!」

男児C「わっ!大丈夫かおまえ!?」

凛(今のうちに―――!)パクッ

男児D「こいつ…!よくも噛みつきやがったな!覚えてろよ悪魔!悪魔の使者めっ!」

凛(…ふんだ!そんなことはどうだっていいんだもん!)

凛(凛には…凛には、悪魔の使者でも不幸の象徴でもない…っ、もっと素敵な、キラキラ輝く)

凛(ホーリーナイトって名前があるんだもん…っ!!)

―――

花陽『こんな私のお願いでも…聞いてくれるなら…げほっげほっ』

花陽『凛ちゃん…ううん、ホーリーナイト』

花陽『どうか―――よろしくお願いします―――…』

―――

凛(……ちょっと引っかかってたんだ)

凛(どうしてかよちんは自分でつけた名前を否定して……海未ちゃんがつけた名前で最期に呼んだのか)

凛(きっとかよちんは自分がいなくなっちゃうときに一緒に凛って名前を否定することで)

凛(名前と一緒に自分への未練を断ち切らせようとしたんじゃないかって気が…なんとなくしてるんだ)

凛(もちろんそんなことでかよちんのことは忘れられない)

凛(だけど最期にかよちんは私をそう呼んだ)

凛(だから私は―――)

―――



凛(うぐ…げほっ、ごほっ、げほっ…)

凛(こういうの、死に体っていうのかなあ…もう体中ぼろぼろだあ)

凛(…どこだろう、ここ…振り向いてみても、私のいた街はもう全然見えない)

凛(雪山も川も荒地も草むらも越えてここまで来たけど…)

凛(…手紙に書いてある街ってここかな?)

凛(西木野総合病院…西木野総合病院…)テクテク

凛(…はあ…もう走る力もないや…病院、病院は…)フラフラ

クロネコガイルゾー ナニアレ? ボロボロジャン ギャクタイデモサレタノカ?

凛(うるさい…なにもかもうるさい…)

凛(私は…手紙を、届けなきゃ…なのに…)

凛(――――――…視界が、ぼやけてきた…)

凛(手も、足も、ちぎれ…そうで)

凛(もう、だめか…も…)


→西木野総合病院 10km


凛(…!案内看板……!)

凛(もうすぐだ…っ)グッ

凛(10kmなんて…今まで走ってきた道に比べれば…10kmなんて…っ!!)ダッ

―――

真姫「……」

真姫ママ「真姫、いつまでそこにいるの?冷えるわよ?」

真姫「…ほっといてよ、ママ…」

真姫ママ「…もしかして、花陽ちゃんが心配?連絡取ってないんでしょう」

真姫「…ばかよね、花陽…確かに絵もうまいけど、あの子にはもっとやりたいことがあったはずなのに」

真姫「もっともっと恵まれた才能があったはずなのに」

真姫「…今頃、どうしてるのかな…花陽」

真姫ママ「真姫…」

タタタタタタタタ

真姫「…?あれ、猫…?」

真姫ママ「本当だわ、大変…!ボロボロじゃない!」

真姫「えっ、ちょっ、こっちに来―――!」

ダッ!

真姫「わぷっ」ドサッ

真姫ママ「ちょっ…大丈夫、真姫!?派手に突き飛ばされたみたいだけど…」

真姫「へ、平気だけど…もう、一体なんだっていうのよー…!」

凛「……」ハァハァ

真姫「…!大変…ママ、この子今にも死んじゃいそうだわ!手当てしてあげないと!」

真姫ママ「そ…そうね、今救急箱持ってくるわ!」

真姫「しっかりして!こんなにボロボロになって…誰も助けてあげなかったなんてひどすぎる…」

ポロッ

真姫「…?これ、は…」ガサガサ

真姫「手紙…?嘘、花陽から…!?」

真姫「じ、じゃあ、この子は…!」

凛「……」

凛(かよちん…私…)

凛(凛…ちゃんと、手紙、届けられたよ…)

凛(だから、凛も、今から、そっちに…―――)



真姫ママ「救急箱持って来たわよ、真姫―――」

真姫「……」

真姫ママ「真、姫…もしかしてその子、もう…」

真姫「…たぶん、安心してそのまま眠っちゃったんでしょうね…」

真姫「行ったみたい…飼い主と…同じ、ところへ」

真姫ママ「真姫…」

真姫「ばかね…ぐすっ、好きなことには本当に頑固なの…死ぬまで変わらないなんて」

真姫「…それよりママ、お願いがあるんだけど」

―――

真姫「…手紙、届けてくれてありがとう…小さな黒猫さん」

真姫「それにしても…ホーリーナイトって手紙には書いてあったけど」

真姫「どう考えても花陽のセンスじゃないわよね…」

真姫「……」

真姫「そうね…それならもののついでだわ」

真姫「私が『今のあなたに』相応しいように」

真姫「もっといい名前をつけてあげるわね―――凛」


Holy k night


―おしまい―

凛ちゃん誕生日おめでとう!!!!!!!11111111!!!!!!!!!!!!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年11月07日 (土) 13:18:27   ID: 43gqTz__

泣いた

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