凛「お孫さんを私にください」卯月「凛ちゃん、何言ってるんですかっ」 (62)

前作
凛「……抱きしめるタイミング?」未央「うん」
凛「……抱きしめるタイミング?」未央「うん」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1445711746/)


うづりん
百合
なんでも来い人向け
前作との関連はありません






これは、カメラマンが撮ったライブの写メを現像したもの。
えっと、そっちは、打ち上げの写真だっけ。
誰か、一眼レフを持ってきていたんだ。
乱雑に並べられたお皿が、やたら高画質で映っている。
街灯がぼやけた写真。
未央に無理やりやらされたらしい、プロデューサーの変顔。
プロジェクトのみんなの泣き顔。
そして、卯月の笑顔。

写真なんて、普段見返す方じゃない。
たまたま、卯月が私の家に来て、
アルバムが見たいなんて言い出すから。
それを出しっぱなしにしていたせいで、
こうやってまた彼女の写真を見返す羽目になる。

冬の舞踏会から数日経って、夜に二人で海に出かけた。
誘ったのは私だ。
割れた青いポリタンクとか、
砂浜にうずもれたビール瓶とか、
おとぎ話とかでよくある大きな貝とか、
そういうのに、二人でちょっとはしゃいでいた。
彼女がいたからだ。
いつもは、もっと、クール。
なはず。
気晴らしだった。
特に何もなかった。
ちょっと、遊んだだけ。
すぐに帰った。
惜しいことをしたのかもしれない。

彼女は一時期、基礎レッスンに凄く打ち込んでいたことがあった。
レッスンが好きだって。
でも、私は知っている。
不安が、彼女を駆り立てていたことを。
彼女が姿を隠す時は、だいたいそこだと思っている。
だから、
分からない。

未央が私の家に来て、
花を買って、
なぜか、それを私の部屋にあったペン立てに立てて、
それから話は始まった。

私は彼女の問いに、
こう答えた。

「分からない」

最近、卯月が夜な夜などこに行っているのか、誰も知らなかった。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1445966793

「変な噂があるの。しぶりんさ、聞いたことある?」

「なに? 知らない」

「しまむーが、男と……そのホテルに行ったとか……」

私は未央の手首を握りしめた。

「いた、いたいッ」

「あ、ごめん」

「ふー、ふー……」

「他にもあるの?」

「あるけど、何もしない?」

「うん」

「子どもがいて、こっそり育ててるとか……」

「なんでさっきから妙に生々しいのか教えて欲しいんだけど」

「タンマッ、いたッ、すごくいたいッ」

未央から手を離すと、彼女はお尻を動かして、私から少し遠ざかった。
私は呆れながら言った。

「見た人はいないのに、噂だけは一人歩きしてるわけだ」

「そゆこと」

未央が真剣な表情で頷く。

「プロデューサーはまだ気がついてないみたいだね」

「そうみたい。火のない所に煙は立たないって言うけどさ、火がある所に行っちゃってる可能性とか……」

「それを確かめるんでしょ、明日」

「う、うん」

「なに」

「じ、実は……仕事が急に入って」

「……」

私は、両手を合わせて謝る未央の頭部を見つめた。

「いいよ、もともと一人で行く予定だったし。任せて」

「ありがとうございます……」

眠すぎるので、寝ます
明日には終わると思います

屑百合豚はよ死 ね

期待

>>5
百合死ね先輩巡回御苦労様です

百合死ね先輩がきたってことは良スレだな

百合死ね先輩とか言う巡回探索労働者

うづりん大好き
支援

>>5
気持ち悪いと思ってんのか知らんが日本で同性婚が認められた時点で最早お前の感想なぞゴミだぞ、いや、ゴミの方が捨てられる分まだマシだなお前も早く世間から捨てられれば良いのに

前作は微妙だったけどどうなるかな

>>10
>日本で同性婚が認められた時点で

>日本で同性婚が認められた時点で

>日本で同性婚が認められた時点で

ニュースくらい読めよ
渋谷の条例の話だろ

凍結の可能性があるモノで、それを全国で認められたかのように語る時点でお察し

未央が帰った後、私は卯月へ電話した。
電源を切っているようだった。
一体、どこで何をしているんだろう。

枕を抱きかかえて、私はベッドでうずくまる。
別に、卯月のプライベートだから、
卯月の好きにすればいいわけだけど。

「……」

帰り道はいつも一緒だったから、
『寄る所があるので』が連続して続くとさすがに気になる。

次の日、昨日電話に出られなくてごめんなさい、と謝られた。

「何か用事でしたか?」

「ううん、大した用じゃなかったかな」

「?」

どうして電源を切っていたのか。
それについては言及しない。
というより、できない。
したいけど。
そこまで踏み込んでいいのか分からない。
電池が切れてただけかもしれない。
そんなことを一々干渉されるのは、自分だって嫌だ。

「あのさ、今日一緒に夕はん食べに……」

私は言った。

「あ、ごめんなさいッ。今日も、ちょっと寄る所が」

「そっか、だよね」

「また、今度行きましょうね」

「うん」

流された感じだね。

その後は、夜まで卯月と話すことはなかった。
昼の休憩で、小腹が空いて自販機にジュースを買いに行った時のこと。

「先輩」

言われて、振り向く。最近入ってきた子。名前はなんだったっけ。
一番最初に自己紹介をされて、それからこちらから話しかけることはなかったので、忘れてしまっている。
ただ、彼女からは何度か食事に誘われていた。

「なに?」

と返す。

「今日、夜良かったら一緒にご飯とかどうですか」

予想通りの言葉。

「ごめん、ちょっと卯月に用があるんだ」

「えー」

「別の子誘いなよ」

「先輩だから誘ってるんです。……卯月さんて、あの、噂の」

彼女は小声で言った。
私は彼女を見た。

「噂?」

私は何も知らない風を装う。

「夜に男と遊んでるって……なんか、幻滅ですよね」

幻滅。
あまり使ったことがない言葉なのか、
そこだけ舌たらずなのが、少し笑えた。

「ホテルに連れ込んでるの見た人がいるんですって」

「そうなんだ」

驚くことを期待していたのか、
彼女は、

「信じてないんですか?」

「信じろって言う方が無理あるよ」

「どうしてですか」

「それは……」

卯月だしね。

「アンタより長い付き合いだからかな」

その子は少しむっとした顔をした。
確か1歳下だったっけ。
大人びた子だと思っていたけれど、
噂好きなただの少女。
私は、内心で笑ってしまう。

「でも、卯月さんて甘え上手と言うか、年上の男性とかはころっと騙されちゃいそうですよねー。男の人って、ああいう胸とかお尻とかが大きい人が好きでしょうし」

「卯月が甘え上手?」

「はい」

外見だけで見ると、そう感じる人もいるのかな。
でも、彼女が一度だって素直に私たちに頼ったことがあったんだろうか。

「怖いですよね、女って」

そっくりそのまま言ってやろうかと思ったけれど、
後がめんどくさいので止めておいた。

夜。
卯月と待ち合わせて、事務所を後にした。
未央は名残惜しそうに手を振っていた。
私も内心では、未央がいないことにやや焦りを感じてはいた。
なんだかんだで、最後にいつも背中を押してくれるから。

「風が冷たいですう……」

ストールを首にぐるぐると巻き付けて、
卯月が体を縮こませる。

「手、貸して」

「え」

卯月は半開きの口でこちらを見やった。
言われるがままに、手を伸ばす。

「冷たいね」

細い指。

「凛ちゃんは暖かいですね。私、冷え性で……風邪とかもよく引いちゃうし、羨ましいです」

「それは、プロとしてどうなの……私は、さっきまで、ダンスレッスンしてたから。卯月の冷たい手がちょうどいいよ」

「えへへ……」

隣で笑う卯月。
それを見てると、言い出しにくい。
私は手を離す。

「あのさぁ……」

「はい?」

私が知ることなのか。
でも、今のままでは卯月の汚名ばかりが増えていってしまうような気がする。

「卯月、自分の噂とかって聞いたことある?」

目を少し瞬かせる。

「さあ? 噂って、どんなものでしょうか?」

あ。
まずい。
本気で知らないみたいだ。

「えっと、もしかして最近言いかけてたのってそれでしょうか?」

本人が聞こえる所で言うわけないよね。
知らないなら、知らないでいいか。

「うん、けど知らないならいっか」

「えー。教えて欲しいです」

「聞いても、百害しかないから言わない」

「うええ……一体、私に何が……」

「ごめん、私の口からは」

「凛ちゃんは、もしかして、その噂と言うのを信じて?」

「信じてない!」

どこから出たのか、
急な大声にびっくりしたのは、
卯月よりも私の方だった。
かっこ悪くて、顔を背ける。

「こほっ。全然、信じてないから」

「じゃあ、気にしません」

視線を転じると、
まばゆい笑顔があった。

私の家の前まで、あと少しの所で、
卯月は言った。

「ちょっと、寄る所がありますので。またね、凛ちゃん」

最近は、もっぱらこの言葉で私たちは別れる。
大通りをそれて、商店街の方へ小走りに駆けていく卯月。
こちらが止める隙もない。
私はそれを少し眺めて、

「……」

砂利を小さく蹴った。
そして、いわゆる「尾行」を開始した。

ホテル街のネオン。
酔っぱらいの怒鳴り散らす声。
タクシーが狭い道路を右往左往。
それらが、だんだんと後方へ移っていく。
まだ、それほど遅い時間帯ではなかったけれど、
卯月の通る場所は女の子が一人で通るには好ましくない。
やや腹立ちながら、前の彼女を見る。
ゆっくりとした足取り。
私が後ろにいることは、気づいていない。

「……」

髪をくくって、
持っていた帽子を目深に被り、
マフラーをつけて、
サングラスをかけた。
ショーウインドウに自分の姿が移る。
怪しい人だった。

街角のたこ焼き屋の前で、
卯月がふらふらと近寄っていく。
顔見知りなのか、笑っていた。
腰を折り曲げて、
店主に別れを告げて、
また歩き始める。

甘辛いソースの匂いが私の鼻にも届く。
かなり、お腹が空いていた。
それは、卯月も同じはずだけれど。
いったい、どこへ行くんだろう。

歩くこと20分程。人通りも少なくなった。
ビル街を抜けたところに、木造一階建ての平屋が並ぶ住宅地が現れた。
平屋の間の細い路地を、彼女は足取りも軽く進んでいく。
私は足を止めた。
街灯が一本立っていて、手前の家を照らしている。
他の明かりといえば、最奥の家の小さなオレンジの電球が灯されているくらいで、やたら薄暗い。

思わず、躊躇してしまう。
卯月の姿が見えなくなってしまいそうになり、
慌てて追いかけた。

薄暗い視界の中に、
子ども用の三輪車が玄関の前に置いてあった。
スコップも落ちている。
まさか、本当に子ども?
いや、信じてはいないけど。

滑りの悪そうな引き戸の音。
最奥の家だと思う。
ここからは見えないけれど、
たぶん家の角を曲がると玄関があるんだ。

卯月の「ごめんくださーい」という、
場の雰囲気にそぐわない気の抜けた声も聞こえた。

砂利音が出ないように、
そろそろと家に近寄っていった。
ばれてしまわないかという緊張が、
今更ながら、鼓動を打ち鳴らし始める。

小窓が少し空いていた。
その真下に身を寄せる。
声が聞こえた。

「遅くなってごめんね。お腹空いた?」

卯月が言った。
すると、

「大丈夫だよ」

しわがれた声が聞こえた。

おばあさんの声だ。
顔を見たくて、私はダメだと思いつつ、
身を乗り出して、小窓に顔を近づけた。

「今日ね、お刺身安かったの。この間、お魚が好きだって言ってたから」

卯月がカバンから買い物袋を取り出す。

「ありがとうな。卯月もお腹空いてるやろ? ご飯に食べんか」

「うん。お米炊くから、ちょっと待ってて。一緒に食べよう」

「じゃあ、漬物でも切ろうわい」

「いいよ、いいよ。おばあちゃん、足悪いでしょ」

「こんなん、もともとポンコツやったんや。今さらなあ」

「いーから、座ってて」

「そうかい?」

卯月のおばあちゃんだろうか。
腰が90度くらいに曲がった、白髪の老人がふいにこちらを見た。
あ、やばい。

「ひいい!?」

おばあちゃんが悲鳴をあげた。

「うわあっ」

私も小さく悲鳴をあげた。

「だ、誰でしょうか?」

時すでに遅し、
逃げる間もなく、
卯月が小窓を開けていた。

「……り、凛ちゃん」

「……や」

右手をあげて、一言。
帽子にサングラスにマフラーをしていて、
よく私だと気が付いたね。
卯月はそんな私に言葉が出ないようだった。
私もなんて言えばいいのかわからなかった。

「誰や、あんた」

切り出したのは、この家の主と思しきおばあちゃんだった。

「どこの馬の骨や」

「お、おばあちゃん、馬の骨って」

「この男は、誰なんや卯月」

男?
はっとして、
被っていたものを取り外していく。
おばあちゃんは、まだ睨んでいる。

「だから、この男は誰なんや、卯月。あんたは、うちの孫のなんなんや」

「男じゃなくて……」

「何言うてるんや。どこからどう見ても男やないか」

目が悪いのか。
ボケてるんだろか。

「あ、あのねおばあちゃん、この子は私のお仕事の仲間で凛ちゃんって言うの」

「凛? 女みたいな名前つけとるやないけ」

このおばあちゃんはどうしてこんなにヤクザみたいな物言いなのか。

「あの、渋谷凛です。びっくりさせてごめんなさい」

「当り前じゃ。心臓止まったら、慰謝料として5000万はもらっとるで。延滞したら、高うつくで」

どこの闇金なの。

「っくしゅ……」

「凛ちゃん、そんな所にずっといたら風邪引いちゃうよ」

「卯月、そんな得体の知れない男、家に入れたらあかん」

「あの、男じゃないんですけど」

私の小窓からの声はすぐにかき消される。

「卯月、年頃の女の子が何しとんねんっ」

「おばあちゃん、お願い……友達なの」

「……卯月」

卯月がおばあちゃんの手を握って、
説得し始めた。
おばあちゃんはしぶしぶ折れたように、
こたつの隅っこへ行って横になった。

「そこまで言うなら分かったわい。ご飯ができたら起こしてくれ。わしはその男とは話さんからな」

「うん、ありがとう」

男と間違えられ、挙句に馬の骨扱いされたことなど、生まれてこの方一度もなかった私は、事態についていけなかった。
が、卯月が笑顔でこちらに手招きしてくれたので、はっと我に返った。

「おじゃまします……」

こじんまりとした台所に、エプロンをつけた卯月。
その隣で、私はニンジンを切っていた。
おばあちゃんのことが気になって、
卯月と気軽に話せない。

家に入ったら、
偶然にも私のお腹の虫が鳴った。
夕ご飯を一緒にたべよう、と卯月が提案してくれた。
私は親に手短に連絡した。
件のおばあちゃんは何も言ってこなかった。
一緒に食べてもいいってことかな。

「ごめんなさい、黙ってて」

卯月は小声で言った。

「正直、びっくりしてる」

「ですよね……」

つみれをお鍋に入れながら、
卯月が苦笑いする。

「あのさ……誰? おばあちゃん?」

「……ホントのおばあちゃんじゃなくて、あの、実は……」

意味深な言葉。
どういうことなの。

「うん……」

「足を捻ってた所を助けて、ここまで連れてきたのはいいんだけど……それから、私のことお孫さんだと勘違いするようになっちゃって……事務所の話もしちゃったものだから……」

「う、うん」

「それから、何度か電動車いすで迎えに来てくれるようになって……今、こんな状況に」

卯月は手を休めることなく、
表情から笑顔を絶やさず、
そう説明してくれた。

あまり話すと、おばあちゃんに聞こえてしまうと思い、
それ以上は深く聞かなかった。
とにかく、噂の件は本当ではなかったし、
私と未央の心配は杞憂だった。
けれど、新たな問題が見つかった。

「おばあちゃん、今日はお鍋にしたの。暖かいうちに食べようね」

このおばあちゃんは、
自分には卯月と言う25歳くらいの孫がいて、
会社帰りにいつも夕ご飯だけは作りにきてくれて、
一緒に食べてくれるという奇妙な設定があるらしかった。

卯月がそれに気づいたのは、
つい最近のことで、
最初は普通に接してくれていたらしい。
どこで、歯車がかみ合わなくなったのだろうか。

「いただきます」

私は手を合わせた。
卯月は今の所大丈夫だから、と言っていた。
また、そんな言葉で私たちを心配させないようにしているのが分かった。
もちろん、私が今すぐ解決策を見つけられる訳じゃない。

卯月がよそってくれたご飯に箸をつける。
具だくさんの鍋だった。
お汁一口すする。

「……美味しい」

きんぴらごぼうをつまむ。

「……っ」

卯月の手料理が食べれた。
それで、何もかもどうでもよくなりそうになった。
きゅうりとなすのつけものに手を伸ばす。

ぱりっといい音がした。

「美味しい……」

「おばあちゃんがつけたんですよ」

斜め前に座るおばあちゃんの存在が蘇る。

「あ」

「当り前やわ」

ずるずると汁をすすっていた。

満腹になって動けないでいると、
おばあちゃんにお尻を叩かれた。

「客人やろ。早く、皿洗わんかい」

「は、はい」

「い、いいんですよ。座ってて。おばあちゃん、普通は逆じゃないの?」

卯月が私を手で制して、立ち上がる。
お盆にお皿を載せて、流しまで運ぶのは手伝った。
一人でいいから、と笑われた。
こたつまでまた戻って、卯月の後ろ姿を眺めた。
制服の上からエプロン。
少し背を屈めると、裏の太ももがちらちら見えていた。

「おい、凛」

「え、はい」

「お茶や」

たぷんと緑に波打つ湯呑が目の前に差し出された。

「……ありがとうございます」

「例なら卯月に言わんかい。お茶も全部用意してくれとるんや」

卯月は鼻歌で持ち歌を歌っていた。

「卯月ー」

「なんでしょうか」

「ありがとー。ごちそうさまでした」

「はーい」

食器と食器の重なる音に交じって、
卯月の弾むような声が返ってきた。
可愛い。
なんだか、奥さんみたい。

と、携帯が鳴った。
私のだった。
母親からだった。
時間を見ると、確かに長居しすぎていた。
ただ、このまま帰ると、
ご飯をたかりにきた、本当に馬の骨になってしまうような。

「凛ちゃん、帰りますか? 私もそろそろ帰らないといけないので、ちょっと待っててくれますか?」

「うん」

エプロンの紐を外して、冷蔵庫に余ったおかずを入れていく。

「おばあちゃん。明日は、これ食べてね」

「ありがとおな」

「いいえ」

おばあちゃんは、卯月に対しては、
満面の笑顔だった。

帰り道は、結局あまり会話できなかった。
卯月も喋りたがっていなかった。
別れ際に、

「明日も行くの?」

と尋ねた。
それには首を振って、

「明後日は行きますよ」

と言っていた。
卯月はあのおばあちゃんの本当の孫じゃないし、
いつまでも続けていいものではないと思う。
でも、卯月のあの行為を誰が止められるんだろう。

私は暗がりに消えていく卯月の背を見て、
自分の無力さを味わっていた。

卯月は事務所では全くなんの素振りも見せることはなかった。
相変わらず、卯月の耳には変な噂も入ってこないようだった。
それだけが、救いかな。

その日、たまたま昼休みが未央と被った。

「ねえ、しぶりん。プロデューサーに相談するか、警察に相談した方がいいかなって思うんだけど」

「警察は行き過ぎでしょ」

「だって、ある意味ストーカーってことだよね。今の所、しまむーが危なくないって感じだけど、それどうなるかわかんないし」

「困ってるわけじゃなさそうなんだよね……」

「けど何かひっかかるんだよね。しまむーを信じたいけど……」

がたがたと椅子が引かれた。
横を見ると、

「先輩、隣いいですか」

「あ、えーっと」

私は口ごもる。
まず、名前が出なくて、
次に、なんて断ろうかと思案して。
けれど、目の前にいた未央が、

「あ、ごめん今大事な話中だから、また今度でいいかな」

言って、合掌する。
後輩をちらと見やると、
お前には聞いてねえよ、と言うオーラが出ていた。

「あのさ、今はごめん」

私も追い打ちをかける。

「そうですか。また、卯月先輩のことですか?」

妙に触る言い方だった。
反応したのは未央の方だ。

「だったら?」

「いいえ。失礼します」

彼女の姿が見えなくなってから、
未央が唸る。

「なに、あの子」

机の上にあった、おにぎりに噛みついた。
おにぎりの悲鳴が聞こえた気がした。

「後輩。最近、よく話しかけてくるんだよね」

「……もてますなあ。分けて欲しいくらいだよー」

「わけようか」

「今はいいかな」

話はあまりまとまらず、
その日は卯月と会えないまま、
日が暮れていった。

卯月の秘密を知ってから、
1週間が経った。
私の周りはなんの変化もなかった。
珍しいことと言うか、
事故と言うか、
そういうのはあった。

あの後輩と演劇の共演をした時のこと。
つかみ合いをするシーンで、
彼女が床で足を滑らせて、膝を痛めてしまったのだ。
幸い軽いケガで済んだが、これみよがしに私のそばにいつくようになった。
私も、事故とは言え、責任を感じる所もあり、彼女の身の回りの世話を少し手伝うことになった。

そんなこともあり、
卯月とは全く話す機会が無くなってしまっていた。

「ねえ、先輩。良かったら、今日家に来ませんか? 私、一人暮らししてて、最近お世話になってるから良かったら……」

事務所の入り口の前で立ち止まって、
後輩がそう言っていたが、
右から左に流れていく。

「卯月……」

目の前に、卯月がいた。
少し、疲れている様子だった。
声をかけようとしたら、
後輩に腕を引っ張られた。

「なにっ」

卯月が気が付いて、こちらを振り向いた。
呼びかけようとした唇が、暖かく柔らかい何かで包まれていた。
呼吸ができない。
視界が後輩の顔で覆われていた。

数秒して、キスされていたことに漸く気がついた。

ちょっとここまで
今日中には終わらなかったようです

おつ

乙です
これは良うづりん

卯月が病むぞ

私は彼女が膝を痛めていることも忘れて、突き飛ばした。
ひっくり返りそうになる後輩を支えたのは、他でもない卯月だった。
すぐに駆けよって、彼女の背中を支えた。

「大丈夫ですかっ?」

後輩に声をかける卯月。

「大丈夫ですから、触らないでくださいっ」

後輩が卯月の手を払いのけた。

「いたっ」

卯月は戸惑いながら、私を見た。
違う。
後輩とはそんな関係じゃない。

「凛ちゃん、最近会えなくて……もしかして、やっぱり、あの……引いちゃいましたよね」

どうして、そんなことを言うんだろう。
誤解だ。
一つ一つ、何か体に絡まっていくような

「違うよ。ちょっと、忙しくて」

「凛さんは、あなたがいない時に、ずっと私のそばにいてくれましたよ」

「凛さん……?」

「ちょ、いつもそんな風に呼んでないでしょ」

「そうでしたっけ」

後輩が懲りずに、腕を絡み付ける。

「それより、早く私の家に行きましょうよ」

「だから」

「ご、ごめんね。なんだかお邪魔してしまったみたいで……」

「そうよ。どうせ、男の所に行くんでしょ」

卯月はその瞬間酷く傷ついた顔をした。
それから、何か悟ったように、小さく微笑んだ。
卯月。
卯月、待って。

「違うの、聞いて、卯月」

「待ってる人がいるから……ごめんなさい」

「ほーらね」

一人、彼女は走り出していく。
動けない。
それは、後輩が私の体を強く抱き止めていたから。
卯月にかける言葉が上手く見つからなかったから。

卯月が抱えてしまったものに、
無力さを感じてしまっていたから。

雨が降り出してきた。
なんて都合の悪い。
卯月が風邪引いたら、どうするの。

「先輩?」

「私、卯月になんて言えば良かったんだろうね」

「知らないです……」

「追いかけていい?」

「ダメです……」

「どうして」

「私が、先輩を好きだから……」

「ねえ、卯月の噂流したのって、アンタじゃないの」

後輩の抱きしめていた力が強くなる。

「……知りません」

「嘘、つかないでよ。今なら、許してあげるから」

私は、彼女の唇にキスを一つした。
震える唇に吸い付いて、水音とともに離した。
すごく、気持ち悪かった。
彼女は呆けた顔で、私をじっと見た。
暫くして、口を開いた。

「私が……流しました。でも、卯月先輩も逃げたってことは、本当のことだったんじゃないんですか」

すらすらと、彼女の口から毒が流れていく。

「卯月先輩、凛先輩のことなんてなんとも思ってないんですよ。そんな人に片想いするくらいなら、私と両想いになった方が絶対楽しいですよ。あんな、子どもみたいな喋り方で、何考えてるか分からないマイペースな人より、絶対」

「そうだね……子どもみたいな顔でキラキラ笑うのに、大人ぶって自分の考えてること全然話そうとしてくれないし、その通りだよ」

私はカバンから、折り畳みの傘を取り出した。

「これ、貸すから。気を付けて帰って」

「え、先輩」

「だから、聞いてあげないといけないんでしょ……」

後輩に傘を押し付けるようにして、
私は卯月の後を追った。

「私はあの笑顔がないと、ここにいる意味ないんだ」

まるで自分に言い聞かせたみたいだった。
雨に濡れながら、そう思った。
暗がりに、彼女の姿はない。
どこに向かって走っているのか、不安になった。
私の探している人は、この先にいてくれるんだろうか。

「……」

暫く走り続けて、全身がおもだるくなって、
靴の中がびしょびしょになっていた。
途中で、ビルの一角のたこ焼き屋に寄った。
お店の人が驚いてタオルを一枚くれた。
それから、たこ焼きを一パック買った。
袋を2重に包んで、もらったタオルでくるんだ。

卯月。
喜んでくれるかな。
誤解だって、言おう。
私の望んでいた笑顔が見られたらいいんだ。
それだけで、いい。

「……はあっ」

冷たい空気が肺に入って、痛みが刺した。
何か、彼女に言いたいことがあった。
けれど、喉元まで上がってきては、消えていった。
いつもそうだ。
肝心な時に、最後のひと押しができない。
こと、卯月に関しては。
臆病になってる。

切ネェ…

手を握ることさえ、躊躇して、上手く掴めない。
触れるだけで精いっぱいになる。
バカみたい。
母親をおいかける子どものように。
卯月の後を、いつも、追いかけていたのは私だったんだ。
私の方がよほど――ガキ臭い。

下がドロドロになっていた。
靴なのか地面なのかというのを考えて止めた。

平屋の一番奥。
薄暗いそこの小窓を叩いた。

「すいませんっ」

ぴしゃん、ぴしゃんとガラスが揺れた。

「あの、卯月、来てませんか」

中の明かりはついていた。
玄関に回る。

ガラスを叩く。
がたがたと揺れた。

「あの、卯月来てませんか!」

風雨の雑音に負けないように、
声を張り上げた。
玄関に両手をついて、
すいませんと、
まるで、懺悔するように呟いた。

『もう、くんなっ。この家にくんなっ』

おばあちゃんの声がした。

「た、たこ焼き買ってきたんです」

『はあ? 何言うとんねんっ!! しっしっ』

「お願いです、卯月いるんだよね!」

『卯月はな、お前に会いたくない言うとるんやっ。帰らんかい!』

「いやだっ……卯月に会うまで帰らないっ、帰らないから!」

私は玄関の床で足を折り曲げて、
びしょびしょの真っ黒い髪を床に散らばらせ、
おでこを地につけた。

「お願いっ……このままは嫌なんだっ……私は、卯月がいないと……私のそばには卯月がいてくれないと嫌なの……!」

『……なんやお前』

靴を履く音がした。
玄関の鍵を回す音。
ガラガラと開いた。

「ほんまに、お前、どこの馬の骨や。また、飯たかりにきただけやろ」

「違うっ……」

頭を上げはしなかった。
きっと、馬鹿になってしまったんだ。
卯月のことばかり考えていたから。
頭が馬鹿に。
だから、こんな格好悪いことを。

「卯月やなくて、ええやんか……」

声が頭上から聞こえた。
おばあちゃんがしゃがみこんだのだ。

「なんで、卯月やねん……なんで……放っておいてくれへんのや!」

「好きだからっ」

「なんやねんそれ……」

「大好きだから、好きな人は、私が幸せにしたいから……私が笑顔にしたいから……」

「卯月やなくてもええやろ……わしの孫やなくても。わしから、また奪うんかい」

「え?」

私は顔を上げた。
涙と雨のせいで、
おばあちゃんがぼやけた。
顔を腕で拭った。

「もう、やめえや……っつ……いっ……」

おばあさんが腰を抑えながら、よろめいた。
私の上に覆いかぶさるように倒れこむ。
屋根から外れ、後ろの地面に背中から倒れこんだ。
冷たくてどろっとした砂が背中を犯した。

「大丈夫ですかっ」

「ひっ……」

「卯月! 卯月! おばあちゃんが!」

叫ぶ。
奥から卯月が出てきて、
顔面蒼白に駆け寄ってきた。

「おばあちゃん!?」

予想よりも重たい老婆を抱きかかえて、
私は卯月に言った。

「ここ、冷えるからっ、中入れないと。卯月っ、タオルと布団用意してっ」

「は、はいっ」

おばあちゃんに肩を貸す。
やっとの思いで玄関まで上がらせた。

「はあっ……」

「いたたっ……」

ぎっくり腰か何かだろうか。

それから、卯月がおばあさんを着替えさせて、
腰に湿布を張って、痛みがなかなか治まらないので、救急車を呼んだ。
救急車が来る頃には、おばあちゃんもまともに喋れるようになっていた。

病院は行きたくないと駄々をこねていたが、
卯月が念のためにと言って、
私と三人で近くの病院へ向かった。

病院の廊下の長椅子に二人座って診療が終わるのを待った。

「おばあちゃん、なんともないといいんですが……」

座ったり、立ち上がったり、
彼女は心配そうにうろうろしていた。

「あのおばあちゃんなら大丈夫そうだけど……」

言って、わたしは右手に持っていたものに気が付く。
たこ焼きだ。
一枚目の袋は砂がついていたが、中はきれいだった。
袋から取り出す。

まだ、暖かい。

「食べる?」

飲食禁止だったっけ。
まあいいか。
卯月は、躊躇していた。
食べることじゃない。
私のそばに座ることをだ。

「やっぱり、私のこと……幻滅したよね」

もう後輩ちゃんと仲良くやって、どうぞ

後輩がミリオンの桃子先輩の容姿で再生される…

「ち、違いますっ……そんなこと」

「じゃあ、どう思ってるの……」

「だって、凛ちゃんがさっき、あんなこと言うから……どうしたらいいか、わかんない」

卯月は壁際まで遠ざかった。
しゃがみ込んで、顔を両手で覆った。

「……卯月」

声をかけた。
でも、近づいて、彼女を抱きしめられない。
だって、それは、いつも私じゃなかった。
未央だ。
彼女の役割だった。
でも、嫌だった。
どんな時も、最初に彼女を優しく抱きしめていた彼女に、
嫉妬して、悔しくて、動けない自分を憎々しく思った。

今も。
石のように、動かない体。
桜の季節に、最高の笑顔に胸打たれて、
それが私の全てになって、
きっと、一度でも拒絶された怖いから、
大丈夫だと安心しないと、
自分から彼女に触れられないんだ。

やっとスレタイの意味がわかって来た

「凛ちゃんは……あの噂、信じてなかったんですか」

途切れ途切れに彼女は言った。

「噂?」

「私が、男の人と……」

「……卯月、やっぱり知ってたんだね。どうして、あんな嘘を」

「だって、凛ちゃんの隣に、いつも……あの子が……いたじゃないですか」

卯月の声が震えていた。

「だから、知らないふりをして、何も知らないんだなって思ってもらわないと……凛ちゃんきっと私にもっと同情するから……」

「同情……って」

私は右拳を握りしめた。

「同情なんかじゃないっ」

よろよろと、卯月の前に立った。
小さく震えて丸まっている彼女。
自分を守るようだった。

「そんな言葉で、私の気持ちから逃げないでよっ」

怒鳴った。
彼女は体全体をびくりとさせた。
嗚咽が、彼女の細い指の隙間から聞こえた。

「……ごめんね。私、こんなこと言える立場じゃなかった……さっき、後輩とキスしたの、私の浅はかさが招いたことだと思う。だから、ごめん。ごめんね、卯月」

顔が見えない。
それが、こんなに不安だなんて。

「卯月、私……卯月がご飯作ってるとことか、洗い物してる後ろ姿見て、いいなって思った。あの家で、3人でご飯食べるのだって、私嫌だなんて思わなかった……最初は、びっくりしたけど……」

「ダメだよ……凛ちゃん」

「私、卯月とならどこでだって暮らしていけるんだよ……」

「凛ちゃん……っ……なんでっ」

「卯月が、一人じゃなくて……一緒に頑張りましょうって一言でも言ってくれたら……私は、それだけで何でもできるから」

溢れ出した熱が、自分の頬を濡らしていった。
診察室の扉が開いた。

「……あんたら、何恥ずかしいことしとんねん」

後ろにいた医者が、苦笑していた。

「でかい声で、聞こえとるっちゅーに」

「可愛らしい、お孫さんですね……」

医者が何のフォローか、呟いた。

「孫ちゃうわ……」

「え」

驚いたのは、私と、そして卯月だった。

「孫なんて、とっくの昔に結婚して出ていったわ」

「おばあちゃん……?」

お医者様は、次の患者が来たのでまた診察室へ引っ込んでいった。
少し、野次馬みたいな顔をしていた。

「孫なんておらんわ……」

腰を曲げたままおばあさんはしゃがみ込んで、未だに顔を伏せたままの卯月に言った。

「今までありがとおなあ……あんたは違ったんやな」

「……あ、あの」

私は、多少混乱していた。
だから、これは適切な台詞ではなかったと思う。
でも、このおばあさんに言わなくてはいけないと感じた。

「あ、あの……お孫さんを私にください」

卯月がやっとこちらを向いた。

「凛ちゃん、何言って……っ」

おばあさんは背を向けて、
ぎこちなく笑った。

「孫やないわ……」

――――
―――



それから3週間後くらいに、あの平屋を卯月と二人見にいった。
奥の家は空き室になっていた。
帰り道、海へ寄った。
砂浜には、まだポリタンクが埋まっていた。
いや、もしかしたら、また流れついて粉々に割れたのかもしれない。
ビール瓶は片づけられていた。

「凛ちゃん、足元に貝がありますよっ」

「うん、ホントだ」

二人、同時に掴もうとして、互いに手が触れた。
引っ込めたのは、卯月の方だ。
それを私は掴んだ。

「り、んちゃん……あの近いような」

卯月の甘くて温まるような声が耳をかすめた。

「……」

少し小さな背の彼女。
風が彼女の髪を乱していく。
顔にかかった一房を頬の後ろへかき分ける。
じっと卯月の瞳を見ていた。
照れながら、卯月もこちらを見ていた。
私は、今度こそ彼女を抱きしめた。

波の音と共に、彼女の嗚咽が混じる。
潮の中に、彼女の惑わすような香りが漂う。

「……凛ちゃんっ……」

彼女とあのおばあちゃんの間に、
もしかしたら、
本当の家族じゃないけれど、
それに近い何かが芽生えていたと思う。
そして、私は、あの時確かに、
卯月の家族になりたいと思ったんだ。
そう、思わせてもらったんだ。

「……」

卯月の柔らかな体に顔を埋めた。

「どうしたの……何か、喋ってほしいです……」

「ごめん、余裕ない」

ふっと笑って、彼女の唇を啄んだ。




おわり

おしまいです
うづりんが書けて満足です

乙、いいうづりんでほっこりしたよ
次回もまたいいうづりん書いてくれたら嬉しい

おつ

乙でした
説明省く終わり方好きです
ミリオンダラーベイビーみたいで面白かったっす

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