モノクマ「心優しいボクはお前たちに2週目の世界をプレゼントしてやることにしました!」
苗木「馬鹿にするな!ボク達は、お前を倒して外の世界への扉を開けたはずじゃ……」
モノクマ「君さ、全員つれて外へ出たいと思わない?」
苗木「えっ」
モノクマ「ボクが提示する2週目では、それが可能になるんだよ!たーだーし
・このSSにはダンガンロンパシリーズ(1.2.0.絶女そのほか)の致命的なネタバレが含まれている
・容姿の男女が反転する
・正直キャラ崩壊しかない
・亀
・男女関係等を含む勝手な設定がどさんこどんどん
・誤字脱字多
これらの条件をのんだうえで、だけどね!」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1445413419
苗木「……あの、言っている意味がよくわからないんだけど」
モノクマ「実際君に関係があるのは2番目だけだからねぇ。もっと具体的に説明するよ。
苗木君、きみが2週目を受け入れる場合、君と生き残った6人だけは"戦刃むくろ"の存在を知る前までの記憶を持っている状態になる」
苗木「……大神さんの学級裁判の後まで、か」
モノクマ「そうなるね。その他のみんなは、自分が死ぬ直前までをなんとな~く覚えてる状態だよ」
苗木「だから、強くてニューゲームか……」
モノクマ「ちがうちがう!ぜんぜんちがーう! 強くてニューハーフだよ!」
苗木「ニューハーフ?!」
モノクマ「そう!この超超超超~~~~ボクに不利な条件になる代わりに!みんなには"見た目だけ性転換"してもらいます!!」
苗木「そんな!無茶苦茶だ!!」
モノクマ「まぁまぁ。気にしちゃダメだよ。大丈夫、あくまで見た目だけ。男子は棒で女子は穴のまんまだし、心だって男女入れ替えたりはしない」
苗木「心が元の性別のままだったら、自分の身体の変化についていけるわけないじゃないか」
モノクマ「そこは、君がなんとか払拭させてやるところだろう?
さて、はじめようか。絶望的に頭の悪い思い付きだけでできた、2週目を!」
苗木「やるって言ってないのに?!」
モノクマ「忘れちゃったのかい?ボクは飽きっぽいんだ。話してるうちに飽きちゃって、もう2週目スタートを確定させちゃったよ」
モノクマ「ちなみに開始時点は入学式の後、2日目からだよ。うぷぷぷぷ」
苗木「まてっ……ん?」
ボクが目をさますと、そこは久方ぶりの太陽の光をたたえた外の世界でも、入学前にいつも寝起きしていた自室でもなく、
寄宿舎の、僕の部屋のなかだった。
苗木「なんっ……」
驚いて体を起こしたとき、自分の違和感に気づいた。
その、なんというか。おっぱいが生えていた。
首元に、普段は感じない感触をおぼえて触ると、髪の毛も少し長くなっていた。
こうしちゃいられない、本当にモノクマの言った通りになってしまっているのか、はやく、食堂でみんなを確認しないと!
僕が食堂に向かうと、そこには
霧切さん、朝日奈さん、腐川さん……らしき男の子(?)と
十神クン、葉隠クン……らしき女性(?)がいた。
霧切「……苗木君、よね?」
苗木「うん……えっと、霧切さん?に、生き残ったみんなでいいんだよね?」
腐川「……その通りよ。何よ、代わり映え無くて悪かったわね……」
苗木「そういうことじゃなかったんだけど……むしろ誰かわかるだけ安心できるかな……ほかのみんなは?」
十神「夢に出てきたモノクマによると、この時期は入学式の直後……まだ朝食会すら決まってない時期だ。来るわけがない」
朝日奈「私たちと同じように混乱している場合、先ず部屋にこもっちゃうと思うし
……ていうかさ……ほんとの、ほんとに……またあのコロシアイ生活始めなきゃいけないの?!」
口調は完全に朝日奈さんだけど、その声は心なしかちょっと低い。
葉隠「おらも、最初はなんのこっちゃと思ったが……どうやら目覚める前のモノクマがいってたとおりらしいべ。
ためしにここに来る前に一通り散策してきたんだが、舞園っちがやらかす前の状態までしか散策できんかったべ」
腐川「……なんなのよ……ジェノサイダーに最後の学級裁判の重要な部分乗っ取られたと思ったらこんな……」
朝日奈「まあ、腐川ちゃん的にはそうなるかな」
霧切「ひとまず、他の生徒がちゃんとそろっているかどうか確認する必要があるわ。手分けして呼びに行きましょう」
霧切さんがそういうや否や、一人の女性(?)が食堂に顔を表した。
??「君たち……ええと……いや、僕と同じ状況に皆があるなら……」
霧切「私が霧切、こっちは苗木君で、そっちが十神君で、その横が腐川さんで、あの子は朝日奈さん。残ったのが葉隠君よ」
葉隠「その白ラン……石丸っちだべか?!」
石丸「ああ……起床の放送の5分前には起きてたんだが状況を整理していたら時間がかかってしまった
……だが、結局は何もわからないままだ。その、すまないが、誰かこの状況を説明できる人はいないか?」
苗木「……僕たちにも、良くわかっていないんだ」
石丸「そうか、そうだよな…………すまない、僕は部屋に戻らせてもらう……」
霧切「……当たり前だけれど、ずいぶん参っているみたいだったわね。彼。」
葉隠「彼って言っちまっていいのかわかんない感じだったけどな!」
頭を押さえて石丸君が出て行った後、僕は自分の聞いた夢と、現実の違いに気づいた。
苗木「ねえ、皆。僕は起きる前……というか夢の中のような状態でモノクマに"大神さんの学級裁判までの記憶を持った状態"って聞いていたけれど
……みんなもしかして、いや、僕もだけど、黒幕を倒したことは覚えてたりする?」
朝日奈「うん!みんなで玄関ホールから外に出ようとしたとこは覚えてる!」
腐川「私もよ……」
十神「ただ、俺は"黒幕が何者だったのか"が全く思い出せない状態だがな」
葉隠「そんなんしっかり覚えてるべ!黒幕は……あれ?」
霧切「私も、黒幕に関しての記憶は曖昧……というよりも覚えがないわね。
大神さんの学級裁判の後、黒幕の正体に近づいた部分がカットされている?」
苗木「これ、モノクマは説明してくれないのかな?」
モノクマ「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん」
苗木「うわっ?!」
モノクマ「酷いなあ、せっかく呼ばれてあげたのに」
霧切「今の話、聞いてたでしょう?どういうことなのかしら?」
モノクマ「うぷぷぷぷ……正確に言えば、僕の正体に深くかかわる2種類の記憶を消させてもらったんだよね。
つまり、それとはもはや関係ない、オマエラが黒幕に勝利した記憶は引き継げるって事さ。
ま、メインがごっそり抜けたから大神さくらさんの学級裁判までで間違ってもいないはずだよ」
そう言ってモノクマは来た時と同じように、唐突に姿を消した。
十神「……とりあえず、他の連中の安否を確認しておこう。ショックで自殺でもされていたらかなわん」
朝日奈「それもそうだね……私、さくらちゃんの様子見てくる!」
霧切「私は、セレスさんや舞園さんを見てくるわ。どちらも男性になった姿を不用意に見られたくはないタイプでしょうから、時間がかかりそうだけれど」
十神「女子は女子を、男子は男子を見に行ったほうが良いかもしれないが……こういった行動は腐川には難しいな」
腐川「うぅ……」
葉隠「んじゃ、腐川っちと十神っちが留守番で残りがみんなの様子確認だべな!」
十神「葉隠と腐川が待機だな」
葉隠「えぇっ?!」
十神「葉隠は少々見た目のふれ幅が大きすぎる。すぐに誰かわかる程度の俺や苗木のほうが警戒されずに済むはずだ」
葉隠「ちょいとまつべ!それ言ったら、十神っちなんてオーガの裁判終るまでは皆に敵意ばらまいてたはずだから、警戒されるはずだべ!」
十神「……よし、苗木行って来い」
苗木「それ認めちゃうんだ」
十神「下手に刺激するよりはいいだろう」
そうと決まったならさっさと行け、と十神クンに叱られた僕は食堂を出た。
安否確認のできている石丸君を飛ばし、次に近い部屋の大和田君の部屋のインターフォンをならした。
苗木「大和田クン?いる?」
しばらくまって、もう一度ならすと荒々しくドアが開いた。
大和田「うるせぇ!ナニモンだ……なんだ、苗木か……お前もかよ」
苗木「う、うん。ボク含めた数名は食堂にいたんだけど、ほかの人が大丈夫か確認しようって事になって」
大和田「……まあ、そうだよな。普通は、こんな状態になったらなんかあったんじゃねーかと思うよな……」
苗木「大和田君は、この状況をどこまで理解できてるか聞いていい?」
大和田「悪ィな、聞かれてること自体がよくわかんねえ」
苗木「モノクマから何かアナウンスとかなかった?」
大和田「……夢の中で"大和田君には、これからニューハーフとして生きてもらいます"とか言われて起きたらこのざまだ」
彼は、リーゼントの前の部分が崩れた金髪パーマの状態で頭を抱える。
相当参っているみたいだ。
苗木「そ、そうなんだ……石丸クンは完全に取り乱しててこういう話聞けなかったから、助かったよ」
大和田「うん?オメーは違うのか?」
苗木「……(うーん、どういえばいいんだろう)似たようなものだけど、ほかの人がどうかも聞いたほうが良いかなって」
大和田「ま、この状況だからな……オレも食堂に行くかな。ハラ減った」
苗木「そうしたほうが良いよ。何も食べないのも体に悪いし」
大和田「おう、きてくれてありがとうな!くっそあのクマ野郎!中身みつけてぶちまけてやる!」
物騒なことを言いながら、大和田クンは部屋に戻って行った。
ドアが乱暴にしまり、廊下に音が響いた。
苗木「次は……不二咲クンは、ボクが行ったほうが良いのかな……」
霧切「当然でしょう?」
苗木「霧切さん」
霧切「彼は女子と距離を置いていた。私が行っても落ち着いてくれるかはわからないわ。
……こちらの進捗だけれど、舞園さんはちょっと落ち着いたら食堂に向かうそうよ」
苗木「大和田クンも似たようなこと言ってたよ」
霧切「そう……多分、私はセレスさんの相手に時間がかかるだろうから、苗木君から江ノ島さんにも声をかけてくれるかしら?」
苗木「……江ノ島さんもモデルだし、そう言うの見られるの嫌かもしれないから、朝日奈さんに頼んだほうが」
霧切「あの子が、死に別れたはずの大神さんと再会して感極まらずにいられると思う?」
苗木「……だね。わかったよ」
霧切「彼女も嫌がるかもしれないけど、その時は再度私に任せてくれていいから……頼んだわよ」
霧切さんはそういうと、セレスさんの部屋に向かって行った。
彼女たちの会話を聞いてしまうのは悪い気がしたので先に一番遠くにある山田君の部屋に向かうことにした。
ピンポーン
インターフォンを鳴らすとすぐに、胸のあるパジャマ姿の山田君が出てきた。
山田「ぬぬ?何用ですかな?」
苗木「山田クン、起きてたんだね」
山田「もしや、苗木誠殿ですか?!ヒャッハーかわいい男の娘キタコレ!!……ということは、拙者のこの状態も事実……って事ですかぁー?!」
苗木「ボクを含め数人は食堂で安否確認してたから、ほかの人の様子も見ようって話になって……やっぱり君も?」
山田「そうなんです!気づいたらチチデカフィーバーですよ!!」
苗木「チチデカフィーバーて……(そういえば、ジェノサイダーはまだ見てないな……起こしたら厄介なことになる気しかしないけど)」
山田「おかげで服が伸びまくり!」
苗木「(もとから伸びてたなんていっちゃいけないよね)」
山田「所で……やはり苗木殿以外のほかの方々もモノクマにいきなりニューハーフにされたわけですか?」
苗木「うん、女子は男っぽい容姿に、男子は女っぽい容姿にされてるみたい……あくまで"っぽい"だけらしいけど」
山田「ナンカ、来た」
苗木「えっ?」
山田「僕も食堂へ向かいますぞ!皆さんのTS姿で、創作意欲がわくかもしれませんからね!」
苗木「てぃーえす?」
山田「性転換モノの事ですぞ。少々特殊な方面の言葉ですので、パンピーの苗木誠殿はピンとこないかもしれませんがね!」
チョットおぞましい言葉を残しつつ、山田君は身支度をすると言って部屋に引っ込んでいった。
苗木「……次は……桑田クンか…」
少し、足を進めるべきか戸惑ってしまった。
彼は、舞園さんと並んである意味この学園の生活を決定づけた人だからだろう。
恨んだりはしていない。恨むべきなのは黒幕だ。
それでも、顔を見るのが少し怖い。
彼の部屋の前まで来て、少し戸惑ってから、インターフォンを鳴らした。
ピンポーン
ピンポーン
……出ない?もしかして、一人で探索にでも行ったのかな?
ガチャッ
桑田「だ、誰だ?」
苗木「桑田クン?大丈夫?」
桑田「……なんだ、苗木かよ……」
ドアのスキマから目だけで確認してた桑田クンは、僕の姿を見るとようやくドアをきちんと開けてくれた。
桑田「っていうか……苗木だよな?ちょくちょくいろいろ違うけど……」
苗木「ボクもキミが桑田クンであってるかどうかちょっと確認したい感じになってるけど」
桑田「だよな。夢でモノクマに妙なこと言われて起きたら、これだもんな……苗木も似たような感じだろ?」
苗木「まあ、そうだね」
桑田「……オレだけだったらどうしようかと思ってたけど、他の奴もなんだな。ちょっと安心したぜ」
苗木「安心していいの?」
桑田「だけどさー、コレほんとどうすんだよ?こんなオカマじゃ舞園ちゃんおとせねーっての」
苗木「(チャラい部分が全然変わる気配がないけど……まあ、桑田クンだからしょうがないか)」
苗木「なんていうか……女子も、全員……オナベになってるそうだけど」
桑田「えっ?」
苗木「まだ全員見たわけじゃないけど、ボクは何人かと会ったから」
桑田「マジで? うーわー 男子でこれだけ変わってるってことは、女子もだよな?どんな感じだった?」
苗木「僕が直接会ったのは、霧切さん朝日奈さん腐川さんだけど
……霧切さんと腐川さんは髪が短くされてるって感じだったかな。朝日奈さんはその 胸が」
桑田「男のロマンが台無しじゃねーか」
苗木「ただ、それでも全員性別まで変わったわけじゃないらしいけど」
桑田「そこがおかしいよな?フツーさ、こんだけやるなら性別まで行けそうじゃね?」
苗木「流石に性転換を一晩では無理だったんじゃないかな」
桑田「いや、オレががっつり変わった自覚あるから言うけど、こんだけ見た目変えるのも普通一晩じゃ無理だぜ?」
苗木「それもそうか……もしかして、一晩だと思ったらしばらく寝かされてた可能性もあるのかな?」
桑田「かもしんないけどさ……頭どうにかなりそうだぜ」
苗木「ちょっと落ち着いたら食堂に来るといいよ。何人か集まってるし、ご飯も食べといたほうが良いと思うから」
桑田「分かった、しばらくしたら行くわ」
おもったよりもすんなりと、桑田君と話すことができた。
見た目が大きく変わっていたのも、アレを思い出さずに済む原因だったのかもしれない。
良かった……んだろうか?
桑田クンと別れた後、ボクは不二咲クンの部屋に向かった。
霧切さんはセレスさんの部屋の中に招かれているのか、廊下に姿は見えない。
……不二咲クン、どうなっているんだろうか。今までボクがあった人は全員「完全に真逆」にはなっていない。
例えば、高身長な大和田クンや十神クンは、多少背が低くなっているように感じても「女性としてみると高身長」のままだ。
そういう点から考えると……おそらく不二咲クンの容姿はさほど変わっていないはずだ。
それが予測できるからこそ、僕は彼にどんな顔をすれば、どんな態度を取ればいいのか、わからなかった。
無事だったんだ、よかった!……なんていったらまず間違いなく傷つけてしまうだろうし、
かといって些細な違いに気づいたふりをしてもそれは「男性から女性への変化」になってしまう。
いっそのこと、見た目でわかるぐらいにかわっていてくれたらいいんだけど……
ピンポーン
不二咲「はぁい……あっ。苗木くん?」
苗木「おはよう。不二咲……さん」
不二咲「えっ?その姿……えっとぉ……違ってたら悪いんだけどぉ……苗木くん、昨日までショートだったよねぇ?」
苗木「うん。夢の中でモノクマにニューハーフになるって聞かされて起きたら……」
不二咲「な、苗木くんもなのぉ?」
苗木「ボクだけじゃなくて、他の男子も女子のような姿になってるよ。女子は男子っぽくなってる」
不二咲「そ、そぉなんだぁ……」
不二咲クンの目が泳いでいる。自分の姿が、昨日までと変わらない事の言い訳を探すように。
苗木「見た目が凄く変わっている人とそうでない人がいるみたいだよ。
ボクもあまり変わってない方だし……不二咲さんも、変動が少ないほうだったんだね」
不二咲「! そ、そう!そうなんだぁ! あんまりかわらなかったから、その、変な夢だって思ってたんだよねぇ~
ただ、ほんとにそうなのかなって思って、シャワー浴びて確認してたらもうこんな時間に……」
苗木「そうなんだ。真面目そうな不二咲さんがなかなか起きてこないからちょっと心配してたんだ。
もう何人か食堂にいて、ほかの人も食堂に行くみたいだからさ、食堂にいって情報交換というか、状況の確認したほうが良いよ」
不二咲「そのために呼びに来てくれたの?ありがとぉ!もう出れるから、一緒に行こう?」
苗木「そうしたいのは山々なんだけどさ……このあと江ノ島さんにも声をかけに行くんだ」
不二咲「えっ?女の子に?」
苗木「朝日奈さんは大神さんに、霧切さんはセレスさんに時間がかかってるみたいだから」
不二咲「……じゃあ……わ、私……も、江ノ島さんをよぶの、付き合うよ」
苗木「いいの?」
不二咲「うん。姿が変わっているとなると、多分ほかの人に会うとびっくりしちゃうから…誰かわかってる苗木君と行動したほうが良いと思うんだぁ」
そう言って、不二咲クンはいったん部屋に戻り、部屋のカギを手にして再び出てきた。
鍵をかけるのを確認してから、ボク達は食堂側へと歩みを進める。
すると、目的の部屋……江ノ島さんの個室から、江ノ島さんとだいぶ違う見た目の人が出てきた。
苗木「えっ?」
江ノ島「ん……?あっ、苗木に不二咲じゃん。おっはよー」
不二咲「……江ノ島さん?!」
江ノ島「うん。モノクマの出てくる変な夢見て起きたら、男っぽくなっててさー。メイクもウィッグも似合わないから取っ払っちゃった」
そう言って、彼女は人懐っこい笑みでピースしてきた。
なるほど……あのピンクがかった金髪はカツラだったのか。
黒髪のショートで真ん中わけの江ノ島さんは、化粧でまつ毛を増量して無いせいもあってか、鋭い刃のようにも見える。
苗木「もしかして、似合う方法ないか試してて今まで時間かかってたの?」
江ノ島「そだよ。ていうかウィッグと化粧だけじゃなくって、服にも時間かかっちゃった。
予備の服にパンツルックの持ってきててよかった♪ていうかもーお腹ペコペコ。あんたらもまだ?一緒行く?」
苗木「ボクは、この状況でみんなが無事か声掛けに来た感じだったんだ。で、無事そうだったら食堂に集まるように言ってて」
江ノ島「ふーん……要するに目的地はいっしょなんでしょ?じゃ、いこっか」
そう言って江ノ島さんは、すたすたと食堂に向かって歩き出した。
ボクたちも、そのあとに続く。
ヒソヒソ
不二咲「……見た目が大きく変わる人もいるって苗木君言ってたけど、江ノ島さんの場合は……?」
苗木「……ニューハーフとかうんぬんよりも、化粧とカツラのせいって部分が大きい気がする」
コソコソ
3人で食堂に入ると、残していた十神クン葉隠クン腐川さんの他に、大和田クンと舞園さんがいた。
舞園「おはようございます」
江ノ島「うわー、ほんとにみんなかわっちゃってるじゃん」
十神「……まて、貴様誰だ」
江ノ島「江ノ島盾子だよ?ま、ノーメイクでウィッグなしだとより別人だって自覚あるけど」
葉隠「あ!江ノ島っちズボンだべ!」
舞園「私、スカートしか持ってきてなかったもので……足が太くなってるからあまり履きたくないんですけれど」
江ノ島「合うかわかんないけど、アタシの貸そっか?」
苗木「……そういえば服はかわってなかったね。山田クンもそれで不満言ってたし」
モノクマ「はい!というわけで」
苗木「うわぁあぁぁぁっ??!!!」
モノクマ「いやー、君の叫びはキレがあるねぇ。
ボクもさすがにちょっと反省はしているから、布とミシンを用意してやったよ!
服の改造や、新しい服が欲しい時は使ってね じゃーねー」
江ノ島「えー……そういうの全然無理なんですけど。精々穴閉じるのが限度だって」
舞園「私はちょっとできますよ」
そんな話をしていると、食堂に石丸クンを除く他の人たちもやってきた。
彼らに、モノクマの置いて行ったミシンと、山ほどある布地の説明をする。
セレス「あら、ミシンですか。わたくし、お洋服の手入れに使用することもありますわ」
山田「コスプレ衣装作成の経験が活きますな!」
十神「……服の事はいったんおいておくとして……だ。おい、苗木。石丸を呼んで来い。
全員と認識の共有をする必要がある。さすがにここで仲間外れにしておくわけにはいかないだろう」
苗木「またボクなの?」
十神「心配なら大和田もつけよう」
大和田「なんで俺があんな堅物呼びに行かなきゃいけねーんだよ!」
苗木「……わかった、ちょっと行ってくるよ」
朝日奈「グスッ うん、 ビグッ おねがいね」
舞園「何故朝日奈さんは泣いてるんですか?」
大神「それがよくわからなくてな……我が朝日奈の呼びかけに答えたら、泣きだして…」
朝日奈「気にしなくていいよ! へへへっ」べそっ
十神「キッチンでいいからとっとと顔を洗ってこい」
朝日奈「は~い」
朝日奈さんはキッチンへ向かい、僕は石丸君の部屋へと向かう。
かなり挙動不審だったから、出てくれるかどうか少し危ういかもしれない。
ピンポーン
ガチャッ
石丸「誰だ?!……苗木君か」
苗木「今、ほとんどの人が食堂に集まってるから、そこで少し話し合おうって事になってるんだ。石丸クンもおいでよ」
石丸「……ほとんど、とは?」
苗木「ボクと石丸クン以外全員だね」
石丸「……そ、そうか……ならば仕方ないな」
石丸君の様子がおかしい。学ランの胸元をぎゅっと手で押さえている。
確かに、食堂に姿を現したときも慌てていたみたいだったけれど、今はそれよりももっと明確に何かを嫌がっているような……
苗木「調子悪いの?顔色もなんか青いけど」
石丸「……まあ、そうだな。こんな姿で他者に会うのは、正直避けたい」
苗木「皆似たようなこと思っているはずだし、恥ずかしくても勇気を出していくしかないね」
石丸「……いや」
苗木「?」
石丸「おそらく……僕の懸念事項と君が思っていることはだいぶ違うな」
苗木「え?」
石丸「しかし、待たせているならば行かねばなるまい」
石丸君はそういうと、部屋から出てきて、左手で胸元を抑えたまま、右手で鍵をかけた
食堂に戻り、全員でテーブルを囲む。
葉隠「石丸っち、しきんなくていいのか?」
石丸「すまんが……少々調子が悪い。年長の葉隠君か、状況に対して冷静な十神君、霧切君に任せたい」
葉隠「霧切っち……」
霧切「残念だけど、私はあまり人に伝えるのが得意ではないの」
葉隠「……えーと、じゃあ十神っちパス!」
十神「何故最初に俺じゃなく霧切に任せようとした?」
江ノ島「仕方なくない?アンタすっげー態度わるかったし」
大和田「ま、この状況になってからはどうも微妙に改心してるっぽいけどな」
十神「チッ……まあいい。現状をまとめるぞ」
十神「今まで聞いてきた話を総合すると、俺達は全員目が覚める前にモノクマの出てくる夢を見ている」
葉隠「少なくとも、男子はニューハーフとして生きろと聞いたべ」
朝日奈「私はたしか……ねおはーふ?だったっけな。そんな感じに言われたよ。なんかマーガリンの名前みたいだよね」
セレス「ニューハーフは基本的に男性が女性の見た目になることをさしますの。
ネオハーフは女性が男性の姿に……ですわね。ニューボーイとも言われますわ」
苗木「(あまり知る機会のない言葉だな……なんでセレスさんこんなに詳しいんだろう)」
舞園「セレスさんが詳しいのは、ギャンブルでかかわった方々にそういう方たちもいらっしゃったからでは?」
苗木「?!な、なんで」
舞園「エスパーですから♪」
セレス「……舞園さんがエスパーかどうかは置いておきますが、正解ですわ。 それで、モノクマの夢は全員見ているのでしょうか?」
十神「見てないというやつだけ手をあげろ」
誰も手をあげず、一瞬シーンとした空気が流れる
十神「なるほど、全員夢でそう言われているのか。その点で、誰か気になることはあるか?」
桑田「所詮夢だろ……というには現実に変化があるのがな。モノクマに聞いたって仕方ねーとは思うけど理不尽な」
十神「モノクマはこの状況を起こした自覚がある様だぞ」
桑田「マジで?」
霧切「そういえば来たのが遅くて聞いていなかったわね。そっちのテーブルにおいてあるミシンと、近くの段ボールの山が証拠よ」
舞園「服の改造や、新しい服を作りたいときに使えって言っていましたね」
石丸「服の用意をさぼるとは、片手落ちにもほどがある!」
舞園「……まあ、服に関してはミシンもありますから、少しづつ何とかしていきましょう」
十神「そうだな。話を戻すが、夢でそれ以外に何か気になった点がある奴はいないか?」
十神君がそういうと、皆また静まり返った。ただ、僕はその中で、不二咲君が少しうつむいたのと、江ノ島さんがギュッと唇を結んだのを見てしまった。
どうしよう、追求しようか?
苗木「……江ノ島さん?なにかあったの?」
江ノ島「へっ? いや、特には……いきなりこんなことになったあげく"誰?"って聞かれまくったのにハラ立てただけ」
十神「確かに、江ノ島をはじめとして容姿が大きく変わった奴も多いな。少しまとめておくか」
そういうと十神君は、腐川さんに何か命じる。
腐川さんは走って食堂から出て行き、3分もたたずに、ノートとペンをとって戻ってきた。
十神「腐川、このまま書記を任せる」
腐川「わかりました白夜様!」
山田「様付け……?」
そこから、十神君が、いくつかの質問を重ねて言った結果、皆の変化は大体骨格と、髪型と、あと胸に関してだとわかった。
女子は全員少々骨格がいかつくなっているし、男子は華奢になっている。
どのように変化したかは言わなかったが、不二咲君も、肩幅が少し違うと言っていた。
髪型については、男子は殆ど髪が伸びている状態だ。
例外は髪型のせいであまりそう見えないだけで元々長髪の葉隠君と大和田君(不二咲君もだけど)
女子は逆に、大神さん以外は短くなっている人が大半だった。
江ノ島「ウィッグの下の髪型は変わってないんだけどね」
セレス「……私もつけ毛以外は髪の毛に関しては変わっていませんわね」
山田「ややっ?!そうなのですか?!」
江ノ島「実は黒ショート仲間だったんだね」
セレス「あまり知られたくはなかったのですが、変化の状態をまとめることは大事でしょうから」
十神「こんなところか……見た目が極端に変わったるのは、元からの偽りを取っ払った場合か、
もともとの状態が元の性別らしすぎた場合にそうなるようだな」
桑田「舞園ちゃんがイケメンになってて納得なようなショックなような……」
朝日奈「身長は、女子から男子になった子は少し伸びてて、男子から女子になった子はちょっと低くなってるでいいのかな?」
大和田「見た目が女になっただけで、俺はいまだに男だぞ」
朝日奈「あ!そっかそっか えへへへへ」
大神「して、この情報はなんに使うのだ?」
十神「各自のイメージの調整だ。現状の姿になっている以上、初対面の姿を連想して行動するのはまずい場面もあるだろう。
もっとも、こんなことをしなくても一発で誰かわかるような連中もいるにはいるがな……さて、今必要な情報のまとめはこのぐらいか?」
桑田「そうだな、他に話し合うような事みつかんねーっしょ」
十神「では、解散しようか……そうだ」
十神君はちらりと石丸君を見たが、そのまま皆に視線を戻してこう告げた。
十神「このような状況だ。昨日お前らを突き放したが、状況が状況だ。できれば親睦を深めたほうが良いだろう」
石丸「なるほど。状況としては確かに親睦を深めることは必要だな!」
十神「この件に関して何か……石丸。せめて言い終ってから手をあげろ」
石丸「すまない。 今の十神君の意見に合わせて、僕からは毎朝の朝食会を提案したいと思う!」
十神「反対する奴はいるか?」
セレス「かまいませんわ。それもまた適応に必要な事でしょうから」
舞園「私も、良いと思いますよ」
大和田「ったく、なんでいちいち顔つき合わせて食事なんて……」
不二咲「いいとおもうんだけど……だ、だめかなぁ……」
大和田「何でこっち見て言うんだよ……ったくしゃーねーな。わかったよ」
十神「きまりのようだな。それじゃあ、明日からやるとするか。今日は解散だな」
十神君がそういうと、皆ばらばらと席を立った。
数分後、残ったのはモノクマから「2週目」という情報を聞かされていた僕らだけだった。
互いに、顔を見合わせてからまた少し静まった状態になる。
苗木「ねぇ、十神クン、2週目の事は」
十神「……少なくとも、俺たち以外は2週目を認識していないと判断した」
霧切「それで間違いなさそうね。私も、舞園さんとセレスさんにそれとなく聞いた限りでは、2週目に関して心当たり無さそうだったから」
葉隠「言わなくてもいいんかな?」
朝日奈「……言ってもどうにもならないと思う。さくらちゃんも、私が泣いちゃった理由、全然わかってないみたいだったし」
腐川「モノクマが言ってたとおり……私たち以外はなんとなく死ぬ前を意識できる程度みたいね」
十神「人間関係に関しては、俺たち6人以外はほぼリセットされているとみて間違いないだろう」
葉隠「大和田っちの石丸っちへの反応とかな」
霧切「……少なくとも、今私たちが他の皆に説明しても、彼らに不信感を抱かせるだけね」
葉隠「……オラ達が不審に思われたら、せっかく記憶もってても事件をとめることが難しくなっちまうんだべな」
苗木「皆で外に出るためにも……ボク達は自分たちの一週目の事を隠す必要があるってことでいいのかな?」
腐川「……そうなるかもね」
十神「ここにいる全員、モノクマから"皆生きて脱出することが可能"と聞いているのか」
朝日奈「たぶんそうだよね?」
霧切「……となると、やはり今必要なのは、疑われないように注意しつつ、全員の結束を高める事ね」
十神「そのためにも先ずは、第一の事件となった舞園の行動阻止だな。苗木、できるだけ止めろ」
苗木「えっ」
朝日奈「苗木は舞園ちゃんと仲良かったからね。大丈夫!私たちもフォローするから!」
苗木「……うん、そうだね。 頑張ろう!」
モノクマ「うぷぷぷぷ」
江ノ島「……ちょっと遠くで微妙に聞こえないんだけど……あれは、何?」
江ノ島「……舞園さんが、どうとか…… あの6人、もしかして、裏で組んでる?」
江ノ島「注意、しておかなきゃ」
江ノ島「(モノクマに夢で言われたアレのこともあるし)」
そうそう、それから……君にあった役割と記憶も、ついでに消させてもらうよ?
うぷぷぷぷ……もうわからないと思うけど、君はそれを望んでいたからね!ぼくからのささやかなプレゼントだよ!
~モノクマ劇場~
モノクマ「やあやあ!レディースアーンドジェントルメン!!容赦なきメタネタの宝庫モノクマ劇場だよ!」
モノクマ「こちらのSSは、以前SS深夜速報で連載していたものの再始動となっております」
モノクマ「>>1が規制にひっかかってねぇ……オリジナルのSSのシメもそれでできなかったみたいだし」
モノクマ「えー、そんなわけでですね、現在はまだ内容的に再放送の部分となっております」
モノクマ「こういう与太話で区切ってる場所にボクが入り込んで当時の云々とか言い放つ感じだね!」
モノクマ「ああ、ちなみに、SS深夜でやってたころの奴を微妙に修正して投稿してあるみたいだよ」
モノクマ「主に一人称の違いとか誤字脱字とかその辺で修正入れてるけど、元々>>1が誤字脱字王だからそれでも間に合ってないみたい」
モノクマ「ふんわり脳内補正かけながら見てくれると助かるよ」
モノクマ「ああ、あと、基本的にこのスレはsageで書き込んでその日の書き込みもういいかなとか思った時に上げる方針でいきます」
モノクマ「それじゃあ、落ちる前のURLとか資料とかそういうの挟み込んでから続きをやっていきましょうかね」
苗木「強くてニューハーフ……?!」(過去ログ)
苗木「強くてニューハーフ……?!」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/internet/14562/1385683223/)
それぞれの見た目の現在想定しているもの。正直勢いで書いてるからいろいろ変わるかもしれないです。
・男子
苗木:髪が肩まで伸びて少し胸ができた程度。パーカーのせいもあって胸は外からだとあまりわからない。
十神:髪が背中まで伸び、胸がつつましやかにできてる。女子にしては長身。不二咲の次に変わってない。
葉隠:髪は変わらないが肩幅が狭くなり胸もある程度ある。無精ひげが無くなり少し丸顔になっている。
不二咲:かわらぬてんし。ちょっと肩幅が小さくなっている。
山田:乳が生えて腕が少し細くなり髪が伸びた。あいかわらずでっぷり。
石丸:髪が伸びて胸が結構できた。肩幅と身長は小さくなっている。眉根の寄り方がおとなしめ。
大和田:胸が結構できた。肩幅と身長は小さくなっているが女性としては大柄でたくましい印象。リーゼントセットせずに金髪パーマっぽくなってる。
桑田:ヒゲ消滅。髪が伸びてまつ毛が少し目立つ感じ。胸はほどほど。
・女子
女子のロマンはすべて削れている。
霧切:おさげ部分だけ残して髪はショートに。輪郭が少々男性的に&目が少しするどくなってる。
朝日奈:ヘアピンはしてるが後ろでくくってる部分が消滅した感じのショートに。肩幅ががっしり。乳はないが胸筋はある。
腐川:髪は短くなっているが、鎖骨程度の所まである。ひょろい男性っぽい感じに。
江ノ島:ほぼ残姉ちゃんの容姿。少し骨格が男性っぽくなっている。
大神:胸が無くなった。起きて胸が無くなった以外にあまり変化が無くて実はちょっと泣いた。
舞園:さわやか系ショート。身長は少し伸びて骨格も男性的に。
セレス:ツインドリルとって輪郭や肩幅等が少し男性的に。
大体こんな感じを想定してます。
基本的に局部には手を付けてない性転換みたいな感じです。
午前中はそのまま解散して、午後は自由行動することになった。
ボクはなんとなく自分の部屋や周囲を探してモノクマメダルを集める。
多分、またいろいろと必要になるんだろうな……いろんな人と過ごすとき、お世話になったっけ。
食堂でメダル探しをしていると、舞園さんがやってきた。
舞園「あ!苗木君!」
苗木「舞園さん」
舞園「何してるんですか?」
苗木「ちょっとモノクマメダルを探してるんだ」
舞園「あ、このメダルですね?差し上げますよ」
苗木「良いの?」
舞園「ええ、私はあまり購買部に行かないので」
苗木「ありがとう。なんだかんだいろいろ出るから集めといたほうが良いかなって」
舞園「もうそんなにやってるんですか?」
苗木「えーっと……(どうしよう、やったのは殆ど1週目なんだけど)」
舞園「……うーん……苗木君?」
苗木「何?」
舞園「なにか、隠し事してますよね?」
苗木「えっ?!何でそう思うの?」
舞園「エスパーですから」にっこり
苗木「冗談、だよね」
舞園「ええ、冗談ですよ♪ 話してくれないならそれでもいいですけど、ちょっとお願いがあるんです」
苗木「何?」
舞園「今朝はあんなことがあったからうやむやになってしまったんですけれど……護身用の武器になる物が欲しくて」
僕の脳裏に、あの事件が浮かぶ。
金箔のはげた模造刀、その鞘に残る刃物の後、荒れた部屋、そして
舞園「……苗木君?」
苗木「……そう、だね。探してもいいかもしれないけれど、その前に皆ともっと話して仲良くする方がいいんじゃないかな」
舞園「えっ」
苗木「……事件を起こしたいなんて気持ちの人、いないと思うんだ。少なくとも今は、自分の身の変化の方に手いっぱいだと思うし……」
舞園「で、でも、いつモノクマやモノクマを操ってる人に攻撃されるか……」
苗木「そんなことがあったら、ボクたちがみんなで舞園さんを守るから。そうやって守りあうためにも……今は武器よりも、話し合いの方が必要だと思うんだ」
舞園「そういうものでしょうか……」
苗木「もし不安なら、部屋も隣りだし、すぐに駆けつけるよ」
舞園「……ふふっ、そうですね。じゃあ、もしもの時はお願いします♪」
苗木「うん」
舞園「じゃあ、そうですね。ちょっと他の子達とも話してみたいと思います」
苗木「舞園さんなら、すぐみんなと仲良くなれそうだけど……頑張ってね」
舞園「はい!」
そう朗らかに笑うと、舞園さんは食堂から出て行った。
……少なくとも、これで模造刀がボクの部屋に来ることはない。
部屋を交換したとしても、桑田クンは反撃じゃなくてすぐに逃げるしかなくなる。
桑田クンが死んでしまう可能性もあるけれど、スポーツ選手だし、多分とっさに避けるぐらいはできるはずだと思う。
……できるといいな。頑張ってほしい。そういう風に思いつめる前に何とかするのが一番だけど、いざというときは彼の身体能力に賭けるしかない。
ボクが一通り散策を終えて食堂を出ると、ランドリーの前で江ノ島さんと舞園さんが何か話していた。
舞園さんはボクを見つけて軽く手を振ってくれたけれど、江ノ島さんはボクを少し見ただけでそれ以上の反応はなかった。
そのまま購買部へ向かう。
舞園さんからもらった分を含めて、5枚のモノクマメダルを使って5回回した。
苗木「新品のサラシ、インビトロローズ、ミネラルウォーター、子猫のヘアピン……うわっ、浮き輪ドーナツ出てきた」
浮き輪ドーナツは早々に朝日奈さんにプレゼントする事として、ほかはどうしようか。
思った以上に小物ばかりが出てきてしまった。
戦利品を眺めて思案顔をしていると、霧切さんが購買部を訪れた。
苗木「あれ?霧切さん?」
霧切「苗木君もきてたのね」
苗木「うん、仲良くなるのが優先ならプレゼントも要るかなって」
霧切「なにがあたったの?」
苗木「ここに並べてある奴だよ。浮き輪ドーナツは朝日奈さんにあげるとして、あとどうしよう」
霧切「……」
それらを眺めていた霧切さんの視線がインビトトローズで止まる。
苗木「じゃあ、これは霧切さんに」
霧切「えっ?!」
苗木「誰に渡すか決めてなかったから」
霧切「そんな……苗木君のくせに気を利かせるなんて生意気だわ」
苗木「ええっ?!」
霧切「……私とあなたはもう十分に仲がいいんだから、他の子に渡しなさい。女の子は大体これ好きだから」
苗木「うーん……いや、その情報で十分だよ。情報代ってことでうけとってよ」
霧切さんの頬が少し染まる。そんな風になるぐらい、人気のある物ってことなんだろう。
一周目の時に、誰に渡せばいいか思いつかずにとっておいたのが少しもったいなかったかもしれない。
霧切「……じゃあ、もう一個情報をあげるわ。そのサラシは石丸君にもってってあげるといいわ」
苗木「なんで?」
霧切「彼の午前中の様子を思い出せばすぐにわかるはずよ。そうでなくても持っていけば話してくれると思うわ」
苗木「ありがとう!さっそく持って行ってみるよ」
霧切「いいのよ……このままの状態だといろいろめんどくさいから……じゃあね」
霧切さんはまだ頬を少し染めたまま、少し早足で購買部を出て行った。
苗木「そうだ、購買部にもメダルあるかも……」
そう思って探すと、また1枚メダルを見つけた。
モノモノマシンに入れて回すと、速球大臣という球速を測る道具が出てきた。
苗木「……えーっと、これはたしか……」
記憶を引っ張り出す。確かこれと同じものを一週目の、このぐらいの時期に引き当てたはずだ。
その時は野球関連だからと桑田クンにプレゼントしたんだけれど、反応は良くなかった。
苗木「桑田クンには渡さないようにして……早速石丸クンの所から行ってみるか」
寄宿舎に戻り、石丸クンの部屋のインターフォンをならす。しばらくまっていると、石丸クンが顔だけちらりとのぞかせて出てきた。
石丸「また君か……どうしたというんだ?」
苗木「これ渡そうと思って」
そう言って、僕が新品のサラシを見せると彼は目を丸くした。
石丸「?! それは……本当にいいのか?!」
苗木「う、うん。そのために持ってきたんだし」
石丸「ありがとう! すまない、少し待っていてくれ。終わったらお礼をしたい!」
そう言いながら、石丸クンはサラシを受け取って、再びドアをしめた。
数分後、石丸クンが部屋から出てきた。もう調子は良さそうだ。
石丸「ありがとう苗木くん、本当に助かったよ!」
苗木「いや、なにもそこまで」
石丸「遠慮しなくてもいいぞ!そうだ、昼食はまだかね?なにかふるまおうではないか!」
苗木「も、もうたべたしいいよ。それに僕は霧切さんから、石丸クンにもってったほうが良いって聞いただけで」
石丸「霧切くんが?そうか、彼女には見抜かれていたか……では、後程彼女にも何らかの礼をするとしよう。まずは君だ」
苗木「ええっ」
石丸「茶でも飲もうか。僕の入れるお茶は美味いぞ」
僕は半ば強引に、石丸クンに食堂へと連れて行かれた。
石丸「さて、茶菓子の類は見つからなかったが……」
苗木「ちょっとお茶するだけだし大丈夫だよ」
石丸「本来ならば和菓子の一つぐらい用意したいんだが、この環境ではな」
苗木「だからいいってば」
石丸「そういうわけにもいかない。何か礼をとなると、この程度では」
苗木「(だめだ、話題をちょっとずつ反らさないと)……お茶おいしいね。ほんとにお茶入れるの上手だよね」
石丸「ははは、小さい頃にいろいろと教わってな。道具があれば茶を点てる事もできるぞ!」
苗木「へえ、なんというか、そういう趣味の世界の事にくわしいのはちょっと意外だったよ」
石丸「……たしかに、普通であれば趣味で触れることだな。幼い頃に、その勉強をする必要があったから今はもうやることはないが」
苗木「それも勉強だったんだ」
石丸「うむ。所で苗木くん、雑談はこのあたりにして何か礼になるような事はないかね?」
苗木「や、やっぱりそこに行くんだ?えーっと……じゃあ、お礼代わりに、なんでサラシが必要だったか聞いていい?ボクまだちょっとなんでかわかってなくって」
石丸「その程度でいいのか?」
苗木「うん、むしろそれで十分だよ」
石丸「そうか……実は、制服が着れなかったんだ」
苗木「えっ?」
石丸「肩幅なんかは余るんだが……胸囲が増えていたからな。無理やり留めても不恰好になるせいでどうしたものかと」
苗木「あ、だからサラシで抑える必要があるって事なんだね」
石丸「うむ。当初はタオルで何とかできないかとも思ったんだが生地が厚手で途方にくれていたんだ」
苗木「そっか、役だってよかった」
石丸「君のおかげだ!……そうだ、サラシはどこで手に入れたんだ?」
苗木「購買部のモノモノマシンで出てきたんだよ」
石丸「購買部か……あまり行く気のない場所だったが、少し行ってみる必要もあるな」
苗木「まだ他に困っていることがあるの?」
石丸「いや、予備を持っておいたほうが良いかと思ってな。有益な情報感謝する!」
石丸クンと話し終えて、一旦自室に戻ることにした。
だけど帰りがけに、桑田クンが不二咲クンに話しかけているのを見つけてしまった。
不二咲クン、なんだか怯えているみたいだ……
苗木「どうしたの?」
不二咲「あ、な、苗木くん」
桑田「ん?苗木か?なんか用かよ?」
桑田君明らかに面白くないって顔をしたな……
不二咲「そ、そのぉ……特に何かあったわけじゃないんだけど……」
桑田「不二咲チャンに夕食のお誘いしてただけだって」
苗木「えーっと、舞園さん気になってるんじゃないっけ?」
桑田「そ、その、それはだな……ちょっとまっててな不二咲ちゃん おい、こっちこい!」
桑田君につれられて、まだ空いていない倉庫前にひっぱられる。
桑田「おまっ、空気読めよ!口説いてるってことぐらいすぐわかるだろ?!」
苗木「いや、それにしたって心変わりはやすぎない?!」
桑田「しゃーねーだろ?女の子な見た目の女の子が不二咲ちゃんしかいねーんだから」
そうか、桑田君というか、不二咲クンが男の子だって知らない人からするとそうなってしまうのか。
でも、不二咲クンは女の子の格好をしてるけど、女の子として扱われるのは本当は嫌なんだよな……よし
苗木「不二咲さんはかなり人見知りするみたいだから、いきなり誘うのはまずいって」
桑田「ああ?」
苗木「実際、さっきも涙目だったし大神さんあたりに見つかったら……」
桑田クンの顔が蒼くなる。
苗木「あまりぐいぐい行かないほうがいろんな意味で桑田クンのためだとおもうよ?」
桑田「そ、それもそうだな……ありがとう苗木」
苗木「いいって。ボクも不幸なことになるのだけは嫌だから」
そこまで話して、不二咲クンの所に二人で戻る。
桑田「イヤー、ゴメンな不二咲ちゃん!さすがにちょっと強引だったわ」
不二咲「えっ、う、うん……」
桑田「あ、でもさ、仲良くなりたいっていうのは下心抜きでも本気だぜ?」
苗木「(桑田クンの下心抜きは全然信用ならない気がするんだけど)」
不二咲「えっ? そ、そう?わ、わたしも、お友達なら欲しいかなって……」
苗木「(不二咲クン……)」
桑田「マジ?じゃあさ、明日の朝食のとき席隣りいいかな?!」
不二咲「そ、そのぐらいだったら……えへへ」
強烈なカン違いがそれぞれに残ったままだけど、少なくとももう不二咲クンは恐怖を感じていないみたいだったから、二人を置いて自室に戻った。
夕食の頃合いまで、少しゆっくりしていようと思い、ベッドに寝転がる。
うとうとと、浅い眠りに入りかけていた時にインターフォンがなった。
ピンポーン ピンポーン
苗木「うぅん……?誰だろう……」
寝ぼけまなこを擦ってドアを開けると、舞園さんと江ノ島さんがいた。
舞園「あ、いましたね」
苗木「どうしたの二人とも?」
舞園「あのあと、苗木君は守ってくれるって言ってくれましたけどやっぱり不安になって……
江ノ島さんと一緒に護身具になる物を探してたんです。結局私たちに向くようなものはなかったんですけれど、
男子ならこれが使えるかもと思って、持ってきました」
そう言って、舞園さんは新聞紙に包まれた模造刀を、僕に差し出してきた。
舞園「…苗木君、どうしたんですか?顔が、青いですよ?」
キーンコーンカーンコーン
モノクマ『えー、夜10時になりました』
夕食の後、僕はモノクマの夜時間アナウンスが流れる中で、飾る羽目になった模造刀を見つめるしかなかった。
舞園さんと一緒にいて、彼女の行動を制限すれば良かったんだろうか?
……いや、たとえ今日をしのいだとしても明日、明後日、同じような状態になることも考えられる。
少なくとも「アタシも不安っちゃ不安だったしさ、探すことでまぎれるならそれでよくない?」と言っていた江ノ島さんがいるかぎり、
部屋の状況を再現してしまうところまでは避けられなかっただろう。
そうなると、僕はこの後どうすればいいんだろう?
……舞園さんが、殺人なんか思いつかないようにするというのは難しい気がする。
動機として与えられるDVDを見る前から、彼女は追いつめられていた。
仮に、動機DVDをみちゃだめだと取り上げたとしても、いずれ似たようなことが起きるような……
ぐちゃぐちゃになった頭の中を何とかするのをあきらめて、ベッドにもぐりこんだ。
ふと、目が覚めるた。
時計の針が午前3時を指している……喉がかわいてしまった。
たしか、ミネラルウォーターをモノモノマシンで当ててたはず。
そう思って探してみるけれど、無い。どこかに置いてきちゃったんだろうか。
夜時間の出歩き禁止をいきなり破るのもどうかとおもったけれど、
喉の渇きに耐えられずに、ボクは部屋を抜け出した。
苗木「えーっと、たしかランドリーに……ん?」
ランドリー内に誰かいるのか、中に明かりがともっていた。
苗木「誰か、いるの?」
江ノ島「あっ」
苗木「あ、江ノ島さん」
江ノ島「なんでこんな時間に?」
苗木「喉かわいちゃってさ……部屋の水道とまってるから、自販機使おうと思って」
江ノ島「……苗木さ、食堂にコレ忘れてたでしょ」
そう言って江ノ島さんはミネラルウォーターをテーブルに置いた。
苗木「あ!食堂に忘れてたんだ」
江ノ島「水分なんて大事なものを忘れちゃダメじゃん。そんなんじゃちょっとライフライン止まっただけでも生きてけないよ」
苗木「あはは…………江ノ島さんは何でここに?」
江ノ島「……私も、さっき目が覚めてさ。何となく服見たら金箔がついてるとこあったから洗いに来たの」
苗木「あの模造刀、金箔はがれやすいもんね……」
江ノ島「苗木が護身具探しに付き合ってればこんなことにならなかったのに……あのカーディガンお気に入りなんだよ?」
苗木「ご、ごめん……あ、じゃあお詫びにミネラルウォーターは江ノ島さんにあげるよ」
江ノ島「エッ?マジで?サンキュー! ……それにしてもさ。なんで舞園の誘い断ったわけ?」
苗木「……それは……舞園さんが不安なのって、まだみんなと仲良くなれてないからって部分が大きいと思うんだ。
もしも、っていうのを考えちゃうのは互いが分からないからだと思うし……だから、もし護身具を持ったとしても、きっと不安なのは変わらない」
江ノ島「そうやって 舞園の身の安全を守る物をもたせないでおいて 殺す気?」
苗木「えっ?」
江ノ島「……ま、やるとしても苗木ではないよね。できそうなのは十神とか、霧切あたりのわけわかんないやつらか」
苗木「ま、待ってよ江ノ島さん、何言って」
江ノ島「あ、乾燥とまった」
ランドリー内に、工程が終わったことを示すブザーが鳴る。
江ノ島さんは、赤いボタンのついたカーディガンを引っ張り出した。
そのまま、出入口まですたすたとあるいていき、そして彼女はこっちを見ずに只々冷たい声で言った。
江ノ島「一応、仲良くはしてあげるよ。表向きはね。でも、お前たちには何もやらせない」
苗木「えのしまさ」
江ノ島「舞園だけじゃないよ、他のやつを狙っても力づくでとめる……ギャルって意外と何でもできるんだよ。じゃあね」
混乱したボクを残して、江ノ島さんはランドリーを後にした。
しばらく呆然としていたけれど、喉の渇きを思い出して自動販売機から飲み物を手に入れた後、部屋に戻った。
一気に飲み干して、それから、また逃げるように眠りに落ちた。
……これで、いいのかな?
苗木くんに、敵対宣言のようなものをしてしまった。
本当なら、ひっそりと相手の出方を伺ったほうが良いのかもしれない
……だけど、そうするには相手の数が多すぎる。
私ひとりじゃ、6人もの相手がこっそり行動しているのをすべて把握するのは難しい。
私が真正面から攻撃されたならなんとかする自信があるけど、他の皆を守るのは……。
他の、狙われているであろう皆に手を組んでる連中がいることを教えるわけにもいかない。
多分、モノクマはそれを狙って私を食堂に導いたんだから。
モノクマ『やっほー』
江ノ島『いきなり人の部屋に出るとか、常識なさすぎじゃない?』
モノクマ『そう邪険にしないでよ……悲しいなあ、思った以上に絶望的だね』
江ノ島『何よ』
モノクマ『君の記憶を奪った分、ヒントをあげようと思ってね!』
江ノ島『私の記憶……ホントの話なの、それ?』
モノクマ『ホントだよ。キミはちょっと、いろいろ覚えてるとまずいことをおぼえてたからね!
その分、キミにだけ、他の連中が知る由もないとっておきのヒントをあげようと思うんだ』
江ノ島『そういう埋め合わせするぐらいならやんなきゃいいのに』
モノクマ『そういうわけにもいかないんだよね!
というわけで……ちゃーんと聞いてよね
"15人の中に、皆に内緒で手を組んでる連中がいて"
"そいつらは、皆に言うのがはばかられる内容を共有している"よ』
江ノ島『へっ?!』
モノクマ『いまちょうど、食堂で集まってるみたいだから見ておいでよ。じゃーねー』
そんなことを言われた私は……好奇心に勝てずに、食堂を見に行ってしまった。
そこにいた6人は、凶悪ではなさそうな人も含んでいて、私には本当に彼らが組んでいるかどうかよくわからなかった。
……だけど、注意しておこうと思った矢先に……舞園さんの身を守るための行動が拒絶された。
そうなると、もう疑いは止まらない。
あいつら、舞園さんをターゲットにする気なんだ。
それから順々にクロになっていって、一人づつ卒業していくつもりなんだ。
そのために、最初のターゲットと仲のいい苗木くんに、舞園さんを油断させる気なんだ。
……他のメンツはともかく、苗木くんは……いい人だろうって思ってたんだけどな。
とにかく、私がすべきことは、私に連中の目を向ける事。
私は襲われても返り討ちにできる。他の皆を、狙わせない事。
うん、悪くない。敵対宣言は悪くないよ。
私一人が、あいつらのヘイトを稼ぐだけでいい。
……でも、やっぱりいずれ他の皆と協力するためにも……表向きだけでも、仲良くはしておかないと。
ベッドの中で、再び目を閉じる。
誰も犠牲にしないことを誓いながら。
モノクマ「うぷぷぷぷぷぷ……記憶を消しても、残念なやつは残念だね!ぎゃっはっはっはっは!!」
キーンコーンカーンコーン
チャイムから続く、モノクマの朝のアナウンス。
ボクはそれで起きて、顔を洗って、食堂へ向かう。
すっかり調子のよくなった石丸クンと、昨晩あんなことを言った江ノ島さんが料理を並べていた。
石丸「おはよう苗木君!君も食事の用意を手伝ってはくれないか?!」
苗木「これは……?」
江ノ島「基本食べたいものをそれぞれ用意したほうが良いんだろうけどさー、やっぱ最初ぐらいは同じもののほうが良いんじゃないかって石丸が言い出して」
石丸「同じ釜の飯を食べるという行動は、互いの結束を確かめ合う効果もある!」
江ノ島「だから、炊飯器フル回転してご飯炊いているってわけ」
苗木「そ、そうなんだ。ボクはどうしたら」
江ノ島「他の奴ら呼んできなよ。味噌汁とか冷めちゃう」
苗木「でも、二人だと手が回らないんじゃ?」
舞園「私や不二咲さんもいますよ」
苗木「舞園さんも手伝ってたんだ。おはよう」
舞園「ええ、おはようございます♪」
江ノ島「ご飯作る方は一応人手足りてるから」
苗木「う、うん」
石丸「……まあ、多少寝起きが悪そうな面々もいるが、起こすのが苗木君ならばさほど問題はないだろう」
苗木「また気絶して午前中潰さないように気を付けるよ」
石丸「そういう時は遠慮なく叫んで呼んでくれたまえ!」
そう言われて、食堂を追い出される。
……多分、江ノ島さんは本当にボク達の事を警戒している。
ボクに対するあの言動も、本当に冷めることを懸念したというよりは、
食事の準備にかかわらないようにされたという感覚の方が強い。
皆を起こしに行くときに、江ノ島さんの事を話しておいたほうが良いんだろうか……。
そう思いながら、先ずは霧切さんの部屋のインターフォンを鳴らした。
霧切「要するに、苗木君が早々に迂闊な行動をやらかしたという事ね」
話しを伝えた直後の、冷静な霧切さんの一言が胸に痛い。
苗木「そうなるかな……部屋の状況とか、そういうのもとにかく片っ端から再現しないようにって思ってたんだけど」
霧切「……食堂で話し合っていた時に江ノ島さんに気づかなかった私達にも非はあるけれど……
苗木君、今後はできるだけ"好意を貰えそうな行動はたとえ事件の一部につながるとしてもあえてやる"という気でいて。
事件の阻止は、直接の原因をつぶしていく方向で行きましょう。……バカ正直の苗木君には難しい調整かもしれないけれど」
苗木「き、霧切さん怒ってる……?」
霧切「いきなり躓いたという部分に対しての憤りはあるけれど……苗木君がやらかさなくともいつかは似た状況になった気がするわ。
朝日奈さんも感情の調整は難しいだろうし、十神君と腐川さんも1週目のこの時期にはありえない関係性を見せてしまっている。
少なくとも、大神さんと山田君、反応に示してないけれどセレスさんも"何かおかしい"という違和感は持ってそうね」
苗木「そんなに……」
霧切「そんな中でさらに江ノ島さんの事を他のメンツに伝えるのは、少し危ういかもしれないわね
……彼らには私が呼ぶついでに話をしておくわ。
"疑いを持っている人がいるみたいだから、あまり6人で集まっているところを見せないほうが良い"ってね。
今後は一堂に会するのを極力避けていきましょう」
苗木「わかった」
霧切さんと手分けして、他の皆を起こした。
大和田クンが想像していた通り不機嫌だったけれど、殴られるようなことはなかった。
朝食会。
ご飯とみそ汁と卵焼きが並ぶ、簡素ながらに十分といえるメニュー。
一部とはいえ舞園さんや江ノ島さんが作った、女の子の手作りご飯だと思うと、なんだか嬉しい。
……正直なことを言えば、彼女達が女の子の姿だとやっぱりもっと嬉しかったかもしれない。
石丸「では合掌!いただきます!」
石丸クンの号令のあと、ばらばらと「いただきます」という声が上がる。
まだ眠そうな人も、もうお腹ペコペコと言った様子の人も、皆が箸をすすめる。
そんな中で、特に機嫌がよさそうなのは昨日不二咲クンとご飯を食べる約束を取り付けていた桑田クンだ。
桑田「えっ、このタマゴ焼き不二咲ちゃんがつくったの?マジでキレーにできてんじゃん!」
不二咲「えへへ……普段はやらないけど、舞園さんが教えてくれたから」
桑田「スゲー、ホントなんでもできんじゃん。いい奥さんになれるって!マジでマジで」
不二咲「ううん…………奥さんは、ちょっと……」
桑田「一生現役プログラマー目指す?いやー、もったいねーなー。ま、野球に比べりゃいつまでもできる事だろうけどさ」
不二咲「……まあ、そんな感じかな」
桑田「そ、そっか?」
桑田クン、何を間違えたのか考えようとしてるみたいだけど、たぶん間違えてるのは口説く相手の性別だよ。
ある意味明るいというか、能天気なやりとりに腐川さんが口を出した。
ただ、その第一声は、気のせいか少し棒読みのように聞こえた。
腐川「はぁ……なんかあんたらすっごい気楽そうねー」
桑田「ぶっちゃけさ、考えててもどうしようもなくね?」
腐川「あたしは今後どうなるか不安で仕方ないわ……」
不二咲「うーん……不安なのはもちろん私もあるんだけど……」
腐川「白夜様が来るんじゃなけりゃ、疎まれながら食事なんてしないのに」
桑田「そういやさ、なんかいきなり十神の事白夜様とか呼び始めたけどなんなの?」
腐川「…………私の次の小説に出てくる王子様役とイメージがピッタリなのよ。
しかも白夜様本当に王子様然としているし、そんな人を様付けで呼ばないなんて無理よ」
十神「……そうやって好きに呼ばせてやる代わりに、ある程度いう事を聞かせている。
ためしに昨日いくらか運用してみたが、この環境における手足としてはそこそこ便利だな」
桑田「なんかすげーアブノーマルな気がする」
腐川「ハッ……いう事を聞けば好きに呼ばせて貰える……い、いずれ"あなた"って呼ぶことも可能?!」
十神「食事と呼吸以外で口を開くな」
腐川「……」モキュモキュ
桑田「マジで言いなりだな?!」
不二咲「で、でもぉ……クラスメイトをそんな風に扱うのは良くないよぉ……」
十神「おい、俺に"でも"なんて意見するつもりか?……ッチ、思った以上にめんどくさいな」
十神クンは、以前聞いたような言葉を言いかけてから、不二咲クンから目線をそらす。
十神「好きに呼ばせる、という行動に対して対価を求めているだけだ。それでもあなたというのだけは絶対に嫌だがな」
桑田「仲よくなってんのかぜんぜんそうでもねーのかわかんねー」
十神「そういうお前らこそ、いきなり仲が良くなったようだが……まぁ、そっちは言わなくていい。だいたい察しが付く」
桑田「大体察しが付くってなんだよ」
十神「大方ナンパでもしたんだろう。不二咲はどう考えても押しに弱いから断れなかったと」
桑田「半分あってるけど半分ちげー」
不二咲「ナンパはされたけど、そういうの関係なく友達にもなろうって事だったから……あ、昨日投球フォームもおしえてもらったんだよぉ♪」
そんな事があったんだ……そうだ、速球大臣不二咲クンにあげたら喜んでくれそうだな。
かなり平和に朝食会は進み、食べ終わった人から食堂を出て行った。
一旦部屋に帰って休憩してから、モノクマメダル探しと交友を兼ねて体育館に移動した。
不二咲クンはフォームを教えてもらったことを嬉しそうに話してたから、もしかしたらいるかもと思ったんだけど……正解だったみたいだ。
体育館には、桑田クンと不二咲クン、それから何故か大和田クンと葉隠クンがいた。
葉隠「おー、苗木っちも体動かしにきたんか?」
苗木「うーん、いや、どっちかというとメダル探しが目的かな。葉隠クン達は?」
葉隠「オラは不二咲っちがちょいと心配になってついてきたんだべ。桑田っちは女泣かせらしーからな」
桑田「だから、こういう環境で手を出したりはしねーっての!」
苗木「(昨日いきなりナンパしてたのに?)そうなんだ。桑田クンと不二咲さんは朝言ってたやつだよね?」
不二咲「えへへ♪球はまだへろへろだけど、きちんとボールが飛ぶようになってきて、楽しくなっちゃって、今日も教えてもらうことにしたんだぁ♪」
苗木「いいことだと思うよ」
不二咲「だよね!体を鍛えるのって大事だもんね!頑張って大和田くんや大神さんのようになりたいなぁ!」
桑田「いやー、俺はちょっとそこまではおしえらんないけどっていうかせっかくかわいいのに」
苗木「大和田クンは?」
大和田「桑田に連れてこられたんだよ。見本見せたくてもキャッチャーいないからっつってな」
不二咲「おかげで、どういう風にすればいいかわかりやすくなったよぉ。ありがとう!」
葉隠「オラもちょいキャッチャー試したけど、球とる方もスタミナないときっついんだな」
桑田「ま、フォーム見せるための全力投球だったからしんどいだけだと思うぜ?試合の時は誰がバッテリーでもそこそこやれてたし」
苗木「試合は全力で投げてなかったの?」
桑田「毎回全力でぶん投げてたらいくら才能あっても肩壊すっての。一応キャッチャー経験あって丈夫なやつと組んでたけど……
そんな毎回全力しなくたって、バッターの苦手そうなとこに苦手そうな球種で程々に投げりゃ大体完封できる」
苗木「えっ」
葉隠「野球は読み合いも大事だかんな!才能があってバッシバシ完封すんならそういうことができるのも納得だべ」
大和田「日常にそれが生かされてる気はしねーがな」
桑田「あれ、割と俺が凄いってエピソードのはずなのにDISられてる……?」
苗木「あはは……あ、そうだ。不二咲さんの練習道具に良さそうだしこれあげるよ」
不二咲「これは……わぁ!球速を調べるものなんだ!」
苗木「数値で成長が分かれば、やる気にもつながるだろうから」
不二咲「ありがとぉ!よーし、さっそく……大和田くん!おねがいします!」
大和田「はいよ」
桑田「速球大臣なぁ……投げられてからミットに届くまでを単純に計算してるらしいから、細かくはみれねーんだよな」
苗木「使ったことあるの?」
桑田「手軽に女の子の気引けるからな!確か時速168kmぐらい出たかな」
苗木「すごいね……」
ぽーいっ
パシッ
大和田「ほれ、こんだけ出たみたいだな」
不二咲「……まだ桑田くんの半分ぐらいかぁ…まだまだだねぇ」
大和田「いや、そこまで早いの投げられるのはそんなにはいねーぞ」
不二咲「ねえ桑田くん、これ使って見せて!」
桑田「そうだな、ちょいいいとこ見せますか」
葉隠「色々隠す気ねーんだな」
桑田クンが、大和田君の構えるミットに向かって全力で投げる。
ミットで受ける音が、わずかに体育館内に反響した。
大和田「えーと……時速160キロか、さすが」
桑田「ハァ?!」
葉隠「えっ」
苗木「えっ」
不二咲「ど、どうしたのぉ?」
桑田「ちょ、ちょっとまて、もう一回」
そういうと、桑田クンはそれから何回か大和田クンに向かって投げた。
桑田「……マジでか……速球落ちてやがる」
不二咲「えぇっ?で、でも、じゅうぶん早いような」
桑田「何回か投げたんだけど、最高が160ってだいぶ落ちてる……くっそ、いままでハラ壊してても球速は出たのに」
苗木「……もしかして、体格が変わったせいかな?」
桑田「あっ……そうか、そういや確かに肩とかだいぶ」
大和田「それでも160出るってどういうことだよ……単車でも勝負のときぐらいしかそんなんでねーぞ」
葉隠「なるほど、容姿が変わるってのは運動系の才能にだいぶ影響でるんだべな」
苗木「朝日奈さんもタイムとかかわってたりするのかな?」
葉隠「……プールあいてねーし、多分わかんねーままじゃねーべか?」
桑田「くそっ、地味に悔しいな」
不二咲「で、でもぉ、十分凄いことだよぉ」
桑田「へへ……ありがとな不二咲ちゃん……うーん……けどわりい、オレちょっと部屋に戻るわ」
桑田クンはそういうと、少し落ち込んだ様子で体育館を出て行ってしまった。
葉隠「……野球嫌いっつってた割には結構な落ち込みっぷりだったべ」
苗木「うーん……確か桑田クンが野球嫌いなのって練習が嫌いって部分が大きかったような」
不二咲「あ、たしかに練習は絶対しないっていってたよぉ」
大和田「あれで衰えたっていうのも大概だけどな」
不二咲「……ちょっと、心配だな。……私達も戻ろうか?」
大和田「そだな」
葉隠「苗木っちは散策だったっけ?んじゃな」
ボク以外の面々は、体育館を後にした。
苗木「……ほんとにもう、どれもこれもモノクマが」
モノクマ「あれれ?ボクのせいですか?」
苗木「うわあ?!」
モノクマ「ひどいなあ、出てくるたびショック受けられるとさすがにボクもへこんじゃうよ?」
苗木「勝手に凹んでればいいだろ」
モノクマ「んもうつれない。ボクたちは秘密を共有する仲間じゃないか」
苗木「どこがだよ。完全に敵じゃないか」
モノクマ「んもう照れちゃって……そうそう、忘れてそうだから言っておくけど……明日はお楽しみの動機タイムだよ」
苗木「?!」
モノクマ「精々、好感度アップのために駆けずり回るといいさ!うぷぷぷぷ」
苗木「……ボクに助言するなんて、何が目的だ?」
モノクマ「いやいや、目的だなんてそんな……強いて言うなら、今この状況が目的かな?んっじゃねー!」
苗木「あっ?おい?!……なんだったんだ?」
体育館を一通り探したあと、僕は校舎の方に戻った。
ちょうど、購買部で飲み物を買っていたらしい葉隠クンと遭遇した時に、モノクマの意図を理解した。
葉隠「お?苗木っち一人?」
苗木「うん、そうだけど」
葉隠「江ノ島っちとは一緒に行動しなかったんだな」
苗木「えっ?」
葉隠「体育館前でうろうろしてたんだべ。体育館にもそこにも用事があるわけじゃないって言ってたから、苗木っちさがしてたんかと思ったんだべ」
つまり、江ノ島さんがボクの事を怪しんでつけていた……という事だよな?
モノクマは、敢えてボクとモノクマが喋っているところを江ノ島さんに見せる気で……
葉隠「苗木っち、顔怖いべ……」
苗木「モノクマに嵌められた…」
葉隠「あ、もしかして霧切っちに言われた怪しんでる人がいるっての江ノ島っちの事だったりしたんか?」
苗木「……うん」
葉隠「アチャー……大和田っちと不二咲っちと一緒に食堂行ったらどうかって言っときゃよかったべ」
苗木「ムリに遠ざけても難しいと思うし、なんとか誤解は解きたいんだけど……今ガツガツ行くのも難しいかな」
葉隠「んー、まあ、オラはいつも通りにしとくことにするべ」
苗木「葉隠クンは疑われてるって知っても大丈夫なの?」
葉隠「モノクマのやつ言ってたろ?みんな揃って脱出することもできるってな。
それがわかってんだから、多少疑われても余裕だべ。コロシアイさえ起きないようにすりゃいいんだからな。んじゃ、オラは戻るべ」
苗木「うん」
葉隠クンの、ある意味飄々とした余裕っぷりに少しだけホッとした。
そうだ、全員生きて出る。目標はあくまでそれだし、江ノ島さんも勘違いしてるとはいえ人死にを出さないというのが目標だ。
モノクマに言われた、明日は動機が来るという言葉や、勘違いが深まったと思われる点は気になるけど……まだ何も悪いことは起こってない。
過剰反応する必要は、無い。
いったん部屋に戻って、それから次にどうするか考えた。
江ノ島さんの疑いが深まってしまったことは霧切さんに伝えておいたほうが良いかもしれない。
だけど、むやみに霧切さんに接触しに行っても良いことはないだろう。
迷った挙句、ボクは食堂にきた。
朝日奈「あ!苗木だ!」
山田「しかし、苗木殿は食堂に常にいるキャラでもありませんぞ?」
大神「問題あるまい、いるときの交代役をやってくれるだけでもだいぶ余裕が出る」
苗木「……何の話?」
朝日奈「あのね、私とさくらちゃんで、包丁を見張ることにしたの!それで、話聞いた山田君も手伝ってくれるんだって!」
山田「拙者も食堂にはよく来ますのでね~♪」
苗木「包丁の見張り?」
朝日奈「そ。包丁だけじゃないよ!調理室にある道具のリストを作って、交代で見張るの!
こういうのをしっかりしていれば、みんな変な気もおこさなくなるし!」
大神「……ある程度の規律を設けるというセレスの言も、こうしてみると利があるようだな」
苗木「で、時々はボクにも見ておいてもらいたいって事だね」
山田「そうなりますな。本当は全員で当番を組んだほうが良いのかもしれませぬが」
朝日奈「あまり食堂に長くいない人とか、部屋でゆっくりしたい人に強制するのもね」
大神「故に、食堂にいることの多い我らでとおもったのだが、さすがに3人では心もとなくてな」
苗木「もちろん手伝うよ」
朝日奈「やった!」
山田「あとは、他に真面目そうな人にお願いしてもいいかもしれませんな」
包丁の見張りについて話した後、軽めの昼食をとった。
少しお茶を飲みつつゆっくりしていると、やはりまだ本調子ではなさそうな桑田クンが食堂にやってくる。
苗木「桑田クン、大丈夫?」
桑田「んー?ああ、まあ、大丈夫っていうか心配されるようなことも特にねーって」
苗木「そうかな、調子が悪そうに見えたけど……」
桑田「……よし、首突っ込むってんならそのまま話聞いてもらうぞ?いいな?」
苗木「ボクで良ければ」
桑田クンは、適当につくってもってきた丼を前にしつつぽつりぽつりと、話してくれた。
桑田「野球なんて、やらされてるだけのもんだって思ってたのによ
……才能があるってのも、野球に縛り付けられるだけだって思ってたのに
球速落ちてるって知ってさ、なんかこう、自分の持ってる大事なモンが抜け落ちたように思えたんだ」
体育館でも言われていたけれど、本当なら今の彼の能力も野球選手としてみれば化け物じみているはずなんだけど
それでも、本人が感じることのできる能力の低下は恐ろしいものなんだろう。
苗木「何とかここを出るにしても、きちんと黒幕に戻してもらわないとね」
桑田「そうなんだよなー……変な話聞かせちまって悪かったな」
苗木「いいって。話ぐらいならいくらでも聞くから、また何かあったら言ってよ」
そう言って、食事を終えた桑田クンを見送る。
彼の下げ忘れた食器を調理室に戻すついでに、小一時間ほど包丁の見張りをしてから部屋に戻った。
苗木「……そうだ……一応、明日は動機DVDの日らしいし……対応かんがえないと」
そう思い至ったのは、午後7時を少し過ぎたぐらいの時だった。誰に話すかと考えて、十神君の部屋の前に来た。
ピンポーン
十神「何者だ?」
苗木「ボクだよ、十神クン」
十神「……入れ」
苗木「お邪魔します」
十神君の部屋に招かれるのは何気に初めてかもしれない。
十神「何の用だ?」
苗木「モノクマに言われたんだけど……明日は動機DVDが来てしまう日らしいんだ。何か、対策したほうがいいよね?」
十神「……そうだな、外の様子を見れるというふれこみで見せてくるはずだが……」
苗木「ホントなら、全員分のDVDを割るとかしたほうが良いと思うんだけど」
十神「唐突にそういう行動に出るのはよしたほうが良いからな……いや、腐川と朝日奈にやらせればいいか」
苗木「えっ?」
十神「多少ヒステリーを起こしたり混乱して物に当たったりしても問題なさそうだからな」
苗木「えー……」
十神「壊しきれない分に関しては、お前が"こんな物見ちゃだめだ"とか言ってすがればいけるだろう。それでも見る奴は見るだろうが」
苗木「……うん、わかった」
十神「醜く縋れと言っているのに素直だな」
苗木「……結構、後悔しているんだ。ボクはあの時、皆に見せてしまったから」
十神「……内容に変更がある可能性も考えたほうが良い、最初にお前らに自分の分を見せて、それでのちの行動を判断させるという事でいいか?」
苗木「わかった」
十神「俺はこれから夕食をとりにいく、朝日奈や腐川には俺から伝えておこう
霧切と葉隠への根回しはお前に任せる」
苗木「うん……そうだ葉隠クンに皆をちょっと足止めしてもらったほうが良いかもしれないね」
十神「そのあたりは霧切と詰めろ」
ぼくらは、十神君の部屋を出て、それぞれの目的地へと向かう。
僕は霧切さんにまず今日あったことと、明日の予定を伝えて、
そのあと葉隠クンに明日DVDを見るときに「先に苗木っちにみてもらってから」等と言って足止めしてもらうことを伝えた。
上手くいくだろうか?
モノクマの事だから、以前と全く同じという事はないはずだ。
変わってしまった部分をしっかりと把握しておかないと……
夕食をとって、自室に戻る。
モノクマアナウンスが流れるより前に、ボクは夢の中に落ちて行った。
キーンコーンカーンコーン
朝のモノクマアナウンスで目が覚める。
顔を洗ってから食堂に行くと、もう真面目な人たちは朝ごはんの準備を整えていた。
石丸「おはよう!」
苗木「おはよう」
舞園「おはようございます、苗木くん。今朝からは個人で用意するみたいですから、早めに作ったほうが良いかもしれませんよ?」
苗木「そうだね、自分の食べる分は確保しとかないと」
調理室に移動すると、大神さんと朝日奈さんがいた。
大神「おはよう」
朝日奈「苗木、おっはよー」
苗木「おはよう」
朝日奈「いやー、言いだしっぺだから朝の見張りやることにしたんだけど、うっかり寝過ごしそうになってさくらちゃんに起こしてもらっちゃったよ」
苗木「朝一番の見張りはわりときついかもね」
朝日奈「あ、でも昨日の夜に石丸とか不二咲ちゃんにお願いしたから、明日からは朝の交代ももちまわりだよ!」
苗木「……石丸クンに話しちゃうと、全員でやるべきとか言いそうだけど」
大神「そのあたりは我が抑えた。やる気のない見張りでは意味が無い、ということを説いたら理解してもらえたようだぞ」
そんな話をしながら、自分の分の朝食を作り、食堂に戻った。
しばらくたつと大体の人が集まったけれど、腐川さんがどういうわけか遅れていた。
十神クンが明らかにイライラしている。
誰か呼びに行くかという話が聞こえ出したあたりで、ようやく彼女は、彼女でない彼女の状態で姿を現した。
翔「グッモーニンみなさーん!!意外と家庭的な殺人鬼でーっす!」
十神クン以外のほとんど全員の動きがピタリと止まる。
十神「遅いぞ腐川、俺の分の朝食が冷めるだろうが」
翔「あららん?そーいやゴハンってみんなで食べるんだったっけ?メンゴメンゴ、てへぺろ♪」
霧切「……ええと、腐川さん?どうしたのかしら?」
翔「あれー?あ、そうだったそうだった 自己紹介が必要だったのよね?イヤン忘れてたー
超高校級の文学少女腐川冬子改めぇ~~"超高校級の殺人鬼"ジェノサイダー翔でぇっす!」
ハイテンションのまま自己紹介を行うジェノサイダー翔。
だけど、ボクを含めた殆どの人が、その現実についていけなかった。
殺人鬼、という単語を真っ先に理解したのは江ノ島さんだったらしい。
普段の人懐っこい笑顔からは想像できない、感情を削ぎ落した視線でジェノサイダーを見つめ、いつでも移動できるように椅子から腰を浮かせている。
翔「えーっと、で?誰が誰よ?なんかほんとにみんなオカマとオナベになってない?
ダーリンがカツラ被っただけじゃないのねホントに?イヤン萌える!男子全員男の娘!」
十神「俺が解説してやるから席につけ……というか、ジェノサイダーではなく腐川で来いと言ってあったはずだが」
翔「しかたないじゃーん?あいつ落ちた原稿用紙踏んづけて転んでさー、ほらここ、血でちゃったのよ。んで気絶」
十神「……まあいい。どうせ真実を話すんなら当人がいたほうが楽な部分もあるからな」
大和田「おい……どういうこったこれは」
石丸「……は、はは……殺人鬼?悪い冗談はよしたまえ腐川くん…」
十神「本来ならば、一通り食事が終わった後に紹介というか伝える気だったが……腐川冬子は、殺人鬼のジェノサイダー翔でもあるらしい」
翔「そのとーーーりっ!!!ワタクシ、ジェノサイダー翔と、腐川冬子は多重人格の裏と表の関係にあるのでーす♪
世界は裏と表で構成されているのです!野球の九回裏に九回表があるように、夜の裏に昼があるように、
影のようなネクラの裏にはっ太陽のような朗らかさがあるのでぇ~っす!!ギャッハッハッハッハ!!!」
ってわけでぇー、アタシもごはんたべていい?あ、ダーリンと一緒のが良いな♪」
十神クンの方に歩みをすすめるジェノサイダーに向かって、十神クンはいつの間にやら持っていたコショウを振る。
ジェノサイダーがくしゃみをして、そこには、なぜ呆然とした視線を向けられているのかわかっていない腐川さんが現れた。
腐川「えっ? な、何?なんであたし、ここにいるの……?」
十神「お前がジェノサイダーだという説明は行った。とっとと席につけ」
腐川「……もしかして、あいつかってにここに?」
十神「席につけ」
腐川「はいっ!」
席についたもののご飯が用意されていない腐川さんに、少し多く作り過ぎたという朝日奈さんがおにぎりを渡す。
しばらく硬直していたものの、石丸クンがふと我に返ったかのように号令をかけて、異常な空気のまま朝食会が始まった。
本来なら雑談があってもおかしくないのに、しんと静まり返っている。
その中で口火を切ったのは、不二咲クンだった。
不二咲「あ、あのぅ……本当、なの?多重人格って……?」
腐川「……本当よ……しかも、しかもその多重人格のもう片方があんなのとか……そりゃ引っ込みじあんにもなるっての」
桑田「……まあ、じっさい演技でできる範囲でもねーんじゃないか?……舞園ちゃん、ドラマもやってたし演技かどうかとかわかんね?」
舞園「えぇっと……その 演技の範囲ではない、というのに、賛成かもしれないです」
セレス「普段から自身に嘘をついておく、という方法で演出することも可能ですが……彼女にそこまでの嘘がつけるスキルはないかと」
山田「えー、しかし……殺人鬼という存在である以上、危険視はすべきかと」
十神「昨晩こいつから、自分の中にいるという殺人鬼の話を聞かされた時は俺もそう思ったが
……殺人鬼と言う以上、単に閉じ込めるだけでは難しい部分もあると俺は判断した」
腐川「……実際、殺人鬼を外に出さないようにって、厳重に引きこもったこともあったんだけど
……無理だったわ、たまったほこりでくしゃみして、次に気づいた時には外に出てたもの」
十神「この話も聞いてあったからな、とっとと正体を明かさせる事にした」
不二咲「……腐川さんがジェノサイダー翔だってことは……その、すくなくとも今回の黒幕ってジェノサイダーではないんだねぇ?」
腐川「……あたしが黒幕だったらそもそも自分の姿なんて現さないわよ」
不二咲「だよねぇ……昨日の夜、ちょっと考えて、こんなことできるのって例の殺人鬼ぐらいじゃないかって思ってたんだけど」
十神「腐川が一介の女子高生である以上希望ヶ峰を占領するだけの武力も、救出を遅らせるだけの権力も持たないと思うのが筋だろうな」
山田「えぇと その 腐川冬子殿、ジェノサイダー翔の制御は無理なのですか?」
腐川「ムリね……できてたらここまで私の性根も歪んでないっての」
桑田「性根歪んでる自覚あったのか」
腐川「ふんっ……お見通しなんだから……ブサイクって思われてる事や、だから見ていつからかおうか隙を伺ってるんだってことぐらい……!!
そんな目されてたら誰だって性根ゆがむわよ!」
十神「その件に関しては半ば被害妄想だぞ」
腐川「白夜様が特に必要のないあたしの言葉に相槌をうってくださった……?!」
桑田「……まあ、あのジェノサイダーとかいうやつが出てきてる時だけ警戒すりゃいいって事だよな」
十神「そうなるな。話を聞く限り、腐川がくしゃみした時か気絶したときに入れ替わるようだ」
大神「ふむ……では、調味料から腐川は遠ざけておいたほうが良いかもしれぬな…」
ジェノサイダーに対する反応は、言葉で現れる分にはこのぐらいだったけれど、
それぞれの様子を見ていたらどの程度受け入れられているかの傾向はつかめた。
一週目でジェノサイダー翔の正体を知ることができた人ほど、彼女への拒絶が薄い。
積極的に話そうとしている桑田クンも、まるで怖いものをよくわからないまま放置するのが怖くて喋りかけているようだった。
もっとも、彼とそれにつられたのか不二咲クンに関していえば、ジェノサイダーが出た時に逃げればいいというあたりに落ち着いたみたいだけど。
ここでも困ることになるのは舞園さんと江ノ島さんの二人に関してみたいだ。
……まあ、仕方ないかな。彼女たちは極初期の犠牲者で、舞園さんに関していえば学級裁判すら知らないままだったし。
ピンポンパンポーン
モノクマ『えー、オマエラに朗報です! 外の世界が気になっているお前らへの"動機"を用意させていただきました!』
モノクマが校内放送でそんなことを言う。一週目と伝え方が変わっている気がするけれど、これはどういうことだろう。
モノクマ『それと同時に、2階解放のためのゲームを開始します。ルール説明のため体育館へ集まってください。ハリーハリー!!』
モノクマのつづけた言葉に、葉隠クンが背伸びをして真っ先に食堂の出入り口に向かった。
葉隠「んじゃいくか!よーやっとコロシアイ以外のレクリエーションがきたみてぇだし、とっととやっちまって出してもらうべ」
腐川「ハァ?!あんたまだレクリエーションとか言ってんの?!姿そんなに変えられてんのに?!」
葉隠「いやいや、希望ヶ峰って才能持ってるやつの集まりなんだろ?深く突っ込んだら負けだと思うべ」
石丸「……レクリエーションかは置いておくとして、僕らも行こう」
残ったご飯を皆大急ぎでかき込んで、体育館へと向かった。
行く途中に尋ねると葉隠クンはどうも、あえてレクリエーションと思っていたことを引っ張り出してきたみたいだ。
みんな揃ってここを出られるなら、悪趣味でも絆を深めるためのイベント的な物だろうと笑っていた。
流石にボクはそこまで軽くは考えられないけれど……まあ、いいか。
体育館に到着すると、入学式の時のようにモノクマが演台の上に飛び出してきた。
モノクマ「グッモーニンおまえら!」
苗木「いいからとっとと説明しろよ」
モノクマ「あらら?苗木くんてばせっかちだねぇ?せっかちな男は嫌われるよ?そこの大和田クンとかみなよ、焦って大声出すから女子ににげられて」
大和田「なんでてめぇがその話知ってんだよ?!黙れ!!!!」
不二咲「ひぅっ?!」
桑田「おいおいおい、あんま大声出すなよ。不二咲ちゃんビビってんじゃねーか」
大和田「チッ」
モノクマ「ま、大和田くんの10連敗は置いといて 校内放送でも言った通り、2階解放のためのゲームを開始します!」
大和田「まだいうかテメェ!!!」
石丸「抑えたまえ大和田君!いくら信用に値せぬクマのぬいぐるみといえど先生の話は静かに聞くように!」
モノクマ「うぅっ なにげに結構ひどく言ったね? まぁいいけど、ボクってばこの憎らし可愛さと飄々っぷりで人気なんだしね!
えーってなわけで 今回のルールをぷりんとにまとめたんでもってけドロボー!」
モノクマはそういうと、A4程度の大きさの両面印刷されたプリントをボク達の方に投げてばらまいた。
拾い上げたプリントを、モノクマのイラストについた吹き出しの番号順に内容を読み進めて行く。
モノクマ<1♪
オマエラには正午より「タカラサガシ」を行ってもらいます。
探すオタカラは「校舎2階シャッター及び1階の一部の鍵」および「希望ヶ峰脱出クイズ」です
鍵は探索に必要です。クイズは内容を見ればわかります。
モノクマ<2♪
タカラサガシのヒントは、外の世界に関係するかもしれないDVDの中に映像の一部として入れてあります。
皆ヒントがちがうからきちんとみないとだめだよ?うぷぷぷぷ
モノクマ<3♪
オタカラは24時間たっても見つからない場合自動的に消滅します。
モノクマ<4♪
タカラサガシ中は、夜時間になっての立ち入り禁止制限と水の停止が解除されます。
モノクマ<5♪
24時間中にコロシアイが起きた場合、オタカラは両方ともオマエラにプレゼントいたします。
……要するに、「動機を見せない」という防御策は無駄になるということか
モノクマ「ちなみに、現在タカラサガシのための準備中だから正午までみんなここに残ってもらうよ!」
セレス「仕方ないですわね……」
舞園「ヒントのやつだけでも先に見せてもらうわけにはいきませんか?」
モノクマ「ダメダメ、そういうずるはしちゃいけません。テスト解くのに問題文だけ先に読ませてくれなんて主張が通るはずないでしょ」
十神「ヒントか、全員ヒントが別と言うことは、協力しなければならないということでもありそうだな」
葉隠「そういやそうか……ん?だったら誰か一人にヒント全部見てもらって解いてもらえば」
モノクマ「コラーッ!!そういうずるいの、先生はみとめませんからね!!ちゃんとみんな自分の分ぐらいは見るように!」
霧切「……しかし、他の人のヒントを見ること自体は禁じないのね?」
モノクマ「そうなのです。ヒントをばらけさせた以上協力プレイ必至だからね!
逆に言うと、映像を見せることが弱みになる奴はとっととヤっちゃおうね!」
大和田「ハァ?何言ってんだこいつは」
モノクマ「うぷぷぷぷ……ぼくは結構容赦なくせめてくからね?」
モノクマがやたらと意味深長なことを言う中、時計が正午をさした。
モノクマ「それでは、ゲームスタートぉ!!さあさあオマエラ、視聴覚室へレッツゴー」
みんなで視聴覚室へと向かう。
……正直に言うと、舞園さんにあの映像をまた見せる羽目になることが心苦しかった。
今は一見男子に見えるけど、心は以前の舞園さんと同じはずだ。
他の人たちもボク自身も、変わったのは所詮見た目だけ……というのは違うけど心は大きく変わっていないはず。
受けるショックも、同程度だと考えるのが自然だ。
視聴覚室につくと、すぐ目の前に段ボールがあった。
各々の名前が書かれたDVDを手に取り、再生を始めた。
ボクのDVDの内容は……一週目とほとんど同じ、家族からのビデオレター。
それがモノクマのナレーションで切り替わり……
苗木「~~~っ~~~!!!」
凄惨な部屋の様子が映し出される。
割れた窓、ライオンか何かでもあばれまわったかのように引き裂かれたソファ、真ん中からへし折れたテーブル
見たくない。いくらコロシアイの記憶があったって、家族の事が心配にならないわけがない。
だからって、人を殺そうとは思わないけれど……叶うことなら、ボクだって事実を知りたい。
できれば、こんなことは嘘だった、と思えるような事実が……
画面が「正解は卒業の後」というテロップに切り替わる。
それから少し経つと
「ヒントコーナー」という、テロップが出てきて、さっきボクが見てショックを受けた荒れた部屋が再び映された。
ただ、この映像というか……画像はパッと見でおかしい所があった。
なんというか、さっきの状態と違う。
観葉植物なんて、置いてなかったような気がするけれど、ソファの後ろに途中からぼっきりおれた観葉植物がある。
それ以外にも……
画面を注視しようとすると、そのまま映像が終わってしまった。
ヘッドフォンを外して、呼吸を整える。
先ずは落ち着かないと。きっと彼女は取り乱す、落ち着かせないと。
舞園「……い……や」
舞園さんが飛び出そうとするのを、先回りして止める。
苗木「舞園さん、おちついて!」
舞園「お、おちつけるわけ おちつけるわけないじゃないですか!!!!!」
彼女の悲鳴に似た声が、視聴覚室に響く。
殆どみんなが、少し青ざめた顔で、それでも特に取り乱している彼女に注目していた。
苗木「舞園さん、おちついて……ボクだって、ボクだって家族の事は心配だけど、今取り乱してもどうしようもないよ!」
江ノ島「……舞園、今は苗木の言う通りだよ」
舞園「江ノ島さん……」
江ノ島「ここから出るための協力なら、アタシがいくらでもしてあげるから……」
舞園「……出られるん、ですか?本当に出られるんですか? いつ?いつですか?いつのことなんですか?!!」
舞園さんは、恐怖を僕ではなく江ノ島さんの方にぶつけだした。
悲鳴じみた声が、光を失っている目が、彼女が冷静さを明らかに欠いていることを示していた。
舞園「うっ ううっ……」
そのまま泣いて、崩れ落ちそうな舞園さんを江ノ島さんが抱き留める。
霧切「……江ノ島さん、その子の事、任せてもいいかしら?……貴方たちの見たヒントに関しては、必要そうだと思ったら聞きに行くわ」
江ノ島「アタシでいいの?」
霧切「ええ、むしろあなたが適任だと思うわ」
江ノ島さんは少し困惑して、それから、頷いて舞園さんと一緒に視聴覚室を出て行った。
霧切さんに言われて、舞園さんを連れて出てきちゃったけどどこいったらいいんだろう?
とりあえず食堂かな?
江ノ島「舞園、水でも飲んで落ち着こう。無理に笑わなくていいから、こわいっていうのも、アタシで良ければ聞くから」
護身具を一緒に探していた時の、舞園さんの様子も……今思えば無理をしてたんだね。
私は、自分でやってたはずの事なのにモデルの仕事の事なんてするっと忘れちゃえてたけど、
この子は、アイドルやってた時の事をとても楽しそうに、誇らしそうに話していた。
そんな大事なものから引き離されて、私の見たような内容を見せられたら、やっぱりこわいよね?
私のDVDなんて、別々の所に引き取られた妹が立ってる写真が、血まみれの同じ場所の写真になってる程度だったけど……
それでも、すごくびっくりしたし、大丈夫かなって不安になったんだもん。
あの子は何でもできるから、大丈夫だろうしあんなもの捏造だって思えるけど。
食堂について、舞園さんを座らせて、水をついでくる。
舞園さんはしばらくこわばった顔でだまってたけど、ようやく一口だけ水を飲んで「ごめんなさい」と言ってくれた。
江ノ島「……舞園はさ、もしかしてアイドルの仲間がいなくなってるかのような映像みせられたの?」
舞園「……そう、です」
江ノ島「アイドルの話してる時、それがとても舞園にとって大事なことだって、私にもわかったよ。
……たぶんあのDVD、みんな大事な誰かを不安に思わせるように作ってあるんだよ……でも、きっと捏造だよ」
舞園「どうしてそんなことが言えるんですか?」
江ノ島「苗木も家族の事は心配とか言ってたし、内容は想像できるよ」
舞園「そっちじゃなくって……捏造のほうです」
江ノ島「私のDVDに入ってたのは、妹の事を不安に思わせるような内容だったんだけどさー、
あの子は簡単に死ぬような子じゃないし、ケガするような下手な立ち回りもしない、すごく強くて何でもできる最強の妹だからだよ。
あの子はあんなふうに棒立ちさせられてそのまま殺されるようなヘマはしない。だから、捏造だよ。
心配には、なったけどね」
舞園「……その妹さんの事を、信用してるんですね」
江ノ島「そうだよ、あの子はすごいんだよ!
盛らなくったって私より美人だし、どんな難しい事もちょっと注意して見たらなんだってわかっちゃうし、
しかも分かったことをパワーアップしてみにつけちゃうし!……だから、だから心配なんてほんとはする必要ない子なんだ。
私がお姉ちゃんだから、本能的にあの子の事を大事に大事に思ってるだけで……」
言ってて凹んできた。
舞園「か、悲しそうな顔しないでください。大丈夫ですよ、妹さんだって、きっと江ノ島さんが大事にしてくれてる事わかってますから」
江ノ島「そうかなー?舞園さんは、そう思ってくれる?」
舞園「そうですって!強さを信用する前に、そこを信用してあげましょう?ね?」
江ノ島「でも私、お姉ちゃん大好きなんて言われたことないよ?」
舞園「なかなか、言えない物なんですって。私だって、メンバーの皆になかなか"いつもありがとう"とか言えなくて……
……ふふっ……なんか、おかしいですね。私が江ノ島さんに慰められてたはずなのに、いつの間に逆になっちゃったんでしょう」
江ノ島「あっ、そっか、そういえばそうだったよね!ゴメン舞園!」
舞園「いえ、私も気がまぎれましたから……江ノ島さんって、素だと言葉づかい違うんですね」
そのあと、私たちは食堂に朝日奈と葉隠が来るまで、そんな感じの雑談を続けた。
少しは、舞園さんの役に立てたのかな?よくわかんないけど、ほんの少しだけ舞園さんと仲良くなれた気がする。
江ノ島さんと舞園さんが出て行った後、ボクらは顔を見合わせた。
言いたいことはあるのだけれど、誰が言うべきかをはかりあっているかのような沈黙が流れる。
ほんの数秒の事のはずだが重苦しい空気を切ったのは、案の定というかなんというか、霧切さんだった。
霧切「みんな、自分の見たヒントの提示はできるかしら?私は玄関ホールの写真のようなものが表示されたわ」
苗木「ボクは、映像に間違いさがしっぽいものが入ってたよ」
葉隠「オラのは右下になんかくってるモノクマがいて、画面に矢印が出てたべ!」
情報交換をしていくと、僕は例外として
直接的に文章が表示された人と、モノクマのイラストと矢印が現れた人と、寄宿舎や校舎の一部の写真が現れた人に分かれた。
山田「ふーむふむふむ……矢印と写真ってもしかして組み合わせるんではないですかね?」
不二咲「そ、そうかもしんないねぇ、モノクマのイラストって、たしかみんな違うのが出てるんだよねぇ?それと場所が対応してるんじゃないかなぁ…」
葉隠「そうとわかれば!映像を見せあうべ!」
葉隠クンの言葉に、写真の出た人と矢印の出た人の殆どがDVDを再び再生しようとした。だけど
石丸「……いや、その……すまないが、見せたくない」
桑田「はあ?何言ってんだよイインチョさんよ?」
石丸「ヒントの共有をすべきというのは分かっているんだが……その……どうしても内容を見せるわけにはいかないんだ!」
セレス「私も同感ですわ。私の世界観をぶち壊す下賤な内容が入っているんですもの
……同じような場所に連れて行くぐらいはしますが、見せるのはちょっと」
葉隠「何言ってんだ?!」
石丸「本当に申し訳なく思う!!紙に描いて再現するという方法ではダメだろうか?!」
霧切「……なるほど……そういえばモノクマが"映像を見せることが弱みになる人物"について言及していたわね……」
山田「あのー、そう言われましても……拙者とて、ぶー子ちゃんグッズを身にまとったパパンママンを見せるのに抵抗はありますが」
桑田「俺は文字でのヒントだから一応見せなくても大丈夫だけどさ……それでも、できれば人に見られたかねーよ。けどさ、別に見せたら死ぬってわけでも」
セレス「私のキャラと世界観が崩壊するっつってんだろうがこのニワトリ頭がぁ!!!!!」
石丸「他の秘密であれば我慢できんでもないが、こればかりは説明するわけにも見せるわけにもいかん!!」
よもやの黒髪赤目組の主張に、視聴覚室が騒がしくなる。
自身も重い秘密を抱える大和田クンや不二咲クンは気まずそうに黙り込むし、
桑田クンや朝日奈さん、十神クンはなんとか我慢しろと迫る。
置いて行かれて「えっと その」とかいう言葉しか口にできないボクや山田クンに、
額に手を置いてうつむく葉隠クン。
そんな空気を叩き切ったのも、やっぱり霧切さんだった。
霧切「ヒントだけみせてもらえばいいんじゃないかしら?」
石丸「……そんな方法があるのか?」
霧切「自分の分のDVDでさっきからいろいろ試していたのだけれど、一時停止も停止もきちんと効くわ。
内容が内容だからそこまで試してた人はいなかったみたいだけど」
セレス「それならば構いませんわ。勝手に巻き戻されなければ」
石丸「……ああ、僕もそれなら問題ない」
霧切「早送りだけはできないようになっているみたい。文字だけのヒントのひとも、原文が知りたいからヒントまですすめてから一時停止してくれると助かるわ」
苗木「ぼ、ボクはどうしたら」
霧切「間違いさがし頑張って」
苗木「う、うん」
ボクが間違いさがしを進めている間に、皆はそれぞれのヒントを組み合わせて行っていた。
朝日奈「私が食堂で、葉隠が物を食べてるモノクマだから……このテーブルを調べろって事かな?」
葉隠「それっぽいべ!」
大和田「購買部の写真なんだが、対応しそうなモノクマがでてるやつっていねーか?」
不二咲「そのぉ……私のがそれっぽい、かも。お菓子とお財布持ってるから……みせてもらっていい?」
大和田「お、おう」
不二咲「私の方に出てる矢印はこの辺だから……甲冑を調べたらいいのかなぁ?」
山田「えーと、拙者のモノクマはどうも洗濯してるっぽい感じなのですが」
腐川「……じゃあ、対応するのはあたしのヒントね……ランドリーが写ってる」
山田「むむっ?失礼……ふむふむ左から数えて3つ目の洗濯機が怪しそうですな!」
セレス「私のヒントには教室が写っているのですけれど……」
大神「……我のモノクマが対応しておるやもしれぬな」
セレス「矢印の位置は?」
大神「中央を示していた。この写真のアングルであれば、教壇だな」
石丸「先ほどはすまなかった」
霧切「いいのよ。貴方のにうつっていたモノクマは、ドアを開けるモノクマだったわね?」
石丸「ああ、そうだ」
霧切「あえてドアを開けると表現するのは、玄関ホールぐらいのものでしょう。チェックさせてもらうわね」
石丸「……僕も見せてもらおう……ふむ、レターケースだろうか?」
霧切「そうね、矢印をチェックしたかぎり、そこがあやしそうね」
そんな会話を聞きながら、ボクは間違いを4つ見つけ出した。
先ず、最初に気づいた観葉植物
それから、へし折れていたテーブルが学習机のようなものに変わっている。
物陰に隠れるように配置されていてわかりづらかったけれど、ゴミ箱も追加されていた。
それから……おれていたランプの柱が、見覚えのある模擬刀に変わっていた。
苗木「多分、ボクのヒントというか、間違いさがしは解けたと思う。ちょっと自分の部屋を見てくるよ」
朝日奈「いってらっしゃい!私たちも、自分たちのヒントの場所探そう!」
十神「俺と桑田はどうする?一応もうヒントは伝え終ったが……」
大和田「なら俺たちのを手伝え。甲冑みてえなおもてえ上に部品がたくさんあるもん調べんのは俺はともかくこの女には厳しいだろ」
不二咲「……その、で、できればで良いからお願いします」
がやがやと、視聴覚室を出ていく。
ボクもその流れの一部となって、自分の部屋へと急いだ。
自分の部屋に戻って、最も近い位置にある観葉植物に目を向ける。
すると、いままで植木鉢の下には水受けの皿しかなかったはずなのに、その下にさらに黒いハコが台のようにして置いてあった。
次に、机を調べる。一番下の大き目の引き出しに、植木鉢をのせていたのと同じぐらいの大きさの箱があった。
最後に、ごみ箱。ここは調べるまでもなく、ごみ箱に乱雑に箱が突っ込まれていた。
黒と、赤と、青の箱が手に入った。
これを、どうしろっていうんだろう……移動させる前に、僕は模擬刀を調べることにした。
さやから刀を抜くと、紙が刃に巻きつけられていた。
それを広げると「取り出し方は、問題文をご確認ください」と書いてあった。
……この箱の中に、"オタカラ"があるのは、どうもまちがいなさそうだ。
箱をかさねて持つ。おもったよりもかさばってしまうな。前が見えなくてよろよろしたまま、食堂へと向かった。
我とセレスが向かった1-Aの教室の指定場所にあったのは、1枚のパネルと1枚の紙だった。
セレス「もう少し、素敵なお宝を想像していたのですけれど」
大神「先ずは、この内容を確認してはどうだろうか」
セレス「それもそうですわね。どれどれ……?」
我とセレスの二人で、内容を確かめる。
モノクマの絵に吹き出しが付いていて、その中身は……
モノクマ<一つづつ燃やさないと、燃焼剤が混ざって、燃焼時間がずれてしまいます
と書かれていた。
大神「何の事だ……?」
セレス「右下に番号が振ってありますわね。他の方の手に入れた物と組み合わせるのではないでしょうか?」
……我には、モノクマの意図が分からぬ。
最初の夜、我に手を組め……すなわち、生徒を誰か一人殺せと言っておきながら、
このような他者と敢えて手を組ませるような手法を取る意味は果たしてなんなのだ?
不審に思いながらも、我はセレスに促されるままに、手に入れた物を持って人がいるであろう食堂へと向かった。
朝日奈「えーっと、なんか小さいパネルと紙がテーブルの裏に張り付けられてたよ!」
葉隠「おら達の分はこれでおしまいっぽいな」
舞園「内容はどんな感じですか?」
朝日奈「えっとね、パネルには10分って書いてあって、紙の方は……こんなかんじ」
朝日奈っちが、紙をテーブルに広げる。俺と舞園っちと江ノ島っちも、それを覗き込んだ。
モノクマの絵が描かれていて、そいつが吹き出しでなんか喋ってる見てえな感じだな。
モノクマ<焼却炉は、上側のボタン押すことで焼却を開始して、下側のボタンを押すことで焼却を止めます。
葉隠「焼却炉の使い方だべか?学園生活の過ごし方のしおりが添付されてるって事か!」
江ノ島「どー考えても違うでしょ。なんか次にする事を書いてあるんじゃないの?」
舞園「私も、江ノ島さんに賛成です」
朝日奈「まあ仕方ないよ、葉隠はバカだから」
葉隠「バカっていうやつがバカだべ!!」
江ノ島「とりあえずどっちも写メっとかないと……あ、そっか、ケータイどっかいってんだったわ」
江ノ島っちが、ぽっけをあさりながら吐き捨てるように言った。
葉隠「そーだべな、カメラあったらホント便利だったんだけどな。ヒントの画面も写真にとって見比べたほうがはええべ……あ!そういや、やまゴフッ」
朝日奈っちの肘鉄が俺の鳩尾にごすっと入った。
な、なにすんだ!!にらんでやると、それ以上にきつく睨まれた……お、俺が何したっていうんだ?
あ、いまのやりとり江ノ島っちむっちゃ見てるべ。またちょっと疑われちまったかも知んねえな。
朝日奈「こんな時にない物ねだりするよりは、これが何か考えようよ!
……そろそろ他の皆も何か見つけてくることかな?」
江ノ島「そーかもね…あっ」
苗木「ちょっと、誰か手伝って……」
朝日奈っちの言葉に反応するかのように、箱で前が見えて無いっぽい苗木っちが食堂に来た。
大和田「思った以上にクソ重てぇなこいつぁ……」
桑田「おい、十神も手伝えっての!」
十神「肉体労働は体動かすことが基本の連中の仕事だろう?調べるための場所を確保してやっているだけありがたく思え」
不二咲「任せちゃってごめんねぇ……で、でも、多分ばらばらにしてもパーツを並べられるだけのスペースはできたと思うんだぁ」
ボクたちは、購買部の甲冑を調べ始めた。
ボクと大和田くん……さん?のヒントを合わせると、多分これを調べるので合ってるはずなんだよね?
ま、間違ってないよねぇ?
桑田「何とか動かせたな。うっし!さっそく調べようぜ!」
不二咲「外側を見る限りだと、特に変わったものは見つからないねぇ」
大和田「やっぱ中とかに入ってんじゃねえか?おい十神、こういうのってどうバラしゃいいんだよ?」
大和田くんに言わて、十神くんが着る時に外すべき場所を示した。
そこを外して、中身を見ていく。
不二咲「あ、なにか……紙みたいなのが丸まってるよぉ」
桑田「おっ、不二咲ちゃんが見つけたか」
不二咲「えーっと……問題用紙って書いてある……ん?これってもしかして」
ボクは、その"問題用紙"の形式に一応見覚えがあった。
3×3のマスが、┌のような形に3つ並んでいる。
そして、上側と左側に何かを書くようなスペースがあって、
二つ縦に並んだところの上側は3つすでに何か書き込んである。
左から、「カギ」「クイズ」「メダル」……やっぱり、これは
十神「成程、推理マトリックスと呼ばれるものか」
いつの間にか覗き込んでいた十神君が、そう言った。
山田「あ、ありましたぞ。なにやらカギと、紙のようですなぁ~ 早速食堂へ」
腐川「内容ぐらい確認させなさいよ……問題文って書いてあるわね……
”オタカラの入った箱の中身を取り出すためには、箱を決められた時間だけ燃やさなくてはなりません”
……オタカラっていうのは箱に入ってるのね」
山田「ふむふむ。その箱は他の方のところにあるのでしょうねぇ やはりここは他の方の内容も」
腐川「……この鍵は、燃やすための物がある場所の鍵かしらね。っていうかとラッシュルームってタグがついてるわ」
山田「なるほど!!……さて、腐川冬子殿、もうここから出ましょう!」
腐川「……あたしなんかと一緒にいるよりはとっととみんなの所に行きたいでしょうね」
山田「い、いえー そういうわけでは」
腐川「アンタねぇ……さっきから露骨に一緒なのいやがってるじゃない!!悪かったわね、ブサイクと組まされて!!私じゃなくてモノクマに言いなさいよ!!!」
山田「すみません……実を言うと、腐川冬子殿よりは、何かの拍子にジェノサイダーが出ることの方が恐ろしく
……女子への態度として本当に失礼なことをしてしまいました」
腐川「……まあ、朝いきなりアイツ見せられて動揺すんなってのも無理な話よね……」
山田「僕としましては、あの手のやたらハイテンションなのは2次元でもなかなか難しい存在でして」
腐川「……けど、多分アンタならあいつに殺されることはないわよ」
山田「と、いいますと?」
腐川「アイツは殺す対象がなんか…こう……アンタに近い感じで選んでるのよ。萌えるとか何とかが基準らしいの」
山田「ほほぅ、ジェノサイダー翔殿は萌えに理解がおありなのですな。腐川冬子殿とはまさしく真逆!」
腐川「……無意識だろうけど意外と覚えられているのね」
山田「はい?」
腐川「こっちの話よ……とりあえずわかるでしょ?アンタがそういう食指にかからない存在だってことは」
山田「……その言いようはその言いようでかなーりひどい気がしますぞー?」
石丸「20分と書かれた10センチ四方程度のパネルとプリントを発見したぞ!次に行うことについて書かれているようだな!」
霧切「プリントを見せてもらっても構わないかしら?」
石丸「勿論だとも!おそらくこれも他の皆の内容と組み合わせるのだろうな」
霧切「……”オタカラの入った箱を焼却炉で燃やす以外の方法を取ろうとした場合、内部の起爆装置が作動してしまう可能性があります”……起爆装置?」
石丸「ルール説明のプリントにあった"オタカラは24時間たっても見つからない場合自動的に消滅します"というのは、
爆発させて消滅させる……という意味なのかもしれないな!となると、その対象を早々に確保しなくては!」
霧切「一斉に出たから、もう誰か見つけているかもしれないわね。他の人たちとの合流を急ぎましょう
起爆装置が内蔵されていると知らずに工具セットなんかで開けようとされたら厄介だわ」
石丸「うむ、急ごう!」
苗木「……これで、全員集まったよね?」
霧切「そうね。みんな揃ってから箱を開けることにしてくれて助かったわ」
石丸「食堂についた時に数名が工具箱を用意してたのを見て胆が冷えたぞ!」
山田「燃やすということは書かれていたのですが、時間が短縮されるかと思いまして……」
江ノ島「じゃ、さくっと次やることまとめよっか」
石丸「行動指針の明確化だな!任せてくれたまえ!
まず、各々既に確認して知っていることではあるが、
この赤と黒と青の箱にモノクマが僕らに探させている"オタカラ"が入っているようだ!
そしてこの箱は"1つづつ焼却炉で決まった時間だけ燃やさないと中身を確保できない"という仕様になっている!
ここまでで何か質問は?!」
桑田「いや、そんな叫ばなくても聞こえてるから。不二咲ちゃん怯えてるから声量さげろ」
不二咲(ビクビクオドオド)
石丸「す、すまない……」
大和田「つーかとっとと次いけ、次」
石丸「うむ。現状、どの箱に何が入っていて、さらにどの程度燃やすべきかは特定されていない。
不二咲君らの持ってきてくれた問題用紙を使用して導き出すらしい。最優先はこちらの内容特定だ!
また、焼却炉が順調に稼働するかどうかのチェックに加え爆発物を内蔵していると思われる箱の見張りも必要だ。
トラッシュルームに箱を移動させ、焼却炉のチェックと箱の監視を行う面々と
問題を解く面々……それから2~3人ほどで包丁の見張りを行うという形で行動しよう」
セレス「包丁の見張り……ですか?」
朝日奈「コロシアイさせるぞってモノクマに言われて、真っ先に目が行くのは包丁だからね!
私が提案して、何人かで交代しながら見張ることにしたんだよ~ でも、この場面で要るの?」
大神「やっておくに越したことはないだろう……して、内訳は?」
石丸「これから希望を取って決める」
江ノ島「じゃ、アタシは見張りやる。爆弾なんておっかないし、かといってクイズあんまり得意じゃないんだよね」
葉隠「おらも頭脳労働はちょいとな……つーわけで江ノ島っちと見張りやるべ」
不二咲「わ、私は、やり方知ってるから特定班にはいるよぉ」
霧切「……じゃあ、私は焼却炉のチェックの方に入るわ」
苗木「えっ?霧切さんってクイズとく方かと思ってた」
霧切「トラッシュルームの奥には初めて入るから、そこの探索もしておきたいの」
その後も着々と割り振りが決まっていった。
厨房の監視を行うのは
江ノ島さん、葉隠クン、山田クン
問題を解くのは
不二咲クン、舞園さん、十神クン、腐川さん、セレスさん
トラッシュルームに向かうのは
霧切さん、朝日奈さん、大神さん、桑田クン、大和田クン、石丸クン、そしてボク。
それぞれに分かれて、行動を開始した。
モノクマ「さーてと、そろそろ劇場いれよっか?
液晶の前のオマエラも暇でしょ?ていうかヒントいくつか隠してるだけでもうやることきまってるでしょ?
これから何かトラブル起きてくれたらいいけど、食堂組が江ノ島さんと生き残り組だけならまだしもさ、
そのあたりに関しては第3者的位置の山田君はいっちゃったでしょ?
いまいちスリルとサスペンスの予感がしないんだよね~
ただ、モノクマ劇場はちょっとネタ切れなんだよね!
どれもこれも思いつき自体がうすっぺらで希薄なせいだよ!
この万能にくらしチャーミングなモノクマらしからぬことだよ!
ってわけで……1週しようが2週仕様が変わらない過去や、
1週目のその後、コイツラがあずかり知らぬところで起きている絶望を
おおばんぶるまいしちゃいましょーーー!!うぷぷぷぷ ぎゃーっはっはっは!
最初は、皆の親しみやすい"彼女"の絶望を見てもらおうかな!
この子は良い子だよ!ほんとにいい子で、人の笑顔が大好きな……おせっかいで人を廃人にしちゃった子だよ」
~~幕間絶望:小泉真昼の絶望~~
小泉「私は、写真を撮っただけ。
才能を用いた行動をしただけ。親友が弓引く写真を、撮っただけ」
小泉「私は、写真を撮っただけ。
もしかしたら捜査に必要になると思って、写真を撮っただけ」
小泉「私は、写真を撮っただけ。
大事な親友に話を聞かせてもらうために、写真を撮っただけ」
小泉「私が写真を撮ったから、あの子が死んじゃったの?
私が花瓶の写真を撮っちゃったから?
私が彼女の写真で賞を取ったから?
そのせいで、九頭龍ちゃんに妬まれたから?」
小泉「私は……写真を撮っただけ……」
小泉「……私、は、写真をとっただけ。
予備学科のパンフレット作成のために、写真を撮りに行っただけ。
一応お偉いさんにカメラマン雇うよりもいい写真が撮れるなんて言われたら、
手伝ってあげないわけにはいかないでしょ?だから協力してあげただけ」
小泉「私は写真をとっただけ。
敵意じゃなくて憧れと笑顔を向けてくれた、アンタの笑顔を撮っただけ」
小泉「…………私は、写真を撮っただけ
……私は、新しい友人の事を、話しただけ
……当たり前の事じゃない。
友人なら、写真を撮ることも、遊びに行くのも、話すのも、話されるのも」
小泉「私は、友達同士で遊びに行っただけ。
日寄子ちゃんも唯吹ちゃんも蜜柑ちゃんもアンタも友達だったから連れてったんだよ。
男子一人だけではずかしがってたけどさ、いい写真撮れたんだよ?
あの子が死んだ後、はじめて賞をとれるような写真が撮れたんだよ?
いい笑顔、してたのに。そんな表情を撮れる、大事な友人と思っていたのに」
小泉「私達が友達なのは悪い事じゃないよね?
本科だろうが予備学科だろうか他校だろうが友達は友達でしょ?
男だろうが女だろうが、友人は友人でしょ?」
小泉「釣り合わない、なんて、なんでアンタそう思ったの?
狛枝の言ったことなんて真に受けるなって言ったじゃない!」
小泉「私達が……友達になったせいなの?
私のせい?私が……あんたの、日向の写真を撮ったせい?」
小泉「日向、答えてよ……なんで……なんで……」
小泉「なんで、違う人になっちゃったの?」
~~幕間絶望:小泉真昼の絶望 終~~
苗木「……えーっと、焼却炉は問題なしだよ。中に異物もないし、説明通りに動くみたい」
石丸「手前の床についた扉はあかなかったな」
大和田「ムリして壊しても、足踏み外して落ちたりしたらあぶねえからほっとくしかねーな」
霧切「私も、特に気になる点は無かったわね。メダルがいくつか見つかったから苗木君にあげるわ」
苗木「あ、ありがとう」
朝日奈「じゃ、あとは見張りタイムだね!」
大神「いや、待ってくれ……燃やすときに時間を見る必要があるのだろう?
ただ待つよりは、時計を探す方が良いのではないか?」
霧切「それには及ばないわ、そのために彼を連れてきたんだから」
石丸「? ……ああ、僕の腕時計の事か。此方に入るように進言したのは確かに君だったな」
大和田「オメェ、時計なんてつけてたのか」
石丸「そうだ!時間を守ることは学生生活の基本だからな!」
朝日奈「うーん、腕時計かー……したくないわけじゃないけど、更衣室に置きっぱなしにしたりで無くしそうなんだよね」
大神「確かに、スイマーである朝日奈がつけるのは難しかもしれぬな」
苗木「防水の時計とかもあるらしいけどね」
大和田「それより……オイ、その時計ホントに大丈夫なのか?電池とか手に入んねえだろ?」
石丸「この腕時計の動力は自動巻きだ!!きちんと歩けばそれが動力となる!」
霧切「……機械式時計なのかしら?」
石丸「いや、クォーツ時計だ。さすがにそんな高価なものは一般家庭では用意できない」
苗木「……石丸クンと霧切さんの話してる内容が分からない」
朝日奈「私も……巻きってなんなの?おすしなの?」
大神「いや、さすがに巻き寿司は一切関係ないと思うぞ朝日奈よ……」
霧切「時計の動力を確保する方法の一つよ。
ねじを巻くことで動くおもちゃがあるでしょう?原理はあれとほぼ一緒よ。
機械式というのは、簡単に言えばゼンマイ時計を思い浮かべてくれればいいわ。アレの事よ」
朝日奈「ほへぇ~……なんていうかあのごちゃごちゃした部品がぎっしりした時計だよね?
セレスちゃんが好きそうな感じの」
大和田「まあ、確かにそういう感じの雰囲気だな……で、クォーツ時計ってなんだ?」
石丸「時間を正確に刻むために調速機というものが内蔵されているのだが、それに水晶を用いている時計の事だ!」
苗木「じゃあ、その時計は葉隠クンにみせないほうがいいかもしれないね」
朝日奈「狙われちゃうよね!」
大和田「いや、さすがにあいつも水晶って聞いてすぐ飛びつくこたねぇだろ……多分」
石丸「そもそも球の形状でもなければ手に取れるような大きさでもないぞ!」
時計に関する話をしながら、問題が解けるのを待った。
十神「先ずは、問題用紙を完成させるぞ」
不二咲「えーっと、要素は"入っているオタカラ"と"箱の色"と"燃やす時間"だよねぇ?」
十神「このうち、入っているオタカラに関しては既に問題用紙に書かれている」
山田「燃やす時間が、小さめのパネルに描かれた"10分""15分""20分"ですな!
セレス殿、紅茶が入りましたぞ」
セレス「御苦労。下がってくれてよろしくてよ」
十神「問題用紙にこぼすなよ?」
舞園「箱の色は赤青黒でしたね」
十神「ひとまず、時間を左がわの要素欄上側に書きこむ。のこったものには赤、青、黒と……こんなところか」
十神君が書きあげた問題用紙を見て、私はお絵かきロジックを思い出しました。
上側と左側のヒントにしたがって升目を埋めていくのが似ているのでしょう。
不二咲さんの説明によると、マス目の中を○と×で埋めていくそうです。
2種類の要素が交わるマス目、今回で言えば3×3の中では一つ○がはいるとあとは縦にも横にも○が入らないそうです。
セレス「推理マトリックス、ロジックパズル、ペンパズル……さまざまな名で呼ばれすぎていてどう呼ぶべきか」
腐川「呼び方はどうだっていいじゃない……」
セレス「千の名を持つ闇の姫君というのも捨てがたいですわね」
腐川「アンタのゴスに関する設定なんて聞いちゃいないっての……!」
十神「腐川、ヒントのまとめを出せ。文字で表示されたヒントのページを見せろ」
腐川「はいっ、白夜様!!」
腐川さんがノートをめくり、広げると、そこには
桑田:黒≠クイズ
十神:青≠最長時間
という、よくわからない物が乗っていました。
ただ、私はそのヒントの形式に一応は見覚えがあって……
十神「というわけで、だ。舞園、見ればわかるとおりヒントが足りない。貴様と江ノ島のヒントが使用されると俺は見ている」
舞園「たしかに、見覚えがあります……ええと、ここに書き込めばいいんでしょうか?」
十神「そうしてくれ」
私は、腐川さんがノートに私の苗字を書いた横に、思い出しつつ出てきたヒントをかき込みました。
舞園:青=メダル
十神「成程、この時点で箱の色と中身に関しては特定できるな。腐川、江ノ島にもヒントを聞いておけ」
腐川「は、はい!」
不二咲「えーっと、十神君は頭の中でうめてるみたいだから、ぼ……私が問題用紙に書くねぇ?」
セレス「お願いいたしますわ」
不二咲「先ず、桑田くんのヒントだけど、黒とクイズが混じる所に×が入るって意味だと思うんだぁ」
そう言って、不二咲さんはそこにバツ印を入れる。
不二咲「十神君のヒントも、青と最長時間…20分だね、ここが一致しないことを示してると思うよぉ。同じように×入れるねぇ」
セレス「……ともかく、同様に行けば、青とメダルが等号で結ばれていることを考えると青とメダルの重なるところに○ですわね」
不二咲「そうだよぉ。一個○がうまると、その縦と横は全部×が入るんだぁ」
そう言って、不二咲さんは、青とメダルの混じるところに○をかいて
カギとクイズが青に交わるところと、メダルと赤と黒が交わるところに×を入れました。
舞園「……あ、こうなるとクイズの○がつく色が赤だけに、黒の○がつく場所がカギだけになるんですね」
不二咲「うん!だからその2ヶ所に○を入れて、赤とカギが交わるマス目に×をつけるんだぁ
そうなるともう一目瞭然だよね。赤の箱にはクイズが、青の箱にはメダルが、黒の箱にはカギが入ってるって事だね♪」
十神「あとは江ノ島のヒント次第で不要になる可能性もあるが……少なくとももう一カ所バツ印がつく箇所があるな」
舞園「えっ?どこの事でしょうか?」
セレス「……青と最長時間ではないということは、青の箱に入っているメダルも最長時間ではないということですわね」
腐川「ただ今戻りました!」
十神「遅いぞ、何をやっていた……ッチ、まあいい、見せろ」
腐川「……」
舞園「あ、あの、十神くん、もう少し腐川さんにやさしくしてあげても」
腐川「……ふぁ……はあぁ~~~……白夜様の冷たい目であたし、燃え上がりそう……」
セレス「」舞園「」不二咲「」
十神「おぞましいことを言うな……!!」
腐川さんの言動に凍りつきつつも、私たちは再びノートを覗きこみました。
江ノ島:カギ=最短
と書かれていて、私たちはすぐさま問題用紙にそれを落とし込みます。
カギと10分が交わるところに、○。その縦と横には×を入れて……
十神「これで完成か。難易度の低い問題だったな」
不二咲「十神くんが言ってたようなところが無いと解けない問題もけっこうあるもんねぇ」
葉隠「山田っちなにやってんだ?」
山田「実は、調理室に入る直前にセレス殿から紅茶を淹れてくれと頼まれまして」
江ノ島「なんていうか、アイツも大概危機感ないんじゃね?」
葉隠「(セレスっちの紅茶か……確か)山田っち!オラの占いによるとセレスっちはロイヤルミルクティーが好きでたべ!」
山田「ろいやるみるくてぃー?」
江ノ島「あ、知ってる。たしか、ミルクで煮出す紅茶でしょ?」
葉隠「占いの的中率は20~30%だべ。ただ、間違っても高級感のあるもんなら大嫌いってこたねえはずだからそれで出してやったらいいと思うべ」
山田「ふむふむ……では、ちょっと試してみましょうかね」
シュンシュン
山田「えーと……少量の沸騰したお湯に濃く煮出した紅茶を作って、常温の牛乳を混ぜて緩やかに加温……と」
江ノ島「そーそー♪うまくできてんじゃん?」
葉隠「江ノ島っちが紅茶に強いのは驚きだったべ」
江ノ島「たしか、妹に作らされたことがあるんだよね。あたし器用じゃないから不評だったけど」
山田「では、セレス殿にちょっと届けてきますぞ」
葉隠「おう!こけてこぼすなよ!」
江ノ島「(……おかしい、私は苗木君に宣戦布告じみたことをしたはずなのに、葉隠君は全くペースを乱してない)」
葉隠「江ノ島っち、備品リストがあったべ!確認しとくか?」
江ノ島「……そだね」
葉隠「そういや、江ノ島っちなんで常にヅラだったんだべか?」
江ノ島「え?なんでって……ギャルだからっしょ」
葉隠「よーし、んじゃオラが年長者としてちょっとアドバイスしてやろう!」
江ノ島「いらねー」
葉隠「まあまあ、そういうなって! そういう肩書に縛られてると、なんかいろいろおかしなことになっちまうぞ」
江ノ島「ハア?何それ」
葉隠「いや、オラの仕事の客がな、その手の肩書大事にしすぎる奴多かったんだって!
才能があるにしても、肩の力抜いて生きて、必要な時に才能に頼る方がいいと思うべ」
江ノ島「はぁー……なんか……ほんっとエラそうでむかつく。なんでそういうこと言うかな」
葉隠「いや、だってよ!ここから出るんなら、そっから先の生き方もかんがえとかねーと!」
江ノ島「……先の生き方ねぇ……レクリエーションなら、希望ヶ峰生徒として才能みがくことになるんだろうけど」
葉隠「その場合でもいつか卒業の日がくるはずだべ」
江ノ島「はいはい とりあえずありがとね。心配はしてくれてたみたいだし」
葉隠「あー、あとな、なんか今んとこ江ノ島っちが舞園っちと仲良いみたいだし、舞園っちにもこれつたえてくんねーか?」
江ノ島「……?」
葉隠「勿論、みんなそういう風に有れたらそれが良いんだけど
……多分、舞園っちが一番その肩書きに固執してるきがすんだべ。けど、オラいまんとこ舞園っちとそこまでなかよくねーしな!」
江ノ島「そう。覚えてたら言ってみるわ」
葉隠「頼んだべ!」
山田「ただ今戻りましたぞ!」
葉隠「お、好評だったか?」
山田「渡した瞬間に下がれと言われてそのままもどってきました……」
葉隠「うーむ」
山田「して……先ほど何か話されていましたがどのような話を?」
江ノ島「葉隠が無駄に偉そうな話してたよ」
葉隠「ひでーぞ! 将来どうすっか、みてーな話だべ」
山田「よもやの青春な話題wwww」
葉隠「今ある肩書に縛られてたら、そのうちオラの所に来る迷いまくった客みたいになっちまうぞって話だべ」
山田「ふむふむ……僕はいずれ同人作家から漫画家というかクリエイターにランクアップの予定ですがね!」
江ノ島「……ギャルはどうランクアップすればいいんだろうね?」
葉隠「読者モデルから、モデルや芸能人にってかんじだべか?」
山田「正直、ギャル感の抜けた江ノ島盾子殿はそれ以外の方面の方が合いそうですがね」
江ノ島「むぅ……よくわかんなくなってきちゃった」
葉隠「えーっと あとは鍋が3つ……備品全部あったべ」
山田「ややっ、ありがとうございます!」
江ノ島「包丁もそろってるし、他に何もすることないよね」
山田「そうですなあ……先日の朝食会の時のようにごはんでもつくりますか?」
江ノ島「あんなDVD見せられた後で食事はちょっと」
葉隠「夕食のつもりで作ればいいべ。カレーとかグツグツ煮込むものをつくってりゃいいんでねーか?」
葉隠「そんなら、昼メシは食べる気なくても腹減った時に食えるべ?」
山田「賛成ですぞ!」
江ノ島「えーっとじゃあ……野菜は玉ねぎとニンジンとジャガイモでいいよね」
葉隠「カレー粉はあるけどルーはねえみてえだな。だったら玉ねぎいためて甘味だすべ!」
山田「ぬ?りょうりにつよいのですかな?」
葉隠「カレーだけな!ばーちゃんがカレーつくるのを手伝ってたからな!」
腐川「……何やってんのよあんたら」
山田「ややっ?腐川冬子殿……!だ、だめです!腐川冬子殿は進入禁止ですぞ?!」
腐川「えっ?どういうこと?!あたしがブサイクだから?!」
江ノ島「うわっ?!ちょっと出て!用事なら後で聞くから!今ちょっと粉モノあつかってるからクシャミしちゃまずいっしょ?!」
腐川「そう簡単にクシャミばっかりしてたまるかっての!どんだけ鼻粘膜弱いと思われてんのよ?!」
葉隠「まだカレー粉あけてねえから大丈夫だぞ」
江ノ島「ホント?ホントに大丈夫?」
山田「いきなりクシャミされて切り刻まれるのはゴメンですぞー!」
腐川「ジェノサイダーのターゲットはむちゃくちゃ偏ってるって話、アンタにはさっきしたばっかじゃないの!」
山田「そういえばそうでしたな てへりん☆」
江ノ島「あ、やっぱこいつならきりきざまれてもいいや」
山田「何ですとー?!」
腐川「話すすまないから、とりあえず汚ギャルだけこっちきなさいよ……!」
江ノ島「汚ギャル?!」
腐川「ま、まあ、余計な化粧が無い分若干マシだけど……」
江ノ島「アンタ、アタシにケンカ売ってんの……?!」
葉隠「カレー粉あけらんねーから、とっとと要件言ってくれ」
腐川「……ふん。あんたのヒントが必要みたいだから、聞きに来たのよ」
江ノ島「ヒント?あー、DVDのやつね……」
腐川「こういう形式でまとめてるからノートに書いて」
江ノ島「……ハイハイ……無いと皆困るなら仕方ないわ」
カキカキ
江ノ島「これでいい?」
腐川「……そうね……じゃ、あたし戻るわ……邪魔して悪かったわね」
江ノ島「ケンカ売らなきゃもっと早く終わってたんだけどね」
腐川「……!!」
ダッ
江ノ島「なんでアタシがにらみつけられなきゃなんないわけ?」
葉隠「腐川っちはそういう相手だべ。十神っちや苗木っちあたりにまかせるしかねーな……んじゃ、カレー粉投下するんぞー」
僕達が待っていると、十神クンと不二咲クン、腐川さんが入ってきた。
十神クンが、箱を枕にして爆睡していた桑田クンの頭の下から赤い箱を何の前置きもなく引き抜き、桑田クンも起きた。
桑田「いっっ゛てえぇぇぇぇぇえ……」
十神「何をしてるんだお前は」
大神「問題が解けたそうだ。確認してから燃やすぞ」
桑田「……だからってこのおこし方はどーなんだよ」
不二咲「ご、ごめんねぇ」
桑田「いや、不二咲ちゃんは悪くねーから」
霧切「見せて頂戴 ……ありがとう
鍵が入っているのは黒い箱で燃焼時間は10分
クイズが入っているのは赤い箱で燃焼時間は20分
メダルが入っているのは青い箱で燃焼時間15分
……青=メダルとカギ=最短のヒントは私は見てないわね」
腐川「舞園と江ノ島のヒントだもの……自分の目で見た物以外は信じられない?」
霧切「……どちらも、=が≠だった場合出ているヒントでは埋まらなくなるから大丈夫だと思うけれど……
一応、確認してきていいかしら?十神君と桑田君のヒントの≠も、イコールを打ち消す斜線が薄めだったし、
舞園さんも江ノ島さんも自分のヒントを見返してはいなかったから少し不安だわ」
大和田「それまでまだ待機か?」
霧切「いえ、失ってしまっても問題ないメダルの箱から試して行きましょう。
24時間あるとはいえ、疲労や食事の時間を考えると早々に終わらせたほうが良いもの」
苗木「霧切さんだけで行くの?」
霧切「……そうね……じゃあもう一人つけようかしら?桑田クン今まで寝てたから働いてくれる?」
桑田「はいよ~~……ふぁ」
大和田「そいつで大丈夫なのかよ」
霧切「ヒントのどこかが間違いだった場合、早めに連絡する必要があるわ。彼の瞬脚なら問題ないでしょ」
桑田「……あまり早くないかもしんねーぞ」
霧切「あら、どうして?」
不二咲「……大丈夫だよ、桑田君。今の君も十分"超高校級"だって、私たちは知ってるから」
不二咲クンの言葉に不可思議そうな顔をする人と、頷く人に分かれた。
桑田クンはそれを見て少しだけ笑って、霧切さんをせかしながらトラッシュルームを出て行った。
苗木「桑田クン、早々に立ち直ってくれるといいんだけどね」
不二咲「ね。 えっと、青い箱からだよねぇ?」
石丸「そうだな。先ずは設置しよう。箱は一つづつだからな!」
大和田「もうみんな知ってるっての……ほらよ」
石丸「ま、まて大和田君!物を投げてはいけない!それにいつ爆発するか!」
大神「そうだぞ大和田。爆発物だからこそ、見張りがあったのだろう」
大和田「あ、そういえばそうだったな。ワリィ」
朝日奈「血の気が引いたよ……」
十神「しかし……コンパクトだな。バイナリー式起爆装置かもしれん。燃焼を開始したら距離をとっておいた方が無難だな」
石丸「燃やしてる最中の爆発の可能性もあるということか?」
朝日奈「えぇっ?!」
十神「燃やすことを前提にしている以上、焼却炉で出る温度よりは高い発火点の起爆薬を使用しているはずだが……
容量的に凝った起爆装置ではなくそちらが誤作動する可能性もありそうだからな。慎重を期しておこうか」
大和田「桑田のやつそんなもんを枕にしてたのか」
朝日奈「そんなものをなげてよこしてた大和田も大概だって!」
不二咲「……一歩間違ってたら石丸君が……?」
石丸「……ま、まあいい。そんなことにはならなかったんだからな!今後は気を付けるように!さて、火をつけるぞ!」
石丸クンの手によって、焼却炉に火が入る。
トラッシュルームの壁側ぎりぎりまで引いて、20分たつのを待つことにした。
大和田「しっかし……思っていたより待機が多いな」
不二咲「うん……でも、早めにこのあたりに取り掛かれてよかったんじゃないかなぁ?」
十神「それは俺も同感だな……オイ苗木、その点に関してはお前を褒めてやる」
苗木「えっ、ボク?」
十神「舞園が出ていくのを止めただろう。もしあいつが取り乱してどこかに隠れでもしていたら、
探す事に時間を取られる上にヒントの確認や謎にも身が入らない結果になっていただろうからな」
大神「……彼女を引き受けてくれた江ノ島にも、あとで改めて礼を言う必要があるな」
朝日奈「……でも、舞園ちゃん本当に大丈夫かな……さくらちゃん、私達もこれ終わったら舞園ちゃんの傍にいてあげる様にしようよ」
大神「うむ、そうだな」
セレス「山田君、もう一杯ミルクティーを淹れてくださいませんか?」
山田「なんと!おきにめしてくださったのですかな?!」
セレス「ええ、よもやミルクティーと言って即座にロイヤルミルクティーを淹れてくださるとは思っていませんでした」
山田「あー、その件に関しては葉隠康比呂殿の功績も大きくてですね」
江ノ島「葉隠がセレスの好物言い当てて、アタシが淹れ方教えたんだよ」
舞園「そうなんですか?あ、私もおいしそうだったので淹れてほしいなって思ったんですけれど、いいでしょうか?」
山田「かまいませんとも!えーと、2杯分の分量でやればよろしいかな?」
セレス「ええ、おねがいしますわ……にしても」
江ノ島「ん?どうかした?」
セレス「カレーの匂いが」
葉隠「ああ、夕飯にどうかと思って作ってんだべ!あとはもうグツグツ煮込むだけだな」
舞園「辛さをみてもいいですか?」
葉隠「おう! カレー粉でつくってるけどチョイ甘目にしてあるべ、スパイス追加すれば辛くはできるべ」
舞園「甘口と中辛の間みたいな味ですね」
山田「辛い方にはいくらでももっていけますので、ベースは食べやすくということらしいですぞ」
江ノ島「意外と葉隠が美味く作れててショック受けたわ……こいつのこの胡散臭さ何なの?」
葉隠「胡散臭いとか江ノ島っちひでーべ」
セレス「まあ、いいではありませんか。ご飯はもう仕掛けてあるのでしょうか?」
舞園「あ、まだみたいですね。私やっておきますね」
江ノ島「マジでやってくれんの?昨日の朝といいマジでたすかっ ?! なんだ、霧切じゃん」
霧切「舞園さんと江ノ島さん、ちょっといいかしら?」
江ノ島「何?」
舞園「どうかしましたか?」
霧切「あなたたちのヒントの原文を確認したいの。ばたばたした状態で覚えていてくれたのはありがたいのだけれど、記憶ちがいの可能性を消しておくためにも」
舞園「……」
江ノ島「だからもっかいDVD見ろって事? ふざけんじゃないわよ!舞園を怯えさせる気?!」
葉隠「お、おちつくべ江ノ島っち」
江ノ島「ハァ?!」
セレス「……舞園さん、DVDの中身は見られたら困りますか?」
舞園「い、いえ……別にかまいませんけれど……」
セレス「でしたら、舞園さんは視聴覚室へと行かず待機したままでもかまいませんわね?」
霧切「ええ、むしろ内容が困ったものでなければそうしてもらう気だったわ。江ノ島さんは?」
江ノ島「……アタシは、ついてくよ。内容は別にどうでもいいけど、勝手にみられるのは嫌だから」
霧切「分かったわ。じゃあ、江ノ島さんを借りていくわね」
江ノ島「まった、他に誰かいたりする?もしヒントが間違ってた場合とか」
霧切「桑田君にもきてもらっているわ。厨房に人が多いみたいだったから今は食堂に待機してもらっているけれど」
江ノ島「あ、そう……じゃ、いいかな。アタシちょっと行ってくるわ」
霧切「いきなりでごめんなさいね それじゃ」
私と霧切さんが食堂の方へと移動すると、なぜか柔軟している桑田くんの姿が目に入った。
本当にこうしてみると、最初に知り合った時と同一人物には見えない。
たしか、桑田くんはこういった練習だとかは嫌いだったはずなんだけどな。姿が変わったことで向き合い方も変わったのかな?
桑田「おっ、ついてくんの江ノ島だけ?」
霧切「ええ、舞園さんにもう一度見せるのはさすがに」
桑田「いやー、オレもそうならないか心配してたからさ!安心したわー」
そうだ。口調はそのままだった。
江ノ島「とっとと行かない?もし見間違えとかあったらやり直しがいるんでしょ?」
桑田「そうだな。んじゃちょっと走るか!」
霧切「もしもの時のために体力は取っておいてほしいのだけれど」
そんなやりとりをしながら、私たちは視聴覚室へと向かった。
視聴覚室では、いくつもの再生機がつけっぱなしの状態で放置されていた。
私は自分の分のDVDを再生しながら、この状況について尋ねる。
江ノ島「なんで画面つけっぱなしのばっかあんのよ?」
桑田「これも確か霧切ちゃんの提案だったよな?もし何かが違った場合すぐ見に来れるようにって」
霧切「そう。ヒントの解釈が間違っていた場合もう一度頭から再生するのはどうかと思って。
江ノ島さん、ヒントが出たらそのデッキの操作ボタンの一時停止を押してちょうだい」
霧切さんはそういいながら、私のとなりの席の装置で舞園さんのDVDを再生しているらしい。
私がヒントの文章が出たところで一時停止をおして彼女の方を見ると、
霧切さんは悔しそうに眉根を寄せて画面を見ていた。……私の予感は、私がモノクマに見せられたものは、ほんとに正しいのかな?
断片的に与えられる情報からだと、霧切さんも十神くんも腐川さんも苗木くんも怪しい。
でも葉隠くんはあまり印象が変わらないし、朝日奈さんに至っては山田くんによると包丁を見張るべきと言い出した張本人らしい。
少し人のいい人が利用されているのかな?
でも、今の霧切さんはこの映像を用意したモノクマに怒っているように見える。
霧切「……舞園さんのヒントは、間違いないみたいね。江ノ島さん、見せてもらってもいいかしら?」
江ノ島「うん、いいよ」
霧切「……こっちも、問題ないみたいね。付き合ってくれてありがとう」
江ノ島「いいって、今見たらホントに文字ちょっと見づらかったし。むしろこれ、ちゃんとヒント覚えられてたアタシと舞園えらくない?」
桑田「ホントにそうだな。セレスやイインチョ以上の取り乱し方してた舞園が覚えてたのもそのフォローにまわった江ノ島ちゃんが覚えてたのもスゲーわ」
江ノ島「ん?何あの二人も取り乱してたの?想像つかないんだけど」
桑田「内容を見られたくないって駄々をこねたんだよ、そいつらが」
霧切「映像を見せる事が弱みになる人物についてモノクマが言及していたから、そういう内容になっていたんでしょう」
江ノ島「ふーん……あ、もうヒントはつかわないよね?電源切っておこうよ」
桑田「そだな」
霧切「……何となくだけれど、DVDそのものはのこしておいたほうが良い気がするわ。ケースに入れて元の段ボールに戻しておきましょう」
私達は一番近い再生機器からDVDを抜いて、電源を落としていく。
近くにある透明な安っぽいケースに、マジックで名前の書かれたDVDをおさめる。
桑田「うわっ?!」
桑田くんがころんで、再生機の一つにぶつかった。
低いノイズが鳴る。備え付けのヘッドホンの端子が抜けたらしい。
桑田「いってて……くそっつ、なんだよこれイインチョじゃねーかよ。ヘッドホンおとしてやがった」
『引き続き ごらんください』
『うっ ぐすっ ぐすっ ひどいよ……おとうさんなら たすけてくれるってしんじてたのに』
『わたしのことたすけてくれなかったおとうさんも わたしのことをイジメてたこいつらとおなじだ!』
流れてきた女性のすすり泣いていた声が、怒りに任せた声に変わる。
桑田「? な、なんだよこれ」
霧切「もしかして、再生してしまっている……?止めないと!」
『ねえ?絶望した?一番大事にしてたはずのお父さんから最初に殺しちゃったこと、あんたらは絶望した?』
『してないなら理解するべきだよ。お前たちはこんな楽に死なせてあげないから』
『わたしをいじめてきたこと わたしからうばってきたこと 楽に殺さずじっくり後悔させてあげるから』
呆然としている桑田くんをおいて、霧切さんは再生機に手を伸ばす。
『石丸清多夏くんと仲の良かった、小柄で愛らしいs プツン
モノクマの声の再生途中で、DVDが止まり、吐き出される。
私は、霧切さんが停止をおす直前に一瞬だけ画面を確認できた。呪いの言葉を吐いていた人物だろうか?
着物を着たかわいらしい少女の写真が、動かずただ表示されていた。
桑田「……なんだよ これ」
霧切「……たしかに、誰にも見せたくないわね、こんなもの……」
江ノ島「……仲が良かった、って言ってた?……知り合いがあんなこと言う状態に陥ってた?」
桑田「…………なあ、見なかったことにしねーか?」
江ノ島「うん……賛成だよ。物騒だし、他の人に伝えたら普通にショック広がっちゃうって」
霧切「……そう、ね」
私達は、そのあと何も言わずに他の再生機のDVDを回収して、段ボールにいれて持ったままトラッシュルームへと移動した。
トラッシュルームに、霧切さん、江ノ島さん、段ボールを抱えた桑田クンが入ってきた。
霧切「ヒントに関しては間違いはなかったみたいよ」
桑田「あと、後片付けもしてきといてやったぜ。DVD回収して再生機の電源落としてきてやったぜ」
苗木「えっ、そんなことまで?!」
霧切「見られたくない物がある人もいる以上、早々に回収しておくべきと思ったのよ。一応DVDは保管しておいた方が良いと思うのだけど」
十神「……なら、苗木か」
桑田「苗木?苗木ならまぁ大丈夫か」
石丸「…………まあ、保管のみであれば苗木君に任せるのが良いかもしれないな」
大和田「そうだな、勝手に捨てたり見たりはしねーだろ」
不二咲「……そ、そうだねぇ……うん、お願いね苗木くん」
一週目で、すでに死んだあとだったとはいえ舞園さんのDVDを勝手に見ちゃってるんだけど……
そのまま押し付けられるように、ボクがDVDの保管担当になった。
江ノ島「所でなんでみんな壁側にいんの?」
朝日奈「箱が誤爆しても大丈夫なように隅っこにいるようにしてるの!」
江ノ島「……こんだけ人多かったら爆発した時人同士で邪魔しあって避けらんなくない?」
朝日奈「あっ」
腐川「……何人か食堂に戻っておいたほうが良いんじゃない?」
大神「それが良いかもしれぬな……」
十神「残る必要があるのは……書記をしている腐川は確定として、もしくしゃみをしたときのために俺も残る必要があるか」
大和田「抑えるなら俺もか」
大神「む?我が残っても構わないのだが」
朝日奈「さくらちゃん、苗木が部屋にDVDもってくまでの護衛でさくらちゃんがいたほうが良いかもって思うんだけど」
苗木「護衛って」
朝日奈「モノクマが嫌がらせしてきてもさくらちゃんなら何とかなると思うんだ」
大和田「あー……たしかにアレ相手にするのは俺じゃちょっとな」
大神「……うむ」
石丸「僕は残ろう。このまま時計を……と、あと1分で20分経つな」
石丸クンはそう言って焼却炉に近づいて、ほんの少しだけ待ってから火を落とした。
石丸「まだ熱くて中は触れそうにないが……火バサミがどこかに無かったか?!」
霧切「あっちにかけてあるわ」
石丸クンが火バサミで中を探りはじめた。
不二咲クンが床に物を置いても汚れないように置いてあった段ボールをたたんでを敷く。
石丸クンはその上に探り当てた物を置いていった。
丈夫そうな、中に何かの重みが感じられる袋
ビニール袋の燃えカスのようなもの
4枚の鉄板
石丸「これでおおよそのこっているものは取りだせたはずだ」
霧切「鉄板で中身を保護しておいて、その中身がこの袋……かしら」
霧切さんが袋を開けると、それなりに多いモノクマメダルが姿を現した。
霧切さんはそれを手早く数えていく。
霧切「メダルは200枚あるみたいね。希望者に分配でいいと思うけれど……」
十神「その点は後で話せばいい。とりあえず、手順としては間違いなく中身を取り出せるということでいいな?」
霧切「そのはずよ」
十神「それが分かれば十分だ。食堂に行く奴はもう戻れ」
十神クンの言葉で、ボクを含めた数人がトラッシュルームから出た。
苗木「じゃあ、ボクと大神さんと桑田クンはいったん部屋に寄ってから行くよ」
霧切「それ、よろしくね。じゃあ、私たちも食堂へ行きましょうか」
不二咲「う、うん!」
江ノ島「不二咲さ、なんか調子悪そうだけどどうしたの?」
不二咲「そ、そんなことはないんだけど……」
不二咲クンの視線が泳ぐ。
朝日奈「あ、わかった!不二咲ちゃんと私達がまだそこまで仲良くないから緊張しちゃってるんだ!」
不二咲「え、えっと そう、かも」
朝日奈「よーし、舞園ちゃんも一緒に女子会だー!さくらちゃんもはやくすませておいでよ!」
桑田「オイオイ、男子はどうすりゃいいんだよ」
朝日奈「いっしょにおやつつくってたべたらいいんじゃないかな!見た目女の子だし大丈夫だいじょーぶ」
江ノ島「それさ、敢えて女子会っていう必要なくない?」
朝日奈「あ、そっか えへへへへ んじゃ、お茶会だね!よーし、おやつ作るぞーって思ったらテンションあがってきた!トンコツラーメンつくるよ!」
江ノ島「あ、でも今調理室でカレー作って……豚骨ラーメン?!」
苗木「ぼ、ボク達もう行くね?」
霧切「……そうね。私たちも行くわよ」
不二咲「うん……またあとでねぇ」
朝日奈さんの暴走と、それにツッコミを入れる江ノ島さんを無理やり引率する霧切さんたちを見送って、ボク達も部屋に向かった。
彼女はいつも元気だな……葉隠クンにしてもそうなんだけど、ある程度明るい空気を作ってくれるからほっとする。
苗木「朝日奈さんが元気でいてくれて助かるよ……」
桑田「あ?ああ、ま、そうだな」
大神「……苗木に桑田よ……道すがらだが、聞いてはくれぬか?」
苗木「ん?どうしたの大神さん」
大神「苗木は今しがた、朝日奈が元気でいると言っていたが……我には、朝日奈がいくらか無理をしているように見える」
桑田「そうなのか?」
大神「まだ出会ってほんの数日ではあるが……彼女の生来の明るさはあのようなものではないと思うのだ」
大神「我が見る限り……現状に無理を感じているのは何も朝日奈だけではない。おぬしらも、心当たりがあるだろう」
桑田「……」
大神「……すまぬ。余計なことを言った」
ボクの部屋の前につく。大神さんはそれ以降は黙ってしまった。
朝日奈さんが、ムリをしている?確かに、今の彼女には大神さんにも言えない事がある。
けれどそれは……ボクだって同じだ。大神さんには、ボクの事も見抜かれているのかもしれない。
ドアを開けて、DVDの入った段ボールを机の下に置いた。
桑田「もうちょっと厳重に何とかなんねーのかよ?」
苗木「そう言われても……机にカギでもかかればいいんだけど」
桑田「だってよ?多少なりとも人のプライベート扱うんだぜ?……っとそうだ!ちょっと待ってろ!」
そう言うと桑田クンは僕の部屋を飛び出した。ドアから彼の行先を目で追うと、桑田クンは自分の部屋に入ってすぐに戻ってきた。
桑田「ホラ!こんなのでも閉じてるのと閉じてねーのだと大違いだろ!」
そう言って彼は、手に持っていた布のようなテープのようなものをつきつけてきた。
大神「成程、テーピング用のテープか」
桑田「手で切れるやつだけど、こいつまいとけば手を出そうって気は薄れるだろ」
大神「……おぬしにとっても、見られたくないものがあるのか?」
桑田「まーな。それに……なんだ。見られたくないって言いたくなるほどの物もはいってんならさ、要るだろ?こういうのも」
大神「こういったみられることに対しての対策もしてあると伝えれば、セレス等も安心はしてくれるか」
桑田「あー、そうだなあいつもだったな」
どうやら、桑田クンは直接暴言を叩きつけてきたセレスさんよりも、石丸クンが嫌がっていた事の方が印象が強いみたいだ。
大神さんもその言葉に少し不思議そうにする。
桑田クンは僕らから背を向けているからそれに気づかないのか、気にせず段ボールにテープを巻きつけていった。
桑田クンの手によって、段ボールにテープが3周巻かれた。
開く場所の上をなぞるように一周。
それを固定するように、開く場所に交差するように両端に1周づつ。
もし誰かが勝手に部屋に入ってあけようとしたならすぐわかるだろう。
桑田「こんなもんか」
苗木「ありがとう桑田クン」
桑田「いいっていいって」
苗木「じゃあ、食堂に戻ろうか」
机の下に段ボールをしまいなおしてから、ボク達は食堂へと向かった。
食堂では、宣言通りにインスタントらしい豚骨ラーメンをすする朝日奈さん以外は何かしらの飲み物を飲んでいた。
朝日奈「さくらちゃんおかえりー!」
セレス「あら、あなた方も待機ですか?」
桑田「まあな。もうDVDについてはどうするか聞いたか?」
セレス「苗木君の部屋で保管するのでしたね……各々の手に渡しておくのが最も良いかと思うのですが」
霧切「今回手に入れるべきものの一つである"クイズ"が気になってるのよ。
今回のタカラサガシの面倒くさい回りくどさを考えるといずれ使いそうな気がするの」
セレス「それは同意できますが……」
霧切「各個人の手に渡して紛失したとなるよりは、いくらかマシだと思うわ」
桑田「入ってる段ボールにテープ巻いてるから、一応誰にも知られず見るってことはできねーはずだぜ?
苗木はまぁ見ての通りのやつだろうから、勝手に見られて弱みを握られるなんてことはないんじゃね?」
セレス「……まあ、仕方ないですわね」
しぶしぶ、と言った感じでうなづきつつ、セレスさんは紅茶を口に運んだ。
ボクたちが食堂についてから30分ほどしてから、トラッシュルームに残っていた面々も食堂に戻ってきた。
大和田「こっちの作業も終わったぞ」
十神「テーブルの上を空けろ。見つけた物に関しての説明をするぞ」
彼らの言葉に、最も広いテーブルの中央部分が空けられる。
調理室にいた皆も食堂の方にやってきた。
石丸「まず最初に、これを書いてほしい!カギの入っていた箱に入っていたプリントだ!ひとり1枚づつあるようだぞ!」
セレス「焼却炉に突っ込んでいたのにプリントは燃えなかったのですね」
山田「えー?どのような内容でしょうか?」
腐川「……自分の見た映像に関して書けって書いてあるわね……モノクマ的にいうズルいのをしていないかのチェックじゃないかしら」
苗木「監視カメラでわかってそうなのに」
十神「……恐らくは、チェック以上に俺たちに精神的な負荷を与えることが問題だろう。だが、これを提出しないと"クイズ"が有効にならんらしい」
十神クンはそう言って、ならべたもののうちの1つ……小型のラップトップPCのようなものを指さした。
石丸「個人ごとのプリントと、手順を求めた際に使った問題用紙を提出することでこれにかかっているパスワードを入手できるそうだ」
大和田「起動用のパスワードだけならあのマス目のやつだけでもいいらしいんだが
……他にもいろんなとこにパスワードを入力するとこがあるらしくてな。そいつを手に入れるのに必要らしい」
腐川「……時間制限もあるらしいし、間違えられないから……今、とっとと書いちゃいなさいよ」
十神「時間制限はタカラサガシの期限と同じだな」
セレス「……そうですか。ところで腐川さん?」
腐川「な、何よ……あたしが説明役に交じってるのが気にくわないの?」
セレス「本当に間違ったらパスワードは手に入らないのでしょうか」
腐川「えっ?」
セレス「聞き返した時点で、隠していた点があるということが分かりましたわ。何を隠してらっしゃるのですか石丸君?」
十神「おい、キサマ……!!」
石丸「……いや、やはり言ってしまったほうが良いんじゃないだろうか」
大和田「おいお前マジで言ってんのか?!」
どういうわけか、一気に空気が張り詰めた。
十神「……チッ 仕方ない。隠していることがあるのはもう全員わかってしまってるようなものだろ」
江ノ島「で?あんたら何かくそうとしてたの?」
十神「実際には、間違ってもとある方法でやり直しが効く。そのやり直しに関していえば、時間制限は存在しない」
石丸「……プリントの内容が間違っていたり、期限内に提出されていないプリントがあったとしても……誰か一人が自殺すればパスワードは開示される」
……自殺?
石丸「また、制限内にコロシアイが起きた場合はパスワードの入力自体を解除する……言うまいと思っていた点に関しては以上だ」
セレス「脱出したいなら命をかけろという黒幕側のスタンスは変わらないということですわね。納得しましたわ」
霧切「……悪趣味な内容ではあるけれど、聞けて良かったと思うわ。皆"間違えることはできない"とこれで認識できたでしょうから」
苗木「……たしかに、間違えられないな」
霧切「これはおそらく、コロシアイを促進させる目的もあるルールね」
舞園「あ、あの、どういうことでしょうか……?」
霧切「間違いがあったら誰かが死ななくてはならない……ということは、間違ってないかどうか確認し合いたくなるものよね?」
山田「それはありますな」
桑田「できる限りこたえあわせをしておいてから提出って流れになるよな」
霧切「そのためには、全員が全員のDVDを見て内容を確認する……なんてことになりかねない」
石丸「?!」
セレス「……なるほど、確かに、わたくしはそのような目にあうとなるならば、間違いを起こしかねませんわ
……また、今すぐ脱出したいと心から望んでいる方がいるなら、私や石丸君を犯人に見せかけて今のうちに……という事も有り得ますわね」
朝日奈「……じゃ、じゃあ、どうすればいいの?」
霧切「間違っていた場合は仕方ないと諦めるしかないわ。……周囲が内容を確かめる必要があるかどうかは、先ず問題を見てみればいいわね」
そう言って霧切さんは、プリントの中から自分の名前がかいてあるものを取り出し中を見る。
そして、全員にその中身を開いてみせた。
霧切「私の場合は
・映像のタイトルを答えよ
・映像にうつった男性はあなたからみて何に当たるか(続柄で答えよ)
という問題が書かれているわ。数に差はあるかもしれないけれど、おそらく間違うことはほぼない内容のはずよ」
桑田「……タイトル?」
霧切「……私の映像には、私の父が殺される瞬間がおさめられていたわ」
霧切さんの冷静な声とその内容が理解できない。背筋に冷たい汗が噴き出て、それがシャツを張り付かせる。
霧切「モノクマの編集によって、タイトルのようなものが表示されたの。"宇宙旅行"だったかしら」
不二咲「えっ……それって……本物の映像…なの?」
霧切「さあ?悪趣味な編集が多くつかわれているようだったから偽物の可能性も高いわ。少なくとも私は信じていない」
舞園「……霧切さん、ありがとうございます……たしかに、私も、たぶん他の皆も……間違える事なんて無いような問題でしょうから」
霧切「そうしてちょうだい……プリントはすぐに提出するのかしら?」
石丸「出来上がり次第、僕が回収して腐川くんとともに体育館に持っていくつもりだ」
腐川「……何よ、なんで私が行くのかって目をしないでよ……!!!白夜様に書記としてデータをまとめる役を戴いたんだから仕方ないじゃない!!」
江ノ島「誰もそんな事疑問に思ってないってば……もう一人ぐらい行ったほうがよくない?」
大神「うむ……その際には我が付き添おう」
それぞれが、自分の名前を書いてある2つ折りのプリントを手に取っていく。
ボクの内容も、出てきた人物に対する質問があったぐらいで、特に迷うようなことも、DVDを見直す必要もないような事だった。
全員難なく書き終ったらしい。
……本当に全員この程度の内容だったのか、本当に誰も間違えていないのか。
そんな不安がボクの中に少しだけ浮かんだけれど、それを晴らそうとすると霧切さんの指摘したような状況を引き起こす事になる。
石丸「では行くぞ!大神くんには移動中に僕と腐川くんで説明を行うので、十神くんと大和田くんは皆に解説を頼む!」
十神「さて、任されたことだし引き続き手に入れた物に関して説明するから良くきいておけよ」
朝日奈「はいはい えーっと、このノートPCが……クイズってやつなのはわかったよ」
十神「立ち上げても、パスワード入力画面が出てそれ以上はできない状態だ。だからこれはあいつらが戻ってくるまで保留だな」
大和田「次に大事なのはこっちの箱だな。鍵がいくつか入ってる。食堂に戻るときに一つだけ試しに使ってみたんだが、倉庫の鍵って奴は本物だったぜ」
十神「この鍵についてもある程度の管理をしておく必要はあるだろうな」
大和田「最後に……多分これはおまけだな。モノクマメダルってメダルが200枚だっけか?」
不二咲「あ、希望者に分配するって言ってあったねぇ」
セレス「どのような利用価値があるのでしょうか?」
苗木「購買部のガチャガチャを回すのに使えるよ」
十神「クイズ関連で使いそうだから、全員に最低5枚は配る気でいる」
十神「くわしくは説明書を読めばいいんだが……入力内容を間違えた際のやり直しに必要になるらしい」
大和田「やり直せない問題もあるらしいんだがな。そのあたりは問題ごとにやり直しの限度が書いてあるらしいからわかるだろ」
十神「だから、最低5枚づつ渡して、あとは自信のない奴や購買部に用がある奴でわけたらどうかと思っている」
江ノ島「5枚ってのはどこから?」
十神「適当だ」
山田「まあ、沢山あっても使わない人は使わないでしょうしな」
セレス「人によっては充分、人によっては足りないかもしれないラインですわね」
十神「葉隠と山田は山分け分含めて15枚は持って置け。それはクイズ用として他の事に手を付けるな」
山田「まるでボクと葉隠康比呂殿がバカであるかのように言わないでいただきたい!」
葉隠「なにぃっ?!十神っち、おらのことバカにしたんだべか?!」
十神「できればバカ筆頭の貴様らには触れさせたくないぐらいだが、回答者を制限する問題もあるらしいからな……その分の処置だ」
十神「江ノ島と桑田も多めに持って置いたほうが良いんじゃないか?」
江ノ島「ウザっ」
桑田「勉強はできないけどそこまでアホじゃねーって!」
苗木「十神クン、そういうのはいいから……」
十神「……まあ、そんなわけで後はお前らで説明書を読んでおけと言いたいところだが……まだ腐川に写させてないから汚したりするなよ」
朝日奈「腐川ちゃん、そんなにいっぱい書かせたら腱鞘炎になっちゃうんじゃないかな……」
山田「腱鞘炎?!ひぃいい~~おそろしいいい~~~!!」でぶでぶ
桑田「腐川にもテーピングさせといたらマシかもな」
葉隠「まったく、いじわるばっかり言う十神っちにはカレーやんねえぞ!」
舞園「あ、もうご飯も炊けてますから食べてもいいですよ?夕飯のつもりで作っていたはずなので程々にお願いしますね」
大和田「そういや、12時からはじめてもう夕方か……サクサク行ったと思ったが割と時間かかったな」
不二咲「……精神的にも疲れちゃったし、みんな何か食べたほうが良いかもね……朝日奈さんはさっきラーメン食べてたけど」
朝日奈「ゴハンとおやつは別腹だよ!」
桑田「ラーメンは普通食事カテゴリだろ?」
苗木「今からだと行った人たちが戻ってきてすぐ情報まとめられないから、まだお預けだね」
セレス「それもそうですわね」
それから10分ほどたって、ようやく石丸君たちが戻ってきた。
石丸「無事にすべてパスワードと交換できたぞ!」
腐川「あといくつか言われたことがあるから伝えるわよ……
パスワードは一応全部あたしがノートに写してあるけれど、基本的には自分のパスワードは自分で管理してほしいみたい」
石丸「各々の分のパスワードは、回答者を制限する問題の認証に使うものだったようだ。パスワードと生徒手帳の認証で回答権が与えられるらしいぞ」
大神「また、その際の不正を防ぐために校則が追加された……電子生徒手帳を見てみるとよい」
大神さんに言われて、生徒手帳の校則を確認する。
校則の7番目に「電子生徒手帳の他人への貸与を禁止します」という物が追加されていた。
モノクマ「ってなわけで」
江ノ島「ひゃあああああっ??!!どっからでてきてんのよアンタ?!」
江ノ島さんの椅子の下からモノクマがさっそうと登場して、江ノ島さんが悲鳴を上げた。
モノクマ「むちむちのおしりの下に身を隠していると思うと興奮しちゃってたまらなかったよ!……ハァ ハァ」
江ノ島「キモい!いままでのこいつの言動でいっちばんキモい!!!」
霧切「セクハラのために登場したわけじゃないんでしょう?要件を言って」
モノクマ「はいはい 今確認いただいたように、校則を追加したよー!
自分の超えるべき壁を他人にこえさせるなんてズルができないようにって処置だね!
校則を破ったらきっちり罰を受けてもらうからね!うぷぷぷぷぷぷ」
そう言って、モノクマは来た時と同じように唐突に姿を消した。
霧切「……電子生徒手帳の扱いにはみんな気を付けたほうがよさそうね」
苗木「そう……だね。壊したりしないようにしないとね」
大和田「あん?なんで俺を見るんだよ?」
十神「一番やらかしそうだからな」
大和田「ッチ、わーった気をつける……そういや風呂場のカギもあったな。風呂に行くときは部屋にしまっといたほうが安全か」
石丸「では、これよりパスワードを配る!呼ばれた順に取りに来たまえ!」
大和田「お前が配ればよくねーか?」
大神「石丸よ、手分けして配ろう。……さすがに何時間も気を張っていて少し疲れた」
石丸「む、そうか。では配るのでそのまま待機してくれたまえ!」
腐川「大事なものだから無くさないようにしなさいよ……特に葉隠」
葉隠「だからなんでそういうのに おらの名前をあげるんだべ?!」
葉隠クンの抗議をよそに、パスワードが配られる。
ボクは中に書かれていた文字列を確認して、上着の胸ポケットにしまった。
苗木「えーっと……とりあえず、これで今日やるべきことは終わったって事でいいのかな?」
江ノ島「そだね。鍵つかって探索とかは明日で良くない?なんだかんだもう疲れたよ」
十神「そういうわけにもいかんだろう。少なくともクイズの起動と概要ぐらいは見ておいたほうが良い」
十神クンはそう言って、クイズの機械に手を伸ばした。ボクは彼の背中側に移動して、どうなるか確認しようとした。
折りたたまれていた上部をあけると、モニターとキーボードがあらわれた。
よくあるノートPCとの違いは、モノクマメダル投入口がついていることと、画面の操作に使うようなタッチパッドが無い事ぐらいだろうか。
電源をつけて、起動用パスワードを入力すると、よくあるパソコンのような起動音を鳴らし、黒い画面にモノクマのロゴが浮かび上がる。
起動中という文字とともに、画面を横に切り裂くように赤いバーが左から右に伸びていく。
バーが画面右端に到達すると、いったん黒くフェードアウトしてから次の画面に切り替わった。
苗木「希望ヶ峰脱出クイズ~君たちは真実を受け止められるか~ ……?」
十神「ここがどうやらタイトル画面らしいな。説明書にあったのと画面構成が同じだ」
そう言って十神クンは画面に直接手を触れた。画面はタッチ操作が可能だったらしい。
十神クンの触れたところに、波紋のようなエフェクトが浮かんで消えた。
タイトルらしきものの下には、上から順に
問題集
資料集
コロシアイ特典
というおおきめのボタンが並んでいた
苗木「全部説明書に解説があるの?」
十神「そうだ。説明書を読めば明らかだが……一応説明しておいてやるか」
相槌をうちつつ、十神クンは画面を自分の向かい側の方へ向けた。見えて無い人たちに画面を見せる気らしい。
十神「一番上の問題集というのは、その名の通りだな。ここをタッチすればクイズを進めることができる。
その下の資料集も書いてある通りだ。クイズを答えるごとに資料が増えていくらしい……
一番下だが……説明書にはコロシアイが行われるごとに追加される特典だとか書いてあったが、俺達には必要ない」
十神クンがそう言い切る。
殺人なんて犯させない。だからコロシアイ特典が追加されることはない。僕らには関係ない。
十神「……とりあえず問題なく動くようだな。あとは各々壊さん程度に触ってみればいい。いずれ全員触れる必要はあるはずだからな」
江ノ島「あ!アタシちょっと問題やってみたい」
江ノ島さんはそう言って、機体をずいっと自分の側に寄せる。
江ノ島さんの手元を、すぐ近くにいた舞園さんと朝日奈さんが覗いている。
江ノ島「えーっと、問題集ってとこ触ればいいんだよね?それっ」
朝日奈「おお、画面変わった」
江ノ島「えーっと……いまできるのってコレとか?」
舞園「みたいですね」
江ノ島さんが黙って、機械をいじる。自分用のパスワードと学生証をとりだしたあたり、いきなり個人用の問題が出たようだ。
周囲が黙っているのに気付いたのか、彼女は自分の見た物を説明しだす。
江ノ島「なんかさー、ウェルカムクイズってのがあってね。今はそれしかできないっぽいんだけど、そこ触ったら画面が左右に分割されて
左にヒントメニュー、右にクイズメニューってかいてあったの。ヒントはいまんとこ空欄になってる……あ、そんでね、クイズの一番上触ったら
"学生番号1番の方用の問題です"って出てパスワードいれるようにってなったんだけど
アタシは学生番号14だからいったんもどって、自分用の問題に移動したとこ」
江ノ島さんは説明しながら、パスワードを打ち込み、生徒手帳を画面にかざす。
舞園「生徒手帳の認識は画面に電子生徒手帳をかざすだけでいいみたいです」
江ノ島「何気に無茶苦茶ハイテクだけどさー、これ耐久度もものすごいことになってるよね。
焼却炉で燃やして平気って凄過ぎじゃない?あ、問題でてきた……最初は全員やるかどうかの確認なのかな?」
朝日奈「ええっ?!江ノ島ちゃんこれわかるの?!問題に出てる漢字も私わかんないよ?!」
舞園「ええと……あの……私もよくわかりません」
江ノ島「んとね、出てる問題文は携帯口糧の英訳を答えろ なんだけど……え?何?みんなにとっては結構難しい?」
葉隠「ケータイコーリョーてなんだべ?」
江ノ島「レーションだよ。答えもレーションで正解になったよ。まったく、男なんだったら多少はこういうのも知ってなよ」
霧切「…………まあ、いいわ。正解して何か変化はあった?」
江ノ島「うん?あー、資料集にアタシの名簿が追加されたっぽいよ。案内ってので表示された。次、舞園か朝日奈やってみたら?」
朝日奈「うわぁ!やるやるー!」
葉隠「おらはもうハラへったべ。もう自由行動でいいよな?」
山田「そうですな。カレーでも食べましょうか」
明確に終わりの区切りが無いままに、ボク達は思い思いに動き出した。
石丸「カギとメダルに関しては明日の朝分配と保管係を決めるということで良いかね?!」
腐川「……それでいいんじゃないの」
セレス「もう調理室に行った人もいらっしゃいますし、今日はそのあたりは放置しておきましょう」
石丸「一旦、僕の部屋に保管しておくことにしよう。問題はないな?!」
大和田「はいはい……っと、カレーあるんだったな。俺も食っとくか」
ボクもカレーをもらって、それを食べながらクイズをいじっている人たちの様子を観察する。
新しいおもちゃを子供の群れに放り込んだかのような状態、というのが一番近い表現になるだろうか?
ボクも気にならないかと言えばうそになる。触っておいたほうが良いというのもあるし、脱出のための物なのだとしたら一刻も早く進めたい。
桑田「最初に出されるのって本当にやる本人にとっては簡単な物なんだな」
不二咲「そうだね、でも専門じゃない人には難しいからやっぱりその人用ってことだよねぇ」
そんな話を聞きながら、ボクにはどんな問題が出るんだろうかと想像する。
他の皆には得意分野ってものがあるし、それに関する問題だからいいけどボクは平均的な高校生だ。
江ノ島さんのように、意外な趣味があってそれから出題される……なんてこともたぶんないだろう。
~モノクマ劇場~
モノクマ「というわけで、再放送の途中ですがここで休憩時間を設けましょう」
モノクマ「何故って?>>1が投下につかれたからだよ!!」
モノクマ「できるだけ早めに既投稿分は再投稿済ませたいみたいなんだけどね。気力が戻ればまた続きを置きに来るよ。
それは明日かもしれないし明後日かもしれない……基本的にはSSは気分で書くもの派らしいんでペースに関してはスカイタートルだよ」
モノクマ「そうそう、ちょっと突っ込みどころとかもあるかもしれないけど一応理由があるところと素ボケがまじりあってるみたいだね」
モノクマ「ああ、ちなみにだけど再投稿時に幾つか案内文抜いてあったりするからそこはよろしくね」
モノクマ「今回のおまけは、タカラサガシの際の問題用紙だね。彼らが見つけた時の状態のものを置いておくよ」
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|カ.|イ|ダ| | | | |
|ギ|ズ|ル| | | | |
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モノクマ「お手元の紙に再現して、どんなふうに埋まったか確かめてみるのも面白いんじゃない?初級中の初級問題だから手ごたえはないけど」
| |ク|メ.| | | |
|カ.|イ|ダ| | | |
|ギ|ズ|ル| | | |
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おまけをミスるという不具合
こんな感じの問題用紙でした。ふえろペンパズル人口
タカラサガシとかいうモノクマの思い付きを終わらせてから一晩がたちました。
わたくしを含め、ほとんどの生徒が昨晩の内にクイズの最初の部分を終えたらしく、
朝にチェックした時には資料集の希望ヶ峰78期生Aクラスの名簿の大半が埋まっていました。
セレス「現状だと、電子生徒手帳の通信簿メニュー以上の事は載っていませんわね」
不二咲「そうだねぇ……あ!セレスさんが来る前に少しすすめたら他の資料も出てきたよぉ。資料集のメニューを少し送ったら、77期生の名簿が出てきたんだぁ」
セレス「わたくし達の先輩の名簿ですか」
不二咲「うん、といっても本当に不完全で、名前だけ表示されて中を見れない人とか、名前も???ってなってて明らかになってなかったりとか……」
セレス「どのような問題を解いたら出てきたんですの?」
不二咲「えっとね、問題集の中に他の生徒についてのクイズがあったんだぁ
……それで、ボクと大神さんと石丸君のそれぞれに、ボク達より先に入った先輩についての心当たりがあって
問題を見て、この人の事だろうってのに知っている人の事を当てはめて行ったら正解で、それで77期の名簿がいくつか現れたんだよ」
セレス「……その解いた問題も見れますか?」
不二咲「うん、解いた問題もちゃんと見れるみたい。個人用の問題は解くときと同じように認証を通らないと見れないみたいだけど」
わたくしは不二咲さんの言葉を聞いて、問題集に移動しました。
ウェルカムクイズの下にいくつか新たな単元が追加されており、そのうちの一つの 他学年について に移動します。
クイズそのものに移動するためのタイトルはすべて"他学年について"と通し番号になっていました。
その中の回答済みになっている問題のひとつをタッチすると、
時代劇の青年剣士のような雰囲気の、実直そうな青年の写真とともにいくつかのクイズが並べられていました。
わたくしの好みには少々彫が薄すぎる気もしますが……まあ、顔に関しては良いでしょう。
クイズの問題を見ていくと、この写真の人物の名前と出身校、希望ヶ峰にスカウトされた内容について問われていました。
セレス「……よく出身校まで判別できましたわね」
不二咲「えっと、剣道家と生徒会長のことだよね?剣道家のひとは大神さんと出身校が同じで、生徒会長の人は石丸くんと出身校が同じだったんだぁ
どっちも、学校の内外で有名だったらしいから、すぐに分かったみたいだよぉ」
セレス「2年連続で超高校級を排出できた2校は鼻が高いでしょうねぇ」
そう言いながら、他の問題も調べてみます。
大神さんが答えたらしき超高校級の剣道家に関しても生徒会長と同等の内容が問われていましたが、
それより下方に設置されていたメカニックと神経学者に関しては設問が少々変わっていました。
セレス「メカニックは……名前とスカウト内容と実績を問われていますのね」
不二咲「左右田さんだねぇ、彼の作ったエンジンが実は新しいパワーエンジンとして注目されてたんだぁ。回答もそれで合ってたよ!
……でも、制御に難があったから、こっちに依頼が来て……それで超高校級のメカニックの事と、名前を憶えてたんだよぉ」
セレス「……しかし神経学者に至っては幼少期のエピソード等……これは誰が答えたのでしょうか?」
不二咲「私が朝一番にクイズを起動したんだけどその時には回答済みだったから……多分夜ぎりぎりまで残ってた人じゃないかなぁ?」
セレス「……そうですか」
他の問題も流してみていると、わたくしのこたえられそうな人物にもいきあたりました。
そう、希望ヶ峰にきたらぜひ一度お会いしたいと思っていた人物……超高校級の王女の顔写真を見つけたのです。
セレス「ふふっ、わたくしも、一つだけこたえることができそうですわ。思い出しながらですので少々お待ちくださいね」
リトライ回数3回、モノクマメダル投下限度無制限。
やり直しに関してはそう表記された、薄い金髪蒼眼の女性の問題にわたくしは手を付けました。
彼女の問題で問われているのは
名前、希望ヶ峰によるスカウトの内容、彼女の出身国の3つ。
名前は"ソニア・ネヴァーマインド" 難なく正解。
スカウトの内容は"王女" こちらも問題なし。
出身国は……ええと、なんでしたっけ?マイナーな国でしたわよね?
2回ほど間違いのブザーを鳴らしてしまいましたが、メダル投下を覚悟しつつの"ノヴォセリック王国"でようやく正解できました。
セレス「……ふぅ、ようやくできましたわ……わたくしとしたことが2度も間違えるだなんて」
不二咲「おつかれさまぁ。左右田さんにメダル一枚使っちゃったから、それよりはましだと思うよ?」
セレス「あら?間違える場所があったんですか?」
不二咲「下の名前がうろ覚えで……カズ……なんだったっけってなっちゃってて」
セレス「わたくしの間違いも似たようなものでしたわ……本来なら学内を散策して、名前や実績を得るのかもしれませんわね」
不二咲「うん、たぶんそうじゃないかなぁ。霧切さんが初日に見つけてくれてた見取り図を見る限り、2階に図書館があるはずだし、
そのあたりで狙って資料を探したほうが良いかもしれないねぇ」
不二咲さんの言葉に頷いておいて、わたくしは再び資料集へと移動します。
ヒントが無いかゆっくり探したいと言って不二咲さんと少し距離を置いた後……わたくしは名簿の不二咲千尋の項目を見ました。
……残念ですわね。やはり、どこにもないのでしょうか?
性別などと言う基礎的な要素が隠されているのは、やはりどこか意図的に秘密を有しているとしか思えませんわね。
わたくし達の姿が変わってから、わたくしにはある違和感がぬぐいきれぬままでした。
人が多すぎる。
わたくしの認識では、何故か共同生活を送っていた人数はもう少し少ない印象だったのです。
さらに言うと、不二咲さんが今当然のように女性として過ごしていることにもなぜか違和感を感じていました。
また、腐川冬子の別人格に対しての恐怖や驚きも薄く、まるですでに知っていたかのような感覚を受けたのです。
……ギャンブラーには、嘘を突き通す才能、場を引き寄せる運、場を察知するカンのすべてが備わっていなければなりません。
そして、わたくしはそのすべてを最上級であると自負しているのです。
この予感が全くのはずれであるということはまずないと、自身の才能に誓って言えましょう。
セレス「……フフッ。難しい状況ほど、面白い物ですわね」
ボクが食堂に入ると、不二咲クンと舞園さん、それに珍しく早めに来ていたセレスさんがいた。
苗木「おはよう」
舞園「あ、おはようございます」
セレス「おはようございます」
不二咲「おはよう、苗木くん」
苗木「あれ?普段朝早い人は?」
舞園「大神さんと朝日奈さんと石丸君が調理室にいましたよ。いつもの見張りと、ついでに白米の用意をしているみたいです」
セレス「焼きたてのパンもリクエストしてみたのですが、さすがにそれは断られてしまいましたわ」
苗木「パンは野菜や肉のようにいつの間にか補充されて無かったっけ?」
セレス「焼きたてが食べたいのです。焼きたてでないパンなんて冷えた出来合いの惣菜と同じですわ」
無茶なことを言いながらも、本気で要求しているわけではないらしく怒って強制したりはしないようだ。
マイペースな人たちも集まってから、朝食会が開催される。
いつものように食べたいものを自分で用意して食べるだけだけれど、皆の顔が揃っているというだけで安心できる。
石丸「食べながらで良いが、聞いてくれ!朝食を終えたら新しくいける場所への散策を行う!」
朝日奈「朝早く集まった人だけで勝手にやるのもどうかって事で、みんな揃ってから行くことにしたから参加必須だよ!」
桑田「マジで?うわ、めんどくせー」
不二咲「あ、それとねぇ、クイズをちょっと進めたから資料集の内容が増えてるよぉ」
江ノ島「あー、昨日伝え忘れてたけど77期の名簿のやつ?」
セレス「……あら?それを知っているということは、神経学者に関して答えたのはあなただったのですか?」
江ノ島「うん、松田君でしょ?小さいころ近所に住んでたからすぐわかったよ」
必要事項と、そうでもなさそうな会話が飛び交う。とりあえず、ボクは2階の散策からやっていこうかな。
朝食を終え、自分の分の皿を洗ってから2階の散策に向かう。鍵は一足先に食事を終えた石丸クンと十神クンが手分けしてあけておいてくれたそうだ。
苗木「……といっても、調べるべきところなんて」
霧切「ちょっといいかしら?」
苗木「うわっ?!」
霧切「頼みたい事があるの。こっちに来て」
苗木「ど、どうしたの?」
霧切「その場で説明するわ、今は他の人がいないうちに早く」
霧切さんに引っ張られて、ボクは2階の男子トイレの中に引きずり込まれた。
霧切さんはボクの腕をつかんだまま、掃除用具入れをあけてその壁の中へと向かう。
霧切「隠し部屋は変わらず存在したわ。ただ、状況はこのとおりよ」
苗木「……これって」
隠し部屋は、本棚の中の大半の資料が無くなっている状態だった。
しらべてみると、机の中のケーブルもないし、接続先となる部分も溶けたプラスチックのようなもので埋められている。
霧切「資料に関しては、以前持ち去られた時よりは多くの物が残っているみたいだけれど、内容的にクイズを解くための物として意図的に残されているわね」
苗木「……誘導されている感じがするね」
霧切「……黒幕は2週目と言っているけれど、私達に以前と同じ行動をさせる気はさらさらないみたいね」
苗木「そう、かな?動機なんかは同じようなものを出してきてるけど」
霧切「動機が同じだったとして、これまでと同じ流れであると言える?」
苗木「……言えないね」
霧切「何らかの目的があって、希望を多く与えている……と思うのが適切でしょうね。ところで、本題に入ってもいいかしら?」
苗木「本題?」
霧切「苗木君がここを見つけたことにして欲しいの。資料を持ち出すにしても隠し部屋の存在は知らせたほうが良いはずだけれど……わかるわね?」
苗木「何をいまさら恥ずかしがってるんだよ……けどいいよ。ボクがここを見つけたっていえばいいんだね?」
霧切「ええ、偶発的に見つけたことにしたほうが良いと思うのだけれど、私では不自然だから……よろしくね」
十神「埃のつもり具合から、1年以上経過しているものと見て良さそうだな」
舞園「へくちっ!……早々に掃除しておきたいですね」
江ノ島「マジ同感。……ちょっと掃除されてなさすぎじゃね?」
十神「だからこそここが放置されているという証拠になるんだろうが」
江ノ島「でもさー、少なくとも一階や廊下はそんなことなかったじゃん。となるとココが掃除されてない理由ってなんなの?」バンバン
腐川「なんなのって言われても……あたしらが知るわけないじゃない……ていうかどこを気にしてんのよ!まずはこの手紙のことじゃないの?!
っていうか埃舞わせないでよ!!危ないじゃない!!」
山田「そうですぞ危ないです!!」
江ノ島「だって気になるのにこたえてくんないんだもん」
山田「ふむぅ……放置されていたから埃が積もっているにしても……敢えてここを掃除しなかったという点の方が気になるということでしょうか?」
江ノ島「うん、たぶんそんな感じ」
十神「知るか。モノクマに聞け」
図書室に訪れると、そんなやりとりが交わされていた。
十神クンはボクに気づくと、イライラした調子で「何か用か」と言葉を投げてきた。
十神「俺はここの探索で忙しいんだ」
苗木「あの、なんていうか隠し部屋を見つけて……資料とかがあったから今はすぐ近くを通ってた霧切さんに調査してもらってる」
舞園「隠し部屋?」
苗木「男子トイレの用具室の奥にあったんだ。みんな一度行ってみておくといいかも」
十神「そんな物があったのか?」
苗木「見つけた時の状況とかはまたみんな見つけた物を報告し合うと思うし、そこで話すよ。ただ、そういう所があったって伝えておこうと思って」
腐川「……そう、ね。調査しておく箇所があったなら見ておいた方が」
江ノ島「あたし行く!男子トイレだっけ? 別に入ってもいいよね?」
舞園「少し抵抗はありますけどね」
苗木「ボクは別の所を調べている人にも隠し部屋の事を伝えてくるよ」
十神「ああ、そうしたほうが良いかもしれないな。ただ、一人だと手が回らないだろう。俺が手伝ってやる。
腐川、ここで見つけた物や調査内容はメモにとっておけ。いいな」
腐川「はいっ、白夜様!」
舞園「私は引き続き腐川さんや山田君と一緒にここを調べておきますね」
先に駆けて行ってしまった江ノ島さんにつづいて、ボクと十神クンも図書室を後にした。
ボクが電子生徒手帳で他の皆の居所を確認していると、十神クンがボクに話しかけてきた。
十神「苗木、こっちも伝えておくことがある」
苗木「何?」
十神「不二咲がアルターエゴを作り出すはずだったあの古いPCがどこを探しても見当たらなかった」
苗木「?!」
十神「実を言うとだ、その件に関してはある程度予測できていた。資料集の目次だけ開示されている内容に
"人類史上最大最悪の絶望事件資料"というものを見つけていたんだ」
苗木「……つまり、アルターエゴに解析してもらうことで手に入るはずだった情報はそっちにうつっていて……」
十神「アルターエゴという新たな武器を手に入れないようにするために、情報は残してアルターエゴを作るための機械を排除したんだろう
こんな姿にした点といい、黒幕は2週目といいつつ完全に新しいゲームにする気でいるらしいな」
十神クンはそう言って、先に進んでいく。
苗木「ちょ、ちょっと」
十神「俺は1階の連中に話してくる。お前は更衣室前にいる連中に話をしておけ」
黒幕は2週目ではなく新しい事をする気だ、と霧切さんも十神クンも言っている。
正直なところ……ボクは、それに賛成も反対もできなかった。
黒幕にとっては前回の、死体が積み重なるコロシアイでも、皆が脱出するために協力するのもどちらでも構わないはずだ。
ボクは、黒幕の周到さと卑劣さを思い出す。
おそらく、どちらの道を進んでも黒幕の都合がいいようになっているはずだ。
そんなことを考えていたのだけれど……更衣室前につくと、何やら朝日奈さんと桑田クンが深刻な顔をしていた。
朝日奈「……どうしよう」ションボリ
桑田「ホント参るよな……マジどーすんだよ」ションボリ
苗木「……えっと、何があったの?」
大神「苗木か……実は、朝日奈と桑田が大変なことに気づいてしまってな」
苗木「大変な事?」
セレス「著しくくだらない事ですわよ?」
苗木「まあ、聞かせてよ。何か役に立てるかもしれないし」
朝日奈「水着が着れないんだよ!」くわっ!!
苗木「えっ?」
朝日奈「だって、いま一応女の子ではあるけどパッと見男の子だよね?!見た目的にすっごい変態になっちゃう!」
苗木「あ、あー……」
朝日奈「でも、やっぱり女の子だし胸丸出しははしたないじゃん?!全裸で泳げば見た目の問題は解決するけどさくらちゃんがだめだって!!」
苗木「全裸はだめだよ?!」
セレス「もともと泳ぐ気のないわたくしはあまり関係ないのですけれど……泳いだり泳ぐ姿を見る気だった人には問題があったみたいですわね」
桑田「み、見れないからおちこんだわけじゃねーって!気分転換に良さそうと思ってただけだって!つーかさ、これ何気に男子も同じ問題抱えてるからな?!」
苗木「……?」
桑田「胸できてるからスク水を着ないと問題があるが……その、下半身はそのままだろ?!」
苗木「……ああ、そう考えるとホントにこう……問題しかないね」
朝日奈「酷いよ……プールがあるのにおよげないなんて……すっごいいい匂いのドーナツ食べたら食品サンプルだったぐらいのショックだよ……」グスッ
セレス「何故そんなたとえが出てくるのでしょうね」
朝日奈「えっ?間違って食品サンプルかじっちゃうことない?」
大神「残念ながら今のところはないな」
朝日奈「そんな!?何重にもショックだよ!」ガーン
不二咲「……あれ?何してるの?」
苗木「不二咲さん」
不二咲「ど、どうしたの?!朝日奈さんなんで泣いてるの?!」
桑田「あー……そいつはな……」
不二咲「……そ、それは……たしかにそのままどっちか着るなら問題かもねぇ……」
桑田「不二咲ちゃんもそう変わってないように見えるけど……気になるよな?」ハァー
苗木(桑田クンやっぱり水着姿見れない事の方にショック受けてるんじゃ……)
不二咲「水着そのものが苦手だから多分姿変わってなくても泳がないけど……あ」
大神「どうかしたのか?」
不二咲「全員スクール水着の上から海パンはいたらいいんじゃないかなぁ?
トランクスっぽいのだとズボンはいてる感じになって目立たないはずだし、濡れても誤魔化せると思うよぉ」
朝日奈「それだ!それだよ不二咲ちゃん!!やったー!泳げるぞーーー!!」
桑田「いや、それはそれで結構マニアックなことになる気がしないではないけど……まあ、一応抵抗は薄れるか」
不二咲「さっきまで石丸くんと倉庫見てたんだけど、水着やジャージも一杯揃えてあったからみんなが両方揃えても問題ないと思うよぉ」
朝日奈「報告終ったら早速泳がなきゃ!」フンス!!
苗木「アハハハ……あ!しまった、要件伝えに来たの忘れてた!」
不二咲「もしかして、隠し部屋の事?苗木くんがみつけたんだったねぇ」
苗木「不二咲さんはもう聞いたんだ」
不二咲「階段で十神くんと鉢合わせたから、その時に教えてもらったんだぁ」
セレス「?」
苗木「えーっと……実はね」
朝日奈「そんな重大な事はやく言ってよ!?」
セレス「彼がここに来た時はまさにあなたと桑田くんが失意の真っただ中でしたから……機会を逃しても致し方ないかと」
大神「ふむ、隠された資料か」
苗木「そこにある資料をどうするかはまだ決めてないけど、どんな場所があるかは知っておいたほうが良いし皆一応確認しておいたほうが良いと思うよ」
桑田「ってことは、2階トイレは使用禁止にしといたほうが良いな。人が通る時用をたしてたら問題あるし」
苗木「そうだね、報告の時にそのことも提案しておこうか」
探索が一通り終わってから、皆食堂へと集まってくる。
それぞれが探索の報告をする中、ついに僕の番がやってきた。
苗木「もうみんな聞いていると思うけど、2階トイレの奥に隠し部屋を見つけたよ。用具入れの奥が押したら開くようになってたんだ」
霧切「すぐそこを通りかかったから私が資料の中身を調べていたのだけれど、
希望ヶ峰に関する新聞の切り抜きや学生のデータ、過去の予算推移なんかがあったわね」
苗木「壁の本棚から見るとほんの少ししかなかったんだけど……多分クイズのヒントとかに使えると思う」
腐川「で?その資料どうするの?」
霧切「資料自体は整理して図書室とかに移動させたほうが良いと思うわ。隠し部屋に置いたままにしておくには場所が場所だから」
大神「しかし、場所自体は把握しておいた方が良いだろうな」
江ノ島「机といすと本棚がある以外はがらんとしたとこだったけどね」
苗木「皆が隠し部屋の場所を確認するまでは2階の男子トイレは使わないほうが良いと思うよ」
山田「賛成いたしますぞ~」
不二咲「あと、隠し部屋で気になったのはLANケーブル用の接続箇所っぽい所があったのに埋められてた所かな
……パソコンもケーブルも無いから、仮に開いていたとしても何の利用もできないんだけど、黒幕も知っている場所と思ったほうが良いかも」
霧切「監視カメラやモニターはなかったから、見つけたのはこんな状態になる直前とかかもしれないわね」
十神「なるほど。 この辺りで報告は出尽くしたな?他に何か気づいたことがある奴はまた俺に報告しろ。腐川に書き留めさせておく」
桑田「直接腐川に言うのはだめなのか?」
腐川「……ダメではないけど……何よ?あんたらだっていやでしょ?!分かってるから無理して関わろうとしないでよ?!」
十神「ダメではないが自己責任で、ということになるな」
報告会が終わり、ボクらはいったん自分の部屋に戻る。
数名が図書室へと資料を運ぶことになったらしいが、ボクはそこには含まれなかった。
しばらく部屋でぼーっとしていたけれど、平穏だからと言ってこれはよくない気がする。
報告会の時についでに分配されたモノクマメダルを見ながら、ボクは食堂に向かった。
誰もクイズをやっていないならやってみて、誰かがやっているようなら余剰分でモノモノマシーンをまわしてみよう。
苗木「あ、結構食堂に人いるね」
葉隠「おう、苗木っち!苗木っちもちょっと付き合ってくれ!」
苗木「?」
舞園「実は、ぼ……ボク達いま困っているんで……いるんだ!」
石丸「そうだ!僕を含め現状に即した行動を取れている人物は限られていることに気づいた!」
舞園「石丸君、言い直しです」
石丸「むっ……わ、わたしを含めて、現状に即した行動を……」
苗木「何があったの?!」
石丸「ええと」ヒクッ
舞園「えーっと……その、ぼく……すみません、葉隠さんお願いします」
葉隠「まかせろ!実はだな、今の姿に見合った言動をしたほうが良いんじゃないかという話になってだな」
苗木「それで舞園さんが男言葉にしようとしてたり石丸君が私って言ったりしてたんだ」
葉隠「そーいうこった。どっちがいいかはわかんねーけど練習はしておこうってとこに落ち着いたんだべ!」
苗木「……の割には葉隠クン全然いろいろ変える気が無いみたいだけど」
葉隠「何言ってんだべ?!おらはずっとそれを実践してたんだぞ?!」
石丸「一人称が"俺"から"おら"になっているな」
舞園「その理由を聞いてからこんな話になったんですけれどね」
苗木「いや、そういうことをする必要はないと思うよ……?」
舞園「でも、今までと全部一緒ってわけにはいかないですし、行動をどちらに寄せるかは考えないと」
葉隠「実際問題、服も仕立て直してる奴多いからな」
石丸「それにだ……言ってはなんだが現状のぼくの肉体はほぼ女性であるわけで、女性が僕と言ったり男性的な行動をとるのは風紀的にもどうなのかと」
苗木「石丸クンはちょっと気にしすぎてる気が」
石丸「では、君は今の自分をどのように定義しているというのだね!?」
舞園「苗木くん含め大半の人は元々の性別のままの意識で過ごしてる気がしますけれど……本当にいいのでしょうか?」
苗木「え、えっと その」
桑田「ん?何やってんの?」
苗木「桑田クン!良い所に、たすけて!」
桑田「どうした?」
石丸「桑田くん、君は今現在の自信をどう認識している?!」
桑田「え?何?哲学?オレそう言うのちょっと」
舞園「いえ、そこまで難しい話ではないんですけれど」
石丸「現状、僕たちの姿は大きく変わってしまっているが、それでも男性と言っていいのかということだ!」
桑田「いや、考えるまでもなくおっぱい生えただけの男だろ?!」
石丸「……???」プシュー
葉隠「思考が限界を迎えたようだべ」
舞園「私も胸が無くなっただけの女性になるんでしょうか」ペタペタ
桑田「くっだらない話してるな~」ヘラヘラ
葉隠「んでも服できたら女物着るべ?今の服はいらなかったり不便だったりするから」
桑田「まあな。女子も一応男物っぽいの作っといたほうが良いと思うし」
苗木「まあ、それでも意識まで合わせていく必要はないよね」
舞園「……まあ、それもそうですね。石丸君、大丈夫ですか?」
石丸「えーと……いや、よくわからないがこれは深く考えてはいけない事というやつだということは分かった」
苗木「うん、それでいいんじゃないかな」
舞園「ふふふっ、なんだか変なことを言ってしまってましたね」
葉隠「おらはこの状態で俺って言うと微妙に違和感あるからつづけるけどな!」
苗木「いや、葉隠クンも戻しちゃっていいと思うんだけど……まあ、やりたい人はやればいいか」
葉隠「おう、万一元の姿に戻れなかった時のためにもならしておかねーと」
桑田「恐い事言ってんじゃねぇ?!」
葉隠クンの言葉はブラックジョークの一種ということにして、ボクはクイズの端末を開いた。
資料集を見ると、朝言ってあったように資料の目次がいくつかあいていた。資料目次の中には十神クンが言ってあったようにあの件についてもあった。
ボクは問題集に移動して、昨日他の人の手に渡ってばかりだったために放置していた自分の分のウェルカムクイズを開いた。
苗木君がクイズの端末を開いたのを見て、私は食堂を出ることにしました。
葉隠君や石丸君はまだ食堂に残るらしいのですが、桑田君も水を飲みに来ただけらしく私が出ようとしたとき一緒になってしまいました。
……正直に言うと、私は彼が苦手です。
ミュージシャンを目指すというのはいいのですが、軽い所が苦手です。
……でも、今はそれだけではない何かぞわぞわとする恐怖も一緒に感じるのです。
何故か"殺される"という思いが湧いてきます。
こんな人が、強く殺意を抱けるとは思いません。
この場面で、そんな感情を抱けるのは、強く強くここから出たいと思っている人だけのはずです。
その理由が薄い人に殺されるという感覚を抱くのは何故なんでしょうか?
桑田「……あー、そうだ。舞園ちゃんさ、練習スゲー一杯やる方のアイドルだよね?」
舞園「……練習せずにステージに上がる子なんていませんよ」
桑田「そっか……今もさ、練習とかはしてんの?」
舞園「ええ」
桑田「違和感とか無く?」
その言葉に、私は口をつぐんでしまいました。
……違和感があったから、あの場にいたんです。
違和感があって、元の舞園さやかとしての声と音程で歌うことができなくなってしまっているから
わたしは私を変える必要があるんじゃないかと思っていたのです。
苗木君や桑田君は、葉隠君の言葉を悪い冗談のようにとらえていました。
ですが、わたしにとってそれは――――――今考えうる、最上に恐ろしいことの一つだったのです。
桑田「……舞園?」
舞園「す、すみません あります。違和感……でも、ちゃんと練習して歌えるようにしておけば、解放されてパフォーマンスに大きな影響が出ないとは思うので」
桑田「……ワリぃ。変なこと聞いた オレも球速落ちたりしてて、そういうのある他の奴の話聞きたいとか思ったんだけどちょい無神経だったわ」
舞園「えっ?野球の練習したんですか?」
桑田「いや、練習じゃなくてさー。不二咲ちゃんに投球フォーム教えてた時ついでに計測したんだよ。
そしたら、こう、今までの自分とはちょっと違う感じになっててさ……そこはこうショックだったわけよ。だから……えー……」
舞園「……なんだ」
桑田「?」
舞園「ふふっ、私、桑田君の事少し誤解していました。野球の事全部嫌いなわけではないんですね」
桑田「い、いや、そんなことはねーって!だせーし!!」
舞園「でもホントに嫌いだったら、自分のパフォーマンスの低下も興味ないはずですよね?」
必至に否定する桑田君を、何の仕返しかは自分でもわからないままにからかっていると、走って逃げられてしまいました。
…………殺される、という感覚がなぜ湧くかはわかりません。
でも、少なくとも今、彼に対しての印象が和らいだ時に殺される感覚も薄まったのです。
不吉な感覚は薄らいだはずなのに、その感覚をおぼえる事に違和感と恐怖がチラつきます。
心の奥によどみがたまっていくような感覚を押さえつけながら、
少しでも、ほんの少しでも笑ってふるまえるような場面を見つけるために、
私は話しかけるべき誰かを求めて寄宿舎と校内を歩いていくことにしました。
~詐欺師とスパイの相違~
部屋に戻り、メイクとウィッグを取って鏡に向かう。
誰でもない誰かがそこにうつる。誰でもない誰かは自分が誰なのかすらも判らない。
ぼくは再び十神白夜になるための作業を行う。
こうしているときならば、ぼくは十神白夜として個性を得ることができる。
「そんなものは作りものだし いくら作ったってそれは君じゃないんじゃないかな」
「良い事を教えてあげようか?本物の十神白夜は78期に間違いなく入ってくるよ」
「まあ、これは僕だからこんなに早く知ることができた情報なんだけどね……今のうちにさ、考えを改めなよ」
「いくら偽ったってそれは君じゃないし 君が自分の才能を認めない限り君は誰でもない誰かでしかないんだよ」
思い出しただけで、冷たい汗が浮かぶ。
今日の昼間に、同期であり授業でも同じクラスに分けられている神代くんから言われた言葉。
彼とは気が合うのではないかと思っていた。
誰にも気づかれない才能と、自分以外の誰かになる才能は近い物だと思っていたから。
しかし、才能は近かったが彼とぼくの間には絶望的な意識の差があった。
「どんなに嫌でも才能を含めて自分なんだよ」
「名前が無くても、姿が無くても、それが君だって言ってしまえばそこから君が作られるんだ」
「だからさ、本物がきちゃう前にそうしちゃいなよ!」
「簡単に言うな」と、ぼくは彼を突き飛ばしてしまった。
「ごめんなさい」という言葉は出たが、そのあとの言葉はやはり彼がぼくに行ってほしかったものと違ったようだ。
「ごめん、その、でも、やっぱり無理だよ」
「だって、ぼくは誰かになっていないと……」
怪我はしていないようだったけれど、いったん彼は痛みのせいか目を閉じた。
再び開いたその瞳からは、ぼくに対しての興味や心配と言った、クラスメイトらしい感情が無くなっていた。
彼は走って廊下の角を曲がりぼくがおいかけたときには、もう姿が見えなくなっていた。
いくら謝ろうともう遅いのだろう。
彼の失望はおそらく行動よりもその後の言葉に由来する物だろうから。
ぼくは嘘で自分を固める。
固めた嘘が、タマゴの殻のようにバリバリと粉々にされる日が来るのを知っていながら。
その絶望に対抗する術を行う勇気なんて持てない以上は、
いつか来る絶望を受け入れるしかないと、すでに未来をあきらめていた。
~幕間絶望:詐欺師の絶望~
ぼく達の後輩、78期の希望ヶ峰生徒が入ってきてからもうひと月経つ。
本物の十神白夜はやはり強烈な個性の持ち主で、ぼくの作った嘘をたやすく壊した。
クラスでも同期でもどう扱えばいいかわからないという対応をされ、
一部のとても人懐こい人以外とは喋る事すらなくなった。
「気にする必要ないっすよ~、唯吹にとっての白夜ちゃんは豚足な白夜ちゃんっすから!」
「きみが誰かのふりをするのってぼくが料理作ってるのと似たようなものだよね?うん、それで済むことだよ!」
「んー?いや、だってさ、学年違うやつなんて覚えらんねーって。だからオレの知ってる十神白夜はお前だけなんだよなー」
彼らには救われるようでいて、全く救われなかった。
ぼくの今までやっていたことの肯定だというのに、壊れた物を肯定されてもただむなしいだけだった。
所詮は作り物だった。彼らが見ているのはぼくではなくぼくが作った何かでしかなかった。
もう少し早く言えていたら、あの時の彼の言葉に耳を貸していたら、もう少し違ったのかもしれない。
しかし、ぼくはそれ以外のつながりも手に入れていた。
ぼくがぼくであることを否定しない人物。ボクが感じて居る絶望を癒すのではなく肯定する人物。
江ノ島盾子と名乗るその人物は、入学の際の才能からは想像できないほどの聡い人だった。
彼女もまた強烈な個性を持っていた。ぼくが彼女をまねようとしても、十神白夜の真似をしたとき以上に軽く砕かれるだろう。
やがて、彼女はぼくの周囲にも絶望の輪を広げていった。
ぼくは周りの皆が絶望に落ちていくのを、引きずり込むための手伝いもした。
そうすることで、誰かに必要とされるぼくが生まれるから。
そのために必要だったのはかつてぼくが拒否した「詐欺師としてのぼく」を使用する事だったのだけれど、
江ノ島盾子の要求を拒否する事なんてできなかった。
誰でもない誰かであることを受け入れられないのに、そうすることでしか生きて行けない。
そうしないと絶望的としか言いようのない彼女にすら利用価値のない存在になってしまう。
気づけばぼくは、誰でもない誰か以外のぼくになりたいと願いながら、
その希望を持ち続ける限り付きまとう絶望で自分を認識するようになっていた。
~幕間絶望:詐欺師の絶望及びその前日譚 終~
ボクがクイズを終わらせて、資料集に目を通していると腐川さんが食堂に来た。
きょろきょろと辺りを見て、ボクの手元で視線を止める。
腐川「……その、今使ってるの?」
苗木「あ、もう終わって資料見てたところだからどうぞ……あれ?腐川さん学ラン着てる?!」
葉隠「おー、腐川っちそれ着たか!さすがにずっとセーラー服だと困るからな!」
石丸「……ふむ、着崩してもいないしただしい着方だな!少々サイズはあっていないようだが許容範囲内だろう!」
腐川「葉隠に予備を貰ったのよ……さすがに舞園に服貸してるセレスや江ノ島には頼めないし、
かといってジャージじゃあんまりだから……サイズあってないって言うけど、一応ちょっとは仕立て直してるわよ」
葉隠「体格全然違うからそこは仕方ないべ」
苗木「なんか、今までずっとセーラー服でもどういうわけか違和感なかったからちょっと驚いたよ」
腐川「……なっ、何よ……ブサイクなんて何着ても同じってこと?!!」
苗木「そう言うことじゃないよ!?」
石丸「腐川くんは男性の姿としては細身だからな、女装のままでも違和感が薄かったのだろうな」
葉隠「どんな服も似合う体型だってことだべ!褒めてる褒めてる」
腐川「そうなの?」
葉隠「そうだって!な!」
葉隠クンの勢いにわずかに丸め込まれた腐川さんに、畳み掛けるようにボクはクイズを渡して話す。
苗木「はい!これに用があったんだよね! 答えに来たの?」
腐川「え、えっと そうね、今ノートにある情報のまとめから答えられる分を探すつもりだったわ。
今朝の探索とかの資料までは流石にまとめてないけれど、それぞれの部屋にあったものぐらいは軽く書いてあるから」
そう言って、腐川さんは十神クンに言われていろいろ書いてあるノートを見せてくれた。
びっしりと書き込まれているが見やすい構成だから目で追うのに苦労は少ない。
苗木「すごいね」
腐川「普通にノート取ってるだけですごいとか何?そのぐらいしかできないって皮肉?」
苗木「い、いや、普通によみやすかったから!」
腐川「ああ……そうね、あんたノートとるの下手そうよね」
石丸「そう言えば宿題の回収の際に、板書をうまく区切れずだらだらと写すだけのような奴もいたが」
腐川「そう言うタイプでしょう?ええ、そうに決まってるわ!」
苗木「えぇぇっ?!」
腐川「……と、こんなことしてる場合じゃないわ。とっとと進めて行かないと」
そう言って腐川さんはボクからクイズに視線をうつした。
ボクは、たったあれだけのやり取りでノートを取るのが下手だと断じられて少しショックだったから、一度部屋に戻ることにした。
部屋に戻って、服の話をしたことを思い出したので1-Bの教室に向かうことにした。
当初は食堂にモノクマの用意した布とミシンは置かれていたんだけど、布に匂いが写るのを嫌がったセレスさんの提案で教室にうつしてある。
教室の前に来ると、カタカタと音がしていた。
苗木「だれかいるの? あ、山田クン」
山田「おお!苗木誠殿ではないですか!苗木誠殿も、僕に仕立て直しの依頼をしに?」
苗木「いや、そういうわけではないけど……そんなこともしてたんだ」
山田「ええ、さすがに使い慣れない人もいるみたいですし、そのままだと過ごしづらいからと持ってくる人がいるんですよ!」
苗木「ボクはそこまで体型がかわっているわけでもないし、いいかな」
山田「そうですかー?お洒落着を作ってみるのもいいと思うのですが」
苗木「えーっと、今は誰のを作ってるの?」
山田「葉隠康比呂殿の分ですな。ズボンもシャツも合わなくて面倒だと愚痴ってましたぞ」
苗木「まさか、入らないから腐川さんに学ラン押し付けたのか……?」
山田「腐川冬子殿が出入りしていると思ったら……学ランの補正をしていたのですか」
苗木「さっき会ったけど学ラン姿でびっくりしたよ」
山田「うーん、姿が男性的になっているならばむしろこの数日をセーラー服で通してたことの方が驚きですけどね!」
苗木「でも、腐川さんミシン使えたんだね」
山田「ジェノサイダーの件を知る前に手ほどきを受けに来ましたぞ」
苗木「えっ、そんなことがあったんだ」
山田「はい。セーラー服しかないから何とかしたいと言われまして。
さすがに初心者にイチから服を作るのは無理なので誰かのお下がりを補正したほうが良いとも言いましたなぁ」
苗木「それで葉隠クンに話もってったあたり腐川さんの気苦労がちょっとだけ垣間見えた気がしたよ……他にはどんな人が持ってきたりしたの?」
山田「当初はセレス殿に持ち込むはずだったらしいのですが、拙者がちょうどいたからという理由で舞園さやか殿のズボンも仕立てましたぞ」
苗木「そう言えば江ノ島さんの着替えを借りてたみたいだけど、さっきは別のもはいてたような」
山田「それですな。完全に借りたままというのも申し訳ないからと言っていましたよ」
苗木「でも、山田クン服仕立てるの早くないかな?確かそう言うの時間がかかったはずだけど」
山田「流石に型紙から作るとなったらいろいろ問題ですので……モノクマと交渉いたしました」
苗木「交渉?」
山田「ホントに悪いと思ってるならせめて現在の全員分のシャツとズボンの型紙を用意しろ!とね!」
苗木「交渉じゃなくて力技じゃないの?!」
山田「その際、珍しいことに十神白夜殿も味方してくれましてね。うまいこといきましたぞ!
現状で服が合っていない等の生活に影を残す部分の元凶はそちらなのだから最大限対処しろ
と言う内容だったので、モノクマも納得せざるを得なかったようですな。
さすがにある程度サイズがあるからと全員ジャージで過ごせと言うのも酷な話であるのはモノクマも理解しているようでしたし」
苗木「そっか、ジャージがあるんだったね。……そういや水着もあったんだっけ。ボクも泳いでこようかな」
山田「水着ですか……不二咲千尋殿の提案が意外とおもしろいことになっていましたなあ」
苗木「不二咲クンは本気だったみたいだけどね」
山田「そうですねぇ……ん?」
苗木「ん?」
山田「今、苗木誠殿は不二咲千尋殿を君付けでよびませんでしたか?」
苗木「あ うっかりしちゃった」
山田「もー、あーんなかわいい子を男の子扱いってどういう了見じゃオラァ!!」
苗木「さ、最近体鍛えてるとこ見たりしてなんか頭の中で君付けになってたんだよ!」
山田「……ふむ……いや、しかし」
苗木「?」
山田「不二咲千尋殿なら男の娘でも大変美味しい気が……?ま、まあ、本人の前で言わないほうが良いと思いますぞ」
苗木「そうだね、気を付けるよ」
これ以上喋るとボロが余計に出るかもしれない。
ボクはそう思って、山田君との会話を切り上げて購買部へと向かった。
購買部で、5回モノモノマシンを回したら、最後の最後で1度に2回でてきた。
苗木「えーと、赤いマフラーにルアックコーヒー、それから支配者のTバックとプロジェクトゾンビ、玉串……と、また浮き輪ドーナツか」
ガチャッ
江ノ島「あ、苗木……?」
苗木「! 江ノ島さん……あれ?石丸クンも?」
石丸「江ノ島くん、早く中にはいってくれ。入れないではないか!」
江ノ島「ああ、ゴメンゴメン」
苗木「珍しい組み合わせな気がする」
江ノ島「んー、ほら、こういうのって私も石丸も普段やらないからさ。
あんまり一人で回数回すのもアレだし、二人で出し合ってほしい物を分け合ったらいいんじゃないかって話になって」
石丸「朝日奈くんが江ノ島くんに提案してくれたのだよ!少しでもみんな仲良くなるようにきっかけを作ったらどうかと言っていたな」
江ノ島「で、食堂にそれやってくれる奴探しに来たらノってきたのが石丸だったってわけ」
石丸「苗木くんもどうかね?」
苗木「ボクは特に自分が欲しいのっていうのは決まってないし、いましがた丁度やったから」
江ノ島「じゃー次私達ね。あ、回すのは私がやっていい?ガチャガチャちょっと好きなんだよねー」
石丸「僕にはよくわからないしそこは江ノ島くんに任せよう!」
江ノ島「それじゃ、5枚づつで10回ね!」
そう言って彼らがモノモノマシンを回すのを観察する。
ワクワクと言った表情でモノモノマシンに向かう江ノ島さんと、ただびしっと立って待っている石丸くん。
やはり性質が全然違うし、朝日奈さんの提案通りに仲良くなれるんだろうかと少し不安にすらなる。
江ノ島「ひーとっつめ!あ、なんか着ぐるみでてきた。赤くてもっこもこしてる、かわいー!これもらっていい?」
石丸「うむ、構わないぞ」
江ノ島「んじゃもーらい、2つめー ……水着?コレ女性用だよね……石丸着る?」
石丸「い、いや、遠慮しておこう」
江ノ島「だってほら、今私が着るわけにもいかないし……予備は持っといて損はないよ!」
石丸「……そ、それもそうか。そういうことであれば……」
苗木(石丸くんすごく微妙そうな顔してるな……まあ、気持ちは分かるけど。とりあえず、黙って見ていようかな)
江ノ島「うわぁ!光線銃だって光線銃!」
石丸「ふむ、ヘアピンか。何もついてない髪留めはあったほうが良いかもしれないな」
江ノ島「いや、いっそつけちゃいなよ子猫のヘアピン!これアタシのお気にアイテムなんだよね~♪…………あててるだけだけど石丸これ似合わないね」
石丸「大丈夫だ、僕自身似合うはずがないとわかっているからな。君が持っているといい」
江ノ島「……万力か……石丸いる?なんていうか、全く使い道ないと思うけど」
石丸「貰っておこう。この生活ではいつ何が必要になるかわからないからな」
江ノ島「うわぁ!桜だ!きれー!」
石丸「ふむ、良いな!……これは食堂に飾ってはどうだろうか?」
江ノ島「いいじゃんいいじゃん!あたしもさんせーい♪」
その他にも永遠のミサンガ、むらまさ、スカラベのブローチといったものを彼らは引き当てていた。
江ノ島「次でラストだけどあたしの好きな物の方が多かったね?なんかゴメン」
石丸「はっはっは!構わないとも!しかしこうやって人とわけあうというのは勉強になったぞ」
江ノ島「じゃあらーすとっ ん?……あ、私はこれいらない……」
石丸「どれどr……ふむ、そうだな。焼却炉に直行するしかなさそうだ」
苗木「えっ?普通の雑誌みたいだけど……燃やすのはちょっと早まり過ぎじゃ」
江ノ島「……苗木まさか……こんなのに興味あるの?!」
石丸「全くもってけしからん!いいかね!こういったものは即刻排除が基本だろう?!」
苗木「ちょ、ちょっとまってよ、わけがわからないんだけど?!だ、だって普通の雑誌でしょ?それにこんなとこだったら暇つぶしとか必要だし」
江ノ島「まー、でも読むっていうならあげるよ。私たちはいらないし」
苗木「ど、どうも……?」
なぜか江ノ島さんと石丸クンの双方に叱られたものの、彼ら当人同士は共感するところがあったのか少し仲良くなったみたいだ。
彼らが去った後、ボクはかわいい猫と犬の写真が表紙の雑誌をめくった。
…………今まで特に興味を持たなかったキャットドックプレスという雑誌の事実を知って、ボクはそっと雑誌を閉じた。
いや、うん、そういえば江ノ島さんは身持ちかたいし、石丸くんはああいう人だからどっちも目の敵にするよね。
これ持っててまた何か言われるのが嫌だなと思ったボクは、トラッシュルームに向かった。
トラッシュルームに到着してから、鍵を借りてくるのを忘れていたのに気付いた。
鍵の管理は石丸クンだったはずだから、もう一度顔を合わせることになるんだけど……正直気分が乗らない。
さすがに、あんなやりとりがあったら僕もちょっとだけ時間を置きたくなる。
部屋に戻っておこうかと回れ右した瞬間、入口が勢いよくあけられた。
翔「あららーん?まこみち?マコミチナンデ?」
苗木「うわぁっ?! ジェ、ジェノサイダーの方か……何か捨てに来たの?」
翔「いんやー?捨てに来たんじゃなくて落とし物してないかどうか探しに来たの!まこちんこそどしたの?ティッシュ処理?」
苗木「雑誌を貰ったんだけどいらないから燃やしとこうと思って」
翔「あー、それね!わんにゃん萌!とおもったら中身全然違ってるわ薄いわで大笑いなやつジャン?!」
苗木「今まで読んだことなかったから、若干衝撃的ではあったよ」
翔「プレゼント魔のまこたんが知らなかったとかそうとうだな! ま、いいや。中はいるんなら一緒に行こー」
そう言ってジェノサイダーがシャッターの鍵をつかって、開く。
内部に入ったボクらは、各々の行動をやりながら何となく話すことになった。
苗木「ねえ、落とし物って何?見つけにくい物だったりする?」
翔「そりゃあもう!カバンの中も机の中も探したけど見つからないの!ウフッフー♪」
苗木「?」
翔「あ、真面目に言うとマイハサミのホルダーが壊れちゃっててさ。その部品さがしてんの」
苗木「どんなやつ?ボクのほうは燃やすだけだしもう火もつけちゃってるから手伝うよ」
翔「マジで?まこちゃん良い奴じゃね? あ、でもお礼もハートもあーげない!ギャッハッハッハッハ!!!」
苗木「い、いや、そういうのはいいよ」
翔「ベルトのさ、金具で止めた後きっちり止めるぶぶんがあるじゃん?あれの縫い付けがほつれてとれちゃったっぽいのよ」
苗木「それでなんでここに?」
翔「食堂でアイツと変わって気づいたから、その場にいた奴らにアイツがここ最近行ったことのあるとこ聞いて、回ってるの!」
苗木「腐川さんがここにきたのってタカラサガシの時だと思うけど」
翔「そのタカラサガシとかいうイベントもアタシ初耳なのよねー。なんか目の前にあったパソっぽいのとかが手に入ったってのは聞いたけど」
苗木「ああ、あの食堂の時以来入れ替わってなかったってことでいいのかな?」
翔「そんな感じ!まったく、アタシの事が嫌いなのはいいけど状況ぐらい把握させろっての!」
そう言って床を這いつくばるように探すジェノサイダーに、ボクはふとした疑問を聞いてみることにした。
苗木「ねえ、ジェノサイダーは今が2週目だって、理解してるんだよね?」
翔「あ?」
苗木「そ、その、ほら、一度死んだ人が生き返ってたりするっていうのは」
翔「あー、ああ、その不思議現象ね!なんかモノクマの夢見てそれで言われたわ!
そーいや強くてニューハーフっていわれてた!みんな姿変わってるわけだ!」ゲラゲラゲラゲラ!!
苗木「その、腐川さんも同じような夢見たって言ってた気がするけど……二人ともちゃんとそれは見てたんだね」
翔「そうみたいねー?あ、あとさあとさ、なんかアタシ記憶余計に消されてるらしーわよん?」
苗木「え? その、黒幕の正体とかそこじゃなくて?」
翔「そ、余計に♪オーガちんの裁判あとから出る直前部分までは皆消えちゃってるんでしょ?なんかそれ以外が消えてるってさ」
苗木「それ以外……ど、どんな記憶が?」
翔「消されたもんがわかるわきゃねーだろっ!?」
苗木「あ、ああ……それもそうだね」
翔「ただねー……思い返してみれば不自然なのよ……一週目の時にアタシの中にあった何かが消えてる気はするの」
苗木「一週目の時は持っていた記憶が、2週目にはない……?」
翔「そうらしいわ。コレじゃ強いどころかハンデを負ってるって夢で抗議した気がすんだけどスルーされたのよねー。まったくあのクマ」
苗木「腐川さんは特にそんなこと言ってなかったけど」
翔「んー、そらしょうがないんじゃない?アタシとアイツの記憶って別物だし。アタシの記憶に消えた部分があってもアイツに知らせる必要ないもん」
苗木「記憶が別?」
翔「そ!2倍だぜ2倍!」
苗木(むしろ半分になっている気がするんだけどな)
苗木「……あ、ボクの方はそろそろいいかな」
翔「手伝ってくれるって言ってたけど結局お話で時間つぶしちゃってんのよねーまこちんてば」
苗木「これから手伝うってば」
ボクは焼却炉の火を消す、中身はきちんと焼けてしまっているようだ。
そしてボクもしゃがみこんで、ジェノサイダーの探し物を手伝う。
ふと、焼却炉の下を見ると黒い革の一片が見つかった。
苗木「もしかして、これ?」
ジェノ「わお!それそれ!ありがとまこちん!」
苗木「ところで……はさみのホルダーって前は脚につけてた気がするんだけど、今ズボンだよね?」
ジェノ「……そーなのよね。あの女、何の考えもなしに足につけてるけど、こう、ズボンおろしてハサミ取り出すのは無いわ」
苗木「なおすついでに、ハサミを身につけるのやめたらどうかな……十神クンに悪いから殺人する気はないんだよね?」
ジェノ「それはそれ ハサミを身に着けてないと落ち着かないの♪ ベルトにつけるように改造しようかしらね
そうと決まったらとっとと出るぞ?!閉じ込められてーかっ?!」
苗木「と、閉じ込められたくないし出るよ」
ジェノサイダーの発言の勢いに圧されたまま、ボクはトラッシュルームを出た。
その日は、それ以上の進展も特になかった。
各々の思うように夕食を取って部屋に戻り、ボクは自分のベッドに体を横たえた。
アタシはシャワールームで、どうしても気になる事に気づいてしまっていた。
これ、どーいうことなの??アイツが自分でやった?いや、あの女は自分の心はともかく体を傷つけられるタチじゃないはず。
翔「おっかしいな~?どーいうことなのかしら~?あれあれあれれー?」
とりあえず言葉にしてみたけど解決はしない。
大抵の事はどうでもいいやと済ませる方だけど、気になりだしたら一直線なのもこのアタシの特徴であるとアタシはアタシを分析してみたりしなかったり。
翔「とりあえず……きょーこたんに聞いてみようかしらね……あのコ魔女並みのおっそろしい観察力だし、
アイツが怪我してこれができたんならわかるはずよね?」
アタシはやることを頭に残すように口に出しながら、
覚えの無い愛した証をそっとなぞった。
体を洗い終わって服を着替え終わるとまず、何かの拍子に入れ替わっても良いように冬子に向けてメモ書きを残した。
翔[はろーん!お互いに日記つけるぐらいでしかやり取りしてなかったけどこういう感じのお手紙書いてみちゃいました♪
これからきょーこたんのとこに聞きに行くけど、アンタここにきてから怪我とかした?主に左太ももね!
アタシさー、殺した男の数をその身に刻んでたんだけどー、ってかこれ自体はアンタもさすがに着替えとかする時判ってると思うけどー
なんか多くなってんの。 具体的には7人分増えてんの。怪我したにしても不自然だけど、怪我じゃなきゃなんなのってのもきょーこたんに聞くつもりー
ていうかもし入れ替わってもアンタこれきょーこたんに見せて聞いてよね!なんだかんだ自分の身体の事なんだからね!]
翔「ん、これでよーしっ。あ、胸ポケあたりにいれときゃいーよね」
アタシは部屋を出て、あの女のハウスを探してみる。ていうか確か生徒手帳がお便利な機能付きだったんだっけ?
あ、ほんとだ地図でるじゃーん!
というわけであの女のハウスに突撃!
ピンポーン
翔「あるぇー?きょーこタンでないぞー?」
ピンポンピンポンピンポンピンポン
翔「これは、ダーリンと同じく深夜のお出かけタイムかしらん?」
翔「ってことはー まあいいや!誰でもいいからとっ捕まえて聞いちまえ!」
翔「っ ふぇっ へくしっ!!!」
腐川「……あ、れ? あたし……」キョロキョロ
腐川「……またいれかわってたのね……あっ」
腐川(ハサミの位置が変わってる……外したら騒ぎそうだし、これもほっとくしかないわね……)
腐川「……ふぁ……ねむ……なにこんな時間まで起きてるのよ……」
幸いにしてさほど離れていなかった自分の部屋へとあたしは戻る。
まだいまいち着慣れない学ランを脱いで、寝巻き用のくたびれたトレーナーとズボンに着替える。
そのときに、少しだけ脚の傷が見えてしまったけれど……いつものように何もなかったふりをして、あたしは着替えを終えた。
出歩くのをやめようと言っていたはずの夜時間に、私は部屋を抜け出して彼女の部屋のチャイムを鳴らした。
2回ほど押すと、ガチャリと音がしてドアの隙間から舞園さんが顔を覗かせる。
私の顔を見て安心したのか、笑顔になった彼女は部屋から出て自室に鍵をかける。
私と彼女は二人して、見つからないように校舎へと抜け、2階へと階段を登った。
江ノ島「まだ男子トイレ使用禁止のままだと思ったら、舞園が見てなかったんだね」
舞園「その、すみません。やはりちょっと気恥ずかしくて……あまり人に見られたくもないし、かといって不安だからと巻き添えにしてしまって」
2階が開放されてから3日目。
私はそのあいだにプールでめいっぱい泳いでみたり、
石丸とやった協力でのモノモノマシン回しに舞園さんや大神さんを巻き込んでみたりして、それなりに楽しく生活していた。
2階解放前までは何もできない事がもどかしかったし退屈だったけれど、この数日だけ見ればセレスさんの言うような順応ができていたのかもしれない。
いくつか引っかかる点はあるものの、その主原因の十神や霧切にはあまり積極的にかかわらないようにしていたし、
他のはなせそうな奴……特に朝日奈と葉隠に関しては観察している限り本気で敵意や悪意は見えないと思うようになっていた。
それでも、人間不信っぽい腐川はともかく、苗木が未だに隠し事をしているように見えるのは気になるけれど。
でも、私がターゲットになりそうな舞園さんとかに目を配っていれば大丈夫。
そう思って舞園さんを良く誘ったし、誘っておいたほうがいいかもと思った不二咲さんが桑田君とかと一緒にいるのも見届けておいた。
舞園「えーっと、用具室の奥でしたっけ?」
江ノ島「そうそう、その奥の壁を押したらいいんだよ、ちょっとコツがいるけど」
舞園「こうかな?えいっ」
舞園さんが押したことで、用具室の奥の壁が開く。
舞園さんにつづいて、私も隠し部屋へと足を踏み入れた。
ここに来たのは最初の確認と資料移動の手伝いに次いで3回目だ。
奥にある本棚の中身はすべて図書室に移動して、倉庫のあまっていた段ボールで大和田が作った簡易三段ボックスに収納してある。
舞園「思っていたよりは広いですね」
江ノ島「うん、ここには隠しカメラとか無いし気楽に過ごせそうと言えば過ごせそうだよね。物が無いから警戒しなくても良いし」
舞園「……江ノ島さん、机の中とかもすべて開けてるとは思うんですが、一応見ても良いですか?」
江ノ島「うん、いいよー」
舞園さんは部屋の中を細かく観察している。
私はそれが終わるのを、外から誰か来ないかどうか確認しつつ待った。
舞園「そういえばですね、江ノ島さん」
江ノ島「ん?何?」
舞園「あ、こっち向く必要はないですよ。単なる雑談ですから」
江ノ島「ん、じゃあちょっと誰か来ないか見つつ話すわー」
舞園「はい、そうしてください 夜の備品当番の最後の締め、私がしたじゃないですか」
江ノ島「うん、そだね。ホントは二人でしなきゃいけなかったのに任せちゃってごめん」
舞園「いえいえ、いいんですよ。江ノ島さんの服を汚してしまった私の責任もありますから」
江ノ島「で、それがどうしたの」
舞園「……私の事、信用して任せてくれたことがうれしくて ありがとうっていっておきたかったんです……ごめんなさいっ!!!」
その言葉の直後、私は身をかがめて刃をやり過ごす。
しゃがみながら身を翻すと、からぶったことに驚いている、包丁を突きだした舞園さんの姿があった。
私は彼女の懐に飛び込み、包丁を持った手をねじりあげた。
舞園「いっ……!!!」
カランッ!!
江ノ島「……」
舞園「っつぅ……」
包丁を私に向けていた時からすでに泣きかけていたんだとおもう。
ボロボロと涙をこぼしながらあっけにとられている舞園さん。その体からは、諦めたように力が抜けていく。
そのまま座りこませてあげて、私は先に包丁を回収してから、彼女に向き合って座った。
江ノ島「……」
舞園「……っ ひっくっ……ぅぅっ」
江ノ島「…………ねえ どうして?」
聞いてみても、呆然としたような状態のまま泣きじゃくる舞園さんは答えてくれない。
私はただただ、彼女が泣きやむまで座って一緒にいる事しかできなかった。
こういう事には慣れている。
自分の思い通りになり過ぎて自分の思い通りにならない妹の傍にずっと付き添ってきたのと同じ。
ままならない事で癇癪を起した子にはただ一緒にいてあげるしかない事は分かっていたから、
舞園さんが喋ってくれるまで私はずっとそばに居続けた。
江ノ島さんを殺そうとして、阻止されてからしばらくして
ようやく私は正気を……というかある程度落ち着きをとりもどしました。
気づけばコンクリート打ちっぱなしの所に座っていたので脚もお尻も冷たいし痛いです。
でも、今はそれ以上に……未だにずっと、心配そうにこちらを見てくれている江ノ島さんに言うべきことがありました。
舞園「……ごめん なさいっ……」
江ノ島「ううん、あたしこそごめんね……まだ、DVDのこととか、ひきずってたんだね」
頷くしかありませんでした。
江ノ島「……ねえ、話してもらって、いい?なんでそこまで追い詰められちゃったのか」
舞園「……はい」
舞園「何が原因か、というわけじゃ、なかったんです」
舞園「いろんなものが、積み重なって……耐えられなくなってしまったんです」
そう、ただ私が耐えられなくなってしまっただけ。
嫌な予測を立ててしまって、それを打ち破るための根拠が見つからなくて、勝手に追い詰められてしまっただけなんです。
江ノ島さんが、話を促してくれるので、私はここに至るまでの自分がどういう状態だったのかを思い出しながら、話しました。
2階があいた一日目
桑田君と別れた後誰かと話そうと思ったものの、なかなか声をかける事が出来ずにいました。
最終的に私は自室に戻り、一人で音程を取ろうと試みていました。
ステップを踏みながら、代表曲の振り付けを歌っているはずなのに、キーの調整が難しいのです。
喉の作りが男性的なものに変わってしまっているせいだというのは分かっていました。
それを受け入れてしまおうと思ったのに、気持ちは私のままで構わないと言われて混乱とやり場のない気持ちに足と声を止めてしまいました。
その翌日
江ノ島さんに誘われてモノモノマシーンで一緒に遊んで、楽しさを感じて居ました。
自分の姿が変わったのに、一緒にいてくれる人が新しくできて、
皆でご飯を食べて、プールで泳いでいる姿を見たり、図書館でゆっくり本を読んでみたり
……それでも、つい先日見る羽目になったものが時折頭をよぎっていたんです。
早くここから出たいという気持ちと、ここにいることで周囲と仲良くなっていく心地良さに折り合いがつかずに、
気づけば私は「総て壊してここから出る」か「今まで築き上げた舞園さやかを棄ててしまうか」の2択しか考えられなくなっていました。
それでも昨日までは、昨日までは私はそれを選ばずに、いえ、選べずにいる事が出来ました。
2階が開いて3日目……今日の朝、私はクイズの端末を触り、答えられるものを答えようとしているうちにある事に思い至りました。
「これは、解いたとして本当に脱出できるんでしょうか?」
「解けば脱出できるとして、本当に総て解けるようにで来ているのでしょうか?」
思い至った瞬間、ギリギリのところで立てていた足元が崩れるような感覚に襲われました。
脱出という希望がちらつかされていたから、私は行動を起こさないという状態に身を置けていたんです。
ですが……図書館で資料を見て、それを参考にしつつクイズをいくつか解いていたから気づいてしまったんです。
あれは、用意されているものは、極力使用されるようになっているんです。
答えたクイズの答えが次の問題のヒントだったり、そもそも別の問題文が他の問題のヒントになっていたり
……そんな構成になっているものに、どう考えても意味ありげに設置された
"コロシアイ特典"の内容が関係していないはずがないんだって……気づいてしまったんです。
この気づきが単なるカン違いなのかどうか確かめるためには
またモノクマが私たちにちょっかい出すのをただひたすらに待つことを繰り返すか、
コロシアイが起きてしまうかしかないじゃないですか。
そして……あんなものを用意する残酷な相手が、本当にただ待っているだけでヒントをくれるだなんて私には思えなかったんです。
だから、私の中の天秤が、総て壊してここから出るという方に傾いたんです。
舞園さんが淡々と、生気が抜けたような声で、ここ数日の気持ちを伝えてくる。
私は分かるところにはうなづきながら、彼女の話を聞いていた。
江ノ島「……それで、ちょっと聞きたいんだけど」
舞園「……なんでしょうか」
江ノ島「なんで、私だったのかな」
舞園「……江ノ島さんが、私にとってのこの生活の、象徴のような人だったからです」
抜け殻のようになっていた舞園さんの顔に、少しの笑みと涙が浮かんでいる。
舞園「前からの知り合いでもなく、本当にここにきてからの友達で、新しい場所の人間関係の基本だったんです」
江ノ島「……内心嫌われてたとかではないんだよね」
舞園「ええ……脆くなった時に支えてくれて、大丈夫かどうか心配してくれて……一緒に笑って
……そんな人の事、きらいになるわけないじゃないですかあぁああっ!」
舞園さんの声が再び悲鳴に近くなる。
私はとっさに彼女を抱きしめた。悲鳴は子供のような泣き声に代わっていく。
背中を撫でてやりながら、私は再び彼女が落ち着くまで待つことを選んだ。
ここに閉じ込められてから、8日目の朝。
昨日は桑田クンに引っ張られて不二咲クンとともにキャッチボールさせられていたのもあってか、
夜早く寝てしまったためいつもより早く食堂に来ることになった。
食堂に入ると、石丸クンが地べたに正座している江ノ島さんと舞園さんをしかりつけていた。
苗木「ど、どうしたの?」
石丸「ああ、おはよう苗木くん!」
舞園「ちょ、ちょっと、ミスしてしまって……」
江ノ島「いまちょうしかられてる」
石丸「彼女たちは、包丁を落として欠けさせてしまったんだ!不慮の事故ならまだしも、じゃれていたとなれば心構えをたたきなおさねばなるまい!」
苗木(ああ……あの一件以来、江ノ島さんは舞園さんとよく一緒にいるから
……ボクとしては舞園さんがふざけることができるぐらい安心できてるのはいいことだと思うけど)
苗木「で、でもそろそろきりあげない?他の人も来るだろうし」
石丸「……そうだな。今後気を付けるように!」
舞園「はい……」
江ノ島「うん、気を付ける……じゃあ厨房の方に戻るね」
石丸「僕も監督に入る……が、舞園くんはここに残りたまえ」
舞園「えっ?」
石丸「……気のせいかもしれんが、江ノ島くんにも舞園くんにも疲労の色が見える。舞園くんの方が激しいから休んでいたまえ」
江ノ島さんが警戒するようにボクを見たけれど、舞園さんは石丸クンに頭を下げて食堂に残った。
……やっぱり、江ノ島さんには警戒されちゃってるのか。でも、だからこそ舞園さんを一人にしないようにしてくれていたんだろう。
そういえば、舞園さんは石丸クンの言うように少しやつれているように見える。
その上さっき叱られたのが応えたのか目元も少し赤い。
苗木「舞園さん、石丸クンの言ってたように何かちょっと……疲れてるのかな?」
舞園「えっと……じ、実は昨晩、急にいろいろ不安になって江ノ島さんに夜通し話を聞いてもらってて」
苗木「夜通し?」
舞園「はい、夜時間も過ぎてしまって、結局ずっと部屋にいてもらうことになったんです……それで話しすぎちゃっただけで」
苗木「そうなんだ……でも、ちょっと安心したよ。舞園さんが安心して話せる人ができたっていうのは、良い事だと思うから」
舞園「…………ふふっ。そうでしたね。苗木君は、そう言うアドバイスをくれていましたね」
苗木「でも一緒にふざけて包丁落とすのは危ないからね」
舞園「はい、もうしませんよ♪……絶対に繰り返しませんから」
苗木「い、いや、そこまで深刻にならなくても良いけど」
舞園「ところで苗木君のほうはどうなんですか?みんなと仲良くしてるみたいですけれど」
苗木「昨日は殆ど桑田君に引っ張りまわされちゃってたかな」
舞園「少し話を聞きましたけれど、不二咲さんに投球教えてるんですっけ」
苗木「うん。不二咲さん体弱いの気にしてるから、鍛えるためにってお願いしてるみたいで
……でも桑田クンキャッチボールでコントロールがうまくいかないからってボクを巻き込みだしてさ」
舞園「練習とかしないと公言していましたからね……中途半端に振り回すのはいただけませんね」
苗木「不二咲さんが受けるのが難しい球無理やりとらせたりはしないだけましだけどね……舞園さん、ちょっと桑田クンに厳しい?」
舞園「努力しない人は好きではありませんから」キッパリ
苗木「きっぱり言ったね」
舞園「……それでも、一番最初の頃よりは印象が良くなっていますよ。これまでやってたことを本当に無駄にする気ではなかったとわかりましたから
そのぶんというか、同じぐらいには他の人達の印象も良くなってますから全体でみると申し訳ない感じではあるんですけれど」
苗木「そっかぁ」ホッ
苗木「よかった……舞園さんがみんなと仲良くなってくれてて」
舞園「うふふっ、なんで苗木くんがそんなに喜ぶんですか?」
苗木「だって、舞園さんが不安だっていうのが心配だったから……その、とにかくさ!これからもそうやっていこうよ!」
舞園「ええ。ずっと脱出できないならまだしも、可能性が示されているならば私はそれを信じますし、そのためにみんなと一緒にやっていく気です」
良かった……舞園さん、DVD見てしまった時はどうしようと思ってたけど、何とかなってるみたいだ。
ボクの事だけを頼りにしてくれるわけじゃないのは……変な話ちょっと残念だけど。それでも舞園さんがまっすぐな目をしてくれていることが嬉しい。
そんな感じで舞園さんと話していると、他の皆も続々と食堂に集まってきた。
各々が食卓に朝食を並べて、安穏とした報告の朝食会を行う。
資料関連の読み込みも煮詰まってきて、クイズに関しての新規の物が減ってきたのは少し気がかりだけど、
それでも、今日も一日を穏やかに過ごせたらいいな。
体育館で、今日もオレは不二咲ちゃんと苗木をつれて野球の基本動作のコーチをしていた。
桑田「よーっし、もう昼みてーだしそろそろ食堂いくか!あと今日はもう解散な!」
苗木「基本もしっかりやろうとすると結構疲れるよねえ」へとへと
不二咲「うん、でもちょっとだけ自信ついてきたかも」えへへ
桑田「ま、不二咲ちゃんの体躯でもある程度投げられるようになったわけだしな。基本知らない奴も抑えりゃある程度はできるって事だな」
苗木「その基本を押さえるのが大変なんじゃないかなあ」
不二咲「うーん……苗木くんはそういえば、文字通りのてとりあしとりはしてもらってなかったもんね」
苗木「へっ?」
桑田「みてから体勢つくんのって割と限度があるからな。不二咲ちゃんの初期姿勢を何回かオレが修正したりしたんだよ」
不二咲「投げた後の姿勢もどうなるといいかやってくれたんだよぉ」にこにこ
苗木が何とも反応しがたいカオをしてる。あ、さてはこいつ"セクハラじゃねーか"とかおもってんな?
そう思われんのはなんか癪だし、今試しておいてやるか。
桑田「いっとくけどセクハラじゃねーぞ!?肩とか腕とかだからな?!」
苗木「えっ えっと、いやべつにセクハラとかおもってたわけじゃないんだけど」
桑田「じゃあその微妙な顔は何だっての。お前にも試してやるから」
苗木「え、えー……」
桑田「ほら!ボール持て!」
苗木に野球ボールを持たせる。観念したようになってない投球フォームをとる苗木の肩や腕をとって、少しづつ投げるのに適した位置にずらしてやる。
……やっぱこいつも体格とかそういうの完全に女子になってんだよなあ。
見た目は前の服とあまりかわらねーし、精々髪がちょいとのびてるぐらいなんだけど……ん?
何かが頭の中に引っかかる。
とりあえず苗木の姿勢をある程度作ってやって、こういう感じの事であってやましくはないと言ってみたけれど……手に残る曲線的な感触が妙に気になる。
違和感が向いてるのは、どういうわけか今さっきまで姿勢を作ってやってた苗木じゃなくて、
それをニコニコとみている不二咲ちゃんに対してだった。
桑田「……ま、もう行くか」
その理由を探るように、オレは不二咲ちゃんの肩に手を置いてみる。
苗木よりもだいぶ小さくはあるけれど”同じような”曲線的な感触が手に伝わった。
食堂で食事をとった後、オレは椅子を揺らしながら違和感について考えてみた。
不二咲ちゃんの肩や、腕は、間違いなく女子の骨格だった。
不二咲ちゃんは女の子だから、それは間違っていない……はずだった。
桑田「……うーん?」
朝日奈「どしたの桑田?悩み事?」
桑田「……朝日奈かー……そういやお前もさ、スポーツ選手だったよな?体格が変わった自覚っていつごろした?」
朝日奈「え?あ、この姿になった自覚もったときってこと?」
桑田「そうそう。オレの場合はさ、球速落ちてて色々変わったってのに気づいた時だったんだけど」
朝日奈「うーん……確かに自分のことでも強く思うよねー でも、私が一番それおもったのは他の人に触ってみた時かな」
桑田「……大神とかほぼかわってねーだろ」
朝日奈「確かにさくらちゃんで気づいたけどなんでそういうこというかなー?さくらちゃん男の子っぽくなってるの結構気にしてるんだよ!?」
桑田「あれで?!」
朝日奈「本人には言わないようにしてあげてよね!乙女心はデリケートなんだから」ぷんぷん
桑田「……いや、まあわかったけどさ 他の人に触った時か」
朝日奈「うん。だってほら、だいぶ変わるじゃん。
見た目でもわかるけど自分もそうなっちゃったんだなって自覚強くなるのってやっぱり自分の感覚でそれに気づいた時だと思う
それでも、自分の体触ってる時って自分だからかあまり違和感なかったりするんだよね」
桑田「あー……うん、まあ、そうだな。なんだかんだすぐ慣れたしな」
朝日奈「でも、他の子がかわってしまったんだなーって思うと、状況が一瞬客観的になる……ような?
でへへへへ、ごめん言ってる私もよくわかんなくなってきちゃった」
桑田「……いや、なんとなくわかったわ。ありがとな」
朝日奈「それが気になってたの?」
桑田「ああ、なんつーか……それがというか、そのせいでおきたことというか……オレもどういえばいいかわかんねーわ」ガシガシ
朝日奈「ま、なんとかなったならそれでいいよ!あ、グダグダ考えすぎてカッとなったりしないようにね!?」
桑田「は?」
朝日奈「なんとなく!」
桑田「いや、なにをいってんのかわかんねーわ」
朝日奈「……だよねー」えへへへへ
オレは違和感の正体がたぶんそういう事だと気づいた。もしそうだとしたらいろいろ説明はつくんだよ!
不二咲ちゃんがなぜ女子なのに野球の見る方じゃなくてやる方に興味持ったかとかさぁ?!
まあ、オレの気づいたのが合ってたとしても、オレから言うべきことじゃないってことぐらいは分かってる。
今はそこそこ仲良いと思うし、ちょっと自信がつけば言ってくれんじゃねーかな?
きづかないふりしておいてやっか。実際しばらく全然気づいてなかったしな。
朝日奈「そういや桑田もプールでおよげないの気にしてた割にプール来てないよね?泳ごうよ!」
桑田「そうだな。メシ食ってちょっと時間経ったし、体動かしたほうが変なこと考えなくて済むしな」
朝日奈に誘われて、倉庫で水着を調達してから校舎の2階へと移動する。
これ朝日奈が女の子の姿のままだったら嬉しかったのにな。もったいねー。
午後は午前中桑田クンと不二咲クンに付き合って疲れたから少しゆっくりしていた。
一応うろうろと歩き回って、プールに来ようとしていた朝日奈さんと桑田クンに遭遇したから浮き輪ドーナツをあげてみたり、
図書館で十神クンにコーヒーと支配者のTバックを持ち物を減らす目的で渡してみたりしたけれど、
それ以外の特にいうべき出来事は起こらなかった。
夕食も終わって、いったん部屋に戻った後、以前のように喉かわいたときのためにとペットボトルをもって水を汲みに食堂に来ると、
ボクにとってはどこか見覚えのある光景が繰り広げられていた。
大和田「俺が根性なしだと?!」
苗木「?!」
石丸「根性がないから、暴力に走るのだろう!」
いつかみたことのあるやりとりに、ボクはどう反応すべきか迷ってしまった。
だけど、よく見ると少し様子が違う。彼らの経っている位置が、ボクの記憶にあるその出来事の時よりも少し開いていた。
苗木「どうしたの?二人とも」
ボクが声をかけたことで、二人とも口を閉ざした。
響いていたはずの声がしんと静まり返って、異様に気まずい。
大和田「……ッチ、しらけた。もういい、俺をバカにしたツケはまた別の時に払ってもらうぜ」
そう言って大和田クンは、長ランの裾をひるがえして、ボクの横を大きな足音を立てながら通り過ぎ、食堂を出て行ってしまった。
……あれ?
石丸「…………すまないな、苗木くん。変なところを見せてしまった」
苗木「えっと、何があったの?」
石丸「些細なことからなんだが、彼に我慢が足りないのではないかということを指摘したら口論になってしまった」
苗木「口論……う、うん、それで?」
石丸「それでと言われても、今見てもらった通りとしか言いようがないな。……苗木君、夜時間までもう少しあるから話をしても良いかね?」
苗木「えっ、うん、ボクはかまわないけど……その……ごめん。なんか水差したみたいで」
石丸「発展性の無い口論を止めてくれたのだから、こちらは礼を言うべき立場だ。……お茶でも淹れよう」
石丸クンが厨房へ向かう。お茶を淹れるには少し長い時間がたってから、急須と湯呑二つをお盆に乗せて戻ってきた。
石丸「すまないな。包丁を見てもらっていた朝日奈くんと大神くんにも注意されてしまった」
苗木「今日はあの二人がシメの包丁の見張りしてたんだね」
石丸「双方とも止めるべきかどうか迷っていたそうだ」トクトクトク トンッ
苗木「ありがと。 ……石丸クンから話をしたいって、何か聞きたい事でもあるの?」
石丸「ああ。ある。苗木くん、君はこの生活の中で既視感を覚えることはないか?」
ボクはどうこたえるか少し迷ってから「ある、かも」というぼかした返答をした。
石丸クンはそれに頷いてから、言葉を続ける。
石丸「時折、この様子を見たことがあるような気分になったり、何かが大きく食い違っているような違和感を感じたり
……そういう事がたびたび僕の身に起こっているんだ。先ほどの、大和田くんとの口論の時に、
どういうわけだかその既視感が非常に強くなった。まるで、ここが重要な点であるかのように錯覚し、その感覚に言葉がうまく出なかった。
……おそらく、大和田くんも似たような状況だったのではないかと思う。
普段威圧的で、怒鳴るような場面であれば前へ前へと行こうとする彼の足が、言い争い出してから一歩も僕の方へ向かなかった」
ボクの感じた距離もそのせいか。
"自分が死ぬ直前までをなんとなく覚えてる状態"というモノクマの言っていた条件が、この直後に生まれるはずの人間関係を大きくゆがめたのか。
ただ、この後の事を考えれ、石丸クンにとってはこっちのほうがいいのかも……
石丸「しかし、一番不可解な点はこの既視感や違和感よりも、今の僕の心境だ。
口論が続かなかったことが、既視感が続かず途切れたことが、何か取り返しのつかない事になったような気がするんだ」
苗木「……ええと、どういう意味?」
石丸「先の予測のようなものまでは僕にはできないが、僕は今の所これまでの既視感がすべて悪い物ではないと思っていた。
これも、そう言う類のものだと思ってしまっていたんだ。
いつ手を出してくるかわからない狂暴な人物と言い争っていたのに、それが憎くも、疎ましくもなく、当然起こりうる出来事と思っていた。
それどころか、その口論が途絶えたこと自体は余分な喧嘩をせずに済んでよかったと言えるはずなのに、何かを失ったような気持になっている!
苗木くん、僕は君があらわれた事もなぜか当然のように感じていた!!
君はこの状態をどう思う?!僕は、何かを失ってしまったのか?!それとも、そう思う僕がこの状況で異常になっているだけなのか!?」
石丸クンは、ボクに詰め寄って、叫ぶように問いかけてきた。
……石丸クンにとっては、大和田クンとの喧嘩が途切れたのは良い事なんかじゃない。それは良くわかった。
この後の事を知っているボクが、勝手に良し悪しを決められることじゃないんだろう。
苗木「石丸クン、まずは落ち着いて。大丈夫だよ、きっと。たぶんまだ失ってなんかないから」
石丸「何故そう言えるのかね!?」
苗木「だって、まだ誰かが死んだわけでも、なんでもないんだよ?
大和田クンとケンカできなかったとしても、またいつか別に仲良くなるきっかけがあるかもしれない」
霧切さんや十神クンが聞いたら、「迂闊な事を言うな」というかもしれない言葉をボクはあえて選んだ。
石丸クンは混乱している。その混乱の原因を言葉にしないと、多分、焦って、何が何だかわからないままだと思ったから。
苗木「これからも皆が生き続けて、一緒に生活していれば、今を逃しただけで別の機会があるかもしれない。
手に入れるのが遅くなっただけなんだって、そう思おうよ」
石丸「…………そう、か。苗木くんが言うのであれば、僕もそう思ってみよう」
苗木「ホント?良かった、通じてくれるかちょっとだけ不安だったんだけど」
石丸「どういうわけか、君は信頼できるからな。これもおかしな既視感の一つだが、僕は気にしていないぞ!」
苗木「気にしないんだ」
石丸「うむ。人を信用できるという感覚が悪い物であるはずがないからな!
取り乱したり振り回したりと、すまなかったな苗木くん。僕もそろそろ部屋に戻ろう。また明日!」
苗木「うん、また明日」
石丸クンが食堂を出るのを見送ってから、彼がなおすのを忘れていたお茶のセットを厨房の方に持っていく。
厨房に入ると、朝日奈さんが駆け寄ってきた。
朝日奈「ねえ、苗木!石丸大丈夫だったの?!なんか大声だったけど!?」
苗木「うん、大丈夫」
大神「大和田との口論の時とは違い、せっぱつまっていたように聞こえたが……何を話していた?」
苗木「……石丸クンとはね、この生活の中で感じる既視感について話してたんだよ」
朝日奈「きしかん?」
大神「既に経験したことがあるように感じるというやつか……しかし、我にもいくらかおぼえがあるな」
朝日奈「さくらちゃんにも?」
大神「極端な状況の話になるが、宝探しのヒントでDVDを見た時に、舞園が取り乱した件などがそれにあたる。苗木よ、お前もそれであの時動いたのだろう?」
苗木「う、うん。まあ」
大神「あの時、気のせいでなければほとんどの人間が"起こったことを違和感なく受け入れていた"ように思う。
大人しく、周囲に気を使うはずの舞園が思いつめて逃げようとしたことに衝撃を受けた人物は思いのほかに少なかった。
他者が追いつめられる状況というのは、おおよその場合恐怖を喚起する出来事であるにもかかわらず……だ」
朝日奈「あ……そういえば、たしかに皆落ち着いてたかも」
大神「おそらく全員が、何かしらここでの生活に既視感をおぼえているのではないかと思うぞ。自覚しているか無自覚かは別としてな」
朝日奈「うーん、そうなの?あっ、でもそうかも。ジェノサイダーにびっくりしすぎてない人も割といたもんね?」
苗木「そうだね、それもその影響だと思う」
大神「動揺が特に大きかったのは舞園、桑田、不二咲だったか……江ノ島もおそらくは衝撃を受けたと思うのだが彼女は良くわからぬな」
朝日奈「まあ、皆が何かしら覚えているっていうならそれはそれでよくない?」
大神「む?そうか?」
朝日奈「嫌な予感がしたら引き返しやすいって事じゃん!むしろ便利だよ!」
苗木「大神さんは、その既視感とか違和感があること自体が気になるのかな?」
大神「……そうだな。どちらかと言えば既視感の内容よりもそのことそのものが気にかかる」
苗木「で、朝日奈さんと石丸クンとボクはある物自体は仕方ないと思っているような……多分そんな感じかな」
朝日奈「あれ?石丸と話してた内容って、その既視感の話じゃないの?」
苗木「石丸クンはそれそのものにはあまり興味がなさそうだったかな。むしろその既視感がずれたことの方が気になってたみたい」
大神「既視感がずれた?」
苗木「ボクや石丸クンは、石丸クンと大和田クンの口論がもうちょっと続くんじゃないかと思っていたんだ。けど、大和田クンが戻ってしまった」
朝日奈「みたいだね。大和田は苗木が来てすぐ帰っちゃったもんね」
苗木「そのことが引っ掛かったみたい。石丸クンにとってその内容が悪い事でないような気がしてたらしいから」
大神「おそらくは大和田も既視感自体は感じて居たのだろうな。ただ、奴はおそらく我に近い思考だったのだろう」
朝日奈「……それがあること自体がおかしくかんじて、途中で帰ることにした感じ?」
大神「本人に聞いてみなければわからない事ではあるがな」
朝日奈「うーん、気になるけど、私や苗木が聞いてもイライラして近づけてくれなさそうだよね」
大神「妙な既視感については、我も気になっているが話せるようなことはない。大和田にとってもそうであろうな」
朝日奈「じゃあ、しばらくほっといてあげるしかないかな」
苗木「そうかもね。朝日奈さん、大神さん、そろそろ夜時間だし出たほうがよくないかな?」
大神「ふむ、こんな時間か」
朝日奈「チェック表で確認したらみんなで部屋にもどろっか!」
ボクは急須と湯呑を洗って乾燥場所に置いてから、チェックを手伝った。
切っ先の欠けたはずの包丁が新品に入れ替わっているのにこの時気付いたけれど、大神さんが
「コレじゃ凶器として微妙だからね!」などとのたまうモノクマが交換してくれたのだと教えてくれた。
自室に戻って、ベッドにもぐりこむ。
何も起こらないことになった夜時間が、静かに深けていった。
翌朝。朝食会はいつも通り行われていたけれど、あまり良い空気とは言えなかった。
昨晩の出来事のせいか、大和田クンが不機嫌そうなのも原因の一つではあったんだけれど、
それ以上に、腐川さんと十神クンが周囲の様子を警戒しているように見えた。
ボクは食事を終えてから、二人に理由を聞こうと思って、ほとんどの場合彼らが居るはずの図書室へと足を運んだ。
苗木「十神クン、腐川さん、いる?」
十神「何だ」
苗木「……(他には誰もいないよね?)朝食会の時二人ともなんかピリピリしてたけど、どうかしたの?」
腐川「あたしと白夜様はアンタみたいにのんきに過ごしてないって事よ」
苗木「のんきにって……あっ」
昨日あるはずだった出来事を思い出して、ボクはようやく今日が2度目の動機の日だったと思い出した。
十神「今気づいた、というような顔だな」
苗木「うん……そうだよ、昨日大和田クンと石丸クンが仲良くなるはずだったなら、今日が」
十神「あの二人の様子が前回と変わっていた件については、早朝に朝日奈から話を聞いた」
苗木「本当なら、今朝は大半の人が暑苦しいなって思ってるはずだったんだけどね」
腐川「あんまり暑苦しくないならそれでいいじゃない……多分、今回もモノクマは動機に加えて何かしてくるんじゃないかしらね」
十神「前回の内容を顧みるのであれば、今回も平凡なゲームだろうな。ただ、動機と絡めてくるのは確実だろう」
苗木「……そうだといいんだけどね」
腐川「あの精神ねじまがったクマが普通のゲームで済ませてくれるわけないような気はするのよね」
十神「その点は俺も同感だ。ついでに、普通に殺人が起きる可能性を考慮しておく必要があるな」
苗木「えっ?」
十神「大和田が不二咲に対して行った殺人は突発的な物だったが……内容を顧みれば、抑止力が無ければ殺人を犯していてもおかしくはないものだった」
苗木「十神クンは、大和田くんを疑っているの?」
十神「そうだ。奴はやらかしかねん。少なくとも昼間は誰かと組んでお前が見張っていろ……話はここまでだ」
苗木「ちょ、ちょっとまってよ」
ボクが十神クンに言葉を続けようとした直後、図書室の入り口が開いた。
山田「おやおや?皆さんお揃いですかな?」
苗木「山田クン?ど、どうかしたの?」
山田「服飾担当してるのはいいんですが、そのー、体型や雰囲気に合わせるとなると今の知識では足りない気がしてきたので資料を探しに」
十神「色味に関するデザインに関してはA-6番の棚、洋裁に関してはC-3番の棚に入っていたはずだぞ」
山田「さっすが図書室のヌシ!サンキューですよ!」
苗木「図書室の主とか言われてるけど」
十神「もっともここにいる時間が長いのは俺だからな。いちいちつっかかる気力も惜しいから言わせてやることにしている。
用事が終わったら出て行け。苗木、お前もだ」
そう言われて、ボクは図書室から出ざるを得なかった。
本に用事があるわけじゃない事を知られてたら、山田クンも気にしてくるだろうし、
かといって他の人がいる状況で、さっきの話の続きもさせてもらえないだろうから。
苗木「……ボクが見張っていろっていわれてもなぁ」うーん
しかも、誰かと組んでらしい。
ため息をつきながら生徒手帳で場所を確認すると、大和田クンはプールにいるらしかった。
しかもプールには朝日奈さんがいる。揃っているうちに混ぜてもらえば何とかなるかもしれない。
大急ぎで、倉庫まで行ってスクール水着と海パンを用意する。
また大急ぎで2階に戻って、更衣室で着替えてからプールのフロアに飛び込んだ。
朝日奈「あ!苗木も泳ぎに来たの!いらっしゃーい♪」
大和田「あん?苗木か……珍しいな、こういうとこに元々の目的で来るの」
苗木「そんなに珍しいかな?」
大和田「ああ、なんつーかオメーは泳いだり動いたりよりも散策でこういうとこ来る感じがするな」
朝日奈「まあいいじゃん!せっかくだから苗木も目いっぱい泳いでってよ!あ、準備運動忘れずにね?!足攣ったりしたら大変だから!」
ボクは苦笑いしつつも、準備運動を済ませてプールに入る。
水泳も別段得意でも苦手でもない。ただ、疲れる。ダイエットにいいとか言って母さんとこまるが市民プールに通ってたりしたのが判るぐらいには疲れる。
苗木「ふぅ……大和田クンや朝日奈さんは、よく泳ぎっぱなしで体力もつね?」
朝日奈「ふっふっふ、くんふーのたまものじゃよ」ふふん
大和田「単純に苗木がヒョロいんだよ」
朝日奈「どうせなら今日鍛えちゃおうよ!丸一日スイミング!大和田もね!」
大和田「俺もかよ?!」
朝日奈「喧嘩したがったりするよりは健全だよ!」
大和田「チッ、妙なことに巻き込まれたな」
苗木「ご、ゴメン」
大和田「まあ、いいけどよ」
朝日奈「そうと決まれば!着替えるの面倒だろうし私がご飯持ってきてあげるから二人ともプールで待機ね!」
苗木「ここでご飯食べるの?」
朝日奈「えへへ、私はそれよくやってるよー♪じゃあ、ちゃちゃっと作ってくるから待っててね!」
そう言って、朝日奈さんはプールから上がると、更衣室の方へと駆け抜けて行った。
勝手に残されたボクと大和田クンは、少しの間黙っていたけれど、ぽつぽつと話し始めた。
大和田「あー……そうだ、苗木。昨日の事なんだがな……オメェ、何かこう、引っかかる事とか無かったか?」
苗木「昨日の……大和田クンと石丸クンの喧嘩の事?」
大和田「ああ。なんつーかさ……ホント些細なことから言い争い始めたんだが
……なんか、そうなることが決まっていたように思えて、俺にとってはすっげぇ気持ち悪かったんだ」
苗木「石丸クンもあの後言ってたよ。強い既視感を感じたって」
大和田「きしかん?」
苗木「えーっと、ホラ、デジャビュっていうか、知らないはずの事を知っているような感じがするやつだよ」
大和田「……の割にはアイツ引く気一切なかったみてーなんだが」
苗木「ええと、石丸クンの感覚全部わかってるわけじゃなくって、本人の言ってたことを言うだけなんだけど……
石丸クンはね、今までそう言うのがあってもそれが全部悪い事じゃないって思ってたみたいなんだ。
それで、昨日の時も、悪い方の感覚じゃなかったって言っていたよ。むしろ、既視感をなぞらなかったことの方が気になってたみたい」
大和田「なんだそりゃ」
苗木「むしろ喧嘩してみたかったって事じゃないかな」
大和田「……まあ、そうしといたほうがたしかによかったのかもしれねーな。俺も、言いたい事出しきらずに部屋に戻ったからモヤモヤしててよ」ポリポリ
苗木「もしかして、それを紛らわすためにプールに来てたりした?」
大和田「そんなとこだな。体動かすだけなら桑田と不二咲に付き合っても良かったんだが、八つ当たりしちまっちゃ悪いしな」
苗木「大和田クンもそう言う所は考えるんだ」
大和田「あぁ?!俺が何も考えてねーとでも思ったのか?!」グッ
苗木「ひいっ?!」
大和田「……チッ」スッ
苗木(よ、よかった 殴られなかった)ドキドキ
大和田「あー、くっそ、今のまんまだとステゴロもろくにできねぇな」
苗木「……あ、もしかして今なぐらなかったのって、今のボクが見た目女の子だから?」
大和田「そうなるな。クッソ、見た目男なのは中身女だから殴れねえし、男も見た目女だから殴れねえ」
苗木「ボク達にとっては殴られなくていいけど、大和田クンにとっては結構めんどくさい感じみたいだね」
大和田「まあな……クソ、暴走族の頭がオカマとか情けなくてしょうがないぜ」
苗木「桑田クンも姿が変わった影響とか出てたりしたし、出るときには何とか戻れたらいいんだけどね」
大和田「そうだな、先ずはあのクマ何とかぶっ潰して脱出しねーとな。いっそのことオカマのままだとしても、このまま閉じ込められんのは癪だ」ギリッ
大和田クンと話していると、朝日奈さんがおにぎりを抱えてきた大神さんを引き連れて戻ってきた。
ボクたちは、そのまま夕食時近くまでプールで泳いだりして過ごした。
プールからあがり、朝日奈さん、大神さん、大和田クンと一緒に夕食をとっているとモノクマのアナウンスが流れてきた。
モノクマ『えー、なーんかヌルくすごしてるようだからオマエラとっとと体育館へ集合!"動機"の時間だよ!』
そのアナウンスに、朝日奈さんが眉をしかめる。
朝日奈「えーっ まだ食べ終わってないのに」
大和田「……動機っていうとあれか。またあのDVDみてえなもんが配られるって事か」
大神「無視するわけにもいくまい。早々に片づけて体育館へ向かおう」
苗木「うん……今回もなにかあるのかな?その、タカラサガシとかと似たような事」
大和田「どうだろうな?動機とやらを出してそれっきりかもしれねえぞ」
苗木「それはあまり考えたくないかな……せっかく脱出用のものらしいのもあるんだし
……今の情報で足りない物を足りないままにするってどうなんだろうとも思うし」
ボクたちはいそいで残りをかき込んでから、体育館に向かった。
ボクがついた時には他の皆はもう揃っていた。
桑田「遅かったなお前ら」
朝日奈「ちょうどご飯たべてたもんだからさー」エヘヘ
不二咲「そういえばもう夕食食べててもいい時間だねぇ。ちょっと熱中しててご飯たべそびれちゃった」
葉隠「不二咲っちは熱心に練習してたもんなあ」ナデナデ
腐川「まあそのへんはどうでもいいのよ。全員そろったんだしとっととはじめなさいよ」
舞園「そうですね。あまりに時間をかけてもどうしようもないですし」
江ノ島「あたしたちはご飯食べ終わってるけどまだの奴らもいるんならとっとと終わらせてほしいよねー」
石丸「集合時だぞ!私語は慎みたまえ!」
江ノ島「はいはい。喋ってたから出てこれませんでしたーとかそーゆーの言われるのヤダし黙ろうか」
石丸クンの注意と江ノ島さんの同調で、近くにいた人と思い思いに喋っていた言葉が静まっていく。
私語が消えた直後、ステージ上の教壇にモノクマが飛び出して登場した。
モノクマ「えーっ、ようやく私語が収まりましたね。みなさんがここにきてから黙るまでに3分もかかりました」
セレス「あら、案外と短かったですわね」
山田「割と嫌なタイプの先生の話はじめあるあるじゃないですか。この後って説教しか覚えがありませんよ」
モノクマ「まあ、ぼくはそういう協調性のないオマエラも大好きですよ?ええ、生徒を愛さない教師はいませんからね!」
葉隠「なぁーにが愛だか」
モノクマ「というわけで……愛する生徒たちに学園長からの3階を開放するためのレクリエーションのプレゼントです!
まずは……この封筒!自分の名前のやつをもってけドロボー!!」
そう言うとモノクマは、それぞれの名前が大きく書いてある封筒を宙にばらまくように投げた。
皆がそれぞれの封筒を手にして、その中身を確認する。
石丸「っ これは……?!」
大和田「~~~~っ」ギリッ
江ノ島「……」
舞園「きゃぁっ?!」
桑田「お、おい!!なんだよこれはよ!!!」
モノクマ「なんだもなにもありませんよ?今配ったのは、お前らのしられたくないはずかしーい秘密や過去です!
このまま何もなければ、書かれている内容を全世界に公表しちゃいます!」
十神「フン、俺の知りたい事はそんな脅しではない。どうすれば次への道が開けるかだ」
セレス「あらまあ、よくそこまで冷静になれますわね」
十神「過去ぐらい誰にだってある。それで、お前は俺達にどうしろと言うんだ?」
モノクマ「いやん。主人公のようなモブで有名な十神くんが普通にリーダーっぽい言動してちゃダメじゃない!もっと引っ掻き回してよ!
えーとですね。まあ条件は2つあるんだよね!まずは"コロシアイが起きる事"だよ!
24時間以内にコロシアイが起きれば外に公表するのは勘弁してやりましょう!」
霧切「もう一つの条件は?」
モノクマ「んもー、せっかちだなあ。そんな淡々と進めてたんじゃ人物描写とか面白みとかが物足りなくなっちゃうよ?
もう一つの条件は……これからやるレクリエーションのクリアです!まあ先ずは説明するからやるかどうか決めてよ」
苗木「とっととはじめさせたらいいのに」
モノクマ「苗木くんのようなしょっぼい秘密の奴だけならそれでもいいんだけどね。まあ考えなきゃいけない人っていうのはいると思うよ?
まずは今回のレクリエーション”ドキドキ☆秘密神経衰弱”のルールを説明しましょう!」
桑田「……なんか名称の時点で嫌な予感がすんだけど」
モノクマ「はい、ある意味当たってると思うよ?お前らに配ったのって基本、まあしょっぼいのもあるけど"誰にも知られたくないヒミツ"だと思うんだけど
このレクリエーションをやる場合最低一人には先ほど配った秘密が知られてしまいます。
レクリエーションをやる場合、お前らにはもう一つ封筒を配ります。その中身はこの中の誰かの秘密になっています!
明日の午後6時までにお前ら全員が、手に入れた秘密を秘密の持ち主に返してやることができればクリアです!
秘密がきちんとかえってきてるかはボクがここで判定してあげるから、秘密を返されたときは二人そろってここに来る感じでね!
あ、ミス回数は制限しないよ?むしろどんどんミスって誰のかわからないヒミツを拡散しちゃうぐらいがちょうどいいんじゃない?うぷぷぷぷ」
そう言ってモノクマは楽しそうにくるくると踊って見せた。
ボクは自分の秘密を再度確認する。一週目と同じく"小学5年生までおねしょをしていた"という恥ずかしい内容だ。
……そりゃ、人を殺すほどではないけど、確実に誰かに知られてしまうというのもまた恥ずかしい話だった。
霧切「……このレクリエーションをしない場合は、無血での3階の開放はないのかしら?」
モノクマ「まあそうなるね!このクローズドサークルの中で弱みを握られちゃう代わりに3階を開放してあげましょう!ってなノリだからね!
あ、あとついでに言っとくと"自分の秘密を他者に意図的に見せる"のはNGだよ!
それやっちゃうと一人が全員の秘密知って再分配するだけで終わっちゃっておもしろくないでしょ?」
朝日奈「わ、私は大丈夫!やるよ!めいっぱい考えて、できるだけ間違えないようにするから!」
十神「……どうしても拒否したいというやつはいるか?」
十神クンの声に、生き残ったボクたち以外は周囲の様子を窺うように顔を見合わせる。
空気がよどみ、とまった様になった中で小さい咳ばらいが聞こえた
セレス「コホン わたくしとしては今回の秘密は知られたくない事ですが……現状のリスクで言えば受け入れないほうが大きいですわ。
今悩んでいる方も"このメンバーに知られる""世の中に広められる""殺しあいが起きる"のどれが最もリスクが低いかを考えてみれば
自ずと、答えが出るのではないでしょうか?」
桑田「……まあ、そりゃそうなんだろうけどさ。 不二咲、なんか泣きそうだけど大丈夫か?」
不二咲「……大丈夫。……今は難しいけど……いつか、勇気が出たら皆には言うから。
そのまえに誰かに知られるってだけで……ちゃんと乗り越えなきゃいけない事だから」
モノクマ「やるってことでいいのかな?そんじゃ、こっちの封筒の自分の名前が書かれてるやつをもってってね!」
そう言うと、モノクマは白抜きの文字の黒い封筒を先ほどと同じようにばらまいた。
山田「ひいい!自分の秘密にしろ人の秘密にしろたやすく扱いすぎではありませんかね!……ん?あっ」
モノクマ「おおっと、どうやらチュートリアル役は山田くんだったみたいだね」
山田くんの視線が腐川さんに固定される。
腐川さんはそれを見て、ため息をつきながら歩み寄った。
腐川「念のためだけどアンタが拾った内容見せてくれない?」
山田「アッ ハイ」
腐川「……はぁー……モノクマあんたね、もう知られてる事をこういうのに使うのはどうかと思うわよ」
モノクマ「まあまあ、答え合わせはこっちに来てくれたらするから二人ともおいでおいで」
モノクマの手招きで山田クンと腐川さんがモノクマのいる壇の前へと向かう。
モノクマ「まあ、腐川さんに関しては今言ったようにチュートリアルなんだけど」
腐川「でしょうね」
山田「見た瞬間"あっ"ってなりましたからね」
モノクマ「はい皆も見ておくように!秘密の対象とおもわれる人物を見つけたらこのようにここに連れてきます
で、はい、山田くんは黒い封筒ごと秘密をぼくに渡してね」
山田「はい」
モノクマ「で、ぼくが中身を確認して……大正解!腐川冬子さんは殺人鬼のジェノサイダー翔でもあります!
と、正解ならこのように言うからね!間違ってたら間違ってたで黒い封筒の中身は言っちゃうから!」
腐川「……答え合わせは他の人とかぶらないようにしておく必要があるわね」
山田「そうですな」
モノクマ「やり方は分かったよね?それじゃあ解散!
夜もここは開けておくし、体育館に誰かはいったらぼくはすぐに姿を現してあげるから制限時間までならいつでも来て良いからね!」
各々が、その流れを見ながら、自分の手に入れた他人の秘密を凝視する。
ボクの手に入れた秘密は” は、初めての彼女に二股されていた上に、自分の方が浮気相手だった”という悲しい物だった。
ただ、これだけでも大体誰の秘密かはわかる。
"彼女"である以上この秘密を持っているのは男子のはず。
石丸クンはあの性格だから彼女ができるということは考えづらいし、大和田クン不二咲クンはそれ以上に大きな秘密がある。
十神クンも石丸クンとは別の方向で彼女ができるとは思えないし、そもそも十神クンに関しては本命視以外にありえないんじゃないかな。
山田クンの二次元に対する愛は一週目の時にだいぶしっかり見せつけられたので山田クンがこの秘密というのもちょっと考えづらい。
葉隠クンもこれ以上の隠さなきゃいけないヒミツが普通にあるから……たぶん、この秘密は桑田クンのだとおもう。
ボクは思案顔をしていた桑田クンに声をかけた
苗木「ねえ、桑田クン?」
桑田「あ?なんだよ苗木」
苗木「たぶん、ボクに渡された秘密って桑田クンのだと思うんだけど……確認してもらっていい?」
モノクマ「おっと?今答え合わせしてもいいんですよ?」
苗木「人がいるときにやるわけないじゃないか」
桑田「確認だけな!答え合わせはまたあとで来るから!」
そう言う桑田クンにボクは秘密の紙を差し出す。
内容を確認した桑田クンは、心底嫌そうな顔をしながらも一つだけうなづいた。
桑田「……これ知られたのが苗木でまだましだったっておもうことにするわ」ハァ
霧切「……みんな、いったん体育館から出ましょう。答え合わせをしておきたくてもできないという状況になっているから」
大和田「そうだな」
ぞろぞろと体育館からひとがはけていく。
体育館前ホールで、十神クンからの提案で中に人がいるときは飾り棚の中の兜を体育館ホールにつながる廊下側に出しておくことが決まった。
体育館ホールにまで人が入ってきていたら、秘密を聞かれるかもしれないからというのがその理由だった。
いましがた秘密を確認したボクと桑田クンは答え合わせを済ませてから解散した。
桑田クンは"オレも渡された秘密が誰のかすぐ分かったからちょっと話してくる"と言っていた。
……今回のレクリエーションも意外と早く終わってくれるんじゃないかな?
昼間動きすぎて疲れたのか、既に眠くなってしまった目を擦ってボクは自室に向かった。
夜時間の手前
オレは不二咲の部屋の前に立っていた。
オレがモノクマから渡された方の黒い封筒には『性別を偽って過ごしている』という内容が書かれていた。
……本人が言うまで知らんぷりしてやるつもりだったんだけどな。
インターフォンを鳴らして、しばらく待つ。だけど、出てこない。寝ちまったんだろうか?
けど、明日になってから探すっていうのもな。もし内容が人にばれたらそれはそれで困るだろうし。
オレの秘密だってアレだけど正直誰にも知られたくないような話だからな。本格的に誤魔化してた不二咲にはよっぽどの事のはずだ。
不二咲を探してうろうろしていると、倉庫の扉が少しあいているのに気付いた。
桑田「誰かいるのか?」
セレス「あら、あなたもいらしたんですか」
不二咲「えっ く、桑田くん?」
桑田「不二咲ここにいたのか。えーっと……セレスと不二咲はなんか話でもあったのか?」
セレス「いえ、偶然鉢合わせただけですけれど」
桑田「じゃあいいな!不二咲、ちょっと来い」
不二咲「あ、あの、ちょっと用事があるんだけど」
桑田「ちゃっちゃと終るから!な!」
セレス「まあ、乱暴はいけませんわ!流石にわたくしも見過ごせませんわよ」
桑田「ちげえから!例のレクリエーションの話だって!」
不二咲「……!!」
セレス「はあ、なるほど。つまり桑田くんは自信に振り分けられたものが不二咲さんの秘密ではと思っているのですね?」
桑田「そうだな。で、まあコイツその話あったときもあの脅えようだっただろ?夜時間あたりで人がいないときのほうが良いと思ってさ」
セレス「たしかに、そうかもしれませんね。夜時間に近い事ですし早めに済ませてくださいませ」
桑田「お前も何してるかは知らねーけど早めに部屋に戻れよ?オレのように目星つけた奴が訪ねてきてもすれ違うかもしんねーからな」
そんな事を言いながら、不二咲の手を引いて倉庫から連れ出す。
人に話を聞かれないのはどこがいいかを考えて、オレの部屋に連れてくることにした。
桑田「つーわけで、多分これはお前の秘密だろうと思うんだけど」
不二咲「……!!ち、違うと思うよぉ!だ、だって、だって……っ とにかく、女の子らしいものではないから!」
桑田「いや、これはお前の秘密のはずだ。だってよ、不二咲……お前、男だろ?」
不二咲「えっ…… っ!! ほ、ほんとだ、ほんとに……えっ?なんで?何で桑田くんは知ってたの?」
桑田「ほら、投球の練習してたときにさ、実際に形を作って練習してただろ?あのときにちょっと違和感っつーか……
女が男の体型に、男が女の体型になってるんだったらさ、不二咲はちょっと女らしすぎるって思って、そこから気づいた」
不二咲「……知ってて、言わなかったの?」
桑田「いや、だって男だろって聞くのもさ……隠したいから隠してるわけじゃん?
だったら黙っといたほうが良いかなーって……いうのもあるんだけどしばらくはガチで気づいてなかっただけだな」
少しの間沈黙が続く。不二咲は顔を伏せて考え込んでいたけれど、やがて顔をあげて、言った。
不二咲「気を使ってくれてたんだね ゴメンね、ありがとう」
桑田「いいって。それよりさ、まだ他の奴に知られたくねえんだろ?だったら、今のうちに答え合わせすましちゃおうぜ!」
不二咲「そうだねぇ……あっでも、ボク、今ちょっと約束があって」
桑田「そういや用事があるって言ってたな?そのスポーツバッグ使うのか?」
不二咲「うん……じ、実はね?強くなろうと思って……その、明日秘密のこたえあわせをすることになるとしても、最初に一歩ふみだしてたらちがうかなって、
それで……大和田くんにねぇ、カラダ鍛えたいって相談してたんだ。で、更衣室で待ち合わせてるんだけど」
桑田「ん……待てよ?それって大和田には自分の秘密知られちまわねーか?」
不二咲「うん、だって、その、ボクね、大和田くんの強さにあこがれてて……あぁっ!!え、えっとね、その、桑田くんが頼りないとかではないんだよ?!」
桑田「おう。まあそれはわかるっつーかアイツに比べられたらなかなか勝てる奴はいねえって」
不二咲「それに、前怒鳴った時にボクがおびえちゃったら、もうボクに怒鳴ったりしないって"男の約束"してくれたでしょ?
そういう、約束を大事にする人なら、黙っててくれるかなって」
桑田「……まあ、わかった。けどさ、モノクマは秘密を自分からばらすなっつってたし、やっぱ答え合わせからしとこうぜ。
遅れたのはオレも大和田に理由を説明してやるからさ」
納得してくれたのか、不二咲は頷いてくれた。
不二咲と二人で体育館に行って、モノクマを呼び出して答えあわせを行う。
モノクマはやたらと眠そうにしていたけれど、そんなに眠いなら夜も回答につかえるようにしてんじゃねえよ。
モノクマ「えーと、きみたちで答え合わせ5つ目だね!まったく、順調に行き過ぎててつまらないよ!
あー、ツマラナイツマラナイ……ツマラナイ……この世界はツマラナイ……」
桑田「なにいきなり虚無に襲われてんだよ……まったく、悪趣味な事ばっかしやがって」
不二咲「ね、ねぇ、それよりも早く行こう?」
モノクマ「えっ?なんだって?早くイこう?やだもー、不二咲さんってば大胆なんだからぁ!」
不二咲「?」
モノクマ「ああ、もちろん君が大和田くんとしてる秘密の約束とかぼくには筒抜けだからね!
ま、がんばってきなよ。筋肉なんて今つけたって無意味だけど うぷぷぷぷっ」
不二咲「……」
桑田「言わせとけ言わせとけ、ちょっと体力つくだけでもちげーんだから気にすんなって!」
体育館を出て、2階へ上る。
オレたちが2階に上った時に、誰かの声が聞こえた気がした。
桑田「ん?ほかにもここにだれかいんのか?」
不二咲「えぇっ……じゃあ、見つからないうちに早く行かなきゃ」
急いで、プール側の廊下を通り抜けて、プール前の広場に足を踏み入れる。
人に見られたくないであろう不二咲を先に更衣室にはいらせてから、オレも更衣室に足を踏み入れた。
大和田「ん? 不二咲はきいてたが……桑田もか?」
不二咲「ご、ごめんねぇ?遅くなっちゃって」
桑田「用事があるって言ってたんだけどよ、ちょっと例の秘密の奴の話でオレが不二咲借りてたから遅くなった。先に約束してたらしいのにワリィな」
大和田「いや、まああまり待ってはいねえけど……ちょっとまった なんでお前ら二人とも普通に更衣室に来れたんだ?」
不二咲「……あ、あのね、いつかみんなに言わなきゃって思ってたんだけど、
先ずは大和田くんに聞いてもらおうと思って……あ、その、レクリエーションの関係で桑田くんももう知ってるんだけど、その」
不二咲の声を遮らないように、オレは黙っていることにした。
だけど、そのせいか、不二咲の言葉に集中しているらしい大和田と、不二咲は気づいていないみたいだけれど、
更衣室の外に足音が二組入ってきたのにオレは気づいた。
……まずいな。水泳マニアの朝日奈とオーガならいいけど、男子が来たりしてたらまずい。
オレはドアを開けられないように、こっそりと後ろに下がって、後ろ手でドアノブを動かないように握りしめた。
十神「……そろそろ、頃合いか?」
モノクマの夜時間アナウンスが流れてから3分。俺は本を閉じた。
一週目の時は俺自身が引っ掻き回した事件を、今回は俺が未然に終わらせる。
昼に体力を使い果たした苗木を起こさなかったのも、霧切が見張りを引き受けると言ったのを断ったのも、
すべてはこの件に関する事を清算しておくためだ。
不二咲の死体を磔にしたのは、同じゲームに参加させられた連中の推理力を確かめるためだった。
死体も腐川の秘密も、犯人が判明している単純すぎる事件も、俺の状況をみるための材料に過ぎなかった。
俺自身はしたことを後悔する気はさらさらない。
……だが、今回は状況も勝利条件も当時とは違う。
全員生存という完全勝利を得るためには、俺達にとっての2週目であるという条件はいずれ他の連中にも知らせてやる必要があるだろう。
その際、一週目の内容を伝える必要も当然出てくる……その際に一週目の俺の行動を懸念される率は高いだろう。
だからこそ、俺がこの事件を止める。
周囲から見ても分かりやすい"けじめ"として最適だからな。
十神「フン……同じ舞台というのが足を引っ張っているが……ここまでの俺の統率とあわせればなんとかなるだろう」
図書室から出た瞬間、俺の耳に信じられない奴の声が聞こえた。
石丸「十神くん!すでに夜時間だぞ!早めに部屋へ戻らないか!!!」
十神「待て、なんでお前がここにいる?」
石丸「ふむ、夜時間の出歩き厳禁に関してだが……どういうわけか全く守られていない気がするのだ!
実際に、夜時間直前にしまっていた扉が、朝時間になってすぐ見回るとあいているという事も起こっている!!
そこで、抜き打ちの見回りを行うことにしたのだよ!本来ならば寝ている時間だが、規律を守ることは睡眠を割いてでも行わねばならない!」
十神「……チッ 貴様らも案外覚えていると思ったが、その弊害か」
十神(石丸が喋っている間に、階段付近に影がチラついた気がするな。
不二咲や大和田を来る前に止めるなり、現場に同行するのはもう無理だと思ったほうが良いな)
石丸「何を言っているかはわからないが、僕に見つかったからには早々に部屋に戻ってもらうぞ!」
十神「まあ待て、お前が本能的にそういったことを気にするのは俺ももはや驚かん。だがな、今はほかにすべきことがあるんだ」
石丸「そのすべきこととは、何だ?!」
十神「フン、いくら現在協力体制とはいえ、貴様に言う必要があるとは思えないが」
石丸「いや、きちんと聞かせてもらうぞ!言えないような事であるなら強引にでも部屋に戻ってもらうし、今日する必要がない事ならば明日にしてもらう!」
石丸の目は、まっすぐにこちらを見ている。
隠すことのない明確な、警戒心に満ちた目だった。
十神「……殺人を止める」
石丸「!? それが起こるという根拠は?」
十神「今日、周囲の話を聞いていると、貴様はこの学園生活……特に2日目以降から感じる既視感をそれなりに感じ取っているそうだな?
俺の今ここにいる根拠も、それと似たようなものだ。説明しろと言われても明確な説明は現状出来ない。これでいいか?」
石丸「そう言うことであれば僕も協力するぞ!」
十神「……そうだな、少しでも力作業ができるやつがいたほうがいいか。ならば、行くぞ。貴様との無駄話でもしかしたらもう事が起こっているかもしれん」
石丸「なっ……そういう事ならばもっと急いでくれ!」
十神「焦って対応したところで引きとめられて余計に時間がかかるだけだろう。貴様は自分もそう感じていたことを出されるまで俺を警戒の目で見ていたからな」
石丸「警戒はしていたが、僕は何も殺人が起きるとまでは思っていなかったぞ?!」
十神「だろうな。俺が特別にはっきりとどうなるかわかっているだけだ……ここだ。生徒手帳は持っているな?更衣室に乗り込むぞ」
更衣室の前に着た俺は、自分の生徒手帳を使ってロックを開けた。
だが、中から固定されているかのようにドアノブが動かずにドアを開けることができない。
十神「クソッ、どういうことだ……まさか既に……いや、だがあいつに作業中ロックをかけるなどという頭があるようには」
石丸「何かあったのか?」
十神「ドアが開かない。何かで固定されているみたいだ」
石丸「固定? 僕にもやらせてくれ」
そう言って、石丸も生徒手帳をセンサーにかざしてからドアノブに手をかける。
あっさりと、俺の時は何だったのかというぐらいあっさりとドアノブがまわり、開く。
同時に、ごちゃごちゃに混ざった声が聞こえてきた
大和田「俺は強いんだよぉーーーーーー!!!!!」
不二咲「ひっ!!」
桑田「おい!!!やめろ大和田!!!!」
ドアが開ききった時、俺と石丸が目にしたのは
ダンベルを振り上げた大和田と、身をすくめる不二咲と、その間に立とうとする桑田の姿だった。
石丸「なっ?!」
十神「どけっ!!」
石丸を更衣室の中に突き飛ばして、できた隙間から更衣室の中に入る。
頭に血が上っていたものの大和田は俺達に注意を奪われたらしく、ダンベルを振り上げたまま硬直している。
好機だ。とまっているうちに畳み掛ければ良い。
十神「桑田!そいつを押さえろ!」
桑田「えっ?あ、ああ!!」
桑田も突然の乱入者に思考が止まっていたが、俺の声で大和田に視線を戻す。
俺と桑田が大和田にとびかかり、さすがに準備なく二人の勢いを支える事が出来なかったらしく、奴はそのまま床に押し倒された。
ドサッ
大和田「うわっ?!!くそっ!!何すんだよ!!!」
桑田「そりゃこっちのセリフだ!!!何やってんだバカ!!!」
十神「これはしばらく押さえてないとダメそうだな。おい、石丸。お前もぼーっとしてないで不二咲のフォローに回るなりこいつを抑える手伝いなりしろ」
石丸「……あ、ああ……大丈夫か不二咲くん」
不二咲「……ごっ……ごめん なさい ごめんなさい……」
俺達を振り切ろうとする大和田が動きを止めるまで、それから数分かかった。
ようやく状況を落ち着いて考えられるようになったらしい大和田を、再度暴れないように拘束した上で
何があったかを更衣室にいた3名から聞きだすことにした。
十神「何があったのか聞かせてもらうぞ。その上で、貴様らに関する処罰は俺から周囲に提案させてもらう。
まあ、不二咲が何かしら大和田の秘密にかかわった無遠慮を言ったんだろうが」
不二咲「ごめんなさい……」
桑田「いや、不二咲は悪くねえだろ?こいつがキレたってだけで」
十神「お前の基準が総てだと思うな。いいか?他の奴には理解できない許せない事というのは誰にでも存在しうるんだ」
桑田「おい十神!お前は大和田抑えたと思ったら今度は大和田の味方するとかなんなんだよ?!」
十神「貴様はそのあたりに関しては黙っていろということだ。石丸も同様だぞ?」
石丸「それぞれの話に枝葉をつけては進まないからな。了解した」
大和田「……」
十神「で?まずは何故貴様らがここに集まったかだ。予測はつくが本人たちから聞かせてもらおうか」
俺はそう言って、まず最初に異物である桑田の方に視線を向ける。
桑田「オレから話せって事か」
十神「当事者の中では一番落ち着いているからな」
桑田「オレがここに来たのは、不二咲の付き添いだよ。
不二咲が大和田と待ち合わせてたんだけど、オレがその前に不二咲に用事があって時間取ったからな。
大和田に遅れた理由説明すんのに付き添ってきたんだよ」
十神「……例の、レクリエーションか?」
桑田「ああ。そうだな。疑うなら朝にでもセレスに聞きゃいい、オレが不二咲と会った時に居合わせてたからな」
十神「なるほど、関係者をきちんと覚えているあたりは貴様にしては上出来だな」
桑田「お前は煽りたいのか話聞きたいのかどっちなんだよ」
十神「話を聞いた率直な感想だ。それに、今回に関しては褒めてやっているんだ。ありがたく受け取れ」
桑田「いらねー」
十神「フン……次に不二咲……と言いたいところだが、先ずは前提の確認をさせてもらうぞ。この状況の証拠だけで説明できることだがな」
不二咲「えっ?な、何?」
十神「貴様は女子生徒ではなく男子生徒だな?ここは男子更衣室だ。男子の手帳が無ければこの部屋へのロックはあかないはずだ」
不二咲「え、えっと」
十神「言い訳はするな。もともと、俺は見破っていた事だからな」
不二咲「……えぇっ?!十神くんも知ってたの?!」
十神「(実際には、男だということを知ってから思い至ったことだが、そこまでは素直に言ってやる必要はないか)
貴様の父親に、十神財閥所有のビルのいくつかに関して、セキュリティ方面のプログラムの依頼をしたことがある。
その際に、息子がいるという話を聞いたことがあってな。
良くある響きの苗字だから、最初は気づかなかったが……字面にするとそうはない苗字だ。気づけばあとはどういうことか明白だろう」
不二咲「そ、そっかぁ……十神くんのところに……父さんの仕事かぁ」
石丸「……まってくれ、という事は本当に不二咲くんは」
不二咲「うん……み、皆にはいつか話さなきゃって思ってたけど……まさかこんなに隠せてなかったなんて」
石丸「……ふむ、なるほど」
桑田「驚きまくるかと思ったけどなんかそうでもないのな?」
石丸「自分でもここまで驚きが少ない事が驚きではあるんだが……良くわからないが納得できてしまったのでな」
十神「ふん、こいつの反応はどうでもいい。で、その秘密に関連することで大和田を呼び出したのか?」
不二咲「うん……その、ほんの少しでも強くなろうと思って……大和田くんなら、人の秘密をばらしたりしないだろうしと思って」
そう言って、不二咲は申し訳なさそうに大和田の方を見る。
当の大和田は、突沸した怒りがおちついたせいか酷く落ち込んでいた。
十神「なるほどな。大和田、キサマの方の話を聞こうか。 お前がいきなり暴力に走ったのは、お前のコンプレックスを不二咲が刺激したからか?」
大和田「……ああ」
十神「だろうな。大方おまえの秘密にもかかわっているんだろう?」
大和田「……その、通りだ」
石丸「……人を殺してまで、隠したい秘密だったのか?」
十神「貴様にとっての秘密はそうでなくても、こいつにとっての秘密はそうだったというだけだろう。
それにだ、所詮秘密はきっかけでしかない。さっきも言っただろう。コンプレックスを不二咲が刺激した……とな」
桑田「どうしてそんなことがわかるんだよ」
大和田「……いや、いい。十神の言うとおりだからな……俺は……俺はできることなら、誰にも秘密を知られたくなかったんだよ」
十神「秘密の内容はともかく、それを自ら明かせる人物は、お前にとっては意外だったんだろうな」
大和田「……そうだ。自分の身を守るための嘘を明かすなんてことをされたらよぉ
……俺が……俺が今までしてきたことはっ!!!何なんだよ!!!結局っ……そっちの方が強いのかよおっ!!!!」
大和田が、吠えるように叫ぶ。もしも見た目が変わっていなくとも、この瞬間の大和田は今まで見ていた奴とは別人に思えた。
不二咲「……ねえ、大和田くん」
大和田「……すまねえ……せっかく、信用してくれたってのにこのザマだ……」
不二咲「ううん。 ねえ、もしかして、なんだけど 大和田くんの秘密は、家族の……おにいさんの事?」
大和田「?!」
不二咲「あの、その……もし、もしもそうだったら……今の状態なら、多分大和田くん何もできないと思うから……ボク、大和田くんと話したいんだ」
十神「ダメだ」
桑田「おい、即答かよ」
十神「当然だ。拘束しているとは言っても所詮図書室から拝借した延長コードだ。こいつがもう一度暴力に走ったらちぎられる可能性がある」
石丸「しかし、不二咲くんの言動からすると、彼の所持する秘密の対象が大和田くんの時はまた似たことが起きるかもしれない」
大和田「不二咲、ここで言っていい」
不二咲「え?」
大和田「お前の持ってる秘密が俺のもんだっていうなら、ここでその話をしていいって言ってんだよ。この状態なら本当に手も足も出ねえからな」
十神「なら、先ずは内容の確認からにしろ。他に兄がいる奴の秘密だったときは目も当てられないからな」
不二咲「……じゃあ、部屋から封筒もってくるね」
そういって、不二咲が出て行った後、気まずい空気が流れる。
苗木あたりなら雑談でもしようとするのだろうが、俺はそんな気を回す気はない。
どうせ俺が何も言わなくとも、桑田あたりが何かしゃべるだろう。
桑田「……えっと、カンケーない話になるけどさ……その、秘密に関するのってお前らはもうなんとかなったのか?」
大和田「その話かよ」
桑田「しょ、しょうがないだろ?!ずっと黙ったまんまってわけにもいかねえしよ?!」
石丸「僕は相手の目星はつけているが、まだその件で話しかけてはいない。僕自身も他者に僕の秘密ではないかと声をかけられてはいないな」
十神「俺は自分の秘密に関しては既に知っているやつの手に渡っていたからな。桑田と苗木の後すぐに答えあわせをした。
俺の持っている秘密は……引っ掛かる連中はあの後すぐに寝てしまったみたいだからな。別に明日でも構わないだろう」
大和田「……俺に関しちゃ持ってるやつもわからねえし、自分の分は今不二咲が取りに行ってるやつだろうってことぐらいだな。
それよりも、何故十神と石丸はここに来たんだ?とくに石丸、お前は風紀委員だってのによ」
石丸「夜時間の出歩き禁止が守られていないと感じていたのもあって、抜き打ちの見回りを行っていたのだよ。そこで十神くんと遭遇してな」
桑田「あっ、じゃあ2階に来た時誰かの声が聞こえると思ったのは、お前らだったって事か!」
石丸「む?聞こえていたのか」
十神「となると、俺の見た人影も桑田と不二咲だったということだな。まったく、先回りして止めておければ楽だったんだが」
大和田「……まるで、全部見通してるみたいだな」
石丸「いや、見通せているわけじゃない。基本的には予感に頼っての行動だからな」
大和田「予感……予感か……もうちょっと、俺もそいつを信じて見りゃよかったのかもな」ハァ
大和田「不二咲に話を持ちかけられた時に、なんとなく嫌な予感というか、妙な感じはしたんだ。
けどよ……目の前にどうしても頼みたいことがあるって言ってるやつがいる以上、カンケーねえと思ってそいつを無視することにしたんだよ」
十神「まるで狙ったように裏目にばかり出るな」
大和田「うるせえ」
ガチャッ
不二咲「た、ただいまぁ……えっと」
少しだけ、話のしやすい状態にはなっただろう所に。不二咲が戻ってきた。
十神「遅いぞ。おかげで無駄な話をしてしまった」
不二咲「ご、ごめんねぇ……えっと、それで……大和田くん、これが君の秘密かどうか確認してもらっていいかな?」
不二咲は大和田に近寄り、黒い封筒の中身を取り出す。
大和田の後ろに回って何かあった時抑えられるようにしていた俺と桑田は少し目線をずらし、その中身を見ないようにする。
大和田「……そのとおりだ。俺は……兄貴を殺したんだよ」
石丸「殺し……っ?!」
桑田「おい、マジかよっ?!」
十神「ハァ……おいプランクトン 言う必要はなかったんだが」
大和田「どうせ内容に関する話をするんだろ?だったら、もういいじゃねえか」
不二咲「……大和田くん、これって……本当なの?」
大和田「本当だから、こんなものに使われる秘密になっちまってんだろ」
不二咲「……どういう状況だったか、聞いても良い?」
大和田「ああ」
大和田の口から出た話は、以前聞いた物とほぼ同じものだった。
偉大な兄を追いかけ、その跡を継ぐとなった時に聞こえた侮蔑の声を振り切るために、兄にくだらない勝負を挑んだ。
その際に自分の起こした無茶をかばった兄が死に、その事実を隠し通すことで兄との暴走族グループを守るという約束を果たそうとした。
いつ聞いても、感傷と直感で突っ走ったくだらない出来事だ。
そのくせ、大和田本人の思考が現実的なのだから性質が悪い。
本当に無頼漢で周囲の事を気にしないのならば侮蔑よりも期待の方にばかり耳をむけただろう。
そこで侮蔑の声のほうを意識してしまったのは、リスク管理を行いたがる人物によくある思考だ。
大和田「……俺は、自分の秘密が誰かに知られるのも、そいつの口から秘密が明かされることになると思って本当は嫌だった。
しかもだ、俺の方に割り振られた秘密も、誰のものかわからない。
気づいたら、秘密が明かされるかもしれないという事が、俺の中でいやに重くなっていたんだ」
桑田「……それが、どうしていきなり不二咲にキレたんだよ?」
大和田「嫉妬したんだよ。俺が明かしたくない、どうしても守っておきたいと思った秘密を、こいつは自分から伝えてきた。
誰よりも強くなきゃいけないはずの俺に、秘密なんて平気だろうって……」ギリッ
不二咲「……ごめんなさい」
大和田「いいんだ。俺が女々しいだけだったんだからよ」
不二咲「ううん!だって、だって、大和田くんは強いよ!強くなかったら、もっと早く潰れてても仕方ない秘密じゃないか!
それを棄てずに、ずっとお兄さんとの約束を守ってきた大和田くんは、強いよ。
でも、それをボクが……大和田くんのこと、知らずにただ頼ろうとしたから」グスッ
桑田「つーかさ、お前の秘密と不二咲の秘密はだいぶ方向が違うから気にしてもしょうがなかったんじゃねーの?」
石丸「そうだな。不二咲くんの物に関しては、自己責任であり周囲への影響も彼本人がどう扱われるかだけで済む。
だが、大和田くんの秘密は君の所属する物全体への影響が出るから、簡単にどうにかできるものではないのは確かだろう。
本当はもっと初期の心持ち次第だったのだろうが、過去に関してはどうしようもないからな」
大和田「……ワリィな、お前ら……こんなことしたやつをかばわせちまって」
十神「まったくだな」
桑田「だからおい十神!!なんでお前はそう引っ掻き回そうとするんだよ!!」
十神「思うさま傷心したし、コイツらが理解を示すという事が分かっただけもういいだろう?
他に強いだの弱いだの、お前の兄の話をするだとかいうのは後でいくらでもできる。いいな?今後の話をするぞ」
大和田「今後か……そうだな、俺の処分を決めるんだったな」
十神「そうだな。まずは、周囲にどう伝えるかだ」
翌朝
事件が起こるはずだと注意していたはずなのに、あっさり眠りに落ちていたことに後悔しながらボクはベッドから起きあがった。
食堂に向かうと、反省中とかかれた短冊程度の紙をおでこに貼り付けられている大和田クンが、食堂の掃除をしていた。
大和田「あん?苗木か」
苗木「えっと……それ、どうしたの?」
大和田「昨晩、ちょっとやらかしてな。その罰だよ罰。全くめんどくせえ」
そう言いながらも、大和田クンはゴミをちりとりに掃きとっていく。
ボクがどういう事かとおろおろしていると、厨房から十神クンがツカツカと靴を鳴らして歩いてきた。
十神「その程度で済んでよかったと思うべきだな」
大和田「よくねえよ、コレ毎朝だろ?ついでに他の時間はあの石頭の監視つきだ」
十神「俺が貴様なんぞに時間を割いてやるわけにはいかないし、他の事情を知っていて監視に向くやつがいないんだから仕方ないだろう」
苗木「ねえ、どういう事?もう少し詳しく話してくれても……」
十神「朝食会の際に連絡事項として通達する。お前もさっさと自分の分の朝食を用意しろ」
十神クンに言われて、仕方なく厨房へ向かう。
舞園さんと江ノ島さんが料理が苦手な人向けにとお吸い物を作っていた。
そしてその横には……大和田クンと同じく、おでこに反省中と書かれた短冊をペタリとはりつけて、
バツ印を赤マジックで書かれたコットンマスクをつけた不二咲クンがいた。
苗木「え、えーっと……おはよう?」
舞園「おはようございます♪……えっと」
舞園さんの視線も、不二咲クンの方に向く。彼女たちもおそらく、十神クンに後で説明するから準備をしていろと言われてしまったのだろう。
江ノ島「……まあ、なんとなくわかるけど」
苗木「わかるの?!」
江ノ島「不二咲がなんか口滑らせたとかじゃない?それで大和田も反省中になってるってことは大和田キレさせたんでしょ」
不二咲「」コクコク くびかしげ
江ノ島「……似たような事をされたのよ。妹に。おねえちゃんは黙っててってテープ張られたり」
舞園「妹さん結構わがままというかなんというか……江ノ島さんに甘えてたんですね」
苗木「えっ?妹、いたんだ」
江ノ島「いるよ。まあ、あんまり話すような事でもないけど」
苗木「確かに、聞かれないと人に家族構成って言わないもんね……ボクにも妹がいるけどあまり話題には出さないし」
舞園「あっ、中学で見かけたことあるかもしれません。よく一緒に帰ってる子いましたよね?」
苗木「うん、一緒に帰る女子なんて妹しかいなかったから、その子だよ」
江ノ島「歳近いんだね。ま、いいから苗木もさっさと自分の主食用意しなよ」
江ノ島さんは、相変わらずボクに目線を合わせてくれないままそう言った。
他の人も来るわけだし、ボクは適当に魚の切り身を見つけてフライパンで焼いてから、ご飯と吸い物をついで食堂に戻った。
しばらく待って他の人が集まってから、各々がさくっと用意した朝食を前に石丸クンが号令をかける。
みんなは、ちらちらと大和田クンと不二咲クンをみながら、食事に手を付けた。
桑田「なあ、朝食の時に説明するって聞いてあったんだけど?」
十神「そうだな。食べながらで良いから聞いてくれ。昨晩ちょっとした事件が起きた。といっても生徒間での暴力未遂だがな」
朝日奈「……」モグモグ
十神「見て分かるように、大和田と不二咲の間で少々行き違いが発生したが一応解決している。
ただ、今後もうやらかさないように罰を与える必要はあると思ってな。
大和田にはしばらく掃除と石丸の監視をつけて、不二咲にはクイズの中のデータまとめを言いつけようと思っている。
現状は腐川に情報整理をさせているが、どうも手が足りないみたいだからな」
セレス「……思っている、というよりも今朝の大和田くんの様子を見るとそれで決定しているように見えますが」
十神「大和田に関してはこれで異論は出ないだろうと思って早めにやらせている。
問題は不二咲が情報整理に関わる点だが、それに不満のある奴はいるか?」
葉隠「オラは別に問題ないと思うべ」
山田「あ、あのー……一つだけ条件が欲しいのですが……」
十神「どうした、言って見ろ」
山田「その、これは腐川冬子殿にもお願いしておこうと思ったことなのですが、クイズの内容が個人の事になる場合はあまりまとめてほしくないなーっと……」
十神「……現状も、個人用問題は網羅しきれていないはずだったな?」
腐川「ええ……人づてに聞かなきゃいけないから……」
十神「なら、今後は情報整理の範囲は誰もが参照できる範囲のみとしておこう。他に異論がある奴はいるか?」
「それなら」とか「まあいいんじゃない?」という声以外は特に聞こえない。
十神クンは「決定だな」と頷いて、食事に箸をつけた。
江ノ島「そういや、石丸もよく引き受けたね、大和田の監視」
石丸「僕も十神君とともに現場を目撃したのでな。大和田君が他の人に対して激昂した時抑えるようにとその時に言われた」
舞園「もうしないってことが早く伝わるといいですね、大和田くん」
大和田「……そうだな。あ、あと何言われたかは教えねえからな。プライベートなとこの地雷だったんだよ」
セレス「以前モノクマにからかわれた10連敗とやらでしょうか?」
大和田「ちげえよ!!?」
……状況をまとめると、昨晩は十神クンが事件の阻止に動いてくれてたって事か。
一週目の時は彼の行動で事件が複雑化したけれど、今回は逆に抑えてくれたんだね。
言葉づかいとか態度はまだ見下すようなところがあるけど、みんなに歩み寄ってくれてる事が分かってなんだかほっとした。
葉隠「……そういや、おらも朝の内にみんなにきいときたいことあったんだけど」
霧切「……私もおそらく葉隠君と同じことを聞こうと思っていたんだけれど、みんな大丈夫かしら?」
苗木「?」
腐川「な、何よ……勿体つける必要ないからとっとと言いなさいよ」
葉隠「まだ、全員秘密を交換しきれていねえよな?つか、オラの持ってるのも誰のかわかんねーんだけど」
霧切「既に受け取るのも渡すのも終わった人はともかく、どちらかが終わっていない人は集まって話したほうが良い気がするの。
午後3時頃に、食堂でその話し合いをするというのを提案したいの。かまわないかしら?」
不二咲「あっ……そ、その、その時に終わってない人だけ……だよね?」
霧切「実際の話し合いは終わっていない人だけで良いと思うけれど、
恥ずかしくて虚偽の内容を言わないように一度全員あつまって秘密の受け渡し状況を確認したいわ」
江ノ島「ハァ?こんな重要な事でわざわざ嘘つくやつがいるっていうの?!」
大神「落ち着くのだ江ノ島よ……情報を確実なものにしておくため、だろう?」
霧切「ええ、そういうことよ。全員集まる事で進捗が全員に伝わるというのもあるわ」
石丸「僕は賛成だ」
セレス「……そうですね、残り3時間になってもまだ終わっていないようであれば、多少の秘密の拡散は受け入れるべきですし、
その秘密の特定のために話し合うことはやぶさかではありません。数名だけでもその話し合いのメンツを削除するなら状況も絞れますし問題はないでしょう」
十神クンの提案の時と同じく、反対の声自体は上がらなかった。
だけど、江ノ島さんが霧切さんをにらむようにみているのは、誰の目から見ても明らかなようだった。
……気のせいかもしれないけど、ボク達の様子を見た以上に昨晩から今日の江ノ島さんは気を張っている気がする。
彼女の秘密も、誰にも知られたくないものなのかもしれない。
朝食後、ボクは自分の秘密を誰が持っていても声を掛けやすいように食堂にいることにした。
普段ならばうろうろと出歩いているけど、こういう時はできるだけ同じ場所にいたほうが良い気がする。
同じような事を考えているのか、舞園さん、朝日奈さん、山田クンが食堂に残っている。
苗木「ねえ、舞園さんと朝日奈さんは、配られたのがだれのかはわかったの?」
山田「あー、僕と苗木誠殿はもう渡す分は済んでいるのでしたね」
舞園「私はまだ……その、予測はたてているのですけど、数人候補が浮かんでいて」
朝日奈「私はもう渡したよー!だからもし舞園ちゃんの候補にセレスちゃんがいるなら外していいよ」
舞園「! 私の考えていた中に入っていました。ありがとうございます」
朝日奈「えへへへへ……誰がもう秘密を返されたかが分かるだけでもちょっと考えが進むね」
苗木「それをみんなでまとめてやろうっていうの、言い出してもらえてよかったかもね」
山田「えーっと……今、秘密関係がすっきり終わってるのって誰ですっけ?」
朝日奈「腐川ちゃんぐらいじゃないかな……あの子が黒封筒もって十神に話しかけてるの見たし、そのあと体育館の方に行ったから」
舞園「それと、朝聞いたんですけれど桑田くんも秘密を渡すのも返されるのも終わっているそうですよ。
それから食事のあとに不二咲さんも両方済んだと言っていました」
朝日奈「不二咲ちゃんのバッテンマスクって食事前までだったね」
苗木「マスクしたままじゃご飯食べられないからしょうがないよ」
舞園「……そこで聞いたんですけれど、やはり秘密に関しての事で不二咲さんは大和田くんを怒らせちゃったと言っていました。
私も、そこまでひどい秘密ではないのですがもしも少し耐えられなかったら暴走してしまうかもしれません。
……もし、私が秘密を持ってきた人に怒っちゃったらとめてもらっても良いですか?」
朝日奈「うん!大丈夫だよ!ていうか、これはこの場にいるみんなが意識したほうが良いかもね。暴走しそうなら周りが止める!これ大事!」
苗木「今回だけじゃなくね」
山田「あー、拙者割と暴走しがちなので皆様にお願いする方が多いかと」
舞園「……とりあえず、今私が心配なのは江ノ島さんですね……」
山田「? 江ノ島盾子殿ですか?正直容姿がかわったというかあの姿だと落ち着いてるように見えるのですが」
苗木「口調は殆ど変ってないよ……けど、確かにちょっとピリピリしてるよね」
舞園「自分の秘密をあえて明かすのが禁じられている以上、相談として聞いて落ち着かせるという事もできなくて」
朝日奈「うーん……なんていうか江ノ島ちゃんはもともとこの状態になってから警戒してたようにみえるけど……昨晩からさらに、だよね」
そんな事を言っていると、食堂にふらりとセレスさんがやってきた。
セレス「あら、あなた方は良いのですか?こんなところでのんびりとしていて」
舞園「あまり良くはないのですけど、私の渡された秘密もあまり口外していいものではないので
自分に渡される可能性を考えて一つの場所にいることにしたんです」
苗木「ボクもそんなかんじかな」
セレス「成程、わたくしが自分の与えられた秘密を持つ人を探し回っているのとは逆の理由ですか」
苗木「セレスさんは、絞り込んだりはできているの?」
セレス「いいえ、まったく。秘密をすでに回収できた人が集まっていた方がわたくしにとっては有意義ですわね」
朝日奈「うーん、でもそう言う人達はセレスちゃんと同じように、自分が渡すべき人を探してると思うんだよね……」
セレス「でしょうね……双方終わっている方はいましたっけ?」
山田「先ほども話が出たのですが、腐川冬子殿と桑田怜恩殿と不二咲千尋殿はすべて終了しているそうですぞ」
セレス「情報提供感謝いたします。なるほど……少なくともその3人ではないと」
苗木「自分の秘密が戻ってきていて、他の人の秘密が戻ってきていない人もあと2人絞り込めたよね?」
朝日奈「そうだっけ?」
舞園「おそらく、ですけど十神くんと大和田くんは自分の秘密を回収できていると思いますよ」
セレス「なるほど、現状自分の秘密を回収できていないのは9名に絞られるのですね」フムフム
セレス「秘密そのものの内容と合わせたら、世間話で特定できそうですね
……あ、特定できるかもと言った上で話すのは怖いでしょうから、わたくし他の方をさがしてみますね?ごきげんよう」
セレス「……はあ」
電子生徒手帳の生徒位置を参照にしてみた所、現在わたくしのもっている秘密の所有者と予測した人物は他の人と行動を共にしています。
一晩泳がせることで聞くべき対象を減らしておくという事自体は成功しているのですが、
こんな事ならば、昨晩の内に彼女の部屋を訪ねておくべきでした。
私の予測した人物である3人の中から、
十神君は既に秘密を回収してある可能性が高く
苗木君は内容の重要度から考えると群れての行動は自殺行為である点から、
わたくしの持っているものを渡すべき除外される。
となると最後に残るのは霧切さんのはずなのですが……彼女もまただれかと行動を共にしている以上違うのでしょうか?
共にいる人物を参照したところ、石丸君が彼女と行動を共にしているようですわね。
とりあえず、彼らのいる2階の教室に向かってみましょうか。
生徒手帳に示されていた彼らの居場所……2-Aの教室
わたくしがドアの前に立つと同時に中から二人が出てきました。
セレス「あら、こんにちは」ニコリ
霧切「……何か、私か彼に用事かしら?」
セレス「ええ、少々霧切さんとお話を……と言いたいところだったのですが、
もしかして霧切さんが石丸君の秘密を所持していたのでしょうか?でしたら答えあわせの後からでも」
石丸「いや、逆だな!僕の配布されたものが彼女の秘密だったようなのだ!」
セレス「まぁ……となると、わたくしの予想は外れていたわけですか……聞く前にそれが分かったのは不幸中の幸いですわ」
霧切「……石丸君?」
石丸「何かね?」
霧切「少しセレスさんと話していきたいから、先に体育館ホールの前に向かっていてくれるかしら?10分以内には話を切り上げるから」
石丸「後ではダメなのか?」
霧切「ええ……この場で話を聞いて待つというなら今後セクハラやろうの称号で呼ぶことにするわ」
石丸「?!」
セレス「いくら姿が女性であっても、女子の込み入った話を聞きたがるとなるとそう呼ばざるをえませんわね」
石丸「わ、わかった。では先に向っているから早めに切り上げるように!」
石丸君は少し焦った様子で、その場を立ち去りました。
セレス「……そう言えば彼は大和田君の目付け役もしていたような」
霧切「それなりに考えた結果、私の可能性が高いと思うからと言って、十神君と腐川さんに彼をしばらく任せてきたそうよ。
それもあって、早々に答えあわせをしたがっていたみたい」
セレス「あら、そんな時にわたくしとの時間をとってしまってよかったのですか?」
霧切「……あなたが私の事だろうと思った内容はもしかして、"黒幕側の人間である"とかそういうのではないのかと思って、聞いておきたかったのよ」
セレス「……」
霧切「……否定しないのね」
セレス「否定したところでそれ以外の物だとわたくしの手札をしぼらせるだけではないでしょうか?」
霧切「……もしそうだったら、という予測で勝手に話すけれど」
セレス「ええ、そうだったときの場合は参考にさせてもらいましょう。聞かせていただけますか」ニコリ
霧切「他者の秘密に関して口が堅そうな順から、一人づつしらみつぶしに聞いて行ったほうが良いわ」
セレス「それは結局のところ総当たりしろという事では」
霧切「……とにかく、今言った一点だけを重視して聞いてみるといいわ。その事実を知ったらどうするかという事は考えなくて良い」
そう言いながら、彼女はすたすたとわたくしの横をすり抜けて行きました。
……なるほど。やはり、彼女はにおいますね。人より多く事実を知りながら隠しているような、狼のにおいがします。
しかしながら、今回の内容と彼女が関係ない以上、彼女に括る必要はないのでしょう。
黒幕とつながっているにしろ、それ以外で何か怪しい事をやっているにしろ、
今のわたくしのやるべきことに彼女は関係ない。
情報量が他者より多そうな分、与えられたヒントだけをありがたく頂戴することにしましょう。
口が堅そうな順……ですか。
その事実を知ったらどうなるか考える必要がないのであれば、真っ先に候補に挙がるのは大神さんでしょうね。
内通者がいると知れば強い怒りを抱きそうですが……彼女がそうであればある意味納得のいく人物ですわね。
電子生徒手帳から、大神さんの位置を調べて……わたくしもその場を後にしました。
午後3時
約束していた時間になったため、全員が食堂に集合した。
霧切「それじゃあ、先ずは確認から始めましょうか」
朝日奈「あれ?進行霧切ちゃんなの?」
霧切「ええ、私に割り振られたものは消去法で考えるしかないの。
両方済んだ人は話し合いの席を立ってもらうつもりだから、最後まで残ることが確実な私が勧めたほうが合理的でしょう?」
十神「俺の持っているものもある意味で汎用性が高すぎるがな……特定が早期に済む可能性もある以上、こういってるやつに任せたほうが良い」
霧切「まずはみんな、席を立ってちょうだい」
霧切さんに言われて、みんな椅子から腰を上げる。
霧切「"自分の秘密を受け取っていない人"はこのテーブルのこっちがわの席について。
……5人ね。 次に、"自分が秘密を渡せていない人"は反対側へ。どちらにも属する人は挙手する事
……こちらも5人……秘密を受け取っておらずに渡せていない人はどうやらいないみたいね」
腐川「両方済んでるあたしたちはお役御免みたいね。話し合いが済むまで、食堂の看板でも出入り口前にたてときゃいいのかしら?」
霧切「ええ、そうしてくれると助かるわ」
秘密を受け取っていない側にいるのは、
ボクと、朝日奈さんと、舞園さんと、江ノ島さんと、石丸クン
秘密を渡していない側にいるのは、
霧切さんと、十神クンと、大神さんと、葉隠クンと、大和田クン
両方終えた残りの皆が食堂を出てから、再び霧切さんが口を開いた。
霧切「話し合いをはじめましょうか。とりあえず注意事項だけど」
葉隠「よーっし、じゃあまず"女の子を本気で泣かせてしまったことがある"ってやつ挙手だべ!」
霧切「葉隠君、大人しくして。あと他の人は分かってると思うけどこういう風に秘密の内容を声高に言わないように」
苗木「そ、そうだね……(言われたのがボクのないようじゃなくてよかっ……) あっ……」
石丸「……う、ぐ」ボロボロ
江ノ島「ちょ、大丈夫?」
十神「先ずは一組確定か これは悪い例だな」
朝日奈「い、石丸だいじょうぶ?タオル貸そうか?」オロオロ
石丸「……い、いや、いい……僕がそんなことをしてしまった人間だという事は事実だからな……」ガタッ
葉隠「す、すまねえ石丸っち。誰かわかんねえからとっとと聞こうと思っちまってつい」
霧切「……一人にだけ内容を相談するという形で話し合う気だったのだけど、それで私か十神君に聞けば特定できた内容だとも思うけれど」
葉隠「へっ?」
江ノ島「っていうかこの内容でこのメンツだったらあたしも多分石丸って気づくわ」
十神「友人を、だったら男女ともにありえたが、女の子といういくらか引いた目線での性別を伝える言葉であることからおそらく主体は男性、
尚且つ、立場的に”秘密にしておきたい”と思うであろう人物は苗木よりも風紀委員である石丸の方だろう。
葉隠に秘密が分配されたのが運の尽きだったと思ってあきらめるしかないな」
十神クンの解説に成程と頷きつつ、答えあわせをしに食堂を出た葉隠クンと石丸クンを見送った。
……石丸クン女の子泣かせるような事あったんだ……解説されたら納得できるけど、意外だったな。
霧切「……仕切り直しましょう」
朝日奈「そうだね」
大神「このままかたまっているわけにもゆかぬからな」
石丸クンと葉隠クンが食堂から出てしばらく困惑したような空気が流れていたけれど、
霧切さんの声でみんながまたお互いの顔を見るように目線をあげた。
霧切「さっき言ったように、私は"他人の秘密を持っている側"が、
誰か一人にだけ内容を打ち明けて詰める方法をとることを考えていたのだけれど……この点について意見はある?」
舞園「はい」
霧切「何かしら」
舞園「渡す側の人が意見を求める相手は"渡す側の誰か一人に集中させる"か"受け取る側でダブらないように誰か一人を選ぶ"のが良いとおもうんです。
前者なら霧切さんや十神君が推理に関する力が強そうですし、後者ならば打ち明けた人がそのまま対象の可能性もあるので、
好き勝手に相談相手を選ぶよりはいいんじゃないでしょうか」
十神「そうだな。俺としては前者の方が推理の材料がそろって手軽だが」
江ノ島「誰か一人にっていうのは危険だと思う。人の秘密を集中して持つのって、その分人の弱み握るってことでしょ?」
十神「舞園の指定は"俺か霧切"だったが……俺達の事を疑っているのか?」
苗木「十神クン、そういう言い方って……」
江ノ島「……とりあえずアタシは反対。ただでさえ動機だとかなんだとかで胡散臭い状態なのに」
朝日奈「で、でも、舞園ちゃんの提案って悪いわけじゃないと思うよ?」
大神「……我は、江ノ島の言いたいことは判る。霧切や十神が、己が状況を悪用するとは言わぬがそういう人物がいるというのは恐怖の対象になりうる」
大和田「んじゃ、舞園の言うもう一つの案の方でやればいいのか?」
霧切「ええ、そうしましょうか。運も絡むけれど、一発合格もありうるものね」
舞園「そうだ、現状持っている秘密に関して対象がある程度絞れている人ってどのぐらいいるんでしょうか?」
霧切「……私と十神君は消去法で考えたほうが早い状態だったはずね?」
十神「この残りならばそうだな。大神に大和田、貴様らは少しでも対象を絞れているか?」
大和田「何となくだけど、俺が持ってんのは多分女子のだな……つーか男だったら問題がある」
大神「我の持つ秘密も、断言はできぬが舞園か江ノ島ではないかと思っておるな」
苗木「じゃあ、絞れている大神さんから選んでいくといいんじゃないかな」
大神「ふむ、では……江ノ島よ、我の持つものを聞いてはくれぬか」
江ノ島「ん、オッケー!」
大和田「そんじゃあ俺は舞園か朝日奈だな……」じっ
朝日奈「文化系っぽかったら舞園ちゃんで、体育会系っぽかったら私にするといいよ!」
大和田「そうか?いや、でもな……」
舞園「そのあたりが関係ないものかもしれませんよ」
大和田「一応、舞園の方から聞いとくか。外れたとしても俺じゃあんまし頭回らねえ分考えてもらえそうだしな」
舞園「私もそこまで頭が回る方ではないと思うんですけれど……はい、じゃあちょっとあっちの隅の方で話しましょうか」
大神さんは江ノ島さんに、大和田クンは舞園さんに相談することに決まった。
続けて霧切さんと十神クンの番だ。……どういうわけか霧切さんの表情が渋い。
苗木「霧切さん?どうかしたの?」
霧切「……話してダメージが少なさそうなのは苗木君の方かもしれないわね」
苗木「えっ?」
十神「貴様に思う所があるならそれでもかまわん。朝日奈、小声で話すからこっち側に来い」
朝日奈「席はさんだだけなんだから別に近寄る必要もないと思うけど」
霧切「ごめんなさいね。じゃあ、こっちに来てちょうだい」
霧切さんが、隅の方に歩みを進める。ボクはそれを追いかけるように、食堂の隅の一角に向かった。
出来上がった組み合わせは、四角い食堂のそれぞれの隅に散っている。
これで小声なら、会話をうっかり聞いてしまう可能性は低いはずだ。
苗木「それで……霧切さんに配られた秘密って?」
霧切「……あなたは、間違いなく"苗木誠"なのかしら?」
苗木「へっ?そうだけど……ねえ、どういう事?」
霧切「……私には、名前や出生を偽っているという秘密を分配されたの」
苗木「それってセレスさんの事じゃ」
霧切「彼女がこの場に残っていたらそう思ったかもしれないわ。
だけど、どの程度の意味合いか考えているうちに、彼女の秘密は朝日奈さんの持っているもので答えあわせが成立してしまった」
苗木「……」
霧切「セレスさんにとって普段口にする名前と出生は偽りではなくただの設定ということなんでしょうね」
苗木「……まって、じゃあ……名前を偽っている人がほかにこの場にいるってこと?」
霧切「そうなるわ」
苗木「……舞園さんはちがうはずだよ。だって、中学名簿を芸名で通すとかはないとおもうし、舞園さんの名前は本名のはずだよ」
霧切「そう。ありがとう。けれど、家庭環境のせいで名乗っている苗字と戸籍の苗字が実は違っていたケースもありうるからまだ断定はできないわね」
苗木「そういう可能性を考えると、本当に消去法でしか探せ無さそうだn」
朝日奈「セクハラだよっ!!!」
苗木「?!」
霧切「?」
十神「仕方ないだろうそういう内容が配られてしまったんだからな。あと、声が大きい」
朝日奈「あっ……え、えへへへ み、みんなごめんね……はぁ」しゅん
苗木「……十神クンにははずかしめの秘密が配られてたのかな」
霧切「さあ、どうかしら」
~モノクマ劇場~
モノクマ「はい、容赦なきメタネタの宝庫モノクマ劇場です!そんな感じでここまでが再放送になります」
モノクマ「元のスレには絶対絶望少女のネタバレタイミング告知とかそういうのが混ざってるんだけど」
モノクマ「その辺は前も言ったようにざっくりカットしてあるからね!最初の方にその辺のバレもあるよって注意に書き足しちゃったから」
モノクマ「あと、移転のお知らせが>>17とちょっと後ろになったのもごめんね」
モノクマ「最初の方を演出にしてたからさ、区切りのいいとこに差し込む形になっちゃったよ」
モノクマ「さて、再投稿は終わったわけだけど、新規分は今まで同様気が向いた時に気が向いた時だけだから前も言ったけど鈍足更新だよ」
モノクマ「多分一か月に1~2回ぐらいで見に来ると丁度いいんじゃないかなあ~」
モノクマ「まあお待たせしすぎるのも悪いしね。ちょっと次回予告をしておこうか」
モノクマ「やめて!その袋をゴミとして捨てちゃったら、ぶー子ちゃんグッズとともに山田くんの精神まで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないで山田くん!きみが今ここで倒れたら、新刊の約束はどうなっちゃうの?グッズはまだ残ってる!
ここを耐えれば、学内のみんなにオタ活動を布教することだってできるんだから!
次回「山田死す」。デュエルスタンバイ!」
モノクマ「それでは、劇場版ダンガンロンパ6GX~アルターエゴの狂気~をこれからもどうぞご贔屓に!」
モノクマ「えっ?タイトル違う?いいじゃない全部変えてこれやろうよ、カードゲームもやればウハウハだよ?」
モノクマ「あ、駄目ですかそうですか。 強くてニューハーフ再始動版、どうぞよろしくお願いしまーす」
一通り話終わったらしく、用が済んだ人たちは渡していない人と受け取っていない人の席に戻っていく
ボクと霧切さんもそこに戻って、全員の行動が終わるのを待った
十神「最初はどこも一致しなかったようだな」
舞園「そうですね……」
江ノ島「いいじゃん、次行こうよ次。今のでみんな一人ぶんしぼれたってことっしょ?」
苗木「そうだね。対象が絞れた人はいる?」
大神「うむ、おそらく我の持ちうるものが舞園のものであろう」
舞園「そういえば、大神さんは私か江ノ島さんかで迷っていたんでしたっけ。わかりました、あちらの方で聞かせてください」
大和田「大神が江ノ島の方だったら俺が絞れてたんだがな……どうすっか」
十神「迷うようなら俺や霧切が先に決めるぞ」
霧切「……なら、私が江ノ島さんを借りてもいいかしら?」
十神「消去法でしか無理、ではなかったのか?」
霧切「そうなんだけど……あなたが苗木くんと組まなかった場合且つ江ノ島さんの秘密を持っているんじゃなければまたセクハラ扱いされるとおもって」
十神「……妙な気の利かせ方をするな」
江ノ島「まあ、いいけど。アタシのってセクハラっぽい感じの内容じゃないし」
大和田「そんじゃあとは俺が朝日奈と、十神が苗木とって感じか」
十神「ああ、それで構わん」
十神クンと一緒に、先ほどとは別の隅の方へと移動する。
それぞれの声は、聴き分けられない。
十神「汎用性のありすぎる秘密という点で、ある意味有力候補ではあったんだがな」
そういって、黒い封筒の中身を見せてくる。
ボクが渡された文面とほぼ同じで、人物名が抜けているものだった。
苗木「……うん、この秘密……だけど」
十神「そうか」
苗木「で、でも、毎回っていうわけじゃなかったんだよ?」
十神「詳しく聞く気は無い。キサマも、自分の恥ずかしい経験を人に言うのが趣味の奇特な人間ではないだろう」
苗木「う……」
十神「弁明はしたいかもしれんが、こちらにそういう趣味がないものでな。とっとと答え合わせに行くぞ」
苗木「そ、そうだね……」
結局……私たち以外の人が全員、この場を去った。
つまり、私の持つ秘密は、必然的に彼女のものということになる。
江ノ島さんは黙ったまま、鋭い目を向けてきている。
江ノ島「みんな出て行っちゃったけど?」
霧切「そうね」
江ノ島「あんたからアタシを借りるって言ったくせに、一言も話さないし」
霧切「……多少は、追求したい内容だもの 一応、確認しておくわね?
あなたは、本当は江ノ島盾子ではなく、超高校級のギャルでもない……当たっているかしら?」
そう言って、私の持つ黒封筒の中身を見せる。
苗木君には「名前や出生を偽っている」と、平坦な言葉で述べたけれど……文面ではもっと恐ろしげなものを感じさせた。
『 は、 ではなく、超高校級の でもない』
江ノ島「……」
霧切「……無自覚、だったのかしら?今回、秘密として与えられるまで」
江ノ島「……」コクリ
霧切「そう……あなたも、不当に記憶をいじられていたのね」
江ノ島「えっ?」
霧切「私は最初、自分の才能を名乗らなかった。名乗れなかった。どういうわけか……それが記憶から抜け落ちていたから」
黒幕を追うための2点の情報だけを消した、とモノクマは言っていた。
そして、実際にその過程となる部分は全く思い出せない。
だけど、過程が思い出せないなりに、今は自分が"超高校級の探偵"であることは自覚している。
……しかし、2週目に入った後に自分の才能を言うのははばかられた。
最初の段階で名乗らなかった以上、もういつ名乗っても違和感しかない。
何がきっかけで思い出したのかと問われても、思いつく適当な理由がない。
自分の才能を名乗ることは、記憶を取り戻すきっかけがあった一周目にふれるのと同義だった。
だから、私はこの2週目において「超高校級の探偵である」ことを秘密にし続けた。
……この悪趣味な催しで、隠しておきたかった2週目を知らない人にそれを知られる羽目にはなったけれど。
霧切「もっとも、初期の記憶の混濁だけで、今はある程度思い出せているけど……あなたは今も、となると重症ね」
江ノ島「……」
霧切「他の人に言う気はないし……さっきの話し合いでも、もっとぼかしておいたわ」
江ノ島「ねえ」
霧切「何かしら?」
江ノ島「……私、誰なんだろう」
霧切「わからないわ。でも、知らずにいれば江ノ島盾子でいられたあなたをあえて追いつめた点は、モノクマに問いただす必要があるし、
その時にどうすれば良いか聞いてみることぐらいはできる。行ってみましょう」
江ノ島「……そう、だね」
霧切「私も知ってしまった以上、手助けはするわ。あなたが私の事を信じるかどうかとは、また別としてね」
~一周目のその後1~
左右田「おお、やっぱここに人がきてたか」
罪木「あぁ……お久しぶりですぅ」
左右田「他の場所にも人の気配があるみてえだが、あまり荒らしてねえよな?いや、荒れてもいいんだけどオレが物回収してからじゃねえと困る」
罪木「それは、誰しも同じ思考ではないかと。何を探しにいらしたんですか?」
左右田「ロケットだよロケット、ほらそこにあるやつ。ベースは俺だけど最終的にあの人が手を加えてるはずなんだよ」
罪木「ああ、どんなふうに改造されたか確認したいんですねぇ」
左右田「そうそう。……そういや、ここにあの人の死体もあるはずだけどどうした?」
罪木「江ノ島さんなら、もうほとんど回収しましたよぉ?ここにおいてある箱は大抵そうですね……あ、見ます?
見ましょう?筋繊維も美しかったんですよ?それにほら、見てください♪こんなにきれいに手が残ってたんですぅ」スリスリ
左右田「あー、オレはいくらあの人でも死体はちょっと……つかなんだ?圧死なのにやけに残ってるもの多いな?
死因になった奴って、死んだやつがかけらも残らないっていうのがコンセプトだと思ってたんだけどどうなんだこれ」
罪木「……飛び降り自殺って、地面に着いた時衝撃で手足がバラバラに吹っ飛んじゃったりするってご存知ですか?」
左右田「よく見る光景だな」
罪木「同じ原理ですよ。上からの強い衝撃で、いろんなものが耐え切れずに吹っ飛んで落ちちゃったんです。
こういう形で回収できるのは、あのオシオキの装置のプレス部分が壁で覆われずに解放されてたからですねぇ」
左右田「……あーあー、なるほどなるほど。後々ゴミ捨て場調べさせて仲間の手足を見つけさせるのが本来の使い方だったんだな」ポンッ
罪木「そのようですねぇ……ハァ」
左右田「ソレを独り占めしているくせに何溜息ついてんだ」
罪木「いえ、私だけでどうこうはできないんですぅ……何人かには分配しなくちゃいけなくって。そう思うとさみしくて……」
左右田「……よくその条件のんだな?」
罪木「えへ……えへへへへへへっ……ふふふふふふふふふふふぅ♪
だってぇ♪そのあとの事の協力をとりつけているんですもの♪江ノ島さんを、死なせただけで終わらせずに済むんですよぉ♪」
左右田「食うとかそういう話か」
罪木「もちろんそういう用途もありますけれど、その場合は培養して増やしてからです。
一番多く取り付けられた協力の内容は、移植です。江ノ島さんを皆さんの中で生かすんですぅ~♪……私は、施術のために自分に移植はできませんけど」
左右田「へぇ」
罪木「左右田さんは、興味ないんですか?」
左右田「あんまそそられねえな。誰かの一部にしたところで戻ってくるわけじゃねえし」
罪木「……じゃあ、もう一個とっておきを教えてあげますね?江ノ島さんの、子供を作るんです。
幾つか予備実験をしてからになりますが、私の最終目的は父母ともに江ノ島さんの江ノ島さんのお子さんを生み出すことです」
左右田「……」
罪木「万能細胞の実験は当然ご存じですよね?あれだけニュースになったんですから。それを、ここにある江ノ島さんから作るんです」
左右田「へぇ」ニィッ
罪木「左右田さん、こちらには興味があるんですね?」
左右田「まあな。その作業に使うような作業機械なら協力できるしぞ?協力分、何枚かかませてもらうけどな」
罪木「ふふふふふっ よかったぁ、正にそういうもののための人手が足りなかったんですぅ♪日向さんの言ったとおり、ここで待っててよかったぁ」
~その後1/終~
全員の組み合わせが確定した後、みんなが順番に体育館に入って行った。
先に行ったはずの葉隠クンと石丸クンが答え合わせの後方針を考えたいからと廊下で待っていたから、
それにつられてその後に答え合わせが終わった人も、ほかの人がそろうまで体育館ホール前の廊下で待っていた。
最後に中に入った霧切さんと江ノ島さんが、体育館ホールから廊下に出てきた。
江ノ島さんは小さめの段ボールを、霧切さんは分厚いファイルを手にしている。
江ノ島「おまたせー。なんかね、この中にカギとモノクマメダル、それから脱出クイズの問題解放に使うのが入ってるって」
舞園「問題解放?」
江ノ島「なんかね、今の状態じゃ解けないようになってたみたい。ほんっと意地悪い……どん詰まりになったって感じるわけだよ」
舞園「……資料が足りないだけ、ではなかったんですね」
霧切「そのようね。これはクイズに使うであろう資料だと言っていたわ」
江ノ島「クイズ関連で、ヒントやらなんやらを追加するのはこれが最後だって言ってた。あとは上階を探索するなりなんなりして自分たちで何とかしろってさ」
江ノ島さんと霧切さんの説明を、聞きながらその場にいた人たちは頷く。
葉隠「いまの、ここにいないやつにも伝えた方がいいんじゃねえか?」
十神「そうだな。一旦人を集めて会議しておくか」
朝日奈「うん、わかった!あー……じゃあ夕飯しながらとかどうかな?今何かしてたり寝ちゃってる人がいるなら準備時間がいるとおもうし」
苗木「そうだね。7時あたりに食堂に集合ってことにして……手分けして連絡しておこうか?」
大和田「だな。確か桑田と不二咲がプールにいるって言ってたか」
石丸「では君の目付け役も兼ねて僕もそちらに行くことになるな」
朝日奈「じゃあ、プールは大和田たちに任せるね!私は、女の子たちに声かけに行くね。あ、会議まで時間があるならちょっとだけ泳ごうかな~?」
十神「やめておけ。」
朝日奈「えぇー」
葉隠「山田っちはおらから声掛けとくべ。ちょっと服の事で話しときてえしな」
苗木「そう?じゃあ山田君への声掛けは任せるよ」
舞園「夕飯時にするなら、みんなで食べられるようなもの作って置くと良いと思うんですけれど、見張りと兼任だとちょっと厳しいかもしれません」
大神「……朝日奈よ、呼びかけの後はそちらに加勢せぬか?」
朝日奈「んーそういう事ならしょうがないかな」
十神「俺は、鍵があるならそのカギがどこにつかえるか試しておきたいんだが」
霧切「そうね。きちんと使えるかどうかは先に調べておいた方がいいかもしれない」
江ノ島「そこは夕食後全員ででもいいんじゃない?何人かで調べた方が早いって」
苗木「ボクも、江ノ島さんに賛成かな」
十神「……ならば、そうしておこう」
セレス「そう、そのような情報が手に入った……と」
朝日奈「うん、それで午後7時に食堂で全員で確認と夕食会やるからセレスちゃんも来てね!」
セレス「ええ。……そうですわ朝日奈さん」
朝日奈「ん?」
セレス「少々大神さんとお話したいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
朝日奈「さくらちゃんと?さくらちゃんがいいなら私はいいけど」
大神「……かまわん。何用だ」
セレス「少々、個人的な話を含みますので……少し出てもらっていてもよろしいかしら?」
朝日奈「……まあ、いいけど……」
セレス「ふふふっ本当に仲がよろしいんですね。ほんのちょっとお借りするだけでそんなに怪訝そうにしなくても」
大神「話が終わり次第すぐ、食堂の方の手伝いに行く」
朝日奈「……わかった」
ガチャ パタン
セレス「ふふふふふ……大神さん」
大神「何だ」
セレス「わたくし、あなたの秘密を盾に脅すような女なのですがその覚悟はしたうえで残ってくださったのでしょうか?」
大神「コタエアワセの際に、すでにそのようなことは言われていたからな……よほどの事があれば当然反撃はするぞ」
セレス「あらまあ、怖いことをおっしゃるのね……でもそう構えなくても大丈夫ですわ。モノクマ側の手先としても十分にメリットのあることしか言いませんもの」
大神「……」ピクリ
セレス「今すぐ、というわけではありませんし順調に脱出の手筈が整うのであればそのようなことはしないし、したくもないのですが」
わたくしは、そっと息を整えて、大神さんの目を見据えました。
精悍な顔つきは男の姿であろうとも、ほんの一日しか見ていないはずの大神さんと変わりないと思わされます。
セレス「そうでなければ、わたくしは行動を起こします」
大神「その片棒を担げ……とでもいうつもりか?」
セレス「さて、どうでしょう?お力を借りるかどうかはその時考えます。ただ、あなたを被害者にする意思も、あなたに誰か殺させる意思もありませんわ。
力を借りる場合は、トリックのための大道具の移動等になるでしょうね……しばらくは、このことを忘れて過ごしていただいて結構です」
大神「……」
セレス「先ほど申した通り、脱出の手筈が順調に整えばそれでも良いのですから。
わたくしに凶行を起こさせたくないのであれば脱出用のクイズを貪欲に解いて行っていただけると幸いですわ」ニコリ
大神「善処しよう」
セレス「ええ。お時間ありがとうございました。お化粧と身なりを整えたら夕食兼会議に向かいますわ。
万一、朝日奈さんに何を話していたのか聞かれたら"執事にどうかと打診されていた"とでもお答えくださいな」
大神「そちらの方が幾分ましな内容ではあったな」
セレス「やっていただけるのであればそれはそれでお願いしたいのですけれど」
大神「どちらか片方だけ聞き入れればよいのであれば引き受けるが」
セレス「あら、残念。大神さんの執事姿はお預けですわね」
大神さんが部屋から出るのを見送り、わたくしは自室のカギをかけました。
セレス「……さてと。割とどこにでも悪趣味に表れるのはわかっているのですよ?モノクマさん、こちらにいらっしゃいな」パンパン
モノクマ「ははーっ!」ぴょこん
セレス「人の自室に自在に表れることができるなんて、本当に権力の強すぎるクラウンですわね」
モノクマ「よんだのはセレスさんじゃないか」
セレス「ええ。監視カメラをこれだけいろんな場所につけている以上、先ほどの大神さんとのやりとりも当然把握しているとは思いますが」
モノクマ「もちろんだよ。あ、でもボクは中立だからね!クロになる生徒にトリックのための協力はできないよ?」
セレス「ええ、ええ、もちろんそのようなことは存じております」
モノクマ「そうそう、カジノでいえばディーラーの立ち位置だからね!」
セレス「ですが、ルールのための質問はうけつけてくれますよね?」
モノクマ「えぇー……いいけど、フレキシブルな運用をしたいところもあるんだよねえ」
セレス「まあ、いいですわ。とりあえず今はいくつかの点について聞かせてくださいな」
モノクマ「はいはい」
セレス「共犯というのはどのような扱いになるのでしょうか?」
モノクマ「しょっぱなからふんわり運用したいところを突くねぇ。基本的に、一つの事件におけるクロは一人だけだよ。
脱出可能なのは、被害者を殺した一人だけ。これに関しては実際に共犯じゃない限りしょっぱなに可能性を問われたら答えてたしその後もその方針で運用だね」
セレス「なるほど、実際に共犯だった場合は"共犯があるかどうかも含めて推理せよ"と申し上げていたという事ですか」
モノクマ「その場合でも脱出可能なクロは一人だけだけどね」
セレス「あらまあ意地の悪い」フフフ
モノクマ「人の犯行に乗っかって脱出しようなんてのが激甘ってだけだけどね!」
セレス「実際に手を汚した方にこそ、その栄誉が与えられるべきと。納得のいく理論ですわ」ウフフ
モノクマ「キミはそういう点の物分りが良くて助かるよ」
セレス「他者を蹴落とすことが生業ですもの さて、次に……クロ探しはどのように行われるのですか?」
モノクマ「えっ 聞いちゃう?聞いちゃったらさすがに周知しておかなきゃいけない部分なんだけど」
セレス「それで貴方に困ることがあるんですか?」
モノクマ「うぐっ」
セレス「わたくしは、どのような制限があろうともやるときはやりますし
……そうでない方々が犯行を起こす気がなくなるならわたくし自身の身を守ることにつながるので積極的に開示を願いたいのですが?」
モノクマ「……しょうがないなぁ……こういう話する子ってわかってるのに出てきちゃったボクのうかつだからねこれは
そのための話し合いの場をもうけるよ。学級裁判っていうやつだね!話し合って、多数決でクロを探し当てます!」
セレス「探し当てられたクロはどうなります?」
モノクマ「そりゃ、人の輪を乱す子を学校には置いておけないからね。しっかりオシオキさせてもらうよ」
セレス「命がなくなるタイプのでしょうね」
モノクマ「本当に物分りがいいねえ」
セレス「デスゲームにも過去数回参加していますから」
モノクマ「こんなところかな?」
セレス「もう1~2点聞きたいことはあるのですが」
モノクマ「ギクゥ!?」
セレス「あと一つだけにしておいてあげます。事件の調査に不平等が出ないための仕組みは考えていらっしゃるのかしら?」
モノクマ「ホッ……ああ、それだったらね、死体が3人の人に目撃されたらアナウンスを流すよ。
"死体が発見されました、一定時間の捜査の後に学級裁判を開きます"という風にね」
セレス「死体の目撃者に犯人は含みますの?」
モノクマ「ここが一番フレキシブルな運用をするとこかなあ」
セレス「なるほど、なるほど……聞きたいことはそのぐらいですわね」
モノクマ「あ、そう? じゃあ学級裁判とクロの処刑に関しては校則で配布しておくから」
セレス「……モノクマさん?」
モノクマ「はいなんでしょう?」
セレス「これは、あくまでわたくしの独り言なので答える必要もそれをにおわせる回答を校則に追加する必要もないのですが」
モノクマ「?」
セレス「クロをみつけきれなかった他の生徒が、安穏と次の機会を待つなんてことはありませんよね」
モノクマ「!?」
セレス「だって、クロは命がけなんですもの。それに、せっかくのデスゲーム……緊張感は最大に保ってこそですわよね。
ああ、もちろん、ただのひとりごとですわ。あなた、いつまでわたくしの部屋に居座る気でして?」
モノクマ「おおっと、乙女の独り言を聞きそうになっちゃったよあぶないあぶない!じゃ、おっじゃまっしまーす!」ピョーン
セレス(……態度で返答をいただけたという事でよろしそうですわね)
電子生徒手帳から音が鳴り、わたくしはさっそく校則の追加に目を通します。
電子生徒手帳の貸与禁止の前に割り込むように、2点の校則が追加されていました。
『生徒間で殺人が起きた場合は、その一定時間後に、生徒全員の参加が義務付けられる学級裁判が行われます』
『学級裁判で正しいクロを指摘した場合は、クロが処刑されます』
セレス(そして、面白そうなことにするために……クロの処刑までで抑えてあると)
セレス「今できる仕掛けはこの程度……夕食の時いくらか演技を振っておけばほかの優先事項にまぎれてくれるでしょうね」
やっておいた方がよさそうなことはしておきました。
化粧を整え、わたくしの美しいポーカーフェイスの調子を確認したら、食堂に向かうとしましょう。
申し訳ありません。
再開したばかりですが今年はやはりもう無理そうです。
次の投下は確実に来年になるため少々早いですが年末のご挨拶をさせていただきます。
改めまして再開を見つけて下さった皆様ありがとうございました。
牛歩ではありますが、来年もたまに覗きに来ていただけると幸いです。
それでは、良いお年を。
午後7時をちょっと過ぎて、僕達は食事会兼会議を開始した。
食事を食べながら、という点で石丸クンがうるさく言いそうなところだけれど、
どういうわけかものすごく疲れた表情をしながら「早めに済ませられるならそうしよう」と首を縦に振っていた。
十神「……で、今回も俺が進行役か。まぁいい。貴様らのような愚民を導くのも上に立つものの役目だろうからな」
山田「いーではありませんか。ちょっとした確認なんでしょう?」
十神「そうだな。だが重要な内容だ」
十神クンが手に入れた物の事や、その内容について話す間、ボクは不意に追加された校則の事が気になっていた。
何故、今になって。
今のところ、僕達はうまくやっていけている……はずだ。
たしかに、大和田クンと不二咲クンの時に危ういことはあったようだけど、十神クンが抑えてくれたみたいだし。
なのに、必要のないはずの校則が現れた。……しかも、ちょっとだけ引っかかるような形で。
十神クンの説明が終わり、何人かが手をあげる。
その中にセレスさんの姿があった。ボクの目がその様子に引き寄せられたと同時に、十神クンは彼女を呼んだ。
十神「セレスか。お前が積極的に発言するのは珍しいな」
セレス「ええ、皆様が気になっているであろうことについて説明したくて」
十神「ほう。学級裁判の事か?」
セレス「そうですわ。モノクマさんと遭遇してお話したんです。貴方がコロシアイをさせたくとも、ルールが不明瞭ですわよ……と。
そしたらこのように校則の追加という形でルールの提示がありましたの。ある意味で、良い収穫でしたわ」
葉隠「収穫っておめぇな」
セレス「他に脱出路があるのが分かっていて、わざわざ自分が死ぬ危険を冒す必要はないじゃないですか。
それが分かった上に、全員がその認識を共有できるのは大きな利点であると思いますわよ?」
舞園「……たしかに、そうかもしれませんね」
苗木「舞園さん?」
舞園「その……少し、言いづらいんですけれど……」
江ノ島「あー、はいはいはいはーい!!!」
十神「煩いぞ江ノ島」
江ノ島「舞園ね、ちょっと問題の詰まりっぷりにナーバスになってたの!
それで、もしかしたらコロシアイ特典使わないとクリアできないんじゃないかって事気にしてて!」
舞園「……そうだったんですけれどね。今後もし問題が詰まってしまったとしても、自分の命を賭けて人を殺すとなったらそこでブレーキがかかりますから」
大和田(俺の場合はそれでもちょっとやらかしかねなかった気がすんだがな……)
朝日奈「あ、そっか。自分が死んじゃうかもって思ったら、なかなか行動には移せなくなるって意味で収穫なんだね」
桑田「メシがまずくなるような話だな。いいじゃんその辺はもう。んなことやるやつは居ねえだろ?」
不二咲「そうだねぇ…………」
腐川「何よ」
不二咲「え、えっとぉ……腐川さんのままでいてね?」
腐川「努力するわ。白夜様がいる限りはあっちも特に何かする気はないみたいだけど……単純に意識が変わるのは嫌だもの」
話はどんどん流れて行く。その間、ボクの疑問を十神クンも霧切さんも口に出さなかった。
セレスさんが手を挙げてしたはずの発言が雑談に流れていく。それを止めた十神クンも「他に何かあるか」と聞いただけだった。
ボクは頭の中に引っ掛かったことを無視するために、目の前の食事をさらに口に運んだ。
十神「よし、伝達事項はこれで終わりだな。食べ終わったら3階の探索に行くぞ」
石丸「……全員が食べ終わった後、おおよそ8時からとして1時間程度見積もる形になるか」
大和田「かったりぃな。勝負の時間もとれねえじゃねえか」
不二咲「そうだねぇ……だから、今日はやめて明日にしよう?ね?」
桑田「いや、でも明日だとなぁ……それこそ丸一日かけちゃって両方倒れちまうかもしんねえぞ?」
十神「待て。そこは何の話をしているんだ」
大和田「あぁ?男同士の決着の話だよ」
苗木「……もしかしてだけど、サウナとかで我慢比べするなんて話じゃないよね?」
石丸「うむ。苗木君!君も男の流儀がわかるようだな!!」
江ノ島「わかるようだな! ……じゃないよ!?何やろうとしてんの?!」
山田「ていうか男の流儀とか言われましてもなぁ。よりによってばいんばいんのぶるんぶるんになったお二方がそういうのはさすがに違和感が」
セレス「大きくなってない方の方が少ない状況で大きさはさほど関係ないような……あら、ごめんなさい」
十神「なぜ俺を見て言う必要がある」
苗木「ええっと……多分明日に回した方がいいよ。うん。ヒートアップして夜時間に食い込んだりしたらもし何かあってもだれも介助とかできないし」
大神「止めはせぬのだな」
苗木「なんというか……止めてもムダそうな二人だからね……それに、平和な内容で本人たちの気持ちにケリがつくならいいんじゃないかな」
葉隠「ていうか仲いいのか悪いのかわからねえ感じっつーのもあれだしな!おうおう、思いっきりやればいいべ!」
霧切「でも、ちゃんとやるべきことをしてからね。明日に回してちょうだい」
石丸「ふむ。了承した」
大和田「おい、逃げんじゃねえぞ?」
石丸「当然だ!」
舞園「……少し楽しそうですよね」
朝日奈「うん。わかる。でもちょっとケンカしかけてやめたりとかで中途半端だったし、別に反対はしないかな」
大神「……ふむ」
話は流れていく。
ボクもいつしか、疑問を抑えるためではなく普通に食事を進めていた。
生存報告要請ありがとうすみません
今、ほかのも全部動かせる状態じゃ無いので落ち着くまで時間いただいております……
夕食を少し早く食べ終えたボクは、同じく食事を早く済ませた朝日奈さん大神さんと一緒に三階に移動した。
霧切さんも少し早めに食べ終えてたから誘ったんだけど、先に行っていてと断られてしまった。
大神「先行して調査を行いそうだと思っていたが……霧切が断ったのは意外であったな」
苗木「そうだね。ボクもそうするかなと思って声をかけたんだけど」
朝日奈「んー……?ああ、そっか。苗木やさくらちゃんは聞いてないんだね」
大神「?」
朝日奈「霧切ちゃんね、人とかかわるのちょっと練習してみるって言ってたの。それでいろんな人がいる方に残ったんじゃないかな」
苗木「そんなこと言ってたんだ」
朝日奈「うん!ご飯用意してる時に!」
大神「そうか」
苗木「初対面の時よりずっと人に慣れてきてるように見えてたけど、気にしてたんだ」
大神「……本人にとっては不足なのだろう」
朝日奈「それより、ほら!そこの部屋から探索しよう!」
そう言って朝日奈さんは娯楽室のドアを指した。
先に行くならと預けられた鍵束でそのドアを開けて踏み入れた瞬間、ボクの足はその場にぴたりと張り付いたように動かなくなってしまった。
頭から血を流してぐったりした大神さんの姿が、今見えている景色に重なる
学級裁判で彼女のために道を誤ろうとした朝日奈さんの必死な姿が、続けて思い浮かぶ
大神「どうした?苗木」
朝日奈「ちょっとー、はいれないじゃん」ぐいぐい
苗木「あっ ああ、ゴメン」
朝日奈さんに押し出されて、ようやく体が動いた。
朝日奈「さ、さっさと調べるよー」
大神「ふむ……娯楽室というだけあっていろんなものがあるようだな。我には少々縁の薄いものばかりだが」
朝日奈「私も遊ぶものあんまり詳しくないけど、本とかいろいろあるみたいだし何があるかをまずはみよっか」
大神「そうだな」
大神さんはそういって、壁伝いに何があるかを確認し始めた。
その様子を見て、朝日奈さんがボクに小さめの声で話しかけてきた。
朝日奈「大丈夫だよ。あれはなかったことにできるし、無かったことにするんだから。
さくらちゃんはここにいるし、私はもう間違えない。それに、わたしの事みなよ」
苗木「?」
朝日奈「こんなに姿変わってるんだもの。思い出して怖がったって、おんなじことにならないって思えるでしょ?」
苗木「……そうだね。そういわれると、同じだと思って動けなくなっちゃったのがバカみたいだ」
朝日奈「ね? じゃ、人が増える前に変わったとこないか調べよ!」
苗木「そうだね」
娯楽室は、遊具関連はあまり変わっていなかったけれど雑誌のラインナップはそう取り替えされていた。
そのことを大神さんに漏らすわけにはいかないけれど、朝日奈さんもそのこと自体には気づいたみたいだ。
朝日奈「なんか……マンガ雑誌はうれしいんだけど、ファッション誌とかが全然ないね?」
大神「言われてみればそうだな」
朝日奈「……んー……江ノ島ちゃんが載ってるのとか、ランドリーで放置されてるのしかないんだね」
苗木「けど、漫画の類のほうがボクはうれしいかな あ、これこまるが集めてるやつだ」
その並べられてる雑誌のタイトルに、ボクは覚えがあった。
妹が良く買う青年系漫画雑誌で、たしか連載されてるもののいくつかは単行本でももっていたはずだ。
朝日奈「こまる?」
苗木「妹のことだよ。妹いるって話はしたよね?」
大神「少々珍しい名前だな」
苗木「一つちがいだからその時の事はよくわからないんだけど、両親の間でつけたい名前の候補が全くかぶらなくって
それで、らちが明かないからボクに選ばせた……らしいんだけど……」
朝日奈「ん?その時の苗木ってまだ赤ちゃんなんだよね?」
苗木「うん。名前の候補書いた紙のうえにおやつのせて、最初に向かった名前にするとかそういうことしたみたい」
大神「……しかしその候補にそれが入ってるというのからよくわからんな」
苗木「こまるが両親に聞いた時も気づいたら名前の候補に入ってたって言ってたな……双方の希望の中間とろうとしたときにできた名前の一つみたい」
朝日奈「苗木の妹、そういう由来で大丈夫だったの?」
苗木「ちょっと特殊な自分だけの名前っていうのでむしろなんか喜んでたような」
大神「成程。名前に自身の意味を与えられるのではなく、名前に自分という意味を持たせられるというのを重視したわけか」
朝日奈「あ!そういわれると何かかっこいい!」
苗木(かっこいいかな……?)
ガチャッ
山田「おーじゃまーしまーす」
苗木「あれっ?山田クン?」
山田「電子生徒手帳をみていましたら、3階に美術室の文字をみつけましてね!これはチェックしたいとおもい馳せ参じたのです!」
朝日奈「そっか、山田にとっては画材がある場所は気になる場所だもんね」
山田「正解!というわけでカギをプリーズ!!……ん?ややっ、それは!」
大神「やはり気づくか」
山田「MANNGA!!ここに足りないうるおいたる漫画ではないですかー!!
この雑誌は商業主義面が強くあまり好きではありませんが、この際きにしない!!中身の調査に参加しますぞ~~!!」
苗木「えっ?ええっと、それは後にした方がいいんじゃ」
山田「ノンノン……いいですか苗木誠殿。雑誌と侮ってはいけません。僕達にはここを脱出するためのクイズがあるのです!そのヒントになってるやも……」
朝日奈「イジワルぐあいでいえばなくもなさそうだけど」
山田「でしょう?!」
苗木「でも、資料としての読み込みは後でやった方がいいんじゃないかな」
山田「えぇー……」
ガチャ
十神「……何をしている」
大神「ム……もう皆食べ終えたか」
十神「そうだ。カギを一通りあけているかと思ったがそうじゃないみたいだな」
苗木「あっ、ゴメン」
十神「とっととすべてあけるぞ。来い」スタスタスタ
苗木「えっ? あっ……」
朝日奈「どうしよ?」
山田「いってらっしゃいませー その間に拙者はこちらの検分を行っておりますので!!」
大神「……ふむ、山田はおそらく読まねば満足せぬだろう。汚したりなどせぬように我が見張っておく」
山田「ヒエッ」
朝日奈「さくらちゃんがいるなら大丈夫かな……私はほかのとこも気になるし、鍵あけについてって見てくるね!」
苗木「じゃあ、行こうか。いそがないと十神クン怒るし」
朝日奈「そうだね!」
そうして、ボクと朝日奈さんは娯楽室を後にした。
ペラリ
山田「ふんふん……これは拙者読んだことがありますな」
大神「特にヒントにはならないか」
山田「いえ、これはそれこそ入学式前日に読んだ最新号なのですが……」
大神「……その割に、古びているな」
山田「そうなんですよねー……他のものはまだ状態のよいものもあるんですが」カコン スッ
山田「……? ややっ?」
大神「?」
山田「おかしい……これは、おかしいですぞ?!」
大神「……何があったのか説明せよ」
山田「 ……どうやら……この雑誌、未来のもののようです」
明日夕方あたり投下予定です
山田「僕の知っている漫画の!僕の知らない展開が!描かれているんですよ!!」
ダァン!!と、重い音がテーブルから響いた。
探索を終えた後の報告会で、山田一二三は自身の気づいた「未来の雑誌がある」という点を激しく主張した。
物理室の大きな装置や、上の階に上がるための階段に『希望ヶ峰脱出クイズ特別編』なるものが表示されたタブレットがついている事など、
さまざまな情報があったのだが、彼のテンションの高さによって必然的にその話へと報告会は流れて行った。
該当の雑誌はすべて娯楽室から食堂に集められて、全員が内容などからそれが事実だと確認する。
葉隠「で、でもよぉ 偽物かもしんねーだろ?あんま気にする必要ねぇべ?」
山田「すべての漫画の描き分けができるならばそれも可能かもしれませんが!!それだけはあり得ませんな!!」バンバン!!
十神「テーブルを叩くな……!!!」
舞園「雑誌の発行の日付なんかは塗りつぶされていますけれど……」
江ノ島「広告とかの移り変わりもみると、マジっぽい気がすんだよね」
それぞれ、嫌な汗を滲ませて周囲を見る。これがねつ造でなければ、つまりは。
全く分かっていない人物はいなさそうな様子だった。
苗木「……ねぇ。真偽は、いったんおいておくことにしない?」
桑田「いやムリだろ」
苗木「それを考えてもいいとは思うけど、大事なのはこれが役にたつかどうかだと思うんだ」
苗木誠が、話題の調整に乗り出す。
1周目であれば、流されるままの状況だっただろう。しかし2週目の現状においては「全員で生きて出る」ために彼は動いている。
そのためか、彼の言葉には追い詰められたときほどではないものの決断力がある。
苗木「偽物だったなら時間の無駄だし……事実だとしても、ボク達を動揺させるためのものなのは明らかだと思うんだ」
石丸「……」
大和田「……ケッ モノクマは確かにそういうつもりだろうな」
苗木「今は、出るための事を考えようよ。それ以外の事で敢えてこういうことをしてくるのは、
あいつがボク達にコロシアイをさせるのをあきらめてないからだと思う。ボクは、できる事ならみんなで一緒にここを出たいんだ」
封じてあるとはいえ、超高校級の希望らしいセリフを吐くものだ。と、アタシは感心してしまう。
……もっともっと、その希望を育てればいい。
全員に、希望を伝染させておくと良い。
絶望が反転させられて希望に塗り替えられたのと同じように、その希望を絶望に落としてやるのがアタシのやり方なんだから。
そのために、もうちょっと苗木クンの演説も聞いておきたかったとこだけど……今日の時間はここまで。
食堂内に全員閉じ込めるわけにもいかないし、アナウンスをちょっと早めに流しておいてあげましょうかね。
ピピッ ガーー……
『えー、そろそろ夜時間だけど大丈夫?あと3分だよー』
石丸「むっ?!いかん、本当だ!」
十神「この雑誌は、あくまで資料扱いとするという事で保留 それでいいな?」
霧切「異議なし」
朝日奈「異議なーし!! さ、皆出よう!!」
セレス「そうですわね。食堂に閉じ込められてしまってはかないませんわ」
ゾロゾロと全員出たのを確認してから、通常の夜時間のアナウンスを流す。
それぞれが部屋に入った後も、しばらく監視を続ける……やっぱ、動くわよね。
ピンポーン
セレス「……少々、よろしいでしょうか? ええ、やはり、納得はしていないかと思いまして……」
~幕間絶望:西園寺日寄子の"更なる"絶望~
堕ちるだけ堕ちた
落とすだけ落とした
マスクを配布して絶望の役目を吹き込むライブも盛況だし、そこで麻薬をバラまいて狂人を大量生産するのもうまくいってる。
上手くいきすぎて、ツマんないぐらいに。
そんなある日の早朝、江ノ島からメールが入った。
希望をまだ持っている人に向けた絶望用生放送、あるいは絶望に向けた娯楽用絶望放送。
それに絶望できるモノが映るから見とけよとかいう文面だった。
正直に言えば見たくなかった。78期に大昔の知り合いがいるのは知っていた。
絶望作戦の仕上げに使われることも知っていたし、マメにチェックするやつらから廃人じみた状態になっているのも聞いていた。
それでもその存在に対してのわたしの感情はというと絶望ではなく苛立ちだった。
イライラするものを視界に入れたい人がどんだけいると思う?あんまいないでしょ?
でも、それでも、江ノ島盾子がいうからと私はその生放送にチャンネルを合わせた。
苛立ちの原因は、なんだったのか。
そもそも私はあいつの事が嫌いだったのか。
とりあえず幼少期にあいつの祖父がやらかして縁が切れるとき、どういうわけか謝って来たのに対して「大嫌い」と言った。
希望ヶ峰学園の学生時代も、互いに避けるようにしていた。
たった一度だけ話す機会はあったけれど、そのときも口から出た言葉は「大嫌い」だった。
罪木「西園寺さん?」
『ピーンポーンパーンポーン 死体が発見されました!』
罪木「何故今更、そんなもので」
『一定時間の捜査ののちに、学級裁判を行います!』
罪木「絶望してらっしゃるんですか?」
小さなテレビにうつるものを、食い入るように見ていた。
同時に発見された死体を映すために別々の映像が並べて流されていて
その片方に、今度こそ本当に手遅れになってしまったなにかが映っていた
~幕間絶望:西園寺日寄子の"更なる"絶望 終~
・軽いお知らせ
アニメ等の新規要素に関しては「取り入れられそうなら入れる」という方向でやっていきます
すでに大きく食い違っている、あるいは食い違うであろう部分がすでにありますが、
少なくとも未来機関関連は言及する予定でしたのでできるだけ取り入れられたらなと思っております
(終盤ちょっとだけですので、以前の「モナカの絶望という幕間から最新関連のネタバレ解禁」という形のままになるかと思われます)
翌朝
想像外の情報が出てから一晩がたった。
ボクはといえば、外ですでに時間が経ってしまっているという事実を突き付けられたにもかかわらずそれを受け入れている自分に気づいていた。
……黒幕を追い詰めた時に、おそらくそういう話が出たんだろう。
一緒に2週目に入っている皆ともそこを確認しておくべきなのかな?
等と思っていたことが、朝食会の時点できれいに吹っ飛んだ。
石丸「おはよう諸君!」 バン!
大和田「とっととメシくって片付けるぞオラァ!!!」 ババン!!
苗木「……えっと、なんで二人とも水着なの?」
大和田「"勝負"のために決まってるじゃねえか!」
霧切「朝からサウナ対決をすると言っていたのを、せめて朝食を食べてからにしなさいと諌めた結果がこれよ」
苗木「霧切さん……水着に着替えるのは止められなかったの?」
霧切「見かけた時にはすでにこの格好だったんだもの……」
舞園「二人とも、気がはやり過ぎですよ。 あ、ご飯炊けてますよ。苗木君も、自分の用意お願いしますね」
若干引きつつも食事を用意し、他の人が来るまで待つ。人が来るたびに二人に関してはツッコミやドン引きといった表情が見られた。
朝食会でも案の定ツッコミの対象になっていたけれど、やると決めたことをやるだけだとスタンスを崩さない二人に対して
「今更決着つける必要もないんじゃないか……?」という疑念が浮かんだけど口に出すのはやめておいた。
不二咲「サウナでは水着なんだねぇ」
石丸「うむ。タオル一枚が一番潔いのだがさすがにこの体ではな」
大和田「服着たままのハンデくれてやると言おうと思ったんだが俺も体型にあうの今1着しかねえからな……」
江ノ島「バッカじゃないの?服着たままとか火傷するじゃない。無血対決のためのサウナなんでしょ?」
大和田「やめてんだからいいだろ」
江ノ島「やろうとしてたってこと自体をバカって言ってんのー」
苗木(1週目の時、ホントに電子生徒手帳が壊れるぐらいで済んでよかったよね大和田クンは)
十神「止めるだけの頭があっただけましとは言えるか」
桑田「……つかなんだ、やっぱ上ぐらいは着た状態で飯食ってほしい感じあったな」
石丸「それはすまなかった。数名に指摘されてようやくちゃんと服を着るべきだったと気付いたんだがその時にはもう着席してたからな」
セレス「衣服を優先しても良かったんですのよ?」
石丸「そう、だな」しょぼん
苗木「け、けど、やることを決めて気合を入れてるというのは別に悪くはないと思うよ!」
不二咲「そうだよぉ。それに、誰も怪我しないならわかりあうためのケンカ自体はちょっとだけロマンがあると思うんだぁ」
大和田「おっ、わかるか」
不二咲「お父さんが"同じプロジェクトで協力したり、会議で意見を戦わせると相手の事が良くわかる"
って言ってたの思い出すし、ちょっとだけ大人の世界って感じがするかもね」ウフフッ
葉隠「いやいや……ケンカでわかりあうってのはヤンキー漫画の世界だしどっちかっつーと若い感じじゃねーか?なぁ?」
苗木「ボクもどっちかというと血気盛んで若い人っぽく感じるかな。それこそ葉隠クンの言うように漫画の世界のイメージがあるよ
……山田クン?」
山田「はっ、はいっ?!」
苗木「いや、漫画って話題に出たのに入ってくる気配無かったなと思って」
山田「アハハハ……いえ、今は少々……」
十神「さて、俺は食い終わったしもう片付けるぞ」
石丸「むっ?何か急ぎかね?」
十神「お前たちが倒れた時のために保健室を開けておく」
朝日奈「そっか保健室!保健室の備品もまとめて表にしといたほうがいいって昨日思ってて言いそびれてたの!私も行く!」
舞園「そういえばハサミやメスもありましたし、医療器具もありましたから保健室も管理をしっかりしたほうがよさそうですね。
リストアップのお手伝いに私も行きましょうか?」
朝日奈「いいの?やった、助かるよー♪」
江ノ島「あ、でも舞園が行っちゃったらアタシ一人で厨房の見張りになっちゃわない?」
舞園「あぁ、それもそうですね」
霧切「特にすることはないし、クイズを解きながらで良ければ私が厨房の見張りに参加するけれど」
舞園「良いんですか?」
霧切「……いいかしら?」
江ノ島「ま、まぁ、アタシはいいよ?」
十神「保健室も見ておく担当者を決めた方がいいだろうな……昨日は山田の話題に引っ張られ過ぎだなこう考えると」
山田「いやはや申し訳ない……あ、資料と言いつつですがマンガ読みこむのはありですか?!」
霧切「ヒントとして必要なときは借りるわ」
にぎやかな朝食会が、今日の予定をそれぞれが言うことで一区切りついていく。
ボクはどうしようか……十神クンと話すにも、霧切さんと話すにも他の人が一緒にいる状態だし……朝日奈さんも同様となると、
朝考えたことを話せるのは腐川さんか葉隠クンになるわけだけど
腐川「資料の要点ぐらいはまとめておこうかしら……みつけたものは読んでおいた方が自分がとくのの手がかりにもなるし」
葉隠「勝負は興味ねえけどサウナはちょっといいな!」
大和田「邪魔しねえなら別にかまわねえけどよ」
苗木「そういうものなの?」
不二咲「……いいなあ」ぽそっ
桑田「やめとけたぶんぶっ倒れるぞ」
石丸「真に裸の付き合いができない以上、本心をさらけ出すには少々足りないが、同じ場で顔を突き合わせることは良い事だぞ!
そうだ、立会も兼ねて君たちも来ると良い!!僕と彼の勝負をみとどけてやってはくれないか!」
大和田「そうだな、立会は必要か よし、テメェらも来い!倉庫に水着があるから着てから集合だ!」
葉隠「お、おう? なんかおもったよりおおげさになってねえか?」
苗木「うん、そうだね……元気そうで何よりだとは思うけど……」
石丸「はっはっは!そうとも、物事を考えるのに気力は必要だからな!さて、集合は15分後にしておくか。苗木くん、葉隠くん!遅れぬようにな!」
大和田「よっしゃ!先行ってるからな」
苗木「えっ……ちょっとまって?!ボクいつの間に巻き込まれたの?!」
ボクのツッコミは聞き入れられることなく、二人は食堂を後にしてしまった。
不二咲「呼ばれなかった」しょんぼり
桑田「いや、さっきも言ったけど不二咲そもそも耐える体力あんまりねえしな……それに水着が嫌いって話も朝日奈とかから伝わってるみてーだし?」
セレス「そもそもにして、流石に女子を男子の群れに放り込むわけには」
葉隠「あんま時間ねえし、おらたちもいくか」
苗木「そうだね、御馳走様でした」
舞園「そんなに急がなくても大丈夫だと思いますけれど」
葉隠「苗木っちはスク水きなれてねえだろうし手間もかかるだろうかんな!おらもちょっとは時間かかるだろうし」
まるで葉隠クンがスク水を着慣れているような言葉に聞こえたけど、いろいろと考えるのをやめて急いで片付けて移動する。
脱衣所に水着を持ち込み着替えていると本当に何をどう切るべきか戸惑って時間がかかってしまった。
その間に後ろを葉隠クンが通った気がする。手伝ってくれてもいいのに
ようやく着替え終って大浴場に踏み入れる
石丸「15分丁度だな」
苗木「ア、ハハハ……間に合ったようで良かった……?」
大和田「とっとと始めるぞオラァ!!」
葉隠「……えーっと、オラと苗木っちはたしか立会人のはずじゃ……?」
石丸「そうだな、だが最初ぐらいはきみたちも入っておくべきだろう!勝負の場ではあるが、交友のきっかけにもなるだろうからな!」
葉隠「石丸っちいつから交友とか考えるようになったんだ?」
石丸「何を言う、裸の付き合いであれば以前から必要とみて行っていたぞ!」
苗木(1週目でシャワー室に押し入られたことあったなそういえば……本当に一緒にお風呂入るだけだったけど)
こうして、どういうわけか4人でサウナに入ることになった。
正直な話、ボクとしては目のやり場に困る……ボクたちみんな、見た目だけは女の子のような姿だし男同士でサウナなのに変な場所に迷い込んだみたいだ。
石丸「よし!!それでは、どちらがより耐えられるか勝負だ大和田くん!!」
大和田「望むところだ!!」
このスレの葉隠は女性モードと男性モードを切り替えるために一人称を変えている設定です
と言ってもそこまで大それたことではなく、現状の姿にあわせて言葉を多少変えておこうみたいなかんじです
とても地味ですが一応大事な設定の一つではあるのでご容赦ください
(明日更新します)
(ここローソンです)
耐熱の壁掛け時計と温度計が並んでいる
蒸気の中でも見やすい、黒くてしっかりした数字と針がこの空間で唯一冷静なものに見える
大和田「うおおおおおおおおおお!!!!!」
石丸「まだだ!!まだ温度を上げることはできないか?!!」
葉隠「いやいや、こういうのはゆーっくりするもんじゃねえか?」
苗木「なんで掛け声って言うかそういう方向になるのかボクもちょっと気になるかな……いや、勝負って言うから気合入るのは判るけど」
大和田「ああん?!知ったこっちゃねえな!!いいか!こういうのはな気合いが大事なんだよ気合いが!!」ぎゅっ
石丸「全く同感だ!!冷静に事を行う勝負であれば僕とてそうしただろうが今はそういうのではない、男と男のぶつかり合いだ!!」ぎゅっ
苗木「二人とも思いっきり目を閉じてるけど」
大和田「姿が見えたら!男同士の戦いに!!見えなくなるだろうが!!!」
石丸「残念ながら同感だ!!」
葉隠「あ、互いの容姿が変わってるのは一応気にしてんだべな?」
大和田「ああ、だからこそなんつーかすげえやりづらい感じがあったんだけどな」
苗木「ちょっと前にケンカになりかけた時、それで大和田クン違和感かんじてたみたいだしね」
大和田「いや、そういう事じゃ……いや、そういうことなのか?」
石丸「たしかに相手が女性に見えてしまうというのはいささかやりづらい。注意等は男女問わず行うが女性は扱いを気をつけねばならんからな」
大和田「ちょっと声でかいだけで乱暴されるとかいうしな……」
苗木(10連敗ってそういうかんじなんだ……)
大和田「おい、見えてねえけどなんか残念な視線向けられてることは判るぞ」
苗木「ゴメン」
石丸「ああ……しかしそうだな……自分が悪いと内省する人物以外だとたしかにそういわれるな……」
葉隠「石丸っちも負けず劣らずだかんな、声のでかさ」
石丸「相手の耳に入らねばきちんと伝える事も伝えきれないだろう!意図を伝えるためのものでありむやみに大声を出しているのではない!!」
葉隠「いやー、でも威圧感っつーか?やっぱ二人ともそういう部分有ると思うべ」
石丸「うっ」
大和田「ぐっ」
苗木「だ、大丈夫だよ!ちゃんと声が通るって言うのは良い事だよ!……その、怒ってるように聞こえるから怖くなるだけでさ」
石丸「そ、そうか……いやしかし声を上げるときは怒っているというか注意することが多いからな……」
大和田「オレだって族が威圧感なきゃどうしようもねーからな……どうみられるかで考えたらむしろ怒ってるように見えた方がいい……のか?」
石丸「そうやって怒気を不当にふりまかれると困る。ボクは真っ当な学生生活を周囲におくらせる為にやっているのに同じようにみられるではないか」
大和田「あぁ?やんのかコラ」
石丸「こちらに降りかかる不都合を述べただけだ なにかね、反論すべきりゆうがあるのか?」
葉隠「いや、二人とも勝負やってる最中だべ?」
石丸「反論ならば受け付ける!!」
大和田「乗った そもそも、一つの型に押し込めようとするやり方が気にくわねえ!!!
テメーが言う真っ当な学生生活?!んなもんオレは興味ねえんだよ!!」
石丸「何という事を!世の中に必要なもの型だろう!ルールを守ってこそ、人はそれに守られることが許される!
君のような逸脱者を認めることは、ルールを守っている守られるべき人々を不毛の地に投げ捨てるようなものだ!!」
大和田「へぇー、んじゃあテメーはそういうルール違反をしてねえとでも?」
石丸「するものか!」
大和田「そうかそうか しかしなあ、オレはテメーのいうルールじゃなくって流儀の方が大事なんだよ!
テメーみてえな女泣かせ野郎とは気が合わなくて当然だな!!」
石丸「?!」
苗木「お、大和田クン!!流石にそれはダメだよ!!」
石丸「……ぐっ」ギリッ
大和田「……チッ なんだよ……オレのように、後悔してるから秘密だったのかよ」
石丸「ああ、そうだ……僕にとっては他者のやったことでもなんでもなく、自分のやった事だからな……」
葉隠「あー……いや、すまんかった石丸っち。ほんとまじですまんかった」
石丸「いや、良い機会だ。大和田くん、君の秘密に関しても僕は詳細を知っているからな。ここはひとつ平等に勝負するために聞いてくれないか。
きみたちもだ……こういう場で目を見せないのは失礼だろうな」ふきふき
苗木「……いいけど、きいちゃっていいの?」
石丸「ああ、彼女の事に関してはこれまでのレクリエーションすべてでモノクマにつつかれてきた
いい加減ふっきれておかないと、今後またそれで心を乱されかねない。誰かに話すことでそうできればと思ってな」
大和田「おう、覚悟決まってるなら聞いてやるよ……」
石丸「目をそらしているが」
大和田「やりづれぇ!!苗木以外完全に女にしか見えねえ!!一部が!!」
葉隠「わかる おらも身体が素直に反応しそうで困るべ」
石丸「……つまり照れるという事か。流石にこの環境で赤面するなどのだらしない行為をするなというのは無理だろう
女性に囲まれると恥ずかしいものだ……うむ、多少の赤面はそもそもこの場がサウナで仕方ないとして目をつぶろう」
葉隠「いやもっと下がw……なんでもないです続けてください」
苗木「控えめに言って今の葉隠クンの発言は最低だと思う」
大和田「だな まあ石丸は気にすんな、話してくれ」
石丸「? ああ、わかった……」
石丸「そもそもの大本から離し始める必要がある。僕は今でこそ貧しい家だが、幼いころは裕福に暮らせていた。
幼少のころまでの話だが、僕の祖父は総理大臣を務めていたんだ」
苗木(そうだ、これはたしか、一周目で聞いたことがある)コクリ
葉隠「総理大臣?!」
大和田「マジか……国のルール作るやつの孫じゃ、そりゃルールに厳しくもなるか」
石丸「……いや、祖父はな、汚職でその席を追われたんだ。幼い頃は皆が慕う祖父を誇りに思っていた
だが、彼は天才だった。凡人のためのルールを邪魔に感じる、天才だった。故に、自分の才能を重視し規律を軽く扱った
そうして行った数々の汚職が明るみに出て、祖父は総理大臣の席を追われた」
苗木「だから……自分はちゃんとしようとしたんだね?」
石丸「ああ。努力を軽んじ、才能に甘えたから祖父はそうなったのだ。僕はそれを反面教師とした
が、これはあくまで、僕の秘密の前提に過ぎない。今の僕につながることだが、秘密はまた別の事だ」
葉隠「いやー、真面目な規律重視の風紀委員の祖父が汚職政治家だったってのでもだいぶいっぱいいっぱいな気がするべ」
石丸「彼女のことが無ければ、多分ぼくの秘密や過去にそれが選ばれたかもしれないな。
まあ、もしそうであってもこちらは話すのが嫌というわけではないんだが……石丸寅之助の名と所業は調べれば出てくることだからな」
大和田「そんな重たいのが前提って言うのもわからねえけどな」
石丸「祖父の存在が無ければ彼女と出会っていないからな……ええと、それでなんだが……祖父は現役の頃、
汚職なども含めて自分の地盤や勢力を作るのに大変精力的だった。その活動の一つに、名家の子女と僕に婚約があったんだ」
苗木「……えっと、石丸クンのおじいさんが現役政治家だったのって石丸クンがちいさいときだよね……?
そんな小さい子供を使うぐらい、貪欲な人だったって事?」
石丸「ああ、そうなる。とはいっても、長い事続く伝統芸能の家系ということもあってあちら側の方が選ぶ立場だったようだが。
だからこそ、幼いころはよく祖父に連れられて彼女に会いに行った。仲良くなるように、気に入られるようにとな」
大和田「んで……いや、なんとなくわかった。モノクマからいじられてるってことは、ほんとに仲良くなったんだな?」
石丸「……ともにお茶を飲むぐらいは許してくれていたし、軟派な発言ではあるが見目もかわいらしかった
僕は彼女の事が好きだったぞ?だが、一方通行でずっと彼女には負担を敷いていたらしい。
祖父の失脚後、いろいろあわただしい中であいさつぐらいはさせてやりたいと彼女の父が内密に彼女を連れてきたことがあった
その時に、泣かれた。大嫌いでもう顔も見たくない清々すると、これまで一緒にいた時間も苦痛だったんだろうと反省する他ない有様だった」
葉隠「あー……ええと??ちなみにどんなかんじで?」
石丸「もう会えないし、君の夫になることも無い。これまで時間を使わせてしまって悪かった……というような感じで話したと思う。
そしたら、大嫌いだとなじられ、彼女の父がおさえてなければ叩かれたり引っかかれたりしていたのではないかという剣幕で、
怒りながら泣いていた。思い通りに事を運ぶために泣くこともあった子だったが、あそこまで本気で感情を向けられたのは最後のその時が初めてだった」
大和田「……それはお前が悪いな」
石丸「自覚している。勝手に踏み込んで、勝手に仲が良かったと勘違いして、それで迷惑をかけて……」
苗木「石丸クン、多分大和田クンがいいたいのはそうじゃないと思う……というか、ボクも石丸クンが勘違いしてるように聞こえたかな」
石丸「?」
葉隠「かわいそうになあ……だってその子、石丸っちのこと好きだったんだと思うべ」
石丸「……い、いや?そんなことは」
葉隠「いやいやいや、よーく考えてみ?ホントに嫌いだったら挨拶になんかこねえべ?それも、他の人たちにわかんねえようにしてきたんだろ?」
大和田「思う事という事が逆って女子供にはよくあることだからな。オメーがそういうのわかるとも思えねえが、そいつはたぶんそういう女だったんだろ。
そんなやつが、いろいろ忍んで会いに来たらんなこと言われたってんなら流石に怒る
逆の立場で、てめえが『義務で会いに来てましたそれがなくなったからサヨナラです』って言われたらどういう気持ちになったよ?」
石丸「……??!!」
苗木「ホントに今気づいたんだね」
石丸「……僕は、そういうつもりでは……」
大和田「いや、まあ 空気が読めねえって言うかそういうのがガキの頃からだったって言うのはよくわかった」
石丸「うぅ……いや、しかし……どちらにせよ最低ではあるか」
苗木「……大丈夫だよ」
石丸「?」
苗木「遅くなっちゃったけど、別に義務で付き合ってたわけじゃないって言いに行く事はできるんだからさ」
葉隠「そだな。ひっぱたかれたりその間に本当に嫌いになられてっかもしんねえけど、そん時の事謝ることはできるべ」
大和田「やり直しをさせるって言うのはてめえが今オレにやらせてることでもあるだろ?その分、外に出たら見届けてやるよ
勘違いしていた内容にしろ、実際の内容にしろ、なかなか言うのは勇気あることを言ったからな。その辺は認めてやるよ」
石丸「きみたち……うっ うぐぅぅぅ~~~~ぅっ!!!」ぼろぼろぼろ
そのあと、気が付いたら割と長い時間サウナにいたらしい
石丸クンの告白の後、男の流儀という点に関して大和田クンと石丸クンの考えが一致を見せたりして、
一周目よりは少し落ち着いた関係ではあるけど、彼らはとても仲良くなれたみたいだ。
巻き込まれたとはいえ、この場に居れてよかったかもしれない。
……でるにでられなくてボクが倒れてしまわなければもっと良かった。
霧切「……無茶をしたものね」
苗木「なんだか出るに出られなくって……気づいたらそのまま意識なくなってたかな……」
十神「本人たちは無事だったが保健室を用意してあって正解だったな」
苗木「ほんとにゴメン……」
霧切「様子に気づかなかった一緒にいた3人にも責任はあるわ。一応罰として廊下に立ってもらっているわ」
苗木「う、うん」
十神「ちなみに、気絶は睡眠とはノーカウントだそうだ よかったな」
苗木「あ、そうなんだ、よかった……気絶するの2回目な気がするけど」
霧切「だから、起きたなら部屋に運ばせてもらうわよ。
体調のために寝ていてほしいけれど保健室のベッドは診察と治療のためで寝るためのものじゃないからと言うのも言われているわ」
苗木「わかった……うぅっ」ふらっ
霧切「私が連れて行くから、十神君は保健室の事をお願いするわ」
十神「ああ」
(今回はここまでです)
(石丸が若干察しが良い感じになってますがこれに関しては描写力不足ですすみません)
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