男「え!? 同じ値段でステーキを!?」(32)

シェフ「うちのマネして、安くてうまいステーキを作るなんてバカな考えはよすんだな」

男「……」

男「できらぁっ!」

シェフ「今なんていった?」

男「同じ値段でもっとうまいステーキを食わせられるっていったんだよ!」

シェフ「こりゃあ面白い小僧だぜ」

シェフ「そこまでいわれたら、こっちとしても引き下がれねえ」

シェフ「こりゃあどうしても、うちと同じ値段でうまいステーキを作ってもらおう!」

男「え!? 同じ値段でステーキを!?」

シェフ「ふふふ、どうした? さっきまでの自信は?」

シェフ「やっぱりお前さんごときに、安くてうまいステーキを作るのは無理なようだな」

男「……」

男「できらぁっ!」

シェフ「……もう一度いってみろ」

男「俺なら同じ値段で、もっとうまいステーキを作れるっていったんだよ!」

シェフ「ほう……いうじゃねえか」

シェフ「なら、本当にうちと同じ値段で、うまいステーキを作ってもらおうか!」

男「え!? 同じ値段でステーキを!?」

シェフ「顔が青ざめてるぜ、小僧」

シェフ「分かったなら、とっとと帰れ。商売のジャマだ」シッシッ

男「……」

男「できらぁっ!」

シェフ「できるってのは、どういう意味だ?」

男「決まってんだろ? この店と同じ値段でもっとうまいステーキを作れるって意味だ!」

シェフ「なんだと……!?」

シェフ「だったら、うちと同じ値段で俺の舌をもうならせるステーキを作ってみせろ!」

男「え!? 同じ値段でステーキを!?」

シェフ「どうやら無理なようだな」

シェフ「お前さんの顔から流れてる冷や汗ってやつが、そいつを証明してるぜ」

男「……」

男「できらぁっ!」

シェフ「なにぃ?」

男「俺ならここのステーキと同じ値段で、もっとうまいステーキを提供できる!」

シェフ「おもしれえ、だったらそのデカイ口が口だけじゃないか試させてもらう」

シェフ「この店と同じ値段で、うまいステーキを焼いてみせやがれ!」

男「え!? 同じ値段でステーキを!?」

シェフ「すっかり黙り込んでしまったか……ま、若気の至りというやつだな」

男「……」

男「できらぁっ!」

シェフ「引き際を見極められない戦士は、身を滅ぼすだけだぞ、小僧!」

男「滅びるわけねえ! だって俺は同じ値段でもっとうまいステーキを作れるからな!」

シェフ「気に入った!」ニヤ…

シェフ「ならば、作ってみせろ! 同じ値段でもっとうまいステーキをな!」

男「え!? 同じ値段でステーキを!?」

シェフ「フハハハハッ! しょせん貴様如きが俺様に敵うわけがなかったのだ!」

男「……」

男「できらぁっ!」

シェフ「ほう……この“ステーキ界の覇王”である俺様にあくまで歯向かうか、小僧!」

男「歯向かってやるさ……あんたと同じ値段でよりうまいステーキを作ることでな!」

シェフ「ほざけ小僧! なら作ってみるがいい、同じ値段でよりうまいステーキを!」

男「え!? 同じ値段でステーキを!?」

シェフ「分かっただろう? お前にうちのマネはできんのだ!」

男「できらぁっ!」

シェフ「てめェに一体何ができる!」

男「お前に勝てる! 同じ値段でもっとうまいステーキを作ってやらぁっ!」

シェフ「だったら、やってみせやがれ! 同じ値段でうまいステーキを作ってみせろ!」

男「え!? 同じ値段でステーキを!?」

シェフ「やっぱり無理なんだな!」

男「できらぁっ!」

シェフ「なんだと!?」

男「同じ値段でお前のステーキより、もっとうまいステーキを焼いてやる!」

シェフ「じゃあ焼いてみせろ! 同じ値段でな!」

男「え!? 同じ値段でステーキを!?」

シェフ「できないなら帰れ!」

男「できらぁっ!」

シェフ「じゃあやれ!」

男「え!? 同じ値段でステーキを!?」

シェフ「ちょ、ちょっと待ってくれ」

男「なんだぁっ!?」

シェフ「さっきから、ずっと同じ話題をループしてないか?」

男「してらぁっ!」

シェフ「だよな? だからさ一度落ちつこう……な?」

男「うるせぇっ!」

シェフ「落ちつくこともできねえのか、お前は!」

男「できらぁっ!」

シェフ「今なんていった?」

男「同じ値段でもっとうまいステーキを食わせられるっていったんだよ!」

シェフ「こりゃあどうしても、うちと同じ値段でうまいステーキを作ってもらおう!」

男「え!? 同じ値段でステーキを!?」

シェフ「――ストップ!」

シェフ「一度落ちつこう。本当に落ちつこう」

男「落ちつくぁっ!」

シェフ「落ちつけてないだろ!」

男「なんだとぉっ!?」

シェフ「まあ待てって。このままじゃ本当にこの話題、終わらないぞ」

シェフ「お前だって、サザエさんみたいにずっと同じことを繰り返すのはイヤだろ?」

男「やだぁっ!」

シェフ「よくいった! さすが俺の見込んだ男だ!」

男「へへへ……」

シェフ「じゃあ、冷静に俺のいうことをよく聞けよ?」

男「うん」

シェフ「まず、俺がお前に“お前には安くてうまいステーキを作れっこない”っていう」

男「うん」

シェフ「そしたらお前は“作ってみせる”って返せ」

男「うんうん」

シェフ「今度は俺が“じゃあ同じ値段で作ってみせろ”っていうから――」

シェフ「お前は“いいだろう、勝負だ!”って叫べ」

シェフ「これで俺たちは、この無限ループから解放される!」

男「分かったよ!」

シェフ「できるよな?」

男「できらぁっ!」

シェフ「いい返事だ。よし……それじゃスタートだ!」

シェフ「ハッ、お前のような小僧に安くてうまいステーキを作れっこないぜ!」

男「……」

男「できらぁっ!」

シェフ「できるだと? もう一度いってみろ!」

男「俺なら、同じ値段でもっとうまいステーキを食わせられるっていったんだよ!」

シェフ「ほう、ここまでいわれたら俺も黙っちゃいられねえ」

シェフ「だったら、うちと同じ値段でうまいステーキを作ってもらおう!」

男「え!? 同じ値段でステーキを!?」

シェフ「……」

男「……」

シェフ「オーケー、分かったよ。こうなりゃ、とことんやろうや!」

シェフ「いずれ腹が減れば、自然とこのループも解消されるだろうしな!」

男「うん!」

シェフ「うん、じゃねえ! それならうちと同じ値段で、うまいステーキを作れ!」

男「え!? 同じ値段でステーキを!?」







                                     おわり

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