男「この完全管理社会をぶっ壊す!」(21)

― 家 ―


アナウンス『本日のあなたの朝食を指示いたします』

アナウンス『トースト一枚、コーヒーは一杯。砂糖は一袋お入れ下さい』

アナウンス『これで、あなたさまは最上級の健康を得られます』

男「……」モグモグ

男「……」サッサッ

男「……」ゴクゴク

男(くっそぉ、なんて味気ない食事なんだ……)

アナウンス『AM8:00になりました』

アナウンス『時速5kmにて、職場まで通勤下さいませ』

男「はいはい」ガタッ

アナウンス『不満に思ってはいけません。全てを指示に委ねるのです』

アナウンス『この指示に従ってさえいれば、あなたは最上級の幸福を得られるのですから』

男「うるせえっ!」

アナウンス『私の声は“女王様”の声です』

アナウンス『これに逆らうのであれば、あなたには最上級の重罰が――』

男「黙れっ!」

男「最上級、最上級って、極端なんだよ! 程々が一番だってなぜ分からねえ!?」

男「俺はやるぜ!」

男「この完全管理社会をぶっ壊す!」

― 町 ―


男「うおおおおおっ!」スタタタッ

憲兵「貴様! 速度違反だ! 女王様のお声に逆らうのか!」ガシッ

男「ぐっ!?」



市民A「あいつ終わったな……」

市民B「女王様の声に従えば、最上級の幸福を得られるってのに……」

市民C「バカな奴だ……」

男「みんなぁっ!!!」

男「生活のなにもかもを指図されて、本当に満足なのか!?」

男「これが人間の暮らしといえるのか!? こんなものが本当に幸せといえるのか!?」

男「最上級なんか求めず、程々でいいじゃないか!」

市民A「たしかにその通りだ……!」

市民B「俺たちは間違っていた……!」

市民C「ありがとう……!」



男「はやっ!」

憲兵「どうやら、ワシは……仕えるべき主人を間違えていたようだ……」



男「みんな心変わり早いな~!」

男(心変わりの早さも最上級になってたってことか……。おかげで助かったけど)

ザワザワ…… ガヤガヤ……

男「瞬く間に大量の仲間が集まった!」

男「今こそ女王のいる城に乗り込んで、革命を起こすぞ!」

男「程々こそが最良だと、女王に分からせるんだ!」



オーッ!!!

― 女王の城 ―


女王「神聖なる我が城に、土足を踏み入れるとはなにごとか」

男「うるさい! 俺たちはもう、あんたに従う奴隷じゃない!」

女王「私の声に従えば、お前たちは最上級の幸福と快楽を得られるのだ」

女王「それがなぜ分からぬ?」

男「なぜなら……俺たちは人間だからだ!」

女王「くっ……!」ガクッ

男「人間ってのは本来、自由で……え!?」

女王「私がなにもかも間違っていたというのか……!」

男「早いよぉ~、もうちょっと粘ってくれても」

女王「すまんな。他人から反抗されることに免疫がないのだ」

男「対女王理論武装カンペ、もういらないな」ポイッ

ワーワー! ワーワー!

「女王は死刑だ!」 「八つ裂きだ!」 「最上級の苦痛を与えろ!」



男「まあ、待て待て。みんな、待ってくれ」

男「俺のモットーは程々だ。死刑にするのはあまりにも可哀想だ」

男「というわけで、ここは俺が女王と結婚するというのはどうだろう?」

市民全員「オッケーです!!!」



男(最上級の扱いやすさだな、こいつら……)

男「さ、結婚しよう」

女王「はい……一生ついていきます」

男(さっすが最上級が大好きな女王だけあって、美しさも最上級だ。むふふ、やったぜ!)

こうして、男による“ほどほど統治”が始まった。

男の程々さと女王の厳格さがうまく融合し、

この国はまさにこれから最盛期を迎えることになる。





男(ふっふっふ、これでやっとあのアナウンスに従い続ける生活ともおさらばだ!)

男(今までやりたくてずっとできなかったことが、やっとできる! それは――)

男「コーヒーに砂糖をドバドバ入れまくること!」サッ

女王「あなた」

男「!」ギクッ

女王「お砂糖は、程々に」

男「……はい」





~おわり~

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